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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1391616
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-29 
確定日 2022-11-09 
事件の表示 特願2018−547946「マイクロセンサを有するウエハ処理ツール」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 9月14日国際公開、WO2017/155612、平成31年 4月11日国内公表、特表2019−510374〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)1月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年3月11日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年11月 5日 :翻訳文提出
令和 3年 1月15日付け:拒絶理由通知
令和 3年 4月20日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 6月21日付け:拒絶査定(原査定)
令和 3年10月29日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1〜15に係る発明は、令和3年4月20日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定されるものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ウエハ処理ツールであって、
チャンバ領域を有するプロセスチャンバと、
前記プロセスチャンバの前記チャンバ領域内の所定の位置に装着されたマイクロセンサとを備え、前記マイクロセンサは1つのパラメータを有し、且つシリコン表面から成る初期センサ表面を含み、前記パラメータは、前記初期センサ表面にシリコンが堆積されたとき、あるいは前記初期センサ表面から除去されたときに変化する、ウエハ処理ツール。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、1.この出願の請求項1、3〜7、11、12に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というもの、2.この出願の請求項1〜15に係る発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1〜7に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
<引用文献等一覧>
1.特開昭64−66937号公報
2.国際公開第2009/038085号
3.実願昭61−149327号(実開昭63−55535号)のマイクロフィルム
4.特開2006−344745号公報
5.特開2004−241706号公報
6.国際公開第2010/038631号
7.特開2012−46780号公報

第4 引用例の記載及び引用発明
1 引用例1
(1)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献である、特開昭64−66937号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審において、付加した。以下、同じ。)。
ア 「2 特許請求の範囲
接地された陽極3と、陽極3に対向して設けられ高周波電圧が印加される陰極4と、これらを包囲する反応室5と、反応室5の中に反応性ガス9を導入するガス導入管8とを有するRIE装置によつて、試料2の表面をエツチングする際に、エツチングすべき試料表面の材料と同じ材料をコーティングした水晶振動子1を試料2と並べて陰極4の上に置き、水晶振動子1を含む振動子発振器を設け、試料のエツチング量と振動子発振器の発振周波数変化量との関係を求め、試料2をエツチングする時、同じ材料を予めコーティングした水晶振動子1を試料2に並べて置き水晶振動子1を含む振動子発振器の発振周波数変化から試料表面のエツチング量を知るようにした事を特徴とするRIE装置におけるエツチング量のその場測定法。」(第1ページ左下欄第5行〜右下欄第1行)

イ 「(ア) 技術分野
この発明は、RIE装置におけるエツチング量のその場測定法に関する。
・・・(略)・・・
RIEは、エツチングの対象となる半導体ウエハ上の構造物と化学反応するガスを用いる。このガスをプラズマ状にして、半導体ウエハ表面に衝突させ、反応を起こさせ、表面をエツチングしてゆくものである。」(第1ページ右下欄第3〜7行)

ウ 「(エ) 目 的
エツチング条件のバラツキや試料の物性のバラツキがあっても、任意の時刻に於て、エツチング量を正確に測定できる方法を提供する事が本発明の目的である。」(第2ページ右下欄第3〜7行)

エ 「(オ) 本発明の方法
エツチング量をその場測定するために、RIE装置の中に、予めエツチングされるべき材料をコーテイングした水晶発振子を試料に並べて設置しておく。そして、水晶発振子の発振周波数Fの変化によってエツチング量Eを測定するようにするのが本発明の方法である。
測定原理は次のようである。
反応性エツチングガスにより、試料表面の材料と、水晶発振子の表面の材料とが同一速度でエツチングされる。
水晶発振子の表面厚みが減少すると、水晶発振子の発振周波数は増加する。水晶発振子はLとCの複合体と考える事ができるが、表面厚みが減少すると、これらの値が変化する。そのため発振周波数が変化する。
表面厚みと発振周波数変化の関係は、水晶発振子を含む発振回路の構成に依存する。
いずれにしても、水晶発振子の上にコーテイングした材料の膜厚の変化にともなって発振周波数が変化する。
そこで、予めエツチング材料を水晶発振子にコーテイングし、これをRIE装置にとりつける。そして、ある定められた時間tだけエツチングする。エツチング後、水晶発振子をとりだして、重量W、膜厚Dの測定をする。また発振周波数Fも測定する。
・・・(略)・・・
水晶発振子の共振周波数は材料をコーテイングしたこと、これをエツチングした事によって変化する。変化分は僅かなものであるが、周波数の変化であるから、容易に測定する事ができる。・・・(略)・・・
・・・(略)・・・
こうすると、水晶発振器を含む回路の発振周波数の変化ΔFから、試料表面のエツチング量ΔEが分る。
発振周波数は、水晶発振器を外部にとりだすことなく任意の時刻に測定できる。常時測定することもできる。従って任意の時刻に於て、その瞬間のエツチング量ΔEが分るということになるのである。つまり、その場測定ができる。」(第2ページ右下欄第8行〜第3ページ左下欄第9行)

オ 「以下、図面によって本発明の方法を説明する。
第1図はRIE装置の概略断面図である。
反応室5は密封する事のできる空間である。
・・・(略)・・・
反応室5の陽極3に対向する下方には、陰極4が設けられる。これは反応室5の容器壁とは絶縁されており、高周波発振器7によって高周波電界が加えられる。
高周波の周波数は任意であるが、例えば13.56MHzである。また対象により高周波電圧が調整されるか、例えばシリコンウェハのエツチングであれば、高周波電圧の実効値は2800V程度である。
・・・(略)・・・
陰極4の上に、エツチングすべき試料2を置く。
本発明の方法に於ては、試料2に並べて、陰極4の上に試料と同じエツチングすべき材料を予めコートした水晶振動子1を置く。」(第3ページ左下欄第10行〜第4ページ左上欄第8行)

カ 「(カ) 作 用
エツチングすべき試料2を陰極4にとりつける。
試料2の表面に露出しているエツチングすべき材料と同じ材料を予めコートした水晶振動子1を陰極4にとりつける。
反応室5をまず真空に引く。この後、反応性ガス9を導入する。反応性ガスを使うからRIEというわけであるが、これは対象により異なる。たとえば、
ポリSi ・・・・・ ・・・(略)・・・
Si単結晶 ・・・・・ ・・・(略)・・・
・・・(略)・・・・
などである。RIEは適用範囲が広いので、多様な対象に対して使用できる。
・・・(略)・・・
しかし、正イオンによつて叩かれてラジカルが陰極4に向かって飛ぶ。これが試料面に当たると、化学反応をして試料表面の材料をエツチングする。物理的、化学的な作用によるエツチングである。スパツタエツチングより、数十倍もエツチング速度が速い。
試料と並んで水晶振動子1が陰極4の上にある。水晶振動子1の表面の材料も同じ速度でエツチングされる。
水晶振動子1を含む発振回路の発振周波数を測定する。これは、エツチング量とともに変化する。エツチング量と発振周波数の関係が予めわかつている。このため、任意の時刻に於て、エツチング量が分る事になる。」(第4ページ右上欄第1行〜右下欄第10行)

(2)上記(1)から、引用例1には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 引用例1に記載された技術は、RIE装置におけるエツチング量のその場測定法に関するもので、エツチング条件のバラツキや試料の物性のバラツキがあっても、任意の時刻に於て、エツチング量を正確に測定できる方法を提供する事を目的としたものであること((1)イ、ウ)。

イ 引用例1に記載された技術において、RIE装置は、試料をエッチングするツールであるところ、エツチングすべき対象として、シリコンウエハやポリSi及びSi単結晶が例示されていること((1)イ、オ、カ)。

ウ 引用例1に記載された技術において、RIE装置は、密封する事のできる空間である反応室5を備えること((1)オ)。

エ 「本発明の方法」において、反応室5に設けられた陰極4の上に、エツチングすべき試料2と、試料2に並べて、陰極4の上に試料と同じエツチングすべき材料を予めコートした水晶振動子1を設置しておくことから、RIE装置は、反応室内の陰極に、試料と同じエツチングすべき材料を予めコートした水晶振動子が装着されるものであること((1)ア、エ、オ、カ)。

オ 引用例1に記載された技術において、反応性エツチングガスによる、水晶発振子(水晶振動子)の表面の材料の膜厚の変化にともなつて、水晶発振子(水晶振動子)の発振周波数は変化し、発振周波数変化から試料表面のエツチング量を知るようにしたこと((1)ア、エ、カ)。

(3)上記(1)、(2)から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリコンウエハやポリSi及びSi単結晶を対象とするRIE装置であって、
密封する事のできる空間である反応室5と、
反応室5に設けられた陰極に装着された試料と同じエツチングすべき材料を予めコートした水晶振動子とを備え、
反応性エツチングガスによる、水晶振動子の表面の材料の膜厚の変化にともなつて、水晶振動子の発振周波数が変化し、発振周波数変化から試料表面のエツチング量を知るようにした、RIE装置。」

2 その他の引用例
(1)引用例2
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開昭63−72886号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア 「2.特許請求の範囲
1.処理室内に設けられた試料台に載置されて所定の温度に加熱される試料に所定の組成の反応ガスを供給し、化学反応を媒介として前記反応ガスから前記試料の表面に所定の物質を堆積させて薄膜を形成する化学気相成長装置であって、前記処理室の内部に、該処理室の内部における前記反応ガスからの前記物質の堆積量を検出する検出手段が設けられ、該検出手段から得られる前記物質の堆積量の情報に基づいて、前記試料に形成される前記薄膜の厚さが制御されることを特徴とする化学気相成長装置。
・・・(略)・・・
5.前記検出手段が、水晶振動子で構成され、該水晶振動子に前記物質が堆積することによって変化される固有振動数の変化に基づいて、前記反応ガスからの前記物質の堆積量が検出されることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の化学気相成長装置。」(第1ページ左下欄第4行〜右下欄第14行)

イ 「〔実施例〕
第1図は、本発明の一実施例である化学気相成長装置の要部を示す説明図である。
処理室1の内部には、たとえば角錐台をなす試料台2が軸をほぼ鉛直にして設けられている。
試料台2の側面には、たとえば半導体ウエハなどの複数の試料3が着脱自在に保持されるとともに、内部に設けられ図示しないヒータなどによって試料3が所望の温度に加熱される構造とされている。
・・・(略)・・・
そして、排気口6を介して処理室1の内部を所定の真空度に排気するとともに、反応ガス入口5を通じて所定の組成の反応ガスGを処理室1の内部に流入させることにより、化学反応などを媒介として、反応ガスGから処理室1の内部において試料台2に保持されて回転されつつ所定の温度に加熱されている試料3の表面に、たとえば高融点金属などの所定の物質が選択的に堆積され薄膜が形成されるものである。
・・・(略)・・・
この場合、処理室1の内部に位置される角錐台状の試料台2の上面の周辺部には、たとえば水晶振動子などからなる検出手段10が配設されており、処理室1の内部において試料台2の側面に保持される複数の試料3とほぼ同一の温度および反応ガスGの雰囲気に置かれることによって、反応ガスGの雰囲気から該検出手段10の表面に堆積される所定の物質の堆積量なとが固有振動数の変化などに基づいて検出されるように構成されている。
・・・(略)・・・
以下、本実施例の作用について説明する。
・・・(略)・・・
・・・(略)・・・処理室1の内部においては、試料台2に保持されて所定の温度に加熱されている複数の試料3および試料台2の上面に配設されている検出手段10の表面に、化学反応などによってタングステンなどの高融点金属や高融点金属とシリコンとの化合物などの所定の物質が選択的に堆積され、薄膜が形成される。
・・・(略)・・・
・・・(略)・・・複数の半導体ウェハなどの試料3の表面には、たとえば、試料台2からの輻射熱などに起因して処理室1の内壁面などに堆積して失われる所定の物質の量の経時的な変化などに影響されることなく、高融点金属や高融点金属とシリコンとの化合物などで構成される薄膜が所定の厚さで正確かつ安定に被着される。
このように、本実施例においては以下の効果を得ることができる。
(1).処理室1の内部に配設され、該処理室1の内部において反応ガスGからの所定の物質の堆積量などを検出する検出手段10を有し、検出手段10の表面に堆積される所定の物質の堆積量と試料3の表面における薄膜の厚さとの相関関係に基づいて試料3の表面に形成されつつある薄膜の厚さを把握する膜厚情報処理部11を介して、処理室1の内部における諸条件を制御する制御部9に試料3の表面に形成されつつある所定の物質の薄膜の厚さなどの情報が伝達されるように構成されているため、制御部9によって処理室1における化学気相成長による所定の物質の堆積時間などを制御することにより、たとえば、試料台2からの輻射熱などに起因して処理室1の内壁面などに堆積して失われる所定の物質の量の経時的な変化などに影響されることなく、高融点金属や高融点金属とシリコンとの化合物などからなる薄膜を半導体ウェハなどの試料3の表面に所定の厚さで正確かつ安定に形成することができる。
(2).処理室1の内部において、角錐台状の試料台2の上面に検出手段10が配設されていることにより、試料3に対する反応ガスGの均一な供給などを阻害することなく、検出手段10の加熱温度および反応ガスGの雰囲気などの環境を試料3の環境とほぼ等しくすることができるので、検出手段10における所定の物質の堆積量と、試料3の表面に形成される所定の物質の薄膜の厚さなどとの間に良好な相関関係を得ることができる。」(第2ページ右下欄第19行〜第4ページ左下欄第10行)

ウ 化学気相堆積(CVD)装置において、処理室が、密封された容器であるチャンバで構成されることは、通常行われることであるから、上記イから、引用例2には、「上記化学気相成長装置の処理室1はチャンバであり、処理室1の内部の試料台2の上面の周辺部に配設された検出手段10が、たとえば水晶振動子などからなるという技術。」が記載されていると認められる。

(2)引用例3
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2013−85002号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は一般的に基板製造技術に関し、特にプラズマ処理システムにおけるクリーニング(清浄)処理またはコンディショニング(調整)処理のエンドポイント決定方法及び装置に関する。」

イ 「【0009】
図1では誘導結合プラズマ処理システムの概略図が図示されている。一般的に、適したガスのセットがガス供給システム122からプラズマチャンバ壁117を有したプラズマチャンバ102内に供給される。これらプラズマ処理ガスはその後に噴射器109で、あるいはその近辺領域でイオン化され、静電チャック116上にエッジリング115で設置された半導体基板またはガラス板などの基板114の露出領域を処理する(例えばエッチングや堆積)。」

ウ 「【0020】
理論による解説は省略するが、プラズマ処理チャンバ表面の層の厚みを変えることができる処理のエンドポイントはプラズマチャンバ表面と実質的に同一平面あるいはプラズマチャンバ壁内に提供されたセンサーによって決定されると考えられる。
【0021】
同一平面とはプラズマチャンバ表面に対するセンサーの位置に関係し、センサーの測定面とプラズマチャンバの表面とが実質的に同一平面にあることをいう。表面下とはプラズマチャンバ表面に対するセンサーの位置に関係し、プラズマチャンバの表面がセンサーの測定面とプラズマとの間に位置することをいう。」

エ 「【0036】
本発明の別実施例においては、実質的に同一平面である水晶発振子微量天秤(QCM:quartz crystal microbalance)が使用される。一般的にQCMは共鳴周波数と5MHzのAT−cut水晶振動子の抵抗を測定することで表面または表面付近あるいは薄膜内での処理で物質を測定する。共鳴周波数は水晶表面に堆積された物質の質量の一次関数として変化する。共鳴での抵抗は水晶表面と接触する物質(膜または液体)の弾性と共に変化する。質量測定機器としてQCMはミクログラムからナノグラムの範囲の質量を測定できる。検出限界は原子のサブモノレイヤーに対応する。
【0037】
図6は本発明の一実施例による同一平面QCMを備えたプラズマチャンバ壁の概略図を示す。堆積層602は予備コンディショニング用プラズマ堆積膜または汚染副生成物の蓄積を表し、プラズマチャンバ壁617に位置する同一平面QCM604をプラズマ610への直接曝露から遮蔽する。前述したように同一平面QCMは近辺に位置する堆積層602の質量を測定する。」

オ 上記エから、引用例3には、「本発明の別実施例では、水晶発振子微量天秤(QCM:quartz crystal micro balance)が使用されるという技術。」が記載されていると認められる。

(3)引用例4
本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用例である、特開2006−310865号公報(以下「引用例4」という。)には、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、新規で有用な原子層堆積用の広範な前駆体のデリバリ方法及び装置に関する。本発明は、また、前駆体をデリバリする新規な方法を利用する原子層堆積方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
原子層堆積(ALD)は、シリコンウェハプロセスにおける次世代導体バリア層、高-kゲート誘電層、高-k静電容量層、キャッピング層及び金属ゲート電極のための実現技術である。・・・(略)・・・」

イ 「【0030】
本発明において用いることができるALD堆積システムを図1に示す。特に、本システムは、溶解した前駆体溶液(前駆体A)を保持するための溶液容器10と、前駆体Aを気化器30に揚水するための液体ポンプ20と、水などの前駆体Bを保持するための容器40と、モニタリングデバイス60を有する堆積室50と、排気システム70とを含む。標準的な接続及びバルブは、上述したように本方法を制御するため当該分野で公知であるように含まれていてもよい。図1に示したシステムを用いることによって、気化器30及び容器40からの蒸気相前駆体のパルスは、それらが堆積室50に入る際に同時に良好に分離される。さらに、不活性ガス源などのいくつかの要素は図示されていないが、産業界において標準的なものである。
【0031】
本発明によるALDシステムは、薄膜を成長させて、自己制御式ALDプロセスとして運転するために用いられてもよい。運転時に、シリコンウェハ基板が堆積室内に準備される。好ましいモニタリングデバイスは、リアルタイムで薄膜の成長を監視する水晶振動子マイクロバランス(QCM)などのその場(in-situ)デバイスである。例えば、管状反応器に組み込まれた6MHzの初期周波数を有するQCMを用いてもよい。成長表面は、初期ALD成長中、より良好な核形成工程のために酸化物、又はシリコンその他の金属で修飾されていてもよいブランケット電極、典型的には金である。堆積室の温度は、100℃〜400℃に設定され、好ましくはPIDループを用いて±0.1℃以内の変動内に制御される。堆積室圧力は、0.1〜10Torrに設定される。より連続的な製造のために、ALD堆積室をソース及びデリバリシステムに結合させてもよい。堆積室は適宜のタイプでよく、限定されないが、貫流反応器、シャワーヘッド反応器及びスプレイ/注入ヘッド反応器を挙げることができる。」

ウ 上記イから、引用例4には、「ALD堆積システムが含む堆積室50は、チャンバであり、好ましいモニタリングデバイスとして、リアルタイムで薄膜の成長を監視する水晶振動子マイクロバランス(QCM)などのその場(in-situ)デバイスであるという技術。」が記載されていると認められる。

(4)引用例2〜4に記載された周知技術
上記(1)〜(3)から、引用例2〜4には、以下の周知技術が記載されていると認められる。
「チャンバを備え、ウエハ表面に材料を堆積するウエハ処理装置であって、チャンバ内に備えたセンサによって、前記ウエハ表面の前記材料の堆積量又はチャンバ表面の前記材料の堆積量を測定するウエハ処理装置、若しくは、チャンバを備え、ウエハ表面の材料をエッチングするウエハ処理装置であって、チャンバ内に備えたセンサによって、ウエハ表面の前記材料のエッチング量を測定するウエハ処理装置において、前記センサとして、水晶振動子や水晶振動子マイクロバランス(QCM)を使用すること。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。

1 引用発明における「シリコンウエハやポリSi及びSi単結晶を対象とするRIE装置」、「密封のできる空間である反応室5」は、それぞれ本願発明における「ウエハ処理ツール」、「チャンバ領域を有するプロセスチャンバ」に相当する。

2 引用発明において、「シリコンウエハやポリSi及びSi単結晶を対象とするRIE装置」が備える「水晶振動子」は、「反応室5に設けられた陰極に装着された試料と同じエツチングすべき材料を予めコートした水晶振動子」であって、「反応性エツチングガスにより、水晶振動子の表面の材料の膜厚の変化にともなつて、水晶振動子の発振周波数が変化する」ものであるから、「水晶振動子」に「予めコートした」「反応室5に設けられた陰極に装着された試料と同じエツチングすべき材料」は、シリコンであるといえる。
したがって、引用発明の「水晶振動子」は、本願発明の「マイクロセンサ」と、「前記プロセスチャンバの前記チャンバ領域内の所定の位置に装着された」センサである点で一致する。また、本願発明と引用発明とは、「前記センサは1つのパラメータを有し、且つシリコン表面から成る初期センサ表面を含み」、「前記パラメータは」、「前記初期センサ表面から除去されたときに変化する」点で共通する。

3 以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ウエハ処理ツールであって、
チャンバ領域を有するプロセスチャンバと、
前記プロセスチャンバの前記チャンバ領域内の所定の位置に装着されたセンサとを備え、前記センサは1つのパラメータを有し、且つシリコン表面から成る初期センサ表面を含み、前記パラメータは、前記初期センサ表面から除去されたときに変化する、ウエハ処理ツール。」

<相違点>
<相違点1>
ウエハ処理ツールが備えるセンサについて、本願発明では、「マイクロセンサ」であるのに対して、引用発明の「予めエツチングすべき試料表面の材料と同じ材料をコーテイングした水晶振動子」は、「マイクロセンサ」といえるか、不明である点。

第6 判断
上記相違点1について検討する。

1 「マイクロセンサ」に関連して、本願の明細書には、次の記載がある。
「【0021】
一または複数のマイクロセンサ208を、チャンバ領域204内のプロセスチャンバ112上に装着することが可能である。例えば、チャンバ領域204は、チャンバ領域204の周りのチャンバ壁210によって少なくとも部分的に画定され得、いくつかのマイクロセンサ208は、チャンバ領域204内のチャンバ壁210上の所定の位置に装着されうる。
【0022】
本書で使用する用語「マイクロ」は、実施形態に係る特定のセンサ又は構造の記述的なサイズを指す場合がある。例えば、用語「マイクロセンサ」は、1から100μmのスケールの寸法を有するセンサを指す場合がある。つまり、一実施形態において、マイクロセンサ208は、1から100μmの最大幅を含む、以下に説明するセンサ表面を有しうるということである。したがって、グラムの百万分の一の規模の重量の精密測定を行うことができる機器である例えば微量てんびんから、本書に記載のマイクロセンサ208を簡単に区別することができる。つまり、微量てんびんは、マイクロスケールの重量ではあるが、本書に記載のマイクロセンサと同じサイズの範囲内ではない重量を測定しうるということである。このサイズ範囲の差は、少なくともいくつかのマイクロセンサをチャンバ領域204の中に取り付けることができるため、有利であるのに対し、幾つかの微量てんびんは、半導体ウエハを受容するようにサイズ設定されたチャンバ領域204の中に取り付けることができない。」

「【0039】
一実施形態に係る、ウエハ処理システムのマイクロ共振器タイプのマイクロセンサを示す概略図である図4Aを参照する。一実施形態では、ウエハ処理ツール102の一または複数のマイクロセンサ208は、マイクロ共振器402を含む。マイクロ共振器402は、例えば水晶振動子マイクロバランス(QCM)、表面弾性波(SAW)、又は圧電薄膜共振器(FBAR)などの適切な共振質量センサであってよく、これらはすべてこれらの表面に堆積した空中の粒子の累積質量を数値化する。」

2 したがって、本願の明細書には、マイクロセンサとして、水晶振動子マイクロバランス(QCM)が例示されており、用語「マイクロ」は、実施形態に係る特定のセンサ又は構造の記述的なサイズを指す場合があり、例えば、用語「マイクロセンサ」は、1から100μmのスケールの寸法を有するセンサを指す場合があること、及び、例えば、少なくともいくつかのマイクロセンサをチャンバ領域の中に取り付けることができるため、有利であるのに対し、幾つかの微量てんびんはチャンバ領域の中に取り付けることができないことが開示されている。

3 一方、上記第4の2(4)のとおり、「チャンバを備え、ウエハ表面に材料を堆積するウエハ処理装置であって、チャンバ内に備えたセンサによって、前記ウエハ表面の前記材料の堆積量又はチャンバ表面の前記材料の堆積量を測定するウエハ処理装置、若しくは、チャンバを備え、ウエハ表面の材料をエッチングするウエハ処理装置であって、チャンバ内に備えたセンサによって、ウエハ表面の前記材料のエッチング量を測定するウエハ処理装置において、前記センサとして、水晶振動子や水晶振動子マイクロバランス(QCM)を使用すること」は、本願の優先日前において、引用例2〜4に記載されるとおり周知技術であった。

そして、上記第5の2のとおり、引用発明の「水晶振動子」は、(本願発明の)「前記プロセスチャンバの前記チャンバ領域内の所定の位置に装着された」センサであるといえるところ、引用発明の「RIE装置」は、「シリコンウエハやポリSi及びSi単結晶を対象とするとするRIE装置」であって、「密封する事のできる空間である反応室5」を備え、「試料表面のエツチング量を知るようにした」ものであるから、「チャンバを備え、ウエハ表面の材料をエッチングするウエハ処理装置であって、チャンバ内に備えたセンサによって、ウエハ表面の前記材料のエッチング量を測定するウエハ処理装置」であるといえる。

また、上記周知技術においてセンサとして使用する「水晶振動子や水晶振動子マイクロバランス(QCM)」は、「チャンバ内に備えたセンサ」であるから、上記2の本願明細書に開示された事項を勘案すると、上記周知技術における「水晶振動子や水晶振動子マイクロバランス(QCM)」は、本願明細書における「マイクロセンサ」であることが示唆されていると解される。
したがって、引用発明において、引用例2〜4に記載された上記周知技術を適用して、「反応室5に設けられた陰極に装着された試料と同じエツチングすべき材料を予めコートした水晶振動子」を「マイクロセンサ」とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。
よって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

第7 請求人の主張について
1 請求人は、審判請求書において、次のように主張している。

「(1)拒絶理由の理由1および2について
まず、請求項1が新規性および進歩性を有する理由をご説明します。
本願の請求項1の発明は、「ウエハ処理ツールであって、チャンバ領域を有するプロセスチャンバと、前記プロセスチャンバの前記チャンバ領域内の所定の位置に装着されたマイクロセンサとを備え、前記マイクロセンサは1つのパラメータを有し、且つシリコン表面から成る初期センサ表面を含み、前記パラメータは、前記初期センサ表面にシリコンが堆積されたとき、あるいは前記初期センサ表面から除去されたときに変化する、ウエハ処理ツール。」、という発明特定事項を有します。
これらの発明特定事項は、引用文献1−7に開示も示唆もありません。
また、上述の発明特定事項は、以下のような作用効果を本願発明に与えます。
すなわち、請求項1の発明では、センサ表面により、ウエハ製造プロセス中にウエハに同時に発生する実際の堆積速度または除去速度を測定するためにウエハの表面をシミュレーションすることができるようになっています(段落[0041])。
一方で、引用文献1−7に記載の発明は、上述のような発明特定事項を開示していませんし、本願の請求項1に記載の発明が有する作用効果を奏するものではありません。
したがって、請求項1の発明は、引用文献1−7に記載のものとは構成を異にしており、また、構成の相異に基づいて、引用文献1−7のものによっては得られない顕著な効果を得ることができます。したがいまして、請求項1の発明は、引用文献1−7に記載されていないので特許法第29条第1項3号の規定に該当せず、また、引用文献1−7から容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当することなく十分に特許要件を具備するものと確信致します。」

2 本願の明細書には、以下のように記載されている。
「【0041】
一実施形態では、センサ表面408は材料406を含む。さらに具体的には、マイクロセンサ208は、ウエハ製造プロセス中にウエハ202上に堆積される、あるいはウエハ202から除去される材料406と同じ半導体材料から形成されるセンサ表面408を含みうる。例えば、ウエハ製造プロセスがシリコンウエハ上にシリコンを堆積させる堆積プロセスである場合、センサ表面408は、堆積された材料406が、ウエハ202との相互作用と同じようにセンサ表面408と相互作用するように、シリコンを含みうる。同様に、ウエハ製造プロセスがシリコンウエハ202からシリコンを除去するエッチングプロセスである場合、センサ表面408は、シリコンウエハ202からシリコンが除去される速度と同様の速度で材料406がセンサ表面408からエッチングされるように、シリコンを含みうる。したがって、センサ表面408は、ウエハ製造プロセス中にウエハ202に同時に発生する実際の堆積速度又は除去速度を測定するために、ウエハ202の表面をシミュレーションしうる。」

3 一方、引用発明は、上記第4の1(3)のとおり、「シリコンウエハやポリSi及びSi単結晶を対象とするRIE装置であって、密封する事のできる空間である反応室5と、
反応室5に設けられた陰極に装着された試料と同じエツチングすべき材料を予めコートした水晶振動子とを備え、反応性エツチングガスによる、水晶振動子の表面の材料の膜厚の変化にともなつて、水晶振動子の発振周波数が変化し、発振周波数変化から試料表面のエツチング量を知るようにした、RIE装置。」であるから、シリコンウエハからポリSi又はSi単結晶を反応性エッチング(RIE)で除去する場合、水晶振動子の表面は、シリコンウエハから当該ポリSi又はSi単結晶が除去される速度と同様の速度で当該ポリSi又はSi単結晶が水晶振動子の表面からエッチングされるように、ポリSi又はSi単結晶を含みうるものであるといえる。
したがって、上記1における請求人の主張を採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2〜4に記載された周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 辻本 泰隆
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-06-08 
結審通知日 2022-06-14 
審決日 2022-06-27 
出願番号 P2018-547946
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 松永 稔
恩田 春香
発明の名称 マイクロセンサを有するウエハ処理ツール  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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