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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 B42D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B42D
管理番号 1391654
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-17 
確定日 2022-11-10 
事件の表示 特願2016−140248「ヒンジ付積層体、ヒンジ付積層体配列シート、冊子」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 1月18日出願公開、特開2018− 8479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年7月15日の出願であって、令和2年7月2日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、令和3年1月14日付けで拒絶の理由(最後)が通知され、同年3月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月3日付けで同年3月17日付け手続補正書による補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定(原査定)がなされた(原査定の謄本の送達日:同年8月17日)のに対し、同年11月17日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 令和3年11月17日に提出された手続補正書による補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
令和3年11月17日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の概要
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲についてする補正を含むものであって、本件補正により、特許請求の範囲は、
(補正前:令和2年8月27日に提出された手続補正書)
「 【請求項1】
積層された複数の樹脂シート層と、
冊子に綴じることが可能なヒンジ部を有するヒンジ層とを備えるヒンジ形成体であって、
このヒンジ形成体の表面を法線方向から見た形状は、長方形又は正方形であり、
前記ヒンジ層は、前記長方形又は前記正方形内において、同一の方向に沿って延びるように配置され互いに離間して配置された複数の繊維を有し、
前記繊維が延びる方向と、このヒンジ形成体の縁部を形成する縁部形成辺とがなす角は、直角ではなく、
外部機器との間で非接触で通信するループアンテナを備え、
前記ヒンジ層は、前記ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備えること、
を特徴とするヒンジ形成体。
【請求項2】
請求項1に記載のヒンジ形成体において、
前記繊維は、
第1方向に沿って配置された複数の第1繊維と、
前記第1方向に直交する第2方向に沿って配置された複数の第2繊維とを備え、
前記第1繊維が延びる方向と、前記縁部形成辺とがなす角は、直角ではなく、
前記第2繊維が延びる方向と、前記縁部形成辺とがなす角は、直角ではないこと、
を特徴とするヒンジ形成体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のヒンジ形成体において、
ICモジュールを備え、
前記ヒンジ層は、前記ICモジュールを収容する収容穴の少なくとも一部を形成し、
このヒンジ形成体の表面を法線方向から見た状態で、前記繊維と、前記収容穴の内縁部を形成する内縁部形成辺とがなす角は、直角ではないこと、
を特徴とするヒンジ形成体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のヒンジ形成体において、
前記繊維と、前記ループアンテナの導線とがなす角は、直角ではないこと、
を特徴とするヒンジ形成体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のヒンジ形成体において、
前記繊維と前記縁部形成辺とがなす角は、5度以上85度以下であること、
を特徴とするヒンジ形成体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のヒンジ形成体において、
前記ヒンジ層は、前記ヒンジ部が突出する側面に沿った辺の縁部にのみ積層されていること、
を特徴とするヒンジ形成体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のヒンジ形成体と、
前記ヒンジ形成体の上側に積層された上層と、
前記ヒンジ形成体の下側に積層された下層とを備えること、
を特徴とするヒンジ付積層体。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のヒンジ形成体が複数配列されたヒンジ形成配列シート。
【請求項9】
請求項7に記載のヒンジ付積層体が複数配列されたヒンジ付積層体配列シート。
【請求項10】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のヒンジ形成体を前記ヒンジ部で綴じた冊子。」
から、
(補正後:令和3年11月17日に提出された手続補正書)
「 【請求項1】
積層された複数の樹脂シート層と、
冊子に綴じることが可能なヒンジ部を有するヒンジ層とを備えるヒンジ形成体を備えるヒンジ付積層体であって、
このヒンジ形成体の表面を法線方向から見た形状は、長方形又は正方形であり、
前記ヒンジ層は、前記長方形又は前記正方形内において、同一の方向に沿って延びるように配置され互いに離間して配置された複数の繊維を有し、
前記繊維が延びる方向と、このヒンジ形成体の縁部を形成する縁部形成辺とがなす角は、直角ではなく、
外部機器との間で非接触で通信するループアンテナを備え、
前記ヒンジ層は、前記ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備えるヒンジ形成体と、
前記ヒンジ形成体の上側に積層された上層と、
前記ヒンジ形成体の下側に積層された下層と、
前記ヒンジ形成体と前記上層との間に積層されたホログラム層と、
を備えるヒンジ付積層体。
【請求項2】
請求項1に記載のヒンジ付積層体において、
前記繊維は、
第1方向に沿って配置された複数の第1繊維と、
前記第1方向に直交する第2方向に沿って配置された複数の第2繊維とを備え、
前記第1繊維が延びる方向と、前記縁部形成辺とがなす角は、直角ではなく、
前記第2繊維が延びる方向と、前記縁部形成辺とがなす角は、直角ではないこと、
を特徴とするヒンジ付積層体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のヒンジ付積層体において、
ICモジュールを備え、
前記ヒンジ層は、前記ICモジュールを収容する収容穴の少なくとも一部を形成し、
このヒンジ形成体の表面を法線方向から見た状態で、前記繊維と、前記収容穴の内縁部を形成する内縁部形成辺とがなす角は、直角ではないこと、
を特徴とするヒンジ付積層体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のヒンジ付積層体において、
前記繊維と、前記ループアンテナの導線とがなす角は、直角ではないこと、
を特徴とするヒンジ付積層体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のヒンジ付積層体において、
前記繊維と前記縁部形成辺とがなす角は、5度以上85度以下であること、
を特徴とするヒンジ付積層体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のヒンジ付積層体において、
前記ヒンジ層は、前記ヒンジ部が突出する側面に沿った辺の縁部にのみ積層されていること、
を特徴とするヒンジ付積層体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のヒンジ付積層体が複数配列されたヒンジ付積層体配列シート。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のヒンジ付積層体を前記ヒンジ部で綴じた冊子。」
へと補正された(下線は、補正箇所を明示するために当審で付した。)。

(2)補正事項
本件補正は、補正前の請求項1に対しての、次の補正事項を含むものである。

ア 発明を特定するために必要な事項である、「冊子に綴じることが可能なヒンジ部を有するヒンジ層とを備えるヒンジ形成体であって、」について、補正前の「ヒンジ形成体」との記載を補正後の「ヒンジ形成体を備えるヒンジ付積層体」との記載に限定するとともに(補正事項ア)、

イ 発明を特定するために必要な事項である、「前記ヒンジ層は、前記ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備えること、」「 を特徴とするヒンジ形成体」について、補正前の「アンテナ埋設溝を備えること、」「 を特徴とするヒンジ形成体」を補正後の「アンテナ埋設溝を備えるヒンジ形成体と、」との記載に変更するとともに(補正事項イ)、

ウ 発明を特定するために必要な事項である、上記アにおける補正前の「ヒンジ形成体」との記載を補正後の「ヒンジ形成体を備えるヒンジ付積層体」との記載に限定する事項の「ヒンジ付積層体」に対して、さらに、「 前記ヒンジ形成体の上側に積層された上層と、」、「 前記ヒンジ形成体の下側に積層された下層と、」及び「 を特徴とする前記ヒンジ形成体と前記上層との間に積層されたホログラム層と、」「 を備える」との限定を加えるもの(補正事項ウ)である。

2 補正の適否
(1)新規事項の追加の有無について
ア 事案に鑑み、上記「補正事項イ」及び「補正事項ウ」について、本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されているか否かを検討する。

イ まず、補正事項イによって、補正前の「前記ヒンジ層は、前記ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備える」との記載が、「前記ヒンジ層は、前記ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備えるヒンジ形成体と、」との記載となったが、これにより、当該「ヒンジ形成体」に補正事項ウの「上層」、「下層」及び「ホログラム層」と並び加え、「前記ヒンジ層は、」これらを「備える」こととなり、「ヒンジ層」が「ヒンジ形成体」を「備える」ことを意味するようになったと認められる(下線は当審にて付した。以下同様。)。

ウ さらに、補正事項ウによって、上記補正事項イの「前記ヒンジ層は、」との記載に対して、「 前記ヒンジ形成体の上側に積層された上層と、」「前記ヒンジ形成体の下側に積層された下層と、」「 前記ヒンジ形成体と前記上層との間に積層されたホログラム層と、」「を備える」との限定が追加されたことによって、上記「イ」と同様に「ヒンジ層」が「上層」、「下層」及び「ホログラム層」を「備える」ことを意味するようになったとも認められる。

エ これに対して、審判請求人が審判請求書において補正の根拠とする補正前の旧請求項7(審決注:令和2年8月27日付け手続補正書における請求項7)、当初明細書等の段落0018及び図1〜図8には、以下の事項が記載されている。

(ア)「 【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のヒンジ形成体と、
前記ヒンジ形成体の上側に積層された上層と、
前記ヒンジ形成体の下側に積層された下層とを備えること、
を特徴とするヒンジ付積層体。」

(イ)「【0018】
ホログラム層70は、ヒンジ形成体20及び上層50の間に積層されている。上側Z2から見た状態で、ホログラム層70の外形は、上層窓部56よりも一回り大きい。
ホログラム層70は、透明である。ホログラム層70は、例えば、リップマンホログラム、エンボス型のホログラム等のホログラム画像71が記録されている。ホログラム画像71は、上層窓部56の内側に配置される。なお、ホログラム画像71は、半透明でもよい 。」

(ウ)「




(エ)「



(オ)「



(カ)「



オ さらに、補正事項イ及び補正事項ウに関連して、「ヒンジ層」、「ヒンジ形成体」、「ヒンジ付積層体」、及び、「上層」、「下層」、「ホログラム層」について、当初明細書等には以下の事項が記載されている。

(ア)「【0011】
ヒンジ付積層体10を表面(上面又は下面)から見た形状は、左右方向Xに平行な2つの辺10Xと、縦方向Yに平行な2つの辺10Yとを備える四角形である。辺10X,10Yは、ヒンジ付積層体10の縁部を形成する縁部形成辺である。なお、ヒンジ付積層体10のこれらの辺10X,10Yと、後述するヒンジ形成体20の各辺(ヒンジ形成体20の縁部を形成する縁部形成辺)とは、一致する。このため、実施形態において、ヒンジ付積層体10の辺10X,10Yと説明した部分は、それぞれ、ヒンジ形成体20の各辺と同様な意味である。
つまり、本実施形態においては、ヒンジ付積層体10の縁部(形成辺)とは、ヒンジ形成体20の縁部(形成辺)であり、また、ヒンジ層41(後述する)の縁部(形成辺)である。
ヒンジ付積層体10は、ヒンジ形成体20、上層50、下層60、ホログラム層70を備える。
図2に示すように、ヒンジ形成体20のヒンジ部41aは、糸5等を用いて、他のページ6、表紙7と一緒に綴じられる。これにより、ヒンジ付積層体10は、パスポート1に綴じられる。
ヒンジ形成体20の詳細は、後述する。」

(イ)「【0021】
[ヒンジ形成体20(単体)の構成]
ヒンジ形成体20は、ヒンジ付積層体10の厚さ方向Zのほぼ中央に積層される。
図1の例では、ヒンジ形成体20の上面を上側Z2から見た形状は、長方形であるが、これに限定されず正方形でもよい。
ヒンジ形成体20は、ICモジュール30、アンテナ35、ヒンジ層41、中間層42(アンテナ埋設層)、上保護層45、下保護層46、ICモジュール収容穴47、アンテナ埋設溝48を備える。
【0022】
下保護層46、中間層42、ヒンジ層41、上保護層45は、下側Z1から上側Z2に、この順番で積層されている。これらの層間は、熱溶着によって接合される。このため、これらの材料は、熱溶着の相性がよい樹脂(例えば、PET−G、PVC、PC等)のシート材を用いる。中間層42は、樹脂シート材の単層構成、又は複層構成である。上保護層45、下保護層46も同様である。
中間層42、下保護層46、上保護層45の外形は、等しい。ヒンジ層41の外形は、中間層42、下保護層46、上保護層45の外形よりも大きい。ヒンジ層41のこの大きい部分は、ヒンジ部41aを構成する部分である。」

(ウ)「【0025】
ヒンジ層41は、このヒンジ形成体20の各樹脂層42,45,46の外形よりも大きい。このため、ヒンジ層41は、ヒンジ形成体20の全面に積層される。
ヒンジ層41は、ヒンジ部41aを備える。
ヒンジ部41aは、パスポート1に綴じられる部分である(図2(B)参照)。
ヒンジ部41aは、ヒンジ形成体20の樹脂層42,45,46の側面のうち、パスポート1に綴じられる側の側面(図1では、右側面)から突出している。また、ヒンジ層41は、ICモジュール収容穴47の一部を形成する。
ヒンジ層41は、ヒンジとして機能するための十分な柔軟性、破断等をしないための十分な引っ張り強度、繰り返し折り曲げられても破断しない十分な耐久性等を備える。ヒンジ層41は、例えば、複数のPET−Gの樹脂シート等の層間に、PET、ポリアミド等の繊維41b,41cを、格子状に配置したものを用いることができる。
繊維41b,41cの配置等の詳細は、後述する。」

(エ)「【0064】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、以下の説明及び図面において、前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾(下2桁)に同一の符号を適宜付して、重複する説明を適宜省略する。
図7は、第2実施形態のヒンジ形成体配列シート220Aを説明する図である。
図7(A)は、ヒンジ形成体配列シート220Aを厚さ方向Zの上側Z2(上面の法線方向)から見た図である。
図7(B)は、ヒンジ形成体配列シート220Aの断面図(図7(A)のB−B断面図)である。
図7(C)は、ヒンジ形成体配列シート220Aの製造方法を説明する断面図である。
【0065】
図7(A)、図7(B)に示すように、ヒンジ形成体配列シート220Aは、2つのヒンジ層シート材241A(つまりヒンジ層)が、それぞれ左側X1の辺(少なくとも一辺)の縁部、右側X2の辺(少なくとも一辺)の縁部にのみ配置されている。つまり、各ヒンジ層シート材241Aは、ヒンジ部241aが突出する側面である左側面、右側面に沿った縁部にのみ配置されている。
左右方向Xにおいて、2つのヒンジ層シート材241Aの内側には、厚さ調整層シート材243Aが積層されている。厚さ調整層シート材243Aの厚さは、ヒンジ層シート材241Aと同じである。つまり、厚さ調整層シート材243Aは、ヒンジ層シート材241Aの厚さ分を調整するものである。厚さ調整層シート材243Aは、中間層シート材42Aと同様な材料により形成できる。
ヒンジ形成体配列シート220Aは、厚さ調整層シート材243Aを備えることにより、上面、下面を、平らに形成できる。」

カ まず、補正事項イについて検討すると、上記「オ(ウ)」の【0025】には、「ヒンジ層41は、ヒンジ部41aを備える。」、及び、「ヒンジ部41aは、パスポート1に綴じられる部分である」との記載があり、当初明細書等における「ヒンジ層」とは、「綴じられる部分」として機能する「ヒンジ部」を備えるものであると認められるところ、上記「オ(ア)」の【0011】における「ヒンジ付積層体10は、ヒンジ形成体20、上層50、下層60、ホログラム層70を備える。」との記載、及び、上記「オ(イ)」の【0021】における、「ヒンジ形成体20は、ICモジュール30、アンテナ35、ヒンジ層41、中間層42(アンテナ埋設層)、上保護層45、下保護層46、ICモジュール収容穴47、アンテナ埋設溝48を備える。」との記載からみて、「ヒンジ付積層体10」が「ヒンジ形成体20」を備え、かつ、当該「ヒンジ形成体20」が「ヒンジ層41」を備えることが示されており、図1(B)及び図3(A)においても、それらの右端部には「ヒンジ層41」及び「ヒンジ部41a」を含むように括弧を設け、これらが「ヒンジ形成体20」に含まれる態様が記載されていることがみてとれる。

キ これに対して、補正事項イにおいては、「ヒンジ層」が「ヒンジ形成体」を「備える」旨記載されていると解され、上記の当初明細書等の記載とは逆の関係にあるから、この点において補正事項イが当初明細書等に記載されているとは認められない。
また、上記「オ(エ)」において示した、「第2実施形態」に係る当初明細書等の記載においても、【0065】に「ヒンジ層シート材241A」が「ヒンジ層」を構成することが記載されており、かつ、「ヒンジ形成体」を形成するための「ヒンジ形成体配列シート220A」について、「2つのヒンジ層シート材241A(つまりヒンジ層)が、それぞれ左側X1の辺(少なくとも一辺)の縁部、右側X2の辺(少なくとも一辺)の縁部にのみ配置されている」と記載されており、図7(B)において「ヒンジ形成体配列シート220A」に対する「ヒンジ層シート材241A」の関係が、上記「ヒンジ形成体20」に対する「ヒンジ層41」の関係と同様に、後者が前者に含まれることがみてとれるから、当該第2実施形態においても同じことがいえると認められる。

ク 次に、補正事項ウについて検討すると、上記「オ(ア)」において示したとおり、補正前の旧請求項7には「ヒンジ形成体」と、「ヒンジ形成体の上側に積層された上層」と、「ヒンジ形成体の下側に積層された下層」とを「ヒンジ付積層体」が備えることが記載され、【0018】に、「ホログラム層70」は、「ヒンジ形成体20及び上層50の間に積層されている」ことが記載されており、かつ、図1(B)及び図3(A)からも「ヒンジ形成体」、「上層」、「下層」、及び、「ホログラム層70」の間の、上記の相互の配置関係が記載されていることがみてとれる。

ケ これに対して、補正事項ウにおいては、補正事項イの「前記ヒンジ層は、」との記載を併せると、「ヒンジ層」が「上層」、「下層」、及び、「ホログラム層70」を「備える」旨記載されていると解され、上記の当初明細書等の記載とは逆の関係にあるから、この点において補正事項ウが当初明細書等に記載されているとは認められない。
また、上記「オ(エ)」において示した、「第2実施形態」に係る当初明細書等の記載についても、上記「キ」において論じたのと同様のことがいえる。

コ さらに、本願の当初明細書等のその他の記載を参酌しても、本願の当初明細書等に上記補正事項イ及び補正事項ウにおける上記構成が記載されているとは認められない。
そして、当該構成は、当初明細書等から自明な事項や技術常識から導かれる事項でもなく、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、上記補正事項イ及び補正事項ウは、新たな技術的事項を導入するものである。

(2)まとめ
したがって、上記補正事項イ及び補正事項ウを含む本件補正は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、再掲すると、令和2年8月27日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものである。
なお、符号AないしHは分説するため当審にて付した。

「【請求項1】
A 積層された複数の樹脂シート層と、
B 冊子に綴じることが可能なヒンジ部を有するヒンジ層とを備えるヒンジ形成体であって、
C このヒンジ形成体の表面を法線方向から見た形状は、長方形又は正方形であり、
D 前記ヒンジ層は、前記長方形又は前記正方形内において、同一の方向に沿って延びるように配置され互いに離間して配置された複数の繊維を有し、
E 前記繊維が延びる方向と、このヒンジ形成体の縁部を形成する縁部形成辺とがなす角は、直角ではなく、
F 外部機器との間で非接触で通信するループアンテナを備え、
G 前記ヒンジ層は、前記ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備えること、
H を特徴とするヒンジ形成体。」

2 原査定の拒絶の理由の概要

進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1−5
・引用文献等 1−4

・請求項 6−10
・引用文献等 1−5

<引用文献等一覧>

1.米国特許出願公開第2008/0169638号明細書
2.特開2003−31912号公報(周知技術を示す文献)
3.特開昭58−57935号公報(周知技術を示す文献)
4.特表2009−510579号公報
5.米国特許出願公開第2008/0284155号明細書

3 引用文献、引用発明等
(1)引用文献1、引用発明
原査定で引用され、本願の出願前に頒布された米国特許出願公開2008/0169638号明細書(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 記載事項
(ア)「[0001] The subject-matter of the invention is a personal document in book form, for example, a passport having a personalized page that together with the other pages of the personal document is bound by means of a seam and attached in a book cover.」
(当審訳:[0001] 本発明の主題は、ブック形式の原稿、例えば、シームにより結合し、本の表紙に取り付けられているパーソナルドキュメントの他のページと一緒にパーソナライズされたページを有するパスポートである。)

(イ)「[0009] The goal is attained in accordance with the invention with a personal document in book form including a book cover, a multi-layer personalized page that contains personal data, and interior pages, whereby the personalized page and the interior pages are attached in the book cover by means of a seam. The multi-layer personalized page has a core stratum comprising a textile layer, and is joined on both sides to at least one thermoplastic layer, which cover the core stratum up to a section of excess length. An RFID element with an IC element for contactless transmission of biometric data from the personalized document is integrated in the core stratum. The personalized page is sewn by means of the seam to the other pages and the book cover in the area of the excess length.」
(当審訳:[0009] 目標は、ブックカバー、個人情報が記載された多層、パーソナライズされたページと内側ページを含む書籍形式の文書を有する本発明に従って達成され、パーソナライズされたページと内側ページは、縫い目によって本の表紙に取り付けられている。パーソナライズされたページは、コア層からなり織物層を含み、両面に少なくとも1層の熱可塑性層を余長の部分まで覆うように設けている。個人化された文書から生体データを無接触で伝送するIC素子付きRFID素子は、コア層に組み込まれている。パーソナライズされたページは、余長の領域において他のページとブックカバーにシームにより縫着されている。)

(ウ)「[0014] The bonding agent layer preferably comprises a thermoplastic adhesive, in particular a hotmelt, that joins the textile layer to the plastic layer covering the core stratum in a manner that cannot be released without visibly damaging the layers. It is particularly advantageous when a reactive resin or a partially reactive resin mixture is used with which the textile layer and the plastic layer covering the core stratum are joined permanently. Preferably, the plastic layers on the front side and on the back side of the personalized page are joined to one another by lamination.
(当審訳:[0014] 接着剤層は、好ましくは層を視覚的に傷つけずに解放することができない方法で織物層をコア層を覆うプラスチック層に接合する、ホットメルト接着剤、熱可塑性接着剤を含む。反応性樹脂又は反応性樹脂混合物は、繊維層と、コア層を被覆する合成樹脂層が永久的に接合されて使用される場合、特に有利である。好ましくは、パーソナライズされたページの裏側の合成樹脂層は、積層によって互いに接合されている。)

(エ)「[0024] The passport binder 2, 2 ' is bound by means of the seam 15, with the personalized page 3, 4, 5, 19 and the interior strata 12, 12 ', 13, 13 ', 14, 14 ' into a book, so that a sort of articulation 15 is formed. The number of interior strata can be selected according to the design desired. In this case, only six interior strata are shown for the sake of simplicity.
[0025] The personalized page comprises a laminate with a core stratum 3 between plastic layers on the front side 4 and the back side 5. The excess length 19 of the personalized page 3, 4, 5 in the area of the seam 19 comprises only the core stratum 3, which is embodied bendable and made of a textile material such that a personal document produced in this manner can be opened and closed easily without there being a high restoring force and in that a high bending number is possible.」
(当審訳:[0024] 結合剤2,2’は、シーム15で結合され、パーソナライズされたページ3、4、5、19、および内部層に、12,12’,13,13’,14,14’と、シーム15が形成される。内部層の数は、所望の設計に応じて選択することができる。ここでは、説明を簡単にするために内部層を6個だけを示してある。
[0025]パーソナライズされたページは、前面側のプラスチック層4及び背面側のプラスチック層5の間にコア層3を備える積層体を含む。パーソナライズされたページ3、4、5の余長19は、継ぎ目19の領域でコア層3のみからなり、屈曲可能にかつ織物材料を用いて具体化され、それによりこのように製造されたパーソナルドキュメントは、高い復元力を受けることなく容易に開閉することができ多数回の曲げが可能である。)

(オ)「[0027] FIG. 2 is a top view of the personalized page 3, 4, 5. In accordance with the invention, the core stratum 3 extends across the entire personalized page, including the excess length 19. However, the plastic layers of the front side 4 of the personalized page and the back side 5 of the personalized page do not extend across the full width of the core stratum 3, but rather end at the edge 20 and are exteriorly edged with a common contour 29. Thus, only the flexible core 3 is to be sewn at the seam or bending site 15, while the rest of the personalized page has substantially higher stiffness due to the laminated polycarbonate layers. The exterior contour 29 is preferably obtained by punching the bound passport 1.」
(当審訳:[0027] 図2は、パーソナライズされたページ3,4,5の平面図である本発明によれば、コア層3は、余長19にわたって延びている。しかしながら、パーソナライズされたページの前面4及びパーソナライズされたページの裏面5のプラスチック層は、コア層3の幅全体にわたって延びているのではなく、エッジ20で終端し、共通の輪郭29で縁取られて用いられる。このように、可撓性のコア3は、継ぎ目又は湾曲15で縫い付けられている、パーソナライズされたページの残りの部分は、積層されたポリカーボネート層によって実質的に高い剛性を有している。外側輪郭29は、結合されたパスポート1を打ち抜くことによって得られるのが好ましい。)

(カ)「[0034] In this sectional depiction, the core stratum 3 is formed from three strata, whereby in special cases additional strata or layers might be reasonable and even necessary. The textile layer 21 comprises a polyester fabric and/or a polyester satin fabric and/or a cotton fabric and/or a cotton blend fabric and/or a microfiber fabric and/or a non-woven fabric made of thermoplastic fibers. The thickness of the fabric 21 is 50 to 300 μm, preferably 100 to 200 μm. The fabric has security threads woven therein, or is woven from security yams, or can be printed. Preferably machine-readable marking substances are used. In particular, marking substances that can be activated in the near infrared range can be added that can be read through layers arranged thereover, since, for example, conventional printing inks and opaque thermoplastic films are penetrated by NIR radiation in the metrologically interesting range of 800 to 1100 nm.」
(当審訳:[0034] この断面図では、コア層3は、3層から形成され、特別な場合には追加の層が合理的であり、必要でさえあるかもしれない。織物層21は、ポリエステル布及び/又はポリエステルサテン布/綿織布/綿混紡織物および/または極細繊維及び/又は熱可塑性繊維からなる不織布を備えている。布21の厚さは50〜300μm、好ましくは100〜200μmである。織物は、織り込んだセキュリティスレッドを有する、またはセキュリティ糸から織られているか、または印刷することができる。好ましくは機械読取可能なマーキング物質が使用される。具体的には、その上に配置された層を介して読み取ることができる近赤外範囲で活性化することができるマーキング物質を添加することができ、例えば、従来の印刷インキと不透明な熱可塑性フィルムは、800〜1100nmの測定技術的に興味深い範囲でNIR放射線によって貫通されている。)

(キ)「[0036] The fabric 21 is provided with one or two bonding agent layers 22, 23. These layers can be thermoplastic in nature and in this case must have a corresponding heat resistance or can be designed partially reactive or reactive. In each case a bond is attained that makes it impossible to separate the layers 21, 22, 23, 24, 25, 26, and 27 without visibly damaging or destroying them.
[0037] In terms of production engineering, the bonding agent layers 22, 23 can cover the entire surface of the fabric 21, that is, the excess length 19, as well. Depending on the type and thickness of the fabric, however, the excess length 19 can be kept free of one or both bonding agent layers 22, 23.」
(当審訳:[0036] 織物21は、1または2つの接着剤層22、23が設けられている。これらの層は本質的に熱可塑性であることができ、この場合には相当の耐熱性を有していなければならない、または部分的に反応性または反応性に設計することができる。それぞれの場合において、層21、22、23、24、25、26、27を、それらを損傷するまたは破壊する目に見えない限り分離できない結合が達成される。
[0037] 製造技術の観点で、接着剤層22、23は、余長19、布21の表面全体を覆うことができる。布のタイプおよび厚さに依存して、しかしながら、余長19は、一方または両方の接着剤層22、23のない状態に保つことができる。)

(ク)「[0039] Depending on the type of IC element 17 and the possible type of contacting, the RFID coil 18 can be produced using etching in copper or aluminum, or by means of silver through plating, or by means of copper wire winding or laying technique.」
(当審訳:[0039] そして、IC素子17の種類および接触の種類に依存して、RFIDコイル18は、銅またはアルミニウムのエッチングを使用して、またはめっきにより銀、銅ワイヤ巻回または積層技術によって製造することができる。)

(ケ)「



イ 認定事項
(ア)上記記載事項「ア(カ)」には、「コア層3」が、それを構成する「織物層21」として「ポリエステル布」を含むことが、また、記載事項「ア(キ)」の[0036]には、「織物21」に「1または2つの接着剤層22、23が設けられ」ることが、[0037]には「接着剤層22、23は、余長19、布21の表面全体を覆う」ことが、さらに、「ア(ウ)」には「接着剤層」として「ホットメルト接着剤、熱可塑性接着剤」を用いることが記載されていることからみて、上記「コア層3」は「樹脂」からなるものであると解することができる(認定事項ア)。

(イ)上記記載事項「ア(オ)」の[0027]には、「外側輪郭29は、結合されたパスポート1を打ち抜くことによって得られる」ことが記載されており、かつ、「ア(ケ)」の「Fig.2」において「コア層3」の「余長19」側の上端部は、当該「コア層3」の左右の両側部に対して直交していると認められるから、「パーソナライズされたページ3、4、5」及びこれを構成する「コア層3」は、「打ち抜きによ」る「平面図において略長方形の外側輪郭」を有すると解することができる(認定事項イ)。

そうすると、上記記載事項(ア)〜(ケ)及び認定事項(ア)及び(イ)より、引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「a 前面側のプラスチック層4及び背面側のプラスチック層5の間に樹脂からなるコア層3を備える積層体と([0025]、認定事項ア)、
b 余長の領域においてブックカバーに縫着される屈曲可能なコア層3を有するパーソナライズされたページ([0009]、[0025]、[0027])であって、
c パーソナライズされたページ3、4、5は、打ち抜きによる平面図において略長方形の外側輪郭を有し(認定事項イ)、
d コア層3は、平面図において略長方形をなし、ポリエステル布からなる織物層21を有し([0034])、認定事項イ)、
f RFIDコイル18を有する([0039])、
h パーソナライズされたページ3、4、5([0025])。」

(2)引用文献2、引用文献3、周知の技術事項
ア 引用文献2
原査定で周知例として引用され、本願の出願前に頒布された特開2003−31912号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「【0017】
【発明が解決しようとする課題】図10は、図9のせん断された基板100’の切断部を拡大した図である。従来の基板100’では、上述のように金型を用いてせん断加工を行う場合には、せん断された基板100’の切断部に、図10に示すように、繊維110のほつれである繊維屑(以下クズと呼ぶ)30が発生する。」

(イ)「【0038】そして、たとえば、金型等を用いたせん断装置を用いて、本発明の基板を、基板の周縁部に対して略平行に、つまり、繊維方向に対して所定の角度、たとえば、確実にせん断可能な角度で切断することで、繊維クズを発生することなく基板がせん断される。」

(ウ)「【0042】本実施の形態の基板100は、図1に示すように、たとえばガラス繊維からなる繊維110は、基板100の周縁部に対してバイアス方向(斜め方向)に配列された繊維113と、その繊維113に直交するように配列された繊維114で形成されている。」

(エ)「【0053】この際、繊維110である繊維113および繊維114は、せん断装置により確実に繊維110がせん断されるバイアス方向になるように配列される。具体的には、たとえば、基板100の周縁部に対して、繊維110の繊維方向が45°±数十%であることが好ましい。」

(オ)「【0070】また、本実施の形態では、繊維110は、Eガラスを用いて繊維を形成したが、この形態に限られるものではない。たとえば、Qガラス、Dガラス、Sガラス等でもよいし、ポリエステルや、他の有機の繊維や無機の繊維を用いてもよい。」

(カ)上記(ア)〜(オ)の記載からみて、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「基板100の周縁部に対してバイアス方向(斜め方向)にポリエステル繊維113を配列し、その繊維113に直交するようにポリエステル繊維114を配列して(【0042】、【0070】)、繊維のほつれである繊維クズを発生することなく基板がせん断されるようにすること(【0007】、【0038】)。」

イ 引用文献3
原査定で周知例として引用され、本願の出願前に頒布された特開昭58−57935号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア)「上記織布中で交差している縦方向繊維7と横方向繊維8の繊維方向が積層板の端面となす角度θ1,θ2を直角又は平行ではなくそれぞれ3°〜87°の範囲とする。
このように縦および横方向繊維7,8の繊維方向が積層板の端面と角度を持つように形成すると、繊維クズの発生を防止することができる。」(第2頁右上欄14−20行)

(イ)上記(ア)の記載からみて、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「織布中で交差している縦方向繊維7と横方向繊維8の繊維方向が積層板の端面となす角度θ1,θ2を直角又は平行ではなくそれぞれ3°〜87°の範囲として、縦および横方向繊維7,8の繊維方向が積層板の端面と角度を持つように形成し、繊維クズの発生を防止すること」

ウ 周知の技術事項
上記引用文献2記載の技術事項、及び、引用文献3記載の技術事項からみて、本願出願前において次の技術事項が記載され、かつ、周知であると認められる(以下「周知の技術事項」という。)。

「板の周縁部の端面とバイアス方向(斜め方向)に縦方向繊維を配列し、縦方向繊維に直交する横方向繊維を配列し、繊維のほつれである繊維クズを発生することなく板がせん断されるようにすること」

(3)引用文献4
原査定で周知例として引用され、本願の出願前に頒布された特表2009−510579号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
本発明は、認証又は検証文書に関する。本発明は、特に、可視履歴データ情報の改ざん及び変更、及び文書内に埋め込まれたデータ記憶デバイスの除去及び交換に対する様々な形式の身元確認文書に与えられる保護の程度を改善することに関する。本発明は、パスポートのようなマルチページ文書に特に適用されるが、ある一定の態様によれば、より一般的に適用され、運転免許証及び身分証明書のような認証又は検証文書に適用することができる。」

イ 「【0158】
更に、一変形において、積層体6には、担体シート10(図7Aに図示)上でループアンテナ8を受け取るための凹部が設けられるが、好ましい実施形態では、この凹部は、アンテナが非常に薄い銅線で製造されることを考慮して設けられない。アンテナ8のための凹部が設けられる場合、これは、この積層体内に延びる切抜き部の形態で、担体シートに最も近い積層体6の層内に設けられる。」

ウ 「【0163】
その後の段階において、データページは、レーザ又は転写印刷及び透明プラスチック材料の薄い積層体11との重ね合わせによるなどの積層体6を視覚的に判読可能な印を形成することができる材料のシート3と重ね合わせることにより製造される。シート3は、あらゆる適切な材料、理想的には多孔質紙で形成することができ、かつ適切である場合は、透明、半透明、又は不透明とすることができる。一実施形態では、シート3は、積層体6及び/又は積層体11の並置表面上に付加された接着剤がシート3を通ってシート3を所定の位置に接合するように多孔質である。更に、シート3には、明瞭なパターンを成すレーザ穿孔の形態でセキュリティ機能を組み込むことができる。従って、パスポート保持者に関連する個人情報を含むRFIDチップは、個人データが印刷された形で示されているデータページの背面に接合される。このようにして、パスポートの持ち主に関連する印刷情報、電子情報の両方は、パスポート内の同じ物理的位置に示されている。特に、一実施形態では、同一情報は、印刷の形態及び電子の形態の両方で示される。代替的に、印刷された形態ではない付加的な情報を電子形態で、例えば虹彩走査及び指紋データで示すことができる。」

上記ア〜ウの記載からみて、引用文献4には、次の事項(以下「引用文献4」記載の技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「パスポートのようなマルチページ文書(【0001】)のデータページの積層体6に(【0163】)、ループアンテナ8を受け取るための凹部を設けること(【0158】)」

4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

ア 構成Aについて
引用発明の構成aの「前面側のプラスチック層4」及び「背面側のプラスチック層5」は、それらと「樹脂からなるコア層3」とで「積層体」を形成しているから、本願発明の構成Aの「積層された複数の樹脂シート層」に相当する。
したがって、引用発明の構成aは、本願補正発明1の構成Aに相当する構成を備えている。

イ 構成Bについて
引用発明の構成bの「コア層3」における「余長の領域」は、当該箇所において「ブックカバーに縫着される」ものであり、かつ、「コア層3」が「屈曲可能」なものであるから、本願発明の構成Bの「冊子に綴じることが可能な」「ヒンジ部」に相当する。
そして、当該「余長の領域」を備え「層」をなす、引用発明の構成bの「コア層3」は、本願発明の構成Bの「ヒンジ層」に相当し、当該「コア層3」を有する引用発明の構成bの「パーソナライズされたページ3、4、5」は、本願発明の構成Bの「ヒンジ形成体」に相当する。
したがって、引用発明の構成bは、本願補正発明1の構成Bに相当する構成を備えている。

ウ 構成Cについて
引用発明の構成cの「パーソナライズされたページ3、4、5」が「平面図において略長方形の外側輪郭を有」することは、本願発明の構成Cの「このヒンジ形成体の表面を法線方向から見た形状」が「長方形であ」ることに相当する。
したがって、引用発明の構成cは、本願補正発明1の構成Cに相当する構成を備えている。

エ 構成Dについて
一般に、「布からなる織物層」を編織する際には、縦糸が並行に配置される一方で、横糸がこれに直交して配置されるところ、引用発明の構成dは、「ポリエステル布からなる織物層21」を有しているから、本願発明の構成Dの「同一の方向に沿って延びるように配置され」た「複数の繊維」を備えているといえる。
また、当該並行して配置された「縦糸」において、隣り合う当該「縦糸」同士の間には、それらに直交して複数の「横糸」が並行に介在して配置されるから、当該「横糸」によって「縦糸」が「離間して配置」されることになるし、隣り合う当該「横糸」同士の関係においても同様のことがいえる。
したがって、引用発明の構成dの「ポリエステル布からなる織物層21」は、「互いに離間して配置された複数の繊維」を備えているということができる。
さらに、引用発明の構成dの「コア層3」が、その外縁が「平面図において略長方形をな」すものであり、これを構成する「ポリエステル布からなる織物層21」は、当該「略長方形」に収まるように配置されることになるから、引用発明の構成dの「コア層3」が「ポリエステル布からなる織物層21を有」することは、本願発明の構成Dにおける「長方形内において」「繊維を有」することに相当する。
よって、引用発明の構成dは、本願発明の構成Dに相当する構成を備えている。

オ 構成Fについて
引用発明の構成fの「RFIDコイル18」は、本願発明の構成Fの「外部機器との間で非接触で通信するループアンテナ」に相当する。
したがって、引用発明の構成fは、本願発明の構成Fに相当する構成を備えている。

カ 構成Hについて
引用発明の構成hは、上記「イ」において示したとおり、本願発明の構成Hに相当する構成を備えている。

(2)一致点及び相違点について
以上のとおりであるから、本願発明と引用発明とは、

「A 積層された複数の樹脂シート層と、
B 冊子に綴じることが可能なヒンジ部を有するヒンジ層とを備えるヒンジ形成体であって、
C このヒンジ形成体の表面を法線方向から見た形状は、長方形であり、
D 前記ヒンジ層は、前記長方形内において、同一の方向に沿って延びるように配置され互いに離間して配置された複数の繊維を有し、
F 外部機器との間で非接触で通信するループアンテナを備え、
H を特徴とするヒンジ形成体。」である点において一致し、以下の点で相違する。

[相違点1](構成E)
ヒンジ層が有する繊維に関して、本願発明は「前記繊維が延びる方向と、このヒンジ形成体の縁部を形成する縁部形成辺とがなす角は、直角ではな」いのに対して、引用発明では、「コア層3」が有する「ポリエステル布からなる織物層21」について、「布からなる織物層21」を構成する「繊維の延びる方向」と「パーソナライズされたページ3、4、5」の「略長方形の外側輪郭」とのなす角度について特定されていない点。

[相違点2](構成G)
ループアンテナに関して、本願発明は「ヒンジ層」が、「ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備える」のに対して、引用発明では「アンテナ埋設溝」について特定されていない点。

(3)判断
上記相違点1及び2について検討する。

ア 相違点1
上記「3(2)ウ」において示したとおり、「板の周縁部の端面とバイアス方向(斜め方向)に縦方向繊維を配列し、縦方向繊維に直交する横方向繊維を配列し、繊維のほつれである繊維クズを発生することなく板がせん断されるようにすること」は周知の技術事項である。
また、上記周知の技術事項における、「板の周縁部の端面とバイアス方向(斜め方向)に縦方向繊維を配列すること」は、本願発明の「前記繊維が延びる方向と、このヒンジ形成体の縁部を形成する縁部形成辺とがなす角は、直角ではな」いことに相当し、上記周知の技術事項における「縦方向繊維に直交する」ように「配列」された「横方向繊維」についても同様のことがいえる。
一方、引用発明は、樹脂からなる「コア層3」が「ポリエステル布からなる織物層21」を有しているところ、当該「ポリエステル布」は繊維を備えており、「パーソナライズされたページ3、4、5」が、「打ち抜きによ」って「平面図において略長方形の外側輪郭」が形成されるにあたっては、「コア層3」が有する「ポリエステル布からなる織物層21」の繊維が、当該「打ち抜き」によって「外側輪郭」の部位において「せん断」されることとなる。
したがって、上記周知の技術事項が包含している「繊維のほつれである繊維クズを発生する」という課題を、当該周知の技術事項と同様に引用発明が備えることは、技術常識からみても明らかである。
してみると、引用発明と上記周知の技術事項とは、繊維層を備える基材における繊維のほつれである繊維クズの発生を防止する点で、技術分野も、解決しようとする課題も共通するといえるから、引用発明に、上記周知の技術事項を適用する動機付けがあるといえる。
そして、引用発明の「ポリエステル布からなる織物層21」に対して、上記周知の技術事項を適用することにより、相違点1に係る「前記繊維が延びる方向と、このヒンジ形成体の縁部を形成する縁部形成辺とがなす角は、直角ではなく、」との構成を得ることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

イ 相違点2
引用文献4記載の技術事項における、「ループアンテナ8を受け取るための凹部を設けること」は、本願発明の「ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備えること」に相当する。
また、引用発明4記載の技術事項における「データページの積層体6」は、「冊子に綴じることが可能な」なものであり「外部機器との間で非接触で通信するループアンテナを備え」る点において、本願発明の「ヒンジ形成体」と共通する。
さらに、引用発明と引用文献4記載の技術事項とは、「パスポートのようなマルチページ文書」であって「認証」の対象となることにおいて同一の技術分野に属するものであるから、引用発明の「パーソナライズされたページ3、4、5」に「RFIDコイル18」を配置するにあたり、当該「パーソナライズされたページ3、4、5」を構成する層である、「コア層3」、「前面側のプラスチック層4」及び「背面側のプラスチック層5」のいずれかに、引用文献4記載の技術事項の「ループアンテナ8を受け取るための凹部を設ける」ことは格別困難なくなし得ることである。
そして、その際に、引用発明の「コア層3」に、対して「ループアンテナ8を受け取るための凹部」を設けることを妨げる特段の事情も認められないから、引用発明に引用文献4記載の技術事項を適用して上記相違点2に係る「ヒンジ層は、前記ループアンテナを埋設するアンテナ埋設溝を備える」という構成を得ることは、当業者が容易に想到し得ることである。

5 むすび
上記1〜4より、本願発明は、特許法第29条第2項の規定に基いて特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-08-31 
結審通知日 2022-09-06 
審決日 2022-09-27 
出願番号 P2016-140248
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B42D)
P 1 8・ 55- Z (B42D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 古屋野 浩志
佐々木 創太郎
発明の名称 ヒンジ付積層体、ヒンジ付積層体配列シート、冊子  
代理人 正林 真之  
代理人 芝 哲央  
代理人 林 一好  

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