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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01D
管理番号 1391749
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-05 
確定日 2022-11-17 
事件の表示 特願2017− 39852「センサ回路、及びそれを備えるセンサ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 9月20日出願公開、特開2018−147117〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月2日の出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
令和2年12月23日付け:拒絶理由通知書
令和3年 3月 8日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月22日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年10月 5日 :原査定の謄本の送達)
令和4年 1月 5日 :審判請求書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1〜5に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本願発明1」などという。また、これらを総称して「本願発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
センサの出力電圧を増幅して基準電圧を加算した電圧を出力する増幅部と、
前記増幅部の増幅率が第1増幅率であるときの前記増幅部の第1出力電圧と前記増幅部の増幅率が第2増幅率であるときの前記増幅部の第2出力電圧との差電圧に基づく出力電圧を出力する出力部と、を備える、
センサ回路。
【請求項2】
前記基準電圧の電圧値が、電池の電圧値に応じた値である、
請求項1に記載のセンサ回路。
【請求項3】
前記第1増幅率と前記第2増幅率との一方が、前記増幅部の増幅率の最小値である、
請求項1又は2に記載のセンサ回路。
【請求項4】
前記増幅部の増幅率を設定する設定部と、
前記設定部が前記増幅部の増幅率を前記第1増幅率に設定しているときの前記増幅部の第1出力電圧、及び、前記設定部が前記増幅部の増幅率を前記第2増幅率に設定しているときの前記増幅部の第2出力電圧を記憶する記憶部と、を更に備え、
前記出力部は、前記記憶部に記憶された前記第1出力電圧及び前記第2出力電圧の差電圧に基づく出力電圧を出力する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセンサ回路。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセンサ回路と、前記増幅部に出力電圧を出力する前記センサと、を備える、
センサ装置。」


第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次のとおりである。
この出願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、請求項1〜5に係る発明により当該発明が解決しようとする課題を解決できることについて、当業者が理解できる程度に記載されておらず、請求項1〜5に係る発明の技術上の意義が不明であるから、この出願の明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1〜5に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。


第4 当審の判断
1 発明の詳細な説明に記載された事項
本願の発明の詳細な説明には、以下記載されている。なお、下線は当審合議体によるものである。

(1) 【0013】〜【0022】、【図1】
「 【0013】
センサ回路20は、増幅部30と、制御回路部40と、分圧回路50と、駆動回路60とを備えている。
【0014】
駆動回路60は、電池2から供給される電力でセンサ10を駆動する。駆動回路60は、制御回路部40から入力される制御信号に応じて、センサ10に電力を供給して、センサ10を駆動する。
【0015】
分圧回路50は、電池2から入力される電圧を所定の分圧比で分圧することによって、電池2の電圧に比例した基準電圧V2を出力する。
【0016】
増幅部30は、電流電圧変換アンプA1と、抵抗器R1〜R3と、スイッチ素子S1とを備える。電流電圧変換アンプA1の非反転入力端子には分圧回路50から基準電圧V2が入力されており、非反転入力端子の電位が基準電圧V2にバイアスされる。電流電圧変換アンプA1の反転入力端子は、抵抗器R1を介してセンサ10の出力端子に接続されている。電流電圧変換アンプA1の反転入力端子と出力端子との間には抵抗器R2が接続されている。抵抗器R2と並列に、抵抗器R3とスイッチ素子S1との直列回路が接続されている。スイッチS1は制御回路部40からの切替信号に応じてオン又はオフになる。スイッチS1がオフになると、電流電圧変換アンプA1の反転入力端子と出力端子との間には抵抗器R2のみが接続された状態になり、増幅部30の増幅率は第1増幅率G1に設定される。スイッチS1がオンになると、電流電圧変換アンプA1の反転入力端子と出力端子との間に抵抗器R2,R3の並列回路が接続された状態になり、増幅部30の増幅率が、第1増幅率G1よりも低い第2増幅率G2に設定される。
【0017】
増幅部30は、センサ10の出力電圧V1を第1増幅率G1又は第2増幅率G2で増幅した電圧に、基準電圧V2を加算した電圧を、出力電圧V3として出力する。
【0018】
ここで、第1増幅率G1は第2増幅率G2よりも高い値に設定されている。また、第2増幅率G2が増幅部30の増幅率の最小値になるように、抵抗器R1〜R3の抵抗値などが設定されている。ここにおいて、増幅部30の増幅率が第1増幅率G1であるときの増幅部30の出力電圧と、増幅部30の増幅率が第2増幅率G2であるときの増幅部30の出力電圧との差電圧を大きくするためには、第1増幅率G1と第2増幅率G2との差が大きい方が好ましい。本実施形態では第1増幅率G1が35000倍、第2増幅率G2が2700倍である。また、第2増幅率G2は、電流電圧変換アンプA1の最小の増幅率であることが好ましい。第1増幅率G1を高めに設定すると、電流電圧変換アンプA1の出力電圧が飽和する可能性があるため、第1増幅率G1の設定値には上限がある。そのため、第2増幅率G2を、電流電圧変換アンプA1の最小の増幅率とすることで、第1増幅率G1と第2増幅率G2との差をできるだけ大きくすることができる。なお、第1増幅率G1、第2増幅率G2の設定値は一例であり、回路の仕様などに応じて適宜変更が可能である。
【0019】
制御回路部40は、CPU(Central Processing Unit)と記憶部43とを有するマイクロコンピュータを備えている。CPUが記憶部43に格納されているプログラムを実行することによって、制御回路部40の機能が実現される。本実施形態では制御回路部40は出力部41と設定部42の機能を備えている。また、制御回路部40は、駆動回路60に制御信号を出力することによって、駆動回路60の動作を制御して、センサ10を駆動する機能も備えている。ここにおいて、CPUが実行するプログラムは、マイクロコンピュータの記憶部43に予め記録されているが、インターネットなどの電気通信回線を通じて、又はメモリカードなどの記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0020】
設定部42は、スイッチ素子S1をオン又はオフにすることで、増幅部30の増幅率を第1増幅率G1又は第2増幅率G2に設定する。
【0021】
記憶部43は、例えばEEPROM(electrically erasable and programmable read-only memory)、フラッシュメモリなどの電気的に書き換え可能な不揮発性メモリを備える。記憶部43はCPUが実行するプログラムなどを記憶する。また、制御回路部40は、設定部42によって増幅率が第1増幅率G1に設定されたときの増幅部30の第1出力電圧V31と、設定部42によって増幅率が第2増幅率G2に設定されたときの増幅部30の第2出力電圧V32とを、記憶部43に記憶させる。
【0022】
出力部41は、記憶部43に記憶された第1出力電圧V31と第2出力電圧V32との差電圧に基づく出力電圧V4を出力する。本実施形態の出力部41は、第1出力電圧V31と第2出力電圧V32との差電圧を出力電圧V4として出力する。」
「【図1】



(2) 【0033】〜【0038】、【図3】
「 【0033】
ここで、基準電圧V2の電圧値は電池2の電圧に比例しているので、電池2の放電に伴って電池2の電圧が低下すると、基準電圧V2も低下する。図3は、電池2の電圧が高い状態と低い状態とのそれぞれで、増幅部30から出力される第1出力電圧V31と第2出力電圧V32とを示している。なお、図3の例では、電池2の電圧が高い状態と、電池2の電圧が低い状態とで、センサ10の出力電圧V1は変化していないものとする。
【0034】
上述のように、電池2の電圧が低下すると基準電圧V2が低下する。増幅部30は、センサ10の出力電圧V1を増幅し、基準電圧V2を加算した出力電圧V3を出力するので、センサ10の出力電圧V1に変化がない場合、電池2の電圧が低い状態では、電池2の電圧が高い状態に比べて、増幅部30の出力電圧V3が低下する。
【0035】
電池2の電圧が高い状態において、制御回路部40の出力部41は、増幅部30の増幅率が第1増幅率G1のときの第1出力電圧V31と、増幅部30の増幅率が第2増幅率のときの第2出力電圧V32との差電圧を出力電圧V4Aとして出力する。ここで、第1出力電圧V31は、センサ10の出力電圧V1を第1増幅率G1で増幅した電圧に基準電圧V2を加算した電圧となり、第2出力電圧V32は、センサ10の出力電圧V1を第2増幅率G2で増幅した電圧に基準電圧V2を加算した電圧となる。したがって、第1出力電圧V31と第2出力電圧V32との差電圧である出力電圧V4Aは、センサ10の出力電圧V1に、第1増幅率G1と第2増幅率G2との差分(G1−G2)を乗算した値となり、基準電圧V2に依存しない値となる。
【0036】
また、電池2の電圧が低い状態において、制御回路部40の出力部41は、増幅部30の増幅率が第1増幅率G1のときの第1出力電圧V31と、増幅部30の増幅率が第2増幅率G2のときの第2出力電圧V32との差電圧を出力電圧V4Bとして出力する。そして、第1出力電圧V31と第2出力電圧V32との差電圧である出力電圧V4Bは、上述と同様に、センサ10の出力電圧V1に、第1増幅率G1と第2増幅率G2との差分(G1−G2)を乗算した値となり、基準電圧V2に依存しない値となる。
【0037】
そして、電池2の電圧が高い状態と低い状態とでセンサ10の出力電圧V1が同じ値であれば、電池2の電圧が高い状態での出力電圧V4Aと、電池2の電圧が低い状態での出力電圧V4Bとは同じ値となる。よって、制御回路部40の出力部41からの出力電圧V4は、電池2の電圧が変化した場合でも変化しにくくなり、検出対象ガスのガス濃度を正確に測定することができる。
【0038】
また、本実施形態のセンサ回路20は、電池2の電圧から一定の基準電圧V2を生成する定電圧回路などの電源回路を備えていないので、電源回路の消費電力を低減でき、センサ回路20及びそれを備えるセンサ装置1の消費電力を低減できる。」
「【図3】



2 発明の詳細な説明の記載についての技術常識を踏まえた解釈
(1) 第1出力電圧V31、第2出力電圧V32及びその差電圧V4
本願の図1に示されたセンサ回路20の増幅部30は、オペアンプを用いた反転増幅回路であるところ、オペアンプは反転入力端子と非反転入力端子の電位差がゼロとなるように動作する働き(いわゆる「仮想短絡」)があることは、技術常識である。
したがって、第1出力電圧V31、第2出力電圧V32及びその差電圧V4が、次の式で示されることは技術常識である。なお、請求人も、意見書において、図1のセンサ回路20の出力が次の式で示されることを前提とした主張をしている。

V31 = V2−G1・(V1−V2) ……(式1)
V32 = V2−G2・(V1−V2) ……(式2)
V4 = (G2−G1)・(V1−V2) ……(式3)


(2) 本願明細書の【0035】及び【0036】
前記(1)の点を踏まえると、本願明細書の【0035】及び【0036】に示された次のアの(ア)及び(イ)の記述は誤りであり、正しくは、それぞれ、後記イの(ア)及び(イ)である。

ア 本願明細書の【0035】及び【0036】の誤った記述
(ア) 第1出力電圧V31は、センサ10の出力電圧V1を第1増幅率G1で増幅した電圧に基準電圧V2を加算した電圧となる。
(イ) 第2出力電圧V32は、センサ10の出力電圧V1を第2増幅率G2で増幅した電圧に基準電圧V2を加算した電圧となる。

イ 技術的に正しい記述
(ア) 第1出力電圧V31は、基準電圧V2から、センサ10の出力電圧V1と基準電圧V2の差分を第1増幅率G1で増幅した電圧を減算した電圧となる。
(イ) 第2出力電圧V32は、基準電圧V2から、センサ10の出力電圧V1と基準電圧V2の差分を第2増幅率G2で増幅した電圧を減算した電圧となる。

(3) 差電圧V4は基準電圧V2に依存することについて
ア 電圧V4は基準電圧V2に依存する
前記(1)の(式3)に示すとおり、差電圧V4は基準電圧V2に依存する。

イ 明細書の【0037】の記載について
本願の明細書の【0037】には、次の記載があり、本願の明細書においては、「電池2の電圧が高い状態と低い状態とでセンサ10の出力電圧V1が同じ値であること」、すなわち、「差電圧V4は基準電圧V2に依存しない」としている。
「【0037】
そして、電池2の電圧が高い状態と低い状態とでセンサ10の出力電圧V1が同じ値であれば、電池2の電圧が高い状態での出力電圧V4Aと、電池2の電圧が低い状態での出力電圧V4Bとは同じ値となる。よって、制御回路部40の出力部41からの出力電圧V4は、電池2の電圧が変化した場合でも変化しにくくなり、検出対象ガスのガス濃度を正確に測定することができる。」

ウ 差電圧V4が基準電圧V2に依存する点を請求人も認めていること
次の(ア)の審判請求書における明細書の【0037】の記述についての請求人の説明、及び、(イ)の審査段階で提出された意見書における請求人の説明を踏まえると、請求人も差電圧V4が基準電圧V2に依存することを認めている。
(ア) 明細書の【0037】の記述についての審判請求書における説明
「センサ10の出力電圧V1は、検知対象のガス濃度、及び電池2の出力電圧等によって変動し得るところ、電池2の電圧が高い状態と低い状態とで、センサ10の出力電流I2が変化することによって出力電圧V1が変化していると、出力電圧V4も変化することになるため、説明の便宜上、センサ10の出力電圧V1のうちセンサ10の出力電流I1に起因した電圧成分が同じである場合について説明したものである。すなわち、発明の詳細な説明の段落[0037]における「電池2の電圧が高い状態と低い状態とでセンサ10の出力電圧V1が同じ値であれば、電池2の電圧が高い状態での出力電圧V4Aと、電池2の電圧が低い状態での出力電圧V4Bとは同じ値となる」との記載は、センサ10の出力電流I1に起因した電圧成分が同じであることを意図したものである。」

(イ) 審査段階で提出された意見書における請求人の説明
請求人は、審査段階で提出された意見書において、次の説明をしている。
「本願は、電池駆動のセンサ回路において、電池部の出力電圧を安定化するための電源回路部を不要にすることで、消費電力を低減したセンサ回路を提供することを目的とした発明であります。本願のようなセンサ回路が電池によって駆動される場合、電池の消耗による電池電圧の低下によって、センサ10の出力電圧V1及び基準電圧V2がそれぞれ低下する可能性があります。
本願のセンサ回路は、上記の差電圧V4を出力しており、センサ10の出力電圧V1から基準電圧V2を減算することで、出力電圧V1から電池の電圧変動に伴って変化する電圧成分を低減し、センサ回路の出力電圧を、センサ10の検出対象に応じて変化する電圧成分が主体の電圧とすることができます。したがって、本願のセンサ回路では、電池の出力電圧を安定化して、センサ10及び基準電圧V2を生成する回路に供給する電源回路部を不要にでき、電源回路部を無くすことで消費電力を低減したセンサ回路を提供するという本願発明の課題を解決しています。」

エ 本願明細書の【0037】の誤った記述と正しい理解
前記(2)及び前記ア〜ウの点を踏まえると、本願明細書の【0037】に示された次の(ア)の記述は誤りであり、正しくは、後記(イ)である。

(ア) 明細書段落【0037】の誤った記述
第1出力電圧V31と第2出力電圧V32との差電圧である出力電圧V4は、センサ10の出力電圧V1に、第1増幅率G1と第2増幅率G2との差分(G1−G2)を乗算した値となり、基準電圧V2に依存しない値となる。

(イ) 技術的に正しい記述
第1出力電圧V31と第2出力電圧V32との差電圧である出力電圧V4は、センサ10の出力電圧V1と基準電圧V2の差分に、第2増幅率G2と第1増幅率G1との差分(G2−G1)を乗算した値となり、基準電圧V2に依存する値となる。

(4) 請求人の主張する本願発明の技術上の意義について
ア 本願明細書の【0037】でうたう技術上の意義は意味がないこと
前記(1)から(3)において検討したとおり、本願明細書の【0037】における「電池2の電圧が高い状態と低い状態とでセンサ10の出力電圧V1が同じ値であ[る]」という事項を前提とする議論は、意味がないものである。したがって、かかる事項を前提とする、同段落に記載された「制御回路部40の出力部41からの出力電圧V4は、電池2の電圧が変化した場合でも変化しにくくなり、検出対象ガスのガス濃度を正確に測定することができる。」との記述は意味がないものである。

イ 審判請求書における主張
これまで検討したとおり、技術常識を参酌して、本願明細書の記載を検討すると、本願発明の技術上の意義は不明であるところ、請求人は、審判請求書において、本願発明の技術上の意義について次の主張をしている。
<請求人の主張>
本願発明は、電池2の電圧で駆動されるセンサ回路において、基準電圧V2等を生成するための定電圧を出力する電源回路部を設けることなく、電池2の電圧変動による影響を低減して、センサ10の出力電圧をより正確に検知することを目的としている。
したがって、本願発明のセンサ回路の出力電圧V4は、センサ10の出力(出力電圧V1に相当)から、電池2の電圧変動による影響(基準電圧V2の電圧変動による影響に相当)を低減したものとするのが好ましい。本願発明のセンサ回路では、(式3)のように出力電圧V4を、出力電圧V1と基準電圧V2との差分(V1−V2)に(G2−G1)をかけた値として求めているので、センサ10の出力電圧V1から基準電圧V2を減算することで、電池2の電圧変動の影響を低減した値として求めることができる。これにより、本願発明のセンサ回路では、常に、電池2の電圧変動による影響を低減した出力電圧V4を求めることができるのである(段落[0037]、[0053]、[0055])。
本願発明のセンサ回路では、電池電圧の影響を低減した出力電圧V4を得ているので、電池の出力電圧を安定化して、センサ10及び基準電圧V2を生成する回路に供給する電源回路部を不要にでき、電源回路部を無くすことで消費電力を低減したセンサ回路を提供するという本願発明の課題を解決している。
このように、当業者であれば、本願発明の課題とその解決手段との関係を理解することは容易であり、本願の発明の詳細な説明は、請求項1〜5に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されていると思料する。すなわち、本願の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていると思料する。

ウ 技術上の意義に関する論点
前記イの請求人の主張も考慮し、次の3において、(式3)のように出力電圧V4を、出力電圧V1と基準電圧V2との差分(V1−V2)に(G2−G1)をかけた値として求めることで、電池2の電圧変動の影響を低減したものとすることができるのか否かについて検討する。

3 本願発明の効果についての検討
(1) 本願発明と請求人が主張する従来例における相対誤差の検討
ア 以下、本願発明が請求人の主張する従来例に比較して、基準電圧V2の変動に伴って変化する出力電圧の変動量の低減効果があるのかについて検討する。

イ 前記2(1)において示したとおり、従来例の増幅部30の出力電圧V31及び本願発明の増幅部30の出力電圧V4は、それぞれ前記(式1)及び(式3)で表される。
V31 = V2−G1・(V1−V2) ……(式1)(再掲)
V4 = (G2−G1)・(V1−V2) ……(式3)(再掲)

ウ 前記2(3)で説明したとおり、電池の消耗による電池電圧の低下によって、センサ10の出力電圧V1及び基準電圧V2がそれぞれ低下する。センサ10の出力は、基準電圧だけでなく、ガス濃度にも依存するものであるが、ガス濃度をある値のものとして検討すると、センサ10の出力電圧V1は基準電圧V2のみに依存するものとなる。通常のものにおいては、V2はV1に対して線形であるから、このようなV1のV2依存性を表すために、ここでパラメータkを導入すると、V1はkとV2を用いて、次の(式4)で表すことができる。
V1 = k・V2 ……(式4)
(ここで、kは定数である。)

エ 上記(式4)を、(式1)及び(式3)に代入すると、次の式が導かれる。
V31 = V2・(1−(k−1)・G1) ……(式5)
V4 = V2・(k−1)・(G2−G1) ……(式6)

オ 次に基準電圧V2が、V2+ΔV2に変動した場合について検討する。
基準電圧V2の変動ΔV2によるV31及びV4の変動分をそれぞれ、ΔV31及びΔV4とする。ΔV31及びΔV4は、前記(式5)及び(式6)のそれぞれにおいて、変動後の出力電圧(V2をV2+ΔV2とした時の値)から、変動前の出力電圧(V2をV2とした時の値)を減算したものとなり、次の(式7)及び(式8)のとおりとなる。
ΔV31 = ΔV2・(1−(k−1)・G1) ……(式7)
ΔV4 = ΔV2・(k−1)・(G2−G1) ……(式8)

カ ここで、相対誤差ΔV31/V31及びΔV4/V4を求めると、次の(式9)及び(式10)のとおりとなる。
ΔV31/V31 = ΔV2/V2 ……(式9)
ΔV4 /V4 = ΔV2/V2 ……(式10)

キ 上記カに示したとおり、本願発明と従来例において、基準電圧V2の変動量ΔV2が出力電圧に与える変動の度合いである相対誤差は同じであるから、基準電圧V2の変動に伴って変化する出力電圧の変動分について、本願発明が従来例と比べて低減されているという効果は認められない。

ク したがって、請求人の主張を考慮してもなお、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、当業者は、本願発明の技術上の意義を理解することはできない。

(2) 小括
前記(1)で検討したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、請求項1〜5に係る発明について、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。


第5 むすび
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、請求項1〜5に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
したがって、本願は、請求項1〜5に係る発明について、発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。




 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-09-15 
結審通知日 2022-09-20 
審決日 2022-10-03 
出願番号 P2017-039852
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G01D)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 濱本 禎広
佐藤 久則
発明の名称 センサ回路、及びそれを備えるセンサ装置  
代理人 特許業務法人北斗特許事務所  

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