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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1391792
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-25 
確定日 2022-11-10 
事件の表示 特願2019−126403「光電変換装置、および、それを含む機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 9月10日出願公開、特開2020−145397〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和1年7月5日(優先権主張 平成30年10月17日、平成31年2月15日、平成31年2月28日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和 3年 2月25日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 5月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年10月21日付け:拒絶査定(原査定)
令和 4年 1月25日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 令和4年1月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年1月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、補正後の請求項1の記載は、次のとおりである。(下線部は、補正箇所である。)

「【請求項1】
受光画素領域および遮光画素領域を有する光電変換装置であって、
前記受光画素領域に複数の第1光電変換部が配置され、前記遮光画素領域に複数の第2光電変換部が配置された半導体層と、
前記半導体層の上に配置され、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定する遮光壁と、
前記半導体層の上に配置された遮光膜と、を備え、
前記遮光膜は、前記複数の第2光電変換部を覆うように前記半導体層の主面に沿って延在する第1部分を含み、前記第1部分は、前記半導体層の側の下面および前記下面とは反対側の上面を有し、
前記遮光壁は、前記半導体層からの距離が前記上面と前記主面との距離よりも大きい第2部分を有し、
前記遮光膜は、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定し、前記第2部分と前記半導体層との間に位置する第3部分を有し、
前記主面に垂直な方向における前記第1部分の厚さが、前記主面に平行な方向における前記第2部分の厚さより大きく、
前記主面に垂直な方向における前記第3部分の厚さが、前記主面に平行な方向における前記第2部分の厚さより大きく、
前記遮光膜を構成する材料の光吸収係数が前記遮光壁を構成する材料の光吸収係数より大きい、
ことを特徴とする光電変換装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年5月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
受光画素領域および遮光画素領域を有する光電変換装置であって、
前記受光画素領域に複数の第1光電変換部が配置され、前記遮光画素領域に複数の第2光電変換部が配置された半導体層と、
前記半導体層の上に配置され、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定する遮光壁と、
前記半導体層の上に配置された遮光膜と、を備え、
前記遮光膜は、前記複数の第2光電変換部を覆うように前記半導体層の主面に沿って延在する第1部分を含み、前記第1部分は、前記半導体層の側の下面および前記下面とは反対側の上面を有し、
前記遮光壁は、前記半導体層からの距離が前記上面と前記主面との距離よりも大きい第2部分を有し、
前記遮光膜は、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定し、前記第2部分と前記半導体層との間に位置する第3部分を有し、
前記主面に垂直な方向における前記第1部分の厚さが、前記主面に平行な方向における前記第2部分の厚さより大きく、
前記主面に垂直な方向における前記第3部分の厚さが、前記主面に平行な方向における前記第2部分の厚さより大きい、
ことを特徴とする光電変換装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「遮光膜」及び「遮光壁」それぞれを構成する材料の光吸収係数の大小関係について、上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2016/114154号(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審において付した。)

「技術分野
[0001] 本開示は、固体撮像素子およびその製造方法、並びに電子機器に関し、特に、斜め光特性と感度向上の両立を図ることができるようにする固体撮像素子およびその製造方法、並びに電子機器に関する。」

「[0027] <2.画素の第1の実施の形態>
<画素の断面構成図>
図2は、第1の実施の形態に係る画素2の断面構成図である。
[0028] 固体撮像素子1は、半導体基板12の、例えば、p型(第1導電型)の半導体領域41に、n型(第2導電型)の半導体領域42を画素2ごとに形成することにより、フォトダイオードPDが、画素単位に形成されている。半導体基板12の表裏両面に臨むp型の半導体領域41は、暗電流抑制のための正孔電荷蓄積領域を兼ねている。
[0029] 半導体基板12の表面側(図中下側)には、フォトダイオードPDに蓄積された電荷の読み出し等を行う複数の画素トランジスタTrと、複数の配線層43と層間絶縁膜44とからなる多層配線層45が形成されている。
[0030] 半導体基板12の多層配線層45側には光が入射されないので、配線層43のレイアウトは制約されず、自由に設定することができる。
[0031] 半導体基板12の裏面側(図中上側)の界面には、絶縁層46が形成される。図2の例では、絶縁層46は、屈折率の異なる複数層、例えば、ハフニウム酸化(HfO2)膜48とシリコン酸化膜47の2層の膜で構成されており、絶縁層46は、光学的には反射防止膜として機能する。
[0032] 絶縁層46の上面には、平坦化膜49が形成されており、その平坦化膜49上の画素境界部分に、画素間遮光膜50が形成されている。画素間遮光膜50は、光を遮光する材料であればよく、遮光性が強く、かつ微細加工、例えばエッチングで精度よく加工できる材料として、金属、例えばアルミニウム(Al)、タングステン(W)、または銅(Cu)の膜で形成することが好ましい。
[0033] 画素間遮光膜50は、図3に示されるように、画素有効領域の外側のOPB(Optical Black)形成膜51及び位相差画素2P(図11)の瞳分割遮光膜52と同一層で、同時に形成することができる。画素間遮光膜50は、画素間において混色や想定していない角度で入射するフレア成分の光を抑制する。OPB形成膜51は、画素有効領域外を覆うことで暗時出力の基準となる黒レベルを検出するOPBクランプ領域を形成する。瞳分割遮光膜52は、位相差画素2Pにおいて異なる射出瞳からの光を分離する。
[0034] 位相差画素2Pは、瞳分割遮光膜52により、例えば、図3に示されるようにフォトダイオードPDの受光面の左側半分が開口されたタイプAと、右側半分が開口されたタイプBの2種類があり、これら2種類が対となって画素アレイ部3の所定の位置に配置されている。タイプAからの画素信号とタイプBの画素信号とでは、開口部の形成位置の違いにより、像のずれが発生する。この像のずれから、位相ずれ量を算出してデフォーカス量を算出し、撮影レンズを調整(移動)することで、オートフォーカスを達成することができる。
[0035] なお勿論、画素間遮光膜50、OPB形成膜51、及び瞳分割遮光膜52は、同時に形成される必要はなく、別個に形成されるようにしてもよい。また、例えば混色やフレアの抑制より、感度の向上を優先して図る場合には、画素間遮光膜50の格子状の幅を小さくするようにしてもよい。
[0036] 図2の説明に戻り、画素間遮光膜50と絶縁層46の上には、遮光壁61と平坦化膜62の層が、複数段、形成されている。具体的には、画素間遮光膜50上の一部分に、第1の遮光壁61Aが形成されるとともに、その第1の遮光壁61Aどうしの間に第1の平坦化膜62Aが形成されている。そしてさらに、第1の遮光壁61Aと第1の平坦化膜62Aの上に、第2の遮光壁61Bと第2の平坦化膜62Bが形成されている。
・・・
[0038] 第1の遮光壁61Aと第2の遮光壁61Bは、平面方向については、図3に示した画素間遮光膜50のように、画素境界部分に格子状に形成されている。」

「[0059] <3.第1の実施の形態に係る画素の製造方法>
次に、図4乃至図6を参照して、上述した第1の実施の形態に係る画素2の製造方法について説明する。
[0060] まず、図4のAに示されるように、半導体基板12の、p型の半導体領域41にn型の半導体領域42を画素2ごとに形成することにより、フォトダイオードPDが、画素単位に形成される。半導体基板12の表面側(図中下側)に、フォトダイオードPDに蓄積された電荷の読み出し等を行う複数の画素トランジスタTrと、複数の配線層43と層間絶縁膜44とからなる多層配線層45が形成される。さらに、半導体基板12の裏面側(図中上側)に、絶縁層46及び平坦化膜49が形成される。この工程までは、一般的な裏面照射型の固体撮像素子を形成する場合と同様の方法で作成することができる。
[0061] 次に、図4のBに示されるように、平坦化膜49上の画素境界部分に、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、または銅(Cu)などの金属材料により、画素間遮光膜50が形成される。
[0062] 次に、平坦化膜62Aとなる無機材料、例えばSiO2を成膜後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などで平坦化することで、画素間遮光膜50の上面に平坦化層を形成し、その後、画素間遮光膜50上の所定部分をエッチング加工することにより、図4のCに示されるように、平坦化膜62Aに対して第1の遮光壁61Aを形成する部分が開口された開口部101が形成される。
[0063] そして、開口部101にタングステンや銅などの金属材料を埋め込んだ後、表面全体をCMP(Chemical Mechanical Polishing)することにより、図4のDに示されるように、第1の遮光壁61Aが形成される。
[0064] なお、開口部101に金属材料を埋め込む際には、密着層として、例えばTiNが内周面に形成されるが、この密着層により、反射低減による不要光低減効果が期待できる。
[0065] また、第1の遮光壁61Aの金属材料としてアルミニウムを用いる場合には、最初に第1の遮光壁61Aを形成してから、平坦化膜62Aを形成することができる。具体的には、まず初めに、所望の高さまで第1の遮光壁61Aとなるアルミニウムを全面に成膜し、リソグラフィでパターニングを行うことにより第1の遮光壁61Aが形成される。その後、平坦化膜62Aとなる無機材料、例えばSiO2を、形成した第1の遮光壁61Aの間に埋め込んで、表面全体をCMPで平坦化することにより、図4のDの状態となる。」

「[0127] <10.OPB領域の遮光構造>
次に、画素有効領域外のOPB領域の遮光構造について説明する。
[0128] 図15は、画素有効領域外のOPB領域の遮光構造の第1の構成例を説明する図である。
[0129] 画素有効領域では、上述したように、第1の遮光壁61Aと第2の遮光壁61Bの2段の遮光壁61が形成され、画素アレイ部3の中央部(画角中央)から周辺部(画角端)へ行くほど、瞳補正量が大きくなるように形成されていた。
[0130] これに対して、画素有効領域外のOPB領域では、図15に示されるように、図3に示したOPB形成膜51のみが形成された遮光構造とすることができる。なお、図15の例では、OPB領域には、Gのカラーフィルタ71が形成されているが、OPB領域は受光しない領域であるので、カラーフィルタ71の有無や色は限定されない。
[0131] 図16は、画素有効領域外のOPB領域の遮光構造の第2の構成例を説明する図である。
[0132] 画素有効領域外のOPB領域では、図15に示したOPB形成膜51のみの遮光構造の他、例えば、図16に示されるように、OPB形成膜51の上に、画素有効領域と同様の、第1の遮光壁61Aと第2の遮光壁61Bの2段の遮光壁61が形成された遮光構造とすることができる。これにより、図15に示したOPB形成膜51のみが形成された場合と比較して、遮光性を向上させることができる。」

図2、15は、以下のとおりのものである。




(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。

a 引用文献1に記載された技術は、固体撮像素子に関するものである([0001])。
b 固体撮像素子1は、画素有効領域及びOPB領域を有すること([0127]〜[0130]、図15)。
c 画素間遮光膜50は、画素有効領域の外側のOPB(Optical Black)形成膜51と同一層で、アルミニウム(Al)の膜で同時に形成され、OPB形成膜51は、OPBクランプ領域を形成すること([0032]、[0033]、[0061])。
d 第1の遮光壁61Aは、タングステンにより形成されること([0036]、[0062]、[0063])。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「画素有効領域及びOPB領域を有する固体撮像素子1であって、
固体撮像素子1は、半導体基板12に、フォトダイオードPDが、画素単位に形成されており、
半導体基板12の裏面側の界面には、絶縁層46が形成され、
絶縁層46の上面には、平坦化膜49が形成されており、その平坦化膜49上の画素境界部分に、画素間遮光膜50が形成されており、
画素間遮光膜50は、画素有効領域の外側のOPB(Optical Black)形成膜51と同一層で、アルミニウム(Al)の膜で同時に形成され、OPB形成膜51は、OPBクランプ領域を形成し、
画素間遮光膜50上の一部分に、第1の遮光壁61Aが形成されるとともに、その第1の遮光壁61Aどうしの間に第1の平坦化膜62Aが形成されており、
第1の遮光壁61Aは、平面方向については、画素間遮光膜50のように、画素境界部分に格子状に形成されており、
第1の遮光壁61Aは、タングステンにより形成され、
画素有効領域外のOPB領域では、OPB形成膜51のみが形成された遮光構造である、
固体撮像素子1。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「画素有効領域」、「OPB領域」、「固体撮像素子1」、「画素有効領域」の「フォトダイオードPD」、「OPB領域」の「フォトダイオードPD」、「半導体基板12」、「半導体基板12の裏面側」、「第1の遮光壁61A」は、それぞれ本件補正発明の「受光画素領域」、「遮光画素領域」、「光電変換装置」、「第1光電変換部」、「第2光電変換部」、「半導体層」、「半導体層の上」、「遮光壁」に相当する。

(イ)本件補正発明における、「前記半導体層の上に配置され、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定する遮光壁」と、引用発明における、「画素間遮光膜50上の一部分に、第1の遮光壁61Aが形成されるとともに、その第1の遮光壁61Aどうしの間に第1の平坦化膜62Aが形成されており、第1の遮光壁61Aは、平面方向については、画素間遮光膜50のように、画素境界部分に格子状に形成されており」とを対比する。

引用発明において、「半導体基板12の裏面側の界面には、絶縁層46が形成され、絶縁層46の上面には、平坦化膜49が形成されており、その平坦化膜49上の画素境界部分に、画素間遮光膜50が形成されて」いるから、「画素間遮光膜50」は、「半導体基板12の裏面側」に形成されたものであるといえる。
また、引用発明において、「固体撮像素子1は、半導体基板12に、フォトダイオードPDが、画素単位に形成されており」、「第1の遮光壁61A」は、「画素間遮光膜50上の一部分」に「形成され」、「画素境界部分に格子状に形成されて」いるから、「第1の遮光壁61A」は、「画素有効領域」の複数の「フォトダイオードPD」にそれぞれ対応する複数の開口を規定するものであるといえる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記半導体層の上に配置され、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定する遮光壁」を備える点で一致する。

(ウ)引用発明の「画素間遮光膜50」は、上記(イ)のとおり、「半導体基板12の裏面側」に形成されたものであるといえるから、本件補正発明における「前記半導体層の上に配置された遮光膜」に相当する。
また、引用発明において、「画素間遮光膜50は、画素有効領域の外側のOPB(Optical Black)形成膜51と同一層で、アルミニウム(Al)の膜で同時に形成され、OPB形成膜51は、OPBクランプ領域を形成」するから、「OPB(Optical Black)形成膜51」は、「OPB領域」の複数の「フォトダイオードPD」を覆うように半導体基板12の主面に沿って延在し、半導体基板12の側の下面および前記下面とは反対側の上面(半導体基板12とは反対側の面)を有するものであるといえる。
そうすると、引用発明において、「画素間遮光膜50」と「OPB(Optical Black)形成膜51」とを併せたものは、本件補正発明の「遮光膜」に相当し、「OPB(Optical Black)形成膜51」は、本件補正発明の「第1部分」に対応するといえる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記遮光膜は、前記複数の第2光電変換部を覆うように前記半導体層の主面に沿って延在する第1部分を含み、前記第1部分は、前記半導体層の側の下面および前記下面とは反対側の上面を有」する点で一致する。

(エ)引用発明において、「画素間遮光膜50上の一部分に、第1の遮光壁61Aが形成され」るから、「第1の遮光壁61A」は、半導体基板12からの距離が、画素間遮光膜50の半導体基板12とは反対側の面と半導体基板12の主面との距離よりも大きい部分を有するといえる。
そうすると、引用発明における当該部分は、本件補正発明の「第2部分」に対応するといえる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記遮光壁は、前記半導体層からの距離が前記上面と前記主面との距離よりも大きい第2部分を有」する点で一致する。

(オ)引用発明において、「半導体基板12の裏面側の界面には、絶縁層46が形成され、絶縁層46の上面には、平坦化膜49が形成されており、その平坦化膜49上の画素境界部分に、画素間遮光膜50が形成されて」いるから、「画素間遮光膜50」は、「画素有効領域」の複数の「フォトダイオードPD」にそれぞれ対応する複数の開口を規定し、第1の遮光壁61Aの上記第2部分と半導体基板12との間に位置する部分を有するといえる。
そうすると、引用発明における当該部分は、本件補正発明の「第3部分」に対応するといえる。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「前記遮光膜は、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定し、前記第2部分と前記半導体層との間に位置する第3部分を有」する点で一致する。

(カ)固体撮像素子で使用される波長帯において、アルミニウムの光吸収係数はタングステンの光吸収係数よりも大きいことは、例示するまでもなく当業者には周知の事項であるから、引用発明において、画素間遮光膜50を構成するアルミニウム(Al)の光吸収係数は、第1の遮光壁61Aを構成するタングステンの光吸収係数より大きいものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「前記遮光膜を構成する材料の光吸収係数が前記遮光壁を構成する材料の光吸収係数より大きい」点で一致する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「受光画素領域および遮光画素領域を有する光電変換装置であって、
前記受光画素領域に複数の第1光電変換部が配置され、前記遮光画素領域に複数の第2光電変換部が配置された半導体層と、
前記半導体層の上に配置され、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定する遮光壁と、
前記半導体層の上に配置された遮光膜と、を備え、
前記遮光膜は、前記複数の第2光電変換部を覆うように前記半導体層の主面に沿って延在する第1部分を含み、前記第1部分は、前記半導体層の側の下面および前記下面とは反対側の上面を有し、
前記遮光壁は、前記半導体層からの距離が前記上面と前記主面との距離よりも大きい第2部分を有し、
前記遮光膜は、前記複数の第1光電変換部にそれぞれ対応する複数の開口を規定し、前記第2部分と前記半導体層との間に位置する第3部分を有し、
前記遮光膜を構成する材料の光吸収係数が前記遮光壁を構成する材料の光吸収係数より大きい、
光電変換装置。」

<相違点>
<相違点1>
本件補正発明は、「前記主面に垂直な方向における前記第1部分の厚さが、前記主面に平行な方向における前記第2部分の厚さより大きく、前記主面に垂直な方向における前記第3部分の厚さが、前記主面に平行な方向における前記第2部分の厚さより大き」いのに対し、引用発明は、OPB(Optical Black)形成膜51の厚さと第1の遮光壁61Aの厚さの大小関係、及び、画素間遮光膜50の厚さと第1の遮光壁61Aの厚さの大小関係について特定されていない点。

(4)判断
以下、上記相違点1について検討する。

引用発明において、画素有効領域における遮光膜(画素間遮光膜50)は、OPB領域における遮光膜(OPB形成膜51)と同一層で同時に形成される、すなわち、同一の工程で形成されるものである一方、遮光膜と遮光壁は異なる工程で形成されるものであるから、遮光膜と遮光壁の膜厚(遮光膜については第1部分及び第3部分の厚さ、遮光壁については第2部分の厚さ)については、これらを同じにする理由はなく、それぞれ独自に設定し得るものである。

その際、遮光膜については、特にOPB領域に光が透過することを確実に防止するためにある程度の膜厚が必要であるのに対して、遮光壁を必要以上に厚く形成すると、特に画素有効領域において、フォトダイオードに到達する光量が減少して、感度が低下する等の不都合が生じることは、当業者に明らかであるから、引用発明において、第1部分の厚さを第2部分の厚さより大きくすることは当業者が容易に想起し得たものであり、その場合、第3部分の厚さについても、必然的に第2部分の厚さより大きくなるものである。

したがって、引用発明において、相違点1に係る本件補正発明の構成を採用することは、当業者であれば、容易になし得たことと認められる。

イ そして、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年1月25日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年5月6日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜30に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1〜3、5〜9、14、15、17〜23、30に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜4に記載された周知技術に基づいて、請求項10、11に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜5に記載された周知技術に基づいて、請求項12、13に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜6に記載された周知技術に基づいて、請求項16に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜7に記載された周知技術に基づいて、請求項24〜28に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜6、8に記載された周知技術に基づいて、請求項29に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜6、8、9に記載された周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

1.国際公開第2016/114154号
2.特開2009−272747号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2009−283482号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2005−294647号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2007−013061号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2012−084693号公報(周知技術を示す文献)
7.特開2014−036037号公報(周知技術を示す文献)
8.特開2016−219551号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2012−191005号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「遮光膜」及び「遮光壁」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-09-12 
結審通知日 2022-09-16 
審決日 2022-09-28 
出願番号 P2019-126403
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀧内 健夫
特許庁審判官 松永 稔
恩田 春香
発明の名称 光電変換装置、および、それを含む機器  
代理人 特許業務法人大塚国際特許事務所  

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