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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G16H
管理番号 1391892
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-04-04 
確定日 2022-12-13 
事件の表示 特願2021− 86343「看護情報処理システム」拒絶査定不服審判事件〔請求項の数(15)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、令和3年5月21日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年10月 8日付け:拒絶理由通知書
令和3年12月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年12月20日付け:拒絶査定
令和4年 4月 4日 :審判請求書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和3年12月20日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1〜15に係る発明は、以下の引用文献1〜6に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2018−194904号公報
引用文献2:特表2020−529057号公報
引用文献3:特開2013−238970号公報
引用文献4:国際公開第2020/085103号(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2020−204911号公報
引用文献6:特開2005−063218号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
本願の請求項1〜15に係る発明(以下、それぞれを「本願発明1」〜「本願発明15」という。)は、令和3年12月6日に提出された手続補正書により補正された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
被看護者を識別する被看護者識別情報を取得する被看護者識別情報取得部と、
取得した被看護者識別情報を保持する被看護者識別情報保持部と、
被看護者に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての被看護者識別情報と関連付けて取得する看護情報取得部と、
取得した看護情報を保持する看護情報保持部と、
保持されている前記看護情報を学習用データとして、被看護者の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成部と、
取得した看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、入力した看護情報に係る被看護者の今後の状態を推定する推定部と、
を有し、
前記看護情報にはADL情報が含まれ、前記テキストデータにはADLについての備考が含まれ、
前記推定部が推定する被看護者の今後の状態は、暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ、及び、入院である
看護情報処理システム。
【請求項2】
前記推定部が推定した結果である推定結果を出力する出力部をさらに有する請求項1に記載の看護情報処理システム。
【請求項3】
前記出力部は、前記推定結果を推定結果に係る被看護者の家族に対して出力する請求項2に記載の看護情報処理システム。
【請求項4】
前記出力部は、推定した被看護者の状態と、推定した今後の時である推定時とを関連付けて出力する請求項1から請求項3のいずれか一に記載の看護情報処理システム。
【請求項5】
看護を行う看護者を識別する看護者識別情報を取得する看護者識別情報取得部と、
取得した看護者識別情報を保持する看護者識別情報保持部と、をさらに有し、
前記看護情報取得部は、看護情報をその看護についての看護者識別情報と関連付けて取得する請求項1から請求項4のいずれか一に記載の看護情報処理システム。
【請求項6】
医療機関(医師も含む)を識別する医療機関識別情報を取得する医療機関識別情報取得部と、
取得した医療機関識別情報を保持する医療機関識別情報保持部と、をさらに有し、
前記看護情報取得部は、看護情報をその看護に係る医療機関の医療機関識別情報と関連付けて取得する請求項1から請求項5のいずれか一に記載の看護情報処理システム。
【請求項7】
前記出力部は、推定結果を前記医療機関に出力する請求項6に記載の看護情報処理システム。
【請求項8】
行政機関又は福祉サービス事業者(以下、行政機関等という)を識別する行政機関等識別情報を取得する行政機関等識別情報取得部と、
取得した行政機関等識別情報を保持する行政機関等識別情報保持部と、をさらに有し、
前記看護情報取得部は、看護情報をその看護に係る行政機関等の行政機関等識別情報と関連付けて取得する請求項1から請求項7のいずれか一に記載の看護情報処理システム。
【請求項9】
前記出力部は、推定結果を前記行政機関等に出力する請求項8に記載の看護情報処理システム。
【請求項10】
前記推定時における推定結果における被看護者の状態と実際の被看護者の状態との差分を取得する差分取得部をさらに有する請求項4から請求項9のいずれか一に記載の看護情報処理システム。
【請求項11】
従業員又は生徒である従業員等を識別する従業員等識別情報を取得する従業員等識別情報取得部と、
取得した従業員等識別情報を保持する従業員等識別情報保持部と、
従業員等に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての従業員等識別情報と関連付けて取得する看護情報取得部と、
取得した看護情報を保持する看護情報保持部と、
保持されている前記看護情報を学習用データとして、従業員等の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成部と、
取得した看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、入力した看護情報に係る従業員等の今後の状態を推定する推定部と、を有し、
前記看護情報には、ストレスチェックの質問事項に対する回答が含まれ、
前記推定部が推定する前記従業員等の今後の状態は、暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ、及び、入院である
看護情報処理システム。
【請求項12】
前記看護情報には、ADL情報が含まれ、前記テキストデータにはADLについての備考が含まれる
請求項11に記載の看護情報処理システム。
【請求項13】
前記推定部が推定した結果である推定結果を、前記従業員を雇用する雇用主又は前記生徒が就学する学校に対して出力する雇用主等出力部をさらに有する請求項11又は請求項12に記載の看護情報処理システム。
【請求項14】
被看護者を識別する被看護者識別情報を取得する被看護者識別情報取得ステップと、
取得した被看護者識別情報を保持する被看護者識別情報保持ステップと、
被看護者に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての被看護者識別情報と関連付けて取得する看護情報取得ステップと、
取得した看護情報を保持する看護情報保持ステップと、
保持されている前記看護情報を学習用データとして、被看護者の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成ステップと、
取得した看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、入力した看護情報に係る被看護者の今後の状態を推定する推定ステップと、
を有し、
前記看護情報には少なくともADL情報が含まれ、前記テキストデータには少なくともADLについての備考が含まれ、
前記推定ステップが推定する被看護者の今後の状態は、暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ、及び、入院である、
看護情報処理システムの動作方法。
【請求項15】
被看護者を識別する被看護者識別情報を取得する被看護者識別情報取得ステップと、
取得した被看護者識別情報を保持する被看護者識別情報保持ステップと、
被看護者に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての被看護者識別情報と関連付けて取得する看護情報取得ステップと、
取得した看護情報を保持する看護情報保持ステップと、
保持されている前記看護情報を学習用データとして、被看護者の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成ステップと、
取得した看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、入力した看護情報に係る被看護者の今後の状態を推定する推定ステップと、
を有し、
前記看護情報には少なくともADL情報が含まれ、前記テキストデータには少なくともADLについての備考が含まれ、
前記推定ステップが推定する被看護者の今後の状態は、暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ、及び、入院である、
電子計算機に実行させるための看護情報処理システムの動作プログラム。」

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1、引用発明1
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、以下のとおりの記載がある。下線は、当審が付した。

【0012】
実施形態に係る予測システム10は、対象者の将来の状態を予測するコンピュータシステムである。例えば、予測システム10は、対象者がいつどのような医療処置を受けるかを予測したり、対象者の身体の状態が将来どのようになるかを予測したりする。「医療処置」とは医療機関が患者に対して行う処置であって、例えば診察、治療、薬の処方の少なくとも一つを含む。より具体的には、医療処置は医療に関する資格を有する者(例えば、医者、看護師、薬剤師など)により施される。人(患者)が医療処置を受けることを「受診」という。「対象者」とは、予測処理の対象となる人(患者)である。

【0017】
図2に示すように、本実施形態ではデータベース群20はレセプトデータベース21、健診データベース22、およびアンケートデータベース23を含む。レセプトデータベース21、健診データベース22、およびアンケートデータベース23が設けられる位置は限定されない。例えば、これらのデータベースの少なくとも一部が予測システム10とは異なるコンピュータシステムにより管理されてもよいし、予測システム10の一部であってもよい。また、各データベースの管理主体も限定されない。例えば、予測システム10の運営者が他の機関からデータを提供されて、これらのデータの集合をデータベース群20として管理してもよい。
【0018】
レセプトデータベース21は、人が過去に受けた医療処置を示すレセプトデータを記憶するデータベースである。例えば、レセプトデータは医療機関で生成されてレセプトデータベース21に蓄積される。レセプトデータベース21は各医療機関のレセプトデータベースの集合であってもよいし、各医療機関のレセプトデータが集約された一つのデータベースであってもよい。
【0019】
レセプトデータの各レコードは対象者ID、対象者の属性、医療機関ID、受診日、および医療処置の詳細を含む。対象者IDは医療処置を受けた人を一意に特定する識別子である。対象者の属性は、対象者の性質または特徴を示すデータであり、例えば性別および年齢である。医療機関IDは医療処置を施した医療機関を一意に特定する識別子である。受診日は医療処置が実施された日にちである。医療処置の詳細は1以上の診察項目、1以上の治療項目、および1以上の処方薬を示すデータである。処方薬を示すデータは、薬の種類、用量、および投与日数を含む。診察、治療、および処方薬はいずれも非常に多くの種類が存在するので、医療処置の詳細は非常に多くの(例えば数千、数万の)データ項目を含み得る。
【0020】
健診データベース22は、人が過去に受けた健康診断の結果を示す健診データを記憶するデータベースである。例えば、健診データは医療機関で生成されて健診データベース22に蓄積される。レセプトデータベース21と同様に、健診データベース22は各医療機関の健診データベースの集合であってもよいし、各医療機関の健診データが集約された一つのデータベースであってもよい。
【0021】
健診データの各レコードは対象者ID、対象者の属性、医療機関ID、健診日、および検査結果を含む。対象者IDは健康診断を受けた人を一意に特定する識別子である。対象者の属性についてはレセプトデータと同様である。医療機関IDは健康診断を実施した医療機関を一意に特定する識別子である。健診日は健康診断が実施された日にちである。検査結果は健康診断の結果であり、より具体的には複数の検査値の集合である。健康診断は様々な検査項目(例えば、法定の各種項目および非法定の各種項目の少なくとも一方)を含むので、検査結果は多数の(例えば数十、数百の)データ項目を含み得る。
【0022】
アンケートデータベース23は、人が過去に回答した健康に関するアンケート結果を示すアンケートデータを記憶するデータベースである。健康に関するアンケートの例として、企業で実施されるストレスチェック、健康診断時に実施される生活習慣に関するアンケートなどが挙げられるが、アンケートの内容はこれらに限定されない。アンケートデータは企業または医療機関で生成されてアンケートデータベース23に蓄積される。レセプトデータベース21と同様に、アンケートデータベース23は各企業または各医療機関のアンケートデータベースの集合であってもよいし、各企業または各医療機関のアンケートデータが集約された一つのデータベースであってもよい。
【0023】
アンケートデータの各レコードは対象者ID、実施機関ID、回答日、およびアンケート結果を含む。対象者IDはアンケートに回答した人を一意に特定する識別子である。実施機関IDはアンケートを実施した機関(例えば企業または医療機関)を一意に特定する識別子である。回答日はアンケートの回答が記入された日である。アンケート結果は複数の回答を示すデータであり、例えばストレスチェック、生活習慣、意識調査などについての様々な回答を含む。
【0024】
図2は予測システム10の機能構成を示す。図2に示すように、予測システム10は機能的構成要素として取得部11、変換部12、および予測部13を備える。
【0025】
取得部11は、対象者の過去の受診記録を取得する機能要素である。自動的にまたは予測システム10のオペレータにより対象者IDが入力されると、取得部11はこの対象者IDに対応する受診記録をデータベース群20から読み出す。具体的には、取得部11はその対象者IDに対応するレセプトデータ、健診データ、およびアンケートデータをレセプトデータベース21、健診データベース22、およびアンケートデータベース23からそれぞれ読み出す。そして、取得部11はこれらのデータから成る過去の受診記録を変換部12に出力する。
【0026】
変換部12は、過去の受診記録に基づいて複数の入力ベクトルを生成する機能要素である。入力ベクトルはN行1列(N>1)の行列で示されるデータであり、後述する学習アルゴリズムに入力される。一つの入力ベクトルは過去の一時点における受診記録に対応し、この入力ベクトルはその時点におけるレセプトデータ、健診データ、およびアンケートデータを示す。医療処置の詳細(診察、治療、および処方薬)を含むレセプトデータがP個のデータ項目から成り、検査結果(検査値)を含む健診データがQ個のデータ項目から成り、アンケート結果(回答)を含むアンケートデータがR個のデータ項目から成るとする。この場合、ある一時点tにおける入力ベクトルvtを下記の式(1)で表すことができる。要素a1〜aPはレセプトデータの各データ項目を示し、要素b1〜bQは健診データの各データ項目を示し、要素c1〜cRはアンケートデータの各データ項目を示す。各入力ベクトルの要素数(行数)は各データのデータ項目数に応じて膨大になり得る。

【0036】
このように、変換部12は複数の入力ベクトルを生成し(必要であればパディングを実行する)、各入力ベクトルを正規化する。必要であれば、変換部12はさらにその入力ベクトルに対してスパース正規化および圧縮の少なくとも一方を実行する。変換部12はこの一連の処理で得られた入力ベクトルの集合Vを予測部13に出力する。
【0037】
予測部13は、少なくとも正規化が施された各入力ベクトルを学習アルゴリズムに入力することで、将来の所定の時期における対象者の状態の予測(例えば受診予測)を示す出力ベクトルを得る機能要素である。学習アルゴリズム(学習モデル)の例としてLSTM(LongShort−TermMemory)、GRU(GatedRecurrentUnit)、Attention(アテンション)が挙げられる。しかし、予測部13が用いる学習アルゴリズムはこれらに限定されず、任意のアルゴリズムが用いられてよい。
【0038】
予測部13は時系列に並べられた複数の入力ベクトルを前半と後半の二つに分ける。続いて、予測部13はまず前半の入力ベクトルを学習アルゴリズムに処理させることで学習アルゴリズムを学習させる。続いて、予測部13は後半の入力ベクトルを学習アルゴリズムに処理させることで学習アルゴリズムを検証し、最も計算制度が高いと推定される学習アルゴリズム(以下ではこれを「最良の学習アルゴリズム」ともいう)を得る。すなわち、前半の入力ベクトルの集合は訓練データであり、後半の入力ベクトルの集合はテストデータである。
【0039】
続いて、予測部13は得られた最良の学習アルゴリズムを用いて、将来の所定の時期(以下では「対象時期」ともいう)における対象者の状態の予測を示す出力ベクトルを求める。予測したい将来の時期は予め予測システム10に入力され、例えば対象者IDと共に入力される。予測部13は現在から対象時期までの期間を複数の単位期間に分割する。そして、予測部13は現在から対象時期に向かって、単位期間が経過した時点での出力ベクトルを順番に求める。

(2)上記(1)によると、以下のことがいえる。
ア 段落【0012】の記載によると、引用文献1には、「患者の将来の状態を予測する予測システム10」が記載されている。
イ 段落【0017】〜【0023】の記載によると、引用文献1の「予測システム10は、レセプトデータベース21、健診データベース22、アンケートデータベース23を含み、レセプトデータベース21は対象者IDと医療処置の詳細を関連付けたレセプトデータを記憶し、健診データベース22は対象者IDと検査結果を関連付けた健診データを記憶し、アンケートデータベース23は対象者IDとアンケート結果を関連付けたアンケートデータを記憶する」ものである。
ウ 段落【0024】の記載によると、引用文献1には、「予測システム10は、取得部11、変換部12、予測部13を備える」ことが記載されている。
エ 段落【0025】の記載によると、引用文献1の「取得部11は、対象者IDの入力を受け、対象者IDに対応するレセプトデータ、健診データ、アンケートデータをレセプトデータベース21、健診データベース22、およびアンケートデータベース23からそれぞれ読み出し、これらのデータから成る過去の受診記録を変換部12に出力する」ものである。
オ 段落【0026】、【0036】の記載によると、「変換部12は、過去の受診記録に基づいて複数の入力ベクトルを生成し、正規化した複数の入力ベクトルを予測部13に出力する」ものである。
カ 段落【0037】〜【0039】の記載によると、引用文献1の「予測部13は、時系列に並べられた複数の入力ベクトルにより、学習アルゴリズムを学習させ、得られた最良の学習アルゴリズムを用いて、将来の所定の時期における対象者の予測を示す出力ベクトルを出力するものであり、正規化された複数の入力ベクトルを学習された学習アルゴリズムに入力することで、患者の将来の状態の予測(例えば受診予測)を示す出力ベクトルを出力する」ものである。

(3)上記(2)によると、引用文献1には、
「取得部11と、変換部12と、予測部13を備えた、患者の将来の状態を予測する予測システム10であって、
レセプトデータベース21、健診データベース22、アンケートデータベース23を含み、レセプトデータベース21は対象者IDと医療処置の詳細を関連付けたレセプトデータを記憶し、健診データベース22は対象者IDと検査結果を関連付けた健診データを記憶し、アンケートデータベース23は対象者IDとアンケート結果を関連付けたアンケートデータを記憶し、
取得部11は、対象者IDの入力を受け、対象者IDに対応するレセプトデータ、健診データ、アンケートデータをレセプトデータベース21、健診データベース22、およびアンケートデータベース23からそれぞれ読み出し、これらのデータから成る過去の受診記録を変換部12に出力し、
変換部12は、過去の受診記録に基づいて複数の入力ベクトルを生成し、正規化した複数の入力ベクトルを予測部13に出力し、
予測部13は、時系列に並べられた複数の入力ベクトルにより、学習アルゴリズムを学習させ、得られた最良の学習アルゴリズムを用いて、将来の所定の時期における対象者の予測を示す出力ベクトルを出力するものであり、正規化された複数の入力ベクトルを学習された学習アルゴリズムに入力することで、患者の将来の状態の予測(例えば受診予測)を示す出力ベクトルを出力する、
患者の将来の状態を予測する予測システム10。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

2 引用文献2
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、以下のとおりの記載がある。下線は、当審が付した。

【0002】
本開示は、深層学習モデルを使用して、電子健康記録から医療イベントを予測して要約するためのシステムおよび方法を対象とする。本開示は、モデル生成およびトレーニングのための単一フォーマットへの電子健康記録の統合、医療記録から健康イベントを予測するための深層学習モデル、ならびに深層学習を通じて取得された臨床予測、および予測に関する根本的な関係医療イベントの表示のための電子デバイス上の提供者対向インターフェースを含む、いくつかの構成要素の態様およびこれらの組合せも対象とする。

【0025】
さらに別の態様において、少なくとも1名の患者についての1つまたは複数の将来の臨床イベントの予測の表示を、実質的にリアルタイムに表示する医療提供者対向インターフェースを有する電子デバイス(たとえば、ワークステーション、タブレット型コンピュータ、またはスマートフォン)が開示される。表示はさらに、予測に関する電子健康記録に基づいて動作する予測モデル上の注目機構の適用に対応する、電子健康記録からの要素(過去の医療イベント)を表示するように構成される。1つの実施形態において、電子健康記録の要素は、ノート内の特定の単語、句、または他のテキストに対するハイライトまたは強調のグラデーションがついたノートまたはノートの引用である。電子健康記録の要素は、検査値、前の薬剤、バイタルサインなどなどのものであることも可能である。ハイライトまたは強調のグラデーションは、フォントサイズ、フォント色、陰影、太字、イタリック体、下線、取り消し線、点滅、色付きのハイライト、およびフォント選択、または場合によっては、赤色と太字フォントなどのこれらのいくつかの組合せのうちの少なくとも1つの形をとることができる。予測した1つまたは複数の将来の臨床イベントは、集中治療室への計画外搬送、7日より長い入院期間、患者の退院後30日以内の計画外再入院、入院患者の死、1次診断、1次および2次の請求診断の全セット、または急性腎傷害、低カリウム血症、低血糖症、および低ナトリウム血症などの異常な検査値を含むことができる。

【0039】
図1は、電子健康記録から医療イベントを予測して要約するためのシステム10を示す。システムは、以下の3つの構成要素を含む。
【0040】
第1に、薬剤、検査値、診断、バイタルサイン、および医療ノート(たとえば、診療医師および看護師によって書かれたフリーテキストノート)を含む、多様な年齢、健康状態、および人口統計の多数の患者からの集約電子健康記録22を格納する、たとえばマスデータストレージデバイスといったコンピュータメモリ24が説明される。集約電子健康記録は、単一の標準データ構造フォーマットに変換され、たとえば発生順に患者ごとに並べられる。種々の機関14(たとえば、大学医療センタ、病院システムなど)からの大量の患者の未加工電子健康記録12は、現在使用中の多種多様の旧式の電子健康記録システムが原因で、様々な異なる電子フォーマットでフォーマットされている場合がある。未加工健康記録は、患者が非特定化され、コンピュータネットワーク16で送信され、リレーショナルデータベース(RDB:relational database)20に格納され、コンバータとして機能するコンピュータシステム18によって標準フォーマットに変換され、メモリ24に格納される。これらの記録は、標準データ構造フォーマットに変換され、規則正しい配列で配列され、好ましい実施形態においては時系列で配列される。1つの特定の実施形態において、標準データ構造フォーマットは、既知のフォーマットである、Fast Healthcare Interoperability Resources(FHIR)フォーマットであり、このフォーマットで、EHRは、図1において22と示された時系列のFHIR「リソース」の束にフォーマットされる。これは、図2と共に後で説明されることになる。

【0044】
本開示の別の態様において、電子健康記録から医療イベントを予測して要約するための方法が説明される。方法は、
a)多様な年齢、健康状態、および人口統計の多数の患者から電子健康記録12を集約することであって、電子健康記録が、薬剤、検査値、診断、バイタルサイン、および医療ノートを含む、集約することと、
b)規則正しい配列に患者ごとに並べられた、単一の標準データ構造フォーマットに集約電子健康記録を変換すること(コンバータ18によって生成された時系列のFHIRリソースの束22を参照されたい)と、
c)単一の標準データ構造フォーマットに変換された規則正しい配列の集約健康記録22で1つまたは複数の深層学習モデル28、30、および32をトレーニングすることと、
d)標準データ構造フォーマットを有し、発生順に並べられた患者36の入力電子健康記録38から、1つまたは複数の将来の臨床イベントを予測し、予測した1つまたは複数の将来の臨床イベントに関する関連のある過去の医療イベントを要約するために、トレーニングされた1つまたは複数の深層学習モデル28、30、および32を使用することと、
e)患者を治療する医療提供者42による使用のための電子デバイス40の医療提供者対向インターフェース(図8A?図8B、図14、図19など)のためのデータを生成することであって、データが、患者についての予測した1つまたは複数の将来の臨床イベント、および関連のある過去の医療イベントを表示する、生成することと
というステップを含む。

(2)上記(1)によると、以下のことがいえる。
ア 段落【0002】、【0039】の記載によると、引用文献2には、「電子健康記録から医療イベントを予測するシステム10」が記載されている。
イ 段落【0025】、【0040】、【0044】の記載によると、「医療ノート(たとえば、診療医師および看護師によって書かれたフリーテキストノート)を含む集約健康記録22で、入院を含む将来の臨床イベントを予測するための1つまたは複数の深層学習モデル28、30、32をトレーニングする」ことが記載されている。
ウ 段落【0025】、【0044】の記載によると、「患者36の入力電子健康記録38を、トレーニングされた1つまたは複数の深層学習モデル28、30、32に入力することで、入院を含む将来の臨床イベントを予測する」ことが記載されている。

(3)上記(2)によると、引用文献2には、
「電子健康記録から医療イベントを予測するシステム10であって、
医療ノート(たとえば、診療医師および看護師によって書かれたフリーテキストノート)を含む集約電子健康記録22で、入院を含む将来の臨床イベントを予測するための1つまたは複数の深層学習モデル28、30、32をトレーニングし、
患者36の入力電子健康記録38を、トレーニングされた1つまたは複数の深層学習モデル28、30、32に入力することで、入院を含む将来の臨床イベントを予測する、
システム10。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、次のとおりの記載がある。下線は、当審が付した。

【0041】
結果通知手段58は、利用者ごとに得られた変調予測結果を、通信網30を介して利用者ごとに予め登録された連絡先に通知する。通知内容は少なくとも予測された体調変化の内容を含み、併せて体調変化を顕在化させないために必要な予防行為などをメッセージとして含ませてもよい。連絡先には、例えば、利用者または利用者の保護者が所持する携帯電話やパーソナルコンピュータ等の通信端末、学校や医療機関など利用者の健康を管理する管理団体に設置された通信端末が利用可能である。また、利用者が装着している生体センサ10に表示機能を持たせ、生体センサ10に対して変調予測結果を通知して表示させる構成としてもよい。なお、健康管理サーバ20に接続されたモニタ装置に変調予測結果を表示させ、オペレータが利用者等に体調変化の可能性がある旨を連絡するようにしてもよい。

4 引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、次のとおりの記載がある。下線は、当審が付した。

【0016】
図4は支援装置1に接続するデータベースの例を示す図である。
本実施形態の支援装置1は、少なくとも、電子カルテシステム31と、リソース管理システム32のデータベースと通信接続されている。電子カルテシステム31のデータベースには、患者を特定する患者IDに紐づけて、医療スタッフID、病棟番号、階数、病室の部屋番号、ベッド番号、入力情報、などを紐づけた看護情報が登録される。医療スタッフIDは、その患者を看護する医療スタッフを特定するための情報である。病棟番号は、その患者が入院する病棟を特定するための情報である。階数は、その病棟の階を特定するための情報である。病室の部屋番号は、その患者が利用している病室の番号である。ベッド番号は、その患者が利用しているベッドを特定するための番号である。入力情報は、計測した患者の生体情報やその他の看護の詳細な内容を示す。入力情報には、“Subjective(主観的情報)”、“Objective(客観的情報)”、“Assessment(評価情報)”、“Plan(計画、治療情報)”の種別でそれぞれ特定される情報が含まれてよい。“Subjective”は患者から直接得られた情報を示す。“Objective”は医療スタッフによる身体診察や検査から得られた情報を示す。“Assessment”は“Subjective”や“Objective”に基づく医療スタッフによる評価の情報を示す。“Plan”は“Assessment”の結果として実施する計画や治療を示す。

【0030】
UI管理部18は患者IDと第一の対処方法とを取得し、それらを含む対処方法の提示情報を生成する(ステップS107)。この提示情報には第一の対処方法を詳細に医療スタッフに示す対処方法の内容情報が含まれる。また提示情報には提示情報を特定するための提示IDが含まれている。第一の対処方法に対応するその内容情報は、予め支援装置1のデータベース104が記憶してよい。UI管理部18は、患者IDに紐づいてデータベース104に記録される医療スタッフIDを取得する。またUI管理部18は医療スタッフIDに紐づいてリソース管理システム32に記録される端末IDを取得する。この端末IDは、患者IDに基づいて特定した医療スタッフIDの示す医療スタッフが利用する端末2である。UI管理部18は、患者IDに基づいて、病棟や階数を示すIDを取得し、そのIDに基づいてリソース管理システム32の勤務スケジュールに基づいて、現在時刻において勤務している医療スタッフのIDを特定する。UI管理部18はその看護者のIDに紐づく端末IDをリソース管理システム32から取得してよい。UI管理部18は特定した端末IDを示す端末2へ提示情報を送信する(ステップS108)。UI管理部18は提示情報を一時的にメモリや記憶部に記録してよい。

5 引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、次のとおりの記載がある。

【0014】
端末2は、保険者である各自治体の端末装置であり、例えばパーソナルコンピュータ等である。サーバ1は、端末2を介して各自治体から対象者の情報のアップロードを受け、要介護度の将来の状態を推定して推定結果を端末2に出力する。

【0016】
補助記憶部14は、ハードディスク、大容量メモリ等の不揮発性記憶領域であり、制御部11が処理を実行するために必要なプログラムP、その他のデータを記憶している。また、補助記憶部14は、推定モデル141、自治体DB142、及び対象者DB143を記憶している。推定モデル141は、機械学習によって生成された識別器であり、認定者に関する介護関連情報を学習済みの学習済みモデルである。推定モデル141は、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとしての利用が想定される。自治体DB142は、本システムを利用する各自治体の情報を格納するデータベースである。対象者DB143は、対象者の情報を格納するデータベースである。

【0020】
対象者DB143は、対象者ID列、氏名列、保険者列、履歴番号列、申請日列、介護関連情報列を含む。対象者ID列は、各対象者を識別するための対象者IDを記憶している。対象者IDは、例えば、被保険者番号又はマイナンバーであるが、これに限られない。氏名列、保険者列、履歴番号列、申請日列、及び介護関連情報列はそれぞれ、対象者IDと対応付けて、対象者の氏名、対象者に介護サービスを提供する保険者(自治体)の自治体ID、自治体に提出された対象者の介護関連情報の履歴番号、要介護認定申請の申請日、及び介護関連情報を記憶している。介護関連情報列には、例えば対象者の基本情報(被保険者情報)、医師が対象者やその家族から聞き取りを行って作成した意見書の内容を示す意見書情報、訪問調査員による調査結果を示す訪問調査情報、及び介護保険の給付実績を示す給付実績情報などが記憶されている。

6 引用文献6
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献6には、次のとおりの記載がある。

【0009】
また、本発明の疾病対策支援方法および疾病対策支援システムは、予測症状と実際の症状との誤差を用いて、症状の予測式の各係数を更新することを特徴とする。実際の症状は、センサで測定したもの、あるいは、自分が感じた症状の程度を手入力にてシステムに入力したものである。症状レベルには個人差があるため、ユーザが設定可能である。これにより、花粉などに対する感受性の経時変化にシステムを追従させ、常にユーザの特性に合った症状の予測性能を高めることができる。

第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「対象者」は、将来の状態を予測する対象の患者のことであるから、本願発明1の「被看護者」に相当し、引用発明1の「対象者ID」は本願発明1の「被看護者識別情報」に相当する。
そして、「レセプトデータベース21」、「健診データベース22」、「アンケートデータベース23」のそれぞれの「データベース」は、「対象者ID」と関連付けたデータが記憶されているから、「対象者ID」を記憶した「データベース」と言える。
そうすると、引用発明1の「対象者ID」を記憶した「データベース」と、本願発明1の「被看護者を識別する被看護者識別情報を取得する被看護者識別情報取得部と、取得した被看護者識別情報を保持する被看護者識別情報保持部」は、「被看護者を識別する被看護者識別情報を保持する被看護者識別情報保持手段」である点で共通する。

イ 引用発明1の「レセプトデータ」に関連付けられた「医療処置の詳細」は、患者に対して行った医療処置の内容について、自由記述を含んでもよいと解されるから、本願発明1の「被看護者に対して行われた看護の内容を示す情報であって、テキストデータを含む看護情報」に相当する。
そして、引用発明1の「レセプトデータベース21」、「健診データベース22」、「アンケートデータベース23」のそれぞれの「データベース」は、「対象者ID」に関連付けてデータを記憶するものであるから、引用発明1の「医療措置の詳細」を含み、「対象者ID」に関連付けてデータを記憶する「レセプトデータベース21、健診データベース22、アンケートデータベース23」と、本願発明1の「被看護者に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての被看護者識別情報と関連付けて取得する看護情報取得部と、取得した看護情報を保持する看護情報保持部」は、「被看護者に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての被看護者識別情報と関連付けて、保持する看護情報保持手段」である点で共通する。

ウ 引用発明1の「学習アルゴリズム」の学習に用いられる「時系列に並べられた複数の入力ベクトル」は、「過去の受診記録に基づいて」生成されたものであるから、「レセプトデータベース21」から読み出された「レセプトデータ」の「医療処置の詳細」に基づいて生成されたものである。また、「学習アルゴリズム」は、「推論モデル」といえる。
よって、引用発明1の読み出された「過去の受診記録に基づいて複数の入力ベクトルを生成」する「過去の受診記録」、すなわち、「レセプトデータ」に関連付けられた「医療処置の詳細」に基づいて生成された「時系列に並べられた複数の入力ベクトル」により、「将来の所定の時期における対象者の予測を示す出力ベクトルを出力する」「学習アルゴリズム」を学習する「予測部」における学習する手段は、本願発明1の「保持されている前記看護情報を学習用データとして、被看護者の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成部」に相当する。

エ 引用発明1の「予測部」に入力される「正規化された複数の入力ベクトル」は、過去の受診記録、すなわち、医療措置の詳細などに基づいて生成されるから、引用発明1の「正規化された複数の入力ベクトルを学習された学習アルゴリズムに入力することで、患者の将来の状態の予測(例えば受診予測)を示す出力ベクトルを出力する」「予測部」と、本願発明1の「取得した看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、入力した看護情報に係る被看護者の今後の状態を推定する推定部」は、「看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、入力した看護情報に係る被看護者の今後の状態を推定する推定手段」である点で共通する。

オ 引用発明1の「予測システム10」は、コンピュータで情報処理を行って、過去の受診記録に基づいて、患者の将来の状態の予測(例えば受診予測)をするものであるから、本願発明1と同様の「看護情報処理システム」であるといえる。

カ 以上、ア〜オによると、本願発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有する。
[一致点]
被看護者を識別する被看護者識別情報を保持する被看護者識別情報保持手段と、
被看護者に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての被看護者識別情報と関連付けて、保持する看護情報保持手段と、
保持されている前記看護情報を学習用データとして、被看護者の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成部と、
看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、入力した看護情報に係る被看護者の今後の状態を推定する推定手段と、
を有する看護情報処理システム。

[相違点1]
本願発明1では、「被看護者を識別する被看護者識別情報を取得する被看護者識別情報取得部」を備えているのに対し、引用発明1では、そのような特定がなく、また、「被看護者識別情報保持手段」に保持される「被看護者を識別する被看護者識別情報」が、本願発明1では、「被看護者識別情報取得部」により取得されたものであるのに対し、引用発明1では、そのような特定のない点。
[相違点2]
「看護情報保持手段」に保持される、「看護についての被看護者識別情報と関連付け」られた「被看護者に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報」が、本願発明1では、「看護情報取得部」により取得されたものであるのに対し、引用発明1では、そのような特定のない点。
[相違点3]
「推定手段」において、「推論モデル」に入力される「看護情報」が、本願発明1では、「看護情報取得部」において取得されたものであるのに対し、引用発明1では、保持されたものであって、取得されたものではない点。
[相違点4]
「看護情報」が、本願発明1では「ADL情報」を含み、「テキストデータ」が、本願発明1では「ADLについての備考」を含み、「推定手段」が推定する「被看護者の今後の状態」は、本願発明1では、「暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ、及び、入院である」のに対して、引用発明1ではそのような特定のない点。

(2)相違点に対する判断
ア [相違点4]について
事案に鑑み、相違点4について先に検討する。
引用発明2には「患者36の入力電子健康記録38を、トレーニングされた1つまたは複数の深層学習モデル28、30、32に入力することで、入院を含む将来の臨床イベントを予測する」ことが記載されていることから、本願発明1の「推定する被看護者の今後の状態は、入院である」ことが記載されていると言えるものの、本願発明1の「看護情報にはADL情報が含まれ、テキストデータにはADLについての備考が含まれる」こと、「推定部が推定する被看護者の今後の状態」として、「暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ」があることは記載されていない。
また、引用文献3〜引用文献6にも、本願発明1の相違点4に係る構成は示されておらず、加えて、推定モデルの生成に用いられ、生成された推定モデルに入力される「テキストデータを含む看護情報」について、「看護情報にはADL情報が含まれ、テキストデータにはADLについての備考が含まれる」ことと、「生成された推定モデルによって推定される被看護者の今後の状態」である「暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ、及び、入院である」こととの間に相関関係があることは、本願出願時の技術常識でもないことから、本願発明1の相違点4に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

イ 作用効果について
本願発明1は、相違点4に係る構成を備えることにより、「生体データ情報のみでは診断や症状の変化を把握することが困難な精神科の患者について、看護者と患者の会話や患者の様子を記録した看護記録に基づき患者の症状変化を予測することができる」(【0007】)という作用効果を奏するものである。

ウ むすび
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明1、引用発明2及び引用文献3〜引用文献6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2〜10について
本願発明2〜10は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明1の上記相違点4に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明1、引用発明2及び引用文献3〜引用文献6に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 本願発明11について
(1)本願発明11と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「対象者」は、将来の状態を予測する対象の患者のことであるから、引用発明1の「対象者」と、本願発明11の「従業員又は生徒である従業員等」は、「対象」である点で共通し、引用発明1の「対象者ID」と、本願発明11の「従業員又は生徒である従業員等を識別する従業員等識別情報」は、「対象識別情報」という点で共通する。
そして、「レセプトデータベース21」、「健診データベース22」、「アンケートデータベース23」のそれぞれの「データベース」は、「対象者ID」と関連付けたデータが記憶されているから、「対象者ID」を記憶した「データベース」と言える。
そうすると、引用発明1の「対象者ID」を記憶した「データベース」と、本願発明11の「従業員又は生徒である従業員等を識別する従業員等識別情報を取得する従業員等識別情報取得部と、取得した従業員等識別情報を保持する従業員等識別情報保持部」は、「対象識別情報を保持する対象識別情報保持手段」である点で共通する。

イ 引用発明1の「レセプトデータ」に関連付けられた「医療処置の詳細」は、患者に対して行った医療処置の内容について、自由記述を含んでもよいと解されるから、引用発明1の「医療処置の詳細」と、本願発明11の「従業員等に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報」は、「対象に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報」である点で共通する。
そして、引用発明1の「レセプトデータベース21」、「健診データベース22」、「アンケートデータベース23」のそれぞれの「データベース」は、「対象者ID」に関連付けてデータを記憶するものであるから、引用発明1の「医療措置の詳細」を含み、「対象者ID」に関連付けてデータを記憶する「レセプトデータベース21、健診データベース22、アンケートデータベース23」と、本願発明11の「従業員等に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての従業員等識別情報と関連付けて取得する看護情報取得部と、取得した看護情報を保持する看護情報保持部」は、「対象に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての対象識別情報と関連付けて、保持する看護情報保手段」である点で共通する。

ウ 引用発明1の「学習アルゴリズム」の学習に用いられる「時系列に並べられた複数の入力ベクトル」は、「過去の受診記録に基づいて」生成されたものであるから、「レセプトデータベース21」から読み出された「レセプトデータ」の「医療処置の詳細」に基づいて生成されたものである。また、「学習アルゴリズム」は、「推論モデル」といえる。
よって、引用発明1の読み出された「過去の受診記録に基づいて複数の入力ベクトルを生成」する「過去の受診記録」、すなわち、「レセプトデータ」に関連付けられた「医療処置の詳細」に基づいて生成された「時系列に並べられた複数の入力ベクトル」により、「将来の所定の時期における対象者の予測を示す出力ベクトルを出力する」「学習アルゴリズム」を学習する「予測部」における学習する手段と、本願発明11の「保持されている前記看護情報を学習用データとして、従業員等の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成部」は、「保持されている前記看護情報を学習用データとして、対象の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成手段」である点で共通する。

エ 引用発明1の「予測部」に入力される「正規化された複数の入力ベクトル」は、過去の受診記録、すなわち、医療措置の詳細などに基づいて生成されるから、引用発明1の「正規化された複数の入力ベクトルを学習された学習アルゴリズムに入力することで、患者の将来の状態の予測(例えば受診予測)を示す出力ベクトルを出力する」「予測部」と、本願発明11の「取得した看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、入力した看護情報に係る従業員等の今後の状態を推定する推定部」は、「看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、対象の今後の状態を推定する推定手段」である点で共通する。

オ 引用発明1の「予測システム10」は、コンピュータで情報処理を行って、過去の受診記録に基づいて、患者の将来の状態の予測(例えば受診予測)をするものであるから、本願発明11と同様の「看護情報処理システム」であるといえる。

カ 以上、ア〜オによると、本願発明11と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有する。
[一致点]
対象識別情報を保持する従業員等識別情報保持手段と、
対象に対して行われた看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報を、その看護についての対象識別情報と関連付けて、保持する看護情報保持手段と、
保持されている前記看護情報を学習用データとして、対象の今後の状態を推定するための推論モデルを生成する推論モデル生成手段と、
看護情報を、前記生成した推論モデルに入力し、対象の今後の状態を推定する推定手段と、
を有する看護情報処理システム。

[相違点11−1]
看護及び予測の対象が、本願発明11は、「従業員又は生徒である従業員等」であるのに対し、引用発明1では、対象が患者であり、「従業員又は生徒である従業員等」とは特定されておらず、また、これに伴い、「対象識別情報」が、本願発明11では、「従業員等識別情報」であるのに対し、引用発明1では、そのような特定のない点。

[相違点11−2]
「看護情報保持手段」に保持される「看護の内容を示す情報であってテキストデータを含む看護情報」が、本願発明11では、「看護情報取得部」により取得されたものであるのに対し、引用発明1では、そのような特定のない点。

[相違点11−3]
「推定手段」において、「推論モデル」に入力される「対象の看護情報」が、本願発明11では、「看護情報取得部」において取得されたものであるのに対し、引用発明1では、保持されたものであって、取得されたものではなく、また、「推定部」が推定するものが、本願発明11では、「入力した看護情報に係る従業員等の今後の状態」であるのに対して、引用発明1では、対象者の今後の状態である点。

[相違点11−4]
「看護情報」が、本願発明11では「ストレスチェックの質問事項に対する回答」を含むのに対して、引用発明1ではそのような特定がなく、また、「推定手段」が推定する「対象の今後の状態」が、本願発明11では、「暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ、及び、入院である」のに対して、引用発明1ではそのような特定のない点。

(2)相違点に対する判断
ア [相違点11−4]について
事案に鑑み、相違点11−4について先に検討する。
引用発明2には「患者36の入力電子健康記録38を、トレーニングされた1つまたは複数の深層学習モデル28、30、32に入力することで、入院を含む将来の臨床イベントを予測する」ことが記載されていることから、本願発明11の「推定する今後の状態は、入院である」ことが記載されていると言えるものの、本願発明11の「看護情報には、ストレスチェックの質問事項に対する回答が含まれ」ること、「推定部が推定する従業員等の今後の状態」として、「暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ」があることは記載されていない。
また、引用文献3〜引用文献6にも、本願発明11の相違点11−4に係る構成は示されておらず、加えて、推定モデルの生成に用いられ、生成された推定モデルに入力される「テキストデータを含む看護情報」に含まれる「ストレスチェックの質問事項に対する回答」と、「推定部が推定する従業員等の今後の状態」である「暴行、犯罪、自殺のいずれか一又は二以上の組み合わせ、及び、入院」との間に相関関係があることは、本願出願時の技術常識でもないことから、本願発明11の相違点11−4に係る構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。

イ 作用効果について
本願発明11は、相違点11−4に係る構成を備えることにより、「従業員等が高ストレス状態にあるか否かといったことや、ストレス状態が今後高くなっていくか否かといったことや、あるいは発症する恐れのある疾患や症状などを推定することで、従業員等のメンタルヘルス向上に役立たせる」ことができる(【0102】)という作用効果を奏するものである。

ウ むすび
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明11は、引用発明1、引用発明2及び引用文献3〜引用文献6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 本願発明12〜13について
本願発明12〜13は、本願発明11を減縮した発明であり、相違点11−4に係る本願発明11の構成を備える「看護情報システム」であるから、当業者であっても、引用発明1、引用発明2及び引用文献3〜引用文献6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 本願発明14〜15について
本願発明14は、本願発明1に対応する方法の発明であり、本願発明15は、本願発明1に対応するプログラムの発明であり、本願発明1の相違点4に対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明1、引用発明2及び引用文献3〜引用文献6に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-11-28 
出願番号 P2021-086343
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G16H)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 高瀬 勤
特許庁審判官 小田 浩
鹿野 博嗣
発明の名称 看護情報処理システム  
代理人 成川 弘樹  
代理人 大崎 絵美  
代理人 齋藤 修  

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