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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 F25B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F25B
管理番号 1391904
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-04-18 
確定日 2022-11-22 
事件の表示 特願2020−532107「冷凍サイクル装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月30日国際公開、WO2020/021700、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)7月27日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりのものである。
令和2年11月17日 手続補正書(自発)の提出
令和3年11月9日付け 拒絶理由通知
令和3年12月10日 意見書の提出
令和4年3月1日付け 拒絶査定
令和4年4月18日 審判請求書、手続補正書の提出

第2 審判請求時の補正について
1 本件補正について
(1)令和4年4月18日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、次のとおり補正された(下線部は補正箇所である。)。

「【請求項1】
非共沸混合冷媒が使用される冷凍サイクル装置であって、
圧縮機と、
第1熱交換器と、
減圧装置と、
第2熱交換器と、
第3熱交換器と、
前記第2熱交換器および前記第3熱交換器に送風する送風装置とを備え、
前記非共沸混合冷媒は、前記圧縮機、前記第1熱交換器、前記減圧装置、前記第2熱交換器、および前記第3熱交換器の第1循環方向に循環し、
前記第2熱交換器の流路抵抗は、前記第3熱交換器の流路抵抗よりも大きく、
前記送風装置から送風される空気は、前記第2熱交換器を流れる冷媒と並行流を形成するとともに、前記第3熱交換器を流れる前記非共沸混合冷媒と並行流を形成し、
前記第2熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第2熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差は、前記第3熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第3熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差よりも大きい、冷凍サイクル装置。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の令和2年11月17日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
非共沸混合冷媒が使用される冷凍サイクル装置であって、
圧縮機と、
第1熱交換器と、
減圧装置と、
第2熱交換器と、
第3熱交換器と、
前記第2熱交換器および前記第3熱交換器に送風する送風装置とを備え、
前記非共沸混合冷媒は、前記圧縮機、前記第1熱交換器、前記減圧装置、前記第2熱交換器、および前記第3熱交換器の第1循環方向に循環し、
前記第2熱交換器の流路抵抗は、前記第3熱交換器の流路抵抗よりも大きく、
前記送風装置は、前記第2熱交換器および前記第3熱交換器を流れる前記非共沸混合冷媒と並行流を形成し、
前記第2熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第2熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差は、前記第3熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第3熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差よりも大きい、冷凍サイクル装置。」

(3)本件補正について
本件補正は、本件補正前の「前記送風装置」に対して、「前記送風装置から送風される空気」が、「第2熱交換器を流れる冷媒と並行流を形成」することを限定する補正であって、本件補正前の請求項1に係る発明と、本件補正後の請求項1に係る発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の請求項1に関する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、本件補正は、新規事項を追加するものではない。
そして、以下、第3ないし第5に示すように、本件補正後の請求項1ないし8は、独立特許要件を満たすものである。

第3 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
非共沸混合冷媒が使用される冷凍サイクル装置であって、
圧縮機と、
第1熱交換器と、
減圧装置と、
第2熱交換器と、
第3熱交換器と、
前記第2熱交換器および前記第3熱交換器に送風する送風装置とを備え、
前記非共沸混合冷媒は、前記圧縮機、前記第1熱交換器、前記減圧装置、前記第2熱交換器、および前記第3熱交換器の第1循環方向に循環し、
前記第2熱交換器の流路抵抗は、前記第3熱交換器の流路抵抗よりも大きく、
前記送風装置から送風される空気は、前記第2熱交換器を流れる冷媒と並行流を形成するとともに、前記第3熱交換器を流れる前記非共沸混合冷媒と並行流を形成し、
前記第2熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第2熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差は、前記第3熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第3熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差よりも大きい、冷凍サイクル装置。
【請求項2】
前記第2熱交換器は、前記非共沸混合冷媒が流れる少なくとも1つの伝熱管を含み、
前記第3熱交換器は、互いに並進するように形成された、前記非共沸混合冷媒が流れる複数の伝熱管を含み、
前記第2熱交換器の伝熱管の数は、前記第3熱交換器の伝熱管の数よりも小さい、請求項1に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記第3熱交換器の伝熱管の数は、前記第2熱交換器の伝熱管の数の2倍以上である、請求項2に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項4】
前記非共沸混合冷媒の循環方向を前記第1循環方向と前記第1循環方向とは逆の第2循環方向との間で切り替える流路切替弁をさらに備え、
前記非共沸混合冷媒の循環方向が前記第2循環方向である場合、前記送風装置は、前記第2熱交換器および前記第3熱交換器を流れる前記非共沸混合冷媒と対向流を形成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項5】
前記第2熱交換器および前記第3熱交換器は、前記送風装置の送風方向と直交する方向に沿って配置されている、請求項4に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項6】
前記圧縮機の吐出口に接続された開閉弁と、
前記第1熱交換器および前記減圧装置の間の接続ノードに接続された逆止弁と、
第4熱交換器および第5熱交換器と、
制御装置とをさらに備え、
前記第4熱交換器および前記第5熱交換器は、前記開閉弁と前記逆止弁との間においてこの順に直列に接続され、
前記第4熱交換器および前記第2熱交換器は、前記送風方向に沿ってこの順に配置され、
前記第5熱交換器および前記第3熱交換器は、前記送風方向に沿ってこの順に配置され、
前記逆止弁の順方向は、前記逆止弁から前記接続ノードへ向かう方向であり、
前記制御装置は、前記非共沸混合冷媒の循環方向が前記第1循環方向である場合、前記開閉弁を開放し、前記非共沸混合冷媒の循環方向が前記第2循環方向である場合、前記開閉弁を閉止する、請求項5に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項7】
前記非共沸混合冷媒は、HFC32を含み、
前記HFC32の重量比率は、46wt%以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の冷凍サイクル装置。
【請求項8】
前記第2熱交換器と前記第3熱交換器との間に接続された第6熱交換器をさらに備え、
前記第6熱交換器の流路抵抗は、前記第2熱交換器の流路抵抗よりも小さく、かつ、前記第3熱交換器の流路抵抗よりも大きく、
前記送風装置は、前記第2熱交換器、前記第3熱交換器、および前記第6熱交換器を流れる前記非共沸混合冷媒と並行流を形成し、
前記第2熱交換器、前記第3熱交換器、および前記第6熱交換器は、前記送風装置の送風方向と直交する方向に沿って配置されている、請求項4に記載の冷凍サイクル装置。」

第4 引用例
1.引用例1(特開平10−068560号公報)
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例1には、「冷凍サイクル装置」に関して図面とともに次の事項が記載されている(なお、下線は理解の一助のために当審が付与した。以下同様)。

(1)引用例1の記載
1a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷媒として混合冷媒を用いた冷凍サイクル装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より空気調和機などの圧縮機、四方弁、室外熱交換器、絞り装置、室内熱交換器等からなる冷凍サイクル装置の冷媒としてHCFC22が広く用いられているが、HCFC22はわずかながら成層圏オゾン層を破壊するために使用が規制され、その代替冷媒として分子中に塩素を含まない冷媒からなる混合冷媒が注目されている。具体的には、HFC32/HFC125からなる2成分混合冷媒や、HFC32/HFC125/HFC134aからなる3成分混合冷媒が候補として考えられている。」

1b)「【0006】また冷暖房運転のいづれかにおいて、室内外熱交換器のいづれも冷媒と空気が対向流熱交換されるように、冷媒側の流路を構成すると、反対の運転モードにおいては、室内外熱交換器のいづれも冷媒と空気が並行流熱交換されるため、極端に運転効率が低下する場合があるものであった。
【0007】すなわち温度勾配のある混合冷媒を用いた場合に、冷凍サイクル装置および熱交換器の設計において、適切な設計手法がなく、試行錯誤によって構成しているのが実状であった。
【0008】本発明は、従来のこのような冷凍サイクル装置に鑑みてなされたもので、混合冷媒を用いた冷凍サイクル装置において、特にスクロール圧縮機をもった冷凍サイクル装置の運転効率の向上を実現することを目的とするものである。」

1c)「【0014】さらに、特に冷房運転時に凝縮器となる室外熱交換器において、複数の列数と列毎に独立したフィンを形成することによって、冷房運転時には対向流熱交換の効果を高め、凝縮圧力を大きく低下させることが可能となり、冷房運転時の運転効率の向上を実現し、暖房運転時に蒸発器となる室外熱交換器においては、暖房運転時には絞り装置から流入する冷媒の入口パス数は少なく、圧力損失の傾向からできるだけ均一の蒸発温度を形成することが可能となり、暖房運転時の均一な着霜を実現するという副次的な効果ももつものである。」

1d)「【0016】図1に本発明にかかる一実施の形態の空気調和機を示す。図1において1はスクロール圧縮機、2は冷房運転と暖房運転を切り替える四方弁、3は室外熱交換器、4は絞り装置であり、これらと室外ファン(図示せず)等とともに室外機Aを構成している。また5は室内熱交換器であり、室内ファン(図示せず)等から室内機Bを構成している。冷媒としては、分子中に塩素を含まない冷媒からなる混合冷媒が封入されている。ここで複数の列数からなるフィン付きの室外熱交換器3は、複数の列数に付設されるフィンが独立に切り離され、また室外ファン(図示せず)によって図1中の一点鎖線の矢印方向に室外の空気が室外熱交換器3に導入され、空気の出口側に四方弁2に接続される配管が接続され、空気の入口側に絞り装置4に接続される配管が接続され、かくして冷房運転時に図1中の実線矢印方向に室外熱交換器3に導入される冷媒と図1中の一点鎖線の矢印方向に室外熱交換器3に導入される空気が対向流熱交換となり、スクロール圧縮機1から流入する冷媒の出口パス数を入口パス数より少なくなるように冷媒側の流路を構成している。さらに複数の列数からなるフィン付きの室内熱交換器5は、複数の列数に付設されるフィンが独立に切り離され、また室内ファン(図示せず)によって図1中の一点鎖線の矢印方向に室内の空気が室内熱交換器5に導入され、空気の出口側に四方弁2に接続される配管が接続され、空気の入口側に絞り装置4に接続される配管が接続され、かくして暖房運転時に図1中の点線矢印方向に室内熱交換器5に導入される冷媒と図1中の一点鎖線の矢印方向に室内熱交換器5に導入される空気が対向流熱交換となり、絞り装置4から流入する冷媒の出口パス数を入口パス数より多くなるように冷媒側の流路を構成している。」

1e)「【0018】次に暖房運転時には、四方弁2を図1中点線のように設定する。するとスクロール圧縮機1で圧縮されて高温高圧となったガス冷媒は、四方弁2を経て室内熱交換器5に導入される。ここで、ガス冷媒は、多い入口パスに分岐された冷媒が少ない出口パスに合流されながら、室内の空気と対向流熱交換され、放熱して凝縮し液冷媒となる。さらに、室内熱交換器5で凝縮して液状態となった冷媒は、絞り装置4で減圧されて低温低圧の二相状態となり、室外熱交換器3に導入される。室外熱交換器3では、低温低圧の二相状態の冷媒は、少ない入口パスから分岐された冷媒が多い出口パスに合流されながら、室外の空気と並行流熱交換され、吸熱して蒸発し低温低圧のガス冷媒となる。さらに、室外熱交換器3で蒸発して低温低圧のガス状態となった冷媒は、四方弁2を経てスクロール圧縮機1に導入される。」

1f)「【0023】一方、暖房運転時の室外熱交換器3では、入口側でパス数が少ないため、入口側での圧力損失が大きくなり、蒸発器の入口側での温度上昇が抑えられ、蒸発器の入口から出口までの温度勾配は上に凹の形となり、独立したフィンにおいて並行流熱交換される室外熱交換器3では、冷媒の出口側で空気と冷媒の温度差が最も小さくなる。ここで室外熱交換器3の出口側で多いパス数に分岐させる理由は、出口側で圧力損失を減少させて、入口側で減少する冷媒側蒸発伝達率を冷媒の流量を増大させて、蒸発器全域でできるだけ均一に熱交換効率を向上させるためである。ここで対向流熱交換の場合に比べ蒸発圧力は若干低下するため、運転効率にはマイナスの要因となる。」

1g)「【0028】さらに本発明による冷凍サイクル装置では、複数の列数と列毎に独立したフィンをもつ室外熱交換器を凝縮器として動作させる場合に対向流熱交換となし、圧縮機から流入する冷媒の出口パス数を入口パス数より少なくなるように冷媒側の流路を構成し、混合冷媒を封入したから、冷房運転時には対向流熱交換の効果を高め、凝縮圧力を大きく低下させることが可能となり、冷房運転時の運転効率の向上を実現し、暖房運転時に蒸発器となる室外熱交換器においては、暖房運転時には絞り装置から流入する冷媒の入口パス数は少なく、圧力損失の傾向からできるだけ均一の蒸発温度を形成することが可能となり、暖房運転時の均一な着霜を実現するという副次的な効果ももつものである。」

1h)図1





1i)上記1a)、1d)の記載から、上記冷凍サイクル装置に用いられる混合冷媒は、HFC32/HFC125/HFC134a(R407C)を含むものであるから、非共沸混合冷媒が使用されるものと解される。

1j)上記1e)、1f)及び図1の記載から、暖房運転時において、室外熱交換器3は、入口側でパス数が少ない部分と、出口側のパス数が多い部分とを有することが分かる。

1k)上記1e)及び図1の記載から、暖房運転時において、冷媒は、スクロール圧縮機1、室内熱交換器5、絞り装置4、室外熱交換器3の方向に循環していることが分かる。

1l)上記1f)の記載から、暖房運転時において、室外熱交換器3では入口側のパスの少ない部分が出口側のパスの多い部分より圧力損失が大きいことが分かる。

1m)上記1e)、1f)及び図1の記載から、暖房運転時において、室外の空気は、室外熱交換器3の入口側のパス数の少ない部分及び出口側のパス数の多い部分における冷媒の流れと並行流を形成していることが分かる。

(2)引用発明
上記(1)からみて、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「非共沸混合冷媒が使用される冷凍サイクル装置であって、
スクロール圧縮機1と、
室内熱交換器5と、
絞り装置4と、
入口側のパス数が少ない部分と、出口側のパス数が多い部分とを有する室外熱交換器3と、
室外熱交換器3に室外の空気を導入する室外ファンとを備え、
非共沸混合冷媒は、スクロール圧縮機1、室内熱交換器5、絞り装置4、室外熱交換器3の方向に循環し、
室外熱交換器3では入口側のパス数の少ない部分が出口側のパス数の多い部分より圧力損失が大きく、
室外ファンによって導入された空気は、室外熱交換器3の入口側のパス数の少ない部分及び出口側のパス数の多い部分における非共沸混合冷媒の流れと並行流を形成している、
冷凍サイクル装置。」

2.引用例2(特開平07−190571号公報)
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例2には、「非共沸混合冷媒を用いた冷凍装置」に関して図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例2の記載
2a)「【0010】蒸発器5は多パス化して圧力損失を小さくしているため蒸発器5での混合冷媒の圧力は一定であり、入口での温度がT1、出口での温度がT1より高いT2となり、入口と出口とで大きな温度差を生じる。このように、温度勾配の大きな混合冷媒を用いると蒸発器5での最適な蒸発温度域が、外気温度(7℃)と着霜限界温度(−3℃)とによって狭く限定され、(1)蒸発圧力を高くして着霜を回避しようとすると蒸発器出口側で蒸発温度が外気温度より高くなり、蒸発器を有効に使うことができない、(2)蒸発圧力を低めに設定すると蒸発器入口側での蒸発温度が着霜限界温度より低くなり着霜が生じる。このため、熱交換器の能力が低下し装置全体の能力が低下するという課題を有していた。」

2b)「【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明の冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を順次配管にて環状に連結した冷媒回路に、沸点が異なる2種類以上の冷媒を所定の比率で混合した非共沸混合冷媒を封入し、前記蒸発器内の冷媒管路を分岐することなく直列に接続し、前記蒸発器を流れる混合冷媒を冷媒の温度勾配に対応して減圧するものである。
【0013】また、本発明の他の冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を順次配管にて環状に連結した冷媒回路に、沸点が異なる2種類以上の冷媒を所定の比率で混合した非共沸混合冷媒を封入し、前記蒸発器内の入口出口間の管路の途中に分岐管を設けることにより、前記蒸発器の入口から分岐管までの冷媒管路を1パス、分岐管から蒸発器の出口までを多パスとし、前記蒸発器を流れる混合冷媒を冷媒の温度勾配に対応して減圧するものである。」

2c)「【0018】すなわち、本発明の冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を順次配管にて環状に連結した冷媒回路に、沸点が異なる2種類以上の冷媒を所定の比率で混合した非共沸混合冷媒を封入し、前記蒸発器内の冷媒管路を分岐することなく直列に接続することにより、熱交換器での圧力損失を増大させて入口の圧力を出口の圧力より高くなるようにして、前記蒸発器を流れる混合冷媒を冷媒の温度勾配に対応して減圧して、蒸発器における着霜の防止および蒸発器を有効に利用して装置全体の性能向上を図ることができる。
【0019】また、本発明の他の冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、減圧器、蒸発器を順次配管にて環状に連結した冷媒回路に、沸点が異なる2種類以上の冷媒を所定の比率で混合した非共沸混合冷媒を封入し、前記蒸発器内の入口出口間の管路の途中に分岐管を設けることにより、蒸発器の入口から分岐管までの冷媒管路を1パス、分岐管から蒸発器の出口までを多パスとし、前記蒸発器を流れる混合冷媒を冷媒の温度勾配に対応して減圧して、蒸発器における着霜の防止および蒸発器を有効に利用して装置全体の性能向上を図ることができる。」

2d)「【0024】図1は、本発明の第1の実施例における冷凍装置の冷凍サイクル図である。同図において、1は圧縮機、3は凝縮器、4は減圧器、5は蒸発器であり順次配管にて環状に連結されている。冷媒として非共沸混合冷媒を用いている。また、蒸発器5内の配管は分岐することなく直列(1パス)に接続されており、蒸発器5内の配管経路が長くなる構成にして蒸発器5での圧力損失を増大させて、蒸発器5の入口と出口で圧力差が生じるようにしてある。」

2e)「【0029】次に、本発明の第2の実施例について、図面を参照しながら説明する。図3は、本発明の第2の実施例における冷凍装置の冷凍サイクル図である。第1の実施例と異なる点は、蒸発器5内の入口出口間の管路の途中に分岐管6を設けることにより、蒸発器5の入口から分岐管6までの冷媒管路を1パス、分岐管6から蒸発器5の出口までを多パスとしていることである。
【0030】次に、図4にこの冷凍装置のモリエル線図を示し、具体的な動作について説明する。
【0031】同図において、T1は着霜限界温度(仮に−3℃)、T2は外気温度(仮に7℃)を示す等温線である。
【0032】まず、蒸発器5の入口側にある減圧器4の減圧量を調節して、蒸発器5の入口での冷媒温度が着霜限界温度T1よりやや高い温度T3になるように設定する。蒸発器5内の入口出口間の管路の途中に分岐管6を設けることにより、蒸発器5の入口から分岐管6までの冷媒管路を1パス、分岐管6から蒸発器5の出口までを多パスとしている構成であるため、入口から分岐管6間は圧力損失が大きく、分岐管6から出口間は圧損が小さくなる。すなわち、入口から分岐管6間までは等温変化(T3)、分岐管6から出口間では非等温変化(T3からT6)となる。このように、前記蒸発器5に入った冷媒は温度勾配に対応して減圧される。
【0033】このように、蒸発器5内の配管を1パスと多パスを組み合わせることにより、蒸発器5内の入口から分岐管6間は圧力損失が大きく、分岐管6から出口間は圧損が小さくして、入口から分岐管6間までは等温変化、分岐管6から出口間では非等温変化となり、前記蒸発器5に入った冷媒を温度勾配に対応して減圧して、蒸発器5の着霜の防止および蒸発器を有効に利用して装置全体の性能向上を図ることができる。」

2f)図3




2g)図4




2h)上記2d)、上記2e)及び図3の記載から、上記冷凍装置は、圧縮機1、凝縮器3、減圧器4、蒸発器5を備え、蒸発器5は入口から分岐管6までの冷媒管路が1パスであり、分岐管6から蒸発器5の出口までが多パスの熱交換器であることが分かる。

2i)上記2e)の記載から、蒸発器5では入口から分岐管6間は圧力損失が大きく、分岐管6から出口間は圧損が小さいことが分かる。

2j)上記2e)及び図4の記載から、蒸発器5では入口から分岐管6間の1パスの熱交換器に対応する非共沸混合冷媒のエンタルピ差(ホとトの差)は、分岐管6から出口間の多パスの熱交換器に対応する非共沸混合冷媒のエンタルピ差(トとチの差)よりも大きいことが看取できる。


(2)引用例2技術
上記(1)からみて、引用例2には以下の事項(以下、「引用例2技術」という。)が記載されている。

「非共沸混合冷媒が使用される冷凍装置において、圧縮機1と、凝縮器3と、減圧器4と、蒸発器5の入口から分岐管6までの冷媒管路が1パスであって、分岐管6から蒸発器5の出口までが多パスである蒸発器5と、を備え、非共沸混合冷媒は、圧縮機1、凝縮器3、減圧器4、蒸発器5の方向に循環し、蒸発器5における冷媒管路が、蒸発器5の入口から分岐管6までの1パスの部分の圧力損失は、分岐管6から蒸発器5の出口までの多パス部分の熱交換器の圧力損失よりも大きく、1パスの部分に流出入する非共沸混合冷媒のエンタルピ差(ホとトの差)は、多パスの部分に流出入する非共沸混合冷媒のエンタルピ差(トとチの差)よりも大きいこと。」

3.引用例3
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例3には、「熱交換器及びそれを用いた空気調和機」に関して図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例3の記載(特開2012−52676号公報)
3a)「【0017】
図5は熱交換器の冷媒経路の構成を示す図である。冷媒経路は、上部より12A〜12Dまでの4経路と、13A,13Bの2経路で構成される。上部の4経路は風上列で1つの経路から4つに分岐する。最上部の2経路12A,12Bは風下列で合流して下部経路13Aに接続する。中部の2経路12C,12Dは風下列で合流して下部経路13Bに接続する。下部経路13Aと13Bは風下列で1経路に合流する。図5に示すように、熱交換器が蒸発器として機能するときは、伝熱管のパス数が冷媒の流れ方向下流側ほど増大し、熱交換器が凝縮器として機能するときは、伝熱管のパス数が冷媒の流れ方向下流側ほど減少する。また、熱交換器が凝縮器として機能するときの熱交換器における冷媒の全ての入口部(熱交換器が蒸発器として機能するときの熱交換器における冷媒の出口部)が、風下側列の熱交換器(第2熱交換器B)に位置する。
【0018】
次に、本実施例における空気調和装置の冷凍サイクルの動作について説明する。図1において、暖房運転時は流路切換手段(四方弁)2を冷媒が実線方向に流れるように切換える。このとき、冷媒は、図1の実線矢印方向(図1の時計廻り方向)に進み、圧縮機1,流路切換手段(四方弁)2,室内熱交換器5,流量制御弁4,室外熱交換器3の順に流れる。流量制御弁4は空調負荷に応じた適度な開度に調整され、凝縮器として機能する室内熱交換器5で凝縮して液化した冷媒は流量制御弁4で気液二相流となって、室外熱交換器3へ流入する。その後、冷媒は、蒸発器として機能する室外熱交換器3で蒸発した後、圧縮機1へ戻る。
【0019】
このような空気調和機の冷凍サイクルにおいて、室外熱交換器3での現象について説明する。室外熱交換器3には図1に示す室外送風手段6により、空気が送風される。具体的には、図3に示すように、空気流れ方向100の向きに、熱交換器へ空気が流入し、第1熱交換器Aから第2熱交換器を通過するように空気が送風され、伝熱管内部を流れる冷媒と空気が熱交換する。
【0020】
ここで、第1熱交換器A及び第2熱交換器Bのそれぞれの板状フィン8には複数の山形形状が形成され、これら山形形状により空気の流れが乱され伝熱が促進される。しかしながら、山形形状が高いほど局所熱伝達率は高くなり伝熱性能は向上するが、通風抵抗が増大して室外送風手段6の動力が増大する。また、同じ段ピッチにおいて、伝熱管の径が小径であるほど通風抵抗が低減して空気側の伝熱面積が増加するが、伝熱管内の伝熱面積は減少する。このように、板状フィン8に形成される山形形状の高さ及び板状フィンを貫通する伝熱管の径の大きさには、一般的に伝熱性能と通風抵抗の間で二律背反の関係が存在する。
【0021】
ここで、室外熱交換器3においては、風上列(第1熱交換器A)は空気と冷媒の温度差を確保しやすいので、比較的熱伝達率が高く、空気側の熱伝達率の向上より通風抵抗の低減を優先させる方が有利である。一方、風下列(第2熱交換器B)は、風上列に比べ、風上列で熱交換した空気が流入するため、空気と冷媒の温度差を確保しにくいので、空気側の熱伝達率を優先させる方が有利である。そこで、本実施例においては、風下列(第1熱交換器A)では、空気側熱伝達率向上を優先して山形形状高さを高く、且つ、伝熱管径を大きくし、風上列(第2熱交換器B)では、通風抵抗低減を優先して風下列に対して山形形状高さを低くし、且つ、伝熱管径を小さくする。
【0022】
ここまでは、熱交換器における空気側での現象について説明したが、冷媒側の現象について以下に説明する。図6は、図1の室外熱交換器3について、冷凍サイクル全体の経路図、室外熱交換器3の冷媒経路部分における冷媒乾き度χ分布,局所交換熱量q分布、及び冷媒側圧力分布Peの関係を示す。冷媒の経路は一例として図5に記載の冷媒経路構成とした。乾き度χは、冷媒ガス質量流量を冷媒全質量流量で除した値であり、乾き度χ≡冷媒ガス質量流量/冷媒全質量流量である(χ=1:完全冷媒ガス、χ=0:完全冷媒液)。また、局所交換熱量qは、熱交換器の一定部分(例えば冷媒配管1段分)で空気と冷媒が熱交換したときの交換熱量である。
【0023】
図6において、実線は、風下列(第2熱交換器B)の山形形状の高さを高く、且つ、伝熱管径を大きくし、風下列に対して風上列(第1熱交換器A)の山形形状の高さを低く、且つ、伝熱管径を小さくした場合である。破線は、フィンの高さが一様(一様に低い)であり、且つ、伝熱管径が一様の場合である。冷媒は実線矢印の方向へ流れる。冷媒経路部分における乾き度χは、グラフ右から左へと変化している。
【0024】
本実施例のような冷媒経路では、室外熱交換器3が蒸発器として機能するときは、各冷媒経路で冷媒の流れは空気と平行流となり、風上から風下へ向かって冷媒側の温度が低下するため、空気と冷媒の温度差を最大限確保することができる。
【0025】
流量制御弁4を通過した冷媒は、気液二相状態で室外熱交換器3へ流入する。このとき、熱交換器入口では低い乾き度であり、空気と熱交換するにしたがって乾き度が高くなる。4分岐した冷媒経路12A〜12Dの出口では、冷媒は乾き度χ=1で完全にガスとなる。
【0026】
一方、実線,破線とも、入口の冷媒経路13A,13Bの風上側で局所交換熱量qが最も大きい。これは、空気側で冷媒と空気の温度差が大きいことと、冷媒側では下流側の4経路に対して入口の冷媒経路13A,13Bの風上側では2経路となり、さらに風下列に対して伝熱管径が細径で断面積が少ないため、下流側に対して冷媒流速が2倍以上となり、冷媒の熱伝達率が高くなるためである。
【0027】
冷媒経路13A,13Bの出口では、実線,破線ともに、風下列で空気と冷媒の温度差が取れなくなるため、交換熱量が低下する。しかし、破線に対して、実線の交換熱量低下は少ない。これは、実線では、風下列の空気側熱伝達率が高いため、少ない空気と冷媒の温度差でも効率よく熱交換するためである。同様に、12A〜12Dの4経路においても、冷媒がガス化するにしたがって交換熱量は低下する。しかし、実線では風下列の空気側熱伝達率が高く熱交換の効率が高いため、交換熱量の低下が少ない。
【0028】
また、冷媒圧力分布は、実線,破線ともに、13A,13Bの2経路に比べ4経路の12A〜12Dで圧力の低下が緩やかになり、単相域よりも二相域で圧力損失が増大しているものの、経路増加により1経路あたりの流量が減少して圧力損失が低下する。さらに、実線では2経路の風下列側及び4経路の風下列側で伝熱管径が大きくなり、圧力損失が大きい二相域において、経路断面積が増加することで圧力損失を低減でき、圧力の低下が緩やかになる。この際、経路断面積増加による冷媒流速低下での冷媒側熱伝達率の低下は、板状フィン側8の空気側熱伝達率が高いため、相殺される。このように、蒸発中の冷媒の圧力損失による圧力低下が緩和されることで、同じ交換熱量で蒸発圧力が上昇し、凝縮側との圧力比を減らすことができるため圧縮動力が減少する。
【0029】
さらに、空気側で着霜が生じる条件においても、風下列に対して風上列の通風抵抗が少なく、着霜は風下列から開始する。このため、風上列から着霜が開始する場合に比べ、板状フィン8間の流路閉塞までの時間が長くなり、着霜条件においても運転時間を長くでき、高効率で快適な空調を実現できる。」

3b)図5





3c)図6




4.引用例4(特開昭59−219669号公報)
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例4には、「ヒ−トポンプ冷暖房装置」に関して図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例4の記載
4a)「本発明の一実施例を第2図〜第5図にもとづいて説明する。第2図において11は圧縮機、12は室内側熱交換器、13は室外側主熱交換器であり、室内側熱交換器12と室外側主熱交換器13の間には2本のキャピラリチューブ17,18を直列に配管し、またその中間点よりキャピラリチューブ19により室外側補助熱交換器14に接続されている。16は室外側の主熱交換器13及び補助熱交換器14と圧縮機11及び四路切換弁15の間に接続した冷媒回路用三路切替弁16である。すなわち、この冷媒流路は三路切替弁16を切替ることにより、室外側主熱交換器13と冷媒回路用四路切替弁15の間の配管P1又は圧縮機11の吐出口と前記四路切替弁15の間の配管P2に接続先が変わるように構成されている。20は室外側の主熱交換器13及び補助熱交換器14を冷却する室外送風機である。
上記構成において四路切替弁15は暖房時および除霜時、第2図の実線の回路となり、冷房時は破線で示す回路とし、又三路切替弁16は暖房時および冷房時第2図の実線の回路となり、除霜時は破線で示す回路とする。このような四路切替弁15,三路切替弁16の切替によって、冷媒の流れは第2図に示した如く、暖房時は実線、冷房時は破線、除霜時は一点鎖線のように流れる。そして、暖房運転時において、室外側送風機20により室外側主及び補助の熱交換器13,14を通過させられる室外空気は、まずA1の状態で補助熱交換器14を通過し、冷却減湿されてA2の状態で主熱交換器13に入る。したがってA1の状態の空気中の水分は大部分が補助熱交換器14のフィン面に結露又は着霜し、A2の状態の空気は水分量が低下しているので主熱交換器13のフィン面にはほとんど結露又は着霜をしない。一方、補助熱交換器14についた霜は定期的に、又はその量を検知して一定以上になった時、図中の一点鎖線で示される如く冷媒を循環させる、いわゆる除霜サイクルを行なってとり除く。この時、キャピラリチューブ17,18,19の分流を調整する事により室内側熱交換器12及び補助熱交換器14に各々適当量の高温高圧ガス状冷媒が流れ、各々の中で凝縮する事により室内側熱交換器12を暖房運転状態に保ったまま、室外側補助熱交換器14の除霜を行なうものである。」(第2ページ右上欄第1行−右下欄第4行)

4b)第2図




5.引用例5(実願昭54−111799号(実開昭56−029759号)のマイクロフィルム)
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例5には、「ヒートポンプ式空気調和装置」に関して図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例5の記載
5a)「先ず、通常の暖房運転中は、容量可変形のコンプレッサ23を低容量運転とし、パイパス電磁弁29を閉、第1、第2電磁弁27、35を開とする。したがって、冷媒はコンプレッサ23,流路25、四方弁24、室内熱交換器22、冷房キャピラリ40、リキッドタンク32、第2暖房キャピラリ39を経て分技点P2に至り、ここから分流して第1室外熱交換器20および第2室外熱交換器21に入り、さらに第1、第2室外熱交換器20、21から出た冷媒は分岐点P1で合流し、四方弁24を経てコンプレッサ23に戻り、このサイクルは通常のヒートサイクルと同じである。
本サイクルが着霜条件になった場合には、図示しない電気制御回路がバイパス電磁弁29を開、第1電磁弁27および第2電磁弁35を閉とし、コンプレッサ23を高能力運転に切換える。すると、コンプレッサ23からの吐出冷媒の一部は、バイパス流路28を通って第1室外熱交換器20を経て第1暖房キャピラリに入るとともに流路25、四方弁24、および利用側熱交換器として作用する室内熱交換器22を経て分岐点P2に至り、2方向の冷媒の流れは流路34の中間において合流し、第2室外熱交換器21において蒸発し、流路26を通って分岐点P1に至り、分岐点P1から流路25を通り四方弁24を経て流路30を通通しコンプレッサ23に戻る。
この際、第1室外熱交換器20は放熱して加熱器として作用し、また、第1室外熱交換器20は熱源側熱交換器として作用する第2室外熱交換器21より送風機に対して上流側に位置しているので、第1室外熱交換器20で暖められた空気は第2室外熱交換器21に送られ、第2室外熱交換器21内での冷媒蒸発温度は上昇する。したがって第2室外熱交換器21の着霜が防止される。
なお、着霜条件に入った場合にコンプレッサ23は高能力運転に切換っているので、第1室外熱交換器20での放熱量は十分カバーされ、室内熱交換器22での放熱量は低下することなく暖房運転が円滑に行なわれる。
本サイクルのコンプレッサを単一容量形とした場合には第1室外熱交換器20に流れる冷煤量だけ室内熱交換器22での放熱量は減少するが、暖房運転は連続的に行なわれ急激な室内温度低下を防ぐことができる。
もし、暖房運転中に室内熱交換器22での高圧が異常に上昇した場合には、バイパス電磁弁29を開、第1、第2電磁弁27、35を閉とすれば高圧ガスを第1室外熱交換器20に送ることができ、そこでの吸熱量を減ずるので速やかに正常運転に復帰できる。
なお、冷房運転においては、四方弁24を切換えるとともにバイパス電磁弁29および第1、第2電磁弁27、35の全ての電磁弁を開とし、冷媒をコンプレッサ23、四方弁24、流路25、流路26、第2室外熱交換器21、流路34、逆止弁37、リキッドタンク32、冷房キャピラリ11、室内熱交換器22、および四方弁24に順に送り、コンプレッサ23に戻すようにして冷房サイクルを形成する。
本考案は、以上のように構成したので、無着霜暖房運転が可能となり、しかもコンプレッサを容量可変形とし、着霜条件下になったときに高能力運転にすれば室温をまったく低下させることなく無着霜暖房運転が可能となり、さらに暖房運転中に室内熱交換器に異常な高圧が発生した場合にも容易に高圧レリースが可能となるという効果が奏する。」(明細書第5ページ第8行−第8ページ第11行)

5b)第2図




6.引用例6(特開2016−114263号公報)
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例6には、「空気調和機」に関して図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例6の記載
6a)「【0052】
室外熱交換器12は、熱交換器部110と、熱交換器部110の下側に設けられたサブクーラ120と、サブクーラ120の下側に設けられたサブクーラ130と、を有している。」

6b)図1




7.引用例7(国際公開第2018/002983号)
原査定に引用され、本願の出願前に頒布された引用例7には、「冷凍サイクル装置」に関して図面とともに次の事項が記載されている。

(1)引用例7の記載
7a)「[0015] 図2に示すように、室外熱交換器14の熱交換領域は、上下方向に並列した3つの熱交換部に分割されている。室外熱交換器14は、熱交換領域のうちの最上方に配置された第1熱交換部41と、第1熱交換部41の下方に配置された第2熱交換部42と、第2熱交換部42の下方であって熱交換領域のうちの最下方に配置された第3熱交換部43と、を有している。本実施の形態において、第1熱交換部41、第2熱交換部42及び第3熱交換部43は、1つの室外熱交換器14の熱交換領域が領域として分割されたものである。このため、第1熱交換部41、第2熱交換部42及び第3熱交換部43は、構造としては一体化している。」

7b)図2




第5 対比・判断
1.本願発明1について
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「非共沸混合冷媒が使用される」、「冷凍サイクル装置」は、本願発明1における「非共沸混合冷媒が使用される」、「冷凍サイクル装置」に相当し、以下同様に、「スクロール圧縮機1」は「圧縮機」に、「室内熱交換器5」は「第1熱交換器」に、「絞り装置4」は「減圧装置」に、それぞれ相当する。
引用発明における「室外熱交換機3」の「入口側のパス数の少ない部分」、「出口側のパス数の多い部分」は、本願発明1における「第2熱交換器」、「第3熱交換器」にそれぞれ相当し、引用発明における「室外熱交換器3に室外の空気を導入する室外ファン」は、本願発明1における「前記第2熱交換器および前記第3熱交換器に送風する送風装置」に相当する。
引用発明における「非共沸混合冷媒は、スクロール圧縮機1、室内熱交換器5、絞り装置4、室外熱交換器3の方向に循環し」は、本願発明1における「前記非共沸混合冷媒は、前記圧縮機、前記第1熱交換器、前記減圧装置、前記第2熱交換器、および前記第3熱交換器の第1循環方向に循環し」に相当する。
引用発明における「室外熱交換器3では入口側のパス数の少ない部分が出口側のパス数の多い部分より圧力損失が大きく」は、圧力損失が大きいことは、流路抵抗が大きいことによるものであることが明らかであるから、本願発明1における「前記第2熱交換器の流路抵抗は、前記第3熱交換器の流路抵抗よりも大きく」に相当する。
引用発明における「室外ファンによって導入された空気」は、本願発明1における「前記送風装置から送風される空気」に相当する。
引用発明における「室外ファンによって導入された空気は、室外熱交換器3の入口側のパス数の少ない部分及び出口側のパス数の多い部分における非共沸混合冷媒の流れと並行流を形成」することは、本願発明1における「前記送風装置から送風される空気は、前記第2熱交換器を流れる冷媒と並行流を形成するとともに、前記第3熱交換器を流れる前記非共沸混合冷媒と並行流を形成」することに相当する。

したがって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「非共沸混合冷媒が使用される冷凍サイクル装置であって、
圧縮機と、
第1熱交換器と、
減圧装置と、
第2熱交換器と、
第3熱交換器と、
前記第2熱交換器および前記第3熱交換器に送風する送風装置とを備え、
前記非共沸混合冷媒は、前記圧縮機、前記第1熱交換器、前記減圧装置、前記第2熱交換器、および前記第3熱交換器の第1循環方向に循環し、
前記第2熱交換器の流路抵抗は、前記第3熱交換器の流路抵抗よりも大きく、
前記送風装置から送風される空気は、前記第2熱交換器を流れる冷媒と並行流を形成するとともに、前記第3熱交換器を流れる前記非共沸混合冷媒と並行流を形成する、
冷凍サイクル装置。」

[相違点1]
本願発明1においては、「前記第2熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第2熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差は、前記第3熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第3熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差よりも大きい」のに対して、引用発明においては、室外熱交換器3の入口側のパス数が少ない部分の入口と出口のエンタルピの差と、室外熱交換器3の出口側のパス数が多い部分の入口と出口のエンタルピの差との大小関係が不明である点。

以下、上記相違点1について検討する。

[相違点1について]
引用例2技術の冷凍装置は、蒸発器5の入り口から分岐管6までの1パスの部分の圧力損失が、分岐管6から蒸発器5の出口までの多パスの熱交換器の圧力損失よりも大きく、1パスの部分に流出入する非共沸混合冷媒のエンタルピ差(図4のホとトの差)は、多パスの熱交換器に流出入する非共沸混合冷媒のエンタルピ差(図4のトとチの差)よりも大きいものであり、これらの作用・機能において本願発明1と共通するものである。
そこで、引用例2技術を引用発明に適用することの適否について検討するに、上記作用・機能を実現する引用例2技術は、図3の左側から上記1パスの蒸発器5に流入して右側に流出した後、多パスに分岐して上記多パスの蒸発器5の右側から流入して左側に流出するものであるから、送風される空気の方向に関する記載はないものの、右側から送風されても左側から送風されても、上記1パスの蒸発器5と上記多パスの蒸発器5を流れる冷媒は、一方が並行流であり、他方が対向流になるものである。すなわち、引用例2技術の上記エンタルピ差は、冷媒に対して送風される空気が、一方は並行流であり他方は対向流である2つの熱交換器のものであって、2つの熱交換器に対して並行流を形成するものではない。
そうすると、引用例2技術は、上記エンタルピ差の大小関係を有するとしても、冷媒に対して送風される空気が、一方は並行流であり他方は対向流である2つの熱交換器のものが有するエンタルピ差である以上、送風される空気が2つの熱交換器を流れる冷媒と並行流の関係を有する引用発明に対して、当該作用・機能を発揮するための構成を捨象して、引用例2技術のエンタルピ差の作用・機能のみを引用発明に適用することはできないものというべきである。
したがって、本願発明1は、引用発明及び引用例2技術に基いて当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
また、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、引用例3ないし7のいずれにおいても記載がないから、本願発明1は、引用例1ないし7に基いて当業者が容易に想到し得たとはいえない。

2.本願発明2ないし8について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし8は、請求項1の記載を他の記載と置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし8は本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本願発明2ないし8は、本願発明1と同様の理由により引用例1ないし7に基いて当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

第6 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1ないし8に係る発明について、引用例1ないし7に記載された発明に基いて当業者が容易に想到し得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
<引用例一覧>
1.特開平10−068560号公報
2.特開平07−190571号公報
3.特開2012−052676号公報
4.特開昭59−219669号公報(周知技術を示す文献)
5.実願昭54−111799号(実開昭56−029759号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)
6.特開2016−114263号公報(周知技術を示す文献)
7.国際公開第2018/002983号(周知技術を示す文献)

しかし、本件補正により補正された請求項1ないし8に係る発明は、「前記第2熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第2熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差は、前記第3熱交換器に流入する前記非共沸混合冷媒のエンタルピと前記第3熱交換器から流出する前記非共沸混合冷媒のエンタルピとの差よりも大きい」ことを発明特定事項として含むものであるから、上記第5で判断したとおり、本願発明1ないし8は、引用例1ないし7に基いて当業者が容易に想到し得たとすることはできない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし8は、当業者が引用例1ないし7に基いて容易に発明し得たとすることはできない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2022-11-09 
出願番号 P2020-532107
審決分類 P 1 8・ 575- WY (F25B)
P 1 8・ 121- WY (F25B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 間中 耕治
特許庁審判官 マキロイ 寛済
松下 聡
発明の名称 冷凍サイクル装置  
代理人 弁理士法人深見特許事務所  

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