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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D |
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管理番号 | 1391941 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-07-27 |
確定日 | 2022-11-04 |
事件の表示 | 特願2022− 58296「非水性インク組成物、記録方法、及び記録物の製造方法」拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願(以下「本願」という。)は、令和4年3月31日(優先権主張 令和3年3月31日(以下「本願優先日」という。) 日本国)の出願であって、令和4年5月6日付けで拒絶理由が通知され、同年6月6日に意見書の提出と共に手続補正がされ、同年6月13日付けで拒絶査定がされ(謄本発送は同年6月21日)、同年7月27日に本件審判請求がされたものである。 第2 本願発明など 1 本願発明の認定 本願の請求項1〜9に係る発明は、令和4年6月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜9の記載により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「プラスティック収容体及び/又はプラスティック供給体を備える装置により基材に塗布される非水性インク組成物であって、 有機溶剤Aを含有し、 前記有機溶剤Aは、アミド系溶剤を含有し、 前記アミド系溶剤は、下記式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を含有し、 前記有機溶剤Aは、下記の保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下である、 非水性インク組成物。 保管試験:低密度ポリエチレンチューブに有機溶剤Aを充填して密閉し、50℃、1週間保管する。 【化1】 (式(1)中、R1は、水素若しくは炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R2R3は、それぞれ独立して、炭素数2以上4以下のアルキル基を表す。)」 2 本願明細書の記載 本願明細書には、次の記載がある。 (1)「【0028】 なお、本明細書において、プラスティック収容体は非水性インク組成物を収容するプラスティック収容体であり、プラスティック供給体は非水性インク組成物を基材に供給して塗布するプラスティック供給体を意味する。例えば、装置がインクジェット記録装置である場合には、プラスティック収容体は非水性インク組成物を収容するインクカートリッジであり、プラスティック供給体は、インクカートリッジとインクジェットヘッドとを接続するプラスティックチューブである。」 (2)「【0035】 [有機溶剤A] 有機溶剤Aは、下記の保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下である溶剤である。 【0036】 保管試験:低密度ポリエチレンチューブに有機溶剤Aを充填して密閉し、50℃、1週間保管する。 ・・・ 【0038】 このような保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下である有機溶剤としては、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(10質量%)、トリエチレングリコール モノ−n−ブチルエーテル(3質量%)等のグリコールエーテルモノアルキル、N,N−ジエチルホルムアミド(11質量%)、N,N−ジエチルプロパンアミド(揮発率は12%)、N,N−ジエチルアセトアミド(揮発率は13%)等のアミド系溶剤、プロピレンカーボネート(1質量%)等の炭酸エステル、γ−ブチロラクトン(6質量%)、ε−カプロラクトン(3質量%)等の環状エステル等が挙げられる。この中でも、N,N−ジエチルホルムアミド等のアミド系溶剤、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステルは、揮発する揮発率が少ないことに加えて、非水性インク組成物の樹脂基材に対する印字の滲みを効果的に抑制することができるため好ましく、中でもN,N−ジエチルホルムアミド等のアミド系溶剤が特に好ましい。」 (3)「【0049】 [その他の有機溶剤] 有機溶媒には、上記の有機溶剤A以外のその他の有機溶剤を含有していてもよい。具体的には、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテルジアルキル、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチルヘキシルケトン、メチルイソアミルケトン、ジエチルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチルイソプロピルケトン、エチル−n−ブチルケトン、エチルイソブチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、イソホロン、アセチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル等の酢酸エステル類、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸プロピル、乳酸エチルヘキシル、乳酸アミル、乳酸イソアミル等の乳酸エステル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2−メチルブチルアセテート、3−メトキシブチルエーテルアセテート、シクロヘキシルアセテート等のアセテート類、n−ヘキサン、イソヘキサン、n−ノナン、イソノナン、ドデカン、イソドデカン等の飽和炭水素類、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等の不飽和炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、デカリン等の環状飽和炭化水素類、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、1,1,3,5,7−シクロオクタテトラエン、シクロドデセン等の環状不飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、N−ホルミルモルホリンなどのモルホリン類、テルペン系溶剤、およびエーテル系溶剤など、一般的な有機溶剤であって、保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下の溶剤に該当しないものを挙げることができる。組み合わせる樹脂や分散剤などに応じて、適切なHLB値の溶剤を選択することが好ましい。」 (4)「【0123】 【表2】 【0124】 【表3】 【0125】 【表4】 【0126】 【表5】 【0127】 【表6】 【0128】 【表7】 ・・・ 【0131】 表中、「DEF」とは、N,N−ジエチルホルムアミドである。」 第3 原査定の概要 令和4年6月13日付けの拒絶査定(以下「原査定」という。)は、次の理由を含むものである。 「●理由1(特許法第29条第1項第3号),理由2(特許法第29条第2項)について ・請求項 1−9 ・引用文献等 5 出願人は、補正により、有機溶剤Aを、式(1)(式(1)中、R1は、水素若しくは炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R2R3は、それぞれ独立して、炭素数2以上4以下のアルキル基を表す。)で表されるアルキルアミド系溶剤に特定した上で、意見書において、文献5には、実施例として、所定量のN,N−ジメチルホルムアミドを混合して得られる非水性インクジェットインキ(非水性インク組成物)が記載されているものの、N,N−ジメチルホルムアミドは上記式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤には該当しないこと、から、文献5には、補正後の請求項1で特定する式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を含有することについて記載も示唆もないこと、本願発明は、式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤であるN,N−ジエチルホルムアミドを含有することにより、アミド系溶剤ではないγ−ブチロラクトンを含有する非水性インク組成物(実施例10)に比して、部材適性が良好であること(実施例5)、アミド系溶剤ではないグリコールエーテルモノアルキル(ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル)を含有する非水性インク組成物(実施例19、20)に比して、面乾燥性評価が良好であること(実施例5)、から、補正後の請求項1は進歩性を有するものである旨主張している。 上記主張について検討するに、文献5(特許請求の範囲、段落0013−0017,0027−0041等)には、有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、該有機溶剤がポリ塩化ビニル樹脂を全く溶解しないか、ほとんど溶解しない有機溶剤に対し、ポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤を1〜30重量%含有するポリ塩化ビニル樹脂シート用非水性インクジェットインキが開示され、上記ポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤が一般式(2)で示される溶剤であること、上記一般式(2)で示される溶剤として、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等が挙げられることが記載されており、上記文献5に記載の非水性インクジェットインキには、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等を含有する組成が包含されていると認められる。確かに、実施例としては、例えば、顔料分散体11.4部と、重量平均分子量22,000である塩化ビニル−酢酸ビニル樹脂であるVYDH4.0部と、乳酸ブチル59.6部と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート10.0部と、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル10.0部と、N,N−ジメチルホルムアミド5.9部とを混合して得られる非水性インクジェッインキ等が記載されているのみにとどまるものの、上記一般式(2)で示される溶剤として、N,N−ジエチルホルムアミド等を使用することは記載されているから、文献5には、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等の一般式(2)で示される溶剤と、顔料と、樹脂とからなる非水性インクジェットインキが記載されていると認められる。 そして、本願の構成を有することによる効果について、本願の明細書の実施例及び比較例等を検討してみても、N,N−ジエチルホルムアミドを含有することによる効果は、N,N−ジメチルホルムアミド等の場合と比して格別顕著なものであるか否かは不明であるから、上記出願人の主張は採用できない。 <引用文献等一覧> 5.特開2005−015672号公報」 第4 当審の判断 1 引用文献の記載 前記第3の原査定に引用された引用文献5には、次の記載がある。 (1)「【請求項1】 有機溶剤、顔料および樹脂からなる非水性インクジェットインキにおいて、該有機溶剤がポリ塩化ビニル樹脂を全く溶解しないか、ほとんど溶解しない有機溶剤に対し、ポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤を1〜30重量%含有することを特徴とするポリ塩化ビニル樹脂シート用非水性インクジェットインキ。 ・・・ 【請求項3】 ポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤が下記一般式(1)もしくは一般式(2)で示される請求項1または請求項2記載のポリ塩化ビニル樹脂シート用非水性インクジェットインキ。 【化1】 一般式(1) (式中、R1は炭素数3〜11のアルキレン基、R2は水素原子またはメチル基を表す。) 一般式(2) (式中、R3、R4、はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)」 (2)「【0013】本発明に使用するポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤は下記一般式(1)もしくは一般式(2)で示されるものを使用すると、その効果が大きい。 【化3】 一般式(1) (式中、R1は炭素数3〜11のアルキレン基、R2は水素原子またはメチル基を表す。) 一般式(2) (式中、R3、R4、はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。) ・・・ 【0015】一般式(2)で示される溶剤の具体例としては、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド等があげられるが、沸点、溶解性を考慮するとN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドを使用するのが好ましい。」 (3)「【0027】【実施例】以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は「重量部」を表す。 【0028】まず、下記のような配合で顔料分散体Aを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約1時間分散して作成した。 ・・・ 【0030】更に、下記のような配合で顔料分散体Cを作成した。この分散体は有機溶剤中に顔料および分散剤を投入し、ハイスピードミキサー等で均一になるまで撹拌後、得られたミルベースを横型サンドミルで約2時間分散して作成した。 ・・・ 【0033】[実施例3]上記顔料分散体を下記配合処方にてインキ化し、インクジェットインキを得た。 【0034】[実施例4]上記顔料分散体を下記配合処方にてインキ化し、インクジェットインキを得た。 」 (4)「【0039】実施例1〜4、比較例1〜4で得られたインクジェットインキをIP−6500(セイコーアイ・インフォテック社製、大判インクジェットプリンタ)にて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに印刷し、印刷面をラビングテスター(テスター産業製、型式AB301)にて密着性を評価。評価条件としては試験用布片(金巾3号)にて加重200g、50往復で実施した。」 2 インクジェット装置の周知例に関する記載 (1)特開2007−296640号公報には、次の記載がある。 ア「【請求項1】 液体を吐出するための吐出口と液体に運動エネルギーを印加するための吐出エネルギー発生素子が複数個設けられた液体噴射ヘッドと、前記液体噴射ヘッドへ供給する液体を貯蔵する液体貯蔵タンクと、前記液体吐出動作中であっても前記液体貯蔵タンクから前記液体噴射ヘッド内を通過して前記液体貯蔵タンクへ戻ってくる液体循環経路内で液体を循環可能な液体供給系を有し、 前記液体噴射ヘッドから前記液体貯蔵タンクへ戻ってくる液体経路の少なくとも一部は気体透過性の高い材料で構成され、前記液体貯蔵タンクから前記液体噴射ヘッドへ液体が流れていく液体経路は気体透過性の低い材料で構成されていることを特徴とする液体噴射記録装置。」 イ「【0046】 図1で示すように、本実施例のインク供給系は、液貯蔵タンク161から、チューブ165、液供給ポンプ162、チューブ166を介して、インクジェットヘッド103に設けられた液流入口113に液体が供給可能なように接続され、一方、インクジェットヘッド103の液流出口114から、チューブ167、液吸引ポンプ163、チューブ168を介して、液貯蔵タンク161へ液体を回収可能なように接続されている。また、液貯蔵タンク161には、タンク冷却装置169が配設されている。本実施例では、いずれのチューブもその外側が断熱材で覆われている。 【0047】 液貯蔵タンク161と、インクジェットヘッド103へインクを供給する側のチューブ165、チューブ166は、気体透過性が低く、かつ、インクに対する耐性を有する樹脂であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂により構成されている。一方、インクジェットヘッド103からインク貯蔵タンクへ戻ってくる側のチューブ167、チューブ168は、気体の透過性が高く、かつ、インクに対する耐性を有する樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂により構成されている。」 ウ「【図1】 」 (2)特開2013−177525号公報には、次の記載がある。 ア「【請求項1】 下記一般式(I): CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3 ・・・(I) (式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。) で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、ヒンダードアミン化合物と、を少なくとも含み、かつ、 溶存酸素量が20ppm以下である紫外線硬化型インクジェット記録用インク組成物を収容した、インク収容体。 ・・・ 【請求項10】 請求項1〜8のいずれか1項に記載のインク収容体に収容された前記紫外線硬化型インクジェット記録用インク組成物を、ヘッドから吐出する吐出手段を少なくとも備えた、インクジェット記録装置。」 イ「【0001】 本発明は、インク収容体、当該収容体に収容されている紫外線硬化型インクジェット記録用インク組成物、及びインクジェット記録装置に関する。」 ウ「【0082】 また、インク収容体の構成材料としては、以下に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)等のプラスチック、各種の金属(合金を含む。)、並びにポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、及びポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。だが、これらに限らず、上記の各ポリマーを適当な比率で配合あるいはラミネートして得られるポリマーやそのフィルム等であってもよい。 【0083】 インク収容体の構成材料の中でも、インク組成物に接触する構成材料、即ちインクと接触してインクを包含する部材の酸素透過度(以下、単に「酸素透過度」と言う。)は、5.0cc・20μm/(m2・day・atm)以下が好ましく、2.0cc・20μm/(m2・day・atm)以下がより好ましい。酸素透過度が上記範囲内であると、保管中のインク組成物の溶存酸素量が変化しにくくなる。上記の構成材料ないし部材としては、特に限定されることはない。インクパックの場合、フィルムを熱融着(ヒートシール)して袋状に加工して用いることができる。インクパックに用いるフィルムとしては、高密度、低密度、又は線状低密度のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、及びポリスチレン、等の延伸プラスチックフィルムが挙げられる。複数層のフィルムを貼りあわせた積層フィルムとしてもよい。上記のフィルムで上記酸素透過度が得られる場合はフィルムのみから構成してもよいし、上記のフィルムにガスバリア層を積層することで酸素透過度を確保してもよい。ガスバリア層は、アルミニウム層などの金属層、酸化ケイ素や酸化アルミニウム層などの無機酸化物層を用いてもよいし、上記のフィルムのなかでも酸素透過度の低いエチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールなどを積層してもよい。フィルムの総膜厚としては50μm以上が好ましく、70μm以上が好ましく、70〜200μmがより好ましい。上記膜厚であると保管中のインク組成物の溶存酸素量が変化しにくく、パックの強度や柔軟性が得られる。これらの中でも酸素透過度が低く、強度が優れる点で、エチレン-ビニルアルコール共重合体からなるフィルムが好ましい。また、パック以外の収容体の場合は、上記の他に、その他の合成樹脂、ガラス、及び金属などが挙げられる。」 エ「【0086】 ここで、本実施形態のインク収容体の一例であるインクパックについて説明する。図1は、インクパック1を示す斜視図である。インクパック1は、インク取り出し口2とフィルム10とから構成される。フィルム10の材質は上述のものを使用することができる。インクパック1は、輸送中の保護のために、図示しない箱状の容器内に収められていてもよい。インクパック1は、インクカートリッジとして上述の使用態様(A)のように用いることができるが、インクパック1の使用態様はこれに限られない。」 オ「【0091】 [インクジェット記録装置] また、本発明の一実施形態は、上記のインクジェット記録方法により記録を行うインクジェット記録装置に係る。図2は本実施形態のインクジェット記録装置のヘッドの周囲の一例を表す概略図である。 【0092】 サブタンク200はインクカートリッジ(図示せず)からインクの供給を受け、加圧ポンプ202によってインクを脱気機構の一例である脱気モジュール204、ヒーター220の順に通過させて、複数個設けられたヘッド100に供給する。 【0093】 ヘッド100は被記録媒体(図示せず)にインクを吐出するものである。圧力調整弁108は開弁アクチュエーター320によって開弁され、サブタンク200からヘッド100へインクを供給する際のインクの圧力を調整する。 脱気モジュール204を通過したインクは、圧力調整弁108が開弁すると、分岐継手106に流入する。分岐継手106の内部では、往路214が複数の通路に分岐されて、複数個のヘッド100に接続されている。 ヘッド100から吐出されなかったインクは、開閉バルブ212が開いた状態において、統合継手210及び復路216を介してサブタンク200へ循環される。サブタンク200とヘッド100との間にインクを循環させることで、インクが長期滞留してインク成分が分離、沈降した場合にこれを回復させたり、循環するインクの温度を一定にしたりすることができる。インクはヒーター218,220,222によって加熱されることで粘度が低下し、ヘッド100からの吐出に適した粘度となり、ヘッド100から吐出される。」 カ「【0124】 〔1.保存安定性〕 インク収容体として、上述の図1に示されるようなインクパックを用意した。各実施例及び各比較例のインク組成物を、当該インクパック内に密封し、60℃のオーブンで20日間保管した。そして、保管前後の増粘率を求めた。なお、上記インクパックの容量は700mLであり、フィルムをエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム(フィルムの酸素透過度は2.0cc・20μm/(m2・day・atm)、フィルムの膜厚は100μm)とした。 評価基準は下記のとおりである。評価結果を上記表に示した。 A:3%以下 B:3%を超えて6%以下 C:6%を超えて9%以下 D:9%を超えて12%以下 E:12%超」 キ「【図1】 【図2】 」 (3)特開2004−249741号公報には、次の記載がある。 ア「【請求項1】 内部にインキを充填するインキタンクと、このインキタンク内のインキを吸引機構を介して吸引する第1のチューブと、この第1のチューブに連結され前記インキを必要量噴出するインキ噴出部と、このインキ噴出部に連結されこのインキ噴出部より噴出されない前記インキを前記インキタンクに循環する第2のチューブとからなるインキジェット装置。」 イ「【0028】 図2は本発明の実施例1におけるインキジェット装置を説明する図である。 【0029】 図において、11はインキタンクで、内部に内部電極を形成する上述した実施例1の電子部品用インキ4を充填してなるものである。このインキタンク11内には、中途にポンプ等からなる吸引機構13を介してインキ2を吸引する透明または半透明な樹脂等からなる第1のチューブ14を備えている。この第1のチューブ14のインキタンク11側と反対側には、インキ噴出部3を連結している。インキ噴出部3は、第1のチューブ14から供給されたインキ2を被印刷体に向かって必要量だけインキ小滴5として、外部へ噴出するものである。このインキ噴出部3の第1のチューブ14側と反対側には、透明または半透明な樹脂等からなる第2のチューブ17を連結している。この第2のチューブ17は、ポンプ等からなる調整用吸引機構18を介して、インキ噴出部3で噴出されなかったインキ2を吸引して、インキタンク11内に循環させている。調整用吸引機構18は、インキ噴出部3におけるインキ2の圧力を調整し、インキ噴出量を安定化するものである。 【0030】 以上のように構成されたインキジェット装置を、市販されているインキジェットプリンタに付属されているインキカートリッジに相当する部分に装着して、インキジェット印刷装置として用いるものである。」 ウ「【図2】 」 (4)特開2008−254189号公報には、次の記載がある。 ア「【請求項1】 ヘッドフレーム体に、インクカートリッジを着脱するインクカートリッジホルダとインク配管体とインクジェットヘッドを積層状態に組み合わせ、上記インク配管体を介して上記インクカートリッジから上記インクジェットヘッドに対してインク供給が行われ、 上記インク配管体が、 所定の厚みを有して略プレート状に形成された基体部に、上記ヘッドフレーム体に設けた位置決め取付部に対して着脱自在な取付部と上記インクカートリッジ及び上記インクジェットヘッドに設けた接続管にそれぞれ着脱自在に結合される第1接続管部及び第2接続管部を一体に形成するとともに、上記基体部の主面に上記第1接続管部及び第2接続管部に連通して所定のパターンを以って配管凹部や貫通孔を形成した配管プレート体と、 上記配管プレート体の上記基体部の主面に所定の上記配管凹部や上記貫通孔をそれぞれ封止するように接合されることによりインク流路を構成する封止シートとから構成され、 上記取付部と相対する上記位置決め取付部を介して上記ヘッドフレーム体に組み合わされるとともに、組み合わせ状態において上記第1接続管部及び上記第2接続管部と相対する上記接続管がそれぞれ結合されることにより上記ヘッドフレーム体に組み合わされた上記インクカートリッジと上記インクジェットヘッドとの間でインク配管路を構成することを特徴とするインクジェットプリンタ装置。 ・・・ 【請求項3】 上記インクカートリッジから供給されるインクを蓄えるインクタンクと上記インクジェットヘッドとの間でインクを循環させるインク循環ポンプを備え、 上記インク配管体が、 上記インクタンクと上記インクジェットヘッドが組み合わされ上記インクタンクから上記インクジェットヘッドに供給されるインクが流れるインク供給配管路と、上記インクジェットヘッドから上記インク循環ポンプに還流されるインクが流れる第1インク還流配管路と、上記インク循環ポンプから上記インクタンクに還流されるインクが流れる第2インク還流配管路が形成された第1インク配管体と、 上記第1インク配管体と上記インク循環ポンプに組み合わされ上記第1インク還流配管路から上記インク循環ポンプに引き込まれるインクが流れる第3インク還流配管路と、上記インク循環ポンプから上記インク還流配管路に送り出されるインクが流れる第4インク還流配管路が形成された第2インク配管体と から構成されることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットプリンタ装置。」 イ「【0001】 本発明は、インクジェットプリンタ装置に関し、特にインクカートリッジから供給されるインクを蓄えるインクタンクとインクジェットヘッドとの間でインクを循環させるインク配管機構を備えるインクジェットプリンタ装置(以下、プリンタ装置と略称する。)に関する。」 ウ「【0060】 上述した第1インク配管体21について、図9及び図10を参照してさらに詳細に説明する。第1インク配管体21は、インクとの相性、接液性或いはガス透過性等の特性を有する合成樹脂、例えばポリエチレン(PE)樹脂やポリプロピレン(PP)樹脂により所定の長さと厚みを有して略横長矩形のプレート状に一体に形成された基体部60と、この基体部60の第1主面61と第2主面62にそれぞれ熱溶着等により接合される複数の第1封止シート63及び第2封止シート64とから構成される。」 エ「【図9】 【図10】 」 (5)特開2019−209515号公報には、次の記載がある。 ア「【請求項9】 インク、前記インクが循環するインク循環路、及び前記インクの少なくとも一部が前記インク循環路から供給される記録ヘッドを具備するインクジェット記録装置であって、 前記インク循環路の少なくとも一部が、フッ素系樹脂で形成されており、 前記インクが、体積平均粒径(nm)が200nm以上500nm以下である酸化チタン、及び第1成分を含有し、 前記第1成分が、インク中の含有量(ppm)が10ppm以上500ppm以下であるジルコニウム、樹脂粒子、及びアルカノールアミンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とするインクジェット記録装置。」 イ「【0022】 図1は、インクジェット記録装置のインク循環路の一例を示す模式図である。図1(a)のインクジェット記録装置は、インク循環路1と記録ヘッド2が連通しているため、循環するインクの一部が記録ヘッド2に供給されることとなる。図1(b)〜(e)のインクジェット記録装置は、インク循環路1と記録ヘッド2を連通させる代わりに、インク循環路1の分岐部から分岐するインク供給路3と記録ヘッド2を連通させている。これにより、循環するインクの一部がインク供給路3に流れて、記録ヘッド2に供給されることとなる。 【0023】 インク循環路1は、インクを収容するインク収容部4と連通していることが好ましい。図1(b)〜(d)のインクジェット記録装置内のインクの流れは、以下の通りである。インク収容部4から流出したインクは、インク循環路1を通り、インク循環路1の分岐部まで流れる。その分岐部において、インク循環路1内の一部のインクがインク供給路3に流れ、記録ヘッド2に供給される。インク循環路1内の残りのインクは、インク循環路1を通り、インク収容部4に流入することで、インク循環路1内のインクが循環される。図1(e)のように、吐出されなかったインクが記録ヘッド2から流出して、インク循環路1内のインクと合流することが可能な流路を有するインクジェット記録装置を使用することも可能である。 【0024】 また、インク循環路1内のインクを循環させるために、ポンプなどのインクを循環させる手段をインク循環路1内に有していることが好ましい。」 ウ「【0026】 (インク循環路) インク循環路1の少なくとも一部は、フッ素系樹脂で形成されている。フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、六フッ化エチレンプロピレン樹脂(PFEP)、エチレン・テトラフルオロエチレン樹脂(PETFE)、三フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・ビニリデンフロライドの3種類のモノマーからなる樹脂(THV)などである。なかでも、フッ素系樹脂は、PTFE、及びTHVの少なくとも一方であることが好ましい。 【0027】 なかでも、インク循環路1は、チューブで構成されており、チューブの長さの40%以上が、フッ素系樹脂で形成されていることが好ましい。チューブの長さの40%未満がフッ素樹脂で形成されている場合、インク循環路1にインクが付着しやすく、流れの抵抗が増加するため、インクの流速が大きくなりにくい場合がある。チューブの長さの100%以下が、フッ素系樹脂で形成されていることが好ましい。」 エ「【0076】 <評価> imagePROGRAF PRO−2000(キヤノン製)のインク供給系を改造して評価を行った。改造した点は、以下の通りである。 (1)インク収容部から流出したインクが再びインク収容部に戻るようにインクが循環するようなインク循環路を設けたこと (2)インク循環路及びインク供給路などのインク流路は、チューブ(内径:4mm、フッ素系樹脂(EXLON−THV 軟質フッ素樹脂チューブ、イワサ製))で構成したこと (3)インク収容部の重力方向下側にインクの流出口を設け、インク収容部の重力方向上側にインクの流入口を設けたこと (2)については、チューブの長さに占めるフッ素系樹脂の割合(%)を表8に記載の値になるようにした。」 オ「【図1】 」 3 引用発明の認定 引用文献5の請求項1(前記1の摘記(1))より、引用文献5に開示される非水性インクジェットインキは、ポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤を少なくとも含有することが把握でき、請求項3(前記1の摘記(1))及び段落【0013】(前記1の摘記(2))より、前記ポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤として、一般式(2)で示される溶剤が挙げられることが把握でき、段落【0015】(前記1の摘記(2))より、一般式(2)で示される溶剤の具体例としては、沸点、溶解性を考慮するとN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドを使用するのが好ましいことが把握できる。 そうすると、引用文献5には、非水性インクジェットインキに含まれるポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤が一般式(2)で示される溶剤であり、その溶剤がN,N−ジエチルホルムアミドである場合の態様も、好ましいことの3つの例のうちの1つとして具体的に記載されていると認められる。 また、引用文献5の段落【0039】(前記1の摘記(4))には、インクジェットインキを大判インクジェットプリンタにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに印刷する実施態様も具体的に記載されている。 したがって、引用文献5から次の発明(以下「引用発明」という。)が認定できる。 「大判インクジェットプリンタにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに印刷される、非水性インクジェットインキであって、 該非水性インクジェットインキが、有機溶剤としてポリ塩化ビニルを全く溶解しないか、ほとんど溶解しない有機溶剤に対し、ポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤かつ下記一般式(2)で示される溶剤としてN,N−ジエチルホルムアミドを1〜30重量%含有する、 非水性インクジェットインキ。 一般式(2) (式中、R3、R4、はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)」 4 対比 本願発明と引用発明を対比する。 (1)本願明細書の段落【0035】(前記第2の2摘記(2))の「[有機溶剤A]有機溶剤Aは、下記の保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下である溶剤である。」、段落【0049】(前記第2の2摘記(3))の「[その他の有機溶剤]有機溶媒には、上記の有機溶剤A以外のその他の有機溶剤を含有していてもよい。」との記載や、本願明細書の表2〜7(前記第2の2摘記(4))では、N,N−ジエチルホルムアミド(DEF;揮発率11質量%)を含む揮発率1〜11質量%すなわち15質量%以下の溶剤が「有機溶剤A」であって、揮発率16〜77質量%すなわち15質量%超の溶剤が「その他の有機溶剤」として記載されていることを踏まえると、本願発明の「有機溶剤Aを含有し、 前記有機溶剤Aは、アミド系溶剤を含有し、 前記アミド系溶剤は、下記式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を含有し、 前記有機溶剤Aは、下記の保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下である、 非水性インク組成物。」 とは、非水性インク組成物を構成する溶剤の少なくとも一部として、揮発率が15質量%以下である有機溶剤Aを含有すること、及び、揮発率が15質量%以下である有機溶剤Aの少なくとも一部として、式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を含有することを規定したものであって、非水性インク組成物を構成する溶剤に、揮発率が15質量%以下であり、式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を有機溶剤Aとして含有させたものであるといえる。 一方、本願発明では、「揮発率が15質量%以下である有機溶剤A」ではない溶剤の有無、「式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤」ではない「揮発率が15質量%以下である有機溶剤A」の有無や、非水性インク組成物、全溶剤、揮発率が15質量%以下である有機溶剤Aのそれぞれに占める「式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤」の含有割合については、何ら規定されていない。したがって、引用発明において、「ポリ塩化ビニルを全く溶解しないか、ほとんど溶解しない有機溶剤」の存在が特定されていること及びN,N−ジエチルホルムアミドの重量%が特定されていることは、本願発明との相違点にはならない。 (2)本願発明にいう「下記の保管試験により揮発する揮発率」は、有機溶剤の化合物種によって一義的に決まる値である。そして、本願明細書の段落【0038】(前記第2の2摘記(2))及び表2〜7(前記第2の2摘記(4))の記載によると、N,N−ジエチルホルムアミド(DEF)の揮発率は11質量%であるから、引用発明の「N,N−ジエチルホルムアミド」もその揮発率は、本願優先日以前から11質量%であったものである。 したがって、引用発明の「N,N−ジエチルホルムアミド」は、本願発明の「下記の保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下である」を充足するので、本願発明の「有機溶剤A」に相当すると共に、本願発明の「アミド系溶剤」にも相当する。 (3)引用発明の「N,N−ジエチルホルムアミド」は、本願発明の式(1)において、R1が水素かつR2、R3が炭素数2のアルキル基である化合物に相当するから、本願発明の「下記式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤」を充足する。 (4)前記(1)〜(3)の検討より、引用発明の「該非水性インクジェットインキが、・・・溶剤としてN,N−ジエチルホルムアミドを・・・含有する」は、本願発明の「有機溶剤Aを含有し、 前記有機溶剤Aは、アミド系溶剤を含有し、 前記アミド系溶剤は、下記式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を含有し、 前記有機溶剤Aは、下記の保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下である、 非水性インク組成物。」を充足するといえる。 (5)引用発明の「大判インクジェットプリンタにて表面が無処理のポリ塩化ビニル樹脂シートに印刷される」は、本願発明の「装置により基材に塗布される」に相当する。 5 一致点 そうすると、本願発明と引用発明は、次の点で一致する。 「装置により基材に塗布される非水性インク組成物であって、 有機溶剤Aを含有し、 前記有機溶剤Aは、アミド系溶剤を含有し、 前記アミド系溶剤は、下記式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を含有し、 前記有機溶剤Aは、下記の保管試験により揮発する揮発率が15質量%以下である、 非水性インク組成物。 保管試験:低密度ポリエチレンチューブに有機溶剤Aを充填して密閉し、50℃、1週間保管する。 【化1】 (式(1)中、R1は、水素若しくは炭素数1以上4以下のアルキル基であり、R2R3は、それぞれ独立して、炭素数2以上4以下のアルキル基を表す。)」 6 相違点 一方、本願発明と引用発明は、次の点で一応相違する。 (一応の相違点) 非水性インク組成物を基材に塗布するための「装置」が、本願発明では、「プラスティック収容体及び/又はプラスティック供給体を備える装置」であるのに対し、引用発明では、「大判インクジェットプリンタ」である点。 7 一応の相違点についての判断 まず、本願明細書の段落【0028】(前記第2の2摘記(1))の記載を参酌すると、本願発明の「プラスティック収容体」、「プラスティック供給体」とは、インクを収容ないし供給するための部材で、プラスティック製のものを指すと解される。 そして、大判インクジェットプリンタは、その機能及び一般的構造からみて、インクカートリッジのような、印刷、塗布に供されるまでインクを貯蔵、収容するための収容体や、インクカートリッジからインクジェットヘッドにインクを供給するチューブのような、インクを供給するための供給体を当然有すると解される。また、前記2(1)〜(5)で摘記したインクジェット装置の周知例に記載されるように、インクジェット装置におけるインク収容体やインク供給管チューブは、一般に樹脂等のプラスチック製である。 そうすると、引用発明の「大判インクジェットプリンタ」は、本願発明の「プラスティック収容体及び/又はプラスティック供給体を備える装置」を充足すると推認され、前記相違点は実質的な相違点ではない。 また、引用発明の「大判インクジェットプリンタ」におけるインク収容体やインク供給体の材質が仮に不明であるとしても、その材質を一般的なインクジェット装置におけるインク収容体やインク供給管チューブと同様の材質、すなわち樹脂等のプラスチック製とすることは、当業者が適宜なし得ることであり、そのことを妨げる格別の阻害要因や困難性は認められない。 8 請求人の主張の検討 請求人は、審判請求書において、本願発明の式(1)で表された特定構造のアルキルアミド系溶剤を含有する非水性インク組成物の優位性を立証する追加試験として、本願実施例5におけるN,N−ジエチルホルムアミドをN,N−ジメチルホルムアミドに置換した場合の追加試験例及びその評価結果(チューブ揮発性、クリーニング回復性、表面乾燥性、部材適性、吐出安定性)を示した上で、「このため、式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を含有することで、プラスティック収容体やプラスティック供給体内で非水性インク組成物が増粘したり、詰まることを抑制するという本願発明の効果を効果的に奏しつつ、さらに、記録乾燥性の高い記録物が得られることが可能となる上、部材適性も良好とすることが可能となります。」(第4頁第23行〜最終行)、「さらに、文献5には、N,N−ジエチルホルムアミドのような本願補正後の請求項1で特定する式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤を含有することにより当該効果を奏することについて記載も示唆もされておりません。」(第5頁第6〜8行)等と主張する。 しかしながら、前記3で述べたとおり、引用文献5には、非水性インクジェットインキに含まれるポリ塩化ビニル樹脂が可溶な有機溶剤が一般式(2)で示される溶剤であり、その溶剤がN,N−ジエチルホルムアミドである場合の態様も具体的に記載されている。また、引用文献5から認定される引用発明の非水性インクジェットインキがN,N−ジエチルホルムアミドを含有し、この「N,N−ジエチルホルムアミド」が本願発明の「下記式(1)で表されるアルキルアミド系溶剤」を充足することは、前記3及び4(3)で述べたとおりである。そして、アルキルアミド系溶剤が相違点ではないから、作用効果上の差異もないことになる。 したがって、請求人の前記主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の発明に該当すると共に、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-08-31 |
結審通知日 | 2022-09-06 |
審決日 | 2022-09-22 |
出願番号 | P2022-058296 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C09D)
P 1 8・ 113- Z (C09D) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判官 |
田澤 俊樹 門前 浩一 |
発明の名称 | 非水性インク組成物、記録方法、及び記録物の製造方法 |
代理人 | 林 一好 |
代理人 | 正林 真之 |