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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  E01C
管理番号 1391975
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-10-26 
確定日 2022-09-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6690854号発明「路面切削用の自走式道路切削機、特に大型切削機、および路面切削の方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6690854号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−13〕、14について訂正することを認める。 特許第6690854号の請求項1、3ないし6、12ないし14に係る特許を取り消す。 特許第6690854号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6690854号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜14に係る特許についての出願は、平成25年3月8日(パリ条約による優先権主張2012年3月8日、独国)に出願された特願2013−46747号の一部を分割して特願2014−157748号として出願し、さらにその一部を分割して特願2016−215255号として出願し、さらにその一部を分割して平成30年4月9日に特願2018−74655号として出願されたものであって、令和2年4月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年4月28日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年10月26日 :特許異議申立人範多機械株式会社(以下「申
立人」という。)による請求項1〜6及び1
2〜14に係る特許に対する特許異議の申立

令和2年12月25日付け:取消理由通知書
令和3年 4月 6日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 5月13日 :申立人による意見書の提出
令和3年 7月 1日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年11月 8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年12月25日差出:申立人による意見書の提出
令和4年 2月10日付け:申立人への審尋
令和4年 3月17日 :申立人による回答書の提出

なお、令和3年4月6日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年11月8日になされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)による訂正の内容は以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1) 訂正事項1
請求項1の「前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備する」を、
「前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備し、
前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、
前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、
1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、
前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持し、それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動になり、」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2〜13も同様に訂正する。)

(2) 訂正事項2
請求項1の「ことを特徴とする」の前に、
「前記機械フレーム(8)にピストンシリンダユニット(45)の一端が固定され、前記切削ローラハウジング(10)に前記ピストンシリンダユニット(45)の他端が固定され、前記道路切削機(1)の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット全体を変位させるように適合されている」との記載を追加する。(請求項1の記載を引用する請求項2〜13も同様に訂正する。)

(3) 訂正事項3
請求項2を削除する。

(4) 訂正事項4
請求項3に「請求項2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。

(5) 訂正事項5
請求項4に「請求項1〜3のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項1または3」に訂正する。

(6) 訂正事項6
請求項5に「請求項1〜4」と記載されているのを、「請求項1、3〜4」に訂正する。

(7) 訂正事項7
請求項12に係る発明の記載「請求項1〜11」と記載されているのを、「請求項1、3〜11」に訂正する。

(8) 訂正事項8
請求項14の「前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備する」を、
「前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備し、
前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、
前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、
1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、
前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持し、それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動になり、」に訂正する。

(9) 訂正事項9
請求項14の「ことを特徴とする」の前に、
「前記機械フレーム(8)にピストンシリンダユニット(45)の一端が固定され、前記切削ローラハウジング(10)に前記ピストンシリンダユニット(45)の他端が固定され、前記道路切削機(1)の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット全体を変位させるように適合されている」との記載を追加する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載された、「前記切削ローラ(12)が、前記切削ローラハウジング(10)」「と共に、作業を中断することなく進行方向に対して横断方向に変位可能に前記機械フレーム(8)に支持され」る状態を、「機械フレーム(8)」への「切削ローラハウジング(10)」の支持について「前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持」するものに限定し、「それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」るものに限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の切削ローラハウジング(10)の支持に関し、「前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、」「前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持」することについては、本件特許に係る出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0016】の「好ましくは、切削ローラハウジングを機械フレームの進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイドに沿って直線的に変位させる」、同段落【0017】の「正確な切削深さ調節を維持するために、2つのリニアガイドにより、切削ローラハウジングを機械フレームで強固に支持し、」及び同段落【0020】の「好ましくは、リニアガイドは、機械フレームより下方の位置で機械フレームに固定される。」との記載に基づくものである。
また、「1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置」することに関し、願書に添付した図面の【図5】には、以下の図が示される。

上記【図5】中の図番号42が第1のリニアガイドの筒状ガイドのフランジ部であることが本件明細書の段落【0061】の「第1のリニアガイド34の筒状ガイド」及び同段落【0062】の「筒状ガイドは、フランジ部42を介して・・・固定された内管33からなり」との記載から理解でき、図番号41が第2のリニアガイドの梁を固定するフランジ部であることが同段落【0060】の「第2のリニアガイド36も・・・平面37,38間で直線案内が行われ・・・平面37は、フランジ部41を用いて・・・固定された梁39の上側と下側の両方に設けられる。」との記載から理解できる。さらに、同段落【0057】の「進行方向31」との記載から、【図5】の図番号31が付された矢印は進行方向を示し、右側が進行方向において後方であり、左側が進行方向において前方であることが理解できる。
さらに、【図5】中の図番号13は、同段落【0052】の「切削ローラ12はツール13を備える。切削ローラ12は・・・回転する。」との記載から、切削ローラのツールであることが理解でき、また、「回転する」「切削ローラ」が回転軸をその中心に有するとの技術常識を踏まえると、切削ローラの回転軸は、図番号13が付されたツールが備えられた切削ローラの中心に有ることが理解でき、上記フランジ部との進行方向の前後関係において、第1のリニアガイド34のフランジ部42は、進行方向において切削ローラの回転軸の後方に位置し、第2のリニアガイド36のフランジ部41は、進行方向において切削ローラの回転軸の後方に位置することが看取される。
以上から、【図5】からは、第1のリニアガイド34は、進行方向において切削ローラの回転軸の後方に位置し、第2のリニアガイド36は、進行方向において切削ローラの回転軸の前方に位置することが看取できる。
そうすると、「1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置」することは、【図5】及び本件明細書段落【0052】、【0057】、【0060】〜【0063】の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項1に記載された、「切削ローラハウジング(10)」が「進行方向に対して横断方向に変位可能に前記機械フレーム(8)に支持され」る際の変位を「ピストンシリンダユニット(45)」によるものに限定し、そのピストンシリンダユニット(45)の取り付けの態様について特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記訂正事項2は、本件明細書の段落【0063】の「一端が機械フレーム8に固定され、他端が切削ローラハウジング10に固定されたピストンシリンダユニット45は、道路切削機1の外側面に対して左寄せまたは右寄せする切削ローラ12の位置間で、切削ローラ12と、コンベヤベルトユニット18の下端44を含めた図2および図3に示す切削ローラハウジング10のその他の要素とを含む切削ローラハウジング10のユニット全体を変位させるように適合されている。」との記載に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、請求項の削除であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項4〜7について
訂正事項4は、訂正前の請求項3が請求項1の記載を引用する請求項2の記載を引用していたところ、訂正事項1に係る訂正によって訂正前の請求項2に係る発明特定事項が請求項1に記載されるとともに、訂正事項3に係る訂正によって請求項2が削除されたことにともない、訂正後の請求項1を引用するようにしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げられた事項である、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項5〜7は、訂正事項3に係る訂正によって請求項2が削除されたことにともない、各請求項が引用する請求項から請求項2を削除して、各請求項と各請求項が引用する他の請求項との関係を整理するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げられた事項である、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、各請求項と各請求項が引用する他の請求項との関係を整理するものであるため、訂正事項4〜7は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 訂正事項8について
訂正事項8に係る訂正は、訂正前の請求項14に記載された、「機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)」について「前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持」するものに限定し、「それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」るものに限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記の切削ローラハウジング(10)の支持については、上記(1)で訂正事項1について検討したのと同様の理由により、本件明細書の段落【0016】、【0017】、【0020】、【0052】、【0057】、【0060】〜【0063】及び【図5】に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6) 訂正事項9について
訂正事項9に係る訂正は、訂正前の請求項14に記載された、「機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)」について、「機械フレーム(8)」とピストンシリンダユニット(45)によって接続されたものに限定し、そのピストンシリンダユニット(45)の取り付けの態様について特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた事項である特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、上記ピストンシリンダユニット(45)の取り付けの態様については、上記(2)で訂正事項2について検討したのと同様の理由により、本件明細書の段落【0063】に基づくものであるから、新規事項を追加するものではなく、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 独立特許要件
(1) 請求項1〜6、12〜14について
訂正前の請求項1〜13に係る訂正事項1〜7及び訂正前の請求項14に係る訂正事項8及び9の訂正は、上記したとおり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであるが、訂正前の請求項1〜6、12〜14には特許異議の申立てがされているから、訂正事項1〜9による特許請求の範囲の減縮が行われていても、訂正後の請求項1〜6、12〜14に係る発明について、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2) 請求項7〜11について
訂正事項1により実質的に訂正されることとなる訂正後の請求項7〜11に係る発明については、特許異議の申立てがされておらず、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件が課されるため、以下検討する。

訂正後の請求項7に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項7】
前記ベルトシュー(40)が、前記コンベヤベルト手段(18)の前記下端(44)を関節連結により受けるための実質的に凹状、好ましくは球状の受けソケット(48)を具備し、前記受けソケット(48)が前記コンベヤベルト手段(18)の前記下端(44)の、前記受けソケット(48)の形状に適合された下側と協働することを特徴とする、請求項5または6に記載の自走式道路切削機。」

請求項5又は6を引用する訂正後の請求項7に記載された発明において特定されている「ベルトシュー(40)」が具備する「実質的に凹状、好ましくは球状の受けソケット(48)」が、「コンベヤベルト手段(18)の下端(44)の、受けソケット(48)の形状に適合された下側と協働する」ことは、申立人の提出した各証拠には記載も示唆もされていない。
よって、訂正後の請求項7に係る発明は、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

次に、訂正後の請求項8〜11に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項8】
前記コンベヤベルト手段(18)の前側上端(46)が、前記コンベヤベルト手段(18)の長手方向軸線に沿って直線的に変位可能であるように、カルダン継手により前記機械フレーム(8)に支持されることを特徴とする、請求項7に記載の自走式道路切削機。
【請求項9】
可撓性の支持を確保するために、少なくとも前記前側上端(46)において、前記コンベヤベルト手段(18)が、前記コンベヤベルト手段(18)の方向に実質的に延びかつ好ましくは凸状の軸受面を有するコンベヤベルト側支持要素(52)を前記下側に具備し、前記支持要素(52)が、横方向に案内されるとともに、好ましくは凸状の支持面を有しかつ前記機械フレーム(8)に進行方向に対して横断方向に固定されたフレーム側支持要素(56)に載置されることを特徴とする、請求項8に記載の自走式道路切削機。
【請求項10】
前記コンベヤベルト側支持要素(52)および/または前記フレーム側支持要素(56)が、丸みを帯びた断面の形状または中空形状により画定されることを特徴とする、請求項9に記載の自走式道路切削機。
【請求項11】
前記ベルトシュー(40)が、同期ガイド(60)を介して高さ調節可能であることを特徴とする、請求項10に記載の自走式道路切削機。」

訂正後の請求項7に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができたものであることは上記したとおりであるから、訂正後の請求項7に係る発明の発明特定事項を全て有し、さらに限定するものである、訂正後の請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8〜11に係る発明も、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものである。

4 一群の請求項
本件訂正前の請求項2〜13は、本件訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用しているところ、本件訂正前の請求項1及び同請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、訂正事項1〜7の訂正は、当該一群の請求項〔1−13〕に対し請求されたものである。

5 まとめ
以上のとおりであって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1−13〕、14について訂正を認める。

第3 取消理由の概要
1 令和3年7月1日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由
令和3年4月6日付け訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項1、3〜6及び12〜14に係る特許に対して、当審が令和3年7月1日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである(以下、令和3年4月6日付け訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項に係る発明を、その項番号により「本件訂正前発明1」等という)。

本件訂正前発明1、3、4、12〜14は、甲第1号証、甲第11号証及び甲第17号証から把握できる発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明1、3、4、12〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件訂正前発明5及び6は、甲第1号証、甲第11号証及び甲第17号証から把握できる発明、周知技術並びに甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前発明5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件訂正前発明1、3〜6及び12〜14に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

令和3年7月1日付け取消理由通知書(決定の予告)で引用した証拠は、以下のとおりである。
・甲第1号証:酒井重工業株式会社代表取締役酒井一郎宛て証明願、範多機械株式会社常務取締役道上昌弘、平成30年12月6日
・甲第6号証:特開平9−21107号公報
・甲第7号証:特開2009−13777号公報
・甲第8号証:野田正治、「製品と技術 中型路面切削機CRP−160L型」、建設機械、Vol.26 No.5、平成2年5月1日、p.72−74
・甲第9号証:特表2002−510000号公報
・甲第11号証:酒井重工業株式会社代表取締役酒井一郎宛て証明願(2)、範多機械株式会社常務取締役道上昌弘、令和元年5月14日
・甲第17号証:無効審判2018−800136号、第1回口頭審理及び証拠調べ調書、平成31年2月6日

第4 当審の判断
1 本件訂正発明
本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項1〜6、12〜14に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等といい、請求項1〜6、12〜14に係る発明をまとめて「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜6、12〜14に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

(1) 本件訂正発明1
「【請求項1】
高さ調節可能な車体(4)と、
進行方向に見て、前記車体の前車軸および後車軸と、
前記車体(4)により支持された機械フレーム(8)と、
前記前車軸と前記後車軸との間で前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)と、
前記切削ローラハウジング(10)に回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)と、
前記切削ローラ(12)用の切削ローラ駆動ユニット(14)と、
進行方向に見て前方向に前記切削ローラ(12)により削り取られた切削物を除去するための、前記切削ローラハウジング(10)と協働するコンベヤベルト手段(18)と を具備する路面(2)切削用の自走式道路切削機(1)であって、
前記切削ローラハウジング(10)の横方向先端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)、いわゆるゼロ側とほぼ面一である、自走式道路切削機(1)において、
前記切削ローラ駆動ユニット(14)が、前記切削ローラ(12)に一体化された油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット(80)であり、前記切削ローラ(12)が、前記切削ローラハウジング(10)および前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、作業を中断することなく進行方向に対して横断方向に変位可能に前記機械フレーム(8)に支持され、もって、前記ゼロ側が、前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定され、
前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備し、
前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、
前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、
1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、
前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持し、それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動になり、
前記機械フレーム(8)にピストンシリンダユニット(45)の一端が固定され、前記切削ローラハウジング(10)に前記ピストンシリンダユニット(45)の他端が固定され、前記道路切削機(1)の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット全体を変位させるように適合されていることを特徴とする、自走式道路切削機。」

(2) 本件訂正発明2
「【請求項2】(削除)」

(3) 本件訂正発明3
「【請求項3】
前記リニアガイドの第1のガイド(34)が位置決め軸受を画定する筒状ガイドであり、前記リニアガイドの第2のガイド(36)が平面間に配置されるとともに、非位置決め軸受を画定するガイドであることを特徴とする、請求項1に記載の自走式道路切削機。」

(4) 本件訂正発明4
「【請求項4】
前記切削ローラ(12)の最大横走行距離が、500〜1000mmの範囲であることを特徴とする、請求項1または3に記載の自走式道路切削機。」

(5) 本件訂正発明5
「【請求項5】
前記コンベヤベルト手段(18)の下端(44)を受けるためのベルトシュー(40)が、前記切削ローラハウジング(10)に高さ調節可能に固定されることを特徴とする、請求項1、3〜4のいずれか一項に記載の自走式道路切削機。」

(6) 本件訂正発明6
「【請求項6】
前記コンベヤベルト手段(18)が、前記ベルトシュー(40)に関節連結されることを特徴とする、請求項5に記載の自走式道路切削機。」

(7) 本件訂正発明12
「【請求項12】
進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端が、前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に横方向に載置されるとともに、前記路面(2)に直交して延びる前記切削軌道(68)の切削縁(70)に対して弾性的に当接される高さ調節可能なストリッパシールド(64)と面一であることを特徴とする、請求項1、3〜11のいずれか一項に記載の自走式道路切削機。」

(8) 本件訂正発明13
「【請求項13】
進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の前記後端は、下縁(78)が前記ストリッパシールド(64)と実質的に面一であるとともに、前記ストリッパシールド(64)と共に高さ調節可能であるそれぞれの可動シールド要素(74)を両側端に具備する高さ調節可能な前記ストリッパシールド(64)と面一であり、前記可動シールド要素(74)が、前記ストリッパシールド(64)と共に、切削作業中にストリッパシールド幅を前記切削軌道(68)に動的に適合させるばね付勢に抗して調節可能であることを特徴とする、請求項12に記載の自走式道路切削機。」

(9) 本件訂正発明14
「【請求項14】
自走式道路切削機(1)を用いた路面(2)の切削の方法であって、
前記自走式道路切削機(1)が、
横外側面(26,28)を含む機械フレーム(8)と、
前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)と、
回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)と、
前記切削ローラ(12)用の切削ローラ駆動ユニット(14)と、
を具備し、
前記切削ローラ(12)の先端(22)が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)、いわゆるゼロ側とほぼ面一である、路面(2)の切削の方法において、
前記切削ローラ駆動ユニット(14)を油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット(80)として前記切削ローラ(12)に一体化させ、かつ前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、前記切削ローラ(12)を進行方向に対して横断方向に変位可能に支持することにより、前記ゼロ側が前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定されるように適合され、前記切削ローラ(12)が、前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、作業を中断することなく変位可能であり、前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備し、
前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、
前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、
1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、
前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持し、それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動になり、
前記機械フレーム(8)にピストンシリンダユニット(45)の一端が固定され、前記切削ローラハウジング(10)に前記ピストンシリンダユニット(45)の他端が固定され、前記道路切削機(1)の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット全体を変位させるように適合されていることを特徴とする、路面の切削の方法。」

2 証拠
(1) 甲第1号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した甲第1号証は、範多機械株式会社常務取締役道上昌弘が、酒井重工業株式会社代表取締役酒井一郎に宛てた平成30年11月29日付けの証明願に、平成30年12月6日付けで酒井重工業株式会社代表取締役酒井一郎の捺印がなされたものであって、次の事項が記載されている。



上記証明願に添付書類(2)として添付された「<URL:https://www.sakainet.co.jp/produscts/item/er550f.pdf>のカタログ」には次の事項が記載されている。




上記証明願に添付書類(3)として添付された「平成30年1月23日札幌運輸支局長発行の登録識別情報等通知書」には次の事項が記載されている。




(2) 甲第6号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様。)。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、舗装道路の掘削方法に関し、詳しくは、舗装道路において亀裂などが入った表層の補修部分を効率よく剥離し、剥離に伴う掘削物を効率よく回収し、このことで、補修箇所に掘削物が残留し、これらを除去するための多大な労力及び人手をなくそうとする技術に係るものである。

イ 「【0008】
【発明の実施の形態】以下本発明の舗装道路の掘削方法の一実施の形態を実施した掘削作業車の一例の図面に基づいて詳述する。図1は全体平面図を示し、図2及び図3は全体側面図を示している。走行車体1には搭載された原動機にて駆動される車輪6が装備され、操作部によるハンドル操作にて一般車両として走行できるようにしてある。走行車体1にはガイド脚9が例えば4本立設され、このガイド脚9を介して昇降基体10が油圧駆動にて昇降できるようにしてある。昇降基体10には、舗装道路の表層のアスファルト層a及び下地層を剥離するとともに掘削し、その破砕物を順次取出す回転掘削放出手段3と、移送取出し手段4並びに搬出手段5が搭載されて、破砕物を伴走する大型ダンプカーなどに走行しながら移載できるようにしてある。以下、種々の手段の構成を詳述する。
【0009】図5乃至図8は回転掘削放出手段3を示していて、回転掘削放出手段3は、回転ドラム3aに掘削爪3bが複数条の螺旋条に植設された回転カッター3cに構成されている。この回転カッター3cが図6に示すハウジング3dの軸受部にその水平横軸2が回転自在に架設され、ハウジング3d内に装備される減速機3eに連結されて、昇降基体10側に搭載されている油圧駆動機構からの作動油が、ハウジング3dに装備されている油圧モータに供給されて、回転カッター3cを約1000r.p.m程度に高速回転させることができるようにしてある。回転掘削放出手段3は、そのハウジング3dを介して昇降基体10の後部に搭載されていて、昇降基体10を走行車体1に対して下降させることで、回転カッター3cを路面レベルよりも下方に下降させ、回転カッター3cが後方から前方上方に高速回転されることで、舗装道路の表層のアスファルト層a及び下地層をを掘削し、直径が約20mm程度の粒径に破砕された破砕物を回転カッター3cの全巾において掘削とともに前方上方に放出することができるようにしてある。
・・・
【0013】回転掘削放出手段3のハウジング3dは、昇降基体10の前後のスライドレール11,11の上にスライド移動自在に載置され、ハウジング3dの両端部が、図9に示すようなチェーン12に連結され、このチェーン12を昇降基体10に搭乗している作業者の操作により、スプロケット13を油圧モータ16を介して油圧駆動して、巻回しているチェーン12を往復動させ、回転掘削放出手段3を車巾方向の任意の箇所に移行させ、しかして、走行車体1は一定位置を走行しながら、掘削位置を変更することができるようにしてある。このように、回転掘削放出手段3を車巾方向に移行させることで、道路の表層の亀裂の蛇行に容易に追随させることができ、一度の走行で、亀裂に沿った掘削がおこなえるものである。」

ウ 上記した事項を踏まえると、甲第6号証から、次の技術事項が把握できると認められる。

「舗装道路において亀裂などが入った表層の補修部分を効率よく剥離し、剥離に伴う掘削物を効率よく回収し、このことで、補修箇所に掘削物が残留し、これらを除去するための多大な労力及び人手をなくそうとする技術に係るものであり、
走行車体1にはガイド脚9が例えば4本立設され、このガイド脚9を介して昇降基体10が油圧駆動にて昇降できるようにしてあり、
回転掘削放出手段3は、そのハウジング3dを介して昇降基体10の後部に搭載されていて、昇降基体10を走行車体1に対して下降させることで、回転カッター3cを路面レベルよりも下方に下降させ、回転カッター3cが後方から前方上方に高速回転されることで、舗装道路の表層のアスファルト層a及び下地層を掘削し、直径が約20mm程度の粒径に破砕された破砕物を回転カッター3cの全巾において掘削とともに前方上方に放出することができるようにしてあること。」

(3) 甲第7号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1および12のそれぞれのプリアンブル部に記載の自動路面切削装置、とくには大型の自動路面切削装置に関する。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
図1が、路面切削装置1を示しており、とくには装置フレーム4と、操舵可能なフロントアクスル2およびやはり操舵可能なリアアクスル3を備える車台とを有する大型の切削装置を示している。車台は、装置フレーム4の地面または路面8からの距離の調節を可能にする昇降支柱32を介して、装置フレーム4へと接続されている。
・・・
【0037】
地面または路面8を切削するための切削ドラム6が、切削ドラム軸7を装置フレーム4に支持させて、履帯ユニット30の間に配置されている。切削ドラム6の一方の端面が、ゼロ側12と呼ばれる装置フレーム4の外側まで達する一方で、切削ドラム6のための駆動装置は、装置フレーム4の反対側の外壁に配置されている。」

ウ 上記した事項を踏まえると、甲第7号証から、次の技術事項が把握できると認められる。

「大型の自動路面切削装置に関し、
車台は、装置フレーム4の地面または路面8からの距離の調節を可能にする昇降支柱32を介して、装置フレーム4へと接続されていること。」

(4) 甲第8号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の事項が記載されている。
ア 「中型路面切削機CRP−160L型」(72ページの表題)

イ 「・・・ここで中型機と言える1.6mの切削幅を持つCRP−160Lを紹介する。
2.仕様および構造
・・・
4本のタワーシリンダーにより車体の昇降を行い、フレーム中央の切削ドラムにより切削を行い・・・」(第72ページ左欄第9〜18行)

ウ 「(3)切削ドラムシステム
「エンジンに直結された切削ドラム用ポンプから供給された油が、・・・ボルト止めされている切削ドラムを回転させている。」(第74ページ左欄第3〜6行)

エ 「(5)切削ドラムユニット
切削ドラムは右サイドの減速機付油圧モータと左サイドの重荷重用ローラベアリングに支持されシフトテーブルに取付けられている。・・・また、このドラムユニットは左右、計400mmのシフトができ、左サイドを基準として外に150mm出すことが可能である。このことにより縁石へのフラッシュカットや切削面の障害物の回避を容易にしている。」(第74ページ右欄第2〜13行)

オ 第1図(第73ページ上)は以下のとおり。




上記第1図からは、シフトテーブルが、切削ドラムユニットの前端付近と後端付近に設けられていることが看取される。
また、上記ウの「・・・ボルト止めされている切削ドラムを回転・・・」との記載から、「切削ドラム」は「切削ドラムユニット」に「ボルト止め」され、「ボルト止め」された部分を中心に「回転」していることが理解でき、この点を踏まえると、第1図からは、「シフトテーブル」は、「切削ドラム」が「ボルト止め」された部分の進行方向の前方と後方にそれぞれ設けられていることを理解できる。

カ 上記した事項を踏まえると、甲第8号証には、次のような構成を備えた中型路面切削機が記載されているものと認められる。
(ア)4本のタワーシリンダーにより車体の昇降を行い、フレーム中央の切削ドラムにより切削を行う。

(イ)切削ドラムは、シフトテーブルに取り付けられており、左右に計400mmのシフトができる。

(ウ)「シフトテーブル」は、切削ドラムが「ボルト止め」された部分の進行方向の前方と後方にそれぞれ設けられている。

(5) 甲第9号証
ア 申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した、本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。
(ア)「【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に定義した、地表面、特に車道を粉砕する装置に関する。」

(イ)「【0018】
以下に、本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、地表面2、特にアスファルト車道、コンクリート車道等を粉砕する装置を示し、この装置は、機械フレーム6を支持するトラック・アセンブリ4と、機械フレーム6で支持され、トラック・アセンブリ4の走行方向に対して横向きに延在する粉砕ロール8とを備える。粉砕の深さは、後輪の垂直方向調節によって設定される。この種の機械は、粉砕された材料を走行方向前方に搬送して運搬車両に載せるので、フロント・ローダ粉砕機と称される。粉砕ロール8の前方走行方向に、コンベヤベルト12付きの第1の搬送手段10が配置され、機械フレーム6のシャフト内に傾斜を付けて配され、粉砕された材料を別のコンベヤ・ベルト15を有する第2の搬送手段14に搬送する。第2の搬送手段14は、可変傾斜角度内で縦方向調節可能であり、さらに横方向に、たとえば±30度旋回するのに適し、それによってフロント・ローダ粉砕機の脇に停車した運搬車両に積載することができる。
【0020】
粉砕された材料をほぼすべて運搬するため、粉砕ロール8はロール・ケーシング18によって囲繞され、ケーシングの走行方向の壁に粉砕材料の通過開口22が設けられる。通過開口22は、粉砕深度の変更時であっても常に粉砕ロール8に対して同じ位置にある。
【0021】
粉砕ロール8は、螺旋状に配置された掘削工具を備え、粉砕材料がロール・ケーシング18の通過開口22へと運搬されるように配置される。
【0022】
ベルト・シュー16が機械フレーム6に縦方向調節可能に取り付けられる。ベルト・シュー16の縦方向調節は、機械フレーム17に取り付けられたピストン・シリンダ・ユニット17によって行う。このピストン・シリンダ・ユニットを用いることによって、ベルト・シューは垂直方向に持上げることができ、たとえば障害物等を越えることができる。この場合、ベルト・シュー16は下降させることはできず、所望時に上昇のみ可能である。粉砕深度が増した場合には、ベルト・シュー16の位置は地表に接することによって自動的に設定される。
【0023】
ベルト・シュー16は、搬送手段10の粉砕ロールに面する端部を収容する。搬送手段10の後端は、ベルト・シュー16と搬送手段10の間の固定点で支持される。ベルト・シュー16前端の両側にコネクティング・ストラット20が設けられ、搬送手段10に対するベルト・シュー16の旋回を防止する。
【0024】
ベルト・シュー16は、地表と平行に延在し、押さえ手段およびスライディング・シューの役をするグリッド28により構成される。グリッド28は、走行方向に平行に配向された複数のグリッド・バー32を備える。グリッド28の両側は、垂直方向の側壁33によって限定される。ベルト・シュー16の後端で、フロント・シート35が搬送手段10のコンベヤ・ベルト12とほぼ平行に延在する。ベルト・シューの後端に、コンベヤ・ベルト12を保護する保護シールド34が配置され、縁が鋭利な材料によるコンベヤ・ベルト12の損傷を防止する。走行方向にわずかに傾斜したシールド42には、上部にU字形のリセスがあり、浮いた材料の通過開口を形成する。
【0025】
図4に最もよく示してあるように、粉砕ロール8を囲繞するロール・ケーシング18に補完リセスがあり、浮いた材料の通過開口22を備える。
【0026】 ピストン・シリンダ・ユニット17の一端はベルト・シュー16の側壁33に蝶着され、他端は機械フレーム6に固定される。ピストン・シリンダ・ユニット17は、コネクティング・ストラット20に実質的に平行に延在し、ベルト・シュー16および搬送手段10によって形成される構造ユニットの持上げ手段の役をする。ピストン・シリンダ・ユニット17の傍らでは、第1のコネクティング・ロッド24が側壁33に蝶着され、このコネクティング・ロッドは第2のコネクティング・ロッド26に蝶着される。第2のコネクティング・ロッド26は、機械フレーム6に蝶着される。第2のコネクティング・ロッド26は、トグル・レバー状に屈曲し、トグル部でリンキング・ロッド30を介してベルト・シュー16の他方の側の対応する第2のコネクティング・ロッド26に接合される。したがって、コネクティング・ロッド30はベルト・シュー16の両側の平行な案内を同期させる。ピストン・シリンダ・ユニット17およびコネクティング・ストラット20は、ベルト・シューの両側に設けられる。コネクティング・ロッド24および26によってベルト・シューが平行に案内されるため、シールド42は極くわずかに旋回できるのみで、その下向きの運動は走行方向に延在する突条44によって制限される。最低位置で、突条44は当り止め36に当接する。また、ロール・ケーシング18の当り止め38は、ベルト・シュー16の粉砕ロール8側への運動を制限する。」

(ウ)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による地表面粉砕装置を示す図である。
【図2】最大粉砕深度における粉砕ロールに対するベルト・シューの機械フレーム内の位置を示す模式図である。
【図3】最小粉砕深度におけるベルト・シューの位置を示す図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿った上面図である。」

イ 上記アによれば、甲第9号証には、次のような構成を備えた自走式のアスファルト車道等の粉砕装置が記載されているものと認められる。
(ア)機械フレーム6を支持するトラック・アセンブリ4と、機械フレーム6で支持され、トラック・アセンブリ4の走行方向に対して横向きに延在する粉砕ロール8とを備える。

(イ)粉砕ロール8の前方走行方向に、コンベヤベルト12付きの第1の搬送手段10が配置されており、搬送手段10の粉砕ロール8に面する端部を収容するベルト・シュー16が、縦方向に調節することが可能なように、機械フレーム6に取り付けられている。

(ウ)ベルト・シュー16の側壁に第1のコネクティング・ロッド24が蝶着され、第1のコネクティング・ロッド24は、第2のコネクティング・ロッド26に蝶着され、第2のコネクティング・ロッド26は、機械フレーム6に蝶着されている。

(エ)第2のコネクティング・ロッド26は、トグル・レバー状に屈曲し、トグル部でリンキング・ロッド30を介してベルト・シュー16の他方の側に対応する第2のコネクティング・ロッド26に接合される。これにより、リンキング・ロッド30は、ベルト・シュー16の両側の平行な案内を同期させる。

(6) 甲第11号証
申立人が特許異議申立てに係る証拠として提出した甲第11号証は、範多機械株式会社常務取締役道上昌弘が、酒井重工業株式会社代表取締役酒井一郎に宛てた令和元年5月13日付けの証明願に、令和元年5月14日付けで酒井重工業株式会社代表取締役酒井一郎の署名捺印がなされたものであって、次の事項が記載されている。





(7) 甲第17号証
甲第17号証は、無効審判2018−800136号事件において、平成31年2月6日に行われた同事件における検甲第1号証を目的物とする証拠調べ(検証)の結果をまとめた「第1回口頭審理及び証拠調べ調書」の写しであり、「4.検証の結果」には、検甲第1号証が以下の構成を有することが記載されている。
「ア 品番はER550F、車台番号はMER6−10136、製造番号は10136である。[写真01、写真02、写真03、写真04、写真05、写真06、写真07]
イ 全長は9.87メートル、全幅は2.45メートルである[写真08、写真09、写真10、写真11]
ウ 車体は、車体の進行方向に見て、車体の前側に車軸及び後側に車軸を有している。車体は自走できる。[写真04、写真05]
エ 車体は、フレーム部を有し、フレーム部には、切削ローラが内部に配されたハウジング部が配置されている。[写真12、写真13]
オ ハウジング部には、単一の切削ローラが回転自在に支持されている。[写真13]
カ 切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している。[写真14、写真15]
キ 車体には、車体の進行方向に連なって第1、第2コンベアベルト部を有している。第1コンベアベルト部は車体内部前方に配置されており、第2コンベアベルト部は車体前方に延出して配置されている。第1、第2コンベアベルト部のコンベアベルトで運搬することによって、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができる。[写真06、写真16、写真17、写真18、写真19]
ク 切削ローラ及びハウジング部は車体の外側面に対して、左寄せ及び右寄せすることができる。切削ローラ及びハウジング部が前記左寄せ及び右寄せすると、第1コンベアベルト部の下端は、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができるように、切削ローラ及びハウジング部に追随する。[写真20、写真21、写真22、写真23、写真24、写真25]
ケ 切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持されている。[写真26、写真27、写真28]
コ 駆動部は、切削ローラが車体の進行方向に対して横断方向に可動であり、かつ垂直方向に可動であるように、ハウジング部を介して、フレーム部に支持されている。[写真26]
サ ハウジング部の横方向前端が、フレーム部の横外側面の一つとほぼ面一にすることができる。[写真20、写真21、写真25、写真22]
シ ハウジング部は、車体の前側の車軸と後側の車軸の間に配置されている。[写真12]
ス 車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができると共に、フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができる。[写真20、写真21、写真25、写真22]
セ 切削ローラは、円柱形状であり、切削ローラの側面のほぼ全面に複数の略円錐状の爪部が設けられており、側面の底面よりの部分には、底面側に先端が向いている爪部が設けられている。[写真29、写真30]
ソ フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている。[写真27、写真31、写真32、写真33、写真34、写真35、写真36]
タ コンベアベルト部の下端の両側には、一体的に側板が取り付けられており、当該側板は、ハウジング部に高さ調節可能に固定されている。[写真37、写真38]
チ 側板が、ガイドを介して、高さ調節可能となっている。[写真37、写真38]
ツ ハウジング部の後端は、切削ローラによって切削される路面の切削面の横断方向に、切削面と略同じ幅で配置されている。ハウジング部の後端に沿って、3枚の板状体が横断方向に並んで、路面に向かって、高さ調節可能に垂下している。3枚の板状体は切削面と略同幅である。[写真39、写真40、写真41、写真42]
テ ハウジング部の後端は、3枚の板状体とほぼ面一である。3枚の板状体の下縁は高さ調節可能である。両側の板状体の両側縁には、側板要素が略直角に取り付けられている。側板要素の下縁は、3枚の板状体の下縁とほぼ面一であり、3枚の板状体と共に高さ調節可能である。3枚の板状体は切削面に当接可能であり、側板要素の下縁は切削面の外縁部に当接可能となっている。[写真39、写真40、写真41、写真43、写真44、写真45、写真46]
ト 側板要素は、切削作業中に3枚の板状体の幅を切削面に適合させるためのばね付勢を用いて調節可能である。[写真43、写真44、写真45、写真46]」(第1ページ下から16行〜第3ページ第1行。)

甲第17号証である無効審判事件2018−800136号の第1回口頭審理及び証拠調べ調書には、以下の写真が掲載されている(写真は、画像の明瞭化のため、写しである甲第17号証からではなく、同事件の第1回口頭審理及び証拠調べ調書から写した)。
ナ 写真13




ニ 写真14




ヌ 写真25




ネ 写真27




ノ 上記ナの写真13、上記ニの写真14には、ハウジング部の左側の横方向前端には、側部を覆うカバーが具備される様子が示されている。写真13及び写真14を対照すると、前記カバーは高さ調節可能であることが理解される。

ハ 上記ヌの写真25には、ハウジング部の右側の横方向前端に、ハウジング部の左側と同様の側部を覆うカバーが具備される様子が示されている。ハウジング部の右側の横方向前端に具備されたカバーは、ハウジング部の左側のそれと同様のものであるから、左側のそれと同様、高さ調節可能であると解するのが自然である。

ヒ 上記ナの写真13、上記ヌの写真25からは、切削ローラの先端が、横方向において、ハウジング部の横方向前端と略同じ位置に配置されていることが看取される。

フ 上記エ及びソの記載を踏まえると、上記ヌの写真25、上記ネの写真27からは、フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて横断方向に設けられる2つの棒状ガイドは、フレーム部より下方の位置でハウジング部に取り付けられていることが看取される。

(8) 甲第1号証、甲第11号証及び甲第17号証から把握できる発明の認定
上記(1)で摘記したように、甲第1号証には、車台番号「MER6−10136」を有する「ロードカッタ ER550F」が「平成11年3月」に販売されたことが記載されている。また、甲第1号証には、前記「MER6−10136」が「平成11年3月」に自動車の「初年度登録」を受けたことが記載されており、これは甲第1号証の添付書類(3)の「初年度登録年月」の欄に「平成11年3月」と記載されていることと符合する。また、甲第1号証には、「2001.01.3A」との記載がある「ロードカッタ ER550F」のカタログが2001年(平成13年)1月に酒井重工業株式会社が発行したものであることが記載されており、これは、甲第1号証の添付書類(2)の「ロードカッタ ER550F」のカタログと認められる部分の第1ページに「ロードカッタ ER550F」と記載され、第6ページ左下に「酒井重工業株式会社」と記載され、第6ページ右下に「2001.01.3A」と記載されていることと符合する。そして、甲第1号証における初年度登録の年月及びカタログ発行の年月は、「ロードカッタ ER550F」が販売された年月と整合している。
次に、上記(6)で摘記したように、甲第11号証には、車台番号「MER6−10136」を有する「ロードカッタ ER550F」が、「平成11年3月」に自動車登録された後、「車両が変更されたり、機構及び構造が改良されたりした事実は無く、出荷当時の車両、機構及び構造を、そのまま備えている」ことが記載されている。
続いて、上記(7)で摘記したように、甲第17号証には、品番が「ER550F」で、車台番号が「MER6−10136」である車が、平成31年2月6日に、上記(7)イ〜トに挙げた事項を備えていたことが記載されているとともに、当該車両を撮影した写真(上記(7)ナ〜ネはその一部である。)が掲載されている。
これらを総合すると、車台番号が「MER6−10136」である「ロードカッタ ER550F」は、販売されることにより、本件特許の優先日前である平成11年3月に、公然知られたあるいは公然実施されるところとなったと認められる。そうすると、上記(7)で摘記したところによれば、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が本件特許の優先日前に公然知られたあるいは公然実施されたものと認められる。

「以下の構成を有する大型切削機。

a 車体は、車体の進行方向に見て、車体の前側に車軸及び後側に車軸を有している。車体は自走できる。
b 車体は、フレーム部を有し、フレーム部には、切削ローラが内部に配されたハウジング部が配置されている。
c ハウジング部には、単一の切削ローラが回転自在に支持されている。
d 切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している。
e 車体には、車体の進行方向に連なって第1、第2コンベアベルト部を有している。第1コンベアベルト部は車体内部前方に配置されており、第2コンベアベルト部は車体前方に延出して配置されている。第1、第2コンベアベルト部のコンベアベルトで運搬することによって、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができる。
f 切削ローラ及びハウジング部は車体の外側面に対して、左寄せ及び右寄せすることができる。切削ローラ及びハウジング部が前記左寄せ及び右寄せすると、第1コンベアベルト部の下端は、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができるように、切削ローラ及びハウジング部に追随する。
g 切削ローラ及びハウジング部は、車体の垂直、横断及び進行方向に、上下方向変位用の油圧シリンダが取り付けられた2つの棒状ガイド及び4本の連結棒を介して、フレーム部によって支持されている。
h 駆動部は、切削ローラが車体の進行方向に対して横断方向に可動であり、かつ垂直方向に可動であるように、ハウジング部を介して、フレーム部に支持されている。
i ハウジング部の横方向前端が、フレーム部の横外側面の一つとほぼ面一にすることができる。
j ハウジング部は、車体の前側の車軸と後側の車軸の間に配置されている。
k 車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができると共に、フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができる。
l 切削ローラは、円柱形状であり、切削ローラの側面のほぼ全面に複数の略円錐状の爪部が設けられており、側面の底面よりの部分には、底面側に先端が向いている爪部が設けられている。
m フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている。
n コンベアベルト部の下端の両側には、一体的に側板が取り付けられており、当該側板は、ハウジング部に高さ調節可能に固定されている。
o 側板が、ガイドを介して、高さ調節可能となっている。
p ハウジング部の後端は、切削ローラによって切削される路面の切削面の横断方向に、切削面と略同じ幅で配置されている。ハウジング部の後端に沿って、3枚の板状体が横断方向に並んで、路面に向かって、高さ調節可能に垂下している。3枚の板状体は切削面と略同幅である。
q ハウジング部の後端は、3枚の板状体とほぼ面一である。3枚の板状体の下縁は高さ調節可能である。両側の板状体の両側縁には、側板要素が略直角に取り付けられている。側板要素の下縁は、3枚の板状体の下縁とほぼ面一であり、3枚の板状体と共に高さ調節可能である。3枚の板状体は切削面に当接可能であり、側板要素の下縁は切削面の外縁部に当接可能となっている。
r 側板要素は、切削作業中に3枚の板状体の幅を切削面に適合させるためのばね付勢を用いて調節可能である。
s ハウジング部が、左及び右の横方向前端にそれぞれ、高さ調節可能なカバーを具備する。
t フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて横断方向に設けられる2つの棒状ガイドは、フレーム部より下方の位置でハウジング部に取り付けられている。」

3 対比・判断
(1) 本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「車体」、「前側」の「車軸」、「後側」の「車軸」は、それぞれ本件訂正発明1の「車体」、「前車軸」、「後車軸」に相当する。また、引用発明1の「車体」は「自走できる」ものであり、また、「大型切削機」が備える「切削ローラによって」「路面」が「切削される」のであるから、引用発明1の「大型切削機」は、本件訂正発明1の「自走式道路切削機」に相当する。

(イ)引用発明1においては、「車体は、フレーム部を有し、フレーム部には、切削ローラが内部に配されたハウジング部が配置されている」こと及び「ハウジング部には、単一の切削ローラが回転自在に支持されている」ことを踏まえると、引用発明1の「フレーム部」は、本件訂正発明1の「前記車体(4)により支持された機械フレーム(8)」に相当し、同様に「ハウジング部」は、「前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)」に、「切削ローラ」は、「前記切削ローラハウジング(10)に回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)」に、それぞれ相当する。

(ウ)引用発明1の「ハウジング部は、車体の前側の車軸と後側の車軸の間に配置されている」ことは、本件訂正発明1の「切削ローラハウジング(10)」が、「前記前車軸と前記後車軸との間」に「配置され」ることに相当する。

(エ)引用発明1においては、「切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している」ところ、その「駆動部」は、本件訂正発明1の「前記切削ローラ(12)用の切削ローラ駆動ユニット(14)」に相当する。
本件訂正発明1の「切削ローラ駆動ユニット(14)が、切削ローラ(12)に一体化された油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット(80)であり」と、引用発明1の「切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している」ものであって、すなわち、「駆動部」が「切削ローラ」と「一体化」されていることとは、「切削ローラ駆動ユニットが、切削ローラに一体化された切削ローラ駆動ユニットであり」で共通する。

(オ)引用発明1の「第1、第2コンベアベルト部」は、本件訂正発明1の「コンベヤベルト手段(18)」に相当し、引用発明1が、「第1、第2コンベアベルト部」に関して、「車体には、車体の進行方向に連なって第1、第2コンベアベルト部を有している。第1コンベアベルト部は車体内部前方に配置されており、第2コンベアベルト部は車体前方に延出して配置されている。第1、第2コンベアベルト部のコンベアベルトで運搬することによって、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができる」こと、及び「切削ローラ及びハウジング部は車体の外側面に対して、左寄せ及び右寄せすることができる。切削ローラ及びハウジング部が前記左寄せ及び右寄せすると、第1コンベアベルト部の下端は、切削ローラにより削り取られた切削物を除去することができるように、切削ローラ及びハウジング部に追随する」ことは、本件訂正発明1の「コンベヤベルト手段(18)」が、「進行方向に見て前方向に前記切削ローラ(12)により削り取られた切削物を除去するための、前記切削ローラハウジング(10)と協働する」ことに相当する。

(カ)引用発明1の「ハウジング部の横方向前端が、フレーム部の横外側面の一つとほぼ面一にすることができ」ることは、本件訂正発明1の「前記切削ローラハウジング(10)の横方向先端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)、いわゆるゼロ側とほぼ面一である」ことに相当する。

(キ)引用発明1のハウジング部は、「車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持され」たものであり、また、引用発明1において、「駆動部」(切削ローラ駆動ユニット(14))は、「切削ローラ」(切削ローラ(12))に一体化されているものであるから、引用発明1が「車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができると共に、フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができる」ことは、本件訂正発明1が「前記切削ローラ(12)が、前記切削ローラハウジング(10)および前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、作業を中断することなく進行方向に対して横断方向に変位可能に前記機械フレーム(8)に支持され、もって、前記ゼロ側が、前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定され」ることに相当する。

(ク)引用発明1が、「ハウジング部が、左及び右の横方向前端にそれぞれ、高さ調節可能なカバーを具備する」ことは、本件訂正発明1が、「前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備」することに相当する。

(ケ)引用発明1の「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる」ことは、本件訂正発明1の「前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させること」に相当する。

(コ)本件訂正発明1の「前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され」ることと、引用発明1の「2つの棒状ガイド」が「フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」、「フレーム部より下方の位置でハウジング部に取り付けられ」ることとは、「前記リニアガイドは、前記機械フレームより下方の位置で前記機械フレームに設けられ」ることで共通する。

(サ)引用発明1の「2つの棒状のガイド」のうちの「1つの棒状ガイド」に「取り付けられ」た「水平方向変位用の油圧シリンダ」は、2つの棒状ガイド同様、「フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」るとともに、「ハウジング部に取り付けられ」たものであり、フレーム部に横断方向に設けられた2つの棒状ガイドに沿って、ハウジング部を直線的に変位させるものであるから、一端は、「フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」、他端は「ハウジング部に取り付けられ」て固定されていると理解することができる。
そうすると、本件訂正発明1の「前記機械フレーム(8)にピストンシリンダユニット(45)の一端が固定され、前記切削ローラハウジング(10)に前記ピストンシリンダユニット(45)の他端が固定され」ることと、引用発明1の「水平方向変位用の油圧シリンダ」が「フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」るとともに、「ハウジング部に取り付けられ」る点とは、「前記機械フレームにピストンシリンダユニットの一端が設けられ、前記切削ローラハウジングに前記ピストンシリンダユニットの他端が固定され」る点で共通する。

(シ)本件訂正発明1の「切削ローラハウジングのユニット」は、本件明細書(段落【0063】)において、「切削ローラ12と、コンベヤベルトユニット18の下端44を含めた・・・切削ローラハウジング10のその他の要素とを含む切削ローラハウジング10のユニット」と例示されるものである。一方、引用発明1において、「ハウジング部」は、「切削ローラが内部に配され」て「回転自在に支持」され、「切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有して」おり、また、「コンベアベルト部の下端の両側に」「一体的に」「取り付けられ」た「側板」が「高さ調節可能に固定されて」いるものであるから、引用発明1の、「切削ローラ」、「切削ローラを駆動するための駆動部」や「第1コンベアベルトの下端」などが取り付けられた「ハウジング部」は、本件訂正発明1の「切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット」に相当するといえる。
そして、引用発明1の「水平方向変位用の油圧シリンダ」は、それによって「ハウジング部」が「2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位」され、「切削ローラ及びハウジング部は車体の外側面に対して、左寄せ及び右寄せ」して「フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができ」、切削ローラ及びハウジング部が前記左寄せ及び右寄せすると、「第1コンベアベルト部の下端」は「切削ローラ及びハウジング部に追随する」ものであるから、「ハウジング部」とそれに取り付けられた「切削ローラ」、「切削ローラを駆動するための駆動部」や「第1コンベアベルトの下端」などを「変位させるように適合されている」といえる。
そうすると、引用発明1は、本件訂正発明1の「前記道路切削機(1)の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット全体を変位させるように適合されている」に相当する発明特定事項を備える。

(ス)したがって、両者は、次の一致点で一致し、相違点1〜4で相違する。
(一致点)
「車体と、
進行方向に見て、前記車体の前車軸および後車軸と、
前記車体により支持された機械フレームと、
前記前車軸と前記後車軸との間で前記機械フレームに配置された切削ローラハウジングと、
前記切削ローラハウジングに回転自在に支持された単一の切削ローラと、
前記切削ローラ用の切削ローラ駆動ユニットと、
進行方向に見て前方向に前記切削ローラにより削り取られた切削物を除去するための、前記切削ローラハウジングと協働するコンベヤベルト手段と を具備する路面切削用の自走式道路切削機であって、
前記切削ローラハウジングの横方向先端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレームの横外側面、いわゆるゼロ側と選択的にほぼ面一である、自走式道路切削機において、
前記切削ローラ駆動ユニットが、前記切削ローラに一体化された切削ローラ駆動ユニットであり、前記切削ローラが、前記切削ローラハウジングおよび前記切削ローラ駆動ユニットと共に、作業を中断することなく進行方向に対して横断方向に変位可能に前記機械フレームに支持され、もって、前記ゼロ側が、前記機械フレームの一方の外側面またはその反対側の外側面に選択的に画定され、
前記切削ローラハウジングは、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備し、
前記切削ローラハウジングを、前記機械フレームの進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイドに沿って直線的に変位させ、
前記リニアガイドは、前記機械フレームより下方の位置で前記機械フレームに設けられ、
前記機械フレームにピストンシリンダユニットの一端が設けられ、前記切削ローラハウジングに前記ピストンシリンダユニットの他端が固定され、前記道路切削機の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラの位置間で、切削ローラと、前記切削ローラハウジングのその他の要素とを含む前記切削ローラハウジングのユニット全体を変位させるように適合されている、
自走式道路切削機。」

(相違点1)
高さ調節に関して、本件訂正発明1は、「車体」が「高さ調節可能」であるのに対し、引用発明1は「切削ローラ(ハウジング部)」が「垂直方向に可動」である点。

(相違点2)
切削ローラ用の切削ローラ駆動ユニットが、本件訂正発明1は、「油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット」であるのに対し、引用発明1は、そのように特定されていない点。

(相違点3)
本件訂正発明1は、前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)に「固定」され、「1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持し、それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」っているのに対し、引用発明1は、「ハウジング部」を「直線的に変位させる」「2つの棒状のガイド」は、「フレーム部」に、「上下方向変位用の油圧シリンダを介して」設けられ、「4本の連結棒」と共に切削ローラ及びハウジング部を支持しており、そのために、「切削ローラ及びハウジング部」の支持は、本件訂正発明1のように「進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」るよう「前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持」し、「切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持」するものとはなっておらず、また、切削ローラの中心軸との位置関係が本件訂正発明1のように特定されるものでもない点。

(相違点4)
ピストンシリンダユニット(45)の一端の機械フレーム(フレーム部)への取り付けが、本件訂正発明1は、「固定」されているのに対し、引用発明1は、「上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」る点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1、3及び4について
a 相違点1は、切削ローラの路面に対する高さを調節するための機構に関するものであるところ、相違点3は、切削ローラの移動方向を踏まえた切削ローラ及びこれを支持する切削ローラハウジングとフレームとの支持構造に関するものであり、また、相違点4は、切削ローラハウジングのユニット全体を変位させるピストンシリンダユニットの取付けに関するものである。
そうすると、これらは相互に密接に関連するものといえるから、相違点1、3及び4の容易想到性については、併せて判断するのが相当である。
b 相違点1について、引用発明1では、切削ローラの路面との高さ調節は、切削ローラハウジング(10)に支持された切削ローラを垂直方向に可動とすることにより実現している。
しかし、自走式の道路切削機の技術分野において、車体の上下動を用いて高さ調節を行うことによって、切削ローラの路面との高さ調節を行うことは甲第6号証〜甲第8号証に記載されているように、本件特許の優先日前において周知技術である。
そして、本件優先日時点において、自走式道路切削機の切削ローラの路面に対する高さの調節に関しては、切削ローラを油圧シリンダ等の駆動機構によって垂直方向に移動させる方法及び切削ローラを車体の上下動によって垂直方向に移動させる方法の2つの方法以外に、自走式道路切削機における切削ローラの路面に対する高さを調節する方法があったことをうかがわせる証拠は存しないから、当業者としては、上記2つの方法のいずれかを採るほかなかったものといえる。そうすると、これらの方法のいずれを採るかは、当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎないというべきであり、引用発明1において、上記甲第6号証〜甲第8号証に示される周知技術を採用して、切削ローラの路面との高さ調節を車体の上下動を用いて高さ調節を行うことによってすることは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、引用発明1において、相違点1に係る本件訂正発明1の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
c 引用発明1において、切削ローラの路面に対する高さを調節する方法として、上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて、車体の上下動を用いる構成を採る場合には、ハウジング部を垂直方向に移動させるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ、同油圧シリンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に、敢えて新たな別の部材を設置する必要はない。そうすると、当業者としては、棒状ガイドをフレーム部で直接支持するような構造を採ろうとするのが自然な技術的発想であるといえる。
そして、上記のように、引用発明1において、棒状ガイドをフレーム部で直接支持するような構造を採る場合には、切削ローラ及びハウジング部は、横断方向にのみ移動することができるようにすればよいのであって、敢えてこれらを垂直方向又は進行方向にも移動することができるようにする必要はない。そうすると、当業者としては、切削ローラ、ハウジング部及び切削ローラと一体化した駆動部を、垂直方向及び進行方向に移動しないように、垂直方向及び進行方向にフレーム部で強固に支持し、進行方向に対して横断方向にのみ変位可能に支持する構造を採ろうとするのが自然な技術的発想であるといえる。
この切削ローラ及びハウジング部の支持について、甲第8号証には、切削ドラムをシフトテーブルに設けることによって左右方向にシフトさせる構成が記載され、シフトテーブルは、進行方向において、切削ローラの回転軸となる「ボルト止め」された部分の前方と後方に位置するものであるから、相違点3に係る本件訂正発明1の、リニアガイドは、前記機械フレームに「固定」され、「1つのリニアガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、前記リニアガイドにより、前記切削ローラハウジングを前記機械フレームで強固に支持し、それによって前記切削ローラを上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラは進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」るに相当する構成が開示されているといえる。
そうすると、引用発明1において、切削ローラの路面に対する高さを調節する方法として、例えば甲第6号証〜甲第8号証に示される周知技術である、車体の上下動を用いる構成を採る場合に、切削ローラ及びハウジング部の支持についても甲第8号証に記載される構成を採用することは、当業者が適宜選択することができる設計的事項であるといえ、その場合には、リニアガイドは、機械フレームに「固定」され、「1つのリニアガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、前記リニアガイドにより、前記切削ローラハウジングを前記機械フレームで強固に支持し、それによって前記切削ローラを上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラは進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」るものとなる。
d また、棒状ガイドをフレーム部で直接支持するような構造を採る場合には、ハウジング部を垂直方向に移動させるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ、同油圧シリンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に、敢えて新たな別の部材を設置する必要はない。
そして、フレーム部に対してハウジング部を水平方向に変位させるための「水平方向変位用の油圧シリンダ」についても、棒状ガイドと同様に、フレーム部との間に、敢えて新たな別の部材を設置する必要はないものであり、「水平方向変位用の油圧シリンダ」の一端も、フレーム部に直接固定するのが自然であるといえる。
e 以上によれば、引用発明1において、相違点1について周知技術に係る車体を高さ調節する構成を採った場合には、相違点3及び4に係る本件訂正発明1の構成を採ることも、当業者が容易になし得たことである。

(イ) 相違点2について
道路切削機のような動力機械において駆動を油圧または電気により行うようにすることは、文献により例示をするまでもなく周知の技術であり、引用発明1において切削ローラ用の切削ローラ駆動ユニットを「油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット」とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2) 本件訂正発明3について
ア 対比
(ア)引用発明1は、「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる」ことに加えて、前記「2つの棒状ガイド」のうち、「1つの棒状ガイド」には、「水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている」ものである。

(イ)引用発明1においては「1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている」ので、引用発明1の当該「1つの棒状ガイド」は、油圧シリンダと協働して「位置決めを行うことができる」ため、本件訂正発明3の「第1のガイド(34)」に相当する。また、引用発明1のもう一つの「棒状ガイド」は、油圧シリンダがないので「位置決めを行うことができない」から、本件訂正発明3の「第2のガイド(36)」に相当する。

(ウ)上記(イ)の対比を踏まえると、引用発明1の「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている」点と、本件訂正発明3の「前記リニアガイドの第1のガイド(34)が位置決め軸受を画定する筒状ガイドであり、前記リニアガイドの第2のガイド(36)が平面間に配置されるとともに、非位置決め軸受を画定するガイドである」点とは、「前記リニアガイドの第1のガイドが位置決め軸受を画定する筒状ガイドであり、前記リニアガイドの第2のガイドが非位置決め軸受を画定するガイドである」点で共通する。
(エ)そうすると、本件訂正発明3と引用発明1とは、上記(1)ア(ス)の相違点1〜4に加えて、以下の相違点5で相違し、その余の点で一致する。

(相違点5)
非位置決め軸受を画定するガイドが、本件訂正発明3では平面間に配置されるガイドであるのに対し、引用発明1では棒状ガイドである点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1〜4について
相違点1〜4についての判断は、上記(1)イと同様である。

(イ) 相違点5について
切削ローラを横断方向に移動させるためのガイドに用いる部材をいかなる構造のものとするかは、当業者が適宜選択することができる設計事項であるといえる。
そして、本件訂正発明3は、「第2のガイド」の上下を平面で挟む構造のシフトテーブルを有するものと認められる(本件明細書【0018】、【0060】、図2、図3)ところ、上記2(4)のとおり、甲第8号証には、切削ドラムをシフトテーブルに取り付けることによって左右方向にシフトさせる構成が記載されているから、本件訂正発明3の構成は、当業者が適宜選択し得る範ちゅうの構成であるといえる。
これらの事情を考慮すると、引用発明1の2つの棒状ガイドを、上記(1)イ(ア)で検討したように「1つのガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つのガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置」するように配置するに際しても、1つのガイドを引用発明1の位置決め軸受けを画定する筒状ガイドとするとともに、もう一つの水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられておらず、位置決め機能を有しない方の棒状ガイドを、甲第8号証に記載されたような平面間に配置されたガイドとすることは、容易に想到し得るものであったといえる。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明3は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 本件訂正発明4について
ア 対比
本件訂正発明4と引用発明1とを対比すると、両者は、上記(1)ア(ス)の相違点1〜4に加えて、以下の相違点6で相違し、その余の点で一致する。

(相違点6)
切削ローラの最大横走行距離について、本件訂正発明4は「500〜1000mmの範囲である」のに対し、引用発明1はそのような特定がなされていない点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1〜4について
相違点1〜4についての判断は、上記(1)イと同様である。

(イ) 相違点6について
切削ローラの横スライド(横走行距離)をどの程度に設定するかは、切削範囲の大きさに応じて、適宜設定することができる設計的事項にすぎない。
また、本件訂正発明4の数値限定に格別の技術的意義は認められない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明4は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 本件訂正発明5について
ア 対比
本件訂正発明5と引用発明1とを対比すると、両者は、上記(1)ア(ス)の相違点1〜4に加えて、以下の相違点7で相違し、その余の点で一致する。

(相違点7)
本件訂正発明5は、「コンベヤベルト手段(18)の下端(44)を受けるためのベルトシュー(40)が、前記切削ローラハウジング(10)に高さ調節可能に固定される」のに対し、引用発明1は、「コンベアベルト部の下端の両側には、一体的に側板が取り付けられており、当該側板は、ハウジング部に高さ調節可能に固定されている」点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1〜4について
相違点1〜4についての判断は、上記(1)イと同様である。

(イ) 相違点7について
上記2(5)で説示したとおり、甲第9号証には、アスファルト車道等の粉砕装置において、コンベヤベルト付きの第1の搬送手段の粉砕ロールに面する端部を収容するベルト・シューが、縦方向に調節することが可能であるように機械フレームに取り付けられていることが記載されており、これは、コンベヤベルト手段の下端を受けるために、高さを調節することが可能なベルトシューを設けることが記載されているものと理解することができる。
そして、引用発明1及び甲第9号証に記載された技術は、いずれも道路切削機に関するものであり、コンベヤベルト手段や切削ローラの位置関係も共通するほか、切削した土砂等を切削ローラからコンベヤベルト手段へと効果的に移行させるという課題も共通にするものといえるから、引用発明1に対して甲第9号証に記載された技術を適用して相違点7に係る本件訂正発明5の構成とすることは、容易に想到し得るものであったといえる。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明5は、引用発明1、周知技術及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5) 本件訂正発明6について
ア 対比
本件訂正発明6と引用発明1とを対比すると、両者は、上記(1)ア(ス)の相違点1〜4、及び上記(4)アの相違点7に加えて、以下の相違点8で相違し、その余の点で一致する。

(相違点8)
本件訂正発明6は「前記コンベヤベルト手段(18)が、前記ベルトシュー(40)に関節連結される」に対し、引用発明1はそのような特定がなされていない点。

イ 相違点についての判断
(ア) 相違点1〜4及び7について
相違点1〜4及び7についての判断は、上記(1)イ及び上記(4)イと同様である。

(イ) 相違点8について
相違点8は、コンベヤベルト手段がベルトシューに関節連結されるというものである。
そこで検討するに、コンベヤベルト手段とベルトシューとをどのような構造で連結するかは、当業者が適宜選択することができる設計事項にすぎず、コンベヤベルト手段とベルトシューとを一般的な関節構造で連結することも、当業者が適宜選択することができるものといえる。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明6は、引用発明1、周知技術及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6) 本件訂正発明12について
ア 対比
本件訂正発明12と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「3枚の板状体」は、本件訂正発明12の「ストリッパシールド(64)」に相当し、引用発明1の「ハウジング部の後端は、切削ローラによって切削される路面の切削面の横断方向に、切削面と略同じ幅で配置されている。ハウジング部の後端に沿って、3枚の板状体が横断方向に並んで、路面に向かって、高さ調節可能に垂下している。3枚の板状体は切削面と略同幅である。」ことは、本件訂正発明12の「進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端が、前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に横方向に載置されるとともに、前記路面(2)に実質的に直交して延びる前記切削軌道(68)の切削縁(70)に対して弾性的に当接される高さ調節可能なストリッパシールド(64)と面一であること」に相当する。

(イ)よって、両者は、上記(1)ア(ス)の相違点1〜4で相違し、その余の点で一致する。

イ 相違点についての判断
相違点1〜4についての判断は、上記(1)イと同様である。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明12は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7) 本件訂正発明13について
本件訂正発明13と引用発明1とを対比する。
ア 対比
(ア)引用発明1の「側板要素」は、本件訂正発明13の「可動シールド要素(74)」に相当し、引用発明1の「ハウジング部の後端は、3枚の板状体とほぼ面一である。3枚の板状体の下縁は高さ調節可能である。両側の板状体の両側縁には、側板要素が略直角に取り付けられている。側板要素の下縁は、3枚の板状体の下縁とほぼ面一であり、3枚の板状体と共に高さ調節可能である。3枚の板状体は切削面に当接可能であり、側板要素の下縁は切削面の外縁部に当接可能となっている。側板要素は、切削作業中に3枚の板状体の幅を切削面に適合させるためのばね付勢を用いて調節可能である」ことは、本件訂正発明13の「進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の前記後端は、下縁(78)が前記ストリッパシールド(64)と実質的に面一であるとともに、前記ストリッパシールド(64)と共に高さ調節可能であるそれぞれの可動シールド要素(74)を両側端に具備する高さ調節可能な前記ストリッパシールド(64)と面一であり、前記可動シールド要素(74)が、前記ストリッパシールド(64)と共に、切削作業中にストリッパシールド幅を前記切削軌道(68)に動的に適合させるばね付勢に抗して調節可能であること」に相当する。

(イ) よって、両者は、上記(1)ア(ス)の相違点1〜4で相違する。

イ 相違点についての判断
相違点1〜4についての判断は、上記(1)イと同様である。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明13は、引用発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(8) 本件訂正発明14について
ア 対比
本件訂正発明14は、方法の発明であって、自走式道路切削機が、「高さ調節可能な車体(4)と、進行方向に見て、前記車体の前車輪および後車輪と、」を具備し、機械フレームが「車体(4)により支持された」ものであり、切削ローラハウジング(10)が「前記車体の前車輪および後車輪との間で」機械フレームに支持されたものには特定されないものの本件訂正発明1と同様の構成を有したものである。

一方、引用発明1に係る「大型切削機」は、甲第1号証によれば「ロードカッタ ER550F」であるから、路面の切削に用いられることは明らかである。
そうすると、甲第1号証、甲第11号証及び甲第17号証からは、引用発明1の大型切削機を用いた路面の切削方法の発明(以下「引用方法発明1」という。)が、本件特許の優先日前に公然知られたあるいは公然実施されたものであることも認めることができる。
以下、本件訂正発明14と引用発明1とを対比する。
(ア)引用方法発明1の「車体」は「自走できる」ものであり、また、「大型切削機」が備える「切削ローラによって」「路面」が「切削される」のであるから、引用方法発明1の「大型切削機」は、本件訂正発明14の「自走式道路切削機(1)」に相当する。

(イ)引用方法発明1において、「車体は、フレーム部を有し、フレーム部には、切削ローラが内部に配されたハウジング部が配置されている」こと、「ハウジング部には、単一の切削ローラが回転自在に支持されている」こと及び「フレーム部」は、ハウジング部の横方向前端を、その一つとほぼ面一にすることができる「横外側面」を有するものであることを踏まえると、引用方法発明1の「フレーム部」は、本件訂正発明14の「横外側面を含む機械フレーム」に相当する。
同様に、引用方法発明1の「ハウジング部」は、本件訂正発明14の「前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)」に、引用方法発明1の「切削ローラ」は、本件訂正発明14の「回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)」に、それぞれ相当する。

(ウ)引用方法発明1においては、「切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している」ところ、その「駆動部」は、本件訂正発明14の「前記切削ローラ(12)用の切削ローラ駆動ユニット(14)」に相当する。

(エ)引用方法発明1の「ハウジング部の横方向前端が、フレーム部の横外側面の一つとほぼ面一にすることができ」ることは、本件訂正発明14の「前記切削ローラ(12)の先端(22)が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)、いわゆるゼロ側とほぼ面一である」ことに相当する。

(オ)本件訂正発明14の「 前記切削ローラ駆動ユニット(14)を油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット(80)として前記切削ローラ(12)に一体化させ」と、引用方法発明1の「切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有している」ものであって「駆動部」が「切削ローラ」と「一体化」されていることとは、「前記切削ローラ駆動ユニットを前記切削ローラに一体化させ」る点で共通する。

(カ)引用方法発明1のハウジング部は、「車体の垂直、横断及び進行方向にフレーム部によって支持され」たものであり、引用方法発明1において、「駆動部」(切削ローラ駆動ユニット(14))は「切削ローラ」(切削ローラ(12))に一体化されているものであるから、引用方法発明1が、「車体全体を前進させながら、切削作業中に切削ローラ及びハウジング部は、左右に移動させることができると共に、フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができる」ことは、本件訂正発明14が「前記切削ローラ駆動ユニット」を「前記切削ローラ(12)に一体化させ、かつ前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、前記切削ローラ(12)を進行方向に対して横断方向に変位可能に支持することにより、前記ゼロ側が前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定されるように適合され、前記切削ローラ(12)が、前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、作業を中断することなく変位可能であ」ることに相当する。

(キ)引用方法発明1が、「ハウジング部が、左及び右の横方向前端にそれぞれ、高さ調節可能なカバーを具備する」ことは、本件訂正発明14が、「前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備する」ことに相当する。

(ク)引用方法発明1の「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。」ことは、本件訂正発明14の「前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させること」に相当する。

(ケ)本件訂正発明14の「前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され」ることと、引用方法発明1の「2つの棒状ガイド」が「フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」、「フレーム部より下方の位置でハウジング部に取り付けられ」ることとは、「前記リニアガイドは、前記機械フレームより下方の位置で前記機械フレームに設けられ」ることで共通する。

(コ)引用方法発明1の「2つの棒状のガイド」のうちの「1つの棒状ガイド」に「取り付けられ」た「水平方向変位用の油圧シリンダ」は、2つの棒状ガイド同様、「フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」るとともに、「ハウジング部に取り付けられ」たものであり、フレーム部に横断方向に設けられた2つの棒状ガイドに沿って、ハウジング部を直線的に変位させるものであるから、一端は、「フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」、他端は「ハウジング部に取り付けられ」て固定されていると理解することができる。
そうすると、本件訂正発明14の「前記機械フレーム(8)にピストンシリンダユニット(45)の一端が固定され、前記切削ローラハウジング(10)に前記ピストンシリンダユニット(45)の他端が固定され」ることと、引用方法発明1の「水平方向変位用の油圧シリンダ」が「フレーム部に、上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」るとともに、「ハウジング部に取り付けられ」ることとは、「前記機械フレームにピストンシリンダユニットの一端が設けられ、前記切削ローラハウジングに前記ピストンシリンダユニットの他端が固定され」ることで共通する。

(サ)本件訂正発明14の「切削ローラハウジングのユニット」は、本件明細書(段落【0063】)において、「切削ローラ12と、コンベヤベルトユニット18の下端44を含めた・・・切削ローラハウジング10のその他の要素とを含む切削ローラハウジング10のユニット」と例示されるものである。一方、引用方法発明1において、「ハウジング部」は、「切削ローラが内部に配され」て「回転自在に支持」され、「切削ローラは、切削ローラを駆動するための駆動部を一体化して有して」おり、また、「コンベアベルト部の下端の両側に」「一体的に」「取り付けられ」た「側板」が「高さ調節可能に固定されて」いるものであるから、引用方法発明1の、「切削ローラ」、「切削ローラを駆動するための駆動部」や「第1コンベアベルトの下端」などが取り付けられた「ハウジング部」は、本件訂正発明14の「切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット」に相当するといえる。
そして、引用方法発明1の「水平方向変位用の油圧シリンダ」は、それによって「ハウジング部」が「2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位」され、「切削ローラ及びハウジング部は車体の外側面に対して、左寄せ及び右寄せ」して「フレーム部の両側の横外側面のいずれにも合わせることができ」、切削ローラ及びハウジング部が前記左寄せ及び右寄せすると、「第1コンベアベルト部の下端」は「切削ローラ及びハウジング部に追随する」ものであるから、「ハウジング部」とそれに取り付けられた「切削ローラ」、「切削ローラを駆動するための駆動部」や「第1コンベアベルトの下端」などを「変位させるように適合されている」といえる。

そうすると、引用方法発明1は、本件訂正発明14の「前記道路切削機(1)の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット全体を変位させるように適合されている」との発明特定事項を備える。

(シ)引用方法発明1は、上記(カ)に示したように「大型切削機(自走式道路切削機)」の「切削作業中の」状態に言及しているものであるから、引用方法発明1には「自走式道路切削機を用いた路面の切削の方法」が開示されているといえる。

(ス)そうすると、両者は、次の一致点で一致し、相違点9〜11で相違する。
(一致点)
「自走式道路切削機を用いた路面の切削の方法であって、
前記自走式道路切削機が、
横外側面を含む機械フレームと、
前記機械フレームに配置された切削ローラハウジングと、
回転自在に支持された単一の切削ローラと、
前記切削ローラ用の切削ローラ駆動ユニットと、
を具備し、
前記切削ローラの先端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記切削ローラの先端が、前記機械フレームの横外側面、いわゆるゼロ側とほぼ面一である、路面の切削の方法において、
前記切削ローラ駆動ユニットを前記切削ローラに一体化させ、かつ前記切削ローラ駆動ユニットと共に、前記切削ローラを進行方向に対して横断方向に変位可能に支持することにより、前記ゼロ側が前記機械フレームの一方の外側面またはその反対側の外側面に選択的に画定されるように適合され、前記切削ローラが、前記切削ローラ駆動ユニットと共に、作業を中断することなく変位可能であり、前記切削ローラハウジングは、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備し、
前記切削ローラハウジングを、前記機械フレームの進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイドに沿って直線的に変位させ、
前記リニアガイドは、前記機械フレームより下方の位置で前記機械フレームに固定され、
前記機械フレームにピストンシリンダユニットの一端が設けられ、前記切削ローラハウジングに前記ピストンシリンダユニットの他端が固定され、前記道路切削機の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラの位置間で、切削ローラと、前記切削ローラハウジングのその他の要素とを含む前記切削ローラハウジングのユニット全体を変位させるように適合されている、
路面の切削の方法。」

(相違点9)
切削ローラ用の切削ローラ駆動ユニットが、本件訂正発明14は、「油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット」とされているのに対し、引用方法発明1は、そのように特定されていない点。

(相違点10)
本件訂正発明14は、前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)に「固定」され、「1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持し、それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」っているのに対し、引用方法発明1は、「ハウジング部」を「直線的に変位させる」「2つの棒状のガイド」は、「フレーム部」に、「上下方向変位用の油圧シリンダを介して」設けられ、「4本の連結棒」と共に切削ローラ及びハウジング部を支持しており、そのために、「切削ローラ及びハウジング部」の支持は、本件訂正発明14のように「進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」るよう「前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持」し、「切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持」するものとはなっておらず、また、切削ローラの中心軸との位置関係が本件訂正発明14のように特定されるものでもない点。

(相違点11)
ピストンシリンダユニット(45)の一端の機械フレーム(フレーム部)への取り付けが、本件訂正発明14は、「固定」されているのに対し、引用方法発明1は、「上下方向変位用の油圧シリンダを介して」「設けられ」る点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点9は相違点2と同様であり、上記(1)イ(イ)で相違点2について判断したのと同様、当業者が容易になし得たことである。

(イ)相違点10及び11は相違点3及び4と同様であり、上記(1)イ(ア)で相違点3及び4について判断したのと同様、当業者が容易になし得たことである。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明14は、引用方法発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(9) 意見書における特許権者の主張について
ア 特許権者の主張
特許権者は、令和3年11月8日提出の意見書において概略、以下のとおり主張する。
(ア) 引用発明1の認定の誤りについて
審判合議体は、引用発明1の認定において、「m フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる。1つの棒状ガイドには、水平方向変位用の油圧シリンダが取り付けられている。」という構成をそれぞれ認定し、その上で、「(ケ)引用発明1の「フレーム部には、上下方向変位用の油圧シリンダを介して車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられており、2つの棒状ガイドはハウジング部に取り付けられており、ハウジング部は、2つの棒状のガイドに沿って直線的に変位させることができる」ことは、本件訂正発明1の「前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させること」に相当する。」と述べているが、上記解釈の根拠とされた写真27、写真31、写真32、写真33、写真34、写真35、写真36によれば、上下方向変位用の油圧シリンダの下端部に、2つの棒状ガイドが車体の進行方向に互いに間隔を置かずに隣接して取り付けられていることが把握されるに過ぎない。即ち、引用発明1は、本件訂正発明1の「前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)」との要件(構成要件L)を満たさない(相違点A1)。
また、引用発明1は本件訂正発明1の「1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置」するとの要件(構成要件N)を満たさない(相違点A2)。(令和3年11月8日付け意見書第10ページ第2行〜第11ページ第7行)

(イ) 相違点3、4の判断について
a 水平方向の変位量の確保について
「c.また、引用発明1において、切削ローラの路面に対する高さを調節する方法として、上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて、車体の上下動を用いる構成を採る場合には、ハウジング部を垂直方向に移動させるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ、同油圧シリンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に、敢えて新たな別の部材を設置する必要はない。そうすると、当業者としては、棒状ガイドをフレーム部で直接支持するような構造を採ろうとするのが自然な技術的発想であるといえる。」と判断しているが、失当である。
引用発明1には、1つの棒状ガイドに取り付けられた水平方向変位用の油圧シリンダに加えてもう1つの水平方向変位用の油圧シリンダが設けられており、これら2つの水平方向変位用の油圧シリンダにより切削ローラハウジングの水平方向の移動量が確保されている。
仮に、当業者が「上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて、車体の上下動を用いる構成を採る場合には、ハウジング部を垂直方向に移動させるための機構であった同油圧シリンダが不要となる」と考えたとしても、ハウジング部を水平方向に移動させるための機構が不要とならないのは自明である。即ち、2つの水平方向変位用の油圧シリンダは依然として動作可能でなければならない。しかしながら、「棒状ガイドをフレーム部で直接支持するような構造」を採用すると、棒状ガイドとフレーム部との間に連結された第2の水平方向変位用の油圧シリンダは両端が固定され動作不可能になってしまう。その結果、2つの水平方向変位用の油圧シリンダにより実現されていた切削ローラハウジングの水平方向の移動量が確保できなくなるから、そのような構成を当業者が採用するはずがない。(同意見書第14ページ下から12行〜第15ページ最下行。)

b 上下方向変位用の油圧シリンダに関する設計変更について
仮に、当業者が「上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて、車体の上下動を用いる構成を採る場合」において上下方向変位用の油圧シリンダが不要と考えたとしても、2つの水平方向変位用の油圧シリンダを動作可能とするためには、上下方向変位用の油圧シリンダの代わりに伸縮しないリンク部材を油圧シリンダの位置に設けることを想到するに過ぎない。
仮に引用発明1においてこのような構成を採ったとしても、依然として本件訂正発明1の「前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動」との要件及び「前記リニアガイド(34,36)は、機械フレーム(8)より下方の位置で機械フレームに固定され」ているとの要件を満たしていない。(同意見書第16ページ下から6行〜18ページ第5行)

c 切削ローラの回転軸に対する棒状ガイドの位置について
引用発明1において「棒状ガイドをフレーム部で直接支持するような構造」を採用しても、引用発明1の2つの棒状ガイドは、いずれも切削ローラの回転軸の後方において互いに隣接して取り付けられているに過ぎず、切削機の全重量は、機械フレームから2つの棒状ガイドを介して切削ローラの回転軸の後方に偏って伝えられることになる。その結果、切削ローラから路面に高い荷重を与えることができなくなるから、そのような構成を当業者が採用しないことは自明である。したがって、引用発明1において「棒状ガイドをフレーム部で直接支持するような構成」を採用したとしても、依然として本件訂正発明1の「2つのリニアガイドの内の一方が機械フレームの進行方向において切削ローラの回転軸の後方に位置し、他方が切削ローラの回転軸の前方に位置する」ことに相当する構成を得ることはできず(相違点A1及びA2)、「切削機の全重量が第1のリニアガイド(34)及び第2のリニアガイド(36)から切削ローラの回転軸に対して前後偏りなく伝えられ、切削ローラから路面に高い荷重を与えることができる」という本件訂正発明1の効果を奏することはできない。(同意見書第18ページ下から4行〜第20ページ第11行)

イ 主張の検討
(ア) 引用発明1の認定について
「車体の進行方向に互いに間隔を置いて2つの棒状ガイドが横断方向に設けられて」いることは、無効審判2018−800136号事件において、平成31年2月6日に行われた同事件における検甲第1号証を目的物とする証拠調べ(検証)の結果をまとめた「第1回口頭審理及び証拠調べ調書」(以下「調書」という。)の「4.検証の結果」に検甲第1号証の有する構成として記載されたものであって、調書に添付された検証写真から当合議体が認定したものではない。
また、本件訂正請求において請求項1に追加された「1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置」する点については、本件訂正発明1と引用発明1との対比において、相違点3とし、上記(1)イ(ア)のとおり進歩性について判断しているから、この点に係る請求人の主張は、上記(1)ないし(8)に説示した判断を左右するものではない。

(イ) 相違点3、4の判断について
a 上記ア(イ)aの主張について
当業者が「上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて、車体の上下動を用いる構成を採る場合には、ハウジング部を垂直方向に移動させるための機構であった同油圧シリンダが不要となる」としても、ハウジング部を水平方向に移動させるための機構が不要とならないことは自明である。
一方、甲第6号証〜甲第8号証に示される、高さ調節の方法として車体を上下動させる構成を採る周知技術においても、切削ローラを所定範囲で水平方向に移動させる必要があるところ、当該周知技術においては、切削ローラの横断方向の移動を全て水平方向変位用の油圧シリンダによって行うことによって、十分なドラムシフト量を確保することができるように設計されているものと認められる。
そして、引用発明1において、切削ローラの路面に対する高さ調節の方法として車体を上下動させる構成を採用し、これに伴って上下方向変位用の油圧シリンダを除くこととなった場合、当業者であれば、上記周知技術のように、切削ローラの横断方向の移動を全て水平方向変位用の油圧シリンダによって行うことにより、十分なドラムシフト量を確保することができるように設計することを当然に想定できるものと認められ、そのような設計が技術的に困難であるというべき事情もない。
そうすると、特許権者の、上記ア(イ)aの主張は採用できない。

b 上記ア(イ)bの主張について
上記(1)イ(ア)cで説示したように、引用発明1において、切削ローラの路面に対する高さを調節する方法として、上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて、甲第6号証〜甲第8号証に示される周知技術である、車体の上下動を用いる構成を採る場合には、ハウジング部を垂直方向に移動させるための機構であった同油圧シリンダが不要となるところ、同油圧シリンダが設置されていた棒状ガイドとフレーム部との間に、敢えて新たな別の部材を設置する必要はない。そうすると、当業者としては、棒状ガイドをフレーム部で直接支持する構造を採ろうとするのが自然な技術的発想であるといえる。
また、高さ調節の方法として車体を上下動させる構成を採る周知技術として示された甲第8号証には、切削ドラムをシフトテーブルに設けることによって左右方向にシフトさせる構成が記載されており、引用発明1において、切削ローラの路面に対する高さ調節の方法として車体を上下動させる構成を採る場合に、切削ドラムの移動機構についても甲第8号証に記載される構成を採用することは、当業者が適宜なし得た設計的事項であるといえ、その場合には、上下方向変位用の油圧シリンダの代わりに伸縮しないリンク部材等を用いることなく、水平方向の移動機構を構成するものとなると認められる。
よって、特許権者の、上記ア(イ)bの主張は採用できない。

c 上記ア(イ)cの主張について
高さ調節の方法として車体を上下動させる構成を採る周知技術として示された甲第8号証には、上記(1)イ(ア)cで説示したように、本件訂正発明1の、リニアガイドは、機械フレームに「固定」され、「1つのリニアガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、前記リニアガイドにより、前記切削ローラハウジングを前記機械フレームで強固に支持し、それによって前記切削ローラを上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラは進行方向に対して横断方向にのみ可動にな」ることに相当する構成が開示されている。
そして、引用発明1において、切削ローラの路面に対する高さ調節の方法として、甲第6号証〜甲第8号証に示される周知技術である車体を上下動させる構成を採用する場合に、切削ローラ及びハウジング部の支持についても甲第8号証に記載される構成を採用することは、当業者が適宜選択することができる設計的事項であるといえ、その場合には、「1つのリニアガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイドは、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置」するものとなると認められる。
よって、特許権者の、上記ア(イ)cの主張は、採用できない。

d 上記ア(イ)全体の主張について
特許権者の上記ア(イ)における主張は、引用発明1の切削ローラの路面に対する高さを調節する方法として上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成の路面切削機のリニアガイドについて、これを変更して本件訂正発明1に至らないことについて主張するに止まり、高さ調節に車体の上下動を用いる路面切削機のリニアガイドを考慮しても相違点3、4の構成となし得ないことについては何ら主張をしていない。
しかるところ、本件訂正発明1の相違点3、4に係る構成は、上記(1)イ(ア)に検討したとおり、引用発明1において、切削ローラの路面に対する高さを調節する方法として、上下方向変位用の油圧シリンダを用いる構成に代えて、甲第6号証〜甲第8号証に示される周知技術である車体の上下動を用いる構成を採る場合に、甲第8号証に示される構成等を参酌することによって容易になし得たことである。
したがって、特許権者の上記主張を採用することはできない。

(10) まとめ
以上のとおり、本件訂正発明1、3、4、12〜14は、引用発明1又は引用方法発明1及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正発明5、6は、引用発明1、周知技術及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件訂正発明1、3、4、12〜14は、甲第1号証、甲第11号証及び甲第17号証から把握できる発明並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明1、3、4、12〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件訂正発明5及び6は、甲第1号証、甲第11号証及び甲第17号証から把握できる発明並びに周知技術及び甲第9号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明5及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件訂正発明1、3〜6及び12〜14に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項2に対する本件特許異議の申立ては、申立ての対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定によって却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 森次 顕
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さ調節可能な車体(4)と、
進行方向に見て、前記車体の前車軸および後車軸と、
前記車体(4)により支持された機械フレーム(8)と、
前記前車軸と前記後車軸との間で前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)と、
前記切削ローラハウジング(10)に回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)と、
前記切削ローラ(12)用の切削ローラ駆動ユニット(14)と、
進行方向に見て前方向に前記切削ローラ(12)により削り取られた切削物を除去するための、前記切削ローラハウジング(10)と協働するコンベヤベルト手段(18)とを具備する路面(2)切削用の自走式道路切削機(1)であって、
前記切削ローラハウジング(10)の横方向先端が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)、いわゆるゼロ側とほぼ面一である、自走式道路切削機(1)において、
前記切削ローラ駆動ユニット(14)が、前記切削ローラ(12)に一体化された油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット(80)であり、前記切削ローラ(12)が、前記切削ローラハウジング(10)および前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、作業を中断することなく進行方向に対して横断方向に変位可能に前記機械フレーム(8)に支持され、もって、前記ゼロ側が、前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定され、
前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備し、
前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、
前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、
1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、
前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持し、それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動になり、
前記機械フレーム(8)にピストンシリンダユニット(45)の一端が固定され、前記切削ローラハウジング(10)に前記ピストンシリンダユニット(45)の他端が固定され、前記道路切削機(1)の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット全体を変位させるように適合されていることを特徴とする、自走式道路切削機。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記リニアガイドの第1のガイド(34)が位置決め軸受を画定する筒状ガイドであり、前記リニアガイドの第2のガイド(36)が平面間に配置されるとともに、非位置決め軸受を画定するガイドであることを特徴とする、請求項1に記載の自走式道路切削機。
【請求項4】
前記切削ローラ(12)の最大横走行距離が、500〜1000mmの範囲であることを特徴とする、請求項1または3に記載の自走式道路切削機。
【請求項5】
前記コンベヤベルト手段(18)の下端(44)を受けるためのベルトシュー(40)が、前記切削ローラハウジング(10)に高さ調節可能に固定されることを特徴とする、請求項1、3〜4のいずれか一項に記載の自走式道路切削機。
【請求項6】
前記コンベヤベルト手段(18)が、前記ベルトシュー(40)に関節連結されることを特徴とする、請求項5に記載の自走式道路切削機。
【請求項7】
前記ベルトシュー(40)が、前記コンベヤベルト手段(18)の前記下端(44)を関節連結により受けるための実質的に凹状、好ましくは球状の受けソケット(48)を具備し、前記受けソケット(48)が前記コンベヤベルト手段(18)の前記下端(44)の、前記受けソケット(48)の形状に適合された下側と協働することを特徴とする、請求項5または6に記載の自走式道路切削機。
【請求項8】
前記コンベヤベルト手段(18)の前側上端(46)が、前記コンベヤベルト手段(18)の長手方向軸線に沿って直線的に変位可能であるように、カルダン継手により前記機械フレーム(8)に支持されることを特徴とする、請求項7に記載の自走式道路切削機。
【請求項9】
可撓性の支持を確保するために、少なくとも前記前側上端(46)において、前記コンベヤベルト手段(18)が、前記コンベヤベルト手段(18)の方向に実質的に延びかつ好ましくは凸状の軸受面を有するコンベヤベルト側支持要素(52)を前記下側に具備し、前記支持要素(52)が、横方向に案内されるとともに、好ましくは凸状の支持面を有しかつ前記機械フレーム(8)に進行方向に対して横断方向に固定されたフレーム側支持要素(56)に載置されることを特徴とする、請求項8に記載の自走式道路切削機。
【請求項10】
前記コンベヤベルト側支持要素(52)および/または前記フレーム側支持要素(56)が、丸みを帯びた断面の形状または中空形状により画定されることを特徴とする、請求項9に記載の自走式道路切削機。
【請求項11】
前記ベルトシュー(40)が、同期ガイド(60)を介して高さ調節可能であることを特徴とする、請求項10に記載の自走式道路切削機。
【請求項12】
進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の後端が、前記切削ローラ(12)の切削軌道(68)に横方向に載置されるとともに、前記路面(2)に直交して延びる前記切削軌道(68)の切削縁(70)に対して弾性的に当接される高さ調節可能なストリッパシールド(64)と面一であることを特徴とする、請求項1、3〜11のいずれか一項に記載の自走式道路切削機。
【請求項13】
進行方向に見て、前記切削ローラハウジング(10)の前記後端は、下縁(78)が前記ストリッパシールド(64)と実質的に面一であるとともに、前記ストリッパシールド(64)と共に高さ調節可能であるそれぞれの可動シールド要素(74)を両側端に具備する高さ調節可能な前記ストリッパシールド(64)と面一であり、前記可動シールド要素(74)が、前記ストリッパシールド(64)と共に、切削作業中にストリッパシールド幅を前記切削軌道(68)に動的に適合させるばね付勢に抗して調節可能であることを特徴とする、請求項12に記載の自走式道路切削機。
【請求項14】
自走式道路切削機(1)を用いた路面(2)の切削の方法であって、
前記自走式道路切削機(1)が、
横外側面(26,28)を含む機械フレーム(8)と、
前記機械フレーム(8)に配置された切削ローラハウジング(10)と、
回転自在に支持された単一の切削ローラ(12)と、
前記切削ローラ(12)用の切削ローラ駆動ユニット(14)と、
を具備し、
前記切削ローラ(12)の先端(22)が、縁部または障害物のできるだけ近くで切削が行われるようにするために、前記機械フレーム(8)の横外側面(26,28)、いわゆるゼロ側とほぼ面一である、路面(2)の切削の方法において、
前記切削ローラ駆動ユニット(14)を油圧駆動ユニットまたは電気駆動ユニット(80)として前記切削ローラ(12)に一体化させ、かつ前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、前記切削ローラ(12)を進行方向に対して横断方向に変位可能に支持することにより、前記ゼロ側が前記機械フレーム(8)の一方の外側面(26,28)またはその反対側の外側面(26,28)に選択的に画定されるように適合され、前記切削ローラ(12)が、前記切削ローラ駆動ユニット(14)と共に、作業を中断することなく変位可能であり、前記切削ローラハウジング(10)は、その先端にそれぞれの高さ調節可能な側部シールドを具備し、
前記切削ローラハウジング(10)を、前記機械フレーム(8)の進行方向に互いに間隔を置いて配置された2つのリニアガイド(34,36)に沿って直線的に変位させ、
前記リニアガイド(34,36)は、前記機械フレーム(8)より下方の位置で前記機械フレーム(8)に固定され、
1つの前記リニアガイド(34)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の後方に位置し、もう1つの前記リニアガイド(36)は、進行方向において前記切削ローラの回転軸の前方に位置し、
前記リニアガイド(34,36)により、前記切削ローラハウジング(10)を前記機械フレーム(8)で強固に支持し、それによって前記切削ローラ(12)を上下方向および進行方向に強固に支持することができ、前記切削ローラ(12)は進行方向に対して横断方向にのみ可動になり、
前記機械フレーム(8)にピストンシリンダユニット(45)の一端が固定され、前記切削ローラハウジング(10)に前記ピストンシリンダユニット(45)の他端が固定され、前記道路切削機(1)の外側面に対して左寄せまたは右寄せする前記切削ローラ(12)の位置間で、前記切削ローラ(12)と、前記切削ローラハウジング(10)のその他の要素とを含む前記切削ローラハウジング(10)のユニット全体を変位させるように適合されていることを特徴とする、路面の切削の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-13 
出願番号 P2018-074655
審決分類 P 1 652・ 121- ZAA (E01C)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 森次 顕
特許庁審判官 土屋 真理子
西田 秀彦
登録日 2020-04-13 
登録番号 6690854
権利者 ヴィルトゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
発明の名称 路面切削用の自走式道路切削機、特に大型切削機、および路面切削の方法  
代理人 ▲高▼山 嘉成  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 鈴木 博子  
代理人 須田 洋之  
代理人 山本 泰史  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 鈴木 博子  
代理人 岩上 健  
代理人 須田 洋之  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 山本 泰史  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 岩上 健  

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