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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1391977
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-03 
確定日 2022-09-28 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6705573号発明「植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6705573号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。 特許第6705573号の請求項6に係る特許を維持する。 特許第6705573号の請求項1〜5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6705573号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成23年2月14日に出願された特願2011−28784号の一部を平成26年7月11日に新たな特許出願(特願2014−143712号)とし、その一部を平成28年7月12日に新たな特許出願(特願2016−137336号)とし、その一部を平成29年12月27日に新たな特許出願(特願2017−250618号)とし、その一部を平成31年4月3日に新たな特許出願(特願2019−71018号)とし、さらにその一部を令和2年3月19日に新たな特許出願(特願2020−48567号)としたものであって、令和2年5月18日にその特許権の設定登録がされ、令和2年6月3日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和2年12月 3日 :特許異議申立人土田裕介(以下「申立人」という。)による請求項1〜6に係る特許に対する特許異議の申立て
令和3年 2月 2日付け:取消理由通知書
令和3年 4月 7日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和3年 6月29日付け:訂正拒絶理由通知書
令和3年 7月28日 :特許権者による意見書の提出
令和4年 3月 9日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 5月12日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和4年 6月 7日付け:訂正拒絶理由通知書
令和4年 7月 1日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出

なお、令和4年5月12日に訂正請求がされたことにより、令和3年4月7日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
また、当審から令和4年7月8日付けで申立人に対して訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)を、期間を指定して行ったが、当該期間内に申立人からは何らの応答もなかった。

第2 本件訂正の適否
1 本件訂正の内容
令和4年7月1日提出の手続補正書による補正後の訂正請求書により、特許権者が求める訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
本件訂正前の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の請求項6に「請求項1に記載の包装材料シーラントフィルムと用いてなることを特徴とする包装袋。」とあるものについて、独立形式に改め、
「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、
該ヒートシール性フィルムは、三層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、
該樹脂成分は、植物由来エチレンと石油由来α−オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を重量比7:3で混合した樹脂であり、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が約88%であって、密度が0.918g/cm3、メルトフローレートが2.7g/10分の物性を有するエチレン−α−オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用シーラントフィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)一群の請求項
本件訂正前の請求項1〜6は、請求項2〜6が、本件訂正前の請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1〜6〕について請求されたものである。

(2)訂正事項1〜5について
訂正事項1〜5は、それぞれ本件訂正前の請求項1〜5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項1の記載を引用する請求項6の記載を請求項1の記載を引用しないものとする訂正、並びに本件訂正前の請求項1に記載の「ヒートシール性フィルム」の層構成及び樹脂成分、本件訂正前の請求項1に記載の「植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂」のバイオマス度、密度及びメルトフローレートについて限定する訂正を含むものである。
また、訂正事項6のうち「包装材用シーラントフィルムを用いてなる」と訂正したことは、本件訂正前の請求項6の「請求項1に記載の包装材料シーラントフィルムと用いて」の記載と、本件訂正前の請求項1は「包装材用シーラントフィルム」であることに鑑みれば、本件訂正前の「包装材料」は「包装材用」の誤記であることが明らかであること、また、「シーラントフィルムと用いて」は「シーラントフィルムを用いて」の意味であることが明らかなことから、誤記を訂正するものである。
したがって、訂正事項6は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項6は、本件特許の明細書の【0001】、【0004】、【0062】の記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の適否について
訂正事項6は、本件訂正前の請求項6に係る発明の発明特定事項をさらに限定し、誤りであることが明らかな記載を正しいものとするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜6〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり本件訂正は、認められたから、本件特許の請求項6に係る発明(以下「本件発明6」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項6】
ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、
該ヒートシール性フィルムは、三層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、
該樹脂成分は、植物由来エチレンと石油由来α−オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を重量比7:3で混合した樹脂であり、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が約88%であって、密度が0.918g/cm3、メルトフローレートが2.7g/10分の物性を有するエチレン−α−オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用シーラントフィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。」

第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜6に係る特許に対して、当審が令和4年3月9日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
なお、当該取消理由の通知では、すべての特許異議申立理由について通知した。

(1)取消理由1(進歩性
本件特許の請求項1〜6に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2〜5に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(2)取消理由2(新規性
本件特許に係る出願は、特許法第44条第1項の規定による特許出願であるとは認められず、同法同条第2項の適用はなく、本件特許の請求項1〜6に係る発明は、引用文献8に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

[引用文献等一覧]
引用文献1:特開平9−150489号公報(甲第1号証)
引用文献2:杉山英路ほか,「地球環境にやさしい「サトウキビ由来のポリエチレン」」,コンバーテック,株式会社加工技術研究会,2009年8月15日,第37巻第8号,63〜67ページ(甲第2号証)
引用文献3:杉山英路,「新しいバイオマスプラスチックスの可能性〜「サトウキビ由来ポリエチレン」の製品化から〜」,Polyfile,株式会社大成社,2009年12月10日,第46巻第12号,28〜30ページ(甲第3号証)
引用文献4:特開2010−162748号公報(当審が発見した引用文献)
引用文献5:特開2009−91694号公報(当審が発見した引用文献)
引用文献6:特開2003−20048号公報(甲第7号証)
引用文献7:特開2008−189339号公報(甲第8号証)
引用文献8:特開2019−142588号公報(甲第9号証)

2 当審の判断
(1)引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(以下の下線は、理解のため当審が付した。)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材層と、その少なくとも片面に積層されたシール層とからなる多層シーラントフィルムであって、該基材層は、炭素数6未満のα−オレフィンとエチレンとの共重合体でありかつ密度0.910〜0.930g/cm3を有する直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなり、該シール層は、密度が0.885〜0.920g/cm3の範囲にあり、重量平均分子量/数平均分子量の値が1.5〜3であり、示差走査熱量計を用いて測定した結晶融解温度において、結晶融解ピークが単一であり、かつフィルムの全結晶が融解し始めてからし終るまでの温度幅が20℃以内である直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなり、基材層とシール層の厚み比が2/1〜1/10である、多層シーラントフィルム。
・・・
【請求項3】 請求項1または2記載の多層シーラントフィルムの非シール面、もしくはシール層が基材層の両面に形成されている場合は少なくとも一方のシール層と基材層の間に補強層が積層されてなる複合包装材。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば液体食品包装などに用いられる多層シーラントフィルムに関し、より詳しくは、従来のシーラントフィルムと同じ厚味、同じ積層構成で、充分な耐衝撃性を有するシーラントフィルムに関し、さらに、このシーラントフィルムを用いて得られる複合包装材料に関する。」
「【0003】このような状況の下で、袋に強度を必要とする分野では、シーラントフィルムの原料樹脂として低密度ポリエチレン系樹脂(以下LDPEと略記する)に代って直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂(以下LLDPEと略記する)が用いられたり、・・・」
「【0017】請求項1記載の多層シーラントフィルムにおいて、基材層の原料樹脂は、コモノマーとしての炭素数6未満のα−オレフィンとエチレンとの共重合体でありかつ密度0.910〜0.930g/cm3を有するLLDPEであればよく、従来一般に用いられているLLDPEが使用でき、また、複数の種類のLLDPEを混合して用いてもよい。」
「【0030】比較例1
単一活性点触媒を用いた重合により得られたLLDPE(密度=0.902g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、・・・」
「【0032】実施例1
単一活性点触媒を用いた重合により得られたLLDPE(密度=0.902g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、DSC測定による融点=103℃、結晶融解温度幅=17℃、MW/MN=2.4)をシール層用樹脂に、重合活性点が複数ある触媒を用いた重合によって得られ、炭素数8のα−オレフィンとエチレンとの共重合体であるLLDPE(密度=0.920g/cm3、MI=2g/10分、DSC測定による融点=110℃および123℃、結晶融解温度幅=26℃)を基材層用樹脂にそれぞれ用い、インフレーション成形機を用いて共押出法によって成膜をし、シール層と基材層からなるシーラントフィルムを得た。層厚比はシール層/基材層=1/1とした。
【0033】ついで、このフィルムの基材層の表面にコロナ放電処理を施して濡れ張力を45dyn/cmとした後、この処理面に15μm厚の2軸延伸ポリアミド系フィルムをドライラミネーションにより貼合した。
【0034】こうして、シール層と基材層と補強層とからなる複合包装フィルムを製作した。」
「【0036】実施例3
基材層用樹脂として、炭素数4のα−オレフィンとエチレンとの共重合体であるLLDPE(密度=0.920g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、DSC測定による融点=108℃および120℃、結晶融解温度幅=24℃)を用いた点を除いて、実施例1と同様にしてシール層と基材層と補強層とからなる複合包装フィルムを製作した。」
「【0040】性能評価
実施例および比較例で得られた、シール層と基材層からなるシーラントフィルム、またはシール層と基材層と補強層からなる複合包装フィルムを対象にして、以下の項目について性能評価を行った。」
「【0048】
・・・
(5) 落板衝撃試験
縦21cm、横13cmのパウチ(内容物:水)を製袋した。・・・」

LLDPEは、エチレンとα−オレフィンとを共重合することにより得られるものであることが技術常識であることを勘案すると、引用文献1に記載されたLLDPEも、エチレン及びα−オレフィンとを共重合することで得られたものと認められる。

上記に摘記した引用文献1の記載事項及び認定事項から、実施例3として記載されたシーラントフィルムを用いた複合包装フィルムにより製袋されたパウチに着目すると、引用文献1には次の発明が記載されている。
「シール層と基材層からなるシーラントフィルムであって、
単一活性点触媒を用いた重合により得られたLLDPE(密度=0.902g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、DSC測定による融点=103℃、結晶融解温度幅=17℃、MW/MN=2.4)をシール層用樹脂に、炭素数4のα−オレフィンとエチレンとの共重合体であるLLDPE(密度=0.920g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、DSC測定による融点=108℃および120℃、結晶融解温度幅=24℃)を基材層用樹脂にそれぞれ用い、インフレーション成形機を用いて共押出法によって成膜をして得たシーラントフィルムを用いた複合包装フィルムにより製袋されたパウチ。」(以下「引用発明1」という。)

(2)取消理由1(進歩性)について
ア 対比
本件発明6と引用発明1を対比する。
引用発明1の「シーラントフィルム」は、「複合包装フィルムに用い」られるものであるから、本件発明6の「包装材用シーラントフィルム」に相当する。
引用発明1の「パウチ」は、本件発明6の「包装袋」に相当する。
LLDPE、すなわち直鎖状低密度ポリエチレンがヒートシール性を有することは技術常識であり、包装材の技術分野において、シーラントフィルムが、ヒートシールができるフィルムであることも技術常識であるので、引用発明1の「シール層と基材層からなるシーラントフィルム」が、「単一活性点触媒を用いた重合により得られたLLDPE(密度=0.902g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、DSC測定による融点=103℃、結晶融解温度幅=17℃、MW/MN=2.4)をシール層用樹脂に、炭素数4のα−オレフィンとエチレンとの共重合体であるLLDPE(密度=0.920g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、DSC測定による融点=108℃および120℃、結晶融解温度幅=24℃)を基材層用樹脂にそれぞれ用い」たものであることと、本件発明6の「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、該ヒートシール性フィルムは、三層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、該樹脂成分は、植物由来エチレンと石油由来α−オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を重量比7:3で混合した樹脂であり、該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が約88%であって、密度が0.918g/cm3、メルトフローレートが2.7g/10分の物性を有するエチレン−α−オレフィン共重合体である」こととは、「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、該ヒートシール性フィルムは、複数層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、該樹脂成分は、エチレンとα−オレフィンとが共重合された直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる樹脂である」限りで一致する。
そうすると、本件発明6と引用発明1とは、次の点で一致し、相違する。
[一致点]
「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、
該ヒートシール性フィルムは、複数層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、
該樹脂成分は、エチレンとα−オレフィンとが共重合された直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる樹脂である包装材用シーラントフィルムを用いてなる包装袋。」
[相違点1]
「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、該ヒートシール性フィルムは、複数層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、該樹脂成分は、エチレンとα−オレフィンとが共重合された直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂からなる樹脂である」ことに関して、本件発明6は、「ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、該ヒートシール性フィルムは、三層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、該樹脂成分は、植物由来エチレンと石油由来α−オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を重量比7:3で混合した樹脂であり、該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が約88%であって、密度が0.918g/cm3、メルトフローレートが2.7g/10分の物性を有するエチレン−α−オレフィン共重合体である」のに対して、引用発明1は、「シール層と基材層からなるシーラントフィルム」が、「単一活性点触媒を用いた重合により得られたLLDPE(密度=0.902g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、DSC測定による融点=103℃、結晶融解温度幅=17℃、MW/MN=2.4)をシール層用樹脂に、炭素数4のα−オレフィンとエチレンとの共重合体であるLLDPE(密度=0.920g/cm3、メルトインデックス(MI)=1g/10分、DSC測定による融点=108℃および120℃、結晶融解温度幅=24℃)を基材層用樹脂にそれぞれ用い」たものである点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
引用文献1には、多層シーラントフィルムを、「三層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、該樹脂成分は、植物由来エチレンと石油由来α−オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を重量比7:3で混合した樹脂」とすることについて、記載も示唆もされていない。
また、相違点1に係る本件発明6の構成は、申立人が提出した証拠には記載されておらず、かつ、本件特許に係る出願前における周知技術でもない。
そうすると、引用発明1において、相違点1に係る本件発明6の発明特定事項を備えたものとすることは、当業者が引用発明1に基づいて容易に想到し得たものではない。
したがって、本件発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)取消理由2(新規性)について
取消理由2は、本件訂正前の請求項1に記載された事項は、「多層構造」における「植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来のポリエチレン系樹脂とを含む層」の位置は特定されず、「多層」としては、例えば、四層のものを包含するものであるから、特願2019−71018号の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「親出願当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内ではなく、本件特許に係る出願は、特許法第44条第1項の規定による特許出願とは認められないとしたものである。
しかしながら、本件訂正により、本件発明6における「シーラントフィルム」は、親出願当初明細書等の【0062】に記載されたものとなったから、本件特許の請求項6に記載された事項は、親出願当初明細書等に記載された事項の範囲内のものとなったから、取消理由2は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許の請求項1〜5は、本件訂正により削除されたため、請求項1〜5に係る特許についての本件特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
削除
【請求項2】
削除
【請求項3】
削除
【請求項4】
削除
【請求項5】
削除
【請求項6】
ポリエチレン系樹脂からなるヒートシール性フィルムであって、
該ヒートシール性フィルムは、三層構成であって、各層は同種の樹脂成分からなり、
該樹脂成分は、植物由来エチレンと石油由来α−オレフィンとが共重合された植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂と、石油由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂を重量比7:3で混合した樹脂であり、
該植物由来の直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂は、放射性炭素年代測定14Cの測定値から算定するバイオマス度が約88%であって、密度が0.918g/cm3、メルトフローレートが2.7g/10分の物性を有するエチレン−α−オレフィン共重合体であることを特徴とする包装材用シーラントフィルムを用いてなることを特徴とする包装袋。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-09-16 
出願番号 P2020-048567
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 久保 克彦
藤井 眞吾
登録日 2020-05-18 
登録番号 6705573
権利者 大日本印刷株式会社
発明の名称 植物由来ポリエチレンを用いた包装材用シーラントフィルム、包装材用積層フィルム、および包装袋  
代理人 竹林 則幸  
代理人 吉住 和之  
代理人 結田 純次  
代理人 結田 純次  
代理人 竹林 則幸  
代理人 黒木 義樹  
代理人 長谷川 芳樹  

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