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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部申し立て 特29条の2  B65D
管理番号 1391978
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-04 
確定日 2022-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6742879号発明「容器およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6742879号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4、6、7〕、5について訂正することを認める。 特許第6742879号の請求項1、3、5に係る特許を維持する。 特許第6742879号の請求項2、4、6、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6742879号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成28年9月30日の出願であって、令和2年7月31日にその特許権の設定登録がされ、令和2年8月19日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ては、それら請求項1〜7に係る特許を対象とするものであって、その経緯は、次のとおりである。
令和2年12月4日 :特許異議申立人青木なお子(以下、「申立人」という。)による本件特許に対する特許異議の申立て
令和3年7月2日付け:取消理由通知書
令和3年9月6日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
令和3年12月28日:申立人による意見書の提出
令和4年3月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年6月9日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出(以下、この訂正請求書による訂正請求を「本件訂正請求」といい、訂正そのものを「本件訂正」という。)
令和4年7月21日:申立人による意見書の提出

なお、特許権者らが令和3年9月6日に提出した訂正請求書による訂正の請求は、本件訂正請求がされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 本件訂正
1 本件訂正の内容
本件訂正請求は、「特許第6742879号の特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜7について訂正することを求める。」ものであり、本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「容器本体と、前記容器本体の表面に設けられたアルカリ可溶性の樹脂を含んでなるアルカリ可溶性樹脂層と、前記樹脂層の表面に設けられた印刷層と、を備え、」という記載を、「容器本体と、前記容器本体の表面に設けられたアルカリ可溶性の樹脂を含んでなるアルカリ可溶性樹脂層と、前記樹脂層の表面に設けられた印刷層と、前記印刷層を覆うように設けられた保護層と、を備え、」に訂正する。
(2)訂正事項2
同請求項1の「前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物である」という記載を、「前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物であり、前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/g以上、400mgKOH/g以下であり、」に訂正する。
(3)訂正事項3
同請求項1の「ことを特徴とする、容器」という記載の前に、「前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む、」との記載を挿入する。
(4)訂正事項4
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3の「請求項1または2」という記載を「請求項1」に訂正する。
(5)訂正事項5
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2、4、6及び7を削除する。
(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5の「前記容器本体の表面に、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂層形成用組成物を塗布し、活性光線を照射し、アルカリ可溶性の樹脂層を形成する工程前」という記載を、「前記容器本体の表面に、着色剤および活性光線硬化性樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂層形成用組成物を塗布し、活性光線を照射し、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性の樹脂層を形成する工程」に訂正する。
(7)訂正事項7
同請求項5の「前記アルカリ可溶性の樹脂層の表面に、印刷を施すことにより、印刷層を形成する工程と、を備えてなり、」という記載を、「前記アルカリ可溶性の樹脂層の表面に、印刷を施すことにより、印刷層を形成する工程と、前記印刷層を覆うように、保護層を形成する工程と、を備えてなり、」に訂正する。
(8)訂正事項8
同請求項5の「前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂である」という記載を、「前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物であり、」に訂正する。
(9)訂正事項9
同請求項5の記載において、「ことを特徴とする、容器の製造方法」との記載の前に、「前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/g以上、400mgKOH/g以下であり、」との事項を挿入する。
(10)訂正事項10
同請求項5の記載において、訂正事項9に続けて、「前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む、」との事項を挿入する。

2 一群の請求項
訂正事項1〜5は、訂正前に引用関係を有する請求項1〜4、6、7に対して、また、訂正事項6〜10は、訂正前の独立形式で記載された請求項5に対して、それぞれ請求されたものである。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されている。

3 本件訂正の適否
(1)訂正事項1〜3について
訂正事項1及び3は、本件訂正前の請求項1に記載された「容器」について、「前記印刷層を覆うように設けられた保護層」を備えるものであり、「前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む」と限定するものであり、また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項1に記載された「アルカリ可溶性の樹脂」について、その「酸価」の値を特定するものであるから、訂正事項1〜3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項1及び3は、本件訂正前の請求項4の「前記印刷層を覆うように、保護層をさらに備える、」及び本件特許の明細書の「【0037】(保護層) 保護層は、所望により、設けられる層であり、印刷層を覆うように設けられ、印刷層の保護を担う層である。・・・【0038】 保護層は、熱硬化型樹脂または活性光線硬化性樹脂を含んでなることが好ましく、・・・ 【0039】・・・また、熱硬化型樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂などが挙げられる。・・・」という記載に基づくものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項2の「前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/g以上、400mgKOH/g以下である、請求項1に記載の容器。」という記載に基づくものであるから、これも本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
訂正事項1〜3は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項5について
訂正事項5は、本件訂正前の請求項2、4、6及び7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項5により削除された請求項2を引用する点で不合理を生じることとなった記載を正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項6〜10について
ア 訂正事項6は、本件訂正前の請求項5の「前記容器本体の表面に、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性印刷層形成用組成物を塗布し、活性光線を照射し、アルカリ可溶性の樹脂層を形成する工程」という記載について、アルカリ可溶性印刷層形成用組成物の段階ではそれに活性光線硬化性樹脂が含まれていることが明瞭でなく、また、アルカリ可溶性の樹脂層に含まれる材料が明瞭でないため、それらの明瞭とするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項8は、本件訂正前の請求項5に記載された「アルカリ可溶性の樹脂」について、それが「活性光線硬化性樹脂」に対して活性光線が照射された後の「硬化物」であるということが明瞭になるよう表現しようとするものであるため、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項7及び10は、本件訂正前の請求項5に記載された「容器の製造方法」について、「前記印刷層を覆うように、保護層を形成する工程」を備えることとし、「前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む」と限定するものであり、また、訂正事項9は、本件訂正前の請求項4に記載された「アルカリ可溶性の樹脂」について、その「酸価」の値を特定するものであるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項6、8は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
また、訂正事項7、9、10は、既に「(1)訂正事項1〜3について」で述べたと同様に、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
ウ 訂正事項6〜10は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

4 小括
上記のとおり、訂正事項1〜10は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4、6、7〕、5について訂正することを認める。

第3 本件特許に係る発明
上記「第2」のとおり本件訂正が認められたから、本件特許の請求項1、3、5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3、5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
容器本体と、前記容器本体の表面に設けられたアルカリ可溶性の樹脂を含んでなるアルカリ可溶性樹脂層と、前記樹脂層の表面に設けられた印刷層と、前記印刷層を覆うように設けられた保護層と、を備え、
前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物であり、前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/g以上、400mgKOH/g以下であり、
前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む、ことを特徴とする、容器。」
「【請求項3】
前記印刷層が、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含んでなる、請求項1に記載の容器。」
「【請求項5】
容器本体を準備する工程と、
前記容器本体の表面に、着色剤および活性光線硬化性樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂層形成用組成物を塗布し、活性光線を照射し、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性の樹脂層を形成する工程と、
前記アルカリ可溶性の樹脂層の表面に、印刷を施すことにより、印刷層を形成する工程と、
前記印刷層を覆うように、保護層を形成する工程と、
を備えてなり、
前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物であり、前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/g以上、400mgKOH/g以下であり、
前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む、
ことを特徴とする、容器の製造方法。」

第4 特許権者に通知した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜7に係る特許に対して、当審が令和4年3月30日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1(新規性
本件特許の請求項6に係る発明は、引用文献1に記載された発明であり、本件特許の請求項6、7に係る発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
2 取消理由2(進歩性
本件特許の請求項1〜3、5に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2000−281031号公報(甲第1号証)
引用文献2:特開平8−34868号公報(甲第2号証)
引用文献3:特開2004−151283号公報(甲第4号証)
引用文献4:特開2007−52306号公報(甲第5号証)
引用文献5:特開2016−120640号公報(甲第7号証)
3 取消理由3(拡大先願)
本件特許の請求項6、7に係る発明は、その出願の日前を優先日とする外国語特許出願(特許法第184条の4第3項の規定により取り下げられたものとみなされたものを除く。)であって、本件特許の出願後に国際公開がされた下記の外国語特許出願(以下「先願」という。)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその出願前の外国語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記外国語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
先願:PCT/US2016/049690号(国際公開第2017/040654号(甲第6号証)、特表2018−529007号公報)

第5 当審の判断
1 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)引用文献に記載された事項、発明
ア 引用文献1(甲第1号証)
(ア)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 被印刷物(1)の表面に、印刷皮膜が剥離性を有するインキを用いてラベル支持体層(2)を直接印刷で形成し、さらに、該ラベル支持体層(2)上に図柄や文字(3)の印刷を施してなる積層印刷皮膜(4)が、前記ラベル支持体層(2)によって被印刷物(1)に保持力を有しながら、かつ、手で容易に剥離可能としたことを特徴とする印刷のみにより形成されたラベルを施した合成樹脂成形品。
【請求項2】 被印刷物(1)が、PETボトルである請求項1記載の印刷のみにより形成されたラベルを施した合成樹脂成形品。
【請求項3】 印刷皮膜が剥離性を有するインキが、紫外線や電子線で硬化する放射線硬化型インキである請求項1又は2記載の印刷のみにより形成されたラベルを施した合成樹脂成形品。
【請求項4】 印刷皮膜が剥離性を有するインキに、エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加えた請求項1又は2又は3記載の印刷のみにより形成されたラベルを施した合成樹脂成形品。
・・・」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、印刷のみにより形成されたラベルを施した合成樹脂成形品、特にPETボトルに関するものである。」
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】清涼飲料用、醤油用、酒類用PETボトル等に代表される合成樹脂成形品に施されるラベルをできるだけ少ない工程数で製造、貼り付けることにより低コスト化することが望まれている。また、合成樹脂成形品に施されるラベル、スクリーン印刷による直接印刷を幅広いリサイクルシステムに対応させることが切望されている。
【0007】
【課題を解決するための手段】而して上記の問題点を改善すべくなした本発明の要旨は、被印刷物の表面に、印刷皮膜が剥離性を有するインキを用いてラベル支持体層を直接印刷で形成し、さらに、該ラベル支持体層上に図柄や文字の印刷を施してなる積層印刷皮膜が、前記ラベル支持体層によって被印刷物に保持力を有しながら、かつ、手で容易に剥離可能としたことを特徴とする印刷のみにより形成されたラベル(以下、本ラベルという)を施した合成樹脂成形品にある。
【0008】本ラベルにおけるラベル支持体層は、合成樹脂成形品の表面に直接印刷により形成されの為、本ラベルは、前記合成樹脂成形品に対し保持力を有し、しかも、前記ラベル支持体層は印刷皮膜が剥離性を有するインキで形成される為、本ラベルは手で容易に剥離させることができる。
【0009】そして、本発明の合成樹脂成形品を用いることにより簡単な印刷工程のみでラベルを形成できる為、低コストでラベルを合成樹脂成形品に施すことができる。また、粘着ラベルにおける剥離紙や剥離フィルムのような産業廃棄物が発生することなく、ラベルを合成樹脂成形品に施すことができる。また、本発明の合成樹脂成形品を用いることにより、合成樹脂成形品に施されれた本ラベルをリサイクルの前に消費者の段階で手で剥がしてから、回収することができるため、処理施設での加飾除去を必要とせずに、簡易にリサイクルする事が可能となる。
【0010】さらに、印刷皮膜が剥離性を有するインキにエステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加えたインキに加えたインキにてラベル支持体層が形成された本ラベル(以下、本ラベル2という)は、手で剥離できるとともに熱水や熱アルカリ水溶液の処理による剥離可能な機能も有する為、熱水処理やアルカリ処理を行う処理設備でも一括した加飾除去を可能とし、幅広いリサイクルシステムに対応できる。特に清涼飲料用、醤油用、酒類用PETボトルに施される加飾については、本発明におけるラベルを前記PETボトル表面に形成することにより、本発明のラベルを手で容易に剥がすことができるため、消費者や再生業者で容易にラベルが除去でき、効率よく再生できる。本発明におけるラベルをPETボトル表面に形成することにより、製品の流通過程においてはラベルの剥離等による商品イメージ、商品価値の低下はなく、一方、内容物消費後はPETボトルを廃棄する前に消費者がラベルを手で剥がし、除去できる。さらに、本発明における本ラベル2をPETボトル表面に施すことにより、例え消費者の段階で本発明のラベルを剥がさずに回収されたとしても、回収後には再生処理設備における再生処理工程、又は、洗浄設備を持たない再生業者でも容易にラベルを除去できる。さらに、再生処理設備における熱水、熱アルカリ水溶液による洗浄工程でもラベルを脱離、除去できる。」
「【0011】
【発明の実施の形態】次ぎに、本発明の実施形態について説明する。なお、図1は本発明の一実施形態の断面図、図2は同じくラベル支持体層の印刷パターンの一例を示す平面図である。被印刷物1は合成樹脂成形品、特にPETボトルのことである。PETボトルは、ポリエチレンテレフタレートに代表される飽和ポリエステルを原料として、中空成形、二軸延伸ブロー成形、インジェクション成形等で成形された容器である。合成樹脂成形品は、ポリエステル樹脂製品、ポリオレフィン樹脂製品、塩化ビニル樹脂製品、ポリスチレン樹脂製品などの多くが使用できる。
・・・
【0013】これらのインキは放射線硬化型インキ、蒸発乾燥型インキ、熱硬化型インキ、プラスチゾルインキ等の種類があり、何れも使用可能であるが、印刷の作業性、印刷皮膜の厚さ、作業環境、VOC問題、ランニングコストを加味した場合、紫外線又は電子線で硬化する放射線硬化型インキを用いるのが望ましく、特にウレタンアクリレートを主成分とした放射線硬化型スクリーン印刷用インキはその印刷硬化皮膜が柔軟、かつ、破断しずらい性質を持つので一連の膜として容易に剥離できる性質のラベル支持体層2を形成できる。
【0014】前記ラベル支持体層2を形成するインキに、更にエステル系又はアミド系の非イオン性界面活性剤を加えることにより、手で剥離できる以外に温水での剥離性を増すことができ、その添加量が印刷皮膜が剥離性を有するインキ100部に対し、前記非イオン性界面活性剤を0.1〜10部の範囲で調整されたインキを用いることによって、印刷皮膜が常温の水に浸漬した場合には短時間で剥離せず、80℃以上の水或いは80℃以上のアルカリ水溶液では5分以内に剥離可能となる。
【0015】エステル系又はアミド系非イオン性界面活性剤はソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリエチレングリコールの脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコールの脂肪酸エステル、グリセリンの脂肪酸エステル、ポリグリセリンの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリンの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンの脂肪酸アミド、モノアルキルアミンの脂肪酸アミド、ジアルキルアミンの脂肪酸アミド等が使用可能であるが、毒性の少なく、生分解性の高い界面活性剤を用いることが望ましく、食品添加物や化粧品原料として認可されているソルビタン脂肪酸エステル系、ショ糖脂肪酸エステル系などの非イオン性界面活性剤を用いることが望ましい。
【0016】本発明におけるラベルは印刷方法で形成される積層印刷皮膜4となっている。積層印刷皮膜4は、合成樹脂成形品の表面上に直接付着しているベタ印刷部分のラベル支持体層2とその上に形成される図柄や文字3等の印刷となる複数の印刷で構成されている。」
「【0024】
【実施例】ウレタンアクリレートを主成分とした印刷皮膜が、PETボトルに対し保持力を有しながら手で剥離可能な機能を有するインキ100部に、ソルビタン脂肪酸エステルを5部配合した紫外線硬化型スクリーン印刷用インキを調整した。また、80メッシュ(/cm)のポリエステルスクリーンを使用し、印刷により図2に示すような剥離開始部である突状パターン5を形成するスクリーン印刷用版を作成した。
【0025】二軸延伸成形法により成形されたPETボトル胴部表面に、前記インキ及びスクリーン版を使用し、スクリーン印刷を行った後、印刷表面上に120W/cmのメタルハライド紫外線ランプにより、紫外線積算光量200mj/cm2の紫外線を照射し、厚さ平均48μmのラベル状印刷皮膜を得た。なお、この印刷皮膜のバターンにおける剥離開始部にあたるPETボトル表面には、予め印刷前に界面活性剤をはけにより塗布しておいた。さらに、一般工業用として市販されている紫外線硬化型スクリーン印刷用インキにより、前記により形成されたラベル支持体層2上に130メッシュ(/cm)のポリエステルスクリーンよりなる版を使用し、スクリーン印刷を行った後、印刷表面上に120W/cmのメタルハライド紫外線ランプにより紫外線積算光量200mj/cm2の紫外線を照射し、積層印刷皮膜4を得た。」
(イ)引用文献1に記載された発明
以上の記載事項を総合すると、引用文献1には合成樹脂成形品に係る次の発明(以下、「引用発明1a」という。)が記載されている。
「PETボトルの表面に、印刷皮膜が剥離性を有するインキを用いてラベル支持体層を直接印刷で形成し、さらに、該ラベル支持体層上に図柄や文字の印刷を施してなる積層印刷皮膜が、前記ラベル支持体層によって被印刷物に保持力を有しながら、かつ、手で容易に剥離可能とした印刷のみにより形成されたラベルを施したPETボトルであり、
剥離性を有するインキが、紫外線や電子線で硬化する放射線硬化型インキであり、
積層印刷皮膜は、合成樹脂成形品の表面上に直接付着しているベタ印刷部分のラベル支持体層とその上に形成される図柄や文字等の印刷となる複数の印刷で構成され、それぞれの印刷後に紫外線を照射し、積層印刷皮膜を得ており、
剥離性を有するインキに、エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加え、
印刷皮膜が80℃以上のアルカリ水溶液では5分以内に剥離可能となる、
印刷のみにより形成されたラベルを施した合成樹脂成形品。」
また、引用文献1には、合成樹脂成形品の製造方法に係る次の発明(以下、「引用発明1b」という。)も記載されている。
「PETボトルの表面に、印刷皮膜が剥離性を有するインキを用いてラベル支持体層を直接印刷で形成し、さらに、該ラベル支持体層上に図柄や文字の印刷を施してなる積層印刷皮膜が、前記ラベル支持体層によって被印刷物に保持力を有しながら、かつ、手で容易に剥離可能とした印刷のみにより形成されたラベルを施したPETボトルの製造方法であり、
剥離性を有するインキが、紫外線や電子線で硬化する放射線硬化型インキであり、
積層印刷皮膜は、合成樹脂成形品の表面上に直接付着しているベタ印刷部分のラベル支持体層とその上に形成される図柄や文字等の印刷となる複数の印刷で構成され、それぞれの印刷後に紫外線を照射し、積層印刷皮膜を得ており、
剥離性を有するインキに、エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加え、
印刷皮膜が80℃以上のアルカリ水溶液では5分以内に剥離可能となる、
印刷のみにより形成されたラベルを施した合成樹脂成形品の製造方法。」
イ 引用文献2(甲第2号証)
(ア)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 熱可塑性樹脂製品に、
(A)線状ポリエステルを骨格とし、分子内に1〜10個の不飽和二重結合を有するオリゴマー及び/又はポリマー
(B)分子内に少なくとも1個の酸性基を有し、かつ不飽和二重結合を1〜10個有する含有カルボン酸の1種以上及び/又はカルボン酸エステルの1種以上及び/又はカルボン酸アミドの1種以上
(C)フッ素を含有する不飽和二重結合カルボン酸エステル及び/またはフッ化アルキル基含有の重合体セグメントと(メタ)アクリル系重合体とのブロック共重合体及び/またはシロキサン基含有重合体セグメントと(メタ)アクリル系重合体とのブロック共重合体
上記(A)〜(C)を含むビヒクルおよび必要に応じて光重合開始剤、光増感剤、有機及び/又は無機顔料を配合した放射線硬化型インキ組成物をベースとするインキによる印刷を施し、次いで、前記印刷面に放射線を照射して硬化した後、その上に同一操作を複数回施して、重ね印刷することを特徴とする、放射線硬化型インキにより重ね印刷された熱可塑性樹脂製品。
・・・
【請求項8】 ビヒクルの酸価が3以上150以下となるビヒクル100部に対し、光重合開始剤0〜20部、光増感剤0〜20部、有機及び/又は無機顔料0〜100部を含むことを特徴とする請求項1〜7に記載の放射線硬化型インキ組成物により重ね印刷された熱可塑性樹脂製品。
・・・
【請求項12】 熱可塑性樹脂製品に、
(A)線状ポリエステルを骨格とし、分子内に1〜10個の不飽和二重結合を有するオリゴマー及び/又はポリマー
(B)分子内に少なくとも1個の酸性基を有し、かつ不飽和二重結合を1〜10個有する含有カルボン酸の1種以上及び/又はカルボン酸エステルの1種以上及び/又はカルボン酸アミドの1種以上
(C)フッ素を含有する不飽和二重結合カルボン酸エステル及び/またはフッ化アルキル基含有の重合体セグメントと(メタ)アクリル系重合体とのブロック共重合体及び/またはシロキサン基含有重合体セグメントと(メタ)アクリル系重合体とのブロック共重合体
上記(A)〜(C)を含むビヒクルおよび必要に応じて光重合開始剤、光増感剤、有機及び/又は無機顔料を配合した放射線硬化型インキ組成物をベースとするインキによる印刷を施し、次いで、前記印刷面に放射線を照射して硬化した後、その上に同一操作を複数回施して、重ね印刷することを特徴とする熱可塑性樹脂製品の重ね印刷方法。
・・・
【請求項25】 請求項1〜11に記載の印刷され硬化した放射線硬化型インキ組成物の膜をアルカリ水溶液によって、溶解、膨潤もしくは膜状剥離することを特徴とする熱可塑性樹脂製品に印刷された放射線硬化型インキの脱離方法。
・・・」
「【0001】
【産業上の利用分野】この出願発明は、熱可塑性樹脂製品、とくにポリエチレンテレフタレートまたはポリアクリロニトリル製品に特定の放射線硬化型インキにより、商品名、デザイン、説明書、バーコードなどを多色を用いてカラフルに表示、加飾するに際し、多層重ね印刷し、高速ライン下に放射線で速乾燥させ、また、乾燥した被膜は、流通段階においては要求される性能を維持し、回収後には、アルカリ水溶液で容易に溶解、膨潤もしくは膜状脱離し、基材を清浄な状態で回収することを可能にする放射線硬化型印刷インキによるプラスチック製品の多層重ね印刷方法及び放射線硬化型インキの脱離方法に関する。」
「【0007】この出願発明のプラスチック製品への多層重ね印刷方法は、下記(A)〜(C)、とくに(A)〜(G)のビヒクルよりなる放射線硬化型インキ組成物をベースとする印刷インキによる印刷を施し、しかる後に前記印刷面に放射線を照射して印刷インキ中の放射線硬化性の成分を硬化させる工程を繰り返し行うことにより印刷するものである。
・・・
【0008】この出願発明のポリエチレンテレフタレート製品、例えば、ポリエチレンテレフタレートに代表される飽和ポリエステルを主原料として成形される容器、あるいはポリアクリロニトリル製品、例えば、ポリアクリロニトリルを主原料として成形されている容器の胴部表面への多層重ね印刷方法において使用される容器は、中空成形、二軸延伸ブロー成形、インジェクション成形等によって得られたポリエステル製あるいはポリアリクリロニトリル製容器である。」
「【0018】分子内に少なくとも1個の酸性基を有し、かつ、不飽和二重結合を1〜10個有するカルボン酸の1種以上及び/又はカルボン酸エステルの1種以上及び/又はカルボン酸アミドの1種以上、とくに、分子内に少なくとも1個の酸性基を有し、不飽和二重結合を1個有するカルボン酸及び/又はカルボン酸エステル及び/又はカルボン酸アミド、及び分子内に1〜10個の酸性基を有し、不飽和二重結合を2個以上有するカルボン酸及び/又はカルボン酸エステル及び/又はカルボン酸アミドは、一般には「酸性モノマー」、「酸性オリゴマー」として扱われる化合物である。このうち酸性モノマーはそのホモポリマー及びこれを高濃度に含有するコポリマーはアルカリにより親水性塩を形成し易水溶性となるものである。・・・
・・・
【0020】また、酸性オリゴマーはそのホモポリマー及び/又はこれを高濃度に含有するコポリマーは高架橋密度であって、アルカリ金属塩は水に膨潤する性質を有するものである。・・・上記の酸性オリゴマーは、1種類あるいは2種類以上を配合して使用することができる。またその使用量は、最終的な硬化膜物性の要求性能に基づいて決められるが、アルカリ水溶液による脱離を容易にするため、前記の酸性モノマーとの配合比を加味しつつ適量が検討されねばならない。これを酸価として示すならば、ビヒクル全体の酸価が3以上150以下、好ましくは20〜80、とくに好ましくは20〜60の範囲であるように配合比及び配合量が決定される。また、脱離状態を溶解脱離としたいときは、酸性モノマーを多量に用いて酸価を上げるのがよく、膜状脱離が望ましいときは、酸性オリゴマーの比率を高め、低酸価に抑えるとよい。特に膜状剥離の場合は、インキ成分を濾過によって除去することができるため、廃水中の化学的酸素要求量が低下して処理し易くなり好ましい。ただし、これらの条件は、脱離に使用するアルカリの濃度、処理温度、処理時間等によって変わるので、これらの脱離条件を加味して適切な配合を実験により求めることが望ましい。」
「【0044】本発明では、顔料を用いないクリヤーインキとして用いることができるが、多くの場合顔料を添加した加飾インキとして用いられる。着色顔料のうち、無機顔料には鉛白、亜鉛華、硫化亜鉛、二酸化チタン等の白色顔料、群青、紺青、コバルトブルー等の青色顔料、酸化クロム、ピリジアン、クロムグリーン等の緑色顔料、黄鉛、チタンイエロー、黄色酸化鉄、モリブデートオレンジ、カドミウム系顔料、弁柄等の黄〜赤色顔料、鉄黒、チタンブラック、カーボンブラック等の黒色顔料、アルミニウム粉、ブロンズ等の金属顔料、マイカ等のパール顔料がある。しかし、無機顔料には安全衛生面から使用を避けなければならないものが多々あり、上記の中から無害のものが選択使用される。有機顔料では、モノアゾ系、ジスアゾ系、縮合アゾ系、インダントロン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キナクリドン系、フタロシアニン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、ピロロピロール系等がいずれも使用でき、放射線照射という硬化方法に即して、とくに退色の少ない耐光堅牢度の高い顔料を選んで使用するのが望ましい。」
(イ)引用文献2に記載された発明
以上の記載事項を総合すると、引用文献2には次の事項又は発明(以下、「引用文献2記載事項」又は「引用発明2」という。)が記載されている。
「熱可塑性樹脂容器の胴部表面に、
(A)線状ポリエステルを骨格とし、分子内に1〜10個の不飽和二重結合を有するオリゴマー及び/又はポリマー
(B)分子内に少なくとも1個の酸性基を有し、かつ不飽和二重結合を1〜10個有する含有カルボン酸の1種以上及び/又はカルボン酸エステルの1種以上及び/又はカルボン酸アミドの1種以上
(C)フッ素を含有する不飽和二重結合カルボン酸エステル及び/またはフッ化アルキル基含有の重合体セグメントと(メタ)アクリル系重合体とのブロック共重合体及び/またはシロキサン基含有重合体セグメントと(メタ)アクリル系重合体とのブロック共重合体
上記(A)〜(C)を含むビヒクルおよび必要に応じて光重合開始剤、光増感剤、着色顔料である有機及び/又は無機顔料を配合した放射線硬化型インキ組成物をベースとするインキによる印刷を施し、次いで、前記印刷面に放射線を照射して硬化した後、その上に同一操作を複数回施して、重ね印刷する、放射線硬化型インキにより重ね印刷された熱可塑性樹脂容器であり、
熱可塑性樹脂容器は、ポリエチレンテレフタレートに代表される飽和ポリエステルを主原料として成形される容器であり、
(A)成分が、重合性二重結合を含まない線状ポリエステルポリオールと、ポリイソシアネート化合物と、(メタ)アクリロイル基及び活性水基を含有する化合物とから合成されるオリゴマー及び/又はポリマーであり、(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー及び/又はポリマーとしては、基材との密着性あるいは基材の膨張収縮に追従しうる構造としてポリウレタン(メタ)アクリレートが特に使用され、
ビヒクルの酸価が3以上150以下となるビヒクル100部に対し、光重合開始剤0〜20部、光増感剤0〜20部、有機及び/又は無機顔料0〜100部を含む、放射線硬化型インキ組成物により重ね印刷された熱可塑性樹脂容器。」
ウ 引用文献5(甲第7号証)
引用文献5には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
複合容器において、
プラスチック材料製の容器本体と、
前記容器本体の外面にプラスチック製部材とを備え、
前記容器本体および前記プラスチック製部材は、ブロー成形により一体として膨張されており、
少なくとも前記プラスチック製部材の表面に、表面保護層が設けられていることを特徴とする複合容器。
【請求項2】
前記表面保護層は、熱硬化型樹脂および/または電離放射線硬化型樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の複合容器。
・・・
【請求項4】
前記プラスチック製部材は、印刷が施されており、
前記表面保護層は、前記プラスチック製部材に施された印刷を覆うように設けられていることを特徴とする請求項請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合容器。
・・・」
「【0053】
一方、プラスチック製部材40は、容器本体10に対して溶着ないし接着されていないため、容器本体10から剥離して除去することができる。具体的には、例えば刃物等を用いてプラスチック製部材40を切除したり、プラスチック製部材40に予め図示しない切断線を設け、この切断線に沿ってプラスチック製部材40を剥離したりすることができる。これにより、印刷が施されたプラスチック製部材40を容器本体10から分離除去することができるので、従来と同様に無色透明な容器本体10をリサイクルすることができる。」
「【0059】
この場合、表面保護層80は、容器本体10のうち、口部11および首部13を除く、肩部12、胴部20および底部30、ならびにプラスチック製部材40を覆うように設けられている。なお、表面保護層80は、容器本体10およびプラスチック製部材40の全域又は一部領域に設けられていてもよい。例えば、プラスチック製部材40の印刷が施された部分、着色された部分のみを覆うように設けられていてもよい。さらに、表面保護層80は1つに限らず、複数設けてもよい。
【0060】
表面保護層80(80a)は、熱硬化型樹脂または電離放射線硬化型樹脂を含んでなることが好ましく、表面硬度が高く、生産性に優れるという点から、電離放射線硬化型樹脂がより好ましい。なお、熱硬化型樹脂と電離放射線硬化型樹脂とを併用してもよい。
・・・
【0062】
熱硬化型樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂などが挙げられる。さらにこれら樹脂と、熱重合開始剤、硬化促進剤、硬化剤などを併用することが好ましい。」
「【0131】
また、本実施の形態によれば、プラスチック製部材40の表面に表面保護層80が形成されているため、プラスチック製部材40に施された印刷などの経時的不良発生を効果的に防止することができ、さらに複合容器10Aの耐久性を高めることもできる」
以上の記載事項を総合すると、引用文献5には次の事項(以下、「引用文献5記載事項」という。)が記載されている。
「プラスチック製部材に施された印刷を覆うように表面保護層が設けられ、
前記表面保護層は、熱硬化型樹脂を含んでなり、
熱硬化型樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂などが挙げられること。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と引用発明1aとの対比
引用発明1aの「PETボトル」は、本件発明1の「容器」に相当する。そして、「本体」とは「物の、付属物をのぞいた主要な部分」(広辞苑第7版、株式会社岩波書店)を意味するところ、引用発明1aの「PETボトルの表面」は、キャップやラベル等の付属物を除いた「PETボトル」の主要な部分といえるので、本件発明1の「容器本体」に相当する。
引用発明1aの「80℃以上のアルカリ水溶液では5分以内に剥離可能となる、」「印刷皮膜が」「エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加え」た「剥離性を有するインキ」は、本件発明1の「アルカリ可溶性の樹脂」に相当するから、引用発明1aの「80℃以上のアルカリ水溶液では5分以内に剥離可能となる、」「印刷皮膜が」「エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加え」た「剥離性を有するインキを用いて」「直接印刷で形成し」た「ベタ印刷部分の」「ラベル支持体層」は、本件発明1の「アルカリ可溶性の樹脂を含んでなるアルカリ可溶性樹脂層」に相当し、引用発明1aの「ラベル支持体層」「の上に形成される図柄や文字等の印刷となる複数の印刷」は、本件発明1の「前記樹脂層の表面に設けられた印刷層」に相当する。
引用発明1aの「エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加え」た「剥離性を有するインキを用いて」「直接印刷で形成し」、「印刷後に紫外線を照射し」たものは、本件発明1の「活性光線硬化性樹脂の硬化物」に相当する。
したがって、本件発明1と引用発明1aとは、次の一致点1で一致し、相違点1、2で相違する。
[一致点1]
「容器本体と、前記容器本体の表面に設けられたアルカリ可溶性の樹脂を含んでなるアルカリ可溶性樹脂層と、前記樹脂層の表面に設けられた印刷層と、を備え、
前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物である、容器。」
[相違点1]
本件発明1は、「前記印刷層を覆うように設けられた保護層」を「備え」、「前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む」ものであるのに対し、引用発明1aはそのような保護層の存在につき不明である点。
[相違点2]
本件発明1は、「前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/g以上、400mgKOH/g以下」であるのに対し、引用発明1aはそのような酸価につき不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点2から検討を始める。
引用発明1aは、ラベル支持体層が80℃以上のアルカリ水溶液で5分以内に剥離可能なものであるものの、そのために酸価がどのようにされたものであるかは、明らかではない。
引用発明2は、インキとしてビヒクル全体の酸価が3以上150以下としたものであるが、これを参酌しても、引用発明1aにおいて、剥離性を有するインキの酸価を150mgKOH/g以上、400mgKOH/g以下とすることが容易に導き出せるものではない。
そうすると、引用発明1aにおいて、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、さらに相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1aに基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含んだものであるから、本件発明3と引用発明1aとを対比すると、両発明の間には、少なくとも、本件発明1と引用発明1aとを対比した際の上記相違点と同様の相違点が存在する。
そして、本件発明1と引用発明1aとを対比した際の相違点についての判断を踏まえれば、本件発明3も引用発明1aに基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。

(4)本件発明5について
ア 本件発明5と引用発明1bとの対比
引用発明1bの「PETボトル」は、本件発明5の「容器」に相当する。そして、「本体」とは「物の、付属物をのぞいた主要な部分」(広辞苑第7版、株式会社岩波書店)を意味するところ、引用発明1bの「PETボトルの表面」は、キャップやラベル等の付属物を除いた「PETボトル」の主要な部分といえるので、本件発明5の「容器本体」に相当する。
引用発明1bの「80℃以上のアルカリ水溶液では5分以内に剥離可能となる、」「印刷皮膜が」「エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加え」た「剥離性を有するインキ」は、「紫外線や電子線で硬化する放射線硬化型インキ」でもあるから、本件発明5の「活性光線硬化性樹脂」、「アルカリ可溶性の樹脂」に相当する。
引用発明1bの「80℃以上のアルカリ水溶液では5分以内に剥離可能となる、」「印刷皮膜が」「エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加え」た「剥離性を有するインキを用いて」「直接印刷で形成し」た「ベタ印刷部分の」「ラベル支持体層」は、本件発明5の「アルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性の樹脂層」に相当し、引用発明1bの「ラベル支持体層」「の上に形成される図柄や文字等の印刷となる複数の印刷」は、本件発明5の「前記アルカリ可溶性の樹脂層の表面に、印刷を施すことにより、」「形成する」「印刷層」に相当する。
引用発明1bの「エステル系やアミド系の非イオン性界面活性剤を加え」た「剥離性を有するインキ」は、「印刷後に紫外線を照射」されると、本件発明5の「活性光線硬化性樹脂」に相当するものとなっている。
そうすると、引用発明1bの「PETボトルの表面に」「ラベル支持体層」を形成する「ベタ印刷」と「ラベル支持体層」「の上に形成される図柄や文字等の印刷となる複数の印刷」の「それぞれの印刷後に紫外線を照射し、積層印刷皮膜を得て」いることは、本件発明5の「容器本体を準備する工程と、前記容器本体の表面に、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂層形成用組成物を塗布し、活性光線を照射し、アルカリ可溶性の樹脂層を形成する工程と、前記アルカリ可溶性の樹脂層の表面に、印刷を施すことにより、印刷層を形成する工程と、を備えてな」ることと「容器本体を準備する工程と、前記容器本体の表面に、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂層形成用組成物を塗布し、活性光線を照射し、アルカリ可溶性の樹脂層を形成する工程と、前記アルカリ可溶性の樹脂層の表面に、印刷を施すことにより、印刷層を形成する工程と、を備えてな」る点で一致する。
したがって、本件発明5と引用発明1bとは、次の一致点2で一致し、次の相違点で相違する。
[一致点2]
「容器本体を準備する工程と、
前記容器本体の表面に、活性光線硬化性樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂層形成用組成物を塗布し、活性光線を照射し、アルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂層を形成する工程と、
前記アルカリ可溶性の樹脂層の表面に、印刷を施すことにより、印刷層を形成する工程と、
を備えてなり、
前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物である、
容器の製造方法。」
[相違点3]
本件発明5は、「前記印刷層を覆うように、保護層を形成する工程」を「備え」、「前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む」ものであるのに対し、引用発明1bはそのような保護層の存在につき不明である点。
[相違点4]
本件発明5は、「前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/g以上、400mgKOH/g以下」であるのに対し、引用発明1bはそのような酸価につき不明である点。
[相違点5]
本件発明5は、「アルカリ可溶性樹脂層形成用組成物」に「着色剤」が含まれるのに対し、引用発明1bではそのようなことにつき不明である点。
イ 判断
事案に鑑み、相違点4から検討を始めると、既に本件発明1について示した判断と同様に、引用発明1bにおいて、相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことではないといえる。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明5は、引用発明1bに基づいて当業者が容易に発明し得たものではない。

(5)小括
上記(2)〜(4)のとおりであるから、本件発明1、3、5は、いずれも、引用発明1a又は引用発明1bに基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
また、当審からその特許に係る発明が新規性を欠如しているとして取消理由を通知した本件訂正前の請求項6、7は、本件訂正により削除されたので、当該取消理由は、妥当しないものとなった。
なお、本件発明1、5は、当然のことながら、いずれも、引用発明1a又は引用発明1bではなく、同法同条第1項第3号の規定に該当しない。
したがって、本件発明1、3、5に係る特許は、同法第113条第2号に該当しない。

2 理由3(拡大先願)について
(1)先願
ア 先願明細書等に記載された事項
先願明細書等(甲第6号証)には、日本語に翻訳すると、次の記載がある。
[0012] 一般的な状況では、限定するものではないが、印刷画像20の実施形態を有するプラスチック物品(例えば、容器)の表面10の一部が、図1で概ね図示される。画像20の例示された実施形態は、複数のベースコートインク液滴32からなり得、かつ複数の2次コートインク液滴42からなることができる2次コート40も含み得る、ベースコート30を含む。
[0013] 本開示と関連する容器(ボトルを含む)は、プラスチック材料または樹脂(例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)(高密度ポリエチレン(HDPE)を含む)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)など)からなる。さらに、容器は、単層または多層容器であってよく、限定するものではないが、射出成形、ブロー成形、熱成形などを含む種々の従来の成形技術を使用して形成することができる。一実施形態では、最外層/表面は、未使用のプラスチック材料からなってもよい。但し、本開示の教示による容器は、容器の外層におけるある割合のリサイクル含有量を含む、一定の割合のリサイクル含有量も含み得ることに注意する。
[0014] 実施形態では、物品(例えば、容器)は、第1のコートまたはベースコート(例えば、図1に示されるベースコート30)を含み得る。ベースコート30は、物品の外面に印刷される(例えば、ドロップオンデマンドインクジェットプロセスなどによりデジタル印刷される)複数のベースコートインク液滴32からなり得、続いて、硬化され、または硬化できるようにされる。インクは、UV硬化性インクであってよく、これは、限定するものではないが、UVまたはLEDランプを含む種々の既知の手段により適用することができるUV放射線により硬化可能である。インク液滴は、モノマーベースであってよく、インク液滴の塗布を改善するのに役立ち(例えば、印刷のための良好なプロセス特性を提供し)、かつ/または視覚特性(例えば、色若しくは質感)を提供するインク組成物からなってよい。実施形態では、ベースコート30は、白色及び/または無色部分を含んでもよい。さらに、開示されるインク液滴、すなわち、モノマーベースのものでは、硬化は、インク液滴を重合させることができる。用いられるインクが溶剤ベースではないので、インクは、溶剤のように、リサイクルプロセス中にインクが溶液中に流れ出ず、かつ揮発物を放出しないように構成することができる。米国EnvironmentalProtectionAgency(EPA)は、溶剤に関するガイドラインを公表しているが、ポリマーは固体であり、揮発性物質をフラッシュオフまたは放出しないことに注意する。つまり、本明細書で開示されるようなインクの分離は、インクが硬化ポリマー状態であり、(例えば、フレークまたは膜の形態で)物理的に除去され得るので、化学的溶解の一部として含まれるよりはむしろ、本来は機械的である可能性がある。
[0015] 上に要約したように、インク液滴を構成するインク組成物は、除去促進添加剤を含む。一部の態様では、「除去促進添加剤」は、少なくとも1つの親水性成分または酸性成分を含む。親水性成分は、親水性(水を好む性質)を示す1つ以上の組成物要素を含んでもよい。酸性成分は、酸性を示す1つ以上の組成物要素を含んでもよい。一部の実施形態では、除去促進添加剤は、親水性成分及び酸性成分の組み合わせ、すなわち、少なくとも2つの除去促進添加剤、を含むことになる。一部のインク液滴組成物である、除去促進添加剤が親水性成分及び酸性成分の双方を含む「二元」組成物では、ただ1つの添加剤を含む組成物の使用と同等の結果を提供するために、(合計に対する)より少ない割合の重量が使用されてもよい。…
[0019] 酸性成分は、測定可能な酸性値を有する酸性モノマーを含む。測定可能な量は、pH、酸性重量百分率、またはアルカリ性化学物質の滴定値(例えば、mgKOH/g[モノマー1g当たりの水酸化カリウムのmg])に基づき得ることを注意する。さらに、例えば、硬化状態では、ポリマーの酸性部分は、苛性溶液に対して脆弱であってよい。ポリマー鎖の酸性官能基性及び溶液のアルカリ性の間の反応は、適用された基材に対する接着性の減少をもたらし、ポリマーの分離を促進する可能性がある。限定するものではないが、用いられ得る酸性モノマーの例としては、酸性アクリラートオリゴマー(例えば、Sartomerにより商品化されているCN147)及び一官能性酸エステル(例えば、Sartomerにより商品化されているCD9050)が挙げられる。例えば、酸性成分を含む容器が洗浄液(例えば、従来型の苛性洗浄液)と接触する時、関連結合が破壊されて、印刷画像(インクの液滴)のプラスチック基材からの意図された分離を促進し得る。…
[0021] 当業者が理解するように、所望のレベルの水溶解度は、例えば、除去促進添加剤の酸価の関数として特徴づけることができる。酸価は、アルカリ性化学物質の滴定値(例えば、mgKOH/g[除去促進添加剤1g当たりの水酸化カリウムのmg])として表すことができる。これらの態様では、除去促進添加剤は、110mgKOH/g、120mgKOH/g、130mgKOH/g、140mgKOH/g、150mgKOH/g、160mgKOH/g、170mgKOH/g、180mgKOH/g、190mgKOH/g、200mgKOH/g、210mgKOH/g、220mgKOH/g、230mgKOH/g、及び240mgKOH/gの値を含む、約100mgKOH/g〜約250mgKOH/gの範囲の酸価を示す可能性がある。さらなる態様では、インク除去促進添加剤は、175mgKOH/g、185mgKOH/g、及び195mgKOH/gの値を含む、約150mg KOH/gから約205mg KOH/gの範囲の酸価を有する。さらに別の態様では、インク除去促進添加剤は、上記の例示的な値のいずれかに由来する任意の範囲の酸価を有することができる。…
[0025] 例示的な態様では、水溶解度及び比較的低いガラス転移温度の上記組み合わせを示すインク除去促進添加剤は、スチレン無水マレイン酸樹脂を含む。さらなる態様では、スチレン無水マレイン酸樹脂は、スチレン無水マレイン酸コポリマーのコポリマーとすることができる。さらに別の態様では、スチレン無水マレイン酸は、エステル化スチレン無水マレイン酸である。除去促進添加剤としての使用に適している例示的な非限定的な市販のスチレン無水マレイン酸樹脂は、Total製のCrayValleySMA(登録商標)3840及びSMA(登録商標)1440F樹脂である。…
[0028] インク組成物のベースインク部分は、従来のUV硬化性インクなどの従来から既知の任意の硬化性インクとすることができる。ベースインクは、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、及び84重量パーセントの例示的な重量パーセント値を含む、インク組成物の約50〜約85重量パーセントの範囲の量でインク組成物中に存在することができる。さらなる態様では、ベースインクは、上記の例示的な値のいずれかに由来する任意の範囲の量で存在することができる。例えば、ベースインクは、インク組成物の約65〜約85重量パーセントの量でインク組成物中に存在することができる。…
[0030] 本明細書に記載されているように、湾曲外面に直接印刷されたデジタル印刷画像を含むリサイクル可能なプラスチック物品が開示され、画像は、本明細書で上述したようにインク組成物の硬化液滴を含む。さらなる態様では、例示的なリサイクル可能なプラスチック物品は、デジタル印刷画像が湾曲外面に直接印刷された湾曲外面、インクの硬化液滴を含む画像、及び約100℃未満のガラス転移温度を有するインク除去促進添加剤を含む組成物を含むインクの液滴を含む。さらに別の態様では、デジタル印刷画像は、少なくとも6.0かつ9.0までの接着スコアを有し、除去促進添加剤は、デジタル印刷画像が少なくとも約70℃の高温で塩基性溶液に曝露される時に、インクの硬化液滴を物品の湾曲外面から分離または解放させるように構成される。
[0031] さらなる態様では、物品は、プラスチック容器を含む。さらなる態様では、プラスチック容器は、ボトルである。さらに別の態様では、プラスチック容器が、次の材料:ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート、高密度ポリエチレン、及びポリプロピレンのうちの1つ以上からなる。…
[0033] 限定するものではなく例として、ブレンドされた除去促進添加剤を有するUV硬化印刷インクを含むポリエチレンテレフタラート(PET)容器の実施形態は、インク除去試験にかけられた。試験した容器のブレンドされた除去促進添加剤は、上記タイプの酸性モノマー、すなわち、酸性アクリラートオリゴマー及び/または単官能性酸エステルを含んでいた。容器は、溶液が約85℃に加熱される、プラスチック容器のリサイクルの分野で一般に知られているようにラベル除去を助けることができる、少なくとも9.0のpHレベルを含む浴溶液にかけられてもよい。種々の試料は、12分間、このような条件に曝露され、次の通りに、0〜5のスケールで評価された。…
[0042] 画像が印刷された容器の実施形態では、少なくとも第1のベースコート30(親水性成分を含み得る)は、最初の時間t1及び最初の温度T1で容器の表面に塗布されてもよい。温度T1は、関連ベースコートの塗布に適する温度の範囲になるであろう。一実施形態では、ベースコート30は、硬化可能(例えば、紫外線(UV)硬化可能)であってよく、さらに、2次コートの塗布前に硬化されてもよい。
[0043] 一部の実施形態では、2次コート40は、ベースコート30の少なくとも一部に分布させた複数の2次コートインク液滴42からなってもよい。さらに、必要に応じて、「2次」コートの追加の層(例えば、3次層など)もまた、2次コート40に塗布されてもよい。本開示の実施形態では、2次コートインク液滴42もまた、親水性成分を含むインク組成物からなってもよい。
[0044] 複数の2次コートインク液滴42は、塗布パターンの部分を集合的に形成してもよく、次に、塗布パターンは、画像の全部または一部を形成してもよい。さらに、図1に一般に例示されるように、1つ以上の隣接する2次コートインク液滴42の一部は、互いに重なり合い、または混在してもよい。2次コート40、及びその成分たる2次コートインク液滴42は、限定するものではないが、シアン、マゼンタ、及びイエローなどの主要印刷色を含む種々の既知の色を含んでもよい。さらに、特定の領域における特定の色の重なりまたは組み合わせの制御により、追加の「プロセス」色を提供することができる。さらに、2次コートインク液滴42は、硬化可能であってよい。例えば、UV硬化性2次コートインク液滴は、意図された画像の全部または一部を含んでもよい。硬化が放射線により達成される場合、インク組成物は、光開始剤を含んでもよい。さらに、容器表面上の硬化インクは、2つの結合、すなわち、インクポリマー及びプラスチックの間の極性結合、ならびに微視的レベル(例えば、ミクロ構造)で不均一な表面を有するプラスチック表面に起因する機械的結合、により主に保持され得ることに注意する。本開示の多数の実施形態では、双方の結合を攻撃することが最もよい。一部の用途では、親水性成分は、機械的結合に対してより良好に作用し得る一方、酸性成分は、極性結合に対してより良好に作用し得る。塗布に応じて、2次コートインク液滴は、直径が変動する可能性があり、これは、例えば、約10ミクロン〜約200ミクロンの範囲に及ぶ可能性がある。2次コート40は、2番目の時間t2及び2番目の温度T2で、容器の表面10に塗布されてもよく、2次コート40が塗布される2番目の温度T2は通常、ベースコート30が塗布される最初の温度T1よりも低い。…
[0048] 例えば、硬化性インク(例えば、UV硬化性または放射線硬化性インク)が使用される一部の用途では、関連するコートまたはインクは、それぞれの印刷ステーションの後に硬化され得る。例えば、限定するものではないが、工程の実施形態は、少なくとも部分的に、ベースコートの塗布;硬化工程;2次コートの塗布;及び硬化工程を含んでもよい。あるいは、さらに、限定するものではなく例として、プロセスは、少なくとも部分的に、ベースコートの塗布;硬化工程;ベースコートの塗布;硬化工程;2次コートの塗布;及び硬化工程を含んでいてもよい。…
[0060] とりわけ、本開示の教示は、改善されたリサイクル性を提供することができる。効果的な仕方で種々の物品に印刷されたインクをリサイクルすることは、環境に利益を提供することに加えて、多くのコスト及び効率の利点を提供することができる。例えば、限定するものではないが、少なくとも部分的に、親水性成分及び/または酸性成分を含むインク組成物からなるデジタル印刷画像(硬化UVインクまたは放射線硬化性インクにより形成され得る)を有する容器は、従来のプラスチックリサイクルプロセスと関連して、都合よく除去することができる。プラスチック容器の業界標準のリサイクルプロセスは従来、容器を粒状プラスチックフレークに粉砕すること、これらのフレークを高熱苛性洗浄プロセスにかけること、清浄されたフレークを乾燥させること、選別すること、及び再販用の樹脂ペレットに押し出すこと、を含む。開示された教示の態様を具体化する実施形態では、容器上のデジタル画像は、粉砕プロセス後に、樹脂フレークに留まることがあり、デジタル画像は、撹拌され得る高熱苛性洗浄プロセス中に樹脂フレークから実質的に分離されることになり、それにより、樹脂ペレットに形成されるべき清浄な樹脂フレークを汚染しない。…
[0067] さらなる態様では、塩基性溶液は、約12〜13の範囲のpHを有する水溶液であり、高温は、約70〜90℃の範囲である。さらに別の態様では、除去する工程は、画像の塩基性溶液への曝露後に、インクを容器からかき取るまたは拭き取ることを含む。さらに別の態様では、インクは、フレークまたは膜の形態で機械的に除去される。
[0068] 次に、試料の硬化インクを、接着性、耐傷性、及び耐溶剤性のうちの1つ以上の試験を含むことができるインク除去試験にかけた。試料は、プラスチック容器リサイクルの分野で一般に知られているようにラベル除去を助けることができる種々の浴溶液、例えば、少なくとも9.0のpHレベルを含みかつ溶液が約75℃または85℃に加熱される浴溶液、にかけることができる。処理の直後(直後)及び処理の1時間後(1時間)を含む期間で、試験を実施した。…
特許請求の範囲

16.プラスチック物品上にデジタル印刷するためのインク組成物であって、
(a)ベースインク;
(b)約100mg KOH/g〜約250mg KOH/gの範囲の酸価を有するインク除去促進添加剤;及び
(c)前記インク除去促進添加剤の少なくとも一部を溶解させることができる担体
を含む、前記インク組成物。

21.前記インク除去促進添加剤が、約150mg KOH/g〜約205mgKOH/gの範囲の酸価を有する、請求項16に記載のインク組成物。

28.前記ベースインクが、UV硬化性インクを含む、請求項16に記載のインク組成物。
29.前記インク組成物が、UV硬化性である、請求項16に記載のインク組成物。

31.リサイクル可能なプラスチック物品であって、
デジタル印刷画像が湾曲外面に直接印刷された前記湾曲外面、インクの硬化液滴を含む前記画像、及び約130℃未満のガラス転移温度を有するインク除去促進添加剤を含む組成物を含むインクの前記液滴、を含み、
前記デジタル印刷画像が、少なくとも6.0かつ9.0までの接着スコアを有し、かつ前記デジタル印刷画像が少なくとも約70℃の高温で前記塩基性溶液に曝露される時に、前記除去促進添加剤が、インクの前記硬化液滴を前記物品の前記湾曲外面から分離または解放するように構成される、前記リサイクル可能なプラスチック物品。
32.前記物品が、プラスチック容器を含む、請求項31に記載のプラスチック物品。
33.前記プラスチック容器が、ボトルである、請求項32に記載のプラスチック物品。

38.前記インク除去促進添加剤が、約150mg KOH/g〜約205mgKOH/gの範囲の酸価を有する、請求項31に記載のインク組成物。)
イ 先願明細書等に記載された発明
以上の記載事項を総合すると、先願明細書等には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。
「ボトルの湾曲外面に塗布された複数のベースコートインク液滴32からなる第1のベースコート30、第1のベースコート30の少なくとも一部に分布させた複数の2次コートインク液滴42からなる2次コート40、2次コート40に塗布される2次コートの追加の層からなる画像をリサイクル可能なプラスチック物品であるボトルに印刷するためのインク液滴を構成するインク組成物であり、
インク液滴を構成するインク組成物は、ベースインク、約130℃未満のガラス転移温度を有し、測定可能な酸性値を有する酸性モノマーを含む酸性成分を含むインク除去促進添加剤及び前記インク除去促進添加剤の少なくとも一部を溶解させることができる担体を含み、
インク除去促進添加剤は、約150mg KOH/gから約205mg KOH/gの範囲の酸価を有し、
インク組成物のベースインク部分は、UV硬化性インクとすることができ、
2次コート40及びその成分たる2次コートインク液滴42は、シアン、マゼンタ、及びイエローなどの主要印刷色を含む種々の既知の色を含む、インク組成物。」

(2)判断
ア 本件訂正前の請求項6、7は、本件訂正により削除されたので、当審から通知した拡大先願の存在を根拠とする取消理由は、妥当しないものとなった。
イ なお、本件特許異議申立理由としては、請求項1、3、5に係る特許に対しても、先願発明の存在を根拠とする取消理由が申し立てられていた。
しかし、先願発明における2次コートの追加の層は、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含んだ保護層であるとはいえないし、また、先願発明において、そのような熱硬化型樹脂を含んだ保護層を付加することは、単なる構成上の微差ということはできないから、本件発明1、3、5は、いずれも、先願発明と同一ではない。

第6 むすび
本件請求項1、3、5に係る特許は、当審から通知した取消理由又は特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。また、他に本件請求項1、3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正により本件請求項2、4、6、7に係る特許が削除されたことにより、本件請求項2、4、6、7に対する申立ては、その対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と、前記容器本体の表面に設けられたアルカリ可溶性の樹脂を含んでなるアルカリ可溶性樹脂層と、前記樹脂層の表面に設けられた印刷層と、前記印刷層を覆うように設けられた保護層と、を備え、
前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物であり、前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/以上、400mgKOH/g以下であり、
前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む、ことを特徴とする、容器。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記印刷層が、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含んでなる、請求項1に記載の容器。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
容器本体を準備する工程と、
前記容器本体の表面に、着色剤および活性光線硬化性樹脂を含むアルカリ可溶性樹脂層形成用組成物を塗布し、活性光線を照射し、着色剤およびアルカリ可溶性の樹脂を含むアルカリ可溶性の樹脂層を形成する工程と、
前記アルカリ可溶性の樹脂層の表面に、印刷を施すことにより、印刷層を形成する工程と、
前記印刷層を覆うように、保護層を形成する工程と、
を備えてなり、
前記アルカリ可溶性の樹脂が、活性光線硬化性樹脂の硬化物であり、前記アルカリ可溶性の樹脂の酸価が、150mgKOH/以上、400mgKOH/g以下であり、
前記保護層が、フェノール樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン−尿素共縮合樹脂、ケイ素樹脂、及びポリシロキサン樹脂から選択される熱硬化型樹脂を含む、
ことを特徴とする、容器の製造方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-09-30 
出願番号 P2016-194429
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (B65D)
P 1 651・ 113- YAA (B65D)
P 1 651・ 121- YAA (B65D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 藤原 直欣
藤井 眞吾
登録日 2020-07-31 
登録番号 6742879
権利者 株式会社DNPファインケミカル 大日本印刷株式会社
発明の名称 容器およびその製造方法  
代理人 中村 行孝  
代理人 小島 一真  
代理人 宮嶋 学  
代理人 中村 行孝  
代理人 宮嶋 学  
代理人 浅野 真理  
代理人 小島 一真  
代理人 中村 行孝  
代理人 浅野 真理  
代理人 宮嶋 学  
代理人 中村 行孝  
代理人 小島 一真  
代理人 浅野 真理  
代理人 浅野 真理  
代理人 小島 一真  
代理人 宮嶋 学  

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