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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  H01L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1391981
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-16 
確定日 2022-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6753995号発明「III族窒化物半導体発光素子及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6753995号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕、5について訂正することを認める。 特許第6753995号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6753995号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜5に係る特許についての出願は、令和元年12月11日(優先権主張 平成30年12月14日(以下「優先日」という。))の出願であって、令和2年8月24日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月9日に特許掲載公報が発行された。その後の本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 2月16日 :特許異議申立人中野圭二(以下「特許異議申立人」という。)による特許異議の申立て
令和3年 9月30日付け:取消理由通知書
令和3年12月10日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
なお、令和4年1月7日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をするとともに、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所として特許権者が付したものである。)。
なお、本件訂正の訂正事項1及び2は、一群の請求項である訂正後の請求項〔1〜4〕について請求されたものである。
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1−1
特許請求の範囲の請求項1に「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層、p型コンタクト層及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」と記載されているのを「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」に訂正する。

イ 訂正事項1−2
特許請求の範囲の請求項1の「III族窒化物半導体発光素子であって、」と「前記発光層からの発光の」との間に、「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し」を追加するように訂正するものと解される。

ウ 訂正事項1−3
特許請求の範囲の請求項1に「前記発光層からの発光の発光中心波長が250nm以上280nm以下であり、」と記載されているのを「前記発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下であり、」に訂正する。

エ 訂正事項1−4
特許請求の範囲の請求項1に「前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.80以下であり、」と記載されているのを「前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、」に訂正する。

オ 訂正事項1−5
特許請求の範囲の請求項1に「前記p型コンタクト層の膜厚は10nm以上50nm以下であり、」と記載されているのを「前記p型コンタクト層の膜厚は15nm以上50nm以下であり、」に訂正する。

カ 訂正事項1−6
特許請求の範囲の請求項1に「該p型コンタクト層は、Al組成比が0.03以上0.25以下である」と記載されているのを「該p型コンタクト層は、Al組成比が0.08以上0.25以下である」に訂正する。

キ 請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に「前記p型AlGaNコンタクト層の膜厚が10nm以上25nm以下である、」と記載されているのを「前記p型AlGaNコンタクト層の膜厚が15nm以上25nm以下である、」に訂正する。

(3)訂正事項3
ア 訂正事項3−1
特許請求の範囲の請求項5に「前記発光層上にp型AlGaN電子ブロック層を形成する工程と、前記p型AlGaN電子ブロック層上にp型コンタクト層を形成する工程と、」と記載されているのを「前記発光層上にp型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)を形成する工程と、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接してp型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)を形成する工程と、」に訂正する。

イ 訂正事項3−2
特許請求の範囲の請求項5に「前記発光層からの発光の発光中心波長が250nm以上280nm以下であり、」と記載されているのを「前記発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下であり、」に訂正する。

ウ 訂正事項3−3
特許請求の範囲の請求項5に「前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.80以下であり、」と記載されているのを「前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、」に訂正する。

エ 訂正事項3−4
特許請求の範囲の請求項5に「前記p型コンタクト層の膜厚は10nm以上50nm以下であり、」と記載されているのを「前記p型コンタクト層の膜厚は15nm以上50nm以下であり、」に訂正する。

オ 訂正事項3−5
特許請求の範囲の請求項5に「該p型コンタクト層は、Al組成比が0.03以上0.25以下である」と記載されているのを「該p型コンタクト層は、Al組成比が0.08以上0.25以下である」に訂正する。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に対して、次の内容からなるものである。
(i)本件訂正前の請求項1における「p型AlGaN電子ブロック層」及び「p型コンタクト層」について、各層のドーパントは限定されていなかったものを、「p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)」及び「p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)」として、同項に記載した事項を限定すること。(訂正事項1−1)
(ii)本件訂正前の請求項1における「p型AlGaN電子ブロック層」及び「p型コンタクト層」について、その配置関係は特定されていないものから、「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し」として、その配置関係を限定すること。(訂正事項1−2)
(iii)本件訂正前の請求項1における「発光中心波長」について、「250nm以上280nm以下」とあるものから、「265nm以上280nm以下」であるものに限定すること。(訂正事項1−3)
(iv)本件訂正前の請求項1における「p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比」について、「0.40以上0.80以下」とあるものから、「0.40以上0.68以下」であるものに限定すること。(訂正事項1−4)
(v)本件訂正前の請求項1における「p型コンタクト層の膜厚」について、「10nm以上50nm以下」とあるものから、「15nm以上50nm以下」であるものに限定すること。(訂正事項1−5)
(vi)本件訂正前の請求項1における「p型コンタクト層」の「Al組成比」について、「0.03以上0.25以下」とあるものから、「0.08以上0.25以下」であるものに限定すること。(訂正事項1−6)
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項追加の有無
(ア)上記ア(i)について
「p型AlGaN電子ブロック層」及び「p型コンタクト層」には、p型ドーパントが含まれているのが通常であるところ、「Si」はn型ドーパントであるから、当該各層から「Si」がドープされたものを除いたとしても、新たな技術的事項が導入されることはない。
よって、上記ア(i)の点は、新規事項を追加するものではない。

(イ)上記ア(ii)について
本件特許の願書に添付した特許登録時の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)の【0034】には、「本発明効果を得るためにはp型コンタクト層70がp型AlGaN電子ブロック層60の直上に上述のp型AlGaNコンタクト層71を有すれば十分である」と記載されており、請求項1には、「p型AlGaNコンタクト層」が特定されている。
よって、上記ア(ii)の点は、新規事項を追加するものではない。

(ウ)上記ア(iii)について
本件明細書等の【0064】【表2】には、「発光中心波長」が「265nm」のものが記載されている。
よって、上記ア(iii)の点は、新規事項を追加するものではない。

(エ)上記ア(iv)について
本件明細書等の【0064】【表2】には、「p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比」が「0.68」であるものが記載されている。
よって、上記ア(iv)の点は、新規事項を追加するものではない。

(オ)上記ア(v)について
本件明細書等の【0034】には、「また、頓死をより確実にゼロに抑えるにはp型コンタクト層70の厚さを15nm以上とすることがさらに好ましい」と記載されている。
よって、上記ア(v)の点は、新規事項を追加するものではない。

(カ)上記ア(vi)について
本件明細書等の【0064】【表2】には、「p型コンタクト層のAl組成比」が「0.08」であるものが記載されている。
よって、上記ア(vi)の点は、新規事項を追加するものではない。

(キ)小括
以上より、訂正事項1は、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア(i)〜(vi)に係る訂正は、上記ア及びイにも照らせば、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項1の小括
よって、訂正事項1は、訂正要件を満たす。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、本件訂正前の請求項4に記載された「p型AlGaNコンタクト層の膜厚」について、「10nm以上25nm以下」とあるものから、「15nm以上25nm以下」であるものに限定する訂正である。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項追加の有無
本件明細書等の【0034】には、「また、頓死をより確実にゼロに抑えるにはp型コンタクト層70の厚さを15nm以上とすることがさらに好ましい」と記載されている。
そうすると、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
上記ア及びイにも照らせば、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項2の小括
よって、訂正事項2は、訂正要件を満たす。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、本件訂正前の請求項5に対して、次の内容からなるものである。
(i)本件訂正前の請求項5における「p型AlGaN電子ブロック層」及び「p型コンタクト層」について、各層のドーパントは限定されていなかったものを、「p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)」及び「p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)」として、同項に記載した事項を限定すること。(訂正事項3−1)
(ii)本件訂正前の請求項5における「発光中心波長」について、「250nm以上280nm以下」とあるものから、「265nm以上280nm以下」であるものに限定すること。(訂正事項3−2)
(iii)本件訂正前の請求項1における「p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比」について、「0.40以上0.80以下」とあるものから、「0.40以上0.68以下」であるものに限定すること。(訂正事項3−3)
(iv)本件訂正前の請求項1における「p型コンタクト層の膜厚」について、「10nm以上50nm以下」とあるものから、「15nm以上50nm以下」であるものに限定すること。(訂正事項3−4)
(v)本件訂正前の請求項1における「p型コンタクト層」の「Al組成比」について、「0.03以上0.25以下」とあるものから、「0.08以上0.25以下」であるものに限定すること。(訂正事項3−5)
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

イ 新規事項追加の有無
訂正事項3は、上記(1)イと同様の理由で、新規事項を追加するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質拡張変更の有無
訂正事項3は、上記(1)ウと同様の理由で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

エ 訂正事項3の小括
よって、訂正事項3は、訂正要件を満たす。

3 訂正の適否の小括
以上のとおり、本件訂正は、訂正要件を満たす。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、本件訂正後の請求項〔1〜4〕、5について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明の認定
本件訂正は上記第2のとおり認められたところ、本件訂正後の請求項1〜5に係る発明(以下「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明5」という。)は、次のとおりであると認められる。

[本件訂正発明1]
「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し、
前記発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下であり、
前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、
前記p型コンタクト層の膜厚は15nm以上50nm以下であり、かつ、該p型コンタクト層は、Al組成比が0.08以上0.25以下であるp型AlGaNコンタクト層を有することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明2]
「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaNコンタクト層のみからなる、請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明3]
「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaNコンタクト層と前記p側反射電極との間にp型GaNコンタクト層を有する、請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明4]
「前記p型AlGaNコンタクト層の膜厚が15nm以上25nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

[本件訂正発明5]
「基板上に、n型半導体層を形成する工程と、
前記n型半導体層上に発光層を形成する工程と、
前記発光層上にp型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)を形成する工程と、
前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接してp型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)を形成する工程と、
前記p型コンタクト層上にp側反射電極を形成する工程と、を含むIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
前記発光層からの発光中心波長は265nm以上280nm以下であり、
前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、
前記p型コンタクト層の膜厚が15nm以上50nm以下であり、
前記p型コンタクト層はAl組成比が0.08以上0.25以下であるp型AlGaNコンタクト層を有すること特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。」

第4 取消理由の概要
令和3年9月30日付け取消理由通知書(以下「取消理由通知書」という。)により特許権者に通知した取消しの理由の要旨は、以下のとおりである。
1 本件訂正前の請求項1〜5に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。(サポート要件違反)
2 本件訂正前の請求項1〜5に係る特許は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明であり、本件訂正前の請求項1、3〜5に係る特許は、甲第2号証に記載された発明であり、本件訂正前の請求項1〜2、4〜5に係る特許は、甲第4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。(新規性欠如)
3 本件訂正前の請求項1〜5に係る特許は、優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、甲第1号証〜甲第4号証に記載されたそれぞれの発明に基づいて、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(進歩性欠如)

甲第1号証:特開2017−50439号公報
甲第2号証:特開2018−93160号公報
甲第3号証:特開2016−149544号公報
甲第4号証:特開2018−49949号公報

第5 当審の判断
1 取消理由通知書で通知した取消理由について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)
ア(ア)取消理由通知書は、訂正前の請求項1には、(i)「発光層からの発光の発光中心波長」を「250nm以上280nm以下」、(ii)「p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比」を「0.40以上0.80以下」、(iii)「p型コンタクト層の膜厚」を「10nm以上50nm以下」及び(iV)「p型コンタクト層のAl組成比」を「0.03以上0.25以下」とすることが記載されているところ、(i)については「250nm以上265nm未満」の範囲、(ii)については「0.68より大きく0.8以下」の範囲、(iii)については「10nm以上20nm未満」の範囲、(iV)については「0.03以上0.08未満」の範囲においては、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて、発明の課題を解決できると認識できるとはいえず、同様の記載を有する訂正前の請求項5及び訂正前の請求項1を引用する請求項2〜4も同様であることを説示したものである。

(イ)これに対し、本件訂正により、(i)「発光層からの発光の発光中心波長」は「265nm以上280nm以下」であること、(ii)「p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比」は「0.40以上0.68以下」であること、(iv)「p型コンタクト層のAl組成比」は「0.08以上0.25以下」であることに訂正されたことから、これらの点について、当該理由は解消した。

(ウ)他方、本件訂正により、上記(iii)の「p型コンタクト層の膜厚」については、「15nm以上50nm以下」と訂正されたところ、取消理由通知書は、上記のとおり「10nm以上20nm未満」につき当業者が課題を解決できるとは認識できない旨説示したため、「15nm以上20nm未満」の範囲においても、当業者が課題を解決できると認識できるかが問題となる。
そこで検討すると、本件訂正後の本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件訂正明細書等」という。)の【0064】【表2】には、実施例及び比較例が記載されているところ、その実施例1と比較例5との対比によれば、p型コンタクト層の膜厚のみを変更したときに、それが5nmでは頓死が発生し、20nmでは頓死は発生していないことが分かる。そうすると、p型コンタクト層の膜厚が、5nmより厚く20nm以下の何らかの値において、頓死をより確実にゼロに抑える膜厚があることが理解される。
とすれば、次に、上記の頓死をより確実にゼロに抑える膜厚として当業者が15nmの値を認識できるかが問題となる。しかるに、【0034】には、「また、頓死をより確実にゼロに抑えるにはp型コンタクト層70の厚さを15nm以上とすることがさらに好ましい」と記載されており、この「15nm」の値が、頓死が発生しない膜厚である「20nm」に比較的近い値であること、さらに、頓死の要因として表面平坦性の悪化が認識されている(【0033】)ところ、膜厚が厚くなると表面平坦性が向上することが技術常識であることに鑑みれば、当業者は、「15nm」の厚さの実施例が存在しないとしても、p型コンタクト層の膜厚が15nm程度であれば、頓死は発生しないものと認識することができるといえる。
したがって、上記(iii)の「p型コンタクト層の膜厚」についても、本件訂正により、当該理由は解消したといえる。

イ 取消理由通知書は、訂正前の請求項1は、「p型AlGaN電子ブロック層」と「p型コンタクト層」との間に、任意の層が配置される構成を含むものであり、当業者が、発明の課題を解決できるとは認識できない旨説示したものであるが、本件訂正により、「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し、」と訂正された。そして、訂正後の請求項1は、「p型AlGaN電子ブロック層」と「p型コンタクト層」とが「接し」ているから、「p型AlGaN電子ブロック層」のAl組成比と「p型コンタクト層」のAl組成比との関係に、技術的意味(格子定数差による圧縮歪の程度)が生じることとなり、発明の課題を解決できると認識できるものとなるので、当該理由は解消した。

(2)特許法第29条第1項第3号新規性欠如)及び第2項(進歩性欠如)
ア 甲第1号証〜甲第4号証の記載事項
(ア)甲第1号証の記載及び甲第1号証に記載された発明
取消理由で引用された引用文献1(特開2017−50439号公報(甲第1号証))には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。
a 「【請求項1】
III族窒化物半導体からなる紫外発光素子において、
基板と、
前記基板上に位置し、Alを含むIII族窒化物半導体からなるバッファ層と、
前記バッファ層上に位置し、アンドープのIII族窒化物半導体からなるアンドープ層と、
前記アンドープ層上に位置し、Alを含むn型III族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に位置し、III族窒化物半導体からなる発光層と、
前記発光層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなる電子ブロック層と、
前記電子ブロック層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなるpコンタクト層と、
を有し、
バンドギャップエネルギーが小さい順に、前記アンドープ層、前記n層、前記pコンタクト層、前記電子ブロック層である、
ことを特徴とする紫外発光素子。
【請求項2】
前記アンドープ層はGaNまたはAlGaNからなり、
前記n層、前記電子ブロック層、および前記pコンタクト層は、AlGaNからなり、
前記アンドープ層、前記n層、前記電子ブロック層、および前記pコンタクト層16のAl組成比は、Al組成比が小さい順に、前記アンドープ層、前記n層、前記pコンタクト層、前記電子ブロック層である、
ことを特徴とする請求項1に記載の紫外発光素子。」
「【請求項5】
発光波長が350nmより短く、
前記アンドープ層のAl組成比が6%以上、前記n層のAl組成比が10%以上、前記電子ブロック層のAl組成比が50%以上、前記pコンタクト層のAl組成比が15%以上であることを特徴とする請求項2に記載の紫外発光素子。」

「【0020】
図1は、実施例1の紫外発光素子の構成を示した図である。図1のように、実施例1の紫外発光素子は、基板10を有し、基板10上にバッファ層11を介してアンドープ層12、n層13、発光層14、電子ブロック層15、pコンタクト層16が順に積層された構造を有している。また、pコンタクト層16表面からn層13に達する溝が形成され、溝底面に露出するn層13上にn電極18が位置している。また、pコンタクト層16上にはp電極17が位置している。また、実施例1の紫外発光素子は、発光層14から基板10側とは反対側へと放射される光をp電極17によって基板10側に反射させ、基板10側から光を取り出すフリップチップ型の素子である。」

「図1



b 甲第1号証に記載された発明
上記aより、甲第1号証には、紫外発光素子及びその製造方法に係る次の発明(以下、それぞれ、「甲1発明A」及び「甲1発明B」という。)が記載されていると認められる。なお、参考までに、甲1発明の認定に用いた甲第1号証の記載等に係る箇所等を括弧内に付してある(以下同じ。)。

<甲1発明A>
「III族窒化物半導体からなる紫外発光素子において、
基板と、
前記基板上に位置し、Alを含むIII族窒化物半導体からなるバッファ層と、
前記バッファ層上に位置し、アンドープのIII族窒化物半導体からなるアンドープ層と、
前記アンドープ層上に位置し、Alを含むn型III族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に位置し、III族窒化物半導体からなる発光層と、
前記発光層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなる電子ブロック層と、
前記電子ブロック層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなるpコンタクト層と、を有し、
バンドギャップエネルギーが小さい順に、前記アンドープ層、前記n層、前記pコンタクト層、前記電子ブロック層であり、(請求項1)
前記アンドープ層はGaNまたはAlGaNからなり、
前記n層、前記電子ブロック層、および前記pコンタクト層は、AlGaNからなり、
前記アンドープ層、前記n層、前記電子ブロック層、および前記pコンタクト層16のAl組成比は、Al組成比が小さい順に、前記アンドープ層、前記n層、前記pコンタクト層、前記電子ブロック層であり、(請求項2)
発光波長が350nmより短く、
前記アンドープ層のAl組成比が6%以上、前記n層のAl組成比が10%以上、前記電子ブロック層のAl組成比が50%以上、前記pコンタクト層のAl組成比が15%以上であり、(請求項5)
pコンタクト層上にはp電極が位置し、
発光層から基板側とは反対側へと放射される光をp電極によって基板側に反射させ、基板側から光を取り出す、(【0020】)
紫外発光素子。」

<甲1発明B>
「III族窒化物半導体からなる紫外発光素子の製造方法であって、
基板と、
前記基板上に位置し、Alを含むIII族窒化物半導体からなるバッファ層と、
前記バッファ層上に位置し、アンドープのIII族窒化物半導体からなるアンドープ層と、
前記アンドープ層上に位置し、Alを含むn型III族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に位置し、III族窒化物半導体からなる発光層と、
前記発光層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなる電子ブロック層と、
前記電子ブロック層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなるpコンタクト層と、を有し、
バンドギャップエネルギーが小さい順に、前記アンドープ層、前記n層、前記pコンタクト層、前記電子ブロック層であり、
前記アンドープ層はGaNまたはAlGaNからなり、
前記n層、前記電子ブロック層、および前記pコンタクト層は、AlGaNからなり、
前記アンドープ層、前記n層、前記電子ブロック層、および前記pコンタクト層16のAl組成比は、Al組成比が小さい順に、前記アンドープ層、前記n層、前記pコンタクト層、前記電子ブロック層であり、
発光波長が350nmより短く、
前記アンドープ層のAl組成比が6%以上、前記n層のAl組成比が10%以上、前記電子ブロック層のAl組成比が50%以上、前記pコンタクト層のAl組成比が15%以上であり、
pコンタクト層上にはp電極が位置し、
発光層から基板側とは反対側へと放射される光をp電極によって基板側に反射させ、基板側から光を取り出す、
紫外発光素子の製造方法。」

(イ)甲第2号証の記載及び甲第2号証に記載された発明
取消理由で引用された引用文献2(特開2017−50439号公報(甲第2号証))には、次の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
発光層、p型電子ブロック層、p型コンタクト層およびp側電極をこの順に備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記p型電子ブロック層は、Al組成比が0.5以上のp型III族窒化物半導体からなり、
前記p型コンタクト層は、Al組成比が0.4未満のp型III族窒化物半導体からなり、
前記p型コンタクト層は、前記p型電子ブロック層に接し、かつ、MgおよびSiでコドープされた第1p型コンタクト層と、前記p側電極に接し、かつ、Mgドープされた第2p型コンタクト層とを有し、
前記第1p型コンタクト層のMg濃度が1×1019atoms/cm3以上であり、かつ、Si濃度が2×1018atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下であることを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記第1p型コンタクト層の厚みが1nm以上30nm以下であり、前記第2p型コンタクト層の厚みが30nm以上である、請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

「【請求項5】
前記発光層から放射される光の中心波長が210nm以上340nm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

「【0043】
以下に、本実施形態における好適な態様を、図2に示したいわゆる「横型」構造のIII族窒化物半導体発光素子200を用いて例示的に説明する。図2に示すIII族窒化物半導体発光素子200は、基板10と、該基板10上のバッファ層20と、該バッファ層20上のn型半導体層30とを有し、該n型半導体層30に前述のIII族窒化物半導体発光素子100が設けられている。図2では、発光層40と、p型電子ブロック層60との間は、ガイド層50が設けられている。また、図2に示すIII族窒化物半導体発光素子200では、発光層40、ガイド層50、p型電子ブロック層60およびp型コンタクト層70の一部がエッチング等により除去され、露出したn型半導体層30上にn側電極90が設けられている。」

「図1


「図2



b 上記【0035】及び【0039】より、図1及び図2の「p型コンタクト層70」は、第1p型コンタクト層71と第2p型コンタクト層72とを有し、第1p型コンタクト層71及び第2p型コンタクト層72の厚みが、「1nm以上30nm以下」及び「30nm以上」であることを踏まえると、p型コンタクト層70の厚みは、第1p型コンタクト層71及び第2p型コンタクト層72の厚みを足したものと理解され、その厚みは、「31nm以上」と解される。

d 甲第2号証に記載された発明
以上より、甲第2号証には、III族窒化物半導体発光素子及びその製造方法に係る次の発明(以下、それぞれ、「甲2発明A」及び「甲2発明B」という。)が記載されていると認められる。

<甲2発明A>
「発光層、p型電子ブロック層、p型コンタクト層およびp側電極をこの順に備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記p型電子ブロック層は、Al組成比が0.5以上のp型III族窒化物半導体からなり、
前記p型コンタクト層は、Al組成比が0.4未満のp型III族窒化物半導体からなり、
前記p型コンタクト層は、前記p型電子ブロック層に接し、かつ、MgおよびSiでコドープされた第1p型コンタクト層と、前記p側電極に接し、かつ、Mgドープされた第2p型コンタクト層とを有し、
前記第1p型コンタクト層のMg濃度が1×1019atoms/cm3以上であり、かつ、Si濃度が2×1018atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下であり、(請求項1)
前記第1p型コンタクト層の厚みが1nm以上30nm以下であり、前記第2p型コンタクト層の厚みが30nm以上であり、(請求項2)
前記発光層から放射される光の中心波長が210nm以上340nm以下である、III族窒化物半導体発光素子と、(請求項5)
基板10と、該基板10上のバッファ層20と、該バッファ層20上のn型半導体層30とを有し、該n型半導体層30に前記III族窒化物半導体発光素子が設けられている、
横型構造のIII族窒化物半導体発光素子。(【0043】)」

<甲2発明B>
「発光層、p型電子ブロック層、p型コンタクト層およびp側電極をこの順に備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記p型電子ブロック層は、Al組成比が0.5以上のp型III族窒化物半導体からなり、
前記p型コンタクト層は、Al組成比が0.4未満のp型III族窒化物半導体からなり、
前記p型コンタクト層は、前記p型電子ブロック層に接し、かつ、MgおよびSiでコドープされた第1p型コンタクト層と、前記p側電極に接し、かつ、Mgドープされた第2p型コンタクト層とを有し、
前記第1p型コンタクト層のMg濃度が1×1019atoms/cm3以上であり、かつ、Si濃度が2×1018atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下であり、
前記第1p型コンタクト層の厚みが1nm以上30nm以下であり、前記第2p型コンタクト層の厚みが30nm以上であり、
前記発光層から放射される光の中心波長が210nm以上340nm以下である、III族窒化物半導体発光素子と、
基板10と、該基板10上のバッファ層20と、該バッファ層20上のn型半導体層30とを有し、該n型半導体層30に前記III族窒化物半導体発光素子が設けられている、
横型構造のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。」

(ウ)甲第3号証の記載及び甲第3号証に記載された発明
取消理由で引用された引用文献3(特開2016−149544号公報(甲第3号証))には、次の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有するIII族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、井戸層と障壁層との積層による量子井戸構造を備え、
前記電子ブロック層は、前記発光層に隣接し、かつ、前記障壁層および前記p型半導体層よりもAl組成の大きな層からなり、
前記電子ブロック層は、Si含有不純物ドープ領域層を含むことを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。」
「【請求項6】
前記p型半導体層は、AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)からなるp型コンタクト層を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」
「【請求項13】
前記発光層から放射される光が、中心波長が300nm以下の深紫外光である、請求項1〜12のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。」

「【0033】
また、図1に示すように、III族窒化物半導体発光素子100のn型半導体層30を、基板10の表面にAlN層20が設けられたAlNテンプレート基板上に設けることができる。また、III族窒化物半導体発光素子100には、発光層40、電子ブロック層50およびp型半導体層60の一部をエッチング等により除去し、露出したn型半導体層30上に形成したn型電極70と、p型コンタクト層62上に形成したp型電極80とが設けられてもよい。本発明の一実施形態に従うIII族窒化物半導体発光素子100において、n型半導体層30、発光層40、電子ブロック層50およびp型半導体層60が特徴となる構成であり、そのうち、電子ブロック層50が特に特徴となる構成である。上記のサファイア基板10、AlN層20、n型電極70およびp型電極80は一般的な構成とすることができ、具体的な構成は何ら限定されるものではない。なお、III族窒化物半導体発光素子100における各半導体層は、例えばAlGaN材料からなり、また、III族元素としてのAlとGaに対して5%以内の量のInを含んでいてもよい。後述のIII族窒化物半導体発光素子200についても同様である。以下、本発明の特徴となる構成である、n型半導体層30、発光層40、電子ブロック層50およびp型半導体層60についてまず説明する。」

「図1



b 甲第3号証に記載された発明
上記より、甲第3号証には、III族窒化物半導体発光素子及びその製造方法に係る次の発明(以下、ぞれぞれ、「甲3発明A」及び「甲3発明B」という。)が記載されていると認められる。

<甲3発明A>
「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有するIII族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、井戸層と障壁層との積層による量子井戸構造を備え、
前記電子ブロック層は、前記発光層に隣接し、かつ、前記障壁層および前記p型半導体層よりもAl組成の大きな層からなり、
前記電子ブロック層は、Si含有不純物ドープ領域層を含み、(請求項1)
前記p型半導体層は、AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)からなるp型コンタクト層を有し、(請求項6)
前記発光層から放射される光が、中心波長が300nm以下の深紫外光であり、(請求項13)
n型半導体層30を、基板10の表面にAlN層20が設けられたAlNテンプレート基板上に設け、
p型コンタクト層62上に形成したp型電極80が設けられる、(【0033】)
III族窒化物半導体発光素子。」

<甲3発明B>
「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有するIII族窒化物半導体発光素子において、
前記発光層は、井戸層と障壁層との積層による量子井戸構造を備え、
前記電子ブロック層は、前記発光層に隣接し、かつ、前記障壁層および前記p型半導体層よりもAl組成の大きな層からなり、
前記電子ブロック層は、Si含有不純物ドープ領域層を含み、(請求項1)
前記p型半導体層は、AlxGa1−xN(0≦x≦0.1)からなるp型コンタクト層を有し、(請求項6)
前記発光層から放射される光が、中心波長が300nm以下の深紫外光であり、(請求項13)
n型半導体層30を、基板10の表面にAlN層20が設けられたAlNテンプレート基板上に設け、
p型コンタクト層62上に形成したp型電極80が設けられる、(【0033】)
III族窒化物半導体発光素子の製造方法。」

(エ)甲第4号証の記載及び甲第4号証に記載された発明
取消理由で引用された引用文献4(特開2018−49949号公報(甲第4号証))には、次の事項が記載されている。
a 「【請求項1】
導電性支持基板と、空孔率が10%以上50%以下であり導電性を有するマクロポーラス構造の多孔質金属膜と、発光層を含む窒化アルミニウム系半導体層構造体と、を含み、
前記導電性支持基板と、前記窒化アルミニウム系半導体層構造体とが、前記多孔質金属膜を介在して、電気的に接続するように接合されている、
発光ピーク波長が220nm以上300nm以下の窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム系半導体層構造体は、第1導電型コンタクト層と、前記発光層と、第2導電型コンタクト層と、をこの順に含み、
前記第2導電型コンタクト層は、前記多孔質金属膜を介在して、前記導電性支持基板と電気的に接続するように接合され、
前記第1導電型コンタクト層の少なくとも一部に電気的に接続するように接合されている第1導電側電極をさらに含む請求項1に記載の窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子。
【請求項3】
前記第1導電型コンタクト層は第1導電型AlxGa1−xN(0≦x<1)コンタクト層であり、前記第2導電型コンタクト層は第2導電型AlyGa1−yN(0.25≦y<1)コンタクト層である請求項1または請求項2に記載の窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子。」
「【0030】
(窒化アルミニウム系半導体層構造体)
窒化アルミニウム系半導体層構造体403は、窒化アルミニウム(AlN)を含有する半導体層(たとえば、AlxGa1-xN(0≦x<1)半導体層)を少なくとも1層含む構造体をいい、少なくとも第1導電型コンタクト層103と、発光層104と、第2導電型コンタクト層107と、をこの順に含み、発光素子としての機能を発現する。ここで、第1導電型コンタクト層103は、発光層104から発する光を透過し、発光効率を低下させない観点から、第1導電型AlxGa1-xN(0≦x<1かつx≧(発光層104の平均Al組成))コンタクト層であることが好ましい。発光層104は、発光波長の温度に対する安定性および内部量子効率を高める観点から、複数周期のAlsGa1-sN(0≦s<1)バリア層とAltGa1-tN(0≦t<1)井戸層とで構成される多重量子井戸構造を有することが好ましい。第2導電型コンタクト層107は、発光層104から発する光の大部分を透過し、発光効率を低下させず、かつコンタクト抵抗を低減する観点から、第2導電型AlyGa1-yN(0.25≦y<1)コンタクト層であることが好ましい。」
「【0037】
具体的には、図3に示すように、MOCVD装置内において、下地基板101としてのサファイア基板の一主面上に、バッファ層102として厚さ5〜500nm(たとえば300nm)のAlNバッファ層、第1導電型コンタクト層103として厚さ1〜5μm(たとえば3μm)のn型Al0.65Ga0.35Nコンタクト層、第1導電型層108としてn型Al0.60Ga0.40N層、Al0.80Ga0.20Nバリア層/Al0.55Ga0.45N井戸層の6周期の多重量子井戸構造からなる発光層104、第2導電型ブロック層105として厚さ5〜300nm(たとえば15nm)のp型Al0.85Ga0.15Nブロック層、第2導電型層106として厚さ50〜1000nm(たとえば150nm)のp型Al0.60Ga0.40N層、および第2導電型コンタクト層107として厚さ20〜500nm(たとえば50nm)のp型Al0.25Ga0.75Nコンタクト層が、この順にエピタキシャル成長されることにより積層されて、下地基板101の一主面側に窒化アルミニウム系半導体層構造体403が形成された窒化アルミニウム系半導体ウェハ401が得られる。
【0038】
ここで、第1導電型層108ならびに第2導電型層106は、それぞれ、発光素子の種類に応じて、n型クラッド層および/またはn型ガイド層ならびにp型クラッド層および/またはp型ガイド層などと呼ばれ、それらの層のAl組成およびGa組成とそれらの層の厚さとを適宜調整することができる。クラッド層およびガイド層の両方が必要な場合は、第1導電型層108および第2導電型層106のそれぞれは、Al組成の異なるn型およびp型の窒化アルミニウム系半導体層からなる2層以上の多層構造でもよい。」
「【0154】
101 下地基板
102 バッファ層
103 第1導電型コンタクト層
104 発光層
105 第2導電型ブロック層
106 第2導電型層
107 第2導電型コンタクト層
108 第1導電型層
201 第2導電側コンタクト電極
202 反射電極
204 多孔質金属膜
205 導電性支持基板
206 絶縁層
301 第1導電側コンタクト電極
302 第1導電側パッド電極
304 第1導電側透光性導電膜
401 窒化アルミニウム系半導体ウェハ
402 残留層
403 窒化アルミニウム系半導体層構造体」

「図3


b 【0154】を参酌しつつ、図3より、窒化アルミニウム系半導体層構造体403は、下地基板101上にバッファ層を介して形成された、第1導電型コンタクト層、第1導電型層、発光層、第2導電型ブロック層、第2導電型層及び第2導電型コンタクト層よりなるものと、みてとれる。

c 甲第4号証に記載された発明
以上より、甲第4号証には、窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子及びその製造方法に係る次の発明(以下、それぞれ、「甲4発明A」及び「甲4発明B」という。)が記載されていると認められる。

<甲4発明A>
「導電性支持基板と、空孔率が10%以上50%以下であり導電性を有するマクロポーラス構造の多孔質金属膜と、発光層を含む窒化アルミニウム系半導体層構造体と、を含み、
前記導電性支持基板と、前記窒化アルミニウム系半導体層構造体とが、前記多孔質金属膜を介在して、電気的に接続するように接合されている、
発光ピーク波長が220nm以上300nm以下の窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子であって、(請求項1)
前記窒化アルミニウム系半導体層構造体は、第1導電型コンタクト層と、前記発光層と、第2導電型コンタクト層と、をこの順に含み、
前記第2導電型コンタクト層は、前記多孔質金属膜を介在して、前記導電性支持基板と電気的に接続するように接合され、
前記第1導電型コンタクト層の少なくとも一部に電気的に接続するように接合されている第1導電側電極をさらに含み、(請求項2)
前記第1導電型コンタクト層は第1導電型AlxGa1−xN(0≦x<1)コンタクト層であり、前記第2導電型コンタクト層は第2導電型AlyGa1−yN(0.25≦y<1)コンタクト層であり、(請求項3)
窒化アルミニウム系半導体層構造体403は、下地基板101上にバッファ層を介して形成された、第1導電型コンタクト層、第1導電型層、発光層、第2導電型ブロック層、第2導電型層及び第2導電型コンタクト層よりなる、(上記b)
窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子。」

<甲4発明B>
「導電性支持基板と、空孔率が10%以上50%以下であり導電性を有するマクロポーラス構造の多孔質金属膜と、発光層を含む窒化アルミニウム系半導体層構造体と、を含み、
前記導電性支持基板と、前記窒化アルミニウム系半導体層構造体とが、前記多孔質金属膜を介在して、電気的に接続するように接合されている、
発光ピーク波長が220nm以上300nm以下の窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子の製造方法であって、
前記窒化アルミニウム系半導体層構造体は、第1導電型コンタクト層と、前記発光層と、第2導電型コンタクト層と、をこの順に含み、
前記第2導電型コンタクト層は、前記多孔質金属膜を介在して、前記導電性支持基板と電気的に接続するように接合され、
前記第1導電型コンタクト層の少なくとも一部に電気的に接続するように接合されている第1導電側電極をさらに含み、
前記第1導電型コンタクト層は第1導電型AlxGa1−xN(0≦x<1)コンタクト層であり、前記第2導電型コンタクト層は第2導電型AlyGa1−yN(0.25≦y<1)コンタクト層であり、
窒化アルミニウム系半導体層構造体は、下地基板上にバッファ層を介して形成された、第1導電型コンタクト層、第1導電型層、発光層、第2導電型ブロック層、第2導電型層及び第2導電型コンタクト層よりなる、
窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子の製造方法。」

イ 対比・判断
(ア)甲第1号証に記載された発明に基づく新規性進歩性について
a 本件訂正発明1と甲1発明Aとを対比すると、以下のとおりである。
(a)本件訂正発明1の「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」との特定事項について
甲1発明Aの「紫外発光素子」は、「III族窒化物半導体からなる」ものであり、「基板と、前記基板上に位置し、Alを含むIII族窒化物半導体からなるバッファ層と、前記バッファ層上に位置し、アンドープのIII族窒化物半導体からなるアンドープ層と、前記アンドープ層上に位置し、Alを含むn型III族窒化物半導体からなるn層と、前記n層上に位置し、III族窒化物半導体からなる発光層と、前記発光層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなる電子ブロック層と、前記電子ブロック層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなるpコンタクト層」を有し、「pコンタクト層上にはp電極が位置し」、「発光層から基板側とは反対側へと放射される光をp電極によって基板側に反射させ、基板側から光を取り出す」ものである。そして、当該「p型III族窒化物半導体からなる電子ブロック層」及び「pコンタクト層」は、p型であることから、p型ドーパントがドープされ、n型ドーパント(Si)はドープされていないことが技術常識である。
そうすると、甲1発明Aの「基板」、「n層」、「発光層」、「電子ブロック層」、「pコンタクト層」、「p電極」及び「紫外発光素子」は、それぞれ、本件訂正発明1の「基板」、「n型半導体層」、「発光層」、「電子ブロック層」、「p型コンタクト層」、「p側反射電極」及び「III族窒化物半導体発光素子」に相当し、甲1発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たすといえる。

(b)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し、」との特定事項について
甲1発明Aは、「前記電子ブロック層上に位置し、Alを含むp型III族窒化物半導体からなるpコンタクト層」と特定されており、当該「pコンタクト層」は、「電子ブロック層」に接して位置すると解することが自然といえる。
よって、甲1発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たすといえる。

(c)本件訂正発明1の「前記発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下であり、」との特定事項について
甲1発明Aの「発光波長」は、「350nmより短く」と特定されている。
よって、甲1発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(d)本件訂正発明1の「前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、」との特定事項について
甲1発明Aの「電子ブロック層のAl組成比」は、「50%以上」と特定されている。
よって、甲1発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(e)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層の膜厚は15nm以上50nm以下であり、かつ、該p型コンタクト層は、Al組成比が0.08以上0.25以下であるp型AlGaNコンタクト層を有する」との特定事項について
甲1発明Aの「pコンタクト層のAl組成比」は、「15%以上」と特定されている。
よって、甲1発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(f)以上より、本件訂正発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接するIII族窒化物半導体発光素子。」

<相違点>
・相違点1
「発光層」について、本件訂正発明1は、発光中心波長が「265nm以上280nm以下」であるのに対し、甲1発明Aは、発光波長が「350nmより短」い点。
・相違点2
「p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比」について、本件訂正発明1は、「0.40以上0.68以下」であるのに対し、甲1発明Aは、「50%以上」である点。
・相違点3
「p型コンタクト層の膜厚」について、本件訂正発明1は、「15nm以上50nm以下」であるのに対し、甲1発明Aは、特定されていない点。
・相違点4
「p型コンタクト層」の「Al組成比」について、本件訂正発明1は、「0.08以上0.25以下」であるのに対し、甲1発明Aは、「15%以上」である点。

b 本件訂正発明1についての判断
(a)相違点1〜4に係る数値範囲の特定事項が、本件の発明の課題(頓死の抑制)を解決するために必要な構成要素であることに鑑みて、相違点1〜4を合わせて検討する。

(b)相違点1〜2及び4に特定される「発光中心波長」、「電子ブロック層のAl組成比」及び「p型コンタクト層のAl組成比」の数値範囲のそれぞれの一部は、甲1発明Aに特定される「発光波長」、「電子ブロック層のAl組成比」及び「pコンタクト層のAl組成比」の数値範囲に、それぞれ含まれている。また、相違点3に特定される「p型コンタクト層の膜厚」は、通常に設計される程度のものである。なお、半導体発光素子の発光は、通常「単峰性」であることが技術常識であるから、半導体発光素子において、「発光波長」と「発光中心波長」とは同義であると認められる。
しかしながら、本件訂正発明1に係る発明の課題は、本件訂正明細書等の【0008】に記載のとおり、初期の発光出力から半減するほどに発光出力が突然劣化する現象(以下「頓死」という。)を防止することであり、当該課題を解決する構成として、本件訂正発明1に係る相違点1〜4の数値範囲が特定されるものである。他方、甲第1号証に、上記「頓死」の課題は記載されておらず、当業者にとって自明な課題ということもできない。そして、甲第1号証の記載を見ても、相違点1〜4に係る特定事項を同時に満たすような数値範囲を選択する動機を見いだすことはできない。
そうすると、甲1発明Aにおいて、相違点1〜4を同時に満たすものを、頓死との課題を認識しない状態において作成することは、当業者が容易になし得たものということはいえず、そして、本件訂正発明1は、このように構成することにより、頓死を防止するという格別の作用効果を奏するものと認められる。

(c)これに対し、特許異議申立人は、実施例1(図1)の発光紫外素子に係る発明を引用発明として、本件訂正発明1が当該引用発明である、又は、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、これを引用発明としても、本件訂正発明1と当該引用発明との間には、甲1発明Aと同様に、相違点1〜4が依然として存在するから、上記(b)の説示と同様に判断される。よって、特許異議申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。

(d)以上より、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

c 本件訂正発明2〜4についての判断
本件訂正発明2〜4は、本件訂正発明1を引用するものであるから、上記bと同様に判断される。
したがって、本件訂正発明2〜4は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

d 本件訂正発明5と甲1発明Bとの対比・判断
本件訂正発明5と甲1発明Bとを対比するに、本件訂正発明5は、実質的に本件訂正発明1と同一の構成を有する「III族窒化物半導体発光素子」の製造方法であり、甲1発明Bも、実質的に甲1発明Aと同一の構成を有する「紫外発光素子」の製造方法である。
したがって、本件訂正発明5と甲1発明Bとの対比・判断は、上記a及びbと同様に認定及び判断される。
これに対し、特許異議申立人は、実施例1(図1)の発光紫外素子の製造方法に係る発明を引用発明として、本件訂正発明5が当該引用発明である、又は、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、これを引用発明としても、上記b(b)の説示と同様に判断されるから、特許異議申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。
よって、本件訂正発明5は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

e 甲第1号証に記載された発明に基づく新規性進歩性の小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1〜5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(イ)甲第2号証に記載された発明に基づく新規性進歩性について
a 本件訂正発明1と甲2発明Aとを対比すると、以下のとおりである。
(a)本件訂正発明1の「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」との特定事項について
甲2発明Aの「横型構造のIII族窒化物半導体発光素子」は、「基板10と、該基板10上のバッファ層20と、該バッファ層20上のn型半導体層30とを有し、該n型半導体層30に前記III族窒化物半導体発光素子が設けられて」おり、当該「III族窒化物半導体発光素子」は、「発光層、p型電子ブロック層、p型コンタクト層およびp側電極をこの順に備え」、当該「p型電子ブロック層」は、「Al組成比が0.5以上のp型III族窒化物半導体」であり、当該「p型電子ブロック層」は、p型であることから、p型ドーパントがドープされ、n型ドーパント(Si)はドープされていないことが技術常識である。
そうすると、甲2発明Aの「基板10」、「n型半導体層30」、「発光層」、「p型電子ブロック層」及び「横型構造のIII族窒化物半導体発光素子」は、それぞれ、本件訂正発明1の「基板」、「n型半導体層」、「発光層」、「p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)」及び「III族窒化物半導体発光素子」に相当し、甲2発明Aの「p型コンタクト層」及び「p側電極」は、それぞれ、本件訂正発明1の「p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)」及び「p側反射電極」とは、「p型コンタクト層」及び「p側電極」である点で一致する。
そうすると、甲2発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項と、「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層」「及びp側」「電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」との点で一致するといえる。

(b)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し、」との特定事項について
甲2発明Aは、「前記p型コンタクト層は、前記p型電子ブロック層に接し」と特定されている。
そうすると、甲2発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たすといえる。

(c)本件訂正発明1の「前記発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下であり、」との特定事項について
甲2発明Aの「発光層から放射される光の中心波長」は、「210nm以上340nm以下」である。
よって、甲2発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(d)本件訂正発明1の「前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、」との特定事項について
甲2発明Aの「p型電子ブロック層」の「Al組成比」は、「0.5以上」である。
よって、甲2発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(e)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層の膜厚は15nm以上50nm以下であり、かつ、該p型コンタクト層は、Al組成比が0.08以上0.25以下であるp型AlGaNコンタクト層を有する」との特定事項について
甲2発明Aの「p型コンタクト層」は、「第1p型コンタクト層」と「第2p型コンタクト層」とを有し、「第1p型コンタクト層の厚みが1nm以上30nm以下」であり、「第2p型コンタクト層の厚みが30nm以上」であり、その「Al組成比」は、「0.4未満」である。
よって、甲2発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(f)以上より、本件訂正発明1と甲2発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層及びp側電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接するIII族窒化物半導体発光素子。」

<相違点>
・相違点1
「発光層からの発光の発光中心波長」について、本件訂正発明1は、「250nm以上280nm以下」であるのに対し、甲2発明Aは、「210nm以上340nm以下」である点。
・相違点2
「p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比」について、本件訂正発明1は、「0.40以上0.80以下」であるのに対し、甲2発明Aは、「0.5以上」である点。
・相違点3
「p型コンタクト層の膜厚」について、本件訂正発明1は、「10nm以上50nm以下」であるのに対し、甲2発明Aは、「31nm以上」(1nm+30nm)である点。
・相違点4
「p型コンタクト層」の「Al組成比」について、本件訂正発明1は、「0.03以上0.25以下」であるのに対し、甲2発明Aは、「0.4未満」である点。
・相違点5
「p側電極」について、本件訂正発明1は、「p側反射電極」であるのに対し、甲2発明Aの「p側電極」が、光を反射するか否か不明である点。
・相違点6
「p型コンタクト層」について、本件訂正発明1は、「(Siがドープされたものを除く)」と特定されているのに対し、甲2発明Aは、「MgおよびSiでコドープされた第1p型コンタクト層」を含むものである点。

b 本件訂正発明1についての判断
事案に鑑みて、相違点6について検討する。
甲第2号証に記載された発明の課題は、p型コンタクト層のドーパント(Mg)が発光層へ拡散し高い発光出力を維持することが難しいこと(【0006】〜【0008】)であり、当該課題の解決手段は、p型コンタクト層にSiをドープしてMgの発光層への拡散を抑制すること(【0008】・【0038】)と認められる。
そうすると、甲2発明Aの「p型コンタクト層」における「MgおよびSiでコドープされた第1p型コンタクト層」から、Siを除くことには阻害要因があることとなる。そして、甲第2号証に、上記課題を解決する手段として、他の構成は記載されておらず、その示唆もない。
したがって、相違点1〜5について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
これに対し、特許異議申立人は、第1実施形態(図1)の好適態様(図2)である横型構造のIII族窒化物半導体発光素子を引用発明として、本件訂正発明1が当該引用発明である、又は、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、本件訂正前の「p型コンタクト層」が、本件訂正により「p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)」と限定されたので、いずれの引用発明であっても、上記と同様の判断となるから、特許異議申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。

c 本件訂正発明2〜4についての判断
本件訂正発明2〜4は、本件訂正発明1を引用するものであるから、上記bと同様に判断される。
したがって、本件訂正発明2〜4は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

d 本件訂正発明5と甲2発明Bとの対比・判断
本件訂正発明5と甲2発明Bとを対比するに、本件訂正発明5は、実質的に本件訂正発明2と同一の構成を有する「III族窒化物半導体発光素子」の製造方法であり、甲2発明Bも、実質的に甲2発明Aと同一の構成を有する「紫外発光素子」の製造方法である。
したがって、本件訂正発明5と甲2発明Bとの対比・判断は、上記a及びbと同様に認定及び判断される。
よって、本件訂正発明5は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
これに対し、特許異議申立人は、第1実施形態(図1)の好適態様(図2)である横型構造のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法を引用発明として、本件訂正発明5が当該引用発明である、又は、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、上記bの説示と同様である。

e 甲第2号証に記載された発明に基づく新規性進歩性の小括
以上より、本件訂正発明1〜5は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(ウ)甲第3号証に記載された発明に基づく新規性進歩性について
a 本件訂正発明1と甲3発明Aとを対比すると、以下のとおりである。
(a)本件訂正発明1の「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」との特定事項について
甲3発明Aの「III族窒化物半導体発光素子」は、「n型半導体層と、少なくともAlを含む発光層と、電子ブロック層と、p型半導体層とをこの順に有し」、「前記p型半導体層は、AlxGa1−xN(0≦x≦III族窒化物半導体発光素子0.1)からなるp型コンタクト層を有し」、当該「n型半導体層」は、「AlNテンプレート基板」上に設けられ、当該「電子ブロック層」は、「p型半導体層よりもAl組成の大きな層」であり、当該「p型コンタクト層」は、p型であることから、p型ドーパントがドープされ、n型ドーパント(Si)はドープされていないことが技術常識であり、当該「p型コンタクト層」上には、「p型電極」が設けられている。
そうすると、甲3発明Aの「AlNテンプレート基板」、「n型半導体層」、「発光層」、「p型コンタクト層」及び「III族窒化物半導体発光素子」は、それぞれ、本件訂正発明1の「基板」、「n型半導体層」、「発光層」、「p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)」及び「III族窒化物半導体発光素子」に相当し、甲3発明Aの「電子ブロック層」及び「p型電極」は、それぞれ、本件訂正発明1の「p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)」及び「p側反射電極」とは、「電子ブロック層」及び「p側電極」である点で一致する。
そうすると、甲3発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項と、「基板上に、n型半導体層、発光層、」「電子ブロック層」「、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側」「電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」との点で一致するといえる。

(b)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し、」との特定事項について
甲3発明Aの「p型コンタクト層」は、「p型半導体層」に含まれるものであるが、「電子ブロック層」の直上に接しているかは不明である。
よって、甲3発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(c)本件訂正発明1の「前記発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下であり、」との特定事項について
甲3発明Aの「発光層から放射される光」の「中心波長」は、「300nm以下」であるが、「265nm以上280nm以下」とは特定されていない。
よって、甲3発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(d)本件訂正発明1の「前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、」との特定事項について
甲3発明Aの「電子ブロック層」は、「p型半導体層よりもAl組成の大きな層」であるから、そのAl組成比は、0より大きいものであるが、「0.40以上0.68以下」とは特定されていない。
よって、甲3発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(e)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層の膜厚は15nm以上50nm以下であり、かつ、該p型コンタクト層は、Al組成比が0.08以上0.25以下であるp型AlGaNコンタクト層を有する」との特定事項について
甲3発明Aの「p型コンタクト層」の膜厚は、特定されていない。
よって、甲3発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(f)以上より、本件訂正発明1と甲2発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「基板上に、n型半導体層、発光層、電子ブロック層、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側電極を順次備える、III族窒化物半導体発光素子。」

<相違点>
・相違点1
本件訂正発明1は、「発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下」であるのに対し、甲3発明Aは、「中心波長が300nm以下」である点。
・相違点2
「電子ブロック層」について、本件訂正発明1は、「p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)」ものであり、その「Al組成比」は、「0.40以上0.68以下」であるのに対し、甲3発明Aは、「Si含有不純物ドープ領域層を含み」、その「Al組成比」は、0より大きいものである点。
・相違点3
「p型コンタクト層」について、本件訂正発明1は、「p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し」、「膜厚は15nm以上50nm以下であり」、「Al組成比が0.08以上0.25以下」であるのに対し、甲3発明Aは、そのように特定されていない点。
・相違点4
「p側電極」について、本件訂正発明1は、「p側反射電極」であるのに対し、甲3発明Aの「p型電極」が、光を反射するか否か不明である点。

b 本件訂正発明1についての判断
事案に鑑みて、相違点2について検討する。
甲第3号証に記載された発明の課題は、p型コンタクト層のドーパント(Mg)が発光層へ拡散し素子寿命が短くなること(【0006】〜【0008】)であり、当該課題の解決手段は、電子ブロック層にSi含有不純物ドープ領域層を設けること(【0008】)と認められる。
そうすると、甲3発明Aの「電子ブロック層」における「Si含有不純物ドープ領域層」を省いて又はSiをドープせずに、Siをドープしないものとすることには、阻害要因があることとなる。そして、甲第3号証に、上記課題を解決する手段として、他の構成は記載されておらず、その示唆もない。
したがって、相違点1、3〜4について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第3号証に記載された発明ではなく、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
これに対し、特許異議申立人は、実施例1(図1)のIII族窒化物半導体発光素子に係る発明を引用発明として、本件訂正発明1が当該引用発明である、又は、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、及び実施例(図1)の一態様(図2(D))のIII族窒化物半導体発光素子に係る発明を引用発明として、本件訂正発明1が当該引用発明である、又は、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、本件訂正前の「p型AlGaN電子ブロック層」が、本件訂正により「p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)」と限定されたので、いずれの引用発明であっても、上記と同様の判断となるから、特許異議申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。

c 本件訂正発明2〜4についての判断
本件訂正発明2〜4は、本件訂正発明1を引用するものであるから、上記bと同様に判断される。
したがって、本件訂正発明2〜4は、甲第3号証に記載された発明ではなく、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

d 本件訂正発明5と甲3発明Bとの対比・判断
本件訂正発明5と甲3発明Bとを対比するに、本件訂正発明5は、実質的に本件訂正発明1と同一の構成を有する「III族窒化物半導体発光素子」の製造方法であり、甲3発明Bも、実質的に甲3発明Aと同一の構成を有する「紫外発光素子」の製造方法である。
したがって、本件訂正発明5と甲3発明Bとの対比及び判断は、上記a及びbと同様に認定及び判断される。
よって、本件訂正発明5は、甲第3号証に記載された発明ではなく、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
これに対し、特許異議申立人は、実施例1(図1)のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法に係る発明を引用発明として、本件訂正発明5が当該引用発明である、又は、当該引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨、及び実施例1(図1)の一態様(図2(D))のIII族窒化物半導体発光素子の製造方法に係る発明を引用発明として、本件訂正発明5が当該引用発明である、又は、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、上記bの説示と同様である。

e 甲第3号証に記載された発明に基づく新規性進歩性についての小括
以上より、本件訂正発明1〜5は、甲第3号証に記載された発明ではなく、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(エ)甲第4号証に記載された発明に基づく新規性進歩性について
a 本件訂正発明1と甲4発明Aとを対比すると、以下のとおりである。
(a)本件訂正発明1の「基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」との特定事項について
甲4発明Aの「窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子」は、「導電性支持基板」、「多孔質金属膜」、「発光層を含む窒化アルミニウム系半導体層構造体」を含むものであり、当該「窒化アルミニウム系半導体層構造体」は、「下地基板上にバッファ層を介して形成された、第1導電型コンタクト層、第1導電型層、発光層、第2導電型ブロック層、第2導電型層及び第2導電型コンタクト層よりなる」ものである。
そうすると、甲4発明Aの「下地基板」、「発光層」及び「窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子」は、それぞれ、本件訂正発明1の「基板」、「発光層」及び「III族窒化物半導体発光素子」に相当するといえる。
そして、甲4発明Aの「第1導電型コンタクト層」及び「第1導電型層」は、n型又はp型の層であり、対して、「第2導電型ブロック層」、「第2導電型層」及び「第2導電型コンタクト層」は、p型又はn型の層となる。
よって、甲4発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項と、「基板上に、第1導電型半導体層、発光層、第2導電型層、第2導電型コンタクト層を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、」との点で一致するといえる。

(b)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接し、」との特定事項について
甲4発明Aの「窒化アルミニウム系半導体層構造体」は、「下地基板上にバッファ層を介して形成された、第1導電型コンタクト層、第1導電型層、発光層、第2導電型ブロック層、第2導電型層及び第2導電型コンタクト層よりなる」から、当該「第2導電型コンタクト層」は、「第2導電型層」に接して形成されていると解することが自然といえる。
よって、甲4発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項と、「前記第2導電型コンタクト層は、前記第2導電型層の直上に接し、」との点で一致するといえる。

(c)本件訂正発明1の「前記発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下であり、」との特定事項について
甲4発明Aの「発光ピーク波長」は、「220nm以上300nm以下」である。
よって、甲4発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(d)本件訂正発明1の「前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、」との特定事項について
甲4発明Aの「第2導電型層」の「Al組成比」は、特定されていない。
よって、甲4発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(e)本件訂正発明1の「前記p型コンタクト層の膜厚は15nm以上50nm以下であり、かつ、該p型コンタクト層は、Al組成比が0.08以上0.25以下であるp型AlGaNコンタクト層を有する」との特定事項について
甲4発明Aの「第2導電型コンタクト層の厚さ」は、特定されておらず、その「Al組成比」は「0.25以上1未満」である。
よって、甲4発明Aは、本件訂正発明1の上記特定事項を満たしていない。

(f)以上より、本件訂正発明1と甲4発明Aとの一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「基板上に、第1導電型半導体層、発光層、第2導電型層、第2導電型コンタクト層を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記第2導電型コンタクト層は、第2導電型層の直上に接するIII族窒化物半導体発光素子。」

<相違点>
・相違点1
「発光層」について、本件訂正発明1は、発光中心波長が「265nm以上280nm以下」であるのに対し、甲4発明Aは、発光ピーク波長が「220nm以上300nm以下」である点。
・相違点2
「第2導電型層」について、本件訂正発明1は、「p型AlGaN電子ブロック層」であり、そのAl組成比は、「0.40以上0.68以下」であるのに対し、甲4発明Aは、そのように特定されていない点。
・相違点3
「第2導電型コンタクト層」について、本件訂正発明1は、「p型」であり、その膜厚は、「15nm以上50nm以下」であり、そのAl組成比は、「0.08以上0.25以下」であるのに対し、甲4発明Aは、そのAl組成比は、「0.25≦y<1」であり、その余の特定はなされていない点。
・相違点4
本件訂正発明1は、「p側反射電極」を備えるのに対し、甲4発明Aは、特定されていない点。

b 本件訂正発明1についての判断
(a)相違点1〜3に係る数値範囲の特定事項が、本件の発明の課題(頓死の抑制)を解決するために必要な構成要素であることに鑑みて、相違点1〜3を合わせて検討する。

(b)相違点1及び3に特定される「発光中心波長」及び「p型コンタクト層のAl組成比」の数値範囲のそれぞれの一部は、甲4発明Aに特定される「発光ピーク波長」及び「第2導電型コンタクト層のAl組成比」の数値範囲に、それぞれ含まれている。また、相違点2及び3に特定される「電子ブロック層のAl組成比」及び「p型コンタクト層の膜厚」は、個別にみると、当業者が適宜設計し得る数値範囲のものといえる。なお、半導体発光素子の発光は、通常「単峰性」であることが技術常識であるから、半導体発光素子において、「発光ピーク波長」と「発光中心波長」とは同義であると認められる。
しかしながら、本件訂正発明1に係る発明の課題は、本件訂正明細書等の【0008】に記載のとおり、初期の発光出力から半減するほどに発光出力が突然劣化する現象(頓死)を防止することであり、当該課題を解決する構成として、本件訂正発明1に係る相違点1〜3の数値範囲が特定されるものである。他方、甲第4号証に、上記「頓死」の課題は記載されておらず、当業者にとって自明な課題ということもできない。そして、甲第4号証の記載を見ても、相違点1〜3に係る特定事項を同時に満たすような数値範囲を選択する動機を見いだすことはできない。
そうすると、甲4発明Aにおいて、相違点1〜3を同時に満たすものを、頓死との課題を認識しない状態において作成することは、当業者が容易になし得たものということはいえず、そして、本件訂正発明1は、このように構成することにより、頓死を防止するという格別の作用効果を奏するものと認められる。

(c)これに対し、特許異議申立人は、実施形態2(図8)の窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子に係る発明を引用発明として、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、これを引用発明としても、本件訂正発明1と当該引用発明との間には、甲4発明Aと同様に、相違点1〜3が依然として存在するから、上記(b)の説示と同様に判断される。よって、特許異議申立人の主張は、上記判断を左右するものではない。

(d)以上より、本件訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明ではなく、相違点4について検討するまでもなく、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

c 本件訂正発明2〜4についての判断
本件訂正発明2〜4は、本件訂正発明1を引用するものであるから、上記bと同様に判断される。
したがって、本件訂正発明2〜4は、甲第4号証に実質的に記載された発明とはいえず、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

d 本件訂正発明5と甲4発明Bの対比・判断
本件訂正発明5と甲4発明Bとを対比するに、本件訂正発明5は、実質的に本件訂正発明1と同一の構成を有する「III族窒化物半導体発光素子」の製造方法であり、甲4発明Bも、実質的に甲4発明1と同一の構成を有する「紫外発光素子」の製造方法である。
したがって、本件訂正発明5と甲4発明Bとの対比及び判断は、上記a及びbと同様に認定及び判断される。
よって、本件訂正発明5は、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
これに対し、特許異議申立人は、実施形態2(図8)の窒化アルミニウム系半導体深紫外発光素子の製造方法に係る発明を引用発明として、当該引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、上記b(c)の説示と同様である。

e 甲第4号証に記載された発明に基づく新規性進歩性についての小括
以上より、本件訂正発明1〜5は、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)小括
よって、取消理由通知書に記載した取消理由は解消したものである。

2 取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第17条の2第3項(同法第113条第1号
特許異議申立人は、令和2年4月8日付けの手続補正書でなされた、「前記発光層からの発光の発光中心波長が250nm以上330nm以下であり、」との記載が、「前記発光層からの発光の発光中心波長が250nm以上280nm以下であり、」と補正された事項について、発光中心波長が280nmの例は記載されている(【0064】【表2】)としても、「発光中心波長を250nm以上280nm以下とする」という技術的事項について何ら記載されておらず、自明な事項であったとも認められないから、上記手続補正書でなされた請求項1〜5の補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない旨主張している。(異議申立書第45頁第30行〜第46頁第22行)
しかしながら、当該補正は、発光中心波長が「250nm以上330nm以下」であったものを「250nm以上280nm以下」と、その範囲を狭くするものであり、「280nm」との値も【0064】【表2】に記載されたものである。そして、当該補正によって、新たな技術的意義が導入されるものでもない。
したがって、当該補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2)小括
よって、取消理由通知書において採用しなかった特許異議申立理由は、理由がない。

第6 むすび
以上によれば、本件訂正発明1〜5に係る特許は、取消理由通知書に係る取消理由及び特許異議申立理由のいずれによっても取り消すことはできない。
そして、他に本件訂正発明1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、n型半導体層、発光層、p型AlGaN電子ブロック層く(Siがドープされたものを除く)、p型コンタクト層(Siがドープされたものを除く)及びp側反射電極を順次備えるIII族窒化物半導体発光素子であって、
前記p型コンタクト層は、前記型AlGaN電子ブロック層の直上に接し、
前記発光層からの発光の発光中心波長が265nm以上280nm以下であり、
前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、
前記p型コンタクト層の膜厚は15nm以上50nm以下であり、かつ、該p型コンタクト層は、Al組成比が0.08以上0.25以下であるp型AlGaNコンタクト層を有することを特徴とするIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaNコンタクト層のみからなる、請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記p型コンタクト層は、前記p型AlGaNコンタクト層と前記p側反射電極との間にp型GaNコンタクト層を有する、請求項1に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記p型AlGaNコンタクト層の膜厚が15nm以上25nm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
基板上に、n型半導体層を形成する工程と、
前記n型半導体層上に発光層を形成する工程と、
前記発光層上にp型AlGaN電子ブロック層(Siをドープする場合を除く)を形成する工程と、
前記p型AlGaN電子ブロック層の直上に接してp型コンタクト層(Siをドープする場合を除く)を形成する工程と、
前記p型コンタクト層上にp側反射電極を形成する工程と、を含むIII族窒化物半導体発光素子の製造方法であって、
前記発光層からの発光中心波長は265nm以上280nm以下であり、
前記p型AlGaN電子ブロック層のAl組成比は0.40以上0.68以下であり、
前記p型コンタクト層の膜厚が15nm以上50nm以下であり、
前記p型コンタクト層はAl組成比が0.08以上0.25以下であるp型AlGaNコンタクト層を有すること特徴とするIII族窒化物半導体発光素子の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-09-26 
出願番号 P2019-223516
審決分類 P 1 651・ 55- YAA (H01L)
P 1 651・ 113- YAA (H01L)
P 1 651・ 121- YAA (H01L)
P 1 651・ 537- YAA (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 野村 伸雄
吉野 三寛
登録日 2020-08-24 
登録番号 6753995
権利者 DOWAエレクトロニクス株式会社
発明の名称 III族窒化物半導体発光素子及びその製造方法  
代理人 福井 敏夫  
代理人 杉村 憲司  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 杉村 憲司  
代理人 福井 敏夫  

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