ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12N 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12N 審判 全部申し立て 特174条1項 C12N 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12N |
---|---|
管理番号 | 1391998 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-06 |
確定日 | 2022-09-05 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6810685号発明「癌免疫療法のための栄養膜糖タンパク質(5T4、TPBG)特異的キメラ抗原受容体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6810685号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり〔1−18〕について訂正することを認める。 特許第6810685号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯及び証拠方法 1.手続の経緯 特許第6810685号(請求項の数18。以下、「本件特許」という。)は、平成27年9月3日に出願(特願2017−512741号)され、令和2年12月15日に特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は、令和3年1月6日である。)。 その後、令和3年7月6日に、本件特許の請求項1〜18に係る特許に対して、特許異議申立人であるオックスフォード バイオメディカ(ユーケー)リミテッド(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされた。 手続の経緯は以下のとおりである。 令和3年 7月 6日 特許異議申立書 令和3年11月 2日付け 取消理由通知書 令和4年 2月 7日 訂正請求書、意見書(特許権者) 令和4年 2月15日付け 通知書(申立人宛) 令和4年 4月 7日 意見書(申立人) 令和4年 4月14日付け 手続指令補正書(申立人宛) 令和4年 4月28日 手続補正書(申立人) 2.証拠方法 申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に添付した証拠方法は、以下のとおりである。 甲第1号証:国際公開2012/079000(公開日2012年6月14日)、翻訳文である特表2014−507118及び抄訳文 甲第2号証:国際公開2013/123061(公開日2013年8月22日)、翻訳文である特表2015−513394及び抄訳文 甲第3号証:Guest et al.,J Immunother,28巻3号,203−211頁(公開日2005年5月〜6月)及び抄訳文 甲第4号証:Dotti et al.,Immunol Rev 257巻1号,1−35頁(公開日2014年1月)及び抄訳文 甲第5号証:米国特許出願公開2013/0266551(公開日2013年10月10日)及び抄訳文 甲第6号証:米国特許出願公開2014/0234348(公開日2014年8月21日)及び抄訳文 甲第7号証:Griffiths et al.,British Journal of Cancer,93巻,670−677頁(公開日2005年9月13日)及び抄訳文 甲第8号証:対応欧州特許出願EP15757289.2に関する欧州特許庁の拒絶理由通知に対する特許権者の応答文及び抄訳文 甲第9号証:米国特許出願公開2007/0231333(公開日2007年10月4日) 甲第10号証:国際公開2006/031653(公開日2006年3月23日)、翻訳文である特表2008−512485及び抄訳文 甲第11号証:国際公開2013/059593(公開日2006年3月23日)、翻訳文である特表2008−512485 甲第12号証:国際公開2013/176915(公開日2013年11月28日) 甲第13号証:米国特許10,759,868(公開日2020年9月1日) 甲第14号証:国際公開2013/033626(公開日2013年3月7日) 甲第15号証:対応米国特許出願15/506,643に関する米国特許庁の拒絶理由通知に対する特許権者の応答文及び抄訳文 甲第16号証:Stern et al., Seminars in Cancer Biology,29巻,13−20頁(公開日2014年12月)及び抄訳文 甲第17号証:Jiang et al.,J Immunol,177巻7号,4288−4298頁(公開日2006年10月1日)及び抄訳文 甲第18号証:Shaw et al.,Biochim Biophys Acta,1524巻,238−246頁(公開日2000年12月8日) 甲第19号証:Hole and Stern,Br J Cancer,57巻,239−246頁(公開日1988年3月)及び抄訳文 甲第20号証:国際公開2007/106744(公開日2007年9月20日)、翻訳文である特表2009−529578及び抄訳文 甲第21号証:Guedan et al.,Methods & Clinical Development,12巻,145−156頁(公開日2019年3月15日)及び抄訳文 甲第22号証:Watanabe et al.,Oncoimmunology,5巻,12号,e1253656(公開日2016年11月8日) 甲第23号証:Hudecek et al.,Cancer Immunol Res,3巻,2号,125−35頁(公開日2014年9月11日) 甲第24号証:Torikai et al.,Blood,119巻,24号,5697−705頁(公開日2012年6月14日) 甲第25号証:特許第6810685号公報(公開日2020年1月6日) 甲第26号証:特表2017−527289(公開日2017年9月21日) (以下、上記の甲第1号証〜甲第26号証を、「甲1」〜「甲26」という。) 第2 訂正の適否 1.訂正事項 令和4年2月7日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 特許請求の範囲の請求項1において、 「 モノクローナル抗5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造を有する、5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)であって、細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含むか、または 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含む、 5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)」 と記載されているのを、 「 モノクローナル抗5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造を有する、5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)であって、細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含むか、または 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含み、 CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する、 5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)」 に訂正する。 2.一群の請求項について 訂正前の請求項2〜18は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項によって、訂正される訂正前の請求項1に連動して、訂正前の請求項2〜18も訂正されるから、訂正前の請求項1〜18は、一群の請求項に該当するものである。 よって、本件訂正は、一群の請求項1〜18に対してなされたものである。 3.訂正の目的について 訂正事項は、訂正前の請求項1に記載されていた「5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)」における「CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造」に含まれる、「CD8αヒンジ」を「SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有」するもの、「CD8α膜貫通ドメイン」を「SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有」するもの、「CD3ζシグナリングドメイン」を「SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有」するもの、「4-1BB由来の共刺激ドメイン」を「SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有」するもの、にそれぞれ特定する訂正である。 したがって、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 4.実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更する訂正ではないこと 本件訂正は、特許請求の範囲に記載された発明特定事項である「CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメイン」の構造をそれぞれ特定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 5.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項は、訂正前の請求項1に記載されていた「5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)」における「CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造」に含まれる、「CD8αヒンジ」を「SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有」するもの、「CD8α膜貫通ドメイン」を「SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有」するもの、「CD3ζシグナリングドメイン」を「SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有」するもの、「4-1BB由来の共刺激ドメイン」を「SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有」するもの、にそれぞれ特定する訂正である。 そして、願書に添付した明細書には、 「[本発明1013] 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含む、本発明1001〜1008のいずれかの5T4特異的CAR。 ・・・ [本発明1015] 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにNO.51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H18由来のCDRを含むVL鎖を含む、本発明1001〜1008のいずれかの5T4特異的CAR。 ・・・ [本発明1017] 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%、さらに好ましくは99%の同一性を有する、本発明1001〜1016のいずれかの5T4特異的CAR。 [本発明1018] CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%、さらに好ましくは99%の同一性を有する、本発明1001〜1017のいずれかの5T4特異的CAR。 ・・・ [本発明1020] CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%、さらに好ましくは99%の同一性を有する、本発明1002、1006、または1008〜1018のいずれかの5T4特異的CAR。 ・・・ [本発明1022] CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6と少なくとも80%、好ましくは90%、より好ましくは95%、さらに好ましくは99%の同一性を有する、本発明1002〜1004または1008〜1021のいずれかの5T4特異的CAR。」(【0016】段落) 「好ましい態様において、CARのシグナリング伝達ドメインには、SEQ ID NO:9からなる群より選択されるアミノ酸配列との少なくとも70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するCD3ζシグナリングドメインが含まれ得る。」(【0045】段落) 「好ましい態様において、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、4-1BB(GenBank:AAA53133.)およびCD28(NP_006130.1)の断片からなる群より選択される共刺激シグナル分子の一部を含む。具体的には、本発明のCARのシグナル伝達ドメインは、SEQ ID NO:8からなる群より選択されるアミノ酸配列との少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、95%、97%、または99%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む。」(【0048】段落) 「好ましい態様において、ヒンジドメインは、本明細書において、それぞれ、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、およびSEQ ID NO:5と呼ばれる、ヒトCD8α鎖、FcγRIIIα受容体、もしくはIgG1の一部、またはこれらのポリペプチドとの好ましくは少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、95%、97%、もしくは99%の配列同一性を示すヒンジポリペプチドを含む。」(【0049】段落) と記載されている。 したがって、本件訂正は、願書に添付した明細書に記載された範囲のものである。 6.独立特許要件 本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 7.小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件特許の請求項1〜18に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 以下、訂正後の本件発明を、項番に従い、「本件発明1」〜「本件発明18」といい、これらを総称して、「本件発明」という。また、訂正前の本件発明を、「訂正前本件発明1」〜「訂正前本件発明18」といい、これらを総称して、「訂正前本件発明」という。 「【請求項1】 モノクローナル抗5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造を有する、5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)であって、 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含むか、または細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含み、 CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する、 5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)。 【請求項2】 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含む、請求項1記載の5T4特異的CAR。 【請求項3】 VHおよびVLが、それぞれ、SEQ ID NO:17(A3-VH)およびSEQ ID NO:18(A3-VL)と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項2記載の5T4特異的CAR。 【請求項4】 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含む、請求項1記載の5T4特異的CAR。 【請求項5】 VHおよびVLが、それぞれ、SEQ ID NO:11(H8-VH)およびSEQ ID NO:12(H8-VL)と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項4記載の5T4特異的CAR。 【請求項6】 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する、請求項1〜5のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項7】 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列を有する、請求項1〜6のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項8】 CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有する、請求項1〜7のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項9】 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を有する、請求項1〜8のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項10】 SEQ ID NO:21またはSEQ ID NO:39のポリペプチド配列を含む、請求項1記載の5T4特異的CAR。 【請求項11】 シグナルペプチドをさらに含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項12】 請求項1〜11のいずれか一項記載のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチド。 【請求項13】 請求項1〜11のいずれか一項記載の5T4特異的キメラ抗原受容体を細胞表面膜に発現する、操作された免疫細胞。 【請求項14】 炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、またはヘルパーTリンパ球に由来する、請求項13記載の操作された免疫細胞。 【請求項15】 前記免疫細胞においてTCRの発現が抑制されている、請求項13または14記載の操作された免疫細胞。 【請求項16】 少なくとも1種の免疫抑制薬または化学療法薬に対する耐性を付与するために変異させた、請求項13〜15のいずれか一項記載の操作された免疫細胞。 【請求項17】 血液癌状態の治療において使用するための医薬の調製における、請求項13〜16のいずれか一項記載の操作された免疫細胞の使用。 【請求項18】 小児前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病の治療において使用するための医薬の調製における、請求項13〜16のいずれか一項記載の操作された免疫細胞の使用。」 第4 当審が通知した取消理由及び特許異議申立ての理由の概要 1.当審が通知した取消理由通知の概要 当審が令和3年11月2日付け取消理由通知書で通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は、以下のとおりである。 なお、取消理由通知書で引用した引用文献5〜8、10は、当審により職権で追加した、以下の文献である。 A 特表2013−506419号公報(引用文献5) B 国際公開2014/130657号(引用文献6) C 国際公開2014/130635号(引用文献7) D 国際公開第2014/055771号(引用文献8) E Leukemia, 2012, Vol.26, No.7, p.1487−1498(引用文献10) (1)取消理由1(a)(進歩性) 訂正前本件発明1〜18は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された引用文献1(甲1)(主引例),引用文献2(甲2),引用文献3(甲10),引用文献4(甲20)、引用文献5(文献A)、引用文献6(文献B)、引用文献7(文献C)、引用文献8(文献D)、引用文献9(甲12)、及び引用文献10(文献E)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)取消理由1(b)(進歩性) 訂正前本件発明1〜18は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された引用文献2(主引例)、引用文献1、3〜10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)取消理由2(実施可能要件) 特定ドメインの領域を伸長、短縮させたり、配列の内容を任意に変更するような多種多様のものが包含される条件下で、CAR構成の設計および適当な成分の使用によって、CARの機能性を改善するためにどのようなCD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを用いればよいかは、本件明細書には具体的に記載されておらず、当業者といえども過度の試行錯誤を要する。 したがって、本件訂正前の特許は、実施可能要件を充足せず、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)取消理由3(サポート要件) 本件特許発明の解決しようとする課題は、「CAR構成の設計および適当な成分の使用によって、CARの機能性を改善する」こと、「CAR構成を適当な成分の選択と組み合わせることによって、癌標的細胞に対する高い細胞傷害性を有する特異的な5T4単鎖CARを入手すること」と認められる。 訂正前の本件発明に係るCD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激のドメインについては、特定ドメインの領域を伸長、短縮させたり、配列の内容を任意に変更するような多種多様のものが包含されると認められるが、ヒンジと、膜貫通ドメインと、シグナリングドメインおよび共刺激ドメインの種類によって機能性が大きく左右されることを考慮すると、そもそもこれらCD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインの化学構造を大きく変化させると、機能性が大きく左右され、必ずしもCARの機能性は改善されないと認められる。 したがって、訂正前の本件特許は発明の課題を解決できると認められる範囲を超えるものであって、サポート要件を充足せず、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 2.特許異議申立ての理由の概要 申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。)は、以下のとおりである。 (1)申立理由1(ア)(進歩性) 訂正前本件発明1〜18は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲1(主引例),9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由1(イ)(進歩性) 訂正前本件発明1〜18は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲2(主引例),9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由1(ウ)(進歩性) 訂正前本件発明1〜18は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲3(主引例),4〜6,9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由1(エ)(進歩性) 訂正前本件発明1〜18は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲7(主引例),4〜6,9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)申立理由1(オ)(進歩性) 訂正前本件発明1〜18は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲17(主引例),4〜6,9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (6)申立理由1(カ)(進歩性) 訂正前本件発明1〜18は、本件特許の出願前日本国内又は外国において頒布された甲20(主引例),3〜5、21に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (7)申立理由2(実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明には、任意の長さのCD8αヒンジを使用して技術的効果を達成することができることについて、当業者が実施可能な程度に十分に記載がされていない。 したがって、訂正前本件特許は、実施可能要件を充足せず、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (8)申立理由3(新規事項) 本件の出願時の明細書等には、本件発明17,18によって組み込まれた特徴の組合せの根拠が提供されていない。 訂正前本件発明17,18に関する手続補正は、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項においてなされた補正ではなく、特許法17条の2第3項に違反し、不適法な補正であるから、特許法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 取消理由に係る当審の判断 本件発明1〜18に係る特許は、以下のとおり、当審が通知した取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことができない、と判断する。 1.甲1に記載された事項及び甲1発明の認定 (1)甲1に記載された事項 甲1(国際公開2012/079000)には、以下のとおりの記載がある。甲1は、英語で記載されているため、摘示箇所を含め、甲1に対応する公表公報である特表2014−507118の翻訳文で示す。 甲1a 「【要約】 本発明は、ヒトにおける癌を治療するための組成物および方法を提供する。本発明は、CARを発現するように遺伝子改変されたT細胞を投与する段階を含み、該CARは抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含む。」 甲1b 「【0006】 本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離された核酸配列であって、CARが抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、およびCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、該CD3ζシグナル伝達ドメインがSEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含む、単離された核酸配列を提供する。」 甲1c 「【0014】 本発明はまた、CARをコードする核酸配列を含む細胞であって、CARが抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含む、細胞も提供する。 【0015】 1つの態様において、CARを含む細胞は、T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)、および調節性T細胞からなる群より選択される。」 甲1d 「【0020】 本発明はまた、腫瘍抗原の発現亢進と関連する疾患、障害または病状を有する哺乳動物を治療する方法も提供する。1つの態様において、本方法は、CARを発現するように遺伝子改変された細胞の有効量を哺乳動物に投与する段階を含み、該CARが抗原結合ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、および、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含み、それにより、該哺乳動物を治療する。」 甲1e 「【0038】 本発明の好ましい態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことにより、より良く理解されるであろう。本発明を実例で説明するために、現時点で好ましい態様を図面として示している。しかし、本発明は、図面中に示された態様の厳密な配置および手段には限定されないことが理解されるべきである。 【図1A】遺伝子移入ベクターおよび導入遺伝子の画像である。主要な機能的エレメントを示している、レンチウイルスベクターおよび導入遺伝子を描写している。FMC63マウスモノクローナル抗体由来の抗CD19 scFv、ヒトCD8αのヒンジおよび膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインの発現を導く、水疱性口内炎ウイルスプロテインGの偽型臨床グレードレンチウイルスベクター(pELPs 19BBzと命名)を作製した。導入遺伝子の構成性発現は、EF-1α(伸長因子-1αプロモーター);LTR、長末端反復配列;RRE、rev応答エレメント(cPPT)およびセントラルターミネーション配列(CTS)を含めることによって導いた。図は正確な縮尺通りではない。 【図12A】患者における臨床的奏効を描写している画像である。患者由来のT細胞を感染させるために用いたレンチウイルスベクターを示している。FMC63マウスモノクローナル抗体に由来する抗CD19 scFv、ヒトCD8αのヒンジドメインおよび膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインの発現を導く、水疱性口内炎ウイルスプロテインGの臨床グレード偽型レンチウイルスベクター(pELPs 19-BB-z)を作製した。一番下にあるCAR19導入遺伝子の詳細は、主要な機能的エレメントを示している。この図は正確な縮尺通りではない。3'LTRは3'長末端反復配列を表す;5'LTR、5'長末端反復配列;Amp R、アンピシリン耐性遺伝子;Bovine GH Poly A、ポリアデニル化尾部を有するウシ成長ホルモン;cPPT/CTS、セントラルターミネーション配列を有する中心ポリプリントラクト;EF-1α、伸長因子1-α;env、エンベロープ;gag、群特異的抗原;pol、ポリメラーゼおよび逆転写酵素をコードするHIV遺伝子;R、反復配列;RRE、rev応答エレメント;scFv、単鎖可変フラグメント;TM、膜貫通性;ならびにWPRE、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント。 」 甲1f 「【0116】 1つの態様において、腫瘍抗原は、悪性腫瘍と関連する1つまたは複数の抗原性癌エピトープを含む。悪性腫瘍は、免疫攻撃のための標的抗原としての役を果たしうる数多くのタンパク質を発現する。これらの分子には、黒色腫におけるMART-1、チロシナーゼおよびGP 100、ならびに前立腺癌における前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)および前立腺特異的抗原(PSA)などの組織特異的抗原が非限定的に含まれる。他の標的分子には、腫瘍遺伝子HER-2/Neu/ErbB-2などの形質転換関連分子の群に属するものがある。標的抗原のさらにもう1つの群には、腫瘍胎児性抗原などの癌胎児性抗原(CEA)がある。B細胞リンパ腫において、腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンは、個々の腫瘍に固有である、真に腫瘍特異的である免疫グロブリン抗原で構成される。CD19、CD20およびCD37などのB細胞分化抗原は、B細胞リンパ腫における標的抗原の別の候補である。これらの抗原のいくつか(CEA、HER-2、CD19、CD20、イディオタイプ)は、モノクローナル抗体を用いる受動免疫療法の標的として用いられ、ある程度の成果を上げている。 【0117】 本発明において言及される腫瘍抗原の種類は、腫瘍特異的抗原(TSA)または腫瘍関連抗原(TAA)であってもよい。TSAは腫瘍細胞に固有であり、体内の他の細胞上には存在しない。TAA関連抗原は腫瘍細胞に固有ではなく、抗原に対する免疫寛容の状態を誘導することができない条件下で、正常細胞上でも発現される。腫瘍上での抗原の発現は、免疫系が抗原に応答することを可能にする条件下で起こりうる。TAAは、免疫系が未熟であって応答することができない胎児発生中に正常細胞上で発現される抗原であってよく、またはそれらは、正常細胞上に極めて低いレベルで通常存在するが、腫瘍細胞上でははるかに高いレベルで発現される抗原であってもよい。 【0118】 TSA抗原またはTAA抗原の非限定的な例には、以下のものが含まれる:MART-1/MelanA(MART-1)、gp100(Pmel 17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2などの分化抗原、およびMAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15などの腫瘍特異的多系列抗原;過剰発現される胎児抗原、例えばCEAなど;過剰発現される腫瘍遺伝子および突然変異した腫瘍抑制遺伝子、例えばp53、Ras、HER-2/neuなど;染色体転座に起因する固有の腫瘍抗原;BCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RARなど;ならびに、ウイルス抗原、例えばエプスタイン・バーウイルス抗原EBVAならびにヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6およびE7など。その他の大型のタンパク質ベースの抗原には、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA 19-9、CA 72-4、CAM 17.1、NuMa、K-ras、β-カテニン、CDK4、Mum-1、p 15、p 16、43-9F、5T4、791Tgp72、α-フェトプロテイン、β-HCG、BCA225、BTAA、CA 125、CA 15-3\CA 27.29\BCAA、CA 195、CA 242、CA-50、CAM43、CD68\P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733\EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90\Mac-2結合タンパク質\シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLP、およびTPSが含まれる。」 甲1g 「【0124】 好ましくは、本発明のCARにおける膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメインである。1つの態様において、CD8膜貫通ドメインは、SEQ ID NO:16の核酸配列を含む。1つの態様において、CD8膜貫通ドメインは、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。もう1つの態様において、CD8膜貫通ドメインは、SEQ ID NO:22のアミノ酸配列を含む。 【0125】 場合によっては、本発明のCARの膜貫通ドメインは、CD8αヒンジドメインを含む。1つの態様において、CD8ヒンジドメインは、SEQ ID NO:15の核酸配列を含む。1つの態様において、CD8ヒンジドメインは、SEQ ID NO:21のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。もう1つの態様において、CD8ヒンジドメインはSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を含む。」 甲1h 「【0133】 1つの態様において、細胞質ドメインは、CD3-ζのシグナル伝達ドメインおよびCD28のシグナル伝達ドメインを含むように設計される。もう1つの態様において、細胞質ドメインは、CD3-ζのシグナル伝達ドメインおよび4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように設計される。さらにもう1つの態様において、細胞質ドメインは、CD3-ζのシグナル伝達ドメインならびにCD28および4-1BBのシグナル伝達ドメインを含むように設計される。」 甲1i 「【0135】 1つの態様において、本発明のCARにおける細胞質ドメインは、4-1BBのシグナル伝達ドメインおよびCD3-ζのシグナル伝達ドメインを含むように設計され、ここで4-1BBのシグナル伝達ドメインはSEQ ID NO:23のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み、CD3-ζのシグナル伝達ドメインはSEQ ID NO:24のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。 【0136】 1つの態様において、本発明のCARにおける細胞質ドメインは、4-1BBのシグナル伝達ドメインおよびCD3-ζのシグナル伝達ドメインを含むように設計され、ここで4-1BBのシグナル伝達ドメインはSEQ ID NO:23に示されたアミノ酸配列を含み、CD3-ζのシグナル伝達ドメインはSEQ ID NO:24に示されたアミノ酸配列を含む。」 甲1j 「【0184】 血液悪性腫瘍は、血液または骨髄の癌である。血液(または造血器)悪性腫瘍の例には、白血病、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄急性白血病、急性骨髄性白血病、ならびに骨髄芽球性、前骨髄球性、骨髄単球性、単球性の白血病および赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病および慢性リンパ性白血病など)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無症候型およびハイグレード型)、多発性骨髄腫、ワルデンストローム・マクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、毛様細胞白血病および骨髄異形成が含まれる。」 甲1k 「【0221】 ベクターの作製 記載の通りに(Milone et al., 2009, Mol Ther. 17:1453-1464)、CD19-BB-z導入遺伝子(GeMCRIS 0607-793)を設計して構築した。レンチウイルスベクターは、記載の通りに(Zufferey et al., 1997, Nature biotechnol 15:871-875)、Lentigen Corporationにおいて、3プラスミド作製アプローチを用いる優良製造規範に従って作製された。 【0222】 CART19細胞製剤の調製 抗CD3および抗CD28モノクローナル抗体でコーティングした常磁性ポリスチレンビーズを用いるT細胞調製の方法は記載されている(Laport et al., 2003, Blood 102:2004-2013)。レンチウイルス形質導入は記載の通りに行った (Levine et al., 2006, Proc Natl Acad Sci U S A 103:17372-17377)。」 甲1l 「【0279】 CART-19T細胞の調製 CD19に対する特異性を有する細胞外単鎖抗体(scFv)を発現するように自己T細胞を操作する。細胞外scFvは、悪性細胞および正常B細胞の表面に発現が限られる分子であるCD19を発現する細胞に対して、形質導入T細胞の特異性を再誘導することができる。CD19 scFvに加えて、TCRζ鎖、または4-1BBおよびTCRζのシグナル伝達モジュールで構成される縦列シグナル伝達ドメインのいずれかで構成される細胞内シグナル伝達分子も発現するように細胞に形質導入する。scFvはマウスモノクローナル抗体に由来し、それ故にマウス配列を含有しており、シグナル伝達ドメインはすべてがネイティブ性ヒト配列のものである。CART-19 T細胞は、アフェレーシスによってT細胞を単離して、レンチウイルスベクター技術(Dropulic et al., 2006, Human Gene Therapy, 17:577-88;Naldini et al., 1996, Science, 272:263-7;Dull et al., 1998, J Virol, 72:8463-71)を用いてscFv:TCRζ:4-1BBをCD4およびCD8 T細胞に導入することによって製造される。」 (2)甲1に記載された発明の認定 甲1には、FMC63マウスモノクローナル抗体に由来する抗CD19 scFv、ヒトCD8αのヒンジドメインおよび膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインの発現を導く、水疱性口内炎ウイルスプロテインGの臨床グレード偽型レンチウイルスベクター(pELPs 19-BB-z)を作製したこと(上記甲1e)、それをT細胞に形質導入したことが記載されている(甲1k,甲1l)。 そして、甲1に記載された細胞外単鎖抗体(scFv)とは、抗体由来の重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域を短いリンカーペプチドで繋いだ融合タンパク質であると認められ、T細胞に形質導入されたレンチウイルスベクター(pELPs 19-BB-z)は、T細胞においてキメラ抗原受容体(CAR)を発現させると認められる。 そうすると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「マウスモノクローナル抗体に由来する抗CD19 抗体由来の重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域を短いリンカーペプチドで繋いだ融合タンパク質であるscFv、ヒトCD8αのヒンジドメインおよび膜貫通ドメイン、ならびにヒト4-1BBおよびCD3ζのシグナル伝達ドメインの発現を導く、水疱性口内炎ウイルスプロテインGの臨床グレード偽型レンチウイルスベクター(pELPs 19-BB-z)を、T細胞に形質導入し発現させて得られたキメラ抗原受容体(CAR)。」(以下、「甲1発明」という。) 2.甲2に記載された事項及び甲2発明の認定 (1)甲2に記載された事項 甲2(国際公開2013/123061)には、以下のとおりの記載がある。甲2は、英語で記載されているため、摘示箇所を含め対応する公表公報である特表2015−513394の翻訳文で示す。 甲2a 「【要約】 本発明は、(a)少なくとも2つの抗原特異的標的指向領域、(b)細胞外スペーサードメイン、(c)膜貫通ドメイン、(d)少なくとも1つの共刺激ドメイン、および(e)細胞内シグナル伝達ドメインを含む、二重特異性キメラ抗原受容体を対象とし、ここで、各抗原特異的標的指向領域は、抗原特異的単鎖Fv(scFv)フラグメントを含み、かつ異なる抗原に結合し、かつここで、該二重特異性キメラ抗原受容体は、治療用制御物質と共発現される。本発明はまた、前記二重特異性キメラ抗原受容体の方法および使用も提供する。」 甲2b 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 a.少なくとも2つの抗原特異的標的指向領域、 b.細胞外スペーサードメイン、 c.膜貫通ドメイン、 d.少なくとも1つの共刺激ドメイン、および e.細胞内シグナル伝達ドメイン を含み、治療用制御物質と共発現される、二重特異性キメラ抗原受容体であって、 各抗原特異的標的指向領域が、抗原特異的単鎖Fv(scFv)フラグメントを含み、かつ異なる抗原に結合する、 二重特異性キメラ抗原受容体。・・・ 【請求項32】 請求項1に記載の二重特異性キメラ抗原受容体または請求項24に記載の組み合わせをコードする、ポリヌクレオチド。・・・ 【請求項38】 請求項32に記載のポリヌクレオチド、請求項1に記載のキメラ抗原受容体、または請求項24に記載の組み合わせを含む、遺伝子改変細胞。 【請求項39】 T−リンパ球(T細胞)である、請求項38に記載の遺伝子改変細胞。・・・ 【請求項75】 請求項47に記載の二重特異性キメラ抗原受容体または請求項70に記載の組み合わせをコードする、ポリヌクレオチド。 【請求項76】 請求項75に記載のポリヌクレオチドによってコードされる、ポリペプチド。・・・ 【請求項81】 請求項75に記載のポリヌクレオチド、請求項47に記載のキメラ抗原受容体、または請求項70に記載の組み合わせを含む、遺伝子改変細胞。 【請求項82】 T−リンパ球(T細胞)である、請求項81に記載の遺伝子改変細胞。・・・ 【請求項89】 疾患の治療を必要とする対象における疾患を治療するための方法であって、 該方法が、 (i)請求項85に記載の組成物を提供する工程、および (ii)治療的有効量の該組成物を、該疾患を治療するように該対象に投与する工程 を含み、 少なくとも2つの抗原特異的標的指向領域がそれぞれ、抗原を標的とし、かつ少なくとも1つのそのような抗原が、該疾患と関連している、 該方法。・・・ 【請求項91】 a.少なくとも2つの抗原特異的標的指向領域、 b.CD8αヒンジ細胞外スペーサードメイン、 c.CD8α膜貫通ドメイン、 d.4−1BB共刺激ドメイン、および e.CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン を含み、トランケート型上皮成長因子受容体(EGFRt)と共発現される、二重特異性キメラ抗原受容体であって、 各抗原特異的標的指向領域が、抗原特異的単鎖Fv(scFv)フラグメントを含み、かつ異なる抗原に結合し、 二重特異性キメラ抗原受容体およびEGFRtが、T2Aリンカーを介して連結されている、 二重特異性キメラ抗原受容体。・・・ 【請求項96】 前記少なくとも2つの抗原特異的標的指向ドメインのそれぞれが、癌、炎症性疾患、神経障害、糖尿病、心血管系疾患、感染性疾患、自己免疫性疾患、およびそれらの組み合わせに対して特異的な抗原から成る群から独立して選択される抗原を標的とする、請求項91に記載の二重特異性キメラ抗原受容体。 【請求項97】 癌に特異的な前記抗原が、4−1BB、5T4、腺癌抗原、α−フェトプロテイン、BAFF、B−リンパ腫細胞、C242抗原、CA−125、炭酸脱水酵素9(CA−IX)、C−MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CNTO888、CTLA−4、DR5、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチンのエクストラドメイン−B、葉酸受容体1、GD2、GD3ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、HGF、ヒト細胞分散因子受容体キナーゼ、IGF−1受容体、IGF−I、IgG1、L1−CAM、IL−13、IL−6、インスリン様成長因子I受容体、インテグリンα5β1、インテグリンαvβ3、MORAb−009、MS4A1、MUC1、ムチンCanAg、N−グリコリルノイラミン酸、NPC−1C、PDGF−Rα、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、SCH900105、SDC1、SLAMF7、TAG−72、テネイシンC、TGFβ2、TGF−β、TRAIL−R1、TRAIL−R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF−A、VEGFR−1、VEGFR2、ビメンチン、およびそれらの組み合わせのうちのいずれか1つまたは複数を含む、請求項96に記載の二重特異性キメラ抗原受容体。」 甲2c 「【背景技術】 【0002】 現在の免疫療法は、癌細胞上の単一抗原を標的とするように設計されている。しかしながら、例えば、癌細胞は不安定であり、一部の細胞はもはや標的抗原を有していない場合がある。抗原消失エスケープ変異体(antigen loss escape variant)と称されるこれらの細胞は、療法による破壊を回避し、成長し続け、野放しに蔓延し得る。ゆえに、当該技術分野において、癌および他の疾患における治療の失敗を防ぐか、または最小化する療法の必要性が存在する。 【発明の概要】 【0003】 一実施形態において、本発明は、(a)少なくとも2つの抗原特異的標的指向領域、(b)細胞外スペーサードメイン、(c)膜貫通ドメイン、(d)少なくとも1つの共刺激ドメイン、および(e)細胞内シグナル伝達ドメインを含む、二重特異性キメラ抗原受容体を提供し、ここで、各抗原特異的標的指向領域は、抗原特異的単鎖Fv(scFv)フラグメントを含み、かつ異なる抗原に結合し、かつここで、その二重特異性キメラ抗原受容体は、治療用制御物質と共発現される。」 甲2d 「【0021】 本明細書で使用される場合、「B細胞関連疾患」は、B細胞免疫不全、自己免疫性疾患、ならびに/またはB細胞と関連している過剰/無制御細胞増殖(リンパ腫および/もしくは白血病を含む)を含む。本発明の二重特異性CARが治療手段として使用され得る、そのような疾患の例には、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病、関節リウマチ(RA)、反応性関節炎、多発性硬化症(MS)、尋常性天疱瘡、セリアック病、クローン病、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、自己免疫性甲状腺疾患、X連鎖無ガンマグロブリン血症、プレB急性リンパ芽球性白血病、全身性エリテマトーデス、分類不能型免疫不全、慢性リンパ性白血病、選択的IgA欠乏および/またはIgGサブクラス欠乏と関連している疾患、B細胞系リンパ腫(ホジキンリンパ腫および/または非ホジキンリンパ腫)、胸腺腫を伴う免疫不全、一過性低ガンマグロブリン血症および/または高IgM症候群、ならびにEBV媒介性リンパ増殖性疾患等のウイルス媒介性B細胞疾患、およびB細胞が病態生理に関与する慢性感染症が挙げられるが、これらに限定されない。」 甲2e 「【0024】 本明細書で使用される場合、「共発現」は、2つ以上の遺伝子の同時の発現を指す。遺伝子は、例えば、単一のタンパク質または単一のポリペプチド鎖としてのキメラタンパク質をコードする核酸であり得る。例えば、本発明のCARは、治療用制御物質(例えば、トランケート型上皮成長因子(EGFRt))と共発現され得、CARは、第1のポリヌクレオチド鎖でコードされ、治療用制御物質は、第2のポリヌクレオチド鎖でコードされる。一実施形態において、第1および第2のポリヌクレオチド鎖は、切断可能なリンカーをコードする核酸配列によって連結される。CARおよび治療用制御物質系をコードするポリヌクレオチドは、IRES配列によって連結される。代替的に、CARおよび治療用制御物質は、リンカーを介して連結されていないが、代わりに例えば、2つの異なるベクターによってコードされている、2つの異なるポリヌクレオチドによってコードされる。さらに、本発明のCARは、治療用制御物質およびCCR、治療用制御物質およびDHFR(例えば、変異DHFR)、または治療用制御物質およびCCRおよびDHFR(例えば、変異DHFR)と共発現され得る。CAR、治療用制御物質、およびCCRは、共発現され、それぞれ、第1、第2、および第3のポリヌクレオチド配列によってコードされ得、その第1、第2、および第3のポリヌクレオチド配列はIRES配列または切断可能なリンカーコードする配列を介して連結される。代替的に、これらの配列は、リンカーを介して連結されないが、代わりに例えば、別々のベクターによってコードされる。CAR、治療用制御物質、およびDHFR(例えば、変異DHFR)は、共発現され、第1、第2、および第4のポリヌクレオチド配列によってコードされ得、それぞれ、その第1、第2、および第4のポリヌクレオチド配列はIRES配列を介して、または切断可能なリンカーコードする配列を介して連結される。代替的に、これらの配列は、リンカーを介して連結されないが、代わりに例えば、別々のベクターによってコードされる。CAR、治療用制御物質、CCR、およびDHFR(例えば、変異DHFR)は、共発現され、それぞれ、第1、第2、第3、および第4のポリヌクレオチド配列によってコードされ得、その第1、第2、第3、および第4のポリヌクレオチド配列はIRES配列または切断可能なリンカーコードする配列を介して連結される。代替的に、これらの配列は、リンカーを介して連結されないが、代わりに例えば、別々のベクターによってコードされる。前述の配列が別々のベクターによってコードされる場合、これらのベクターは、同時に、または連続してトランスフェクトされ得る。」 甲2f 「【0097】 本発明のCARをコードするベクターがまた本明細書に提供される。CARをコードするベクターはまたEGFRtもコードする。いくつかの実施形態において、CARおよびEGFRtをコードするベクターはまた、CCRまたはDHFR(例えば、変異DHFR)もコードする。他の実施形態において、CARおよびEGFRtをコードするベクターはまた、CCDおよびDHFR(例えば、変異DHFR)もコードする。いくつかの特定の実施形態において、ベクターは、二重特異性CARおよびEGFRt、二重特異性CARおよびEGFRtおよびCCR、二重特異性CARおよびEGFRtおよびDHFR(例えば、変異DHFR)、または二重特異性CARおよびEGFRtおよびCCRおよびDHFR(例えば、変異DHFR)をコードし得る。本発明のCARを発現するために使用され得るベクターには、レンチウイルスベクター、γレトロウイルスベクター、泡沫状ウイルスベクター、AAVベクター、アデノウイルスベクター、改変ハイブリッドウイルス、裸のDNA(Sleeping Beauty、Piggybak等のトランスポゾン媒介ベクター、Phi31等のインテグラーゼが含まれるが、これらに限定されない)が含まれるが、これらに限定されない。」 甲2g 「【0099】 本発明の遺伝子改変細胞 本発明はまた、本発明のCARを含みかつ安定して発現する遺伝子改変細胞を提供する。遺伝子改変細胞によって発現されるCARは、少なくとも2つの抗原特異的標的指向領域、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、1つまたは複数の共刺激ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含み得る。CARをコードするポリヌクレオチド配列はまた、N末端シグナル配列も含み得る。一実施形態において、CARは二重特異性CARである。少なくとも2つの抗原特異的標的指向領域、細胞外スペーサードメイン、膜貫通ドメイン、1つまたは複数の共刺激ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインのそれぞれは上述されている。抗原特異的標的指向ドメインは、MHC非拘束的な様式で、その様式ではT細胞受容体によって通常は結合されない抗原に特異的に結合することが可能である。 【0100】 一実施形態において、本発明のCAR(例えば、二重特異性CAR)を発現する遺伝子改変細胞は、EGFRtを共発現する。さらなる実施形態において、CAR(例えば、二重特異性CAR)を発現する遺伝子改変細胞は、EGFRtおよびCCRを共発現する。さらなる実施形態において、CAR(例えば、二重特異性CAR)を発現する遺伝子改変細胞は、EGFRtおよびDHFR(例えば、変異DHFR)を共発現する。別の実施形態において、CAR(例えば、二重特異性CAR)を発現する遺伝子改変細胞は、EGFRt、CCR、およびDHFR(例えば、変異DHFR)を共発現する。 【0101】 遺伝子改変細胞は、少なくとも2つの異なる標的抗原に特異的な、少なくとも2つの抗原特異的標的指向領域を有するCARを発現する。1つの実施形態において、抗原特異的標的指向領域は、標的特異的抗体またはそれらの機能的等価物もしくはフラグメントもしくは誘導体を含む。抗原特異的抗体は、抗体のFabフラグメントまたは抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)であり得る。 【0102】 本発明のCARを含みかつ発現し得る遺伝子改変細胞には、治療に関連した成果をもたらすことができる、T−リンパ球(T細胞)、ナイーブT細胞(TN)、メモリーT細胞(例えば、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリー細胞(TEM))、ナチュラルキラー細胞、造血幹細胞および/または多能性胚性/誘導性幹細胞が含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、遺伝子改変細胞は自家細胞である。例として、本発明の個々のT細胞は、CD4+/CD8−、CD4−/CD8+、CD4−/CD8−、またはCD4+/CD8+であり得る。T細胞は、CD4+/CD8−およびCD4−/CD8+細胞の混合群、または単一クローンの一群であり得る。本発明のCD4+T細胞は、標的抗原を発現する細胞(例えば、CD20+および/またはCD19+腫瘍細胞)とインビトロで共培養された場合、IL−2、IFNγ、TNFα、および他のT細胞エフェクターサイトカインを産生し得る。本発明のCD8+T細胞は、抗原特異的標的細胞とインビトロで共培養された場合、その標的細胞を溶解し得る。いくつかの実施形態において、T細胞は、CD45RA+CD62L+ナイーブ細胞、CD45RO+CD62L+セントラルメモリー細胞、CD62L−エフェクターメモリー細胞、またはそれらの組み合わせうちのいずれか1つまたは複数であり得る。(Berger et al.,Adoptive transfer of virus−specific and tumor−specific T cell immunity.Curr Opin Immunol 2009 21(2)224−232)。」 甲2h 「【0110】 したがって、本発明はまた、本発明のCARによって標的とされる抗原と関連している疾患の治療を必要とする対象における、該疾患を治療するための方法も提供する。その方法は、本発明のCARを含む組成物を提供すること、ならびに有効量のその組成物を、対象における抗原と関連している疾患を治療するように投与することを含む。」 甲2i 「【0112】 いくつかの実施形態において、その組成物は、CARをコードするポリヌクレオチド、CARを含むタンパク質、またはCARを含む遺伝子修飾細胞を含む。別の実施形態において、組成物の遺伝子修飾細胞は、治療に関連した成果をもたらすことができるTリンパ球(T細胞)、ナイーブT細胞(TN)、メモリーT細胞(例えば、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリー細胞(TEM))、ナチュラルキラー(NK)細胞、造血幹細胞(HSC)、または多能性胚性/誘導性幹細胞であり、それらは本発明のCARを発現する。本発明の組成物は、単独で、または既存の療法と併せて投与され得る。他の療法が併せて使用される場合、本発明の組成物は、他の既存の療法と同時に、または連続して投与され得る。」 (2)甲2に記載された発明の認定 甲2には、抗原特異的標的指向領域、CD8αヒンジ細胞外スペーサードメイン、CD8α膜貫通ドメイン、4−1BB共刺激ドメイン、およびCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体、及び、当該受容体において抗原特異的標的指向領域が、抗原特異的単鎖Fv(scFv)フラグメントを含むことが記載され(請求項91)、多数ある癌に特異的な抗原の一つとして5T4が例示されている(請求項97)(甲2b)。 ここで、甲2に記載された単鎖Fv(scFv)フラグメントとは、抗体由来の重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域を短いリンカーペプチドで繋いだ融合タンパク質である。 したがって、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。 「抗原特異的抗体由来の重鎖(VH)および軽鎖(VL)を含む単鎖Fv(scFv)フラグメントを含む抗原特異的標的指向領域、CD8αヒンジ細胞外スペーサードメイン、CD8α膜貫通ドメイン、4−1BB共刺激ドメイン、およびCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体。」(以下、「甲2発明」という。) 3.当審が通知した取消理由1(a)の検討 (1)本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 引用発明1におけるCD19は甲1に記載されているとおり腫瘍抗原であるから(甲1f)、 両者は (一致点) 「モノクローナル抗腫瘍抗原抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造を有する、腫瘍抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR)」 である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 (相違点1) 本件発明1は、「モノクローナル抗腫瘍抗原抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン」が「モノクローナル抗5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン」であって、「細胞外リガンド結合ドメインが、 「SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含」むか、または 「SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含」むのに対し、 甲1発明は、「モノクローナル抗CD19抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン」である点。 (相違点2) 本件発明1は、「CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する」 のに対し、 甲1発明はpELPs 19-BB-zとして、どのようなアミノ酸配列を有する「CD8αヒンジ」、「CD8α膜貫通ドメイン」、「CD3ζシグナリングドメイン」、「4-1BB由来の共刺激ドメイン」を採用したか明らかではない点 (2)本件発明1の甲1発明に対する進歩性の検討 ア.相違点1の容易想到性の検討 本件発明1と甲1発明とは、少なくとも相違点1において相違するので、以下、相違点1について検討する。 引用発明1におけるCD19は腫瘍抗原であるところ、甲1には、腫瘍抗原について、以下のとおりの記載がある。 「 【0116】 1つの態様において、腫瘍抗原は、悪性腫瘍と関連する1つまたは複数の抗原性癌エピトープを含む。悪性腫瘍は、免疫攻撃のための標的抗原としての役を果たしうる数多くのタンパク質を発現する。これらの分子には、黒色腫におけるMART-1、チロシナーゼおよびGP 100、ならびに前立腺癌における前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)および前立腺特異的抗原(PSA)などの組織特異的抗原が非限定的に含まれる。他の標的分子には、腫瘍遺伝子HER-2/Neu/ErbB-2などの形質転換関連分子の群に属するものがある。標的抗原のさらにもう1つの群には、腫瘍胎児性抗原などの癌胎児性抗原(CEA)がある。B細胞リンパ腫において、腫瘍特異的イディオタイプ免疫グロブリンは、個々の腫瘍に固有である、真に腫瘍特異的である免疫グロブリン抗原で構成される。CD19、CD20およびCD37などのB細胞分化抗原は、B細胞リンパ腫における標的抗原の別の候補である。・・・ 【0117】 本発明において言及される腫瘍抗原の種類は、腫瘍特異的抗原(TSA)または腫瘍関連抗原(TAA)であってもよい。・・・ 【0118】 TSA抗原またはTAA抗原の非限定的な例には、以下のものが含まれる:MART-1/MelanA(MART-1)、gp100(Pmel 17)、チロシナーゼ、TRP-1、TRP-2などの分化抗原、およびMAGE-1、MAGE-3、BAGE、GAGE-1、GAGE-2、p15などの腫瘍特異的多系列抗原;過剰発現される胎児抗原、例えばCEAなど;過剰発現される腫瘍遺伝子および突然変異した腫瘍抑制遺伝子、例えばp53、Ras、HER-2/neuなど;染色体転座に起因する固有の腫瘍抗原;BCR-ABL、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RARなど;ならびに、ウイルス抗原、例えばエプスタイン・バーウイルス抗原EBVAならびにヒトパピローマウイルス(HPV)抗原E6およびE7など。その他の大型のタンパク質ベースの抗原には、TSP-180、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、RAGE、NY-ESO、p185erbB2、p180erbB-3、c-met、nm-23H1、PSA、TAG-72、CA 19-9、CA 72-4、CAM 17.1、NuMa、K-ras、β-カテニン、CDK4、Mum-1、p 15、p 16、43-9F、5T4、791Tgp72、α-フェトプロテイン、β-HCG、BCA225、BTAA、CA 125、CA 15-3\CA 27.29\BCAA、CA 195、CA 242、CA-50、CAM43、CD68\P1、CO-029、FGF-5、G250、Ga733\EpCAM、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90\Mac-2結合タンパク質\シクロフィリンC関連タンパク質、TAAL6、TAG72、TLP、およびTPSが含まれる。」(甲1f)(下線は当審で付与した。) 上記のとおり、甲1には、多数の腫瘍特異的抗原(TSA)または腫瘍関連抗原(TAA)の選択肢の一つとして5T4が挙げられているものの(甲1f)、甲1の実施例で使用されている腫瘍抗原はCD19に止まっている(甲1k,甲1l)。そして、甲1に記載された多数の腫瘍抗原のうち特に5T4が、具体的に開示されたCD19と技術的に関係性の高い腫瘍抗原であることは記載されてないし、このことが本件特許の優先日における技術常識であるとも認められない。 そうすると、甲1には、甲1発明のCD19を、特に5T4に置き換えることを動機付ける記載や示唆は見当たらない。 また、甲10、甲12、甲20、及び当審で通知した文献A〜Dには、ヒト5T4抗原に特異的に結合するH8抗体の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)(甲10)、ヒト5T4抗原に特異的に結合するA3抗体の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)(甲20)、T細胞を少なくとも免疫抑制薬に対する標的を発現している第1の遺伝子、および T細胞受容体(TCR)の構成成分をコードしている第2の遺伝子を不活性化することによって改変し、T細胞にキメラ抗原受容体(CAR)を導入すること(甲12)、本件明細書でSEQ ID NO:9として記載されたCD3ζシグナリングドメインと完全に同一のCD3ζシグナリングドメインをキメラ抗原受容体に用いること(文献A)、本件明細書のSEQ ID NO:6として記載されたCD8α膜貫通ドメイン(文献B〜D)が記載されている。 しかし、いずれの文献にも、甲1発明のCD19を、敢えて5T4に置き換えることを動機付ける記載や示唆は何ら見当たらない。 一方、本件発明1は、多数ある腫瘍抗原のうち特に5T4を選択した上で、さらに、5T4に対する特定の抗体に由来する細胞外リガンド結合ドメイン、すなわち、マウスモノクローナル抗体A3由来のCDRやマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRに係る細胞外リガンド結合ドメインを採用することにより、「癌標的細胞に対する高い細胞傷害性を有する特異的な5T4単鎖CARを入手する」(本件明細書の[0009])という効果を奏するものと認められる。 そうすると、甲1、甲10、甲12、甲20、文献A〜Dの記載を勘案しても、甲1発明のCD19を5T4に置き換えること、さらに、この5T4への置き換えが容易であることを前提にして、5T4に対するマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRやマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRに係る細胞外リガンド結合ドメインを選択することを当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、相違点1として挙げた本件発明1の特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとは認められないので、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1、10、12、20、文献A〜Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、本件発明2〜18は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、上記文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない 以上からすると、本件発明1〜18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、取消理由1(a)は理由がない。 4.当審が通知した取消理由1(b)の検討 (1)本件発明1と甲2発明の対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 両者は (一致点) 「抗腫瘍抗原抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造を有する、腫瘍抗原特異的キメラ抗原受容体(CAR)」 である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 (相違点3) 本件特許発明1は、「抗5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン」が、 「SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含」むか、または 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含む」のに対し、 引用発明2にはそのような特定が記載されていない点。(以下、「相違点3」という。) (相違点4) 本件発明1は、「CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する」 のに対し、 甲2発明はトランケート型上皮成長因子受容体(EGFRt)と共発現される、二重特異性キメラ抗原受容体として、どのようなアミノ酸配列を有する「CD8αヒンジ」、「CD8α膜貫通ドメイン」、「CD3ζシグナリングドメイン」、「4-1BB由来の共刺激ドメイン」を採用したか明らかではない点 (2)本件発明1の甲2発明に対する進歩性の検討 ア.相違点1の容易想到性の検討 本件発明1と甲2発明とは、少なくとも相違点3において相違するので、以下、相違点3について検討する。 甲2には、癌に特異的な抗原として、「4−1BB、5T4、腺癌抗原、α−フェトプロテイン、BAFF、B−リンパ腫細胞、C242抗原、CA−125、炭酸脱水酵素9(CA−IX)、C−MET、CCR4、CD152、CD19、CD20、CD200、CD22、CD221、CD23(IgE受容体)、CD28、CD30(TNFRSF8)、CD33、CD4、CD40、CD44v6、CD51、CD52、CD56、CD74、CD80、CEA、CNTO888、CTLA−4、DR5、EGFR、EpCAM、CD3、FAP、フィブロネクチンのエクストラドメイン−B、葉酸受容体1、GD2、GD3ガングリオシド、糖タンパク質75、GPNMB、HER2/neu、HGF、ヒト細胞分散因子受容体キナーゼ、IGF−1受容体、IGF−I、IgG1、L1−CAM、IL−13、IL−6、インスリン様成長因子I受容体、インテグリンα5β1、インテグリンαvβ3、MORAb−009、MS4A1、MUC1、ムチンCanAg、N−グリコリルノイラミン酸、NPC−1C、PDGF−Rα、PDL192、ホスファチジルセリン、前立腺癌細胞、RANKL、RON、ROR1、SCH900105、SDC1、SLAMF7、TAG−72、テネイシンC、TGFβ2、TGF−β、TRAIL−R1、TRAIL−R2、腫瘍抗原CTAA16.88、VEGF−A、VEGFR−1、VEGFR2、ビメンチン、およびそれらの組み合わせのうちのいずれか1つまたは複数を含む」(甲2b)との記載があり(下線は当審で付与した。)、多数ある癌に特異的な抗原の一つとして5T4が挙げられているに止まっている。 そして、甲2の実施例では癌に特異的な抗原としてCD19が選択されているものの(甲2j)、甲2に記載された癌に特異的な抗原のうち特に5T4が、具体的に開示されたCD19と技術的に関係性の高い抗原であることは甲2に記載されてないし、このことが本件特許の優先日における技術常識であるとも認められない。 一方、本件発明1は、多数ある腫瘍抗原のうち特に5T4を選択した上で、さらに、5T4に対する特定の抗体に由来する細胞外リガンド結合ドメイン、すなわち、マウスモノクローナル抗体A3由来のCDRやマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRに係る細胞外リガンド結合ドメインを採用することにより、「癌標的細胞に対する高い細胞傷害性を有する特異的な5T4単鎖CARを入手する」(本件明細書の[0009])という効果を奏するものと認められる。 そうすると、甲2発明において、甲10、甲12、甲20、文献A〜Dの記載を勘案しても、甲2に記載された多数ある癌に特異的な抗原のうち、特に5T4を選択すること、さらに、この選択が容易であることを前提にして、5T4に対するマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRやマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRに係る細胞外リガンド結合ドメインを選択することを当業者が容易に想到し得たとは認められない。 よって、相違点3として挙げた本件発明1の特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとは認められないので、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2、10、12、20、文献A〜Dに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、本件発明2〜18は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明1と同様の理由により、上記文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 以上からすると、本件発明1〜18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、取消理由1(b)は理由がない。 5.当審が通知した取消理由2(実施可能要件)・取消理由3(サポート要件)の検討 (1)本件明細書の記載 本件明細書には、以下の事項が記載されている。 (本ア) 「【0006】 従って、本発明者らは、5T4は、CARを発現するT細胞を使用することによって、結腸直腸腫瘍、卵巣腫瘍、および胃腫瘍のような固形腫瘍を処置するための有益な標的抗原であり得ると考えた。 【0007】 以前の戦略の代替法として、本発明は、有意な臨床的利点を有する、5T4悪性細胞を標的とするために免疫細胞において発現させられ得る5T4特異的CARを提供する。 【0008】 CAR構成の設計および適当な成分の使用によって、CARの機能性を改善する必要が未だ存在する。なぜなら、これらのパラメータは、重要な役割を果たし、微調整が必要であり得るためである。 【0009】 本発明者らは、CAR構成を適当な成分の選択と組み合わせることによって、癌標的細胞に対する高い細胞傷害性を有する特異的な5T4単鎖CARを入手することが可能であることを見出した。」 (本イ) 「【0049】 本発明によるCARは、細胞の表面膜上に発現される。従って、そのようなCARは、膜貫通ドメインをさらに含む。適切な膜貫通ドメインの特徴的な特色には、細胞、本発明において好ましくは、免疫細胞、具体的には、リンパ球またはナチュラルキラー(NK)細胞の表面に発現され、予定された標的細胞に対する免疫細胞の細胞性応答を指図するために共に相互作用する能力が含まれる。膜貫通ドメインは、天然起源または合成起源のいずれかに由来し得る。膜貫通ドメインは、任意の膜結合型タンパク質または膜貫通型タンパク質に由来し得る。非限定的な例として、膜貫通型ポリペプチドは、α、β、γ、またはδのようなT細胞受容体のサブユニット、CD3複合体を構成するポリペプチド、IL2受容体p55(α鎖)、p75(β鎖)、またはγ鎖、Fc受容体、具体的には、Fcγ受容体IIIまたはCDタンパク質のサブユニット鎖であり得る。あるいは、膜貫通ドメインは、合成であってもよく、ロイシンおよびバリンのような主に疎水性の残基を含んでいてもよい。好ましい態様において、膜貫通ドメインは、ヒトCD8α鎖(例えば、NP_001139345.1)に由来する。膜貫通ドメインは、細胞外リガンド結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にヒンジ領域をさらに含んでいてもよい。本明細書において使用される「ヒンジ領域」という用語は通常、膜貫通ドメインを細胞外リガンド結合ドメインに連結するために機能するオリゴペプチドまたはポリペプチドを意味する。具体的には、ヒンジ領域は、細胞外リガンド結合ドメインに、より多くの可動性および接近可能性を提供するために使用される。ヒンジ領域は、300個までのアミノ酸、好ましくは、10〜100個のアミノ酸、最も好ましくは、25〜50個のアミノ酸を含み得る。ヒンジ領域は、天然に存在する分子の全部もしくは一部、例えば、CD8、CD4、もしくはCD28の細胞外領域の全部もしくは一部、または抗体定常領域の全部もしくは一部に由来し得る。あるいは、ヒンジ領域は、天然に存在するヒンジ配列に相当する合成配列であってもよいし、または完全合成ヒンジ配列であってもよい。好ましい態様において、ヒンジドメインは、本明細書において、それぞれ、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、およびSEQ ID NO:5と呼ばれる、ヒトCD8α鎖、FcγRIIIα受容体、もしくはIgG1の一部、またはこれらのポリペプチドとの好ましくは少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%、95%、97%、もしくは99%の配列同一性を示すヒンジポリペプチドを含む。」 (本ウ) 「【0099】 キメラ抗原受容体(CAR)とは、特異的な抗標的細胞免疫活性を示すキメラタンパク質を生成するため、標的細胞上に存在する成分に対する結合ドメイン、例えば、所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する抗体に基づく特異性を、T細胞受容体を活性化する細胞内ドメインと組み合わせた分子を表す。CARは通常、細胞外単鎖抗体(scFvFc)がT細胞抗原受容体複合体ζ鎖の細胞内シグナリングドメインに融合したもの(scFvFc:ζ)からなり、T細胞において発現された時に、モノクローナル抗体の特異性に基づき、抗原認識を向け直す能力を有している。CARはしばしば、WO2014039523に記載のように、複数回膜貫通ポリペプチド(多鎖CAR)を含んでもよい。本発明において使用されるCARの一例は、5T4抗原に対するCARであり、非限定的な例として、アミノ酸配列:SEQ ID NO:19〜42を含み得る。」 (本エ) 「【0116】 「同一性」とは、2種の核酸分子またはポリペプチドの間の配列同一性をさす。同一性は、比較の目的のために整列化され得る各配列の位置を比較することによって決定され得る。比較された配列のある位置が同一の塩基によって占有される時、それらの分子はその位置において同一である。核酸またはアミノ酸配列の間の類似性または同一性の程度は、核酸配列が共有している位置における同一のまたは一致するヌクレオチドの数の関数である。GCG配列分析パッケージ(University of Wisconsin,Madison,Wis.)の一部として入手可能であるFASTAまたはBLASTを含む、様々なアライメントアルゴリズムおよび/またはプログラムが、2種の配列の間の同一性を計算するために使用され得、例えば、デフォルト設定で使用され得る。例えば、本明細書に記載された特定のポリペプチドとの少なくとも70%、85%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有しており、好ましくは、実質的に同一の機能を示すポリペプチド、およびそのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、企図される。他に示されない限り、類似性スコアは、BLOSUM62の使用に基づくであろう。BLASTPが使用される時、パーセント類似性は、BLASTP陽性スコアに基づき、パーセント配列同一性は、BLASTP同一性スコアに基づく。BLASTP「同一性」は、同一である高スコア配列対における全残基の数および画分を示し;BLASTP「陽性」は、アライメントスコアが正の値を有しており、相互に類似している残基の数および画分を示す。本明細書に開示されたアミノ酸配列との同一性もしくは類似性のこれらの程度または同一性もしくは類似性の中間の程度を有するアミノ酸配列が、本開示によって企図され包含される。類似したポリペプチドのポリヌクレオチド配列は、遺伝暗号を使用して推定され、特に、遺伝暗号を使用して、そのアミノ酸配列を逆翻訳することによって、従来の手段によって入手され得る。」 (本オ) 「【0134】 実施例1:TCRα不活性化5T4-CAR発現細胞の増殖 T細胞受容体α定常鎖領域(TRAC)遺伝子内の15bpスペーサーによって分離された2個の17bp長配列(半標的と呼ばれる)を標的とする異種二量体TALEヌクレアーゼを設計し作製した。各半標的は、表10にリストされた半TALEヌクレアーゼのリピートによって認識される。 【0135】 (表10)TCRα遺伝子を標的とするTALヌクレアーゼ 【0136】 各TALEヌクレアーゼ構築物を、T7プロモーターの調節下で、制限酵素消化を使用して哺乳動物発現ベクターへサブクローニングした。TRACゲノム配列を切断するTALEヌクレアーゼをコードするmRNAを、T7プロモーターの下流にコード配列を保持しているプラスミドから合成した。 【0137】 抗CD3/CD28によってコーティングされたビーズによって72時間予め活性化された精製されたT細胞を、両方の半TRAC_T01 TALEヌクレアーゼをコードする2種のmRNAの各々によってトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、同一のドナーに由来するT細胞の異なる群を、以前に記載された5T4 CAR(SEQ ID NO:19〜42)のうちの1種をコードするレンチウイルスベクターによってそれぞれ形質導入した。形質導入の2日後、CD3陰性細胞を抗CD3磁気ビーズを使用して精製し、形質導入の5日後、細胞を可溶性抗CD28(5μg/ml)によって再活性化した。 【0138】 週に2回、細胞を計数することによって、再活性化の30日後まで細胞増殖を追跡した。特に、抗CD28によって再活性化された時、非形質導入細胞と比較して、TCRα不活性化5T4 CAR発現細胞の増殖の増加が観察された。 【0139】 5T4 CAR発現ヒトT細胞が活性化状態を示すか否かを調査するため、活性化マーカーCD25の発現を、形質導入の7日後に、FACSによって分析する。5T4 CARをコードするレンチウイルスベクターによって形質導入された精製された細胞を、非形質導入細胞と比較して、活性化を査定するため、表面におけるCD25発現についてアッセイする。CD28再活性化条件または非再活性化条件の両方において、CD25発現の増加が予想される。 【0140】 実施例2:5T4陽性細胞株および5T4陰性細胞株の選択 8種のヒト細胞株を、ウエスタンブロットおよびフローサイトメトリーによって、5T4発現についてスクリーニングした(下記の表11を参照すること)。 【0141】 (表11)8種のヒト細胞株における5T4抗原の発現 【0142】 5T4は、Daudi細胞(ATCC CCL-213)、SupT1細胞(ATT CRL-1942)、およびSK-MEL-28細胞(ATCC HTB-72)に由来する抽出物において検出されず、MCF7細胞(ATCC HTB-22)、HCT116細胞(ATCC CCL-247)、MKN45細胞(JCRB0254)、およびLS174T細胞(ATCC CL-188)に由来する抽出物において検出された。ウエスタンブロット分析の後、5T4抗原について陽性であった細胞のうち、2種:MCF7細胞およびHCT116細胞のみが、細胞表面に5T4を発現し、MCF7はHCT116細胞より高レベルの5T4抗原を発現することが見出された。 【0143】 実施例3:抗5T4 scCARの生成 図2に表されるように、4種の異なるscFvの配列を、3種の異なるスペーサー、2種の異なる膜貫通ドメイン、1種の共刺激ドメイン、および1種の刺激ドメインの配列と組み合わせることによって、(図3〜6および表3〜表6に模式的に示される)5T4に特異的な第二世代単鎖CARを作出した。 【図5】 【図6】 【0144】 (表1および表2に提示された)CARにおいて使用された配列は、 - scFvについては、H8抗体、A1抗体、A2抗体、またはA3抗体; - スペーサードメインについては、IgG1分子、FcεRIIIγ分子、またはCD8α分子; - 膜貫通ドメインについては、CD8α分子または4-1BB分子; - 共刺激ドメインについては、4-1BB分子; - 刺激ドメインについては、CD3ζ分子 に由来する。 【0145】 実施例4:抗5T4 scCARのインビトロ試験 5T4特異的単鎖CARの活性を評価するため、健常ボランティア由来のヒトT細胞を、CD3/CD28ビーズによって活性化し、活性化の11日後に、CARをコードするmRNAによって電気穿孔した。トランスフェクションの1〜2日後に、T細胞脱顆粒ならびに5T4陽性標的細胞および5T4陰性標的細胞に対するT細胞細胞傷害を測定することによって、CARの活性および特異性を分析した。 【0146】 あるケース(N=1)での試験についての結果が以下に提示されるが、2つの他のケースでも実験が実施され、類似した結果を示した(示されない)。 【0147】 図7は、試験された全てのCARが、MCF7との共培養によって、有意なレベル(≧20%)のT細胞脱顆粒を誘導したが、Daudi細胞との共培養によってはそれを誘導しなかったことを示す。MCF7より低レベルの5T4を発現する細胞株、HCT116細胞との共培養の後にも、試験された8種のCARのうちの7種が、T細胞脱顆粒を媒介することができた。 【0148】 図8は、A1-v3、A1-v5、A2-v3、A2-v5、A3-v3、H8-v2、およびH8-v3 CARによって修飾された全てのT細胞が、MCF7細胞を有意に特異的に溶解したことを示す。A1-v3、A1-v5、A2-v3、A2-v5、A3-v3、およびH8-v3 CARによって修飾されたT細胞は、MCF7細胞より低レベルの5T4を発現する細胞株、HCT116細胞も溶解することができた。 【0149】 CARポリペプチド配列の例: 組み立てられた配列は、好ましいVH配列およびVL配列に相当する。VHおよびVLはCAR効率を改善するために交換されてもよい。 ・・・・・ ・・・・・・・ 」 (2)実施可能要件及びサポート要件の判断 本件訂正により、本件発明1〜18が対象とする「CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造」は、「CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する」ものに限定された。 そして、上記の第5 5.(1)で示したように、本件明細書の実施例4では配列番号4のCD8αヒンジ、配列番号6のCD8α膜貫通ドメイン、配列番号9のCD3ζシグナルドメインおよび配列番号8の4-1BB由来の共刺激ドメインを含むH8V3及びA3V3がCARとして使用できることが、実験結果により確認され、H8V3及びA3V3を作製した方法を採用すれば、H8V3及びA3V3に限らず、上記の結合特性を有する、他の5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)を作製することも可能であることを当業者が認識できるといえる。 そうすると、本件発明は、本件明細書の記載より、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実施し得るものと認められる。 一方、本件発明の解決しようとする課題は、【0008】〜【0009】に記載に照らすと(本ア)、「CAR構成の設計および適当な成分の使用によって、CARの機能性を改善する」こと、「CAR構成を適当な成分の選択と組み合わせることによって、癌標的細胞に対する高い細胞傷害性を有する特異的な5T4単鎖CARを入手すること」と認められる。 そして、本件発明に係るCD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインは、本件訂正により、上記のものに限定されたため、特定ドメインの領域が、多少伸長又は短縮されたり、配列の内容が変更されたりしても、癌標的細胞に対する高い細胞傷害性を有する特異的な5T4単鎖CARが得られることは、当業者が認識できるといえる。 そうすると、本件発明は、本件明細書の記載によると、当業者が上記課題を解決し得ると認識できる範囲のものであると認められる。 したがって、本件発明1〜18に係る特許は、取消理由2(実施可能要件)、取消理由3(サポート要件)によって取り消すべきものではない。 6.まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1〜18に係る特許は、取消理由1(a)(甲1を主引例とする進歩性)、取消理由1(b)(甲2を主引例とする進歩性)、取消理由2(実施可能要件)、取消理由3(サポート要件)のいずれについても取り消すべきものではない。 第6.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1.申立理由1(ア)(イ)について 申立人は、上記 第4 2.(1)及び(2)の項に示したとおり甲1,2,9,10,18〜20を提示し、訂正前本件発明1は甲1又は甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 ここで、甲9は、5T4は免疫療法の魅力的な標的であることが公知であり、多くの癌種で発現すること、5T4抗体としてA3及びH8の他にもA1,A2やそれら抗体が結合するエピトープにおいて競合する抗体などが幅広く記載されている(特許請求の範囲)。また、甲18は、5T4に特異的に結合する単鎖抗体scFv5T4WT19が記載されている(第240頁)。また、甲19は、5T4結合抗体のサブクローン5T4.B8(H8に相当)が記載されている(第240頁右側第3段落)。 しかし、甲9,18,19の上記記載は、上記第5 3.(2)及び4.(2)における一致点及び相違点の認定、並びに、上記第5 3.(2)及び4.(2)における相違点についての判断を左右するものではない。 そうすると、上記申立理由1(ア)(イ)は、当審が特許権者に通知した取消理由1(a)(b)と実質的に同じものであって、申立理由1(ア)(イ)によって、本件特許を取り消すことはできない。 2.申立理由1(ウ)〜(カ)について 申立人は、上記第4 2.(3)〜(6)の項に示したとおり甲3〜7,9,10,17〜20を提示し、訂正前本件発明1は甲3、甲7又は甲17のいずれかを主引例とし、甲4〜6,9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨、訂正前本件発明1は甲20を主引例とし、甲3〜5,21に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 3.甲3に記載された事項及び甲3発明の認定 (1)甲3に記載された事項 甲3(J Immunother, 28巻3号, 203−211頁)には、以下のとおりの記載がある。甲3は、英語で記載されているため、申立人より提示された抄訳を参考にして、当審による翻訳文で示す。 甲3a 「概要:ヒト末梢血リンパ球は、T細胞受容体(TCR)とは独立して機能する、抗原依存性のCD3ζキメラ免疫受容体(CIR)を発現するように形質転換できる。これらのドメインの正確な機能は不明であるが、これまでの研究で、最適なCIR活性には細胞外スペーサー領域が必要であることが示唆されている。本研究では、4つのscFvs(細胞外スペーサー領域を持つCIRと持たないCIR)を用いて、ヒトの腫瘍関連抗原であるカルチノエンブリオニック抗原(CEA)、神経細胞接着分子(NCAM)、胎児性抗原5T4、B細胞抗原CD19を標的とした。いずれの場合も、CIRを発現するヒトT細胞集団は、それぞれの標的に対して機能的に活性化したが、抗5T4および抗NCAM CIRは、細胞外スペーサー領域を有する場合にのみ、特異的なサイトカイン放出および細胞毒性が増強された。対照的に、抗CEAおよび抗CD19 CIRは、細胞外スペーサーがない場合にのみ、最適なサイトカイン放出活性を示した。興味深いことに、scFvのエピトープのマッピングにより、抗CEA scFvはCEAのアミノ末端近くに結合し、CIRがアクセスしやすいことが明らかになった。一方、スペーサードメインで強化されたCIRは、細胞膜に近いところにあるエピトープに結合するようで、このようなエピトープを効率的に結合させるためには、より柔軟な細胞外ドメインが必要であることが示唆された。これらの結果は、CIRの最適な活性にスペーサーは必要ではなく、最適なデザインは様々であることを示している。」(203頁、左欄) 甲3b 「ScFvおよび融合タンパク質 ヒト化scFv D29は、ヒトNCAMに対するモノクローナル抗体から構築された。5T4およびCEAに対するマウスscFv (MFE-23)は、既に報告されており、細胞染色用の「抗体」を作製するためにヒトIgG1 Fcドメインに融合させ、CMV駆動の発現ベクターを用いて発現させた。ベクターでトランスフェクトした293T細胞から得られた結果の上清を原液のまま使用し、標的細胞上の腫瘍関連抗原を同定した。scFv融合タンパク質に対する二次抗体:抗5T4-hFcおよびMFE23-hFcとして、抗ヒトFc(PE conjugated, Sigma)を使用した。」(205頁、左欄第1段落) 甲3c 「キメラ・レセプターとレトロウイルス・ベクターの構築 2種類の基本的なCIRフォーマットを使用した(図2)。標準的なscFv.CD3ζ IRES GFPベクターは、以前に説明したように構築した11。スペーサー領域(IgG1 Fcドメイン)は、以下のヌクレオチドプライマーを用いたRT-PCRによりPBMCのmRNAから単離した:フォワードプライマー(Not Iサイトを含む 5#-ACTGTCCTCG-AGGAGGCGGC-CGCAAAATCT-TG TGAC-3#; リバースプライマー(Fse Iサイトを含む): 5#-GGCTGATCAG-CGAGCTCTGG-CCGGCCCTTT-ACCCGGAGAC-AGGGAG-3 全IgG1 Fcドメイン(CH2CH3)のためのもの。これらをscFvとCD3-ζの間に挿入し、スペーサー領域を持つコンストラクトを作製した。レトロウイルスベクターは、293T細胞にコトランスフェクションすることにより、前述のように調製した。」 甲3d 「T細胞の分離と活性化 T細胞培養液で1:1に希釈した健常人の末梢血リンパ球(PBL)を、Histopaque(Sigma)を用いた遠心分離(400g、25分、室温)により分離し、2回洗浄した後、プラスチックの付着により単球を除去する前に、T細胞培養液(AimV[Invitrogen]、2%のプールしたAB型血清を含む)に再懸濁した。非付着細胞は、マウス抗ヒトCD3e(1 mg/mL, Orthoclone OKT-3, Orthobiotech)およびマウス抗ヒトCD28(1 mg/mL, clone 37407.111, R&D Systems)を、rIL-2(100 IU/mL, Amersham)とともに0.5 3106 cells/mLの密度でコーティングした非組織培養プレート上で活性化した。リンパ球はT細胞培養液で0.5 3 106 cells/mLの密度でrIL-2(100 IU/mL)とともに培養し、2-3日ごとに維持した。」(205頁、左欄第3段落〜右欄第1段落) 甲3e 「5T4.CD3z 5T4.FC.CD3z」(208頁図4a,c) 甲3f 「これらの観察結果を説明する一つの仮説は、T細胞と標的細胞の間には最適な距離があり、CIRの標的エピトープが細胞から離れている場合(MFE23のように)、スペーサーは必要ないというものである。逆に、エピトープが膜に非常に近い場合(例えば、今回の実験では5T4やNCAM上のエピトープ)、抗NCAMおよび抗5T4受容体にスペーサー領域がないと、最適なT細胞活性を可能にするための十分な間隔が得られない可能性がある。この仮説を検証するために、細胞膜に対する標的エピトープの位置を操作できるように、CEAの切断型を発現する細胞株を作成した(図1参照)。これにより、MFE23エピトープは細胞膜により近い位置に配置されたが、細胞外スペーサードメインの有無にかかわらず、MFE23 CIRの細胞傷害活性に違いは見られなかった(図5D参照)。さらに、切断型CEAを発現するLL/2細胞株にT細胞を曝露した際にIFNgを誘導するMFE23ベースのCIRの能力は、Fcスペーサードメインを組み込んでも大きく低下したままであった(図5B参照)。」(209頁、右欄最終段落) (2)甲3に記載された発明の認定 甲3には、抗5T4 CD3ζキメラ免疫受容体(CIR)であり、scFv.CD3ζ構造を持つ5T4.CD3zと全IgG1 FcドメインをscFvとCD3-ζの間に挿入した5T4.FC.CD3zが記載されている(甲3c,甲3e)。 そして、CIR胎児性抗原5T4抗原特異的標的指向領域、CD8αヒンジ細胞外スペーサードメイン、CD8α膜貫通ドメイン、4−1BB共刺激ドメイン、およびCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体及び、当該受容体において抗原特異的標的指向領域が、抗原特異的単鎖Fv(scFv)フラグメントを含むことが記載され(請求項91)、抗原特異的標的指向ドメインが、5T4を標的とすること(請求項97)が記載されている。 ここで、甲3に記載された単鎖Fv(scFv)フラグメントとは、抗体由来の重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域を短いリンカーペプチドで繋いだ融合タンパク質である。 したがって、甲3には、以下の発明が記載されていると認められる。 「5T4抗原特異的抗体由来の重鎖(VH)および軽鎖(VL)を含む単鎖Fv(scFv)フラグメントを含む抗原特異的標的指向領域、IgG1 Fcスペーサードメイン、およびCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ免疫受容体。」(以下、「甲3発明」という。) 4.甲7に記載された事項及び甲7発明の認定 (1)甲7に記載された事項 甲7(British Journal of Cancer, 93巻, 670−677頁)には、以下のとおりの記載がある。甲7は、英語で記載されているため、申立人より提示された抄訳を参考に当審による翻訳文で示す。 甲7a 「5T4癌胎児性抗原は、ヒト胎盤の栄養細胞や様々なタイプのヒトの癌に見られる重度のグリコシル化された細胞表面タンパク質であるが、健康な成人のヒト組織では有意なレベルで発現していない。そのため、5T4は腫瘍関連抗原の基準を満たしており、がんの免疫療法の理想的なターゲットとなる。我々は、5T4が大多数の腎細胞がんに強く発現していることを報告する。したがって、このような患者集団は、5T4を標的とした治療法の試験に適している。特に、腎細胞がん患者のT細胞に、キメラシグナルタンパク質を導入することで、5T4を発現している腎がん細胞株を殺傷するように遺伝的に改変できることを示した。このタンパク質は、細胞表面に直接抗原を結合し、CD3ζシグナリングドメインによってT細胞を活性化することができる一本鎖の抗体断片で構成されている。これは、腫瘍がT細胞の殺傷から逃れるためのいくつかのメカニズムを回避する強力なツールであり、臨床使用に向けて容易にスケールアップすることができる。」(要約) 甲7b 「末梢血リンパ球の分離と活性化 手術時に患者から50mlのヘパリン処理した血液を採取した。単核細胞画分は,Ficoll-Hypaque(PAA Laboratories, Pasching, Austria)密度遠心分離により分離した。この細胞をRPMI-1640で2回洗浄し、T細胞用の培地に再懸濁した後、プラスチックで接着して単球を除去した。1時間後にフラスコを取り出し、非付着細胞を除去し、100IU ml 1の組換えヒトIL-2(Chiron,Amsterdam,The Netherlands)を補充したT細胞培地に1 106 cells ml 1の濃度で再懸濁した。その後、抗CD3(Orthoclone, NJ, USA)および抗CD28(R&D Systems, MN, USA)Mabでプレコートした6ウェル組織培養プレートで3日間培養した。その後、3-4日ごとにIL-2を添加し、細胞濃度を1,106個程度に維持して、リンパ球を培養した。 末梢血リンパ球のレトロウイルス導入 Katレトロウイルスシステム(Finerら、1994)を用いて、2つのキメラT細胞受容体の1つをコードするDNAを導入することによって、単離したリンパ球を遺伝的に修飾した。レトロウイルスベクターrKat.MFE.CD3ζ.TDGA.IRES.eGFP (MFE.CD3ζ) は、以前に記載されており (Gilham et al, 2002) 、CEAに特異的なキメラT細胞レセプターをコードしている。5T4タンパク質に特異的なキメラT細胞レセプターを作成するために、マウス抗ヒト5T4モノクローナル抗体由来のヒト化scFvをコードするDNAを、ヒトFc抗体スペーサー領域とともに、上記ベクターに交換した。Fcスペースの包含は、5T4を発現する胃腸癌の標的化に最適であることが判明し(Guestら、2005)、この分析で使用された。この構築物5T4.hFc.CD3ζ.TDGA.IRES.eGFPは、5T4.CD3ζと略記された。形質転換されたリンパ球は、フローサイトメトリーによるこの集団の同定を可能にするために、増強された緑色蛍光タンパク質を共発現させた。 rKatベクターをパッケージングプラスミドpKatと組み合わせ、リン酸カルシウムトランスフェクションにより293Tパッケージングセルラインに導入した。ウイルスを48時間および72時間で収穫した。最初のウイルス収穫は、上記のように、リンパ球の3日間の活性化期間の終了と一致するタイミングとした。リンパ球とウイルス粒子を、4μg ml-1ポリブレンを補充したT細胞培地中で合わせ、そして1200×gで3時間遠心分離した。このスピンフェクションを、2回目のウイルス収穫の翌日から繰り返した。」(671頁右欄29行〜672頁左欄9行) 甲7c 「5T4.CD3ζを導入したリンパ球は、腎臓細胞株と接触すると、殺傷力とインターフェロン-γの放出が増強されることを示す。 RCC患者3人の末梢血リンパ球を、上記のように抗CD3/抗CD28でコートした組織培養プレート上で活性化した。各患者について、活性化T細胞の3分の1は、レトロウイルスのないモック形質導入を受けた。この集団は、細胞傷害性とサイトカイン放出のバックグラウンドレベルを決定するためのネガティブコントロールとして使用される。活性化リンパ球の3分の1はMFE.CD3ζコンストラクトで、残りの3分の1は5T4.CD3ζコンストラクトで形質転換された。RCC細胞株はCEAを発現しないので(データは示さず)、MFE.CD3ζコンストラクトで形質転換したT細胞を使用する目的は、殺傷とサイトカイン放出が5T4.CD3ζキメラレセプターの特異性に依存することを示すためであった。我々は以前に、マウス細胞株で発現したヒト5T4に対するこのレセプターの特異性を示した(Guest et al, 2005)。これらのアッセイのいずれかを実施する3日前に、T細胞培養物中のIL-2濃度を20IU ml-1に低下させ、バックグラウンドのリンパ球活性化キラー(LAK)活性を減少させることができるようにした。すべてのアッセイは、最初の形質導入から3週間以内に行った。」(673頁左欄22行〜右欄4行) (2)甲7に記載された発明の認定 甲7には、5T4タンパク質に特異的なキメラT細胞レセプターを作成するために、マウス抗ヒト5T4モノクローナル抗体由来のヒト化scFvをコードするDNAを、ヒトFc抗体スペーサー領域とともに、レトロウイルスベクターrKat.MFE.CD3ζ.TDGA.IRES.eGFP (MFE.CD3ζ)に交換し構築物5T4.hFc.CD3ζ.TDGA.IRES.eGFP(5T4.CD3ζ)を作製したこと、5T4.CD3ζコンストラクトで形質転換されたRCC細胞株で5T4.CD3ζキメラレセプターが発現したことが記載されている(甲7b,甲7c)。 したがって、甲7には、以下の発明が記載されていると認められる。 「5T4抗原特異的抗体由来の重鎖(VH)および軽鎖(VL)を含む単鎖Fv(scFv)フラグメントを含む抗原特異的標的指向領域、ヒト Fcスペーサードメイン、およびCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ免疫受容体。」(以下、「甲7発明」という。) 5.甲17に記載された事項及び甲17発明の認定 (1)甲17に記載された事項 甲17(J Immunol, 177巻7号, 4288−4298頁)には、以下のとおりの記載がある。甲17は、英語で記載されているため、申立人より提示された抄訳を参考に当審による翻訳文で示す。 甲17a 「我々は、ヒト5T4癌胎児性Ag(h5T4)に対するキメラ免疫受容体(CR)を発現するマウスT細胞を作製し、その腫瘍治療効果を単独およびh5T4をコードする複製欠損アデノウイルス(Rad.h5T4)と骨髄由来樹状細胞(BMDC)を用いた免疫との併用で評価した。h5T4特異的な人工T細胞は、in vitroでは細胞毒性アッセイによりh5T4陽性のB16およびCT26腫瘍細胞をAg特異的かつMHC非拘束性に細胞溶解し、in vivoではWinnアッセイにより抗腫瘍活性を示した。B16h5T4メラノーマモデルでは、シンジェニックh5T4特異的CR T細胞を全身i.v.ではなく早期に局所で投与したところ、マウスの生存率が有意に向上した。この生存率の向上は、Rad.h5T4を免疫した後、CR T細胞の後にBMDCを投与した積極的治療モデルと組み合わせることでさらに向上したが、これはおそらく、Ag特有の細胞性免疫反応を増強するメカニズムによるものである。この相乗効果は、BMDCを投与しないと失われた。これらの結果は、人工T細胞と特定のワクチン戦略を組み合わせることで、積極的な腫瘍治療を改善できることを示唆している。The Journal of Immunology, 2006, 177: 4288 - 4298.」(要約) 甲17b 「エコトロピック・プロデューサー細胞の作製 今回使用したh5T4特異的CRは、ヒトIgG1のヒンジCH2領域とCH3領域からなる細胞外スペーサーを介してヒトCD3ζ受容体に融合したh5T4特異的scFvから構成されている。使用したrKat.h5T4-scFv-CD3ζ内部リボソームエントリーサイトGFPベクターは、文献30および35に記載されているものである。アンフォトロピックレトロウイルス粒子を293T細胞から既述(30)のように生成し、GP eエコトロピックパッケージング細胞株を形質導入するために使用した。FACSVantage(BD Biosciences)を用いてセルソーティングを行い,GFP産生細胞を分離したところ,今後の研究に十分な量のレトロウイルス力価が得られた。」(4289頁左欄48-58行) 甲17c 「併用療法においてCR T細胞及びワクチンの両成分の治療能力をさらに最適化するニーズがあることは明白である。CR T細胞の作用を改善し得る、CR設計、操作、及び導入方法論といったいくつかの側面が存在する。したがって、低い割合(〜10%)のCD4+サブセットを有するマウスCR T細胞集団は、1:1のCD4:CD8比率を有するCR T細胞の混合物に比べて、確立された腫瘍に対するインビボでの有効性が低い(47)。CR集団におけるCD4+ T細胞の高い存在割合を保証すること(これらの研究では、CD4+は全CR集団の〜20%を構成した)により、全体的な抗腫瘍応答が改善され得ることが推論される。近年のキメラ受容体技術の開発は、複数のシグナル伝達ドメインの受容体、例えばCD28受容体への導入に焦点を当てており(48,49)、これらの改善された受容体が導入されたT細胞は、確立された腫瘍に対して機能の改善を示す(50)。5T4に対するこれらの受容体の開発は、これらのモデルを検証する今後の研究の道筋である。この研究の中では、利用可能な最も高い用量のT細胞が使用された。上記の点は、CR技術の改善の可能性のあるいくつかの道筋を示しており、これらの開発を備えて、今後の研究の重要な分野はCR T細胞の最適用量を規定することになる。」(4296頁左欄5行〜右欄12行) (2)甲17に記載された発明の認定 甲17には、ヒトIgG1のヒンジCH2領域とCH3領域からなる細胞外スペーサーを介してヒトCD3ζ受容体に融合したh5T4特異的scFvから構成されているh5T4特異的キメラ免疫受容体(CR)が記載されている(甲17a,甲17b)。 したがって、甲17には、以下の発明が記載されていると認められる。 「5T4抗原特異的抗体由来の重鎖(VH)および軽鎖(VL)を含む単鎖可変領域フラグメント(scFv)を含む抗原特異的標的指向領域、ヒトIgG1のヒンジCH2領域とCH3領域からなる細胞外スペーサー、およびCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ免疫受容体。」(以下、「甲17発明」という。) 6.甲20に記載された事項及び甲20発明の認定 (1)甲20に記載された事項 甲20(国際公開2007/106744)には、以下のとおりの記載がある。甲20は、英語で記載されているため、摘示箇所を含め対応する公表公報である特表2009−529578の翻訳文で示す。 甲20a 「【0174】 実施例1 ネズミ抗−5T4抗体 ヒト5T4抗原および免疫化のための標準的な方法を用いて、マウスにおいて抗−5T4抗体を調製した。A1、A2およびA3抗体を産生するハイブリドーマ細胞系統を、個々のB細胞とメラノーマ細胞との融合によって製造した。 【0175】 A1、A2およびA3抗−5T4抗体重鎖および軽鎖可変領域をSMARTRcDNA合成システム(Clontech Laboratories Inc. of Mountain View, California)、続いてPCR増幅を用いてクローン化した。A1、A2およびA3ハイブリドーマ細胞から単離した1μgの全RNAから、オリゴ(dT)およびSMARTRIIAオリゴ(Clontech Laboratories Inc.)をPOWERSCRIPTTM(登録商標)逆転写酵素(Clontech Laboratories Inc.)と共に用いて、cDNAを合成した。次いで、該cDNAを、SMARTRIIAオリゴ配列にアニールするプライマーおよびマウス定常領域特異的プライマー(軽鎖に関するマウスカッパ、A1重鎖に関するマウスIgG2a、A2重鎖に関するマウスIgG2b、およびA3重鎖に関するマウスIgG1)をVENTRポリメラーゼ(New England Biolabs Inc. of Ipswich, Massachusetts)と共に用いて、PCRによって増幅した。重鎖および軽鎖可変領域PCR産物をpED6発現ベクター中にサブクローン化し、核酸配列を決定した。該方法は、DNA配列の予備知識を必要としない点で有益である。さらに、得られるDNA配列は、縮重PCRプライマーの使用によって改変されない。 【0176】 A1、A2およびA3重鎖可変領域のヌクレオチド配列は、各々、配列番号1のヌクレオチド58−414、配列番号5のヌクレオチド55−405、および配列番号9のヌクレオチド58−423として示される。A1、A2およびA3重鎖可変領域のアミノ酸配列は、各々、配列番号2の残基20−138、配列番号6の残基19−135および配列番号10の残基20−141として示される。A1、A2およびA3軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は、各々、配列番号3のヌクレオチド61−381、配列番号7のヌクレオチド67−390、および配列番号11のヌクレオチド61−381として示される。A1、A2およびA3軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列番号4の残基21−127、配列番号8の残基23−130、および配列番号12の残基21−127として示される。図1A〜1Cも参照のこと。 【0177】 A1、A2およびA3抗−5T4可変領域配列の新規性を評価するために、BLASTp検索(タンパク質クエリ配列について)を、デフォルトパラメーターExpect=10、Word Size=3、低複雑性フィルター、およびBLOSUM62マトリックスを用いて、existence=11およびextension=1のギャップコストを許可して実施した。BLASTn検索(ヌクレオチドクエリ配列について)は、デフォルトパラメーターExpect=10、Word Size=11、および低複雑性フィルターを用いて実施した。BLAST検索結果は、クエリ配列に関連する配列のリストとして、E値(データベースにおいて同定された合致の統計学的有意性の指標である)の順でランク付けして報告する。BLAST分析に用いられた可変領域配列に最も密接に関連する配列を表1(BLASTn)および表2(BLASTp)において同定する。 ・・・・ 【0180】 実施例2 ネズミ抗−5T4抗体の結合特異性およびアフィニティー A1、A2およびA3抗体の結合特異性およびアフィニティーを評価するために、CM5チップ上に固定化されたヒト5T4抗原を用いて、BIACORER分析を行った。BIACORER技術は、表面層上に固定化された5T4抗原に対する抗体の結合における表面層での屈折率における変化を利用する。結合は、表面から屈折しているレーザー光の表面プラズモン共鳴(SPR)によって検出される。シグナル反応速度on rateおよびoff rateの分析は、非特異的および特異的相互作用間の区別を可能にする。H8抗−5T4抗体を対照として用いた。H8は、PCT国際公開第WO98/55607号およびForsberg et al. (1997) J. Biol. Chem. 272(19):124430-12436において記載されたハイブリドーマから生じたモノクローナルマウスIgG1抗体である。」 甲20b 「【0223】 [図7]図7は、H8、A1、A2およびA3によって結合されるヒト5T4エピトープを示す線図である。示される残基は、Myers et al. (1994) J. Biol. Chem. 269(12):9319-9324によって記載される5T4抗原の残基であり、GenBank受入番号Z29083としても入手可能である(配列番号87)。LRRは、ロイシンリッチリピートを示す。」 (2)甲20に記載された発明の認定 甲20には、ヒト5T4抗原に対するマウス抗−5T4モノクローナル抗体A3及びH8が記載されている(甲20a)。 したがって、甲20には、以下の発明が記載されていると認められる。 「細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含むか、または細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含む抗体」(以下、「甲20発明」という。) 7.申立理由1(ウ)の検討 申立人は、上記第4 2.(3)の項に示したとおり、甲3、甲4〜6,9,10,18〜20(主引例 甲3)を提示し、訂正前本件発明1は甲3、甲4〜6,9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 (1)本件発明1と甲3発明の対比 本件発明1と甲3発明(第6 3.(2))を対比する。 両者は (一致点) 「モノクローナル抗腫瘍抗原5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD3ζシグナリングドメインとを含むポリペプチド構造を有する、腫瘍抗原特異的キメラ受容体」 である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 (相違点5) 本件発明1は、「モノクローナル抗腫瘍抗原5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン」が 「SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含むか、または SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含」む のに対し、 甲3発明は、由来となるモノクローナル抗体やそのCDRの配列が明らかではない点。 (相違点6) 本件発明1は、「CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する」 のに対し、 甲3発明はCD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB由来の共刺激ドメインが採用されておらず、CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するものであるか明らかではない点 (2)本件発明1の甲3発明に対する進歩性の検討 ア.相違点6の容易想到性の検討 本件発明1と甲3発明とは、少なくとも相違点6において相違するので、以下、相違点6について検討する。 甲3は、抗原依存性のCD3ζキメラ免疫受容体(CIR)において、最適なCIR活性には細胞外スペーサー領域が必要であるか否かを検討するものであり、抗5T4および抗NCAM CIRは、細胞外スペーサー領域を有する場合にのみ、特異的なサイトカイン放出および細胞毒性が増強され、対照的に、抗CEAおよび抗CD19 CIRは、細胞外スペーサーがない場合にのみ、最適なサイトカイン放出活性を示したことから、CIRの最適な活性にスペーサーは必要ではなく、最適なデザインは様々であると結論づけるものである。 そして、甲3は、細胞外にスペーサー領域を確保するためにIgG1 FcCH2CH3ドメインを挿入してその解決を図っていることが記載されているにとどまり、ヒンジや膜貫通ドメインとしてどのようなものを採用すべきかということやCD3ζキメラ免疫受容体を変更することについて全く認識されていない。 一方、甲4には、CARの膜貫通型ドメイン ヒンジドメインとシグナル伝達エンドドメインの間には,膜貫通ドメインがあり、通常、CD3-ζ、CD4、CD8、またはCD28分子に由来することが記載されている一方で、CD3-ζ膜貫通ドメインをCD28膜貫通ドメインに置き換えるだけで、第1世代CARの発現はより安定したものになることや、T細胞株で発現させた第1世代CEA特異的CARによる測定可能なシグナル伝達には、無傷のCD3-ζ膜貫通ドメインが必須であることが記載されている(第4頁9-24行)。また、CARの特異性にはエクトドメインが重要であるが,エクトドメインと膜貫通ドメインの間の連結配列は,得られるCARの長さや柔軟性に違いをもたらすことで,CAR-T細胞の機能にも大きな影響を与えることが記載されている(第3頁35-39行)。 甲5には、抗CD19モノクローナル抗体の単鎖可変ドメインを含み、膜貫通ドメインはC8αのヒンジ及び膜槓子ドメインを含み、かつ細胞質ドメインはCD3ζのシグナリングドメイン及び4-1BBのシグナリングドメインを含む抗CD19キメラ抗原受容体が記載されている([0015]段落)。 甲6には、細胞質ドメインは、CD3-Zeta鎖部分および共刺激性シグナル伝達領域から構成されることができること、CD28と4-1BBを共刺激性シグナル要素として例示しているが、他の共刺激性要素も本発明の範囲内であること([0133]段落)、ラベル結合ドメインを含む細胞外ドメイン;CD8aのヒンジおよび膜貫通ドメインを含む膜貫通ドメイン;およびCD3-Zetaのシグナリングドメインを含む細胞質ドメインからなることが記載されている。([0162]段落) 甲9には、抗-5T4抗体および抗-5T4/薬物コンジュゲート([0213]-[0214]段落)が記載されている。 甲18には、5T4に特異的に結合する単鎖抗体scFv5T4WT19が記載されている(第240頁)。 甲19には、5T4結合抗体のサブクローン5T4.B8(H8に相当)が記載されている(第240頁右側第3段落)。 甲20には、ヒト5T4抗原に特異的に結合するA3抗体の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)が記載されている。 しかし、甲3発明のCD3ζに代えて、CD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB由来の共刺激ドメイン、CD3ζシグナリングドメインを採用すべきことや、特にSEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するものを採用すべきことを当業者に動機付ける記載や示唆は甲4〜6,9,10,18〜20に存在しない。 そうすると、相違点6として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲4〜6,9,10,18〜20の記載事項を勘案しても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 8.申立理由1(エ)の検討 申立人は、上記第4 2.(4)の項に示したとおり、甲7、甲4〜6,9,10,18〜20(主引例 甲7)を提示し、訂正前本件発明1は甲7、甲4〜6,9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 (1)本件発明1と甲7発明の対比 本件発明1と甲7発明( 第6 4.(2))を対比する。 両者は (一致点) 「モノクローナル抗腫瘍抗原5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD3ζシグナリングドメインとを含むポリペプチド構造を有する、腫瘍抗原特異的キメラ受容体」 である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 (相違点7) 本件発明1は、「モノクローナル抗腫瘍抗原5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン」が 「SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含むか、または SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含」む のに対し、 甲7発明は、由来となるモノクローナル抗体やそのCDRの配列が明らかではない点。 (相違点8) 本件発明1は、「CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する」 のに対し、 甲7発明はCD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB由来の共刺激ドメインが採用されておらず、CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するものであるか明らかではない点 (2)本件発明1の甲7発明に対する進歩性の検討 ア.相違点8の容易想到性の検討 本件発明1と甲7発明とは、少なくとも相違点8において相違するので、以下、相違点8について検討する。 甲7には、5T4タンパク質に特異的なキメラT細胞レセプターを作成するために、マウス抗ヒト5T4モノクローナル抗体由来のヒト化scFvをコードするDNAを、ヒトFc抗体スペーサー領域とともに、上記ベクターに交換したこと、Fcスペースの包含は、5T4を発現する胃腸癌の標的化に最適であることが判明したことが記載されているが、ヒンジや膜貫通ドメインとしてどのようなものを採用すべきかということやCD3ζキメラ免疫受容体を変更することについても全く認識されていない。 一方、甲4〜6,9,10,18〜20には、上記第6 7.(2)で述べたとおりの記載があるが、甲7発明のCD3ζに代えてCD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB由来の共刺激ドメインを採用することや、CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するものを採用すべきことを当業者に動機付ける記載や示唆は甲4〜6,9,10,18〜20に存在しない。 そうすると、相違点8として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲4〜6,9,10,18〜20の記載事項を勘案しても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 9.申立理由1(オ)の検討 申立人は、上記第4 2.(5)の項に示したとおり、甲17、甲4〜6,9,10,18〜20(主引例 甲17)を提示し、訂正前本件発明1は甲17、甲4〜6,9,10,18〜20に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 (1)本件発明1と甲17発明の対比 本件発明1と甲17発明( 第6 5.(2))を対比する。 両者は (一致点) 「モノクローナル抗腫瘍抗原5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD3ζシグナリングドメインとを含むポリペプチド構造を有する、腫瘍抗原特異的キメラ受容体」 である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 (相違点9) 本件発明1は、「モノクローナル抗腫瘍抗原5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン」が 「SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含むか、または SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含」む のに対し、 甲17発明は、由来となるモノクローナル抗体やそのCDRの配列が明らかではない点。 (相違点10) 本件発明1は、 「CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する」 のに対し、 甲17発明はCD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB由来の共刺激ドメインが採用されておらず、CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するものであるか明らかではない点 (2)本件発明1の甲17発明に対する進歩性の検討 ア.相違点2の容易想到性の検討 本件発明1と甲17発明とは、少なくとも相違点10において相違するので、以下、相違点10について検討する。 甲17には、併用療法においてCR T細胞及びワクチンの両成分の治療能力をさらに最適化するニーズがあり、CR T細胞の作用を改善し得る、CR設計、操作、及び導入方法論といったいくつかの側面が存在すること、近年のキメラ受容体技術の開発は、複数のシグナル伝達ドメインの受容体、例えばCD28受容体への導入に焦点を当てていること、これらの改善された受容体が導入されたT細胞は、確立された腫瘍に対して機能の改善を示すこと、5T4に対するこれらの受容体の開発は、これらのモデルを検証する今後の研究の道筋であることが記載されている(甲17c)。 そして、甲17は、CR T細胞の後にBMDCを投与した積極的治療モデルと組み合わせることをその解決手段とし、細胞外にスペーサー領域を確保するためにIgG1 FcCH2CH3ドメインを挿入してその解決を図っていることが記載されているにとどまり、ヒンジや膜貫通ドメインとしてどのようなものを採用すべきかということやCD3ζキメラ免疫受容体を変更することについても全く認識されていない。 一方、甲4〜6,9,10,18〜20には、第6 7.(2)で述べたとおりの記載があるが、甲17発明のヒトIgG1のヒンジCH2領域とCH3領域からなる細胞外スペーサーやCD3ζに代えて、CD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB由来の共刺激ドメインを採用すべきことやCD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するものを採用すべきことを当業者に動機付ける記載や示唆は甲4〜6,9,10,18〜20に存在しない。 そうすると、相違点10として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲4〜6,9,10,18〜20の記載事項を勘案しても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 10.申立理由1(カ)の検討 申立人は、上記第4 2.(6)の項に示したとおり甲20,3〜5,21号証(主引例 甲20)を提示し、訂正前本件発明1は甲20,3〜5,21に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 (1)本件発明1と甲20発明の対比 本件発明1と甲20発明( 第6 6.(2))を対比する。 両者は (一致点) 「モノクローナル抗腫瘍抗原5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメイン」が「SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含む」もの である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。 (相違点11) 本件発明1は、「CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4-1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する」「CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4-1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造を有する、5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)」 のに対し、 甲20発明は抗体であってキメラ抗原受容体(CAR)ではない点 (2)本件発明1の甲20発明に対する進歩性の検討 ア.相違点11の容易想到性の検討 甲20には、上記抗体を特定の構造を有するキメラ抗原受容体(CAR)にすることは記載されていない。 一方、甲3〜5には、第6 7.(2)で述べたとおりの記載があるが、甲20発明の腫瘍抗原5T4抗体由来のモノクローナル抗体において、これをキメラ抗原受容体(CAR)に変更した上で、CD8αヒンジ、CD8α膜貫通ドメイン、4-1BB由来の共刺激ドメインを採用すべきことやCD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するものを採用すべきことを当業者に動機付ける記載や示唆は甲3〜5に存在しない。 また、甲21は、本件特許出願後の2019年に公知となった文献であるため、本件特許の発明について、当業者が容易に発明をすることができたことの根拠とすることはできない。 そうすると、相違点11として挙げた本件発明1の発明特定事項は、甲3〜5の記載事項を勘案しても、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 11.申立理由1(ウ)〜(カ)に係る本件発明2〜18について 本件発明2〜18は、本件発明1を直接又は間接的に引用し、さらに限定したものであるから、本件発明1が甲1,2,3,7,17,20及び甲1,9,10,18〜20並びに当審で通知した文献A〜Dから当業者が容易に想到し得たといえない以上、本件発明2〜18もまた甲1,2,3,7,17,20及び甲1,9,10,18〜20並びに当審で通知した文献A〜Dから当業者が容易に想到し得たといえない。 そうすると、本件発明1〜18は、進歩性を有するものであり、申立理由1(ウ)〜(カ)(進歩性)はいずれも理由がない。 12.申立理由2(実施可能要件)の検討 申立人は、訂正前の請求項1において、「本件特許発明1〜18は、任意の長さのCD8αヒンジを使用するものであり、実施可能要件を満たすものではない」こと、「CD8αヒンジを特定するための規定やアッセイが開示されていないことは、どのドメインが治療に使用するのに適した技術的効果を提供するCARを生成し得るかを確認する過度の負担を当業者に対して要求する」こと、「本件特許発明は、1個のアミノ酸からなるCD8αドメインを含むCARを包含する」ことを指摘する。 しかし、本件明細書において、「キメラ抗原受容体(CAR)とは、特異的な抗標的細胞免疫活性を示すキメラタンパク質を生成するため、標的細胞上に存在する成分に対する結合ドメイン、例えば、所望の抗原(例えば、腫瘍抗原)に対する抗体に基づく特異性を、T細胞受容体を活性化する細胞内ドメインと組み合わせた分子」であるとされ、「T細胞において発現された時に、モノクローナル抗体の特異性に基づき、抗原認識を向け直す能力を有している。」と定義されているから(本ウ)、「抗標的細胞免疫活性を示すキメラタンパク質を生成」できないものや「抗原認識を向け直す能力」を有していないものは、本件発明のキメラ抗原受容体(CAR)とはいえないものといえる。 また、申立人は、本件特許の実施例4及び図7を挙げて、長さが異なるヒンジが異なる活性を有すること、出願後に公知になった甲21を挙げて、「いくつかの研究により、所定のCARの最適スペーサー長は標的エピトープの位置に依存することが実証されている」ことを主張するが、本件発明のキメラ抗原受容体(CAR)は、抗標的細胞免疫活性を示し、抗原認識を向け直す能力を有するものであるから、そうした活性や能力を有しないような長さのヒンジを含むものとはいえないものである。 したがって、申立人の主張は、上記取消理由2における実施可能要件についての判断を左右するものではない。 そして、その他に本件発明1〜18が対象とする「キメラ抗原受容体(CAR)」を実施することができないことをうかがわせる客観的証拠(本件特許の出願時の技術常識等や実験的証拠)は申立人より提示されていない。 そうすると、本件発明1〜18は、実施可能要件を満たすものであり、申立理由2(実施可能要件)は理由がない。 13.申立理由3(新規事項)の検討 申立人は、本件特許の出願時の明細書等には、訂正前本件発明17及び18によって組み込まれた特徴の組合せの根拠が提供されていないと主張する。 ここで、申立人の上記主張は、5T4特異的キメラ抗原受容体を細胞表面膜に発現する、操作された免疫細胞であってTCRの発現が抑制されている免疫細胞を血液癌状態/小児前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病の治療において使用するための医薬の調製に使用することの根拠がないという主張と解される。 しかしながら、本件特許の外国語書面の翻訳文には、以下のとおりの記載がある。 「【0072】 好ましい態様として、本発明は、患者への同種移植のための、機能性のTCRを発現せず、5T4陽性細胞に対して反応性である、前記の5T4 CARを付与されたT細胞またはT細胞の集団を提供する。・・・ 【0077】 治療的適用 別の態様において、既に記載されたような異なる方法によって入手された単離された細胞または単離された細胞に由来する細胞株は、医薬として使用され得る。別の態様において、医薬は、その必要のある患者において、癌を処置するため、具体的には、癌腫および白血病の処置のため、使用され得る。別の態様において、本発明による単離された細胞または単離された細胞に由来する細胞株は、その必要のある患者における癌の処置のための医薬の製造において使用され得る。・・・ 【0080】 処置は、寛解、治癒、または予防であり得る。それは、自己免疫療法の一部または同種免疫療法処置の一部のいずれかであり得る。自己とは、患者を処置するために使用される細胞、細胞株、または細胞の集団が、患者またはヒト白血球抗原(HLA)適合ドナーに起因することを意味する。同種とは、患者を処置するために使用される細胞または細胞の集団が、患者ではなくドナーに起因することを意味する。 【0081】 開示された方法と共に使用され得る細胞は、以前のセクションに記載されている。処置は、5T4発現細胞、具体的には、過剰量の5T4発現細胞を特徴とする前悪性または悪性の癌状態を有すると診断された患者を処置するために使用され得る。そのような状態は、固形腫瘍または小児前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病のような血液癌において見出される。」 上記記載に照らすと、外国語書面の翻訳文には、5T4特異的キメラ抗原受容体を細胞表面膜に発現する、TCRの発現が抑制されている免疫細胞を、血液癌状態/小児前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病の治療において、医薬として使用することが記載されているものと認められる。 そうすると、本件発明17〜18は、外国語書面の翻訳文に記載した事項に基づくものであり、申立理由3(新規事項)は理由がない。 第7 むすび 以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。 本件特許の請求項1〜18に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1〜18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 モノクローナル抗5T4抗体由来のVHおよびVLを含む細胞外リガンド結合ドメインと、CD8αヒンジと、CD8α膜貫通ドメインと、CD3ζシグナリングドメインおよび4−1BB由来の共刺激ドメインを含む細胞質ドメインとを含むポリペプチド構造を有する、5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)であって、 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含むか、または細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含み、 CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、 4−1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有する、 5T4特異的キメラ抗原受容体(CAR)。 【請求項2】 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:66(CDR1)、SEQ ID NO:67(CDR2)、およびSEQ ID NO:68(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:69(CDR1)、SEQ ID NO:70(CDR2)、およびSEQ ID NO:71(CDR3)のマウスモノクローナル抗体A3由来のCDRを含むVL鎖を含む、請求項1記載の5T4特異的CAR。 【請求項3】 VHおよびVLが、それぞれ、SEQ ID NO:17(A3−VH)およびSEQ ID NO:18(A3−VL)と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項2記載の5T4特異的CAR。 【請求項4】 細胞外リガンド結合ドメインが、SEQ ID NO:48(CDR1)、SEQ ID NO:49(CDR2)、およびSEQ ID NO:50(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVH鎖、ならびにSEQ ID NO:51(CDR1)、SEQ ID NO:52(CDR2)、およびSEQ ID NO:53(CDR3)のマウスモノクローナル抗体H8由来のCDRを含むVL鎖を含む、請求項1記載の5T4特異的CAR。 【請求項5】 VHおよびVLが、それぞれ、SEQ ID NO:11(H8−VH)およびSEQ ID NO:12(H8−VL)と少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%の配列同一性を有する、請求項4記載の5T4特異的CAR。 【請求項6】 4−1BB由来の共刺激ドメインが、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する、請求項1〜5のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項7】 CD3ζシグナリングドメインが、SEQ ID NO:9のアミノ酸配列を有する、請求項1〜6のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項8】 CD8αヒンジが、SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有する、請求項1〜7のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項9】 CD8α膜貫通ドメインが、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を有する、請求項1〜8のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項10】 SEQ ID NO:21またはSEQ ID NO:39のポリペプチド配列を含む、請求項1記載の5T4特異的CAR。 【請求項11】 シグナルペプチドをさらに含む、請求項1〜10のいずれか一項記載の5T4特異的CAR。 【請求項12】 請求項1〜11のいずれか一項記載のキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチド。 【請求項13】 請求項1〜11のいずれか一項記載の5T4特異的キメラ抗原受容体を細胞表面膜に発現する、操作された免疫細胞。 【請求項14】 炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、制御性Tリンパ球、またはヘルパーTリンパ球に由来する、請求項13記載の操作された免疫細胞。 【請求項15】 前記免疫細胞においてTCRの発現が抑制されている、請求項13または14記載の操作された免疫細胞。 【請求項16】 少なくとも1種の免疫抑制薬または化学療法薬に対する耐性を付与するために変異させた、請求項13〜15のいずれか一項記載の操作された免疫細胞。 【請求項17】 血液癌状態の治療において使用するための医薬の調製における、請求項13〜16のいずれか一項記載の操作された免疫細胞の使用。 【請求項18】 小児前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病の治療において使用するための医薬の調製における、請求項13〜16のいずれか一項記載の操作された免疫細胞の使用。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-08-25 |
出願番号 | P2017-512741 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C12N)
P 1 651・ 121- YAA (C12N) P 1 651・ 55- YAA (C12N) P 1 651・ 536- YAA (C12N) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
福井 悟 |
特許庁審判官 |
高堀 栄二 上條 肇 |
登録日 | 2020-12-15 |
登録番号 | 6810685 |
権利者 | セレクティス |
発明の名称 | 癌免疫療法のための栄養膜糖タンパク質(5T4、TPBG)特異的キメラ抗原受容体 |
代理人 | 神谷 雪恵 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 神谷 雪恵 |
代理人 | 特許業務法人平木国際特許事務所 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |