ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 A01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A01M |
---|---|
管理番号 | 1392001 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-28 |
確定日 | 2022-10-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6841460号発明「腹足類忌避フィルム及び植物の栽培方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6841460号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕について訂正することを認める。 特許第6841460号の請求項1、2、4ないし7に係る特許を維持する。 特許第6841460号の請求項3に係る特許異議申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6841460号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、令和2年6月12日に出願され、令和3年2月22日にその特許権の設定登録がされ、同年3月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、同年7月28日に特許異議申立人 加藤 浩志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てが請求項1〜7に対してされたところ、その後の経緯は以下のとおりである。 令和3年12月10日付け:取消理由通知書 令和4年 1月28日 :意見書の提出(特許権者) 同 年 5月 9日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同 年 7月 6日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者) 同 年 7月21日付け:訂正請求があった旨の通知 同 年 8月22日 :意見書の提出(申立人) 第2 訂正の適否についての判断 令和4年7月6日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次のとおりである。 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下である、」の次の位置に、「前記炭酸カルシウム粒子の最大粒子径は、20μm以下である」を追加する訂正をする。また、上述の訂正を行うために、「前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下である、」の語尾を「前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下であり、」に訂正する。 具体的には、特許請求の範囲の請求項1の「前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下である、腹足類忌避フィルム」を、「前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下であり、前記炭酸カルシウム粒子の最大粒子径は、20μm以下である、腹足類忌避フィルム」と訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び請求項4〜7も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項4の「請求項1から3の何れか一項に記載の腹足類忌避フィルム」を「請求項1又は2に記載の腹足類忌避フィルム」に訂正する(請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5〜7も同様に訂正する)。 (4)訂正事項4 明細書の段落0076の表2の密度の単位を「g/m3」から「g/cm3」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の有無、新規事項追加の有無 以下、各訂正事項について、訂正の適否を検討する。なお、訂正前のすべての請求項について特許異議申立ての対象とされているので、すべての請求項に係る訂正事項について特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載の「炭酸カルシウム粒子」について、粒子径に関する特定がなかったのを、「前記炭酸カルシウム粒子の最大粒子径は、20μm以下である」と特定することで、「炭酸カルシウム粒子」の粒子径の大きさについて限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項1は、上記のとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正前の請求項1の発明特定事項のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項1により、請求項1に追加された事項は、訂正前の請求項3に記載されていた事項であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面(以下「本件明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項2は、上記のとおり、請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、訂正前の請求項4が「請求項1から3」の何れか一項を引用するものであったのを、訂正事項2で請求項3を削除したこととの整合を図るために、請求項3は引用せずに「請求項1又は2」を引用するようにしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるとともに特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項3は、上記のとおり、請求項3を削除したこととの整合を図るためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項3は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、本件明細書の段落【0076】の表2に記載の密度の単位に「g/m3」と誤記があったのを、「g/cm3」と正しい記載にするものであるから、誤記の訂正を目的とするものである。 訂正事項4は、上記のとおり、密度の単位について誤記を正しい記載とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項4は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。 (5)一群の請求項について 訂正前の請求項1〜7において、請求項2〜7は、それぞれ、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正後の請求項1〜7は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項についてするものである。 3 まとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1ないし3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 上記第2で示したとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1、2、4〜7に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に合わせて「本件訂正発明1」などといい、まとめて「本件訂正発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4〜7に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有する無機充填剤層を少なくとも備える腹足類忌避フィルムであって、 前記無機充填剤層は、最外層であり、 前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含み、 前記腹足類忌避フィルムにおける前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超であり、 前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下であり、 前記炭酸カルシウム粒子の最大粒子径は、20μm以下である、腹足類忌避フィルム。 【請求項2】 前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂を含む、請求項1に記載の腹足類忌避フィルム。」 「【請求項4】 請求項1又は2に記載の腹足類忌避フィルムを用いる、植物の栽培方法。 【請求項5】 前記腹足類忌避フィルムをマルチングフィルムとして用いる、請求項4に記載の植物の栽培方法。 【請求項6】 帯状の前記腹足類忌避フィルムで前記植物の周囲の土壌を囲う、請求項4に記載の植物の栽培方法。 【請求項7】 有機農法である、請求項4から6の何れか一項に記載の植物の栽培方法。」 第4 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由 1 取消理由(決定の予告)の概要 当審が令和4年5月9日付けで訂正前の請求項1、2、4、5、7について特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 【新規性】訂正前の請求項1、2、4、5に係る発明は、甲第1号証(特開2017−221160号公報。以下「甲1」という。)に記載された発明(以下、「甲1発明」といい、その方法の発明を「甲1方法発明」という。)であるから、訂正前の上記請求項に係る特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものである。 【進歩性】訂正前の請求項1、2、4、5、7に係る発明は、甲1発明又は甲1方法発明、及び甲第2号証(特表2017−537956号公報。以下「甲2」という。)に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の上記請求項に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 したがって、訂正前の請求項1、2、4、5、7に係る特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 甲号証の記載について (1)甲1の記載事項 申立人が特許異議申立書(以下「申立書」という。)に添付して提出した甲1には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同じ。)。 ア 甲1の記載 (ア)「【課題を解決するための手段】 【0022】 本発明は、無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含む単層積層体であるか両方の最外層が無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含む層である多層積層体であり、 全体として無機充填剤を50重量%以上含み、 無機充填剤は、一部又は全部が炭酸カルシウムであり、フィルム・シート又はこれを切断したひもであることを特徴とする農業用資材である。 ・・・ 【0030】 炭酸カルシウムを含有する樹脂は、水と接触したときに、少量の炭酸カルシウムが溶出することによって塩基性を呈し、これによって防カビ性能や有害生物忌避機能を発揮すると推測される。更に無機充填剤の含有量を50重量%以上とすることで、このような効果を高めつつ、可燃物としての処理を可能とするものである。 【0031】 また、炭酸カルシウムは白色度の優れたものであることから、炭酸カルシウムを多量に配合した樹脂組成物は白色を有するものとなる。飛来虫は、このような高い白色度を嫌う傾向にある。このため、農業用資材として上述したような本発明の農業用資材を使用すると、その白い色を嫌う飛来虫に対する忌避効果も発揮される。各種の飛行虫は、その幼虫が植物の葉、花、果実等を食することによって、植物の生育に大きな被害を与える。このため、このような観点からみても、本発明の農業用資材は優れた効果を有するものである。更に、このような試みは、従来ほとんどなされていない。 ・・・ 【0038】 上記無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含む層を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されず、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、PET樹脂、PBT樹脂等)等を使用することができる。なかでも、ポリオレフィン樹脂が最も好ましい。 ・・・ 【0055】 本発明の農業用資材・食品包装材料であるフィルム・シートは、公知の単層又は多層押出成形によって製造することができる。単層又は多層押出成形は、低コストで安定して成形することができる点で好ましい。単層又は多層押出成形としては、インフレーション成形、Tダイ成形等の公知の方法を挙げることができ、目的とする形状や使用する樹脂の性質に応じて、これらのなかから好適な方法を選択することができる。また、単層フィルム・シートをラミネートすることによって多層化する方法等によって得られたものとすることもできる。 【0056】 本発明の農業用資材・食品包装材料は、その厚みが7〜1500μmであることが好ましい。当該範囲内の厚みとすることで、強度を維持しつつ、上述した機能を好適に得ることができる。上記上限はより好ましくは、800μmであり更に好ましくは400μmである。上記下限は、より好ましくは30μmである。 ・・・ 【0058】 本発明の農業用資材は、防カビ性能・有害生物忌避能といった性能を必要とされる任意の用途において使用することができる。具体的には、 (1)柑橘類等の果実の熟成時における保護のための包装袋 (2)イチゴ等の果実や野菜の栽培においてナメクジや、飛来虫による害を防ぐための土壌上に敷設する植物栽培用土壌フィルム・シート (3)トマト等のように苗の枝を上に延ばす必要がある植物において使用される誘引ひもや結束ひも (4)ブドウ等の果実におけるかさ袋等として使用することができる。」 (イ)「【実施例】 【0064】以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0065】 (マスターバッチ1の製造) 直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)を使用し、炭酸カルシウム粒子を、樹脂/炭酸カルシウム=49/51の重量比となるように使用して、二軸混練機によって混練し、チップ化することで、マスターバッチ樹脂1を得た。 【0066】 (マスターバッチ2の製造) 高密度ポリエチレン(HDPE)を使用し、炭酸カルシウム粒子を、樹脂/炭酸カルシウム=49/51の重量比となるように使用して、二軸混練機によって混練し、チップ化することで、マスターバッチ樹脂2を得た。 【0067】 (マスターバッチ3の製造) 高密度ポリエチレンに代えて、高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)とを85:15の重量比で混合した混合ポリエチレンを使用し、樹脂/炭酸カルシウム=47/53の重量比の重量比となるように使用して、二軸混練機によって混練し、チップ化することで、マスターバッチ樹脂3を得た。 【0068】なお、上述したマスターバッチ1〜3の製造において使用した炭酸カルシウムは、炭酸カルシウム純度が95重量%のものである。 【0069】 (単層フィルム・シートの成型) 上述したマスターバッチ1〜3を使用して、インフレーション成形装置、Tダイを使用して、単層フィルム・シートを成形した。得られたフィルムの厚みについて、表1に示した。なお、実施例4については、得られたフィルムを切断して、ひも形状のものとした。また、実施例5については、Tダイ押出によって得られたシートを真空成形することによって、食品トレイの形状とした。 【0070】 また、実施例1〜5の樹脂組成に対応して、炭酸カルシウムを含有しない樹脂を使用した以外は、実施例1〜5と同様の製造方法・厚み・形状のポリエチレンフィルム、ひも、食品トレイを製造した。 【0071】 【表1】 」 (ウ)「【0092】 <評価2 イチゴ栽培用土壌シート> 上述した上述した方法によって得られた実施例3の単層フィルムを、イチゴ栽培の畝の全体を覆うようにかぶせ、イチゴの苗を植えた箇所にのみ孔を開けてイチゴ栽培を行った。同様の栽培を比較例3の単層フィルムについても行った。 【0093】 このような栽培を行い、その間に生じたナメクジによる害を生じた果実の数を計数し、これをイチゴの果実数中の割合として算出した。結果を表7に示す。 【0094】 【表7】 【0095】 上記表7の結果から、本発明の土壌シートは、優れた有害生物忌避能を有することが明らかとなった。」 イ 甲1発明 上記アによれば、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 【甲1発明】 「無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含む単層積層体であり、 全体として無機充填剤を50重量%以上含み、 無機充填剤は、炭酸カルシウムであり、 熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂であり、 直鎖状低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレン及び炭酸カルシウム粒子を、樹脂/炭酸カルシウム=49/51の重量比となるように使用し、混練し、チップ化することで、マスターバッチ樹脂1又は2を得て、マスターバッチ1又は2を使用して、インフレーション成形装置を使用して、単層フィルム・シートを成形する、 又は、高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンとを混合した混合ポリエチレンを、樹脂/炭酸カルシウム=47/53の重量比となるように使用し、混練し、チップ化することで、マスターバッチ樹脂3を得て、マスターバッチ3を使用して、Tダイを使用して、単層フィルム・シートを成形する、 イチゴ等の果実や野菜の栽培においてナメクジによる害を防ぐための土壌上に敷設する植物栽培用土壌フィルム・シート。」 また、甲1には、以下の発明(以下「甲1方法発明」という。)が記載されているといえる。 【甲1方法発明】 「甲1発明の植物栽培用土壌フィルム・シートをイチゴ等の果実や野菜の栽培においてナメクジによる害を防ぐために土壌上に敷設する方法。」 (2)甲2の記載事項 申立人が申立書に添付して提出した甲2には、以下の記載がある。 ア「【請求項1】 局所収穫前施用のための植物保護製品としての炭酸カルシウムの使用であって、該植物保護製品が植物の成長中有害生物を防除する、使用。」 イ「【0018】 1つの実施形態によると、炭酸カルシウムは0.1〜200μm、好ましくは0.6〜100μm、より好ましくは8.0〜50μm、最も好ましくは1〜50μmの重量メジアン粒径d50を有する粒子の形態である。もう1つ別の実施形態によると、炭酸カルシウムは、粉末及び/又は水性懸濁液の形態で、好ましくは水性懸濁液の総重量を基準にして1〜85重量%、より好ましくは5〜50重量%、最も好ましくは10〜25重量%の固形分を有する水性懸濁液の形態で使用される。 ・・・ 【0025】 本発明の目的から、「有害生物」という用語は、植物又は植物生産物に対して有害な植物、動物又は病原体のあらゆる種、系統又は生物型を意味する。有害生物の例は昆虫、線虫、寄生生物、腹足類、雑草、又は菌類、ウイルス、若しくは細菌のような病原体である。 ・・・ 【0029】 本出願を通じて、炭酸カルシウム、又は他の微粒子状の材料の「粒径」はその粒径分布によって記載されている。値dxは、x重量%の粒子がdx未満の直径を有する直径を表す。・・・d50値は重量メジアン粒径であり、即ち全粒子の50重量%がこの粒径より大きく、残りの50重量%がそれより小さい。」 ウ「【0067】 本発明の発明者は、驚くべきことに、炭酸カルシウムが、収穫前の植物に局所的に施用されると、植物の成長中、有害生物、殊に菌類及び/又は昆虫を防除することができるという点で、植物保護に有用であることを見出した。従来の植物保護製品と比較して、炭酸カルシウムは非毒性であり、環境中で分解可能である。従って、後に収穫される植物生産物中の毒性の残留物を避けるために従来の合成農薬の施用が通例禁止される有機農業において植物の成長期間中に施用することができる。炭酸カルシウムの本発明の効果は使用する炭酸カルシウム自体に関連しているが、炭酸カルシウムの表面に吸着した表面コーテイング又は物質による結果ではないことが理解されよう。」 (3)甲3の記載事項 申立人が申立書に添付して提出した甲第3号証(特開2017−157831号公報。以下「甲3」という。)には、以下の記載がある。 ア「【0001】 本技術は、屋外環境で長期間暴露されても粉吹き抑制に優れる太陽光電池裏面保護用シートに関する。」 イ「【0005】 しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、これら白色顔料を多量に含有させたポリエステルフィルムには、以下の課題があることを見出した。 白色顔料を多量に含有させたポリエステルフィルムが、長期間屋外環境に設置されると、紫外線暴露によってポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂が光分解(UV劣化)する。光分解(UV劣化)したポリエステル樹脂は、低分子化合物にまで分解されることで表層より自然気化すること、または低分子量化した部分が脆化することでフィルムの形として保持できず、風雨などの外力によって流れ落ちることで消失する(ポリエステルフィルムは表層から浸食されて厚みが減っていく)。そのため、白色顔料を多量に含有したポリエステルフィルムにおいては、樹脂内部に埋没していた白色顔料が樹脂表層に突出し、外観(色調)が変化するという問題や、劣化したポリエステル樹脂と共に白色顔料が白粉として脱落する粉吹き現象(白粉発生)という問題が発生する。この白粉発生という問題は、残された太陽電池裏面保護用シートの耐紫外線性の低下に繋がり、太陽電池裏面保護用シートの寿命を低下させることに加え、太陽電池場所付近の環境汚染にもつながる。 特許文献1の場合、製膜時における長手方向(縦方向、すなわちシートの進行方向)の延伸温度が高くポリエステル樹脂成分の結晶化が進行し、続く延伸工程において結晶化部位が起点となりシート内に微小の空隙が多く形成され、粉吹き抑制効果が不十分となることがある。」 ウ「【0034】 (白色顔料) 本発明の太陽電池裏面保護用シートのP1層には、光反射性、光隠蔽性、意匠性、視認性などの特性を付与する目的で白色顔料を含有させることが好ましい。前述の特性に加え紫外線曝露後の色調変化、粉吹き抑制の両方を両立させるためには、P1層を構成する樹脂に対して白色顔料を6質量%以上13質量%以下の範囲で含有させることが好ましい。白色顔料の含有量が6質量%未満では、紫外線照射後の色調変化が悪化する場合があり、また後述する表層ポリエステル樹脂が劣化・分解気化に伴う膜厚減少量が増大する場合がある。13質量%より多いと後述のP2層との密着性が悪化すると共に製膜が困難になる場合がある。より好ましい範囲としては8質量%以上12質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上12質量%以下である。白色顔料としては、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、マイカ、アルミナおよびジルコニア、アルミノケイ酸塩粒子などが好ましく挙げられる。紫外線吸収能、光反射性を両立する観点からは、ルチル型酸化チタンを用いるのがさらに好ましい。」 (4)甲4の記載事項 申立人が申立書に添付して提出した甲第4号証(再公表特許WO2014/109267号。以下「甲4」という。)には、以下の記載がある。 ア「【請求項1】 熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを重量比18:82〜50:50で含有する加工用薄膜材料であって、前記加工用薄膜材料の比重が、0.60以上1.40以下であり、JIS P 8140によるコッブ法吸水度が、0.0g/m2・120秒以上11.0g/m2・120秒以下である加工用薄膜材料。」 イ「【0001】 本発明は、加工材料を効率よく強固に付着する加工用薄膜材料に関する。 ・・・ 【0019】 本発明の加工用薄膜材料の原料に使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン及びポリエチレンテレフタレートからなる群から選択される一種類以上の樹脂を使用することができる。 【0020】 製造の容易さの点から、全熱可塑性樹脂の50重量%〜100重量%として、メルトマスフローレイトが0.02〜0.5g/10分のものを使用し、残部に、0.5〜1.2g/10.0分のメルトマスフローレイトを有するものを使用することが好ましい。得られる薄膜材料の強度の点からは、ポリエチレン樹脂の使用が好ましく、特に高密度ポリエチレン樹脂を用いることがより好ましい。また、薄膜材料の剛度を向上させるために、これにポリスチレン等の硬質の樹脂を併用することも好ましい。 【0021】 本発明に使用される無機物質粉末としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム等、プラスチック製品に充填材として添加されるものが特に限定されることなく使用できる。加工用薄膜材料中への分散性向上のために、その表面を常法に従い改質すると良い。前記無機物質粉末の平均粒子径は、薄膜材料の表面粗さと、無機物質粉末が薄膜材料から大きな粒子が離脱するのを防ぐために、15μm以下のものを使用するのが好ましい。特に、その粒径分布において、粒子径50μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、熱可塑性樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、薄膜材料の製造が困難になるとともに、作成した薄膜材料の表面の平滑性が高くなりすぎる。そのため、その平均粒子径は0.5μm以上とすることが好ましい。なお、本発明における無機物質粉末の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した、積算%の分布曲線から得られる50%粒子径(d50)である。 ・・・ 【0039】 前記延伸に伴う空隙形成に従い、加工用薄膜材料の比重が低減する。更に、縦延伸と横延伸を組み合わせ、且つ、その延伸倍率を適宜に設定することにより、生成した独立空隙同士が連結して一部に連続空隙を形成するため、本発明の好適な透気度の範囲とすることができる。一方、縦延伸と横延伸をそれぞれ2倍以上にまで高めると、薄膜材料の透気度は200秒以下になり本発明の目的には好ましくない場合がある。他方、薄膜材料の吸水度は、前記の延伸倍率の範囲内で、比重が1.4以下0.6以上となるように延伸した薄膜材料の大部分は0〜5.0g/m2120秒の範囲内にとどまる。 ・・・ 【0046】 上記加工用薄膜材料に目的に応じた加工材料を採用し、機能層を設けることで、幅広い用途に対応できる積層フィルムとすることができる。加工材料によって形成される層としては、例えば、インク受容層、帯電防止層、金属層、印刷着色層、接着剤層等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらのなかから複数選択して積層することもできる。その詳細については、次の第2実施態様において説明する。」 ウ「【0047】 [第2実施態様] 本発明の第2実施形態は、第1の実施態様の薄膜材料の表面に加工材料を積層して積層フィルムを製造する方法である。 ・・・ 【0061】 <実施例1> 高密度ポリエチレン樹脂と炭酸カルシウム粉末とを、重量比40:60となるように調節し、更に、マグネシウムステアレートを両原料に対し1重量%となるように配合して、Tダイを備え付けた同方向回転式押出成形機を用いて混合、混練と同時に薄膜材料中間体を形成する直接法成形を行なった。作成した厚さが270μm及び350μmの薄膜材料中間体について、原反幅305mm、入口速度0.7m/min、延伸部温度95℃で、ロールの周速差を利用する縦延伸を実施した。 【0062】 延伸した薄膜材料について、比重、コッブ法吸水度、ガーレー試験機法による透気度、及び表面粗さ(中心線平均粗さRaで表示)を測定した。その結果を表1に示す。 【0063】 【表1】 」 (5)甲5の記載事項 申立人が申立書に添付して提出した甲第5号証(特開2004−99666号公報。以下「甲5」という。)には、以下の記載がある。 ア「【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、液不透過性であるが水蒸気透過性のある透湿シートの製造方法に関し、更に詳しくは低温での成形性が良好で、いわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制された透湿シートの製造方法に関する。」 イ「【0022】 ポリオレフィン系樹脂と共に用いられる無機充填剤は、本発明の透湿シートを多孔質にして透湿性を付与するために用いられるものである。無機充填剤としては例えば、炭酸カルシウム、石膏、タルク、クレー、カオリン、シリカ、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、燐酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、カーボンブラック、アルミニウム粉、鉄粉などの粉粒体が挙げられる。これらは一種又は二種以上を併用できる。得られる透湿シートの強度確保や製造時のシート破れの防止の点から、これらの無機充填剤はその平均粒径が0.3〜8μmで最大粒径が20μm以下であることが好ましく、平均粒径が0.5〜5μmで最大粒径が15μm以下であることが更に好ましい。 【0023】 前述した各種無機充填剤のうち、炭酸カルシウムや硫酸バリウムを用いることが好ましく、特に炭酸カルシウムを用いることが好ましい。炭酸カルシウムを用いる場合、その比表面積が16000〜24000cm2/g、特に18000〜22000cm2/gであるものを用いることが、透湿性が高く耐水性も高いシート、即ち、緻密な孔が多数開いていて液がにじみにくく、且つ十分な強度のシートが得られる点から好ましい。 ・・・ 【0033】 成形温度は、従来のポリオレフィン系透湿シートの成形温度よりも低い温度である180〜220℃にする。Tダイ法を用いたこの成形温度と前述したポリオレフィン系樹脂組成物とを組み合わせることによって、成形中にいわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制され、また成形性が良好になる。同成形温度条件で前記ポリオレフィン系樹脂組成物を原料としてインフレーション成形を行っても、成形性は良好とはならない。成形温度は180〜210℃、特に190〜210℃であることが、成形に支障をきたす物質の発生が一層抑制され、また成形性が一層良好になる点から好ましい。成形温度は、Tダイにおける温度である。」 3 当審の判断 (1)本件訂正発明1について ア 対比 本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明における「植物栽培用土壌フィルム・シート」、「単層積層体」が、それぞれ、本件訂正発明1における『腹足類忌避フィルム』、『無機充填剤層』に相当することを踏まえると、両者は、以下の点で一致し、一応、以下の点で相違すると認められる。 (一致点) 無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有する無機充填剤層を少なくとも備える腹足類忌避フィルムであって、 前記無機充填剤層は、最外層であり、 前記無機充填剤は、炭酸カルシウムを含み、 前記腹足類忌避フィルムにおける前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超である、腹足類忌避フィルム。 【相違点1】 腹足類忌避フィルムについて、本件訂正発明1では、密度が1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下であるのに対し、甲1発明では、密度が特定されていない点。 【相違点2】 無機充填剤として含まれる炭酸カルシウムについて、本件訂正発明1では、最大粒子径が20μm以下であるのに対し、甲1発明では、最大粒子径が特定されていない点。 イ 判断 事案にかんがみ、上記相違点2について検討する。 (ア)取消理由(決定の予告)で引用した甲1(上記「2(1)ア」を参照)には、無機充填剤として含んでいる炭酸カルシウムについて、水と接触したときに、少量の炭酸カルシウムが溶出することによって塩基性を呈し、これによって防カビ性能や有害生物忌避機能を発揮すること(段落【0030】)が記載されているところ、上記機序により有害生物忌避効果を発揮するために炭酸カルシウムの粒径をどのようなものとすればよいのかについて記載がなく、かかる場合に炭酸カルシウムの粒径をどのようなものとすればよいのかについて技術常識があるとも認められない。 (イ)取消理由(決定の予告)で引用した甲2には、植物保護製品として炭酸カルシウムを使用し、植物の成長中有害生物を防除すること(請求項1)が記載され、炭酸カルシウムの粒径について全粒子の50重量%のものを1〜50μmの粒径とすることが記載されているが(段落【0018】、【0029】)、炭酸カルシウムの最大粒子径を20μm以下とすることを示唆する記載はない。 (ウ)申立人が申立書に添付して提出した甲3は、太陽電池裏面保護用シートに関するもので、光反射性、光隠蔽性などの特性を付与するために含有させる白色顔料としてシリカ、リン酸カルシウムなどと並んで炭酸カルシウムを用いることも例示されているが、屋外環境で長期間暴露されても粉吹き抑制に優れるようにするためのものである(段落【0001】、【0034】)。 そうすると、ナメクジによる害を防ぐために土壌上に敷設する植物栽培用土壌フィルム・シートに関する甲1発明と太陽電池裏面保護用シートに関する甲3とは技術分野が大きく異なるといわざるを得ず、甲3に炭酸カルシウムに関する記載があるとしても、有害生物忌避機能を発揮することを目的として、水と接触したときに少量溶出することによって塩基性を呈するようにするために含ませるようにした甲1発明における炭酸カルシウムの粒径をいかなる範囲のものとするかについて示唆するものではない。 (エ)申立人が申立書に添付して提出した甲4は、幅広い用途に対応できる積層フィルムとするための加工用薄膜材料に関するもので、加工材料を効率よく強固に付着できるようにしたものであり(段落【0001】、【0046】)、加工用薄膜材料に無機物質粉末として酸化チタン、シリカなどと並んで炭酸カルシウムを添加することも例示されているが、プラスチック製品への充填材として添加されるものであり、また、無機物質粉末の平均粒子径を15μm以下のものを使用するのが好ましいことが記載されているが、薄膜材料の表面粗さと無機物質粉末が薄膜材料から粒子が離脱するのを防ぐ観点からなされるものである(同【0021】)。 そうすると、水と接触したときに少量溶出することによって塩基性を呈するようにするために炭酸カルシウムを含ませるようにした甲1発明は、加工用薄膜材料に関する甲4とは、それ自体がナメクジによる害を防ぐために土壌上に敷設する植物栽培用土壌フィルム・シートとして機能するものである点と水と接触したときに少量溶出することによって塩基性を呈するようにするために炭酸カルシウムを含ませることを必須のものとしている点で技術的思想が大きく異なるから、甲4に炭酸カルシウムに関する記載があるとしても、甲1発明において含めることが必須の炭酸カルシウムの粒径をいかなる範囲のものとするかについて示唆するものではない。 (オ)申立人が申立書に添付して提出した甲5は、いわゆる目やに、焼けブツ、樹脂のゲル化物などの発生が抑制された透湿シートの製造方法に関するもので(段落【0001】)、ポリオレフィン系樹脂と共に透湿シートを多孔質にして透湿性を付与するために無機充填剤として炭酸カルシウムを用いることが例示されており、無機充填剤はその平均粒径が0.3〜8μmで最大粒径が20μm以下であることが好ましいことが記載されている(同【0022】)。 しかし、甲5の製造方法は、従来のポリオレフィン系透湿シートの成形温度よりも低い温度でTダイ法を用いることで成形中に目やになどの発生が抑制されるものであり、インフレーション成形を行っても成形性は良好とはならないところ(同【0033】)、甲1の表1に示される実施例3のものはTダイ法を用いるものであるのでこれへの適用が考えられるが、Tダイ法による場合にはインフレーション法による場合に比べて一般に密度が大きくなることが知られているから、本件訂正発明における「前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下であ」るとの構成に至る蓋然性が高いとはいえない。 (カ)申立人は、令和4年8月22日付け意見書において、甲1の表1に示される実施例4のフィルムシートの厚みが10μm以下であることを踏まえれば、甲1の実施例4に記載のものは、炭酸カルシウムの最大粒子径が10μm未満である形態を実質的に開示していると主張する。 しかし、甲1の実施例4のものは、段落【0069】に記載されるように、インフレーション成形装置、Tダイを使用して成形して得られたフィルムを切断してひも形状としたものであり、本件訂正発明にいう「植物栽培用土壌フィルム・シート」に相当するものではなく、甲1の実施例4における炭酸カルシウムが最大粒子径が10μm未満である形態で存在しているとしても、甲1の実施例1ないし3に示されるフィルム形状のものにおいて炭酸カルシウムの最大粒子径が10μm未満である形態をとっていることにはならないから、申立人の当該主張は採用することができない。 (キ)さらに、申立人は、上記意見書において、「炭酸カルシウム粒子の最大径を、20μm以下とする」ことは、無機フィラー充填複合材料に関する技術分野で通常行われる周知技術であるとして、参考資料1(永田員也外3名、「炭酸カルシウム充填ポリプロピレン複合材料の界面構造が力学特性に及ぼす影響」、日本接着学会誌、第38巻第1号、p.2〜8、2002年)を挙げ、同資料には、平均粒子径が0.9μmと2.0μmであり最大径も20μm以下である炭酸カルシウムが記載されており(Fig.1)、これをオレイン酸又はマレイン酸変性ポリプロピレンで表面改質した粒子をポリプロピレンに混練し、射出成形機で調製したものにおいて粒子がマトリックスに均一に分散することが記載されているが、材料の衝撃強度、降伏強度、衝撃強度、破断伸びについて着目するもので、甲1発明のように有害生物忌避機能を発揮することを目的として炭酸カルシウムが水と接触したときに少量の炭酸カルシウムが溶出することによって塩基性を呈するという機序と何ら共通するところはなく、参考資料1に記載されている炭酸カルシウムの粒径について、甲1発明において採用する動機付けは認められないから、申立人の当該主張は採用することができない。 (ク)以上から、申立人が提出したいずれの証拠を参酌しても、甲1発明における炭酸カルシウム粉末の最大粒子径を20μm以下とする動機付けは認められないし、採用したとしても本件訂正発明における相違点1の「前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下であ」るとの構成に同時に至るものと認めることができない。 (ケ)そして、本件訂正発明1において、無機充填剤として含まれる炭酸カルシウムについて、最大粒子径を20μm以下としているのは、炭酸カルシウム粒子の一部が本発明の忌避フィルムの表面から針状に突出した状態で存在することで表面にミクロレベルの剣山構造を形成して腹足類を傷付けることで腹足類が忌避フィルム上を移動することを忌避することに着目し、ミクロレベルの剣山構造が忌避フィルムの表面に形成され易くすることで腹足類による食害を更に効果的に抑制できるようにしたものであるところ(段落【0016】、【0039】)、かかる点について申立人が提出したいずれの証拠にも記載も示唆もされていない。 ウ 小括 したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明と同一のものではなく、甲1発明及び甲2ないし甲5に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件訂正発明2、4〜7について 本件訂正発明2、4〜7は、本件訂正発明1の構成をすべて含んでいるから、上記(1)で検討したのと同様の理由により、本件訂正発明2、4〜7は、甲1発明と同一のものではなく、甲1発明及び甲2ないし甲5に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 第5 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由 1 特許法29条2項(同法113条2号) 申立人は申立書において、訂正前の請求項1〜7に係る発明は、甲4に記載された発明、甲1に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができた旨申し立てている(38頁下から2行〜48頁3行)。 しかし、上記「第4」の「3(1)イ(エ)」で検討したとおり、水と接触したときに少量溶出することによって塩基性を呈するようにするために炭酸カルシウムを含ませるようにした甲1発明は、加工用薄膜材料に関する甲4とは技術的思想が大きく異なるから、腹足類忌避フィルムなるものが周知技術であるからといって、甲4に記載された発明を腹足類忌避フィルムとして用いることが容易に想到し得たものということはできない。 そうである以上、本件訂正発明1は、甲4発明、甲1に記載の技術的事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。 本件訂正発明1の構成を含む本件訂正発明2、4〜7についても同様である。 したがって、当該特許異議申立ての理由には理由がない。 2 特許法36条6項1号及び同法36条4項1号(同法113条4号) 申立人は申立書において、(1)訂正前の請求項3に記載された「炭酸カルシウム粒子の最大粒子径は、20μm以下である」について、本件明細書の実施例には、「炭酸カルシウムの最大粒子径」に関する記載自体がなく、最大粒子径を20μm以下とすることで腹足類による食害を更に効果的に抑制できたとの結果も記載されていないし、剣山構造についても実施例で観察されていない、(2)本件明細書の実施例には、炭酸カルシウム粒子の粒子径測定に関する記載がなく、しかも実施例で形成された忌避フィルムはいずれも厚さが40μmであったのであるから(段落【0065】、【0075】)、「層の断面」は通常の切断法によれば幅が40μmとなり、段落【0040】に記載されるように100μm×100μmの視野を選択することは不可能であるから、訂正前の請求項3に係る発明は、発明の詳細な説明において、発明の効果が裏付けられておらず、「炭酸カルシウム粒子の最大粒子径を20μm以下とする」ことの効果が奏されることを当業者が認識できる範囲を超えるものであり、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないという旨申し立てている。 しかし、上記(1)について、請求項に記載される特定事項は本件明細書において実施例をもって記載されなくてはならないとか、その効果が実施例によって確認されていなくてはならないものではなく、本件明細書における実施例以外の記載や本件出願時の技術常識を参酌して本件明細書の記載によって裏付けられているといえればよいところ、本件明細書の段落【0039】には、炭酸カルシウム粒子の最大粒子径を20μm以下とすることについて、ミクロレベルの剣山構造が本発明の忌避フィルムの表面に形成され易くなるからであると説明されており、この説明をもって炭酸カルシウム粒子の最大粒子径を20μm以下とすることの技術的意義が理解できるから、本件訂正発明における「炭酸カルシウム粒子の最大粒子径は、20μm以下である」との事項について、本件明細書に記載されているといえる。 また、上記(2)について、実施例で形成された忌避フィルムはいずれも厚さが40μmであるから、「層の断面」が縦に切った断面を意味すると解すると100μm×100μmの視野を選択することができないことは明らかであることを踏まえると、水平に切った断面を意味することは明らかであるから、形式的には記載が必ずしも適切ではないとしても、水平に切った断面を意味すると普通に理解できるから、このことをもって、本件明細書の発明の詳細な説明が当業者が訂正前の請求項3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。 したがって、当該特許異議申立ての理由には理由がない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1、2、4〜7に係る特許を取り消すことはできない。 さらに、他に請求項1、2、4〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項3に係る特許は、訂正により削除された。これにより請求項3に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】腹足類忌避フィルム及び植物の栽培方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、腹足類忌避フィルム及び植物の栽培方法に関する。 【背景技術】 【0002】 農作物等の植物の栽培においては、収穫物の収量及び品質を向上させる観点から、害虫による食害を抑制することが重要となる。害虫の代表としては、腹足類(例えば、ナメクジ及びカタツムリ)が挙げられる。 【0003】 腹足類に対する対策方法の一例として、殺虫剤(例えば、メタアルデヒド及びリン酸第二鉄)を含有する誘引駆除剤を農地に配置する方法が挙げられる。また、腹足類に対する対策方法の別の一例として、銅化合物を含有する腹足類忌避フィルムを農地に配置する方法が挙げられる(例えば、特許文献1)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2018−035070号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、上述の誘因駆除剤及び腹足類忌避フィルムでは、腹足類による食害を十分に抑制することは困難である。また、上述の誘因駆除剤及び腹足類忌避フィルムは、殺虫剤及び銅化合物が農地に染み出すおそれがある。 【0006】 本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、腹足類による食害を抑制できる腹足類忌避フィルムと、これを用いた植物の栽培方法とを提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明の腹足類忌避フィルムは、無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有する無機充填剤層を少なくとも備える。前記無機充填剤層は、最外層である。前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。前記腹足類忌避フィルムにおける前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超である。前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下である。 【0008】 本発明の植物の栽培方法は、上述の腹足類忌避フィルムを用いる。 【発明の効果】 【0009】 本発明の腹足類忌避フィルム及び植物の栽培方法は、腹足類による食害を抑制できる。 【図面の簡単な説明】 【0010】 【図1】本発明の腹足類忌避フィルムの構造の一例を示す断面図である。 【図2】本発明の腹足類忌避フィルムの構造の別の一例を示す断面図である。 【図3】本発明の腹足類忌避フィルムの構造の別の一例を示す断面図である。 【図4】本発明の植物の栽培方法の一例を示す断面図である。 【図5】本発明の植物の栽培方法の別の一例を示す上面図である。 【発明を実施するための形態】 【0011】 以下、本発明の実施形態について、説明する。但し、本発明は、実施形態に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施できる。本発明の実施形態において説明する各材料は、特に断りのない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 【0012】 〈第1実施形態:腹足類忌避フィルム〉 本発明の第1実施形態に係る腹足類忌避フィルム(以下、単に忌避フィルムと記載することがある)は、無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有する無機充填剤層を少なくとも備える。無機充填剤層は、最外層である。無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。本発明の忌避フィルムにおける無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超である。本発明の忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下である。本発明の忌避フィルムは、腹足類による食害を抑制できる。 【0013】 なお、本発明の忌避フィルムの密度とは、本発明の忌避フィルムの寸法から算出される体積に対する本発明の忌避フィルムの質量の比率(即ち、嵩密度)を示す。 【0014】 本発明の忌避フィルムは、例えば、マルチングフィルム、植物を支える紐類(例えば、誘因紐及び結束紐)、及び果実類を包むためのかさ袋として用いることができる。また、本発明の忌避フィルムは、帯状に加工することで、腹足類の農地への侵入を阻害するテープとして用いることもできる。 【0015】 本発明者は、炭酸カルシウム粒子及び熱可塑性樹脂を含有するフィルムが腹足類に対して高い忌避効果を有することを見出した。また、本発明者は、上述のフィルムにおいて、密度を低くし、かつ熱可塑性樹脂の含有割合を低くする(無機充填剤の含有割合を高くする)ことで、腹足類に対する忌避効果を向上できることを見出した。本発明者は、以上の知見に基づいて、本発明を完成させるに至った。本発明の忌避フィルムが上述の効果を有する理由は、明確ではないが、以下の第1の理由〜第3の理由のうち少なくとも1つであると推察される。 【0016】 第1の理由について説明する。本発明の忌避フィルムにおいて、炭酸カルシウム粒子の一部は、本発明の忌避フィルムの表面から針状に突出した状態で存在し、本発明の忌避フィルムの表面にミクロレベルの剣山構造を形成していると判断される。このようなミクロレベルの剣山構造は、腹足類を傷付ける可能性がある。そのため、腹足類は、本発明の忌避フィルム上を移動することを忌避すると判断される。 【0017】 第2の理由について説明する。腹足類は、一般的に酸性環境を好みアルカリ性環境を嫌う性質を有する。本発明の忌避フィルムは、塩基性化合物である炭酸カルシウムが使用に伴って徐々に溶出するため、表面がアルカリ側に傾いていると判断される。そのため、腹足類は、本発明の忌避フィルム上を移動することを忌避すると判断される。 【0018】 第3の理由について説明する。腹足類は、一般的に湿潤な環境を好む性質を有する。本発明の忌避フィルムが含有する炭酸カルシウム粒子は、多少の吸湿性を有する。これにより、本発明の忌避フィルムの表面は、周囲の環境と比較して乾燥している。そのため、腹足類は、本発明の忌避フィルム上を移動することを忌避すると判断される。 【0019】 また、本発明の忌避フィルムの密度は、上述の炭酸カルシウム粒子(約2.7g/cm3)及び熱可塑性樹脂約(0.9g/cm3)の密度から求められる理論密度と比較して大幅に小さい。これは、本発明の忌避フィルムは、無機充填剤層において、炭酸カルシウム粒子及び熱可塑性樹脂の間に比較的大きな空隙が存在するためである(例えば、空隙率15〜20体積%)。そして、本発明の忌避フィルムは、無機充填剤に空隙が存在し、かつ熱可塑性樹脂の含有割合が低いため、無機充填剤層に含まれる炭酸カルシウム粒子が徐々にブリードアウトして表面に露出(ブリードアウト)し易いと判断される。このように、本発明の忌避フィルムは、炭酸カルシウム粒子が徐々にブリードアウトして表面に露出することにより、上述の第1〜第3の理由による忌避効果を効果的に発揮できると判断される。 【0020】 なお、本発明の忌避フィルムは、有効成分である炭酸カルシウム粒子が熱可塑性樹脂によってフィルムに固定されているため、散水又は降雨によって濡れた場合でも上述の第1〜第3の理由による忌避効果が維持される。そのため、本発明の忌避フィルムを用いることで、炭酸カルシウム粒子又は誘引駆除剤を農地に直接配置する場合と比較し、忌避効果を長期に渡って発揮することができる。 【0021】 なお、本発明の忌避フィルムは、腹足類による食害の抑制以外にも、以下の第1の効果〜第3の効果を発揮できる。 【0022】 第1の効果について説明する。本発明の忌避フィルムにおける無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超である。このように、本発明の忌避フィルムは、無機充填剤の含有割合が最も多いため、可燃ごみとして廃棄できる。そのため、本発明の忌避フィルムは、廃棄コストが低い。また、本発明の忌避フィルムは、使用に伴って植物の一部(例えば、葉、根、茎及び蔓)が付着することがある。このような植物の一部は、可燃ごみとして廃棄する必要がある。本発明の忌避フィルムは、上述の通り可燃ごみとして廃棄できるため、使用に伴って植物の一部が付着したままであっても、植物の一部を分離することなくそのまま可燃ごみとして処理できる。そのため、本発明の忌避フィルムは、廃棄が容易である。これに対して、樹脂製の栽培用資材(例えば、樹脂製のマルチングフィルム及び樹脂製の紐)は、不燃物として廃棄する必要がある。そのため、樹脂製の栽培用資材に植物の一部が付着した場合、植物の一部と樹脂製の栽培用資材とに分離してから処理する必要があり、廃棄に手間がかかる。 【0023】 第2の効果について説明する。本発明の忌避フィルムは、白色度の高い粒子である炭酸カルシウム粒子を含有するため、表面の白色度が高い。農作物等の植物の栽培において害虫となる飛来虫(例えば、チョウ、蛾及びアブラム)は、白色度の高い物質を嫌う傾向がある。そのため、本発明の忌避フィルムを農作物の近くに配置することにより、飛来虫による食害も抑制できる。また、本発明の忌避フィルムを植物の近くに配置することにより、本発明の忌避フィルムで反射した日光が農作物に当たり、農作物の光合成を促進する。その結果、本発明の忌避フィルムは、農作物から得られる収穫物の収量及び品質を向上できる。例えば、トマトの栽培において、本発明の忌避フィルムをマルチングフィルムとして用いることで、収穫されるトマトの糖度を向上できる。 【0024】 第3の効果について説明する。本発明の忌避フィルムは、使用に伴って炭酸カルシウム粒子が溶出し、周囲の土壌及び本発明の忌避フィルムの表面をアルカリ側に傾ける。カビ及び菌は、一般的にアルカリ性環境では生育が抑制される。そのため、本発明の忌避フィルムは、防カビ効果及び抗菌効果を発揮できる。 【0025】 本発明の忌避フィルムにおける無機充填剤の含有割合としては、50.0質量%超であり、50.0質量%超65.0質量%以下が好ましく、50.0質量%超60.0質量%以下がより好ましい。本発明の忌避フィルムにおける無機充填剤の含有割合を50.0質量%超とすることで、腹足類による食害を効果的に抑制できる。また、本発明の忌避フィルムを焼却する際の二酸化炭素排出量を低減できる。更に、一般的に無機充填剤は熱可塑性樹脂よりも安価であるため、無機充填剤を多く用いることで、本発明の忌避フィルムの材料コストを低減できる。本発明の忌避フィルムにおける無機充填剤の含有割合を65.0質量%以下とすることで、本発明の忌避フィルムの強度を向上できる。 【0026】 本発明の忌避フィルムの密度としては、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下であり、1.10g/cm3以上1.20g/cm3以下が好ましい。本発明の忌避フィルムの密度を1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下とすることで、本発明の忌避フィルムの忌避効果をより効果的に発揮できる。 【0027】 本発明の忌避フィルムは、単層構造を有してもよく、多層構造を有してもよい。本発明の忌避フィルムが多層構造を有する場合、本発明の忌避フィルムにおいて、無機充填剤層の層数としては、1層でもよく、2層以上でもよい。本発明の忌避フィルムが2層以上の無機充填剤層を備える場合、少なくとも1層の無機充填剤層は最外層である。この場合、他の無機充填剤層は、最外層であってもよく、内層であってもよい。本発明の忌避フィルムが多層構造を有する場合、本発明の忌避フィルムは、熱可塑性樹脂を含有する樹脂層を更に備えることが好ましい。 【0028】 本発明の忌避フィルムは、例えば、土壌等の上に配置して用いる。本発明の忌避フィルムが多層構造を有する場合、本発明の忌避フィルムは、無機充填剤層側の面を上側(土壌と反対側)にして用いることが好ましい。 【0029】 以下、図面を参照して、本発明の忌避フィルムの詳細について説明する。図1は、本発明の忌避フィルムの一例である忌避フィルム10の断面図である。忌避フィルム10は、単層構造を有する。詳しくは、忌避フィルム10は、無機充填剤層11を備える。 【0030】 図2は、本発明の忌避フィルムの別の一例である忌避フィルム20の断面図である。忌避フィルム20は、2層構造を有する。詳しくは、忌避フィルム20は、無機充填剤層21と、樹脂層22とを備える。無機充填剤層21及び樹脂層22は、それぞれ、最外層である。 【0031】 忌避フィルム20がマルチングフィルムである場合、樹脂層22は、黒色顔料(例えば、カーボンブラック及び黒鉛)を更に含有することが好ましい。ここで、上述の通り、無機充填剤層21は、表面の白色度が高い。そのため、樹脂層22が黒色顔料を更に含有する場合、忌避フィルム20は、無機充填剤層21側の面が白色であり、樹脂層22側の面が黒色である構造を有する。このように、一方の面が白色であり、他方の面が黒色である忌避フィルム20は、白色の面を上側にして地面に被せることで地温を低下させることができ、黒色の面を上側にして地面に被せることで地温を上昇させることができるため、マルチングフィルムとして好適である。 【0032】 図3は、本発明の忌避フィルムの別の一例である忌避フィルム30の断面図である。忌避フィルム30は、3層構造を有する。詳しくは、忌避フィルム30は、一対の無機充填剤層31と、樹脂層32とをこの順番で備える。一対の無機充填剤層31は、それぞれ、最外層である。樹脂層32は、内層である。 【0033】 以上、図面を参照して、本発明の忌避フィルムの詳細を説明した。但し、本発明の忌避フィルムの構造は、図1〜3に示す構造には限定されない。例えば、本発明の忌避フィルムは、無機充填剤層に加え、無機充填剤層及び樹脂層以外の他の層を更に備えてもよい。 【0034】 本発明の忌避フィルムの全体厚さとしては、15μm以上200μm以下が好ましく、25μm以上50μm以下がより好ましい。本発明の忌避フィルムの全体厚さを15μm以上とすることで、本発明の忌避フィルムの強度を向上できる。本発明の忌避フィルムの全体厚さを200μm以下とすることで、本発明の忌避フィルムを軽量化できる。 【0035】 [無機充填剤層] 無機充填剤層は、無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有する。無機充填剤層において、無機充填剤は、熱可塑性樹脂により構成されるマトリックスに分散している。 【0036】 本発明の忌避フィルムが多層構造を有する場合、本発明の忌避フィルムの全体厚さTAに対する無機充填剤層の合計厚さTNの比率(100×TN/TA)としては、70%以上90%以下が好ましい。 【0037】 (無機充填剤) 無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含む。ここで、無機充填剤として使用される炭酸カルシウム粒子は、入手元によって純度が大きく異なる。詳しくは、無機充填剤として使用される炭酸カルシウム粒子の多くは、鉱物資源として得られた炭酸カルシウム鉱石を精製せずにそのまま粒子化したものである。そのため、炭酸カルシウム粒子は、産地によって純度が大きく異なる。例えば、産地によっては、炭酸カルシウムの含有割合が70質量%程度である低純度の炭酸カルシウム粒子が存在する。一方、食品用及び医薬品用の炭酸カルシウム粒子として、化学合成により得られた高純度の炭酸カルシウム粒子も存在する。 【0038】 本発明の忌避フィルムは、なるべく高純度の炭酸カルシウム粒子を含有することが好ましい。具体的には、炭酸カルシウム粒子における炭酸カルシウムの含有割合としては、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、97質量%以上が更に好ましい。炭酸カルシウム粒子における炭酸カルシウムの含有割合を90質量%以上とすること、つまり炭酸カルシウム粒子を高純度とすることで、以下の効果を発揮できる。炭酸カルシウム粒子は、純度が高いほど乱反射率が高い。そのため、炭酸カルシウム粒子は、純度が高いほど白色度が高くなり、飛来虫忌避効果及び農作物の光合成促進効果を向上できる。また、炭酸カルシウム粒子は、純度が高いほどpHが安定するため、抗菌性及び防カビ性を安定して発揮できる。また、炭酸カルシウム粒子は、純度が高いほど、人体及び環境への影響を抑制できる。 【0039】 炭酸カルシウム粒子の最大粒子径としては、20μm以下が好ましい。炭酸カルシウム粒子の最大粒子径を20μm以下とすることで、上述のミクロレベルの剣山構造が本発明の忌避フィルムの表面に形成され易くなる。その結果、本発明の忌避フィルムは、腹足類による食害を更に効果的に抑制できる。 【0040】 なお、炭酸カルシウム粒子の最大粒子径は、以下の方法で測定することができる。まず、電子顕微鏡を用い、無機充填剤層の断面から無作為に選択された5箇所(視野:100μm×100μm)において、炭酸カルシウム粒子の粒子径(長径)を測定する。そして、測定された炭酸カルシウム粒子の粒子径の最大値を、炭酸カルシウム粒子の最大粒子径とする。 【0041】 炭酸カルシウム粒子は、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、シランカップリング剤処理、及び金属石鹸処理(例えば、ステアリン酸カルシウム処理)が挙げられる。炭酸カルシウム粒子に表面処理を施すことで、炭酸カルシウム粒子及び熱可塑性樹脂の界面に過剰な空隙が発生することを抑制できる。その結果、本発明の忌避フィルムの強度を向上できる。 【0042】 本発明の忌避フィルムが多層構造を有する場合、無機充填剤層における無機充填剤の含有割合としては、50.0質量%超65.0質量%以下が好ましく、50.0質量%超60.0質量%以下がより好ましい。無機充填剤層における無機粒子の含有割合を50.0質量%超とすることで、本発明の忌避フィルムの腹足類による食害を更に効果的に抑制できる。無機充填剤層における炭酸カルシウム粒子の含有割合を65.0質量%以下とすることで、本発明の忌避フィルムの強度を向上できる。 【0043】 無機充填剤層は、炭酸カルシウム粒子以外の他の無機充填剤を含んでいてもよい。他の無機充填剤としては、例えば、硫酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、カオリン粒子、マイカ粒子、酸化亜鉛粒子、ドロマイト粒子、ガラス繊維、中空ガラスミクロビーズ、シリカ粒子、チョーク粒子、タルク、ピグメント粒子、二酸化チタン粒子、二酸化ケイ素粒子、ベントナイト、クレー、珪藻土及びゼオライト粒子が挙げられる。 【0044】 無機充填剤における炭酸カルシウム粒子の含有割合としては、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。 【0045】 (熱可塑性樹脂) 無機充填剤層が含有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂)が挙げられる。 【0046】 ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂が挙げられる。ポリエチレン樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)が挙げられる。 【0047】 無機充填剤層が含有する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂がより好ましい。 【0048】 (他の添加剤) 無機充填剤層は、無機充填剤以外の他の添加剤を更に含有していてもよい。他の添加剤としては、例えば、カップリング剤、潤滑剤、フィラー分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、及び耐候安定剤が挙げられる。 【0049】 上述の通り、無機充填剤層は、無機充填剤の含有割合が高い。そのため、無機充填剤層は、他の添加剤として、フィラー分散剤を含有することが好ましい。無機充填剤層がフィラー分散剤を含有することで、無機充填剤の分散性を向上できる。フィラー分散剤としては、金属石鹸(例えば、ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸マグネシウム)が挙げられる。無機充填剤層が他の添加剤を含有する場合、無機充填剤層における他の添加剤の含有割合としては、0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましい。 【0050】 [樹脂層] 樹脂層は、熱可塑性樹脂を含有する層である。樹脂層の厚さの比率としては、本発明の忌避フィルムの全体厚さに対して、2.0%以上20.0%以下であり、4.0%以上10.0%以下が好ましい。樹脂層の厚さの比率を2.0%以上とすることで、本発明の忌避フィルムの成形性を向上できる。樹脂層の厚さの比率を20.0%以下とすることで、本発明の忌避フィルムにおける無機充填剤の含有割合を50.0質量%超に調整し易くなる。 【0051】 樹脂層が含有する熱可塑性樹脂としては、例えば、無機充填剤層が含有する熱可塑性樹脂として例示したものと同様の樹脂が挙げられる。樹脂層が含有する熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリエチレン樹脂がより好ましい。 【0052】 樹脂層における熱可塑性樹脂の含有割合としては、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。 【0053】 樹脂層は、無機充填剤を含有しないことが好ましいが、少量であれば無機充填剤を含有してもよい。樹脂層における無機充填剤の含有割合としては、0質量%以上10質量%以下が好ましく、0質量%以上5質量%以下がより好ましい。 【0054】 [製造方法] 本発明の忌避フィルムは、例えば、インフレーション法により製造できる。詳しくは、本発明の忌避フィルムが単層である場合、無機充填剤層を形成するための材料として、無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有する無機充填剤層形成用材料を用意する。そして、リング状のダイをセットした押出機により、無機充填剤層形成用材料を押し出す。得られた円筒状の押出物の内部に空気を送り込んで冷却し、その後、裁断することにより、単層の本発明の忌避フィルムを得ることができる。 【0055】 また、本発明の忌避フィルムが多層である場合、上述の無機充填剤層形成用材料と共に、樹脂層を形成するための材料として、熱可塑性樹脂を含有する樹脂層形成用材料を用意する。そして、リング状のダイをセットした押出機により、無機充填剤層形成用材料及び樹脂層形成用材料を共押出しする。得られた円筒状の押出物の内部に空気を送り込んで冷却し、その後、裁断することにより、多層の本発明の忌避フィルムを得ることができる。 【0056】 インフレーション法により無機充填剤層形成用材料を押し出すことで、他の製法(例えば、Tダイ法)で無機充填剤層形成用材料を押し出す場合と比較し、形成される無機充填剤層の空隙率が高くなる(密度が低くなる)傾向がある。そのため、インフレーション法を用いることで、本発明の忌避フィルムを容易かつ確実に得ることができる。 【0057】 〈第2実施形態:植物の栽培方法〉 本発明の第2実施形態に係る植物の栽培方法は、第1実施形態に係る忌避フィルムを用いる。本発明の植物の栽培方法は、腹足類による食害を抑制できる。本発明の植物の栽培方法は、例えば、穀物、野菜及びキノコ類の栽培方法として用いることができる。本発明の植物の栽培方法は、腹足類による食害を受け易く、かつ商品価値の高い作物(例えば、イチゴ、キャベツ、シイタケ及びアスパラ)の栽培方法として好適である。 【0058】 本発明の植物の栽培方法は、有機農法であることが好ましい。有機農法では、農薬の使用が制限されるため、腹足類による食害を受け易い。これに対して、本発明の植物の栽培方法を有機農法で行った場合、農薬を用いずに腹足類による食害を抑制できる。なお、有機農法とは、例えば、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業である。 【0059】 以下、本発明の植物の栽培方法において、第1実施形態に係る忌避フィルム(詳しくは、図1の忌避フィルム10)の使用方法の一例を説明する。忌避フィルム10の使用方法の一例では、図4に示すように、忌避フィルム10をマルチングフィルムとして用いる。図4は、畝Rを形成した土壌Sの側面を示す。畝Rには、忌避フィルム10が被せられている。忌避フィルム10において、畝Rの頂上付近の部分には、穴が形成されている。畝Rには、忌避フィルム10に形成された穴を通して、植物Pが生育している。忌避フィルム10は、周囲の土壌Sに生息する腹足類が畝Rを登って植物Pに接近することを抑制する。その結果、腹足類による食害を抑制できる。なお、忌避フィルム10は、腹足類による食害の抑制と同時に、一般的なマルチングフィルムに要求される役割(例えば、地温の調整、雑草の繁殖の抑制及び作物に土が付着することの抑制)も果たす。 【0060】 本発明の植物の栽培方法において、第1実施形態に係る忌避フィルム(詳しくは、図1の忌避フィルム10)の使用方法の別の一例を説明する。忌避フィルム10の使用方法の別の一例では、図5に示すように、帯状の忌避フィルム10で、植物が栽培されているグリーンハウスGの周囲の土壌を囲う。このように、帯状の忌避フィルム10でグリーンハウスGの周囲の土壌を囲うことで、グリーンハウスGの外部から内部に腹足類が侵入する侵入経路Iを遮断する。その結果、グリーンハウスGの内部に生育する腹足類の数を減らし、腹足類による食害を抑制できる。なお、図5では植物がグリーンハウスGで栽培されている状態を例として説明したが、本使用方法では、帯状の忌避フィルム10で植物の周囲の土壌を囲めばよく、露地栽培等にも適用可能である。 【0061】 帯状の忌避フィルム10の幅としては、100mm以上5000mm以下が好ましく、500mm以上2000mm以下がより好ましい。 【0062】 本発明の植物の栽培方法において、上述の第1実施形態に係る忌避フィルムの使用方法は、あくまで例示である。本発明の植物の栽培方法は、第1実施形態に係る忌避フィルムを使用する限り、具体的な使用方法は限定されない。例えば、イチゴの栽培では、フィルム上にイチゴの果実を載せた状態で栽培することがある。本発明の栽培方法では、上述のフィルムとして、第1実施形態に係る忌避フイルムを用いることができる。また、本発明の植物の栽培方法では、植物を支える紐類(例えば、誘因紐及び結束紐)、及び果実類を包むためのかさ袋として、第1実施形態に係る忌避フィルムを用いることができる。 【実施例】 【0063】 以下、実施例を示して本発明を更に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。 【0064】 [材料] ポリエチレン樹脂ペレット30質量部及び炭酸カルシウム粒子70質量部を二軸混練機によって混錬した後にチップ化することにより、マスターバッチ(炭酸カルシウム粒子70質量%)を得た。次に、マスターバッチ75質量部及びポリエチレン樹脂ペレット25質量部を混合することで、無機充填剤層形成用材料を得た。 【0065】 インフレーション法により、上述の無機充填剤層形成用材料を用いて無機充填剤層を備える単層の忌避フィルムを形成した。忌避フィルムの厚さは、40μmであった。忌避フィルムにおける無機充填剤の含有割合は、52.5質量%であった。忌避フィルムにおける無機充填剤の含有割合は、1.15g/cm3であった。これを、実施例1の忌避フィルムとした。 【0066】 実施例1の忌避フィルムをマルチングフィルムとして用いてイチゴの栽培試験を行った。イチゴの栽培試験は、岡山県笠岡市の農園にて、西暦2017年3月から2018年6月までの期間行った。詳しくは、上述の農園のグリーンハウス内において、土壌に形成した畝にイチゴの苗を植えた。次に、上述の畝を実施例1の忌避フィルムで覆った。次に、実施例1の忌避フィルムのうち、イチゴの苗を覆っている領域に穴を開け、イチゴの苗を露出させた。この状態で、イチゴを栽培し、収穫した。 【0067】 ここで、イチゴは、ナメクジによる食害を受けると果実が緑色に変色する。緑色に変色したイチゴは、出荷できない。そこで、イチゴの総収穫量に対する緑色に変色したイチゴ(ナメクジによる食害を受けたイチゴ)の収穫量の比率を測定し、これを「ロス率」とした。 【0068】 実施例1の忌避フィルムをマルチングフィルムとして用いてイチゴの栽培を行ったところ、ロス率はほぼ0%であった。これに対して、通常のマルチングフィルムを用いていた前年(西暦2016年)までのイチゴの栽培では、ロス率は15%程度であった。以上から、実施例1の忌避フィルムをマルチングフィルムとして用いることで、腹足類による食害を抑制できると判断した。 【0069】 同時期に、帯状に加工した実施例1の忌避フィルム(幅1000mm)による忌避効果の確認を行った。まず、イチゴの栽培を行っている2つのグリーンハウスを用意した。一方のグリーンハウス(以下、グリーンハウスAと記載することがある)には、グリーンハウスを囲うように、周囲の土壌上に帯状の実施例1の忌避フィルムを配設した。他方のグリーンハウス(以下、グリーンハウスBと記載することがある)には、上述の作業は行わなかった。次に、グリーンハウスA及びBで、内部のナメクジを除去した。そして、1日後、グリーンハウス内部のナメクジの個体数を目視で確認した。その結果、帯状の実施例1の忌避フィルムを配設したグリーンハウスAは、グリーンハウス内部にナメクジが目視で確認できなかった。一方、グリーンハウスBには、イチゴー株当たり10匹以上のナメクジが存在していた。つまり、帯状の実施例1の忌避フィルムは、グリーンハウスAの外側からグリーンハウスAの内部にナメクジが侵入することを抑制した。 【0070】 以上から、実施例1の忌避フィルムは、腹足類に対して高い忌避効果を発揮し、これによって腹足類による食害を抑制できると判断した。 【0071】 次に、腹足類に対する忌避効果と、無機充填剤の含有割合との関係について検討した。まず、以下の点を変更した以外は、上述の実施例1の忌避フィルムの製造と同様の方法により、比較例1〜4及び実施例2〜4の忌避フィルムを製造した。比較例1〜4及び実施例2〜4の忌避フィルムの製造では、無機充填剤層形成用材料の調製において、ポリエチレン樹脂ペレット(PE樹脂ペレット)及びマスターバッチの使用量を下記表1に示す通りとした。 【0072】 次に、以下の忌避効果確認試験を行った。まず、50cm×50cmの正方形状に加工した比較例1〜4及び実施例2〜4の忌避フィルムを、日陰の湿り気を帯びた土壌の表面に被せた。一日後、各忌避フィルムを取り除き、忌避フィルムを被せていた部位の土壌表面に存在するナメクジ(忌避フィルムの下に潜り込んでいたナメクジ)の個体数を計測した。日にちを変えて、同様の試験を合計3回行った。腹足類に対する忌避効果は、計測されたナメクジの個体数(3回の計測の平均値)が5匹以下の場合を良好と判断し、6匹以上の場合を良好でないと判断した。結果を下記表1に示す。 【0073】 【表1】 【0074】 表1に示す通り、炭酸カルシウム粒子の含有割合が50質量%超である実施例2〜4の忌避フィルムは、腹足類に対する忌避効果が良好であった。一方、炭酸カルシウム粒子の含有割合が50質量%以下である比較例1〜4の忌避フィルムは、腹足類に対する忌避効果が良好でなかった。比較例1〜4の忌避フィルムが腹足類に対する忌避効果が良好でなかった理由としては、有効成分である炭酸カルシウム粒子の含有割合が低いことに加え、熱可塑性樹脂の含有割合が高いことによって炭酸カルシウム粒子のブリードアウトが発生し難かったためと判断される。 【0075】 次に、腹足類に対する忌避効果と、忌避フィルムの密度との関係について検討した。まず、以下の点を変更した以外は、上述の実施例2〜4の忌避フィルムの製造と同様の方法により、比較例5〜7の忌避フィルムを製造した。比較例5〜7の忌避フィルムの製造では、無機充填剤層形成用材料の調製において、ポリエチレン樹脂ペレット(PE樹脂ペレット)及びマスターバッチの使用量を下記表2に示す通りとした。また、比較例5〜7の忌避フィルムの製造では、インフレーション法(I法)ではなくTダイ法(T法)により、無機充填剤層形成用材料を用いて無機充填剤層を備える単層の忌避フィルムを形成した。比較例5〜7の忌避フィルムの厚さは、40μmであった。次に、比較例5〜7及び実施例2〜4の忌避フィルムの密度を測定した。次に、比較例5〜7及び実施例2〜4の忌避フィルムを用いて、上述の忌避効果確認試験を行った。評価結果を下記表2に示す。 【0076】 【表2】 【0077】 表2に示す通り、インフレーション法により製造し、密度が1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下である実施例2〜4の忌避フィルムは、腹足類に対する忌避効果が良好であった。一方、Tダイ法により製造し、密度が1.25g/cm3超である比較例5〜7の忌避フィルムは、腹足類に対する忌避効果が良好でなかった。比較例5〜7の忌避フィルムが腹足類に対する忌避効果が良好でなかった理由としては、炭酸カルシウム粒子及び熱可塑性樹脂の間に空隙があまり存在しないことにより、炭酸カルシウム粒子のブリードアウトが発生し難かったためと判断される。 【0078】 以上から、無機充填剤層を備える忌避フィルムにおいて、無機充填剤の含有割合を50.0質量%超とし、密度を1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下とすることで、腹足類に対する忌避効果を大幅に向上できると判断される。 【産業上の利用可能性】 【0079】 本発明の忌避フィルムは、栽培に用いることができる。 【符号の説明】 【0080】 10,20,30 忌避フィルム 11,21、31 無機充填剤層 12,22,32 樹脂層 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 無機充填剤及び熱可塑性樹脂を含有する無機充填剤層を少なくとも備える腹足類忌避フィルムであって、 前記無機充填剤層は、最外層であり、 前記無機充填剤は、炭酸カルシウム粒子を含み、 前記腹足類忌避フィルムにおける前記無機充填剤の含有割合は、50.0質量%超であり、 前記腹足類忌避フィルムの密度は、1.05g/cm3以上1.25g/cm3以下であり、 前記炭酸カルシウム粒子の最大粒子径は、20μm以下である、腹足類忌避フィルム。 【請求項2】 前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂を含む、請求項1に記載の腹足類忌避フィルム。 【請求項3】(削除) 【請求項4】 請求項1又は2に記載の腹足類忌避フィルムを用いる、植物の栽培方法。 【請求項5】 前記腹足類忌避フィルムをマルチングフィルムとして用いる、請求項4に記載の植物の栽培方法。 【請求項6】 帯状の前記腹足類忌避フィルムで前記植物の周囲の土壌を囲う、請求項4に記載の植物の栽培方法。 【請求項7】 有機農法である、請求項4から6の何れか一項に記載の植物の栽培方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-09-29 |
出願番号 | P2020-102423 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(A01M)
P 1 651・ 121- YAA (A01M) P 1 651・ 536- YAA (A01M) P 1 651・ 537- YAA (A01M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
住田 秀弘 |
特許庁審判官 |
奈良田 新一 長井 真一 |
登録日 | 2021-02-22 |
登録番号 | 6841460 |
権利者 | 株式会社アースクリエイト |
発明の名称 | 腹足類忌避フィルム及び植物の栽培方法 |
代理人 | 前井 宏之 |
代理人 | 前井 宏之 |