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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12C |
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管理番号 | 1392003 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-08-10 |
確定日 | 2022-09-28 |
異議申立件数 | 4 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6826840号発明「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6826840号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕、4、5、6について訂正することを認める。 特許第6826840号の請求項2〜4、6に係る特許を維持する。 請求項1及び5に係る特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6826840号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成28年8月26日に特許出願され、令和3年1月20日に特許権の設定登録がされ、同年2月10日にその特許掲載公報が発行され、その後、同年8月10日に、それぞれ、特許異議申立人 中川 賢治(以下「特許異議申立人1」という。)、特許異議申立人 田中 眞喜子(以下「特許異議申立人2」という。)、特許異議申立人 古井 洋子(以下「特許異議申立人3」という。)、特許異議申立人 松山 徳子(以下「特許異議申立人4」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 そして、令和3年10月18日付けで当審において取消理由通知が通知され、同年12月21日に訂正請求書及び意見書が提出され、令和4年1月7日付けで当審から特許法第120条の5第5項に基づく通知書が出され、特許異議申立人1、特許異議申立人2、及び特許異議申立人4から令和4年2月10日に意見書が提出され、特許異議申立人3から同年2月9日に意見書が提出され、同年3月25日付けで当審において取消理由通知(決定の予告)が通知され、同年5月30日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年6月10日付けで当審から特許法第120条の5第5項に基づく通知書が出され、特許異議申立人2から同年7月13日に意見書が提出され、特許異議申立人3及び特許異議申立人4から同年同月14日に意見書が提出され、特許異議申立人1から同年同月15日に意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 令和3年12月21日に提出された訂正請求書による訂正請求について 令和4年5月30日に提出された訂正請求書による訂正請求がされたため、令和3年12月21日に提出された訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 そして、令和4年5月30日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。 2 訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1〜6のとおりである。 (1)訂正事項1 訂正前の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 請求項2について、訂正前の「プロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)が20〜80である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。」との記載を、訂正後に「糖質濃度が1.1g/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7である、ビールテイスト発酵アルコール飲料(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)。」とする。 (請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。) (3)訂正事項3 請求項3について、訂正前の「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、請求項1または2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。」との記載を、訂正後に「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、請求項2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。」とする。 (4)訂正事項4 請求項4について、訂正前の「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を10〜100に調整することを含んでなる方法。」との記載を、訂正後に「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法を除く)。」とする。 (5)訂正事項5 訂正前の請求項5を削除する。 (6)訂正事項6 請求項6について、訂正前の「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を10〜100に調整することを含んでなる方法。」との記載を、訂正後に「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法を除く)。」とする。 3 判断 (1) 訂正事項1について ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1を削除する訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ また、請求項を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないのは明らかである。 ウ 訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (2) 訂正事項2について ア 目的の適否について 訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2の記載を請求項1の記載を引用しないものとした上で、訂正前の「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を10〜100」との特定を「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7」に数値範囲を限定し、訂正前の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」から、訂正後の括弧書きの「但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く」との特定事項により、その一部を除外して限定しているのであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及びただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 また、請求項2の上記訂正に連動する請求項3の訂正も、同様の理由により、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用する記載を引用しないものとする 訂正に加えて、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7」とする点は、本件特許明細書【0049】の実施例3及び【0051】の実施例4の記載に基づくものであり、「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)」とする点は、訂正前の「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料」から、「使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く」ことを規定するものとしただけであり、明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて また、上記訂正は、訂正前の請求項を引用する記載を引用しないものとする訂正及び特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 エ また、請求項2の上記訂正に連動する請求項3の訂正も、同様の理由により、訂正前の請求項を引用する記載を引用しないものとする訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 オ 訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げるものを目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (3) 訂正事項3について ア 訂正事項3は、訂正前の請求項3について、請求項1が削除されたのに伴って、引用元の請求項の数を減少させる訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、請求項の削除に伴って、引用元の請求項の数を減少させる訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないのは明らかである。 イ 訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (4) 訂正事項4について ア 目的の適否について 訂正事項4は、訂正前の「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を10〜100」との特定を「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7」に数値範囲を限定し、訂正前の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」を、「ビールテイスト発酵アルコール飲料(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)。」との特定事項を加えて限定しているのであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項4は、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7」とする点は、本件特許明細書【0049】の実施例3及び【0051】の実施例4の記載に基づくものであり、「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)」とする点は、訂正前の「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料」から、「使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く」ことを規定するものとしただけであり、明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて また、上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (5)訂正事項5について ア 訂正事項5は、訂正前の請求項5を削除する訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ また、請求項を削除する訂正であるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないのは明らかである。 ウ 訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (6)訂正事項6について ア 目的の適否について 訂正事項6は、訂正前の「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を10〜100」との特定を「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7」に数値範囲を限定し、訂正前の「方法」から、訂正後の括弧書きの「但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法を除く」との特定事項により、その一部を除外して限定しているのであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項について 訂正事項6は、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7」とする点は、本件特許明細書【0049】の実施例3及び【0051】の実施例4の記載に基づくものであり、訂正前の「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料」から、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除くことを規定するもの」としたことを規定しただけであり、明細書等の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。 したがって、訂正事項6は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて また、上記訂正は、特許請求の範囲を減縮した訂正であって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 よって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。 エ 訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 (7)一群の請求項について 訂正事項1〜3に係る訂正前の請求項1〜3について、請求項2及び3はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1〜3に対応する訂正後の請求項1〜3に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してされたものである。 3 訂正請求についてのまとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 よって、訂正後の請求項〔1−3〕、4、5、6について訂正を認める。 第3 特許請求の範囲の記載 上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された特許請求の範囲の請求項2、3、4、6に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明2」、「本件特許発明3」、「本件特許発明4」、「本件特許発明6」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項2、3、4、6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(なお、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明を、「訂正前の本件特許発明1」〜「訂正前の本件特許発明6」といい、まとめて、「訂正前の本件特許発明」ということもある。)。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 糖質濃度が1.1g/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7である、ビールテイスト発酵アルコール飲料(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)。 【請求項3】 麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、請求項2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。 【請求項4】 風味が改善された、糖質濃度が1.1g/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法を除く)。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 糖質濃度が1.1g/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法を除く)。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 特許異議申立人が申し立てた理由 (1)特許異議申立人1が申し立てた理由 特許異議申立人1が申し立てた理由の概要は以下のとおりである。 (1−1)請求項1〜4、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (1−2)請求項1〜4、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明及び甲第1〜7号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (1−3)請求項5に係る特許に関して、実施例1の麦芽使用比率25%未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善結果のみから、プロリンを有効成分とする風味改善剤が、麦芽使用比率が50%以上の風味を改善できるのか本件明細書の記載から理解できないから、請求項5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (1−4)請求項5に係る特許に関して、実施例1の麦芽使用比率25%未満のビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善結果のみから、プロリンを有効成分とする風味改善剤が、麦芽使用比率が50%以上の風味を改善できるのか本件明細書の記載から理解できないから、請求項5に係る発明全範囲において当業者が実施できるように記載されておらず、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)特許異議申立人2が申し立てた理由 特許異議申立人2が申し立てた理由の概要は以下のとおりである。 (2−1)請求項1〜4、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2〜5号証を参照すれば、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (2−2)請求項1〜4、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された技術的事項に基いて、請求項5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3)特許異議申立人3が申し立てた理由 特許異議申立人3が申し立てた理由の概要は以下のとおりである。 (3−1)請求項1〜4、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3、4号証を参照すれば、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 (3−2)請求項1〜6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された技術的事項に基いて、請求項5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (3−3)請求項1〜6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明及び甲第1〜5、7、8号証に記載された技術的事項に基いてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (4)特許異議申立人4が申し立てた理由 特許異議申立人4が申し立てた理由の概要は以下のとおりである。 (4−1)請求項1〜6に係る特許に関して、麦芽使用比率50%以上の場合に糖質濃度0.6g/100mL未満である実施例はなく、グルコアミラーゼを使用しても糖質濃度を0.6g/100mL未満である低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料を得ることはできないから、請求項1〜6に係る発明は、当業者が実施できるように記載されておらず、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4−2)請求項1〜6に係る特許に関して、麦芽使用比率50%以上の場合に糖質濃度0.6g/100mL未満である実施例はなく、グルコアミラーゼを使用しても糖質濃度を0.6g/100mL未満である低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料を得ることはできないから、請求項1〜6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (4−3)請求項4、6に係る特許に関して、「調整する」という語が具体的にどのような行為をいうのか不明であるから、請求項4、6に係る発明は、明確ではなく、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 特許異議申立人1の提出した証拠 甲第1号証:VERLAG W. SACHON、BRAUINDUSTRIE、1982年、Vol.67(1/2)、p.76〜79 甲第2号証:VERLAG W. SACHON、BRAUINDUSTRIE、1982年、Vol.67(3)、p.137〜139 甲第3号証:ミンテルGNPD、記録番号256713、Resolution Low C Ale、[on line]、[公開日:2004年2月]、インターネット<URL:https://www.gnpd.com> 甲第4号証:橋本直樹、ライトビールの登場〜ビールの新しい味を担って〜、New Food Industry、1988年3月1日、Vol.30、No.3、p.6〜13 甲第5号証:Wackerbauer 外1名、ビール中プロリン量による穀物使用の検出、Brauwissenschaft(醸造科学)、1981年、Vol.34、No.1、p.1〜8 甲第6号証:吉田重厚、第1章 ビールの一般成分、日本醸造協會雑誌、1976年7月15日、Vol.71、No.7、p.505〜510 甲第7号証:国際公開第2014/196265号 その他、特許異議申立人1からは、令和4年2月10日に提出された意見書とともに甲第8〜12号証が提出され、令和4年7月15日に提出された意見書とともに甲第13号証及び甲第14号証が提出されている(いずれも参考資料として扱うこととする。)。 特許異議申立人2の提出した証拠 甲第1号証:国際公開第2014/196265号 甲第2号証:国武直之、第3章 含窒素化合物、日本醸造協會雑誌、1976年、Vol.71、No.9、p.682〜688 甲第3号証:高橋礼介、ビール醸造微生物学の進歩(1)、日本醸造協會雑誌、1986年、Vol.81、No.3、p.174〜180 甲第4号証:VERLAG W. SACHON、BRAUINDUSTRIE、1982年、Vol.67、p.70〜79、136〜141 甲第5号証:今堀和友、酵素反応の基質特異性、高分子、1971年、Vol.20、No.236、p.794〜797 甲第6号証:国際公開第2014/156735号 その他、特許異議申立人2からは、令和4年2月10日に提出された意見書とともに参考資料1〜18が提出されている。 特許異議申立人3の提出した証拠 甲第1号証:VERLAG W. SACHON、BRAUINDUSTRIE、1982年、Vol.67(1/2)、p.76〜79 甲第2号証:財団法人 日本醸造協会編、醸造物の成分、平成11年12月10日、p.181〜182 甲第3号証:宮地秀夫 著、石井勉 編、ビール醸造技術、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日、p.350〜351 甲第4号証:BEER JUDGE CERTIFICATION PROGRAM 2015STYLE GUIDELINES Beer Style Guidelines、BJCP,Inc.、2015年、p.i〜xii、1〜2 甲第5号証:国際公開第2014/156735号 甲第6号証:ビール醸造中のエステル系物質の影響因子に関する予備的研究、江南大学、2008年8月、p.I〜III、i〜ii、1〜52 甲第7号証:国際公開第2014/196265号 甲第8号証:木村良臣 外3名、ライトビールの創成〜香味品質の設計技法の開発と応用、日本農芸化学会誌、1987年、Vol.61、No.7、p.793〜802 さらに、特許異議申立人3からは、令和4年2月9日に提出された意見書とともに参考資料1及び2が提出されている。 さらに、特許異議申立人4からは、令和4年2月10日に提出された意見書とともに甲第1及び2号証が提出され、令和4年7月14日に提出された意見書とともに甲第3号証が提出されている(いずれも参考資料として扱うこととする。)。 2 当審合議体が通知した取消理由及び取消理由(決定の予告)の概要 訂正前の請求項1〜6に係る特許に対して、当審合議体が令和3年10月18日付けで特許権者に通知した取消理由及び令和4年3月25日付けで通知した取消理由(決定の予告)の要旨は次のとおりである(上記取消理由及び上記取消理由(決定の予告)を、以下まとめて「取消理由」ということもある。) (1)令和3年10月18日付けで特許権者に通知した取消理由 理由1:(新規性)請求項1〜4、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国で頒布された引用文献2〜7を参照すれば、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項1〜4、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 理由2:(進歩性)請求項5に係る発明は、本件特許出願前に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報8に記載された発明及び日本国内又は外国で頒布された引用文献2〜7及び電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報1に記載された技術的事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 なお、上記請求項1に係る発明に対する理由1及び請求項5に係る発明に対する理由2は、本件訂正によって、請求項1及び請求項5が削除されたので解消している。 (2)令和4年3月25日付けで通知した取消理由(決定の予告) 理由1:(新規性)請求項2、3、4、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国で頒布された引用文献2〜7を参照すれば、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、下記の請求項1〜4、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 記 電子的技術情報1:国際公開第2014/196265号(特許異議申立人1の提出した甲第7号証、特許異議申立人2の提出した甲第1号証、特許異議申立人3の提出した甲第7号証) 引用文献2:国武直之、第3章 含窒素化合物、日本醸造協會雑誌、1976年、Vol.71、No.9、p.682〜688(特許異議申立人2の提出した甲第2号証) 引用文献3:VERLAG W. SACHON、BRAUINDUSTRIE、1982年、Vol.67、p.70〜79、136〜141(特許異議申立人2の提出した甲第4号証、特許異議申立人1の提出した甲第1号証p.76〜79及び甲第2号証p.137〜139) 引用文献4:ビール醸造中のエステル系物質の影響要因に関する予備的研究、江南大学、2008年8月、表紙、目次、p.1〜52(特許異議申立人3の提出した甲第6号証) 引用文献5:Wackerbauer 外1名、ビール中プロリン量による穀物使用の検出、Brauwissenschaft(醸造科学)、1981年、Vol.34.、No.1、p.1〜8(特許異議申立人1の提出した甲第5号証) 引用文献6:高橋礼介、ビール醸造微生物学の進歩(1)、日本醸造協會雑誌、1986年、Vol.81、No.3、p.174〜180(特許異議申立人2の提出した甲第3号証) 引用文献7:今堀和友、酵素反応の基質特異性、高分子、Vol.20、No.236、p.794〜797(特許異議申立人2の提出した甲第5号証) 電子的技術情報8:国際公開第2014/156735号(特許異議申立人2の提出した甲第6号証、特許異議申立人3の提出した甲第5号証) なお、引用文献2〜7は、本願出願時点の技術常識を示す文献である。 第5 当審合議体の判断 当審合議体は、請求項1〜6に係る特許は、当審合議体の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。 理由は以下のとおりである。 当審合議体が通知した取消理由の判断 (1)電子的技術情報又は引用文献の記載 ア 電子的技術情報1の記載 (1a)「技術分野 [0001] 本発明は、発酵原料に占める麦芽使用比率を高めた場合であっても、糖質含有量が充分に低減された発酵麦芽飲料を製造する方法、及び当該方法により製造された発酵麦芽飲料に関する。 背景技術 [0002] 近年、消費者の健康志向や嗜好性の変化から、糖質含有量の低いビールテイスト飲料に対する消費者のニーズが高まっている。なお、ビールテイスト飲料とは、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有する発泡性飲料である。発酵原料を発酵させて得られるビールテイスト飲料の場合、発酵液中の非資化性糖の含有量を低下させることによって、最終製品であるビールテイスト飲料中の糖質含有量を低下させることができる。このため、発酵原料として、非資化性糖の含有量が少ない液糖等の使用比率を高めることによって、糖質含有量を低下させることができるが、穀物原料の使用比率が高い場合には、穀物香気やコク感を高められる一方で、糖質含有量が高くなる傾向がある。」 (1b)「[0041] [実施例1] 200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールテイスト飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、試験サンプルには、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム社製、製品名:トランスグルコシダーゼL)を冷麦汁に対して80U/mL添加したが、対照サンプルには何も添加しなかった。両サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させてビールテイスト飲料(アルコール含有量:3.8容量%)を得た。 [0042] 得られたビールテイスト飲料について、イソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量を測定した。測定結果を表1に示す。発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加した試験サンプルでは、いずれの糖類も含有量が5mg/L未満であり、トランスグルコシダーゼを添加しなかった対照サンプルよりも糖質含有量が顕著に低減していた。また、試験サンプルの糖質含有量は、0.4g/100mLであった。当該結果から、本発明に係る製造方法により、麦芽使用比率を100%とした場合であっても、糖質含有量が低く、低カロリーのビールテイスト飲料が製造できることが明らかである。」 (1c)「[0050] [実施例4] 200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールテイスト飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、40kgの麦芽の粉砕物、及び160Lの仕込水を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、表5に示す量になるようにグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)及びトランスグルコシダーゼ(天野エンザイム社製、製品名:トランスグルコシダーゼL)をそれぞれ添加した。各サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、7日間貯酒タンク中で熟成させてビールテイスト飲料を得た。 [0051] 各ビールテイスト飲料の外観エキス(質量%)を測定した。測定結果を表5に示す。外観エキスとは、ビールテイスト飲料のエキスを、20℃において同じ比重をもったシュークロース水溶液のシュークロース濃度(通常は質量%)として表わしたものをいう。アルコールを含むため、外観エキスは本来の意味でのエキス(可溶性蒸発残渣=真正エキス)ではない。外観エキスには、食物繊維や灰分等の糖質以外のエキス分も含まれる。但し、本実施例では、使用した酵素以外の条件は揃えているため、各ビールテイスト飲料中の糖質以外の成分は同等と考えられる。 [0052] [0053] この結果、いずれの酵素も添加しなかった対照サンプルよりも、酵素を添加した試験1〜2サンプルは、外観エキスが減少しており、糖質含有量が低下したことが確認された。トランスグルコシダーゼのみを添加した試験1サンプルよりも、グルコアミラーゼと併用添加した試験2サンプルのほうが、外観エキスの低下がより顕著であり、糖質含有量がより低下していた。 [0054] 4名の専門パネルにより、試験2サンプルの穀物香及びコク感についての官能検査を行った。評価は、麦芽使用比率が25%未満であり、かつ糖質含有量が0.5g/100mL未満である市販の発泡酒を2点とし、1〜5点の5段階(穀物香及びコク感をほとんど感じない場合を1とし、非常に強く感じる場合を5とした。)で行った。この結果、試験2サンプルの評価は、穀物香が3.75であり、コク感も3.75であり、いずれも比較対象とした市販の発泡酒よりも高かった。特に、試験2サンプルの香味は、酵素の添加に起因するものや副原料等の原料由来の不快な香気がなく、ビールらしい良好な香味品質であった。この結果から、本発明に係る製造方法により、糖質含有量を高めることなく、麦芽使用比率を高め、穀物香及びコク感に優れたビールテイスト飲料を製造し得ることが明らかである。」 イ 引用文献2の記載 (2a)「II.アミノ酸 1.含量 ビール中のアミノ酸定量値例を第3表に示す。」(683頁右欄7〜9行) (2b)683頁の「第3表 ビールのアミノ酸含量(mg/l)」には、[対象ビール 国,時期,点数,原麦中濃度%,(種類他),Pro]が、[日本(各社),1972年,6点,−,(−),261(226−293)][日本,1972年,2点,11−12,(全麦芽),380][アメリカ,1973年,9点,11−12,(−),178(148−199)][アメリカ,1967年,3点,11−12,(−),224][カナダ,1967年,2点,11−12,(−),270][ドイツ,1967/9年,21点,11−12,(−),336(236−502)][ドイツ,1969年,12点,13−14,(エキスポート),415][欧大陸諸国(除ドイツ),1971年,24点,11−12,(−),352(240−500)][英・アイルランド,1971年,2点,13−16,(ポーター),335]との記載がある。 ウ 引用文献3の記載 訳文にて示す。 (3a)「3.我々の時代のビール−一連の研究 ベルリン醸造試験所の年報(9)ではドイツのビール種類について、ならびにBrewers Digest(10)ではアメリカのラガービール、プレミアムビールおよびライトビールについて、むしろ従来からの特性の平均的含有量の形で定常的に報告されている。したがってここではむしろビールの生理学的成分を示す。ドイツ以外のビール生産がいずれにせよ世界のビール生産のおよそ 90パーセントを占めるということも考慮する必要がある(表3)(34、35、36)。 大規模なビール銘柄に加えて、より小規模な醸造所および小規模な国々に由来するビールも調査し、さらには新しいビール、例えば、ライトビール、ノンアルコールビールおよび麦芽飲料/麦芽ビール等の発展にも注目する。 これに関しては、技術上および分析上の理由から、あるビール銘柄の唯一の試料しか調査できなかったこともあるという注釈が認められる。さらに、原料および技術的手法は時共にある程度大きく変わる。したがって、ここで挙げる結果はある意味では「スナップショット」としか見なし得ない。この結果は、統計的に保証される訳ではなく、あらゆる時代に当てはまる一般化も認められない。 4.分析方法 適用した分析方法に起因してビールの評価における差異が生じ得るため、ここで使用した方法を手短に紹介する: ・・・ 5.まとめ 冒頭では、栄養上の問題点について報告する学術的な発表、とりわけ雑誌においては、ビールの成分が多くの場合不完全にしか表示されず、しかも時には不正確に表示さえされているということを示す。時にはデータが完全に欠けている。 したがって、外国産およびドイツ産の様々な種類、酵母種、アルコール度数、醸造地のビールの生理学的に重要な化合物をできるだけ幅広く把握すること、ならびに食品および嗜好品としてのビールの価値を立証することが目的である。 ビールを分析するために適用した方法を個別に挙げる。」(72頁右欄下から12行〜74頁中央欄13行) (3b)76〜77頁の「1.アメリカンライトビール」の表において、[オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°),プロリン(mg/l)]が[7.8,186][7.8,295][7.7,303][8.7,203][9.2,227][8.1,152][7.9,278][6.3,200][7.5,157][6.1,81]との記載がある。 (3c)138〜139頁の「2.カナダ、イギリス、南アフリカ、ニユージーランドのライトビール」の表において、[オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°),プロリン(mg/l)]が[9.7,213][5.5,88][8.1,196][6.3,165][8.0,165][8.4,265][7.8,247][8.0,187][8.5,341][9.1,228]との記載がある。 エ 引用文献4の記載 訳文にて示す。 (4a)「エステルはビールの風味を構成する主な要素であり、ビールのスタイルと品質において重要な役割を果たしている。適量のエステルの存在により、ビールに果実味を与える。新しいビール醸造プロセスが現れるにつれ、エステルの含有量の低下が際立つ問題になり、アルコール/エステルの比が高くなり、飲酒後に不快感を感じることがある。本稿の主旨は、上記問題に対応するため、検出方法を確立した上、糖化パラメータ及び発酵パラメータによるエステル系物質の生成への影響を実験室規模で全面的かつ体系的に考察し、醸造プロセスのパラメータを調整することにより、エステルの生成量を増やし、ライトビールの香りを改善させ、酒の風味及び飲酒後の感覚を改善させることにある。」(1頁の要約の第1段落) (4b)「今の中国市場では、低濃度(7°P〜10°P)で淡色・・・であり、IBU値が低く・・・ 、総酸が低い・・・ような軽めでスッキリとしたマイルドな味わいを持つビールが人気を呼んでいる。軽めでスッキリとした優しいスタイルは、優れた麦芽原料が基本である。その上、副原料を多く(35 %〜45%)使用し、浸出による糖化法を採用して、低温で発酵させることで、各種の代謝産物(アルコール、エステル、アルデヒド)が少なくかつバランスがよく、アルコール/エステルの比が3.0:1〜4.0:1程度である。また、濃度が低く、使用される原材料及び副原料が少ないため、コストが比較的低く、中国市場のニーズに適している[i]。」(本文1頁3〜7行) (4c)「前記の実験結果に基づき、製造プロセスの実行性を研究するため、最適化プロセスとコントロールプロセスの醸造経過における酵母の細胞密度、発芽率、外観濃度、ジアセチル及びエステルの変化を追跡し、ビール完成品の品質を分析した。 コントロールプロセスは以下のとおりである。60%の大麦麦芽を主原料とし、40%の米を副原料として添加した。タンパク休止時間が45minであり、発酵用麦汁の麦汁濃度が12°Pであり、pH値が5.8であり、接種量が1.1×107個/mLであった。主発酵は、外観濃度が2°P〜3°Pへ低下するまで、10℃の恒温で発酵を行った。主発酵が終わった後、8℃で5日間、4℃で2日間後発酵を行ってから、残存する発酵液を無菌ビール瓶に注ぎ、蓋をかけ、0℃で7日間貯蔵した。このようにして分析に供するビール完成品ができた。 最適化プロセスは以下のとおりである。59.55 %の大麦麦芽を主原料とし、40.45%の米を副原料として添加した。発酵用麦汁のpHが5.5であり、麦汁の濃度が12°Pであり、タンパク休止時間が 57minであり、Zn2+の添加量が0.41mg/Lであり、ブドウ糖レベルが10.21 %であり、接種量が1.72×107個/mLであり、主発酵温度が12.5℃で あった。外観濃度が2°P〜3°Pへ低下するまで主発酵を行った。主発酵が終わった後、8℃で5日間、4℃で2日間後発酵を行ってから、残存する発酵液を無菌ビール瓶に注ぎ、蓋をかけ、0℃で21日間貯蔵した。このようにして分析に供するビール完成品ができた。」(38頁下から16〜4行) (4d)42頁の「表4−9 通常プロセスと最適化プロセスにより得られたビール完成品の指標分析」には、通常プロセスのオリジナルエキス濃度/°Pとして、11.9、最適化プロセスのオリジナルエキス濃度/°Pとして、12.1との値が示されている。 (4e)42頁の「表4−11 2種のビール(AとB)のアミノ酸スペクトラム分析」には、通常プロセスのプロリン(Pro)/mg・L−1として、252.60、最適化プロセスのプロリン(Pro)/mg・L−1として、302.98との値が示されている。 オ 引用文献5の記載 訳文にて示す。 (5a)「ドイツ連邦共和国に適用されるビール純粋令では、発酵ビールの製造には、大麦麦芽を使用することしか認められていない。輸入ビールにもビール純粋令が適用されているが、必ずしも上記の規制に従って製造されているとは限らない。このため、それについての情報を提供することを可能にする信頼できる分析方法を見つける必要があった。 この問題を扱った文献は、異なる方法に基づいている。Donhauser(1)は、大麦以外の穀物に言及する免疫学的検査による証拠を提案している。Staritzは、プロリンと原麦汁エキス(オリジナルエキス)の含有量の商が、米、トウモロコシ、シロップ、砂糖などの添加物を使用して製造されたビールであると結論づけるのに必要な意味を持つとする、迅速な判断方法を説明している。彼は、他の穀物や添加物とは対照的に、大麦にはかなり多くのプロリンが含まれているという事実から出発する。このプロリンは、完成したビールにも同じ程度含まれている。なぜなら、このアミノ酸は、仕込工程ですでに固定されており、その後の発酵を通じて酵母が窒素源として使用することはなく、ビールに完全に残っていると考えられるからである。さらに著者 (3,6) は、このテーマについてコメントしている。」(1頁左欄7〜28行) (5b)「2 問題 ここで、プロリンを決定する比較的洗練された方法が、禁止されている添加物質の使用をどの程度確実に特定できるのかという疑問が生じる。原麦汁エキス(オリジナルエキス)とプロリン含有量だけでなく、pH値や全窒素量も考慮した一連の試験を行うことで、比率(プロリン含有量/原麦汁エキス(オリジナルエキス))の記述がどの程度信頼できるか、あるいは意味のある結果を得るために他の測定値を適切な方法で組み合わせることができるかどうかを検討する必要がある。」(1頁右欄第1段落) (5c)「4 結果と考察 4.1ドイツビール13種(合計103サンプル)のプロリン含有量および/またはその比率を分析した。また、製造過程の知見により、醸造過程で穀粒やその他の成分が使用されていることが確認できた外国産ビール25種類も分析した。その結果を表 1 にまとめた。」(2頁右欄第5段落) (5d)4頁の左欄の図2には、「プロリン含有量/原麦汁エキス(オリジナルエキス)の比率と平均値の散布図」として、15種のビールのプロリン含有量/原麦汁エキス(オリジナルエキス)の範囲として、(12〜13)〜45程度が示され、図3には、「プロリン含有量(mg/l)と平均値の散布図」として、150程度〜520程度が示されている。 カ 引用文献6の記載 (6a)176頁の第1表の「各種アミノ酸が麦汁中から酵母細胞内へとりこまれる順序」には、プロリン(Pro)が「とりこまれぬ」との例として示されている。 キ 引用文献7の記載 (7a)「1.基質特異性とその意味 酵素が有機触媒であることはなにも異論のないところであるが,いわゆる無機触媒と大きく異なる特徴として基質特異性があげられる。基質とは酵素が働きかけてその反応を触媒する相手物質のことである。たとえばタンパク質の加水分解反応を触媒する酵素にとって,その基質はタンパク質である。一つの酵素にとってその基質は多少の幅があるにしろ決っており,自分の任務以外の基質に関しては一切働かない。これを酵素の基質特異性とよんでいる。・・・このように酵素には基質が決っているため,酵素の命名に基質の名が用いられているほどであ。たとえばアミロースを分解する酵索はアミラーゼ,ペプチド結合を加水分解する酵素はペプチダーゼと呼ばれるのがこの例である。」(794頁左欄1〜16行) (2)電子的技術情報記載の発明 ア 電子的技術情報1記載の発明 電子的技術情報1は、発酵原料に占める麦芽使用比率を高めた場合であっても、糖質含有量が充分に低減された発酵麦芽飲料を製造する方法、及び当該方法により製造された発酵麦芽飲料に関するものであるが(摘記(1a))、摘記(1b)の実施例1には、「[実施例1]200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールテイスト飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、試験サンプルには、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム社製、製品名:トランスグルコシダーゼL)を冷麦汁に対して80U/mL添加したが、対照サンプルには何も添加しなかった。両サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させてビールテイスト飲料(アルコール含有量:3.8容量%)を得た。 [0042] 得られたビールテイスト飲料について、イソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量を測定した。測定結果を表1に示す。発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加した試験サンプルでは、いずれの糖類も含有量が5mg/L未満であり、トランスグルコシダーゼを添加しなかった対照サンプルよりも糖質含有量が顕著に低減していた。また、試験サンプルの糖質含有量は、0.4g/100mLであった。当該結果から、本発明に係る製造方法により、麦芽使用比率を100%とした場合であっても、糖質含有量が低く、低カロリーのビールテイスト飲料が製造できることが明らかである。」との記載があり、試験サンプルに関する記載から以下の発明が認定できるといえる。 「糖質含有量は、0.4g/100mLであり、麦芽使用比率を100%である、アルコール含有量が3.8容量%の発酵ビールテイスト飲料」(以下「引用1発明」という。) イ また、電子的技術情報1には、摘記(1c)において、実施例1と同様に製造した実施例4の官能評価により、「酵素の添加に起因するものや副原料等の原料由来の不快な香気がなく、ビールらしい良好な香味品質であった。この結果から、本発明に係る製造方法により、糖質含有量を高めることなく、麦芽使用比率を高め、穀物香及びコク感に優れたビールテイスト飲料を製造し得ることが明らかである。」との考察結果の記載があるのであるから、電子的技術情報1には、以下の製造方法及び方法の発明も記載されているといえる。 「糖質含有量は、0.4g/100mLであり、麦芽使用比率を100%である、アルコール含有量が3.8容量%のビールらしい良好な香味品質の穀物香及びコク感に優れた発酵ビールテイスト飲料の製造方法」(以下「引用1製造方法発明」という。) 「糖質含有量は、0.4g/100mLであり、麦芽使用比率を100%である、アルコール含有量が3.8容量%の発酵ビールテイスト飲料において、ビールらしい良好な香味品質の穀物香及びコク感に優れたものとする方法」(以下「引用1方法発明」という。) (3) 対比・判断 ア−1 本件特許発明2と引用1発明との対比 引用1発明の「糖質含有量は、0.4g/100mL」は、本件特許発明2の「糖質濃度が1.1g/100mL未満」に該当する。 また、引用1発明の「アルコール含有量が3.8容量%の」「発酵ビールテイスト飲料」は、本件特許発明2の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当するといえる。 したがって、本件特許発明2と引用1発明とは、「糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1−2:本件特許発明2が、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップである」もの「を除く)」と特定しているのに対し、引用1発明は「麦芽使用比率を100%」と特定している点。 相違点2−2:本件特許発明2が「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7である」ことを特定しているのに対して、引用1発明では、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が明らかでない点。 イ−1 相違点1−2の判断 本件特許発明2においては、本件訂正によって、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)」つまり、麦芽使用比率が50%以上において、技術常識である、酒税法に基づく、原料中麦芽の重量をホップ及び水以外の原料の重量の合計に対する比率で表した麦芽使用比率(特許異議申立人4の令和4年2月10日付けで意見書に添付された甲第1号証、甲第2号証参照)で100%のものを除くことになった。 したがって、引用1発明は「麦芽使用比率100%」の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」であるから、本件特許発明2から除かれており、相違点1−2は、実質的な相違点である。 特許異議申立人3及び4は、意見書において、本件訂正によっても、本件特許明細書【0022】のその他添加物を醸造原料として使用することができるとの記載や実施例で添加されたグルコアミラーゼ、トランスグルコシダーゼ、ビール酵母を指摘して、これらの成分を考慮すると明確に除かれていない旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書【0019】及び【0022】において、麦芽、ホップ、副原料と醸造用水といった使用原料という概念と、酵母等の添加物を含めた醸造原料という概念を用語として使い分けており、上述のとおり、相違点1−2は、実質的な相違点であり、グルコアミラーゼ、トランスグルコシダーゼ、ビール酵母といった添加物を考慮した場合に明確に除かれていない旨の上記主張を採用することはできない。 ウ−1 相違点2−2の判断 引用文献2の摘記(2b)、引用文献3の摘記(3b)摘記(3c)、引用文献4の摘記(4d)摘記(4e)、引用文献5の摘記(5d)の記載からみて、引用文献2〜5の多種多様な一般的なビールにおいて、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の値は広い範囲にわたっており、原料や製造方法による変化を生じることは技術常識である。 そして、引用文献2においては、上記比率は12.3〜45.6の値であり、引用文献2の全麦芽の例から計算されたプロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)は31.7〜34.5である。 また、引用文献3においては、13.3〜39.4、引用文献4においては、21.1〜25.0、引用文献5においては、(12〜13)〜45程度であることが示されている。 したがって、プロリンが麦汁中から酵母細胞内にとりこまれないこと(引用文献6の摘記(6a))や、酵素が基質特異性をもっていること(引用文献7の摘記(7a))を考慮しても、多種多様な一般的なビールにおいて、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)は、12〜45程度にわたっており、引用1発明である麦芽比率100%にあたる全麦芽の例から計算されたプロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)が31.7〜34.5であることからみても、引用1発明のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7という狭い範囲に該当していることが記載されているに等しいとはいえず、本願出願時の技術常識ともいえないので、相違点2−2は、実質的な相違点である。 特許異議申立人1は、令和4年7月15日提出の意見書で、麦芽使用比率65%程度を想定し、プロリン濃度は麦芽使用比率に比例するとの前提で、引用1発明が麦芽使用比率100%で、33、38の比率のものは、本件特許発明の上記比率を満たす旨の主張、特許異議申立人2は、令和4年7月13日提出の意見書で、引用文献5の図2のプロリン比率(プロリン濃度/OE濃度)の中央値は、本件特許発明の上記比率を満たす蓋然性が高い旨の主張、特許異議申立人4は、令和4年7月14日提出の意見書で、引用文献5のピルスナーのプロリン比率(プロリン濃度/OE濃度)の値、引用文献5の図2に示されたもののうち中央値が本件特許発明を満たすものが存在すること、引用文献3のプロリン比率(プロリン濃度/OE濃度)13.3〜39.4、引用文献4のプロリン比率(プロリン濃度/OE濃度)21.1〜25.0から本件特許発明の上記比率のものを除外する理由がないことを指摘し、相違点ではない旨、それぞれ主張している。 しかしながら、本件特許発明のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)は、本件訂正によって、22.0〜29.7という狭い範囲に限定された上に、麦芽比率100%の引用1発明の上記比率は、全麦芽の例から計算されたプロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)が31.7〜34.5であることからみて、引用1発明と異なる種々の前提をおいて、計算上プロリン比率が該当することや、プロリン比率を計算した場合に数値範囲に該当する例が存在することをもって、引用1発明が、本件特許発明のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の範囲を満たしていることが、記載されているに等しい事項であるとはいえないし、技術常識であるともいえないことは上述のとおりである。 したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。 エ−1 したがって、本件特許発明2は、電子的技術情報1に記載された発明とはいえない。 ア−2 本件特許発明3と引用1発明との対比 本件特許発明3は、本件特許発明2において、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする」ことをさらに特定したものであるが、引用1発明は、麦芽使用比率が100%のものであるから、本件特許発明2と引用1発明との対比と同様に、「糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1−3:本件特許発明3が、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部と」し、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップである」もの「を除く)」と特定しているのに対し、引用1発明は「麦芽使用比率を100%」と特定している点。 相違点2−3:本件特許発明3が「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7である」ことを特定しているのに対して、引用1発明では、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が明らかでない点。 イ−2 判断 したがって、上記ア−1〜ウ−1で、本件特許発明2と引用1発明との対比判断をしたとおり、相違点1−3、相違点2−3は実質的相違点であり、本件特許発明3は、電子的技術情報1に記載された発明とはいえない。 ア−3 本件特許発明4と引用1製造方法発明との対比 引用1製造方法発明の「糖質含有量は、0.4g/100mL」は、本件特許発明4の「糖質濃度が1.1g/100mL未満」に該当する。 また、引用1製造方法発明の「アルコール含有量が3.8容量%の」「発酵ビールテイスト飲料」は、本件特許発明4の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当するといえる。 さらに、引用1製造方法発明の「ビールらしい良好な香味品質の穀物香及びコク感に優れた」は、本件特許明細書【0025】において、「風味が改善された」とは、「低糖質のビールテイスト発酵アルコール飲料において、味の調和が図られつつ、味の厚みが実現されること」と広い概念で説明されていることから、本件特許発明4の「風味が改善された」ということに相当するといえる。 したがって、本件特許発明4と引用1製造方法発明とは、「風味が改善された、糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。 相違点1−4:本件特許発明4が、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップである」もの「を除く)」と特定しているのに対し、引用1製造方法発明は「麦芽使用比率を100%」と特定している点。 相違点2−4:本件特許発明4が「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含」むことを特定しているのに対して、引用1製造方法発明では、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含むことが明らかでない点。 イ−3 相違点1−4の判断 上記イ−1で相違点1−2について検討したのと同様に、本件特許発明4においては、本件訂正によって、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)」、つまり、麦芽使用比率が50%以上において、技術常識である、酒税法に基づく、原料中麦芽の重量をホップ及び水以外の原料の重量の合計に対する比率で表した麦芽使用比率で100%のものを除くことになった。 したがって、引用1製造方法発明は「麦芽使用比率100%」の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」であるから、本件特許発明2から除かれており、相違点1−4は、実質的な相違点である。 ウ−3 相違点2−4の判断 上記ウ−1で相違点2−2について検討したのと同様に、引用文献2の摘記(2b)、引用文献3の摘記(3b)摘記(3c)、引用文献4の摘記(4d)摘記(4e)、引用文献5の摘記(5d)の記載からみて、引用文献2〜5の多種多様な一般的なビールにおいて、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の値は広い範囲にわたっており、原料や製造方法による変化を生じることは技術常識である。 そして、引用文献2においては、上記比率は12.3〜45.6の値であり、引用文献2の全麦芽の例から計算されたプロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)は31.7〜34.5である。 また、引用文献3においては、13.3〜39.4、引用文献4においては、21.1〜25.0、引用文献5においては、(12〜13)〜45程度であることが示されている。 したがって、プロリンが麦汁中から酵母細胞内にとりこまれないこと(引用文献6の摘記(6a))や、酵素が基質特異性をもっていること(引用文献7の摘記(7a))を考慮しても、多種多様な一般的なビールにおいて、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)は、12〜45程度にわたっており、引用1製造方法発明である麦芽比率100%にあたる全麦芽の例から計算されたプロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)が31.7〜34.5であることからみても、引用1製造方法発明のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7という狭い範囲に調整されて該範囲に該当していることが記載されているに等しいとはいえず、本願出願時の技術常識ともいえないので、相違点2−4は、実質的な相違点である。 エ−3 したがって、本件特許発明4は、電子的技術情報1に記載された発明であるとはいえない。 ア−4 本件特許発明6と引用1方法発明との対比 引用1方法発明の「糖質含有量は、0.4g/100mL」は、本件特許発明6の「糖質濃度が1.1g/100mL未満」に該当する。 また、引用1方法発明の「アルコール含有量が3.8容量%の発酵ビールテイスト飲料」は、本件特許発明6の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当するといえる。 さらに、引用1方法発明の「ビールらしい良好な香味品質の穀物香及びコク感に優れたものとする方法」は、本件特許明細書【0025】において、「風味改善」とは、「低糖質のビールテイスト発酵アルコール飲料において、味の調和が図られつつ、味の厚みが実現されること」と広い概念で説明されていることから、本件特許発明6の「風味改善方法」ということに相当するといえる。 したがって、本件特許発明6と引用1方法発明とは、「糖質濃度が1.1g/100mL未満であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。 相違点1−6:本件特許発明6が、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップである」もの「を除く)」と特定しているのに対し、引用1方法発明は「麦芽使用比率を100%」と特定している点。 相違点2−6:本件特許発明6が「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含」むことを特定しているのに対して、引用1方法発明では、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含むことが明らかでない点。 イ−4 相違点1−6の判断 上記イ−1で相違点1−2について検討したのと同様に、本件特許発明6においては、本件訂正によって、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)」つまり、麦芽使用比率が50%以上において、技術常識である、酒税法に基づく、原料中麦芽の重量をホップ及び水以外の原料の重量の合計に対する比率で表した麦芽使用比率で100%のものを除くことになった。 したがって、引用1方法発明は「麦芽使用比率100%」の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」であるから、本件特許発明6から除かれており、相違点1−6は、実質的な相違点である。 ウ−4 相違点2−6の判断 上記ウ−1で相違点2−2について検討したのと同様に、引用文献2の摘記(2b)、引用文献3の摘記(3b)摘記(3c)、引用文献4の摘記(4d)摘記(4e)、引用文献5の摘記(5d)の記載からみて、引用文献2〜5の多種多様な一般的なビールにおいて、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の値は広い範囲にわたっており、原料や製造方法による変化を生じることは技術常識である。 そして、引用文献2においては、上記比率は12.3〜45.6の値であり、引用文献2の全麦芽の例から計算されたプロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)は31.7〜34.5である。 また、引用文献3においては、13.3〜39.4、引用文献4においては、21.1〜25.0、引用文献5においては、(12〜13)〜45程度であることが示されている。 したがって、プロリンが麦汁中から酵母細胞内にとりこまれないこと(引用文献6の摘記(6a))や、酵素が基質特異性をもっていること(引用文献7の摘記(7a))を考慮しても、多種多様な一般的なビールにおいて、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)は、12〜45程度にわたっており、引用1方法発明である麦芽使用比率100%にあたる全麦芽の例から計算されたプロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)が31.7〜34.5であることからみても、引用1方法発明のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7という狭い範囲に調整されて該範囲に該当していることが記載されているに等しいとはいえず、本願出願時の技術常識ともいえないので、相違点2−6は、実質的な相違点である。 エ−4 したがって、本件特許発明6は、電子的技術情報1に記載された発明であるとはいえない。 (4)まとめ したがって、本件特許発明2、3、4、6は、本件特許出願前に日本国内又は外国で頒布され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2〜7を参照しても、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的技術情報1に記載された発明とはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しないので、本件特許の請求項2、3、4、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえない。 よって、本件訂正によって、前記取消理由及び取消理由(予告)の理由は解消した。 取消理由に採用しなかった特許異議申立人が申し立てた理由について 1 特許異議申立人1が申し立てた理由(理由(1−1)及び(1−2)(特許法第29条第1項第3号及び第2項))について ア 甲第3号証、甲第4号証、甲第6号証の記載について (ア)甲第3号証には、Marston’s社のResolution Low C Aleについての2004年2月の掲載記事の記載として、商品説明、製品のバリエーション、商品名等、原材料表示の記載が示され、商品説明及び商品名等に炭水化物の単位体積当たりの量が示されている。 (イ)甲第4号証には、「ライトビール用の麦汁調製にはグルコース・シラップを添加して発酵性糖含量を高めておくことも行われるほか、でん粉質副原料を減らして麦芽の使用比率を80%程度に高め窒素成分含量を多くすることがよく行われる。」(第12頁左欄36〜39行)との記載がある。 (ウ)甲第6号証には、エキス(不揮発性成分)の構成として、ビールの原料である大麦、その他の穀類中の炭水化物、蛋白質の分解生成物が大部分を占めるが、ホップや水から来る成分(苦味物質、樹脂、ミネラルなど)も含まれていること、これらの成分は、ビールのエキス中、概ね、炭水化物75〜80%、窒素化合物6〜9%、グリセリン5〜7%、ミネラル3〜4%、苦味質及びポリフェノール2〜3%、不揮発性有機酸0.7〜1%であることが示されている。 イ 本件特許発明2〜4及び6と甲第2号証に記載された発明との対比判断 甲第2号証に記載された発明としては、甲第2号証に記載されたNo.12、15及び17のライトビールについて、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)は、それぞれ、16.00、20.63、31.67と計算され、飲料中の糖質濃度の記載もない。 したがって、本件特許発明2〜4及び6と甲第2号証に記載された発明とは、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の点、飲料中の糖質濃度の点で少なくとも相違している。 甲第1号証に記載されたNo.1、3、6、8及び9のライトビールと甲第2号証に記載されたNo.12、15及び17のライトビールについては、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)は、それぞれ、23.85、39.35、18.77、31.75、20.93、16.00、20.63、31.67であり、本件特許発明2〜4及び6の上記比率22.0〜29.7を満たすものは甲第1号証に記載された1例しか存在せず、上記比率は多岐にわたっている。 また、本件特許発明2〜4及び6の飲料の糖質濃度が1.1g/100mL以下である点も、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明において、甲第6号証に記載された真性エキス濃度の一般的成分割合から炭水化物濃度を計算するとの前提、甲第3号証の商品名のものが甲第2号証に記載されたNo.17のものと同一成分組成を有しているという前提、ライトビールが一般的製造方法で製造されたことを推定するという前提、糖質濃度は炭水化物濃度以下であるとの前提にたった上で計算し、対比することで、両者に飲料の糖質濃度に実質的相違点がないと特許異議申立人1は判断しているが、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明において、甲第6号証、甲第3号証をはじめとした別の文献に示された成分割合や同じ商品名の成分組成を計算に使用することや一般的製造方法で製造されたことを前提しなければならない理由はない。 したがって、本件特許発明2〜4及び6と甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明との対比判断において、特許異議申立人1の主張は前提において失当であり、後者のオリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が本件特許発明1〜4及び6の22.0〜29.7という狭い範囲を満たしていることが甲第1号証又は甲第2号証に記載されているに等しいとはいえないし、後者の飲料の糖質濃度が1.1g/100mL以下であることも甲第1号証又は甲第2号証に記載されているに等しいともいえないので、両者の間に実質的相違点が存在する。 また、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明は、各国のビールが単に例示されているだけであり、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)や飲料の糖質濃度の範囲に変更する動機付けはないので、本件特許発明2〜4及び6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1〜7号証に記載された技術的事項を考慮しても、上記オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)に関する相違点、飲料中の糖質濃度に関する相違点は、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易になし得た技術的事項とはいえない。 そして、本件特許発明2〜4、6は、本件特許発明の構成全体によって、本件特許明細書実施例3、4に示されるように味の調和を図りつつ味の厚みが実現されたビールテイスト発酵飲料を提供できるという予測できない顕著な効果を奏している。 したがって、本件特許発明2〜4及び6は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1〜7号証に記載された技術的事項を考慮しても当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 ウ 以上のとおり、特許異議申立人1が申し立てた理由(1−1)及び(1−2)には、理由がない。 2 特許異議申立人2が申し立てた理由(理由(2−2)(特許法第29条第2項))について ア 本件特許発明2〜4及び6と甲第1号証に記載された発明との対比・判断 本件特許発明2〜4及び6と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、当審合議体が通知した取消理由の判断の前記(3)で検討したとおりの一致点を有し、麦芽使用比率に関する相違点1(前記相違点1−2と同一:本件特許発明2が、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップである」もの「を除く)」と特定しているのに対し、甲第1号証に記載された発明は「麦芽使用比率を100%」と特定している点。)、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)に関する相違点2(相違点2−2と同一:本件特許発明2が「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7である」ことを特定しているのに対して、甲第1号証に記載された発明では、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が明らかでない点。)を有し、本件特許発明3、4、6についても取消理由の判断の前記(3)で検討したとおりの一致点・相違点を有する。 甲第1号証に記載された発明は、麦芽使用比率100%のビールテイスト飲料であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)に着目しているわけでもなく、甲第2号証〜甲第6号証に記載された事項を考慮しても、その比率を22.0〜29.7という狭い範囲に変更する動機付けがないことはすでに述べたとおりである。 イ 以上のとおり、特許異議申立人2が申し立てた理由(理由(2−2))には、理由がない。 3 特許異議申立人3が申し立てた理由(理由(3−1)(特許法第29条第1項第3号)、理由(3−2)及び(3−3)(特許法第29条第2項))について (1)甲第2、3、4、6、8号証の記載について ア 甲第2号証の記載 ビールの成分を大別すると、水 91〜93%、エタノール3.3%、二酸化炭素0.42〜0.55%の揮発性物質、エキス 3.1〜4.0%の不揮発性物質4からなり、エキスは、真性エキス(Real Extract)ともいい、いわゆる不揮発性固形分のことであることが示されている。 イ 甲第3号証の記載 ビールの比重20°/20°℃で1.0070、1.0060、1.0101、1,0130のものが示されている。 ウ 甲第4号証の記載 American Light Lagerに関する記載として、1967年にはじめて製造され、1973年に大衆的になり、1990年代には米国で最大の売れ行きとなったこと、大麦への添加物が40%までの高いパーセンテージで添加されたことが示されている。 エ 第8号証の記載 「1 ライトビールの登場 世界のビールの体勢を占めているピルスナー・タイプのビールの濃度は、原麦汁濃度として10〜12%の範囲にあるものが多かったが,近年低下する傾向がある.1970年代に入ると原麦汁濃度8%前後の軽くすっきりした香味を特徴とするライトビールが新しく登場してきた(26〜29).アメリカで原麦汁濃度約8%のビールがカロリーが少ないこと,糖含量が少なく糖尿病患者にも飲めることなどを特徴として売り出されたのは1967年であるが,従来のビールより飲みやすく,うまい新しいビール,Light Beer,の市民権が確立したのは1973年Miller社が“Miller Light”を発売して大成功してからである.アメリカでは1979年までに30銘柄のライトビールが売り出され,その生産量はビール生産量の10%(1984年には20%)にも及んだ.これらのライトビールとは従来のビールより軽快な香味を与えるビールを包括,呼称したものであって,品質,醸造方法ともに規格化されたものではない.・・・また,麦汁濃度を所定の6〜8%より高濃度に調製して発酵させエステル類を十分に生成させた後,発酵液を炭酸ガス水で希釈する「高濃度発酵法」がほとんどのライトビールに採用されている(26〜29).」(799頁右欄2〜29行) 甲第6号証については、「当審合議体が通知した取消理由の判断」の(1)エの引用文献4の摘記参照。 (2)理由(3−1)(特許法第29条第1項第3号)、理由(3−2)(特許法第29条第2項)について ア 特許異議申立人3の提出した甲第1号証は、特許異議申立人1の提出した甲第1号証と実質的に同一の証拠であり、甲第1号証に記載された発明として、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が23.85であるNo.1のアメリカンライトビール」(以下「甲1−3発明」という。)が認定できる。 イ 本件特許発明2〜4、6と甲1−3発明とを対比すると、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7であるビールテイスト発酵アルコール飲料。」に関する発明である点で一致し、以下の点で少なくとも相違する。 相違点1−甲1−3:本件特許発明2〜4、6が、「麦芽使用比率が50%以上」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップである」もの「を除く)」と特定しているのに対し、甲1−3発明は麦芽使用比率があきらかでない点。 相違点2−甲1−3:本件特許発明2〜4、6が「糖質濃度が1.1g/100mL未満である」ことを特定しているのに対して、甲1−3発明では、糖質濃度が明らかでない点。 相違点1−甲1−3及び相違点2−甲1−3についてあわせて検討すると、甲第1号証には、甲1−3発明の麦芽使用比率や糖質濃度に関して記載がなく、甲第2〜5号証を考慮しても、同じ会社のライトビールが同じ成分組成を有するとはいえないのは明らかであり、甲1−3発明の麦芽使用比率や糖質濃度が本件特許発明2〜4、6のものと同じであるとの本件出願時の技術常識でもないので、相違点1−甲1−3及び相違点2−甲1−3はいずれも、実質的相違点であり、本件特許発明2〜4、6は、甲第2〜5号証を参照しても、甲第1号証に記載された発明とはいえない。 また、甲1−3発明は、アメリカンライトビールの一成分組成を示したものにすぎず、甲第1号証は、その麦芽使用比率や糖質濃度に着目したものではないのであるから、同一のライトビールに関するものでもない別の文献である甲第2〜5号証を考慮しても、相違点1−甲1−3及び相違点2−甲1−3に関する本件特許発明2〜4、6の範囲に麦芽使用比率や糖質濃度を特定する動機付けはないといえる。 そして、本件特許発明2〜4、6は、本件特許発明の構成全体によって、本件特許明細書実施例3、4に示されるように味の調和を図りつつ味の厚みが実現されたビールテイスト発酵飲料を提供できるという予測できない顕著な効果を奏している。 したがって、本件特許発明2〜4及び6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜5号証に記載された技術的事項を考慮しても当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 (3)理由(3−3)(特許法第29条第2項)について ア 特許異議申立人3の提出した甲第6号証には、甲第6号証に記載された発明として、「59.55%の大麦麦芽を主原料とし、40.45%の米を副原料として添加し、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が25.0である最適化プロセスで調製したライトビール」(以下「甲6−3発明」という。)が認定できる。 イ 本件特許発明2〜4、6と甲6−3発明とを対比すると、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7である、ビールテイスト発酵アルコール飲料(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)。」に関する発明である点で一致し、以下の点で少なくとも相違する。 相違点1−甲6−3:本件特許発明2〜4、6が「糖質濃度が1.1g/100mL未満である」ことを特定しているのに対して、甲6−3発明では、糖質濃度が明らかでない点。 相違点1−甲6−3について検討すると、甲第6号証には、甲6−3発明の糖質濃度に関して記載がなく、甲第7、8号証を考慮しても、たまたま麦芽比率100%のものにおいて、糖質濃度が低いビールテイスト発酵アルコール飲料が存在していたり、ライトビールに関する文献において、糖含量が少ないものとして売り出されたという一般的記載があるからといって、甲第8号証に記載されるように、ライトビールといっても品質、醸造方法とも規格化されたものではないのであるから、甲6−3発明の糖質濃度が本件特許発明2〜4、6のものと同じであるとの本件出願時の技術常識があったとはいえず、相違点1−甲6−3は実質的相違点である。 また、甲6−3発明は、ビール醸造中のエステル系物質の影響因子に関する文献であり、ライトビールの最適化一成分組成を示したものにすぎず、甲第6号証は、糖質濃度に着目したものではないのであるから、同一のライトビールに関するものでもない別の文献である甲第7、8号証を考慮しても、相違点1−甲6−3に関する本件特許発明2〜4、6の範囲に糖質濃度を特定する動機付けはないといえる。 そして、本件特許発明2〜4、6は、本件特許発明の構成全体によって、本件特許明細書実施例3、4に示されるように味の調和を図りつつ味の厚みが実現されたビールテイスト発酵飲料を提供できるという予測できない顕著な効果を奏している。 したがって、本件特許発明2〜4及び6は、甲第6号証に記載された発明及び甲第7、8号証に記載された技術的事項を考慮しても当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 ウ 以上のとおり、特許異議申立人3が申し立てた理由(理由(3−1)、(3−2)、(3−3))には、理由がない。 4 特許異議申立人4が申し立てた理由(理由(4−1)(特許法第36条第4項第1号)、理由(4−2)(特許法第36条第6項第1号)、理由(4−3)(特許法第36条第6項第2号)))について (1)理由(4−1)(特許法第36条第4項第1号)について ア 発明の詳細な説明の記載 本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項2、4〜6に係る発明に関する記載として、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除いて以下の記載がある。 まず、【0005】【0006】には、発明が解決しようとする課題の記載、【0013】【0014】には、糖質濃度の範囲及び測定方法に関する記載、【0015】〜【0017】には、オリジナルエキス濃度、プロリン濃度及びそれらの測定方法、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の範囲の記載、【0018】〜【0023】【0025】には、本件特許発明のビールテイスト発酵飲料の製造方法として、糖質の低減方法、プロリン比率の調整方法、未発芽の麦原料の説明(【0022】)も含めた記載、【0027】には、低糖質のビールテイスト発酵飲料の風味改善方法の記載がそれぞれある。 また、具体例として、糖質濃度測定、オリジナルエキス濃度、アミノ酸測定によるプロリン濃度測定の詳細な記載が示され、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料においてプロリン比率が味の厚みに与える影響に関する実施例1、麦芽使用比率67%以上の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の調製およびプロリン比率が味の厚みに与える影響の分析に関する実施例3、4が官能評価結果と共に示され、本件特許発明に対応したプロリン比率が22.0、22.5、26.5〜29.7のものが味の調和を図りつつ味の厚みが実現されていることを確認した旨考察されている。 イ 判断 上記アのとおり、本件の発明の詳細な説明には、本件特許発明に関し、そのビールテイスト発酵飲料を製造できるように、糖質濃度の範囲及び測定方法に関する記載、オリジナルエキス濃度、プロリン濃度及びそれらの測定方法、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の範囲の記載、本件特許発明のビールテイスト発酵飲料の製造方法として、糖質の低減方法、プロリン比率の調整方法、未発芽の麦原料の説明も含めた記載、低糖質のビールテイスト発酵飲料の風味改善方法の記載があり、該記載や本件特許発明に対応する具体的実施例3、4の記載もあるから、それらの記載を参考にすれば、本件の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。 ウ 特許異議申立人4は、実施例の糖質濃度が特許請求の範囲の全範囲で検討されていないことや、実施例4の記載が不十分であることを指摘して、麦芽使用比率50%以上で、糖質濃度が0.6g/100mL未満であるビールテイスト発酵飲料の製造方法を開示していない旨主張しているが、上述のとおり、当業者であれば、本件特許発明のビールテイスト発酵飲料の各パラメータの調整方法を含めた一般的記載(【0020】には、糖質濃度の低下方法が各種示されている。)と、実施例3、4の記載を参考に、実施できるといえ、上記特許異議申立人4の実施可能要件に関する主張は採用できない。 エ したがって、特許異議申立人4の理由(4−1)には、理由がない。 (2)理由(4−2)(特許法第36条第6項第1号)について ア 特許法第36条第6項第1号の判断の前提 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 特許請求の範囲の記載 前記第3のとおり、請求項2には、「糖質濃度が1.1g/100mL未満であ」ること、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)」ものであること、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7である」ことが特定されたビールテイスト発酵アルコール飲料の発明が記載されている。 また、請求項3には、請求項2において、「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする」ことをさらに特定した、ビールテイスト発酵アルコール飲料の発明が記載されている。 さらに、請求項4には、「風味が改善された、糖質濃度が1.1g/100mL未満であ」るものであること、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法を除く)。」ものであること、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法」であることが特定されたビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法の発明が記載されている。 そして、請求項6には、「糖質濃度が1.1g/100mL未満であ」るものであること、「麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、」「(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法を除く)。」ものであること、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法」であることが特定されたビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法の発明が記載されている。 ウ 発明の詳細な説明の記載 前記(1)アに記載のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項2、4〜6に係る発明に関する記載として、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除いて以下の記載がある。 まず、【0005】【0006】には、発明が解決しようとする課題の記載、【0013】【0014】には、糖質濃度の範囲及び測定方法に関する記載、【0015】〜【0017】には、オリジナルエキス濃度、プロリン濃度及びそれらの測定方法、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の範囲の記載、【0018】〜【0023】【0025】には、本件特許発明のビールテイスト発酵飲料の製造方法として、糖質の低減方法、プロリン比率の調整方法、未発芽の麦原料の説明(【0022】)も含めた記載、【0027】には、低糖質のビールテイスト発酵飲料の風味改善方法の記載がそれぞれある。 また、具体例として、糖質濃度測定、オリジナルエキス濃度、アミノ酸測定によるプロリン濃度測定の詳細な記載が示され、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料においてプロリン比率が味の厚みに与える影響に関する実施例1、麦芽使用比率67%以上の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の調製およびプロリン比率が味の厚みに与える影響の分析に関する実施例3、4が官能評価結果と共に示され、本件特許発明に対応したプロリン比率が22.0、22.5、26.5〜29.7のものが味の調和を図りつつ味の厚みが実現されていることを確認した旨考察されている。 エ 判断 (ア)本件特許発明の課題は、本件特許明細書【0005】【0006】の記載及び本件特許明細書全体を参酌して、本件特許発明2、3の課題は、味の調和を図りつつ味の厚みが実現された低糖質のビールテイスト発酵アルコール飲料を提供することであり、本件特許発明4、6の課題は、それぞれ、該ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法の提供、該ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法の提供にあると認める。 (イ)上記ウのとおり、本件の発明の詳細な説明には、本件特許発明に関し、そのビールテイスト発酵飲料に関し、発明特定事項である糖質濃度、麦芽使用比率、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)に関する説明記載があると共に、本件特許発明のビールテイスト発酵飲料を製造できるように、糖質濃度の範囲及び測定方法に関する記載、オリジナルエキス濃度、プロリン濃度及びそれらの測定方法、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)の範囲の記載、本件特許発明のビールテイスト発酵飲料の製造方法として、糖質の低減方法、プロリン比率の調整方法、未発芽の麦原料の説明も含めた記載、低糖質のビールテイスト発酵飲料の風味改善方法の記載があり、該記載や本件特許発明に対応する具体的実施例3、4の記載もあるから、それらの記載を参考にすれば、本件の発明の詳細な説明には、当業者が本件特許発明の課題を解決できることを認識できるといえる。 (ウ)特許異議申立人4は、実施例の糖質濃度が特許請求の範囲の全範囲で検討されていないことや、実施例4の記載が不十分であることを指摘して、麦芽使用比率50%以上で、糖質濃度が0.6g/100mL未満であるビールテイスト発酵飲料を得ることはできず、その範囲でサポート要件を満たさない旨主張しているが、上述のとおり、当業者であれば、本件特許発明のビールテイスト発酵飲料の各パラメータの調整方法を含めた一般的記載と、実施例3、4の記載を参考に(【0020】には、糖質濃度の低下方法が各種示されている。)、麦芽使用比率50%以上で、糖質濃度が0.6g/100mL未満であるビールテイスト発酵飲料を得ることは理解できるといえ、上記特許異議申立人4のサポート要件に関する主張は採用できない。 オ したがって、特許異議申立人4の理由(4−2)には、理由がない。 (3)理由(4−3)(特許法第36条第6項第2号)について ア 請求項4、6の「【請求項4】 風味が改善された、糖質濃度が1.1g/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法・・・。」、 「【請求項6】 糖質濃度が1.1g/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法・・・。」との記載において、「オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整すること」という特定事項は、プロリン比率を特定範囲に調整することが、ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法又は風味改善方法において存在しているものとして文言どおり理解でき、第三者の不測の不利益が生じるほどに不明確なものとはいえない。 イ 特許異議申立人4は、実施例ではプロリンを添加しているのみで、「調整する」という語が具体的にどのような行為をいうのか不明であるから、請求項4、6に係る発明は、明確ではない旨主張しているが、実施例における添加によるプロリン比率の調整だけでなく、【0023】に記載されるようにプロリン比率を所定範囲に調整する方法が記載されているのであるから、上記特許請求の範囲の「調整する」という記載をそのまま理解すればよく、特許異議申立人4の主張するような不明確な点はない。 ウ したがって、特許異議申立人4の理由(4−3)には、理由がない。 5 特許異議申立人の意見書の主張について (1)特許異議申立人1の意見書の主張について ア 特許異議申立人1は、令和4年2月10日に提出した意見書において、甲第8〜12号証(参考資料として扱う。)を提出して、麦芽使用比率を100%未満にすることは当業者が容易になし得る、プロリン比率が一部の例を除き、甲第8〜10号証においても20〜80の範囲に入ること、甲第11、12号証から麦芽使用比率によらず、プロリン比率ほぼ同じであり、本件特許発明と引用1発明との相違点は、実質的相違点でないか、当業者が容易になし得るものである旨主張している。 しかしながら、本件訂正により、プロリン比率は、22.0〜29.7という狭い範囲に限定され、本件特許発明は、その構成全体から予測できない顕著な効果を奏しているので、すでに検討したように、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものともいえない。 イ 特許異議申立人1は、令和4年7月15日に提出した意見書において、甲第13、14号証(参考資料として扱う。)を提出して、引用文献3(甲第1号証)のNo.1のライトビールがプロリン比率が23.8で、概算炭水化物が0.98g/100mLであるとの前提のもと、麦芽使用比率の点のみで相違する旨主張し、Miller Light Beerとの商品名のものの原材料記載に関する甲第13号証、米国の連邦行政規制集のビールの生産基準に関する甲第14号証を考慮して、麦芽使用比率を50%以上100%未満とすることは周知であるので、進歩性を欠如している旨主張している。 しかしながら、同一商品名のものが同一の成分組成を有することや概算炭水化物からの糖質含有量の計算の前提が成り立つとはいえないことは上述のとおりで、甲第13及び14号証を考慮しても、単にアメリカンライトビールの商品の一つとして提示されているにすぎない甲第1号証に記載された発明(No.1のライトビール)から当業者が容易に発明することができたものともいえない。 (2)特許異議申立人2の意見書の主張について ア 特許異議申立人2は、令和4年2月10日に提出した意見書において、参考資料1〜18を提出して、プロリン比率(プロリン濃度/OE濃度)の大半は、30〜40程度であることから、本件特許発明と引用1発明(甲第1号証に記載された発明)との相違点は、実質的相違点でないか、当業者が容易になし得るものである旨主張している。 しかしながら、本件訂正によりプロリン比率(プロリン濃度/OE濃度)は、22.0〜29.7に限定されており、引用1発明の麦芽使用比率100%にあたる全麦芽の例から計算されたプロリン濃度(mg/L)/OE濃度(°P)が31.7〜34.5であることからみても(甲第2号証)、引用1発明(甲第1号証に記載された発明)のプロリン比率が22.0〜29.7に該当していることが記載されているに等しいとはいえないし、上記数値範囲に変更する動機付けはない。 また、本件特許発明は、その構成全体から予測できない顕著な効果を奏しているので、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものともいえない。 イ 特許異議申立人2は、令和4年7月13日に提出した意見書において、本件特許発明と引用1発明(甲第1号証に記載された発明)との対比において、麦芽使用比率とプロリン比率の点で一応相違しているが、明細書の麦芽使用比率の取り得る範囲の一般的記載があるのでその範囲も包含していること及びビールのプロリン比率が20〜80程度であって、22.0〜29.7は十分取り得る範囲であることを指摘して、本件特許発明が新規性・進歩性を欠如している旨主張している。 しかしながら、本件特許発明は、麦芽使用比率、糖質濃度、プロリン比率を同時に特定し、当業者の予測できない顕著な効果を奏するビールテイスト発酵飲料に関する発明であって、実施例から認定した引用1発明に関して、甲第1号証の一般的記載の麦芽使用比率をも包含しているとはいえないことはもちろん、麦芽使用比率を変更する動機付けもない。 また、プロリン比率についても、ビールのプロリン比率が20〜80程度であることが知られていたとしても、麦芽使用比率、糖質濃度を特定の範囲にした上で、プロリン比率を22.0〜29.7という特定の範囲に同時に特定することには、動機付けがないし、本件特許発明は、当業者の予測できない顕著な効果を奏するといえる(プロリン比率の特定自体に進歩性との関係で、臨界的意義が必ず要求されるわけではない。)。 したがって、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明とはいえないし、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものともいえない。 (3)特許異議申立人3の意見書の主張について 特許異議申立人3は、令和4年2月9日に提出した意見書において、参考資料1及び2を提出して、参考資料1のNo.146のKaloriusとの商品名のビールのプロリン比率が28と計算できること、参考資料2の同一商品名の材料の記載に基づき麦芽使用比率と糖質濃度(糖質濃度の計算にはさらに甲第4号証を用いている。)を計算し、甲第1号証に記載された発明だけでなく、参考資料1に記載された発明(No.146)も本件特許発明と相違しない旨主張している。 しかしながら、同一商品名のものが同じ成分組成を有するとは限らず、糖質濃度の計算の前提が成立するとはいえないことはすでに述べたとおりであるので、本件特許発明は、参考資料1に記載された発明であるともいえない。 (4)特許異議申立人4の意見書の主張について 特許異議申立人4は、令和4年7月14日に提出した意見書において、本件特許発明の新規性欠如に関して、本件訂正により特定されたプロリン比率22.0〜29.7という範囲は、引用文献3、引用文献4、引用文献5にも開示されており引用1発明において除外して考える理由がないこと、及び甲第3号証(参考資料として扱う。)を提出して、甲第3号証記載の発明において、引用文献3〜5に記載されたプロリン比率を参照すると、プロリン比率22.0〜29.7という範囲に含まれる蓋然性が高いこと、本件特許発明の進歩性欠如に関して、引用文献4の最適化プロセスの例に係る発明において、糖質濃度を本件特許発明の範囲に特定するのは容易であることを、それぞれ主張している。 しかしながら、多種多様な一般的なビールにおいて、プロリン比率は、12〜45程度にわたっており、引用1発明である麦芽比率100%にあたる全麦芽の例から計算されたプロリン比率が31.7〜34.5であることからみても、引用1発明の上記比率が22.0〜29.7という狭い範囲に該当していることが記載されているに等しいとはいえないし、甲第3号証記載の発明に関しては、糖質濃度や麦芽使用比率の認定に用いる根拠が十分に示されていない上に、別の文献である引用文献3〜5から計算されたプロリン比率のさらに特定の範囲である蓋然性が高いということもいえない。 さらに、引用文献4の最適化プロセスの例は、ビール醸造中のエステル系物質の影響因子に関する引用文献4において、ライトビールの最適化一成分組成を示したものにすぎず、甲第6号証は、糖質濃度に着目したものではないのであるから、糖質濃度を本件特許発明の範囲に特定することが容易であるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおり、本件請求項2〜4、6に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。 また、ほかに本件請求項2〜4、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 本件訂正によって、請求項1、5に係る特許は削除されたので、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項1、5に係る特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 糖質濃度が1.1/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)が22.0〜29.7である、ビールテイスト発酵アルコール飲料(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料を除く)。 【請求項3】 麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする、請求項2に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。 【請求項4】 風味が改善された、糖質濃度が1.1g/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法を除く)。 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 糖質濃度が1.1g/100mL未満であり、かつ、麦芽使用比率が50%以上であるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、オリジナルエキス濃度(OE濃度)(°P)に対する飲料中のプロリン濃度(mg/L)の比率(プロリン濃度/OE濃度)を22.0〜29.7に調整することを含んでなる方法(但し、使用原料が水、麦芽及びホップであるビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法を除く)。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-09-16 |
出願番号 | P2016-165908 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C12C)
P 1 651・ 113- YAA (C12C) P 1 651・ 536- YAA (C12C) P 1 651・ 537- YAA (C12C) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
木村 敏康 |
特許庁審判官 |
伊藤 佑一 瀬良 聡機 |
登録日 | 2021-01-20 |
登録番号 | 6826840 |
権利者 | キリンホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料 |
代理人 | 大森 未知子 |
代理人 | 榎 保孝 |
代理人 | 榎 保孝 |
代理人 | 横田 修孝 |
代理人 | 大森 未知子 |
代理人 | 横田 修孝 |