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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D04H 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 D04H 審判 全部申し立て 2項進歩性 D04H |
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管理番号 | 1392016 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-10-14 |
確定日 | 2022-10-03 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6866895号発明「無機繊維シート、ハニカム成形体およびハニカムフィルタ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6866895号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6866895号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6866895号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)10月24日(優先権主張2016年10月24日、日本国)を国際出願日としたものであって、令和3年4月12日にその特許権の設定登録がされ、令和3年4月28日に特許掲載公報が発行された。その特許について、令和3年10月14日に特許異議申立人岩部英臣(以下、「申立人A」という。)により、請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てがされ、令和3年10月26日に特許異議申立人真柴かよ子(以下、「申立人B」という。)により、請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。 特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和3年10月14日 申立人Aによる特許異議の申立て 令和3年10月26日 申立人Bによる特許異議の申立て 令和4年 2月 8日付け 取消理由通知 令和4年 4月14日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和4年 7月25日 申立人Aによる意見書の提出 令和4年 7月26日 申立人Bによる意見書の提出 第2 訂正の適否 1.訂正の内容 令和4年4月14日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の 「ガラス繊維を、総質量に対して50質量%を超えて含む無機繊維シートであって、 当該無機繊維シートの総量に対して、有機繊維を3〜20質量%含有し、 前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり、 前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である、無機繊維シート。」 との記載を、 「コルゲート加工してハニカム成形体とした後に機能材料を担持するための無機繊維シートであって、 当該無機繊雉シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有し、 前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり、 前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である、無機繊維シート。」 に訂正する。 2.訂正の要件 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「無機繊維シート」を、「コルゲート加工してハニカム成形体とした後に機能材料を担持するための無機繊維シート」に限定し、さらに「無機繊雉シートの総量」に対して、「ガラス繊維」について「95質量%以下含」むこと及び「バインダーを1〜25質量%含有」することを限定したものであり、特許請求の範囲を減縮するものといえる。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更 訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1に係る発明を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 ウ 新規事項の有無 願書に添付した明細書には、 (ア)「【0011】 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、コルゲート加工適性に優れ、かつ充分な強度と機能材料の担持量とを有する無機繊維シート、該無機繊維シートを用いたハニカム成形体、及びこれらを備えたハニカムフィルタを提供することを課題とする。」 (イ)「【0016】 (ガラス繊維) 無機繊維シート中のガラス繊維の含有量は、当該無機繊維シート全体の質量に対して、50質量%超である。無機繊維シート中のガラス繊維の含有量は、当該無機繊維シート全体の質量に対して、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。無機繊維の含有量が上記範囲の下限値超では、該無機シートを焼成したときに、焼成により焼失する有機分が多くなり過ぎず、焼成後に必要な強度を維持しやすい。ガラス繊維の含有量の上限は、特に制限はないが、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。上記範囲の上限値以下であれば、必要な機械的強度やハンドリング性を確保することができる。」 (ウ)「【0041】 無機繊維シートに対する有機バインダー成分の含有量は、1〜25質量%であることが好ましく、3〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%がさらに好ましい。有機バインダー成分の含有量が上記範囲の下限値以上であると、繊維同士を充分に結合することができる。上記範囲の上限値以下であると、無機繊維シートを焼成したときに、焼失する有機バインダー成分の量が少なく、優れたフィルタを製造できる。 (エ)「【0057】 ハニカム成形体は、先ず、上述した無機繊維シートに対してコルゲート加工を施すことにより、波型(凹凸)を付与する。次いで、コルゲート加工した無機繊維シート(中芯紙)と、コルゲート加工をしていない無機繊維シート(ライナー)とを接着して片波成形体を製造する。そして、複数の片波成形体を積層したり、円筒状にしたりすることで、ハニカム成形体が得られる。 その際に使用する接着剤としては、コロイダルシリカ、水ガラス、セピオライト、アルミナゾル等の無機糊が挙げられ、これらのうちの1種以上を使用できる。また、接着剤としては、エチレン−ビニルアルコール等の有機糊を併用してもよい。 本実施形態のハニカム成形体は、そのまま用いてもよく、焼成して用いてもよい。 【0058】 <ハニカムフィルタ> 次に、本発明を適用した一実施形態であるハニカムフィルタの構成の一例について、説明する。 本実施形態のハニカムフィルタは、上述したハニカム成形体に少なくとも1種の機能材 料を担持することによって得られる。」 と記載されており(下線は当審で付した。以下同様。)、訂正事項1は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でする訂正である。 エ 一群の請求項について 訂正前の請求項1〜5は、請求項2〜5が、請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項〔1−5〕について請求されている。 2 小括 以上のとおり、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、本件訂正により、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正による訂正は認められるから、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 コルゲート加工してハニカム成形体とした後に機能材料を担持するための無機繊維シートであって、 当該無機繊雉シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有し、 前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり、 前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である、無機繊維シート。 【請求項2】 空気中において500℃で2時間焼成した後の灰分量が、60質量%以上である、請求項1に記載の無機繊維シート。 【請求項3】 1.0kg荷重での抄紙方向の耐折回数が5回以上である、請求項1又は2に記載の無機繊維シート。 但し、前記耐折回数は、JIS P 8115 耐折強さ試験法に準じ、MIT試験機を用い、荷重1.0kgにて、試験片を10個測定した平均回数を算出した値である。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無機繊維シートがハニカム状に加工された、ハニカム成形体。 【請求項5】 請求項4に記載のハニカム成形体に、シリカゲル、ゼオライト、セピオライト、活性炭およびイオン交換樹脂からなる群より選ばれる1種以上の機能材料が担持された、ハニカムフィルタ。 第4 取消理由通知に記載した取消理由 当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 1(新規性)本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1、2又は3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。 2(進歩性)本件特許の請求項1、2、4及び5に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献1、2又は3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許は取り消すべきものである。 3(サポート要件)PET繊維より弾性率が低い有機繊維や、PET繊維より伸度が高い有機繊維を用いた場合、コルゲート加工時における有機繊維の反発力が弱くなり、結果として無機繊維シートの屈曲時に十分な柔軟性を持たせることができなくなる可能性を否定できないから、PET繊維以外の有機繊維を含に得る本件特許の請求項1〜5に係る発明は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 引用文献1:特開平3−174086号公報(申立人Aの提出した甲第1号証) 引用文献2:特開2016−79553号公報(申立人Aの提出した甲第2号証) 引用文献3:特開2006−212509号公報(申立人Bの提出した甲第1号証) 引用文献4:玉井輝夫“繊維の太さ測定法(レーザースキャン法)”地方独立行政法人大阪産業技術研究所テクニカルシートNo.98056,地方独立行政法人大阪産業技術研究所,1999年2月17日(申立人Aの提出した甲第7号証) 引用文献5:板倉省吾“JIS P8251 紙,板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼法”第1刷、財団法人日本規格協会、平成15年5月20日(申立人Bの提出した甲第7号証) 引用文献6:白取吉敏“合成繊維の発展と最新の展望”相愛女子大学相愛女子短期大学研究論集、15巻、1968年、p1〜33(申立人Aの提出した甲第9号証) 第5 当審の判断 1 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項(新規性及び進歩性)について (1)引用文献等 ア 引用文献1・引用発明1 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 (ア)−1 「(1)ガラス繊維を50%以上含むガラス繊維紙の湿式による製造においてワイヤーから剥離後のワイヤー側の湿紙面に円網またはダンディロールを密着させるガラス繊維紙の製造方法。 (2)ガラス繊維を50%以上含むガラス繊維紙の湿紙による製造において、乾燥後のガラス繊維シートに水を付与し、ドライヤーに圧着させるガラス繊維紙の製造方法。」(第1ページ左下欄第5行〜第12行) (ア)−2 「ガラス繊維は、無機繊維のため化学的に安定しており(まる1)(当審注:円の中心に数字1〜6が記載された文字を「(まる1)」〜「(まる6)」という。以下同じ。)耐熱性に優れている(まる2)寸法安定性に富んでいる(まる3)耐薬品に優れている(まる4)不燃性である(まる5)電気絶縁性が大である(まる6)無公害であるなどの特徴をもつ。ガラス繊維紙は上記の特徴を持つガラス繊維をシート化したものであり、クッションフロアのパッキング材、タイルカーペットのパッキング材、ルーフィング材等の建材用途、銅張り積層板用等の電気材料用途、バッテリーセパレークー等のフィルター用途等に使用される。」(第1ページ右欄第2〜11行) (イ)「・・・ガラス繊維の形態はガラス繊維紙の強度特性の必要から一般的には繊維径2〜13μm1繊維長6〜13mのチョツプドスラントが使用される。ガラス繊維の割合は接着剤を除いた繊維分のなかでは100%が一般的であるが、用途によりビニロン、ポリエステル、ナイロン等の化学繊維やロックウール等の無機繊維を一部混合使用することもあり、本発明の趣旨を妨げない限り可能であるが、本発明が有効に作用するのはガラス繊維が50%以上含有するガラス繊維紙であり、特に好ましくは90%以上含有するガラス繊維紙である。・・・」(第2ページ左下欄第6行〜第17行) (ウ)「実施例1 ガラス繊維(富士ファイバー製 Eガラス 径9μm 長さ13mm)100部を円網の抄紙機で20g/rdでシート化し、ワイヤーより剥離してきたガラス繊維シートを毛布に移送し、ワイヤーに接していた側に円網(平織80メツシユ)を密着させ、ガラス繊維シートを毛布と同時に毛布の上のクーチロールと円網とで軽く押えた。その後、含浸工程にて接着剤としてエポキシ樹脂(大日本インキ製 デイックファインEN−0270)を10部となるよう含浸しエンドレスメツシュワイヤー熱風貫通方式で乾燥した。ガラス繊維紙の毛羽立ちは表1に示す通りであった。」(第3ページ左下欄第7行〜第19行) (エ)「実施例3 繊維をガラス繊維(富士ファイバー製 Eガラス 径9μm 長さ13mm)95部、ポリエステル繊維(東レ製 東レテトロン5402繊度2デニール 長さ6mm)5部とする以外、実施例1と同様の方法でガラス繊維紙を得た。毛羽立ちは表1に示す通りであった。」(第3ページ右下欄第8行〜第14行) (オ)「 」(第4ページ左下欄表1) 以上の記載について特に実施例3に着目すると、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。 (引用発明1) 「ガラス繊維95部、ポリエステル繊維5部、エポキシ樹脂10部を含有し、 ポリエステル繊維が繊度2デニール、長さ6mmであり、 ガラス繊維が径9μm、長さ13mmである、ガラス繊維紙。」 イ 引用文献2・引用発明2 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【0005】 本発明は、FRP成形体の成形材料として使用した場合に、曲げ弾性率の高いFRP成形体を製造できる不織布と、該不織布の製造方法と、該不織布が加熱加圧成形されたFRP成形体の提供を目的とする。」 (イ)「【0009】 以下、本発明を詳細に説明する。 <不織布> 本発明の不織布は、扁平ガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維とを含み、FRP成形体の成形材料(繊維強化プラスチック成形体用基材)等として好適に使用されるものである。本発明の不織布は、詳しくは後述するように1枚で、または2枚以上重ねられて、加熱加圧成形されることにより、FRP成形体に成形される。 【0010】 [扁平ガラス繊維] 扁平ガラス繊維は、本発明の不織布を用いて成形されたFRP成形体において、補強材として作用するものである。 本明細書において扁平ガラス繊維とは、断面が扁平形状であり、該断面の長径と短径との比(長径/短径)が1.5〜8の範囲内にあるガラス繊維をいう。 」 (ウ)「【0023】 熱可塑性樹脂の種類としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル等が挙げられ、FRP成形体の用途等に応じて、1種以上を選択できる。ポリカーボネートおよびポリエーテルイミドは、非結晶性熱可塑性樹脂であり、ガラス転移温度が120℃以上の樹脂に該当する。ポリプロピレン、ポリアミド、PET等のポリエステルは、結晶性熱可塑性樹脂であり、融点が150℃以上の樹脂に該当する。・・・」 (エ)「【0025】 熱可塑性樹脂繊維は、融点またはガラス転移温度の高い熱可塑性樹脂からなる芯の外周上に、融点またはガラス転移温度の低い熱可塑性樹脂からなる鞘が形成された芯鞘型構造の繊維に由来するものを含んでいてもよい。このような芯鞘型構造の繊維の鞘の部分は、不織布の製造工程中に加えられた熱(たとえば後述の乾燥工程における加熱。)により溶融して繊維同士を結合するバインダーとして作用しており、不織布中では繊維状の形態をほぼ維持していない。そのため、芯鞘型構造の繊維の鞘に由来する部分については、不織布を構成する熱可塑性樹脂繊維には含めず、後述するバインダー成分として取り扱う。一方、このような芯鞘型構造の繊維の芯は、不織布の製造工程中に加えられた熱により溶融せず、繊維状の形態を維持している。そのため、芯の部分については、不織布を構成する熱可塑性樹脂繊維として取り扱う。」 (オ)「【0028】 熱可塑性樹脂繊維の繊維長は、長さ加重平均繊維長として、3〜100mmであることが好ましく、3〜50mmであることがより好ましく、3〜25mmであることが特に好ましい。熱可塑性樹脂繊維の繊維長が上記範囲の下限値以上であれば、不織布が湿式不織布である場合、その製造工程のうちの抄紙工程において、熱可塑性樹脂繊維がワイヤーから落下しにくく、熱可塑性樹脂繊維の歩留まりに優れる。熱可塑性樹脂繊維の繊維長が上記範囲の上限値以下であれば、抄紙工程において熱可塑性樹脂繊維同士が絡みにくい。」 (カ)「【0030】 [扁平ガラス繊維および熱可塑性樹脂繊維の径および配合比] 不織布中において、扁平ガラス繊維が、その長径方向が不織布の面方向に沿うように配向しやすい点から、扁平ガラス繊維の断面の長径の平均値は10〜50μm、熱可塑性樹脂繊維の断面の長径の平均値は9〜40μmであり、かつ、扁平ガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維の合計100質量%に対して、扁平ガラス繊維の含有量が30〜90質量%、熱可塑性樹脂繊維の含有量が10〜70質量%であることが好ましい。・・・ 【0031】 扁平ガラス繊維の断面の長径の平均値は、15〜40μmがより好ましく、20〜35μmが特に好ましい。熱可塑性樹脂繊維の断面の長径の平均値は、10〜35μmがより好ましく、13〜32μmが特に好ましい。扁平ガラス繊維と熱可塑性樹脂繊維の合計100質量%に対して、扁平ガラス繊維の含有量は60〜90質量%、熱可塑性樹脂繊維の含有量は10〜40質量%であることがより好ましい。 それぞれがこのような範囲内であると、扁平ガラス繊維は、その長径方向が不織布の面方向に沿うように、より配向しやすい。 ・・・ 【0033】 [その他の成分] (バインダー成分) 本発明の不織布は、扁平ガラス繊維および熱可塑性樹脂繊維を互いに結合し、不織布の保形性を維持するためのバインダー成分を含んでもよい。 上述のように、不織布の材料に芯鞘型構造の熱可塑性樹脂繊維を用いることにより、鞘の部分が溶融してバインダー成分となって不織布に含まれてもよいし、詳しくは後述するが、不織布の製造工程において、粉状、繊維状、液状(溶液、エマルション等。)等の形態でバインダー成分を付与することもできる。・・・」 (キ)「【実施例】 【0059】 以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。 (実施例1) 以下のようにして、表1に示す割合で各繊維を含む不織布(湿式不織布)を傾斜型抄紙機(傾斜ワイヤー型抄紙機)を用いた抄紙工程を経て製造した。 なお、扁平ガラス繊維としては、長さ加重平均繊維長が13mm、長径が28μm、短径が7μm、比(長径/短径)が4の日東紡社製の扁平ガラス繊維を用いた。この扁平ガラス繊維は、断面の形状が図2(c)の形状であった。 ポリカーボネート繊維(熱可塑性樹脂繊維)としては、長さ加重平均繊維長が15mm、長径および短径がいずれも30μmのダイワボウポリテック社製のポリカーボネート繊維(丸断面繊維)を用いた。このポリカーボネート繊維のガラス転移温度は、150℃であった。 【0060】 まず、プロペラ型アジテーター付のタンクに、扁平ガラス繊維の濃度が0.5質量%となるように、扁平ガラス繊維と水を投入した。さらに、分散剤として「エマノーン(登録商標)3199V」(花王株式会社製、モノステアリン酸ポリエチレングリコール)の0.5質量%水溶液を、その固形分が扁平ガラス繊維100質量部に対して0.5質量部となるように添加し、プロペラ型アジテーターを用いて回転数250rpmで攪拌した。 ついで、ポリカーボネート繊維と、バインダー成分としてポリビニルアルコール繊維(「VPB105−2」(クラレ社製))とを表1の配合比(質量比)となるように投入し、回転数250rpmで攪拌を続けた。ポリビニルアルコール繊維は水溶性であるため、得られた不織布中では繊維の形態を維持していない。 【0061】 ついで、ポリアクリルアミド系粘剤(「FA−40MT」(アクアポリマー社製)、質量平均分子量:1700万)の0.2質量%水溶液を、得られる原料液に対してポリアクリルアミドの固形分が9ppmとなるように投入し、回転数250rpmで攪拌し、各繊維がモノフィラメント化した原料液を得た。 その後、これに水を加え、固形分濃度(扁平ガラス繊維、ポリカーボネート繊維、ポリビニルアルコール繊維の合計濃度。)が0.5質量%となるように調整した。 【0062】 その後、この原料液に水(白水)を加え、固形分濃度が0.05質量%の分散液を得た。この分散液の分散媒の25℃における粘度(ただし、JIS Z 8803「液体の粘度測定方法」に規定された測定方法による。)は、1.05mPa・sであった。 【0063】 この分散液を傾斜型抄紙機のワイヤーに連続的に供給し、抄速:10m/min、ジェットワイヤー比:0.8になるよう調整し、抄紙工程を行った。サクションボックスを通過させて脱水した後、ヤンキードライヤーにより140℃で乾燥し、幅50cm、坪量100g/m2の不織布を得た。」 (ク)「【0066】 【表1】 【0067】 (実施例2〜10、比較例1〜3) 実施例1と同様にして、表1および表2に示す割合で各繊維を含む不織布を製造し、FRP成形体を得た。そして、FRP成形体について、実施例1と同様にして、曲げ弾性率を測定した。 なお、扁平ガラス繊維およびポリカーボネート繊維は、実施例1と同じものを用いた。 【0068】 ただし、実施例2〜10、比較例1〜3では、実施例1で使用したポリビニルアルコール繊維を使用せず、代わりに、芯がPET(融点:260℃)で、鞘(融点:110℃)が変性PETである芯鞘型の熱可塑性樹脂繊維(長さ加重平均繊維長が5mm、長径および短径がいずれも12.5μm、芯の長径および短径がいずれも4.4μm、芯および鞘の質量比率は芯:鞘=1:1。)を用いた。この繊維は、芯は、得られた不織布中で熱可塑性樹脂繊維として存在し、鞘はバインダー成分として存在する。 【0069】 実施例7〜9は、実施例6のポリカーボネート繊維に代えて、ポリエーテルイミド繊維(実施例7)、酸変性ポリプロピレン繊維(実施例8)、ポリアミド繊維(実施例9)をそれぞれ用いた例である。 実施例7では、長さ加重平均繊維長が15mm、長径および短径がいずれも15μmのポリエーテルイミド繊維(丸断面繊維)を用いた。この繊維のガラス転移温度は、217℃であったため、加熱加圧成形は、温度:317℃(予熱および成形時の温度)、圧力:10MPa、時間:60秒間の条件で行った。 実施例8では、長さ加重平均繊維長が15mm、2.2dtexの酸変性ポリプロピレン繊維(ダイワボウ社製)を使用した。この繊維の融点は160℃であったため、加熱加圧成形は、温度:180℃(予熱及び成形時の温度)、圧力:10MPa、時間:60秒の条件で行った。 実施例9では、ポリアミド繊維として、長さ加重平均繊維長が15mm、3.3dtexのナイロン6(登録商標)繊維(東レ社製)を用いた。この繊維の融点は225℃であったため、加熱加圧成形は、温度:250℃(予熱及び成形時の温度)、圧力:10MPa、時間:60秒の条件で行った。 また、実施例10および比較例1〜3では、ガラス繊維として、長さ加重平均繊維長が18mm、長径および短径がいずれも9μmであって扁平ではない丸断面ガラス繊維を用いた。」 以上の記載について特に実施例6、7、9に着目すると、引用文献2には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明2」という。)。 (引用発明2) 「ガラス繊維を85質量%と、熱可塑性樹脂繊維を4質量%(芯および鞘の質量比率は、芯:鞘=1:1。)と、ポリカーボネート繊維、ポリエーテルイミド繊維又はナイロン6繊維を11質量%とを含み、 熱可塑性樹脂繊維の加重平均繊維長が5mm、芯の長径および短径がいずれも4.4μmであり、 ポリカーボネート繊維の加重平均繊維長が15mm、長径および短径がいずれも30μm または ポリエーテルイミド繊維の加重平均繊維長が15mm、長径および短径がいずれも15μm または ナイロン6繊維の加重平均繊維長が15mm、3.3dtexであり、 ガラス繊維の加重平均繊維長が13mm、長径が28μm、短径が7μmである不織布。」 ウ 引用文献3・引用発明3 引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は、半導体・液晶製造工場等のクリーンルーム及び製造装置から発生するイオン性ガス状汚染物質及びTOC(Total organic compound)の除去、自動車製造工場、プラスチック製造工場、印刷工場内等の揮発性有機化合物(VOC)の除去、冷蔵庫、冷凍庫、トイレ、病院、食堂、貯蔵庫内等の脱臭、液晶や半導体の製造工場、コピー機、プリンター等で発生するオゾンの分解等に用いられるエアフィルタを製造するために用いられるエアフィルタ用シート及び該エアフィルタ用シートの製造方法、並びに該エアフィルタ用シートを成形して得られるエアフィルタに関するものである。」 (イ)−1「【0014】 従って、本発明の目的は、機能剤の担持量が多く、且つ該機能剤が担体から脱落し難いエアフィルタ用シート及びその製造方法、並びに除去性能が高く、寿命が長く、且つ機能剤が脱落し難いエアフィルタを提供することにある。 【0015】 かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、機能剤粉末及び熱可塑性樹脂が付着されている繊維質担体を、加熱圧縮することにより、(i)エアフィルタ用シートの緻密化を図り、薄くて密度の高い、すなわち、単位体積当りの担持量の高いエアフィルタ用シートを得ることができ、該繊維質担体に対する該機能剤粉末の重量比を大きくし過ぎることなく、該機能剤粉末の単位体積当りの担持量を多くすることができ、且つ(ii)該熱可塑性樹脂により、該機能剤粉末を該繊維質担体に強固に接着させることができるので、該機能剤粉末の担持量が多くても、脱落し難いエアフィルタ用シートを製造できること等を見出し、本発明を完成するに至った。」 (イ)−2 「【0021】 機能剤粉末及び熱可塑性樹脂が付着されている繊維質担体を、加熱圧縮することにより、エアフィルタ用シートを緻密化、すなわち、該繊維質担体を構成する繊維(以下、担体繊維と記載する。)に対する該機能剤粉末の重量比(機能剤粉末/担体繊維)を大きくし過ぎることなく、エアフィルタ用シートの単位体積当りの機能剤粉末の担持量を高くすることができる。そのため、本発明のエアフィルタ用シートは、該機能剤粉末の担持量が多く且つ該機能剤粉末が脱落し難い。」、 (ウ)「【0024】 本発明のエアフィルタ用シートに係る繊維質担体は、繊維により構成される織布又は不 繊布であり、該繊維間に多数の空隙(以下、繊維間空隙とも記載する。)を有する多孔質の織布又は不繊布である。該繊維(担体繊維)としては、例えば、シリカ・アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、ガラス繊維、ロックウール繊維、炭素繊維等の無機繊維;及びポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等のポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維、パルプ繊維、レーヨン繊維等の有機繊維が挙げられる。また、該担体繊維は、1種単独又は2種以上の組合わせであっても良い。該無機繊維及び該有機繊維の組合わせが、該エアフィルタの機械的強度が高くなる点で好ましく、シリカ・アルミナ繊維又はボロンレスのガラス繊維、及びポリエチレンテレフタレート繊維の組合わせが特に好ましい。また、該担体繊維として、パルプ繊維以外の繊維を用いることが、パルプ繊維の断裂物若しくは分解物、又はパルプ中のナトリウム等の無機物により、アウトガスが汚染されることがない点で好ましい。 【0025】 該担体繊維の平均繊維径は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜100μm、特に好ましくは0.5〜50μmであり、該担体繊維の平均繊維長は、好ましくは0.1〜50mm、特に好ましくは1〜10mmである。該平均繊維径及び該平均繊維長が該範囲内にあることにより、該繊維質担体の機械的強度が高くなる。 【0026】 該機能剤粉末としては、被処理空気中の除去対象物を除去するために一般的に用いられている機能剤粉末であれば、特に制限されず、例えば、イオン交換樹脂粉末、活性炭粉末、ゼオライト粉末、金属酸化物触媒粉末等が挙げられ、1種単独又は2種以上の組み合わせであってもよい。」 (エ)「【実施例】 【0083】 (実施例1) (混合スラリーの調製) 強酸性陽イオン交換樹脂100重量部、及びポリエチレン樹脂固形分換算で10重量部のポリエチレンディスパージョンを、水150重量部に混合し、固形分濃度40重量%の混合スラリー(A)を調製した。 ・強酸性陽イオン交換樹脂;ダイヤイオン、三菱化学社製、平均粒径20μm、イオン交換容量5.0m当量/g ・ポリエチレンディスパージョン;ケミパール、三井化学社製、ポリエチレン樹脂固形分45重量%、ポリエチレン樹脂の平均粒径0.1μm以下 【0084】 (エアフィルタ用シートの作製) 80重量%のボロンレスガラス繊維(平均繊維径13μm、平均繊維長20mm)及び20重量%のポリエチレンテレフタレート樹脂繊維(平均繊維径10μm、平均繊維長20mm)により構成される平坦状繊維質担体2(厚さ0.4mm、繊維間空隙率90%)の上面に、上記混合スラリー(A)11をロールコーター22を用いて塗布し、さらに乾燥機23で80℃に乾燥させて、平坦状繊維質担体2に強酸性イオン交換樹脂及びポリエチレン樹脂が付着された平坦状の片面塗布繊維質担体3aを巻き取った(図1)。次に、該片面塗布繊維質担体3aを上記塗布面が下面になるようにセットした後、塗布面が形成されていない上面について、上記と同様に混合スラリー(A)を塗布し乾燥させて、強酸性イオン交換樹脂及びポリエチレン樹脂が付着された平坦状の両面塗布繊維質担体3bを巻き取った。 【0085】 次に、平坦状の両面塗布繊維質担体3bを、圧延装置を用いて、120℃で、0.3mmに加熱圧縮し、平坦状エアフィルタ用シート(A)を得た。この時の圧縮率は25%であった。該平坦状エアフィルタ用シート(A)の単位体積当りの該強酸性イオン交換樹脂の含有量は650kg/m3、単位体積当りのイオン交換容量は3250当量/m3、担体繊維に対する強酸性イオン交換樹脂の重量比は5、該エアフィルタ用シート(A)中の担体繊維の含有量は16重量%であった。 【0086】 (エアフィルタの作製) 次に、上下一対の波形コルゲータの間に、該平坦状エアフィルタ用シート(A)を通して、コルゲート状エアフィルタ用シート(A)を作製した。該コルゲート状エアフィルタ用シート(A)の山部に接着剤としてアクリルエマルジョンを塗布した後、上記平坦状エアフィルタ用シート(A)を重ね合わせて積層した。該コルゲート状エアフィルタ用シート(A)と該平坦状エアフィルタ用シートの積層を、通気方向が同一方向になるようにして繰り返して行い、図3及び図4に示すような中芯のピッチ(図4中、符号p)が2.5mm、山高さ(図4中、符号h)が1.5mmのコルゲート状ハニカム構造を有するエアフィルタ(A)を得た。」 以上の記載について特に実施例に着目すると、引用文献3には、以下の発明が記載されている(以下、「引用発明3」という。)。 (引用発明3) 「コルゲート状ハニカム構造を有するエアフィルタとするための平坦状エアフィルタ用シートであって、80重量%のボロンレスガラス繊維(平均繊維径13μm、平均繊維長20mm)及び20重量%のポリエチレンテレフタレート樹脂繊維(平均繊維径10μm、平均繊維長20mm)により構成される平坦状繊維質担体2に、強酸性イオン交換樹脂100重量部及びポリエチレン樹脂10重量部を含む混合スラリーが塗布され乾燥され、加熱圧縮された平坦状エアフィルタ用シート。」 エ 引用文献4に記載された事項 引用文献4には、以下の事項が記載されている。 「繊度は主としてデニールとμmで表示されます。2つの単位は繊維の種類や測定法によって使い分けられています。前者は繊維長9000mあたりの質量をg数で表す単位で、合成繊維などに用いられ、秤量法または振動法で測定します。後者は繊維の直径をμm単位で表すもので、○断面を有する獣毛繊維などに用いられエヤーフロー法または顕微鏡投影法で測定します。また、デニールと繊維直径D(μm)との間には次の関係があります。 」(第1ページ左欄第21行〜第33行) (2)本件発明1について ア 引用発明1との対比、検討 (ア)対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 引用発明1の「ガラス繊維」、「ポリエステル繊維」「エポキシ樹脂」及び「ガラス繊維紙」は、それぞれ、本件発明1の「ガラス繊維」、「有機繊維」、「バインダー」及び「無機繊維シート」に相当する。 引用発明1のガラス繊維紙は、「ガラス繊維95部、ポリエステル繊維5部、エポキシ樹脂10部を含有」する「ガラス繊維紙」は、総質量に対して「ガラス繊維」が86.4質量%、「ポリエステル繊維」が4.5質量%、「エポキシ樹脂」が9.0質量%となるから、本件発明1の「無機繊雉シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有し」に一致する。 引用発明1の「ポリエステル繊維が繊度2デニール、長さ6mmであり」は、引用文献4を参酌すると、2デニールが14.3μmに換算されるから、ポリエステル繊維のアスペクト比が約420となり、本件発明1の「前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり」に一致する。 そして、引用発明の「ポリエステル繊維」の繊維径が「14.3μm」であり、「ガラス繊維」の繊維径が「9μm」であるから、ポリエステル繊維の繊維径とガラス繊維の繊維径の比は、14.3/9=1.59であるから、本件発明1の「前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である」に一致する。 したがって、本件発明1と引用発明1とは、 「無機繊維シートであって、 当該無機繊雉シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有し、 前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり、 前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である、無機繊維シート。」 の点で一致し、以下の相違点1で相違する。 [相違点1] 本件発明1は、「コルゲート加工してハニカム成形体とした後に機能材料を担持するための無機繊維シート」であるのに対し、引用発明1は、このような事項を有しない点。 (イ)相違点1の検討 上記相違点1について検討する。 上記(1)ア(ア)−2のとおり、引用発明1は、クッションフロアやタイルカーペットのバッキング材、バッテリーセパレータ等のフィルターなど平坦なシート状で利用されることを想定したものであり、仮にシート材をコルゲート加工してハニカム成形体状のフィルタとすることが従来周知の技術手段であったとしても、引用発明1には、コルゲート加工してハニカム成形体状のフィルタとする動機付けがないから、当業者といえども、引用発明1の構成から上記相違点1に係る本件発明1の構成に至ることはできない。 また、上記相違点1に関して、本件発明1の構成は「コルゲート加工性に優れ、かつ充分な強度と機能材料の担持量を有する」(本件の明細書の【0011】参照)との作用・効果が期待できるところ、引用文献1には、コルゲート加工性の観点から好ましい値とすることについて記載も示唆もされていないから、引用文献1の記載事項から本件発明の作用・効果は予測できない。 したがって、相違点1は実質的なものといえ、本件発明は引用発明1でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件発明は引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定に違反しない。 イ 引用発明2との対比、検討 (ア)対比 本件発明1と引用発明2とを対比する。 引用発明2の「ガラス繊維」及び「不織布」は、本件発明1の「ガラス繊維」及び「無機繊維シート」に相当する。 引用発明2の「熱可塑性樹脂繊維」、「ポリカーボネート繊維」、「ポリエーテルイミド繊維」及び「ナイロン6繊維」は、本件発明1の「有機繊維」に相当する。 引用発明2の「ガラス繊維を85質量%と、熱可塑性樹脂繊維を4質量%(芯および鞘の質量比率は、芯:鞘=1:1。)と、ポリカーボネート繊維、ポリエーテルイミド繊維又はナイロン6繊維を11質量%とを含」む「不織布」は、「熱可塑性樹脂繊維」の芯のみが繊維として残り、鞘がバインダーとなるものであることを勘案すると、本件発明1の「当該無機繊雉シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有し」に一致する。 引用発明2「ナイロン6繊維」の繊維径である「3.3dtex」は、dtexからデニールに換算すると2,97デニールとなり、さらに引用文献4を参酌すると、19.2μmに換算される。 そして、引用発明2の「熱可塑性樹脂繊維」と「ポリカーボネート繊維」、「熱可塑性樹脂繊維」と「ポリエーテルイミド繊維」及び「熱可塑性樹脂繊維」と「ナイロン6繊維」の加重平均繊維長、加重平均繊維径及びアスペクト比をそれぞれ計算すると、以下のようになる。 「熱可塑性樹脂繊維」と「ポリカーボネート繊維」: 加重平均繊維長=14430μm、加重平均繊維径=28.5μm、アスペクト比=約506 「熱可塑性樹脂繊維」と「ポリエーテルイミド繊維」: 加重平均繊維長=14430μm、加重平均繊維径=14.4μm、アスペクト比=約1002 「熱可塑性樹脂繊維」と「ナイロン6繊維」: 加重平均繊維長=14430μm、加重平均繊維径=18.4μm、アスペクト比=約784 してみると、引用発明2の「熱可塑性樹脂繊維の加重平均繊維長が5mm、芯の長径および短径がいずれも4.4μmであり、 ポリカーボネート繊維の加重平均繊維長が15mm、長径および短径がいずれも30μm または ポリエーテルイミド繊維の加重平均繊維長が15mm、長径および短径がいずれも15μm または ナイロン6繊維の加重平均繊維長が15mm、3.3dtexであり、」は、本件発明1の「前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり」に一致する。 そして、引用発明2の「ガラス繊維」の繊維径は、「長径が28μm、短径が7μm」であるが、本件特許明細書の段落【0025】に記載された計算方法と同様に「短径と長径を測定して断面積を算出し、当該断面積に相当する円の直径を繊維径とする」と14μmとなるから、ガラス繊維の繊維径に対する「熱可塑性樹脂繊維」と「ポリカーボネート繊維」、「熱可塑性樹脂繊維」と「ポリエーテルイミド繊維」及び「熱可塑性樹脂繊維」と「ナイロン6繊維」の加重平均繊維径の比は、それぞれ「28.5/14=2.04」、「14.4/14=1.03」及び「18.4/14=1.31」となるから、請求項1に係る発明の「前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である」に一致する。 したがって、本件発明1と引用発明2とは、 「無機繊維シートであって、 当該無機繊雉シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有し、 前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり、 前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である、無機繊維シート。」 の点で一致し、以下の相違点2で相違する。 [相違点2] 本件発明1は、「コルゲート加工してハニカム成形体とした後に機能材料を担持するための無機繊維シート」であるのに対し、引用発明2は、このような事項を有しない点。 (イ)相違点2の検討 上記相違点2について検討する。 上記(1)イ(ア)のとおり、引用発明2は、FRP成形体の成形材料として使用することを想定しており、仮にシート材をコルゲート加工してハニカム成形体状のフィルタとすることが従来周知の技術手段であったとしても、引用発明2には、コルゲート加工してハニカム成形体状のフィルタとする動機付けがないから、当業者といえども、引用発明2の構成から上記相違点2に係る本件発明1の構成に至ることはできない。 また、上記相違点2に関して、本件発明1の構成は「コルゲート加工性に優れ、かつ充分な強度と機能材料の担持量を有する」(本件の明細書の【0011】参照)との作用・効果が期待できるところ、引用文献2には、コルゲート加工性の観点から好ましい値とすることについて記載も示唆もされていないから、引用文献2の記載事項から本件発明の作用・効果は予測できない。 したがって、相違点2は実質的なものといえ、本件発明1は引用発明2でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件発明1は引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定に違反しない。 ウ 引用発明3との対比、検討 (ア)対比 本件発明1と引用発明3とを対比する。 引用発明3の「強酸性イオン交換樹脂」「平坦状エアフィルタ用シート」「ボロンレスガラス繊維」、「ポリエチレンテレフタレート樹脂繊維」、及び「ポリエチレン樹脂」は、本件発明1の「機能材料」、「無機繊維シート」、「ガラス繊維」、「有機繊維」及び「バインダー」にそれぞれ相当する。 引用発明3のポリエチレンテレフタレート樹脂繊維のアスペクト比は、20000/13=1538であるから、請求項1に係る発明の「前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり」に一致する。 引用発明3のポリエチレンテレフタレート樹脂繊維の繊維径が13μm、ポロンレスガラス繊維の繊維径が13μmであるから、請求項1に係る発明の「前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である」に一致する。 したがって、本件発明1と引用発明3とは、 「無機繊維シートであって、 前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり、 前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である、無機繊維シート。」 の点で一致し、以下の相違点3で相違する。 [相違点3] 本件発明1は「コルゲート加工してハニカム成形体とした後に機能材料を担持するための無機繊維シート」であり、「無機繊雉シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有」するのに対し、引用発明3は、このような構成を有しない点。 (イ)相違点3の検討 上記相違点3について検討する。 上記(1)ウ(イ)−1の記載、(1)ウ(イ)−2の記載、(1)ウ(エ)(特に段落【0084】〜【0086】参照。)の記載から、引用発明3は、強酸性イオン交換樹脂(機能剤粉末)及びポリエチレン樹脂(熱可塑性樹脂)が付着されている平坦状繊維質担体2(繊維質担体)を、コルゲート加工前に加熱圧縮する構成が前提となっており、ハニカム成形体とした後に機能材料を担持することは想定されていないと認められる。 そうすると、シート材をコルゲート加工してハニカム成形体とすること、及びハニカム成形体とした後に機能材料を担持することが従来周知の技術手段であったとしても、引用発明3にはコルゲート状ハニカム構造体を形成した後に強酸性イオン交換樹脂(機能材料)を担持させる動機付けがないから、当業者といえども、引用発明3の構成から上記相違点3に係る本件発明1の構成に至ることはできない。 また、上記相違点3に関して、本件発明1の構成は「コルゲート加工性に優れ、かつ充分な強度と機能材料の担持量を有する」(本件の明細書の【0011】参照)との作用・効果が期待できるところ、引用文献3には、コルゲート加工後の機能材料の担持量の観点から好ましい値とすることについて記載も示唆もされていないから、引用文献3の記載事項から本件発明の作用・効果は予測できない。 したがって、相違点3は実質的なものといえ、本件発明1は引用発明3でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、本件発明1は引用発明3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定に違反しない。 (3)本件発明2〜5について 本件発明2〜5は、本件発明1の構成をすべて含み、請求項2〜5に記載された事項により限定をさらに付加したものである。 そうすると、本件発明2〜5は、上記(2)で示したと同様の理由により、引用発明1〜3でないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、引用発明1〜3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでないから、特許法第29条第2項の規定に違反しない。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)には、本件発明1が解決しようとする課題について、以下のように記載されている。 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 一方、セラミック繊維代替のガラス繊維は、繊維径や繊維長が大きいため、これを原料として製造された無機繊維シートは硬く、形状に追従し難くなる。そのため、波型がつきにくく、波の頂点で繊維が折れて不均一なセル形状となりやすいといったコルゲート加工性の問題がある。コルゲート加工性の問題は、特に、小さいセル形状の場合に顕著である。 【0008】 無機繊維シートを柔軟に、あるいは形状に追従しやすくする方法としては、バインダー量の低減、有機繊維の増量、及び薄葉化等が知られている。しかしながら、無機繊維シート中のバインダー量を低減しすぎると、コルゲート加工時にギア間で波型を付与する際にコルゲート山が裂けるおそれや、繊維間の結合あるいは表面強度が低下して紙粉が発生するおそれがある。 【0009】 また、無機繊維シート中の有機繊維を増量した場合、焼成処理を行うハニカム成形体では、焼成により焼失する有機分が多く、強度が低下するおそれがある。また、薄葉化によって柔軟化する場合では、シートの空隙が小さくなるため、吸着材などの機能材料の担持量が大きく低下するという問題がある。 【0010】 このように、従来のセラミック繊維からガラス繊維へ代替した場合、コルゲート加工性に優れ、該コルゲート加工時に紙粉も発生せず、且つ機能材料の担持量にも優れた無機繊維シートを製造することが困難である。 【0011】 本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、コルゲート加工適性に優れ、かつ充分な強度と機能材料の担持量とを有する無機繊維シート、該無機繊維シートを用いたハニカム成形体、及びこれらを備えたハニカムフィルタを提供することを課題とする。」 (2)そして、本件特許明細書の段落【0086】〜【0087】には、以下のとおり記載されている。 「【0086】 【表1】 【0087】 表1に示すように、比較例1は、セルの形状が不均一で、紙粉も発生した。 比較例2は、セル山に割れが生じ、紙粉も発生した。 比較例3は、セルの形状が不均一であった。 比較例4は、波状の型がつき難く、波状にならない部分が発生した。 比較例5、6は、紙粉が発生したものの加工性は問題なかったが、実施例1〜6に比べ、比較例5は保液量が少なめで、比較例6は厚みが大きめであった。 実施例1〜6は、コルゲート加工適性に優れていた。また、充分な強度を有しており、粉落ちがなく、保液量も充分であった。」 (3)ここで、実施例1〜6と比較例4との対比に着目すると、実施例1〜6は、いずれもガラス繊維(6μ×6mm)」を84質量%、PET繊維(3.5μ〜12μ×5mm、8μ×32μ×5mm、17μ×10mm)を8質量%、バインダーとしてポリビニルアルコールを8質量からなるのに対して、比較例4は、ガラス繊維(6μ×6mm)」を90質量%、PET繊維(8μ×5mm)を2質量%、バインダーとしてポリビニルアルコールを8質量%からなり、比較例4は、「波状の型がつき難く、波状にならない部分が発生した。」との評価である。 そして、段落【0007】の「セラミック繊維代替のガラス繊維は、繊維径や繊維長が大きいため、これを原料として製造された無機繊維シートは硬く、形状に追従し難くなる」との記載、段落【0008】の「無機繊維シート中のバインダー量を低減しすぎると、コルゲート加工時にギア間で波型を付与する際にコルゲート山が裂けるおそれや、繊維間の結合あるいは表面強度が低下して紙粉が発生するおそれがある」との記載を参酌すると、ガラス繊維の含有量が多すぎる又はバインダーの含有量が少なすぎるとコルゲート加工適性が劣ることになると考えられ、比較例4についても、ガラス繊維(6μ×6mm)を90質量%に対し有機繊維(PET繊維(8μ×5mm))を2質量%含有することから、「波状の型がつき難く、波状にならない部分が発生」することになったものと考えられる。 そして、本件発明1は、ガラス繊維、有機繊維及びバインダーの含有量について「無機繊維シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有し、」と特定している。 してみると、ガラス繊維、有機繊維及びバインダーの含有量を特定した本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとまではいえないので、発明の詳細な説明に記載された発明である。 請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5に係る発明についても同様である。 (4)上記(2)で示したとおり、本件特許明細書では、「有機繊維」として「PET繊維」を用いた無機繊維シートのみが実施例とされており、当該実施例により上記(1)の解決しようとする課題である「コルゲート加工適性」を有することが確認できる。 また、本件特許明細書の段落【0021】〜【0023】には、「有機繊維」について次のとおり記載されている。 「【0021】 (有機繊維) 本実施形態の無機繊維シートに適用可能な有機繊維としては、天然繊維と、合成繊維とが挙げられる。有機繊維としては、天然繊維と合成繊維とのうち、いずれか1種以上を使用できる。 【0022】 天然繊維としては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)などのセルロース繊維;綿、羊毛、絹、麻等の天然繊維が挙げられ、これらの中からいずれか1種以上を使用できる。木材パルプは、叩解パルプでもよいし、未叩解パルプでもよい。これらのなかでも、比較的安価な木材パルプが好ましい。 【0023】 合成繊維としては、無機繊維シートの製造工程中の加熱により溶融しない繊維であれば、特に制限はなく、無機繊維シートの製造工程で設定される乾燥温度の温度等に応じて適宜選択することができる。合成繊維としては、たとえば、ポリエチレン系繊維、ポリプロピレン繊維、ポリブテン繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、キュプラ繊維、アセテート繊維、ポリ塩化ビニル繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエーテルイミド繊維、ビニロン繊維、ポリカーボネート繊維、エチレン−ビニルアセテート繊維、エチレンビニルアルコール繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維等の化学繊維等が挙げられる。また、合成繊維は、これらの中からいずれか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。」 (5)そして、本件発明1は、単に「有機繊維を3〜20質量%含有し」、「前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり」、「前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である」と特定するのみであって、「有機繊維」の材質は、なんら特定しないものであるから、上記段落【0021】〜【0023】に例示された「有機繊維」の全てを含み得る概念と認められる。 そして、引用文献6の第29ページ〜第33ページの付表(2)に記載されているように、有機繊維の一部である合成繊維であっても、その種類によって物理的性能(強度、伸度、弾性率)が異なっていることが技術常識であるものの、ガラス繊維と比較した際の有機繊維の物理的性能の差異、とりわけ、バインダー樹脂の溶融する温度における有機繊維の物理的性能の差異は小さいものであることもまた技術常識であり、常温においてPET繊維と弾性率が異なる有機繊維や、PET繊維と伸度が異なる有機繊維を用いた場合であっても、無機繊維シートのコルゲート加工時に十分な柔軟性を持たせることが可能であると考えられる。 また、令和4年4月14日付けの特許権者による意見書に添付された乙第7号証の実験報告書の(乙7参考表) のコルゲート加工適性の欄に注目すれば、コルゲート加工適性は、有機繊維の種類に依存していないことが把握できる。 してみると、PET繊維以外の有機繊維を含む本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものでないといえるから、発明の詳細な説明に記載された発明である。 請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜5に係る発明についても同様である。 (6)よって、請求項1〜5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。 3 異議申立人の主張について (1)申立人Aは、令和4年7月25日付け意見書において、 甲第10号証(特開平6−165934号公報)、甲第11号証(特開平8−71352号公報)、甲第12号証(特開2001−310109号公報)、甲第13号証(特開平4−263695号公報)、甲第14号証(特開2014−84548号公報)及び甲第15号証(特開平10−46486号公報)を提示し、甲第10〜12号証の記載から、ガスに含まれる不純物を吸着・除去するためのフィルターとして「コルゲート加工してハニカム成形体とした後に機能材料を担持するための無機繊維シートであって、ガラス繊維と有機繊維とバインダーを含む、無機繊維シート」を用いることは、周知技術であり、また、甲第13〜15号証の記載から、バッテリーセパレーターとして用いられるガラス繊維紙をエアフィルターのなどの用途に利用することは技術常識であるとし、上記周知技術に引用文献1における無機繊維シートとして引用文献1に記載されるガラス繊維紙を用いて、本件発明1とすることは容易である旨主張する。 しかしながら、甲第13号証の段落【0001】の「フィルター用濾紙」との記載、甲第14号証の段落【0012】の「本発明の不織布は、平均繊維径と同程度かそれより太い繊維を含むことで、不織布内に適度な空間を形成し、さらに該繊維が表面に多孔を有することによって、フィルターの場合は圧力損失を低く抑えながら捕集効率をより高めたり、・・・」との記載、甲第15号証の段落【0002】の「近年さまざまな産業分野において,耐熱性と均一な多孔性を兼ね備えたシートが求められ,多方面で用途開発が行われている。用途の一例を挙げると,たとえばバッテリーセパレーター,耐熱フィルター,濾材,断熱材,触媒担体などが挙げられる。」との記載からみて、甲第13〜15号証には、バッテリーのセパレータ用のガラス繊維を用いた不織布を、濾紙のようなフィルタに転用することが記載されているにとどまり、コルゲート加工したハニカム成形体のフィルタに転用することまで周知技術であったとは認められず、また、上記1(2)ア(イ)のとおり、引用発明1にはコルゲート加工してハニカム成形体とする動機付けがないから、申立人Aの上記の主張は採用できない。 (2)申立人Aは、令和4年7月25日付け意見書において、本件発明1の「機能材料」が意味する範囲が不明確であるから、本件発明1は明確でない旨主張する。 しかしながら、本件発明1における機能材料は、コルゲート加工してハニカム成形体とした無機繊維シートに担持され得る、何らかの機能を有する材料全てと解することが相当であり、本件発明1は明確であるから、申立人Aの上記の主張は採用できない。 (3)申立人Bは、令和4年7月26日付け意見書において、参考資料2として東レ・デュポン株式会社のケブラー製品カタログを提示し、特に同参考資料2の「KEVLARと他素材の物性比較値」を根拠に、本件発明1の有機繊維に、ガラス繊維と同等の弾性率及び伸度を有するケブラーが含まれるから、本件発明1は、サポート要件を満たさない旨主張する。 しかしながら、バインダーが溶融するような高温におけるコルゲート加工時においても、ケブラーがガラス繊維と同等の弾性率及び伸度を有する証拠はなく、また、本件発明1において有機繊維としてケブラーを使用した場合にコルゲート加工性は優れないことが客観的に理解できるような実験結果等が示されているわけでもないので、上記の申立人Bの主張は採用できない。 (4)申立人Bは、令和4年7月26日付け意見書において、当業者が本件発明1を実施する際には、様々な引張弾性率及び伸度を有する全ての有機繊維を用いて検討を行う必要があり、このような検討が、「当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤、複雑高度な実験等」に該当するから、本件発明1は特許法第36条第4項第1号の規定(実施可能要件)に違反する旨主張する。 しかしながら、本件発明1を実施するにあたって、全ての有機繊維を用いて検討することは不要であり、願書に添付した明細書の実施例1〜6に係る無機繊維シートを再現することで当業者が容易に実施することができるから、上記の申立人Bの主張は採用できない。 第6 むすび したがって、請求項1〜5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由並びに特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 コルゲート加工してハニカム成形体とした後に機能材料を担持するための無機繊維シートであって、 当該無機繊維シートの総量に対して、ガラス繊維を50質量%を超えて95質量%以下含み、有機繊維を3〜20質量%含有し、さらに、バインダーを1〜25質量%含有し、 前記有機繊維のアスペクト比が300〜2000であり、 前記有機繊維の加重平均繊維径が、前記ガラス繊維の加重平均繊維径の3倍以下である、無機繊維シート。 【請求項2】 空気中において500℃で2時間焼成した後の灰分量が、60質量%以上である、請求項1に記載の無機繊維シート。 【請求項3】 1.0kg荷重での抄紙方向の耐折回数が5回以上である、請求項1又は2に記載の無機繊維シート。 但し、前記耐折回数は、JIS P 8115 耐折強さ試験法に準じ、MIT試験機を用い、荷重1.0kgにて、試験片を10個測定した平均回数を算出した値である。 【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか一項に記載の無機繊維シートがハニカム状に加工された、ハニカム成形体。 【請求項5】 請求項4に記載のハニカム成形体に、シリカゲル、ゼオライト、セピオライト、活性炭およびイオン交換樹脂からなる群より選ばれる1種以上の機能材料が担持された、ハニカムフィルタ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-09-21 |
出願番号 | P2018-547679 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(D04H)
P 1 651・ 851- YAA (D04H) P 1 651・ 121- YAA (D04H) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
芦原 康裕 |
特許庁審判官 |
内田 博之 八木 誠 |
登録日 | 2021-04-12 |
登録番号 | 6866895 |
権利者 | 王子ホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 無機繊維シート、ハニカム成形体およびハニカムフィルタ |
代理人 | 君塚 哲也 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 君塚 哲也 |
代理人 | 川越 雄一郎 |
代理人 | 堂前 里史 |
代理人 | 柳井 則子 |
代理人 | 伏見 俊介 |
代理人 | 伏見 俊介 |
代理人 | 堂前 里史 |
代理人 | 松沼 泰史 |
代理人 | 柳井 則子 |
代理人 | 松沼 泰史 |