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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1392028
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-18 
確定日 2022-10-07 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6910172号発明「セル間接続部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6910172号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕について訂正することを認める。 特許第6910172号の請求項1〜6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6910172号の請求項1〜6に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年3月23日の出願であって、令和3年7月8日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月28日に特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、同年11月18日差出で特許異議申立人馬場資博(以下、「申立人」という。)より、請求項1〜6(全請求項)に係る特許に対してなされた特許異議申立事件であって、令和4年4月11日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年6月9日に特許権者より意見書が提出されるとともに、訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたものである。
なお、本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)について、申立人に期間を指定して意見を求めたが、申立人から意見書の提出はなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正の趣旨、及び、訂正の内容
本件訂正請求は、特許第6910172号の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜6について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。
なお、訂正箇所には、当審で下線を付した。

(1)訂正事項1
請求項1について、本件訂正前の「スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して3質量%未満である」を「スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して0.5質量%以上3質量%未満である」と訂正する。
請求項1を引用する請求項2〜6も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)【0013】について、本件訂正前の「スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して3質量%未満である」を「スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して0.5質量%以上3質量%未満である」と訂正する。

2 当審の判断
2−1 訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び、新規事項追加の有無
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、本件明細書【0037】を根拠として、本件訂正前の請求項1の発明特定事項である「導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対」する、「スラリーが含有するAl2O3の量」について、本件訂正前は「3質量%未満」と下限の特定がなかったものを、「0.5質量%以上3質量%未満」としたものであるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないし、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正事項1において、特許請求の範囲の訂正に伴い、本件明細書の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当しないし、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

2−2 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2〜6は、請求項1を引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項1〜6は一群の請求項である。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1〜6〕を訂正単位とする訂正の請求をするものである。

2−3 独立特許要件について
訂正事項1は、上記2−1で検討したとおり、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるが、本件訂正請求に係る請求項はいずれも特許異議の申立てがなされているので、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

2−4 明細書の訂正について
明細書の訂正である訂正事項2は、訂正前の請求項1に対応する明細書の記載を訂正するものであるから、本件訂正請求に係る明細書の訂正は、一群の請求項の全てについて行うものである。

2−5 訂正請求についてのむすび
以上のとおり、令和4年6月9日に特許権者が行った本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜6〕についての訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
令和4年6月9日に特許権者が行った請求項1〜6についての訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明6」という。また、これらの発明をまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、
導電性セラミックス材料の微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜工程と、
塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結工程とを有し、
前記基材の主材料のステンレス合金がTiを含有し、前記スラリーがAl2O3を含有し、
前記スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して0.5質量%以上3質量%未満である、セル間接続部材の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーにAl2O3の粉末を添加物として追加する添加工程を有する請求項1に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項3】
前記スラリーが、前記導電性セラミックス材料に含まれる不純物としてのAl2O3を含有する請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項4】
アルミナを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、前記微粉末を作成する粉砕工程を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項5】
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1-x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する請求項1から4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項6】
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)を主成分とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。」

2 令和4年4月11日付けで通知された取消理由の概要
令和4年4月11日付けで通知された取消理由の概要は、以下のとおりである。

本件訂正前の請求項1には、「導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対」する、「スラリーが含有するAl2O3の量」の下限が特定されていないため、請求項1に係る発明は、本件発明の課題を解決し得ない発明を含むものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

3 上記2以外の特許異議申立理由
申立人は、後述する証拠方法により、上記2以外に次の(1)〜(3)の特許異議申立理由を主張した。

(1)本件訂正前の請求項1の「スラリーが含有するAl2O3の量」は、その由来を問わないものであるのか、添加物由来のものであるのかについて、明確であるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)次のア〜ウの理由により、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

ア 本件訂正前の請求項1の「スラリーが含有するAl2O3の量」には、不純物由来のAl2O3を含有しているから、不純物由来のAl2O3を何ら考慮していない本件明細書の実施例では、本件発明の課題を解決し得るか否かが不明である。したがって、本件訂正前の請求項1に係る発明及びそれを引用する請求項2〜6に係る発明は、本件発明の課題を解決し得るものであるとはいえない。

イ 本件明細書の実施例は、不純物由来のAl2O3を含有していないと考えられるから、本件明細書には、不純物由来のAl2O3を含有している具体例が存在しない。したがって、本件訂正前の請求項3に係る発明及びそれを引用する請求項4〜6に係る発明は、本件発明の課題を解決し得るものであるとはいえない。

ウ 本件訂正前の請求項1に係る発明は、基材におけるTiの含有量について何ら規定されておらず、基材におけるTiの含有量がごく僅かであるために、本件発明の課題を解決し得ない態様を含むものである。したがって、本件訂正前の請求項1に係る発明及びそれを引用する請求項2〜6に係る発明は、本件発明の課題を解決し得るものであるとはいえない。

(3)本件特許の請求項1〜6に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1〜3号証に記載された発明、甲第12号証に記載された事項、及び、周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2013−157243号公報
甲第2号証:特開2010−250965号公報
甲第3号証:特表2013−527309号公報
甲第4号証:特開平7−247165号公報
甲第5号証:桑原好孝,「セラミックスの製造と微粉砕技術」,粉体工学会誌,粉体工学会,平成5年1月10日,第30巻,第1号,p.38−46
甲第6号証:特開2008−205388号公報
甲第7号証:特開平5−4863号公報
甲第8号証:特開2012−230887号公報
甲第9号証:特開2004−143023号公報
甲第10号証:特開2002−93422号公報
甲第11号証:特開2013−118178号公報
甲第12号証:特開2008−258064号公報
甲第13号証:国際公開第2016/072485号

以下、甲第1号証〜甲第13号証をそれぞれ「甲1」〜「甲13」という。

4 当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号について
(1)−1 スラリーが含有するAl2O3の量について(上記2及び上記3の(2)のア)
ア 本件発明の解決しようとする課題は、願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載によれば、「電気抵抗を低減して固体酸化物形燃料電池の性能を高めることができるセル間接続部材を提供すること」(【0012】)と認める。

イ そして、本件明細書には、次の記載がある。
「【0016】
アルミナ(Al2O3)の使用により電気抵抗が低減する理由は明らかではないが、スラリーにアルミナを含有させた場合に、基材表面の酸化皮膜中にTiが多く分布する現象が見られた。上述の非特許文献1によれば、Cr2O3酸化皮膜にTiO2をドープすることで電子導電性が改善するとあるから、スラリーへのアルミナの含有によって基材から酸化皮膜へのTiの移動が促進され、酸化皮膜の電子導電性が向上したと考えられる。
また、スラリーが含有するAl2O3の量に応じてセル間接続部材の電気抵抗値が変化することが実験で確認されている。上記の特徴構成によれば、セル間接続部材の電気抵抗値を低く抑えることができる。」
「【0037】
本実施形態では、スラリーがAl2O3を含有することによりセル間接続部材の電気抵抗が低減される。スラリーが含有するAl2O3の量は、スラリーにおける導電性セラミックス材料の微粉末の総量に対して、3質量%未満であると好適である。また、スラリーが含有するAl2O3の量は、スラリーにおける導電性セラミックス材料の微粉末の総量に対して、0.5質量%以上であると好適であり、1質量%以上であると更に好適である。」

ウ 上記イの【0016】の記載によれば、スラリーへのアルミナの含有によって基材からCr2O3酸化皮膜へのTiの移動が促進され、酸化皮膜にTiO2をドープすることとなり、酸化皮膜の電子導電性が向上したと考えられる。

エ また、上記イの【0037】の記載によれば、スラリーが含有するAl2O3の量は、スラリーにおける導電性セラミックス材料の微粉末の総量に対して、0.5質量%以上3質量%未満であると好適である。

オ さらに、本件明細書の実験例1〜4(【0050】〜【0053】)は、保護膜形成に用いる導電性セラミックス材料として、MnCo2O4を用いてスラリーを作成し、セル間接続部材1の基材11としてSUS445J1(フェライト系ステンレス)の部材を用い、上記スラリーに上記基材をディップし、引き上げ後乾燥し、1000℃で熱処理することによって、形成した保護膜について、550〜800℃の間で50℃ずつ温度を変更して電気抵抗の測定を行ったものであり、最近の作動温度である700〜800℃(【0003】)での電気抵抗に注目すると、下記の【表1】に示されるように、スラリーのアルミナの添加量を1質量%とした実験例2は、セル間接続部材1の電気抵抗が低く、上記アの課題を解決するものであるのに対し、スラリーのアルミナの添加量をそれぞれ0質量%、3質量%、5質量%とした実験例1、3、4は、セル間接続部材1の電気抵抗が高く、上記アの課題を解決するものではない。

「【表1】



カ 一方、本件発明1は、「スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して0.5質量%以上3質量%未満である」との発明特定事項を含むものであって、本件の特許請求の範囲の請求項2、3の記載、本件明細書【0017】〜【0020】、【0042】に記載によれば、本件発明1の「スラリーが含有するAl2O3」には、添加物としてのAl2O3、及び、不純物としてのAl2O3の両方が考えられる。

キ しかしながら、本件明細書の実験例1〜4(【0050】〜【0053】)には、添加物としてのAl2O3の量は記載されているものの、不純物としてAl2O3がどの程度の含まれているのかが不明である。

ク ここで、甲4には、次の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ガスの分離や気相における分解の他に、燃料電池セルなどの電気化学的装置、あるいはヒータ、酸素センサ等の電極材料として好適な新規導電性セラミックスに関するものである。」
「【0009】
・・・(略)・・・この導電性セラミックスは、不純物としてのAl及びSiの含有量が総和が金属換算で1000ppm以下であることが望ましいものである。」

ケ 上記クの記載からすると、申立人が特許異議申立書第39頁第23〜24行、及び、第45頁第9〜10行で述べているように、一般に、導電性セラミック材料における不純物の含有量はごく僅か(例えば、0.1%以下程度)である。

コ そうすると、上記オの本件明細書の実験例1〜4(【0050】〜【0053】)におけるスラリーにおいて、導電性セラミックス材料であるMnCo2O4には、ごく僅か(例えば、0.1%以下程度)のアルミナが含まれていると考えられるから、結局、実験例1〜4のアルミナの含有量は、添加量と不純物量を合わせて、それぞれ0〜0.1質量%程度、1〜1.1質量%程度、3〜3.1質量%程度、5〜5.1質量%程度となるものということができる。

サ そうすると、アルミナの含有量が、1〜1.1質量%程度(実験例2)であれば、上記アの課題を解決し、0〜0.1質量%程度(実験例1)、3〜3.1質量%程度(実験例3)、5〜5.1質量%程度(実験例4)であれば、上記アの課題を解決しないこととなる。

シ したがって、上記エの事項を考慮すると、スラリーにおける導電性セラミックス材料の微粉末の総量に対して、スラリーが含有するAl2O3の量が、0.5質量%以上3質量%未満であれば、上記課題を解決し得るものといえるところ、本件訂正により、本件発明1の「スラリーにおける導電性セラミックス材料の微粉末の総量に対」する「スラリーが含有するAl2O3の量」について、「0.5質量%以上3質量%未満である」ことが特定された。

ス したがって、本件発明1は、上記アの課題を解決し得るものである。

セ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2〜6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(1)−2 不純物由来のAl2O3を含有していない具体例が存在しない点について(上記3の(2)のイ)
ア 本件発明3〜6は、上記(1)−1で検討したとおり、「スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して0.5質量%以上3質量%未満である」ことにより、上記(1)−1のアの課題を解決し得るものである。

イ 一方、上記(1)−1のウより、スラリーへのアルミナの含有によって基材から酸化皮膜へのTiの移動が促進され、酸化皮膜の電子導電性が向上したと考えられるとのことであるから、この現象が、添加物由来のアルミナと不純物由来のアルミナとで変化することは考えづらい。

ウ すなわち、本件発明の上記イの作用機序において、添加物由来のアルミナと不純物由来のアルミナとを区別する特段の理由がない。

エ そうすると、本件明細書の実施例において、添加物由来のアルミナを含有せず、不純物由来のアルミナを含有する態様が記載されていなくても、当業者であれば、本件発明3〜6が、上記(1)−1のアの課題を解決し得るものであることが理解できる。

オ よって、本件発明3〜6は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(1)−3 基材におけるTiの含有量について(上記3の(2)のウ)
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)―1のアのとおりである。

イ そして、上記(1)−1のウによれば、スラリーへのアルミナの含有によって基材から酸化皮膜へのTiの移動が促進され、酸化皮膜の電子導電性が向上したと考えられるとのことである。

ウ 一方、請求項1には、「基材の主材料のステンレス合金がTiを含有」することが特定されているものの、Tiの含有量について、何ら特定されていない。

エ そうすると、本件発明1は、基材におけるTiの含有量がごく僅かである場合を含んでいるものの、たとえTiの含有量がごく僅かであったとしても、その含有量に応じて、酸化皮膜の電子導電性が向上するという効果が得られる、すなわち、課題を解決し得ると考えられる。

オ よって、本件発明1〜6は、発明の詳細に記載されたものである。

(2)特許法第36条第6項第2項について(上記3の(1))
ア 特許発明の要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない(昭和62(行ツ)第3号)。

イ 請求項1には、「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、」「スラリーがAl2O3を含有し、前記スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して0.5質量%以上3質量%未満である」と記載されている。

ウ そして、上記イの記載において、「Al2O3」は「Al2O3」という組成からなるもの全てであると解され、「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材」の製造に用いられる「Al2O3」について、どのようにスラリーに含有されたものであるかその由来を示さなければならない特段の事情もない。

エ よって、請求項1及びそれを引用する請求項2〜6に係る発明は、明確である。

(3)特許法第29条第2項について(上記3の(2))
(3)−1 甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。ただし、各甲号証に記載された発明の認定に関する箇所に、当審で下線を付した。以下、同じ。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池を含む固体酸化物形燃料電池装置に関し、具体的には、板状の単セルと組み合わせて用いられる板状のインターコネクタと、その製造方法に関する。」
「【0041】
(材料)
実施形態1において、インターコネクタ本体30の材料としては、鉄−クロム系合金で形成された耐熱合金(ZMG232L、日立金属株式会社)を用いた。この耐熱合金は、鉄およびクロムを主要成分とするフェライト系ステンレス鋼である。この耐熱合金は、燃料電池(SOFC)の作動温度での良好な導電性、作動温度での長時間にわたる良好な耐酸化性、電解質膜21(ジルコニア系セラミックス)に近い低熱膨張係数を有する。」
「【0043】
コート層31の材料(コート原料)としては、導電性セラミック原料と液状媒体との混合物を用いた。導電性セラミック原料は、ランタン酸化物系導電材料とガラス系結合材とからなる。
【0044】
具体的には、ランタン酸化物系導電材料として、LaXSr1−XMnOy(x=0.1〜1,y=3〜3.1)の組成式を有するものを用いた。より具体的には、LaXSr1−XMnO3(X=0.8)の組成式を有する粒子状の酸化物導電材料(La0.8Sr0.2MnO3)を用いた。このようなランタン酸化物系導電材料は、電子伝導性があり、安価で安定な材料である。高温の酸化雰囲気において安定であり、導電率の低下が抑制される。ガラス系結合材としては、バリウム酸化物(BaO)−ホウ素酸化物(B2O3)−シリコン酸化物(SiO2)系のものを用いた。このような結合材とランタン酸化物系導電材料とが混合するコート層31は低温焼成が容易である。更に、固体酸化物形燃料電池の作動温度領域においても、コート層31におけるガラス材料の過剰流動化が抑制されるため、酸化抑制コーティング層の保形性が確保され、ひいては酸化抑制コーティング層による酸素バリヤ性が確保される。
【0045】
また、ガラス系結合材としては、バリウム酸化物(BaO)−ホウ素酸化物(B2O3)−シリコン酸化物(SiO2)系のガラス材料(粒子状)を用いた。このガラス材料の基本組成は、質量比で、BaOが54.7%、B2O3が19.1%、SiO2が19.1%、Al2O3が4.9%である(ICP分析)。この結合材の熱膨張係数(50〜350℃)は88〜89[×10−7/℃]、DTA転移点は614〜618℃であり、DTA軟化点は718〜723℃であり、中心粒径(D50)は1.2〜1.3μmであった。このガラス系結合材を用いる場合、固体酸化物形燃料電池の作動温度領域においても、コート層31におけるガラス材料の過剰流動化が抑制される。このためコート層31の保形性が確保され、ひいてはコート層31による酸素バリヤ性が確保され易い。」
「【0049】
(インターコネクタの製造方法)
<成形工程>
先ず、インターコネクタ本体30の材料として、鉄−クロム系合金で形成された耐熱合金(ZMG232L;日立金属株式会社)で形成された金属板を準備した。この金属板の一方の面がアノード面36となり、他方の面がカソード面37となる。切削加工により、アノード面36に凹面状のアノードガス流通面75を形成し、カソード面37に凹面状のカソードガス流通面65を形成した。さらに、金属板の厚さ方向に貫通孔を形成した。この貫通孔はアノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64となる。アノード面36におけるアノードガスマニホールド71、74の開口面積は、アノード面36におけるカソードガスマニホールド61、64の開口面積よりも大きい。ここでいう開口面積とは、アノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64のなかでアノード面36に開口している部分の面積であり、インターコネクタ本体30の厚さ方向と略直交する平面上に形成される。なお、アノードガスマニホールド71、74およびカソードガスマニホールド61、64の開口断面積は、インターコネクタ本体30の厚さ方向に一定であっても良いし、一定でなくても良い。何れの場合にも、アノード面36における開口面積が上記の関係になっていれば良い。」
「【0051】
<接着工程>
成形工程で得たインターコネクタ本体30を2枚とり、図2に示すように、アノード面36を対面させた。アノードガス流通面75はアノード面36の一部であるため、このとき2枚のインターコネクタ本体30のアノードガス流通面75もまた対面した。さらにこのとき、一方のインターコネクタ本体30のアノードガスマニホールド71と他方のインターコネクタ本体30のカソードガスマニホールド61とが対面し、かつ、一方のインターコネクタ本体30のアノードガスマニホールド74と他方のインターコネクタ本体30のカソードガスマニホールド64とが対面するようにした。上述したように、アノード面36におけるアノードガスマニホールド71、74の開口面積は、アノード面36におけるカソードガスマニホールド61、64の開口面積よりも大きい。このため、図2に示すように、カソードガスマニホールド61がアノードガスマニホールド71の内周よりも内側に配置され、カソードガスマニホールド61はアノードガスマニホールド71に包囲された。また、カソードガスマニホールド64がアノードガスマニホールド74の内周よりも内側に配置され、カソードガスマニホールド64がアノードガスマニホールド74に包囲された。
【0052】
この2枚のインターコネクタ本体30のアノード面36に接着材90を塗布し、2枚のインターコネクタ本体30のアノード面36同士を接着した。なおこのとき、アノードガス流通面75におけるアノードガスマニホールド71、74の周縁部(図5中点線に示す位置)を充填材91で埋めた。この周縁部は、アノードガス流通面75のアノードガスマニホールド71、74との連結部に相当する。接着材は、アノード面36におけるアノードガス流通面75以外の部分(一般面36a)に塗布した。さらに、カソードガスマニホールド61、64の周縁部(周縁コート部61Yとなる部分)には塗布しなかった。接着材90は炭素と水素とを含む炭素水素系の接着剤であり、具体的にはアクリル系の接着材90である。実施形態1においては、充填材91として、接着剤90と同じものを用いた。接着材90はそのまま用いても良いし、樹脂や紙等の基材に接着材90が一体化されたテープ状またはシート状のものを用いても良い。接着材90はこれに限らず、後述する焼成工程で燃料し消失するものを用いれば良い。充填材91および基材に関しても同様である。なお、接着材、充填材、および基材はそれぞれ異なる材料からなっても良いし、同じ材料からなっても良い。
【0053】
<コート工程>
接着工程で接着した2枚のインターコネクタ本体30の表面に、導電性セラミック原料と液状媒体とを含むコート原料をコートした。
【0054】
先ず、上述した導電性セラミック原料と液状媒体とを混合して、コート原料を調製した。具体的には、ランタン酸化物系酸化物導電材料(La0.8Sr0.2MnO3;平均粒径0.3μm)と、粒子状のガラス系結合材とを、常温において質量比で94:6となるよう秤量し、有機溶剤(エタノール)に分散させた。この場合、コート層31を100%とするとき、質量比で、ガラス材料は6.0%に相当する。そして、コート原料にインターコネクタ本体30を所定時間(約20秒間)浸漬した後に取り出すことにより、このコート原料をインターコネクタ本体30の表面全体にコートした。」
「【0057】
<焼成工程>
コート工程後、コート原料がコートされたインターコネクタ本体30を大気雰囲気で2時間焼成した。このときの焼成温度(加熱温度)は、800℃であり、接着材90および充填材91が燃焼する温度よりも高温であった。このため、コート工程において接着剤90および充填材91は焼失し、2枚のインターコネクタ3が得られた(図4)。」
「【図2】


【図3】


【図4】




(3)−2 甲1記載の発明
上記(3)−1より、甲1(【0001】、【0045】、【0049】、【0052】〜【0054】、【0057】)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「インターコネクタ本体30の材料として、鉄−クロム系合金で形成された耐熱合金(ZMG232L;日立金属株式会社)で形成された金属板を準備し、
2枚のインターコネクタ本体30のアノード面36に接着材90を塗布し、2枚のインターコネクタ本体30のアノード面36同士を接着し、
接着した2枚のインターコネクタ本体30の表面に、導電性セラミック原料と液状媒体とを含むコート原料をコートし、
コート原料がコートされたインターコネクタ本体30を大気雰囲気で2時間焼成し、このときの焼成温度(加熱温度)は、800℃であり、接着材90および充填材91が燃焼する温度よりも高温であり、
コート原料の調製は、ランタン酸化物系酸化物導電材料(La0.8Sr0.2MnO3;平均粒径0.3μm)と、粒子状のガラス系結合材とを、常温において質量比で94:6となるよう秤量し、有機溶剤(エタノール)に分散させることにより行い、
ガラス系結合材としては、バリウム酸化物(BaO)−ホウ素酸化物(B2O3)−シリコン酸化物(SiO2)系のガラス材料(粒子状)を用い、
このガラス材料の基本組成は、質量比で、BaOが54.7%、B2O3が19.1%、SiO2が19.1%、Al2O3が4.9%である(ICP分析)、固体酸化物形燃料電池のインターコネクタの製造方法。」

(3)−3 甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ及びその形成方法に関し、より詳しくは、Crを含む耐熱合金材料を用いて構成された固体酸化物形燃料電池用インターコネクタのアノード側に面する表面に水蒸気酸化抑制層を有する固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ及びその水蒸気酸化抑制層の形成方法に関する。」
「【0043】
本発明におけるCrを含む耐熱合金材料としては、固体酸化物形燃料電池用インターコネクタとして使用されるCrを含む耐熱合金材料であれば何れも使用される。例えば下掲(1)〜(3)のような材料が挙げられるが、これらに限定されない。これらはフェライト系耐熱合金として知られるものである。
(1)C:0.02%(mass%、以下同じ)、Mn:0.50%、Ni:0.26%、Cr:21.97%、Zr:0.22%、La:0.04%、Si:0.40%、Al:0.21%、Fe:バランス。
(2)C:0.03%、Mn:0.47%、Ni:0.26%、Cr:22.14%、Zr:0.20%、La:0.04%、Si:0.40%、Al:0.21%、Fe:バランス。
(3)C:0.02%、Mn:0.48%、Ni:0.33%、Cr:22.04%、Zr:0.20%、La:0.08%、Low Si、Low Al、Fe:バランス。」
「【0059】
〈(1)水蒸気酸化抑制層の形成材料スラリーの作製〉
水蒸気酸化抑制層の形成材料:MnCo2O4の油性スラリーを作製した。MnCo2O4の粉末(d50=1μm、比表面積=2.3m2/g)、LiNO3、有機バインダー、分散剤、エタノールを混合し、卓上ボールミルで10日間攪拌し、MnCo2O4の油性スラリーを作製した。」
「【0061】
〈(2)インターコネクタ材料への水蒸気酸化抑制層の形成材料スラリーの塗布〉
Crを含む耐熱合金材料〔日立金属(株)製、ZMG(登録商標)232L。組成:C=0.02%(mass%、以下同じ)、Mn=0.48%、Ni=0.33%、Cr=22.04%、Zr=0.20%、La=0.08%、Si=微量、Al=微量、Fe=バランス〕の板体を複数個用意した。各板体の表面寸法は1cm×1cm(=1cm2)である。
【0062】
それら各板体毎に、その表面に、前記〈(1)水蒸気酸化抑制層の形成材料スラリーの作製〉で作製した、MnCo2O4に対するLiNO3の添加割合を異にした油性スラリーをスクリーン印刷により塗布した。塗布後、溶媒であるエタノールを100℃前後にした恒温槽により乾燥した。こうして、各板体毎にそれぞれ、MnCo2O4に対するLiNO3の添加割合が異なるスラリーを塗膜、乾燥した各サンプルを作製した。
【0063】
〈(3)還元処理〉
〈(2)インターコネクタ材料への水蒸気酸化抑制層の形成材料スラリーの塗布〉で得た各サンプルを電気炉中、水素を含む窒素雰囲気〔N296%に対してH24%(容量%)を含む雰囲気〕において、800℃で20時間還元処理した。この処理でLiNO3はLiに還元される。LiNO3中のLi+は1価であるのでLiNO3としてのモル%はLiでも同じである。
【0064】
〈(4)酸化処理=焼成処理〉
〈(3)還元処理〉後の各サンプルを電気炉中で、空気雰囲気において、800℃で12〜24時間の範囲の各時間で酸化処理した。
【0065】
〈作製した各サンプルのSEMによる観察〉
以上(1)〜(4)の工程で作製したサンプルについて、その表面及び断面をSEM(走査電子顕微鏡)により観察した。その結果、各板体の表面に緻密なMnCr酸化物の層が形成され、MnCr酸化物層の上に緻密なMnCo2O4の層が形成されていることが観察された。これらの二層は、MnCo2O4が前記(3)〜(4)の還元、酸化工程を経て形成されたものである。そのうちMnCo2O4層は、還元処理により一度MnOとCoへ変化し、これに続く酸化工程によりMnCo2O4へ変化したもので、このように変化する過程でMnCr酸化物層上に緻密に成膜されている。」

(3)−4 甲2記載の発明
上記(3)−3により、甲2(【0001】、【0059】、【0061】、【0062】、【0064】)には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「MnCo2O4の粉末(d50=1μm、比表面積=2.3m2/g)、LiNO3、有機バインダー、分散剤、エタノールを混合し、卓上ボールミルで10日間攪拌し、MnCo2O4の油性スラリーを作製し、
Crを含む耐熱合金材料〔日立金属(株)製、ZMG(登録商標)232L。組成:C=0.02%(mass%、以下同じ)、Mn=0.48%、Ni=0.33%、Cr=22.04%、Zr=0.20%、La=0.08%、Si=微量、Al=微量、Fe=バランス〕の板体を複数個用意し、
上記各板体毎に、その表面に、上記油性スラリーをスクリーン印刷により塗布し、
上記各板体を電気炉中、水素を含む窒素雰囲気〔N296%に対してH24%(容量%)を含む雰囲気〕において、800℃で20時間還元処理し、
上記各板体を電気炉中で、空気雰囲気において、800℃で12〜24時間の範囲の各時間で酸化処理した、固体酸化物形燃料電池用インターコネクタの形成方法。」

(3)−5 甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。
「【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)を含む、いくつかの異なる種類の燃料電池が開発中である。固体酸化物形燃料電池は、典型的には、600〜1000℃の範囲の温度で動作する。個々のセルは、電気的相互接続として知られる装置により互いに直列に電気的に接続されて、許容電圧を発生させるマルチセルスタックユニットを形成する。相互接続材料は、燃料電池の高温酸化動作条件下で、物理的及び化学的に安定で、導電性でなければならない。」
「【0011】
本発明によると、16〜30wt%の間、好ましくは20〜28wt%の間の十分なCr濃度を有するクロミア形成合金が、相互接続基材として提供される。或いは、酸化物分散強化型(ODS)合金又はプレーンCr基合金を、相互接続基材として使用することができる。しかしながら、このような合金は、不良な酸化挙動、酸化物スケール破砕及びより重要なことには酸化物スケールからのCr蒸発に悩まされる。
【0012】
したがって、限定するものではないが、AISI 4XXシリーズ、クロフェックス(Crofex)(登録商標)22 APU、クロフェー(Crofer)(登録商標)22H、ZMG232及びZMG232Lなどのステンレス鋼、ハイネス(Haynes)(登録商標)230(登録商標)(22wt%のCrを含む)などのNi超合金、ハイネス(登録商標)188(登録商標)(22wt%のCrを含む)などのCo超合金又はデュラロイ(Duralloy)などのCr基合金を含むクロミア形成合金が、相互接続基材として好ましい。」
「【0058】
・・・(略)・・・
【表4】


【0059】
・・・(略)・・・
(表5)



(3)−6 甲1発明を主たる引例とした場合
ア 本件発明1と甲1発明とを比較すると、甲1発明の「固体酸化物形燃料電池のインターコネクタ」は、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材」に相当するから、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも次の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「セル間接続部材の基材」の「主材料のステンレス合金がTiを含有」するのに対し、甲1発明は、「インターコネクタ本体30の材料」が、「鉄−クロム系合金で形成された耐熱合金(ZMG232L;日立金属株式会社)」である点。

イ 以下、上記相違点1について検討する。

ウ 甲3の【0058】の【表4】に記載されているとおり、甲1発明の「ZMG232L」は、チタンを含有するものではない。

エ 一方、甲3には、固体酸化物系燃料電池における相互接続基材(甲1発明の「固体酸化物形燃料電池のインターコネクタ」に相当。)として好ましいものとして、「ZMG232L」及び「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」が記載されており(【0012】)、さらに、「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」はチタンを含有することが記載されている(【0059】)。

オ したがって、甲1発明において、「ZMG232L」に代えて、「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」を採用すれば、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることができる。

カ しかしながら、甲1には、「実施形態1において、インターコネクタ本体30の材料としては、鉄−クロム系合金で形成された耐熱合金(ZMG232L、日立金属株式会社)を用いた。この耐熱合金は、鉄およびクロムを主要成分とするフェライト系ステンレス鋼である。この耐熱合金は、燃料電池(SOFC)の作動温度での良好な導電性、作動温度での長時間にわたる良好な耐酸化性、電解質膜21(ジルコニア系セラミックス)に近い低熱膨張係数を有する」(【0041】)と、「ZMG232L」は利点が多いインターコネクタ本体の材料であること記載されている。

キ そうすると、甲1発明において、「ZMG232L」に代えて、「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」を採用する動機がない。

ク また、仮に、甲1発明において、「ZMG232L」に代えて、「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」を採用する動機があったとしても、「基材から酸化皮膜へのTiの移動が促進され、酸化被膜の電子導電性が向上」することにより、「セル間接続部材の電気抵抗値を低く抑えることができる」(以上、本件明細書【0016】)という本件発明の効果を推測することは困難である。

ケ したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

コ よって、本件発明1は、甲1発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

サ また、請求項2〜6はいずれも請求項1を引用するものであって、本件発明2〜6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2〜6と甲1発明とは、少なくとも、上記相違点1で相違する。

シ そうすると、上記イ〜コで検討した理由と同様の理由により、本件発明2〜6は、甲1発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)−7 甲2発明を主たる引例とした場合
ア 本件発明1と甲2発明とを比較すると、甲2発明の「固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ」の「板体」は、本件発明1の「固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材」の「基材」に相当するから、本件発明1と甲2発明とは、少なくとも次の点で相違する。

(相違点2)
本件発明1は、「セル間接続部材の基材」の「主材料のステンレス合金がTiを含有」するのに対し、甲2発明は、「固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ」の「板体」が、「Crを含む耐熱合金材料〔日立金属(株)製、ZMG(登録商標)232L。組成:C=0.02%(mass%、以下同じ)、Mn=0.48%、Ni=0.33%、Cr=22.04%、Zr=0.20%、La=0.08%、Si=微量、Al=微量、Fe=バランス〕」である点。

イ 以下、上記相違点2について検討する。

ウ 甲3の【0058】の【表4】に記載されているとおり、甲2発明の「ZMG232L」は、チタンを含有するものではない。

エ 一方、甲3には、固体酸化物系燃料電池における相互接続基材(甲2発明の「固体酸化物形燃料電池用インターコネクタ」に相当。)として好ましいものとして、「ZMG232L」及び「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」が記載されており(【0012】)、さらに、「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」はチタン及びクロムを含有することが記載されている(【0059】)。

オ したがって、甲2発明において、「ZMG232L」に代えて、「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」を採用できれば、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることができる。

カ しかしながら、甲2発明には、クロムを含有するステンレス合金として、「ZMG232L」に代えて、「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」を採用する動機がない。

キ そして、仮に、甲2発明において、「クロフェー(Crofer)(登録商標)22H」を採用することが可能であったとしても、当該採用により、「基材から酸化皮膜へのTiの移動が促進され、酸化被膜の電子導電性が向上」することにより、「セル間接続部材の電気抵抗値を低く抑えることができる」(以上、本件明細書【0016】)という本件発明の効果を推測することは困難である。

ク したがって、甲2発明において、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。
この点は、甲12を参酌しても変わらない。

ケ よって、本件発明1は、甲2発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

コ また、請求項2〜6はいずれも請求項1を引用するものであって、本件発明2〜6は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本件発明2〜6と甲1発明とは、少なくとも、上記相違点2で相違する。

サ そうすると、上記イ〜ケで検討した理由と同様の理由により、本件発明2〜6は、甲2発明及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 むすび
以上のとおり、本件の請求項1〜6に係る特許は、令和4年4月11日付けで通知された取消理由に記載した取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】セル間接続部材の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、セル間接続部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池用セル(以下「SOFC用セル」と記載する場合がある。)は、電解質膜の一方面側に空気極を接合するとともに、同電解質膜の他方面側に燃料極を接合してなる単セルを、電子導電性の基材(セル間接続部材)により挟み込んだ構造を有する。そしてこのようなSOFC用セルは、700〜900℃程度の作動温度で作動し、空気極側から燃料極側への電解質膜を介した酸化物イオンの移動に伴って、電極間に起電力を発生させる。セル間接続部材は、単セル同士を電気的に接続する部材であり、また燃料と空気の隔壁となる部材でもある。
【0003】
近年の開発の進展に伴い、SOFCの作動温度が下がってきている。従来の作動温度は1000℃程度であり、耐熱性の観点からランタンクロマイトに代表される金属酸化物が使用されていた。最近は作動温度が700℃〜800℃まで下がっており、SOFC用セルの構成部材として合金が使用できるようになってきた。合金の使用により、SOFCのコストダウン、ロバスト性の向上が期待できる。
【0004】
合金としては、接合される金属酸化物の熱膨張率との整合性から、フェライト系ステンレス鋼が用いられることが多い。一方、耐熱性により優れたオーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金や、ニッケル基合金であるNi−Cr合金などが用いられることもある。また(La,Ca)CrO3(カルシウムドープランタンクロマイト)に代表される金属酸化物が用いられることもある。
【0005】
これらの合金は、ほぼ例外なくCrを含んでおり、作動環境である高温大気雰囲気にて表面にCr2O3やMnCr2O4の酸化物皮膜を形成する。この酸化物皮膜は経時的に膜厚が厚くなり、電気抵抗が増大するとともに、作動環境である高温大気雰囲気で6価クロムの化合物として蒸発し、空気極を劣化させることが知られている(Cr被毒と呼ばれる)。また、(La,Ca)CrO3を用いた場合でも、合金の場合よりも少ないが、同様にCr被毒が生じる場合がある。そこで合金や(La,Ca)CrO3の表面に、耐熱性に優れた金属酸化物材料をコーティングして、空気極の劣化を抑制する試みがなされている。
【0006】
特許文献1の固体酸化物形燃料電池用セルでは、セル間接続部材の基材はフェライト系ステンレス合金製であり、その基材の表面に金属酸化物材料(Znx(CoyMn(1−y))(3−x)O4)を含む保護膜が形成されている。保護膜の形成は詳しくは、金属酸化物材料の微粉末を含有するスラリー状の塗膜形成用材料をディッピング法により基材に塗布し、乾燥の後、1000℃で2時間焼成して金属酸化物材料を焼結させることにより、行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−229317号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】THE ELECTRICAL CONDUCTIVITY OF Cr2O3 DOPED WITH 16.5 mol%TiO2 AT 1073 K M.Ueda et.al.,210th ECS Meeting Abstract#950
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
汎用のステンレス合金はFeとCr以外に様々な不純物元素を含んでいる。それら不純物元素は、金属と保護膜との界面近傍の金属内部に、酸素ポテンシャルに準じて内部酸化皮膜を形成する。この内部酸化皮膜と、基材の酸化皮膜、および保護膜の電子導電性・接触抵抗は、固体酸化物形燃料電池の発電効率に影響を与える。保護膜としては、高い電子導電性、Cr拡散抑制効果および周辺材料との熱膨張の一致が求められることから、スピネル系酸化物が用いられることが多い。セル間接続部材の周辺における発電性能に影響を及ぼす因子として、酸化皮膜の成長抑制、高抵抗である内部酸化皮膜層の形成の抑制、もしくは低抵抗な層を積極的に形成することが課題となっている。
【0010】
ステンレス鋼材は表面にCr2O3酸化皮膜を形成し、内部酸化皮膜層として、SiO2、Al2O3、TiO2等がエリンガム図の酸素ポテンシャル、温度の因子により順に形成するのが一般的である。これらの層はどれも絶縁性の材料であり、高抵抗な要因となるため、形成層を薄くする、分断する(断続的)等が求められる。しかしこれらは、保護膜形成のための熱処理の際に形成されるものであり、制御することが難しい。
【0011】
非特許文献1では、低抵抗な層の形成として、Cr2O3酸化皮膜にTiO2をドープすることで、電子導電性が約1桁程度改善することが報告されている。ステンレス鋼材中のTiをCr2O3酸化皮膜内に形成させる製造方法により、性能向上が見込まれる。
【0012】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気抵抗を低減して固体酸化物形燃料電池の性能を高めることができるセル間接続部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための、固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法の特徴構成は、
導電性セラミックス材料の微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜工程と、
塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結工程とを有し、
前記基材の主材料のステンレス合金がTiを含有し、前記スラリーがAl2O3を含有し、
前記スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して0.5質量%以上3質量%未満である、点にある。
【0014】
発明者らはセル間接続部材の保護膜の材料や製造方法について鋭意実験・検討の末、保護膜の湿式成膜に用いるスラリーにアルミナ(Al2O3)を含有させると、セル間接続部材の電気抵抗値が低減される現象を見いだした。アルミナは電気抵抗が高いため、本来であれば保護膜に用いることは忌避される物質であるが、発明者らはスラリーへのアルミナの混合により予想に反してセル間接続部材の電気抵抗を低減できることを実験で確認し、本発明を完成したのである。
【0015】
すなわち上記の特徴構成によれば、Al2O3を含有するスラリーを用いて基材に塗膜を湿式成膜し(成膜工程)、基材に熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する(焼結工程)ことで、電気抵抗を低減したセル間接続部材を製造することができ、これを用いる固体酸化物形燃料電池の性能を高めることが可能となる。
【0016】
アルミナ(Al2O3)の使用により電気抵抗が低減する理由は明らかではないが、スラリーにアルミナを含有させた場合に、基材表面の酸化皮膜中にTiが多く分布する現象が見られた。上述の非特許文献1によれば、Cr2O3酸化皮膜にTiO2をドープすることで電子導電性が改善するとあるから、スラリーへのアルミナの含有によって基材から酸化皮膜へのTiの移動が促進され、酸化皮膜の電子導電性が向上したと考えられる。
また、スラリーが含有するAl2O3の量に応じてセル間接続部材の電気抵抗値が変化することが実験で確認されている。上記の特徴構成によれば、セル間接続部材の電気抵抗値を低く抑えることができる。
【0017】
本発明に係るセル間接続部材の製造方法の別の特徴構成は、前記スラリーにAl2O3の粉末を添加物として追加する添加工程を有する点にある。
【0018】
すなわちスラリーへのAl2O3の含有は、スラリーにAl2O3の粉末を添加物として追加する添加工程により実現してもよい。この場合、導電性セラミックス材料にアルミナ(Al2O3)の粉末を混合して、これを粉砕して微粉末作成してもよい。導電性セラミックス材料の微粉末にAl2O3の粉末を混合してもよい。導電性セラミックス材料の微粉末を含有するスラリーに、Al2O3の粉末を混合してもよい。
【0019】
本発明に係るセル間接続部材の製造方法の別の特徴構成は、前記スラリーが、前記導電性セラミックス材料に含まれる不純物としてのAl2O3を含有する点にある。
【0020】
すなわち、導電性セラミックス材料に不純物としてアルミナ(Al2O3)が含まれ、これによりスラリーへAl2O3が含有されてもよい。
【0021】
本発明に係るセル間接続部材の製造方法の別の特徴構成は、アルミナを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、前記微粉末を作成する粉砕工程を有する点にある。
【0022】
すなわちスラリーへのAl2O3の含有は、導電性セラミックス材料を粉砕し微粉末を作成する工程において、アルミナを粉砕メディアとして用いることで実現してもよい。
【0025】
上述したセル間接続部材の製造方法は、前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する場合に好適に適用可能である。また、前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)を主成分とする場合にさらに好適に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】固体酸化物形燃料電池用セルの概略図
【図2】固体酸化物形燃料電池の作動時の反応の説明図
【図3】セル間接続部材の断面図
【図4】固体酸化物形燃料電池用セルの断面のSEM画像およびEPMA図
【図5】固体酸化物形燃料電池用セルの断面のSEM画像およびEPMA図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、固体酸化物形燃料電池用セルおよびセル間接続部材を説明し、製造方法および実験例を示す。なお以下に本発明の好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0028】
〔固体酸化物形燃料電池(SOFC)〕
図1および図2に示すSOFC用セルCは、酸素イオン伝導性の固体酸化物の緻密体からなる電解質膜30の一方面側に、酸素イオンおよび電子導電性の多孔体からなる空気極31を接合するとともに、同電解質膜30の他方面側に電子導電性の多孔体からなる燃料極32を接合してなる単セル3を備える。
さらに、SOFC用セルCは、この単セル3を、空気極31または燃料極32に対して電子の授受を行うとともに空気および水素を供給するための溝2が形成された一対の電子導電性の合金または酸化物からなるセル間接続部材1により、適宜外周縁部においてガスシール体を挟持した状態で挟み込んだ構造を有する。空気極31とセル間接続部材1とが密着配置されることで、空気極31側の溝2が空気極31に空気を供給するための空気流路2aとして機能する。燃料極32とセル間接続部材1が密着配置されることで、燃料極32側の上記溝2が燃料極32に水素を供給するための燃料流路2bとして機能する。セル間接続部材1はインターコネクタとセルC間を電気的に接続する部材が接続された構成となることもある。
【0029】
なお、上記SOFC用セルCを構成する各要素で利用される一般的な材料について説明を加えると、例えば、上記空気極31の材料としては、LaMO3(例えばM=Mn,Fe,Co,Ni)中のLaの一部をアルカリ土類金属AE(AE=Sr,Ca)で置換した(La,AE)MO3のペロブスカイト型酸化物を利用することができ、上記燃料極32の材料としては、Niとイットリア安定化ジルコニア(YSZ)とのサーメットを利用することができ、さらに、電解質膜30の材料としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を利用することができる。
【0030】
そして、複数のSOFC用セルCが積層配置された状態で、複数のボルトおよびナットにより積層方向に押圧力を与えて挟持され、セルスタックとなる。
このセルスタックにおいて、積層方向の両端部に配置されたセル間接続部材1は、燃料流路2bまたは空気流路2aの一方のみが形成されるものであればよく、その他の中間に配置されたセル間接続部材1は、一方の面に燃料流路2bが形成され他方の面に空気流路2aが形成されるものを利用することができる。なお、このような積層構造のセルスタックでは、上記セル間接続部材1をセパレータと呼ぶ場合がある。
セルスタックは、燃料ガス(水素)を供給するマニホールドに、ガラスシール材等の接着材により取り付けられる。ガラスシール材としては、例えば結晶化ガラスが用いられる。ガラスシール材は、マニホールドの接着の他、単セル3とセル間接続部材1の間など、封止(シール)が必要な箇所に用いられる。
このようなセルスタックの構造を有するSOFCを一般的に平板型SOFCと呼ぶ。本実施形態では、一例として平板型SOFCについて説明するが、本発明はその他の構造のSOFCについても適用可能である。
【0031】
そして、このようなSOFC用セルCを備えたSOFCの作動時には、図2に示すように、空気極31に対して隣接するセル間接続部材1に形成された空気流路2aを介して空気を供給するとともに、燃料極32に対して隣接するセル間接続部材1に形成された燃料流路2bを介して水素を供給し、例えば800℃程度の作動温度で作動する。すると、空気極31において酸素分子O2が電子e−と反応して酸化物イオンO2−が生成され、そのO2−が電解質膜30を通って燃料極32に移動し、燃料極32において供給されたH2がそのO2−と反応してH2Oとe−とが生成されることで、一対のセル間接続部材1の間に起電力Eが発生し、その起電力Eを外部に取り出し利用することができる。
【0032】
〔セル間接続部材〕
セル間接続部材1は、図1および図3に示すように、単セル3との間で空気流路2a、燃料流路2bを形成しつつ接続可能にする溝板状に形成されている。基材11の表面に、後に述べる保護膜12を設けることでCr被毒を抑制することができ、固体酸化物形燃料電池用セルとして好適である。
【0033】
セル間接続部材1の材料としては、電子導電性および耐熱性の優れた材料であって、フェライト系ステンレス鋼であるFe−Cr合金、オーステナイト系ステンレス鋼であるFe−Cr−Ni合金など、Crを含有する合金が用いられる。本実施形態では特に、セル間接続部材1の基材11の主材料は、Tiを含有するステンレス合金であって、フェライト系であると好適であり、Siを含有すると好適であり、またMnを含有すると好適である。
【0034】
〔保護膜〕
基材11に設けられる保護膜12は、導電性セラミックス材料(金属酸化物)を含有する。保護膜12に含有させる導電性セラミックス材料としては、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物が用いられる。具体的には、平均粒径が0.1μm以上2μm以下のZn(Co,Mn)O4またはCo1.5Mn1.5O4、ZnCo2O4、MnCo2O4、Co3O4の微粉末が好適に用いられる。
【0035】
保護膜12の材料となる金属酸化物の微粉末は、導電性セラミックス材料を細かく粉砕して作成される。粉砕は例えば、筒状のボールミルに導電性セラミックス材料と粉砕メディアを投入し、ボールミルを回転させ、粉砕メディアの落下衝撃で導電性セラミックス材料を粉砕して行う。粉砕メディアはボール状(ビーズ状)すなわち球形状のものが用いられる。粉砕メディアとしては、安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、アルミナ等を材料とするものを用いることができる。アルミナの粉砕メディアを導電性セラミックス材料の粉砕に用いた場合は、導電性セラミックス材料にアルミナを含有させることができる(粉砕工程)。
【0036】
基材11への保護膜12の形成は、概略次のようにして行う。まず、金属酸化物微粉末を含有する混合液(スラリー)を作成する。そしてそのスラリーを用いて基材11に塗膜を湿式成膜し、乾燥・加熱等により塗膜を硬化させる。続いて、基材11を高温で処理し、塗膜中の樹脂等の成分を焼き飛ばし、金属酸化物微粉末を焼結させて、保護膜12を形成する。
【0037】
本実施形態では、スラリーがAl2O3を含有することによりセル間接続部材の電気抵抗が低減される。スラリーが含有するAl2O3の量は、スラリーにおける導電性セラミックス材料の微粉末の総量に対して、3質量%未満であると好適である。また、スラリーが含有するAl2O3の量は、スラリーにおける導電性セラミックス材料の微粉末の総量に対して、0.5質量%以上であると好適であり、1質量%以上であると更に好適である。
【0038】
湿式成膜による塗膜の形成方法としては、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、スプレーコート法、インクジェット法、スピンコート法、ディップコート、電気めっき法、無電解めっき法、電着塗装法が例示できる。
【0039】
例えば電着塗装法によれば、以下のようにして基材11に保護膜12を形成することができる。
(1)ポリアクリル酸等のアニオン型樹脂を含有する電着液に、金属酸化物微粉末を1リットル当たり100gになるように分散させ、混合液を作成する。具体的には、質量比で(金属酸化物微粉末:アニオン型樹脂)=(1:1)〜(2:1)とする。
(2)混合液を満たした通電漕の中に基材11を浸して陽極とし、別に設けた陰極板との間に通電することにより、基材11の表面に未硬化の電着塗膜が形成される。
(3)続いて、基材11に加熱処理を行うことで、基材11の表面に硬化した電着塗膜が形成される。加熱処理としては、電着塗膜を乾燥させる予備乾燥と、それに続いて電着塗膜を硬化させる硬化乾燥とを行う。
(4)最後に、基材11を電気炉を使用して2時間焼成し、保護膜12を備えたセル間接続部材1を得る。
【0040】
なお、電着塗装の条件は特に制限されず、塗装する金属の種類、混合液の種類、通電槽の大きさおよび形状、目標膜厚などの各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常は、浴温度(混合液温度)10〜40℃、印加電圧10〜450V、電圧印加時間1〜10分とすればよい。
【0041】
〔セル間接続部材の製造方法〕
次にセル間接続部材の製造方法について説明する。セル間接続部材の製造方法は、スラリー作成ステップと、成膜ステップと、焼結ステップとを有する。
【0042】
〔スラリー作成ステップ〕
スラリー作成ステップでは、導電性セラミックス材料の微粉末を含有するスラリーが作成される。そしてスラリーにはアルミナ(Al2O3)が含有される。本実施形態では(1)アルミナ粉末を添加物として追加する手法(2)アルミナを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕する手法について説明するが、アルミナの含有には種々の手法が可能である。例えば(3)導電性セラミックス材料に含まれる不純物としてのAl203を含有させる手法も可能である。
【0043】
まず、粉砕メディアを用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、微粉末を作成する(乾式)。そして、微粉末と溶媒、バインダ樹脂等を混合してスラリーを作成する。また、ボールミルに導電性セラミックス材料と溶媒、バインダ樹脂等を投入して湿式で行ってもよい。この場合、導電性セラミックス材料の微粉末の作成と、微粉末を含有するスラリーの生成とが同時に行われる。
【0044】
上述(1)スラリーへのAl2O3の粉末の添加物としての追加(添加工程)は、様々な方法が可能である。例えば、粉砕前の導電性セラミックス材料にアルミナを混合し、導電性セラミックス材料とアルミナとを一緒に粉砕してもよい。例えば、粉砕された導電性セラミックス材料の微粉末にアルミナ粉末を混合してもよい。作成されたスラリーにアルミナ粉末を混合してもよい。
【0045】
またスラリーへのアルミナ含有は、上述(2)アルミナを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕(粉砕工程)にて行ってもよい。この場合、上述の乾式と湿式の何れの方法も可能である。
【0046】
〔成膜ステップ〕
成膜ステップでは、微粉末を含有するスラリーを用いてセル間接続部材1の基材11に塗膜を湿式成膜する。湿式成膜は、スラリーに基材11を浸けて(ディップ)引き上げることで行ってもよいし、電着塗装法により行ってもよいし、先に例示した方法のいずれかを用いてもよい。湿式成膜は、基材11の全体に対して行ってもよいし、平板状の基材11の一方の面のみに行ってもよい。なお後者の場合、湿式成膜が行われ保護膜12が形成された面が、単セル3の空気極31に接合されることになる。湿式成膜が行われず基材11の素材が露出している面が、単セル3の燃料極32に接合されることになる。
【0047】
〔焼結ステップ〕
焼結ステップでは、塗膜を湿式成膜した基材11に熱処理を施し、微粉末を焼結させて基材11の表面に保護膜12を形成する。熱処理は1000℃以下の温度で行われると好適である。
【0048】
焼結ステップにおける熱処理は、固体酸化物形燃料電池用セルの単セル3と基材11とを接合しない状態で行われてもよい。熱処理の際の雰囲気としては、種々選択が可能である。微粉末を含有するスラリーの塗布が基材11の一方の面に対して行われ、他方の面では基材11の素材が露出している場合には、熱処理を不活性ガスや還元ガスの雰囲気下で行うと、基材11の素材が露出した面の酸化を抑制することができ好適である。
【0049】
〔電気抵抗値の測定〕
スラリーが含有するAl2O3の量と、セル間接続部材の電気抵抗(接触抵抗)との関係を確認するため、スラリーが含有するアルミナの量を変更したサンプルを作成し、電気抵抗を測定した。
【0050】
〈実験例1:アルミナ添加無し〉
導電性セラミックス材料として、MnCo2O4を用い、セル間接続部材1の基材11としてSUS445J1(フェライト系ステンレス)の部材を用いた。実験例1では、粉砕メディアとして、イットリア安定化ジルコニア(以下「YSZ」と記す。)のボールを用いた。YSZボールにて粉砕したMnCo2O4の微粉末15g(平均粒径約0.5μm)と、溶媒としてのアルコール(1−メトキシ−2−プロパノール)30gと、バインダ樹脂としてのヒドロキシプロピルセルロース2.7gと、混合促進のための分散メディア(YSZボール)とを、ペイントシェーカーにて混合し、スラリーを作成した。スラリーに基材11をディップし、引き上げ後、室温で乾燥させた。その後、箱形電気炉で加熱して熱処理を行い、溶媒およびバインダ樹脂の分解・脱離と、保護膜12の焼結を行った。熱処理の温度は1000℃である。
【0051】
〈実験例2〜4:アルミナ添加有り〉
実験例1と同様に導電性セラミックス材料の粉砕を行い、得られたMnCo2O4の微粉末15gに、アルミナ粉末(平均粒径約0.3μm)を混合した。混合したアルミナの量は、実験例1は0.15g(1質量%)、実験例2は0.45g(3質量%)、実験例3は0.75g(5質量%)である。以降のスラリーの作成、塗膜の成膜、保護膜焼結は実験例1と同様に行った。
【0052】
実験例1〜4の電気抵抗の測定結果を表1に示す。電気抵抗の測定は、550℃〜800℃の間で50℃ずつ温度を変更して行った。抵抗値の単位はmΩ・cm2である。なお実験例4の550℃および650℃は、装置の測定限界を超える高い抵抗値となった。
【0053】
【表1】

【0054】
実験例2では実験例1に比べて、全ての温度で抵抗値が減少した。実験例3では実験例1に比べて、550℃〜650℃では抵抗値が減少し、700℃〜800℃では抵抗値が増加した。実験例2と比べると、550℃を除く温度で抵抗値が増加した。実験例4では、全ての温度で、実験例1〜3に比べて抵抗値が増加した。温度に対する抵抗値の変化率は、実験例2は実験例1より小さく、実験例3は実験例2よりも小さい。実験例4の変化率は実験例1と同程度であった。
【0055】
以上の結果から、スラリーヘアルミナを含有させることにより、電気抵抗を低減できることが確認された。スラリーへ含有させるアルミナの量としては、微量でも電気抵抗低減の効果があると予想されるが、1質量%より大きいと好適であり、3質量%未満であると好適である。電気抵抗の大きさと温度に対する電気抵抗の変化率との両立の観点からは、スラリーに含有させるアルミナの量は3質量%以下であると好適である。
【0056】
〔元素分布の観察〕
作成した実験例1(アルミナ添加無し)および実験例2(アルミナ1質量%添加)のサンプルについて、断面のSEM観察およびEPMA元素分析を行った。結果を図4と図5に示す。
【0057】
各図の左上がSEM観察の画像、他がEPMA元素マッピング図(Mn,Co,Al,CrおよびTi)を示している。SEM画像には、画像の上側から基材、酸化皮膜、保護膜および接合層が表れている。EPMA元素マッピング図(以下「EPMA図」。)では、元素の濃度が高い位置が濃色で示されている。なお4種の元素の濃度スケールは異なっており、異なる元素間および異なる図の間で同じ濃さの色が表れていても、同じ濃度であることを意味しない。またSEM画像・EPMA図の視野はほぼ同じであるが、厳密に一致しているとは限らない。なお各図において、Mn、CrおよびCoの濃度が高い帯状の部位が、酸化皮膜に対応する位置である。
【0058】
図4は実験例2(アルミナ1質量%添加)の結果を示している。TiのEPMA図に注目すると、酸化皮膜に対応する位置でTiの濃度が高くなっている。
【0059】
図5は実験例1(アルミナ添加無し)の結果を示している。TiのEPMA図に注目すると、酸化皮膜に対応する位置でのTiの濃度は小さくなっている。
【0060】
以上の結果から、アルミナを添加しない場合は酸化皮膜にTiは分布しないが、アルミナを添加すると、酸化皮膜にTiが分布する。これにより、酸化皮膜の電子導電性が向上し、セル間接続部材の電気抵抗が低減されたと考えられる。
【符号の説明】
【0061】
1 :セル間接続部材
2 :溝
2a :空気流路
2b :燃料流路
3 :単セル
4 :接合材
C :固体酸化物形燃料電池用セル
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体酸化物形燃料電池用セルに用いられるセル間接続部材の製造方法であって、
導電性セラミックス材料の微粉末を含有するスラリーを用いて前記セル間接続部材の基材に塗膜を湿式成膜する成膜工程と、
塗膜を湿式成膜した前記基材に熱処理を施し、前記微粉末を焼結させて基材の表面に保護膜を形成する焼結工程とを有し、
前記基材の主材料のステンレス合金がTiを含有し、前記スラリーがAl2O3を含有し、
前記スラリーが含有するAl2O3の量が、導電性セラミックス材料の前記微粉末の総量に対して0.5質量%以上3質量%未満である、セル間接続部材の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーにAl2O3の粉末を添加物として追加する添加工程を有する請求項1に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項3】
前記スラリーが、前記導電性セラミックス材料に含まれる不純物としてのAl2O3を含有する請求項1または2に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項4】
アルミナを粉砕メディアとして用いて導電性セラミックス材料を粉砕し、前記微粉末を作成する粉砕工程を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項5】
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)、亜鉛コバルトマンガン系酸化物ZnzCoxMnyO4(0<x、y、z<3、x+y+z=3)、亜鉛コバルト系酸化物(ZnxCo1−x)Co2O4(0.45≦x≦1.00)から選ばれる少なくとも一つの酸化物を含有する請求項1から4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
【請求項6】
前記導電性セラミックス材料が、コバルトマンガン系酸化物CoxMnyO4(0<x、y<3、x+y=3)を主成分とする請求項1から4のいずれか1項に記載のセル間接続部材の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-09-26 
出願番号 P2017-058277
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 土屋 知久
太田 一平
登録日 2021-07-08 
登録番号 6910172
権利者 大阪瓦斯株式会社
発明の名称 セル間接続部材の製造方法  
代理人 特許業務法人R&C  
代理人 特許業務法人R&C  

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