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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 A23L 審判 一部申し立て 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1392051 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-03-01 |
確定日 | 2022-10-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6929056号発明「飲料、容器詰め飲料、飲料の製造方法および飲料の保存安定性の向上方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6929056号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕並びに〔9及び10〕について訂正することを認める。 特許第6929056号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6929056号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成28年12月27日の出願であって、令和3年8月12日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年9月1日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年3月1日に特許異議申立人 田中 亜実(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされ、同年4月26日付けで取消理由が通知され、同年7月1日に特許権者 アサヒ飲料株式会社から意見書が提出されるとともに訂正請求がされ、同年同月14日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年8月19日に特許異議申立人から意見書が提出されたものである。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和4年7月1日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の請求項1に「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)が、0.25以上であって、」と記載されているのを、「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)が、0.25以上10以下であって、」に訂正する。 併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2ないし8についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。 (2)訂正事項2 訂正前の特許請求の範囲の請求項9に「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)を0.25以上、」と記載されているのを、「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)を0.25以上10以下とし、」に訂正する。 併せて、請求項9を引用する請求項10についても、請求項9を訂正したことに伴う訂正をする。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)」の数値範囲の上限を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2ないし8についての訂正について 訂正事項1による請求項2ないし8についての訂正は、請求項1についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1による請求項2ないし8についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)請求項9についての訂正について 訂正事項2による請求項9についての訂正は、「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)」の数値範囲の上限を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2による請求項9についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)請求項10についての訂正について 訂正事項2による請求項10についての訂正は、請求項9についての訂正と同様に、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2による請求項10についての訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1及び2による請求項1ないし10についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項1及び2による請求項1ないし10についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1ないし8は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1による請求項1ないし8についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 また、訂正前の請求項9及び10も一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項2による請求項9及び10についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし10に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし8〕並びに〔9及び10〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 (A)クエン酸と、(B)乳酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を含み、 成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)が、0.25以上10以下であって、 飲料全体の酸度に対する(A)クエン酸由来の酸度が75%以下であり、pHが3.0〜4.5である、ヨーグルト様の香味を有する飲料。 【請求項2】 成分(A)の含有量(質量%)が、0.1質量%以下である、請求項1に記載の飲料。 【請求項3】 成分(B)の含有量(質量%)が、0.037質量%以上である、請求項1または2に記載の飲料。 【請求項4】 前記飲料が炭酸飲料である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の飲料。 【請求項5】 波長650nmにおける吸光度が0.06以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の飲料。 【請求項6】 ヨーグルトフレーバーを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の飲料。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれか一項に記載の飲料が容器に充填されている容器詰め飲料。 【請求項8】 前記容器が、透明である、請求項7に記載の容器詰め飲料。 【請求項9】 (A)クエン酸と、(B)乳酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を混合し、pHが3.0〜4.5の飲料を調製する工程を含み、 前記飲料を調製する前記工程において、成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)を0.25以上10以下とし、飲料全体の酸度に対する(A)クエン酸由来の酸度を75%以下となるように調製する、ヨーグルト様の香味を有する飲料の製造方法。 【請求項10】 前記飲料を調製する前記工程の後、さらに前記飲料中に炭酸ガスを圧入する工程を含む、請求項9に記載の飲料の製造方法。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年3月1日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び7ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び7ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項4ないし6及び10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4ないし6及び10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 証拠方法 甲第1号証:国際公開第2014/115465号 参考資料1:中国特許第103168858号明細書 参考資料2:中国特許出願公開第101897358号公報 参考資料3:国際公開第2013/109516号 参考資料4:特表2009−527252号公報 参考資料5:米国特許出願公開第2011/0151059号明細書 参考資料6:国際公開第93/12672号 参考資料7:特表2010−521162号公報 参考資料8:中国特許出願公開第101904350号公報 なお、参考資料1ないし8は、令和4年8月19日に特許異議申立人から提出された意見書に添付されたものである。また、証拠の表記は、特許異議申立書及び上記意見書の記載におおむね従った。以下、「甲第1号証」を「甲1」という。 第5 取消理由の概要 令和4年4月22日付けで通知された取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要は次のとおりである。 1 取消理由1(甲1に基づく新規性) 本件特許の請求項1ないし3及び7ないし9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3及び7ないし9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 なお、該取消理由1は申立理由1とおおむね同旨である。 2 取消理由2(甲1に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし4及び6ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4及び6ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 なお、該取消理由2は申立理由2のうち請求項4、6及び10に対する理由を包含する。 第6 取消理由1(甲1に基づく新規性)及び取消理由2(甲1に基づく進歩性)についての当審の判断 1 甲1に記載された事項等 (1)甲1に記載された事項 甲1には、「酸性乳性飲料およびその製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 ・「[0001] 本発明は、異味異臭の原因となるプロピオニバクテリウム属細菌の増殖が抑制された酸性乳性飲料およびその製造方法に関する。」 ・「発明が解決しようとする課題 [0008] 従って、本発明の課題は、pH3.5以上の酸性乳性飲料における異味異臭発生の原因となる微生物を解明するとともに、当該微生物の増殖を抑制し、かつ飲料本来の風味を損なわない手段を提供することにある。 課題を解決するための手段 [0009] 本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、pH3.5以上の酸性乳性飲料における異味異臭発生の原因菌がプロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属の新規細菌であること、また、ジグリセリンミリスチン酸エステル及び/又はその塩が、当該新規細菌を顕著に増殖抑制できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。」 ・「[0018] また、本発明の飲料に配合する乳として酸性乳を用いることができる。酸性乳とは、pHを酸性にした乳をいい、微生物による発酵工程を経て製造される発酵酸性乳および微生物による発酵工程を経ないで製造される非発酵酸性乳のいずれをも含む。具体的には、予め乳原料を乳酸菌やビフィズス菌等の微生物によって発酵させ、乳酸等の有機酸を生成させる方法により得られる酸性乳、乳原料に乳酸やクエン酸等の有機酸や果汁等の酸成分を添加する方法により得られる酸性乳、又はこれらの混合物が挙げられる。ここで、微生物による発酵を行なう場合、通常の発酵乳製造に使用される発酵方法で行えばよく、静置発酵、攪拌発酵、振とう発酵、通気発酵などが挙げられる。発酵は、通常30〜40℃の温度で、pHが酸性になるまで行なえばよい。 [0019] 本発明の飲料のpHは3.5以上であれば特に限定されないが、pH3.5〜4.2が好ましく、pH3.5〜4.0がより好ましく、pH3.5〜3.8がさらに好ましい。本発明の飲料のpHを上記の範囲に調整するためには、酸味料を使用する方法、酸性乳を使用する方法、果汁を使用する方法、またはこれらの方法を併用する方法により行うことができるが、所望のpHとすることができれば特に限定されない。酸味料としては、例えば、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、フィチン酸、グルコン酸、コハク酸、フマール酸等の有機酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。酸性乳を使用する場合は、酸性乳の調製方法は前記のとおりである。果汁としては、例えば、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘系の果汁が挙げられる。これらのpHを調整するための酸味料や酸性乳、果汁の使用量は、所望のpHとすることができれば特に限定されない。」 ・「[0037](実施例1〜3) 脱脂粉乳8gを水に溶解し、還元脱脂乳を得た。この還元脱脂乳に果糖ぶどう糖液糖73g、3重量%大豆多糖類33gを添加した後、50%乳酸2.1gと10%クエン酸溶液0.9gの混合液を添加混合して、均一になるように撹拌し、乳含有液を得た。次いで、該乳含有液に40°白桃透明果汁2g、5重量%グルコン酸乳酸カルシウム24.6g、ビタミンC 0.9g、ビタミンB6 8mg、ビタミンB12 15μg、高甘味度甘味料0.2g、3重量%ペクチン60gを添加した後、10重量%クエン酸三ナトリウムを用いてpH3.8に調整し、ジグリセリンミリスチン酸エステルをそれぞれ7mg(実施例1)、13mg(実施例2)、26mg(実施例3)添加混合した。その後、香料及びカロチン色素を添加し、最後にイオン交換水を用いてBrixを7.2に調整し、全量を1000gとした。その後に均質化処理を行い、加熱殺菌した後に、350mlペットボトルに充填し、水冷して酸性乳性飲料を製造した。製品特性値は、Brix 7.2、pH3.8、クエン酸酸度(w/w%)0.21、SNF(無脂乳固形分)0.8であった。」 (2)甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に実施例1ないし3に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲1発明> 「脱脂粉乳8gを水に溶解し、還元脱脂乳を得、この還元脱脂乳に果糖ぶどう糖液糖73g、3重量%大豆多糖類33gを添加した後、50%乳酸2.1gと10%クエン酸溶液0.9gの混合液を添加混合して、均一になるように撹拌し、乳含有液を得、次いで、該乳含有液に40°白桃透明果汁2g、5重量%グルコン酸乳酸カルシウム24.6g、ビタミンC 0.9g、ビタミンB6 8mg、ビタミB12 15μg、高甘味度甘味料0.2g、3重量%ペクチン60gを添加した後、10重量%クエン酸三ナトリウムを用いてpH3.8に調整し、ジグリセリンミリスチン酸エステルを7mg、13mg又は26mg添加混合し、その後、香料及びカロチン色素を添加し、最後にイオン交換水を用いてBrixを7.2に調整し、全量を1000gとし、その後に均質化処理を行い、加熱殺菌した後に、350mlペットボトルに充填し、水冷して製造したpH3.8、クエン酸酸度(w/w%)0.21の酸性乳性飲料。」 <甲1方法発明> 「脱脂粉乳8gを水に溶解し、還元脱脂乳を得、この還元脱脂乳に果糖ぶどう糖液糖73g、3重量%大豆多糖類33gを添加した後、50%乳酸2.1gと10%クエン酸溶液0.9gの混合液を添加混合して、均一になるように撹拌し、乳含有液を得、次いで、該乳含有液に40°白桃透明果汁2g、5重量%グルコン酸乳酸カルシウム24.6g、ビタミンC 0.9g、ビタミンB6 8mg、ビタミB12 15μg、高甘味度甘味料0.2g、3重量%ペクチン60gを添加した後、10重量%クエン酸三ナトリウムを用いてpH3.8に調整し、ジグリセリンミリスチン酸エステルを7mg、13mg又は26mg添加混合し、その後、香料及びカロチン色素を添加し、最後にイオン交換水を用いてBrixを7.2に調整し、全量を1000gとし、その後に均質化処理を行い、加熱殺菌した後に、350mlペットボトルに充填し、水冷するpH3.8、クエン酸酸度(w/w%)0.21の酸性乳性飲料の製造方法。」 2 本件特許発明1について (1)対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「10%クエン酸溶液」中の「クエン酸」は本件特許発明1における「(A)クエン酸」に相当する。 甲1発明における「50%乳酸」中の「乳酸」は本件特許発明1における「(B)乳酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも一種」のうちの「乳酸」に相当する。 甲1発明における「クエン酸」の含有量は、0.9g×10%÷1000g×100=0.009質量%と計算される。そして、甲1発明における「クエン酸酸度(w/w%)」は「0.21」であり、飲料全体の酸度に対するクエン酸由来の酸度は、0.009質量%÷0.21(w/w%)×100=4.29%と計算されるから(合議体注:この点、特許異議申立人の特許異議申立書の主張は誤っていると思われる。)、甲1発明は本件特許発明1における「飲料全体の酸度に対する(A)クエン酸由来の酸度」の「75%以下」の条件を満足する。 甲1発明における「pH」は「3.8」であるから、甲1発明は本件特許発明1における「pH」の「3.0〜4.5」の条件を満足する。 甲1発明における「酸性乳性飲料」は本件特許発明1における「飲料」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「(A)クエン酸と、(B)乳酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を含み、 飲料全体の酸度に対する(A)クエン酸由来の酸度が75%以下であり、pHが3.0〜4.5である飲料。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点1−1> 本件特許発明1においては、「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)が、0.25以上10以下」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点1−2> 本件特許発明1においては、「ヨーグルト様の香味を有する」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。 (2)判断 相違点1−1について検討する。 甲1発明における「クエン酸」の含有量は、0.009質量%と計算され、同じく「乳酸」の含有量は、2.1g×50%÷1000g×100=0.105質量%と計算され、「クエン酸」の含有量に対する「乳酸」の含有量の比は0.105÷0.009=11.7と計算されるから、甲1発明は、本件特許発明1における「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)」の「0.25以上10以下」の条件を満足しない。 したがって、相違点1−1は実質的な相違点である。 また、甲1及び参考資料1ないし8には、甲1発明において、「クエン酸」の含有量(質量%)に対する「乳酸」の含有量(質量%)の比を「11.7」から「0.25以上10以下」の数値範囲内の値とする動機付けとなる記載はない。 したがって、甲1発明において、甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項を考慮しても、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「ヨーグルト様の香味を有する飲料における乳性感を向上し、適度な乳性感を有しつつ、乳性感の劣化が抑制された飲料を提供することができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0011】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 なお、特許異議申立人は、令和4年8月19日に提出された意見書において、「酸成分として、クエン酸と、乳酸、リンゴ酸、酒石酸とを適宜組み合わせて、飲料の呈味を最適化するためにそれらの含有量を調節することについては、参考資料1〜8に記載されているとおり周知の技術である。かかる技術を開示する特許文献は枚挙にいとまがないうえ、あえて文献に開示していないとしても、当業者においては、商品設計において使用する酸成分を選択しその含有量を調節することは通常行う事項である。訂正後の本件特許発明1における、「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)が、0.25以上10以下」との特徴に対して、参考資料1〜4は当該特徴の数値範囲の範囲内にあり、参考資料5〜7は当該特徴の数値範囲と重複しており、参考資料8は当該特徴の数値範囲の範囲外にある。このことは、飲料によって所望の呈味が異なるが故に「B/A」は種々の数値となり得るのであって、訂正後の本件特許発明1における「0.25以上10以下」との数値範囲は何ら特別の数値範囲ではないことを示している。 上述のとおり、仮に文献に開示されていないとしても、当技術分野において、酸成分を選択しその含有量を調節した結果、訂正後の本件特許発明1に規定する「B/A」の数値範囲に重複することとなっている先行技術は潜在的に数多く存在することは自明であり、当業者であれば理解することである。したがって、甲1発明及び周知技術に基づけば、訂正後の本件特許発明1において、「成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)」の上限値を「10以下」とすることについて何ら困難性は存在しない。よって、訂正後の本件特許発明1は、依然として、進歩性を有さないものであり、取り消されるべきものである。」(上記意見書第4ページ第8ないし27行)旨主張する。 そこで、該主張について検討する。 甲1の[0001]、[0008]及び[0009]に記載されているように、甲1発明は、pH3.5以上の酸性乳性飲料における異味異臭発生の原因菌であるプロピオニバクテリウム属の新規細菌の増殖をジグリセリンミリスチン酸エステル及び/又はその塩により抑制することを目的とするものである。 また、甲1の[0018]及び[0019]に記載されているように、甲1発明は、飲料のpHは3.5以上とするために、「クエン酸」や「乳酸」を添加しているものである。 したがって、甲1発明において、「クエン酸」の含有量(質量%)に対する「乳酸」の含有量(質量%)の比に着目する理由はないし、参考資料1ないし8にも、甲1発明において、「クエン酸」の含有量(質量%)に対する「乳酸」の含有量(質量%)の比に着目し、その比を調整する動機付けとなる記載はない。 また、甲1及び参考資料1ないし8には、「クエン酸」の含有量(質量%)に対する「乳酸」の含有量(質量%)の比を調整することで、「ヨーグルト様の香味を有する飲料における乳性感を向上し、適度な乳性感を有しつつ、乳性感の劣化が抑制された飲料を提供することができる」という効果を奏することは記載も示唆もされていない。 そうすると、仮に、「酸成分として、クエン酸と、乳酸、リンゴ酸、酒石酸とを適宜組み合わせて、飲料の呈味を最適化するためにそれらの含有量を調節すること」が、参考資料1〜8から周知技術であるといえたとしても、甲1発明に上記周知技術を適用し、「クエン酸」の含有量(質量%)に対する「乳酸」の含有量(質量%)の比を「11.7」から「0.25以上10以下」の数値範囲内の値にする動機付けがあるとはいえない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (3)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 3 本件特許発明2、3、7及び8について 本件特許発明2、3、7及び8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 4 本件特許発明4及び6について 本件特許発明4及び6は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5 本件特許発明9について (1)対比 本件特許発明9と甲1方法発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲1発明の間の相当関係と同様の相当関係が成り立つ。 また、甲1方法発明が、「10%クエン酸溶液」中の「クエン酸」及び「50%乳酸」中の「乳酸」を「混合」し、「pH3.8、クエン酸酸度(w/w%)0.21」となるように「調製」して、「酸性乳性飲料」を「調製」する工程を有していることは明らかである。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「(A)クエン酸と、(B)乳酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を混合し、pHが3.0〜4.5の飲料を調製する工程を含み、 前記飲料を調製する前記工程において、飲料全体の酸度に対する(A)クエン酸由来の酸度を75%以下となるように調製する、飲料の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点2−1> 本件特許発明9においては、「(前記飲料を調製する前記工程において、)成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)を0.25以上10以下とし」と特定されているのに対し、甲1方法発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点2−2> 本件特許発明9においては、「ヨーグルト様の香味を有する」と特定されているのに対し、甲1方法発明においては、そのようには特定されていない点。 (2)判断 相違点2−1について検討する。 相違点2−1は相違点1−1と実質的に同じであり、上記2(2)と同様に判断される。 すなわち、相違点2−1は実質的な相違点であるし、甲1方法発明において、甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項を考慮しても、相違点2−1に係る本件特許発明9の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 そして、本件特許発明9の奏する「ヨーグルト様の香味を有する飲料における乳性感を向上し、適度な乳性感を有しつつ、乳性感の劣化が抑制された飲料を提供することができる」という効果は、甲1方法発明並びに甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項からみて、本件特許発明9の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 なお、特許異議申立人は、令和4年8月19日に提出された意見書において、「訂正後の本件特許発明9は、訂正後の本件特許発明1と同様の訂正がなされたものであるから、訂正後の本件特許発明1について上述したように、依然として、進歩性を有さないものであり、取り消されるべきものである。」(上記意見書第4ページ第28ないし30行)旨主張するが、上記2(2)のなお書きと同様であり、該主張は採用できない。 (3)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明9は甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 6 本件特許発明10について 本件特許発明10は、請求項9を引用して特定するものであり、本件特許発明9の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明9と同様に、甲1方法発明並びに甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 7 取消理由1及び2についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし3及び7ないし9は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、本件特許発明1ないし4及び6ないし10は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項1ないし4及び6ないし10に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものであるとはいえない。 第7 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由2(甲1に基づく進歩性)のうち請求項5に対する理由である。 以下、検討する。 本件特許発明5は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び参考資料1ないし8に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 したがって、本件特許発明5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないから、本件特許の請求項5に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2のうち請求項5に対する理由によっては取り消すことはできない。 第8 結語 上記第6及び7のとおり、本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、取消理由並びに特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)クエン酸と、(B)乳酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を含み、 成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)が、0.25以上10以下であって、 飲料全体の酸度に対する(A)クエン酸由来の酸度が75%以下であり、pHが3.0〜4.5である、ヨーグルト様の香味を有する飲料。 【請求項2】 成分(A)の含有量(質量%)が、0.1質量%以下である、請求項1に記載の飲料。 【請求項3】 成分(B)の含有量(質量%)が、0.037質量%以上である、請求項1または2に記載の飲料。 【請求項4】 前記飲料が炭酸飲料である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の飲料。 【請求項5】 波長650nmにおける吸光度が0.06以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の飲料。 【請求項6】 ヨーグルトフレーバーを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の飲料。 【請求項7】 請求項1乃至6のいずれか一項に記載の飲料が容器に充填されている容器詰め飲料。 【請求項8】 前記容器が、透明である、請求項7に記載の容器詰め飲料。 【請求項9】 (A)クエン酸と、(B)乳酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を混合し、pHが3.0〜4.5の飲料を調製する工程を含み、 前記飲料を調製する前記工程において、成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)を0.25以上10以下とし、飲料全体の酸度に対する(A)クエン酸由来の酸度を75%以下となるように調製する、ヨーグルト様の香味を有する飲料の製造方法。 【請求項10】 前記飲料を調製する前記工程の後、さらに前記飲料中に炭酸ガスを圧入する工程を含む、請求項9に記載の飲料の製造方法。 【請求項11】 (A)クエン酸と、(B)乳酸、リンゴ酸、および酒石酸からなる群から選ばれる少なくとも1種と、を混合し、pHが3.0〜4.5の飲料を調製する工程を含み、 前記飲料を調製する前記工程において、成分(A)の含有量(質量%)に対する成分(B)の含有量(質量%)(B/A)を0.25以上、飲料全体の酸度に対する(A)クエン酸由来の酸度を75%以下となるように調製する、ヨーグルト様の香味を有する飲料の保存安定性の向上方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-09-22 |
出願番号 | P2016-252515 |
審決分類 |
P
1
652・
113-
YAA
(A23L)
P 1 652・ 121- YAA (A23L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
加藤 友也 植前 充司 |
登録日 | 2021-08-12 |
登録番号 | 6929056 |
権利者 | アサヒ飲料株式会社 |
発明の名称 | 飲料、容器詰め飲料、飲料の製造方法および飲料の保存安定性の向上方法 |
代理人 | 速水 進治 |
代理人 | 速水 進治 |