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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1392055
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-04-27 
確定日 2022-12-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6960560号発明「麺類の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6960560号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6960560号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、2021年(令和3年)1月29日(優先権主張 2020年(令和2年)1月30日、以下「優先日」という。)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年10月13日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年11月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年4月27日に特許異議申立人 増井 隆(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、同年4月28日に特許異議申立人 田村 良介(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし8)がされ、同年8月25日付けで取消理由が通知され、同年10月12日に特許権者 株式会社日清製粉ウェルナ(以下、「特許権者」という。)より意見書の提出がされ、同年11月16日に申立人Bより上申書の提出がされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。なお、半角数字は全角で摘記する。

「【請求項1】
40kgf/cm2〜120kgf/cm2の圧力で生地を押出し成形することを含み、該生地が、デュラム粉と粗蛋白含量10%以上の中力小麦粉とを1:99〜29:71の質量比で含有する原料粉から調製されたものである、麺類の製造方法。
【請求項2】
前記押出し成形で得た麺類を加熱調理することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記加熱調理した麺類を冷凍することをさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記麺類がソースとともに冷凍される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記中力小麦粉が、中間質小麦由来の小麦粉及び軟質小麦由来の小麦粉からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記押出し成形が−200mmHg〜−760mmHgの減圧下で行われる、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記麺類が、1.8mm径以上の丸麺又は幅1.5mm以上の平麺である、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記麺類が長さ15〜23cmである、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 令和4年4月27日に申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由A1−1(甲第A1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)申立理由A1−2(甲第A2号証に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(3)申立理由A1−3(甲第A3号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(4)申立理由A2(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
・本件特許の請求項1では、「粗蛋白含量10%以上の中力小麦粉」という構成要件が記載されているが、甲第A5号証、甲第A6号証に示されるように、薄力小麦粉、中力小麦粉、強力小麦粉と言う概念は、粗蛋白含量に基づいて分類されており、「粗蛋白含量10%以上の中力小麦粉」という構成要件は、準強力粉や、強力粉とどのように違うのか、その技術的概念や意義が明確でない。
言い換えると、「粗蛋白含量10%以上の中力小麦粉」というのは、もはや中力小麦粉ではなく、準強力粉や、強力粉に相当するものであるとも言え、本件発明における「中力粉」がどのような範囲の小麦粉を意図しているのか、当業者であっても理解することができない。
請求項1を引用する請求項2〜8も同様である。

(5)証拠方法
甲第A1号証:国際公開第2018/021448号
甲第A2号証:特開2017−35061号公報
甲第A3号証:国際公開第2013/094724号
甲第A4号証:日清製粉のホームページ、商品情報、カメリヤの商品記事、 、ダウンロード2022年4月19日
甲第A5号証:「改訂版 小麦粉」、日本麦類研究会、昭和51年1月31日発行、522〜523頁
甲第A6号証:農林水産省のホームページ、aff(あふ)バックナンバー2012年10月号、MAFF TOPICS(2)の記事、、ダウンロード2022年4月19日
(以下、順に「甲A1」のようにいう。)
証拠の表記は、おおむね特許異議申立書Aの記載におおむね従った。

2 令和4年4月28日に申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由B(甲第B1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

(2)証拠方法
甲第B1号証:特開2019−162092号公報
甲第B2号証:特開2017−38559号公報
甲第B3号証:特開2019−24442号公報
甲第B4号証:「めんの本」、株式会社食品産業新聞社、2013年7月31日、p.136〜138
甲第B5号証:「小麦粉の魅力 ―豊かで健康な食生活を演出―(改訂版)」、財団法人製粉振興会、平成20年12月15日改訂、p.5〜14
甲第B6号証:国際公開第2020/009177号
(以下、順に「甲B1」のようにいう。)
証拠の表記は、特許異議申立書Bの記載におおむね従った。

第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審が、令和4年8月25日付けで特許権者に通知した取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりであって、上記申立理由A2と概ね同旨である。

・取消理由(明確性
上記第2のとおり、本件発明1は「粗蛋白含量10%以上の中力小麦粉」との特定事項を有している。
ここで、薄力小麦粉、中力小麦粉、強力小麦粉という概念は、粗蛋白含量に基づいて分類されるものであるが、蛋白含量のみから明確な区分がなされるものではないことが技術常識である(例えば、甲A5表4.1.14においても、中力粉一等粉のたん白量よりも薄力粉二等粉・三等粉のたん白量の方が多いことに留意されたい。)。
してみると、本件明細書には「中力小麦粉」がどのように定義されるものであるのか記載されておらず、本件明細書で比較例として記載されている「強力小麦粉」や「準強力小麦粉」とどのように区別されるのか把握できない。

また、上記「10%以上」との特定事項について、有効数字を考慮すると、通常「10%」とは9.5〜10.4%を意味すると認識されるが、本件明細書の実施例・比較例においては、中力小麦粉C(粗蛋白含量10.0%)が実施例とされる一方で、中力小麦粉D(粗蛋白含量9.5%)及び中力小麦粉E(粗蛋白含量9.6%)は比較例とされており、記載が整合しておらず不明確である。

請求項1を直接または間接的に引用して特定する本件発明2ないし8についても同様の理由により明確でない。

第5 取消理由についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、令和4年8月25日付けで通知した取消理由には理由がないと判断する。
1 判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
これを踏まえ、以下検討する。

2 発明の詳細な説明の記載
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。なお、半角数字は全角で摘記する。
・「【0014】
本発明で使用される中力小麦粉としては、中間質小麦由来の小麦粉、及び軟質小麦由来の小麦粉が挙げられ、又はこれらを混合して用いることもできる。該中間質小麦又は軟質小麦を産生する小麦品種は、麺用、特にうどん用として好適な中力小麦粉を提供し得る小麦品種であると好ましい。該中間質小麦又は軟質小麦を産生する小麦品種の例としては、日本産小麦の品種である、さとのそら、きたほなみ、さぬきの夢2009、きたもえ、ふくさやか、あやひかり、きぬの波、ホクシン、農林61号、シロガネコムギ、チクゴイズミ、タイセツコムギ、シラネコムギ、ナンブコムギ、ホロシリコムギ、つるぴかり、ニシホナミ、タクネコムギ、ネバリゴシ、さぬきの夢2000、キタカミコムギ、タマイズミ、ふくほのか、シラサギコムギ、チホクコムギ、イワイノダイチ、ダイチノミノリ、バンドウワセ、きぬあずま、春のかがやき、アブクマワセ、コユキコムギ、しゅんよう、キヌヒメ、きぬいろは、農林26号等;オーストラリア産スタンダードホワイト品種である、Eradu、Cadoux、Arrino、Calingiri、Aroona、Binnu等、などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明で使用される中力小麦粉としては、上記に挙げたような小麦品種から得られる中間質小麦及び軟質小麦由来の小麦粉のいずれか1種を単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。あるいは、市販の麺用中力小麦粉を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。」

・「【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0028】
原料
デュラムセモリナ:デュラム小麦から製粉(粗蛋白含量12.5%)
デュラム小麦粉:デュラム小麦から製粉(粗蛋白含量12.5%)
中力小麦粉A:北海道産きたほなみから製粉(粗蛋白含量10.8%)
中力小麦粉B:氷月(粗蛋白含量10.5%;木田製粉製)
中力小麦粉C:フユエゾ(粗蛋白含量10.0%;木田製粉製)
中力小麦粉D:きたほなみ小麦(粗蛋白含量9.5%;アルナチュリア株式会社製)
中力小麦粉E:麺八州(粗蛋白含量9.6%;日清製粉株式会社製)
強力小麦粉:アルナチュリア キタノカオリストレート(粗蛋白含量11.2%;アルナチュリア株式会社製)
準強力小麦粉:E65(粗蛋白含量11.3%;江別製粉製)
【0029】
試験例1
1)調理済み麺類の製造
表1の組成の原料粉を調製した。得られた原料粉100質量部に水26質量部を添加し、混練して麺生地を調製した。該生地を、押出製麺機を用いて、−600mmHgの減圧条件下、70kgf/cm2の圧力で押出し成形して生麺類(スパゲティ;太さ1.8mm、長さ20cm)を得た。得られた生麺類を熱湯で5分間茹で、水切りし、調理済み麺類を製造した。該調理済み麺類を180gずつトレイ(160mm×120mm;ポリプロピレン製)に取り分け、麺塊上部に市販のカルボナーラソース(日清フーズ製)100gをのせ、調理済み麺類を製造した。得られた調理済み麺類をかき混ぜて麺とソースを略均一に混合し、その麺類の食感、及び麺類とソースの一体感を評価した。」

・「【0032】
【表1】



3 判断
(1)「中力小麦粉」について
「中力小麦粉」は、本件特許の明細書【0014】に記載のとおり、「本発明で使用される中力小麦粉としては、中間質小麦由来の小麦粉、及び軟質小麦由来の小麦粉が挙げられ、又はこれらを混合して用いることもできる」と定められている。そうすると、該記載を参酌すれば、「中力小麦粉」が、「中間質小麦及び軟質小麦由来の小麦粉のいずれか1種を単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる」ものであって、該「中力小麦粉」は本件明細書で比較例として記載されている「強力小麦粉」や「準強力小麦粉」とは異なるものであることは当業者に明らかである。

(2)「10%以上」について
本件特許の明細書【0032】に記載の製造例または比較例で使用された中力小麦粉の粗蛋白含量は、本件特許の明細書【0028】の記載に照らせば、製造例で使用された中力小麦粉A〜Cがそれぞれ順に10.8%、10.5%、10.0%であり、比較例で使用された中力小麦粉D〜Eがそれぞれ順に9.5%、9.6%である。
そうすると、本件発明1の「10%以上」には上記比較例の9.5%及び9.6%が含まれないことからみて、該「10%以上」が「10.0%以上」を意味することは当業者に明らかである。

(3)まとめ
したがって、請求項1の「粗蛋白含量10%以上の中力小麦粉」なる記載は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そして、他に、請求項1に不明確な記載はない。
したがって、本件発明1に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、本件発明1は明確である。
また、請求項1を直接または間接的に引用して特定する本件発明2ないし8についても、本件発明1と同様の理由により明確である。

4 取消理由についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当しないから、取消理由によっては取り消すことはできない。

第6 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由A1−1ないしA1−3、及びBにはいずれも理由がないと判断する。

1 申立理由A1−1(甲A1に基づく進歩性)について
(1)甲A1に記載された事項等
ア 甲A1に記載された事項
甲A1には、おおむね次の事項が記載されている。なお、半角数字は全角で摘記する。
・「[0028]
製造例1
中力小麦粉(麺八州:日清製粉製)70質量部、超強力小麦粉(ゆめちから:日清製粉製)25質量部、及び小麦蛋白質(スーパーグル85H:日本コロイド製)5質量部を混合して原料粉を得た。この原料粉100質量部に対して水26質量部を添加し、混練して麺生地を調製した。該生地を、製麺機を用いて、−600mmHgの減圧条件下、120kgf/cm2の圧力条件で押出し成形して生麺類(スパゲティ;太さ1.8mm)を得た。
得られた生麺類を、熱湯で5分間茹で、水冷し、調理済み麺類を製造した。該調理済み麺類を180gずつトレイ(160mm×120mm;ポリプロピレン製)に取り分け、半数のトレイには、さらに麺塊上部に市販の缶詰ミートソース(日清フーズ製)100gをのせた。これらを−35℃で急速凍結し、冷凍調理済み麺類(ソースなし及びソース付き)を製造した。
[0029]
比較例1〜3
原料粉中の超強力小麦粉を、デュラム小麦粉(比較例1)、強力小麦粉(比較例2)又は薄力小麦粉(比較例3)に変えた以外は、製造例1と同様の手順で冷凍調理済み麺類(それぞれ、ソースなし及びソース付き)を製造した。」

・「[0035]
[表1]



イ 甲A1に記載された発明
アの事項を特に比較例1について整理すると、甲A1には以下の発明(以下、「甲A1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲A1発明>
「中力小麦粉(麺八州)70質量部、デュラム小麦粉25質量部、小麦蛋白質5質量部を混合して得た原料粉から麺生地を調製し、該生地を、押出し圧力120kgf/cm2で押出し成形することを含む、生麺類の製造方法。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A1発明とを対比する。
甲A1発明の「デュラム小麦粉」は、本件発明1の「デュラム粉」に相当する。
また、本件発明1の「中力小麦粉」は、本件特許の明細書の【0014】に「本発明で使用される中力小麦粉としては、上記に挙げたような小麦品種から得られる中間質小麦及び軟質小麦由来の小麦粉のいずれか1種を単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。あるいは、市販の麺用中力小麦粉を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。」と記載されているとおり、市販の麺用中力小麦粉を含むものであるところ、甲A1発明の「中力小麦粉(麺八州)」は市販の麺用中力小麦粉である。そうすると、甲A1発明の「中力小麦粉(麺八州)」は、本件発明1の「中力小麦粉」に相当する。
以上を考慮すると、本件発明1の甲A1発明の「中力小麦粉(麺八州)70質量部、デュラム小麦粉25質量部、小麦蛋白質5質量部を混合して得た原料粉」は、「デュラム粉」と「中力小麦粉」とを25:70の質量比で含有するものであるといえ、当該「25:70の質量比」は、本件発明1の質量比の数値範囲である「1:99〜29:71」に含まれる。
してみると、甲A1発明の「中力小麦粉(麺八州)70質量部、デュラム小麦粉25質量部、小麦蛋白質5質量部を混合して得た原料粉」は、本件発明1の「デュラム粉と中力小麦粉とを1:99〜29:71の質量比で含有する原料粉」に相当する。

また、甲A1発明の「原料粉から麺生地を調製し、該生地を、押出し圧力120kgf/cm2で押出し成形することを含む、生麺類の製造方法」は、本件発明1の「40kgf/cm2〜120kgf/cm2の圧力で生地を押出し成形することを含み、該生地が、原料粉から調製されたものである、麺類の製造方法」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲A1発明とは、「40kgf/cm2〜120kgf/cm2の圧力で生地を押出し成形することを含み、該生地が、デュラム粉と中力小麦粉とを1:99〜29:71の質量比で含有する原料粉から調製されたものである、麺類の製造方法。」である点で一致し、以下の点(以下、「相違点A1−1」という。)で一応相違する。

<相違点A1−1>
本件中力小麦粉の粗蛋白含量が10%以上であるのに対し、甲A1発明には中力小麦粉の粗蛋白含量が10%以上であることが特定されていない点。

イ 判断
上記相違点A1−1について検討する。
甲A1発明における中力小麦粉である麺八州の粗蛋白含量は、「日清製粉小麦粉 製品のご案内」(2016年1月、第4頁、、ダウンロード2022年11月2日)によれば、9.6%であるから、甲A1発明が「中力小麦粉の粗蛋白含量が10%以上」を満たすとはいえない。
そうすると、上記相違点A1は実質的な相違点である。

また、甲A1の他の記載及び他の証拠を見ても、甲A1発明において粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用することは記載も示唆もされておらず、甲A1発明において粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用する動機付けもない。
そして、本件発明1は、粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用することで、弾力と粘り及び歯切れのある好ましい食感を有し、かつ咀嚼中にソースの風味を維持するという、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、申立人Aは、甲A1発明において小麦蛋白質5質量部を添加しており、粗蛋白含有量の高い中力小麦粉を用いたのと、実質的に変わらない組成となると推定される旨主張する。しかしながら、本件発明1の製造方法における「粗蛋白含量が10%以上」は中力小麦粉における含量を意味するものであるのに対し、上記主張は製造方法に使用する中力小麦粉における粗蛋白含量について述べたものではないから、申立人Aの上記主張は採用できない。

(3)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものであるとはいえない。

(4)まとめ
よって、申立理由A1−1には理由がない。

2 申立理由A1−2(甲A2に基づく新規性進歩性)について
(1)甲A2に記載された事項等
ア 甲A2に記載された事項
甲A2には、おおむね次の事項が記載されている。なお、半角数字は全角で摘記する。
・「【請求項1】
原料粉を含む生地原料を用いて調製した生地を、40〜150kgf/cm2の圧力で押出製麺して生パスタ類を得る工程と、
前記生パスタ類を茹で調理して調理済みパスタ類を得る工程と、
前記調理済みパスタ類を冷蔵する冷蔵工程と、を有し、
前記原料粉が、デュラム粉、加工澱粉及びRVAピーク粘度が3000〜5000mPa・Sの普通小麦粉を含む冷蔵調理済み生パスタ類の製造方法。」

・「【0026】
本発明に係る製麺工程において、押出製麺される生地は、原料粉(デュラム粉、加工澱粉、RVAピーク粘度が3000〜5000mPa・Sの普通小麦粉)を含む生地原料から調製される。この生地原料には、原料粉に加えてさらに、生パスタ類の製造に通常用いられるその他の原料、例えば、加工処理されていない澱粉、糖類、卵、食塩、油脂、増粘剤、乳化剤等を含有させることができる。生地原料中におけるこれらその他の原料の含有量は、通常0〜30質量%の範囲で調整される。」

・「【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0033】
〔実施例1〜6及び比較例1〜2〕
デュラム小麦粉(デュエリオ:日清製粉製)、加工澱粉(ヒドロキシプロピルタピオカ澱粉:松谷化学製)及び普通小麦粉(カメリヤ:日清製粉製)を下記表1の量で配合して原料粉とし、該原料粉をそのまま生地原料とした。
生地原料100質量部に対して水32質量部を混合し、混練して麺生地を調製した。調製した麺生地を、パスタ製造機を用いて、−600mmHgの減圧条件下、下記表1記載の押出圧力で押出製麺し、生パスタ類(直径1.8mmの円形断面)を得た(製麺工程)。
得られた生パスタ類を熱湯で5分間茹で調理した後、水冷して、調理済みパスタ類を得た(調理工程)。
得られた調理済みパスタ類を、180gずつ平面視略四角形形状(160mm×120mm)のポリプロピレン製トレイに取り分けることでパスタ入りトレイを複数用意し、その複数のトレイのうちの半数には、調理済みパスタ類に市販の缶詰ミートソース(日清フーズ製)を100gのせた。こうして得られたソースなしパスタ及びソース付きパスタを、それぞれトレイごと4℃で急速冷蔵し(冷蔵工程)、冷蔵調理済みスパゲティを得た。
【0034】
〔試験例〕
各実施例及び比較例の冷蔵調理済みスパゲティを、トレイごとポリプロピレン製の袋に包装し、4℃で保存した。24時間後、スパゲティを袋から取り出し、電子レンジ(600W)で加熱した。加熱時間は、ソースなしのものは1分間、ソース付きのものは2分間とした。加熱後のスパゲティの麺塊について、麺線のほぐれ、麺の外観及び食感をそれぞれ評価した。また、ソース付きのスパゲティの麺塊については、加熱後に軽くかき混ぜてから、麺とソースの食感を評価した。これらの評価は、それぞれ、10名のパネラーにより下記評価基準に基づいて行い、パネラー10名の評価点の平均点を求めた。その評価結果を下記表1に示す。
【0035】
(麺線のほぐれの評価基準)
5点:麺線どうしの結着が無く、ほぐれやすくて非常に良好。
4点:麺線どうしの結着は無いが、麺線の一部に絡まりがある。
3点:一部の麺線どうしが結着しており、麺線の一部に絡まりがある。
2点:麺線どうしが塊状に結着し絡まっている部分が麺塊に部分的に存在する。
1点:麺線どうしの結着と絡まりが麺塊全体に存在し、非常に不良。
(麺の外観の評価基準)
5点:麺の色合いが良好で表面が非常に滑らかであり、非常に良好な外観。
4点:麺の色合いは通常で表面に滑らかさがあり、良好な外観。
3点:麺の色合いにややくすみがあるが表面は滑らかであり、普通の外観。
2点:麺の色合いにややくすみがあり、表面がややざらつくかやや溶け出しており、不良な外観。
1点:麺の色合いがくすんでおり、麺の表面がざらついているか又は溶け出しており、非常に不良な外観。
【0036】
(麺の食感の評価基準)
5点:軟らかさと弾力が十分にあって、茹でた生スパゲティと同等の食感であり、非常に良好な食感。
4点:軟らかさと弾力があって、茹でた生スパゲティに似た食感であり、良好な食感。
3点:ある程度軟らかさと弾力があって、茹でた生スパゲティにやや似た食感であり、普通の食感。
2点:やや軟らかすぎるか又はやや硬すぎであり、茹でた生スパゲティのような食感に乏しく、不良な食感。
1点:軟らかすぎるか又は硬すぎであり、茹でた生スパゲティのような食感に欠け、非常に不良な食感。
(麺とソースの食感の評価基準)
5点:麺に軟らかさと弾力が十分にあり、且つ麺とソースが調和しており、非常に良好な食感。
4点:麺に軟らかさと弾力があり、且つ麺とソースが調和しており、良好な食感。
3点:麺に比較的軟らかさと弾力があり、普通の食感。
2点:麺がやや軟らかすぎるか又はやや硬すぎであり、且つ麺がソースを若干吸っており、不良な食感。
1点:麺が軟らかすぎるか又は硬すぎであり、且つ麺がソースを多く吸っており、非常に不良な食感。」

・「【0045】
〔実施例15〜22〕
製麺工程で使用する粉原料の組成を下記表4記載のように変更した以外は実施例1等と同様にして、冷蔵調理済み生パスタ類を得た。
そして、各実施例の冷蔵調理済み生パスタ類について、前記〔試験例〕と同様に麺線のほぐれ、麺の外観及び食感、麺とソースの食感をそれぞれ評価した。その評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表4に示す。
【0046】
【表4】



イ 甲A2に記載された発明
アの事項を特に実施例18について整理すると、甲A2には以下の発明(以下、「甲A2発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲A2発明>
「デュラム小麦粉20質量%、加工澱粉20質量%、普通小麦粉(カメリヤ)60質量%を配合して原料粉とし、該原料粉を生地原料とし麺生地を調製し、調製した麺生地を100kgf/cm2で押出し製麺することを含む生パスタ類の製造方法。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A2発明とを対比する。
甲A2発明の「デュラム小麦粉」は、本件発明1の「デュラム粉」に相当するところ、甲A2発明の原料粉は、デュラム小麦粉と、「普通小麦粉(カメリヤ)」、すなわち、デュラム粉以外の小麦粉とを20:60の質量比で含有するものであり、該質量比は、本件発明1の原料粉における、「デュラム粉」と、「粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉」、すなわち、デュラム粉以外の小麦粉との質量比である「1:99〜29:71の質量比」を満たす。
また、甲A2発明の「原料粉を生地原料とし麺生地を調製し、調製した麺生地を100kgf/cm2で押出し製麺することを含む生パスタ類の製造方法。」は、本件発明1の「40kgf/cm2〜120kgf/cm2の圧力で生地を押出し成形することを含み、該生地が、原料粉から調製されたものである、麺類の製造方法」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲A2発明とは、「40kgf/cm2〜120kgf/cm2の圧力で生地を押出し成形することを含む、麺類の製造方法」である点、および、生地が、デュラム粉と、デュラム粉以外の小麦粉とを「1:99〜29:71の質量比で含有する原料粉から調製されたものである」点で一致し、以下の点(以下、「相違点A1−2」という。)で一応相違する。

<相違点A1−2>
本件発明1の、デュラム粉以外の小麦粉が、「粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉」であるのに対し、甲A2発明の、デュラム粉以外の小麦粉である普通小麦粉が、「粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉」であるかが不明である点。

イ 判断
上記相違点A1−2について検討する。
本件特許の明細書の【0014】に「本発明で使用される中力小麦粉としては、中間質小麦由来の小麦粉、及び軟質小麦由来の小麦粉が挙げられ、又はこれらを混合して用いることもできる」と記載されているとおり、本件発明1の「中力小麦粉」は、中間質小麦由来の小麦粉及び/又は軟質小麦由来の小麦粉であって、該「中力粉麦粉」には強力粉のような硬質小麦由来の小麦粉は含まれないものといえる。
そして、甲A2発明で使用されている普通小麦粉である「カメリヤ」は、「日清 カメリヤ チャック付」の製品紹介ホームページ(、検索日2022年11月2日)によれば、強力粉である。
そうすると、甲A2発明の上記普通小麦粉は、本件発明1の「粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉」とは異なるから、上記相違点A1−2は実質的な相違点である。

なお、申立人Aは、甲第5号証や甲第6号証を挙げて、粗蛋白量で強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉という小麦粉の種別は粗蛋白含量でなされており、かかる粗蛋白量で種別された一般的な概念でいうと、本件発明1の「粗蛋白含量10%以上の中力小麦粉」というのは、準強力小麦粉や強力小麦粉に入るとも考えられるため、本件発明1の「粗蛋白含量10%以上の中力小麦粉」という構成要件に関して、甲A2発明との実質的な相違点にはならない旨主張する。しかしながら、上記のとおり、本件特許の明細書の【0014】を参酌すれば、本件発明1の「中力小麦粉」には強力粉のような硬質小麦由来の小麦粉は含まれないものであり、本件発明1の「中力小麦粉」の定義は、申立人Aが主張する「粗蛋白量で種別された一般的な概念」とは異なるものであるといえる。してみると、申立人Aの上記主張は採用できない。

よって、本件発明1は甲A2発明であるとはいえない。

また、甲A2の他の記載及び他の証拠を見ても、甲A2発明において粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用することは記載も示唆もされておらず、甲A2発明において粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用する動機付けもない。
そして、本件発明1は、粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用することで、弾力と粘り及び歯切れのある好ましい食感を有し、かつ咀嚼中にソースの風味を維持するという、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。

したがって、本件発明1は、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、甲A2に記載された発明ではないし、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものであるともいえない。

(4)まとめ
よって、申立理由A1−2には理由がない。

3 申立理由A1−3(甲A3に基づく進歩性)について
(1)甲A3に記載された事項等
ア 甲A3に記載された事項
甲A3には、おおむね次の事項が記載されている。なお、半角数字は全角で摘記する。
・「[請求項1]
80kgf/cm2〜200kgf/cm2の圧力で生地を押出製麺して得られた生パスタ類を茹で調理した後、凍結することを特徴とする冷凍調理済みパスタ類の製造方法。」

・「発明の効果
[0009]
本発明の製造方法で得られた冷凍調理済みパスタ類は、冷凍耐性が高く、麺の外観が滑らかな状態のまま冷凍で長期保存が可能であり、且つ解凍後には従来の生パスタ類を茹でて直ちに喫食した場合に得られるような良好な外観と食感とを呈することができる。さらに、本発明の製造方法で得られる冷凍調理済みパスタ類においては、冷凍しても麺の外観が滑らかな状態を維持できるため、ソースをかけた状態で冷凍保存しても、保存中にパスタにソースが染み込むことによる品質低下が防止される。」

・「[0013]
上記小麦粉としては、デュラム小麦粉とデュラム小麦粉以外の普通小麦粉とを混合して用いると、デュラム小麦粉を単独で用いた場合に比べて、得られたパスタのモチモチとした食感を向上させることができるため好ましい。当該普通小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉及びそれらの混合物が挙げられるが、中力粉が好ましい。」

・「[0025]
製造例1〜8
デュラム小麦セモリナ粉(レオーネG:日清製粉製)100質量部に対して水26質量部を混合し、混練して麺生地とした。該生地を、パスタ製造機を用いて、−600mmHgの減圧条件下、それぞれ30、70、80、120、160、200、210、及び250kgf/cm2の圧力条件で押出製麺し、8種類の生スパゲッティ(太さ1.8mm)を得た。
得られた生スパゲティを、熱湯で5分間茹で、水冷し、茹でスパゲティを製造した。
該茹でスパゲティを180gずつトレイ(160mm×120mm;ポリプロピレン製)に取り分け、半数のトレイには、さらに麺塊上部に市販の缶詰ミートソース(日清フーズ製)100gをのせた。これらを−35℃で急速凍結し、製造例1〜8の冷凍調理済みスパゲティ(それぞれ、ソースなし及びソース付き)を製造した。」

・「[0028][表2]



・「[0029]
製造例9〜16
デュラム小麦セモリナ粉(レオーネG:日清製粉)100質量部に対して、水を表3の量で添加した以外は、製造例5と同様の手順で(押出製麺の圧力160kgf/cm2)、製造例9〜16の冷凍調理済みスパゲッティ(それぞれ、ソースなし及びソース付き)を製造した。」

・「[0031][表3]



・「[0035]
製造例24〜30
デュラム小麦セモリナ(レオーネG:日清製粉)、ヒドロキシプロピル化澱粉(ゆり:松谷化学製)、普通小麦粉(白椿:日清製粉製中力粉)を表5の量で添加した以外は、製造例11と同様の手順で(水20質量部添加、押出製麺の圧力160kgf/cm2)、製造例24〜30の冷凍調理済みスパゲッティ(それぞれ、ソースなし及びソース付き)を製造した。


・「[0037][表5]



イ 甲A3に記載された発明
アの事項を特に製造例24について整理すると、甲A3には以下の発明(以下、「甲A3発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲A3発明>
「デュラムセモリナ粉20質量部、普通小麦粉(白椿)80質量部、及び、水を混合し麺生地とし、該生地を160kgf/cm2で押出し製麺する生スパゲッティの製造方法。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲A3発明とを対比する。
甲A3発明の「デュラムセモリナ粉」は、本件発明1の「デュラム粉」に相当するところ、甲A3発明では、「デュラムセモリナ粉」と、「普通小麦粉(白椿)」、すなわち、デュラム粉以外の小麦粉とを20:80の質量比で混合し麺生地としており、該質量比は、本件発明1において生地へ調製される原料粉における、「デュラム粉」と、「粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉」、すなわち、デュラム粉以外の小麦粉との質量比である「1:99〜29:71の質量比」を満たす。
そうすると、本件発明1と甲A3発明とは、「生地を押出し成形することを含む、麺類の製造方法」である点、および、生地が、デュラム粉と、デュラム粉以外の小麦粉とを「1:99〜29:71の質量比で含有する原料粉から調製されたものである」点で一致し、以下の点(以下、「相違点A1−3−1」及び「相違点A1−3−2」という。)で相違又は一応相違する。
<相違点A1−3−1>
本件発明1の、デュラム粉以外の小麦粉が、「粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉」であるのに対し、甲A3発明の、デュラム粉以外の小麦粉である普通小麦粉が、「粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉」であるかが不明である点。
<相違点A1−3−2>
生地を押出し成形する際の圧力が、本件発明1では40kgf/cm2〜120kgf/cm2であるのに対し、甲A3発明では160kgf/cm2である点。

イ 判断
上記相違点A1−3−1について検討する。
甲A3発明で使用されている普通小麦粉である「白椿」は、「白椿」の製品紹介ホームページ(、検索日2022年11月2日)によれば、粗蛋白含量が8.8±0.5%である中力粉である。
そうすると、甲A3発明の上記普通小麦粉は、本件発明1の「粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉」とは異なるから、上記相違点A1−3−1は実質的な相違点である。

また、甲A3の他の記載及び他の証拠を見ても、甲A3発明において粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用することは記載も示唆もされていない。
そして、本件発明1は、粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用することで、弾力と粘り及び歯切れのある好ましい食感を有し、かつ咀嚼中にソースの風味を維持するという、甲A3発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲A3発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、甲A3発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものであるとはいえない。

(4)まとめ
よって、申立理由A1−3には理由がない。

4 申立理由B(甲B1に基づく進歩性)について
(1)甲B1に記載された事項等
ア 甲B1に記載された事項
甲B1には、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項5】
原料粉に澱粉を配合する麺類の製造方法において、麺類の製造に使用する原料粉の総量100質量部のうち、澱粉を10〜60質量部、穀粉類40〜90質量部、及びデュラム小麦由来の小麦蛋白0.5〜15質量部を用いることを特徴とする麺類の製造方法。」

・「【0006】
本発明の課題は、原料粉に澱粉を配合し、冷蔵ないし冷凍で保存・流通される麺類であっても、粘弾性等の食感が良好で、かつ喫食時のホグレ性に優れる麺類が得られる麺類用穀粉組成物及びこれを用いる麺類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため検討した結果、原料粉としてデュラム小麦由来の小麦蛋白を配合し、さらに穀粉類と澱粉とデュラム小麦由来の小麦蛋白を特定範囲に調整することにより、前記課題を解決できることを知見した。」

・「【発明の効果】
【0009】
本発明によると、原料に澱粉を比較的多く配合し、冷蔵ないし冷凍で保存・流通される麺類であっても、粘弾性等の食感が良好で、かつ色調や喫食時のホグレ性に優れる麺類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の麺類用穀粉組成物は、当該組成物100質量部のうち、穀粉類40〜90質量部、澱粉10〜60質量部、及びデュラム小麦由来の小麦蛋白0.5〜15質量部を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明における穀粉類としては、小麦粉、そば粉、米粉、コーンフラワー、ライ麦粉、大麦粉(モチ大麦粉を含む)、オーツ麦粉、大豆粉等が挙げられ、これらのうち1種類を単独で用いてもよいが、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これら穀粉類の中で、小麦粉、そば粉、米粉が好ましく、小麦粉を主体とする穀粉類が特に好ましい。ここで小麦粉を主体とする穀粉類とは、小麦粉が穀粉類の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、中でも100質量%を意味する。このような小麦粉としては、中力粉、準強力粉、強力粉、薄力粉、デュラム小麦粉及び全粒粉、小麦ふすま、熱処理小麦粉(α化小麦粉、部分α化小麦粉、焙焼小麦粉等)が挙げられる。」

・「【0021】
麺類の製造方法としては常法によればよく、例えば、麺用穀粉組成物に食塩水、かんすい、その他の副原料等を加え、常圧下又は減圧下において混練して生地を調製し、この生地を製麺ロールにより、複合・圧延して麺帯を得て、この麺帯を切刃等を用いて切り出して麺線を得るか、あるいは、生地から押し出し成型により麺線を得ることにより生麺を製造することができる。得られた生麺は必要に応じて、茹で処理、蒸し処理した後、冷蔵又は冷凍するか、熱風乾燥や油揚げし、所望の麺類とすることができる。」

・「【0029】
(試験例2)
表2に記載する組成の麺類用穀粉組成物を調製した。
各麺類用穀粉組成物100質量部に、水45質量部に食塩4質量部を溶解した水溶液を加水として添加し、ミキシング(高速6分間→低速7分間)して麺生地を調製した。該麺生地を製麺ロールにより圧延・複合して麺帯を作製し、切り刃(#10角)で切り出して生うどんを製造した(麺厚3mm)。
【0030】
得られた生うどんを熱湯で10分間茹で、水洗冷却し、4℃で24時間保存した。得られた調理済み麺(冷やしうどん)の食感と色調を試験例1と同様に下記基準にて評価した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

*1:「金すずらん」日清製粉製
*2:「デュラム小麦粉」日清製粉製
*3:「A700」アセチル化タピオカ澱粉、Jオイルミルズ製」


イ 甲B1に記載された発明
アの事項を特に実施例5について整理すると、甲B1には以下の発明(以下、「甲B1発明」という。)が記載されていると認められる。
<甲B1発明>
「中力粉(金すずらん)78質量部、デュラム小麦粉5質量部を含む穀粉組成物から麺生地を調製し、該麺生地を製麺ロールにより圧延・複合して麺帯を作製し、切り出して生うどんを製造する方法。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲B1発明とを対比する。
甲B1発明の「デュラム小麦粉」は、本件発明1の「デュラム粉」に、甲B1発明の「穀粉組成物」は、本件発明1の「原料粉」に、それぞれ相当する。
また、本件発明1の「中力小麦粉」は、本件特許の明細書の【0014】に「本発明で使用される中力小麦粉としては、上記に挙げたような小麦品種から得られる中間質小麦及び軟質小麦由来の小麦粉のいずれか1種を単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。あるいは、市販の麺用中力小麦粉を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。」と記載されているとおり、市販の麺用中力小麦粉を含むものであるところ、甲B1発明の「中力粉(金すずらん)」は市販の麺用中力小麦粉である。そうすると、甲B1発明の「中力粉(金すずらん)」は、本件発明1の「中力小麦粉」に相当する。
以上を考慮すると、本件発明1の甲B1発明の「中力粉(金すずらん)78質量部、デュラム小麦粉5質量部を含む穀粉組成物」は、「デュラム粉」と「中力小麦粉」とを5:78の質量比で含有するものであるといえ、当該「5:78の質量比」は、本件発明1の質量比の数値範囲である「1:99〜29:71」に含まれる。
してみると、甲B1発明の「中力粉(金すずらん)78質量部、デュラム小麦粉5質量部を含む穀粉組成物」は、本件発明1の「デュラム粉と中力小麦粉とを1:99〜29:71の質量比で含有する原料粉」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲B1発明とは、「生地が、デュラム粉と中力小麦粉とを1:99〜29:71の質量比で含有する原料粉から調製されたものである、麺類の製造方法。」点で一致し、以下の点(以下、「相違点B1−1」及び「相違点B1−2」という。)で相違又は一応相違する。

<相違点B1−1>
本件発明1では中力小麦粉の粗蛋白含量が10%以上であるのに対し、甲B1発明には中力小麦粉の粗蛋白含量が10%以上であることが特定されていない点。

<相違点B1−2>
本件発明1では40kgf/cm2〜120kgf/cm2の圧力で生地を押出し成形して麺類を製造しているのに対し、甲B1発明では押出し成形とは異なる方法で生地から麺類を製造している点。

イ 判断
上記相違点B1−1について検討する。
甲B1発明で使用されている中力粉である「金すずらん」の粗蛋白含量は、「日清製粉小麦粉 製品のご案内」(2016年1月、第4頁、、ダウンロード2022年11月2日)によれば、8.8%であるから、甲B1発明が「粗蛋白含量が10%以上」を満たすとはいえない。
そうすると、上記相違点B1−1は実質的な相違点である。

また、甲B1の他の記載及び他の証拠を見ても、甲B1発明において粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用することは記載も示唆もされておらず、甲B1発明において粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用する動機付けもない。
そして、本件発明1は、粗蛋白含量が10%以上の中力小麦粉を使用することで、弾力と粘り及び歯切れのある好ましい食感を有し、かつ咀嚼中にソースの風味を維持するという、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、令和4年11月16日に提出された上申書における申立人Bの主張は、上記判断を左右するものではない。

(3)本件発明2ないし8について
本件発明2ないし8は、いずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、甲B1発明並びに甲B1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものであるとはいえない。

(4)まとめ
よって、申立理由Bには理由がない。

第7 むすび
したがって、申立人A及び申立人Bの主張する特許異議申立理由並びに令和4年8月25日付けで通知した取消理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-11-24 
出願番号 P2021-528842
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 三上 晶子
大島 祥吾
登録日 2021-10-13 
登録番号 6960560
権利者 株式会社日清製粉ウェルナ
発明の名称 麺類の製造方法  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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