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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09D
管理番号 1392059
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-14 
確定日 2022-12-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6981483号発明「インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6981483号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成27年2月20日(優先権主張 平成26年10月24日(以下「本件優先日」という。) 日本国)に出願された特願2015−31892号の一部を令和2年1月29日に新たな特許出願(特願2020−12291号)としたものであって、令和3年11月22日に特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、令和3年12月15日に特許掲載公報が発行され、その後、令和4年6月14日に特許異議申立人 鈴木 憲治(以下「申立人」という。)によって請求項1〜6に係る特許に対し特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件の請求項1〜6に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明6」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも1種含む溶剤と、
環状エステルと、
体積平均粒子径が100nm以上346nm以下であるピグメントオレンジ−43(PO−43)を含む顔料と、
を含み、
前記一般式(1)で表される化合物の合計の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下であり、
前記一般式(1)の化合物として、引火点が140℃以下の化合物の含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して60質量%以上80質量%以下であり、
前記環状エステルがγ−ブチロラクトンであり、
前記環状エステルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して5質量%以上50質量%以下であり、
水の含有量が5質量%以下である、インクジェットインク組成物。
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2のアルキレン基を表し、mは、2又は3の整数を表す。]
【請求項2】
請求項1において、
前記インクジェットインク組成物の全量に対して、1質量%以上6質量%以下の前記顔料を含む、インクジェットインク組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記環状エステルの含有量が、
前記インクジェットインク組成物の全量に対して、5質量%以上40質量%以下である、インクジェットインク組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
さらに、塩化ビニル系樹脂を含む、インクジェットインク組成物。
【請求項5】
塩化ビニル系記録媒体への記録に用いられる、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物を用いて、塩化ビニル系記録媒体に対してインクジェット法により記録する、インクジェット記録方法。」

第3 特許異議の申立ての概要
申立人の主張する理由の概要は以下のとおりである。
1 申立て理由の概要
(1)進歩性欠如その1
本件発明1〜6は、後記2の甲1に記載された発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、本件発明1〜6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)進歩性欠如その2
本件発明1〜6は、後記2の甲2に記載された発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、本件発明1〜6に係る特許は、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(3)記載要件違背
本件発明1〜6の記載は、次のア〜ウの点で、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定された要件を満たさないものであり、本件発明1〜6に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
ア 本件特許明細書において、「耐候性、印字安定性、耐擦性を含む総合的な性能のバランスを良好にすることができる」という課題を解決できていることが示されているのは、インクジェットインク組成物における体積平均粒子径が100nm以上346nm以下のPO−43の含有量が2〜7質量%の場合のみであり、当該含有量が2〜7質量%以外の場合においても上記課題が解決できることが示されていない。したがって、インク組成物におけるPO−43の含有量が何ら特定されていない本件発明1〜6の範囲にまで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるといえない。
イ 本件特許明細書の特に段落【0033】の記載によれば、γ−ブチロラクトンの含有量が耐擦性に影響することが読み取れる。また、同段落【0037】には、γ−ブチロラクトンの含有量として、「5質量%以上50質量%以下」との記載があり、また、本件特許明細書の実施例16において、γ−ブチロラクトンがインクジェットインク組成物中5質量%とした例も示されている。ここで、実施例16における耐擦性の評価は、「1」という最低評価であることから、実施例16は、「耐擦性」という課題を解決できているということができない。また、他の実施例との関係から、5質量%以上20質量%未満の範囲で、耐擦性という課題が解決できないと考えられるから、本件発明1〜6は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たさないものである。
ウ 本件発明1における一方の特定事項「前記一般式(1)で表される化合物の合計の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下」と他方の特定事項「前記一般式(1)の化合物として、引火点が140℃以下の化合物の含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して60質量%以上80質量%以下」とが整合せず、また、前記一般式(1)で表される化合物の合計の含有量が、10質量%以上60質量%未満となり得るのかが明確でないから、本件発明1の記載は、特許法第36条第6項第2項の規定に適合するものでなく、本件発明1〜6に係る特許は、同法第113条第4項の規定により、取り消されるべきものである。
2 証拠方法
申立人が提示した甲第1号証を、以下「甲1」などという。
甲1:韓国公開特許第10−2005−0073024号公報
甲2:特開2014−237803号公報
甲3:特開2012−162002号公報
甲4:特開2013−104009号公報
甲5:特開2014−132050号公報
甲6:特開2009−242649号公報

第4 証拠方法の記載事項
1 甲1には、訳文にて次の事項が記載されている。なお、摘記箇所は甲1による。
(1)「【請求項1】
a)ビニル樹脂、アクリル樹脂、又はこれらの混合物を、1種又は2種以上の混合有機溶剤に溶解させる樹脂溶解ステップと、
b)ステップa)で得られた溶液に分散剤と有機顔料を投入し、高速攪拌してウェッティング(wetting)させる1次分散ステップと、
c)ステップb)で得られた分散液を、衝撃式分散機又はビーズミル機で粉砕するステップとを含む、微粒化された顔料分散液の製造方法。
・・・
【請求項6】
ステッフa)において、溶剤として、シクロヘキサノン(cyc1ohexanone)、n−メチル−2−ピロリドン(n−methy1−2−pyrro1idone)、2−ピロリドン(2−pyrro1idone)、イソホロン(isophorone)、γ−ブチロラクトン(gamma−butyro1actone)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート(ethylene glycol butyl ether acetate)、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(diethylene glycol butyl ether acetate)、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート(triethylene glycol butyl ether acetate)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(propylene glycol methyl ether acetate)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(dipropylene glyco1 methyl ether acetate)、エチレングリコールブチルエーテル(ethylene glycol butyl ether)、ジエチレングリコールブチルエーテル(diethylene glycol butyl ether)、プロピレングリコールブチルエーテル(propylene glycol butyl ether)、プロピレングリコールメチルエーテル(propylene glyco1 methyl ether)から1種又は2種以上を混合して用いることを特徴とする、請求項1に記載の微粒化された顔料分散液の製造方法。
・・・
【請求項8】
ステップb)において用いられる色素として、
マゼンタは、C.I.Pigment Red 122、C.I.Pigment Red 57:1、C.I.Pigment Red 185、C.I.Pigment Red 176、C.I.Pigment Red 48:3、C.I.Pigment Red 247、C.I.Pigment Red 170、C.I.Pigment Red 53:1、C.I.Pigment Red 149、C.I.Pigment Red 242、C.I.Pigment Violet 19、C.I.PigmentRed37から選択して用い、
イエローは、C.I.Pigment Yellow 181、C.I.Pigment Yellow 191、C.I.Pigment Yellow 83、C.I.PigmentYellow 180、C.I.Pigment Yellow 13、C.I.Pigment Yellow 120、C.I.Pigment Yellow 194、C.I.Pigment Yellow 151、C.I.Pigment Yellow 139、C.I.Pigment Yellow 17、C.I.Pigment Yellow 155から選択して用い、
シアンは、C.I.Pigment B1ue 15:1、C.I.Pigment Blue 15:3から選択して用い、
ブラックは、Carbon black C.I.Balck 7、Carbon black C.I.Balck 11から選択して用い、
オレンジは、C.I.Pigment Orange 13、C.I.Pigment Orange 34、C.I.Pigment Orange 38、C.I.Pigment Orange 72、C.I.Pigment Orange 43、C.I.Pigment Orange 68、C.I.Pigment Orange 74、C.I.Pigment Orange 5から選択して用い、
グリーンは、C.I.Pigment Green 7、C.I.Pigment Green 36、C.I.Pigment Green17から選択して用いることを特徴とする、請求項1に記載の微粒化された顔料分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項により製造された微粒化された顔料分散液1〜99重量%と、ケトン類(ketones)、アミド類(amides)、エステル類(esters)、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート類(ethylene glycol alkyl ether acetates)、ジエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類(diethylene glycol alkyl ether acetates)、トリエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類(triethylene glycol alkyl ether acetates)、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類(propylene glycol alkyl ether acetates)、ジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類(dipropylene glycol alkyl ether acetates)、又はこれらの混合物から選択されるインク希釈剤1〜99重量%とをブレンドして製造される油性顔料インク。
【請求項10】
インク希釈剤が、シクロヘキサノン(cyc1ohexanone)、n−メチル−2−ピロリドン(n−methy1−2−pyrro1idone)、2ーピロリドン(2−pyrrolidone)、イソホロン(isophorone)、γ−ブチロラクトン(gamma−butyro1actone)、エチレングリコールブチルエーテルアセテート(ethylene glycol butyl ether acetate)、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(diethylene glycol butyl ether acetate)、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート(triethylene glycol butyl ether acetate)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(propylene glycol methyl ether acetate)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(dipropylene glycol methyl ether acetate)、又はこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項9に記載の油性顔料インク。」
(2)1頁下から7行〜末行
「本発明は、顔料分散液の製造方法及びそれから製造される油性顔料インクに関し、より詳細には、インクジェットプリンタ用油性顔料インクの製造に用いられる顔料分散液の製造方法及び高分子材質に印刷するための油性顔料インクに関する。
インクジェットプリンタ用油性顔料インクは、既存の水性インクジェットが使用されるコーティングされた素材とは異なり、PVCを基本とした非コーティング素材に直接印刷する目的で開発されたものであって、主にインクジェットプリンタ又はインクジェットプロッターに使用されるが、既存の水性顔料インクより発色度、耐光性、耐水性などに優れて既存の水性顔料インク市場を速い速度で代替してきている。」
(3)2頁34行〜43行
「溶剤は、顔料及び樹脂との親和力、印刷面との相溶性、浸透力などを考慮し、ケトン類、アミド類、エステル類、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、トリエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ジプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類のうちから1種又は2種以上を混合して用いるが、好ましくは、シクロヘキサノン(cyclohexanone)、n−メチル−2−ピロリドン(n−metyl−2−pyrro1idone)、2−ピロリドン(2−pyrrolidone)、イソホロン(isophorone)、y−ブチロラクトン(gamma−butyrolactone)などのラクトン系溶剤、エチレングリコールブチルエーテルアセテート(ethylene glycol butyl ether acetate)、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート(diethylene glycol butyl ether acetate)、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート(triethylene glycol butyl ether acetate)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(propylene glycol methyl ether acetate)、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート(dipropylene glycol methyl ether acetate)から1種又は2種以上を混合して用いる。」
(4)2頁49行〜52行
「ビニル樹脂は、好ましくは、塩化ビニル(vinyl chloride)と酢酸ビニル(vinyl acetate)が共重合したものであり、塩化ビニルが70〜100重量%、酢酸ビニルが0.1〜30重量%、平均分子量が200,000以下であるものを用いるが、例えば、商用化されたビニル樹脂としては、VYNS−3、VYHH、VYHD、VMCH、VMCC、VMCA、VAGH、VAGF、VAGCなどがある。」
(5)4頁末行〜5頁19行
「<実施例26>
1)樹脂溶解ステップ:8,920grの溶剤EBAに、400grのビニル樹脂VYHHを入れ、高速ミキサーにより2,500rpmの速度で60分間攪拌し、樹脂を溶かした。
2)1次分散ステップ:ステップ1)で得られた溶液に、80grの分散剤BYK−162と600grのC.I.Pigment Orange 13を入れ、5,000rpmで90分間混合した。
3)2次分散ステップ:1次分散された液滴を、再び衝撃式ミリング工程により最終粉砕した。
その結果、顔料粒子サイズが最大370nmであり、平均粒度が65nmである顔料分散液が製造され、6ヶ月間放置しても沈殿や凝集が生起しなかった。
<実施例27〜32>
顔料を、それぞれC.I.Pigment Orange 34(実施例27)、C.I.Pigment Orange 38(実施例28)、C.I.Pigment Orange 72(実施例29)、C.I.Pigment Orange 43(実施例30)、C.I.Pigment Orange 68(実施例31)、C.I.Pigment Orange 74(実施例32)に変更したこと以外は、実施例26と同様の方法で顔料分散液を製造した。
その結果、顔料粒子サイズが最大300〜850nmであり、平均粒度が40〜115nmである顔料分散液が製造され、6ヶ月間放置しても沈殿や凝集が生起しなかった。」
(6)5頁40行〜50行
「<実施例35>
油性顔料インクの製造のために、500grの前記<実施例1>の分散液と、478grのEBAと、1grのフッ素系界面活性剤と、1grのシリコーン系消泡剤と、20grのアクリル樹脂とを、高速homomixerにより7,000rpmで2時間攪拌した。
攪拌したインクをAdventec 5C濾紙で濾過して、粘度が3.8cpsであり、表面張力が28である油性顔料インクを製造した。
製造されたインクをインクカートリッジに注入し、MIMAKI JV−3 160で印刷したところ、30m以上の安定した印刷を示した。
前記<実施例2〜34>の分散液を同様の方法によりインクを製造し、安定した印刷結果を得ることができた。」
2 甲2には次の記載がある。
(1)「【請求項1】
色材と、環状エステルと、引火点が70℃以下であって下記一般式(I)で表される第1有機溶剤と、引火点が90℃以上の第2有機溶剤と、を含有し、
前記環状エステルの含有量a(質量%)が、6質量%以上30質量%以下であり、
前記環状エステルの含有量a(質量%)と、前記第1有機溶剤の含有量b(質量%)と、前記第2有機溶剤の含有量c(質量%)とが、下記式(1)および(2)の関係を満たす、インクジェット記録用インク組成物。
R1−O−(R2−O)2−R3 ・・・(I)
(上記一般式(I)において、R1は炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2はエチレン基またはプロピレン基を表し、R3は水素原子または炭素数1以上4以下のアルキル基を表す。)
a<b ・・・(1)
c<(a+b)/2 ・・・(2)」
(2)「【0001】
本発明は、インクジェット記録用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドのノズル孔からインク組成物の微小な液滴を吐出させ記録媒体に付着させて、画像や文字を記録するインクジェット記録装置が知られている。また、係る記録に用いるインク組成物として、例えば、色材、界面活性剤、水、有機溶剤等の種々の成分を含むインクジェット用インク組成物が知られている。また、インクジェット用インク組成物においては実質的に水を含まない油性(非水系)のインク組成物の開発も行われている。
【0003】
インクジェット記録においては、インクセット、インク組成物、記録装置、記録媒体などの複数の構成それぞれに対して多くの性能が要求され、その上、各構成間の高度なバランスが要求される。」
(3)「【0031】
本実施形態のインク組成物を、オレンジまたはイエローのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ64、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155およびC.I.ピグメントイエロー180等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。」
(4)「【0036】
1.2.溶剤
1.2.1.環状エステル
本実施形態に係るインク組成物は、溶剤として環状エステルを含有する。これにより、記録面(好ましくは塩化ビニル系樹脂を含む記録面)の一部を溶解して記録媒体の内部にインク組成物を浸透させることができる。このように記録媒体の内部にインク組成物が浸透することで、記録媒体上に記録した画像の耐擦性(摩擦堅牢性)を向上させることができる。このように、環状エステルは記録媒体への浸透性に優れるので、高湿度環境下であっても、耐擦性に優れた画像を得ることができる。
【0037】
環状エステルとは、ヒドロキシル基とカルボキシル基とを有する1つの分子において、当該分子内で、該ヒドロキシル基と該カルボキシル基とが脱水縮合した構造を有する化合物である。環状エステルは、炭素原子を2個以上、酸素原子を1個含む複素環を有し、当該複素環を形成する酸素原子に隣接してカルボニル基が配置された構造を有し、ラクトンと総称される化合物である。
【0038】
環状エステルのうち、単純な構造を有するものとしては、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、σ−バレロラクトン、およびε−カプロラクトンなどを例示することができる。なお、環状エステルの複素環の環員数には特に制限が無く、さらに、例えば、複素環の環員には任意の側鎖が結合していてもよい。環状エステルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
本実施形態のインク組成物によって形成される画像の耐擦性をより高める観点からは、上記例示した環状エステルのうち、3員環以上7員環以下の環状エステルが好ましく、5員環または6員環の環状エステルを用いることがより好ましく、いずれの場合でも側鎖を有さないことがより好ましい。このような環状エステルの具体例としては、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、およびγ−バレロラクトンが挙げられる。またこのような環状エステルは、特に、ポリ塩化ビニルとの親和性が高いので、ポリ塩化ビニルが含有される記録媒体に付着された場合に、耐擦性を高める効果を極めて顕著に得ることができる。
【0040】
環状エステルの含有量aは、インク組成物の全質量に対して、6質量%以上30質量%以下である必要があるが、10質量%以上20質量%以下であることが好ましく、12質量%以上16質量%以下であることがより好ましい。環状エステルの含有量が上記範囲内にあることで、記録される画像の耐擦性を良好に確保できる。これに対して、環状エステルの含有量が6質量%未満であると、記録される画像の耐擦性が悪化する。また、環状エステルの含有量が30質量%を超えると、記録される画像の濡れ拡がり性が低下したり、光沢性が悪化したりして、画質の低下を招く傾向にある。」
(5)「【0044】
上記一般式(I)で表される化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、上記一般式(I)に示すように、第1有機溶剤は、アルキレングリコールアルキルエーテルである。アルキレングリコールアルキルエーテルは、後述する定着樹脂にインク組成物を含有する場合において、定着樹脂を良好に溶解することができる。
【0045】
引火点が70℃以下である一般式(I)で表される化合物の具体例としては、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(64℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(56℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(65℃)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。なお、括弧内の数値は引火点を示す。」
(6)「【0049】
1.2.3.第2有機溶剤
本実施形態に係るインク組成物は、溶剤として、引火点が90℃以上の第2有機溶剤を含有する。第2有機溶剤は、引火点が90℃以上であるので、第1有機溶剤と比べて乾燥性が低いものであるが、記録媒体に付着したインク組成物の濡れ拡がり性を向上させるという機能を有する。これにより、記録される画像のインク滴による埋まりが良好となり、筋状ムラ等の少ない画質の優れた画像が得られる。
【0050】
第2有機溶剤としては、例えば、アルキレングリコールアルキルエーテル、高級脂肪酸エステル、二塩基酸ジエステル、アルキルアミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用しても良いし、2種以上併用してもよい。また、これらの化合物の中でも、印刷ムラの発生を抑制できるという点から、アルキレングリコールアルキルエーテルを使用することが好ましい。
【0051】
なお、本明細書中、印刷ムラ(凝集ムラ)とは、記録媒体にインク滴を付着させた際に発生する局所的な濃度斑のことを意味し、固形成分(樹脂成分、色材成分等)の膜厚が不均一になることで観察される現象である。また、本明細書中、筋状ムラとは、記録媒体上でのインク滴の埋まり不良に伴って、記録媒体の表面においてインク滴で被覆されないもしくは被覆が不均一な部分が筋状に残る現象を意味する。
【0052】
アルキレングリコールアルキルエーテルとしては、下記一般式(II)で表される化合物を用いることが好ましい。下記一般式(II)で表される化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0053】
R4−O−(R5−O)n−R6 ・・・(II)
【0054】
上記一般式(II)において、R4は炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、R5はエチレン基またはプロピレン基を表し、R6は水素原子または炭素数1以上6以下のアルキル基を表し、nは2以上6以下の整数を表す。「炭素数1〜6のアルキル基」は、直鎖状または分岐状のアルキル基であることができ、例えば前記「炭素数1〜4のアルキル基」に加えて、直鎖状もしくは分岐状のペンチル基またはヘキシル基であることができる。
【0055】
上記一般式(II)において、R4およびR6の両方が炭素数1以上6以下のアルキル基である場合、インク組成物中における顔料の分散安定性が向上する傾向があり好ましい。一方、R6が水素原子の場合、第2有機溶剤として使用されるアルキレングリコールアルキルエーテルの引火点がより高くなる傾向があり、第2有機溶剤の使用量としてより少ない含有量で、上記の画質の向上の効果が得られ、画質が一層高まる傾向にあり、インク組成物の組成の設計の自由度が高くなり好ましい。
【0056】
引火点が90℃以上である一般式(II)で表される化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(105℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(112℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(101℃)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(141℃)、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(94℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(122℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(108℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(117℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(139℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(156℃)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(111℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(123℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(138℃)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(104℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(166℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(141℃)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用しても良いし、2種以上併用してもよい。なお、括弧内の数値は引火点を示す。
【0057】
引火点が90℃以上である高級脂肪酸エステルの具体例としては、ラウリン酸メチル(136℃)、ヘキサデカン酸イソプロピル(パルミチン酸イソプロピル、110℃)、ミリスチン酸イソプロピル(161.7℃)、オレイン酸メチル(113℃)、オレイン酸エチル(163℃)等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用しても良いし、2種以上併用してもよい。なお、括弧内の数値は引火点を示す。」
(7)「【0073】
<水>
本実施形態のインク組成物には、水を含有しないことが好ましいが、含有されることを妨げるものではない。水が含有される場合には、その含有量が、インク組成物の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらにより好ましく、0.05質量%未満であることがさらに好ましく、0.01質量%未満であることが一層好ましく、0.005質量%未満であることがさらに一層好ましく、0.001質量%未満であることが最も好ましい。なお、本実施形態に係るインク組成物は、実質的に水を含有しないインク組成物としてもよい。「実質的に含有しない」とは、意図的に含有させないことを指す。すなわち、本実施形態に係るインク組成物は、有機溶剤を主要な溶媒として、水を主要な溶媒としない、いわゆる非水系インク組成物であることが好ましい。
【0074】
<定着用樹脂>
本実施形態のインク組成物は、定着用樹脂を含有してもよい。インク組成物に含有させうる定着用樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、エチルセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース樹脂、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、スチレン−(メタ)アクリル共重合樹脂、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン系樹脂、石油樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン、ポリオレフィン、エチレンアルキル(メタ)アクリレート樹脂、テルペン系樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、NBR・SBR・MBR等の各種合成ゴム、およびそれらの変性体等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。これらの定着用樹脂は、例えば、インク組成物の記録媒体上における定着性を付与するために配合することができる。」
(8)「【0107】
3.1.インク組成物の調製
各実施例および各比較例のインク組成物を、表1に示す配合で調製した。
【0108】
表1に記載された成分において、顔料は、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料:クラリアント社製)を用いた。
【0109】
表1に記載の化合物のうち、環状エステルとしては、γ−ブチロラクトン(関東化学株式会社製)を用いた。
【0110】
表1に記載の化合物のうち、第1有機溶剤としては、DEGMEE(ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製)、DEGdME(ジエチレングリコールジメチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジメチルエーテル」、東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0111】
表1に記載の化合物のうち、第2有機溶剤としては、DEGBME(ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、商品名「ハイソルブBDM」、東邦化学工業株式会社製)、TetraEGmBE(テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、商品名「ブチセノール40」、KHネオケム株式会社製)を用いた。
【0112】
表1に記載の化合物のうち、その他の溶剤としては、DEGDEE(ジエチレングリコールジエチルエーテル、商品名「ジエチレングリコールジエチルエーテル」、東京化成工業株式会社製、引火点71℃)を用いた。」
(9)「【0117】
3.2.1.印刷ムラ
上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に100%濃度で記録解像度720×720dpiのベタ印刷をした後、60分間、25℃65%RH(相対湿度)にて乾燥させた。その後、目視および光学顕微鏡を用いて印刷面を観察し、印刷ムラの少ないものを6点として、1点まで6水準で評価し、その結果を表1に記載した。
【0118】
3.2.2.光沢
上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV−G−1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度でベタ印刷をした後、25℃65%RH(相対湿度)にて1日間、乾燥させて各例の記録物を作成した。各例のベタ印刷部の20°光沢をMULTI GLOSS 268(コニカミノルタ株式会社製)にて測定し、光沢度が26未満を1点、26以上、28未満を2点とし、光沢度を2毎に刻んで光沢を点数で評価し、その結果を表1に記載した。光沢が優れる場合、特にフィルムなどの光沢性を有する記録媒体において、記録物に記録媒体自身と同様の光沢感を得ることができる利点がある。
【0119】
3.2.3.ドットサイズ
上記プリンターを用いて実施例および比較例の各インク組成物を、塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に記録解像度720×720dpiの30%濃度で1辺3cmの正方形を印刷した後、25℃65%RH(相対湿度)にて60分間乾燥させた。その後、光学顕微鏡を用いて印刷部分のドットサイズを観察してドットの直径を10μm毎に分類した。なお、にじみが大きい場合には、ドット形状が円状になっておらず、測定できなかった。また、にじみが小さくなることで真円に近くなっていたが、ドットサイズ(直径)は小さくなっていた。ドットサイズが20μm以下のものを1点として、20μmを超え30μm以下のものを2点、というように10μm毎にランク分けして、各例の点数を算出し、その結果を表1に記載した。ドットサイズが良好であるということは、インクの記録媒体上での濡れ拡がり性が良いということであり、記録媒体をインクで覆うことができることにより記録物の発色性が良くなるなどの利点がある。
【0120】
3.2.4.耐擦性
上記プリンターを用いて、実施例および比較例の各インク組成物を、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV−G−1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度で印刷した後、25℃65%RH(相対湿度)にて1日間、乾燥させて各例の記録物を作成した。次に、JIS L 0849に基づいて、I型試験機にて乾式試験を行った。その後、試験綿布のODをスペクトロリーノ(グレタグマクベス社製)にて測定し、0.4以上を1点、0.4より小さく0.35以上のものを2点と、0.05毎に色移りに関して点数を付け、その結果を表1に記載した。
【0121】
3.2.5.表面乾燥性
セイコーエプソン株式会社製プリンター「SC−S30650」を用いて、実施例および比較例の各インク組成物を、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV−G−1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度で印刷し、25℃65%RH(相対湿度)にて5分間乾燥させた。次に、巻き取り装置を用いて巻き取った後の印刷面のスリ痕を観察した。観察はレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、形式VK−8700 Generation2)にて表面粗さを測定することで、スリ痕のある面積の割合を算出した。スリ痕面積が印刷領域の10%以下のものを5点として、20%以下10%より多いものを4点、というように10%毎にランク分けした。6点はスリ痕面積がないものとした。その結果を表1に記載した。
【0122】
3.3.評価結果
以上の評価試験の結果を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
実施例に係るインク組成物は、いずれも、耐擦性の評価が良好であり、かつ、乾燥性および画質(ドットサイズ等)の評価が良好であることがわかった。このように、実施例に係るインク組成物は、耐擦性に優れつつ、画像の乾燥性と画質の向上を両立できるものであることが示された。」
3 甲3には次の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、インクジェット記録方法及びこれに用いられるインクに関する。」
(2)「【0076】
[インク]
本発明の一実施形態は、上記実施形態の記録方法に用いられるインク、すなわち特定インクに係る。当該特定インクは、沸点が120℃以上240℃以下の、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上の有機溶剤をインクの組成中に60質量%以上含有する。本実施形態の印刷方式の記録方法にこのような特定インク、すなわち実質的に水を含まない非水性の特定インクを用いることにより、定着性、タック性、及び着弾精度を良好なものとすることができる。以下、この特定インクを詳細に説明する。
【0077】
〔有機溶剤〕
本実施形態における特定インクは有機溶剤を含む。この有機溶剤の沸点は、120℃以上240℃以下であり、好ましくは120〜230℃である。沸点が上記範囲内であると、インクの乾燥速度を高めてブリードや凝集ムラを抑制しつつ、高速印刷ができ、またインクの吐出安定性を確保することができる。
【0078】
有機溶剤は、グリコールエーテル系溶剤及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる1種以上である。
【0079】
まず、グリコールエーテル系溶剤は、沸点が上記範囲内である限り特に限定されないが、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル類、アルキレングリコールジアルキルエーテル類、及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類が挙げられる。」
(3)「【0080】
上記のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類としては、以下に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。この具体例としては、以下に限定されないが、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点125℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点136℃)、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル(沸点170℃)、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル(沸点153℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点120℃、以下「PGME」ともいう。)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点132℃)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点170℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点188℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点230℃、以下「DPGPE」ともいう。)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(沸点229℃、以下「EHG」ともいう。)などが挙げられる。
【0081】
これらの中でも、PGME、DPGPE、及びEHGが好ましい。
【0082】
上記のアルキレングリコールジアルキルエーテル類としては、以下に限定されないが、例えば、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。この具体例としては、以下に限定されないが、エチレングリコールジエチルエーテル(沸点121℃)、エチレングリコールジブチルエーテル(沸点203℃)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(沸点176℃)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(Diglyme、沸点162℃、以下「GL−2」ともいう。)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点189℃、以下「DEGDEE」ともいう。)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点171℃、以下「DPGDME」ともいう。)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(Triglyme、沸点216℃、以下「GL−3」ともいう。)などが挙げられる。
【0083】
これらの中でも、DEGDEE、DPGDME、及びGL−3が好ましい。
【0084】
上記のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類としては、以下に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノアルキルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルアセテート、ジプロピレングリコールモノアルキルアセテートが挙げられる。この具体例としては、以下に限定されないが、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点145℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点156℃)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点217℃、以下「EGBEA」ともいう。)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146℃、以下「PGMEA」ともいう。)などが挙げられる。
【0085】
これらの中でも、EGBEA、PGMEAが好ましい。」
(4)「【0086】
次に、非プロトン性極性溶剤は、沸点が上記範囲内である限り特に限定されないが、例えば、β−プロピオラクトン(沸点155℃)、γ−ブチロラクトン(v(当審注:「沸点」の誤記と認める。)203℃、以下「GBL」ともいう。)、γ−バレロラクトン(沸点207℃)、γ−ヘキサラクトン(沸点219℃)、γ−オクタラクトン(沸点234℃)、γ−ノナラクトン(沸点121℃)、δ−バレロラクトン(沸点230℃)、δ−オクタラクトン(沸点238℃)、δ−ノナラクトン(沸点121℃)、δ−デカラクトン(沸点120℃)、及びδ−ウンデカラクトン(沸点152℃)等のラクトン系溶剤、並びに、N−メチル−2−ピロリドン(沸点202℃、以下「NMP」ともいう。)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(沸点230℃、HMPA)、N−シクロヘキシルピロリドン(沸点154℃、NCP)、テトラメチル尿素(沸点177℃、TCU)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(沸点225℃、以下「DMI」ともいう。)、N,N−ジメチルホルムアミド(沸点153℃、DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点166℃、DMA)、テトラメチレンスルホキシド(沸点235℃)、及びジメチルスルホキシド(沸点189℃、以下「DMSO」ともいう。)などが挙げられる。
【0087】
なお、上記の中でもラクトン系溶剤は、エステル結合による環状構造を持つ化合物であり、5員環構造のγ−ラクトン、6員環構造のδ−ラクトン、及び7員環構造のε−ラクトン等がある。
【0088】
これらの中でも、GBL、NMP、DMI、及びDMSOが好ましい。」
(5)「【0093】
〔色材〕
本実施形態の特定インクは、色材をさらに含んでもよい。上記色材は、顔料及び染料から選択される。
・・・
【0103】
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.Pigment Green 7,10、及びC.I.Pigment Brawn 3,5,25,26、及びC.I.Pigment Orange 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63等が挙げられる。
【0104】
本インクに顔料を用いる場合は、その平均粒径が10〜200nmの範囲にあるものが好ましく、より好ましくは50〜150nm程度のものである。
本インクに色材を用いる場合、色材の添加量は、0.1〜25質量%程度の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜15質量%程度の範囲である。
本インクに顔料を用いる場合は、分散剤または界面活性剤で媒体中に分散させて得られた顔料分散液を用いることができる。好ましい分散剤としては、顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、たとえば高分子分散剤を使用することができる。
本インクが色材を含有する場合、色材を複数含有するものであっても良い。たとえば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの基本4色に加えて、グリーン、オレンジ、ブルー、ホワイトなどの特色や、それぞれの色毎に同系列の濃色や淡色を加えることができる。すなわち、マゼンタに加えて淡色のライトマゼンタ、シアンに加えて淡色のライトシアン、濃色のレッド、濃色のブルー、ブラックに加えて淡色であるグレイ、ライトブラック、濃色であるマットブラックを含有させることが例示できる。」
(6)「【0118】
〔その他の添加剤〕
その他の添加剤として、以下に限定されないが、例えば、従来公知の防黴剤・防腐剤・防錆剤、酸化防止剤、増粘剤、湿潤剤、pH調整剤、及び表面張力調整剤を用いてもよい。
なお、本実施形態の特定インクは実質的に水を含まない非水性インクであるため、水については特段説明していない。」
(7)「【0123】
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔顔料〕
・C.I Pigment Violet 19(表中「PV19」と省略)
・C.I Pigment Yellow 213(表中「PY213」と省略)
・C.I Pigment Blue 15:3(表中「PB15:3」と省略)
・カーボンブラック(CB) MA77(商品名、三菱化学社製)(表中「CB MA77」と省略)
〔分散剤〕
・ポリエステル系高分子 Solsperse32000(商品名、アビシア(Avecia)社製)(表中「Sol32000」と省略)
〔定着樹脂〕
・塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体 UCAR Solution Vinyl VROH (商品名、日本ユニオンカーバイド社(Union Carbide Corporation)製、分子量15000,Tg=65℃)(表中「P(VC−VAc)」と省略)
・ポリアクリルポリオール樹脂エマルジョン N−2043−60MEX(商品名、ハリマ化成社(Harima Chemicals,Inc.)製)(表中「AP−e」と省略)
〔界面活性剤〕
・BYK−UV3500(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン社製)(表中「BYK3500」と省略)
【0124】
〔各種溶剤〕
(1.グリコールエーテル系溶剤)
・プロピレングリコールジメチルエーテル(表中「PGDME」と省略)
・プロピレングリコールモノメチルエーテル(表中「PGME」と省略)
・プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(表中「PGMEA」と省略)
・ジプロピレングリコールジメチルエーテル(表中「DPGDME」と省略)
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(表中「DEGDEE」と省略)
・トリエチレングリコールジメチルエーテル(表中「GL−3」と省略)
・エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(表中「EGBEA」と省略)
・ジプロピレングリコールプロピルエーテル(表中「DPGPE」と省略)
・テトラエチレングリコールジメチルエーテル(Tetraglyme、表中「GL−4」と省略)
・ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(表中「PEGME」と省略)
(2.非プロトン極性溶剤)
・N−エチル−2−ピロリドン(表中「NEP」と省略)
・ジメチルスルホキシド(表中「DMSO」と省略)
・N−メチル−2−ピロリドン(表中「NMP」と省略)
・γ−ブチロラクトン(表中「GBL」と省略)
・1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(表中「DMI」と省略)
・2−ピロリドン(表中「ピロリドン」と省略)
・γ−ウンデカラクトン(表中「GUL」と省略)
(3.その他の有機溶剤)
・メチルエチルケトン(表中「MEK」と省略)
・2−プロパノール(表中「プロパノール」と省略)
・シクロヘキサノン
・1,2−ヘキサンジオール(表中「ヘキサンジオール」と省略)
・ジプロピレングリコール(表中「DPG」と省略)
・トリエチレングリコール(表中「TEG」と省略)
【0125】
[実施例1〜6、比較例1〜5、参考例1〜2]
〔特定インクの調製〕
まず、下記表1及び表2に示す組成で材料を混合して、インクA〜Kを調製した。
なお、表1及び表2中、空欄部は無添加を意味し、数値の単位は質量%である。
【0126】
【表1】

【0127】
【表2】

【0128】
〔印刷〕
次に、下記の印刷装置を用いて、上記表1及び表2のインクA〜Kを下記の被印刷媒体にそれぞれ印刷した。
(被印刷媒体)
・塩ビフィルム(ローランド社(Roland DG Corporation)製、商品名「LLEX」)
・PPフィルム(エイブリィ・デニソン社(Avery Dennison Corporation)製、商品名「BA2076」)
・PETフィルム(リンテック社(Lintec Corporation)製、商品名「K2411」)
・PEフィルム(エイブリィ・デニソン社製、商品名「BA1201」)
・印刷本紙(王子製紙社(Oji Paper Company,Limited)製、商品名「OKトップコート+」)」
4 甲4には次の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、インクジェット記録用非水系インク組成物およびそれを用いたインクジェット記録方法に関する。」
(2)「【0020】
1.インクジェット記録用非水系インク組成物
本発明の一実施形態に係るインクジェット記録用非水系インク組成物(以下、単に「非水系インク組成物」ともいう。)は、後述する一般式(1)で表される化合物と、ラクトン類と、を含有する。一般式(1)で表される化合物およびラクトン類は、非水系インクの溶媒として機能する有機溶剤である。
【0021】
本発明において、「非水系インク組成物」とは、インク組成物を製造する際に水を意図的に添加しないという意味であり、インク組成物を製造中または保管中に不可避的に混入する微量の水分を含んでいても構わない。」
(3)「【0031】
1.1.2.ラクトン類
本実施形態に係る非水系インク組成物は、ラクトン類を含有する。ラクトン類の機能としては、低吸収性記録媒体上に付着したインクの定着性を向上させることが挙げられる。特に、ラクトン類は、上記式(1)で表される化合物ほどではないが、塩化ビニル系樹脂を溶解する作用が良好であるので、塩化ビニル系樹脂を含有する低吸収性記録媒体に対するインクの定着性を向上させることができる。
【0032】
ラクトン類としては、炭素原子数6以下のラクトンが好ましく、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、σ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンであることがより好ましい。ラクトン類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0033】
ラクトン類の含有量は、非水系インク組成物の全質量に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上20質量%以下であることが特に好ましい。ラクトン類の含有量が上記範囲にあることで、画像の耐擦性を向上できる場合がある。」
(4)「【0069】
本実施形態に係る非水系インク組成物をオレンジまたはイエローインクとする場合の顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ64、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、C.I.ピグメントイエロー180等が挙げられる。」
(5)「【0079】
本実施形態に係る非水系インク組成物は、インクの粘度を調整する目的でバインダー樹脂を添加してもよい。バインダー樹脂としては、例えばアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ロジン変性樹脂、フェノール樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、セルロースアセテートブチレート等の繊維系樹脂、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体樹脂等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。なお、バインダー樹脂は、その添加量により塩化ビニル系樹脂に対するインクの定着性をさらに良好とすることもできる。」
(6)「【0099】
3.2.非水系インク組成物の調製
容器に、表1〜2に記載の濃度に相当する量の有機溶剤をそれぞれのインク毎に投入し、マグネティックスターラーを用いて30分間混合撹拌して混合溶剤を得た。
【0100】
得られた混合溶剤の一部を取り分けて、そこにSolsperse37500(LUBRIZOL社製、商品名)およびC.I.ピグメントブラック7(三菱化学株式会社製、商品名「CARBON BLACK #970」)を所定量添加して、ホモジナイザーを用いて粉砕処理した。その後、直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したビーズミルで分散処理を行うことにより、顔料分散液(顔料の平均粒子径:150nm)を得た。
【0101】
得られた顔料分散液に、有機溶剤の残部およびBYK−340(ビックケミー・ジャパン株式会社製、フッ素系界面活性剤)、パラロイドB60(ローム・アンド・ハース社製、アクリル樹脂)を添加してさらに1時間混合撹拌してから、5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いて濾過することで、表1〜2に記載のブラックインク組成物を得た。なお、表中の数値は、質量%を表す。
【0102】
なお、表中で使用した材料は、下記の通りである。
・C.I.ピグメントブラック7(三菱化学株式会社製、商品名「CARBON BLACK #970」、ブラック顔料)
・Solsperse37500(商品名、LUBRIZOL社製、分散剤)
・γ−ブチロラクトン(関東化学株式会社製、有機溶剤)
・γ−バレロラクトン(関東化学株式会社製、有機溶剤)
・σ−バレロラクトン(関東化学株式会社製、有機溶剤)
・ジエチレングリコールジエチルエーテル(日本乳化剤株式会社製、有機溶剤)
・ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製、有機溶剤)
・テトラエチレングリコールジメチルエーテル(商品名「ハイソルブMETM」、東邦化学工業株式会社製、有機溶剤)
・BYK−340(商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製、フッ素系界面活性剤)
【0103】
3.3.評価試験
3.3.1.摩擦堅牢性試験
JローランドDG社製プリンター「SP−300V」を用いて、「3.2.非水系インク組成物の調製」で得られた各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社製、「SV−G−1270G」)上にDuty100%の条件で印刷した。その後、常温にて1日間乾燥させることで、評価用サンプルを得た。
・・・
【0105】
3.3.2.表面乾燥性試験
JローランドDG社製プリンター「SP−300V」を用いて、「3.2.非水系インク組成物の調製」で得られた各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社製、「SV−G−1270G」)上にDuty100%の条件で印刷した後、5分間乾燥させた。次いで、巻き取り装置を用いて光沢ポリ塩化ビニルシートを巻き取った後の光沢面のスリ痕を観察した。スリ痕の観察は、形状測定レーザマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、「VK−8700 GenerationII」)にて表面粗さを測定することで、スリ痕のある面積の割合を算出した。なお、評価基準は、以下の通りである。評価結果を表1および表2に併せて示す。
6:スリ痕面積が0%
5:スリ痕面積が0%超10%未満
4:スリ痕面積が10%以上20%未満
3:スリ痕面積が20%以上30%未満
2:スリ痕面積が30%以上40%未満
1:スリ痕面積が40%以上
【0106】
3.3.3.滲み性試験
JローランドDG社製プリンター「SP−300V」を用いて、「3.2.非水系インク組成物の調製」で得られた各インク組成物を塩ビバナーシート(3M社製、IJ8451、被記録面に凹凸形状を有する低吸収性記録媒体)、および光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社製、「SV−G−1270G」、平滑な被記録面を有する低吸収性記録媒体)上に、Duty100%の条件で、アルファベットA〜Z(大文字および小文字)をフォントサイズ20ポイントで印刷した後、60分間乾燥させた。その後、肉眼でにじみを観察した。
・・・
【0109】
3.3.4.ドットサイズの判定試験
JローランドDG社製プリンター「SP−300V」を用いて、「3.2.非水系インク組成物の調製」で得られた各インク組成物を塩ビバナーシート(3M社製、IJ8451)上に、ドット同士が重ならない条件で印刷を行った。具体的には、Duty30%の条件で3cmの正方形を印刷した後、60分間乾燥させた。その後、光学顕微鏡を用いてドットサイズを観察して、直径を10μm毎に分類した。評価結果を表1および表2に併せて示す。なお、ドットサイズが80μm以下であれば、300dpi以上の解像度を有する画像を印刷することができる。
【0110】
【表1】


5 甲5には次の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、インク組成物およびインクジェット記録方法に関する。」
(2)「【0026】
本実施形態のインク組成物を、オレンジまたはイエローのインクとする場合には、配合される色材、特に顔料として、例えば、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントオレンジ64、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー150、およびC.I.ピグメントイエロー180等を例示することができ、これらは単独または組み合わせて用いることができる。」
(3)「【0043】
本実施形態のインク組成物が環状エステルを含む場合、インク組成物全量に対する環状エステルの合計の含有量の下限は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましく、10質量%以上であることが特に好ましい。また、その上限は、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。環状エステルの含有量が上記範囲にあることで、少なくとも画像の定着性および耐擦過性の少なくとも一方を良好に確保することができる。」
(4)「【0046】
1.4.その他の成分
1.4.1.水
本実施形態のインク組成物は、実質的に水を含有しないことが好ましい。「実質的に含有しない」とは、意図的に含有させないことを指し、例えばインク組成物中の水の含有量が5.0質量%未満であり、好ましくは3.0質量%未満であり、一層好ましくは2.0質量%未満、さらに一層好ましは1.0質量%未満であり、最も好ましくは0.5質量%未満であることをいう。本実施形態のインク組成物は、上記の実質的に水を含有しないインク組成物(非水系インク組成物)とすることが好ましい。
【0047】
1.4.2.定着用樹脂
本実施形態のインク組成物は、定着用樹脂を含有してもよい。インク組成物に含有させうる定着用樹脂としては、例えば、脂肪族ポリエステル、芳香族ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、エチルセルロース樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、セルロースアセテートブチレート、ニトロセルロース樹脂、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、スチレン−(メタ)アクリル共重合樹脂、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン系樹脂、石油樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン、ポリオレフィン、エチレンアルキル(メタ)アクリレート樹脂、テルペン系樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、NBR・SBR・MBR等の各種合成ゴム、およびそれらの変性体等が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。これらの定着用樹脂は、例えば、インク組成物の記録媒体上における定着性を付与するために配合することができる。」
(5)「【0077】
2.1.インク組成物の調製
各実施例および各比較例のインク組成物を、表1に示す配合で調製した。
【0078】
表1に記載された成分において、顔料は、ピグメントブルー15:3(銅フタロシアニン顔料:クラリアント社製)を用いた。
・・・
【0081】
表1に記載の化合物のうち、環状エステルとしては、γ−ブチロラクトン(関東化学株式会社製)を用い、市販品をそのまま使用した。表1中、DEGBMEは、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(商品名「ハイソルブBDM」、東邦化学工業株式会社製)の略であり、DEGMEEは、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(商品名「ハイソルブEDM」、東邦化学工業株式会社製)の略であり、いずれも市販品をそのまま使用した。
・・・
【0085】
【表1】

2.2.評価方法
2.2.1.印刷ムラ
セイコーエプソン株式会社製プリンター「SC−S30650」を用いて、実施例および比較例の各インク組成物を塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に100%濃度で記録解像度720×720dpiのベタ印刷をして60分間、25℃65%RH(相対湿度)にて乾燥させた。その後、目視および光学顕微鏡を用いて印刷面を観察し、印刷ムラの少ないものを6点として、1点まで6水準で評価し、その結果を表1に記載した。
【0086】
2.2.2.光沢
セイコーエプソン株式会社製プリンター「SC−S30650」を用いて、実施例および比較例の各インク組成物を光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV−G−1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度でベタ印刷し、25℃65%RH(相対湿度)にて1日間、乾燥させて各例の記録物を作成した。各例のベタ印刷部の20°光沢をMULTI GLOSS 268(コニカミノルタ株式会社製)にて測定し、光沢度が26未満を1点、26以上、28未満を2点とし、光沢度を2毎に刻んで光沢を点数で評価し、その結果を表1に記載した。光沢が優れる場合、特にフィルムなどの光沢性を有する記録媒体において、記録物に記録媒体自身と同様の光沢感を得ることができる利点がある。
【0087】
2.2.3.ドットサイズ
セイコーエプソン株式会社製プリンター「SC−S30650」を用いて実施例および比較例の各インク組成物を、塩ビバナーシート(3M社製、型番IJ51(ポリ塩化ビニル))上に記録解像度720×720dpiの30%濃度で1辺3cmの正方形を印刷し、25℃65%RH(相対湿度)にて60分間乾燥させた。その後、光学顕微鏡を用いて印刷部分のドットサイズを観察してドットの直径を10μm毎に分類した。なお、にじみが大きい場合には、ドット形状が円状になっておらず、測定できなかった。また、にじみが小さくなることで真円に近くなっていたが、ドットサイズ(直径)は小さくなっていた。ドットサイズが20μm以下のものを1点として、20μmを超え30μm以下のものを2点、というように10μm毎にランク分けして、各例の点数を算出し、その結果を表1に記載した。ドットサイズが良好であるということは、インクの記録媒体上での濡れ拡がり性が良いということであり、記録媒体をインクで覆うことができることにより記録物の発色性が良くなるなどの利点がある。
【0088】
2.2.4.耐擦過性
セイコーエプソン株式会社製プリンター「SC−S30650」を用いて、実施例および比較例の各インク組成物を、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV−G−1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度で印刷し、25℃65%RH(相対湿度)にて1日間、乾燥させて各例の記録物を作成した。次に、JIS L 0849に基づいて、I型試験機にて乾式試験を行った。その後、試験綿布のODをスペクトロリーノ(グレタグマクベス社製)にて測定し、0.4以上を1点、0.4より小さく0.35以上のものを2点と、0.05毎に色移りに関して点数を付け、その結果を表1に記載した。
【0089】
2.2.5.乾燥性
セイコーエプソン株式会社製プリンター「SC−S30650」を用いて、実施例および比較例の各インク組成物を、光沢ポリ塩化ビニルシート(ローランドDG社、型番SV−G−1270G)上に記録解像度720×720dpiの100%濃度で印刷し、25℃65%RH(相対湿度)にて5分間乾燥させた。次に、巻き取り装置を用いて巻き取った後の印刷面のスリ痕を観察した。観察はレーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製、形式VK−8700 Generation2)にて表面粗さを測定することで、スリ痕のある面積の割合を算出した。スリ痕面積が印刷領域の10%以下のものを5点として、20%以下10%より多いものを4点、というように10%毎にランク分けした。6点はスリ痕面積がないものとした。その結果を表1に記載した。」
6 甲6には次の記載がある。
(1)「【0001】
本発明は、非水系インクジェット用インク組成物に関し、より詳しくは、インクジェットプリンタにより印刷する際にプリンタヘッド部のノズルへの詰まりが生じることがなく、優れた印字品質の印刷物が得られるインクの吐出安定性に優れた非水系インクジェット用インク組成物に関する。」
(2)「【0012】
本発明の非水系インクジェット用インク組成物に使用される顔料として、
ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、31、55、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、153(ニトロン系ニッケル錯体イエロー)、154、155、166、168、180、181、185、ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71、ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122(キナクリドンマゼンタ)、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、244、254、ピグメントバイオレット19(キナクリドンバイオレット)、23、29、30、32、37、40、50、ピグメントブルー15(フタロシアニンブルー)、15:1、15:3、15:4、15:6、22、30、64、80、ピグメントグリーン7(塩素化フタロシアニングリーン)、36(臭素化フタロシアニングリーン)、ピグメントブラウン23、25、26、ピグメントブラック7(カーボンブラック)、26、27、28、酸化チタン、酸化鉄、群青、黄鉛、硫化亜鉛、コバルトブルー、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を挙げることができる。ここで、酸化チタンは、通常、塗料等に使用されている二酸化チタンを使用することができ、結晶系は、アナターゼ型、ルチル型のいずれでもよいが、耐候性を考慮するとルチル型の方が好ましい。」
(3)「【0044】
<実施例1〜34及び比較例1〜5>
表1に示す成分と配合量(質量部)で含有する混合物をそれぞれサンドミルで3時間練合して、実施例1〜34及び比較例1〜5のインク組成物を調製した。
・・・
【0051】
<ノズル吐出安定性>
ラージフォーマット用インクジェットプリンタを用いて塩化ビニルの基材に画像を8時間連続して印刷し、その後温度40℃・湿度65%の環境下で1週間停止させ、再度連続して1時間印刷し、その印字状態を目視で下記の基準で評価した。
◎:印字したドットの内、90%以上で所定の位置に正しく印字できる。
○:印字したドットの内、80%以上90%未満で所定の位置に正しく印字できる。
△:印字したドットの内、20%以上70%未満でドットの曲がりが発生。
×:印字したドットの内、70%以上でドットの曲がりが発生。
・・・
【0053】
【表1】


【0054】
【表2】


【0055】
【表3】



第5 当審の判断
1 甲1を主引例とした進歩性欠如についての判断
(1)甲1発明の認定
ア 実施例30について
前記第4、1(5)に摘記した甲1の実施例30に注目すると、「顔料を、・・・C.I.Pigment Orange 43(実施例30)・・・に変更したこと以外は、実施例26と同様の方法で顔料分散液を製造した。その結果、顔料粒子サイズが最大300〜850nmであり、平均粒度が40〜115nmである顔料分散液が製造され・・・」とされている。
イ 顔料粒子の平均粒径について
前記アの記載から、実施例27〜実施例32により得られた顔料粒子について、「平均粒度が40〜115nm」であることが読み取れる。したがって、実施例30により得られた顔料粒子についての平均粒径は明らかでないものの、「平均粒度が40〜115nm」の範囲内であることが読み取れる。
ウ 前記第4、1(5)に摘記した実施例26を参照すると、甲1の実施例30に基づいて次の発明(以下「甲1発明」という。)が認定できる。
「次のステップにより製造される顔料分散液。
1)樹脂溶解ステップ:8,920grの溶剤EBAに、400grのビニル樹脂VYHHを入れ、高速ミキサーにより2,500rpmの速度で60分間攪拌し、樹脂を溶かした。
2)1次分散ステップ:ステップ1)で得られた溶液に、80grの分散剤BYK−162と600grのC.I.Pigment Orange 43を入れ、5,000rpmで90分間混合した。
3)2次分散ステップ:1次分散された液滴を、再び衝撃式ミリング工程により最終粉砕した。」
(2)本件発明1との対比
ア 甲1発明における「溶剤EBA」、「C.I.Pigment Orange 43」及び「顔料分散液」は、本件発明1の「溶剤」、「ピグメントオレンジ−43(PO−43)を含む顔料」及び「インク組成物」にそれぞれ相当する。
イ 甲1発明には、「水」が含まれないから、本件発明1の「水の含有量が5質量%以下」に相当する。
ウ 一致点
以上から、本件発明1と甲1発明とは次の点で一致する。
「溶剤と、ピグメントオレンジ−43(PO−43)を含む顔料と、を含み、水の含有量が5質量%以下である、インク組成物。」である点。
エ 本件発明1と甲1発明は次の点で相違する。
(ア)相違点1(溶媒について)
溶媒に関して、本件発明1においては、「γ−ブチロラクトン」をインク組成物全量に対し「5質量%以上50質量%以下」含み、かつ式(1)で示される化合物がインク組成物全量に対し「10質量%以上90質量%」含み、かつ式(1)で示される化合物のうち引火点が140℃以下の化合物が、インク組成物全量に対し「60質量%以上80質量%以下」含むのに対し、甲1発明においては、「EBA」が、{8920/(8920+400+80+600)}×100=89.2質量%含まれる点。
(イ)相違点2(顔料について)
P.O.43に関して、本件発明1においては、「体積平均粒子径が100nm以上346nm以下」と特定されているのに対して、甲1発明においては、そのように特定されていない点。
(ウ)相違点3(用途について)
インク組成物の用途に関して、本件発明1においては、「インクジェットインク組成物」と特定されているのに対して、甲1発明においては用途が特定されていない点。
(3)相違点についての判断
ア 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。甲1発明における粒径については、前記(1)イで検討したように、「平均粒度が40〜115nm」であるものと認められる。ここで、甲1発明の「平均粒度」と、本件発明1の「体積平均粒子径」との関係が同じ定義であるかは甲1の記載からは明らかでないから、場合分けして検討する。
(ア)甲1発明の「平均粒度」と、本件発明1の「体積平均粒子径」とが同じ定義である場合
a 甲1発明の平均粒度を「体積平均粒子径」であると仮定する。甲1発明の「体積平均粒子径」は前記(1)イで検討したように、40〜115nmのいずれかと認められるが、100nm以上346nm以下であると認めることはできない。そして、甲1〜6を検討しても、甲1発明の40〜115nmのうち、100nm〜115nmとすることの動機付けがあるということはできない。
b 甲1の実施例30における「平均粒度」が115nmである可能性は否定できないが、可能性を肯定する根拠も見当たらない。したがって、相違点2が実質的な相違点でないとすることはできない。
c そして、本件発明1は、本件特許明細書の実施例及び比較例に記載のように、P.O.43の体積平均粒径を100nm以上346nm以下とすることで、「耐候性、印字安定性、耐擦性を含む総合的な性能のバランスを良好にすることができる」という臨界的な効果を奏していると認められる。
d そうすると、本件発明1は甲1発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
(イ)甲1発明の「平均粒度」と、本件発明1の「体積平均粒子径」とが異なる定義である場合
本件発明の「体積平均粒子径」と甲1発明の「平均粒度」の定義が異なるとすると、甲1発明の「平均粒度」と本件発明1の「体積平均粒子径」との相当関係が明らかでなくなるため、前記(ア)で検討したよりも、本件発明1と甲1発明との相違点が増えることになるから、前記(ア)で検討したのと同様に、相違点2は、当業者が容易に想到しうることではない。
イ 前記アにおいて検討したとおり、相違点1及び相違点3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(4)本件発明2〜6についての判断
本件発明2〜6は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
2 甲2を主引例とした進歩性欠如についての判断
(1)甲2発明の認定
前記第4、2(9)の【表1】に摘記した甲2の実施例2は、同(8)に摘記した甲2の段落【0107】に記載されているように、インク組成物であって、次のとおりの発明(以下「甲2発明」という。)である。
「顔料としてピグメントブルー15:3を4.0質量%、分散剤としてソルスパース37500を4.0質量%、環状エステルとしてGBLを15.0質量%、第1有機溶剤としてDEGMEEを45.0質量%、第2有機溶剤としてDEGBMEを29.0質量%、界面活性剤としてBYK340を1.5質量%、定着樹脂としてパラペットG−1000Pを1.5質量%、それぞれ含有するインク組成物」
(2)本件発明1との対比
ア 甲2発明のGBLは、甲2の段落【0109】に記載のように、「γ−ブチロラクトン」であるから、本件発明1の「環状エステル」及び「環状エステルがγ−ブチロラクトンであり、」に相当する。
イ 甲2発明の「DEGMEE」は、甲2の段落【0110】に記載のように「ジエチレングリコールメチルエチルエーテル」である。その化学式は、
Me−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−Et である。そして、本件発明1の一般式(1)に当てはめると、R1=炭素数1のアルキル基、R3=炭素数2のアルキル基、R2=炭素数2のアルキレン基、m=2であるから、式(1)を充足する。
ウ 甲2発明の「DEGBME」は、甲2の段落【0111】に記載のように「ジエチレングリコールブチルメチルエーテル」であり、その化学式は、
Bu−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−Me である。そして、本件発明1の一般式(1)に当てはめると、R1=炭素数4のアルキル基、R3=炭素数1のアルキル基、R2=炭素数2のアルキレン基、m=2であるから、本件発明1の一般式(1)を充足する。
エ 甲2発明のDEGMEEとDEGBMEとの合計量は、45+29=74質量%であるから、本件発明1の「一般式(1)で表される化合物の合計の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下」を充足する。
オ 甲2発明のDEGMEEの引火点は、前記第4、2(5)に摘記した甲2の段落【0045】に「ジエチレングリコールメチルエチルエーテル(64℃)」と記載されているから、その引火点は64℃である。また、甲2発明のDEGBMEは、前記第4、2(6)に摘記した甲2の段落【0056】に、「ジエチレングリコールブチルメチルエーテル(94℃)」と記載されているから、その引火点は94℃である。そして、いずれの引火点も「140℃以下」である。
カ そうすると、甲2発明のDEGMEEとDEGBMEとの合計量74%は、本件発明1の「前記一般式(1)の化合物として、引火点が140℃以下の化合物の含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して60質量%以上80質量%以下であり」を充足する。
キ 甲2発明における環状エステルの含有量は、15質量%であるから、本件発明1の「前記環状エステルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して5質量%以上50質量%以下であり、」を充足する。
ク 甲2発明には、水が含有されないから、本件発明1の「水の含有量が5質量%以下」を充足する。
ケ 甲2発明の「顔料としてピグメントブルー15:3」は、「顔料」である限りにおいて、本件発明1の「体積平均粒子径が100nm以上346nm以下であるピグメントオレンジ−43(PO−43)を含む顔料」に対応する。
コ 一致点
以上から、本件発明1と甲2発明との一致点は、次のとおりである。
「下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも1種含む溶剤と、
環状エステルと、
顔料と、
を含み、
前記一般式(1)で表される化合物の合計の含有量が、前記インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下であり、
前記一般式(1)の化合物として、引火点が140℃以下の化合物の含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して60質量%以上80質量%以下であり、
前記環状エステルがγ−ブチロラクトンであり、
前記環状エステルの含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して5質量%以上50質量%以下であり、
水の含有量が5質量%以下である、インクジェットインク組成物。
R1O−(R2O)m−R3 ・・・(1)
[一般式(1)中、R1及びR3は、それぞれ独立して、炭素数1以上4以下のアルキル基を表し、R2は、炭素数2のアルキレン基を表し、mは、2又は3の整数を表す。]」
サ 本件発明1と甲2発明は次の点で相違する。
相違点4
顔料について、本件発明1においては、「体積平均粒子径が100nm以上346nm以下であるピグメントオレンジ−43(PO−43)を含む顔料」であるのに対して、甲2発明においては、「顔料としてピグメントブルー15:3を」「含む」点。
(3)相違点4についての判断
ア 顔料として、ピグメントオレンジ−43(以下「PO−43」という。)は、前記第4、1(1)に摘記した甲1の【請求項8】、前記第4、2(3)に摘記した甲2の段落【0031】、前記第4、3(5)に摘記した甲3の段落【0103】、前記第4、4(4)に摘記した甲4の段落【0069】、前記第4、5(2)に摘記した甲5の段落【0026】、前記第4、6(2)に摘記した甲6の段落【0012】のいずれにも記載されており、本件優先日前に周知のものであったと認められる。
イ しかしながら、PO−43の粒径について、甲2〜6には記載されていない。また、甲1における記載も前記1(3)アにて検討したように、本件発明1における「体積平均粒子径100nm以上346nm以下である」PO−43を記載ないし示唆するものということができない。
ウ そうすると,「体積平均粒子径100nm以上346nm以下である」PO−43をインク組成物に用いることは、甲2発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たということはできない。
(4)本件発明2〜6についての判断
本件発明2〜6は、本件発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、本件発明1と同様に、甲2発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
進歩性について小括
前記1、2のとおり、本件発明1〜6は、甲1発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものでなく、また、甲2発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたものでないため、本件発明1〜6は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明ではないから、本件発明1〜6に係る特許は同法第113条第2号に該当しない。
4 記載要件についての判断
(1)PO−43の量について
ア PO−43の量については、本件特許明細書の段落【0053】には、「本実施形態のインクジェットインク組成物の全量に対する、PO−43の含有量は、1質量%以上10質量%以下であり、好ましくは2質量%以上8質量%以下、より好ましくは3質量%以上7質量%以下である。」と記載されている。
イ インクジェットインク組成物において、顔料を均一に吐出し、印刷物に定着されるためには、インク組成物に対する顔料の含有量は、おのずと上限及び下限があるものであるから、上限値及び下限値の特定事項がないからといって、本件発明の課題が解決できないということはできない。
ウ 申立人は、本件発明1において、顔料の含有量が特定されていないから、実施例における「2〜7質量%」に特定されるべきと主張するが、前記イで検討したとおり理由がない。
(2)γ−ブチロラクトンの量について
ア インク組成物中におけるγ−ブチロラクトンの量について、本件特許明細書の段落【0036】〜【0037】には、「【0036】
本実施形態のインク組成物によって形成される画像の耐擦性をより高める観点からは、上記例示した環状エステルのうち、3員環以上7員環以下の環状エステルが好ましく、5員環または6員環の環状エステルを用いることがより好ましく、いずれの場合でも側鎖を有さないことがより好ましい。このような環状エステルの具体例としては、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、およびγ−バレロラクトンが挙げられる。またこのような環状エステルは、特に、ポリ塩化ビニルとの親和性が高いので、ポリ塩化ビニルが含有される記録媒体に付着された場合に、耐擦性を高める効果を極めて顕著に得ることができる。
【0037】
環状エステルを配合する場合における、インクジェットインク組成物の全量に対する含有量(複数種を使用する場合にはその合計量)は、5質量%以上50質量%以下であり、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下である。」と記載されている。
イ 本件特許明細書の実施例16
(ア)本件特許明細書の段落【0093】【表3】には、実施例16が記載され、γ−ブチロラクトンの量がインク組成物に対して5.0質量%であること、評価結果として、耐候性が5、印字安定性(間欠評価)が4、光沢性(画質)が4、凝集ムラが4、耐擦性が1であることが記載されている。
(イ)本件発明の課題は、前記第3、1(3)アに摘記したように「耐候性、印字安定性、耐擦性を含む総合的な性能のバランスを良好にすることができる」ということであるから、実施例16において、耐擦性が1という最低評価であっても、他の4項目において高評価であることから、実施例16においても、その課題が解決されているということができる。
(ウ)申立人は、耐擦性の評価のみを取り上げて、実施例16は課題が解決できないと主張するが、総合的な性能のバランスを見ない主張であって、採用できない。
(3)一般式(1)の化合物の量
申立人は、本件発明1の特定事項が矛盾すると主張するが、本件発明1の解釈上、一般式(1)で表される化合物の含有量は、「インクジェットインク組成物の全量に対して、10質量%以上90質量%以下」(以下「特定A」という。)かつ「一般式(1)の化合物として、引火点が140℃以下の化合物の含有量が、インクジェットインク組成物の全量に対して60質量%以上80質量%以下」(以下「特定B」という。)という要件を両方満たす必要があるから、一般式(1)で表される化合物の量は、特定Bが優先することになって、60質量%未満となることはないことは、当業者であれば読み取れる。本件発明1の記載が特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たさないという申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜6に対する特許異議の申立てはなりたたない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-30 
出願番号 P2020-012291
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C09D)
P 1 651・ 121- Y (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 田澤 俊樹
門前 浩一
登録日 2021-11-22 
登録番号 6981483
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 インクジェットインク組成物及びインクジェット記録方法  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 布施 行夫  
代理人 松本 充史  
代理人 川▲崎▼ 通  

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