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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
管理番号 1392060
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-17 
確定日 2022-11-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6984593号発明「ポリプロピレン系樹脂多層フィルム及びそれを用いた包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6984593号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6984593号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜6に係る特許についての出願は、平成29年3月27日(優先権主張 2016年3月30日 日本国)を国際出願日とする出願であって、令和3年11月29日にその特許権の設定登録がされ、令和3年12月22日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜6に係る特許に対し、令和4年6月17日に特許異議申立人渋谷都(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立て(以下「本件異議申立」という。)を行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下「本件発明1」などという。また、本件発明1〜6を「本件発明」と総称することもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
アイソタクチックポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体及びプロピレン・ペンテン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とする基層(A)と、基層(A)の片面に、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の共重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とする表面層(B)を有し、また基層(A)の表面層(B)が接する面と反対の面には、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体及びプロピレン・エチレン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の共重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とするシール層(C)を有するポリプロピレン系樹脂多層フィルムであって、下記a)〜d)を満たす事を特徴とするポリプロピレン系樹脂多層フィルム。
a)シール層(C)のヒートシール立上がり温度が115℃以上125℃以下であり、ヒートシール到達強度が3.0N/15mm以上である。
b)シール層(C)の厚みがフィルム全層に対し1.5%以上5%以下の範囲を有する。
c)防曇剤を少なくともシール層(C)に含む。
d)表面層(B)の厚みがフィルム全層に対し1%以上10%以下の範囲を有する(ただし、10%を含まない)。
【請求項2】
シール層(C)を構成する共重合体の中で最も低い融点を有する樹脂の融点の温度が、120〜130℃の範囲であり、その含有量が50重量%以上85重量%以下の範囲である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂多層フィルム。
【請求項3】
シール層(C)を構成する共重合体の中で最も高い融点を有する樹脂の融点が130℃以上140℃以下であり、その含有量が15〜50重量%の範囲である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂多層フィルム。
【請求項4】
シール層(C)を構成する共重合体の融点の温度が、120〜140℃の範
囲であり、120〜130℃の共重合体の含有量が50重量%以上85重量%
以下であり、130℃超え〜140℃の共重合体の含有量が50重量%以下である請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂多層フィルム。
【請求項5】
基層(A)には防曇剤を含有する請求項1記載のポリプロピレン系樹脂多層フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂多層フィルムを用請求項1〜5のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂多層フィルムを用いた包装体。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証(以下「甲1」という。)を提出し、次の申立理由1〜3を主張している。

甲第1号証:特開2009−78860号公報

1.申立理由1(新規性
本件発明1、5、6は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定される発明に該当するから、本件特許の請求項1、5、6に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきである。

2.申立理由2(進歩性
本件発明1〜6は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、本件特許の請求項1〜6に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきである。

3.申立理由3(サポート要件)
本件発明は、「c)防曇剤を少なくともシール層(C)に含む。」ことが特定されているが、防曇剤がシール層(C)にのみ含有された場合に、本件発明の課題が解決できることは、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、本件発明には発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件発明は発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件特許の請求項1〜6に係る特許は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきである。

第4 甲1の記載
1 甲1について
甲1には、次の事項が記載されている。以下、下線は、理解の便宜のため、当審が付した。
「【請求項1】
長手方向の引張伸度が170%以下であって、ポリプロピレン系樹脂よりなる二軸延伸された基材層を少なくとも有する二軸延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムよりなり、かつ、該二軸延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムの幅方向に開封テープを積層して構成されたことを特徴とする包装用フィルム。
【請求項2】
前記二軸延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムの幅方向の引張伸度が40〜90%である請求項1に記載の包装用フィルム。
【請求項3】
前記二軸延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムが、ポリプロピレン系樹脂よりなる二軸延伸された基材層の少なくとも片面に、該ポリプロピレン系樹脂より融点が低いポリオレフィン系樹脂よりなるヒートシール層が積層されたものである請求項1または2に記載の包装用フィルム。
【請求項4】
前記ヒートシール層の総厚みが、二軸延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムの厚みの0.8〜25%である請求項3に記載の包装用フィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の包装用フィルムにより形成されたサンドイッチ用包装袋。」
「【0020】
〔基材層を構成するポリプロピレン系樹脂〕
本発明の包装用フィルムは、ポリプロピレン系樹脂よりなる二軸延伸された基材層を少なくとも有する二軸延伸ポリプロピレン系樹脂フィルムよりなる。
【0021】
該ポリプロピレン系樹脂としては、後述する二軸延伸方法によって、MDの引張伸度が170%以下を達成できる程度の結晶性を有するものであればよく、一般には、ポリプロピレン系樹脂を50〜100質量%含む樹脂が使用される。前記ポリプロピレン系樹脂を具体的に例示すると、プロピレン単独重合体、プロピレン以外のα−オレフィンに基づく単量体単位が30質量%未満のプロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン三元共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。また、前記α−オレフィンは、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。更に、前記共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよい。なお、後述するヒートシール層は、基材層を構成するポリプロピレン系樹脂より融点の低いポリオレフィン系樹脂より構成されるが、本発明の基材層を構成するポリプロピレン系樹脂の融点は、上記ポリプロピレン系樹脂を混合して使用する場合には、配合割合の多いポリプロピレン系樹脂の融点を基準とする。また、配合割合が同じ場合には、融点の高いポリプロピレン系樹脂を基準とする。
【0022】
本発明において、前記ポリプロピレン系樹脂の中でも、製膜性や開封性のより優れたフィルムとするためには、プロピレン単独重合体、エチレン含有量が0.2〜5.0質量%のプロピレン−エチレンランダム共重合体、エチレン含有量が0.2〜5.0質量%になるよう調整したプロピレン単独重合体とプロピレン−エチレンランダム共重合体の混合物を使用することが好ましい。」
「【0026】
本発明において、前記基材層には、公知の添加剤を含有させることができる。また、当然のことながら、基材層が複数の層からなる場合(例えば、主層、および表層からなる場合)には、各層に公知の添加剤を含有させることができる。公知の添加剤を具体的に例示すれば、酸化防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、防曇剤、塩素捕捉剤、帯電防止剤、結晶核剤等を挙げることができる。特に、サンドイッチ等の食品を包装する用途に本発明の包装用フィルムを使用する場合には、包装後のフィルムへの結露による曇りが問題となる場合があるため、防曇剤や帯電防止剤を添加することが好ましい。」
「【0043】
〔ヒートシール層、およびヒートシール層を構成するポリオレフィン系樹脂〕
本発明の包装フィルムにおいて、二軸延伸された基材層の少なくとも片面に積層されるヒートシール層は、包装される内容物や包装機の包装適性等に応じて、必要とするヒートシール強度、およびヒートシール融着開始温度を勘案し、厚みや構成するポリオレフィン系樹脂を適宜選択すれば良い。
【0044】
特に、本発明の包装用フィルムをヒートシールにより加工してサンドイッチ用包装袋とする場合、ヒートシール強度が2.5N/15mm以上、好ましくは3.0N/15mm以上となる二軸延伸積層ポリプロピレン系樹脂フィルムとすることが好ましい。そのため、前記用途に使用する場合には、前記ヒートシール強度を満足するようなポリオレフィン系樹脂を選択することが好ましい。
【0045】
ヒートシール層を構成するポリオレフィン系樹脂は、前記基材層を構成するポリプロピレン系樹脂より融点が低い樹脂である。特に、前記基材層を構成するポリプロピレン系樹脂より融点が15〜60℃低い樹脂が好適である。具体的にヒートシール層を構成するポリオレフィン系樹脂を例示すると、直鎖状低密度ポリエチレン、プロピレン以外のα−オレフィンに基づく単量体単位30質量%未満のプロピレン−α−オレフィン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン三元共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。また、前記α−オレフィンは、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。更に、前記共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよい。中でも、製膜性やヒートシール性、防曇性のより優れたフィルムとするためには、融点が100〜130℃である直鎖状低密度ポリエチレン、融点が110〜140℃であるプロピレン−エチレンランダム共重合体及び、プロピレン−エチレン−1−ブテン三元共重合体を使用することが好ましい。なお、上記ポリオレフィン系樹脂を混合して使用する場合、配合割合が多いポリオレフィン系樹脂の融点を基準とする。また、配合割合が同じ場合には、融点の低いポリオレフィン系樹脂を基準とする。基材層の両面に異なるポリオレフィン系樹脂よりなるヒートシール層を積層した場合には、各ヒートシール層を構成するポリオレフィン系樹脂の融点を基準とする。」
「【0048】
本発明において、ヒートシール層には、前記基材層において例示した添加剤を特に制限無く添加することができる。
【0049】
なお、前記ヒートシール層を構成する前記ポリオレフィン系樹脂は、基材層に含まれる防曇剤を効率的に該ヒートシール層表面にブリードアウトさせる作用があり、該ヒートシール層表面に極めて良好な防曇性を付与することができる。そのため、本発明の包装用フィルムは、サンドイッチ包装袋等の用途に対して好適に使用できる。
【0050】
前記二軸延伸積層ポリプロピレン系樹脂フィルムにおいて、ヒートシール層は、包装用フィルムの用途に応じて、基材層の片面、または基材層の両面に形成してやればよい。」
「【0133】
次に、上記の各層の樹脂を、ヒートシール用樹脂/主層樹脂/ヒートシール用樹脂の順でそれぞれ個別の押出機から押出温度240〜260℃で3層Tダイにて共押しを行い、水冷キャスト法にて冷却固化し、3層構成の未延伸シートを成形した。次に、該3層シートをMD2段延伸機により、1段目の延伸を予熱温度128℃で1.1倍に延伸し、2段目の予熱温度を128℃にて行い、全体のMD延伸倍率が4.6倍となるMD延伸シートを得た。次いで、該MD延伸シートを、テンター式横延伸機(予熱温度186℃、延伸温度162℃)にてTDに9.5倍延伸し、両面にコロナ処理を施した総厚み30μm、両ヒートシール層の厚みが各1.5μm、基材フィルムの厚み27.0μmの二軸延伸積層ポリプロピレン系樹脂フィルムを製膜した。
【0134】
こうして得られた二軸延伸積層ポリプロピレン系樹脂フィルムは、40℃で2日間養生後に、溶断シール強度、ヒートシール強度、防曇性、透明性、複屈折、引裂き方向性評価、機械的強度特性の測定を行い、その結果を表3に示した。また、使用した樹脂の詳細な組成を表2に示した。
【0135】
実施例13(ヒートシール層を有するフィルム)
ヒートシール層/基材層/ヒートシール層の構成である二軸延伸積層ポリプロピレン系樹脂フィルムを以下の方法により製膜した。先ず、両面のヒートシール層を構成する樹脂として、表2に示す樹脂6を95質量%、及び表2に示す樹脂7を5質量%混合したもの(ヒートシール用樹脂)を用意した。次に、基材層を構成する原料として、表2に示す樹脂1を80質量%、及び表2に示す樹脂3を20質量%混合したもの(主層樹脂)を用意した。融点を比較する樹脂は、樹脂6と樹脂1である。
【0136】
上記の各層の樹脂を、ヒートシール用樹脂/主層樹脂/ヒートシール用樹脂の順でそれぞれ個別の押出機から押出温度200〜240℃で3層Tダイにて共押しを行い、水冷キャスト法にて冷却固化し、3層構成の未延伸シートを成形した。次に、該3層シートをMD2段延伸機により、1段目の延伸を予熱温度122℃で5.2倍に延伸し、2段目の延伸を予熱温度121℃にて行い、全体のMD延伸倍率が6.8倍となるMD延伸シートを得た。次いで、該MD延伸シートを、テンター式横延伸機(予熱温度186℃、延伸温度166℃)にてTDに10倍延伸した後、両面にコロナ処理を施した。こうして、総厚み30μm、両ヒートシール層の厚みが各1.5μm、基材層の厚み27.0μmの二軸延伸積層ポリプロピレン系樹脂フィルムを製膜した。得られた二軸延伸積層ポリプロピレン系樹脂フィルムは、40℃で2日間養生後に、溶断シール強度、ヒートシール強度、防曇性、透明性、複屈折、引裂き方向性評価、機械的強度特性の測定を行い、その結果を表3に示した。また、使用した樹脂の詳細な組成を表2に示した。」
「【0153】
【表2】


【0154】
【表3】


甲1の【0136】には、「総厚み30μm、両ヒートシール層の厚みが各1.5μm、基材層の厚み27.0μmの二軸延伸積層ポリプロピレン系樹脂フィルムを製膜した。」と記載されており、2つのヒートシール層の厚みは、フィルム全層に対しそれぞれ5%であるといえる。
以上の記載を総合し、特に、実施例13に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

[甲1発明]
「プロピレン−エチレンランダム共重合体とプロピレン単独重合体からなる基材層と、前記基材層の両面に、プロピレン−エチレン−1−ブテン三元共重合体と、アンチブロッキング剤(高分子球状微粒子)5質量%含有、滑剤10質量%含有ポリプロピレン系マスターバッチからなるヒートシール層を有するポリプロピレン系樹脂フィルムであって、下記a)、b)、d)を満たすポリプロピレン系樹脂フィルム。
a)ヒートシール層のヒートシール強度が3.6N/15mmである。
b)一方の面のヒートシール層の厚みがフィルム全層に対し5%である。
d)他方の面のヒートシール層の厚みがフィルム全層に対し5%である。」

第5 当審の判断
1 申立理由1、2について(新規性進歩性
(1)本件発明1について
ア 対比
甲1発明の「プロピレン−エチレンランダム共重合体とプロピレン単独重合体からなる基材層」は、本件発明1の「アイソタクチックポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体及びプロピレン・ペンテン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とする基層(A)」に相当し、甲1発明の基材層の一方の片方側の「プロピレン−エチレン−1−ブテン三元共重合体とアンチブロッキング剤(高分子球状微粒子)5質量%含有、滑剤10質量%含有ポリプロピレン系マスターバッチからなるヒートシール層」は、本件発明1の「プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体及びプロピレン・エチレン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の共重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とするシール層(C)」に相当し、甲1発明の「ポリプロピレン系樹脂フィルム」は本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂多層フィルム」に、甲1発明の「ヒートシール強度」は本件発明1の「ヒートシール到達強度」に相当する。
甲1発明の基材層の他方の片方側の「プロピレン−エチレン−1−ブテン三元共重合体とアンチブロッキング剤(高分子球状微粒子)5質量%含有、滑剤10質量%含有ポリプロピレン系マスターバッチからなるヒートシール層」と、本件発明1の基層(A)の「プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の共重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とする表面層(B)」とは、「プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の共重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とする樹脂層」である限りで一致する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1〜3で相違する。

[一致点]
「アイソタクチックポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体及びプロピレン・ペンテン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とする基層(A)と、基層(A)の片面に、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の共重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とする樹脂層を有し、また基層(A)の樹脂層が接する面と反対の面には、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体及びプロピレン・エチレン共重合体からなる群から選らばれた少なくとも1種の共重合体からなるポリプロピレン系樹脂組成物を主体とするシール層(C)を有するポリプロピレン系樹脂多層フィルムであって、下記a)、b)、d)を満たすポリプロピレン系樹脂多層フィルム。
a)シール層(C)のヒートシール到達強度が3.0N/15mm以上である。
b)シール層(C)の厚みがフィルム全層に対し1.5%以上5%以下の範囲を有する。
d)樹脂層の厚みがフィルム全層に対し1%以上10%以下の範囲を有する(ただし、10%を含まない)。」

[相違点1]
樹脂層について、本件発明1は、基層(A)の片面に表面層(B)を有するのに対して、甲1発明は、基材層の他方の片方側の層がヒートシール層である点。

[相違点2]
シール層(C)のヒートシール立上がり温度について、本件発明1では、「115℃以上125℃以下であ」るのに対して、甲1発明では、ヒートシール層のヒートシール立上がり温度をどの程度とするか特定されていない点。

[相違点3]
本件発明1は、「防曇剤を少なくともシール層(C)に含む」のに対し、甲1発明は、防曇剤をヒートシール層に含むのか否かが特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。
シール層のヒートシール立上がり温度について、本件特許明細書には「表面層(C)のヒートシール立上がり温度とは、本発明のフィルムの表面層(C)の面同士を向かい合わせ、ヒートシール圧力1kg/cm2、時間は1秒でヒートシールしたときの、ヒートシール強度が1N/15mmとなる温度である。」(【0019】)(当審注:「表面層(C)」は「シール層(C)」の誤記であると認められる。)と記載されている。
甲1は、低温でヒートシールを可能とするため、所定強度に達する際のヒートシール温度に着目するものではなく、ヒートシール層のヒートシール立上がり温度について記載も示唆もなく、上記相違点2は、シール層(C)のヒートシール立上がり温度に関する実質的な相違点である。
よって、本件発明1は甲1発明ではない。
また、自動包装適性と、溶断シール性の両立を達成するために、シール層(C)のヒートシール立上がり温度を115℃以上125℃以下とすることについて、他に証拠は提出されておらず、本件特許に係る出願前における周知技術でもない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、上記相違点1、3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書において、「本件発明1のシール層(C)のヒートシール立上がり温度は、本件特許明細書の記載を参酌すると、構成する樹脂の融点、樹脂の構成割合に関連すると考えられ、そして、甲1発明の実施例である実施例13のものは、本件発明1にかかる実施例のものと、構成する樹脂の融点、樹脂の構成割合が同程度であるといえるから、甲1発明のヒートシール層(シール層(C))のヒートシール立上がり温度は、115℃以上125℃以下である蓋然性が極めて高いといえ、上記相違点1は実質的な相違点とはいえない。」旨(特許異議申立書第17ページ13行目〜第20ページ3行目)主張する。
上記申立人の主張を検討する。
本件発明1のシール層のヒートシール立上がり温度は、上記イで述べたように、フィルムのシール層(C)の面同士を向かい合わせ、ヒートシール圧力1kg/cm2、時間は1秒でヒートシールしたときの、ヒートシール強度が1N/15mmとなる温度である。
本件特許明細書の【0052】【表1】の実施例1と【0053】【表2】の比較例1、2、6とを参照すると、シール層(C)のヒートシール立上がり温度は、シール層(C)を構成する樹脂の融点及び樹脂の構成割合だけでなく、シール層(C)の厚みや全層に対するシール層(C)の厚みの割合によっても異なることが分かる。また、【0053】【表2】の比較例3、5を参照すると、シール層(C)のヒートシール立上がり温度は、比較例5よりも比較例3の方が高いが、特許異議申立書に示された「構成する樹脂の重量配分を融点に反映させる」計算をした結果では、比較例5より比較例3の方が低い値となることから、「樹脂を構成する融点の高い樹脂の割合が増えるほど、シール立ち上がり温度は高温側にシフト」するとは一概には言えず、シール層を構成する樹脂材料の種類によっても、シール層(C)のヒートシール立上がり温度は異なる可能性がある。
よって、本件特許明細書の実施例と比較して、樹脂材料の種類、ヒートシール層の厚み及び全層に対するヒートシール層の厚みの割合が異なる甲1の実施例13のヒートシール層のヒートシール立上がり温度が、115℃以上125℃以下であるとの申立人の主張は採用できない。

(2)本件発明5、6について
本件発明5、6は、本件発明1の技術的事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イで示した理由により、本件発明5、6は、甲1発明ではない。

(3)本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1の技術的事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イで示した理由により、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

2 申立理由3について(サポート要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、
「【0011】
基層(A)を形成する樹脂中には防曇剤を添加する必要がある。防曇剤を添加しない場合、青果物を包装した際に内部が曇り、また腐敗が進みやすくなるため、商品価値が低下してしまう。
発明のポリプロピレン系樹脂多層フィルムの防曇性発現のメカニズムとしては、基層(A)を形成する樹脂中に防曇剤を添加することで、フィルム製造時及びフィルム形成後の保管時に、防曇剤が表面層(B)、シール層(C)へ順次移行し、当該フィルム表面が防曇性を有する状態になる。収穫後も生理作用を持続することが特徴である青果物を包装対象としたときに、その効果を発揮することができる。」
「【0024】
シール層(C)の表面には防曇性を有する必要がある。これは前述のとおり、青果物を包装し、スーパーなどで陳列、または流通する際に、内容物の生理作用により内部が曇る事を防止するためである。」
と記載されており、包装体の表面の材料が防曇性を有していれば、包装体の曇りを防止できることが理解できる。
したがって、本件発明は、「c)防曇剤を少なくともシール層(C)に含む。」ことが特定されることにより、包装体の曇りを防止するための手段が反映されているといえる。
よって、本件発明1〜6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-01 
出願番号 P2018-509307
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 茂夫
特許庁審判官 藤井 眞吾
石田 智樹
登録日 2021-11-29 
登録番号 6984593
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 ポリプロピレン系樹脂多層フィルム及びそれを用いた包装体  

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