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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G06T
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G06T
管理番号 1392062
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-01 
確定日 2022-11-14 
異議申立件数
事件の表示 特許第6988632号発明「輪郭抽出装置及び輪郭抽出方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6988632号の請求項1ないし2、5ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6988632号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成30年3月27日に出願されたものであって、令和3年12月6日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日 令和4年1月5日)がされた。
その後、令和4年7月1日に特許異議申立人吉田敦子により本件の請求項1、2、5、6の特許に対する特許異議の申立てがなされ、甲第1号証及び甲第2号証が提出された。

第2 本件発明
本件特許の請求項1、2、5、6に係る特許発明(以下「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明5」、「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1、2、5、6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
なお、本件発明1の各構成には、A〜Cの符号を当審で付した。以下、「構成A」〜「構成C」という。

【請求項1】(本件発明1)
A 積み重なった複数の粒子の各輪郭を抽出する輪郭抽出装置において、
B 積み重なった複数の前記粒子を撮像し、凹凸状態が輝度値の違いで表された深さ画像を生成する撮像部と、
C 前記深さ画像で輝度値の差により表された谷部を検出するフィルタを適用した谷検出フィルタ処理を、前記深さ画像に対して行った後、2値化処理を行うことで谷検出画像を生成する谷検出画像生成部と、
A を有する、輪郭抽出装置。

【請求項2】(本件発明2)
前記深さ画像の輝度値を基に不連続点を検出して不連続点検出画像を生成する不連続点検出画像生成部と、
前記谷検出画像と前記不連続点検出画像とを統合し、各前記粒子の輪郭を抽出した輪郭抽出画像を生成する輪郭抽出画像生成部と、
を有する、請求項1に記載の輪郭抽出装置。

【請求項5】(本件発明5)
積み重なった複数の粒子の各輪郭を抽出する輪郭抽出方法において、
積み重なった複数の前記粒子を撮像し、凹凸状態が輝度値の違いで表された深さ画像を生成する撮像ステップと、
前記深さ画像で輝度値の差により表された谷部を検出するフィルタを適用した谷検出フィルタ処理を、前記深さ画像に対して行った後、2値化処理を行うことで谷検出画像を生成する谷検出画像生成ステップと、
を有する、輪郭抽出方法。

【請求項6】(本件発明6)
前記深さ画像の輝度値を基に不連続点を検出して不連続点検出画像を生成する不連続点検出画像生成ステップと、
前記谷検出画像と前記不連続点検出画像とを統合し、各前記粒子の輪郭を抽出した輪郭抽出画像を生成する輪郭抽出画像生成ステップと、
を有する、請求項5に記載の輪郭抽出方法。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人が申し立てた申立て理由(以下「申立理由」という。)は、以下のとおりである。

[申立理由]
1 請求項1、2、5、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1、2、5、6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2 請求項1、2、5、6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証および甲第2号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2、5、6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:Matthew J. Thurley、「Automated online measurement of limestone particle size distributions using 3D range data」、Journal of Process Control、21(2011)、254〜262頁
甲第2号証:Matthew J. Thurley, Kim C. Ng、「Identifying, visualizing, and comparing regions in irregularly spaced 3D surface data」、Computer Vision and Image Understanding 98(2005) 、239〜270頁

第4 当審の判断
1 甲各号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の記載がある。
また、訳については、異議申立人の作成した抄訳文を参考にして、当審で訳したものであり、下線は強調のために当審で付したものである。

(ア)
「ABSTRACT
Fully automated online measurement of the size distribution of limestone particles on conveyor belt is presented based on 3D range data collected every minute during 13h of production. The research establishes the necessary analysis and measurement capabilities to facilitate automatic control of rock crushing or particle agglomeration processes to improve both energy efficiency and product quality. 3D data from laser triangulation is used to provide high resolution data of the surface of the piled limestone particles. The 3D data is unaffected by color variation in the material and is not susceptible to scale or perspective distortion common in 2D imaging. Techniques are presented covering; sizing of particles, determination of non-overlapped particles, and mapping of sizing results to distributions comparable to sieving. Detailed variations in the product sieve-size are shown with abrupt changes when the size range of the limestone particles is changed.」(254頁)
(訳)
「要約
コンベヤベルト上の石灰石の粒度分布の完全自動オンライン測定は、13時間の生産の間に1分間隔で収集される3次元データに基づいて行われる。本研究は、エネルギー効率と製品品質の両方を向上させる目的で、岩石粉砕または粒子凝集プロセスの自動制御を容易にするために必要な分析および測定能力を確立する。積み重なった石灰石粒子の表面の3次元データを高精度に得るためにレーザー三角測量が用いられる。3次元データは、材料の色に影響を受けず、2次元画像に通常発生する大きさや遠近効果の歪の影響を受けにくい。本論文には、粒子サイズによる分類分け、重なっていない粒子の決定、篩の大きさに対応して粒径分布のマップ化の技術内容を含む。石灰石の粒径分布が変わると、製品の篩サイズに顕著な変化が現れる。」

(イ)
「The focus of this research is on systems for on-line measurement of the particle flow that are non-contact, that is they do not require any additional material handling.」(255頁左欄下から5〜3行)
(訳)
「この研究の目的は、材料に追加の処理をすることなく、非接触で粒子のオンライン測定を行うことである。」

(ウ)
「We use an industrial measurement system on conveyor belt based on laser triangulation (a projected laser line and camera at an offset angle) collecting highly accurate 3D profiles of the laser line at about 3000 Hz. This high speed ensures we have a high density of 3D point data at a spacing between consecutive points in the direction of the belt of approximately 1mm as the belt is running at 3m/s. The imaging system is installed at a limestone quarry on the conveyor belt used for ship loading and measures the material on the belt during loading every minute.」(255頁右欄10〜18行)
(訳)
「我々はレーザー三角測量(レーザー線の投影とずれた角度に設置されたカメラ)に基づいたベルトコンベア上の工業用計測システムを使用し,この装置で約3000Hzのレーザー線の高精度な3次元の形状を得ることができる。この高速なシステムを使用することで、ベルトが3m/sで動く場合にベルトの進行方向に約1mm間隔に高精度な3次元データを得ることができる。この画像システムは石灰石の採石場の船積出荷用コンベアベルト上に設置され、ベルト上の物質を1分ごとに計測している。」

(エ)
「Fig. 3 shows a closeup image of rocks on the conveyor. The raw 3D data comprises points spaced 1mm apart along the rows, and irregularly spaced (approx 1mm spacing) down the columns. Therefore the data has been resampled down the columns so that it has a 1mm spacing.」(256頁右欄32〜36行)
(訳)
「図3にコンベア上の岩石の拡大画像を示す。生の3次元データは、縦(行)方向に沿って1mm間隔、横(列)方向に沿って不規則に配置された点(約1mm間隔)となっている。そのため、横(列)方向の点は1mm間隔にするため再サンプリングした。」

(オ)

「Fig. 3. Rocks on conveyor, limestone aggregate, 40-70mm product.」
(訳)
「図3.コンベア上の岩石、石灰石集合体、40〜70mmの範囲」

(カ)
「The second edge detection strategy is a morphological edge detection strategy to detect edges in the structure of the data. Again careful attention is applied to obtaining edges without noise and spurious edge points in the middle of the rock particles. We find edges in the following way with the result shown in Fig.5.」(257頁左欄22〜26行)
(訳)
「第2のエッジ検出方式は、データ構造中のエッジを検出するためのモルフォロジーエッジ検出方式である。ここでも、岩石粒子の中のノイズや偽のエッジのないエッジを得ることに細心の注意が払われる。次の方法でエッジを検出し、その結果を図5に示す。」

(キ)
「Edge detection: Perform a morphological black-top-hat using a circular structuring element of diameter 7mm (7 data points).」(257頁左欄31〜33行)
(訳)
「エッジ検出:直径7mm(7データ点)の円形の構造要素を使用して、モルフォロジーなブラックトップハット処理を実行する。」

(ク)
「Threshold: Retain only the strongest edges by removing all edges less than a threshold of 0.42mm. This is a conservative small threshold so many spurious edges remain, but it is sufficient to remove many weak and therefore insignificant edges.」(257頁左欄34〜37行)
(訳)
「閾値処理:0.42mmを閾値としてそれより小さいすべてのエッジを削除して、最も強いエッジのみを維持する。この閾値は控えめな小さな値であり多数の偽のエッジが残ってしまうが、弱くて意味のないエッジは効果的に削除できる。」

(ケ)

「Fig.5. Filtered black-top-hat edges.」
(訳)
「図5.フィルタ処理されたブラックトップハットエッジ」

上記(ア)、(ウ)〜(オ)より、甲第1号証の工業用計測システムは、積み重なった石灰石粒子の表面の3次元データを高精度に得るために、レーザー三角測量(レーザー線の投影とずれた角度に設置されたカメラ)に基づいて、ベルトコンベア上の石灰石を計測し、図3のような3次元形状を表した画像が生成されるものである。
ここで、上記(オ)の図3をみるに、生成された3次元形状を表した画像は、3次元データの深さ方向の値が赤、黄、緑、青等の色の違いとして生成されるものといえる。

また、上記(カ)〜(ケ)より、ブラックトップハット処理と閾値処理を実行することにより、検出されたエッジ部分を赤くした画像が生成されるものといえる。

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
なお、a〜fは、説明のために当審で付したものであり、以下、「構成a」〜「構成f」という。

(甲1発明)
a 非接触で粒子のオンライン測定を行うことであって、
b 積み重なった石灰石粒子の表面の3次元データを高精度に得るために、レーザー三角測量(レーザー線の投影とずれた角度に設置されたカメラ)に基づいて、ベルトコンベア上の石灰石を計測し、3次元形状を表した画像が生成され、生成された3次元形状を表した画像は、3次元データの深さ方向の値が赤、黄、緑、青等の色の違いとして生成されており、
c モルフォロジーなブラックトップハット処理を実行してエッジ検出を行い、
d 閾値より小さいすべてのエッジを削除して、最も強いエッジのみを維持し、
e 得られたエッジ部分を赤くした画像が生成される
f 工業用計測システム。

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の記載がある。
また、訳については、異議申立人の作成した抄訳文を参考にして、当審で訳したものであり、下線は強調のために当審で付したものである。

(ア)
「Image analysis techniques promise a quick, inexpensive, and non-contact solution to determining the size distribution of a rock pile. Such techniques capture information of the surface of the rock pile which is then used to infer the pile size distribution.
We separate the problem of determining the rock pile size distribution into three subproblems as follows: perform a segmentation of the surface data to determine the individual fragments, classify the segmented fragments into a surface size distribution, and determine the relationship between the size distribution of the surface fragments and the pile size distribution.」(240頁下から7行〜241頁2行)
(訳)
「画像解析技術は、積み重なった岩石のサイズ分布を決定する迅速で安価で非接触な解決策を約束する。このような技術は、積み重なった岩石の表面の情報を捕捉し、積み重なった岩石のサイズ分布を推定するために使用される。
我々は積み重なった岩石のサイズ分布を決定する問題を次の3つの下位問題に分割する:表面のデータを分割し個々の破砕物を決定する、分割された破砕物を表面のサイズ分布でクラス分けする、表面の破砕物のサイズ分布と実際の積み重なった岩石のサイズ分布の関連を決定する。」

(イ)
「3D surface data of rock piles has been collected using the Monash Shape Measurement system developed by Alexander and Ng [3O]. This system is based on active triangulation and uses a projector to impose a pattern of light stripes upon the target scene which is viewed by a CCD camera.」(245頁3〜6行)
(訳)
「積み重なった岩石の3次元表面データはAlexanderとNgによって開発されたMonash形状計測システムを使用して集められた。このシステムはアクティブ三角測量に基づいており、測定対象物の表面に光線のストライプ模様を投影するためにプロジェクタを使用し、そのストライプ模様をCCDカメラによって撮像する。」

(ウ)
「7. Segmenting the 3D coordinate surface data
We now segment the 3D data sets in order to identify all of the surface fragments.」(255頁下から11〜10行)
(訳)
「7.3次元座標表面データの分割
次に、すべての表面破砕物を識別するために、3次元データセットを分割する。」

(エ)
「7.2. Detecting the edges of occluded areas
As the data have been collected using a camera offset from the light stripe projector, as shown in Fig. 1, each scan contains areas of occlusion where the stripes from the projector are not visible from the camera's view point. These occluded areas correspond to edges in the data, primarily on the boundaries between fragments, but occasionally at sharp ridges near the apex of fragments. These edges of occluded areas are detected by a discontinuity in the camera pixel number along the projected stripe.」(256頁21〜28行)
(訳)
「7.2. オクルージョン領域のエッジの検出
データは、ライトストライププロジェクタからオフセットしたカメラを使用して収集されているため、図1に示すように、各スキャンには、プロジェクタからのストライプがカメラの視点から見えないオクルージョン領域が含まれている。これらのオクルージョン領域は、主に断片間の境界上のデータにおけるエッジに対応するが、破砕物の頂点付近の鋭いリッジ(尾根)に対応することもある。オクリュージョン領域のこれらのエッジは、投影されたストライプに沿ったカメラピクセル番号における不連続性によって検出される。」

(オ)
「7.3. Performing morphological edge detection
The occluded edge set can contain edge points corresponding to abrupt ridge lines on fragments that need to be removed.」(256頁下から8〜6行)
(訳)
「7.3. 形態学的なエッジ検出
遮蔽されたエッジセットには、削除する必要がある破砕物の急な尾根線に対応するエッジポイントが含んでいることがある。」

(カ)
「We perform morphological edge detection by applying the black top hat transform from Beucher and Meyer [36, p. 436] to subtract the data set from its morphological closing. The black top hat predominantly detects the valleys in the data, which will identify the boundaries between fragments and not peaks on the fragments.」(257頁3〜7行)
(訳)
「我々はBeucherとMeyerのブラックトップハット変換を使ってモルフォロジーエッジ検出を行う。それはモルフォロジークロージング処理の結果からデータセットを引き算するためである。ブラックトップハット処理は主にデータ内の谷を検出し、それらは、破砕物上の頂上ではなく破砕物間の境界を表している。」

(キ)
「As mentioned in step 7.3 the black top hat operation forms an edge set more suited to the identification of the boundaries between rock fragments. Therefore a black top hat set has been generated using a 3mm radius spherical structuring element. Fig. 11 shows the resultant black top hat for the 020117b measurement set.」(263頁2行〜264頁2行)
(訳)
「7.3節で述べたように、ブラックトップハット処理は岩石破砕物間にある境界を抽出するのにより適切なエッジのセットを形成する。したがって、ブラックトップハット処理セットは半径3mmの球状の構造要素を使用して生成された。図11は020117b計測セットからブラックトップハット処理を行った結果を示している。」

2 本件発明1について
(1)甲1発明との対比、判断
ア 構成Aについて
甲1発明は、構成b〜eより、積み重なった石灰石粒子のエッジ検出を行っているものである。ここで、石灰石粒子のエッジは、粒子の輪郭を表しているといえ、甲1発明は、当該エッジ(輪郭)を検出(抽出)する装置を含むものといえる。
したがって、甲1発明は、構成Aに相当する構成を有するものである。

イ 構成Bについて
構成bより、甲1発明は、カメラを用いて、積み重なった石灰石粒子を計測するものであるから、構成Bのように、「積み重なった複数の前記粒子を撮像」するものである。
また、構成bより、甲1発明は、3次元形状を表した画像が生成され、生成された3次元形状を表した画像は、3次元データの深さ方向の値が赤、黄、緑、青等の色の違いとして生成されている。
ここで、深さ方向の値を赤、黄、緑、青等の色の違いとしていることから、甲1発明においては、深さ方向の凹凸状態が赤、黄、緑、青等の色の違いで表された深さ画像を生成しているものである。

そうすると、構成Bと甲1発明とは、「積み重なった複数の前記粒子を撮像し、凹凸状態が色の違いで表された深さ画像を生成する撮像部」を有する点で共通する。
しかし、色の違いに関して、本件発明1は、「輝度値の違い」であるのに対し、甲1発明は、「赤、黄、緑、青等の色の違い」である点で相違する。

ウ 構成Cについて
構成b〜eより、甲1発明は、3次元データの深さ方向の値が赤、黄、緑、青等の色の違いとして生成された3次元形状を表した画像に対して、モルフォロジーなブラックトップハット処理を実行してエッジ検出を行い、閾値より小さいすべてのエッジを削除して、最も強いエッジのみを維持し、得られたエッジ部分を赤くした画像が生成されるものである。
ここで、ブラックトップハット処理とは、甲第2号証に記載されているように(上記1(2)ア(カ))、データ内の谷を検出するためのものである。

すなわち、構成Cと甲1発明は、「処理を、前記深さ画像に対して行った後、更なる処理を行うことで谷検出画像を生成する谷検出画像生成部」を有する点で共通する。

しかし、深さ画像に対して行う処理に関して、本件発明1は、「前記深さ画像で輝度値の差により表された谷部を検出するフィルタを適用した谷検出フィルタ処理」であるのに対し、甲1発明は、ブラックトップハット処理であり、谷部を検出するフィルタではない点で相違する。
また、深さ画像に対して行う処理を行った後の更なる処理に関して、本件発明1は、「2値化処理」であるのに対し、甲1発明は、「閾値より小さいすべてのエッジを削除して、得られたエッジ部分を赤くした画像」にする処理である点で相違する。

エ 一致点・相違点
以上より、本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致し、以下の各点で相違する。

(一致点)
積み重なった複数の粒子の各輪郭を抽出する輪郭抽出装置において、
積み重なった複数の前記粒子を撮像し、凹凸状態が色の違いで表された深さ画像を生成する撮像部と、
処理を、前記深さ画像に対して行った後、更なる処理を行うことで谷検出画像を生成する谷検出画像生成部と、
を有する、輪郭抽出装置。

(相違点)
相違点1
色の違いに関して、本件発明1は、「輝度値の違い」であるのに対し、甲1発明は、「赤、黄、緑、青等の色の違い」である点。

相違点2
深さ画像に対して行う処理に関して、本件発明1は、「前記深さ画像で輝度値の差により表された谷部を検出するフィルタを適用した谷検出フィルタ処理」であるのに対し、甲1発明は、ブラックトップハット処理であり、谷検出フィルタ処理ではない点。

相違点3
深さ画像に対して行う処理を行った後の更なる処理に関して、本件発明1は、「2値化処理」であるのに対し、甲1発明は、「閾値より小さいすべてのエッジを削除して、得られたエッジ部分を赤くした画像」にする処理である点。

新規性に関する検討
本件発明1と甲1発明とは上記エのように相違点1〜3を有するものであるから、本件発明1は甲1発明ではない。

進歩性に関する検討
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
甲1発明は、ブラックトップハット処理により、谷検出するのに対し、本件発明1は、谷部を検出するフィルタを適用した谷検出フィルタ処理により、谷検出するものである。

甲第2号証にも記載されているように(上記1(2)ア(カ))、ブラックトップハット処理は、モルフォロジークロージング処理の結果からデータセットを引き算するものである。
また、モルフォロジークロージング処理とは、複数回の膨張処理(注目画素の近傍の最大画素値を注目画素の画素値にする処理)を行った後に同じ回数の収縮処理(注目画素の近傍の最小画素値を注目画素の画素値にする処理)を行うことであり、モルフォロジークロージング処理の結果からデータセットを引き算するブラックトップハット処理により、モルフォロジークロージング処理により増加した画素を抽出することになる。
ここで、膨張処理や収縮処理において用いられる、注目画素の近傍の最小画素値や最大画素値を注目画素の画素値にする処理は、ノイズ除去のために行われている処理であって、入力画像に対してフィルタ処理を行っているものともいえる。
しかし、注目画素の近傍の最小画素値や最大画素値を注目画素の画素値にする処理であって、谷部を検出するためのフィルタ処理ではない。

そして、ブラックトップハット処理を行うことで甲1発明は、谷部を検出することができるものであって、あえて、ブラックトップハット処理に代えて、谷部を検出するフィルタに置き換えようとする動機付けはない。

また、甲第2号証の記載事項をみても、ブラックトップハット処理に代えて、谷部を検出するフィルタに置き換えようとするものではない。
そうすると、甲第2号証の記載事項を勘案しても、甲1発明において本件発明1のように、「輝度値の差により表された谷部を検出するフィルタを適用した谷検出フィルタ処理」を行うことが当業者に容易に想到できるとはいえない。

したがって、相違点1、3について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づき容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるから、甲1発明との相違点は、少なくとも、上記2(1)エに掲げた相違点1〜3を含むものである。
したがって、本件発明2は甲1発明ではない。

また、上記2(1)オで検討したように、当業者であっても甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づき、相違点2に係る構成が容易に想到できるとはいえない。
したがって、本件発明2は、当業者であっても甲1発明及び甲第2号証の記載事項に基づき容易に発明をすることができたものではない。

4 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1の装置発明を方法発明とした発明であって、本件発明5と甲第1号証に記載された発明との相違点は、上記2(1)エに掲げた相違点1〜3と同様である。
したがって、本件発明5は甲第1号証に記載された発明ではない。

また、上記2(1)オで検討したように、当業者であっても甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基づき、相違点2に係る構成が容易に想到できるとはいえない。
したがって、本件発明5は、当業者であっても甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基づき容易に発明をすることができたものではない。

5 本件発明6について
本件発明6は、本件発明5を引用する発明であるから、甲第1号証に記載された発明との相違点は、上記4と同様に、少なくとも、上記2(1)エに掲げた相違点1〜3と同様の相違点を含むものである。
したがって、本件発明6は甲第1号証に記載された発明ではない。

また、上記2(1)オで検討したように、当業者であっても甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基づき、相違点2に係る構成が容易に想到できるとはいえない。
したがって、本件発明6は、当業者であっても甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証の記載事項に基づき容易に発明をすることができたものではない。

第5 まとめ
以上より、請求項1、2、5、6に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、2、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-10-31 
出願番号 P2018-059732
審決分類 P 1 652・ 121- Y (G06T)
P 1 652・ 113- Y (G06T)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 國分 直樹
渡辺 努
登録日 2021-12-06 
登録番号 6988632
権利者 日本製鉄株式会社
発明の名称 輪郭抽出装置及び輪郭抽出方法  
代理人 弁理士法人ドライト国際特許事務所  

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