ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J |
---|---|
管理番号 | 1392070 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-07-13 |
確定日 | 2022-12-01 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6992253号発明「水溶性フィルム及び薬剤包装体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6992253号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6992253号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)9月7日を国際出願日(優先権主張 2015年(平成27年)9月11日)とする特願2016−556033号に係るものであって、令和3年12月13日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、令和4年1月13日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年7月13日に特許異議申立人 和栗 由莉菜(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルムであって、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、上記可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)のみからなり、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンであり、かつ、可塑剤(B)としてジプロピレングリコールを含まず、上記可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して35〜60重量部であり、上記水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%であり、10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた時の面積変化率(Y)が11.0%以下であることを特徴とする水溶性フィルム。 【請求項2】 10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた時の一方の方向(y1方向)の長さ変化率(Y1)が7.0%以下、y1方向と直交する他方向(y2方向)の長さ変化率(Y2)が7.0%以下であることを特徴とする請求項1記載の水溶性フィルム。 【請求項3】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルムであって、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、上記可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)のみからなり、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンであり、かつ、可塑剤(B)としてジプロピレングリコールを含まず、上記可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して35〜60重量部であり、上記水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%であり、10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃のグリセリン10重量%エタノール溶液4mL中に48時間静置浸漬させた時の面積変化率(X)が3.0%以下であることを特徴とする水溶性フィルム。 【請求項4】 10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃のグリセリン10重量%エタノール溶液4mL中に48時間静置浸漬させた時の一方の方向(x1方向)の長さ変化率(X1)が−4.0〜2.0%、x1方向と直交する他方向(x2方向)の長さ変化率(X2)が−4.0〜2.0%であることを特徴とする請求項3記載の水溶性フィルム。 【請求項5】 薬剤包装に用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の水溶性フィルム。 【請求項6】 請求項1〜5のいずれか一項に記載の水溶性フィルムで、液体洗剤が包装されてなることを特徴とする薬剤包装体。 【請求項7】 液体洗剤が、水に溶解または分散させた時のpH値が6〜12で、水分量が15重量%以下であることを特徴とする請求項6記載の薬剤包装体。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年7月13日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第1−1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1−1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1−1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第3号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 申立理由3(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・「アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂」について、アニオン性基を有する樹脂を変性成分として未処理ポリビニルアルコール系樹脂と共に含有することにより変性したポリビニルアルコール系樹脂を意図するのか、アニオン性基を有するコモノマーがビニルアルコールコモノマーと共に共重合して、変性成分としてアニオン性基含有ポリマーユニットを有することにより変性したポリビニルアルコール系樹脂などを意図するのか、その両方を含むのか、不明である。 ・「上記融点は80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンであり、」について、“のみ”と記載されていないから、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールの他の可塑剤を含んでいてもよく、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンの他の可塑剤を含んでいてもよいと解釈せざるを得ない。 4 申立理由4(明確性要件及び実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許発明1は、<構成A>が「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルムであって、」の特定事項を、<構成B>が「上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、」の特定事項を、<構成C>が「上記可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)のみからなり、」の特定事項を、<構成D>が「上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、」の特定事項を、<構成E>が「上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンであり、かつ、」の特定事項を、<構成F>が「可塑剤(B)としてジプロピレングリコールを含まず、」の特定事項を、<構成G>が「上記可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して35〜60重量部であり、」の特定事項を、<構成H>が「上記水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%であり、」の特定事項を、<構成I>が「10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた時の面積変化率(Y)が11.0%以下であること」の特定事項を有するものであるが、特許特許発明1が、<構成A>〜<構成H>を有するものには<構成I>の構成を有するものと有しないものとがあるとして、そのうち、<構成I>の構成を有するものだけに特定しているのであれば、<構成A>〜<構成H>以外の如何なる化学的な構成にすれば<構成I>の特定の面積変化率を示すのか不明確であるばかりか過度な試行錯誤を必要とする。 5 証拠方法 ・甲第1−1号証:特願2003−417980号の拒絶査定不服審判の審判請求書 ・甲第1−2号証:特開2005−179390号公報 ・甲第1−3号証:特許第4630396号公報 ・甲第1−4号証:特願2003−417980号の特許メモ ・甲第1−5号証:異議2021−700638号の異議の決定 ・甲第2号証:特許庁、特許 実用新案 審査基準『第III部第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進め方』 ・甲第3号証:特表2013−518009号公報 ・甲第4−1号証:特開平9−272772号公報 ・甲第4−2号証:特開2005−194295号公報 ・甲第4−3号証:特表2013−518173号公報 ・甲第4−4号証:特開2001−328164号公報 ・甲第4−5号証:国際公開第2014/197415号 ・甲第4−6号証:特表2016−529335号公報 ・甲第5号証:有機化合物辞典、1985年11月1日第1刷、株式会社講談社発行、第252〜253,261〜262,882頁 ・甲第6号証:特願2016−556033号(本件特許の出願番号)の令和3年7月14日付け意見書 ・甲第7−1号証:特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第17版〕、社団法人発明協会、2008年5月30日第17版発行、第79〜83頁 ・甲第7−2号証:吉藤幸朔著、熊谷健一補訂、特許法概説〔第13版〕、株式会社有斐閣、1998年12月10日第13版第1刷発行、第80〜84頁 ・甲第7−3号証:中山信弘編著、注解特許法〔第三版〕【上巻】、株式会社青林書院、平成13年7月10日第三版第3刷発行、第234〜240頁 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむねしたがった。以下、「甲1−1」等という。 第4 当審の判断 1 申立理由1(甲第1−1号証に基づく新規性・進歩性)について (1)甲1−1に記載された事項等 ア 甲1−1に記載された事項 甲1−1には、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。 ・「例えば、実施例1におけるグリセリン(B1)25重量部とトリメチロールプロパン(B2)12重量部との組み合わせを、グリセリン25重量部とソルビトール12重量部との組み合わせに変更した場合、得られた水溶性フィルムには、亜硫酸ソーダやソルビトールの析出が観察され、外観の良好なフィルムが得られませんでした。かかる結果からも、本願発明における特定可塑剤の2種(B1、B2)組み合わせに特徴があることが充分に理解できます。」(甲1−1におけるページ及び行として、第5ページ末行ないし第6ページ第5行) イ 甲1−2に記載された事項 甲1−2には、「水溶性フィルム」に関して、おおむね次の事項が記載されている。 ・「【0071】 (実施例1) 4%水溶液粘度22.0mPa・s(20℃)、平均ケン化度97.2モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A)100部に、可塑剤(B)としてグリセリン25部及びトリメチロールプロパン12部、亜硫酸ソーダ(C)1.0部、界面活性剤(D)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩2部、及び水を加え、固形分濃度30%樹脂組成物の水分散液を得た。 得られた樹脂組成物の水分散液(80℃、脱泡済み)を、80〜90℃に加熱したホットプレート上に流延し、その後80〜90℃で、1分間乾燥して、厚さ76μmのPVA系フィルムを得た(亜硫酸ソーダ/可塑剤総量=0.03)。 得られたPVA系フィルムの着色を上記のように測定したところ、初期のb値は0.13であった。又、上記のように20℃の水に対する溶解性を測定したところ、23秒であった。 【0072】 (薬剤実包装テスト) 得られたPVA系フィルムを、12cm×10cmのサイズにカットした後、ヒートシーラーを用いて二方向をシールして袋(6cm×10cmのサイズ)を作製し、かかる袋に、pH9.0、水分量1.5%の液体洗浄剤(主成分:高級脂肪酸、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)を30g収納し、更に残りの一辺をヒートシールしてパケット状の薬剤包装体(6cm×10cmのサイズ)を作製した。」 イ 甲1−1に記載された発明 甲1−1は、甲1−2に係る特許出願の拒絶査定不服審判の審判請求書であり、甲1−1の「実施例1」とは甲1−2の実施例1のことであるから、甲1−2の実施例1に関する記載を踏まえて、甲1−1に記載された事項を整理すると、甲1−1には次の発明(以下、「甲1−1発明」)が記載されていると認める。 「4%水溶液粘度22.0mPa・s(20℃)、平均ケン化度97.2モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A)100部に、可塑剤(B)としてグリセリン25部及びソルビトール12部、亜硫酸ソーダ(C)1.0部、界面活性剤(D)としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩2部、及び水を加え、固形分濃度30%樹脂組成物の水分散液を得、得られた樹脂組成物の水分散液(80℃、脱泡済み)を、80〜90℃に加熱したホットプレート上に流延し、その後80〜90℃で、1分間乾燥して得られた、PVA系フィルム。」 (2)本件特許発明1について ア 甲1−1発明との対比・判断 本件特許発明1と甲1−1発明を対比する。 甲1−1発明の「4%水溶液粘度22.0mPa・s(20℃)、平均ケン化度97.2モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル%のカルボキシル基変性PVA(A)」は、本件特許発明1の「アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有」する「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」に相当する。 甲1−1発明の「可塑剤(B)」は「グリセリン25部及びソルビトール12部」からなるものであるから、本件特許発明1の「可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)のみからなり、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンであり、かつ、可塑剤(B)としてジプロピレングリコールを含ま」ないものに相当する。 また、甲1−1発明は、カルボキシル基変性PVA(A)100重量部に対して、可塑剤としてグリセリン25部及びソルビトール12部を合計37重量部含有していることから、本件特許発明1の「可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して35〜60重量部」との特定事項を満たす。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルムであって、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、上記可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)のみからなり、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンであり、かつ、可塑剤(B)としてジプロピレングリコールを含まず、上記可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して35〜60重量部である、水溶性フィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1−1> 本件特許発明1は、「水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%であ」ると特定されているのに対し、甲1−1発明は、そのような特定がない点。 <相違点1−2> 本件特許発明1は、「10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた時の面積変化率(Y)が11.0%以下である」と特定されているのに対し、甲1−1発明は、そのような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点1−2について検討する。 甲1−1には、「面積変化率(Y)」に関する記載はなく、甲1−1発明の「水溶性フィルム」の「面積変化率(Y)が11.0%以下」であることを示す証拠もない。 したがって、相違点1−2は実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「本件特許発明1の<構成A>〜<構成H>が、甲第1−1号証の<構成a−1-1>〜<構成h−1-1>と同一又は重複しているのでこのような化学的な構成が共通していれば、甲第1−1号証に記載の水溶性フィルムも、当然に<構成I>の測定手法を用いれば必ず<構成I>の面積変化率を示すはずの固有の物性値を示す。このような固有の物性値を測定方法と測定範囲とで定義したところで、本件特許発明1と甲1−1発明とが実質的に同一であることに変わりない。」(特許異議申立書22ページ19〜25行)と主張するが、甲1−1発明は、含水率について特定されておらず、かつ、甲1−1の記載から、甲1−1発明のPVA系フィルムの含水率が3〜15重量%である蓋然性が高いともいえないことから、本件特許発明1の<構成H>と甲第1−1号証の<構成h−1-1>とは同一又は重複しているとはいえない。 よって、本件特許発明1の<構成A>〜<構成H>が、甲第1−1号証の<構成a−1-1>〜<構成h−1-1>と同一又は重複していることを前提とした、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 また、甲1−1には、甲1−1発明において、相違点1−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲1−1発明において、相違点1−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る水溶性フィルム、及び、前記水溶性フィルムで各種薬剤が包装されてなる薬剤包装体を提供する」(【0007】)という効果は、甲1−1発明並びに甲1−1及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1−1発明であるとはいえないし、甲1−1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2について 本件特許発明2は、請求項1を直接引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)アで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1−1発明ではなく、また、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2は甲1−1発明ではないし、また、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件特許発明3について ア 甲1−1発明との対比・判断 本件特許発明3と甲1−1発明を対比すると、上記(2)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルムであって、上記ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有し、上記可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)のみからなり、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンであり、かつ、可塑剤(B)としてジプロピレングリコールを含まず、上記可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して35〜60重量部である、水溶性フィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1−3> 本件特許発明3は、「水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%であ」ると特定されているのに対し、甲1−1発明は、そのような特定がない点。 <相違点1−4> 本件特許発明3は、「10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃のグリセリン10重量%エタノール溶液4mL中に48時間静置浸漬させた時の面積変化率(X)が3.0%以下である」と特定されているのに対し、甲1−1発明は、そのような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点1−4について検討する。 甲1−1には、「面積変化率(X)」に関する記載はなく、甲1−1発明の「水溶性フィルム」の「面積変化率(X)が3.0%以下」であることを示す証拠もない。 したがって、相違点1−4は実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「本件特許発明3の<構成A>〜<構成H>が、甲第1−1号証の<構成a−1-1>〜<構成h−1-1>と同一又は重複している以上、本件特許発明1(審注:「本件特許発明3」の誤記と認める。)の<構成K>と甲第1−1号証の<構成k−1-1>とは実質的に同一であることに変わりない。」(特許異議申立書26ページ7〜11行)と主張するが、上記(2)アと同様の理由で、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 また、甲1−1には、甲1−1発明において、相違点1−4に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲1−1発明において、相違点1−4に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明3の奏する「液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る水溶性フィルム、及び、前記水溶性フィルムで各種薬剤が包装されてなる薬剤包装体を提供する」(【0007】)という効果は、甲1−1発明並びに甲1−1及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲1−1発明であるとはいえないし、甲1−1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)本件特許発明4について 本件特許発明4は、請求項3を直接引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(4)アで検討したとおり、本件特許発明3は、甲1−1発明ではなく、また、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3の特定事項を全て含む発明である本件特許発明4は甲1−1発明ではないし、また、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)本件特許発明5について 本件特許発明5は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)ア及び上記(4)アで検討したとおり、本件特許発明1及び3は、甲1−1発明ではなく、また、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1又は3の特定事項を全て含む発明である本件特許発明5は甲1−1発明ではないし、また、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (7)本件特許発明6及び7について 本件特許発明6及び7は「薬剤包装体」に関するものであるが、請求項1又は3を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1又は3の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)ア及び上記(4)アで検討したとおり、本件特許発明1及び3は、甲1−1発明ではなく、また、甲1−1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、甲1−1発明の水溶性フィルムで液体洗剤が包装されてなる薬剤包装体(以下、「甲1−1包装体発明」という。)と対比した場合、本件特許発明1又は3の特定事項を全て含む発明である本件特許発明6及び7は甲1−1包装体発明ではないし、また、甲1−1包装体発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (8)申立理由1についてのむすび したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(甲第3号証に基づく進歩性)について (1)甲3に記載された発明 甲3の【0113】ないし【0114】及び【表4】の「試料ID」が1ないし4のPVOHポリマーから調製されるフィルムについて整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」)が記載されていると認める。 (なお、【表4】における「23〜88」については、【0033】及び【0113】の記載からみて、「約23cPの公称粘度及び約88%の公称加水分解度を有する部分加水分解ポリビニルアルコールであるPVOHポリマー」を意味するものと解される。) 「約13cPの公称粘度及び約88%の公称加水分解度を有する部分加水分解ポリビニルアルコールであるPVOHポリマー13〜88を50質量%又は60質量%、並びに、約23cPの公称粘度及び約88%の公称加水分解度を有する部分加水分解ポリビニルアルコールであるPVOHポリマー23〜88を50質量%又は40質量%からなるPVOH樹脂は、乾燥重量でフィルム構成成分の大部分(総重量で約67%〜約75%、平均69%)を形成し、約19重量%〜29重量%(平均24重量%)の全可塑剤(グリセリン、プロピレングリコール、及びソルビトールなど)と、微量(合計約3重量%〜8重量%)の安定剤及び加工助剤(ブロッキング防止剤、消泡剤、漂白剤、充填剤、及び界面活性剤の湿潤剤など)とが合わせられ、溶液を約71℃〜約93℃の温度範囲に保ち、高温の溶液を滑らかな表面に塗ることによりキャスティングし、水分を乾燥除去して、約60〜90μmの範囲(典型的には76μm)の厚さ、及びKarl Fischer滴定により測定するときに約4〜約10重量%の残留水分含量を有するフィルム。」 (2)本件特許発明1について ア 対比・判断 本件特許発明1と甲3発明を対比する。 甲3発明の「約13cPの公称粘度及び約88%の公称加水分解度を有する部分加水分解ポリビニルアルコールであるPVOHポリマー13〜88を50質量%又は60質量%、並びに、約23cPの公称粘度及び約88%の公称加水分解度を有する部分加水分解ポリビニルアルコールであるPVOHポリマー23〜88を50質量%又は40質量%からなるPVOH樹脂」は、本件特許発明1の「ポリビニルアルコール系樹脂(A)」に相当する。 甲3発明の「全可塑剤(グリセリン、プロピレングリコール、及びソルビトールなど)」は、本件特許発明1の「可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)」を含み、「融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトール」を含み、「融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリン」を含むことに相当する。 甲3発明の「約4〜約10重量%の残留水分含量」は、本件特許発明1の「含水率が3〜15重量%」であるとの特定事項を満たす。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルムであって、上記可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)を含み、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールを含み、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンを含み、上記水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%である、水溶性フィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点3−1> 本件特許発明1は、「ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有」すると特定されているのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。 <相違点3−2> 本件特許発明1は、「可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)のみからなり、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリン」であると特定されているのに対し、甲3発明は、ソルビトール及びグリセリン以外の可塑剤を含有している点。 <相違点3−3> 本件特許発明1は、「可塑剤(B)としてジプロピレングリコールを含ま」ないのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。 <相違点3−4> 本件特許発明1は、「可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して35〜60重量部」であるのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。 <相違点3−5> 本件特許発明1は、「10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた時の面積変化率(Y)が11.0%以下である」と特定されているのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点3−5について検討すると、上記1(2)アの相違点1−2と同旨であるから、上記1(2)アと同様に判断される。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2について 本件特許発明2は、請求項1を直接引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)アで検討したとおり、本件特許発明1は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2は甲3発明ではないし、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件特許発明3について ア 甲3発明との対比・判断 本件特許発明3と甲3発明を対比すると、上記(2)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ポリビニルアルコール系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルムであって、上記可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)を含み、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールを含み、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリンを含み、上記水溶性フィルムの含水率が3〜15重量%である、水溶性フィルム。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点3−6> 本件特許発明3は、「ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂を含有」すると特定されているのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。 <相違点3−7> 本件特許発明3は、「可塑剤(B)が、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)と、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)のみからなり、上記融点が80℃以上である多価アルコール(b1)がソルビトールであり、上記融点が50℃以下である多価アルコール(b2)がグリセリン」であると特定されているのに対し、甲3発明は、ソルビトール及びグリセリン以外の可塑剤を含有している点。 <相違点3−8> 本件特許発明3は、「可塑剤(B)としてジプロピレングリコールを含ま」ないのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。 <相違点3−9> 本件特許発明3は、「可塑剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100重量部に対して35〜60重量部」であるのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。 <相違点3−10> 本件特許発明3は、「10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃のグリセリン10重量%エタノール溶液4mL中に48時間静置浸漬させた時の面積変化率(X)が3.0%以下である」と特定されているのに対し、甲3発明は、そのような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点3−10について検討すると、上記1(4)アの相違点1−4と同旨であるから、上記1(4)アと同様に判断される。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲3方法発明であるとはいえないし、甲3発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)本件特許発明4について 本件特許発明4は、請求項3を直接引用して特定するものであり、本件特許発明3の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(4)アで検討したとおり、本件特許発明3は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3の特定事項を全て含む発明である本件特許発明4は甲3発明ではないし、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)本件特許発明5について 本件特許発明5は、請求項1又は3を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1又は3の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)ア及び上記(4)アで検討したとおり、本件特許発明1及び3は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1又は3の特定事項を全て含む発明である本件特許発明5は甲3発明ではないし、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (7)本件特許発明6及び7について 本件特許発明6及び7は「薬剤包装体」に関するものであるが、請求項1又は3を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1又は3の特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)ア及び上記(4)アで検討したとおり、本件特許発明1及び3は、甲3発明ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、甲3発明の水溶性フィルムで液体洗剤が包装されてなる薬剤包装体(以下、「甲3包装体発明」という。)と対比した場合、本件特許発明6及び7は甲3包装体発明ではないし、また、甲3包装体発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (8)申立理由2についてのむすび したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 3 申立理由3(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)明確性要件の判断 本件特許の請求項1ないし7の記載は、上記第2のとおりであり、それ自体に不明確な記載はなく、本件特許の明細書の記載とも整合する。 したがって、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 特許異議申立人は上記第3 3のように主張するが、「アニオン性基変性ポリビニルアルコール系樹脂」は、アニオン基で変性されたポリビニルアルコール系樹脂全般を包含することは明らかであり、また、「可塑剤(B)」はソルビトール及びグリセリンのみからなることは明らかであるから、いずれも上記判断に影響を与えない。 (4)申立理由3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由3によっては、取り消すことはできない。 4 申立理由4(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 上記第2のとおり、本件特許発明1ないし7は物の発明であるところ、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、物の発明にあっては、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。 ・「【0001】 本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記することがある。)を主成分とする水溶性フィルム(以下、PVA系フィルムと記載することがある。)に関する。更に詳しくは、液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る水溶性フィルムに関するものである。 ・・・(略)・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 上記特許文献1及び2に開示の水溶性フィルムは、水溶性に優れるものであり、液体洗剤などを包装した薬剤包装体として用いることができる。しかし、上記水溶性フィルムは、包装体として保管する場合に、経時において水溶性フィルムの張りがなくなり、見た目及び触感の良くない包装体となってしまうことがある。そのため、経時においても水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る水溶性フィルムが望まれるものであった。 【0007】 そこで、本発明ではこのような背景下において、液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る水溶性フィルム、及び、前記水溶性フィルムで各種薬剤が包装されてなる薬剤包装体を提供する。」 ・「【発明を実施するための形態】 【0016】 以下、本発明について具体的に説明する。 本発明の水溶性フィルムは、PVA系樹脂(A)及び可塑剤(B)を含有してなる水溶性フィルムである。 【0017】 そして、本発明の水溶性フィルムは、その10cm×10cmの正方形のフィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた時の面積変化率(Y)が11.0%以下であることが重要であり、好ましくは10.5%以下、特に好ましくは10.0%以下、更に好ましくは8.0%以下、殊に好ましくは7.0%以下である。なお、下限は通常−1.0%である。 【0018】 本発明において、上記面積変化率(Y)が大きすぎると、液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態で置いておいた場合に水溶性フィルムに張りがなくなり触感などが悪くなってしまう。なお、面積変化率が小さすぎると水溶性フィルム自身が破れやすくなる傾向がある。 【0019】 また、本発明において、10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた時の一方の方向(y1方向)の長さ変化率(Y1)が7.0%以下、y1方向と直交する他方向(y2方向)の長さ変化率(Y2)が7.0%以下であり、更には長さ変化率(Y1)が−1.0〜7.0%、長さ変化率(Y2)が−1.0〜7.0%であることが液体洗剤を包装して包装体とした後の経時的な形状変化を抑制できる点で好ましく、特に好ましくは長さ変化率(Y1)が0〜6.0%、長さ変化率(Y2)が0〜6.0%、更に好ましくは長さ変化率(Y1)が1.0〜5.0%、長さ変化率(Y2)が1.0〜5.0%である。長さ変化率(Y1)や(Y2)が小さすぎると液体洗剤を包装した包装体が破れやすくなる傾向があり、大きすぎると包装体が経時的に形状変化を起こす傾向がある。 【0020】 ここで、面積変化率(Y)とは、10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた時の面積の変化率のことであり、また、一方の方向(y1方向)及びy1方向と直交する他方向(y2方向)の長さ変化率とは、それぞれの変化率のことであり、以下の通りにして測定される。なお、一方の方向(y1方向)に対してy1方向と直交する他方向(y2方向)とは、例えば、長手方向(MD)に対して幅方向(TD)であったり、縦方向に対して横方向のことである。 【0021】 即ち、水溶性フィルムの幅方向における中央部からフィルムを10cm×10cm角の正方形に切り出し、平坦なガラス板上に載せ、一方の方向(y1方向)、及びy1方向と直交する他方向(y2方向)の寸法を各々ノギスにて計測する。次に、上記フィルムを40℃に保持された、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる混合溶液4mL中に24時間静置浸漬させた後、上記フィルムを取り出し、直ちに、平坦なガラス板上に載せ、一方の方向(y1方向)、及びy1方向と直交する他方向(y2方向)の寸法を各々ノギスにて計測する。一方の方向(y1方向)、及びy1方向と直交する他方向(y2方向)の長さ変化率、更に面積変化率は、上記計測した値を使い、下式により得られる。なお、上記浸漬前のフィルムは、23℃、50%RHの環境下にて1日調湿を行ったものを使用し、上記の計測操作は23℃、50%RHの環境下で行う。 【0022】 一方の方向(y1方向)の長さ変化率(Y1)(%) ={(浸漬後のy1方向の寸法−浸漬前のy1方向の寸法)/浸漬前のy1方向の寸法}×100 他方向(y2方向)の長さ変化率(Y2)(%) ={(浸漬後のy2方向の寸法−浸漬前のy2方向の寸法)/浸漬前のy2方向の寸法}×100 面積変化率(Y)(%) ={(浸漬後の面積−浸漬前の面積)/浸漬前の面積}×100 【0023】 ここで、上記混合溶液に配合されるアルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸としては、例えば、日油社製「ニューレックスソフト5S」が挙げられる。また、上記混合溶液に配合されるオキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテルとしては、例えば、第一工業製薬社製「ノイゲンTDS−500F」が挙げられる。 【0024】 本発明の水溶性フィルムは、上記面積変化率(Y)が11.0%以下および、その10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃のグリセリン10重量%エタノール溶液4mL中に48時間静置浸漬させた時の面積変化率(X)が3%以下の少なくとも一方を満足することが重要である。また、上記面積変化率(X)は、好ましくは−7.0〜2.0%、特に好ましくは−5.0〜1.0%、更に好ましくは−3.0〜0%である。 【0025】 本発明において、上記面積変化率(X)が大きすぎると、液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態で置いておいた場合に水溶性フィルムに張りがなくなり触感などが悪くなってしまう。なお、面積変化率が小さすぎると水溶性フィルム自身が破れやすくなる傾向がある。 【0026】 また、本発明において、10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃のグリセリン10重量%エタノール溶液中に48時間静置浸漬させた時の一方の方向(x1方向)の長さ変化率(X1)が−4.0〜2.0%、x1方向と直交する他方向(x2方向)の長さ変化率(X2)が−4.0〜2.0%であることが液体洗剤を包装して包装体とした後の経時的な形状変化を抑制できる点で好ましく、特に好ましくは長さ変化率(X1)が−3.0〜1.0%、長さ変化率(X2)が−3.0〜1.0%、更に好ましくは長さ変化率(X1)が−2.5〜0%、長さ変化率(X2)が−2.5〜0%である。長さ変化率(X1)や(X2)が小さすぎると液体洗剤を包装した包装体が破れやすくなる傾向があり、大きすぎると包装体が経時的に形状変化を起こす傾向がある。 【0027】 ここで、面積変化率(X)とは、10cm×10cmの正方形の水溶性フィルムを、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃のグリセリン10重量%エタノール溶液中に48時間静置浸漬させた時の面積の変化率のことであり、また、一方の方向(x1方向)及びx1方向と直交する他方向(x2方向)の長さ変化率とは、それぞれの変化率のことであり、上記の面積変化率(Y)、長さ変化率(Y1)、長さ変化率(Y2)の測定方法に準じて測定される。なお、一方の方向(x1方向)に対してx1方向と直交する他方向(x2方向)とは、例えば、長手方向(MD)に対して幅方向(TD)であったり、縦方向に対して横方向のことである。 【0028】 なお、本発明においては、グリセリン10重量%エタノール溶液を用いて面積変化率(X)及び長さ変化率(X1)、(X2)を評価する場合は、特に変性PVA系樹脂を主体とするPVA系フィルムの評価に有効であり、プロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン重量9%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル24重量%からなる40℃の混合溶液を用いて面積変化率(Y)及び長さ変化率(Y1)、(Y2)を評価する場合は、いずれのPVA系フィルムの評価にも有効である。」 ・「【0029】 次に、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。 本発明で用いられるPVA系樹脂(A)としては、未変性PVAや変性PVA系樹脂が挙げられる。 【0030】 本発明で用いるPVA系樹脂(A)の平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には82〜99.9モル%、更には85〜98.5モル%、殊には90〜97モル%であることが好ましい。また、PVA系樹脂(A)として、未変性PVAを用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には82〜99モル%、更には85〜90モル%であることが好ましい。そして、PVA系樹脂(A)として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、80モル%以上であることが好ましく、特には85〜99.9モル%、更には90〜98モル%であることが好ましい。更に、PVA系樹脂(A)として、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、85モル%以上であることが好ましく、特には88〜99モル%、更には90〜97モル%であることが好ましい。かかる平均ケン化度が小さすぎると、包装対象である薬剤のpHによっては経時的に水溶性フィルムの水への溶解性が低下する傾向がある。なお、平均ケン化度が大きすぎると製膜時の熱履歴により水への溶解性が大きく低下する傾向がある。 【0031】 上記PVA系樹脂(A)の重合度は一般的に水溶液粘度で示すことができ、20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には10〜45mPa・s、特には15〜40mPa・sであることが好ましい。また、PVA系樹脂(A)として、未変性PVAを用いる場合には、未変性PVAの20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には10〜45mPa・s、特には15〜40mPa・sであることが好ましい。そして、PVA系樹脂(A)として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、変性PVA系樹脂の20℃における4重量%水溶液粘度は、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には10〜45mPa・s、特には15〜40mPa・sであることが好ましい。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としての水溶性フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。 【0032】 なお、上記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定され、4重量%水溶液粘度は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。 【0033】 本発明で用いる変性PVA系樹脂としては、アニオン性基変性PVA系樹脂、カチオン性基変性PVA、ノニオン性基変性PVA系樹脂等が挙げられる。中でも、本発明においては、水に対する溶解性の点で、アニオン性基変性PVA系樹脂を用いるものである。アニオン性基の種類としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられるが、耐薬品性及び経時安定性の点で、カルボキシル基、スルホン酸基、特にはカルボキシル基が好ましい。 【0034】 上記アニオン性基変性PVA系樹脂の変性量は、1〜10モル%であることが好ましく、更に好ましくは2〜9モル%、特に好ましくは2〜8モル%、殊に好ましくは3〜7モル%である。かかる変性量が少なすぎると、水に対する溶解性が低下する傾向があり、多すぎるとPVA系樹脂の生産性が低下したり、生分解性が低下したりする傾向があり、また、ブロッキングを引き起こしやすくなる傾向があり、実用性が低下するものとなる。 【0035】 本発明において、上記のPVA系樹脂(A)はそれぞれ単独で用いることもできるし、また、未変性PVAと変性PVA系樹脂を併用すること、更に、ケン化度、粘度、変性種、変性量等が異なる2種以上を併用することなどもできる。本発明においては、PVA系樹脂(A)が、アニオン性基変性PVA系樹脂を含有するものであり、アニオン性基変性PVA系樹脂と未変性PVAを含有することが好ましく、特にはアニオン性基変性PVA系樹脂と未変性PVAを含有することが好ましい。 【0036】 変性PVA系樹脂と未変性PVAの含有割合(重量比)については、95/5〜60/40であることが好ましく、特には94/6〜70/30、更には93/7〜80/20であることが好ましい。かかる含有割合が小さすぎると可塑剤がブリードアウトする傾向があり、大きすぎるとブロッキングが生じやすい傾向がある。 【0037】 また、上記変性PVA系樹脂と未変性PVAの併用に際しては、未変性PVAは、特に20℃における4重量%水溶液粘度が、5〜50mPa・sであることが好ましく、更には8〜45mPa・s、特には12〜40mPa・s、殊には15〜35mPa・sであることが好ましい。かかる粘度が小さすぎると、包装材料としての水溶性フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、一方、大きすぎると製膜時の水溶液粘度が高く生産性が低下する傾向がある。」 ・「【0038】 次に、本発明の水溶性フィルムは、例えば、以下の通り製造される。 【0039】 未変性PVAは、ビニルエステル系化合物を重合して得られるビニルエステル系重合体をケン化することにより製造することができる。 【0040】 かかるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられる。中でも、ビニルエステル系化合物として、酢酸ビニルを用いることが好ましい。上記ビニルエステル系化合物は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。 【0041】 変性PVA系樹脂は、上記ビニルエステル系化合物と、ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体とを共重合させた後、ケン化する方法、または、未変性PVAを後変性する方法等により製造することができる。 ・・・(略)・・・ 【0044】 PVA系樹脂(A)の調製における重合方法としては、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法等、公知の重合方法を任意に用いることができるが、通常、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等の低級アルコールを溶媒とする溶液重合法により行われる。かかる溶液重合において単量体の仕込み方法としては、変性PVA系樹脂の場合、まず、ビニルエステル系化合物の全量と、例えば前記のカルボキシル基を有する不飽和単量体の一部を仕込み、重合を開始し、残りの不飽和単量体を重合期間中に連続的にまたは分割的に添加する方法、前記のカルボキシル基を有する不飽和単量体を一括仕込みする方法等任意の方法を用いることができる。 【0045】 重合触媒としては、重合方法に応じて、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系触媒、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物触媒等の公知の重合触媒を適宜選択することができる。また、重合の反応温度は50℃〜重合触媒の沸点程度の範囲から選択される。 【0046】 ケン化にあたっては、得られた共重合体をアルコールに溶解してケン化触媒の存在下に行なわれる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等の炭素数1〜5のアルコールが挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。また、アルコール中の共重合体の濃度は、20〜50重量%の範囲から選択される。 【0047】 ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を用いることができ、また、酸触媒を用いることも可能である。・・・(略)・・・ 【0048】 上記変性PVA系樹脂におけるカルボキシル基変性PVA系樹脂は、任意の方法で製造することができ、例えば、(I)カルボキシル基を有する不飽和単量体とビニルエステル系化合物を共重合した後にケン化する方法、(II)カルボキシル基を有するアルコールやアルデヒドあるいはチオール等を連鎖移動剤として共存させてビニルエステル系化合物を重合した後にケン化する方法等が挙げられる。 【0049】 (I)または(II)の方法におけるビニルエステル系化合物としては、上記のものを用いることができるが、酢酸ビニルを用いることが好ましい。 ・・・(略)・・・ 【0056】 また、上記カルボキシル基変性PVA系樹脂の製造方法としては、上記方法に限らず、例えば、PVA系樹脂(部分ケン化物または完全ケン化物)にジカルボン酸、アルデヒドカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の水酸基と反応性のある官能基をもつカルボキシル基含有化合物を後反応させる方法等も実施可能である。 ・・・(略)・・・ 【0058】 一方、上記未変性PVAを後変性する方法としては、未変性PVAをアセト酢酸エステル化、アセタール化、ウレタン化、エーテル化、グラフト化、リン酸エステル化、オキシアルキレン化する方法等が挙げられる。」 ・「【0060】 本発明において、可塑剤(B)は、薬剤包装体とする場合に水溶性フィルムに柔軟性を持たせる点で好ましく、可塑剤(B)は、少なくとも2種を併用することが面積変化率の制御のしやすさの点で好ましい。 かかる可塑剤(B)の1種は、融点が80℃以上である多価アルコール(b1)(以下、可塑剤(b1)と略記することがある。)であり、もう1種は、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)(以下、可塑剤(b2)と略記することがある。)であることが水溶性フィルム製造時や包装体製造時の硬さ及び面積変化率の制御のしやすさの点で好ましい。 【0061】 上記の融点が80℃以上である多価アルコール(b1)としては、・・・(略)・・・、ソルビトール(95℃)、・・・(略)・・・が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。 ・・・(略)・・・ 【0062】 更に、本発明では、可塑剤(b1)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以上であることがPVA系樹脂との相溶性の点で好ましく、更に好ましくは5〜10個、特に好ましくは6〜8個であり、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース、トレハロース等が好適なものとして挙げられる。 【0063】 また、本発明においては、可塑剤(b1)として、水溶性フィルムの張りの点で、分子量が150以上であることが好ましく、更には160〜500、特には180〜400であることが好ましく、具体的には、例えば、ソルビトール、スクロース等が好適なものとして挙げられる。 【0064】 一方、融点が50℃以下である多価アルコール(b2)としては、脂肪族系アルコールの多くが適用可能であり、例えば、・・・(略)・・・、グリセリン(18℃)、・・・(略)・・・が挙げられる。そして、水溶性フィルムの柔軟性の点で融点が30℃以下、特には20℃以下のものが好ましい。なお、融点の下限は通常−80℃であり、好ましくは−10℃、特に好ましくは0℃である。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なお、上記( )内は、各化合物の融点を示す。 【0065】 更に、本発明では、可塑剤(b2)の中でも1分子中の水酸基の数が4個以下、特には3個以下であることが室温(25℃)近傍での柔軟性を制御しやすい点で好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。 【0066】 また、本発明においては、可塑剤(b2)として、柔軟性を制御しやすい点で、分子量が100以下であることが好ましく、更には50〜100、特には60〜95であることが好ましく、具体的には、例えば、グリセリン等が好適である。 ・・・(略)・・・ 【0068】 本発明では、可塑剤(B)の含有量は、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、35〜60重量部であり、更には35〜50重量部であることが好ましい。かかる可塑剤(B)の含有量が少なすぎると液体洗剤などの液体を包装して包装体とした場合に経時で水溶性フィルムの張りを損なう傾向がある。なお、多すぎると機械強度が低下する傾向にある。 【0069】 上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)について、その含有重量割合(b1/b2)が0.1〜5であることが好ましく、特には0.2〜4.5、更には0.5〜4、殊には0.7〜3であることが好ましい。かかる含有重量割合が小さすぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎる傾向があり、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、大きすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。 【0070】 また、上記の可塑剤(b1)と可塑剤(b2)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(b1)が5〜40重量部、更には8〜30重量部、特には10〜25重量部であることが好ましく、可塑剤(b2)が5〜40重量部、更には10〜35重量部、特には15〜30重量部であることが好ましい。 かかる可塑剤(b1)が少なすぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向がある。また、可塑剤(b2)が少なすぎると水溶性フィルムが硬くなりすぎる傾向があり、低湿環境下でもろくなる傾向があり、多すぎると水溶性フィルムが柔らかくなりすぎて、ブロッキングが生じやすくなる傾向がある。 【0071】 更に、可塑剤(B)全体に対して、可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)の合計量が70重量%以上であることが好ましく、更には80重量%以上、特には87重量%以上、殊には90重量%以上、更には95重量%以上であることが好ましい。殊に好ましくは可塑剤(B)全体が上記可塑剤(b1)及び可塑剤(b2)のみからなる場合である。かかる可塑剤(b1)と(b2)の合計量が少なすぎると機械強度が低下する傾向がある。」 ・「【0084】 本発明においては、上記の通りPVA系樹脂(A)と可塑剤(B)、必要に応じて更に、フィラー(C)及び界面活性剤(D)等を含有してなる樹脂組成物を得て、これを製膜してPVA系フィルムとする。かかる製膜に当たっては、例えば、溶融押出法や流延法等の方法を採用することができ、膜厚の精度の点で流延法が好ましい。 【0085】 本発明において、上記流延法を行うに際して、例えば、下記の通り行われる。 溶解方法としては、通常、常温溶解、高温溶解、加圧溶解等が採用され、中でも、未溶解物が少なく、生産性に優れる点から高温溶解、加圧溶解が好ましい。 溶解温度が、高温溶解の場合には、通常80〜100℃、好ましくは90〜100℃であり、加圧溶解の場合には、通常80〜130℃、好ましくは90〜120℃である。 溶解時間としては、通常1〜20時間、好ましくは2〜15時間、更に好ましくは3〜10時間である。溶解時間が短すぎると未溶解物が残る傾向にあり、長すぎると生産性が低下する傾向にある。 【0086】 また、溶解工程において、撹拌翼としては、例えば、パドル、フルゾーン、マックスブレンド、ツイスター、アンカー、リボン、プロペラ等が挙げられる。 更に、溶解した後、得られたPVA系樹脂水溶液に対して脱泡処理が行われるが、かかる脱泡方法としては、例えば、静置脱泡、真空脱泡、二軸押出脱泡等が挙げられる。中でも静置脱泡、二軸押出脱泡が好ましい。 静置脱泡の温度としては、通常50〜100℃、好ましくは70〜95℃であり、脱泡時間は、通常2〜30時間、好ましくは5〜20時間である。 【0087】 流延法においては、例えば、PVA系樹脂(A)(粉末)に水を加えてPVA系樹脂水溶液とし、可塑剤(B)及びその他の配合物を加え、樹脂組成物の水分散液または水溶液を得る。或いは、PVA系樹脂(A)と可塑剤(B)及び各種配合物を含有した樹脂組成物に水を加えて樹脂組成物の水分散液または水溶液を得る。かかる樹脂組成物の水分散液または水溶液の固形分濃度は、10〜50重量%であることが好ましく、特には15〜40重量%、更には20〜35重量%であることが好ましい。かかる濃度が低すぎると水溶性フィルムの生産性が低下する傾向があり、高すぎると粘度が高くなりすぎ、ドープの脱泡に時間を要したり、水溶性フィルム製膜時にダイラインが発生したりする傾向がある。更に、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面の温度が低すぎると乾燥に時間がかかる傾向があり、高すぎると製膜時に発泡する傾向がある。 【0088】 上記水分散液または水溶液をT−ダイ等のスリットを通過させ、エンドレスベルトやドラムロールの金属表面やポリエチレンテレフタレートフィルム等のプラスチック基材表面等のキャスト面に流延し、乾燥し、必要に応じて更に熱処理して本発明のPVA系フィルムを得ることができる。 例えば、下記の製膜条件にて行うことができる。 【0089】 PVA系樹脂組成物の水分散液または水溶液における吐出部の温度は、60〜98℃であることが好ましく、特には70〜95℃である。かかる温度が低すぎると乾燥時間が長くなり生産性が低下する傾向があり、高すぎると発泡等が生じる傾向がある。 【0090】 製膜に際して、製膜速度は3〜80m/分であることが好ましく、特には5〜60m/分、更には8〜50m/分であることが好ましい。 また、熱処理においては、熱ロールにて行うこともできるが、その他、フローティングや遠赤外線処理等も挙げられる。とりわけ、熱ロールにて行うことが生産性の点で好ましい。熱処理温度としては、50〜150℃であることが好ましく、特には70〜130℃であることが好ましく、熱処理時間としては、1〜60秒であることが好ましく、特には3〜50秒、更には5〜40秒であることが好ましい。 【0091】 また、アプリケーターを用いて、樹脂組成物の水分散液または水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンフィルム等のプラスチック基材あるいは金属基材上にキャストして、乾燥させてPVA系フィルムを得ることもできる。 【0092】 PVA系フィルムの厚みとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは10〜120μm、更には15〜110μm、特には20〜100μmであることが好ましい。かかる厚みが薄すぎるとPVA系フィルムの機械的強度が低下する傾向があり、厚すぎると水への溶解速度が遅くなる傾向があり、製膜効率も低下する傾向がある。 【0093】 PVA系フィルムの幅としては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは300〜5000mm、更には500〜4000mm、特には800〜3000mmであることが好ましい。かかる幅が狭すぎると生産効率が低下する傾向があり、広すぎると弛みや膜厚の制御が困難になる傾向がある。 【0094】 PVA系フィルムの長さとしては、用途等により適宜選択されるものであるが、好ましくは500〜20000m、更には800〜15000m、特には1000〜10000mであることが好ましい。かかる長さが短すぎるとフィルムの切り替えに手間を要する傾向があり、長すぎると巻き締まりによる外観不良や重量が重くなりすぎる傾向がある。」 ・「【0096】 また、本発明においては、得られたPVA系フィルム(水溶性フィルム)の含水率は、機械強度やシール性の点で3〜15重量%であり、特には5〜14重量%、更には6〜13重量%であることが好ましい。かかる含水率が低すぎるとフィルムが硬くなりすぎる傾向があり、高すぎるとブロッキングが生じやすくなる傾向がある。かかる含水率に調整するに際しては、乾燥条件や調湿条件を適宜設定することにより達成することができる。 なお、上記含水率は、JIS K 6726 3.4に準拠して測定され、得られた揮発分の値を含水率とする。 【0097】 本発明において、上記製膜は、例えば、10〜35℃、特には15〜30℃の環境下にて行うことが好ましい。なお、湿度については、通常70%RH以下である。 【0098】 かくして得られるPVA系フィルム(水溶性フィルム)は、上記の面積変化率(Y)および面積変化率(X)の少なくとも一方を満足することが重要であり、かかる面積変化率(Y)または面積変化率(X)を上記範囲にコントロールするには、例えば、(1)可塑剤を通常より比較的多めに配合する方法、(2)可塑剤として用いる多価アルコールを2種以上併用する方法、(3)フィルムの製造工程において比較的高温で熱処理を施す方法、(4)これらの方法の組み合わせ等が挙げられる。中でも水溶性フィルムの諸物性を保持したまま上記物性をコントロールできる点で上記(1)や(2)の方法が好ましい。」 ・「【0112】 かくして得られた本発明の水溶性フィルムは、各種の包装用途等に有用であり、中でも薬剤等のユニット包装用途に有用である。薬剤としては、特に制限はなく、アルカリ性、中性、酸性のいずれであってもよく、薬剤の形状も顆粒、錠剤、粉体、粉末、液状等いずれの形状でもよいが、特には、水に溶解または分散させて用いる薬剤が好ましく、とりわけ液体洗剤を包装するのに有用である。 【0113】 液体洗剤としては、水に溶解または分散させた時のpH値が6〜12であることが好ましく、特には7〜11が好ましく、水分量が15重量%以下であることが好ましく、特には0.1〜10重量%、更には0.1〜7重量%であるものが好ましく、フィルムがゲル化したり不溶化することがなく水溶性に優れることとなる。 なお、上記pH値は、JIS K 3362 8.3に準拠して測定される。また、水分量は、JIS K 3362 7.21.3に準じて測定される。 【0114】 <薬剤包装体> 本発明の薬剤包装体としては、水溶性フィルムからなる包装体内に液体洗剤が内包されてなるものである。薬剤包装体の大きさは、通常長さ10〜50mm、好ましくは20〜40mmである。また、水溶性フィルムからなる包装体のフィルムの厚みは、通常10〜120μm、好ましくは15〜110μm、より好ましくは20〜100μmである。内包される液体洗剤の量は、通常5〜50mL、好ましくは10〜40mLである。 【0115】 本発明の薬剤包装体は、通常その表面が、平滑である。しかし、耐ブロッキング性、加工時の滑り性、製品(包装体)同士の密着性軽減、及び外観の点から、包装体(水溶性フィルム)の外表面にエンボス模様や微細凹凸模様、特殊彫刻柄、等の凹凸加工が施されたものであってもよい。また、液体洗剤を包装した本発明の薬剤包装体は、保存の際には液体洗剤を内包した形状が保持されている。そして、使用時(洗濯時)には、包装体(水溶性フィルム)が水と接触することにより、包装体が溶解して内包されている液体洗剤が包装体から流出することとなる。 【0116】 本発明の水溶性フィルムを用いて、液体洗剤を包装して包装体とするに際しては、公知の方法を採用することができる。例えば、(1)熱シールする方法、(2)水シールする方法、(3)糊シールする方法などが挙げられ、中でも(2)水シールの方法が汎用的で有利である。」 ・「【実施例】 【0117】 以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。 なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。 【0118】 PVA系樹脂として、以下のものを用意した。 ・カルボキシル基変性PVA(A1):20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度96モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量4.0モル% ・カルボキシル基変性PVA(A2):20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度94モル%、マレイン酸モノメチルエステルによる変性量2.0モル% ・未変性PVA(A3):20℃における4%水溶液粘度18mPa・s、平均ケン化度88モル% ・未変性PVA(A4):20℃における4%水溶液粘度22mPa・s、平均ケン化度88モル% ・未変性PVA(A5):20℃における4%水溶液粘度5mPa・s、平均ケン化度88モル% 【0119】 <実施例1> PVA系樹脂(A)として、カルボキシル基変性PVA(A2)を100部、可塑剤(B)として、比較的多めの可塑剤および多価アルコールを2種類併用、すなわち、ソルビトール(b1)を20部及びグリセリン(b2)を20部、フィラー(C)として澱粉(平均粒子径20μm)を8部、界面活性剤(D)として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステルモノエタノールアミン塩を2部及び水を混合して、溶解処理をし、澱粉が分散したPVA水溶液(固形分濃度25%)を得た。 得られたPVA水溶液を80℃にて脱泡し、40℃まで冷やした。そのPVA水溶液をポリエチレンテレフタレートフィルム上に流延し、3mの乾燥室(105℃)の中を0.350m/分の速度で通過させ乾燥し、厚さ89μmのPVA系フィルム(水溶性フィルム)を得た。 【0120】 上記で得られたPVA系フィルムについて、以下の評価を行った。 【0121】 〔面積変化率(Y)〕 水溶性フィルムの幅方向における中央部から、フィルムを10cm×10cm角の正方形に切り出し、平坦なガラス板上に載せ、一方の方向(y1方向)、及びy1方向と直交する他方向(y2方向)の寸法を各々ノギスにて計測した。次に、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃に保持されたプロピレングリコール22重量%、グリセリン5重量%、水10重量%、モノエタノールアミン9重量%、アルキル基の炭素数10〜16の直鎖型アルキルベンゼンスルホン酸(日油社製「ニューレックスソフト5S」)30重量%、オキシエチレンの繰り返し単位数が20〜60のポリオキシエチレントリデシルエーテル(第一工業製薬社製「ノイゲンTDS−500F」)24重量%からなる混合溶液4mL中に、24時間静置浸漬させた後、上記フィルムを取り出し、直ちに、平坦なガラス板上に載せ、一方の方向(y1方向)、及びy1方向と直交する他方向(y2方向)の寸法を各々ノギスにて計測した。一方の方向(y1方向)、及びy1方向と直交する他方向(y2方向)の長さ変化率(Y1)及び(Y2)、更に面積変化率(Y)は、上記で計測した値を使い、下式により得られた。なお、上記浸漬前のフィルムは、23℃、50%RHの環境下にて1日調湿を行ったものを使用し、上記の計測操作は23℃、50%RHの環境下で行った。 【0122】 一方の方向(y1方向)の長さ変化率(Y1)(%) ={(浸漬後のy1方向の寸法−浸漬前のy1方向の寸法)/浸漬前のy1方向の寸法}×100 他方向(y2方向)の長さ変化率(Y2)(%) ={(浸漬後のy2方向の寸法−浸漬前のy2方向の寸法)/浸漬前のy2方向の寸法}×100 面積変化率(Y)(%) ={(浸漬後の面積−浸漬前の面積)/浸漬前の面積}×100 【0123】 〔薬剤包装体のPVA系フィルムの張り評価〕 上記で得られたPVA系フィルムについて、Engel社製包装体製造機を用いて、下記の手順にて包装体を作製した。 即ち、装置の下部にある金型(成型される包装体:縦45mm、横42mm、高さ30mm)の上に、PVA系フィルム(ボトムフィルム)を固定し、装置の上部にもPVA系フィルム(トップフィルム)を固定した。ボトムフィルムを10秒間、90℃の熱風を発生させるドライヤーで加熱し、ボトムフィルムを金型に真空成型した。その後、P&G社製の「アリエールパワージェルボール」に包装された液体洗剤(グリセリン5.4%、プロピレングリコール22.6%、水分10.4%を含有)を成型されたPVA系フィルムに20mL投入した。トップフィルムに水を1.5g塗布し、トップフィルムとボトムフィルムを圧着した。30秒間圧着した後に、真空を解放し、薬剤包装体を得た。その後、23℃、40%RHの環境下に2時間調湿した後、自然に自立する方向においた時の包装体の高さ(H1mm)を測定したところ30mmであった。 続いて、薬剤包装体作製後、40℃、65%RHの環境下で1週間放置した後、23℃、50%RHの環境下で1時間放置し、その後、自然に自立する方向においた時の薬剤包装体の高さ(H2mm)を測定して、下記式で算出される値(H3mm)により、薬剤包装体のPVA系フィルムの張りを評価した。H3の値が小さいほどPVA系フィルムの張りが良好である。 (式) H3=H1−H2 【0124】 <実施例2〜3、参考例1〜4、比較例1、2> 実施例1において、表1に示す通りに変更した以外は同様に行い、PVA系フィルム(水溶性フィルム)を得た。 得られた実施例2、参考例1〜4、および比較例1、2のPVA系フィルム(水溶性フィルム)について、実施例1と同様の評価(面積変化率(Y)、薬剤包装体のPVA系フィルムの張り評価)を行った。 【0125】 さらに、上記で得られた実施例1〜3、参考例1、2、および比較例1、2のPVA系フィルムについて、以下の評価(面積変化率(X)、薬剤包装体のPVA系フィルムの張り評価)を行った。 【0126】 〔面積変化率(X)〕 水溶性フィルムの幅方向における中央部から、フィルムを10cm×10cm角の正方形に切り出し、平坦なガラス板上に載せ、一方の方向(x1方向)、及びx1方向と直交する他方向(x2方向)の寸法を各々ノギスにて計測した。次に、縦15cm×横15cmの袋に入れた、40℃に保持されたグリセリン10重量%エタノール溶液4mL中に48時間静置浸漬させた後、上記フィルムを取り出し、直ちに、平坦なガラス板上に載せ、一方の方向(x1方向)、及びx1方向と直交する他方向(x2方向)の寸法を各々ノギスにて計測した。一方の方向(x1方向)、及びx1方向と直交する他方向(x2方向)の長さ変化率(X1)及び(X2)、更に面積変化率(X)は、上記計測した値を使い、下式により得られた。なお、上記浸漬前のフィルムは、23℃、50%RHの環境下にて1日調湿を行ったものを使用し、上記の計測操作は23℃、50%RHの環境下で行った。 【0127】 一方の方向(x1方向)の長さ変化率(X1)(%) ={(浸漬後のx1方向の寸法−浸漬前のx1方向の寸法)/浸漬前のx1方向の寸法}×100 他方向(x2方向)の長さ変化率(X2)(%) ={(浸漬後のx2方向の寸法−浸漬前のx2方向の寸法)/浸漬前のx2方向の寸法}×100 面積変化率(X)(%) ={(浸漬後の面積−浸漬前の面積)/浸漬前の面積}×100 【0128】 〔薬剤包装体のPVA系フィルムの張り評価〕 上記と同様にして、張り評価を行った。 【0129】 実施例、参考例及び比較例の評価結果を下記表1及び表2に示す。 【0130】 【表1】 【0131】 上記表1の結果より、水溶性フィルムの面積変化率(Y)が特定値以下といったように小さい実施例の水溶性フィルムは、液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る水溶性フィルムとなることがわかる。一方、比較例1及び比較例2では、面積変化率が特定値を超えており、経時においては水溶性フィルムの張りのない包装体となることがわかる。更に、比較例2においては、ブリードアウトがおこりやすく、また低湿で硬すぎるため破袋しやすいものであった。 【0132】 【表2】 【0133】 また、上記表2の結果より、水溶性フィルムの面積変化率(X)が特定値以下といったように小さい実施例の水溶性フィルムは、液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る水溶性フィルムとなることがわかる。一方、比較例1及び比較例2では、面積変化率が特定値を超えており、経時においては水溶性フィルムの張りのない包装体となることがわかる。更に、比較例2においては、ブリードアウトがおこりやすく、また低湿で硬すぎるため破袋しやすいものであった。」 (3)実施可能要件の判断 上記(2)のとおり、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明1ないし7の物について具体的に記載されており(特に、【0016】ないし【0028】、【0029】ないし【0058】、【0060】ないし【0071】、【0084】ないし【0094】、【0096】ないし【0098】、及び【0112】ないし【0116】)、また、本件特許発明1ないし7の実施例である実施例1ないし3についても、その製造方法を含め具体的に記載されている(【0117】ないし【0133】)。 したがって、本件特許発明1ないし7について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産でき、かつ、使用できる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明1ないし7に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合する。 特許異議申立人の上記第3 4の実施可能要件に関する主張については、上記判断に影響しない。 また、特許異議申立人の上記第3 4の明確性要件に関する主張については、そもそも本件特許発明1ないし7は、面積変化率の範囲が明確に特定されていることから、上記3(2)の判断に影響を与えない。 なお、当該主張における、特許異議申立書55ページ最下行の「所謂サポート要件を満たさず」の記載は、文意よりみて「所謂実施可能要件を満たさず」の誤記であると認める。 (3)申立理由4についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当しないので、申立理由4によっては取り消すことはできない。 第5 結語 上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-11-21 |
出願番号 | P2016-556033 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J) P 1 651・ 536- Y (C08J) P 1 651・ 121- Y (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
▲吉▼澤 英一 植前 充司 |
登録日 | 2021-12-13 |
登録番号 | 6992253 |
権利者 | 三菱ケミカル株式会社 |
発明の名称 | 水溶性フィルム及び薬剤包装体 |
代理人 | 井▲崎▼ 愛佳 |
代理人 | 西藤 征彦 |
代理人 | 西藤 優子 |
代理人 | 寺尾 茂泰 |