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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1392071 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-07-13 |
確定日 | 2022-11-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7002264号発明「二軸延伸シートおよびその成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7002264号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7002264号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年9月25日を出願日とする特許出願であって、令和4年1月4日にその特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、同年2月4日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月13日に特許異議申立人 吉川 雅也(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし8)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 スチレン単量体単位からなるスチレン系樹脂と、ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂とを含むスチレン系樹脂組成物からなり、 前記スチレン系樹脂の重量平均分子量が20万〜45万であり、 前記ゴム成分の含有量が0.05〜0.30質量%であり、 平均ゴム粒子径が1.2〜12.0μmであり、 スチレンオリゴマーの総含有量が10000ppm以下であり、 下記式(1)および式(2)で表されるMD方向およびTD方向の複屈折率|△nMD|、|△nTD|がいずれも0.0025〜0.0050の範囲である二軸延伸シート。 |△nMD|=nMD−(nTD+nZ)/2 ・・・(1) |△nTD|=nTD−(nMD+nZ)/2 ・・・(2) ここで、式(1)および式(2)において、nMD、nTDおよびnZはそれぞれ、MD方向、TD方向および厚み方向の屈折率を表す。 【請求項2】 MD方向とTD方向の配向緩和応力がいずれも0.80〜2.00MPaの範囲である請求項1に記載の二軸延伸シート。 【請求項3】 前記二軸延伸シートのMD向とTD方向の引張弾性率がいずれも2800〜3400MPaである請求項1または請求項2に記載の二軸延伸シート。 【請求項4】 スチレン単量体の含有量が1000ppm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項5】 ゲル含有量が1.0質量%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項6】 厚みが0.01〜0.7mmであり、MD向とTD方向の延伸倍率がいずれも2.0〜4.5倍である請求項1〜5のいずれか1項に記載の二軸延伸シート。 【請求項7】 請求項1〜6のいずれか1項に記載の二軸延伸シートを二次成形してなる成形品。 【請求項8】 食品包装容器である請求項7に記載の成形品。」 第3 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし8に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(1及び2)は、次のとおりである。 1 申立理由1(甲第2号証を主たる根拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第12号証を主たる根拠とする進歩性) 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第12号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 証拠方法 ・甲第1号証:特願2017−184065号意見書 ・甲第2号証:特表平10−504600号公報 ・甲第3号証:特開2002−20564号公報 ・甲第4号証:特開2003−238703号公報 ・甲第5号証:特開2001−26619号公報 ・甲第6号証:特開2005−126631号公報 ・甲第7号証:特開2014−201605号公報 ・甲第8号証:坂本国輔、「新しい尺度によるフィルムの配向と機械的性質との関係」、高分子論文集第48巻第3号、1991年3月、p.181-184 ・甲第9号証:「光学用透明樹脂の高屈折率化、低複屈折化技術」、株式会社技術情報協会、2010年9月21日第1版第2刷発行、p.18-23 ・甲第10号証:松本喜代一、飯尾大彦、「ポリスチレン二軸延伸フィルムの分子配向と機械的性質」、繊維学会誌第35巻第4号、1979年、p.T150-T154 ・甲第11号証:「プラスチックが身近になる本」、株式会社 シーエムシー、2001年10月31日第1刷発行、p.190-193 ・甲第12号証:特開2000−86779号公報 ・甲第13号証:特開2005−200572号公報 ・甲第14号証:特開2002−210819号公報 ・甲第15号証:特開昭54−50079号公報 ・甲第16号証:特開平1−185333号公報 ・甲第17号証:特開平2−55122号公報 ・甲第18号証:特開平2−120044号公報 ・甲第19号証:特開平3−292139号公報 ・甲第20号証:特願2001−13527号拒絶理由通知書 ・甲第21号証:特願2001−13527号拒絶査定 ・甲第22号証:「技術大全シリーズ プラスチック材料大全」、日刊工業新聞社、2015年12月19日初版第1刷発行、p.136-139、142-147 ・甲第23号証:「押出成形技術におけるトラブルとその予防・対策〜不具合対策・安定化技術の向上〜」、株式会社 技術情報協会、2005年5月30日第1版第1刷発行、p.16-17、34-39 ・甲第24号証:「電子線照射お役立ち情報 架橋度の指標『ゲル分率』について」、NHV コーポレーションホームページ、最終更新日2022年2月25日(2022年6月15日閲覧)、URL:https://www.nhv.jp/blog/post492/ ・甲第25号証:特開2016−222751号公報 なお、証拠の表記は、おおむね特許異議申立書、証拠説明書の記載にしたがった。 第4 当審の判断 以下に述べるとおり、当審は、特許異議申立人が申し立てる申立理由はいずれもその理由がないものと判断する。 1 申立理由1(甲第2号証を主たる根拠とする進歩性)について (1) 主な証拠の記載事項等 ア 甲第2号証の記載事項 甲第2号証には、「二軸配向ポリスチレン組成物」に関し、次の記載がある。 「【特許請求の範囲】 1.約10%未満の曇り度、及び、−30°F〜周囲温度において約10〜約200ポンドの衝撃強さを有し、ポリスチレン約88〜約98重量%及び耐衝撃性ポリスチレン約2〜約12重量%から実質的になる二軸配向組成物であって、該耐衝撃性ポリスチレンが、約0.1〜約10ミクロンの平均径を有するゴム粒子を更に含み、該二軸配向組成物のゴム含有率が、該二軸配向組成物の全重量の約0.1〜約1.4重量%であることを特徴とする組成物。 ・・・ 8.約10%未満の曇り度、及び、−30°F〜周囲温度において約10〜約200ポンドの衝撃強さを有し、ポリスチレン約88〜約98重量%及び耐衝撃性ポリスチレン約2〜約12重量%から実質的になる二軸配向組成物であって、該耐衝撃性ポリスチレンが、約0.1〜約10ミクロンの平均径を有するゴム粒子を更に含み、該二軸配向組成物のゴム含有率が、該二軸配向組成物の全重量の約0.1〜約1.4重量%である組成物から製造される、食品を保存及び輸送するための容器。」(第2頁第1行ないし第26行) 「発明の分野 本発明は、透明であり、改良された低温衝撃強さを有する、二軸配向ポリスチレン組成物に関する。本発明はまた、二軸配向ポリスチレン組成物の使用方法にも関する。」(第5頁第3行ないし第6行) 「背景 ポリマー物質は、冷蔵庫または冷凍庫の温度で輸送および販売しなければならない腐敗し易い物品を含む、広範な消費者商品を包装および輸送するために広く使用されている。商業上普及したポリマー物質としては、ポリエチレン、スチレン/ブタジエンコポリマーおよびポリスチレンが挙げられる。 冷蔵庫または冷凍庫の温度では、純粋なポリスチレンは、脆くて輸送中に弱くなるので、腐敗し易い商品を輸送するためには不十分である。ポリスチレンの低温衝撃強さを増加させるための既知の方法は、ポリスチレン組成物へのゴムの添加である。典型的には、汎用ポリスチレン(GPPS)を、通常は約7重量%程度のゴム粒子を含有する、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)と配合し、GPPS/HIPS混合物を形成する。 ポリスチレン組成物へのゴムの添加は、衝撃強さを増加させるが、ポリスチレンの不透明度を増加させる。包装商品用の透明な容器は、顧客が購入前に商品を見ることができるために、望ましい。1%より大きいHIPSを有するポリスチレン組成物は、改良された衝撃耐性を示すけれども商業用途のためには曇りすぎているため、典型的には、ポリスチレン中のHIPSの百分率は1%(0.07%のゴム含量)を越えることはできない。99%のGPPSと1%のHIPSとを含むポリスチレン組成物は比較的透明であるが、十分に高い低温衝撃強さを有しておらず、従って低温での使用には適していない。室温および低温において耐衝撃性を提供し、透明である、1%より大きいHIPS(0.07%ゴム含量)を含むポリスチレン組成物に対する要求が存在する。 ポリスチレン組成物は、透明度および強さをポリスチレン分子を配向させることによって改良することができるという点で、典型的なポリマー物質である。ポリスチレン組成物の配向は、GPPS/HIPS混合物を延伸することによって達成される。ポリマー組成物は二軸延伸することができる。2つの軸の方向は典型的には互いに垂直である。二軸延伸は、ポリマー組成物の透明度を改良し、衝撃強さを高める。ポリスチレン組成物の二軸延伸は既知である(Ayres et al.,米国特許第3,995,763号)。しかし、Ayresは、不透明組成物を提供している。さらに、現存する市販の二軸配向ポリスチレン組成物は衝撃強さが貧弱であるために不十分なものである。従って、改良された衝撃強さを有する透明な二軸延伸ポリスチレン組成物に対する要求が存在する。」(第5頁第7行ないし第6頁第9行) 「本発明の詳細な説明 約10%未満の曇り度、及び−30°F〜周囲温度の間の温度において、約10ポンド〜約200ポンドの衝撃強さを有する二軸延伸ポリスチレン組成物が本発明によって提供される。 ・・・ 好ましい態様において、ここで開示されるポリスチレン組成物は汎用ポリスチレン(GPPS)をゴムを含む耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)と混合することによって製造できる。代わりに、GPPSは純粋なゴムと混合できる。代わりに、GPPSは純粋なゴムと混合できる。 二軸配向ポリスチレン組成物は、該組成物の全重量に基づいて約0.1〜約1.4重量%のゴムを含む。このゴムは組成物の衝撃強さを増す。好ましい態様において、ゴム含量は約0.15〜約0.8重量%である。0.1ミクロン〜10ミクロンの平均径を有すゴム粒子が本発明のポリスチレン組成物内に使用される。好ましいゴム粒子は約0.15ミクロン〜約8ミクロンの平均径を有する。より小さい粒子の使用はより良好な光学的透明度を有する組成物を生じるので、ゴム粒子が小さい程好ましい。小さいゴム粒子は大きなゴム粒子よりも入射光を散乱または吸収する程度が小さい。」(第7頁第3行ないし第8頁第12行) 「本発明は、二軸配向ポリスチレン組成物の製造法を開示する。好ましい態様では、二軸配向ポリスチレン組成物は、あらゆる押出機でのGPPS及びHIPSの混合により製造される。混合物を、次に、適切に縦方向と横断方向に配向させる装置を用いて、二軸に延伸して、ポリスチレン分子を配向させる。」(第8頁第20行ないし第23行) 「GPPS及びHIPSは共に商業的に入手可能である。好ましいGPPSは、Novacor、Dow Chemical、Chevron及びBASFから入手可能なGPPSである。好ましいHIPSは、Dow Chemical XU−7007.00,AIM 4900;Novacor 4300;BASF 5600;及びChevron Oil HG−200,HG−210,HG−100であるが、これに限定されない。平均径0.1ミクロン〜10ミクロンのゴム粒子を含有するいかなるHIPSも、本発明により意図される。 二軸配向ポリスチレン組成物は、約88〜98重量%のGPPSと,約2〜約12重量%のHIPSを混合することにより製造できる。好ましい一態様では、HIPSは組成物の全重量に対して約2〜約8重量%含有する。」(第8頁末行ないし第9頁第9行) 「実施例1 GPPSおよびDOW XU−70007.00から製造された二軸配向組成物 Novacor GPPSおよびDOW XU−70007.00を含む二軸配向組成物は、GPPSおよびXU−70007.00を混合することにより製造した。混合物を二軸延伸し、熱形成性機械上で約15ミルの厚さの容器に成型した。Byk Gardner Haze Meter(HazeGard)(Model♯XL−211 Silver Springs,MD)を用いることによって、曇り度を測定した。全ての組成物は透明で、曇り度は約10%未満であった。」(第9頁第23行ないし第10頁第3行) 「 」(第12頁) イ 甲第2号証に記載された発明 上記アの記載、特に実施例1及び第12頁における表に示された、平均ゴム粒径3.40ミクロン、GPPS中の全ゴムの割合が0.2%、曇り度が2.5%の例を中心にまとめると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。 「Novacor GPPSおよびDOW XU−70007.00を含む二軸配向組成物を二軸延伸し得られる、容器に成型される前のシートであって、 ゴム成分の含有率が0.2重量%であり、 平均ゴム粒径が3.40ミクロンである、 シート。」(以下、「甲2発明」という。) (2) 対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲2発明とを対比する。 甲2発明の「Novacor GPPS」、「DOW XU−70007.00」は、甲第2号証の記載(第8頁第2行ないし第4行、及び、第8頁末行ないし第9頁第3行参照。なお、第9頁第3行の「XU−7007.00」は「XU−70007.00」の誤記と認める。)からそれぞれ、「汎用ポリスチレン」、「ゴムを含む耐衝撃性ポリスチレン」にあたるから、本件特許発明1の「スチレン単量単位からなるスチレン系樹脂」、「ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂」に相当するといえる。 すると、甲2発明のNovacor GPPSおよびDOW XU−70007.00を含む「二軸配向組成物」は、本件特許発明1の「スチレン系樹脂組成物」に相当する。 また、甲2発明は「ゴム成分の含有率が0.2重量%」であり、「平均ゴム粒径が3.40ミクロン」であるから、本件特許発明1の「前記ゴム成分の含有量が0.05〜0.30質量%」であり、「平均ゴム粒子径が1.2〜12.0μm」であるとの特定事項を満たす。 さらに、甲2発明のシートは、「二軸配向組成物を二軸延伸して得られる」ものであるから、本件特許発明1の「二軸延伸シート」に相当する。 してみると、両者は、 「スチレン単量体単位からなるスチレン系樹脂と、ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂とを含むスチレン系樹脂組成物からなり、 前記ゴム成分の含有量が0.05〜0.30質量%であり、 平均ゴム粒子径が1.2〜12.0μmである、 二軸延伸シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 本件特許発明1は、「前記スチレン系樹脂の重量平均分子量が20万〜45万であり、」「スチレンオリゴマーの総含有量が10000ppm以下であり、」「下記式(1)および式(2)で表されるMD方向およびTD方向の複屈折率|△nMD|、|△nTD|がいずれも0.0025〜0.0050の範囲」であって「|△nMD|=nMD−(nTD+nZ)/2 ・・・(1) |△nTD|=nTD−(nMD+nZ)/2 ・・・(2) ここで、式(1)および式(2)において、nMD、nTDおよびnZはそれぞれ、MD方向、TD方向および厚み方向の屈折率を表す。」ことが特定されるものであるのに対して、甲2発明にはそのような特定がない点。 上記相違点1について検討する。 甲2発明には、スチレン系樹脂の重量平均分子量の点、スチレンオリゴマーの総含有量の点、複屈折率の点をともに満たすことについて何ら記載されておらず、また、全ての証拠をみても、これらの点を満たすものとすることが何ら示唆されるものでもない。 この点に関し、特許異議申立人は、例えば、複屈折率に関しては、甲第8号証ないし甲第11号証をあげつつ、「本件発明の構成F(合議体注:相違点2−3に相当)において、|△nMD|、|△nTD|のそれぞれを同じ値である「0.0025〜0.0050」としているのは、二軸延伸シートにおける延伸の程度やそれに伴う分子配向の程度を適切な範囲にすることと実質的に同義であると理解される」(異議申立書第19頁)などとし、相違点2−3に係る本件特許発明1の特定事項を満たすよう調整することは当業者が容易になし得たことである旨主張する。 しかしながら、延伸と複屈折率、機械的強度の間に定性的な関係があるとしても、「複屈折率」の点で本件特許発明1の特定事項である範囲に調整することが好ましいかは、甲第2号証及びそれ以外の全ての証拠をみても導くことはできないし、また、自ずと当該特定事項を満たすものであると言うこともできない。 してみれば、スチレン系樹脂の重量平均分子量の点、スチレンオリゴマーの総含有量の点、複屈折率の点をともに満たすこと、すなわち、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることが容易であるとはいえない。 そして、本件特許発明1は、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことにより、二軸延伸シートにおいて、「薄肉であっても、製膜性、透明性、シート強度および成形性が良好であり、リサイクル性も良好」(【0020】)との格別の効果を奏するものである。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。 よって、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明2ないし8について 本件特許発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。 そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2ないし8も同様に、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 申立理由1についてのまとめ 上記(2)のとおりであるから、申立理由1はその理由がない。 2 申立理由2(甲第12号証を主たる根拠とする進歩性)について (1) 甲第12号証に記載された発明 甲第12号証の請求項1、請求項2の記載からみて、甲第12号証には次の発明が記載されていると認める。 「平均粒子径1〜7.5μm、膨潤度30倍以下のゴム粒子を含むゴム変性スチレン系樹脂と、スチレン系樹脂とで構成され、下記式で表されるR値が0.5〜2.5であり、 シート中のゴム濃度が100〜1500ppmである二軸延伸スチレン系樹脂シート。 R値=(Lv)×(RPV) (式中、Lvはゴム変性スチレン系樹脂中のゴム粒子の平均粒子径(μm)を示し、RPVFはシート中のゴム粒子の体積百分率(%)を示す)」(以下、「甲12発明」という。) (2) 対比・判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲12発明とを対比する。 甲12発明の「ゴム粒子を含むゴム変性スチレン系樹脂」、「スチレン系樹脂」は、それぞれ、本件特許発明1の「ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂」、「スチレン単量体単位からなるスチレン系樹脂」に相当し、甲12発明の「ゴム粒子を含むゴム変性スチレン系樹脂と、スチレン系樹脂とで構成され」るものは、本件特許発明1の「スチレン系樹脂組成物」に相当する。 また、甲12発明の「二軸延伸スチレン系樹脂シート」は、本件特許発明1の「二軸延伸シート」に相当する。 さらに、甲12発明のシート中のゴム濃度は「100〜1500ppm」、すなわち、0.01〜0.15質量%であるから、本件特許発明1の「ゴム成分の含有量が0.05〜0.30質量%」との特定事項を満たす。 してみると、両者は、 「スチレン単量体単位からなるスチレン系樹脂と、ゴム成分を含有する耐衝撃性スチレン系樹脂とを含むスチレン系樹脂組成物からなり、 前記ゴム成分の含有量が0.05〜0.30質量%である、 二軸延伸シート。」 で一致し、次の点で相違する。 (相違点2) 本件特許発明1は、「前記スチレン系樹脂の重量平均分子量が20万〜45万であり、」「平均ゴム粒子径が1.2〜12.0μmであり、」「スチレンオリゴマーの総含有量が10000ppm以下であり、」「下記式(1)および式(2)で表されるMD方向およびTD方向の複屈折率|△nMD|、|△nTD|がいずれも0.0025〜0.0050の範囲」であって「|△nMD|=nMD−(nTD+nZ)/2 ・・・(1) |△nTD|=nTD−(nMD+nZ)/2 ・・・(2) ここで、式(1)および式(2)において、nMD、nTDおよびnZはそれぞれ、MD方向、TD方向および厚み方向の屈折率を表す。」ことが特定されるものであるのに対して、甲12発明にはそのような特定がない点。 相違点2について検討する。 相違点2は、上記1(2)アにおける相違点1に加えさらに、「平均ゴム粒子径が1.2〜12.0μm」との特定事項を満たすか否かというものである。 すると、相違点2のうち、スチレン系樹脂の重量平均分子量の点、スチレンオリゴマーの総含有量の点、複屈折率の点をともに満たすことについて満たすか否かについては、上記1(2)アの相違点1の場合と同様に判断される。 してみると、本件特許発明1は、甲12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件特許発明2ないし8について 本件特許発明2ないし8はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。 そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は、甲12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2ないし8も同様に、甲12発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 申立理由2についてのまとめ 上記(2)のとおりであるから、申立理由2はその理由がない。 第5 結語 以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-11-14 |
出願番号 | P2017-184065 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08J)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
▲吉▼澤 英一 植前 充司 |
登録日 | 2022-01-04 |
登録番号 | 7002264 |
権利者 | デンカ株式会社 |
発明の名称 | 二軸延伸シートおよびその成形品 |
代理人 | 古下 智也 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |