ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12G |
---|---|
管理番号 | 1392072 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-07-13 |
確定日 | 2022-11-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6991841号発明「リモネンを含有する柑橘系アルコール飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6991841号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6991841号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成29年11月29日の出願であって、令和3年12月10日にその特許権の設定登録(請求項の数5)がされ、令和4年1月13日に特許掲載公報が発行され、その後、本件特許に対し、同年7月13日に特許異議申立人 猪狩 充(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 d−リモネンの含有量が0.5mg/L〜30mg/Lであり、かつ、アルコール含有量が1v/v%〜15v/v%である柑橘系アルコール飲料であって、メチルヘプテノンの含有量が15μg/L〜75μg/Lである、上記柑橘系アルコール飲料。 【請求項2】 p−クレゾールの含有量が55μg/L以下である、請求項1に記載の柑橘系アルコール飲料。 【請求項3】 メチルヘプテノンの含有量に対する、p−クレゾールの含有量の比(質量比)が、2.8以下である、請求項1または2に記載の柑橘系アルコール飲料。 【請求項4】 d−リモネンの含有量が0.5mg/L〜30mg/Lであり、かつ、アルコールの含有量が1v/v%〜15v/v%である柑橘系アルコール飲料における苦味をマスキングする方法であって、 飲料中のメチルヘプテノンの含有量を15μg/L〜75μg/Lに調整することを含む、上記方法。 【請求項5】 飲料中のp−クレゾールの含有量が55μg/L以下である、請求項4に記載の方法。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年7月13日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 1 申立理由1(甲第7号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第7号証に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性) 本件特許の請求項1ないし5に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 3 証拠方法 ・甲第1号証:特開2008−245538号公報 ・甲第2号証:特許庁、平成18年度標準技術集「香料」3-1-2 食品、p.456-477 ・甲第3号証:吉村奈津枝、香料 No.260、「レモン精油の香気成分」、平成25年12月、p.89-97 ・甲第4号証:Loredana Abbate et al.、Food Research International 48(2012)、p.284-290 ・甲第5号証:瀬川 睦ら、大会講演要旨集ISSN 2186-7976 講演番号:4A03a07、公益社団法人 日本農芸化学会、平成29年3月5日発行 ・甲第6号証:Mutsumi Segawa et al., ASBC Annual Meeting June 4-7, 2017「New technologies for development of citrus-based ready-to-drink(RTD) alcoholic beverages that maintain freshness」 ・甲第7号証:特開2010−279293号公報 ・甲第8号証:特開2017−184691号公報 ・甲第9号証:特開2017−169532号公報 ・甲第10号証:堀内喜間多、分析化学 Vol.22(1973)、「香料の分析」、p.1525-1530 ・甲第11号証:特開2016−124833号公報 ・甲第12号証:奥田 治、衛生化学 Vol.11(1965)、「食品香料に関する最近の動向について」、p.81-86 ・甲第13号証:Product Specification、Vigon International,LLC.、January 25,2006、インターネット<URL:https://www.vigon.com/product/orange-terpenes-redisti1led/?doc=PACKET/500762packet.pdf&namee=OrangeTerpenesRedisti1ledAllDocuments> ・甲第14号証:TECHNICAL DATA SHEET ORANGE TERPENE ST、MOELLHAUSEN、23/09/2010、インターネット<URL:https://www.moellhausen.com/download.aspx?documento=/documents/PRODOTTI/Documenti/SchedeProdotto/EN/750700_TDS_rev4.pdf> 証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむねしたがった。以下、「甲1」等という。 第4 当審の判断 1 申立理由1(甲第7号証に基づく新規性・進歩性)について (1)甲7に記載された事項等 ア 甲7に記載された事項 甲7にはおおむね次の事項が記載されている。 ・「【0001】 本発明はオイル浮きを起こさないオイル香料を含有するアルコール飲料の製造方法に関する。」 ・「【0007】 本発明のオイル香料を含有するアルコール飲料の製造方法は、シロップを調合する前に、オイル香料を高濃度エタノール溶液に添加することを特徴とする。 レモンの皮を絞ることによって得られたレモンピールシングルオイル(1ホールド)は、レモンの新鮮な香りを持っているが、その9割以上は水に溶けにくいテルペン類である。そのため、これを飲料に直接添加しても、オイル成分は浮上して、飲料に溶解しない。本発明の製造方法により得られるアルコール飲料では、このようなオイル成分の浮上は起こらない。 本発明において、「オイル香料」とは、柑橘類から得られた精油を含水エタノールでウォッシュ(不溶物除去)していない香料のことを言う。柑橘類としては、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、タンジェリン、ライムなどが挙げられる。 また、柑橘類から得られた精油には、一般に、水に不溶性のテルペン類が95質量%程度含まれており、これがオイル浮きの原因となる。テルペン類とは、テルペン骨格を持った炭化水素の総称であり、リモネンやαピネン、βピネン、ミルセンなどが挙げられるが、このうちリモネンが90%以上を占める。テルペン類は揮発性が高く、柑橘類のフレッシュ感を出すが、ウォッシュドフレーバー(アルコールエッセンス香料)にはほとんど含まれない。このため、ウォッシュドフレーバーは新鮮さにかけた香りになる。オイル香料はウォツシュしていないので、このテルペン類含量が比較的高く新鮮で力強い香りとなる。」 ・「【0018】 (予備実験1) テルペン類含量が95質量%のレモンピールシングルオイルと、これを減圧蒸留して2、4、6、8及び10ホールドに濃縮し、テルペン類含量がそれぞれ90質量%、80質量%、70質量%、60質量%及び50質量%のレモンオイルを用意した。これらを95質量%のエタノール液(エタノール95.5質量%、水4.5質量%)で10倍に希釈した後、それぞれ2ml、1ml、0.5ml、0.32ml、0.24ml及び0.2mlの量で1Lのチューハイ液(7質量%のエタノール、0.3質量%のクエン酸及び4質量%の果糖分55%の果糖ブドウ糖液糖)に添加した。良く攪拌したところ、いずれもオイル浮きがみられ、完全には溶解しなかった。次に、3倍シロップ液(21質量%のエタノール)及び4倍シロップ液(28質量%のエタノール)に、同様にレモンオイルを添加したが、オイル浮きが起こり、いずれも完全には溶解しなかった。」 イ 甲7に記載された発明 甲7に記載された事項を、特に予備実験1のうちレモンピールシングルオイルを用いた一例に関して整理すると、甲7には次の発明が記載されていると認める。 「テルペン類含量が95質量%のレモンピールシングルオイルを、95質量%のエタノール液(エタノール95.5質量%、水4.5質量%)で10倍に希釈した後、0.5mlの量で1Lのチューハイ液(7質量%のエタノール、0.3質量%のクエン酸及び4質量%の果糖分55%の果糖ブドウ糖液糖)に添加したアルコール飲料。」(以下、「甲7発明1」という。) 「テルペン類含量が95質量%のレモンピールシングルオイルを、95質量%のエタノール液(エタノール95.5質量%、水4.5質量%)で10倍に希釈した後、0.5mlの量で1Lのチューハイ液(7質量%のエタノール、0.3質量%のクエン酸及び4質量%の果糖分55%の果糖ブドウ糖液糖)に添加する方法。」(以下、「甲7方法発明1」という。) また、予備実験1のうちレモンピールシングルオイルを用いた他の例、すなわち、テルペン類含量が95質量%のレモンピールシングルオイルを、95質量%のエタノール液で10倍に希釈した後、2ml、1ml、0.32ml、0.24ml及び0.2mlの量で1Lのチューハイ液に添加したアルコール飲料を、「甲7発明2」ないし「甲7発明6」といい、当該添加する方法を、「甲7方法発明2」ないし「甲7方法発明6」という。 さらに、予備実験1のうちレモンオイルを用いた例、すなわち、テルペン類含量が95質量%のレモンピールシングルオイルを減圧蒸留して2、4、6、8及び10ホールドに濃縮し、テルペン類含量がそれぞれ90質量%、80質量%、70質量%、60質量%及び50質量%のレモンオイルを、95質量%のエタノール液で10倍に希釈した後、それぞれ2ml、1ml、0.5ml、0.32ml、0.24ml及び0.2mlの量で1Lのチューハイ液に添加したアルコール飲料を、「甲7発明7」ないし「甲7発明36」といい、当該添加する方法を、「甲7方法発明7」ないし「甲7方法発明36」という。 なお、甲7発明1ないし甲7発明36を総称して「甲7発明」、甲7方法発明1ないし甲7方法発明36を総称して「甲7方法発明」という場合がある。 (2)本件特許発明1について ア 甲7発明1との対比・判断 本件特許発明1と甲7発明1を対比する。 甲7発明1の「アルコール飲料」は、レモンピールシングルオイルを含有していることから、本件特許発明1の「柑橘系アルコール飲料」に相当する。 甲7発明1は、アルコール飲料中に、7質量%のエタノールと希釈用のエタノール液を含んでおり、各々の添加量から換算すると、合計約7.1質量%のアルコールを含有しているといえることから、本件特許発明1の「アルコール含有量が1v/v%〜15v/v%である」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「アルコール含有量が1v/v%〜15v/v%である柑橘系アルコール飲料。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1は、「d−リモネンの含有量が0.5mg/L〜30mg/L」と特定されているのに対し、甲7発明1は、そのような特定がない点。 <相違点2> 本件特許発明1は、「メチルヘプテノンの含有量が15μg/L〜75μg/L」と特定されているのに対し、甲7発明1は、このような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点2について検討する。 甲7には、「メチルヘプテノンの含有量」に関する記載はなく、甲7発明1の「アルコール飲料」の「メチルヘプテノンの含有量が15μg/L〜75μg/L」であることを示す証拠もない。 したがって、相違点2は実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲3号の記載から、レモン果皮から得られる一般的なレモン精油は、95質量%程度のテルペン類・・・を含有し、甲3号及び甲4号の記載から、レモンオイルは、約60〜約68%程度のリモネンを含有し、きわめて少量〜約0.05%のメチルヘプテノンを含有する(甲3−1及び甲4−1)。甲12号証から、レモンオイルのリモネンはd−リモネンであるといえる(甲12−1)。したがって、甲7号において10倍希釈されたレモンオイルは、約6〜6.8%のd−リモネンと、少量〜0.005%のメチルヘプテノンを含有する。」(特許異議申立書23ページ19〜25行)と主張するが、甲7発明1のレモンピールシングルオイルが、甲3及び甲4に記載のレモンオイルであると特定することができないことから、甲3及び甲4のレモンオイルの組成を、甲7発明1のレモンピールシングルオイルに適用することはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 また、甲7には、甲7発明1において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲7発明1において、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「柑橘系アルコール飲料に対し、一定濃度範囲のメチルヘプテノンを含有させることにより、リモネンとアルコールとの共存による苦味をマスキングすることができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0007】)、及び「苦味がマスキングされながらも、飲料自体の美味しさも一定程度以上保持している」(同【0009】)という効果は、甲7発明1並びに甲7及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。 イ 甲7発明2ないし甲7発明6との対比・判断 本件特許発明1と甲7発明2ないし甲7発明6を対比すると、上記アと同様の相当関係が成り立ち、対比すれば、上記アと同様の一致点及び相違点があり、その判断も上記アのとおりである。 よって、本件特許発明1は、甲7発明2ないし甲7発明6でないし、甲7発明2ないし甲7発明6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ 甲7発明7ないし甲7発明36との対比・判断 本件特許発明1と甲7発明7ないし甲7発明36を対比すると、上記アと同様の相当関係が成り立ち、対比すれば、上記アと同様の一致点及び相違点があり、その判断も上記アのとおりである。 さらに、甲7発明7ないし甲7発明36は、レモンピールシングルオイルを減圧蒸留して濃縮したレモンオイルを用いていることから、レモンピールシングルオイルともテルペン類の組成が異なっている蓋然性が高く、一般的なレモンオイルの組成をそのまま適用することはできない。 よって、本件特許発明1は、甲7発明7ないし甲7発明36でないし、甲7発明7ないし甲7発明36に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 エ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7発明であるとはいえないし、甲7発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)アないしウで検討したとおり、本件特許発明1は、甲7発明ではなく、また、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2及び3は甲7発明ではないし、また、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件特許発明4について ア 甲7方法発明1との対比・判断 本件特許発明1と甲7方法発明1を対比すると、上記(2)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「アルコールの含有量が1v/v%〜15v/v%である柑橘系アルコール飲料における、方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点3> 本件特許発明4は、「d−リモネンの含有量が0.5mg/L〜30mg/L」と特定されているのに対し、甲7方法発明1は、そのような特定がない点。 <相違点4> 本件特許発明4は、「飲料中のメチルヘプテノンの含有量が15μg/L〜75μg/Lに調整する」と特定されているのに対し、甲7方法発明1は、このような特定がない点。 <相違点5> 本件特許発明4は、「苦味をマスキングする方法」と特定されているのに対し、甲7方法発明1は、このような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点4について検討すると、上記(2)アの相違点2と同旨であるから、上記(2)アで検討したとおり、相違点4は実質的な相違点で有り、また、甲7方法発明1において、相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 イ 甲7方法発明2ないし甲7方法発明36との対比・判断 本件特許発明4と甲7方法発明2ないし甲7方法発明36を対比すると、上記アと同様の相当関係が成り立ち、対比すれば、上記アと同様の一致点及び相違点があり、その判断も上記アで検討したとおりである。 そうすると、上記(2)イ及びウの場合と同様に判断される。 よって、本件特許発明4は、甲7方法発明2ないし甲7方法発明36でないし、甲7方法発明2ないし甲7方法発明36に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲7方法発明であるとはいえないし、甲7方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)本件特許発明5について 本件特許発明5は、請求項4を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(4)アないしウで検討したとおり、本件特許発明4は、甲7方法発明ではなく、また、甲7方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4の特定事項を全て含む発明である本件特許発明5は甲7方法発明ではないし、また、甲7方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (6)申立理由1についてのむすび したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 2 申立理由2(甲第1号証に基づく進歩性)について (1)甲1に記載された事項等 ア 甲1に記載された事項 甲1にはおおむね次の事項が記載されている。 ・「【0016】 本発明によれば、本発明によれば、原料由来の香味が良好であり、また、香気が際立つ一方で、泡立ちと泡持ちとが改善された発泡性アルコール飲料が提供される。 【発明を実施するための最良の形態】 【0017】 以下、本発明を実施するための最良の形態について具体的に説明する。 本発明は、アルコール飲料にカーボネーションを施すことにより炭酸ガスを含有させた発泡性アルコール飲料であって、アルコール濃度が3〜10v/v%、ガスボリュームが1.5〜3.5であり、かつオクテニルコハク酸デンプンとキラヤサポニンとを含有することを特徴とする、泡立ちと泡持ちとが改善された発泡性アルコール飲料にかかるものである。 ここで「アルコール飲料」とは、アルコール原料に、必要に応じて水、糖類、酸味料、香料等の食品添加物、その他の原料を混合して製造されるものをいう。アルコール原料としては特に限定はなく、例えば、醸造アルコール、スピリッツ類(ラム、ウオッカ、ジン等)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー又は焼酎(連続式蒸留しょうちゅう、単式蒸留しょうちゅう等)等が挙げられ、さらには清酒、ワイン、ビール等の醸造酒類でもよい。これらのアルコール原料については、それぞれ単独又は併用して用いることができるが、その香味を生かすようなアルコール原料を選択することが好ましい。 【0018】 上記のとおり、本発明でいう「発泡性アルコール飲料」とは、アルコール飲料にカーボネーションを施すことにより炭酸ガスを含有させたアルコール飲料をいう。発泡性アルコール飲料の例としては、いわゆるチューハイ、フィズ、ワインクーラー等のリキュール類等が挙げられる。」 ・「【0025】 本実施形態における果汁としては、例えば、原料果実から圧搾した搾汁液を用いることができる。果汁には、濃縮果汁とストレート果汁(未濃縮果汁)がある。濃縮果汁の中では、カットバックとフレーバー還元とを併用した濃縮果汁が、原料果汁としては最も風味の優れたものである。ストレート果汁には、無殺菌果汁、殺菌果汁、殺菌冷凍果汁等がある。本実施形態では未濃縮のストレート果汁、特に加熱処理を行っていないストレート果汁を用いることが好ましいが、原料果実由来の香味が良好に保持されていれば特に限定はない。果汁の含有量としては特に限定はないが、例えば0.1〜50%である。 果汁の由来となる原料果実の種類には特に限定はなく、また、1種又は2種以上でもよい。例えば、柑橘類果実(レモン、グレープフルーツ、ライム、オレンジ、温州ミカン、マンダリン、タンジェリン、タンジェロ、カラマンシー等)、リンゴ、モモ、ウメ、メロン、イチゴ、バナナ、ブドウ、パイナップル、マンゴー、パパイヤ、パッションフルーツ、グアバ、アセロラ、ナシ、アンズ、ライチ、カシス、西洋ナシ、スモモ類等が使用できる。」 ・「【0029】 1.起泡剤の種類による泡立ち、泡持ちへの影響(予備検討) 発泡性アルコール飲料における、起泡剤の種類による泡立ちと泡持ちの効果を調べるために、モデル液を用いて泡立ち・泡持ち試験を行った。モデル液は、第1表に示す配合により、アルコール、水に果糖ぶどう糖液糖、レモンフレーバーを加え、得られた調合液を冷却、カーボネーション後、140mL壜に充填、密封後、中心部品温において65℃、10分間の加熱殺菌処理を行うことにより調製した(アルコール濃度:5v/v%、ガスボリューム:2.3)。 【0030】 【表1】 」 イ 甲1に記載された発明 甲1に記載された事項を、特に予備検討の例に関して整理すると、甲1には次の発明が記載されていると認める。 「95v/v%醸造アルコールを53mL、果糖ぶどう糖液糖を50g、レモン香料を0.02g含み、残余が脱イオン水である、合計1000mLのモデル液。」(以下、「甲1発明」という。) 「95v/v%醸造アルコールを53mL、果糖ぶどう糖液糖を50g、レモン香料を0.02g含み、残余が脱イオン水である、合計1000mLのモデル液を調製する、方法。」(以下、「甲1方法発明」という。) (2)本件特許発明1について ア 対比・判断 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の「モデル液」は、レモン香料を含有していることから、本件特許発明1の「柑橘系アルコール飲料」に相当する。 甲1発明は、1000mLのモデル液中に、53mLの95v/v%醸造アルコールを含有しており、アルコール含有量が約5v/v%であることから、本件特許発明1の「アルコール含有量が1v/v%〜15v/v%である」に相当する。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「アルコール含有量が1v/v%〜15v/v%である柑橘系アルコール飲料。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点6> 本件特許発明1は、「d−リモネンの含有量が0.5mg/L〜30mg/L」と特定されているのに対し、甲7発明1は、そのような特定がない点。 <相違点7> 本件特許発明1は、「メチルヘプテノンの含有量が15μg/L〜75μg/L」と特定されているのに対し、甲7発明1は、このような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点7について検討すると、上記1(2)アの相違点2と同旨であるから、上記1(2)アで検討したとおり、実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「甲3号及び甲4号の記載(甲3−1及び甲4−1)から、上記レモン香料の10%を占めるレモンオイルは、約60〜約68%程度のリモネンを含有し、きわめて少量〜約0.05%のメチルヘプテノンを含有する。甲12号証から、レモンオイルのリモネンはd−リモネンであるといえる(甲12−1)。甲3号及び甲4号の記載から、甲2号に記載の標準的なレモン香料は、以下の成分比を有する。・・・甲2号に記載された慣用される汎用品のレモン香料を、甲1発明において用いると、甲1発明のレモン香料の含有量は20mg(0.02g)/Lであることから、甲1発明において以下の成分比を有することとなる。」(特許異議申立書28ページ下から9行〜29ページ13行)と主張するが、甲1発明のレモン香料が、甲2のレモン香料であると特定することができないし、甲2のレモンオイルが、甲3及び甲4に記載のレモンオイルであると特定することができないことから、甲2ないし甲4の組成を、甲1発明のレモン香料に適用することはできない。 よって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 また、甲1には、甲1発明において、相違点7に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。 したがって、甲1発明において、相違点7に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明1の奏する「柑橘系アルコール飲料に対し、一定濃度範囲のメチルヘプテノンを含有させることにより、リモネンとアルコールとの共存による苦味をマスキングすることができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0007】)、及び「苦味がマスキングされながらも、飲料自体の美味しさも一定程度以上保持している」(同【0009】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2及び3について 本件特許発明2及び3は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(2)アで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2及び3は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (4)本件特許発明4について ア 対比・判断 本件特許発明4と甲1方法発明を対比すると、上記(2)アと同様の相当関係が成り立つ。 そうすると、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「アルコールの含有量が1v/v%〜15v/v%である柑橘系アルコール飲料における、方法。」 そして、両者は次の点で相違する。 <相違点8> 本件特許発明4は、「d−リモネンの含有量が0.5mg/L〜30mg/L」と特定されているのに対し、甲7方法発明1は、そのような特定がない点。 <相違点9> 本件特許発明4は、「飲料中のメチルヘプテノンの含有量が15μg/L〜75μg/Lに調整する」と特定されているのに対し、甲7方法発明1は、このような特定がない点。 <相違点10> 本件特許発明4は、「苦味をマスキングする方法」と特定されているのに対し、甲7方法発明1は、このような特定がない点。 そこで、事案に鑑み、相違点9について検討すると、上記(4)アの相違点4と同旨であるから、上記(4)アで検討したとおり、相違点9は実質的な相違点で有り、また、甲1方法発明において、相違点9に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。 イ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)本件特許発明5について 本件特許発明5は、請求項4を引用して特定するものであり、本件特許発明4の発明特定事項を全て有するものである。 そして、上記(4)アで検討したとおり、本件特許発明4は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明4の特定事項を全て含む発明である本件特許発明5は、甲1方法発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでない。 (6)申立理由2についてのむすび したがって、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。 第5 結語 上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし5に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-11-04 |
出願番号 | P2017-229673 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C12G)
P 1 651・ 113- Y (C12G) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
植前 充司 ▲吉▼澤 英一 |
登録日 | 2021-12-10 |
登録番号 | 6991841 |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | リモネンを含有する柑橘系アルコール飲料 |
代理人 | 中西 基晴 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 小笠原 有紀 |
代理人 | 宮前 徹 |