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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C12G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C12G
管理番号 1392073
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-13 
確定日 2022-11-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6993109号発明「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6993109号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6993109号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成29年6月2日(優先権主張 平成28年6月3日)の出願であって、令和3年12月13日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、令和4年1月13日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月13日に特許異議申立人 田中 眞喜子(以下、「特許異議申立人A」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし10)、特許異議申立人 竹口 美穂(以下、「特許異議申立人B」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし10)、特許異議申立人 松山 徳子(以下、「特許異議申立人C」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし10)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料であって、全タンパク量に対する分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率が2.5%より大きく、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項2】
麦芽使用比率が50%以上である、請求項1に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料。
【請求項3】
分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を配合する工程を含んでなる、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法であって、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、製造方法。
【請求項4】
分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドが飲料中の全タンパク量に対して2.5%以上の比率となるよう配合される、請求項3に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
前記ペプチドを含む原料から該ペプチドを調製する工程をさらに含んでなる、請求項3または4に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
限外濾過法および硫安沈殿法により前記ペプチドを調製する、請求項5に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
前記ペプチドを含む原料が、麦芽および/または未発芽の麦類あるいはその加工品である、請求項5または6に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
前記ペプチドを含む原料が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料である、請求項5〜7のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。
【請求項9】
分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を有効成分として含んでなる、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤であって、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、風味改善剤。
【請求項10】
分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を添加する工程を含んでなる、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法であって、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、風味改善方法。」

第3 特許異議申立理由の概要

特許異議申立人AないしCがそれぞれ申し立てた請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

1 特許異議申立人Aが申し立てた特許異議申立理由
特許異議申立人Aが申し立てた請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)ないし(9))は、次のとおりである。

(1) 申立理由A1(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由A1の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

・(「ペプチド画分に含まれるペプチド」に関する点)
本件明細書において「トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1」の全てを如何にして含有させることができるかのガイダンスはなく、分子量10〜20kDaのペプチド画分に含まれるペプチドであれば必ずこれらのペプチドを含むという技術常識が存在しないところ、如何にしてこれらのペプチドを含有させればよいか当業者であっても理解できない。
特に、脂質転移タンパク質として同定されたNon-specific lipid transfer Protein 1 (LTPl)は9700Daであることが知られており(甲第A1号証)、このような分子量範囲外のペプチドを如何にして10〜20kDaのペプチド画分中に含ませればよいか、当業者であっても全く理解できない。
また、本件明細書の段落0036〜0037では、大麦麦芽、ホップ、酵素製剤を用いて試験区2を調製し、小麦は使用されていないが、このような小麦を用いない製造原料から如何にして小麦由来のアベニン・ライクa1を含むペプチド画分が得られるのか、当業者であっても全く理解できない。
なお、本件の出願後に公開された文献ではあるが、10〜20kDaのペプチド画分に着目した特許出願が同じ出願人から出されている(甲第A2号証)。この公報では、図11のB及びDの2種の飲料における10〜20kDaのペプチド画分についてビールらしい味わいに寄与するタンパク質の同定を試みているが、この結果を参照すると、LTP1はBからは検出されておらずDのみで検出されている。また、小麦由来のアベニン・ライクa1はB、Dいずれの飲料からも検出されていない。このように、LTP1や小麦由来のアベニン・ライクa1が10〜20kDaのペプチド画分中に含まれたり含まれなかったりする場合があるということが分かる。これは、使用原料や製造条件等の違いによるものと推認されるが、本件明細書において「トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1」の全てを如何にして含有させることができるかのガイダンスはなく、これら全てのペプチドを含有させる条件を検討するためには過度の試行錯誤が必要である。
また、そもそも、本件特許発明の実施をするためには、10〜20kDaのペプチド比率を確認し、更に「トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1」が含まれていることを確認するという、通常のビール造りにおいては測定することのない特殊な項目について2段階の確認を逐一行う必要があり、過度の試行錯誤を要する。従って、実施可能要件違反である。

(2) 申立理由A2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由A2の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

ア 申立理由A2−1(「ペプチド画分に含まれるペプチド」に関する点)
本件特許発明1、3、9、10及びこれらを引用する本件特許発明2、4〜8はいずれも分子量10〜20kDaのペプチド画分に含まれるペプチドとして「トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1」を全て含むことが規定されている。
しかしながら、これら「トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1」を全て含む低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料により所望の課題を解決したことは、本件明細書において何ら具体的に示されていない。
これらのペプチドは参考例1で得られた試験区2における10〜20kDaのペプチドを同定したものとされているが(本件明細書の実施例3)、本件特許発明の課題(本件明細書の段落0004、0005)である「味のスムーズさ」及び「味の持続性」について具体的に評価しているのは、参考例1とは関係のない試醸品であるサンプル番号1〜4(本件明細書の段落0053〜0057、表7)と、サンプル番号2に対して市販のオールモルトビール由来の画分を添加したサンプル番号5〜8(本件明細書の段落0076〜0082、0094、表9、11)のみであり、これらのサンプル番号1〜8において本件特許発明で規定する「トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1」を含むか否かは確認されていない。また、分子量10〜20kDaのペプチド画分に含まれるペプチドであれば必ずこれらのペプチドを含むという技術常識も存在しない。従って、実施例のサンプル番号1〜8においてこれらのペプチドが含まれているかどうかは全く不明である。
従って、「トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移夕ンパク質およびアベニン・ライクa1」を含む場合に所望の課題を解決できるとは理解できず、サポート要件違反である。

イ 申立理由A2−2(「低糖質」に関する点)
本件特許発明においては、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料」と規定されているが、表7、9、11に示すように本件明細書において所望の課題を解決できたことが具体的に示されているのは糖質濃度が「1.0〜1.2g/100mL」の飲料だけであり、「0.9mg/100mL」のサンプル1では課題が解決できていないことをみても、「1.0g/100mL」より低糖質の飲料においてまで所望の課題を解決できると理解することはできない。
従って、適切な糖質濃度が規定されていない本件特許発明はいずれもサポート要件違反である。

ウ 申立理由A2−3(ペプチド比率に関する点)
本件特許発明においては、「全タンパク量に対する分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率」(以下、単にペプチド比率という)が「2.5%より大きく」と規定されているが、表7、9、11に示すように本件明細書において所望の課題を解決できたことが具体的に示されているのはペプチド比率が「4.7〜5.7%」の飲料だけであり、「2.5%」のサンプル1では課題が解決できていないことをみても、「2.5%」を僅かに上回る程度の飲料(例えば、2.6%)や、「5.7%」を大きく上回る飲料(例えば、30%)においてまで所望の課題を解決できると理解することはできない。
従って、ペプチド比率について適切な上下限値が規定されていない本件特許発明はいずれもサポート要件違反である。

エ 申立理由A2−4(ペプチドの量の規定に関する点)
本件特許発明においては、「分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量」(以下、単に10〜20kDaのペプチド量という)について規定されていない。しかしながら、表7、9、11に示すように本件明細書において所望の課題を解決できたことが具体的に示されているのは10〜20kDaのペプチド量が「0.15〜0.27mg/mL」の飲料だけであり、「0.12mg/mL」のサンプル1では課題が解決できていないことをみても、「0.12mg/mL」を更に下回る飲料(例えば、0.01mg/mL)や、「0.27mg/mL」を大きく上回る飲料(例えば、1.00mg/mL)においてまで所望の課題を解決できると理解することはできない。
即ち、本件特許発明の課題の一つである「味の持続性」を達成するためには持続が感じられるだけの強度も必要であり、ペプチド比率さえ満たせば有効成分が少量であっても課題が解決できるとは理解できない。実際に、10〜20kDaのペプチド量が少ない「0.12mg/mL」のサンプル1は課題が解決できておらず、「0.12mg/mL」の場合にペプチド比率を満たせば課題を解決できることすら示されていない。
また、ペプチドの総量が多くなる程、本件特許発明の課題の一つである「味のスムーズ」を阻害すると考えられ、ペプチド比率さえ満たせば10〜20kDaのペプチド量が0.27mg/mLより多い場合でも同様に課題を解決できるとは理解できない。
従って、10〜20kDaのペプチド量が規定されていない本件特許発明はいずれもサポート要件違反である。

オ 申立理由A2−5(麦芽使用比率に関する点)
本件特許発明1、3〜10においては麦芽使用比率が規定されておらず、本件特許発明2においては麦芽使用比率が50%以上とされている。しかしながら、本件明細書において所望の課題を解決できたことが具体的に示されているのは麦芽使用比率が67%以上の飲料のみであり、これより低い麦芽使用比率においてまで所望の課題を解決できると理解することはできない。
即ち、麦芽使用比率の違いによりビールテイスト発酵アルコール飲料の呈味が大きく変わることや、麦芽使用比率が低くなるほどビールらしさが無くなる傾向にあることは言うまでもないことであり、本件明細書の段落0004においても「ビールは、発泡酒や新ジャンルと比べて柔らかでスムーズなテクスチャーを有し、ボディ感が強いなどの好ましい味の特徴がある。」と記載されている。してみると、本件明細書において麦芽使用比率67%以上で「ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャー」等の課題が解決できたことが開示されていたとしても、麦芽使用比率67%未満のようなビールらしさがより失われている飲料においてまで所望の課題を解決できると理解することはできない。
従って、麦芽使用比率について適切な下限値が規定されていない本件特許発明はいずれもサポート要件違反である。

(3) 申立理由A3(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由A3の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

・(ペプチド画分の範囲の外縁に関する点)
10〜20kDaのペプチド画分には、9700Daなどの10〜20kDaの範囲外のペプチドが含まれるとされている。従って、10〜20kDaのペプチド画分の外縁が不明確である。
このように外縁が不明確であると、本件特許発明の要件であるペプチド比率が2.5%を超えるか否かを正確に判断することができず、第三者に不測の不利益を与えることとなる。即ち、ペプチド画分の下限値が文言通り10.0kDaの画分を分析してペプチド比率を算出すればよいのか、LTP1を含むように下限値が9.7kDaの画分を分析してペプチド比率を算出すればよいのか、或いはより余裕をみて下限値が9.5kDaの画分を分析してペプチド比率を算出すればよいのか分からない。この点について、本件の分画の際に決定した分子量に測定誤差等がありLTP1が10〜20kDaのペプチド画分中に存在することとなったと仮定しても、本件特許発明を実施しようとする第三者が、本件特許発明を文言通り誤差のない正確な分画をして「10〜20kDa」のペプチド画分により実施しようとした場合には、この分子量範囲外(9700Da)であるLTP1がペプチド画分中に基本的に含まれることはないという事実が変わるものではない。換言すれば、仮にペプチド画分にLTP1が含まれているというのであれば、それは「10〜20kDa」のペプチド画分ではなく、「9.7〜20kDa」のペプチド画分を分析しているというべきである。従って、LTP1を必ず含む画分を規定するのであれば「9〜20kDa」や「8〜20kDa」などとして必ずLTP1が含まれる分子量範囲で規定すべきであったのであり、これを看過して「10〜20kDa」と記載したことによる不利益は特許権者が負うべきである。即ち、第三者がペプチド画分の分析に際し、本件の記載不備によって翻弄され、どのような匙加減で分析を行えばよいかなどということで悩まされるべきではない。
また、充足性判断に関し、本件特許発明は分子量10〜20kDaのペプチド画分中に含まれるペプチドの比率が規定されているところ、本件明細書には分画条件が詳細に記載されていないことから、ゲル濾過法で分画しても条件次第では少なくとも数%〜十数%のような無視できないレベルで結果にブレが生じるおそれがある。
「分子量10〜20kDaのペプチド画分に含まれるペプチド」とLTP1で分子量条件に不整合がある。

(4) 申立理由A4−1(甲第A3号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1、2、9及び10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(5) 申立理由A4−2(甲第A8号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A8号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(6) 申立理由A4−3(甲第A9号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A9号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(7) 申立理由A5−1(甲第A3号証を根拠とする進歩性
本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(8) 申立理由A5−2(甲第A8号証を根拠とする進歩性
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A8号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(9) 申立理由A5−3(甲第A9号証を根拠とする進歩性
本件特許の請求項1ないし8に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第A9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(10) 証拠方法
・甲第A1号証:特表平9−505997号公報
・甲第A2号証:特開2020−72746号公報
・甲第A3号証:国際公開第2014/196265号
・甲第A4号証:「醸造物の成分」財団法人日本醸造協会、平成11年12月10日発行、pp.196-201
・甲第A5号証:NIELS BINDESBOLL NIELSEN and FINN SCHMIDT 「THE FATE OF CARBOHYDRATES DURING FERMENTATION OF LOW CALORIE BEER」 Carlsberg Res. Commun.、Vol.50、p.325-332、1985
・甲第A6号証:木村良臣他、「ライトビールの創成〜香味品質の設計技法の開発と応用」、日本農芸化学会誌、Vol.61、No.7、p.793-802、1987年
・甲第A7号証:特開2011−227070号公報
・甲第A8号証:国際公開第2009/051127号
・甲第A9号証:特開2012−147780号公報
・甲第A10号証:再公表特許2011/052483号
・甲第A11号証:本件の令和3年9月1日付け意見書
・甲第A12号証:尾崎一隆・鰐川彰、「官能評価と化学分析によるビールの“おいしさ”の解析」、醸協、2008、第103巻、第3号、pp.150-162

なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立人Aの特許異議申立書における記載にしたがった。

2 特許異議申立人Bが申し立てた特許異議申立理由
特許異議申立人Bが申し立てた請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)及び(2))は、次のとおりである。

(1) 申立理由B1(甲第B1号証を根拠とする進歩性
本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(2) 申立理由B2(甲第B4号証を根拠とする進歩性
本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第B4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 証拠方法
・甲第B1号証:特開2011−227070号公報
・甲第B2号証:宮地秀夫、ビール醸造技術、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日、379-401頁
・甲第B3号証:特表平9−505997号公報
・甲第B4号証:国際公開第2011/052483号
・甲第B5号証:特開2016−123400号公報
・甲第B6号証:池中徳治ら、「トリプシンインヒビターの化学」、化学と生物、Vol.8、No.1、1970年、1-13頁
・甲第B7号証:光永俊郎、「食料としての植物種子の成分特性について」、近畿大学農学部紀要、35号、近畿大学農学部発行、2002年3月、71-87頁
・甲第B8号証:山田千佳子ら、「米アレルゲンタンパク質とその低減化」、川崎医療福祉学会誌、Vol.16、No.1、2006、21-29
・甲第B9号証:澤田小百合ら、「豆類のα−アミラーゼインヒビターに関する研究」、Bull.Mukogawa Women's Univ. Nat. Sci.、43、17-23 (1995)、武庫川女子大紀要(自然科学)
・甲第B10号証:山口(村上)友貴絵ら、「抗大麦Lipid Transfer Protein抗体を用いたビールの品質管理評価系の確立」、日本食品科学工学会誌、第56巻、第2号、2009年2月、64-71頁
・甲第B11号証:岡崎史子、「モノクローナル抗体を用いた免疫学的手法による食の安全・安心の確保」の第2章(19-35頁)、発行日2014年3月15日、京都女子大学(博士論文)、[online]、[令和4年7月6日検索]、インターネット ・甲第B12号証:Journal of Cereal Science 44 (2006) 75-85

なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立人Bの特許異議申立書における記載にしたがった。

3 特許異議申立人Cが申し立てた特許異議申立理由
特許異議申立人Cが申し立てた請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記(1)及び(4))は、次のとおりである。
(1) 申立理由C1(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由C1の具体的理由の概略は、次のとおりである。

ア 申立理由C1−1
分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率を2.5%より大きくする方法が、実施例1のサンプル番号1及び2の製造方法から理解できない。

イ 申立理由C1−2
ペプチドがアベニン・ライクa1(小麦由来)を含むようにする方法が実施例から理解できない。

ウ 申立理由C1−3
「実施例1、2、4」の官能評価の対象物と「参考例1、実施例3」で同定したペプチドの種類が関連していないので、実施例1、2、4の官能評価の結果と実施例3で同定したペプチドの種類の関連が理解できない。

(2) 申立理由C2(甲第C1号証を根拠とする新規性
本件特許の請求項1、2及び9に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第C1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3) 申立理由C3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由C3の具体的理由の概略は、次のとおりである。

ア 申立理由C3−1
請求項1において、「前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、」と規定されているが、ペプチドの由来についての特定が不充分である。

イ 申立理由C3−2
4種のペプチドは参考例1の飲料と同等の飲料に由来する、と特定すべきである。

ウ 申立理由C3−3
ペプチド比率は「2.5%より大きく」としか規定されていないが、実施例ではペプチド比率が4.7〜5.7%のものしかサポートされていない。

エ 申立理由C3−4
糖質濃度が「低糖質」としか規定されていないが、実施例では1.0〜1.2g/100mLのものしかサポートされていない。

オ 申立理由C3−5
麦芽使用比率が67%以上のものしかサポートされていない。

(4) 申立理由C4(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由C4の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

ア 申立理由C4−1
参考例1の試験区2の製造において小麦が使用されたという記載がないが、参考例1以外の各実施例1、2及び4においても、原料に小麦を使用したことが記載されていない。
従って、実施例1、2及び4において製造した飲料において、小麦由来のアベニン・ライクa1が含まれているのかが不明であり、これらの実施例が本件特許発明1に規定する要件を満たすのかが不明である。すなわち、本件特許発明1に記載の発明の範囲が不明確であるというべきである。

イ 申立理由C4−2
「低糖質」の語の範囲が定められていないので、当業者が本件特許発明1の範囲に含まれる「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料」の範囲を理解できない。すなわち、本件特許発明1に記載の発明の範囲が不明確であるというべきである。

(5) 証拠方法
・甲第C1号証:国際公開第2014/196265号

なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立人Cの特許異議申立書における記載にしたがった。

第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、特許異議申立人AないしCが申し立てる申立理由はいずれもその理由がないものと判断する。

1 特許異議申立人Aが申し立てた申立理由について
(1) 申立理由A1(実施可能要件)について
実施可能要件の判断基準
本件特許発明1、2及び9は、上記第2のとおり、「物」の発明であるところ、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、例えば、明細書等にその物を生産することができる具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
また、本件特許発明3ないし8は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
さらに、本件特許発明10は、上記第2のとおり「方法」の発明であるところ、方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等にその方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

実施可能要件についての判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料において、特定分子量のペプチドがビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーの付与や味の持続性に寄与することを見出した」(【0006】)ものであって、「全タンパク量に対する分子量10〜20kDaのペプチド量の比率(ペプチド比率)(好ましくは、ビールテイスト発酵アルコール飲料の原料に由来する分子量10〜20kDaのペプチド比率)が特定値以上であることを特徴とする」(【0014】)ものであり、「ペプチドの「分子量」はHPLCゲル濾過法により測定される」(【0014】)こと、「本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は分子量10〜20kDaのペプチド比率と、場合によっては重合度5〜10のα−グルカン濃度が所定値の範囲内に調整される限り、通常の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる」(【0019】)こと、「本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製法において製造飲料中の分子量10〜20kDaのペプチド比率を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込み・糖化工程におけるタンパク分解を抑制することや、原料である麦芽の製麦工程におけるタンパク分解度を抑制することなどにより、調整することができる」(【0022】)こと、また、「分子量10〜20kDaのペプチドを含む原料から、該ペプチドを含む画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量10〜20kDaのペプチド比率が所定値の範囲内に調整されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる」(【0024】)ことが記載され、具体的な参考例や実施例の記載もある。
してみれば、本件特許発明1及び2、本件特許発明9、本件特許発明3ないし8及び本件特許発明10は、上記アに掲げる実施可能要件における判断基準を充足するものといえる。

ウ 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、甲第A1号証をあげつつ、大麦由来の「アベニン・ライクa1」の分子量の点をあげ、本件特許発明は実施可能要件を満たさない旨主張するが、実施可能要件については上記イのとおりに判断されるものであって、当該特許異議申立人Aの主張は上記判断に影響しない。
また、特許異議申立人Aは、実施例3に関し、試験区2で小麦を用いていないにも関わらず、小麦由来のアベニン・ライクa1を含むペプチド画分が得られたとする点をあげ主張するが、実施例3の記載に関し、整合しない記載があることのみをもって、本件特許発明が実施可能要件を満たさないものと判断することもできない。

エ 申立理由A1についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由A1は、その理由がない。

(2) 申立理由A2(サポート要件)について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ サポート要件についての判断
本件特許発明の解決しようとする課題は、「ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、味の持続性が認められる、新しい香味を有する低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料とその製造方法を提供すること」、及び、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤と風味改善方法を提供すること」(【0005】)(以下、「発明の課題」という。)であり、「本発明者らは、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料において、特定分子量のペプチドがビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーの付与や味の持続性に寄与することを見出した。本発明者らはまた、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料において、特定分子量のペプチドの比率を特定範囲内にすることで、よりビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーや味の持続性が実現できることを見出した。本発明者らはさらに、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善に寄与するペプチドを具体的に特定した」(【0006】)こと、「本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料では味のスムーズさと味の持続性が付与されることにより、低糖質のビールテイスト発酵アルコール飲料の香味上の課題を解決することができる」(【0015】)こと、「本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料では、全タンパク量に対する分子量10〜20kDaのペプチド量の比率を2.5%より大きい比率にする」(【0016】)こと、「本発明の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料は分子量10〜20kDaのペプチド比率と、場合によっては重合度5〜10のα−グルカン濃度が所定値の範囲内に調整される限り、通常の低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造手順に従って製造することができる」(【0019】)こと、「製造飲料中の分子量10〜20kDaのペプチド比率を所定値の範囲内に調整するためには、例えば、原料である麦芽および/または未発芽の麦類の仕込み・糖化工程におけるタンパク分解を抑制することや、原料である麦芽の製麦工程におけるタンパク分解度を抑制することなどにより、調整することができる」(【0022】)こと、「また、分子量10〜20kDaのペプチドを含む原料から、該ペプチドを含む画分を調製し、該画分をビールテイスト発酵アルコール飲料に添加することによって、分子量10〜20kDaのペプチド比率が所定値の範囲内に調整されたビールテイスト発酵アルコール飲料を製造することができる」(【0024】)こと、「原料からの分子量10〜20kDaの1種または2種以上のペプチドの調製手段としては、限外濾過法および硫安沈殿法の組み合わせや、ゲル濾過分画および固相抽出カラムの組み合わせが挙げられ、工業的生産の観点からは限外濾過法および硫安沈殿法の組み合わせが好ましい」(【0028】)ことが記載され、全タンパクに対する分子量10〜20kDaのペプチド量の比率に着目した具体的な参考例、実施例についての記載もある。
これらの記載に接した当業者であれば、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料において、全タンパク量に対する分子量10〜20kDaのペプチド量の比率を2.5%より大きい比率にするとの特定事項を満たすことにより、発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1及び2、本件特許発明9、本件特許発明3ないし8及び本件特許発明10はいずれも、上記の発明の課題を解決できると認識できる特定事項を全て含みさらに限定するものであるから、本件特許発明1及び2、本件特許発明9、本件特許発明3ないし8及び本件特許発明10はいずれも、上記発明の課題を解決できるものといえる。

ウ 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、ペプチド画分に含まれるペプチドに関する点、低糖質に関する点、ペプチド比率に関する点、ペプチドの量の規定に関する点、麦芽使用比率に関する点をあげ縷々主張するが、何れの主張も上記判断には影響しない。

エ 申立理由A2についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由A2は、その理由がない。

(3) 申立理由A3(明確性要件)について
明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

明確性要件についての検討
本件特許発明1には、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料に関し、原料として「麦芽および/または未発芽の麦類」を含むこと、「全タンパク量に対する分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率が2.5%より大き」いこと、および、「ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来」すること、「前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む」ことが特定されており、その記載は明確である。
本件特許発明2、本件特許発明3ないし8、本件特許発明9及び本件特許発明10についても、同様に判断される。

ウ 特許異議申立人Aの主張について
特許異議申立人Aは、甲第A1号証をあげつつ、大麦由来の「アベニン・ライクa1」が9700Daであることをあげ、9700Daである「アベニン・ライクa1」が「10〜20kDa」に含むのか否かの判断が不明確となる点を主張するが、本件特許発明1には、「全タンパク量に対する分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率が2.5%より大きく、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む」と記載されていることからみて、その外延は明確であるといわざるを得ない。(【0024】や実施例の記載からみても、「分子量10〜20kDa」の画分として分離される範囲であることは明らかである。)
また、本件特許発明2、本件特許発明3ないし8、本件特許発明9及び本件特許発明10も同様に判断される。

エ 申立理由A3についてのまとめ
上記のとおりであるから、申立理由A3は、その理由がない。

(4) 申立理由A4−1及び申立理由A5−1(甲第A3号証を主たる根拠とする新規性進歩性)について
ア 主な証拠の記載事項等
(ア) 甲第A3号証の記載事項
甲第A3号証には、「発酵麦芽飲料及びその製造方法」に関し、次の記載がある。

「[0001] 本発明は、発酵原料に占める麦芽使用比率を高めた場合であっても、糖質含有量が充分に低減された発酵麦芽飲料を製造する方法、及び当該方法により製造された発酵麦芽飲料に関する。」

「[0009] 本発明は、発酵原料に占める麦芽使用比率にかかわらず、糖質含有量が顕著に低い発酵麦芽飲料、及び当該発酵麦芽飲料を製造する方法を提供することを目的とする。」

「[0041][実施例1]
200Lスケールの仕込設備を用いて、ビールテイスト飲料の製造を行った。まず、仕込槽に、28kgの麦芽の粉砕物、196Lの仕込水、及び麦芽粉砕物に対して20U/gのグルコアミラーゼ(天野エンザイム社製、製品名:グルクザイムNLP)を投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、当該麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約10℃に冷却した。当該冷麦汁をエキス9.4質量%に調整した後、試験サンプルには、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム社製、製品名:トランスグルコシダーゼL)を冷麦汁に対して80U/mL添加したが、対照サンプルには何も添加しなかった。両サンプルの発酵液をそれぞれ異なる発酵槽に導入し、ビール酵母を接種し、約10℃で7日間発酵させた後、8日間貯酒タンク中で熟成させてビールテイスト飲料(アルコール含有量:3.8容量%)を得た。
[0042] 得られたビールテイスト飲料について、イソマルトース、コウジビオース、及びニゲロースの含有量を測定した。測定結果を表1に示す。発酵工程においてトランスグルコシダーゼを添加した試験サンプルでは、いずれの糖類も含有量が5mg/L未満であり、トランスグルコシダーゼを添加しなかった対照サンプルよりも糖質含有量が顕著に低減していた。また、試験サンプルの糖質含有量は、0.4g/100mLであった。当該結果から、本発明に係る製造方法により、麦芽使用比率を100%とした場合であっても、糖質含有量が低く、低カロリーのビールテイスト飲料が製造できることが明らかである。」

(イ) 甲第A3号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に実施例1の記載を中心に整理すると、甲第A3号証には次の発明が記載されているものと認める。

「麦芽およびホップを原料とする糖質含有量が0.4g/100mLのビールテイスト発酵アルコール飲料。」(以下、「甲A3飲料発明」という。)

「麦芽およびホップを原料とする糖質含有量が0.4g/100mLのビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」(以下、「甲A3製造方法発明」という。)

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲A3飲料発明とを対比すると、甲A3飲料発明のビールテイスト発酵アルコール飲料の糖質含有量は「0.4g/100mL」であるから、甲A3飲料発明のビールテイスト発酵アルコール飲料は、本件特許発明1の「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
してみると、両者は、
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料。」
である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A3−1
低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料に関し、本件特許発明1は「全タンパク量に対する分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率が2.5%より大きく、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、」と特定するのに対し、甲A3飲料発明にはそのような特定がない点。

まず、上記相違点A3−1は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲A3飲料発明ではない。

次に、上記相違点A3−1について検討する。
「分子量10〜20kDaのペプチド画分に含まれるペプチド」に着目し、全タンパク質量に対する分子量10〜20kDaのペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率を調整しようとすること、当該ペプチド画分として、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料由来のものとすること、さらには、「ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む」ものとすることは、甲第A3号証及び他の全ての証拠の記載をみても導くことができない。
そして、本件特許発明1は、当該特定事項を満たすことにより、低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料において、「ビールらしい柔らかくスムーズなテクスチャーがあり、味の持続性が認められる」との格別の効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は、甲A3飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものはない。

なお、特許異議申立人Aは、ビールにおいて個別の公知のペプチドが含まれることなどを挙げつつ、本件特許発明1は甲A3飲料発明であるか、そうではないとしても甲A3飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、仮にビールテイスト発酵アルコール飲料において、個別の公知のペプチドが含まれるものであるとしても、その割合や含まれるペプチドも含め、甲A3飲料発明において上記相違点A3−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものということはできないし、また、全ての証拠をみても、相違点A3−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすように調整する動機もなく、さらに、その効果についても何ら示唆されるものでもない。
よって、特許異議申立人Aの上記主張は採用しない。

(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は、甲A3飲料発明ではなく、また。甲A3飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2も同様に、甲A3飲料発明ではなく、また、甲A3飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(ウ) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲A3製造方法発明とを対比すると、上記(ア)の場合と同様の相当関係があるといえるから、両者は、
「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A3−2
低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法に関し、本件特許発明3は、「分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を配合する工程を含んでなる」ものであって、「前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、」ことが特定されるのに対し、甲A3製造方法発明にはそのような特定がない点。

上記相違点A3−2について検討する。
相違点A3−2は、「工程」ではあるものの、その実質は相違点A3−1と同旨であるといえるから、上記(ア)の場合と同様に判断される。

したがって、本件特許発明3は、甲A3製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) 本件特許発明4ないし8について
本件特許発明4ないし8はいずれも、請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記(ウ)で検討のとおり、本件特許発明3は、甲A3製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3の全ての特定事項を含む本件特許発明4ないし8も同様に、甲A3製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ) 本件特許発明9について
本件特許発明9は、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤」に関する発明であるところ、甲第A3号証からは、「風味改善剤」についての発明を認定することができない。
仮に、甲第A3号証において「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤」の発明が記載されているものとしても、少なくとも本件特許発明9における「分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を有効成分として含んでなる、」ものであって、「前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む」との特定事項の点で明らかに相違するものであり、当該相違点は、上記(ア)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明9は、甲第A3号証に記載された発明ではなく、また、甲第A3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(カ) 本件特許発明10について
本件特許発明10は、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法」に関するものであるが、その特定事項からみて、上記(オ)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明10は、甲第A3号証に記載された発明ではなく、また、甲第A3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 申立理由A4−1及び申立理由A5−1についてのまとめ
上記イの検討のとおりであるから、申立理由A4−1及び申立理由A5−1は、その理由がない。

(5) 申立理由A4−2及び申立理由A5−2(甲第A8号証を主たる根拠とする新規性進歩性)並びに申立理由A4−3及び申立理由A5−3(甲第A9号証を主たる根拠とする新規性進歩性)について
ア 甲第A8号証に記載された発明
甲第A8号証の実施例1([0066])の記載を中心にまとめると、甲第A8号証には次の発明が記載されているものと認める。

2条大麦麦芽及びホップを原料とする糖質含有量が0.3g/100mLの発泡酒。」(以下、「甲A8飲料発明」という。)

2条大麦麦芽およびホップを原料とする糖質含有量が0.3g/100mLの発泡酒の製造方法。」(以下、「甲A8製造方法発明」という。)

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲A8飲料発明とを対比すると、甲A8飲料発明の「発泡酒」は、本件特許発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
また、甲A8飲料発明の「発泡酒」はその糖質含有量が0.3g/100mLであるから、本件特許発明1の「低糖質」との要件を満たす。
してみると、両者は、
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料。」
である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A8−1
低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料に関し、本件特許発明1は、「全タンパク量に対する分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率が2.5%より大きく、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、」と特定するのに対し、甲A8飲料発明にはそのような特定がない点。

まず、上記相違点A8−1は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は、甲A8飲料発明ではない。

次に、上記相違点A8−1について検討する。
相違点A8−1は、相違点A3−1と同旨であり、甲第A8号証及びその他の全ての証拠の記載をみても、上記(4)イ(ア)と同様に判断される。
よって、本件特許発明1は、甲A8飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は、甲A8飲料発明ではなく、また。甲A8飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2も同様に、甲A8飲料発明ではなく、また、甲A8飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(ウ) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲A8製造方法発明とを対比すると、上記(ア)の場合と同様の相当関係があるといえるから、両者は、
「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点A8−2
低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法に関し、本件特許発明3は、「分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を配合する工程を含んでなる」ものであって、「前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、」ことが特定されるのに対し、甲A8製造方法発明にはそのような特定がない点。

上記相違点A8−2について検討する。
相違点A8−2は、「工程」ではあるものの、その実質は相違点A8−1と同旨であるといえるから、上記(ア)の場合と同様に判断される。

したがって、本件特許発明3は、甲A8製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) 本件特許発明4ないし8について
本件特許発明4ないし8はいずれも、請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記(ウ)で検討のとおり、本件特許発明3は、甲A8製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3の全ての特定事項を含む本件特許発明4ないし8も同様に、甲A8製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 甲第A9号証を主たる証拠とした場合について
甲第A9号証の実施例1(【0048】、【表1】)の記載事項をもとに、次のように甲第A9号証に記載された発明、
「麦芽原料:水=1:3〜1:8となるように調整し、グルコアミラーゼ、プルラナーゼを添加した後、64℃にて2h糖化を行い、その後78℃で5分間保持し、麦汁濾過した後、10分間煮沸し、7℃に冷却後、濾過を行い、糖度を6.0重量%に調整した後、常法に従い発酵させることにより得られたビールテイスト発酵アルコール飲料。」
を認定し、本件特許発明1と対比しても、少なくとも上記相違点A8−1と同旨の相違点があって、上記イの場合と同様に判断されるから、本件特許発明1は甲第A9号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件特許発明2ないし8についても同様である。

エ 申立理由A4−2及び申立理由A4−3並びに申立理由A5−2及び申立理由A5−3についてのまとめ
上記イにおける検討のとおりであるから、申立理由A4−2及び申立理由A4−3並びに申立理由A5−2及び申立理由A5−3には、その理由がない。

2 特許異議申立人Bが申し立てた申立理由について
(1) 申立理由B1(甲第B1号証を主たる根拠とする進歩性)について
ア 主な証拠の記載事項等
(ア) 甲第B1号証の記載事項
甲第B1号証には、「コク味付与物質のスクリーニング方法、コク味付与物質及びその利用」に関し、次の記載がある。

「【請求項1】
カルボキシアルキルアミノ酸に対する抗体を使用し、該抗体に対する反応性を指標とすることを特徴とするコク味付与物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
カルボキシアルキルアミノ酸が、カルボキシメチルリジン又はカルボキシエチルリジンである請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
コク味付与物質が、甘味、塩味、酸味、苦味及びうま味の少なくとも一種を増強するものである請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
(a)抗体と被験物質とを接触させる工程、(b)被験物質に対する該抗体の結合を検出する工程、及び(c)該抗体に結合した被験物質を候補物質として選択する工程をこの順に含む請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
抗体が、モノクローナル抗体である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
被験物質が、麦汁由来のものである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により得られるコク味付与物質。
【請求項8】
麦芽煮沸液由来のものである請求項7に記載のコク味付与物質。
【請求項9】
カルボキシメチルリジンを含み、かつ分子量10〜20kDaのペプチドである請求項7又は8に記載のコク味付与物質。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載のコク味付与物質を指標とした、飲食品の評価方法又は製造工程管理方法。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれかに記載のコク味付与物質の量を測定する工程を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載のスクリーニング方法を行うためのカルボキシアルキルアミノ酸に対する抗体を含むコク味付与物質検出用キット。」

「【0001】
本発明は、コク味付与物質のスクリーニング方法、コク味付与物質、飲食品の評価方法又は製造工程管理方法、及びコク味付与物質の検出用キットに関するものである。」

「【0002】
飲食品分野において、呈味物質は古くから使用されてきた。特に、甘味、塩味、酸味、苦味に加え、2000年に舌の味蕾にある感覚細胞にグルタミン酸受容体(mGluR4)が発見されたうま味を加えた5基本味を有する物質又はこれらを増強する物質が調味料として広く利用されている。さらに、上記では表せない重要な味覚に「コク味」があり、これは、味の強さ(飲み応え)、味のひろがり(厚み)及び味の経時変化(余韻)が合わさったものである。」

「【0008】
本発明は、少量で優れたコク味付与作用を発揮するコク味付与物質の新規なスクリーニング方法、及び少量で優れたコク味付与作用を発揮するコク味付与物質を提供することを課題とする。さらに、コク味付与物質を指標とする飲食品の評価方法及び製造工程管理方法、並びにコク味付与物質の検出用キットを提供することも課題とする。」

「【0040】
本発明の方法においては、1種又は2種以上の被験物質を含む試料を用いてスクリーニングを行なうことができる。試料は特に限定されないが、例えば、飲食品、その原料、中間原料等を好適に用いることができ、例えば、加熱や熟成などの工程によりメイラード反応が進行した飲食品、その原料、中間原料を好適に用いることができ、発泡酒等のビールテイスト飲料、ビール、及びその原料(麦汁、麦芽等)等のほか、シチュー、カレー、ラーメンや蛋白質加水分解調味料など、長時間加熱する食品も好適に用いることができる。さらに、日本酒、ワイン、熟成チーズ、味噌、醤油、塩辛などの熟成発酵食品も好適に用いることができる。試料は、好ましくは、麦汁、ワイン、ビール、味噌、日本酒、熟成チーズ等であり、特に好ましくは麦汁である。」

「【0058】
実施例1
1.麦汁調製方法
欧州産麦芽を市販の穀類粉砕機で乾式粉砕し、その4倍の重量の水を加え、常法に従い52℃で20分、65℃で60分撹拌した後、遠心分離及び濾紙濾過によって麦汁を得た。得た麦汁をオートクレーブで100℃で90分間加熱して得られた液体を煮沸麦汁とした。
・・・
【0064】
実施例2
麦汁中の成分の分子量による分取
実施例1と同様にして得られた煮沸麦汁を、ゲルろ過により分子量で分画分取した。
すなわち、煮沸麦汁を透析膜(SPECTRUM LABS社製、Spectra/Por(登録商標)7、分画分子量10kDa)を用いて2日間透析を行い、低分子成分を麦汁中から除去した。得られた透析麦汁を、減圧下溶媒を留去することによって4倍程度に濃縮した後、ゲル濾過分画の大型カラム(長さ30cm、内径2cm)を用いて、水を移動相として分子量分画フラクションを得た。フラクションは各4mLとし、得られたフラクションをNo.1〜No.10とした。この操作を10回繰り返し、各操作で得られた同じ番号のフラクションを合一して官能実験及び競合ELISAに用いた。フラクション中のAGE産物(メイラード反応したタンパク質)量は実施例1の競合ELISA法により測定した。なお、合一した各フラクションは凍結乾燥により乾燥固体重量を測定した。
【0065】
その結果、フラクションNo.7、No.9及びNo.11中にタンパク質が検出された。結果を図3に示す。図3の縦軸は、フラクションあたりの乾燥固体重量を示す。さらに、分取した各フラクション中に含まれるメイラードタンパク質量を、競合ELISAにより測定した結果を図4に示す。図4から分かるように、AGE産物(メイラード反応したタンパク質)はフラクションNo.9からのみ検出された。
【0066】
実施例3
官能評価
上記のゲル濾過で得られたフラクションのうち、固体乾燥物が含まれているがAGE産物(メイラード反応したタンパク質)を含まないフラクションNo.7及びNo.11の画分とAGE産物(メイラード反応したタンパク質)を含むフラクションNo.9について、官能評価を行なった。具体的には各フラクションの固体乾燥物を市販のビール(サントリー酒類製)にそれぞれ10ppm増加するように添加したものをサンプルとし、該市販ビールをコントロールとして、訓練されたパネラーにより飲み応え、味の厚み、及び余韻の量を評価した。コントロールの値を1とし、各フラクションの飲み応え、味の厚み、及び余韻の量がコントロールよりも高く感じたときはスコアを2、強く感じたときのスコアは3として、それぞれのフラクションの固体乾燥物を評価した。
官能評価の平均スコアを、図5に示す。メイラード反応したタンパク質を多く含む画分(フラクションNo.9)は、他の画分と比較して味わい付与に効果が大きいことが分かった。」

「【図5】



(イ) 甲第B1号証に記載された発明
上記(ア)の記載、特に実施例2及び3の記載を中心にまとめると、甲第B1号証には次の発明が記載されているものと認める。

「麦芽を原料とする煮沸煮汁を透析膜(分画分子量10kDa)を用いて低分子成分を除去し、得られた透析麦汁を濃縮した後、ゲル濾過分画の大型カラムを用いて分子量分画フラクションを得て、得られた分画フラクションの固体乾燥物を市販のビールに10ppm増加するように添加した、ビール。」(以下、「甲B1ビール発明」という。)

「麦芽を原料とする煮沸煮汁を透析膜(分画分子量10kDa)を用いて低分子成分を除去し、得られた透析麦汁を濃縮した後、ゲル濾過分画の大型カラムを用いて分子量分画フラクションを得て、得られた分画フラクションの固体乾燥物を市販のビールに10ppm増加するようにを添加した、ビールの製造方法。」(以下、「甲B1ビール製法発明」という。)

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲B1ビール発明をと対比すると、甲B1ビール発明の「ビール」は、本件特許発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
また、甲B1ビール発明は「ビール」であるから、本件特許発明1の「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とする」との特定事項を満たすことは明らかである。
してみると両者は、
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
・相違点B1−1
ビールテイスト発酵アルコール飲料について、本件特許発明1は「低糖質」と特定されるのに対し、甲B1ビール発明にはそのような特定がない点。

・相違点B1−2
ビールテイスト発酵アルコール飲料について、本件特許発明1は「全タンパク量に対する分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率が2.5%より大きく、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、」と特定するのに対し、甲B1ビール発明にはそのような特定がない点。

事案に鑑み、まず相違点B1−2について検討する。
相違点B1−2は、上記1(4)イ(ア)の相違点A3−1と同旨であり、甲第B1号証及び他の全ての証拠の記載をみても、上記1(4)イ(ア)と同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B1ビール発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

なお、特許異議申立人Bは、甲第B2号証をあげつつ、ビールに分子量10〜20kDaのペプチドが所定量以上含まれることが知られていたことなどをあげ、本件特許発明1は、甲第B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、仮にビールにおいて、分子量10〜20kDaのペプチドが含まれるものであるとしても、他の全ての証拠をみても、相違点B1−2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすように調整する動機もなく、さらに、その効果についても何ら示唆されるものでもない。
よって、特許異議申立人Bの上記主張は採用しない。

(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は、甲B1ビール発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2も同様に、甲B1ビール発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲B1ビール製法発明とを対比すると、上記(ア)の場合と同様の相当関係がとれるから、両者は、
「ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点B1−3
製造するビールテイスト発酵アルコール飲料について、本件特許発明3は「低糖質」と特定されるのに対し、甲B1ビール製法発明にはそのような特定がない点。

・相違点B1−4
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法に関し、本件特許発明3は、「分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を配合する工程を含んでなる」ものであって、「前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、」ことが特定されるのに対し、甲B1ビール製法発明にはそのような特定がない点。

事案に鑑み、まず相違点B1−4について検討する。
相違点B1−4は、「工程」ではあるものの、その実質は相違点B1−2と同旨であるといえるから、上記(ア)の場合と同様に判断される。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲B1ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) 本件特許発明4ないし8について
本件特許発明4ないし8はいずれも、請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記(ウ)で検討のとおり、本件特許発明3は、甲B1ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3の全ての特定事項を含む本件特許発明4ないし8も同様に、甲B1ビール製法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ) 本件特許発明9について
本件特許発明9は、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤」に関する発明であるところ、甲第B1号証からは、「風味改善剤」についての発明を認定することができない。
仮に、甲第B1号証において「ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤」の発明が記載されているものとしても、少なくとも本件特許発明9における「分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を有効成分として含んでなる、」ものであって、「前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む」との特定事項の点で明らかに相違するものであり、当該相違点は、上記(ア)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明9は、甲第B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(カ) 本件特許発明10について
本件特許発明10は、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法」に関するものであるが、その特定事項からみて、上記(オ)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明10は、甲第B1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由B1についてのまとめ
上記イの検討のとおりであるから、申立理由B1は、その理由がない。

(2) 申立理由B2(甲第B4号証を主たる証拠とする進歩性)について
ア 甲第B4号証に記載された発明
甲第B4号証の実施例1([0132]ないし[0138]、[0172]ないし[0176]及び[図6B])の記載を中心にまとめると、甲第B4号証には次の発明が記載されているものと認める。

「大麦及び大麦麦芽からなる大麦原料、ホップを含む原料を使用して、糖化、発酵及び濾過により得られる発泡性アルコール飲料であって、ゲル濾過クロマトグラフィーで分子量10〜15kDaのポリペプチドのピークが検出される、発泡性アルコール飲料。」(以下、「甲B4飲料発明」という。)

「大麦及び大麦麦芽からなる大麦原料、ホップを含む原料を使用して、糖化、発酵及び濾過により得られる発泡性アルコール飲料の製造方法であって、ゲル濾過クロマトグラフィーで分子量10〜15kDaのポリペプチドのピークが検出される、発泡性アルコール飲料の製造方法。」(以下、「甲B4製造方法発明」という。)

なお、特許異議申立人Bは、特許異議申立書の第22頁において、甲第B4号証の図6Bほかの記載を参照しつつ、「ピーク面積の大きさから分子量10〜20kDaのペプチドが2.5%より多く含まれると推測される」旨主張するが、甲第B4号証の図6Bほかの記載を参照しても、「分子量10〜20kDaのペプチド」の割合を導くことはできない。

イ 対比・判断
本件特許発明1と甲B4飲料発明とを対比すると、甲B4飲料発明の「発泡性アルコール飲料」はその原料及び製造工程からみて、本件特許発明1の「ビールテイスト発酵アルコール飲料」に相当する。
してみると両者は、
「麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料。」
で一致し、次の点で相違する。
・相違点B4−1
ビールテイスト発酵アルコール飲料について、本件特許発明1は「低糖質」と特定されるのに対し、甲B4飲料発明にはそのような特定がない点。

・相違点B4−2
ビールテイスト発酵アルコール飲料について、本件特許発明1は「全タンパク量に対する分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率が2.5%より大きく、前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、」と特定するのに対し、甲B4飲料発明にはそのような特定がない点。

事案に鑑み、まず相違点B4−2について検討する。
相違点B4−2は、上記1(4)イ(ア)の相違点A3−1と同旨であり、甲第B4号証及び他の全ての証拠の記載をみても、上記1(4)イ(ア)と同様に判断される。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲B4飲料発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件特許発明2について
本件特許発明2は、請求項1の記載を引用して特定するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は、甲B4飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2も同様に、甲B4飲料発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ) 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲B4製造方法発明とを対比すると、上記(ア)の場合と同様の相当関係がとれるから、両者は、
「ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。

・相違点B4−3
製造するビールテイスト発酵アルコール飲料について、本件特許発明3は「低糖質」と特定されるのに対し、甲B4製造方法発明にはそのような特定がない点。

・相違点B4−4
ビールテイスト発酵アルコール飲料の製造方法に関し、本件特許発明3は、「分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を配合する工程を含んでなる」ものであって、「前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む、」ことが特定されるのに対し、甲B4製造方法発明にはそのような特定がない点。

事案に鑑み、まず相違点B4−4について検討する。
相違点B4−4は、「工程」ではあるものの、その実質は相違点B4−2と同旨であるといえるから、上記(ア)の場合と同様に判断される。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲B4製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ) 本件特許発明4ないし8について
本件特許発明4ないし8はいずれも、請求項3の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記(ウ)で検討のとおり、本件特許発明3は、甲B4製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3の全ての特定事項を含む本件特許発明4ないし8も同様に、甲B4製造方法発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(オ) 本件特許発明9について
本件特許発明9は、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤」に関する発明であるところ、甲第B4号証からは、「風味改善剤」についての発明を認定することができない。
仮に、甲第B4号証において「ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善剤」の発明が記載されているものとしても、少なくとも本件特許発明9における「分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分を有効成分として含んでなる、」ものであって、「前記ペプチド画分が、麦芽および/または未発芽の麦類を原料の少なくとも一部とするビールテイスト発酵アルコール飲料に由来し、かつ、前記ペプチド画分に含まれるペプチドが、トリプシン阻害タンパク質、αアミラーゼ阻害蛋白質、脂質転移タンパク質およびアベニン・ライクa1を含む」との特定事項の点で明らかに相違するものであり、当該相違点は、上記(ア)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明9は、甲第B4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(カ) 本件特許発明10について
本件特許発明10は、「低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料の風味改善方法」に関するものであるが、その特定事項からみて、上記(オ)と同様に判断される。
したがって、本件特許発明10は、甲第B4号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由B4についてのまとめ
上記イの検討のとおりであるから、申立理由B4は、その理由がない。

3 特許異議申立人Cが申し立てた申立理由について
(1) 申立理由C1(実施可能要件)について
実施可能要件における判断基準
実施可能要件における判断基準は、上記1(1)のアのとおりである。

実施可能要件についての判断
本件特許発明における実施可能要件の判断は、上記1(1)のイで検討したとおりである。

ウ 特許異議申立人Cの主張について
特許異議申立人Cは、実施例の記載をみても分子量10〜20kDa(HPLCゲル濾過法)のペプチド画分に含まれるペプチドの量の比率を2.5%より大きくする方法が理解できない点、ペプチドがアベニン・ライクa1(小麦由来)を含むようにする方法が実施例から理解できない点、複数の実施例の関係が理解できない点などをあげ、本件特許発明は、実施可能要件を満たしていない旨主張するが、本件特許発明1ないし10が実施できる程度に明細書の発明の詳細な説明に記載されていることは、上記1(1)のイにおいて判断したとおりであって、特許異議申立人Cの主張のような不自然な記載があったとしても、上記判断に影響しない。

エ 申立理由Cについてのまとめ
上記イの検討のとおりであるから、申立理由C1は、その理由がない。

(2) 申立理由C2(甲第C1号証を主たる根拠とする新規性)について
甲第C1号証は、上記1(4)で検討した甲第A3号証と同じ証拠である。
よって、上記1(4)における検討と同様に判断される。
したがって、申立理由C2は、その理由がない。

(3) 申立理由C3(サポート要件)について
ア サポート要件における判断基準
サポート要件における判断基準は、上記1(2)のアのとおりである。

イ サポート要件についての判断
本件特許発明におけるサポート要件の判断は、上記1(2)のイで検討したとおりである。

ウ 特許異議申立人Cの主張について
特許異議申立人Cは、ペプチドの由来を特定すべき点、ペプチド比率が実施例に比して大きい点、低糖質の濃度範囲と実施例との関係、麦芽使用比率と実施例との関係などをあげつつ、本件特許発明は、サポート要件を満たしていない旨主張するが、いずれの主張も上記イにおける判断には何ら影響しない。

エ 申立理由C3についてのまとめ
上記イの検討のとおりであるから、申立理由C3は、その理由がない。

(4) 申立理由C4(明確性要件)について
明確性要件の判断基準
明確性要件における判断基準は、上記1(3)のアのとおりである。

明確性要件についての判断
本件特許発明における明確性要件の判断は、上記1(3)のイで検討したとおりである。

ウ 特許異議申立人Cの主張について
特許異議申立人Cは、参考例1の試験区2において小麦を用いていないにもかかわらず、小麦由来のアベニン・ライクa1が含まれていると記載されていること、低糖質の範囲が明らかではないことなどをあげ、本件特許発明は明確性要件を満たしていない旨主張する。
しかし、本件特許発明の明確性要件は上記1(3)のイにおいて判断したとおりであって、上記主張のうち、参考例1の試験区2に関し、実施例3において不自然な記載があることは、上記判断に影響するものではない。
また、「低糖質」については、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の【0013】の記載もみれば、当業者であれば明確であるといえる。
よって、特許異議申立人Cの上記主張はいずれも採用しない。

エ 申立理由C4についてのまとめ
上記イの検討のとおりであるから、申立理由C4は、その理由がない。

第5 結語
以上のとおりであるから、特許異議申立人AないしCがそれぞれ提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-10-31 
出願番号 P2017-109693
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C12G)
P 1 651・ 537- Y (C12G)
P 1 651・ 113- Y (C12G)
P 1 651・ 121- Y (C12G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 平塚 政宏
植前 充司
登録日 2021-12-13 
登録番号 6993109
権利者 キリンホールディングス株式会社
発明の名称 低糖質ビールテイスト発酵アルコール飲料およびその製造方法  
代理人 榎 保孝  
代理人 大森 未知子  
代理人 横田 修孝  

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