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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1392077
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-19 
確定日 2022-11-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第7005680号発明「ポリイミドフィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7005680号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7005680号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成30年1月30日(優先権主張 平成29年2月1日)を出願日とする特願2018−13792号の一部を令和2年4月21日に新たな特許出願(特願2020−75562号)としたものであって、令和4年1月7日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月19日に特許異議申立人 石川 照子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし7)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
少なくとも1種のポリイミド系高分子を含有し、黄色度YIが0<YI<1.0であり、厚みが20〜200μmであり、全光線透過率が90.0%以上であるポリイミドフィルム、および
前記ポリイミドフィルムの視認側表面に配置されるハードコート層
を有するポリイミド積層体であって、
ハードコート層は、ウレタン(メタ)クリレート、アルキル(メタ)クリレート、エステル(メタ)クリレート及びエポキシ(メタ)クリレート、並びにその重合体及び共重合体からなる群から選択されるアクリル系樹脂を含み、
ポリイミド系高分子は、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1〜40質量%のフッ素原子を含む、
フレキシブルディスプレイの前面板用のポリイミド積層体。
【請求項2】
少なくとも1種のブルーイング剤をさらに含有する、請求項1に記載のポリイミド積層体。
【請求項3】
ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する層を少なくとも有する積層体であるか、ポリイミド系高分子を含有する基材層とブルーイング剤を含有するハードコート層を少なくとも有する積層体であるか、又は、ポリイミド系高分子を含有する基材層と、ハードコート層と、ブルーイング剤を含有する色相調整層を少なくとも有する積層体である、請求項1又は2に記載のポリイミド積層体。
【請求項4】
少なくとも1層のブルーイング剤を含有する層を含み、ブルーイング剤を含有する各層における、該層の全質量を基準とするブルーイング剤の添加量をX(ppm)とし、該層の厚みをY(μm)として算出されるXとYの積(X×Y)を、ブルーイング剤を含有する全ての層について算出して合計した値は300〜4,500である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド積層体。
【請求項5】
ブルーイング剤は、式(6):
【化1】

[式(6)中、X1はOH、NHR1又はNR1R2を表し、X2はNHR3又はNR3R4を表し、R1、R2、R3及びR4は、互いに独立して、炭素数1〜6の直鎖状又は分枝状アルキル基、又は、炭素数1〜6の直鎖状又は分枝状アルキル基で置換されたフェニル基を表す。]
で表され、220℃以上の1%熱重量減少温度を有する化合物である、請求項2〜4のいずれかに記載のポリイミド積層体。
【請求項6】
ブルーイング剤は、式(1)〜式(3):
【化2】

で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項5に記載のポリイミド積層体。
【請求項7】
さらにシリカ粒子を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のポリイミド積層体。」

第3 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由の概要
令和4年7月19日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した特許異議申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第3号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許の請求項1において、黄色度YI、厚み及び全光線透過率の特定は、その改行の仕方からするとポリイミドフィルムを特定しているように読める。
しかしながら、本件特許発明1により課題を解決できることを示す実施例は存在しない。
本件特許明細書の実施例と記載されている例のうち、積層体の実施例は実施例2のみであり、他の実施例と記載されている例は積層体ではなく、参考例とすべき例である。実施例2の積層体におけるポリイミドフィルムは、ブルーイング剤の添加量を0ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして得たポリイミドフィルムである。比較例1はブルーイング剤の添加量を0.63ppmとしたこと以外は実施例1と同様にして得たポリイミドフィルムであり、黄色度YIが1.5である。従って、実施例2の積層体におけるポリイミドフィルムは黄色度YIが0<YI<1.0を満たさないことは明らかである。
以上のように、本件特許発明1により課題を解決できることを示す実施例は存在せず、本件特許発明1の全般にわたり、発明の課題を解決し得るものとは認められない。
よって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
また、本件特許の請求項1において、黄色度YI、厚み及び全光線透過率の特定が積層体に係るものであったとしても、本件特許発明3に係る発明の実施形態のうち、ポリイミド系高分子を含有する基材層とブルーイング剤を含有するハードコート層を少なくとも有する積層体の実施形態についてのみ、積層体の実施例が存在するだけであり、ブルーイング剤及びポリイミド系高分子を含有する層を少なくとも有する積層体、及び、ポリイミド系高分子を含有する基材層と、ハードコート層と、ブルーイング剤を含有する色相調整層を少なくとも有する積層体については、実施例が存在せず、これらの実施形態によっても発明の課題を解決し得るものとは認められない。
本件特許発明2ないし7も、上記と同様の理由により、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものである。
以上より、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

4 申立理由4(明確性要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許の請求項1において、黄色度YI、厚み及び全光線透過率の特定は、ポリイミドフィルムを特定しているのか、ポリイミド積層体を特定しているのか不明瞭である。
したがって、本件特許発明1及び請求項1を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2ないし7の範囲は不明確である。

5 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2017/014279号
甲第2号証:特開2016−27146号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2016/0053138号明細書
甲第4号証:特開2012−214665号公報
甲第5号証:国際公開第2015/129626号
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由について
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「樹脂フィルム、積層体、光学部材、表示部材及び前面板」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。他の証拠についても同様。

・「[0005] そこで、本発明の主な目的は、ポリイミド系高分子を含有し、かつ高い透明性を有する樹脂フィルムに関して、屈曲時の視認性を改善することにある。」

・「[0017] 光照射試験後の樹脂フィルム10の550nmの光に対する透過率は、90%以上であることが好ましく、また通常100%以下であり、95%以下であってもよい。光照射試験後の樹脂フィルム10のヘイズは、0.9以下であることが好ましく、また0.1以上であってもよい。光照射試験前の樹脂フィルム10が、550nmの光に対する85%以上の透過率を有していてもよい。樹脂フィルムの所定の波長の光に対する透過率は、樹脂フィルムに入射した所定の波長の光の強度に対する、樹脂フィルムを透過した同波長の光の強度の比率を意味する。ヘイズは、JIS K 7105:1981に準拠して測定することができる。透過率、及びヘイズの測定方法の詳細は、後述の実施例において説明される。
[0018] 光照射試験前の樹脂フィルム10の黄色度は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、0.5以上であってもよい。光照射試験前の黄色度がYI0で、光照射後の黄色度がYI1であるとき、樹脂フィルムの光照射試験前後での黄色度の差ΔYIは、式「ΔYI=YI1−YI0」によって計算される。ΔYIは、2.3以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、また0.1以上であってもよい。黄色度の測定方法の詳細は、後述の実施例において説明される。」

・「[0094] このようにして得られる本実施形態の積層体30は、屈曲性に優れる。積層体30は、フレキシブルデバイスの光学部材若しくは表示部材の基材、又は前面板に適用する場合に要求される透明性、耐紫外線特性、及び表面に高硬度を発現する機能等の機能性を有することができる。」

・「[0118] 前面板90は、光透過性を有する材料から形成される。前面板90は表示装置の表示画面側の最表層に位置し、表示装置を保護する保護部材として機能する。前面板は、ウィンドウフィルムと称されることもある。前面板90としては、ガラス等の無機材料、又はアクリル系樹脂等の公知の透明樹脂を用いることができる。前面板90として、上述した本実施形態に係る樹脂フィルム又は積層体を採用することもできる。前面板90として積層体を採用する場合、通常、機能層が表示装置の外側に位置する向きで積層体が配置される。」

・「[0123][実施例1]
窒素置換した重合槽に、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、触媒及び溶媒(γブチロラクトン及びジメチルアセトアミド)を仕込んだ。仕込み量は、式(1)で表される化合物75.0g、式(2)で表される化合物36.5g、式(3)で表される化合物76.4g、触媒1.5g、γブチロラクトン438.4g、ジメチルアセトアミド313.1gとした。式(2)で表される化合物と式(3)で表される化合物とのモル比は3:7、式(2)で表される化合物及び式(3)で表される化合物の合計と式(1)で表される化合物とのモル比は、1.00:1.02であった。
[0124]

[0125] 重合槽内の混合物を攪拌して原料を溶媒に溶解させた後、混合物を100℃まで昇温し、その後、200℃まで昇温し、4時間保温して、ポリイミドを重合した。この加熱中に、液中の水を除去した。その後、精製及び乾燥により、ポリイミドを得た。
[0126] 次に、濃度20質量%に調整したポリイミドのγブチロラクトン溶液、γブチロラクトンに固形分濃度30質量%のシリカ粒子を分散した分散液、アミノ基を有するアルコキシシランのジメチルアセトアミド溶液、トリアジンン系紫外線吸収剤(TINUVIN(登録商標)479、BASF社製)、及び、水を混合し、30分間攪拌した。これらの攪拌は、米国特許番号US8,207,256B2に記載の方法に準拠して行った。
[0127] ここで、シリカ粒子とポリイミドの質量比を60:40、アミノ基を有するアルコキシシランの量をシリカ粒子及びポリイミドの合計100質量部に対して1.67質量部、トリアジン系紫外線吸収剤の量をシリカ粒子及びポリイミドの合計100質量部に対して3質量部、水の量をシリカ粒子及びポリイミドの合計100質量部に対して10質量部とした。
[0128] 混合溶液を、ガラス基板に塗布し、50℃で30分、140℃で10分加熱して乾燥した。その後、フィルムをガラス基板から剥離し、金枠を取り付けて210℃で1時間加熱することで、厚み80μmの樹脂フィルムを得た。この樹脂フィルムにおけるシリカ粒子の含有量は60質量%である。
[0129][実施例2(積層体)]
実施例1で作製した樹脂フィルムの一方の面に、プライマー層として、2液硬化型のプライマー(商品名:アラコートAP2510、荒川化学工業社製)を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥及び硬化させて、厚さ1μmのプライマー層を形成した。
[0130] 次いで、プライマー層の上に、4官能アクリレート(商品名:A−TMMT、新中村化学社製)47.5質量部、3官能アクリレート(商品名:A−TMPT、新中村化学社製)47.5質量部、反応性ウレタンポリマー(商品名:8BR−600、大成ファインケミカル社製、40質量%品)12.5質量部、トリアジン系紫外線吸収剤(TINUVIN(登録商標)479、BASF社製)3質量部、光重合開始剤(IRGACURE(登録商標)184、チバスペシャリティケミカルズ社製)8質量部、レベリング剤(商品名:BYK−350、ビックケミージャパン社製)0.6質量部、及びメチルエチルケトン107質量部を混合して調製した溶液を塗布して塗膜を形成した。その塗膜を乾燥及び硬化させて、厚さ10μmの「表面に高硬度を発現する機能及び紫外線吸収の機能を有する機能層」としての機能層を形成し、実施例2の積層体を得た。」

・「[0133](評価)
1)光学特性(黄色度(YI値))
実施例及び比較例の樹脂フィルムのそれぞれの黄色度(Yellow Index:YI値)を、日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V−670によって測定した。サンプルがない状態でバックグランド測定を行った後、樹脂フィルムをサンプルホルダーにセットして、300nm〜800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YI値を、下記の式に基づいて算出した。
YI=100×(1.2769X−1.0592Z)/Y
[0134]2)透過率
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V−670を用い、300nm〜800nmの光に対する透過率を測定し、550nmの波長の光に対する透過率を算出した。
[0135]3)ヘイズ
スガ試験機社製の全自動直読ヘーズコンピューターHGM−2DPにより、実施例及び比較例の樹脂フィルムをサンプルホルダーにセットして、樹脂フィルムのヘイズを測定した。
[0136]4)光照射試験
実施例及び比較例の樹脂フィルムを、Atras社製のUVCONを用いた光照射試験に供した。光源はUV−B 313nm、出力は40Wであり、樹脂フィルムと光源との距離を5cmに設定した。樹脂フィルムに対して、紫外線を24時間照射した。紫外線照射後、上述のように光学特性(YI値、透過率)を評価した。
[0137]5)視認性
光照射試験前のフィルムを屈曲させ、そのときのコントラスト及び色相等の外観の状態を確認し、以下の基準で視認性を判定した。
A:コントラスト及び色相の変化が認められない。
C:コントラスト及び色相の変化などの外観変化が認められた。
[0138][表1]

[0139] 表1に評価結果を示す。光照射試験に供された実施例の樹脂フィルムは、上述の条件(i)及び(ii)を満たしており、この樹脂フィルム及びこれを有する積層体は、屈曲時に高い視認性を有することが確認された。」

イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を、特に[0094]、[0118]及び実施例2に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「光照射試験前の550nmの波長の光に対する透過率が86.9%及び黄色度(YI値)が2.7、光照射試験後の550nmの波長の光に対する透過率が86.3%及び黄色度(YI値)が5.0の厚さ80μmの実施例1で作製したポリイミドフィルムの一方の面に、プライマー層を形成し、その上に、4官能アクリレート(商品名:A−TMMT、新中村化学社製)47.5質量部、3官能アクリレート(商品名:A−TMPT、新中村化学社製)47.5質量部、反応性ウレタンポリマー(商品名:8BR−600、大成ファインケミカル社製、40質量%品)12.5質量部、トリアジン系紫外線吸収剤(TINUVIN(登録商標)479、BASF社製)3質量部、光重合開始剤(IRGACURE(登録商標)184、チバスペシャリティケミカルズ社製)8質量部、レベリング剤(商品名:BYK−350、ビックケミージャパン社製)0.6質量部、及びメチルエチルケトン107質量部を混合して調製した溶液を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥及び硬化させて、「表面に高硬度を発現する機能及び紫外線吸収の機能を有する機能層」としての機能層を形成したフレキシブルデバイスの前面板90に適用される積層体。」(当審注:「実施例1で作製したポリイミドフィルム」とは「実施例1で作製した樹脂フィルム」のことであり、その具体的内容は上記ア参照。)

(2)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、「WINDOW FILM AND DISPLAY INCLUDING THE SAME」(訳:ウィンドウフィルム及びそれを用いたディスプレイ)に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、甲3は外国語文献のため、訳文を摘記する。

・「[0019]
ウィンドウフィルム100は、ウィンドウフィルムの黄色度を低減し、目に見える黄変を防止(または低減)するための染料を含み得る。具体的には、ウィンドウフィルム(ガラス基板の代わりにプラスチック基板を含み、硬化性樹脂で形成されたコーティング層を含む)は、通常、高い黄色度を有するので、黄色は、ウィンドウフィルムの正面および/または側面で、裸眼で見ることができる。しかしながら、本発明の実施形態によるウィンドウフィルム100は、低い(例えば、低減された)黄色度を有し得、したがって、目に見える黄変を防止(または低減)し得る。例えば、本発明の実施形態によるウィンドウフィルム100は、約4.0以下、例えば、約0.1から約3.5の黄色度を有し得る。これらの範囲内で、ウィンドウフィルム100は、ディスプレイに適用されたときに目に見える黄変を防止(または低減)することができる。
[0020]
ウィンドウフィルム100は、染料の存在にもかかわらず良好な透明性を示し得るので、ウィンドウフィルムとして使用することができる。例えば、ウィンドウフィルム100は、380nmから750nmの波長で、約3%以下、例えば、約0.1%から約2%のへイズを有し得る。ウィンドウフィルム100は、380nmから750nmの波長で、約85%以上、例えば、約88%から約99%の全光透過率を有し得る。これらのへイズおよび全光透過率の範囲内で、ウィンドウフィルム100をディスプレイに適用することができる。
[0021]
ウィンドウフィルム100は、約50μmから約300μm、例えば、約100μmから約200μmの厚さを有し得る。これらの範囲内で、ウィンドウフィルム100は、ウィンドウフィルムとして使用することができる。
[0022]
ウィンドウフィルム100のコーティング層120は、約6H以上、例えば、約6Hから約9Hの鉛筆硬度を有し得る。ウィンドウフィルム100は、圧縮方向の曲率半径が約10mm以下、例えば、約1mmから約10mm、引張方向の曲率半径が、例えば、約10mm以下、例えば、約1mmから約10mmであってよい。これらの範囲内で、ウィンドウフィルム100は、高い硬度を示しながら、圧縮方向および引張方向の両方で低い曲率半径を有することができ、したがって、フレキシブルディスプレイに適用することができる。」

・「[0027]
コーティング層120は、ウィンドウフィルム100の最も外側に配置される。コーティング層120は、基材層110上に形成され得、基材層110を保護すると同時に、ウィンドウフィルム100に高い硬度を提供する。いくつかの実施形態では、コーティング層120は、基材層110上に直接形成され得る。「直接形成される」という表現は、コーティング層120と基材層110との間に介在層(接着剤層、結合層など)がないことを意味する。」

・「[0082]
実施例1
UV硬化性基を含むシロキサン樹脂(Hybrimerエポキシ、SolipCo Ltd.、固形分:90重量%)を含む混合物70.00gとメチルエチルケトン30.00gを混合し、続いてポルフィリン染料(PD−311S(山本化成、最大吸収波長:584nm))0.02gを導入した。混合物を30分間攪拌し、次に30分間脱気し、それによりコーティング層用の組成物を調製した。UV硬化性基を含むシロキサン樹脂を含む混合物は、シリコーン樹脂、エポキシモノマーおよび光カチオン性開始剤の混合物であった。
[0083]
コーティング層の組成物は、バーコーティングアプリケーターを使用して透明なポリイミドフィルム(厚さ:75μm)上にコーティングされ、続いて80℃でのオーブンで3分間乾燥され、500mJ/cm2でUVを照射した。コーティング層の組成物を120℃で24時間後硬化させ、それによりコーティング層(厚さ:50μm)とポリイミドフィルム(厚さ:75μm)を含むウィンドウフィルムを製造した。」

・「[0088]
実施例6
UV硬化性基を含むシロキサン樹脂(Hybrimerエポキシ、SolipCo Ltd.、固形分:90重量%)70.00gとメチルエチルケトン30.00gを混合し、30分間攪拌した後、30分脱気し、それによりコーティング層用の組成物を調製した。UV硬化性基を含むシロキサン樹脂を含む混合物は、シリコーン樹脂、エポキシモノマー、および光カチオン性開始剤の混合物であった。
[0089]
(メタ)アクリル樹脂100g(アクリル酸エチルヘキシル50wt%、アクリル酸イソボルニル30wt%、アクリル酸ヒドロキシエチル10wt%、アクリル酸10wt%の混合物の重合により調製)、架橋剤としての1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.1g、シランカップリング剤KBM−403(信越株式会社)0.1g、ポルフィリン染料PD−3115(山本化成、最大吸収波長:584nm)を混合し、それにより接着剤層用の組成物を調製した。
[0090]
コーティング層の組成物は、バーコーティングアプリケーターを使用して透明なポリイミドフィルム(厚さ:75μm)の一方の表面にコーティングされ、接着剤層の組成物は、バーコーティングアプリケーターを使用してポリイミドフィルムのもう一方の表面にコーティングされた。続いて、80℃のオーブンで3分間乾燥し、500mJ/cm2でUV照射した。組成物を120℃で24時間後硬化させ、それにより、コーティング層(厚さ:50μm)、ポリイミドフィルム(厚さ:75μm)、および接着剤(厚さ:20μm)を含むウィンドウフィルムを製造した。
[0095]
実施例と比較例のウィンドウフィルムに対して下記表1の物性を評価した。



イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を、特に[0022]、[0027]及び実施例1に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3発明>
「UV硬化性基を含むシロキサン樹脂(Hybrimerエポキシ、SolipCo Ltd.、固形分:90重量%)を含む混合物70.00gとメチルエチルケトン30.00gを混合し、続いてポルフィリン染料(PD−311S(山本化成、最大吸収波長:584nm))0.02gを導入して得た混合物を30分間攪拌し、次に30分間脱気し、それにより調製されたコーティング層用の組成物を透明なポリイミドフィルム(厚さ:75μm)上にコーティングして製造した、鉛筆硬度8Hのコーティング層(厚さ:50μm)とポリイミドフィルム(厚さ:75μm)を含み、コーティング層は、ウィンドウフィルムの最も外側に配置される、全光線透過率88.31%、黄色度1.86のフレキシブルディスプレイに適用されるウィンドウフィルム。」

2 申立理由1(甲1に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「実施例1で作製したポリイミドフィルム」は本件特許発明1における「少なくとも1種のポリイミド系高分子を含有」する「ポリイミドフィルム」に相当する。
甲1発明における「実施例1で作製したポリイミドフィルム」は「厚さ80μm」であるから、本件特許発明1における「厚みが20〜200μm」という条件を満たす。
甲1発明における「「表面に高硬度を発現する機能及び紫外線吸収の機能を有する機能層」としての機能層」は本件特許発明1における「ポリイミドフィルムの視認側表面に配置されるハードコート層」に相当する。
甲1発明における「「表面に高硬度を発現する機能及び紫外線吸収の機能を有する機能層」としての機能層」は、「4官能アクリレート(商品名:A−TMMT、新中村化学社製)47.5質量部、3官能アクリレート(商品名:A−TMPT、新中村化学社製)47.5質量部、反応性ウレタンポリマー(商品名:8BR−600、大成ファインケミカル社製、40質量%品)12.5質量部、トリアジン系紫外線吸収剤(TINUVIN(登録商標)479、BASF社製)3質量部、光重合開始剤(IRGACURE(登録商標)184、チバスペシャリティケミカルズ社製)8質量部、レベリング剤(商品名:BYK−350、ビックケミージャパン社製)0.6質量部、及びメチルエチルケトン107質量部を混合して調製した溶液を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥及び硬化させて」形成されたものであるから、本件特許発明1における「ウレタン(メタ)クリレート、アルキル(メタ)クリレート、エステル(メタ)クリレート及びエポキシ(メタ)クリレート、並びにその重合体及び共重合体からなる群から選択されるアクリル系樹脂を含」む「ハードコート層」に相当する。
甲1発明における「フレキシブルデバイスの前面板90に適用される積層体」は本件特許発明1における「フレキシブルデバイスの前面板用のポリイミド積層体」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「少なくとも1種のポリイミド系高分子を含有し、厚みが20〜200μmであるポリイミドフィルム、および
前記ポリイミドフィルムの視認側表面に配置されるハードコート層
を有するポリイミド積層体であって、
ハードコート層は、ウレタン(メタ)クリレート、アルキル(メタ)クリレート、エステル(メタ)クリレート及びエポキシ(メタ)クリレート、並びにその重合体及び共重合体からなる群から選択されるアクリル系樹脂を含む、
フレキシブルディスプレイの前面板用のポリイミド積層体。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1−1>
本件特許発明1においては、「黄色度YIが0<YI<1.0であり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「(光照射試験前の)黄色度(YI値)が2.7」と特定されている点。

<相違点1−2>
本件特許発明1においては、「全光線透過率が90.0%以上である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、「光照射試験前の550nmの波長の光に対する透過率が86.9%」と特定されている点。

<相違点1−3>
本件特許発明1においては、「ポリイミド系高分子は、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1〜40質量%のフッ素原子を含む」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのようには特定されていない点。

なお、特許異議申立人は、甲1発明を具体的に認定せずに、本件特許発明1と甲1発明を対比し、相違点1−1及び1−3に係る本件特許発明1の発明特定事項を甲1発明も有しているとして、一致点としている(特許異議申立書第24ページ第18行ないし第25ページ末行)が、甲1発明は、上記1(1)イのとおり認定されることから、相違点1−1及び1−3に係る本件特許発明1の発明特定事項を甲1発明が有しているとはいえない。

イ 判断
そこで、相違点1−1について検討する。
甲1には、[0018]に「光照射試験前の樹脂フィルム10の黄色度は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、0.5以上であってもよい。」という記載があるが、「2.7」という既に「3以下」となっている甲1発明における「(光照射試験前の)黄色度(YI値)」を「1.0」未満の値とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「白色の印刷が施されたべゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として使用する場合に視認性に優れる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0009】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由1によっては取り消すことはできない。

3 申立理由2(甲3に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「透明なポリイミドフィルム」は本件特許発明1における「少なくとも1種のポリイミド系高分子を含有」する「ポリイミドフィルム」に相当する。
甲3発明における「透明なポリイミドフィルム」は「厚さ:75μm」であるから、本件特許発明1における「厚みが20〜200μm」という条件を満たす。
甲3発明における「鉛筆硬度8Hのコーティング層(厚さ:50μm)」は、「ウィンドウフィルムの最も外側に配置される」ものであるから、本件特許発明1における「ポリイミドフィルムの視認側表面に配置されるハードコート層」に相当する。
甲3発明における「フレキシブルディスプレイに適用されるウィンドウフィルム」は、「ポリイミドフィルム(厚さ:75μm)」上に「鉛筆硬度8Hのコーティング層(厚さ:50μm)」が形成されたものであるから、本件特許発明1における「フレキシブルデバイスの前面板用のポリイミド積層体」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「少なくとも1種のポリイミド系高分子を含有し、厚みが20〜200μmであるポリイミドフィルム、および
前記ポリイミドフィルムの視認側表面に配置されるハードコート層
を有するポリイミド積層体であって、
フレキシブルディスプレイの前面板用のポリイミド積層体。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3−1>
本件特許発明1においては、「黄色度YIが0<YI<1.0であり」と特定されているのに対し、甲3発明においては、「黄色度1.86」と特定されている点。

<相違点3−2>
本件特許発明1においては、「全光線透過率が90.0%以上である」と特定されているのに対し、甲3発明においては、「全光線透過率88.31%」と特定されている点。

<相違点3−3>
本件特許発明1においては、「ハードコート層は、ウレタン(メタ)クリレート、アルキル(メタ)クリレート、エステル(メタ)クリレート及びエポキシ(メタ)クリレート、並びにその重合体及び共重合体からなる群から選択されるアクリル系樹脂を含み」と特定されているのに対し、甲3発明においては、「鉛筆硬度8Hのコーティング層(厚さ:50μm)」は「UV硬化性基を含むシロキサン樹脂(Hybrimerエポキシ、SolipCo Ltd.、固形分:90重量%)を含む混合物70.00gとメチルエチルケトン30.00gを混合し、続いてポルフィリン染料(PD−311S(山本化成、最大吸収波長:584nm))0.02gを導入して得た混合物を30分間攪拌し、次に30分間脱気し、それにより調製されたコーティング層用の組成物」から形成されている点。

<相違点3−4>
本件特許発明1においては、「ポリイミド系高分子は、ポリイミド系高分子の質量を基準として、1〜40質量%のフッ素原子を含む」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのようには特定されていない点。

なお、特許異議申立人は、甲3発明を具体的に認定せずに、本件特許発明1と甲3発明を対比し、相違点3−1及び3−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を甲3発明も有しているとして、一致点としている(特許異議申立書第27ページ第34行ないし第29ページ第1行)が、甲3発明は、上記1(2)イのとおり認定されることから、相違点3−1及び3−2に係る本件特許発明1の発明特定事項を甲3発明が有しているとはいえない。

イ 判断
そこで、相違点3−1について検討する。
甲3には、[0019]に「本発明の実施形態によるウィンドウフィルム100は、約4.0以下、例えば、約0.1から約3.5の黄色度を有し得る。」という記載があるが、「1.86」という既に「約3.5」以下となっている甲3発明における「黄色度」を「1.0」未満の値とする動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲3発明において、相違点3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「白色の印刷が施されたべゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として使用する場合に視認性に優れる。」という効果は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

また、甲3に記載された事項を、実施例1に代えて、実施例2ないし6のいずれかに関して整理して認定した発明(以下、順に「甲3実施例2発明」ないし「甲3実施例6発明」という。)との対比・判断も同様である。
すなわち、本件特許発明1は甲3実施例2発明ないし甲3実施例6発明のいずれか並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

以下、甲3発明及び甲3実施例2発明ないし甲3実施例6発明を総称して、改めて「甲3発明」という。

(2)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)申立理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし7は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえないので、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由2によっては取り消すことはできない。

4 申立理由3(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)サポート要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。
本件特許の発明の詳細な説明の【0002】ないし【0007】によると、本件特許発明1ないし7の解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は「フレキシブルディスプレイの前面板材料として使用可能であり、ベゼル部の白色印刷の視認性が良好な、光学フィルム」を有する「フレキシブルディスプレイの前面板用のポリイミド積層体」を提供することである。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0008】、【0050】、【0051】、【0076】、【0077】、【0080】ないし【0082】及び【0114】には、本件特許発明1ないし7に対応する記載がある。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0012】ないし【0015】には、「黄色度YIが0<YI<1.0」であるという条件を満たすことの技術的意味が具体的に記載され、同じく【0076】には、「厚みが20〜200μm」であるという条件を満たすことの技術的意味が具体的に記載され、同じく【0077】には、「全光線透過率が90%以上」であるという条件を満たすことの技術的意味が具体的に記載されている。
さらに、本件特許の発明の詳細な説明の【0122】ないし【0141】には、上記3つの条件を満たす実施例7及び9の「ポリイミドフィルム」は、上記3つの条件の少なくとも1つを満たさない「ポリイミドフィルム」よりも、「白色色相の視認性が良好であり、白色の印刷が施されたベゼル部を有するフレキシブルディスプレイの前面板材料として好適に使用可能である」ことを確認する記載もある。
そうすると、当業者は、「黄色度YIが0<YI<1.0」であり、「厚みが20〜200μm」であり、「全光線透過率が90%以上」である「ポリイミドフィルム」を有する「フレキシブルディスプレイの前面板用のポリイミド積層体」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし7は、上記「フレキシブルディスプレイの前面板用のポリイミド積層体」をさらに限定したものである。
したがって、本件特許発明1ないし7は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえ、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 3の主張について検討する。
本件特許の発明の詳細な説明の【0126】及び【0140】に記載された実施例2における「ハードコート層」が形成される前の「ポリイミドフィルム」の「黄色度YI」の値は不明であり、実施例2における「ポリイミドフィルム」は本件特許発明1ないし7に規定された「ポリイミドフィルム」であるとはいえないが、同じく【0135】、【0137】及び【0140】に記載された実施例7及び9における「ポリイミドフィルム」の「黄色度YI」の値は、それぞれ「0.9」及び「0.6」であって、「0<YI<1.0」の範囲内にあるから、実施例7及び9における「ポリイミドフィルム」は本件特許発明1ないし7に規定された「ポリイミドフィルム」であるといえる。
そして、上記実施例7及び9として記載された「ポリイミドフィルム」は、「視認性」の評価が「◎:白ベゼルが白色に見え、ディスプレイに表示される文字の視認性が非常に良好。」であるから、それを有する「フレキシブルディスプレイの前面板用のポリイミド積層体」は発明の課題を解決できるものといえる。
なお、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし7に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。
したがって、特許異議申立人の上記第3 3の主張は採用できない。

(4)申立理由3についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないので、同法第113条第4号に該当せず、申立理由3によっては取り消すことはできない。

5 申立理由4(明確性要件)について
(1)明確性要件の判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
そこで、検討する。

(2)明確性要件の判断
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載自体に不明確な記載はなく、本件特許の発明の詳細な説明の記載とも整合する。
したがって、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎とすれば、本件特許発明1に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許発明2ないし7に関しても同様であり、本件特許発明2ないし7に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明1ないし7は明確である。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人の上記第3 4の主張について検討する。
本件特許の請求項1の記載からみて、「黄色度YI」、「厚み」及び「全光線透過率」に関する規定は、「ポリイミド積層体」ではなく、「ポリイミドフィルム」を特定するものであることは明らかである。
また、このように理解することは、本件特許の発明の詳細な説明の【0008】の記載とも整合する。
なお、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし7は明確である。
したがって、特許異議申立人の上記第3 4の主張は採用できない。

(4)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるとはいえないので、同法第113条第4号に該当せず、申立理由4によっては取り消すことはできない。

第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-01 
出願番号 P2020-075562
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 ▲吉▼澤 英一
特許庁審判官 平塚 政宏
加藤 友也
登録日 2022-01-07 
登録番号 7005680
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 ポリイミドフィルム  
代理人 松谷 道子  
代理人 岩木 郁子  
代理人 森住 憲一  

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