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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C23C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C23C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C23C
管理番号 1392078
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-20 
確定日 2022-11-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第7005672号発明「蒸着用マスク及びこれを用いたOLEDパネル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7005672号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7005672号の請求項1〜9に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)3月23日(優先権主張 外国庁受理 2016年4月1日(以下、「本件特許出願の優先日」という。))を国際出願日とする出願の一部を令和2年3月24日に新たな特許出願としたものであって、令和4年1月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年7月20日に特許異議申立人 藤江 桂子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第7005672号の請求項1〜9の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
ニッケル合金を含む金属板を含み、
前記金属板は、複数個の貫通ホール及び前記複数個の貫通ホールの間のブリッジを含む有効領域と、前記有効領域の外周に配置される非有効領域とを含み、
前記貫通ホールは、前記金属板の第1面上の第1面孔と、第2面上の第2面孔が連通する連結部によって形成され、
前記第2面上における前記第2面孔の幅は、前記第1面上における前記第1面孔の幅より大きく、
前記金属板は、前記非有効領域に配置され、前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置する第1溝と、前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する第2溝とを含み、
前記第1溝の深さと前記第2溝の深さは、前記第1面孔の深さよりは大きく、前記第2面孔の深さよりは小さく、
前記第1面孔の深さは、前記第1面から前記連結部までの深さであり、
前記第2面孔の深さは、前記第2面から前記連結部までの深さであり、
前記第1溝と前記第2溝は、前記金属板の前記第1面に形成され、
前記第1溝と前記第2溝は、直線部及び前記直線部と連結される曲線部を含み、
前記直線部は、前記有効領域と前記非有効領域との境界に位置した前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線と平行し、
前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、前記直線部より水平方向の外側に形成される、
前記第1面の裏面である前記第2面は、有機物蒸着容器側であり、
前記第1溝と前記第2溝は、前記金属板の前記第1面にのみ形成される、蒸着用マスク。
【請求項2】
前記曲線部は、前記直線部の長さをCとするとき、1/2C長の地点に近づくにつれて曲率半径が増加する、
請求項1に記載の蒸着用マスク。
【請求項3】
前記第1面孔は、前記第1面上のオープン領域の角部が曲率を有し、
前記角部のラウンド状の部分の曲率と同一の曲率を有する仮想の円の直径は、5μm〜20μmである、請求項1または2に記載の蒸着用マスク。
【請求項4】
前記金属板を0.7kgfの力で前記長さ方向に引っ張った際に、下記の式2によって計算されたねじれ指数αは、0.85〜1.15である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蒸着用マスク。
<式2>
α=2B/(d1+d2)
前記式2において、
前記d1は、前記第1溝と前記第1溝と隣接した有効領域との間の非有効領域で測定された金属板の幅であり、
前記d2は、前記第2溝と前記第2溝と隣接した有効領域との間の非有効領域で測定された金属板の幅であり、
前記Bは、前記有効領域の中間地点で測定された金属板の幅である。
【請求項5】
前記金属板の厚さは、10μm〜30μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着用マスク。
【請求項6】
前記第1面孔の幅は、20μm〜50μmであり、
前記第2面孔の幅は、50μm〜90μmであり、
前記第1面孔の深さは、0.1μm〜7μmであり、
前記第2面孔の深さは、20μm〜25μmである、請求項1から5のいずれか一項に記載の蒸着用マスク。
【請求項7】
前記ブリッジは、前記金属板の前記第1面上の前記第1面孔の間を支持する第1ブリッジ部と、前記金属板の前記第2面上の前記第2面孔の間を支持する第2ブリッジ部とを含み、
前記第1面における前記第1ブリッジ部の幅は、前記第2面における前記第2ブリッジ部の幅より大きい、請求項1から6のいずれか一項に記載の蒸着用マスク。
【請求項8】
前記第1ブリッジ部の幅は、20μm〜50μmであり、
前記第2ブリッジ部の幅は、0.5μm〜7μmである、請求項7に記載の蒸着用マスク。
【請求項9】
前記第1面孔の深さと前記金属板の厚さの比率は、1:(3〜30)である、請求項1から8のいずれか一項に記載の蒸着用マスク。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証〜甲第8号証を提出し、以下の理由により、請求項1〜9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1〜9は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証〜甲第8号証)に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 申立理由2(明確性要件)
本件発明1〜9は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 申立理由3(サポート要件)
本件発明1〜9は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

4 申立理由4(実施可能要件
発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1〜9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2014−133934号公報
甲第2号証:特開2011−195960号公報
甲第3号証:韓国特許公開10−2013−0007005号公報及び訳文
甲第4号証:特開2004−235138号公報
甲第5号証:韓国特許公開10−2011−0082414号公報及び訳文
甲第6号証:特開2015−214741号公報
甲第7号証:中国特許公開103205712号公報及び訳文
甲第8号証:特開2015−168884号公報

第4 甲号証の記載事項、甲号証に記載された発明等
1 甲第1号証(特開2014−133934号公報)
(1)本件特許出願の優先日前に公知となった甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0020】
図1〜図11は本発明による一実施の形態を説明するための図である。以下の実施の形態およびその変形例では、有機ELディスプレイ装置を製造する際に有機発光材料を所望のパターンでガラス基板上にパターニングするために用いられる蒸着マスクの製造方法を例にあげて説明する。ただし、このような適用に限定されることなく、種々の用途に用いられる蒸着マスクおよび蒸着マスクの製造方法に対し、本発明を適用することができる。
・・・
【0027】
図1および図3に示すように、本実施の形態において、蒸着マスク20は、金属板21からなり、平面視において帯状の略四角形形状、さらに正確には平面視において帯状の略矩形状の輪郭を有している。蒸着マスク20の金属板21は、蒸着マスク20の長手方向に配列され、各々に規則的な配列で複数の貫通孔25が形成された複数の有効領域22と、各有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含んでいる。このうち周囲領域23は、基板へ蒸着されることを意図された蒸着材料が通過する領域ではない。例えば、有機ELディスプレイ装置用の有機発光材料の蒸着に用いられる蒸着マスク20においては、有効領域22は、有機発光材料が蒸着して画素を形成するようになる基板(ガラス基板92)上の区域、すなわち、作製された有機ELディスプレイ装置用基板の表示面をなすようになる基板上の区域に対面する、蒸着マスク20内の領域のことである。ただし、種々の目的から、周囲領域23に貫通孔や凹部が形成されていてもよい。図1に示された例において、各有効領域22は、平面視において略四角形形状、さらに正確には平面視において略矩形状の輪郭を有している。
【0028】
図3に示すように、周囲領域23は、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和する応力緩和領域50と、有効領域22および応力緩和領域50より剛性が高い高剛性領域55と、を含んでいる。このうち、応力緩和領域50は、互いに隣り合う有効領域22の間に介在されおり、蒸着マスク20に長手方向に張力が負荷された場合に、この張力により生じる応力を効果的に緩和するようになっている。
・・・
【0032】
図4は、蒸着マスク20を第1面20a側から示す部分平面図である。また、図5は、図4のI−I線に沿った断面図である。図4および図5に示すように、複数の貫通孔25は、蒸着マスク20の法線方向に沿った一方の側となる第1面20aと、蒸着マスク20の法線方向に沿った他方の側となる第2面20bと、の間を延びて、蒸着マスク20を貫通している。図示された例では、のちに詳述するように、蒸着マスクの法線方向における一方の側となる金属板21の第1面21aの側から金属板21に第1有効凹部30がエッチングによって形成され、金属板21の法線方向における他方の側となる第2面21bの側から金属板21に第2有効凹部35が形成され、この第1有効凹部30および第2有効凹部35によって貫通孔25が形成されている。
【0033】
図5に示すように、蒸着マスク20の法線方向における一方の側から他方の側へ向けて、すなわち、蒸着マスク20の第1面20aの側から第2面20bの側へ向けて、蒸着マスク20の法線方向に沿った各位置における蒸着マスク20の板面に沿った断面での各第1有効凹部30の断面積は、しだいに小さくなっていく。言い換えると、蒸着マスク20の法線方向に沿った断面において、蒸着マスク20の法線方向に沿った各位置における蒸着マスク20の板面に沿った各第1有効凹部30の幅は、蒸着マスク20の第1面20aの側から第2面20bの側に向けて、しだいに小さくなっていく。とりわけ図示された例では、蒸着マスク20の第1面20aの側から第2面20bの側に向け、各第1有効凹部30の断面積は、小さくなるように変化し続けている。図5に示すように、第1有効凹部30の壁面31は、その全領域において蒸着マスク20の法線方向に対して交差する方向に延びており、蒸着マスク20の法線方向に沿った一方の側に向けて露出している。
【0034】
同様に、蒸着マスク20の法線方向に沿った各位置における蒸着マスク20の板面に沿った断面での各第2有効凹部35の断面積は、蒸着マスク20の法線方向における他方の側から一方の側へ向けて、すなわち、蒸着マスク20の第2面20bの側から第1面20aの側へ向けて、しだいに小さくなっていく。言い換えると、蒸着マスク20の法線方向に沿った断面において、蒸着マスク20の法線方向に沿った各位置における蒸着マスク20の板面に沿った各第2有効凹部35の幅は、蒸着マスク20の第2面20bの側から第1面20aの側に向けて、しだいに小さくなっていく。とりわけ図示された例では、蒸着マスク20の第2面20bの側から第1面20aの側に向け、各第2有効凹部35の断面積は、小さくなるように変化し続けている。第2有効凹部35の壁面36は、その全領域において蒸着マスク20の法線方向に対して交差する方向に延びており、蒸着マスク20の法線方向に沿った他方の側に向けて露出している。
【0035】
図5に示すように、貫通孔25は、蒸着マスク20の第1面20aの側から形成された先細りする第1有効凹部30と、蒸着マスク20の第2面20bの側から形成された先細りする第2有効凹部35とが接続することによって、画成されている。図5に示すように、図示された例では、一つの貫通孔25に対して、第1有効凹部30および第2有効凹部35がそれぞれ一つずつ形成されている。したがって、一つの第1有効凹部30と、当該第1有効凹部30に対応して設けられた第2有効凹部35とが接続することにより、各貫通孔25が形成されている。
・・・
【0039】
図2に示すようにして蒸着マスク装置10が蒸着装置90に収容された場合、図5に二点鎖線で示すように、蒸着マスク20の第1面20aが蒸着材料98を保持したるつぼ94側に位置し、蒸着マスク20の第2面20bがガラス基板92に対面する。したがって、蒸着材料98は、次第に断面積が小さくなっていく第1有効凹部30を通過してガラス基板92に付着する。図2に示すように、蒸着材料98は、るつぼ94からガラス基板92に向けてガラス基板92の法線方向に沿って移動するだけでなく、ガラス基板92の法線方向に対して大きく傾斜した方向に移動することもある。このとき、第1有効凹部30の断面形状が図5の点線で示す輪郭を有していたとすると、斜めに移動する蒸着材料98は、蒸着マスク20に付着してガラス基板92まで到達しない。また、ガラス基板92上の貫通孔25に対面する領域内には、蒸着材料98が到達しやすい領域と到達しにくい部分が生じてしまう。
・・・
【0049】
応力緩和領域50は、図4および図5に示すように、蒸着マスク20の第1面20aに設けられた(好適には複数の)第1応力緩和凹部51を有している。これにより、第1応力緩和凹部51の周囲における蒸着マスク20の法線方向かつ幅方向に沿った断面積を小さくすることができる。そして、第1応力緩和凹部51を複数設けることにより、このような蒸着マスク20の法線方向かつ幅方向に沿った断面積が小さい領域を大きくすることができ、応力緩和領域50の剛性を低減させることができる。
【0050】
また、応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第2面20bに設けられた(好適には複数の)第2応力緩和凹部52と、を更に有している。これにより、第2応力緩和凹部52の周囲における蒸着マスク20の法線方向かつ幅方向に沿った断面積を小さくすることができる。そして、第2応力緩和凹部52を複数設けることにより、このような蒸着マスク20の法線方向かつ幅方向に沿った断面積が小さい領域を大きくすることができ、応力緩和領域50の剛性をより一層低減させることができる。
【0051】
第1応力緩和凹部51は、蒸着マスクの法線方向における一方の側となる金属板21の第1面21aの側から金属板21にエッチングによって形成されている。同様に、第2応力緩和凹部52は、金属板21の法線方向における他方の側となる第2面21bの側から金属板21に形成されている。第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52は、金属板21を部分的にエッチングすること、すなわち、金属板21を貫通させないようにエッチング(例えばハーフエッチング)することにより形成することが好適である。また、図5に示す形態においては、第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52の断面は、半円状に形成されている。第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52の断面形状は、エッチング液の浸食の進む方向に起因するものであるが、半円状に限られない。なお、第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52の断面が、半円状に形成されている場合、蒸着マスク20の長手方向に負荷された張力によって、第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52の周囲に応力集中により亀裂などが生じることを防止できる。
【0052】
第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52は、それぞれ、蒸着マスク20の幅方向に延びている。すなわち、本実施の形態においては、第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52は、応力緩和領域50において蒸着マスク20の幅方向に直線状に延びている。このようにして、第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52の周囲における蒸着マスク20の法線方向かつ幅方向の断面積を小さくしている。
・・・
【0061】
図6には、蒸着マスク20を作製するための製造装置60が示されている。図6に示すように、まず、長尺金属板64を供給コア61に巻き取った巻き体62が準備される。そして、この供給コア61が回転して巻き体62が巻き戻されることにより、図6に示すように帯状に延びる長尺金属板64が供給される。なお、長尺金属板64は、貫通孔25を形成されて枚葉状の金属板21、さらには蒸着マスク20をなすようになる。したがって、上述したように、長尺金属板64は、例えば36%Niインバー材からなる。ただし、これに限られず、ステンレス、銅、鉄、アルミニウムからなるシートを長尺金属板64として用いることも可能である。
・・・
【0064】
第2有効凹部35を形成するためのエッチングを行う際、レジストパターン65bの孔66cの領域で、エッチング液による浸食が進み、長尺金属板64の第2面64bに、第2応力緩和凹部52が形成される。なお、孔66cの大きさを調整すること(例えば、大きくすること)により、第2応力緩和凹部52を形成するエッチングの速度を調整することができる。これにより、所望の形状の第2応力緩和凹部52、例えば、第2有効凹部35よりエッチング深さが深い第2応力緩和凹部52を、第2有効凹部35を形成するためのエッチングを行う際に形成することができる。
・・・
【0082】
なお、上述した実施の形態に対して様々な変更を加えることが可能である。以下、図面を参照しながら、変形の一例について説明する。以下の説明で用いる図面では、上述した実施の形態における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いており、重複する説明を省略する。
【0083】
まず、第1の変形例を説明する。上述した実施の形態において、応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第1面20aに設けられた第1応力緩和凹部51と、蒸着マスク20の第2面20bに設けられた第2応力緩和凹部52と、を有する例を示したが、これに限られない。例えば、図12および図13に示すように、応力緩和領域50が、単一の第1応力緩和凹部51のみを有し、蒸着マスク20の第2面20bに第2応力緩和凹部52が設けられていなくてもよい。この場合、図13に示すように、第1応力緩和凹部51は、蒸着マスク20の幅方向に直線状に延びるとともに、蒸着マスク20の長手方向に長く形成されている、すなわち、平面視で矩形状に形成されていることが好ましい。これにより、応力緩和領域50における蒸着マスク20の幅方向の断面積が小さい領域を大きくすることができ、応力緩和領域50の剛性を低くすることができる。なお、応力緩和領域50は、単一の第2応力緩和凹部52のみを有して、蒸着マスク20の第1面20aに第1緩和凹部51が設けられていなくてもよい。
・・・
【0085】
また、上述した実施の形態として、第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52が、蒸着マスク20の幅方向に直線状に延びている例を示したが、これに限られない。応力緩和領域50が、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和可能であれば、第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52の形状は任意である。」


「【図3】

【図4】

【図5】



(2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記(1)の【0061】には、「長尺金属板64は、貫通孔25を形成されて枚葉状の金属板21、さらには蒸着マスク20をなすようになる」こと、及び、「長尺金属板64は、例えば36%Niインバー材からなる」ことが記載されているから、蒸着マスク20は、36%Niインバー材からなる金属板21であるといえる。

イ 上記(1)の【0027】には、「蒸着マスク20の金属板21は、蒸着マスク20の長手方向に配列され、各々に規則的な配列で複数の貫通孔25が形成された複数の有効領域22と、各有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含」むことが記載されている。
また、上記(1)の【図4】には、有効領域22には、複数の貫通孔25の間の領域があることが見て取れる。

ウ 上記(1)の【0028】には、「周囲領域23は、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和する応力緩和領域50」を含むこと、「応力緩和領域50は、互いに隣り合う有効領域22の間に介在され」ることが記載されている。

エ 上記(1)の【0032】には、「蒸着マスクの法線方向における一方の側となる金属板21の第1面21aの側から金属板21に第1有効凹部30がエッチングによって形成され、金属板21の法線方向における他方の側となる第2面21bの側から金属板21に第2有効凹部35が形成され、この第1有効凹部30および第2有効凹部35によって貫通孔25が形成されている」ことが記載され、同【0035】には、「一つの第1有効凹部30と、当該第1有効凹部30に対応して設けられた第2有効凹部35とが接続することにより、各貫通孔25が形成されている」ことが記載されている。
そうすると、蒸着マスクの法線方向における一方の側となる金属板21の第1面21aの側から金属板21に第1有効凹部30が形成され、金属板21の法線方向における他方の側となる第2面21bの側から金属板21に第2有効凹部35が形成され、第1有効凹部30と、当該第1有効凹部30に対応して設けられた第2有効凹部35とが接続することにより、各貫通孔25が形成されているといえる。

オ 上記(1)の【0039】には、「蒸着マスク20の第1面20aが蒸着材料98を保持したるつぼ94側に位置し、蒸着マスク20の第2面20bがガラス基板92に対面する」ことが記載されている。

カ 上記(1)の【図5】には、第1面21a上における第1有効凹部30の幅は、第2面上21b上における第2有効凹部35の幅より大きいことが見て取れる。

キ 上記(1)の【0049】には、「応力緩和領域50は、図4および図5に示すように、蒸着マスク20の第1面20aに設けられた(好適には複数の)第1応力緩和凹部51を有している」と記載され、同【0050】には、「応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第2面20bに設けられた(好適には複数の)第2応力緩和凹部52と、を更に有している」と記載されているから、応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第1面20aに設けられた、好適には複数の第1応力緩和凹部51と、蒸着マスク20の第2面20bに設けられた、好適には複数の第2応力緩和凹部52とを有しているといえる。
また、上記(1)の【0083】には、「応力緩和領域50は、単一の第2応力緩和凹部52のみを有して、蒸着マスク20の第1面20aに第1緩和凹部51が設けられていなくてもよい」と記載されている。

ク 上記(1)の【0052】には、「第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52は、応力緩和領域50において蒸着マスク20の幅方向に直線状に延びている」と記載されている。

ケ 上記(1)の【0064】には、「第2有効凹部35よりエッチング深さが深い第2応力緩和凹部52を・・・形成することができる」と記載されており、上記(1)の【図5】には、第2応力緩和凹部52の深さが、第2有効凹部35の深さよりは大きく、第1有効凹部30の深さよりは小さいことが見て取れる。

コ 以上から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「36%Niインバー材からなる金属板21である蒸着マスク20であって、
蒸着マスク20の金属板21は、蒸着マスク20の長手方向に配列され、各々に規則的な配列で複数の貫通孔25が形成された複数の有効領域22と、各有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含み、
有効領域22には、複数の貫通孔25の間の領域があり、
周囲領域23は、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和する応力緩和領域50を含み、応力緩和領域50は、互いに隣り合う有効領域22の間に介在され、
蒸着マスクの法線方向における一方の側となる金属板21の第1面21aの側から金属板21に第1有効凹部30が形成され、金属板21の法線方向における他方の側となる第2面21bの側から金属板21に第2有効凹部35が形成され、第1有効凹部30と、当該第1有効凹部30に対応して設けられた第2有効凹部35とが接続することにより、各貫通孔25が形成され、
蒸着マスク20の第1面20aが蒸着材料98を保持したるつぼ94側に位置し、蒸着マスク20の第2面20bがガラス基板92に対面し、
第1面21a上における第1有効凹部30の幅は、第2面上21b上における第2有効凹部35の幅より大きく、
応力緩和領域50は、蒸着マスク20の第1面20aに設けられた、好適には複数の第1応力緩和凹部51と、蒸着マスク20の第2面20bに設けられた、好適には複数の第2応力緩和凹部52とを有し、
応力緩和領域50は、単一の第2応力緩和凹部52のみを有して、蒸着マスク20の第1面20aに第1緩和凹部51が設けられていなくてもよく、
第1応力緩和凹部51および第2応力緩和凹部52は、応力緩和領域50において蒸着マスク20の幅方向に直線状に延びており、
第2応力緩和凹部52の深さが、第2有効凹部35の深さよりは大きく、第1有効凹部30の深さよりは小さい、蒸着マスク20。」

2 甲第2号証(特開2011−195960号公報)
本件特許出願の優先日前に公知となった甲第2号証には、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明はマスクに関し、より詳しくは複数の単位マスクを支持するフレームを含むマスク組立体に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、前述した問題を解決するためのものであって、本発明の目的は、単位マスクに加えられる引張力によって、単位マスクに形成されたパターン開口部の形状が変形することを抑制したマスク、及びこれを含むマスク組立体を提供することである。」

「【発明の効果】
【0030】
前述した本発明の実施形態によれば、単位マスクに加えられる引張力によって、単位マスクに形成されたパターン開口部の形状が変形することを抑制できるマスク、及びこれを含むマスク組立体が提供される。」

「【0046】
図2〜図4に示すように、単位マスク200は、単位マスク本体部210、パターン開口部220、第1グルーブ230、第2グルーブ240、第3グルーブ250及びダミーパターン260を含む。」

「【0049】
第1グルーブ230は、パターン開口部220と単位マスク200の枠200bとの間に位置し、単位マスク200の表面200cで陥没形成されている。第1グルーブ230は、第2方向(y)に沿って配置された複数の各々のパターン開口部220に対応して、第2方向(y)に沿って複数が配置されており、第2方向(y)の最外側に位置するパターン開口部220と単位マスク200の枠200bとの間で最外側に位置するパターン開口部220と隣接して配置されている。第1グルーブ230は、単位マスク200の表面200c上で半円形状を有する。第1グルーブ230は半円形状を有することによって、単位マスク200の表面200c上で変形する幅(W)を有する。第1グルーブ230が有する変形した幅(W)は、単位マスク200に印加される引張力によって、第1グルーブ230と隣接するパターン開口部220に印加される引張力の強さに応じて変形しているが、図3に示すように、単位マスク200の表面200c上でパターン開口部220が四角形状を有する場合、パターン開口部220の一辺221と対応する第1グルーブ230の幅(W)は、パターン開口部220の一辺221の中央の部分に対応する部分からパターン開口部220の一辺221の外郭の部分に対応する部分へ行くほど狭くなる。即ち、単位マスク200に印加された引張力によって、パターン開口部220の一辺221の全体部分のうち、他の部分に比べて引張力がより強く印加される一部分に対応する第1グルーブ230の幅(W)は、前記パターン開口部220の他の部分に対応する第1グルーブ230の幅(W)より広く形成される。このように、第1グルーブ230がパターン開口部220に印加される引張力の強さに応じて単位マスク200の表面200c上で変形した幅(W)を有することによって、パターン開口部220に印加される引張力が分散する。さらに、第1グルーブ230によってパターン開口部220に印加される引張力が分散することによって、単位マスク200に印加される引張力によってパターン開口部220が変形することが抑制される。」

「【0071】
図6は本発明の第3の実施形態にかかるプローブ組立体に含まれている単位マスクを示す平面図である。
【0072】
図6に示すように、単位マスク203は単位マスク本体部210、パターン開口部220、第1グルーブ230及びダミーパターン260を含む。
【0073】
即ち、本発明の第3の実施形態にかかるマスク組立体に含まれている単位マスク203は、前述した第1の実施形態にかかるマスク組立体に含まれている単位マスク200、及び前述した第2の実施形態にかかるマスク組立体に含まれている単位マスク202に含まれている第1グルーブ230、第2グルーブ240及び第3グルーブ250のうち第1グルーブ230のみを含む。また、パターン開口部220及びダミーパターン260は、第1の実施形態にて用いた帯状のものと同様である。」

「【0090】 図10に示すように、単位マスク204は単位マスク本体部210、パターン開口部220、第1グルーブ230、第2グルーブ240、第3グルーブ250及びダミーパターン264を含む。
【0091】
ダミーパターン264は、ダミーパターン264と隣接するパターン開口部220に印加される引張力の強さに応じて、単位マスク204の表面200c上で変形した幅(W)を有する。ダミーパターン264は、最外郭パターン開口部220と単位マスク204の端部200aとの間に位置し、単位マスク204を貫通して形成されている。ダミーパターン264は、単位マスク204の表面200c上で楕円形状を有している。ダミーパターン264は楕円形状を有することによって、単位マスク204の表面200c上で変形する幅(W)を有する。ダミーパターン264が有する変形した幅(W)は、単位マスク204に印加される引張力によってのダミーパターン264と隣接するパターン開口部220に印加される引張力の強さに応じて変形するが、図10に示すように、単位マスク204の表面200c上でパターン開口部220が四角形状を有する場合、パターン開口部220の一辺221と対応するダミーパターン264の幅(W)は、パターン開口部220の一辺221の中央の部分に対応する部分からパターン開口部220の一辺221の外郭の部分に対応する部分へ行くほど狭く形成される。即ち、単位マスク204に印加された引張力によって、パターン開口部220の一辺221の全体部分のうち他の部分に比べて引張力がより強く印加される一部分に対応するダミーパターン264の幅(W)は、前記パターン開口部220の他の部分に対応するダミーパターン264の幅(W)より広く形成される。このように、ダミーパターン264がパターン開口部220に印加される引張力の強さに応じて単位マスク204の表面200c上で変形した幅(W)を有することによってパターン開口部220に印加される引張力が分散する。さらに、ダミーパターン264によってパターン開口部220に印加される引張力が分散することによって、単位マスク204に印加される引張力によってパターン開口部220が変形することが抑制される。」


「【図3】

【図4】



「【図6】




「【図10】



3 甲第3号証(韓国特許公開10−2013−0007005号公報)
本件特許出願の優先日前に公知となった甲第3号証には、以下の記載がある。なお、甲第3号証の記載は、当審の訳文で示す。
「[0026] 図2を参照すると、表示基板上に有機層パターンを形成するためのマスク(50)は第1領域(I)に配置される第1スリット(slit)(55)と第1領域(I)に隣接する第2領域(II)に位置する第2スリット(60,61,70,71)を含む。
・・・
[0028] また図2を参照すると、マスク(50)の第1領域(I)に位置する第1スリット(55)は実質的に等しいとか実質的に類似の長さ、幅などの寸法(dimension)を有することができる。例示的な実施例において、第1スリット(55)は実質的に等しい間隔に離隔されることができるし、このような第1スリット(55)の間の間隔は前記発光領域に配置される画素(pixels)の間の間隔に実質的に対応されうる。また、第1スリット(55)はそれぞれ実質的に半円の形状、実質的に半楕円の形状、実質的にトラックの形状などのように丸みのある(rounded)形状の端部を具備することができる。しかし各第1スリット(55)の端部の形状は前記有機発光表示装置の第1有機層パターンの形状によって変化されうる。」

「図2



4 甲第4号証(特開2004−235138号公報)
本件特許出願の優先日前に公知となった甲第4号証には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、表示装置に係り、特に高精細かつ生産性に優れた有機ELパネルの製造方法と、この製造方法で製造した有機ELパネルに関する。」

「【0035】
したがって、エッチングによる23マイクロメートルのようなマスク孔となる微細開口部の形成は極めて難しい。しかし、本実施例では、基材となる42アロイ板210を利用しているため、以下に続く工程を経ることで強度的に不都合のない高精細の多層メタルマスクを形成することができる。また、電着層で微細開口部(第1のマスク孔)を形成する際に、優れた矩形レジストパターン精度によって、その開口部のコーナー部の曲率半径(R寸法)が5マイクロメートル以下となる。」

「【0043】
図6は本発明による有機ELパネルの緑色発光層等の蒸着に用いる多層メタルマスクと有機ELパネルを構成する透明基板の絶縁膜の開口部分すなわち画素開口の概念図、図7は本発明の有機ELパネルの青色発光層等の蒸着に用いる多層メタルマスクと有機ELパネルを構成する透明基板の絶縁膜の開口部分すなわち画素開口の概念図、図8は本発明の有機EL素子の赤色発光層等の蒸着に用いる多層メタルマスクと有機ELパネルを構成する透明基板の絶縁膜の開口部分すなわち画素開口の概念図、図9は本発明による多層メタルマスクの角部R寸法の大小による画素開口への蒸着欠陥の状態を説明する平面図であり、図9(a)は多層メタルマスクの角部の曲率半径が5マイクロメートル以下の場合、図9(b)は多層メタルマスクの角部に5マイクロメートルを越える大きな曲率半径を有した状態を示す。
【0044】
なお、図6乃至図8において、各図の(a)は小さい開口部即ち第1のマスク孔24Aと大きい開口部すなわち第2のマスク孔55を有する多層メタルマスクの平面図、各図(b)は有機ELパネルを構成する透明基板の絶縁膜の開口部分の平面図である。ここで、多層メタルマスクの第1のマスク孔24Aの角部の曲率半径(以下、R寸法)は、有機ELパネルを構成する透明基板の絶縁膜の開口部分の角部のR寸法にできるだけ近い値であることが好ましい。以下その理由を説明する。
【0045】
前記絶縁膜の開口部分の角部のR寸法は、小さい方が開口面積が大きくなり、発光素子の発光面積を大きくでき、有機ELパネルの輝度を高くすることにつながる。そこで、図6乃至図8の各図(a)で示した第1のマスク孔24Aの角部のR寸法は画素開口のR寸法と同程度または5マイクローメートル以下とした。これにより、図9(a)に示すように、画素開口110に対して多層メタルマスクの第1のマスク孔24aによる蒸着パターンにずれが生じた場合でも、角部のR寸法が前記絶縁膜の開口部分の角部と同等で小さくできるために、画素開口部分への蒸着欠落や他の色との混ざり合いを有効に防ぐことが出来る。」

「【図9】



5 甲第5号証(韓国特許公開10−2011−0082414号公報)
本件特許出願の優先日前に公知となった甲第5号証には、以下の記載がある。
「請求項9
第1項において、
前記単位マスキングパターン部は、前記単位マスクストリップの長さ方向で両端部が前記フレームに引張されて固定された後には、前記長さ方向に垂直した方向に同一行に位置した最両端の開口部パターンの間の距離が実質的に同じくなることを特徴とする薄膜蒸着用マスクフレーム組立体。」

「請求項19
基板上にお互いに対向された第1電極及び第2電極間に具備された有機膜を含む有機発光ディスプレイ装置の製造方法において、
前記有機膜は、開口部を有するフレームにその長さ方向の両端部が溶接固定された複数の単位マスクストリップを含む薄膜蒸着用マスクフレーム組立体(10)によって蒸着形成されて、
前記各単位マスクストリップは、複数の開口部パターンを含む複数の単位マスキングパターン部を具備して、
前記単位マスキングパターン部は、前記単位マスクストリップの長さ方向で両端部が前記フレームに引張されて固定される前には、前記長さ方向に垂直した方向に同一行に位置した最両端の開口部パターンの間の距離が前記単位マスキングパターン部の中央部に行くほど増加するように設計されて、
前記単位マスクストリップの長さ方向で両端部が前記フレームに引張されて固定された後には、前記長さ方向に垂直した方向に同一行に位置した最両端の開口部パターンの間の距離が実質的に同じくなることを特徴とする有機発光ディスプレイ装置の製造方法。」

「[0047] 図3は本実施例による薄膜蒸着用マスクフレーム組立体において、単位マスクストリップがフレームに固定された後の単位マスキングパターン部の形状を概略的に図示した図面である。
[0048] 図3を参照すると、単位マスキングパターン部(120b)は単位マスクストリップ(110)の長さ方向(±y方向)で両端部が引張されてフレーム(30)に固定された後には、長さ方向(±y方向)に垂直した方向(±x方向)の幅(l)は実質的に同じくなる(l1’=l2’)。すなわち、単位マスキングパターン部(120b)の各開口部(111b)たちはトータルピッチだけではなく、単位ピッチも一定するように整列される。よって、これら整列された開口部パターン(111b)を通過して蒸着される有機物も所望の位置に誤差なしに蒸着される。」

「図2

図3


「図7



6 甲第6号証(特開2015−214741号公報)
本件特許出願の優先日前に公知となった甲第6号証には、以下の記載がある。
「【0050】
第1凹部30は、後に詳述するように、金属板21の第1面21aをエッチングすることにより形成される。エッチングによって形成される凹部の壁面は、一般的に、浸食方向に向けて凸となる曲面状となる。したがって、エッチングによって形成された凹部の壁面31は、エッチングの開始側となる領域において切り立ち、エッチングの開始側とは反対側となる領域、すなわち凹部の最も深い側においては、金属板21の法線方向に対して比較的に大きく傾斜するようになる。一方、図示された蒸着マスク20では、隣り合う二つの第1凹部30の壁面31が、エッチングの開始側において合流しているので、二つの第1凹部30の壁面31の先端縁32が合流する部分43の外輪郭が、切り立った形状ではなく、面取された形状となっている。このため、貫通孔25の大部分をなす第1凹部30の壁面31の高さを小さくし、かつ壁面31を、蒸着マスクの法線方向に対して効果的に傾斜させることができる。これによって、角度θ1を大きくすることができる。このことにより、蒸着材料98の利用効率を効果的に改善しながら、所望のパターンでの蒸着を高精度に安定して実施することができる。」

「【0054】
上述のように、蒸着材料のうち貫通孔の壁面に付着するものの比率を低くし、これによって蒸着の精度を向上させるためには、蒸着マスク20の厚みtを小さくすることが有効である。この点を考慮し、本実施の形態において、好ましくは蒸着マスク20の厚み(すなわち金属板21の板厚)tは、80μm以下に、例えば10〜80μmの範囲内や20〜80μmの範囲内に設定される。蒸着の精度をさらに向上させるため、蒸着マスク20の厚みtを、40μm以下に、例えば10〜40μmの範囲内や20〜40μmの範囲内に設定してもよい。
また上述のように、本実施の形態における第2凹部35の寸法r2は従来よりも小さい。このため、蒸着マスク20の第2面20bから接続部41までの距離r1が寸法r2に比べて比較的に大きいものであると、第2凹部35の壁面36に付着してしまう蒸着材料の比率が高くなってしまうと考えられる。この点を考慮し、本実施の形態において、好ましくは蒸着マスク20の第2面20bから接続部41までの距離r1は、0〜6μmの範囲内すなわち6μm以下に設定される。なお距離r1が0μmであることは、第2凹部35の壁面36が存在しないこと、すなわち第1凹部30の壁面31が金属板21の第2面21bにまで達していることを意味している。」

「【0058】
以下、接続部41と第1凹部30の壁面31の先端縁32とを通過する直線L1が蒸着マスク20の法線方向Nに対してなす角度α(以下、「壁面31の傾斜角度α」とも称する)と、トップ部の幅βとの関係について説明する。図8Aから明らかなように、トップ部の幅βが大きくなるほど、壁面31の傾斜角度αは大きくなる。この結果、壁面31の傾斜角度αよりも大きく傾斜した方向に沿って飛来する蒸着材料の多くが、トップ部の近傍において壁面31に遮られてしまうことになる。すなわちシャドーが生じやすくなる。例えば、画素密度が441ppiである表示装置用の蒸着マスク20において、図3のVI−VI線に沿った方向において隣接する2つの貫通孔25間の、第2面20b上における間隔が39.1μmであり、図3のIV−IV線に沿った方向において隣接する2つの貫通孔25間の、第2面20b上における間隔が27.6μmであり、図3のVI−VI線に沿った方向での、第2面20b上における貫通孔25の寸法が30.0μmであり、第2面20bから接続部41までの距離r1が3μmである場合、トップ部の幅βが2.2μmになり、壁面31の傾斜角度αが40°になり、蒸着物の飛ぶ最小角度が40°以下の場合、シャドーが生じやすくなる。そして、この場合、シャドーを抑制することができるトップ部の幅βの値としては、例えば2μm以下という値を挙げることができる。」

「【0108】
実施例1
(第11巻き体および第11マスク)
上述の条件(1)が有効であることを確認するための評価を実施した。具体的には、はじめに、ニッケルを含む鉄合金から構成された母材を準備した。次に、母材に対して上述の圧延工程、スリット工程、アニール工程および切断工程を実施することにより、長尺金属板が巻き取られた巻き体(第11巻き体)を製造した。なお、長尺金属板の板厚の目標仕様値は20μmとした。」

「【0119】
実施例2
長尺金属板の板厚の目標仕様値を25μmとしたこと以外は、上述の実施例1の場合と同様にして、第21〜第27巻き体を製造した。また、貫通孔の寸法の目標仕様値を40μm×40μmとしたこと以外は、上述の実施例1の場合と同様にして、第21〜第27巻き体の長尺金属板を用いて第21〜第27マスクを製造した。また実施例1の場合と同様にして、幅方向の中央部における第21〜第27巻き体の長尺金属板の板厚を、長手方向に沿って多数の箇所で測定した。また実施例1の場合と同様にして、第21〜第27マスクの貫通孔の寸法を測定した。第21〜第27巻き体の長尺金属板の板厚の、長手方向における平均値AおよびばらつきBを図24(b)に示す。また、第21〜第27マスクの貫通孔の寸法のばらつきを図25(b)に示す。」

7 甲第7号証(中国特許公開103205712号公報)
本件特許出願の優先日前に公知となった甲第7号証には、以下の記載がある。なお、甲第7号証の記載事項は、当審の訳文で示す。
「[0019] 上記の技術的解決手段中に、前記蒸着面上のスロット状開口部横方向は若干の実橋によって、オープン接続を起きる;前記マスク板は矩形とし、厚さは5〜200μmとする。前記ITO面は横方向と縦の実橋によってITO面等距離間隔に開口して走って来る;貫通したグリッド状は溝状開口中心の重なり合いと開口する。スロット状開口部はマスク板の厚み方向に垂直断面図はヒョウタン状のために、溝ITO面と蒸着面のスロット状開口部はテーパ角を有して、ITO面が開口する逆テーパの角角度は蒸着面のスロット状開口部のテーパ角の角度より小さい;蒸着面トレンチ開口のテーパ角は30〜50゜にある。ITO面小寸グリッド状開口側壁は滑らかな逆テーパの壁とし、テーパは0−8゜とする。前記のITO面の横寸法精度制御は±5μmにある;ITO面の逆テーパの角が開口した垂直な深さは5〜25μmにある。
[0020] ITO面の逆テーパの角が開口した垂直厚みは蒸着面テーパ角開口の垂直厚み以下である。マスク板材料はステンレス、純ニッケル、ニッケルコバルト合金、ニッケル鉄合金、アンバ中のいずれか一つの金属板とする;マスクプレート厚みは10〜50μmとする。蒸着面大寸法溝状開口側壁は滑らかなドリル壁とする。蒸着面にそれは狭長形として、無実橋は長手方向上間隔にある;ITO面に開口してメッシュの形とし、実橋が長手方向上に狭長形開口間隔が既存である。」

「[0038] 【実施例2】
蒸着用トレンチマスクの板は、横置断面図の図2に示すように、厚く50μmのために、形状は四角形金属板とし、含んでインジウムスズ酸化物(ITO)が面接触したITO面と蒸着面5と、前記マスク板上にITO面と蒸着面を貫通する開口を有して、開口貫通孔のITO面にあるグリッド状開口1の寸法が蒸着面に小さい溝状開口2の寸法。アンバを選択してマスク板材料とし、両面エッチング技術を用いて、図3はマスク板とITO面のために概略図を配合する。
[0039] マスク板のITO面4のエッチングから形成する図2中マスク板のITO面開口1のように、開口は1の深さはl5μmのために、横寸法は70μmとして、マスク板の蒸着面5のエッチング形成から図2中蒸着面のように上がる開口2は、且つ蒸着面上の開口2とテンプレートのITO面開口1の中心を保証して重なり合って、且つ蒸着面上で開口する2の中央対称は、深さは35μmとし、横寸法は140μmとして、且つ蒸着面上の開口2の開口孔の壁は一定の凹円弧の度を有して、形成した図3中の蒸着角度のような50°。ITO面と蒸着の面エッチング時間の分離に対することによってコントロールし、推奨摂取量のITO面開口1と蒸着面上の開口2の開口深度を得る。図4に示すように、実橋3がオープン接続を一緒にいる;上記のエッチングプロセスによって得る開口断面図の図3に示すように、15μmの深さ70μmの広いITO面小寸開口1と35μmの深さ140μmの広い蒸着面大寸法開口2は互いにヒョウタン状トレンチ開口を貫通形成し、開口は50゜の蒸着したテーパ角を有し、開口1のサイズ精度は±5μmに制御する;上記の両面エッチングは同じく片面を用いて2回のエッチングを分けることができる。ITO面小寸グリッド状開口側壁は滑らかな逆テーパの壁とし、テーパーは2°とする。」

8 甲第8号証(特開2015−168884号公報)
本件特許出願の優先日前に公知となった甲第8号証には、以下の記載がある。
「【0099】
なお、冷間圧延工程は、圧延油を用いてクーリングしながら行った。冷間圧延工程の後には、長尺金属板を洗浄する洗浄工程を行った。洗浄工程の後には、上述のスリット工程を実施した。なお、長尺金属板の厚みは25μmとした。」

「【0111】
〔群状介在物に関する評価〕
上述の第1巻き体の長尺金属板を用いて、多数の貫通孔25が形成された蒸着マスク20(以下、第1マスクと称する)を製造した。第1マスクの貫通孔25の寸法(平面視の場合の寸法。具体的には、平面視において接続部41によって囲まれた領域の寸法)は、40μm×40μmとした。また、第1マスクの第2面20bから接続部41までの距離は4μm以下であった。」

「【図7】



第5 申立理由1(進歩性)について
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「36%Niインバー材からなる金属板21」は、ニッケル合金を含んでいるといえるから、本件発明の「ニッケル合金を含む金属板」に相当する。
また、甲1発明の「36%Niインバー材からなる金属板21である蒸着マスク20」は、「金属板21」を含んでいるといえるから、本件発明1の「ニッケル合金を含む金属板を含」む「蒸着用マスク」に相当する。

イ 甲1発明の「蒸着マスク20の長手方向に配列され、各々に規則的な配列で複数の貫通孔25」、「複数の貫通孔25の間の領域」は、それぞれ、本件発明1の「複数個の貫通ホール」、「前記複数個の貫通ホールの間のブリッジ」に相当する。
また、甲1発明の「複数の貫通孔25が形成された複数の有効領域22」は、「複数の貫通孔25」の間の領域も含んでいるといえるから、本件発明1の「複数個の貫通ホール及び前記複数個の貫通ホールの間のブリッジを含む有効領域」に相当する。
さらに、甲1発明の「周囲領域23」は、「各有効領域22を取り囲む」ものであり、「有効領域22」の外周にも配置されるといえるから、本件発明1の「前記有効領域の外周に配置される非有効領域」に相当する。
以上によれば、甲1発明の「蒸着マスク20の金属板21は、蒸着マスク20の長手方向に配列され、各々に規則的な配列で複数の貫通孔25が形成された複数の有効領域22と、各有効領域22を取り囲む周囲領域23と、を含み、有効領域22には、複数の貫通孔25の間の領域があ」ることは、本件発明1の「前記金属板は、複数個の貫通ホール及び前記複数個の貫通ホールの間のブリッジを含む有効領域と、前記有効領域の外周に配置される非有効領域とを含」むことに相当する。

ウ 甲1発明においては、「蒸着マスクの法線方向における一方の側となる金属板21の第1面21aの側から金属板21に第1有効凹部30が形成され、金属板21の法線方向における他方の側となる第2面21bの側から金属板21に第2有効凹部35が形成され、第1有効凹部30と、当該第1有効凹部30に対応して設けられた第2有効凹部35とが接続することにより、各貫通孔25が形成され」ているから、「貫通孔25」は、「金属板21の第1面21a」上の「第1有効凹部30」と、「第2面21b」上の「第2有効凹部35」とが「接続する」部分(以下、「接続部」ともいう。)によって形成されているといえる。
そうすると、甲1発明の「金属板21の第1面21a」、「第1有効凹部30」、「第2面21b」、「第2有効凹部35」は、それぞれ、本件発明1の「第1面」、「第1面孔」、「第2面」、「第2面孔」に相当し、甲1発明の金属板21の第1面21a」上の「第1有効凹部30」と、「第2面21b」上の「第2有効凹部35」とが「接続する」部分は、本件発明1の「前記金属板の第1面上の第1面孔と、第2面上の第2面孔が連通する連結部」に相当するから、上記ア及びイの検討を参酌すると、甲1発明と、本件発明1とは、「前記貫通ホールは、前記金属板の第1面上の第1面孔と、第2面上の第2面孔が連通する連結部によって形成され」ている点で一致する。

エ 上記ウの検討を参酌すると、甲1発明の「第1面21a上における第1有効凹部30の幅は、第2面上21b上における第2有効凹部35の幅より大き」いことは、本件発明1の「前記第2面上における前記第2面孔の幅は、前記第1面上における前記第1面孔の幅より大き」いことに相当する。

オ 甲1発明において、「応力緩和領域50」は、「蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和する」ものであって、「蒸着マスク20の第1面20aに設けられた、好適には複数の第1応力緩和凹部51と、蒸着マスク20の第2面20bに設けられた、好適には複数の第2応力緩和凹部52とを有し」、「単一の第2応力緩和凹部52のみを有して、蒸着マスク20の第1面20aに第1緩和凹部51が設けられていなくてもよ」いものであるから、「蒸着マスク20」の「第2面20b」のみに、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和する「複数の第2応力緩和凹部52」が設けられているといえる。
一方、本件明細書の【0109】には、「前記第1境界領域BA1に隣接した非有効領域UAには一つのハーフエッチング部Eである第1ハーフエッチング部を配置することができる。前記第2境界領域BA2に隣接した非有効領域UAには、他のハーフエッチング部Eである第2ハーフエッチング部を配置することができる。このとき、ハーフエッチング部Eの曲線部は、それぞれ引っ張られる水平方向に突出した形状であってよい。これによって、前記ハーフエッチング部Eは、引張時に加えられる応力を分散させることができる。」と記載されており、上記ハーフエッチング部Eの配置、形状の記載からすると、当該ハーフエッチング部は、本件発明1の「第1溝」及び「第2溝」であるといえる。
また、本件明細書の【0103】に「蒸着用マスクを長さ方向、すなわち、水平方向に引っ張った時、前記蒸着用マスクが捩れる程度を、下記式2による捩れ指数αで表現することができる。」と記載されていることからすると、上記【0109】の「ハーフエッチング部Eは、引張時に加えられる応力を分散させることができる」との記載の「引張時」とは、蒸着用マスクの長さ方向の引張時であるといえる。
そうすると、本件発明1は、「金属板」が、「非有効領域に配置され、前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置する第1溝と、前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する第2溝を含み」、「前記第1溝と前記第2溝は、直線部及び前記直線部と連結される曲線部を含み」、「前記直線部は、前記有効領域と前記非有効領域との境界に位置した前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線と平行し」、「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、前記直線部より水平方向の外側に形成され」ることによって、蒸着用マスクの長さ方向の引張時に加えられる応力を分散させることができるものである。
また、本件発明1の「第1溝」と「第2溝」は、「前記金属板の前記第1面にのみ形成される」ものである。
以上によれば、甲1発明の「蒸着マスク20」の「第2面20b」のみに設けられている「複数の第2応力緩和凹部52」は、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和するものであるのに対し、本件発明1の「前記金属板の前記第1面にのみ形成される」「第1溝」と「第2溝」とは、蒸着用マスクの長さ方向の引張時に加えられる応力を分散させることができるものであり、両者の機能は共通しているといえるから、甲1発明の「複数の第2応力緩和凹部52」は、本件発明1の「第1溝」と「第2溝」に対応する。
そして、上記ウの検討を参酌すると、甲1発明と本件発明1とは、「第1溝」と「第2溝」とが、「前記金属板の前記第1面に形成され」、「前記金属板の前記第1面にのみ形成される」点で共通する。

カ 上記ウの検討を参酌すると、甲1発明の「第1有効凹部30」の深さは、「第1面21a」から接続部までの深さであり、「第2有効凹部35」の深さは、「第2面21b」から接続部までの深さであるといえるから、上記イ及びウの検討を参酌すると、甲1発明と本件発明1とは、「前記第1面孔の深さは、前記第1面から前記連結部までの深さであり、前記第2面孔の深さは、前記第2面から前記連結部までの深さであ」る点で一致する。

キ 甲1発明は、「第2応力緩和凹部52の深さが、第2有効凹部35の深さよりは大きく、第1有効凹部30の深さよりは小さい」ものであるから、上記オの検討を参酌すると、甲1発明と本件発明1とは、「前記第1溝の深さと前記第2溝の深さは、前記第1面孔の深さよりは大きく、前記第2面孔の深さよりは小さ」い点で共通する。

ク 甲1発明の「第2応力緩和凹部52」は、「応力緩和領域50において蒸着マスク20の幅方向に直線状に延びて」いるから、直線部を含んでいるといえる。
また、甲第1号証の【図3】及び【図4】には、「第2応力緩和凹部52」の直線部が、「有効領域22」と「周囲領域23」との境界に位置した「第2有効凹部35」の終端をつなぐ垂直方向の仮想線と平行であることが見て取れる。
そして、上記イ、ウ及びオの検討を参酌すると、甲1発明と本件発明1とは、「前記第1溝と前記第2溝」が、「直線部」を含み、「前記直線部は、前記有効領域と前記非有効領域との境界に位置した前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線と平行し」ている点で共通する。
しかし、本件発明1は、「前記第1溝と前記第2溝」が、「前記直線部と連結される曲線部を含」み、「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、前記直線部より水平方向の外側に形成される」のに対し、甲1発明は、そのような構成を備えていない点で相違する。

ケ 甲1発明の「周囲領域23」は、上記イで検討したように、「有効領域22」の外周にも配置されるといえる
しかし、甲1発明において、「応力緩和領域50」は、「周囲領域23」に含まれ、「互いに隣り合う有効領域22の間に介在され」るものであるから、甲1発明の「応力緩和領域50」と「金属板21」の「長手方向」の一端及び他端との間には、いずれも、「有効領域22」が存在するといえる。
なお、このことは、甲第1号証の【図3】の記載とも整合する。
一方、本件発明1の「金属板」に含まれる「第1溝」と「第2溝」とは、いずれも「前記非有効領域に配置され」、「第1溝」は、「前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置する」ものであり、「第2溝」は、「前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する」ものであるところ、「非有効領域」は、「有効領域の外側に配置される」ものであるから、本件発明1の「第1溝」と「前記金属板の長さ方向の一端」との間、及び、「第2溝」と「前記金属板の前記長さ方向の他端」との間には、いずれも、「有効領域」は存在していないといえる。
なお、このことは、本件図面の【図8】の記載とも整合する。
そうすると、本件発明1の「前記非有効領域に配置され」、「前記金属板の長さ方向の一端の近く」及び「前記金属板の前記長さ方向の他端の近く」とは、いずれも、「有効領域の外側」であって「有効領域」が存在していない領域である。
以上から、上記イ及びオの検討を参酌すると、「第1溝」と「第2溝」について、甲1発明と本件発明1とは、「前記非有効領域に配置され」る点で共通するものの、甲1発明の「応力緩和領域50」と「金属板21」の「長手方向」の一端及び他端との間には、いずれも、「有効領域22」が存在しており、「応力緩和領域50」は、「金属板21」の「長手方向」の一端の近く、及び、他端の近くに位置するとはいえないから、本件発明1は、「第1溝」が「前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置」し、「第2溝」が「前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有していない点で相違する。

コ 甲1発明は、「蒸着マスク20の第1面20aが蒸着材料98を保持したるつぼ94側に位置し、蒸着マスク20の第2面20bがガラス基板92に対面し」ているから、「第2面20b」は「第1面20a」の裏面であり、「蒸着材料98を保持したるつぼ94側に位置し」ているといえる。
そうすると、甲1発明の「蒸着材料98を保持したるつぼ94側」は、「有機物蒸着容器側」に相当し、上記ウの検討を参酌すると、甲1発明と本件発明1とは、「前記第1面の裏面である前記第2面は、有機物蒸着容器側である」点で一致する。

サ 以上から、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「ニッケル合金を含む金属板を含み、
前記金属板は、複数個の貫通ホール及び前記複数個の貫通ホールの間のブリッジを含む有効領域と、前記有効領域の外周に配置される非有効領域とを含み、
前記貫通ホールは、前記金属板の第1面上の第1面孔と、第2面上の第2面孔が連通する連結部によって形成され、
前記第2面上における前記第2面孔の幅は、前記第1面上における前記第1面孔の幅より大きく、
前記金属板は、前記非有効領域に配置される第1溝と、第2溝とを含み、
前記第1溝の深さと前記第2溝の深さは、前記第1面孔の深さよりは大きく、前記第2面孔の深さよりは小さく、
前記第1面孔の深さは、前記第1面から前記連結部までの深さであり、
前記第2面孔の深さは、前記第2面から前記連結部までの深さであり、
前記第1溝と前記第2溝は、前記金属板の前記第1面に形成され、
前記第1溝と前記第2溝は、直線部を含み、
前記直線部は、前記有効領域と前記非有効領域との境界に位置した前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線と平行し、
前記第1面の裏面である前記第2面は、有機物蒸着容器側であり、
前記第1溝と前記第2溝は、前記金属板の前記第1面にのみ形成される、蒸着用マスク。」

<相違点>
相違点1:本件発明1は、「第1溝」が「前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置」し、「第2溝」が「前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有していない点。
相違点2:本件発明1は、「前記第1溝と前記第2溝」は、「前記直線部と連結される曲線部を含み」、「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、前記直線部より水平方向の外側に形成される」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有していない点。

シ 申立人の主張について
(ア)申立人は、特許異議申立書19ページ1行〜下から7行において、以下の主張をしている。
「甲1には、金属板21が、周囲領域23に配置され、金属板21の長さ方向の一端の近くに位置する第2応力緩和凹部52と、金属板21の長さ方向の他端の近くに位置する第2応力緩和凹部52とを含み、当該一端及び他端の近くに位置する第2応力緩和凹部52の深さは、第2有効凹部35の深さよりは大きく、第1有効凹部30の深さよりは小さいことが記載されている(段落51、64、図5、8)。


甲1における「長さ方向の一端の近くに位置する第2応力緩和凹部52」、「長さ方向の他端の近くに位置する第2応力緩和凹部52」は、構成要件Aにおける「第1溝」、「第2溝」にそれぞれ相当する。」

(イ)検討
上記クで検討したとおり甲1発明の「応力緩和領域50」と「金属板21」の「長手方向」の一端及び他端との間には、いずれも、「有効領域22」が存在しており、「応力緩和領域50」は、「金属板21」の「長手方向」の一端の近く、及び、他端の近くに位置するとはいえないから、申立人の上記主張は採用できない。

(2)相違点についての判断
まず、相違点1について検討する。
上記(1)オで検討したとおり、甲1発明の「蒸着マスク20」の「第2面20b」のみに設けられている「複数の第2応力緩和凹部52」は、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和するものであるのに対し、本件発明1の「前記金属板の前記第1面にのみ形成される」「第1溝」と「第2溝」とは、蒸着用マスクの長さ方向の引張時に加えられる応力を分散させることができるものであり、両者の機能は共通している。
ここで、本件発明1の「第1溝」は、「前記非有効領域に配置され、前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置する」ものであり、「第2溝」は、「前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する」ものであり、この構成は、相違点1に係る本件発明1の構成であり、当該構成によって、蒸着用マスクの長さ方向の引張時に加えられる応力を分散できるといえる。
そうすると、甲1発明は、「複数の第2応力緩和凹部52」によって、すでに、蒸着マスク20の長手方向の応力を緩和するとの機能を有しているから、甲1発明に、更に、共通する機能を有する相違点1に係る本件発明1の構成を適用しようとする動機付けはない。
したがって、仮に、甲第2号証〜甲第8号証に、相違点1に係る本件発明1の構成が記載されているとしても、甲1発明に甲第2号証〜甲第8号証に記載された事項を適用して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、相違点2について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び周知技術(甲第2号証〜甲第8号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2〜9について
本件発明2〜9は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、上記1(2)で検討したのと同様の理由により、本件発明2〜9は、甲1発明及び周知技術(甲第2号証〜甲第8号証)に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由1は、理由がない。

第6 申立理由2(明確性要件)
1 本件発明1について
(1)まず、申立人の主張から検討する。
申立人は、本件発明1について、以下の主張をしている。
ア 特許異議申立書の33ページ3〜8行の主張
本件発明1は「金属板の長さ方向の一端の近くに」及び「金属板の前記長さ方向の他端の近くに」と記載しているが、何に対してどの程度「近く」であることをいうのか(どの程度離れていれば「近く」ではないのか)が不明確であり、技術的範囲を不明にするものであり、また、金属板の形状が規定されていないため、「金属板の長さ方向」がどのような方向なのか特定することができず、不明確である。

イ 特許異議申立書の33ページ9〜13行の主張
本件発明1は、「前記第1溝と前記第2溝は、直線部及び前記直線部と連結される曲線部を含み、」「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、」と記載されているが、「第1溝」や「第2溝」は、立体的な構造を有するところ、その構造のうち、「直線部」や「曲線部」は、どの部分に存在しなければならないものか、不明確であり、技術的範囲を不明にしている。

ウ 特許異議申立書の33ページ14〜17行の主張
本件発明1は、「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、前記直線部より水平方向の外側に形成される、」と記載されているが、「水平方向」とは重力が働く方向に垂直な方向をいうところ、「水平方向の外側」では技術的意味をなさず、「外側」も何に対して「外側」なのかも不明確である。

エ 特許異議申立書の33ページ18行〜最下行の主張
本件発明1は、「前記直線部は、前記有効領域と前記非有効領域との境界に位置した前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線と平行し、」と記載するが、まず「前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線」をどのように設定するのか不明であるし、「前記第2面孔の終端」が一つあってもつなぐ線が設定できないし、「つなぐ」こと(「つなぐ」(線))と「垂直方向」と「仮想の線」との関係も不明であり、仮に、「前記第2面孔の終端」が複数がってつなぐ線が描けるとしても、その線が金属板の「長さ方向」に対して「垂直方向」となるとは限らず、技術的意義も不明である。

オ 特許異議申立書34ページ1〜3行の主張
本件発明1は、「前記第1面の裏面である前記第2面は、有機物蒸着容器側であり」と記載しているが、蒸着用マスクとして何を特定しているのか不明確である。

(2)検討
ア 上記(1)アについて
本件発明1は、「前記金属板は、複数個の貫通ホール及び前記複数個の貫通ホールの間のブリッジを含む有効領域と、前記有効領域の外周に配置される非有効領域とを含み」及び「前記金属板は、前記非有効領域に配置され、前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置する第1溝と、前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する第2溝とを含み」と特定されているから、「第1溝」は、「有効領域の外周に配置される非有効領域」に「配置され」、かつ、「金属板の長さ方向の一端の近くに位置する」ものであり、また、「第2溝」は、「有効領域の外周に配置される非有効領域」に「配置され」、かつ、「金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する」ものであり、以下に示す本件図面の【図8】に図示されているとおりのものである。
「【図8】


また、蒸着用マスクの金属板は、本件図面の【図8】に記載されているように、通常、平面視長方形であって(必要であれば、甲第1号証の【図3】、甲第2号証の【図3】等参照)、本件明細書の【0089】には、「図8を参照すると、前記非有効領域UAに配置される蒸着用マスク100は、両端が水平方向に引っ張られ、マスクフレーム上に固定され得る。より詳しくは、前記非有効領域UAに配置される蒸着用マスクの一端及び他端は、y軸方向と平行に配置され、前記一端及び他端は、y軸方向と垂直なx軸方向、すなわち水平方向に引っ張られ得る。」と記載されているから、本件発明1の「金属板の長さ方向」とは、平面視長方形である金属板の長手方向であり、本件図面の【図8】のx軸方向であることが理解できる。
したがって、本件発明1の「前記金属板は、前記非有効領域に配置され、前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置する第1溝と、前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する第2溝とを含み」との記載は、明確である。

イ 上記(1)イ、ウについて
本件発明1は、「前記第1溝と前記第2溝は、直線部及び前記直線部と連結される曲線部を含み」、及び、「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、前記直線部より水平方向の外側に形成される」との特定に加えて、「前記直線部は、前記有効領域と前記非有効領域との境界に位置した前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線と平行し」、及び、「前記第1溝と前記第2溝は、前記金属板の前記第1面にのみ形成される」と特定されている。
そして、上記アで摘記した本件明細書の【0089】及び本件図面の【図8】の記載を参酌すると、本件発明1の「水平方向」とは、「金属板の長さ方向」と同様に、平面視長方形である金属板の長手方向であり、本件図面の【図8】のx軸方向であることが理解でき、また、平面視長方形である金属板の「第1面のみに形成され」ている「第1溝」及び「第2溝」は、金属板の平面視において、各形状が、「直線部及び前記直線部と連結される曲線部を含み」、「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され」、「前記直線部より水平方向」、すなわち、平面視長方形である金属板の長手方向(【図8】のx軸方向)の「外側に形成される」ことが理解できる。
したがって、本件発明1の「前記第1溝と前記第2溝は、直線部及び前記直線部と連結される曲線部を含み」、及び、「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、前記直線部より水平方向の外側に形成される」との記載は明確である。

ウ 上記(1)エについて
蒸着マスクの金属板に形成される貫通ホールは、本件図面の【図8】に記載されているように、通常、平面視長方形である金属板の長手方向(x軸方向)に対して垂直の方向であるy軸方向に沿って複数個形成される(必要であれば、甲第1号証の【図4】、甲第2号証の【図3】等参照)ものであるところ、本件発明1において、「第2面孔」によって形成される「貫通孔」は、「複数個」あるから、「第2面孔」も、上記y軸方向に複数個あるといえ、各「第2面孔」の「終端」をつなげば、本件図面の【図8】に境界領域として示されているBA1及びBA2の線が、それぞれ「仮想の線」として設定できるものである。
また、上記y軸方向は、上記イで検討した「水平方向」に対して「垂直方向」であると理解できる。
したがって、本件発明1の「前記直線部は、前記有効領域と前記非有効領域との境界に位置した前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線と平行し」との記載は明確である。

エ 上記(1)オについて
本件明細書の【0025】の「有機物蒸着装置は、蒸着用マスク100、マスクフレーム200、基板300、有機物蒸着容器400及び真空チャンバー500を含むことができる。」との記載、及び、以下に示す本件図面の【図1】の記載によれば、本件発明1の「蒸着マスク」は、有機物蒸着装置内に設置されて用いられるものであり、有機物蒸着容器も、有機物蒸着装置内に設置されるものである。
「【図1】


そうすると、本件発明1の「前記第1面の裏面である前記第2面は、有機物蒸着容器側であり」との特定事項は、「蒸着マスク」に含まれる「金属板」の「第2面」が、「有機物蒸着容器側」になるように、有機物蒸着装置内に設置して用いることを特定するものであることが理解できる。
したがって、本件発明1は、「前記第1面の裏面である前記第2面は、有機物蒸着容器側であり」との記載は明確である。

(3)そして、上記(2)ア〜オで検討した本件発明1の記載以外の記載について、不明確な記載は見当たらない。
したがって、本件発明1の記載は明確である。

2 本件発明3について
(1)まず、申立人の主張から検討する。
申立人は、本件発明3について、特許異議申立書の34ページ5〜12行において以下の主張をしている。
本件発明3は、「前記第1面孔は、前記第1面上のオープン領域の角部が曲率を有し、
前記角部のラウンド状の部分の曲率と同一の曲率を有する仮想の円の直径は、5μm〜20μmである」
と規定するが、「前記第1面上のオープン領域の角部」がどのような部分を指すのか、「前記角部のラウンド状の部分」がどのような部分を指すのか、不明である。なお、後述のように、本件発明3の記載事項は、本件明細書に記載がない。

(2)検討
本件発明3の「前記第1面孔は、前記第1面上のオープン領域の角部が曲率を有し」は、「第1面上」における「第1面孔」の形状を特定するものであるから、金属板の平面視における「第1面上のオープン領域の角部が曲率を有し」ているといえる。
なお、以下に示す本件図面の【図4】は、「第2面孔V2を示したもの」(本件明細書の【0041】参照)であり、第2面孔V2上のオープン領域の角部が曲率を有していることが見て取れる。
そうすると、本件発明3の「第1面孔」も、【図4】に示されている第2面孔V2の形状と同様の形状を有していると理解できる。
「【図4】


また、本件明細書の【0074】には、「前記第1面孔V1は、前記第1面101上のオープン領域の縁部、すなわち、オープン領域の外周部が曲率を有することができる。または、前記第2面孔V2は、前記第2面102上のオープン領域の縁部、すなわち、オープン領域の外周部が曲率を有することができる。」と記載され、上記で検討したことと同旨の内容が記載されているといえる。
したがって、本件発明3の「前記第1面孔は、前記第1面上のオープン領域の角部が曲率を有し」との記載は明確である。

(3)そして、上記(2)で検討した本件発明3の記載以外の記載について、不明確な記載は見当たらない。
したがって、本件発明3の記載は明確である。

3 本件発明4について
(1)申立人は、本件発明4について、特許異議申立書の34ページ15行〜35ページ11行において以下の主張をしている。
本件発明4は、「前記金属板を0.7kgfの力で前記長さ方向に引っ張った際に、下記の式2によって計算されたねじれ指数aは、0.85〜15である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蒸着用マスク。
<式2>
α:=2B/(d1+d2)
前記式2において、
前記d1は、前記第1溝と前記第1溝と隣接した有効領域との間の非有効領域で測定された金属板の幅であり、
前記d2は、前記第2溝と前記第2溝と隣接した有効領域との間の非有効領域で測定された金属板の幅であり、
前記Bは、前記有効領域の中間地点で測定された金属板の幅である。」(以下、「本件発明4特定事項」という。)と規定するが、第1面孔や第2面孔を形成する前後の金属板の厚さが、長さ方向の一端から他端まで、同じ厚さであることは保証されておらず、「金属板を0.7kgfの力で前記長さ方向に引っ張」る前から、金属板の厚さが、長さ方向の一端から他端まで1割〜2割程度バラツキのあるものも、本件発明4には含まれ、実際、金属板の厚さは完全に均質なものではなく、バラツキがある。したがって、そのような金属板に対して、「0.7kgfの力で前記長さ方向に引っ張」り、「ねじれ指数a」を評価すること自体、技術的意義がない。

(2)検討
上記本件発明4特定事項は、その記載自体は明確である。
そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載が明確であることで足りるものであり、当該記載に技術的意義かあるかどうかは、明確性要件の判断に影響を及ぼすものではない。
したがって、本件発明4の記載は明確である。

4 本件発明6について
(1)申立人は、本件発明6について、以下の主張をしている。
ア 特許異議申立書の35ページ14〜18行
本件発明6は、「第1面孔の幅」「第2面孔の幅」の数値範囲を規定する。しかしながら、「第1面孔」「第2面孔」は、様々な形状(円、楕円、丸みを帯びた長方形状・正方形状のもの、多角形の角部が突出しているものなど)のものがある中で、どのように幅を測定するのか(どの長さを「幅」とするのか)、本件明細書にも規定されておらず、不明確である。

イ 特許異議申立書の35ページ19〜24行
本件発明6は、「第1面孔の深さ」「第2面孔の深さ」の数値範囲を規定する。しかしながら、「第1面孔の深さ」「第2面孔の深さ」の深さが位置によって異なる場合にどのように評価するのか、「第1面孔」が複数ある中で「第1面孔」によって深さが異なる場合にどのように評価するのか、同様に「第2面孔」が複数ある中で「第2面孔」によって深さが異なる場合にどのように評価するのか、本件明細書にも規定されておらず、不明確である。

(2)検討
ア 上記(1)アについて
本件発明6の「第1面孔の幅」及び「第2面孔の幅」について、本件明細書の【0037】には、「前記第2面孔V2の幅は、前記第1面孔V1の幅より大きくすることができる。このとき、前記第1面孔V1の幅は前記第1面101で測定し、前記第2面孔V2の幅は前記第2面102で測定することができる。」と記載されており、以下に示す本件図面の【図6】も参酌すると、本件発明6の「第1面孔の幅」は、第1面における金属板の長さ方向の最大値であり、「第2面孔の幅」は、第2面における金属板の長さ方向の最大値であると解するのが相当である。
「【図6】


したがって、本件発明6の「第1面孔の幅」及び「第2面孔の幅」の数値範囲は明確である。

イ 上記(1)イについて
本件発明6の「第1面孔の深さ」及び「第2面孔の深さ」について、本件発明6には、「前記第1面孔の深さは、前記第1面から前記連結部までの深さであり、前記第2面孔の深さは、前記第2面から前記連結部までの深さであり」と特定されており、各孔の深さは、上記アで示した【図6】にも図示されているとおりのものである。
そして、「第1面孔」及び「第2面孔」は、それぞれ複数あるものであるところ、各孔の深さが異なったとしても、本件発明6は、各孔の深さが異なるものを排除するものではない。
したがって、本件発明6の「第1面孔の深さ」及び「第2面孔の深さ」の数値範囲は明確である。

(3)以上から、本件発明6の記載は明確である。

5 本件発明7、8について
(1)まず、申立人の主張から検討する。
申立人は、本件発明7、8について、特許異議申立書の36ページ2〜7行において以下の主張をしている。
本件発明7、8には、「前記第1ブリッジの幅」「前記第2ブリッジの幅」が記載されているが、金属板に対して、様々な形状の大きさの第1面孔や、様々な形状の大きさの第2面孔が、様々な位置、間隔で形成されうる中で、「前記第1ブリッジの幅」「前記第2ブリッジの幅」をどのように測定するのか(どの長さを「幅と」するのか)、本件明細書にも規定されておらず、不明確である。

(2)検討
本件発明7、8の「前記第1ブリッジの幅」及び「前記第2ブリッジの幅」について、本件明細書の【0121】には、「前記第1ブリッジBR1と前記第2ブリッジBR2は、互いに異なる幅を有することができる。前記第1面における前記第1ブリッジ部BR1の幅は、前記第2面における前記第2ブリッジ部BR2の幅より大きくてよい。ここで、前記第1ブリッジ部BR1の幅は前記第1面で測定されたものであり、前記第2ブリッジ部BR2の幅は前記第2面で測定されたものでよい。詳しくは、前記第1ブリッジ部BR1の幅は、隣接した貫通ホールの間を支持するそれぞれの前記第1ブリッジ部BR1の平均幅を意味することができる。前記第2ブリッジ部BR2の幅は、隣接した貫通ホールの間を支持するそれぞれの前記第2ブリッジ部BR2の平均幅を意味することができる。」と記載されているから、本件発明7、8の「前記第1ブリッジの幅」及び「前記第2ブリッジの幅」は明確である。

(3)そして、上記(2)で検討した本件発明7、8の記載以外の記載について、不明確な記載は見当たらない。
したがって、本件発明7、8の記載は明確である。

6 本件発明2、5、9について
本件発明2、5、9には不明確な記載は見当たらないから、請求項2、5、9の記載は明確である。

7 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとではない。
したがって、申立理由2は、理由がない。

第7 申立理由3(サポート要件)
1 当審の判断
本件明細書の【0011】には、発明が解決しようとする課題として、「均一な貫通ホールを有する蒸着用マスクを提供する」ことが記載されており、同【0012】には、課題を解決するための手段として、「蒸着用マスクは金属板を含み、前記金属板は、複数個の貫通ホール及び該複数個の貫通ホールの間におけるブリッジを有する有効領域と、前記有効領域の外周に配置される非有効領域と、を含み、前記貫通ホールは、第1面上の第1面孔と該第1面に対向する第2面上の第2面孔とが出会う連結部に形成され、前記第1面孔の幅は、前記第2面孔の幅より小さく、前記第1面孔の深さは前記第2面孔の深さより小さく、下記式1
<式1>
k=H2(T−H1)(前記式において、
前記Tは、前記非有効領域で測定された蒸着用マスクの厚さであり、
前記H1は、前記複数個の貫通ホールのうち、隣接した2つの貫通ホールの間におけるブリッジの厚さが最大である地点において、前記連結部を基準に前記第1面方向への厚さであり、
前記H2は、前記隣接した2つの貫通ホールの間におけるブリッジの厚さが最大である地点において、前記連結部を基準に前記第2面方向への厚さである。)によって計算されたk値は、0.65〜1未満である。」と記載されている。
しかし、本件発明1には、上記k値について特定されていないから、上記課題は、本件発明1が解決しようとする課題であるとはいえない。
そして、上記第5 1(1)オで検討したとおり、本件明細書の【0103】及び【0109】の記載から、本件発明1は、「金属板」が、「非有効領域に配置され、前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置する第1溝と、前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する第2溝を含み」、「前記第1溝と前記第2溝は、直線部及び前記直線部と連結される曲線部を含み」、「前記直線部は、前記有効領域と前記非有効領域との境界に位置した前記第2面孔の終端をつなぐ垂直方向の仮想の線と平行し」、「前記曲線部は、前記直線部の両端に連結され、前記直線部より水平方向の外側に形成され」ること(以下、「本件第1、第2溝構造」という。)によって、蒸着用マスクの長さ方向の引張時に加えられる応力を分散させることができるものである。
そうすると、本件発明が解決しようとする課題は、長さ方向の引張時に加えられる応力を分散させる蒸着用マスクを提供すること(以下、「本件課題」という。)であり、本件発明1は、上記本件第1、第2溝構造によって、本件課題を解決し得るものであるといえる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、本件発明2〜9は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様に、本件課題を解決し得るものであるといえる。
したがって、本件発明2〜9も、発明の詳細な説明に記載されたものである。

2 申立人の主張について
(1)本件発明1〜9について
ア 申立人は、特許異議申立書36ページ11行〜37ページ12行において以下の主張をしている。
(ア)本件発明1は、「第1溝」や「第2溝」の形状が線対称の形状であるとは限らず、「第1溝」や「第2溝」の「直線部」が、金属板の長さ方向に対して垂直方向に延在するとも限らないから、本件明細書【0089】【図8】に記載のように蒸着用マスクの両端を引っ張り、マスクフレームに溶接により固定しようとしても、「第1溝」や「第2溝」の形状や蒸着用マスクに対する向きによって、引っ張り力が、蒸着用マスクの幅方向において均等にかからず偏り、蒸着用マスクが波打ったり、シワが生じたりして、捩れが生じ得るものである。

(イ)また、第1面孔や第2面孔を形成する前後の金属板の厚さが、長さ方向の一端から他端まで、同じ厚さであることは保証されておらず、「金属板を0.7kgfの力で前記長さ方向に引っ張」る前から、金属板の厚さが、長さ方向の一端から他端まで1割〜2割程度バラツキのあるものも、本件発明には含まれる。そのため、蒸着用マスクを両端から引っ張ったときに、蒸着用マスクが捩れない保証はない。

(ウ)したがって、本件発明1は、課題が解決できるとは、当業者は認識できないし、本件発明2〜9についても同様である。

イ 検討
まず、上記ア(イ)の「第1面孔や第2面孔を形成する前後の金属板の厚さが、長さ方向の一端から他端まで、同じ厚さであることは保証されておらず、「金属板を0.7kgfの力で前記長さ方向に引っ張」る前から、金属板の厚さが、長さ方向の一端から他端まで1割〜2割程度バラツキのあるもの」との主張は、証拠に基づくものではない。
また、上記ア(ア)、(ウ)の主張については、上記1で検討したとおり、本件明細書の【0103】及び【0109】の記載から、本件発明1は、上記本件第1、第2溝構造によって、上記本件課題を解決し得るものであるといえる。

(2)本件発明3について
ア 申立人は、特許異議申立書の37ページ13〜17行において以下の主張をしている。
本件発明3は、「前記第1面孔は、前記第1面上のオープン領域の角部が曲率を有し、
前記角部のラウンド状の部分の曲率と同一の曲率を有する仮想の円の直径は、5μm〜20μmである」と規定するが、そのような記載は、本件明細書には見当たらない。

イ 検討
上記第6 2(2)で検討したとおり、本件明細書の【0074】には、本件発明3の記載と同旨の内容が記載されているといえるから、本件発明3は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

(3)したがって、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、申立理由3は、理由がない。

第8 申立理由4(実施可能要件
1 当審の判断
本件発明1〜9は、いずれも物の発明であるところ、その構造からして、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて、その物を製造し、使用することができるものである。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

2 申立人の主張について
(1)申立人は、以下の主張をしている。
ア 特許異議申立書の37ページ19〜23行
本件発明1は、「前記金属板は、前記非有効領域に配置され、前記金属板の長さ方向の一端の近くに位置する第1溝と、前記金属板の前記長さ方向の他端の近くに位置する第2溝とを含み」と特定しているが、当該特定事項にいかなる技術的意味があるのか、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されていない。

イ 特許異議申立書の37ページ24行〜38ページ1行
本件発明1は、「前記第1溝の深さと前記第2溝の深さは、前記第1面孔の深さよりは大きく、前記第2面孔の深さよりは小さく」と特定しているが、当該特定事項にいかなる技術的意味があるのか、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されていない。

ウ 特許異議申立書の38ページ2〜6行
本件発明1は、「前記第1溝と前記第2溝は、前記金属板の前記第1面にのみ形成される」、「前記第1溝と前記第2溝は、直線部及び前記直線部と連結される曲線部を含み」と特定しているが、当該特定事項にいかなる技術的意味があるのか、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されていない。

エ 特許異議申立書の38ページ8〜11行
本件発明2は、「前記曲線部は、前記直線部の長さをCとするとき、1/2C長の地点に近づくにつれて曲率半径が増加する」と特定しているが、当該特定事項にいかなる意味があるのか、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に記載されていない。

オ 特許異議申立書の38ページ13〜15行
本件発明5〜9は、金属板の厚さ、孔寸法等を特定しているが、当該寸法にどのような臨界的意義があり、当該寸法範囲以外の場合にどのような相違があるのか、発明の詳細な説明には説明されていない。

(2)検討
申立人の上記(1)ア〜オの主張について、まとめて検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1〜9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであることは、上記1で検討したとおりであり、本件発明の特定事項に技術的意味があるかどうか、本件発明の特定事項にいかなる意味があるかどうか、金属板の厚さ、孔寸法にどのような臨界的意義があるかどうか、及び、当該寸法範囲以外の場合にどのような相違があるかどうかは、いずれも、実施可能要件の判断に影響を及ぼすものではない。
したがって、申立人の上記主張は、いずれも採用できない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1〜9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとではない。
したがって、申立理由4は、理由がない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-01 
出願番号 P2020-053087
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C23C)
P 1 651・ 121- Y (C23C)
P 1 651・ 537- Y (C23C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 河本 充雄
正 知晃
登録日 2022-01-07 
登録番号 7005672
権利者 エルジー イノテック カンパニー リミテッド
発明の名称 蒸着用マスク及びこれを用いたOLEDパネル  
代理人 重森 一輝  
代理人 金山 賢教  
代理人 市川 祐輔  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 小野 誠  

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