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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
管理番号 1392079
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-21 
確定日 2022-11-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第7007458号発明「高温および高湿度レベルでのエージングによるスタッコ特性の改善」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7007458号の請求項1〜12に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7007458号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜12に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)8月4日を国際出願日として特許出願され、令和4年1月11日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月24日に特許掲載公報が発行された。
その後、その請求項1〜12に係る特許に対して、令和4年7月21日に特許異議申立人金澤毅(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許請求の範囲の記載(本件発明)
本件特許請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、各請求項に係る発明を、項番号に合わせて「本件発明1」などといい、纏めて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
スタッコを安定化するための方法であって、
− 新鮮なスタッコが少なくとも50℃の温度で提供され、
− 水が前記新鮮なスタッコに添加されて、湿らせたスタッコを得て、
− 前記湿らせたスタッコが、少なくとも50℃かつ100℃未満の温度で少なくとも30分かつ24時間未満の時間間隔にわたって維持されて、安定化されたスタッコを得る、方法。
【請求項2】
前記安定化されたスタッコが、前記安定化されたスタッコの重量に基づいて0.2〜5重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%の量の自由水分を含有するような量で、水が前記新鮮なスタッコに添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水が蒸気形態で提供される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記湿らせたスタッコが、少なくとも50%の相対湿度の雰囲気下で維持される、請求項1〜3のうちの一項に記載の方法。
【請求項5】
前記安定化されたスタッコの粒径D98が、1mm未満に調整される、請求項1〜4のうちの一項に記載の方法。
【請求項6】
前記安定化されたスタッコが粉砕される、請求項1〜5のうちの一項に記載の方法。
【請求項7】
前記安定化されたスタッコが新鮮なスタッコと混合される、請求項1〜6のうちの一項に記載の方法。
【請求項8】
石膏プラスターボードを生産するための方法であって、
− 請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法によって得られた安定化されたスタッコを提供するステップと、
− 水を前記安定化されたスタッコに添加することによってスタッコスラリーを調製するステップと、
− 前記スタッコスラリーを形成して、石膏プラスターボードを得るステップと、を少なくとも含む、方法。
【請求項9】
気泡が前記スタッコスラリーに添加される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記気泡が、不安定な気泡である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記気泡が、安定した気泡であり、消泡剤が前記スタッコスラリーに添加される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
建築ボード、ならびに石膏ブロック、スクリード、接合コンパウンド、仕上げコンパウンド、壁プラスター、成形プラスター、または任意の他の石膏ベースの製品の生産のための、請求項1〜11のうちの一項に従って生産された、安定化されたスタッコの使用。」

第3 特許異議の申立てについて
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
ここで、申立人が提出した証拠方法は、次のものである。
甲第1号証 米国特許第2177668号明細書
甲第2号証 特開昭55−37499号公報
甲第3号証 特開昭51−3397号公報
甲第4号証 特表2017−501962号公報
甲第5号証 特開昭62−41747号公報
甲第6号証 特表平7−504856号公報
甲第7号証 特表2010−536696号公報
甲第8号証 特開昭53−115693号公報

(1) 申立理由1(新規性進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜4、6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当する、又は、同請求項1〜12に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

(2) 申立理由2(サポート要件違反)
設定登録時の請求項1〜12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(2)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

(3) 申立理由3(明確性要件違反)
設定登録時の請求項1〜12に係る特許は、特許請求の範囲の記載が後記3(3)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 各甲号証の記載事項
(1) 甲第1号証の記載事項(下線は当審が付した。)
ア 「1. The process of aging calcined gypsum including agitating the gypsum, exposing the gypsum to a moisture carrying gaseous agent having a predetermined relative-humidity, and continuing the agitation and exposure until rehydration of the gypsum by the moisture content of the gaseous agent to the hemihydrate is effected.」(請求項1)
(当審仮訳:1.焼成石膏をエージングする方法であって、該石膏を攪拌し、該石膏を所定の相対湿度を有する水分運搬ガス薬剤に暴露し、該ガス薬剤の水分によって、該石膏が半水和物に再水和されるまで、撹拌及び暴露を継続することを含む方法。)
イ 「This invention relates to a process for aging calcined gypsum, sometimes hereinafter referred to as gypsum plaster or plaster, and more particularly to a process of producing artificially and in a very short time relative to ordinary methods pure, uniform and strong calcined gypsum products having the characteristics of those which have been aged for several months under natural conditions.
It is known that freshly calcined gypsum chemically combines with approximately from fifteen to twenty-five percent of water by weight of the gypsum plaster and that additional water is added to the gypsum plaster to render it workable for commercial purposes.
It is also known that the chemical combination of water with calcined gypsum over long periods of time, for example, by absorption of moisture vapor from the air, which is known to the trade as "aging", reduces the amount of water required, when subsequently added, to render the gypsum plaster workable and that, consequently, less water need be evaporated from the set gypsum products when in finished and commercially applied condition, which results in a stronger product than if the gypsum plaster were used without aging.」(第1頁左欄第1〜27行)
(当審仮訳:本発明は、焼成石膏(以下、石膏プラスター又はプラスターと称することもある)をエージングする方法に関し、特に、自然状態で数ヶ月間エージングしたような特性を有する純粋で均一かつ強固な焼成石膏製品を、人工的に、通常の方法より極めて短時間で製造する方法に関する。
焼成したばかりの石膏は、石膏プラスターの約15〜25重量%の水と化学結合することが知られており、石膏プラスターにさらに水を加えて商業的な目的に使用できるようにすることが知られている。
また、空気中の水蒸気を吸収することにより、長時間にわたって焼成石膏と水を化学的に結合させることは、当業界では「エージング」として知られており、その後、石膏プラスターを加工するために必要な水の量を減らし、その結果、石膏プラスターが完成して商業的に適用された状態で、硬化した石膏製品から蒸発する水の量が少なく、石膏プラスターをエージングせずに使用した場合よりも強力な製品をもたらすことが知られている。)
ウ 「The temperature at which the gas is maintained during the treatment of exposure of the plaster and application of moisture thereto, is also predetermined, as distinguished from the normally indeterminate weather conditions which ordinarily obtain, but the temperature of the plaster during treatment incidentally varies due to the chemical reaction which takes place during the process. This is also dependent upon the quality, quantity and original temperature of plaster being treated, and also the rate of exposure.」(第1頁右欄第44〜55行)
(当審仮訳:プラスターの暴露と水分を加える処理の間、ガスが維持される温度も、通常得られる不確定な気象条件とは異なり、予め決定されているが、処理中のプラスターの温度は、処理中に起こる化学反応により、付随的に変化している。これは、処理されるプラスターの品質、量、元の温度、及び暴露速度にも依存する。)
エ 「For example, under one correlation of conditions, the temperature of the gas may be maintained at 105°F.; the plaster exposed in a mixer with fairly rapid agitation; the original temperature of the plaster subjected to treatment being 54°F. and under such conditions the temperature of plaster and water of crystallization (which is determined by the ignition loss) at intervals is shown on the table below:
・・・
With the initial temperature of the plaster at 165°F. as contrasted with 54°F. original temperature shown above, the temperature of the plaster at intervals is shown it the following table:
Degree Fahrenheit
Initial temperature---------------------- 165
5 minutes treatment---------------------- 150
10 minutes treatment--------------------- 154
15 minutes treatment--------------------- 155
20 minutes treatment--------------------- 155
25 minutes treatment--------------------- 145
30 minutes treatment--------------------- 137
45 minutes treatment--------------------- 121
60 minutes treatment--------------------- 113
75 minutes treatment--------------------- 109
The predetermined time set for the reaction is dependent upon the initial temperature of the gypsum plaster that is to be treated, the temperature of the gas carrying the moisture, the humidity of the gas, the rate of exposure and the characteristics of the plaster to be treated. We have shown in the above tables a processing reaction that required 1 hour and 15 minutes to produce an aged plaster under one set of conditions, and another processing reaction that required 1 hour to produce an aged plaster under another set of conditions. We can by properly controlling the other factors, greatly lessen the time factor.」(第2頁左欄第1〜52行)
(当審仮訳:例えば、ある条件の相関関係では、ガスの温度を105°Fに維持され、プラスターはかなり速い攪拌速度による混合機で暴露する。処理にさらされるプラスターの初期温度は54°Fであり、そのような条件下での間隔毎のプラスター温度と結晶水(これは強熱損失によって決定される。)は、以下の表に示される。
・・・
プラスターの初期温度が上記54°Fの場合に対して、165°Fとすると、間隔毎のプラスター温度は次の表のようになる。
華氏度
初期温度 ---------------------- 165
5分処理 ---------------------- 150
10分処理 -------------------- 154
15分処理 -------------------- 155
20分処理 -------------------- 155
25分処理 -------------------- 145
30分処理 -------------------- 137
45分処理 -------------------- 121
60分処理 -------------------- 113
75分処理 -------------------- 109
反応に設定される所定時間は、処理される石膏プラスターの初期温度、水分を運ぶガスの温度、ガスの湿度、暴露速度、及び、処理されるプラスターの特性に依存する。ある条件下で1時間15分かけてエージングしたプラスターを生成する処理反応と、別の条件下で1時間かけてエージングしたプラスターを生成する処理反応を上表に示したが、他の要因を適切にコントロールすることで、時間的な要因を大幅に軽減することができる。)

(2) 甲第2号証の記載事項
ア 「(1) (a)焼石膏原料を石膏スラリー混合機に供給する工程と、
(b)前記の焼石膏原料をブレンダに運ぶ工程と、
(c)重量で焼石膏の約1%から10%の範囲の水を前記の焼石膏に混合する工程と、
(d)水で焼石膏をヒール処理する工程と、
(e)ヒール処理を施した焼石膏の表面積を増加せしめるため、ヒール処理した焼石膏を粉砕する工程と、
(f)ヒール処理を施し、粉砕された焼石膏を石膏スラリー混合機に供給する工程と、
(g)湿つた石膏ボードから蒸発すべき水の量を実質的に減少させた焼石膏の100部について、ブレンダに加えた水を含めて約50乃至約85部の水を、スラリー混合機中のヒール処理を施し、かつ粉砕された焼石膏に追加して水を加える工程と、
(h)均質なスラリーをうるため、スラリー混合機内でヒール処理を施し、かつ粉砕された焼石膏と水とを混合する工程と、
(i)湿つた石膏ボードを形成するために、スラリーを石膏ボード製造機に供給する工程と、
(j)乾燥するために、湿つた石膏ボードを乾燥炉を通過せしめる工程と、
(k)実質的に硫酸カルシウム2水塩からなる乾燥した石膏ボードを製造する工程
とを備え、所要量より少い水の量を用い、流動性のよいスラリーを製造し、このスラリーから石膏ボードを製造した場合に十分な圧縮強度を発現出来ることを特徴とする石膏ボードの製造方法。」(特許請求の範囲)
イ 「本発明者の特許、出願番号777,213及び788,953において焼石膏の連続処理の設備と方法を記載してあるが、その目的は焼石膏に加える水の量を少くし、水を加えて処理した石膏の原料を石膏ボードの自動製造装置のスラリー混合機に連続的に供給するためである。その処理方法は少量の水を完全に焼石膏に混合して、石膏ボード製造に使用するに先立つて、生乾きであるが一見乾燥している如くでパサパサにさせるためである。
このヒーリング(healing)(又はヒール処理)と言う言葉の意味は少量の遊離の水を焼石膏粒子の表面を短時間の間抱くように取巻き、それは1〜10分間であるが、粒子の表面にある破片が水に溶けて、スラリーの混合操作で、粒子が更に微砕化されて無数のミクロン程度の微粉に破砕されることを防ぐ作用をすると考えられることを意味するものである。」(第3頁右下欄第16行〜第4頁左上欄第12行)
ウ 「本発明の実施例の一つにおいて、水処理とヒール処理に起因する成形品の強度低下と強度発現の割合は処理後の材料を磨砕することによつて取りかえすことが出来る。文献によると通常の完全に乾いた焼石膏を水に混ぜるに先立つて粉にすることにより成形品の強度改良が行われると述べられているが(米国特許3,480,387)、水処理とヒール処理による所要水量の減少は、材料を磨砕することによつて未処理の焼石膏と対応する強度を発現することが期待される。一人の熟練者はその報告において磨砕の重要性を期待しているが、それは粒子がヒール処理した割れ目を再開させ粒子の表面破壊の原因を与え、それにより水を節約した利点を削減させていること。しかし水処理とヒール処理によつて得られる水の所要量の節約はヒール処理した表面積を増加させるために水処理したスタコーを磨砕することによつて失なわれるものでないことを発見した。
それは操作上の理屈にすぎないが、ヒール処理させると言うことは焼石膏粒子中の小さい破片は少量の遊離水によつて小さい塊になつてしまう。ある意味で粒子の表面に局在する遊離水がヒール操作の間に破片と割れ目を溶接して、その後大量の水で混合され石膏ボードの二水化のためあるいは又プラスター製造のためにスラリーにするときに、粒子の急速な破壊を阻く作用をすると考えられる。更にまた磨砕操作はヒール処理された粒子の新らしい面を生成せしめ、それに続く水の添加による水和反応の間に急速硬化性のエネルギーを提供する場所を活性化するものと信じられている。」(第4頁左下欄第14行〜第5頁左上欄第3行)
エ 「本発明を実施するためにはじめに焼石膏に加える僅かな水の量は先ず所要水量の節限効果に依存する。一般にそれは焼石膏の所要量の1〜10%になる。所要水量節約の最大効果は焼石膏の3%に当る遊離水の働きで十分のように思われるが、その値は温度と原料石膏によつてきまる。これは焼石膏の全量に所要の水を添加するか、あるいはごく一部の石膏に水を加え、それを残りの焼石膏に合して十分に混合する。当然操作の途中蒸発による水分の消失があるので、スプレーかその他の手段で水を追加するが、実際には所要量の3%に当る程度の水の追加が望ましい。水を加えるには焼き立ての熱い焼石膏でも冷えたものでもよく、熱い方が一般に多量の水を必要とする。室温に冷えた焼石膏には3%の水が適当で、上述の如く熱い材料にはそれ以上の量が望ましい。しかし最も有効な処理方法は焼石膏の温度が220°F以下、望ましくは200°F以下で行うべきである。」(第5頁右上欄第6行〜左下欄第3行)

(3) 甲第3号証の記載事項
ア 「1.焼石こうを流体により浮遊させて流動層を形成し該流動層内に直接、水、又は水蒸気、又は両混合物を供給し、上記焼石こうと湿分との熟成反応熱、或は熟成反応熱と熱交換器との熱交換により層内を80〜150℃の範囲内に保つて、上記焼石こうの熟成反応を行なわしめることを特徴とする焼石こうの熟成方法。」(特許請求の範囲)
イ 「流動層内の最適温度範囲は、焼石こうの活性度、性状等により若干異なるが層内温度が80℃以下で水を直接スプレイして熟成反応を行なわしめる場合に、焼石こうの一部が二水石こうとなる危険があり又150℃以上となつた場合熟成反応の進行が著るしく遅くなる。一連の実験の結果では、80〜150℃の所定温度内で熟成反応を行なわしめた熟成石こうの品質に比べ、80℃以下でのものはその層内温度の低下に従つて品質は劣り、150℃以上のものでは熟成にむらがあり、180℃以上となると熟成は進行していない。また、焼石こう中に、2水石こうが残存する場合には層内温度を120℃〜150℃内に保つことによつて、残存2水石こうを完全に半水石こうに転移することが出来る。従つて、使用目的からして無視出来ない範囲の2水石こうが残存する場合には、層内温度を120℃〜150℃に保つて熟成反応を行なわしめる方が好ましい。」(第2頁右上欄第9行〜左下欄第5行)

(4) 甲第4号証の記載事項
ア 「【請求項1】
スタッコを調節する方法であって、
硫酸カルシウム半水和物および/または無水石膏、並びに硫酸カルシウム二水塩を含むスタッコ粒子を反応槽に供給するステップと;
少なくとも100℃の温度、少なくとも70%の湿度でスタッコ粒子を調節するステップと、を備え、
前記スタッコ粒子を調節するステップの間、前記反応槽内の前記スタッコ粒子のかさ密度が少なくとも1g/cm3であることを特徴とする方法。」
イ 「【請求項3】
前記スタッコ粒子の調節時間が少なくとも30分、好ましくは少なくとも1時間であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。」
ウ 「【背景技術】
【0002】
石膏(硫酸カルシウム二水塩)は、天然由来の原料または排煙脱硫の合成の副生成物として入手可能である。石膏ボードなどの石膏含有製品の製造は、典型的には、
温度結晶化の化学結合した水を追い出すために、約150℃超の温度で硫酸カルシウム二水塩(CaSO4.2H2O)を焼成プロセスにかけ、主に硫酸カルシウム半水和物(CaSO4.1/2H2O)を含む焼成生成物(スタッコとしても既知)を得るステップと;
スタッコを水と混合してスラリーを得、スラリーを所定の形状に注型するステップと;
スタッコを固めて固体生成物を得るステップと、を備える。この段階の間に、硫酸カルシウム半水和物は再水和して、二水塩結晶が得られる。」
エ 「【発明の概要】
【0003】
一般に、焼成により形成されたスタッコは、硫酸カルシウム半水和物に加えて、他の相を含む。特に、スタッコは、無水石膏(CaSO4)を含有し得る。この形態の硫酸カルシウムは、化学結合した水分子を有さず、スタッコスラリーの固化時間および/または水要求量に悪影響を与えることから、望ましくない。
【0004】
それ故に、スタッコ中の無水石膏の濃度を低減することが望ましい。
【0005】
したがって、最も一般的には、本発明は、焼成したスタッコ生成物内の半水和物相の割合を増加させる調節処理を提供し得る。より詳細には、調節処理は、湿潤環境にて、焼成温度未満の温度で、焼成した生成物を加熱処理するステップを含む。
【0006】
そのような調節処理が、スタッコの水要求量を低減するのに役立ち得ることが見出された。さらに、処理の結果、スタッコの比表面積が減少し得、水和プロセスの初期段階においてスラリーの流動性を保持しつつ、スタッコスラリーの全体の硬化時間を低減するのに役立ち得ることが見出された。
【0007】
さらに、調節処理中のスタッコ内の二水塩粒子の存在が、無水石膏粒子の濃度を低減するのを助け得ることが見出された。これは、二水塩粒子から化学結合した水分子が放出され、次いで、これらの水分子が、無水石膏粒子の半水和物粒子への変換を促進するのに利用可能であることによるものと考えられる。調節プロセス中のスタッコ内の二水塩粒子の存在は、蒸気のスタッコへの導入などの他の方法よりも湿度の分布を良好なものとすると考えられる。」

(5) 甲第5号証の記載事項
ア 「(1)水和性石膏50〜95重量部と二水石膏5〜50重量部とよりなる100重量部の粉末状石膏と、0.5〜30重量部の繊維と、酒石酸又はその金属塩とアミノ酸とよりなり上記水和性石膏に対し0.1〜2.0重量%の凝結遅延剤と、水とから成る混合物を、上記水和性石膏が水和する前に成形して硬化乾燥せしめることを特徴とする不燃性石膏板の製造方法。」(特許請求の範囲)
イ 「本発明の方法に係る原料的特徴は、水和性石膏と二水石膏を実質的に併用する点にある。使用する水和性石膏としては、二水石膏を公知方法で加熱処理して得られるα型半水石膏、β型半水石膏若しくは可溶性無水石膏のいづれか1種若しくは2種以上の混合物である。使用する水和性石膏の粉末度は、好ましくはブレーン比表面積値で5000cm2/g以下である。
この値を著しく超えるような細かい粉末度のものは、本発明に係る前述の混合物からの成形品の硬化時間が不都合に短縮される傾向を生じこれを是正するために凝結遅延剤の添加量が増大し好ましくない。
逆に該粉末度が粗すぎる場合は、得られる硬化体すなわち石膏板の強度が低下する。従って、該粉末度は、最大粒径として500μ以下であり、かつ、ブレーン比表面積値が1000cm2/g以上であることが好ましい。」

(6) 甲第6号証の記載事項
ア 「1. 1層の濾過方法により石膏と強化繊維から石膏繊維ボードを連続的に製造するための方法であって、人工熟成されたβ−半水和物および(または)α−半水和物およびリグノセルロース含有強化繊維および場合により混和剤および骨材の希液性懸濁液を水透過性のコンベアベルト上に分配し、かつ過剰の水を主に負圧によって除去し、この際にフィルタケーキが形成され、フィルタケーキを場合により機械的な圧力作用によってさらに脱水し、貯蔵して凝結させ、かつ最後に熱乾燥することよりなる形式のものにおいて、
a)α−半水和物の場合には950g/lよりも大きな、ないしはβ−半水和物の場合には700g/lよりも大きな見かけ密度を持つ石膏を使用し、その粒度分布がRS粒度図で40°よりも大きな傾斜角を有しており、かつβ−半水和物の場合には石膏をか焼(当審注:原文は漢字表記)後粉砕せず、
d)強化繊維を処理して繊維物質にし、これを石膏繊維懸濁液中に混入する前に機械的に前脱水し、かつ石膏繊維懸濁液の脱水からの水で再度希釈し、
e)真空濾過を機械的な手段によって支持することを特徴とする、繊維強化石膏ボードを製造するための方法。」(特許請求の範囲)
イ 「α−半水和物では最大粒度は200μmを下回っていなければならない、それというのも比較的大きい粒子は懸濁液中で沈降する傾向があり、かつ濾過層の底に蓄積するからである。もう1つの理由は、大きなα−半水和物結晶は再水和化の進行がきわめて緩慢であることである。これはβ−半水和物の場合とは異なり水が粒子内へ侵入することができないからである;すなわちここでは時間のかかる溶解−および分散過程が生じる。」(第5頁左下欄第8〜16行)

(7) 甲第7号証の記載事項
ア 「【請求項1】
水、
水硬性成分の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の焼成した石膏を含む水硬性成分、
泡、
消泡剤、
ポリカルボキシレート分散剤
を含むことを特徴とする石膏スラリー。」
イ 「【請求項7】
請求項1のスラリーから作られたことを特徴とする石膏の建築用パネル。」
ウ 「【背景技術】
【0002】
石膏スラリーは、建築用パネルを製造するのに有用である。石膏の建築用パネルは、建築空間の仕上げのために、手頃な価格で性能の優れた製品を提供する。石膏は、また硫酸カルシウム2水和物としても知られているが、加熱されて結晶水を追い出して硫酸カルシウム硬石膏(anhydrite)および/または硫酸カルシウム半水和物(またスタッコ、焼成石膏または焼石膏(Plaster of Paris)としても知られている)を生成する。建築用パネルは、スタッコと水とを組み合わせることにより製造される。焼成された石膏および水は組み合わされ、そして石膏結晶の相互連絡したマトリックスが形成される。焼成された石膏の水和後、過剰な水は加熱により追い出され、得られた生成物は、修飾的な仕上げ例えばペンキまたは壁紙を行うことのできる良好な表面を有する比較的強いパネルである。
【0003】
石膏の建築用パネルはコストの点で優れているが、それらは比較的重い。パネルは、重量のために、移動にあたってバッチを小さくしなけばならない。パネルを取り扱う職人が取り付ける場合、かれらは、パネルを持ち上げそして確保されるべき箇所にそれらを保持するのに疲れてしまう。さらに、重いパネルは輸送するのにコストがかかる。製品の密度をコントロールする方法の1つは、液状のスラリーへ石けんに基づく発泡体を添加することによる。スタッコは、次に発泡した泡のまわりに硬化し、石膏マトリックスに空隙が生ずる。パネル中の望ましくない性質を避けるために、泡のサイズをコントロールするのが重要である。もし泡が余りに小さいと、小さい泡を多くすることが、密度に変化を生じさせるために必要になる。局限された空間に多くの泡が存在するとき、得られた石膏マトリックスは、低い圧縮強さを有する。余りに大きな泡は、強さを弱めそして表面仕上げ紙の下に、外から見えないふくれを形成する。
【0004】
もし種々のサイズの空隙をもつ石膏が形成されると、強くしかも表面の欠陥のない建築用パネルを生成することができる。種々の石けんは、種々の性質をもつ泡を生成する。いくつかの石けんは、非常に強くしかも安定な泡を形成し、それらは壊れそして合体する傾向が殆どない。安定な石けんは、空気の随伴を最大にしそして石膏スラリーにおける使用量を最少にするようにするものと規定される。他の石けんは、安定ではなく、泡を形成するが、石膏の存在によってより不安定になる。安定な泡を形成する石けんと不安定な泡を形成する石けんとの組み合わせは、石膏スラリー中の大きな泡の空隙の生成をコントロールできる。本発明のいくつかの態様は、本明細書において参考として引用される特許文献1に記載されている石けんの組み合わせを利用する。」
エ 「【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の態様の1つは、石膏スラリーに関する。スラリーは、水、水硬性成分、発泡剤、消泡剤およびポリカルボキシレート分散剤を含む。別に示されていない限り、スラリーの成分は、全乾燥水硬性成分の重量に基づく重量により計量される。
水硬性成分は、水硬性成分の乾燥重量に基づいて少なくとも50重量%の焼成した石膏を含む。好ましくは、水硬性成分中の焼成した石膏の量は、50%より多い。本発明の他の態様は、水硬性の成分の乾燥重量に基づいて65%より多いまたは80%より多い焼成した石膏を含む水硬性成分を利用する。多くのウォールボード製品では、水硬性の材料は実質的にすべての焼成した石膏である。任意の形の焼成した石膏が使用でき、アルファスタッコまたはベータスタッコを含むが、これらに限定されない。硫酸カルシウム焼石膏(anhydrite)、合成石膏または粉末石膏(landplaster)の使用も含まれる。セメントおよびフライアッシュを含む他の水硬性の材料は、随意にスラリーに含まれる。
【0015】
発泡剤はスラリーに添加されて仕上がった製品の密度をコントロールする。従来の発泡剤(発泡した石膏製品を製造するのに有用であることが知られている)の任意のものも使用できる。多くのこのような発泡剤は、周知であり、そして市販されていて入手が容易であり、例えばGeo Speciality Chemicals,Ambler,PAからの石けん製品である一連のHYONICを挙げることができる。発泡剤および発泡した石膏製品を製造する方法は、本明細書で参考として引用されるUS5683635に開示されている。この特許は、第1の発泡剤および第2の発泡剤の比を変えることによって、大きな泡を泡のサイズの分布に含ませることを教示している。発泡した泡のサイズのコントロールは、仕上がったパネル製品の強さにとり重要である。第1の発泡剤は、発泡剤の全重量に基づいて約65−約85重量%である。
【0016】
不安定な泡を生ずるのに有用な第1の発泡剤の例は、以下の式(1)を有する。
CH3(CH2)x(CH2)(OCH2)yOSO3−M
(式中、xは2−20の数であり、yは0−10の数でありしかも発泡剤の少なくとも50重量%で0より大きく、そしてMはカチオンである)。
安定な泡を生ずるのに有用な第2の発泡剤の例は、以下の式(2)を有する。
【0017】
R′−OSO3−M
(式中、R′は2−20炭素原子を含むアルキル基であり、そしてMはカチオンである)。好ましくは、R′は8−12炭素原子を含むアルキル基である。第1の発泡剤または第2の発泡剤の何れかのカチオンは、それぞれ別々に、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、アンモニウム、第4級アンモニウムおよびこれらの混合物の少なくとも1つを含む。
【0018】
ポリカルボキシレート分散剤とともに1つ以上の消泡剤を添加することは、泡のサイズをさらに変えさせ、そのため、より大きな空隙の生成をコントロールできることが分かっている。スタッコが硬化すると、硫酸カルシウム2水和物結晶の相互連結したマトリックスが、泡のまわりに形成され、硬化した材料に空隙を残す。以下の記述において、空隙のサイズの分布の例は、それが石膏パネルの芯に適用されるとされているが、しかし、本発明のスラリーが他の石膏に基づく製品においても用いられることも含まれる。」

(8) 甲第8号証の記載事項
ア 「(1)石膏ボードスラリ混合装置に供給するに先立つてか焼(当審注:原文は漢字表記(以下同様))石膏に水を添加することにより低粘稠度としてなる製造方法において、自由水を約1重量%乃至約8重量%か焼石膏に連続的に添加する工程と、前記自由水とか焼石膏とを均質に混合する工程と、前記混合された混合物を約1分間エージングする工程と、前記エージングされたか焼石膏を石膏ボードスラリ混合装置へ送る工程とを実質的に備えて成る製造方法。
(2)水の添加量が削減されかつ石膏ボードの自動化製造に適するよう急速には硬化しないか焼石膏の連続製造方法において、石膏ボードスラリ混合装置に供給されるか焼石膏供給物の少なくとも一部を高出力混合装置へ連続的に分流する工程と、水を前記分流されたか焼石膏へ連続的に添加する工程と、自由水が約1重量%乃至約8重量%の混合物となるよう水とか焼石膏を均質に混合する工程と、約1分間前記混合された混合物をエージングする工程と、前記エージングされた混合物を石膏ボード製造ラインの石膏スラリ混合装置へ送る工程とを備えて成る製造方法。
(3)か焼石膏供給物の約40重量%乃至約100重量%が分流され、且つ約300r.p.m.乃至約600r.p.m.で回転する羽根車により均質に混合されてなる上記特許請求の範囲第2項記載の製造方法。
(4)か焼石膏供給物の分流され、水の添加されたか焼石膏と、分流され水の添加されなかつたか焼石膏とを連続的に混合し、石膏ボード混合装置へ送つてなる上記特許請求の範囲第3項記載の製造方法。」(特許請求の範囲)
イ 「実験例1
貯蔵装置から石膏スラリ混合装置へ送られるか焼石膏の一部が分流され、中出力の剪断混合装置を連続的に通過される。約150°F乃至約約170°F(約65.0℃乃至約83℃)の温度の乾燥したか焼石膏は5トン/時間の割合で(これはか焼石膏流の約50重量%)前記混合装置の器体の片側に入力され、一方少量の水が2ガロン/分(約7l/分)の割合で前記混合装置の中央に制御導入される。直径約12インチ(約30cm)、高さ約15インチ(約38cm)の円筒形器体に直径10インチ(約25.4cm)のモータボート型プロペラを装着することにより剪断混合が達成される。プロペラが約300r.p.m.の速度で駆動される。又水が導入されか焼石膏に添加混合された後か焼石膏は器体に沿つて降下り一周して、更に上行し器体の頂部に穿設された出口部から導出される。次に水の添加されたか焼石膏は水の添加されていないか焼石膏流と合流され、その後水と混合し石膏ボードの製造に使用するよう石膏ボード製造用のスラリ混合装置へ送られた。」(第4頁左下欄第16行〜右下欄第16行)

3 当審の判断
(1) 申立理由1(新規性進歩性欠如)について
ア 甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証には、前記2(1)アによれば、焼成石膏を攪拌し、該焼成石膏を所定の相対湿度を有する水分運搬ガス薬剤に暴露し、該ガス薬剤の水分によって、該焼成石膏が半水和物に再水和されるまで、撹拌及び暴露を継続する、焼成石膏をエージングする方法が記載され、また、前記2(1)イによれば、当該焼成石膏は焼成したばかりの石膏であることや、焼成石膏がプラスターと称されることも記載されている。
そして、甲第1号証には、前記2(1)エのとおり、上記エージング方法の具体例が記載されており、混合機で攪拌されているプラスター(焼成石膏)が、105°Fに維持された水分運搬ガス薬剤に暴露されること、前記プラスター(焼成石膏)の初期温度を165°Fとして、1時間15分かけてエージングすること、及び、そのときのプラスター(焼成石膏)の温度履歴が150°F(5分処理)、154°F(10分処理)、155°F(15分処理)、155°F(20分処理)、145°F(25分処理)、137°F(30分処理)、121°F(45分処理)、113°F(60分処理)、109°F(75分処理)になることが記載されている。
これら記載を整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「焼成したばかりの焼成石膏を混合機で攪拌し、該焼成石膏を所定の相対湿度を有する水分運搬ガス薬剤に暴露し、該ガス薬剤の水分によって、該焼成石膏が半水和物に再水和されるまで、撹拌及び暴露を継続する、焼成石膏をエージングする方法であって、
該ガス薬剤の温度を105°Fに維持し、
前記焼成石膏の初期温度を165°Fとして、1時間15分かけてエージングして、そのときの焼成石膏の温度履歴が150°F(5分処理)、154°F(10分処理)、155°F(15分処理)、155°F(20分処理)、145°F(25分処理)、137°F(30分処理)、121°F(45分処理)、113°F(60分処理)、109°F(75分処理)になっている、焼成石膏をエージングする方法。」
イ 本件発明1について
(ア) 本件発明1と甲1発明との対比
a 本件発明1と甲1発明との対応関係
両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
(a) 甲1発明の「焼成石膏」は、本件特許の願書に添付された明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の「スタッコは、β−半水化物から主になるが、少量の他の硫酸カルシウム鉱物も含有する様々な硫酸カルシウムである。この用語は、蒸気圧を制御しないケトル内での焼成製品に一般的に使用される。」(【0005】)との記載からして、本件発明1の「スタッコ」に相当する。
(b) 甲1発明の「焼成石膏をエージングする方法」は、本件特許明細書の「硬化プロセスに必要な水の量を減らすために、スタッコは、少量の水の添加によって焼成後に安定化される。このプロセスは、石膏の「強制エージング」としても知られており、一般的に使用されている。」(【0012】)との記載からして、本件発明1の「スタッコを安定化するための方法」に相当する。
(c) 前記(b)をふまえると、甲1発明の「前記焼成石膏」を「エージング」することは、本件発明1の「安定化されたスタッコを得る」ことに相当する。
(d) 甲1発明の「焼成したばかりの焼成石膏」及び「前記焼成石膏の初期温度を165°Fと」することは、華氏165°Fを摂氏に換算すると約73.9℃となることから、本件発明1の「新鮮なスタッコが少なくとも50℃の温度で提供」することに相当する。
(e) 甲1発明の「該焼成石膏を所定の相対湿度を有する水分運搬ガス薬剤に暴露」することは、本件発明1の「水が前記新鮮なスタッコに添加されて、湿らせたスタッコを得」ることに相当する。
b 本件発明1と甲1発明と一致点及び相違点
前記aの対応関係をふまえると、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点は、それぞれ、次のように認定することができる。
(a) 一致点
「スタッコを安定化するための方法であって、
− 新鮮なスタッコが少なくとも50℃の温度で提供され、
− 水が前記新鮮なスタッコに添加されて、湿らせたスタッコを得て、
− 安定化されたスタッコを得る、方法。」
(b) 相違点
安定化されたスタッコを得るための処理条件について、本件発明1では、「前記湿らせたスタッコが、少なくとも50℃かつ100℃未満の温度で少なくとも30分かつ24時間未満の時間間隔にわたって維持され」ているのに対して、甲1発明では、「1時間15分かけて」、「そのときの焼成石膏の温度履歴が150°F(5分処理)、154°F(10分処理)、155°F(15分処理)、155°F(20分処理)、145°F(25分処理)、137°F(30分処理)、121°F(45分処理)、113°F(60分処理)、109°F(75分処理)になっている」点。
(イ) 相違点の検討
本件発明1の「前記湿らせたスタッコが、少なくとも50℃かつ100℃未満の温度で少なくとも30分かつ24時間未満の時間間隔にわたって維持されて」との特定事項は、本件特許明細書の【0012】の記載における「強制エージング」に相当する工程であると解されるところ、当該「強制エージング」はブレンダ等の容器内で実行されることが技術常識であること(同【0012】の記載も参考にした。)、及び、同【0017】には、本件発明の先行技術として、「US2,177,668」(甲第1号証)を示した上で、この文献記載の技術について、容器の中で処理される時間に対応する1時間15分が「合計処理時間」であるとしており、本件特許明細書において、当該工程は、容器の中で処理することを前提に処理条件を特定していると考えられることをふまえると、本件発明1の前記特定事項は、容器内で維持されるスタッコの温度及び時間の範囲を特定していると解するのが自然である。
他方、甲1発明は、混合機内での1時間15分のエージング処理において、開始から30分処理までの焼成石膏の温度が137°F(摂氏に換算すると58.3℃)から155°F(同68.3℃)の範囲内であるものの、エージング処理全体としては、焼成石膏は、109°F(同42.8℃)から155°F(同68.3℃)の温度範囲で処理されており、本件発明1とは異なり、処理中に50℃を下回っているから、上記相違点は実質的なものといえる。
次に、上記相違点に係る本件発明1の構成とすることの容易想到性を検討すると、甲第1号証には、「処理中のプラスターの温度は、処理中に起こる化学反応により、付随的に変化している。これは、処理されるプラスターの品質、量、元の温度、及び暴露速度にも依存する。」(前記2(1)ウ参照)と記載されているように、エージングする際の焼成石膏の温度はその処理条件で変化することが記載されているものの、当該温度を50℃以上100℃未満の範囲になるように制御するとの技術思想は記載も示唆もされていない。
また、甲第2号証〜甲第4号証、甲第8号証には、前記2(2)〜(4)、(8)に摘記したとおり、スタッコのエージング方法が記載され、また、甲第5号証〜甲第7号証には、前記2(5)〜(7)に摘記したとおり、スタッコを使用した石膏ボードの製造方法が記載されているものの、甲第2号証〜甲第8号証の記載をみても、湿らせたスタッコを50℃以上100℃未満の温度範囲で30分以上24時間未満の時間間隔にわたって維持するように制御することが周知技術であるということはできない。
加えて、本件発明1では、「前記湿らせたスタッコが、少なくとも50℃かつ100℃未満の温度で少なくとも30分かつ24時間未満の時間間隔にわたって維持され」ることにより、「低い水需要量を有すると同時に、石膏プラスターボード生産等において必要とされる短い硬化時間を提供するのに十分な活性度を有する安定化されたスタッコが得られる」(【0086】)との顕著な効果を奏するものである。
これらの点を併せて検討すると、甲1発明において、湿らせたスタッコを維持する際の該スタッコの温度を「少なくとも50℃かつ100℃未満の温度」とすることは、当業者によって容易想到な事項であるといえない。
(ウ) 小括
したがって、本件発明1は、甲1発明であるといえないし、また、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
ウ 本件発明2〜12について
本件発明2〜12は、本件発明1の全ての特定事項を含むものであるから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2〜4、6は、甲1発明であるといえないし、また、本件発明2〜12は、甲1発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものともいえない。
エ 申立理由1についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。

(2) 申立理由2(サポート要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由2は、要するに、本件発明の課題は、「硬化時間が所望に応じて調整され得るように、さらなる処理のために安定化されたスタッコの活性度の調整を可能にするスタッコを安定化するためのプロセスを提供すること」(【0023】)であるところ、(i)本件特許明細書の発明の詳細な説明において、当該課題である硬化時間やスタッコの活性度に対しての評価がなされていないこと、及び、(ii)本件発明1の湿らせたスタッコの保管条件の範囲が、実施例の保管条件より広範囲であって、65℃未満の温度あるいは1時間未満の維持時間とした場合に課題を解決できることが明らかでないことを論拠として、本件発明1〜12に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない、というものである(特許異議申立書第48頁第2行〜第52頁末行)。
イ サポート要件違反についての検討
(ア) サポート要件の判断手法について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(イ) サポート要件適合性の判断
a 本件発明の課題について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0020】、【0021】及び【0023】の記載からして、本件発明の課題は、石膏プラスターボード等の生産における短い硬化時間を可能にすると共に、スラリーの調製に必要な水需要量が低くなるようにスタッコの活性度の調整を可能にするスタッコを安定化するためのプロセスを提供することであるといえる。
b 発明の詳細な説明の記載について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例2には、「82℃の温度を有する53トンの新鮮なスタッコを、1.4重量%水および0.25重量%スチームの添加により連続ミキサー内で処理して、湿らせたスタッコを得た。湿らせたスタッコを、容器の全ての外面を包囲する隔離層を備えた保管容器に運んだ。保管容器内に充填する前の湿らせたスタッコの温度は、75±5℃であった。保管容器を気密密閉し、湿らせたスタッコを安定化のために3時間保管した。安定化後、安定化されたスタッコを保管容器から取り出し、標準の搬送ライン上で石膏プラスターボードに処理した。保管容器から取り出したときの安定化されたスタッコの温度は、65℃超であった。」(【0176】)とのスタッコの大規模安定化方法が記載されるとともに、実施例3には、「75℃の保管容器内で保管した後に実施例4(当審注:実施例2の誤記と認められる。)で得た安定化されたスタッコを、工業生産ラインでのスタッコスラリーの調製に使用し」(【0183】)、「標準の石膏プラスター生産ラインに使用した硬化時間およびスラリー稠度とほぼ同じ硬化時間およびスラリー稠度を達成するために、安定化されたスタッコを使用したスラリー中に含まれる水および液化剤の量を著しく減少させることができた。」(【0188】、【表4】)ことが記載されている。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例5には、「実施例2での機器と同じ機器を使用」(【0202】)して、「スタッコの量は60トンであり、これを150分以内に処理した。新鮮なスタッコの温度は、85℃であった。水を1.5重量%の量で添加した。サイロ内での保管中のスタッコの温度は、75±5℃であった。保管後と水および液化剤の添加前のスタッコの温度は、65℃超であった。」(【0203】)とのスタッコの大規模安定化方法が記載され、実施例6には、「実施例5でエージング後に得たスタッコをスタッコスラリーの調製に使用し」(【0206】)、上記実施例3と同様な結果(【表9】)が得られたことが記載されている。
したがって、実施例2及び5のスタッコの大規模安定化方法は、本件発明の課題を解決できると認識できる。
加えて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、(i)「新鮮なスタッコの/湿らせたスタッコの温度は」、「少なくとも50℃に調整され」る(【0062】)こと、及び、(ii)「安定化されたスタッコの安定性および反応性は、一実施形態によれば、熱処理の温度および/または持続時間の調整によって調整され」(【0092】)、当該温度は、「少なくとも50℃」かつ「100℃未満」(【0079】)であり、当該持続時間が「少なくとも30分間」(【0085】)かつ「24時間未満」(【0087】)であることが記載されており、これら記載を併せ考えれば、新鮮なスタッコが少なくとも50℃の温度で提供され、水が前記新鮮なスタッコに添加されて、湿らせたスタッコを得て、前記湿らせたスタッコが、少なくとも50℃かつ100℃未満の温度で少なくとも30分かつ24時間未満の時間間隔にわたって維持されて、安定化されたスタッコを得る方法であれば、上記実施例2及び5と同様に、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。
c 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討
特許請求の範囲の請求項1〜12の記載は、前記第2のとおりのものであるところ、前記bで検討した発明の詳細な説明の記載と対比すると、本件発明1〜12は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、前記aの判断手法に従えば、特許請求の範囲の請求項1〜12の記載は、サポート要件を満足する。
(ウ) 申立人の主張についての検討
申立人が主張する前記アの申立理由2について改めて検討すると、前記(イ)bで検討したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、実施例2及び5の安定化されたスタッコを使用したスラリーについて、同等の硬化時間で水の量を著しく減少させることができたことが記載されているし、また、湿らせたスタッコを少なくとも50℃かつ100℃未満の温度で少なくとも30分かつ24時間未満の時間間隔としても、実施例2及び5と同様に、本件発明の課題が解決できると認識できる程度に記載されているから、申立人の主張する論拠には理由がないので、本件発明1〜12に係る特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさないということはできない。
ウ 申立理由2についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。

(3) 申立理由3(明確性要件違反)について
ア 具体的な指摘事項
申立理由3は、要するに、(i)本件発明1の「新鮮なスタッコ」及び「湿らせたスタッコ」との各特定事項の定義が明らかでないこと、(ii)本件発明2の「好ましくは0.5〜1.5重量%」との選択的特定事項が明確でないこと、(iii)本件発明10の「不安定な気泡」との特定事項の基準が明らかでないこと、(iv)本件発明11の「安定な気泡」との特定事項の基準が明らかでないこと、及び、(v)本件発明12の「任意の他の石膏ベースの製品」との特定事項がどのような製品を意味しているのか明らかでないことを論拠として、本件発明1〜12に係る特許請求の範囲の記載は明確でない、というものである(特許異議申立書第53頁第1行〜第55頁第2行)。
明確性要件違反についての検討
(ア) 上記(i)の点について検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「新鮮なスタッコは、最新技術で既知のプロセスに従って石膏の焼成によって得られるβ−半水化物から主になる、すなわち、60重量%を超える硫酸カルシウム材料であると理解される。」(【0027】)、及び、「湿らせたスタッコは、スタッコの安定化が開始されるように水が添加された新鮮なスタッコであると理解される。」(【0032】)ことが記載されており、当該記載を参酌すれば、本件発明1の「新鮮なスタッコ」及び「湿らせたスタッコ」との各特定事項の定義が、第三者に不測の不利益を生じさせるほど不明確であるといえない。
(イ) 上記(ii)の点について検討すると、本件発明2の「前記安定化されたスタッコの重量に基づいて0.2〜5重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%の量の自由水分を含有するような量」との特定事項は、安定化されたスタッコの重量に基づいて0.2〜5重量%の量の自由水分を含有するような量を示していることは、当業者にとって明らかであって、当該特定事項の「好ましくは0.5〜1.5重量%」との特定は、0.2〜5重量%のうちの好ましい範囲を示しているに過ぎないことも明らかである。
(ウ) 上記(iii)及び(iv)の点について検討すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「安定した気泡は、泡がスタッコスラリーと接触したときに基本的には崩壊しない気泡であると理解される。」(【017】)と、「安定な気泡」と「不安定な気泡」の判断基準が記載されているから、本件発明10の「不安定な気泡」、及び、本件発明11の「安定な気泡」との各特定事項が、第三者に不測の不利益を生じさせるほど不明確であるといえない。
(エ) 上記(v)の点について検討すると、本件発明12の「建築ボード、ならびに石膏ブロック、スクリード、接合コンパウンド、仕上げコンパウンド、壁プラスター、成形プラスター、または任意の他の石膏ベースの製品」との特定事項は、全体として「石膏ベースの製品」を示していることは、当業者にとって明らかである。
(オ) したがって、上記(i)〜(v)の論拠によって、本件発明1〜12に係る特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たさないということはできない。
ウ 申立理由3についてのまとめ
以上のとおりであるから、申立理由3には理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜12に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に当該請求項1〜12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-11-01 
出願番号 P2020-505796
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C04B)
P 1 651・ 537- Y (C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 宮澤 尚之
原 和秀
登録日 2022-01-11 
登録番号 7007458
権利者 クナウフ ギプス コマンディトゲゼルシャフト
発明の名称 高温および高湿度レベルでのエージングによるスタッコ特性の改善  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 鶴田 準一  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 南山 知広  
代理人 中村 和広  
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