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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B65D
管理番号 1392084
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-29 
確定日 2022-11-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第7018421号発明「青果物の防曇包装袋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7018421号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7018421号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、令和元年11月20日(優先権主張 2018年12月25日 台湾)に出願され、令和4年2月2日にその特許権の設定登録がされ、令和4年2月10日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜7に係る特許に対し、令和4年7月29日に特許異議申立人後藤奈美(以下「申立人」という。)が、特許異議の申立て(以下「本件異議申立」という。)を行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下「本件発明1」などという。また、本件発明1〜7を「本件発明」と総称することもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
最下層に積層されたヒートシール層と、最上層に積層された表面層と、前記ヒートシール層と前記表面層との間に介設された基材層との3層からなる積層構造であり、総厚さが15〜80μmのポリプロピレン多層膜から構成された青果物の防曇包装袋であって、
前記ヒートシール層が、プロピレン−エチレン−ブチレン共重合体及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなり、且つ、その表面にコロナ放電処理が施され、前記ヒートシール層の全体の重量を100wt%とした場合、最低融点が70〜90℃の樹脂を1〜10wt%含有し、
前記基材層が、プロピレン及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなり、且つ、当該基材層の全体の重量を100wt%とした場合、防曇剤を1.0〜10wt%含有し、
前記表面層が、プロピレン、プロピレン−エチレン−ブチレン共重合体、及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなり、
前記基材層の全体の重量を100wt%とした場合、当該基材層に最低融点が70〜90℃の樹脂を1〜5wt%含有することを特徴とする、青果物の防曇包装袋。
【請求項2】
請求項1に記載の青果物の防曇包装袋において、
前記ポリプロピレン多層膜の総厚さに対する、前記ヒートシール層の厚さが4〜10%を占め、前記基材層の厚さが80〜92%を占め、前記表面層の厚さが4〜10%を占めていることを特徴とする、青果物の防曇包装袋。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の青果物の防曇包装袋において、
前記防曇剤が、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、モノグリセリド、及びソルビタンモノエステルのエチレンオキサイドアダクトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、青果物の防曇包装袋。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の青果物の防曇包装袋において、
前記ヒートシール層のヒートシール強度が3.5N/15mm以上であることを特徴とする、青果物の防曇包装袋。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の青果物の防曇包装袋において、
前記表面層の全体の重量を100wt%とした場合、当該表面層に最低融点が70〜90℃の樹脂を1〜10wt%含有することを特徴とする、青果物の防曇包装袋。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の青果物の防曇包装袋において、
前記ヒートシール層の全体の重量を100wt%とした場合、粒径が0.2〜10μmの、シリカ、タルク、及びマイカから選ばれる少なくとも1種の無機粒子を1〜7wt%含有することを特徴とする、青果物の防曇包装袋。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の青果物の防曇包装袋において、
前記表面層の全体の重量を100wt%とした場合、粒径が0.2〜10μmの、シリカ、タルク、及びマイカから選ばれる少なくとも1種の無機粒子を1〜7wt%含有することを特徴とする、青果物の防曇包装袋。」

第3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1〜5号証(以下「甲1」などという。)を提出し、次の申立理由を主張している。

甲第1号証:特開2003−237827号公報
甲第2号証:特開2013−103751号公報
甲第3号証:特開2014−148104号公報
甲第4号証:特開2019−18435号公報
甲第5号証:特開2005−200628号公報

<申立理由(進歩性)>
本件発明1〜7は、甲1に記載された発明および甲2〜5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、本件特許の請求項1〜7に係る特許は特許法第113条第2号の規定により取り消すべきである。

第4 甲1〜5の記載、甲1発明
1.甲1について
甲1には、次の事項が記載されている。以下、下線は、理解の便宜のため、当審が付した。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、包装用フィルム及び包装体に関し、特に、防曇性を有し、かつ、滑り性、耐ブロッキング性及び透明性が改良された野菜、根菜、果実、草花、花木、きのこ類、魚、肉など高い鮮度が要求される植物又は動物類からなる生鮮品(以下、本明細書ではこれらを生鮮品と称する)を包装するのに適したフィルム及び包装体、即ち、防曇性を有し、かつ、滑り性、耐ブロッキング性及び透明性が改良された包装用フィルム及び包装体に関するものである。」
「【0018】ここで、本発明における包装用フィルムの基層を形成するのに適したポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチックポリプロピレンのほか、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ペンテン共重合体などの1種又は2種以上を用いる。また、さらに他のポリオレフィン系樹脂、例えば、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン−1共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体を金属イオンにより架橋したアイオノマー、ポリブテン−1、ブテン・エチレン共重合体などを混合して用いてもよく、さらに、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などをフィルムの特性を害さない範囲で混合して用いることもできる。また、紫外線吸収剤、酸化防止剤・静電防止剤などを任意に配合することができる。
【0019】また、本発明における包装用フィルムのヒートシール層を形成するのに適したポリオレフィン系樹脂としては、基層を形成するポリプロピレン系樹脂の融点より低い融点を有するポリオレフィン系樹脂からなり、例えば、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・プロピレン・ブテン−1共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体を金属イオンにより架橋したアイオノマー、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ブテン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・エチレン・ブテン−1共重合体、プロピレン・ペンテン共重合体などの1種又は2種以上を用い、さらに、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などをフィルムの特性を害さない範囲で混合して用いることもできる。また、紫外線吸収剤、酸化防止剤、静電防止剤などを任意に配合することができる。」
「【0036】本発明の包装用フィルムはヒートシール層表面が防曇性を有することが必要であって、このため、基層及びヒートシール層を形成する樹脂中に防曇剤が存在するのが通常である。フィルム製造時に、基層を形成する樹脂及びヒートシール層を形成する樹脂の両方に防曇剤を配合しておいてもよく、基層を形成する樹脂だけに防曇剤を配合しておいてフィルムを製造してもよい。後者の場合であっても、フィルム製造時及びフィルム形成後の保管時に基層を形成する樹脂中の防曇剤はヒートシール層に順次移行し、次いでヒートシール層表面にブリードアウトしてヒートシール層表面が防曇性を有する状態になる。この包装用フィルムにおける生鮮品に接する側のヒートシール層表面には、生鮮品を包装した状態で保存乃至流通期間中防曇性を示すような防曇剤が存在しなければならない。即ち、本発明では、包装体内面の曇り現象を防止して商品価値を高めるばかりでなく、曇りの進行によって形成される水滴による包装体内容物の水腐れを防止するうえでも防曇作用は極めて重要な特性であり、かつ、流通過程で長期的に優れた防曇性を持続させるためには、保存乃至流通時の気温変化を考慮して、5〜30℃の間で温度変化を繰り返す経過中継続して防曇性を示すような防曇剤がヒートシール層表面に存在するものであることが望まれる。」
「【0038】ヒートシール層の表面に防曇性を付与するのに用いる防曇剤としては、例えば、多価アルコールの脂肪酸エステル類、高級脂肪酸のアミン類、高級脂肪酸のアマイド類、高級脂肪酸のアミンやアマイドのエチレンオキサイド付加物などを典型的なものとして挙げることができる。かかる防曇剤のフィルム中での存在量は全層換算で0.1〜10重量%、特に0.2〜5重量%が好ましく、ヒートシール層形成成分中では5.0重量%以下、特に0.1〜1.0重量%であるのが好ましい。また、紫外線吸収剤、酸化防止剤、静電防止剤などを任意に配合することができる。
【0039】ヒートシール層の厚み比は特に限定するものではないが、通常、本発明の包装用フィルム中の全層に対し1/50〜1/3(基層の両面にヒートシール層を有するときはその合計厚み)である。厚み比が、より小さいとヒートシール強度が不十分となり、包装体としての信頼性が欠けることになる。また、厚み比が、より大きいと基層部分の割合が小さいことにより包装用フィルム全体に腰がなくなり、生鮮品を充填した後の包装体の形状が不安定で商品価値に欠ける。また、包装用フィルムの全層厚みは、特に限定するものではないが、5〜250μm程度であり、この範囲でヒートシール層の厚みは適宜定めることができる。」
「【0049】(実施例1)
(1)ヒートシール層形成用樹脂の調整
○1(当審注:数字を○で囲んだ表記を代用表記した。以下同様。)プロピレン・エチレン・ブテン共重合体(エチレン含有量2.5モル%、ブテン含有量7モル%)100重量部、不活性微粒子(サイリシア420、富士シリシア化学社製、粒子径1.9μm)0.265重量部、防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライト)0.450重量部%を樹脂温度240℃になるようにして溶融混合し、ペレット状にした。
【0050】○2プロピレン・ブテン共重合体(ブテン含有量18モル%)100重量部、有機ポリマー微粒子(CS18、住友化学工業社製、粒子径 1.8μm)0.300重量部、有機ポリマー微粒子(CS30、住友化学工業社製、粒子径 3.5μm)0.200重量部、防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライド)0.450重量部を樹脂温度240℃で溶融混合し、ペレット状にした。
【0051】○3次いで、○1の樹脂と○2の樹脂を85:15(重量比)の割合で混合してヒートシール層形成用樹脂とした。
【0052】(2)基層形成用樹脂の調整
○4アイソタクチックポリプロピレン重合体100重量部に防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライド)1.000重量部を混合して基層形成用樹脂とした。
【0053】(3)製膜
○3の樹脂と○4の樹脂を1:9(重量比)の割合で、樹脂温度260℃になるようにして溶融し、基層の両面にヒートシール層を積層した3層状態でTダイから共押出しして、温度25℃のキャスティングロールにてキャスティング後、縦方向に4倍、さらに横方向に9.5倍延伸した。
【0054】次いで、得られたフィルムのヒートシール層表面にコロナ放電処理を行い、コロナ放電処理面の濡れ張力39mN/m、基層18μm、ヒートシール層片側1μmの合計20μmの3層の包装用フィルムを得た。」


以上の記載を総合し、特に、実施例1に着目すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

[甲1発明]
「基層の両面にヒートシール層を積層し、基層18μm、ヒートシール層片側1μmの合計20μmの積層体から構成された防曇性を有する野菜または果物用の包装体であって、
前記ヒートシール層の両方が、○1プロピレン・エチレン・ブテン共重合体(エチレン含有量2.5モル%、ブテン含有量7モル%)100重量部、不活性微粒子(サイリシア420、富士シリシア化学社製、粒子径1.9μm)0.265重量部、防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライト)0.450重量部%を樹脂温度240℃になるようにして溶融混合したペレットと、○2プロピレン・ブテン共重合体(ブテン含有量18モル%)100重量部、有機ポリマー微粒子(CS18、住友化学工業社製、粒子径 1.8μm)0.300重量部、有機ポリマー微粒子(CS30、住友化学工業社製、粒子径 3.5μm)0.200重量部、防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライド)0.450重量部を樹脂温度240℃で溶融混合した、ペレットとを、○1の樹脂と○2の樹脂を85:15(重量比)の割合で混合してなり、且つ、その表面にコロナ放電処理が施され、
前記基層が、アイソタクチックポリプロピレンからなり、且つ、アイソタクチックポリプロピレン重合体100重量部に防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライド)1.000重量部を混合した、防曇性を有する野菜または果物用の包装体。」

2.甲2について
甲2には、次の事項が記載されている(「・・・」は文の省略を意味する。)。
「【0026】
また、前記[2]項のように、例えば適宜の加熱処理を施すことによって前記粒子被覆層の一部に含浸密着強化層を形成することにより、各粒子間の間隙に入り込んで固化した熱接着剤層の構成成分、殊に低粘度、低分子量成分によって愈々強固に湿式シリカ粒子を拘束固定しながら、粒子被覆層のそれ自体をアンカー効果によって熱接着剤層に固着することができる。・・・」
「【0031】
また、前記[7]項および[8]項に記載のように、前記樹脂組成物にワックスおよび粘着付与剤の少なくともいずれか一方を所定量含有するものとし、好ましくは更にそれらの軟化点または融点が80℃以上のものを選定することにより、前記[6]項の効果に加えて、更に、付着防止用の粒子被覆層の熱安定性ないし耐熱性を良好なものとなしうると共に、前記[2]項のように含浸密着強化層を形成する場合に、その効果を一層確実に達成しうるものとなすことができる。」
「【0041】
熱接着剤層(5)の材料は、特に限定されない。例えば、ラッカータイプのヒートシール剤、ホットメルト剤あるいは公知のシーラントフィルムを用いることができる。好適には、酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、エチレン−不飽和エステル共重合体、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂のうちの1種または2種以上からなる接着樹脂成分と、ワックスおよび粘着付与剤の少なくともいずれか一方を必須成分として含む樹脂組成物からなるものを用いることができる。また、この場合、当該樹脂組成物中のワックスおよび粘着付与剤は、それらのうちの少なくとも一方または合計の配合量を1〜50重量%に設定すると共に、それらの融点または軟化点が80℃以上であるものを採用することが望ましい。配合量が1重量%未満では、それらの添加効果を十分に享受することができず、50重量%を超えて過多に含有すると、加熱処理により、あるいはヒートシール時等に受ける熱影響によって粒子被覆層(6)の付着防止性能が損なわれるおそれが生じる。また、それらの融点または軟化点が80℃未満であると、やはり粒子被覆層(6)の撥水性、ひいては付着防止効果の熱安定性が損なわれるおそれがある。好ましくは、上記配合量において10〜40重量%の範囲に設定し、融点または軟化点において90〜120℃のものを選択使用することが望ましい。」
「図2


「図3



3.甲3について
甲3には、次の事項が記載されている。
「【0028】
これに加え、ヒートシール層12の樹脂選択に際し、基材層11との層間強度を高めるため樹脂同士の相溶性を高める必要もある。そこで、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−1ブテン共重合体、プロピレン−1ブテンの共重合体等のプロピレンと他のオレフィン樹脂との共重合体であり、それらのいずれか1種もしくは2種以上が配合される。後記の実施例のとおり、エチレン−プロピレン共重合体の単独、エチレン−プロピレン−1ブテン共重合体の単独、エチレン−プロピレン−1ブテン共重合体とプロピレン−1ブテン共重合体の2種混合が好ましく用いられる。樹脂種、配合割合の選択は、ヒートシール温度の調整、ヒートシール層としての強度、延伸の良否等が勘案され規定される。」

4.甲4について
甲4には、次の事項が記載されている。
「【0061】
〈ヒートシール最大強度〉
前述のヒートシール開始温度の測定に際し作製した試験片について、ヒートシール圧力を0.34MPa、ヒートシール時間を1.0secとし、ヒートシール強度が3Nを超えた温度から5℃おきにヒートシール温度を上昇し、3Nを超えた時点のヒートシール温度から40℃高い温度まで順次ヒートシールした。そして、試験片を15mm幅で切り出し、ヒートシールされていない端部側を180°の対向位置に開き、JIS Z 0238(1998)の「袋のヒートシール強さ試験」に準拠し、200mm/minの引張速度によりシール部分を剥離してヒートシール強度(N/15mm)を測定した。
【0062】
ヒートシール最大強度の良否判断に際し、6N/15mm幅以上を優の評価「A」とした。3N/15mm以上、6N/15mm未満を良の評価「B」とした。3N/15mm未満は不良の評価「F」とした。」
「【表1】


「【表2】


「【表3】



5.甲5について
甲5には、次の事項が記載されている。
「【0004】
本発明が解決しようとする課題は、被包装物が接触することとなる層をポリオレフィン系樹脂組成物で形成した単層又は積層の包装用フィルムにおいて、被包装物が接触することとなる層が、その本来的な透明性を損なうことなく、優れた防曇性、平滑性及びアンチブロッキング性を同時に有する包装用フィルムを提供する処にある。」
「【0010】
本発明に係る包装用フィルムは、被包装物が接触することとなる層をポリオレフィン系樹脂組成物で形成した単層又は積層の包装用フィルムである。本発明に係る包装用フィルムにおいて、被包装物が接触することとなる層を形成するポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂に、A成分、B成分及びC成分を含有させたものである。
【0011】
被包装物が接触することとなる層を形成するポリオレフィン系樹脂組成物に用いるポリオレフィン樹脂としては、1)エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1、1−オクテン等の炭素数2〜8のα−オレフィンから選ばれる一つから得られる、ポリエチレン、ポリプロピレン等のα−オレフィン単独重合体、2)前記のような炭素数2〜8のα−オレフィンから選ばれる二つ以上から得られる、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−(1−ブテン)共重合体、エチレン−(1−ヘキセン)共重合体等のα−オレフィン共重合体、3)エチレンと酢酸ビニルとから得られる共重合体等が挙げられるが、なかでも前記1)のα−オレフィン単独重合体、前記2)のα−オレフィン共重合体が好ましい。また、前記2)のα−オレフィン共重合体としては、エチレンと炭素数4〜8のα−オレフィンとの共重合体であって、炭素数4〜8のα−オレフィンから構成される単位を3.5〜50重量%含有するものが好ましい。かかるα−オレフィン共重合体は、いずれも公知の高活性チーグラー触媒、メタロセン触媒等の均一系触媒を用い、気相法、溶液重合法等によって得られるものがより好ましく、密度が0.86〜0.94g/cm3、MFRが0.01〜20g/10分であるものが特に好ましい。以上例示したポリオレフィン系樹脂は、二つ以上のポリオレフィン系樹脂を混合して用いることもできる。」
「【0024】
C成分としての酸化物系無機粒子としては、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化鉄、フェライト等が挙げられるが、なかでもシリカ、珪藻土が好ましく、シリカがより好ましい。
【0025】
C成分としての珪酸塩系無機粒子としては、ゼオライト、タルク、ウォラストナイト、マイカ、クレー等が挙げられるが、なかでもゼオライト、タルク、ウォラストナイトが好ましく、ゼオライト、タルクがより好ましい。
【0026】
C成分としての有機架橋粒子としては、架橋シリコーン粒子、架橋ポリアミド粒子、架橋ポリトリアジン粒子、架橋ポリアクリル粒子、架橋ポリスチレン粒子等が挙げられるが、架橋シリコーン粒子、架橋ポリアクリル粒子、架橋ポリスチレン粒子が好ましく、なかでも架橋ポリアクリル粒子がより好ましい。
【0027】
以上説明したC成分において、なかでも酸化物系無機粒子、珪酸塩系無機粒子が好ましく、シリカ、ゼオライト、タルクがより好ましい。本発明はC成分としての酸化物系無機粒子、珪酸塩系無機粒子、有機架橋粒子の平均粒子径を特に制限するものではないが、平均粒子径が0.5〜10μmのものが好ましく、1〜5μmのものが更に好ましい。C成分としての酸化物系無機粒子、珪酸塩系無機粒子は天然に産出する鉱物を用いてもよいし、人工合成物であってもよい。また、これらは特に処理を行うことなくそのまま用いてもよいし、ボールミル、酸、シランカップリング剤処理等の処理を行った後に用いてもよい。
【0028】
本発明に係る包装用フィルムは、被包装物が接触することとなる層を、ポリオレフィン系樹脂に、以上説明したA成分、B成分及びC成分を必須成分として含有させ、且つこれらを合計で0.15%〜12重量%となるよう含有させたポリオレフィン系樹脂組成物で形成して成るものであるが、かかるポリオレフィン系樹脂組成物としては、ポリオレフィン系樹脂に、A成分を0.05〜5重量%、B成分を0.05〜5重量%及びC成分を0.05〜2重量%となるよう含有させたものが好ましく、A成分を0.3〜4重量%、B成分を0.2〜2.6重量%及びC成分を0.1〜1重量%となるよう含有させ、且つA成分/B成分=60/40〜80/20(重量比)、C成分/(A成分+B成分)=10/100〜100/100(重量比)の割合となるよう含有させたものがより好ましい。
【0029】
被包装物が接触することとなる層を形成する以上説明したポリオレフィン系樹脂組成物には、合目的的に他の剤を含有させることもできる。かかる他の剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、中和剤、滑剤、耐候剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤が挙げられるが、これらの他の剤の含有量は可及的に少量とするのが好ましい。
【0030】
被包装物が接触することとなる層を形成するポリオレフィン系樹脂組成物は、それ自体は公知の方法で調製できる。これには例えば、1)予めポリオレフィン系樹脂と、A成分、B成分及びC成分とをタンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機に投入して混合し、その混合物を単軸押出し機や多軸押出し機等の押出し機により溶融混練しつつ造粒して、A成分、B成分及びC成分を高濃度に含有するマスターペレットを作製しておき、このマスターペレットを更にポリオレフィン系樹脂と混合して所定のポリオレフィン系樹脂組成物とする方法、2)ポリオレフィン系樹脂と、A成分、B成分及びC成分とをタンブラーブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機に投入して混合し、ニーダーや単軸押出し機や多軸押出し機等で溶融混練しつつ造粒して、所定のポリオレフィン系樹脂組成物とする方法等が挙げられる。
【0031】
本発明に係る包装用フィルムは、それ自体は公知の方法で成形できる。かかる成形方法としては、空冷インフレーション成形、空冷2段インフレーション成形、水冷インフレーション成形等のインフレーション成形、Tダイとしてストレート・マニホールド型、コート・ハンガー型、これらを組み合わせたもの等を用いたTダイ成形が挙げられ、また成形フィルムの積層方法としては、ドライラミネート法、サンドラミネート法、押出しラミネート法、共押し出し法等が挙げられるが、なかでも本発明に係る包装用フィルムとしては共押し出し法による積層の包装用フィルムが好ましい。積層の包装用フィルムとする場合には、ポリウレタン系接着剤、有機チタン系アンカーコート剤、イソシアネート系アンカーコート剤、接着性樹脂等を使用することができる。また単層の包装用フィルムとする場合も、積層の包装用フィルムとする場合も、前記のように成形したものを更に延伸することができる。かかる延伸方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、チューブラー二軸延伸法等が挙げられる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明した本発明に係る包装用フィルムは、被包装物が接触することとなる層が、その本来的な透明性を損なうことなく、優れた防曇性、平滑性及びアンチブロッキング性を同時に有する。」

第5 当審の判断
1.申立理由について(進歩性
(1)本件発明1について
ア 対比
甲1発明の「基層が、アイソタクチックポリプロピレンからなり」、「基層の両面にヒートシール層を積層し、基層18μm、ヒートシール層片側1μmの合計20μmの積層体から構成された防曇性を有する野菜または果物用の包装体」は、両面のヒートシール層のうち、一方を最下層とすると他方が最上層となることは明らかなので、本件発明1の「最下層に積層されたヒートシール層と、最上層に積層された表面層と、前記ヒートシール層と前記表面層との間に介設された基材層との3層からなる積層構造であり、総厚さが15〜80μmのポリプロピレン多層膜から構成された青果物の防曇包装袋」に相当する。
甲1発明の「アイソタクチックポリプロピレンからなり、且つ、アイソタクチックポリプロピレン重合体100重量部に防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライド)1.000重量部を混合した」「基層」と、本件発明1の「プロピレン及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなり、且つ、当該基材層の全体の重量を100wt%とした場合、防曇剤を1.0〜10wt%含有し、」「前記基材層の全体の重量を100wt%とした場合、当該基材層に最低融点が70〜90℃の樹脂を1〜5wt%含有する」「基材層」とは、「プロピレン及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなり、且つ、防曇剤を」「含有」する「基材層」である限りにおいて一致する。
甲1発明の「○1プロピレン・エチレン・ブテン共重合体(エチレン含有量2.5モル%、ブテン含有量7モル%)100重量部、不活性微粒子(サイリシア420、富士シリシア化学社製、粒子径1.9μm)0.265重量部、防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライト)0.450重量部%を樹脂温度240℃になるようにして溶融混合したペレットと、○2プロピレン・ブテン共重合体(ブテン含有量18モル%)100重量部、有機ポリマー微粒子(CS18、住友化学工業社製、粒子径 1.8μm)0.300重量部、有機ポリマー微粒子(CS30、住友化学工業社製、粒子径 3.5μm)0.200重量部、防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライド)0.450重量部を樹脂温度240℃で溶融混合した、ペレットとを、○1の樹脂と○2の樹脂を85:15(重量比)の割合で混合してなり、且つ、その表面にコロナ放電処理が施され」た「基層の両面」の「ヒートシール層」の一方は、本件発明1の「プロピレン−エチレン−ブチレン共重合体及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなり、且つ、その表面にコロナ放電処理が施され」た「ヒートシール層」に相当し、他方は、本件発明1の「プロピレン、プロピレン−エチレン−ブチレン共重合体、及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からな」る「表面層」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の一致点で一致し、相違点1〜3で相違する。
[一致点]
「最下層に積層されたヒートシール層と、最上層に積層された表面層と、前記ヒートシール層と前記表面層との間に介設された基材層との3層からなる積層構造であり、総厚さが15〜80μmのポリプロピレン多層膜から構成された青果物の防曇包装袋であって、
前記ヒートシール層が、プロピレン−エチレン−ブチレン共重合体及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなり、且つ、その表面にコロナ放電処理が施され、
前記基材層が、プロピレン及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなり、且つ、防曇剤を含有し、
前記表面層が、プロピレン、プロピレン−エチレン−ブチレン共重合体、及びプロピレン−ブチレン共重合体から選ばれる少なくとも1種からなる、青果物の防曇包装袋。」

[相違点1]
ヒートシール層について、本件発明1は、「前記ヒートシール層の全体の重量を100wt%とした場合、最低融点が70〜90℃の樹脂を1〜10wt%含有」するのに対して、甲1発明は、○1プロピレン・エチレン・ブテン共重合体(エチレン含有量2.5モル%、ブテン含有量7モル%)100重量部、不活性微粒子(サイリシア420、富士シリシア化学社製、粒子径1.9μm)0.265重量部、防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライト)0.450重量部%を樹脂温度240℃になるようにして溶融混合したペレットと、○2プロピレン・ブテン共重合体(ブテン含有量18モル%)100重量部、有機ポリマー微粒子(CS18、住友化学工業社製、粒子径 1.8μm)0.300重量部、有機ポリマー微粒子(CS30、住友化学工業社製、粒子径 3.5μm)0.200重量部、防曇剤(高級脂肪酸エステルモノグリセライド)0.450重量部を樹脂温度240℃で溶融混合した、ペレットとを、○1の樹脂と○2の樹脂を85:15(重量比)の割合で混合してなるもので、ヒートシール層に含まれる樹脂の融点が不明な点。

[相違点2]
基材層への防曇剤の含有割合について、本件発明1は、「当該基材層の全体の重量を100wt%とした場合」「1.0〜10wt%含有」するのに対して、甲1発明は、「アイソタクチックポリプロピレン重合体100重量部に」「1.000重量部を混合し」ている点。

[相違点3]
基材層について、本件発明1は、「前記基材層の全体の重量を100wt%とした場合、当該基材層に最低融点が70〜90℃の樹脂を1〜5wt%含有する」のに対して、甲1発明は、基層(基材層)に含まれる樹脂の融点が不明な点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲2の【0026】、【0031】及び【0041】並びに図2及び図3の記載を総合すると、甲2には、熱接着剤層よりも外側に形成された付着防止用の粒子被覆層の熱安定性ないし耐熱性を良好なものとなしうると共に、粒子被覆層と熱接着剤層との固着を確実にするために、熱接着剤層の材料として、ワックスおよび粘着付与剤の少なくともいずれか一方を含む樹脂組成物を用いること及び、ワックスおよび粘着付与剤の配合量を1〜50重量%に設定するとともに、それらの融点または軟化点が80℃以上であるものを採用すること、が記載されているといえる(以下「甲2記載事項」という。)。
しかし、甲2記載事項は、付着防止用の粒子被覆層が熱接着剤層よりも外側に形成されたことを前提として、上記の目的のために、熱接着剤層に、融点または軟化点が80℃以上であるワックスおよび粘着付与剤の少なくともいずれか一方を含む樹脂組成物を用いるものであり、他方、甲1発明は、ヒートシール層の外側に付着防止用の粒子被覆層がない包装体であるから、甲1発明に、甲2記載事項を適用する動機付けがない。
また、ヒートシール層に、「前記ヒートシール層の全体の重量を100wt%とした場合、最低融点が70〜90℃の樹脂を1〜10wt%含有」することは、他の甲3〜5にも記載されていない。
したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

次に、事情に鑑み、上記相違点3について検討する。
相違点3に係る本件発明1の構成である、「前記基材層の全体の重量を100wt%とした場合、当該基材層に最低融点が70〜90℃の樹脂を1〜5wt%含有する」点は、甲2〜5に記載されていないため、甲1発明において、相違点3に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

よって、上記相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2〜5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記(1)イで示した理由により、当業者が甲1発明及び甲2〜5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2022-11-09 
出願番号 P2019-209822
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B65D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山崎 勝司
特許庁審判官 稲葉 大紀
石田 智樹
登録日 2022-02-02 
登録番号 7018421
権利者 南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
発明の名称 青果物の防曇包装袋  
代理人 弁理士法人南青山国際特許事務所  

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