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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E04H
審判 全部申し立て 2項進歩性  E04H
管理番号 1392090
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-08 
確定日 2022-11-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6999746号発明「庫内異物検出装置と方法、及び扉閉制御システムと方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6999746号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6999746号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、令和2年5月29日に出願され、令和3年12月24日に特許権の設定登録がされ、令和4年2月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1〜8に係る特許に対し、令和4年8月8日に特許異議申立人川股くみ子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜8の特許に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
乗降室の内側全域を死角なくリアルタイムに検出可能な室内全域センサと、
前記室内全域センサの検出データから異物を検出するデータ処理装置と、を備え、
前記データ処理装置は、前記乗降室の内側に前記異物が存在しないときの前記検出データである無人データを記憶し、
入庫時に、前記室内全域センサの前記検出データから前記無人データと前記検出データに含まれる車両検出データを除去して、除去後の検出物を前記異物として検出する、庫内異物検出装置。
【請求項2】
前記室内全域センサは、前記乗降室の内側の全域にレーザ光を水平走査及び垂直走査してその反射位置の3次元座標を検出する1又は複数の3次元レーザーレーダーである、請求項1に記載の庫内異物検出装置。
【請求項3】
複数の前記3次元レーザーレーダーは、前記乗降室の内壁及び床面との間に前記異物が侵入できないように設置され、かつ車両が駐車する定位置を間に挟んで位置する、請求項2に記載の庫内異物検出装置。
【請求項4】
1又は複数の前記3次元レーザーレーダーは、前記乗降室の前記内側全域を俯瞰可能な位置に設置される、請求項2に記載の庫内異物検出装置。
【請求項5】
室内全域センサにより、乗降室の内側全域の検出データを死角なくリアルタイムに取得し、
データ処理装置により、前記乗降室の内側に異物が存在しないときの前記検出データである無人データを予め検出して記憶し、
前記室内全域センサにより、
入庫時に、前記室内全域センサの前記検出データから前記無人データと前記検出データに含まれる車両検出データを除去し、除去後の検出物を前記異物として検出する、庫内異物検出方法。
【請求項6】
出庫時に、前記室内全域センサの前記検出データから前記無人データを除去し、除去後の検出物を前記異物として検出する、請求項5に記載の庫内異物検出方法。
【請求項7】
請求項1に記載の庫内異物検出装置と、
前記乗降室の出入口扉の周辺に位置する前記異物を検出する扉周辺センサと、
前記出入口扉を開閉する扉開閉装置と、
前記扉開閉装置を制御する扉制御装置と、を備え、
前記扉制御装置は、
(A)前記出入口扉の閉指令信号を受信し、かつ前記庫内異物検出装置及び前記扉周辺センサが前記異物を検出しないときに、前記扉開閉装置に閉動作信号を出力し、
(B)前記出入口扉が閉動作を開始した後、前記庫内異物検出装置及び前記扉周辺センサの検出信号を継続して受信し、
(C)前記出入口扉が全閉する前に、前記庫内異物検出装置又は前記扉周辺センサが前記異物を検出したときに、前記扉開閉装置に停止信号又は開動作信号を出力し、
(D)前記(A)〜(C)を繰り返す、扉閉制御システム。
【請求項8】
請求項1に記載の庫内異物検出装置と、
前記乗降室の出入口扉の周辺に位置する前記異物を検出する扉周辺センサと、
前記出入口扉を開閉する扉開閉装置と、
前記扉開閉装置を制御する扉制御装置と、を準備し、
前記扉制御装置により、
(A)前記出入口扉の閉指令信号を受信し、かつ前記庫内異物検出装置及び前記扉周辺センサが前記異物を検出しないときに、前記扉開閉装置に閉動作信号を出力し、
(B)前記出入口扉が閉動作を開始した後、前記庫内異物検出装置及び前記扉周辺センサの検出信号を継続して受信し、
(C)前記出入口扉が全閉する前に、前記庫内異物検出装置又は前記扉周辺センサが前記異物を検出したときに、前記扉開閉装置に停止信号及び開動作信号を出力し、
(D)前記(A)〜(C)を繰り返す、扉閉制御方法。」

第3 特許異議申立理由の概要及び証拠
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立て理由を主張するとともに、証拠方法として以下に示す各甲号証を提出している。
(1)特許法第29条第1項第3号新規性欠如)
本件発明1〜6は、甲第1号証に記載された発明であって、請求項1〜6に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

(2)特許法第29条第2項進歩性欠如)
本件発明1〜8は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術事項及び周知技術(甲第3号証)に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、請求項1〜8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

2 証拠
甲第1号証:特開2014−80735号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開2018−112048号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:「機械式駐車装置の安全機能に関する認証基準」、公益社団法人立体駐車場工業会、平成26年12月5日(以下「甲3」という。)

第4 各甲号証の記載
1 甲1
(1)甲1の記載
本件特許出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審判合議体が付した。以下同様。)
ア「【0043】
以下に、本発明の実施形態について、図1〜図7を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るエリア検知装置を適用可能な機械式駐車設備の縦断面図である。この機械式駐車設備1は、複数の車両2を収容可能な垂直循環式の立体駐車場施設であり、地上部に車両2の入出庫口3が開口する駐車塔4を備えている。駐車塔4は、例えば鉄骨で形成された躯体5の外面に軽量コンクリート板6が設置された構造であり、入出庫口3の内側のスペースは車両2が乗り入れる乗入室7(乗降エリア)となっている。」

イ「【0047】
図2は、乗入室7の平面図である。
入出庫口3には入出庫扉25(エリア入出規制手段)が設けられている。この入出庫扉25は、閉じられている時には乗降エリア(7)への車両2や人の出入りを物理的に妨げ(エリア閉鎖状態)、開いている時には乗降エリア(7)への車両2や人の出入りを可能にする(エリア開放状態)。
【0048】
また、乗入室7の外部かつ入出庫扉25の近傍に操作盤28が設置されている。入庫する車両2のドライバー、もしくは機械式駐車設備1の管理人は、この操作盤28を操作して機械式駐車設備1の起動操作を行なう。ここで言う起動操作とは、入出庫扉25の開閉操作および搬送装置10、パレット反転機構21の起動操作のことを指す。操作盤28は制御装置30(制御手段)に接続されており、制御装置30には搬送装置10やパレット反転機構21、入出庫扉25の開閉装置32等が接続されている。」

ウ「【0050】
また、2基の測域センサー36A,36B(検知手段)が、乗入室7内の定点、好ましくは対角位置に設置されている。これら2基の測域センサー36A,36Bと、複数の位置センサー34a〜34jは、それぞれ制御装置30に接続されてエリア検知装置40を構成している。そして、位置センサー34a〜34jおよび測域センサー36A,36Bの検知データが制御装置30に出力される。
【0051】
測域センサー36A,36Bは、図3に示すように、例えばレーザー光線や超音波等の、目標物に当たって反射する性質のある探査波Wを出力し、その反射波を受信しながら所定の角度範囲を水平方向にスキャニング(走査)することにより、得られる角度情報と距離情報に基づいて、被検知対象物の位置・大きさ・形状を算出できる。このようにして、乗入室7に入庫して定位置に停車した車両2の位置、大きさ、および形状を検知し、図4に示すように、車両2の車両輪郭データVを取得して制御装置30に出力する。ここで、車両輪郭データVとは車両2の二次元データ、つまり平面輪郭形状であるが、例えば三次元データであってもよい。
【0052】
また、測域センサー36A,36Bは、乗入室7に車両2や他の物体が存在していない空室時における乗入室7内の状況を空室時データD1として取得して予め制御装置30に出力し、制御装置30はこれを記憶している。
【0053】
さらに、測域センサー36A,36Bは、乗入室7内のリアルタイムデータD2、即ち現状のデータ、つまり乗入室7内に車両2が居る、居ないに拘わらず、乗入室7の内部状況のデータを検知し、制御装置30に出力することができる。このように、測域センサー36A,36Bは、乗入室7内における車両2およびそれ以外の物体や人等の存在を認識できる。
【0054】
2基の測域センサー36A,36Bを乗入室7内の対角位置に配置することにより、車両2の位置、大きさ、形状を正確に把握するとともに、車両2以外の物体や人等の存在を確実に検知することができる。
【0055】
一方、制御装置30は、図4に示すように、測域センサー36A,36Bから入力された車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3として記憶する。この居残り検出範囲Eは、パレット17の大きさや形状とは無関係に形成される。この居残り検出範囲Eが設定された時点では、居残り検出範囲Eには何の物体も存在していない。」

エ「【0058】
前述したように、制御装置30には、乗入室7に車両2や他の物体が存在していない空室時に、測域センサー36A,36Bによって測定(取得)された空室時データD1が予め記憶されている。また、制御装置30には、測域センサー36A,36Bから、乗入室7のリアルタイムデータD2が随時、もしくは車両2の入庫の直前、即ち入出庫扉25が開いて入庫が許可される直前)および入出庫扉25が閉じる直前に送信される(図3、図4参照)。」

オ「【0061】
制御装置30は、入出庫扉25が開くと同時に発信される第1のトリガー信号を受信し、測域センサー36A,36Bにより乗入室7内のリアルタイムデータD2を取得する(ステップS3)。次に、予め記憶されている乗入室7内の空室時データD1と、測域センサー36A,36Bから入力される乗入室7内のリアルタイムデータD2とを比較して相違が有るか無いかを判定する(ステップS4:入庫時比較判定ステップ)。そして、両データD1,D2間に相違が無いと判定された場合(ステップS4→No)には入庫指示灯点灯信号Sa(入庫許可信号:図4参照)を発信して車両2の入庫を許可する(ステップS5:入庫ステップ)。具体的には、入庫指示灯45の前進指示灯45aを点灯させる。これを見てドライバーは車両2を前進させて入庫させる(ステップS6)。
【0062】
しかし、空室時データD1とリアルタイムデータD2との間に相違が有ると判定された場合(ステップS4→Yes)には、乗入室7に人等、何らかの物体が存在することを意味する。例えば車両2から降車していた子供やペット等が、入出庫扉25の開扉と同時に乗入室7内に入ってしまったこと等が考えられる。このような場合には制御装置30は警告を発令する(ステップS7:入庫時警告発令ステップ)。」

カ「【0065】
車両2がパレット17上の定位置に停車して入庫指示灯45の停車指示灯45bが点灯すると、第2のトリガー信号が発信される(ステップS9)。制御装置30がこの第2のトリガー信号を受信することにより、直ちに測域センサー36A,36Bによって車両2のスキャニングが行われ、車両2の位置、大きさ、および形状を基にして車両輪郭データVが取得される(ステップS11:車両輪郭データ取得ステップ)。このスキャニングは、車両2からドライバーや同乗者が降車する前(ドアが開く前)に短時間(例えば1〜2秒間)で行われる。
【0066】
取得された車両輪郭データVは、前述したように制御装置30に出力され(ステップS12)、制御装置30は入力された車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し(ステップS13:居残り検出範囲設定ステップ)、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3として記憶する(ステップS14:記憶ステップ)。
【0067】
そして、車両2からドライバーや同乗者、ペット等が降車して乗入室7の外に移動し(ステップS15)、ドライバー(もしくは管理人)が機械式駐車設備1の起動操作、即ちここでは入出庫扉25の閉扉操作を行なうと、第3のトリガー信号が発信される(ステップS16)、制御装置30がこの第3のトリガー信号を受信することにより、入出庫扉25の開閉装置32に閉扉信号Sb(起動許可信号:図4参照)を発信する前に、測域センサー36A,36Bにより乗入室7内のリアルタイムデータD2が取得される(ステップS17)。次に、測域センサー36A,36Bから入力される乗入室7内のリアルタイムデータD2、即ち乗入室7内の現状データと、入庫初期データD3とを比較し、相違が有るか無いかを判定する(ステップS18:起動時比較判定ステップ)。
【0068】
リアルタイムデータD2と入庫初期データD3とを比較して相違が無いと判定された場合(ステップS18→No)は、乗入室7には入庫した車両2以外に物体が存在していないことを意味するため、制御装置30は閉扉信号Sbを発信し(ステップS19:入庫時起動ステップ)、入出庫扉25を閉じる(ステップS20)。そして、搬送装置10が起動し(ステップS21)、制御が終了する。
【0069】
一方、リアルタイムデータD2と入庫初期データD3との間に相違が有ると判定された場合(ステップS18→Yes)は、乗入室7に、入庫した車両2以外に何らかの物体が居残っていることを意味する。例えば、同乗していた子供やペットが居残っていたり、何らかの物品が置き忘れられている、あるいは車両2のドアが開きっ放しになっている、といった可能性が考えられる。このため、制御装置30は閉扉信号Sbを発信する代わりに警告を発令する(ステップS22:起動時警告発令ステップ)。
【0070】
具体的な警告方法としては、操作盤28の盤面(タッチパネル)に、「乗入室内の安全を確認して下さい」といった表示を行うとともに、音声による注意喚起を行う。これにより、ドライバー(あるいは管理人)が安全確認を促され(ステップS23)、乗入室7に居る人やペット、物体等の存在を認識したり、車両2のドア等を確認することができるため、人やペット等の居残り事故を未然に防止し、乗入室7における安全性を高めることができる。この確認の後、再度、入出庫扉25の閉扉操作が行われ(ステップS16)、以後、ステップS18の判定結果がNoになるまで、ステップS16,S17,S18,S22,S23のルーティンが繰り返される。」

キ「【0078】
以上のように構成されたエリア検知装置40、これを備えた機械式駐車設備1、およびその制御方法によれば、図4に示すように、乗入室7内に乗り入れた車両2の個々の形状に基づいて測域センサー36A,36Bが車両輪郭データVを取得してこれを制御装置30に送信し、制御装置30は、この車両輪郭データVを除いた残りの範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、記憶するため、車両寸法の大小に拘わらず、車両2の周囲に形成される不感帯領域Nを最小限に設定することができる。」

ク 図面
(ア)図3




(イ)図4




(2)甲1に記載された発明
上記(1)によれば、甲1には、次の構造発明及び方法発明(以下「甲1構造発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲1構造発明)
「車両2の位置、大きさ、形状を正確に把握するとともに、車両2以外の物体や人等の存在を確実に検知することができるように、乗入室7内の対角位置に配置し、乗入室7内のリアルタイムデータD2を検知し、制御装置30に出力する2基の測域センサー36A,36B(【0053】、【0054】)と、
入出庫扉25が開くと同時に発信される第1のトリガー信号を受信し、測域センサー36A,36Bにより乗入室7内のリアルタイムデータD2を取得し、予め記憶されている乗入室7内の空室時データD1と、測域センサー36A,36Bから入力される乗入室7内のリアルタイムデータD2とを比較して相違が有るか無いかを判定し、両データD1,D2間に相違が無いと判定された場合には、入庫指示灯点灯信号Saを発信して車両2の入庫を許可し(【0061】)、空室時データD1とリアルタイムデータD2との間に相違が有ると判定された場合には、警告を発令し(【0062】)、
車両2がパレット17上の定位置に停車して入庫指示灯45の停車指示灯45bが点灯すると、第2のトリガー信号が発信され、第2のトリガー信号を受信することにより、直ちに測域センサー36A,36Bによって車両2のスキャニングが行われ、車両2の位置、大きさ、および形状を基にして車両輪郭データVが取得され(【0065】)、車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3として記憶し(【0066】)、車両2からドライバーや同乗者、ペット等が降車して乗入室7の外に移動し、ドライバー(もしくは管理人)が機械式駐車設備1の起動操作を行なうと、第3のトリガー信号が発信され、制御装置30がこの第3のトリガー信号を受信することにより、入出庫扉25の開閉装置32に閉扉信号Sbを発信する前に、測域センサー36A,36Bにより乗入室7内のリアルタイムデータD2が取得され、測域センサー36A,36Bから入力される乗入室7内のリアルタイムデータD2と、入庫初期データD3とを比較し、相違が有るか無いかを判定し(【0067】)、リアルタイムデータD2と入庫初期データD3とを比較して相違が無いと判定された場合は、閉扉信号Sbを発信し、入出庫扉25を閉じ(【0068】)、リアルタイムデータD2と入庫初期データD3との間に相違が有ると判定された場合は、制御装置30は閉扉信号Sbを発信する代わりに警告を発令する制御装置30(【0069】)を備えた
エリア検知装置(【0043】)。」

(甲1方法発明)
「2基の測域センサー36A,36Bにより、車両2の位置、大きさ、形状を正確に把握するとともに、車両2以外の物体や人等の存在を確実に検知することができるように、乗入室7内の対角位置に配置し、乗入室7内のリアルタイムデータD2を検知し、制御装置30に出力し(【0053】、【0054】)、
制御装置30は、
入出庫扉25が開くと同時に発信される第1のトリガー信号を受信し、測域センサー36A,36Bにより乗入室7内のリアルタイムデータD2を取得し、予め記憶されている乗入室7内の空室時データD1と、測域センサー36A,36Bから入力される乗入室7内のリアルタイムデータD2とを比較して相違が有るか無いかを判定し、両データD1,D2間に相違が無いと判定された場合には、入庫指示灯点灯信号Saを発信して車両2の入庫を許可し(【0061】)、空室時データD1とリアルタイムデータD2との間に相違が有ると判定された場合には、警告を発令し(【0062】)、
車両2がパレット17上の定位置に停車して入庫指示灯45の停車指示灯45bが点灯すると、第2のトリガー信号が発信され、第2のトリガー信号を受信することにより、直ちに測域センサー36A,36Bによって車両2のスキャニングが行われ、車両2の位置、大きさ、および形状を基にして車両輪郭データVが取得され(【0065】)、車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3として記憶し(【0066】)、車両2からドライバーや同乗者、ペット等が降車して乗入室7の外に移動し、ドライバー(もしくは管理人)が機械式駐車設備1の起動操作を行なうと、第3のトリガー信号が発信され、制御装置30がこの第3のトリガー信号を受信することにより、入出庫扉25の開閉装置32に閉扉信号Sbを発信する前に、測域センサー36A,36Bにより乗入室7内のリアルタイムデータD2が取得され、測域センサー36A,36Bから入力される乗入室7内のリアルタイムデータD2と、入庫初期データD3とを比較し、相違が有るか無いかを判定し(【0067】)、リアルタイムデータD2と入庫初期データD3とを比較して相違が無いと判定された場合は、閉扉信号Sbを発信し、入出庫扉25を閉じ(【0068】)、リアルタイムデータD2と入庫初期データD3との間に相違が有ると判定された場合は、制御装置30は閉扉信号Sbを発信する代わりに警告を発令する(【0069】)
エリア検知装置の制御方法(【0078】)。」

2 甲2
(1)甲2の記載
本件特許出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2には、以下の事項が記載されている。
ア「【0031】
図1は、実施の形態にかかる入庫制御方法及び出庫制御方法が実施される機械式駐車装置Pの一部透視斜視図を示し、図2は、機械式駐車装置Pの乗降室1の平面を示している。図1のように、この機械式駐車装置Pは地下に構築された、外形が略円筒形の立体駐車場であり、駐車する車両3は乗降室1を経由して、放射状に区画された地下の駐車格納庫Sに一台ずつ保管される。
・・・
【0033】
乗降室1内には、乗降室1内に前記車両以外の人や荷物などが残っているかどうかを検知する室内センサ11、12、13、14が設置されている。これら室内センサ11〜14は公知のセンサを用いることができる。なお室内センサの数は任意であり、乗降室1内に死角がないように検知することができればよい。
【0034】
また乗降室1内には、乗降室1内の様子を撮像するカメラ15、16が設けられている。カメラ15、16で撮像した乗降室1内の様子は、画像信号として、後述の入出庫スタート盤31のディスプレイ装置33へと送信される。なおカメラの数は任意であり、乗降室1内に死角がないように確認することができればよい。
【0035】
乗降室1には、入口扉21と出口扉22が設けられており、これら入口扉21と出口扉22の上方には、それぞれライン状の扉センサ23、24が設けられている。扉センサ23、24は、人や車両、物体など、扉を閉鎖する際に障害となる物体を検知する。また入口扉21、出口扉22を人や車が通過した事も検知する。」

イ「【0038】
そして以上に挙げた車長センサ5、6、車幅センサ7、8、室内センサ11〜14、カメラ15、16、扉センサ23、24からの信号は、制御装置Cへと出力される。入出庫スタート盤31、入庫受付盤41の機能、並びに搬器4による搬送、入口扉21と出口扉22の開閉動作等は制御装置Cによって制御される。なお制御装置Cは中央監視室(図示せず)や、たとえば入出庫スタート盤31に設けてもよく、環境、条件によって任意の場所に設けることができる。また制御装置Cの機能を適宜分散させてもよい。」

ウ「【0043】
車両3の所定位置へのセットが完了すると、運転者は乗降室1から退出し、携帯認証媒体としてのカードを入出庫スタート盤31のカード挿入排出口34に挿入することで、カードの情報の読み取りがなされる(ステップ105)。読み取りができない場合には、ステップ105へと戻る。そして読み取られた情報が、入庫受付盤41において読み取られたカードの情報と一致するかどうかの判定がなされる(ステップ106)。そして一致している場合には、安全確認スイッチ36の操作が可能になる。ここで運転者は、乗降室1の内部に人がいない事や物がない事を、入出庫スタート盤31に備えられているディスプレイ装置33での映像によって容易に目視確認することができる。読み取られた情報が、入庫受付盤41において読み取られたカードの情報と一致していない場合には、ステップ105へと戻るため、安全確認スイッチ36は操作できない。また車長センサ5、6、車幅センサ7、8、室内センサ11〜14、扉センサ23のいずれかがONした場合にも、安全確認スイッチ36は操作できない。
【0044】
そして安全確認スイッチ36が操作されると(ステップ107)、カードが排出される(ステップ108)。安全確認スイッチ36が操作されないと再びステップ107へと戻り、カードは排出されない。この際、音声、ブザー、光等によって運転者に警告を与えるようにしてもよい。
【0045】
安全確認スイッチ36が操作されて、カードが排出されると(ステップ108)、カードが抜き取られたかどうかが判断され(ステップ109)、カードが抜き取られた場合には、入口扉21が閉鎖される(ステップ110)。抜き取られたことが確認できない場合には、再びステップ109へと戻る。この際、たとえば音声用スピーカ37によってカードの抜き取りが促される。また本実施の形態では、カードが排出され、所定時間、例えば10秒以上経過しても未だカードが抜き取られない場合には、何かしらの異常があったものと判断し、ステップ105へと戻るようになっている。また安全確認スイッチ36の操作(ステップ107)後からカード抜き取り(ステップ109)までの間に、車長センサ5、6、車幅センサ7、8、室内センサ11〜14、扉センサ23のいずれかがONしたら、何かしらの異常があったものと判断し、カード読取(ステップ105)とカード情報一致判定(ステップ106)の結果と安全確認スイッチ36の操作(ステップ107)とが取り消され、ステップ105へと戻る。
【0046】
また入口扉21が閉鎖動作している間に、車長センサ5、6、車幅センサ7、8、室内センサ11〜14、扉センサ23のいずれかがONした場合も、何かしらの異常があったものと判断し、閉鎖動作が中止されるとともに、カード読取(ステップ105)とカード情報一致判定(ステップ106)の結果と安全確認スイッチ36の操作(ステップ107)とが取り消され、ステップ105へと戻る。
【0047】
そして入口扉21が閉鎖されると、入庫動作が完了したものと判定され(ステップ111)、搬器4が起動して、乗降室1内の車両3は、所定の駐車格納庫まで搬送される。
【0048】
以上のように、本実施の形態によれば、まず入出庫スタート盤31に設けられている安全確認スイッチ36は、室内センサ11〜14が乗降室1内に人や置き忘れた荷物を検知していると操作できない。すなわち、室内センサ11〜14が乗降室1内に人や荷物を検知していないことが安全確認スイッチ36の操作可能となるための前提条件となっている。したがって、万が一乗降室1に人や荷物が残っていても、その後の乗降室1の入口扉21の閉鎖や搬器4による車両3の搬送などの起動操作ができない。そしてそのような前提条件が満たされても、入出庫スタート盤31によるカードの読み取り情報が所定情報と一致していることが確認されない限り、安全確認スイッチ36の操作はできなくなっている。さらにまた、本実施の形態では、安全確認スイッチ36が操作されても、カードの抜き取りが行われない限り、入口扉21が閉鎖されることはなく、入口扉21が閉鎖されない以上、搬器4は作動しない。したがって、従来よりも安全性が向上している。
【0049】
しかも車長センサ5、6、車幅センサ7、8、扉センサ23のいずれかがONした場合にも、安全確認スイッチ36は操作されないから、安全性はさらに向上している。」

エ「【0054】
その後利用者(運転者)が車両3に乗り込み、乗降室1から車両を退出させる(ステップ204)。車両を退出させると、運転者が車両を降りて、入出庫スタート盤31の安全確認スイッチ36を操作する。この場合も、車長センサ5、6、車幅センサ7、8、室内センサ11〜14、扉センサ24のいずれかがONした場合には、安全確認スイッチ36は操作できない。」

オ「【0057】
またカードが抜き取られた場合であっても、カード排出から所定時間、例えば10秒以上経過後の抜き取りであった場合、何かしらの異常があったものと判断し、ステップ205へと戻るようになっている。また安全確認スイッチ36の操作後からカード抜き取りまでの間に、車長センサ5、6、車幅センサ7、8、室内センサ11〜14、扉センサ24のいずれかがONしたら、何かしらの異常があったものと判断し、安全確認スイッチ36の操作が取り消され、ステップ205へと戻る。
【0058】
また出口扉22が閉鎖されるステップ208においても、閉鎖動作中に車長センサ5、6、車幅センサ7、8、室内センサ11〜14、扉センサ24のいずれかがONした場合には、何かしらの異常があったものと判断し、閉鎖動作が中止されるとともに、安全確認スイッチ36の操作が取り消され、ステップ205へと戻る。
【0059】
以上のように、本実施の形態によれば、出庫にあたっても、車両3が乗降室1から退出した後、入出庫スタート盤31に設けられている安全確認スイッチ36が、室内センサ11〜14が乗降室1内に人や置き忘れた荷物を検知している限りは操作できない。すなわち、室内センサ11〜14が乗降室1内に人や荷物などを検知していないことが安全確認スイッチ36の操作可能となるための前提条件となっているので、万が一乗降室1に人が残っていても、その後の乗降室1の出口扉22が閉鎖されないようになっている。さらにまた、安全確認スイッチ36が操作されても、カードの抜き取りが行われない限り、出口扉22が閉鎖されることはない。したがって、従来よりも安全性が向上している。
【0060】
しかも途中のプロセスにおいて、車長センサ5、6、車幅センサ7、8、室内センサ11〜14、扉センサ24のいずれかがONした場合にも、安全確認スイッチ36は操作できず、またカードが抜き取られた後、出口扉22が閉鎖動作中であっても、これらのいずれかがONされた場合には、インターロックがかかり出口扉22は閉鎖されない。また入出庫スタート盤31のディスプレイ装置33によって、カメラ15、16が撮像した乗降室1内の様子を目視にて確認できるから、安全確認スイッチ36の操作にあたり、さらに安全を人の目によって確認することができる。したがって従来よりも安全性が向上している。」

(2)甲2に記載された技術事項
上記(1)によれば、甲2には、次の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2技術事項)
「乗降室1内に車両以外の人や荷物などが残っているかどうかを死角がないように検知する室内センサ11、12、13、14が設置され(【0033】)、
乗降室1には、入口扉21と出口扉22が設けられており、これら入口扉21と出口扉22の上方には、それぞれ人や車両、物体など、扉を閉鎖する際に障害となる物体を検知するライン状の扉センサ23、24が設けられ(【0035】)、
室内センサ11〜14、扉センサ23、24からの信号は、制御装置Cへと出力され、入口扉21と出口扉22の開閉動作等は制御装置Cによって制御され(【0038】)、
携帯認証媒体としてのカードを入出庫スタート盤31のカード挿入排出口34に挿入することで、カードの情報の読み取りがなされ、読み取られた情報が、入庫受付盤41において読み取られたカードの情報と一致するかどうかの判定がなされ、一致している場合には、安全確認スイッチ36の操作が可能になり(【0043】)、安全確認スイッチ36が操作されて、カードが排出されると、カードが抜き取られたかどうかが判断され、カードが抜き取られた場合には、入口扉21が閉鎖され(【0045】)、入口扉21が閉鎖動作している間に、室内センサ11〜14、扉センサ23のいずれかがONした場合も、何かしらの異常があったものと判断し、閉鎖動作が中止される(【0046】)
入庫制御方法及び出庫制御方法が実施される機械式駐車装置P(【0031】)。」

2 甲3
(1)甲3の記載
本件特許出願前に頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3には、以下の事項が記載されている。
・17頁40行〜18頁2行
「b) 扉閉検知保護装置
自動制御の駐車設備では,上方又は水平開きの出入口扉に人及び自動車が挟まれない(下方開きでは突き上げない)ように,人及び自動車を検知して停止又は反転する,扉閉検知保護装置を備えなければならない。」

(2)甲3に記載された技術事項
上記(1)によれば、甲3には、次の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されているものと認められる。
(甲3技術事項)
「自動制御の駐車設備では、出入口扉に人及び自動車が挟まれないように、人及び自動車を検知して停止又は反転する扉閉検知保護装置を備えなければならないこと。」

第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1構造発明とを対比する。
ア 甲1構造発明の「乗入室7」及び「測域センサー36A,36B」は、それぞれ本件発明1の「乗降室」及び「室内全域センサ」に相当する。
また、甲1構造発明では、「2基の測域センサー36A,36B」を「車両2以外の物体や人等の存在を確実に検知することができるように、乗入室7内の対角位置に配置し、乗入室7内のリアルタイムデータD2を検知し」ていることから、「乗入室7内」を死角なく検知していることは明らかである。
よって、甲1構造発明は、本件発明1の「乗降室の内側全域を死角なくリアルタイムに検出可能な室内全域センサ」を備えているといえる。

イ 甲1構造発明の「測域センサー36A,36Bにより」「取得し」た「リアルタイムデータD2」、「車両2以外の物体や人等」及び「制御装置30」は、それぞれ本件発明1の「前記室内全域センサの検出データ」、「異物」及び「データ処理装置」に相当する。

ウ−1 甲1構造発明の「乗入室7内の空室時データD1」は、本件発明1の「前記乗降室の内側に前記異物が存在しないときの前記検出データである無人データ」に相当する。

ウ−2 甲1構造発明の「車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態」である「入庫初期データD3」は、本件発明1の「前記乗降室の内側に前記異物が存在しないときの前記検出データである無人データ」に相当する。

エ 甲1構造発明の「車両2がパレット17上の定位置に停車し」た時は、本件発明1の「入庫時」に相当する。

オ 甲1構造発明と本件発明1で、異物の検出に用いるデータは相違するものの、本件発明1の「前記室内全域センサの前記検出データから前記無人データと前記検出データに含まれる車両検出データを除去して、除去後の検出物を前記異物として検出する」ことと、甲1構造発明の「測域センサー36A,36Bによって車両2のスキャニングが行われ、車両2の位置、大きさ、および形状を基にして車両輪郭データVが取得され、」「車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3として記憶し、」「測域センサー36A,36Bにより乗入室7内のリアルタイムデータD2が取得され、測域センサー36A,36Bから入力される乗入室7内のリアルタイムデータD2と、入庫初期データD3とを比較し、相違が有るか無いかを判定し、」「リアルタイムデータD2と入庫初期データD3とを比較して」「リアルタイムデータD2と入庫初期データD3との間に相違が有ると判定」することとは、「前記室内全域センサの前記検出データから」「検出物を前記異物として検出する」点で共通する。

カ 甲1構造発明の「エリア検知装置」は、本件発明1の「庫内異物検出装置」に相当する。

以上のことをふまえると、本件発明1と甲1構造発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「乗降室の内側全域を死角なくリアルタイムに検出可能な室内全域センサと、
前記室内全域センサの検出データから異物を検出するデータ処理装置と、を備え、
前記データ処理装置は、前記乗降室の内側に前記異物が存在しないときの前記検出データである無人データを記憶し、
入庫時に、前記室内全域センサの前記検出データから検出物を前記異物として検出する、庫内異物検出装置。」

<相違点1>
「入庫時」に、
本件発明1では、「前記室内全域センサの前記検出データから前記無人データと前記検出データに含まれる車両検出データを除去して、除去後の検出物を前記異物として検出する」のに対して、
甲1構造発明では、「測域センサー36A,36Bによって車両2のスキャニングが行われ、車両2の位置、大きさ、および形状を基にして車両輪郭データVが取得され、車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3として記憶し」、「車両2からドライバーや同乗者、ペット等が降車して乗入室7の外に移動し、ドライバー(もしくは管理人)が機械式駐車設備1の起動操作を行なうと、第3のトリガー信号が発信され、制御装置30がこの第3のトリガー信号を受信することにより、入出庫扉25の開閉装置32に閉扉信号Sbを発信する前に、測域センサー36A,36Bにより」「取得」された「乗入室7内の」「リアルタイムデータD2と入庫初期データD3とを比較して相違が無いと判定」するか、「相違が有ると判定」するものである点。

(2)判断
ア 上記相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
(ア)相違点1における各データと判定の関係
a 本件発明1について
「無人データ」、「検出データ」、「車両検出データ」及び「異物」の関係について、概略、整理すると、入庫時に、「検出データ」から「無人データ」と「車両検出データ」を除去して得られるデータにより「異物」が存在するかを検出するものである。

b 甲1構造発明について
「空室時データD1」、「リアルタイムデータD2」、「入庫初期データD3」及び「車両2以外の物体や人等」の関係について、概略、整理すると、
「車両2がパレット17上の定位置に停車し」た時に、「車両2の位置、大きさ、および形状を基にして車両輪郭データVが取得され、車両輪郭データVの範囲を除いた居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3として記憶し」、「リアルタイムデータD2」と「入庫初期データD3」に相違がないかを比較し、相違がある場合に「車両2以外の物体や人等」が存在することを検出している。
上記「比較」において、「車両2」が存在する「リアルタイムデータD2」と「居残り検出範囲E」の状態を記憶したデータである「入庫初期データD3」を比較し、相違の有無を判断することからみて、「車両2」が存在する「リアルタイムデータD2」も「車両2」が存在しない「居残り検出範囲E」の領域にあるデータと「入庫初期データD3」が「比較」されることは自明である。

c 上記a及びbから、相違点1について整理すると、本件発明1は、「検出データ」から「無人データ」と「車両検出データ」を除去して得られるデータをもとに「異物」が存在するかを検出しているのに対し、甲1構造発明は、「車両2」が存在している「リアルタイムデータD2」に対して「車両2」が存在しない「居残り検出範囲E」の領域にある「リアルタイムデータD2」と「入庫初期データD3」とを比較して「異物」が存在するかを検出する点で相違するものといえる。

d ここで、上記(1)イで説示したとおり、甲1構造発明の「測域センサー36A,36Bにより」「取得し」た「リアルタイムデータD2」は、本件発明1の「前記室内全域センサの検出データ」に相当し、同ウ−1及びウ−2で説示したとおり、本件発明1の「無人データ」については、甲1構造発明の「空室時データD1」又は「入庫初期データD3」のいずれかに相当し得るため、以下、それぞれについて検討する。

e 上記(1)ウ−1の相当関係の場合(「空室時データD1」に相当)
甲1構造発明において、「空室時データD1」は、「車両2がパレット17上の定位置に停車し」た時(入庫時)には利用しておらず(甲1構造発明では、「空室時データD1」は「入庫を許可」するか否かの判定で利用している。)、本件発明1とは「車両2以外の物体や人等」(異物)の検出手法が異なることとなり、相違点1は、実質的な相違点である。

f 上記(1)ウ−2の相当関係の場合(「入庫初期データD3」に相当)
上記cのとおり、甲1構造発明において、「入庫初期データD3」は、「車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態」として記憶されたものであるから、「入庫初期データD3」自体が「車両輪郭データVの範囲を除いた」ものである。
そうすると、甲1構造発明では、「リアルタイムデータD2」(検出データ)から「車両輪郭データV」を除去しないため、本件発明1とは「車両2以外の物体や人等」(異物)の検出手法が異なることとなり、相違点1は、実質的な相違点である。

(イ)小括
以上により、相違点1は実質的な相違点であるため、本件発明1は、甲1構造発明ではない。

イ 次に、上記相違点1について、甲2技術事項等との組み合わせについて検討する。
甲2技術事項の「乗降室1」及び「検知室内センサ11、12、13、14」は、本件発明1の「乗降室」及び「室内全域センサ」に相当するといえる。
しかしながら、甲2技術事項において、「車両以外の人や荷物などが残っているかどうかを検知する室内センサ11、12、13、14」は「車両以外の人や荷物などが残っているかどうかを死角がないように検知する」ものの、どのように検知したデータを用いて車両以外の人や荷物などが残っているかどうかを検知するのかは不明である。
そして、甲1構造発明の「リアルタイムデータD2」において、「車両2」が存在しない「居残り検出範囲E」の領域に限定して、「入庫初期データD3」と比較して「車両2以外の物体や人等」が存在するか否かを判定しているものを、「リアルタイムデータD2」から車両2の位置、大きさ、および形状を基にして取得した車両輪郭データVを除去して判定する技術に置換する動機付けはなく、甲2にも、その点ついて記載も示唆もない。
よって、本件発明1の「無人データ」を、上記(1)対比において、ウ−1及びウ−2のいずれの相当関係とした場合においても、甲2技術事項は、相違点1に係る本件発明1の構成を有していない。
したがって、甲1構造発明に甲2技術事項を適用して、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

さらに、申立人が提出したその余の証拠をみても、相違点1に係る本件発明1の構成は記載も示唆もされていない。
よって、甲1構造発明、甲2技術事項、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された事項に基づいて、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、以下のとおり主張している。
甲1発明の「1c 制御装置30は、乗降室の空室時における空室時データD1を記憶し、」は、本件特許発明1の「1C 前記データ処理装置は、前記乗降室の内側に前記異物が存在しないときの前記検出データである無人データを記憶し、」に相当する。
甲1発明の「1d 制御装置30は、入庫時に、車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3とし、リアルタイムデータD2と、入庫初期データD3とを比較することで、乗降室内における車以外の物体を検出する」は、本件特許発明1の「1D 入庫時に、前記室内全域センサの前記検出データから前記無人データと前記検出データに含まれる車両検出データを除去して、除去後の検出物を前記異物として検出する、」に相当する。
以上から、両者はすべての構成要件について悉く一致する。また、仮に相違点があるとしても、その相違点は微差であるか、当業者が容易になし得た事項である。(申立書19頁27行〜20頁13行)

イ しかしながら、上記主張のように「甲1発明の「1c 制御装置30は、乗降室の空室時における空室時データD1を記憶し、」は、本件特許発明1の「1C 前記データ処理装置は、前記乗降室の内側に前記異物が存在しないときの前記検出データである無人データを記憶し、」に相当する」として検討すると、上記(2)ア(ア)cで説示したとおり、「空室時データD1」は、「車両2がパレット17上の定位置に停車し」た時(入庫時)には利用しておらず、本件発明1とは「車両2以外の物体や人等」(異物)の検出手法が異なることとなり、相違点1は、実質的な相違点であるため、本件発明1は、甲1構造発明ではない。
また、上記(2)イで説示したとおり、甲1構造発明、甲2技術事項、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された事項に基づいて、相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。

(4)小括
したがって、本件発明1は、甲1構造発明ではなく、また、甲1構造発明、甲2技術事項及び周知技術(甲3技術事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2〜4、7及び8について
本件発明2〜4、7及び8は、本件発明1の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記1で検討した理由と同じ理由により、本件発明2〜4は、甲1構造発明ではなく、また、本件発明2〜4、7及び8は、甲1構造発明、甲2技術事項及び周知技術(甲3技術事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 本件発明5について
(1)対比
本件発明1と甲1構造発明とを対比した上記1(1)ア〜オについては、本件発明5と甲1方法発明の対比についても実質的に同様であり、甲1方法発明の「エリア検知装置の制御方法」は、本件発明5の「庫内異物検出方法」に相当するから、本件発明5と甲1方法発明とは、少なくとも、
「入庫時」に、
本件発明5では、「前記室内全域センサの前記検出データから前記無人データと前記検出データに含まれる車両検出データを除去し、除去後の検出物を前記異物として検出する」のに対して、
甲1方法発明では、「測域センサー36A,36Bによって車両2のスキャニングが行われ、車両2の位置、大きさ、および形状を基にして車両輪郭データVが取得され、車両輪郭データVの範囲を除いた乗入室7の残る範囲を居残り検出範囲Eとして設定し、この居残り検出範囲Eの状態を入庫初期データD3として記憶し」「リアルタイムデータD2と入庫初期データD3とを比較して相違が無いと判定」するか、「相違が有ると判定」するものである点。
で相違する(以下「相違点2」という。)。

(2)判断
ア 上記相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
上記1(2)アで説示したとおり、上記1(1)ウ−1及び同ウ−2の相当関係のいずれで検討した場合にも、本件発明5と甲1方法発明とは「車両2以外の物体や人等」(異物)の検出手法が異なることとなり、相違点2は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明5は、甲1方法発明ではない。

イ 次に、上記相違点2について、甲2技術事項等との組み合わせについて検討する。
甲2技術事項の「乗降室1」及び「検知室内センサ11、12、13、14」は、本件発明5の「乗降室」及び「室内全域センサ」に相当するといえる。
しかしながら、甲2技術事項において、「車両以外の人や荷物などが残っているかどうかを検知する室内センサ11、12、13、14」は「車両以外の人や荷物などが残っているかどうかを死角がないように検知する」ものの、どのように検知したデータを用いて車両以外の人や荷物などが残っているかどうかを検知するのかは不明である。
よって、本件発明5の「無人データ」を、上記1(1)対比において、ウ−1及びウ−2のいずれの相当関係とした場合においても、甲2技術事項は、相違点2に係る本件発明5の構成を有していない。
したがって、甲1方法発明に甲2技術事項を適用して、相違点2に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

さらに、申立人が提出したその余の証拠をみても、相違点2に係る本件発明5の構成は記載も示唆もされていない。
よって、甲1方法発明、甲2技術事項、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された事項に基づいて、相違点2に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、以下のとおり主張している。
本件特許発明5と甲1発明との対比について、庫内異物検出方法に係る本件特許発明5は、庫内異物検出装置係る本件特許発明1と発明のカテゴリーが異なるだけで、実質的な発明特定事項は本件特許発明1と同じである。
したがって、本件特許発明1で述べたのと同じ具体的理由により、本件特許発明5は、甲1発明と同一であり、仮に相違点があったとしても、相違点は微差であるか、当業者が容易になし得た事項である。

イ しかしながら、上記1(3)の申立人の主張のように「甲1発明の「1c 制御装置30は、乗降室の空室時における空室時データD1を記憶し、」は、本件特許発明1の「1C 前記データ処理装置は、前記乗降室の内側に前記異物が存在しないときの前記検出データである無人データを記憶し、」に相当する」として検討すると、上記1(2)ア(ア)cで説示したとおり、「空室時データD1」は、「車両2がパレット17上の定位置に停車し」た時(入庫時)には利用しておらず、本件発明1とは「車両2以外の物体や人等」(異物)の検出手法が異なることとなり、相違点1は実質的な相違点であるから、相違点1と同様である相違点2も、実質的な相違点であるため、本件発明5は、甲1方法発明ではない。また、上記(2)イで説示したとおり、甲1方法発明、甲2技術事項、及び申立人が提出したその余の証拠に記載された事項に基づいて、相違点2に係る本件発明5の構成とすることは、当業者が容易になし得たことではない。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。

(4)小括
したがって、本件発明5は、甲1方法発明ではなく、また、甲1方法発明、甲2技術事項及び周知技術(甲3技術事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の構成を全て含み、さらに限定を加えた発明であるから、上記1で検討した理由と同じ理由により、本件発明6は、甲1方法発明ではなく、また、本件発明6は、甲1方法発明、甲2技術事項及び周知技術(甲3技術事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1〜4は、甲1構造発明ではなく、また、本件発明1〜4、7及び8は、甲1構造発明、甲2技術事項及び周知技術(甲3技術事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件発明5及び6は、甲1方法発明ではなく、また、甲1方法発明、甲2技術事項及び周知技術(甲3技術事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-07 
出願番号 P2020-093864
審決分類 P 1 651・ 113- Y (E04H)
P 1 651・ 121- Y (E04H)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 澤田 真治
住田 秀弘
登録日 2021-12-24 
登録番号 6999746
権利者 IHI運搬機械株式会社
発明の名称 庫内異物検出装置と方法、及び扉閉制御システムと方法  
代理人 堀田 実  
代理人 野村 俊博  

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