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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1392096
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-15 
確定日 2022-12-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6996797号発明「芋食品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6996797号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6996797号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和3年4月20日を出願日とする特許出願であって、同年12月20日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、令和4年2月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月15日に特許異議申立人 田中 久雄(以下、「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし7)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
芋食品を製造する方法であって、
食用油に浸漬した状態の原料芋を加熱する調理工程と、前記調理工程後の冷却工程を有し、
前記調理工程は、
前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋を加熱することと、
前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋に、電圧100V以上700V以下、電流10mA以上50mA以下の条件で、20分以上交流電界を印加することと、を兼ねる工程であり、
前記冷却工程は、前記調理工程後の芋を袋に入れ、該袋を脱気密封した状態で、−20℃以下の条件で30分以上冷却することを含む、芋食品の製造方法。
【請求項2】
前記食用油がココナッツオイルである、請求項1に記載の芋食品の製造方法。
【請求項3】
前記調理工程は、160℃以下の条件で、20分以上、60分以下加熱することを含む、請求項1又は2に記載の芋食品の製造方法。
【請求項4】
前記調理工程は、交流電界の周波数20kHz以上100kHz以下、電界強度200V/m以上20,000V/m以下の条件で、20分以上、前記食用油浸漬した状態の前記原料芋に交流電界を印加することを含む、請求項1〜3の何れか一項に記載の芋食品の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程は、前記調理工程後の芋の内部を観察可能な状態に切断することを含み、
前記の切断された芋を袋に入れ、該袋を脱気密封した状態で冷凍することを含む、請求項1〜4の何れか一項に記載の芋食品の製造方法。
【請求項6】
前記冷却工程は、調理工程後の芋を常温で90分以下静置し冷却する静置処理後の芋を袋に入れ、該袋を脱気密封した状態で、−20℃以下の条件で30分以上冷却することを含む、請求項1〜5の何れか一項に記載の芋食品の製造方法。
【請求項7】
前記冷却工程は、調理工程後の芋を常温で90分以下静置し冷却する静置処理と、静置後の芋を−20℃以下の条件で、15分以上冷却する一次冷却処理と、一次冷却処理後の芋を容器に入れ脱気密封した状態で−20℃以下の条件で、30分以上90分以下冷却する二次冷却処理と、を備える、請求項1〜6の何れか一項に記載の芋食品の製造方法。」

第3 特許異議申立理由の概要

特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(1ないし3)は、次のとおりである。

1 申立理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由1の具体的理由はおおむね次のとおりである。

(1) 申立理由1−1
本件特許発明1における、「前記調理工程は、前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋を加熱することと、前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋に、電圧100V以上700V以下、電流10mA以上50mA以下の条件で、20分以上交流電界を印加することと、を兼ねる工程」という発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
具体的に説明すると、「電圧100V以上700V以下、電流10mA以上50mA以下の条件で、20分以上交流電界を印加する」との記載は単に交流電界の条件を規定しただけであり、請求項1において、どのようにして原料芋に対して交流電圧を印加するのか、そのための方法が明細書には記載されていない。
明細書段落[0059]には、「図1に例示する電界処理装置は、通電部1と、油槽2と、を備える。
ここで、油槽2は、食用油3を貯留可能に構成されている。
また、通電部1は、油槽2に設けられた食用油3及び原料芋に交流電界を印加可能に構成されている。なお、本発明の調理工程において、油槽2に設けられた食用油3及び原料芋に交流電界を印加することで、食用油3中の水分4が細分化する様子が観察できる。」との記載はあるが、「通電部1」がどのような構成なのか図1乃至3を参酌しても不明である。また、図3は図面だけであり、図面の簡単な説明の欄に「[図3]一実施形態にかかる通電部の概要図である。」との記載があるだけで、図3の実質的な説明は明細書中にない。このため、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、原料芋に交流電界を印加する方法が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が実施可能な程度まで記載されていない。また、本件特許発明1における、「前記調理工程は、前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋を加熱することと、前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋に、電圧100V以上700V以下、電流10mA以上50mA以下の条件で、20分以上交流電界を印加することと、を兼ねる工程」という発明特定事項にまで、発明の詳細な説明の記載から拡張ないし一般化できるとはいえない。
本件特許発明2ないし7についても同様である。

(2) 申立理由1−2
本件特許発明1における、「前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋に、電圧100V以上700V以下、電流10mA以上50mA以下の条件で、20分以上交流電界を印加すること」という発明特定事項は、技術的に矛盾する条件であることから、発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。
食用油は絶縁体であるので電気抵抗値は大きいため、例えば一対の平板電極間に700V程度の電圧を印加しても、食用油に10mAもの電流を流すことは不可能である。甲第1号証(檜垣勝、各種植物油の低温での電気伝導特性の比較,平成17年度電気関係学会九州支部連合大会(第58回連合大会)講演論文集、主催:電気関係学会九州支部連合会、発行日:平成17年(2005年)9月22日、02-2P-07、p.112)表1には食用油の抵抗率が示されており、表1の中で最も抵抗率が低い菜種エステル油であっても、抵抗率は7×1012Ω・cmであるから、食用油中で一対の平板電極の間隔を10cm、フライヤーの断面積を1m2であると仮定すると、一対の平板電極間に700Vの電圧を印加した場合、平板電極間に流れる電流I1は
I1=V・A/(ρ・L)
=700V・1m2・(7×1012×10−2[Ω・m]
×0.1m)
=10−7A
=10−4mA
となり、本件特許発明1の10mAもの電流が流れることはない。電極間の間隔が非常に狭く、電極面積が大きいような特殊な電力を利用したとしても、本件特許発明1の条件を満たすことは極めて困難であり、もしも特殊な構成の電極を用いたのであれば、本件特許発明1の発明特定事項として規定されるべきものである。特殊な電極の利用を想定して、例えば本件特許発明1の平板電極間の間隔が極端に狭く1mmと仮定した場合、平板電極間に流れる電流I2は
I1=V・A/(ρ・L)
=700V・1m2・(7×1012×10−2[Ω・m]
×10−3m)
=10−5A
=10−2mA
であることから、電極の形状が平板である場合だけに限らず、フライヤーに設置可能な範囲で本件特許発明1を満たすような電界を印加できる電極を設計することは常識的には不可能である。本件特許発明1の電界印加条件を満たすような特殊な電極を用いている場合には、その電極の構成を本件特許発明1の発明特定事項として請求項1においてその電極の構成を明確に特定すべきである。
本件特許発明2ないし7についても同様である。

2 申立理由2(実施可能要件
本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由2の具体的理由はおおむね次のとおりである。

(1) 申立理由2−1
本件特許発明1における、「前記調理工程は、前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋を加熱することと、前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋に、電圧100V以上700V以下、電流10mA以上50mA以下の条件で、20分以上交流電界を印加することと、を兼ねる工程」という発明特定事項を当業者が実施可能な程度に、発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。
上記1(1)で指摘したとおり、明細書段落[0059]には、「通電部1」がどのような構成なのか図1乃至3を参酌しても不明である。また、図3は図面だけであり、図面の簡単な説明の欄に「[図3]一実施形態にかかる通電部の概要図である。」との記載があるだけで、図3の実質的な説明は明細書中にない。このため、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、原料芋に交流電界を印加する方法が、当業者が実施可能な程度まで記載されていない。
本件特許発明2ないし7についても同様である。

(2) 申立理由2−2
本件特許発明1における、「前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋に、電圧100V以上700V以下、電流10mA以上50mA以下の条件で、20分以上交流電界を印加すること」という発明特定事項は、技術的に矛盾する条件であり、本件特許発明の当該発明特定事項を当業者が実施可能な程度に、発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。
上記1(2)で指摘したとおり、電極の形状が平板である場合だけに限らず、フライヤーに設置可能な範囲で本件特許発明1の電界印加条件を満たすような電極を設計することは常識的には不可能である。もしも本件特許発明1の電界印加条件を満たすような特殊な電極を用いている場合には、その電極の構成を当業者が再現実施できる程度まで発明の詳細な説明に記載すべきである。
本件特許発明2ないし7についても同様である。

3 申立理由3(進歩性
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

4 証拠方法
・甲第1号証:檜垣勝、各種植物油の低温での電気伝導特性の比較、平成17年度電気関係学会九州支部連合大会(第58回連合大会)講演論文集、主催:電気関係学会九州支部連合会、発行日:平成17年(2005年)9月22日、02-2P-07、p.112
・甲第2号証:特開2016−129672号公報
・甲第3号証:特開2002−186446号公報
・甲第4号証:特開2019−180270号公報
・甲第5号証:再公表特許2019/132046号
・甲第6号証:サクッと感がスゴイ!“Dr.Fry”で感じた揚げ物の新しい可能性♪ちょっとブレイクタイム51♪、公知日:平成27年(2015年)1月12日、インターネット<https://ameblo.jp/tennaihansoku/entry-11976131708.html>、[令和4年8月14日検索]
・甲第7号証:coyashi企画「ココナッツオイルのお話会」、marru staff blog、公知日:平成31年(2019年)4月3日、インターネット<staffblog.marru.net/?eid=42>、[令和4年8月14日検索]
・甲第8号証:ココナッツオイルで揚げる。南国の香りのさつまいもチップス、Organic Recipe、公知日:平成27(2015年)9月30日、インターネット<https://recipe.organic-press.com/recipe_l13/>、[令和4年8月14日検索]
・甲第9号証:罪悪感ゼロのフライドポテトを食べる!やっぱり美味しいうちポテの秘密、プラム|note、公知日:令和2年(2020年)10月29日、インターネット<https://note.com/voyage51/n/nfaed6b57a990>、[令和4年8月14日検索]
・甲第10号証:特開2001−78660号公報
なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。

第4 当審の判断
以下に述べるとおり、当審は、特許異議申立人が申し立てる申立理由はいずれもその理由がないものと判断する。

1 申立理由1(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2) 本件特許発明におけるサポート要件の判断
本件特許発明1は、「新規の芋食品を製造する技術の提供」であって、「ねっとりとした食感を備える芋食品を製造する技術の提供」(【0007】)を発明の課題とするものである。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「食用油に浸漬した状態の前記原料芋を加熱することと、食用油に浸漬した状態の原料芋に交流電界を印加することとを兼ねる調理工程を行うことで、甘味に優れ、ねっとりとした食感を備える芋食品を提供することができる」(【0009】)こと、「原料芋の品種は特に制限され」ない(【0022】)こと、「しっとり系と評される原料芋を用いた場合には、定法により製造された焼き芋とは異なり、ねっとりとした食感を備える芋食品となる」(【0025】)こと、「本発明において、調理工程は、食用油に浸漬した状態の原料芋を加熱すること(以下、加熱作業とも表記)と、前記食用油に浸漬した状態の原料芋に交流電界を印加すること(以下、印加作業とも表記)を兼ねる」(【0034】)ことが記載され、さらに、具体的な実施例及び官能評価の結果も示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、「食用油に浸漬した状態の前記原料芋を加熱することと、食用油に浸漬した状態の原料芋に交流電界を印加することとを兼ねる調理工程を行う」との特定事項を有することにより、本件特許発明1における発明の課題を解決するものと認識できる。
そして、本件特許発明1は、上記の特定事項を全て有するとともにさらに、電圧条件、電流条件を特定するとともに冷却工程についても特定するものであるから、当然発明の課題を解決するものであるといえる。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定する本件特許発明2ないし7についても同様に判断される。

(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立理由1−1及び1−2において、原料芋に対してどのように交流電圧を印加するのか不明であるし、また、食用油に電流を流すことは技術常識に反する旨の点をあげる。
しかし、本件特許発明は、原料芋に「交流電界」を印加するものであって、交流電圧や交流電流を印加するものではない。
また、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の実施例における条件からみても、図1及び3における印加手段(図中符号1)に、所定の電圧条件・電流条件で交流電流を通電するものであることも当業者であれば当然認識できる。
よって、特許異議申立人の上記主張はいずれも採用しない。

(4) 申立理由1についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由1は、その理由がない。

2 申立理由2(実施可能要件)について
(1) 実施可能要件の判断基準
本件特許発明1ないし7は、上記第2のとおり、「物を生産する方法」の発明であるところ、物を生産する方法の発明における実施とは、そのものを生産する方法の使用をする行為のほか、その方法により生産した物の使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第3号)、例えば、明細書等にその物を生産する方法を使用することができることの具体的な記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその物を生産する方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

(2) 本件特許発明における実施可能要件の判断
本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、芋食品を製造する方法であって、食用油に浸漬した状態の原料芋を加熱する調理工程を有し、前記調理工程は、前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋を加熱することと、前記食用油に浸漬した状態の前記原料芋に交流電界を印加することと、を兼ねる工程である、芋食品の製造方法である」(【0008】)と記載され、「原料芋の品種は特に制限され」ないこと(【0022】)、「食品の調理に通常使用可能なオイルであれば、その種類に制限はない」こと(【0036】)、加熱作業における加熱時間(【0040】)及び加熱温度(【0043】)、印加条件(【0046】ないし【0056】)、冷却工程及び条件(【0067】ないし【0082】)、脱気密封の手段(【0083】ないし【0094】)についてそれぞれ記載されており、かつ、具体的な実施例の記載もある。
以上の記載からみれば、本件特許発明は、実施可能要件を満たすものといえる。

(3) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、申立理由2−1及び2−2において、通電部1の構成が不明であること、食用油に電流を印加するような電極を構成することは常識的には不可能であることなどをあげ、本件特許発明は、実施可能要件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、図1あるいは図3に示される通電部1は、いわゆる油槽中で通電できれば事足りることは明細書の発明の詳細な説明における記載から明らかであるといえるし、また、本件特許発明は食用油に電流を印加するものでないことは、上記1(3)において検討したとおりである。
よって、特許異議申立人の上記主張は採用しない。

(4) 申立理由2についてのまとめ
上記(2)及び(3)のとおりであるから、申立理由2はその理由がない。

3 申立理由3(甲第2号証を主たる証拠とする進歩性)について
(1) 主な証拠の記載事項等
ア 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、「フライヤー、加熱調理方法」に関し、次の記載がある。

「【請求項1】
食用油をためて食物を加熱調理するための貯油槽と、
貯油槽に対向して立設される対向平板アンテナと、
対向平板アンテナ間に10キロヘルツから150キロヘルツの周波数の電磁波を発生させるために対向平板アンテナを駆動する駆動部と、
貯油槽にためられた食用油を摂氏120度から摂氏200度に加熱して食物を調理するための加熱部と、
を有するフライヤー。」

「【請求項12】
食用油を120度から200度の範囲に加熱する食用油加熱ステップと、
加熱されている食用油中に10キロヘルツから150キロヘルツの周波数の電磁波を発生させる電磁波発生ステップと、
食用油中に加熱調理の対象となる食物を投入する食物投入ステップと、
からなる加熱調理方法。」

「【0001】
本件発明は、アンテナ間に所定の範囲の周波数の電磁波を発生させ、電磁波の発生している空間内で食物の加熱調理を行うフライヤー、加熱調理方法に関する。」

「【0005】
本件発明者は、所定の範囲の周波数の電磁波が発生している空間内で食物の調理を行うと、調理された食物の食味が非常に優れていることを発見した。
【0006】
すなわち、本件発明は、所定の範囲の周波数の電磁波が発生している空間内で食物の調理を行うことにより、調理された食物の食味が非常に優れるフライヤーを提供することを課題とする。」

「【発明の効果】
【0036】
主に以上のような構成を採用することにより、調理された食物の食味が非常に優れるフライヤー、調理方法を提供することができる。」

「【0038】
以下、本件発明について図面と共に説明する。なお、本件発明は明細書や図面の記載に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な態様で実施し得る。
≪実施形態1≫
<機能的構成>
【0039】
図1は、本件発明のフライヤーの概要を示す側面図である。例えば本件発明のフライヤーは、主に貯油槽(0101)と、対向平板アンテナ(0102)と、駆動部(0103)と、加熱部(0104)と、から構成される。」

「【0045】
図2に本件発明のフライヤーを用いた食物(0201)の加熱調理の概要を示す。例えば対向平板アンテナに所定の範囲の周波数の交流電圧が供給されると、対向平板アンテナ間に所定の範囲の周波数の電磁波(0202)が形成される。所定の範囲の周波数の電磁波が発生している空間内で食物の加熱調理を行うと、食物内への油分の浸透の抑制、食物内の水分による油はねの抑制、調理時の油温度の減少、食物の調理時間の減少とそれに伴う食用油の酸化の抑制等、優れた効果を得ることができる。また、調理された食物は、食味が非常に優れたものとなる。」

「<加熱調理方法>
【0055】
図12に本件発明の加熱調理方法の処理の流れの一例を示す。例えば本件発明の加熱調理方法として、まずステップS1201において、食用油を120度から200度の範囲に加熱する(食用油加熱ステップ)。次にステップS1202において、加熱されている食用油中に10キロヘルツから150キロヘルツの周波数の電磁波を発生させる(電磁波発生ステップ)。そして、ステップS1203において、食用油中に加熱調理の対象となる食物を投入する(食物投入ステップ)。加熱調理が終わると、食用油中から食物は取り出される。なお、本加熱調理方法は上述したフライヤーを用いて行われることが好ましいが、特に限定するものではない。所定の範囲の周波数の電磁波が発生している空間内で食物の加熱調理を行うことにより、調理された食物の食味をより優れたものとすることができる。」

「<実施例5>
【0083】
本実施例は、実施形態1の発明や実施形態2の実施例1から4の発明を基礎として、加熱調理の対象となる食物は、前記脂肪酸塩を構成する原子である、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、亜鉛、鉄のいずれか一以上を含有する食物である加熱調理方法を提供する。
【0084】
さらに、前記食用油は、加熱調理の対象となる食物として、前記脂肪酸塩を構成する原子である、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、亜鉛、鉄のいずれか一以上を含有する食物の調理を少なくとも過去に一度以上行ったことがある再利用の食用油加熱調理方法である。
【0085】
食物中のこららの原子が加熱された食用油中の脂肪酸の加水分解とともに塩を生成するように仕向けるためである。例えばカリウムを多く含む食物としてはイモ類、でんぷん類をあげることができる。
【0086】
カルシウムを多く含む食物としては、砂糖や野菜類をあげることができる。野菜としては、キュウリ、ナス、ピーマン、サヤエンドウ、サヤインゲン、ササゲ、オクラ、スイカ、メロン、シロウリ、カボチャ、トマト、トウガラシ、完熟ピーマン、イチゴ、実エンドウ、ソラマメ、エダマメ、スイートコーン、インゲンマメ、ソラマメ、タイサイ、コマツナ、タカナ、ホウレンソウ、キクナ、ネギ、ワケギ、セロリ、ハクサイ、キャベツ、メキャベツ、レタス、タマネギ、ニンニク、ラッキョウ、アスパラガス、ウド、コールラビ、タケノコ、ブロッコリー、マツタケ、シイタケ、ヒラタケ、エノキタケ、マッシュルーム、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、サツマイモ、ヤマイモ、ジネンジョ、ジャガイモ、サトイモ、レンコン、クワイ、チョロギ、オニユリ、ヤマユリなどをあげることができる。」









イ 甲第2号証に記載された発明
上記アの記載、特に請求項12の記載を中心に整理すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。

「食用油を120度から200度の範囲に加熱する食用油加熱ステップと、
加熱されている食用油中に10キロヘルツから150キロヘルツの周波数の電磁波を発生させる電磁波発生ステップと、
食用油中に加熱調理の対象となる食物を投入する食物投入ステップと、
からなる加熱調理方法。」(以下、「甲2発明」という。)

(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「電磁波発生ステップ」は、本件特許発明1の「交流電界を印加すること」に相当する。
また、甲2発明の「電磁波発生ステップ」は、「加熱されている食用油中」でなされるステップであり、かつ、当該食用油中に加熱調理の対象となる食品を投入することからみて、甲2発明は、「食用油に浸漬した状態の原料(食品)を加熱する調理工程」を有するものであって、食用油に浸漬した状態の原料(食品)を「加熱することと」「交流電界を印加すること」とを兼ねる工程を有するものであるといえる。
してみると両者は、
「食品を製造する方法であって、
食用油に浸漬した状態の原料を加熱する調理工程を有し、
前記調理工程は、
前記食用油に浸漬した状態の前記原料を加熱することと、
前記食用油に浸漬した状態の前記原料に、交流電界を印加することと、を兼ねる工程であることを含む、食品の製造方法。」
で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本件特許発明1は対象食品として「芋食品」と特定された上で、「調理工程と、前記調理工程後の冷却工程を有」するものであって、調理工程について、「電圧100V以上700V以下、電流10mA以上50mA以下の条件で、20分以上交流電界を印加する」こと、冷却工程について「前記調理工程後の芋を袋に入れ、該袋を脱気密封した状態で、−20℃以下の条件で30分以上冷却することを含む」ことが特定されるのに対して、甲2発明はそのような特定を有さない点。

上記相違点について検討する。
甲第2号証には、「カリウムを多く含む食物としてはイモ類・・・をあげることができる」(【0075】)、「カルシウムを多く含む食物としては、・・・サツマイモ、ヤマイモ、ジネンジョ、ジャガイモ、サトイモ・・・などをあげることができる」(【0076】)と、甲2発明の調理対象食品として芋食品に相当するものが列記されているものの、芋食品の調理における課題等についての記載はない。
また、他の証拠も含め証拠全体の記載をみても、芋食品についての課題を伺わせるものはなく、その課題解決手段を示す記載もなく、技術常識から導くことができるものともいえない。
そして、本件特許発明1は、上記相違点に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことにより、甘味に優れ、ねっとりとした食感を備える芋食品を提供することができるとの、格別の効果を奏するものである。
してみれば、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用して特定するものである。
そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2ないし7も同様に、甲2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3) 申立理由3についてのまとめ
上記(1)及び(2)のとおりであるから、申立理由3はその理由がない。

第5 結語

以上のとおりであるから、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-18 
出願番号 P2021-071467
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 植前 充司
平塚 政宏
登録日 2021-12-20 
登録番号 6996797
権利者 株式会社GIANT
発明の名称 芋食品の製造方法  
代理人 石橋 茂  
代理人 高瀬 亜富  

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