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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1392098
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-22 
確定日 2022-12-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第7026024号発明「調理麺の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7026024号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7026024号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成30年8月16日を出願日とする特許出願であって、令和4年2月16日にその特許権の設定登録(請求項の数1)がされ、同年同月25日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対して、令和4年8月22日に特許異議申立人 中嶋 美奈子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1)がされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
麺全体にナポリタンソースが絡んだ状態で食に供されるナポリタン風スパゲティの製造方法であって、スパゲティを冷凍する前に4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆し容器又は袋に収容して、そのスパゲティにナポリタンソースを上掛けし、ナポリタンソースが上掛けされた状態のまま冷凍し、電子レンジで加熱解凍した後、ナポリタンソースをスパゲティ全体に絡ませるナポリタン風スパゲティの製造方法。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
令和4年8月22日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。

1 申立理由1(明確性要件)
本件特許の請求項1に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・請求項1に記載される「パプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)」とは、該色素油が(A)「サラダ油にパプリカ色素のみを配合してなる色素油」である場合だけでなく、(B)「サラダ油に対してパプリカ色素とともにそれ以外の成分、例えば乳化剤や調味料、水性成分等、を配合してなる色素油」であることを除外しないものである。そのため、請求項1に係る方法において、茹でたスパゲティにいかなる成分が被覆し又は被覆していないのかは明らかでなく、結果として、請求項1に係る方法で製造されるナポリタン風スパゲティの構成が不明確なものとなっている。

2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許明細書において発明の課題を解決できることが示されているのは、色素油として、前記(A)(サラダ油にパプリカ色素のみを配合してなる色素油)を使用した場合のみであるから、使用する色素油が該(A)のものに限定されていない請求項1に係る発明は、発明の詳細に説明において、発明の課題を解決できるものとして記載されていない範囲を含むものである。

3 申立理由3(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(甲第3号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

5 申立理由5(甲第6号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

6 申立理由6(甲第8号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

7 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2013/172117号
甲第2号証:特開2008−212135号公報
甲第3号証:特開2011−155850号公報
甲第4号証:マ・マー 大盛りスパゲティ ナポリタン:日清製粉(URL: http://www.frozenfood.link/?p=378)及び掲載写真の拡大画像(URL: https://i0.wp.com/www.frozenfood.link/wp-content/uploads/2015/04/1504292.gif)、アクセス日2022年8月16日)
甲第5号証:実験成績証明書
甲第6号証:ktgwkujのブログ 色々、してみたり マ・マー ソテースパゲティ ナポリタン(冷凍)食べてみたり(URL: https://ameblo.jp/ktgwkuj/entry-12535339265.html、アクセス日2022年7月26日)
甲第7号証:丸善食品総合辞典、丸善株式会社、平成10年3月25日発行、第631頁
甲第8号証:特開2010−246466号公報
甲第9号証:国際公開第2009/054100号
(以下、順に「甲1」のようにいう。)
証拠の表記は、特許異議申立書の記載におおむね従った。

第4 当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記申立理由1ないし6にはいずれも理由がないと判断する。

1 申立理由1(明確性要件)について
(1)判断基準
特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
これを踏まえ、以下検討する。

(2)判断
本件特許の発明の詳細な説明(以下、「詳細な説明」という。)の「本発明において使用できる、ほぐれ改良剤は、従来から麺のほぐれ改良のために使用されているものであって目的とする色素を溶解させ含ませることができるものであれば特に限定はない。例えば、サラダ油等の油脂、乳化油脂、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。」との記載(【0009】。摘記に際し改行は省略した。)、「色素を含むほぐれ改良剤を使用することにより麺が着色され、電子レンジで加熱解凍した後、ソースを絡ませたときに、色調むらが起き難い調理麺を得ることが出きる。」との記載(【0010】)、及び、本件特許の出願時における技術常識をふまえれば、請求項1に記載される「パプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)」において、色素以外の成分をもサラダ油(色素油)に配合することができると理解できる。
そうすると、請求項1に記載される「パプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)」が、(A)「サラダ油にパプリカ色素のみを配合してなる色素油」である場合だけでなく、(B)「サラダ油に対してパプリカ色素とともにそれ以外の成分、例えば乳化剤や調味料、水性成分等、を配合してなる色素油」である場合をも包含することは、当業者にとって明確である。
したがって、請求項1の「パプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆し」なる記載は第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
そして、他に、請求項1に不明確な記載はない。
よって、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえず、本件特許発明は明確である。

特許異議申立人は、請求項1の「パプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆し」なる事項について、「茹でたスパゲティに、上記(A)、(B)のいずれが被覆しているか明らかでない、すなわち、いかなる成分が被覆し又は被覆していないのかは明らかでない」旨主張するが、上記のとおり請求項1の「パプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆し」が、上記(A)、(B)のいずれかを茹でたスパゲティに対して被覆することを意味することは明確であるから、上記主張は失当であり、採用できない。

2 申立理由2(サポート要件)について
(1)判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
これを踏まえ、以下検討する。

(2)判断
詳細な説明の【0004】、【0008】、【0010】によると、本件特許発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)は、「電子レンジで加熱解凍した後、ソースを絡ませたときに、色調むらが起き難い調理面を得る」ことである。
そして、詳細な説明の【0015】〜【0018】において、サラダ油に4万ColorValueパプリカ色素を2質量%溶解し得た色素油を2質量%添加し混合して、色素油で茹でスパゲティを被覆した実施例1よりも、色素を溶解させなかったサラダ油を用いた比較例1が、色調むらの点で外観が劣っていたことが確認されている。
そうすると、当業者は、「4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆」することで発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明は、前記条件を満足しているものである。
したがって、本件特許発明は、詳細な説明に記載された発明で、詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

特許異議申立人は、詳細な説明に発明の課題を解決できることが示されているのは、色素油として、サラダ油にパプリカ色素のみを配合してなる色素油(以下、「(A)」という。)を使用した場合のみであるから、使用する色素油が該(A)のものに限定されていない請求項1に係る発明は、発明の詳細に説明において、発明の課題を解決できるものとして記載されていない範囲を含むものであるから、本件特許発明はサポート要件を満たさない旨主張する。
しかしながら、発明の課題を解決できるのは、4万ColorValueパプリカ色素により麺を着色することによるものであるから、使用する色素油が、4万ColorValueパプリカ色素とともにそれ以外の成分を配合してなるものであったとしても、4万ColorValueパプリカ色素を配合してなる色素油であればある程度は発明の課題を解決すると当業者は理解できる。また、上記それ以外の成分が、4万ColorValueパプリカ色素による麺の着色を阻害し発明の課題を解決できないものとする証拠はない。
したがって、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

3 申立理由3(甲1に基づく進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、おおむね次の事項が記載されている。
・「[請求項1]
冷凍麺類の製造方法であって、
ロール製麺法により製造された生麺類を調理して得られた調理済み麺類に、キサンタンガムを含有し且つ60℃での粘度が30〜2000mPa・sである組成物を付着させる工程と、
当該組成物を付着させた麺類を冷凍する工程
を含む、方法。」

・「[0036]参考例
増粘多糖類と水を混合し、それぞれ粘度の異なる7種類の組成物(組成物1〜7)を調製した。各組成物の組成および粘度を表1に示す。
[0037][表1]


[0038]実施例1 冷凍麺の製造
デュラム粉400gおよび食塩水140gを麺用ミキサーに投入し、よく混練して麺生地を製造した。この麺生地から常法により圧延ロールを用いて麺帯の調製を行った。得られた麺帯を切り刃(12番手丸)を用いて切り出し、生スパゲティを得た。次いで、得られた生スパゲティを、歩留まり220〜235%内になるように4分間茹でた後、冷水に晒して品温15℃以下に冷却した。得られた調理済みスパゲティ360gに、参考例で調製した組成物1〜7各30g(麺質量に対して8.3%)を、20℃に温度調整し、噴霧用ノズル(Spraying Systems社製)を用いて噴霧することにより、麺線の表面に組成物を付着させた。噴霧の際、液ダレはほとんどなく、組成物のほぼ全量が麺線表面に付着した。各組成物を噴霧したスパゲティを、180gずつトレー(縦20cm×横15cm×高さ3cm)に充填し、半数のトレーには、さらに麺塊上部に市販の缶詰ミートソース(日清フーズ製)100gをのせた。これらを−35℃で急速凍結し、製造例1〜7の冷凍スパゲティ(それぞれ、ソースなしおよびソース付き)を製造した。
[0039] 試験例1
製造例1〜7の冷凍調理済みスパゲティを、トレーから外してポリプロピレン製の袋に包装し、−18℃で保存した。1週間後、凍結スパゲティを袋から取り出し、電子レンジ(600W)で加熱解凍した。加熱時間はソースなしのものは3分間、ソース付きのものは4分30秒間とした。解凍後のスパゲティの外観と食感を評価した。ソース付きのものは、加熱後に軽くかき混ぜ、スパゲティとソースの外観と食感を評価した。」

・「[0042] 試験例2
実施例1と同様の手順で、参考例で製造した組成物4を表4に示す量で調理済みスパゲティ360gに付着させ、冷凍スパゲティ(それぞれ、ソースなしおよびソース付き)を製造した(製造例8〜14)。得られた冷凍スパゲティについて、試験例1と同様の手順で外観と食感を評価した。結果を表4に示す。
[0043][表4]



イ 甲1に記載された発明
アの事項を特に製造例9について整理すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲1発明>
「調理済みスパゲティに、大豆油を含む組成物(麺質量に対して1.0%)を麺線の表面に噴霧し付着させ、該組成物のほぼ全量が麺線表面に付着したスパゲティをトレーに充填し、さらに麺塊上部に缶詰ミートソースをのせ、急速凍結して冷凍保存した後、該冷凍保存されたスパゲティを電子レンジで加熱解凍し、加熱後に軽くかき混ぜる、ソース付きスパゲティの製造方法。」

(2)本件特許発明について
ア 対比
本件特許発明と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「調理済みスパゲティに、油を含む組成物を麺線の表面に噴霧し付着させ、該組成物のほぼ全量が麺線表面に付着したスパゲティをトレーに充填し」は、甲1発明でトレーに充填する工程の後に冷凍を行っていることから、スパゲッティを冷凍する前に行われていることが明らかである。そうすると、甲1発明の「調理済みスパゲティに、油を含む組成物を麺線の表面に噴霧し付着させ、該組成物のほぼ全量が麺線表面に付着したスパゲティをトレーに充填し」は、本件特許発明の「スパゲッティを冷凍する前に油を茹でたスパゲティに対して被覆し容器又は袋に収容して」に相当する。そして、甲1発明における「油を含む組成物」は麺質量に対して1.0%使用されており、該「1.0%」は、本件特許発明における油の使用量である「1〜2質量%」に含まれる。
甲1発明の「さらに麺塊上部にソースをのせ、急速凍結して冷凍保存した」は、本件特許発明の「そのスパゲティにソースを上掛けし、ソースが上掛けされた状態のまま冷凍し」に相当する。
甲1発明の「電子レンジで加熱解凍し、加熱後に軽くかき混ぜる」は、本件特許発明の「電子レンジで加熱解凍した後、ソースをスパゲティ全体に絡ませる」に相当する。
甲1発明のソース付きスパゲティは、その製造方法からみて、麺全体にソースが絡んだ状態で食に供されるものであるといえるから、甲1発明のソース付きスパゲティの製造方法は、本件特許発明の「麺全体にソースが絡んだ状態で食に供されるスパゲティの製造方法」に相当する。

そうすると、本件特許発明と甲1発明とは、
「麺全体にソースが絡んだ状態で食に供されるスパゲティの製造方法であって、スパゲティを冷凍する前に油のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆し容器又は袋に収容して、そのスパゲティにソースを上掛けし、ソースが上掛けされた状態のまま冷凍し、電子レンジで加熱解凍した後、ソースをスパゲティ全体に絡ませるスパゲティの製造方法。」
である点で一致し、以下の点(以下、「相違点1−1」ないし「相違点1−3」という。)で相違する。

<相違点1−1>
本件特許発明ではスパゲティがナポリタン風スパゲティであり、ソースがナポリタンソースであるのに対し、甲1発明ではスパゲティがナポリタン風スパゲティではなく、ソースがミートソースである点。

<相違点1−2>
本件特許発明では4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%油に配合しているのに対し、甲1発明では油に4万ColorValueパプリカ色素を配合していない点。

<相違点1−3>
油が、本件特許発明ではサラダ油であるのに対し、甲1発明では大豆油であって、該「大豆油」がサラダ油であるかが不明である点。

イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点1−2について検討する。

甲1の記載及び他の証拠を見ても、甲1発明において油に4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合することは記載も示唆もされていないし、甲1発明において油に4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合する動機付けもない。
そして、本件特許発明は、4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合した油を茹でたスパゲティに対して被覆することで、レンジによる色調むらが発生し難いという、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 申立理由4(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3に記載された事項等
ア 甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次の事項が記載されている。
・「【0011】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1〜3、比較例1〜5]ナポリタンソース
表1に示す原料を使用して以下の製造工程により冷凍個食調理スパゲッティを得た。
表中、単位は質量部である。
【0012】
【表1】

【0013】
[製造工程]
(1)ソースの製造工程
釜にサラダ油、マーガリンを入れ加熱溶解し、冷凍ニンニクとベーコンを炒めた。
さらに、冷凍生玉ネギ(又は生玉ネギ)を投入して歩留まり80%まで炒めた。
これにトマトペーストとケチャップ、水、食塩、上白糖、グルタミン酸ナトリウム、白胡椒、パプリカ色素を加えて混合加熱し90℃まで達温させて20分間加熱混合した。
加熱終了後、容器に移し、20℃まで冷却した。
冷凍ソテー50%玉ネギの場合は、玉ネギを炒めることなくトマトペーストと同時に加えた。
(2)冷凍個食調理スパゲッティの製造工程
歩留まり280%まで茹で上げたパスタを冷却し、前記茹でたパスタ100質量部に対して25質量部の前記パスタソースをあえてこれを容器に250g入れ、さらに30gの前記パスタソースを上掛けして、−35℃のフリーザーで凍結し、ラップをして冷凍個食調理スパゲッティを得た。
【0014】
[評価]
前記冷凍個食調理スパゲッティを電子レンジを使用して、500Wで5分30秒間加熱し、解凍加熱後、全体をよく混合し10名のパネラーにより、以下の評価基準で評価を行った。」

イ 甲3に記載された発明
アの事項を特に実施例1について整理すると、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲3発明>
「サラダ油、ベーコン、トマトペースト、トマトケチャップ及びパプリカ色素0.1質量部を含むパスタソースを製造し、茹でたパスタ100質量部に対して25質量部の前記パスタソースをあえてこれを容器に入れ、さらに前記パスタソースを上掛けして凍結して冷凍個食調理スパゲッティを得、前記冷凍個食調理スパゲッティを加熱解凍後、全体をよく混合する、スパゲッティの製造方法。」

(2)本件特許発明について
ア 対比
本件特許発明と甲3発明とを対比する。
甲3発明の「サラダ油、ベーコン、トマトペースト、トマトケチャップ及びパプリカ色素0.1質量部を含むパスタソース」は、ベーコン、トマトペースト及びトマトケチャップを含むソースであることからみて、ナポリタンソースである。
そうすると、甲3発明の「容器に入れ、さらに前記パスタソースを上掛けして凍結して冷凍個食調理スパゲッティを得」は、本件特許発明の「容器又は袋に収容して、そのスパゲティにナポリタンソースを上掛けし、ナポリタンソースが上掛けされた状態のまま冷凍し」に相当し、甲3発明の「前記冷凍個食調理スパゲッティを加熱解凍後、全体をよく混合する」は、本件特許発明の「電子レンジで加熱解凍した後、ナポリタンソースをスパゲティ全体に絡ませる」に相当する。
甲3発明のスパゲティは、その製造方法からみて、麺全体にナポリタンソースが絡んだ状態で食に供されるナポリタン風スパゲティであるといえるから、甲3発明の「スパゲティの製造方法」は、本件特許発明の「麺全体にソースが絡んだ状態で食に供されるスパゲティの製造方法」に相当する。

してみると、本件特許発明と甲3発明とは、
「麺全体にナポリタンソースが絡んだ状態で食に供されるナポリタン風スパゲティの製造方法であって、スパゲティを冷凍する前に、茹でたスパゲティを容器又は袋に収容して、そのスパゲティにナポリタンソースを上掛けし、ナポリタンソースが上掛けされた状態のまま冷凍し、電子レンジで加熱解凍した後、ナポリタンソースをスパゲティ全体に絡ませるナポリタン風スパゲティの製造方法。」
である点で一致し、以下の点(以下、「相違点2」という。)で相違する。

<相違点2>
茹でたスパゲティを容器又は袋に収容する前に、本件特許発明では「4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆」しているのに対し、甲3発明では「サラダ油、ベーコン、トマトペースト、トマトケチャップ及びパプリカ色素0.1質量部を含むパスタソースを、茹でたパスタ100質量部に対して25質量部あえ」ている点。

イ 判断
上記相違点2について検討する。

甲3の記載及び他の証拠を見ても、甲3発明において茹でたスパゲティに対して4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油のみを1〜2質量%被覆することは記載も示唆もされていない。また、甲3発明において、茹でたスパゲティをパスタソースであえる代わりに、4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油のみを1〜2質量%被覆する動機付けもない。
そして、本件特許発明は、4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆することで、レンジによる色調むらが発生し難いという、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。

したがって、本件特許発明は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

5 申立理由5(甲6に基づく進歩性)について
(1)甲6に記載された事項等
ア 甲6に記載された事項
甲6には、おおむね次の事項が記載されている。
・「


」(第1及び2ページ)

イ 甲6に記載された発明
アの事項について整理する。

アの第一番目の画像に、麺全体にナポリタンソースが絡んだ状態のスパゲティが開示されていることからみて、甲6に記載の「マ・マー ソテースパゲティ ナポリタン」は、麺全体にナポリタンソースが絡んだ状態で食に供されるナポリタン風スパゲティである。そうすると、甲6において麺を電子レンジで加熱解凍し皿に移した後食に供される際、ナポリタンソースをスパゲティ全体に絡ませることは明らかである。
アの第二番目及び三番目の画像において、麺は赤く色づいているものといえる、また、アの第二番目の画像において、袋に収容された麺がナポリタンソースで上掛けされ、ナポリタンソースが上掛けされた状態のまま冷凍されていることは明らかである。
してみると、甲6には以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲6発明>
「麺全体にナポリタンソースが絡んだ状態で食に供されるナポリタン風スパゲティの製造方法であって、スパゲティをソテーして赤く色づいた麺として袋に収容し、これにナポリタンソースを上掛けし、ナポリタンソースが上掛けされた状態のまま冷凍し、これを電子レンジで加熱解凍した後、ナポリタンソースをスパゲティ全体に絡ませるナポリタン風スパゲティの製造方法。」

(2)本件特許発明について
ア 対比
本件特許発明と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「スパゲティをソテー」とは茹でたスパゲティを少量の油で炒めることであり、該ソテーにより、茹でたスパゲティは油で被覆されるものといえる。そうすると、甲6発明の「スパゲティをソテー」は、本件特許発明の「スパゲティを冷凍する前に、茹でたスパゲティを油で被覆し」に相当する。

そうすると、本件特許発明と甲6発明とは、
「麺全体にナポリタンソースが絡んだ状態で食に供されるナポリタン風スパゲティの製造方法であって、スパゲティを冷凍する前に、茹でたスパゲティを油で被覆し容器又は袋に収容して、そのスパゲティにナポリタンソースを上掛けし、ナポリタンソースが上掛けされた状態のまま冷凍し、これを電子レンジで加熱解凍した後、ナポリタンソースをスパゲティ全体に絡ませるナポリタン風スパゲティの製造方法。」
である点で一致し、以下の点(以下、「相違点3」という。)で相違する。

<相違点3>
スパゲティを油で被覆する際に、本件特許発明では4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%用いているのに対し、甲6発明では油として「4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%」用いているかが不明である点。

イ 判断
上記相違点3について検討する。

甲6の記載及び他の証拠を見ても、甲6発明において油として4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%使用することは記載も示唆もされていないし、甲6発明において油として4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%使用する動機付けもない。
そして、本件特許発明は、4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合した油を茹でたスパゲティに対して被覆することで、レンジによる色調むらが発生し難いという、甲6発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。

したがって、本件特許発明は、甲6発明並びに甲6及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

6 申立理由6(甲8に基づく進歩性)について
(1)甲8に記載された事項等
ア 甲8に記載された事項
甲8には、おおむね次の事項が記載されている。
・「【請求項1】
乳化剤、多価アルコール及び水を以下の(A)、(B)の条件で配合し、
(A)多価アルコール100質量部に対するHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの質量割合は乾物換算で8〜35質量部、
(B)水の質量割合はHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルの場合は、デカグリセリン脂肪酸エステルと多価アルコールと水の合計の29.0質量%〜61.0質量%、HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの場合は、HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルと多価アルコールと水の合計の41.0質量%〜71.0質量%、デカグリセリン脂肪酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを同時に使用する場合は、それぞれの配合割合による前記それぞれの水の配合割合の平均値、
前記配合物をよく混合し60〜70℃に温めた後、油脂の配合量が高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながら油脂を徐々に加え乳化した電子レンジ解凍調理済み冷凍麺用高油分乳化油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電子レンジ解凍調理済み冷凍麺用高油分乳化油脂組成物を含む電子レンジ解凍調理済み冷凍麺和え用ソース。
【請求項3】
請求項1に記載の電子レンジ解凍調理済み冷凍麺用高油分乳化油脂組成物を付着した電子レンジ解凍調理済み冷凍麺。」

・「【実施例】
【0014】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1〜3、比較例1〜15]乳化剤の種類
多価アルコール水溶液(日研化成株式会社製、商品名:ソルビトールF)12.5質量部(70質量%水溶液に調整、乾物換算8.75質量部)と表1に示す乳化剤7.5質量部(40質量%水溶液に調整、乾物換算3質量部)を鍋で60〜70℃に加温した後、カッターミキサー(フォアベルク社製、商品名:サーモミックス)に移し、攪拌(1000〜1500min−1)しながらサラダ油80質量部を少しずつ添加し、高油分乳化油脂組成物を調製した。
【0015】
【表1】

【0016】
得られた高油分乳化油脂組成物を、茹でて冷却したスパゲッティ100質量部に5質量部加えた後よく混合し、−30℃の冷凍庫で凍結した後、−20℃の冷凍庫で保管中1日7回3分間冷凍庫の扉を開放する条件で1ヶ月間保管した後、500Wの電子レンジで3分加熱し、以下の条件で官能試験をパネラー10名によって行った。」

イ 甲8に記載された発明
アの事項を特に実施例1について整理すると、甲8には以下の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されていると認められる。

<甲8発明>
「スパゲッティの製造方法であって、サラダ油を含む高油分乳化油脂組成物を、茹でて冷却したスパゲッティ100質量部に5質量部加えた後、よく混合し、凍結、保管した後、電子レンジで加熱する方法。」

(2)本件特許発明について
ア 対比
本件特許発明と甲8発明とを対比する。
甲8発明の「サラダ油を含む高油分乳化油脂組成物を、茹でて冷却したスパゲッティ100質量部に5質量部加えた後、よく混合し、凍結、保管した」なる工程は、スパゲティを容器又は袋に収容した状態で行われていることは明らかである。また、該工程における混合工程の際、サラダ油がスパゲティを被覆した状態となるものといえる。
甲8発明で使用された高油分乳化油脂組成物にはサラダ油80質量部が含まれるから、甲8発明の「サラダ油を含む高油分乳化油脂組成物を、茹でて冷却したスパゲッティ100質量部に5質量部加えた」なる工程において加えられるサラダ油は、茹でたスパゲティに対し4質量%であるといえる。
以上より、甲8発明の「サラダ油を含む高油分乳化油脂組成物を、茹でて冷却したスパゲッティ100質量部に5質量部加えた後、よく混合し、凍結、保管した」は、本件特許発明の「スパゲティを冷凍する前に、茹でたスパゲティをサラダ油で被覆し容器又は袋に収容して冷凍し」に相当する。

そうすると、本件特許発明と甲8発明とは、
「スパゲティの製造方法であって、スパゲティを冷凍する前に、茹でたスパゲティをサラダ油で被覆し容器又は袋に収容して冷凍し、これを電子レンジで加熱解凍する、スパゲティの製造方法。」
である点で一致し、以下の点(以下、「相違点4−1」ないし「相違点4−4」という。)で相違する。

<相違点4−1>
本件特許発明が「麺全体にナポリタンソースが絡んだ状態で食に供されるナポリタン風スパゲティの製造方法」であるのに対し、甲8発明はナポリタン風スパゲティではない点。

<相違点4−2>
本件特許発明では「4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油(色素油)のみを1〜2質量%、茹でたスパゲティに対して被覆」しているのに対し、甲8発明では、サラダ油に4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合していない点。

<相違点4−3>
茹でたスパゲティに対するサラダ油の使用量が、本件特許発明では1〜2質量%であるのに対し、甲8発明では4質量%である点。

<相違点4−4>
本件特許発明では「そのスパゲティにナポリタンソースを上掛けし、ナポリタンソースが上掛けされた状態のまま冷凍し」、「加熱解凍した後、ナポリタンソースをスパゲティ全体に絡ませる」のに対し、甲8発明では、ナポリタンソースを上掛けすることや、加熱解凍した後ナポリタンソースをスパゲティ全体に絡ませることを行っていない点。

イ 判断
事案に鑑み、まず上記相違点4−2について検討する。

甲8の記載及び他の証拠を見ても、甲8発明においてサラダ油に4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合することは記載も示唆もされていないし、甲8発明においてサラダ油に4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合する動機付けもない。
そして、本件特許発明は、4万ColorValueパプリカ色素を1〜3質量%配合したサラダ油を茹でたスパゲティに対して被覆することで、レンジによる色調むらが発生し難いという、甲8発明並びに甲8及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができる範囲を超えた顕著な効果を奏するものである。

したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲8発明並びに甲8及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-11-18 
出願番号 P2018-153100
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 三上 晶子
加藤 友也
登録日 2022-02-16 
登録番号 7026024
権利者 株式会社ニップン
発明の名称 調理麺の製造方法  
代理人 田所 義嗣  

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