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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 B32B |
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管理番号 | 1392102 |
総通号数 | 12 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-12-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-08-27 |
確定日 | 2022-12-09 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7026414号発明「金属光沢を有する紙」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7026414号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7026414号(以下、「本件特許」という。)の請求項1及び2に係る特許についての出願は、令和2年10月9日の出願であって、令和4年2月17日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、同年8月27に、その特許に対し、東京製紙株式会社及び旭日工業株式会社(以下、「申立人ら」という。)により全ての請求項に対して本件特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件特許発明1」等という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 アルミニウム蒸着層を有するセロファンフィルムに60〜90N/mの張力をかけながら、該アルミニウム蒸着層側に水系接着剤を固形分で3.0〜5.0g/m2となるように塗布し基紙とを密着させ、更にフィルム側にプライマー層を設けた後90℃以下で接着剤層及びプライマー層を乾燥形成するセロファン蒸着貼合紙の製造方法。 【請求項2】 基紙が米坪250〜400g/m2、厚み250μm〜500μmである、ノーコート紙又はコート紙である請求項1に記載のセロファン蒸着貼合紙の製造方法。」 第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和4年8月27日に申立人が提出した特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は以下のとおりである。 1 申立理由(甲第1号証に係る特許出願に基づく拡大先願) 本件特許の請求項1及び2に係る発明は、本願の出願の日前の特許出願であって、本願出願後に出願公開がされた甲第1号証に係る特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその出願の日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本願の出願の時にその出願人と上記特許出願の出願人とが同一でもないから、同発明に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 証拠方法 甲第1号証:特願2020−71372号(特開2021−167089号) 甲第2号証:最新ラミネート加工便覧、加工技術研究会、1989年6月30日発行、p.188 第4 当審の判断 1 理由(拡大先願)について (1)先願 ア 先願明細書等に記載された事項 先願明細書等(甲第1号証)には、以下の記載がある(下線は参考のため当審が付した。)。 「【請求項1】 原紙に、光沢をもつ金属蒸着層を一面に有する蒸着セロハンを貼合してなる蒸着セロハン貼合紙において、 セロハンの非金属蒸着面またはセロハンの非金属蒸着面および金属蒸着面形成側の面に防湿コート層を施してなり、原紙と前記蒸着セロハンとがウェットラミネートによる水系接着剤層にて貼合してなり、前記セロハンの非蒸着面側の防湿コート層の上にプライマーコート層を設けたことを特徴とする蒸着セロハン貼合紙。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、パッケージやカタログ、パンフレット、書籍、ファンシー用品、トレーディングカード、文具などに使用される、強光沢感を有する包装用紙、印刷用紙、加工用紙などの意匠紙に関するものであり、より詳しくは、アルミニウムなどの光沢をもつ金属を蒸着したセロハンを原紙と貼合してなる蒸着セロハン貼合紙において、蒸着セロハンの蒸着面を原紙側にして貼合した貼合紙に関するものである。 【背景技術】 【0002】 この種の強光沢感を有する意匠紙においては、従来、原紙にアルミニウム蒸着したPETフィルムが貼合された蒸着PET貼合紙が使用されてきた。 PETフィルムは強度や加工性に優れ、その蒸着フィルムは光沢度も高く、接着性も良好なことから広く使用されている。しかしながら、昨今では、環境への配慮から、このPETフィルム部分を環境に配慮した素材に変更することが望まれている。 その一つの方策として、ポリビニルアルコールフィルムにアルミニウムを蒸着したフィルムを原紙と貼合した蒸着PVA貼合紙が提案されている(特許文献1)。該特許では、ポリビニルアルコールは水に溶けるので、廃棄処理が容易で、再生可能であって環境にやさしい素材となる効果を奏するというものである。 しかしながら、ポリビニルアルコールは、フィルム状態では熱水には可溶であるが、常温の水には溶解しにくく、産業的な再生工程では、PETフィルムなどと同様に、パルプ繊維を取り除いた残渣として分離され、焼却処分されることとなる。又、ポリビニルアルコールは石油由来の原料であり、焼却した場合は炭酸ガスを放出し、環境面では温室効果ガスを増大させることになってしまう。 これに対し、本発明者等は、天然物由来原料であるセロハンに着目した。セロハンは、植物由来のセルロースを基にして生産されており、将来的な石油資源の枯渇対策において有効な素材であるとされる。又、回収した紙製品を再生し、パルプ繊維を分離する工程の残渣として焼却したとしても、発生する炭酸ガスはもともと植物原料のセルロースから発生するため、原料面ではカーボンニュートラルに近づけることができる。 しかしながら蒸着セロハンは、他の蒸着PETフィルムなどと比べて、蒸着層と基材セロハンの密着強度が低調で、原紙と蒸着面とを接着剤で貼合した場合に、容易にセロハンのみが剥離してしまう場合があるという問題もあった。 この場合、パッケージなどを成型した際に罫線部分でセロハンの剥離がおこるとパッケージそのものの強度低下をおこしてしまい、また、サック貼り部分で剥離が発生すると、パッケージ形態を保てなくなってしまう場合もあった。さらには、その前の工程である裁断時や打抜き工程で剥離が発生すると、その後の加工ができなくなってしまうという問題があった。 一方、原紙と非蒸着面とを接着剤で貼合した場合においては、上記のような剥離は発生しないことになるが、やはり蒸着層の密着が低調なために、蒸着面の上にプライマーコートを行っても、十分な耐磨性が得られずに擦れ傷が発生することがあったり、蒸着層と原紙裏面とのブロッキングで、蒸着層取られが発生する場合があるという問題があった。又、非蒸着面に防湿コートが施されたセロハンを用いると、接着剤と防湿コート間の接着が低調であったり、防湿コート層とセロハンとの界面で?(当審注:ママ)れが発生してしまうこともあった。 一般的な蒸着フィルムを貼合した貼合紙においては、蒸着フィルムの蒸着面を原紙側にするか、反対面にするかは、ユーザーの趣向により決定される。意匠的により強い光沢感を求める場合は蒸着面を原紙と反対面とし、擦れ傷などを目立ちにくくしたい場合は蒸着面を原紙側とする構成を選択する。 他にも、蒸着防湿コートセロハンにおいては、原紙との接着工程やその後のプライマーコート工程などにおいて、乾燥炉で加熱されると虹発色を呈し、本来の金属光沢を変質させてしまう場合があった。逆にプライマーコート工程で熱量が不足したりすると、プライマーコート面の曇りが発生し、金属光沢の輝度感を損ねてしまう場合があり、更にはプライマーコート層と防湿コート層の密着が低下し、後加工の印刷適性や糊貼り適性を損なうおそれがあるという問題点があった。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明の目的は、環境に配慮した部材を用いた強光沢の意匠紙の開発であり、原紙と蒸着セロハンと蒸着面を紙側にして接着剤で貼合した構成の場合において、セロハンの欠点である湿度による強度低下や寸法不安定化を抑止し、金属蒸着の輝度感の変質と光沢感の低下を防止すると共に、後加工の印刷適性や糊貼り適性を有し、セロハンの接着強度を保持し、剥離を発生させにくくした蒸着セロハン貼合紙を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、原紙に、光沢をもつ金属を蒸着したセロハンを貼合してなる蒸着セロハン貼合紙において、該セロハンの少なくとも非蒸着面に防湿コートを施したものを使用し、原紙と蒸着セロハンの蒸着面とを水系接着剤にてウェットラミネート法にて貼合しており、非蒸着面にプライマーコート層を設けたことを特徴とする蒸着セロハン貼合紙により、上記の課題を解決できることを見出した。 又、水系接着剤が、ノニオン又はカチオン性のイオン性を有し、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル共重合体、もしくはそのいずれかを成分として含む樹脂エマルジョン接着剤であることを特徴とすることで、原紙と蒸着の密着性に有効であり、紙層破壊となり、セロハンの剥離を防止するのにより効果を発揮することを見出した。 更に、水系接着剤の固形分濃度が30〜60%であり、B型粘度計で700〜2500mPa・sの粘度であり、エマルジョン塗布量3〜20g/m2であることを特徴とすることで、蒸着セロハンの防湿コート層の密着を保持し、セロハンの剥離を防止するのに更に有効であることを見出した。 一方、プライマーコート層としては、樹脂成分としてポリエステルを含有し、かつ固形分濃度10〜25%の濃度であり、粘度がザーンカップ(以下、Z.C.と記すことがある)NO.3で11〜30秒の塗液であり、溶液塗布量2〜15g/m2であることを特徴とすることで、プライマーコート層の密着強度と後加工の印刷適性や糊貼り適性を保持しつつ、蒸着フィルムの輝度感の低下を抑えることを可能にした。 蒸着防湿コートセロハンの本来の金属光沢の変質に対しては、貼合紙の製造工程中の各乾燥炉の乾燥温度を50〜110℃で、乾燥炉の通過時間の合計を30秒以内とすることで解決した。」 「【0009】 [原紙] 本発明において、基材となる原紙6としては、基本的には針葉樹パルプや広葉樹パルプを原料として抄造してなるものであるが、メカニカルパルプや非木材パルプ、段ボールや雑誌,新聞などを使用した古紙原料、ミルクカートン古紙、その他の回収紙や場内損紙を原料としたり、これらを適宜配合して用いたものであってもよい。 また、単層抄きの洋紙であっても、多層抄きの板紙であってもよい。 【0010】 板紙の場合は、全層をバージンパルプ原料から抄造するアイボリー質、古紙や着色パルプ,未晒パルプなどを中層に用いたカード質、表層以外を古紙としたボール質、全層を古紙としたものであってもよい。 原紙の片面または両面には、炭酸カルシウムやカオリンなどをコートしたものを用いてもよく、コート紙やアート紙、キャストコート紙、微塗工紙などが平滑性がよいため、より好適に用いられる。 【0011】 原紙6の坪量としては、使用用途に応じて任意に設定することができ、例えば、印刷用紙として使用する場合は200g/m2以下の比較的薄い原紙が好ましく使用される。また、例えば、パッケージ用途においては、150〜400g/m2程度の比較的厚い原紙が使用でき、使用形態に応じて選定すればよく、特に制約はない。 また、ポリエチレンやポリプロピレンを用いた合成紙、それに無機材料や着色顔料などを添加したものなども使用することもできる。ただし、環境的な側面からは植物原料からなる原紙を用いた方が好ましい。 【0012】 [セロハン] 本発明において使用する蒸着セロハンの基材となるセロハン3は、パルプなどのセルロース原料を水酸化ナトリウムなどで溶解してビスコース化し、これをシート状にして中和させ、セルロースに戻したものである。無色のものが広く使用されているが、着色剤を添加して着色したものでもよく、必要に応じて滑剤や帯電防止剤など、種々の添加剤が使用されていてもよい。」 「【0014】 [防湿コート層] 本発明においては、少なくとも非蒸着面に防湿コートを施したものを使用する必要がある。防湿コート層2は、非蒸着面のみに設けても、蒸着面を含めた両面に設けてもよい。 少なくとも非蒸着面に防湿コート層2を設けることにより、原紙と蒸着セロハンを貼合した後にセロハン3の吸放湿を防止して、セロハン3の寸法変化や歪の発生を抑制することができる。 【0015】 防湿コート層2の面側を原紙6とは反対側にして貼合するため、防湿コート層2が貼合紙の表面側に配置されることになり、貼合紙や後加工した製品が置かれた湿度環境によるカールや、寸法変化によるねじれなどの発生を防止する効果がある。」 「【0017】 [金属蒸着層] このようにして得られた防湿コートしたセロハンの少なくとも片面には光沢をもつ金属蒸着層4を加工する。防湿コートを施した面が片面の場合は防湿コート層の無い面に蒸着を行い、両面に防湿コートを施した場合は任意の片面に蒸着を行う。必要であれば、両面に蒸着を施してもよい。 蒸着に用いる金属としては、アルミニウムのほか、錫、銅、金、銀、亜鉛、クロム、ニッケル、プラチナなどを用いることができるが、経済面と入手や蒸着加工の容易さなどから、アルミニウム、錫、銅が比較的よく用いられる。 【0018】 蒸着層4の厚さとしては、10〜500nmのものが好適である。10nmより薄い場合は十分な金属光沢が得られず、遮蔽力もないため、原紙6が透けてしまい、強光沢の意匠性が得られない。一方、500nmを超える場合は、蒸着膜の柔軟性が低下し、ひび割れや凝集破壊を起こしやすくなるとともに、蒸着工程に手間がかかり、経済面で非常に高価なものとなり、実用性に欠けるものとなってしまう。 【0019】 この蒸着による金属光沢の付与は、単に蒸着を施して強光沢を発現する一般的な蒸着フィルムの製法で行えばよく、エンボス加工などと組み合わせて、ホログラムフィルムやレンズフィルムとして製造してもよい。また、2種以上の金属を用い、それを混合して蒸着したり、2層以上の蒸着層を設けてもよい。 なお、先にこの蒸着工程を行い、その後に前述の防湿コート層を設ける加工順をとることもできる。 【0020】 [ウェットラミネート] 上記のようにして作成された蒸着セロハンは、本発明においては、ウェットラミネートにより原紙に積層するが、この際、前記蒸着層を原紙側に配して接着剤により貼合するものである。 ドライラミネート法によっても接着させることは可能ではあるが、ドライラミネート法では、通常、硬化剤を接着剤に配合して用いるため、接着剤層が固い層となり、後に図3に示すように、蒸着層とセロハンの界面で剥離が起こりやすくなってしまうことがある。 これは、前記の蒸着セロハンでは、蒸着層とセロハンとの密着強度がアルミニウムなどを蒸着したPETフィルムなどと比較して低調となっているためである。 【0021】 蒸着層4とセロハン3の間に防湿コート層2が介在しても、防湿コート層2とセロハン3との密着強度が同様に比較的低調であるため、結果として同じ現象が発生する。 これに対し、ウェットラミネート法では、接着剤層5はドライラミネート用接着剤に対して柔軟性がある。このため、セロハンを剥がそうとしても接着剤層5に伸びと粘りがあり、セロハン3と蒸着層4との剥がれを防止することができる。 ウェットラミネートに用いられる接着剤には水分が大量に含まれるが、蒸着層4があるためにその水分がセロハン3に到達するのを防止することができ、蒸着層4とセロハン3の間に防湿コート層2が介在すると、その水分遮断効果はより大きなものとなる。 【0022】 [水系接着剤層] 水系接着剤層5としては、ノニオン又はカチオン性のイオン性を有し、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル共重合体、もしくはそのいずれかを成分として含む樹脂エマルジョン接着剤を用いることで、十分な接着力を得られる。一方で非エマルジョン接着剤の場合は、接着力が不十分となる。 水系接着剤で使用される樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体などを含むものが好適に使用できる。 イオン性についてはカチオン性或いはノニオン性を有することを特徴とすることで、接着剤層5と原紙6の密着性に優れ、紙層破壊となり、セロハン3と蒸着層4の界面剥離を防止するのに更に有効である。 【0023】 接着剤層5のイオン性がアニオン性の場合、蒸着層4と密着させると金属と接着剤の密着が強くなりすぎるため、やはり、図3に示すように、セロハン3と金属蒸着間で剥がれてしまい、構成的に十分な接着状態となりにくい。 本発明のセロハンに使用する水系接着剤は固形分濃度が30〜60%であり、B型粘度計で700〜2500mPa・sであり、エマルジョン塗布量が3〜20g/m2であることが望ましい。また適宜、消泡剤や硬化剤などを添加してもよい。 【0024】 固形分濃度が30%未満だとセロハン面への濡れ性が悪くなり、十分な接着力が得られにくくなり、固形分濃度が60%を超えると、接着剤として不安定となり、そもそも使用できない。 水系接着剤の粘度については、B型粘度計で700mPa・s未満とするとコーターのロール上に接着剤が載らず、セロハンへの転移量が減少し、接着に必要な塗布量を確保できなくなる。 【0025】 一方、2500mPa・sを超えると、セロハン3への均一な塗布が難しくなり、部分的に膨れの発生が始まってしまうので、金属蒸着の鏡面の面感が悪くなる場合があり、好ましくない。 エマルジョン塗布量については、3g/m2未満であると、接着力が発現されず、十分な接着力を得られ難い。又、エマルジョン塗布量が20g/m2より多いと乾燥が不十分となり、後工程に耐えられない可能性がある。 【0026】 [プライマーコート層] 防湿コート面上には、後工程の印刷適性や糊貼り適性を好適にするため、プライマーコート層1を設ける。 このプライマーコート層1は樹脂成分としてポリエステルを含有し、かつ溶液の固形分濃度が10〜25%の濃度であり、粘度がZ.C.NO.3で11〜30秒であり、溶液塗布量2〜15g/m2であることが望ましい。 【0027】 プライマーコート層1にポリエステルを主成分とするアンカー剤を使用することで、プライマーコート層1と防湿コート層2の間にはたらく結合力が強まり、密着が強固となる。 プライマーコート層1へは必要に応じて滑り性を向上剤、静電気除電剤、硬化剤、皮膜補強剤、回収凝固防止剤などへ樹脂成分に対して、適宜、添加してもよく、任意の色調に着色したものであってもい。 又、プライマーコート層1の溶液の樹脂固形分濃度については、10%未満であると後工程の印刷適性の性能が発現されないことがあり、又、プライマーコート層1の耐磨性が不足し、擦れ傷が発生しやすくなる。」 「【0037】 蒸着セロハン上にプライマー溶液塗工を実施する場合の塗布方式としては、グラビアコーター、ロールコーター、グラビアリバースコーターなど任意の方法を用いることができる。その後、溶液塗工後の乾燥炉を通過し、裏面のコートを実施後、更に乾燥炉を通過する。 貼合紙の裏面にカール防止加工を行う必要がある場合においては、その方法については前述した任意の加工方式を採用することができる。 【0038】 上記の製造工程においては、乾燥炉を通過する工程は、貼合工程通過後の乾燥炉と蒸着セロハン上のプライマー溶液塗工通過後の乾燥炉の2セクションあり、裏面にカール防止コートを採用した場合にはその乾燥炉を含めると3セクションとなる。 【0039】 [乾燥炉セクション] 本発明に用いる蒸着防湿コートセロハンは熱履歴に敏感であり、乾燥炉で加熱されると虹発色を呈し、本来の金属光沢を変質させてしまう場合がある。このため、上記のような乾燥炉セクションの条件設定に注意を要する。 本発明においては、熱風乾燥機を使用する際は全ての乾燥炉セクションの乾燥温度を50〜110℃の範囲とし、全セクションの乾燥炉通過時間の合計を30秒以下とすることが好ましい。 【0040】 温度を110℃より高くしたり、通過時間の合計が30秒を超過すると、セロハン表面に虹発色が生じて本来の金属光沢の意匠を損なってしまう場合がある。 更に望ましくは100℃以下とするとより好ましい。 赤外線ヒーターなどで乾燥させる場合も、貼合紙の表面温度が上記範囲を超えないようにするのが好ましい。 又、ドラム式の接触乾燥機を用いる場合は、貼合紙の表面温度を50℃〜85℃とし、接触時間を3秒以内とするとよい。 【0041】 各セクションの乾燥温度の下限は50℃であるが、この温度を下回ると、いずれの工程においても接着不良などの問題が発生する場合がある。 特にプライマーコート工程で熱量が不足すると、プライマーコート面の曇りが発生し、金属光沢の輝度感を損ねてしまう場合があり、更にはプライマーコート層と防湿コート層の密着が低下し、後加工の印刷適性や糊貼り適性を損なうおそれがある。又、貼合紙の表裏の接触でブロッキングが発生してしまう場合があり好ましくない。」 イ 先願明細書等に記載されると認められる事項 先願明細書等に記載される水系接着剤は、その「固形分濃度が30〜60%であり、・・・、エマルジョン塗布量3〜20g/m2である」から、塗布量は、固形分で3g/m2の30%である0.9g/m2を下限とし、20g/m2の60%である12g/m2を上限とするものと認められる。 ウ 先願明細書等に記載された発明 以上の記載を総合すると、先願明細書等には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。 「アルミニウムの蒸着層(4)を有する蒸着セロハンに、該アルミニウムの蒸着層(4)側に水系接着剤を固形分で0.9〜12g/m2となるように塗布し原紙(6)とを密着させ、更にセロハン側に防湿コート層(2)を設け、当該防湿コート層(2)上にプライマーコート層(1)を設けた後50から85℃で接着剤層及びプライマーコート層(1)を乾燥形成するセロハン蒸着貼合紙の製造方法」 (2)本件特許発明1について ア 対比 先願発明の「アルミニウムの蒸着層(4)」、「蒸着セロハン」、「水系接着剤」、「原紙(6)」、「プライマーコート層(1)」、「セロハン蒸着貼合紙」は、その機能、構造又は技術的意義を考慮してみると、本件特許発明1の「アルミニウム蒸着層」、「アルミニウム蒸着層を有するセロファンフィルム」、「水系接着剤」、「基紙」、「プライマー層」、「セロファン蒸着貼合紙」に、それぞれ相当する。 また、先願発明は「セロハン側に防湿コート層(2)を設け、当該防湿コート層(2)上にプライマーコート層(1)を設けた」態様であるが、この態様は、「セロハン側にプライマーコート層(1)を設けた」と態様といえる。 そうすると、本件特許発明1と先願発明とは、 「アルミニウム蒸着層を有するセロファンフィルムに、該アルミニウム蒸着層側に水系接着剤を固形分で3.0〜5.0g/m2となるように塗布し基紙とを密着させ、更にフィルム側にプライマー層を設けた後90℃以下で接着剤層及びプライマー層を乾燥形成するセロファン蒸着貼合紙の製造方法」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> アルミニウム蒸着層を有するセロファンフィルムに水系接着剤を塗布し基紙を密着させる際に、本件特許発明1では「60〜90N/mの張力をかけながら」行うのに対し、先願発明ではそうではない点。 <相違点2> セロファンフィルムに塗布する水系接着剤について、本件特許発明1では「固形分で3.0〜5.0g/m2となるように塗布」するのに対し、先願発明では「固形分で0.9〜12g/m2となるように塗布」する点。 イ 判断 先ず上記相違点1について、検討する。 ここで、申立人が提出した甲第2号証には、紙あるいは板紙を主材として、二軸延伸されたPET、ナイロンあるいはPPを副材として、それぞれの場合において「適正張力」が記載されているものの、甲第2号証にはセロファンについての記載はない。 一方、本件特許発明1は相違点1に係る構成を採用することで、基紙とセロファンとを水系接着剤を介して圧着し加熱するときにセロファンにシワが入りにくくなるという美粧性の観点、及びセロファンが切れにくくなるという、適切な貼合の観点からみて新たな効果を奏するものである(【0014】)から、相違点1は単なる課題解決のための具体化における設計上の微差ということもできない。 以上のことから、相違点1は実質的な相違点である。 以上から、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は先願発明と同一あるいは実質同一であるとはいえない。 (3) 本件特許発明2について 本件特許発明2は、第2で示したとおり、本件特許発明1を引用して限定した発明である。したがって、本件特許発明2は、上記エで示した理由と同じ理由により、先願発明と同一ではない。 2 小括 したがって、本件特許発明1及び本件特許発明2は、先願発明と同一であるとはいえない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1及び2に係る特許は、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-11-29 |
出願番号 | P2020-171049 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
Y
(B32B)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
久保 克彦 |
特許庁審判官 |
中野 裕之 山崎 勝司 |
登録日 | 2022-02-17 |
登録番号 | 7026414 |
権利者 | 五條製紙株式会社 |
発明の名称 | 金属光沢を有する紙 |
代理人 | 西 良久 |
代理人 | 山田 泰之 |
代理人 | 西 良久 |