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審決分類 審判 全部申し立て 特39条先願  A63F
審判 全部申し立て 特174条1項  A63F
管理番号 1392104
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-30 
確定日 2022-12-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第7034622号発明「遊技機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7034622号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7034622号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年7月25日に出願した特願2017−144003号であって、令和4年3月4日にその特許権の設定登録がされ、同年同月14日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、同年8月30日に特許異議申立人日本電動式遊技機特許株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、符号A等は、分説するため当審で付した。分説された本件特許発明の発明特定事項を、符号に基づき以下、「発明特定事項A」等という。

「【請求項1】
A 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 特定事象の発生に関連して報知音を継続して出力する制御を行う制御手段を備え、
C 前記制御手段は、
D 報知音を出力するときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを設定する第1音量設定手段と、
E 報知音の出力から所定時間が経過するたびに前記特定事象が解除されているか否かを判定する判定手段と、
F 前記判定手段により特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを再度設定する第2音量設定手段と、を含む、
G 遊技機。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、証拠方法として甲第1号証から甲第4号証を提出し、本件特許に対し次の理由を申し立てている。

1 理由1
本件特許に係る出願は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(甲第1号証)に記載した事項の範囲内においてした補正以外の補正(甲第2号証及び甲第3号証)がされたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許は、同法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

2 理由2
本件特許の請求項1に係る発明は、同日出願された特許第6777600号の請求項1に係る発明(甲第4号証)と同一であり、かつ、当該出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

3 証拠方法
(1)甲第1号証(特開2019−54931号公報)
本件特許第7034622号に係る願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面

(2)甲第2号証(本件特許第7034622号に係る出願についての令和3年3月5日提出の手続補正書)
本件特許第7034622号に係る出願についての令和3年3月5日提出の手続補正書

(3)甲第3号証(本件特許第7034622号に係る出願についての令和3年3月5日提出の意見書)
本件特許第7034622号に係る出願についての令和3年3月5日提出の意見書

(4)甲第4号証(特許第6777600号公報)
特許第6777600号の特許請求の範囲、明細書及び図面

第4 当審の判断
1 理由1について
(1)申立人の証拠方法について
申立人は、証拠方法として甲第1号証から甲第3号証を提出し、本件特許に対し理由1(新規事項)を申し立てている。
しかしながら、申立人が「本件特許第7034622号に係る願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面」の証拠方法として添付した甲第1号証(特開2019−54931号公報)は、本件特許第7034622号についての出願(特願2017−144003号)の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面を示すものではなく、特願2017−179910号の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面を示すものである。
したがって、申立人の証拠方法では、本件特許における手続補正書でした補正が新規事項を追加することを認めることはできない。

ただし、以下では、職権により、本件特許における手続補正書でした補正が新規事項を追加するか否かを検討する。

(2)補正事項
本件特許における令和3年9月10日提出の手続補正書でした補正は、明細書、特許請求の範囲において、以下の補正事項を有する。

ア 補正事項1
願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、請求項1に「報知音を出力するときに、報知音の音量を特定音量に設定する第1音量設定手段」及び「前記判定手段により特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の音量を特定音量に設定する第2音量設定手段」と、【0007】に「報知音を出力するときに、報知音の音量を特定音量(例えば、最大音量等)に設定する第1音量設定手段(例えば、図6のタイミングT1での報知開始設定、図8のステップS03での報知開始設定等)」及び「前記判定手段により特定事象が解除されていないと判定されたとき(例えば、ステップS08で否定判定等)に、報知音の音量を特定音量に設定する第2音量設定手段(例えば、図6のタイミングT2、T3での報知開始設定、図8のステップS09での報知開始設定等)」と、記載されていたところ、これらの記載は、令和3年3月5日提出の手続補正書でした補正を介して、令和3年9月10日提出の手続補正書でした補正により、請求項1は「報知音を出力するときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを設定する第1音量設定手段」及び「前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを再度設定する第2音量設定手段」に、【0007】は「報知音を出力するときに、報知音の音量を最大音量(例えば、最大音量等)とするように音量データを設定する第1音量設定手段(例えば、図6のタイミングT1での報知開始設定、図8のステップS03での報知開始設定等)」及び「前記判定手段により特定事象が解除されていないと判定されたとき(例えば、ステップS08で否定判定等)に、報知音の音量を最大音量とするように音量データを再度設定する第2音量設定手段(例えば、図6のタイミングT2、T3での報知開始設定、図8のステップS09での報知開始設定等)」に、補正された(下線は、当審で付した。以下同様。)。

(3)補正事項1について
ア 補正事項1に対する判断
当初明細書等には、以下の記載がある。
「【0035】
1つめのコマンドパラメータは、チャネルのボリュームを設定する音声設定コマンドパラメータである。本実施形態では、ボリュームとして最小値0から最大値100までを設定可能である。……」
「【0054】
図5(a)は、報知開始設定時のコマンドパラメータの設定内容を示す図である。報知開始設定時とは、特定事象の発生に関連して報知音を継続して特定音量で出力するタイミングである。図5(a)に示されるように、全チャネルに対して、音声設定コマンドパラメータが設定され、さらにチャネル8に対しては出力開始コマンドパラメータが設定されている。
【0055】
音声設定コマンドパラメータによって、チャネル8に対応する報知音の音量を特定音量である100に設定する一方で、チャネル1〜7に対応する音声の音量を0に設定する。……」
「【0070】
図8は、遊技機1のCPUにより実行される音声制御に処理を示すフローチャートを示す図である。CPUは、特定事象が発生したか否かを判定する(ステップS01)。特定事象が発生した場合には(ステップS01:YES)、CPUは、特定事象に対応する所定時間Taを取得する(ステップS02)。ここでは、所定時間s1〜s6のうち、特定事象に対応する所定時間を取得する。CPUは、上述した報知開始設定を行う(ステップS03)。……
【0071】
ステップS01において、特定事象が発生していない場合には(ステップS01:NO)、CPUは、タイマTaがタイムアウトしたか否かを判定する(ステップS07)。タイマTaがタイムアウトした場合には(ステップS07:YES)、CPUは、特定事象が解除したか否かを判定する(ステップS08)。特定事象が解除されていない場合には(ステップS08:NO)、CPUは、報知開始設定を行い(ステップS09)、……」
「【図5】


「【図8】


【0035】、【0054】、【0055】及び図5の記載から、当初明細書等には、報知開始設定時に、チャネル8に対応する報知音の音量を最大値である100とするように音声設定コマンドパラメータを設定することが記載されているといえる。ここで、「音声設定コマンドパラメータ」は、「チャネル8に対応する報知音の音量を最大値である100とするように」「設定」されるものであるから、本件特許発明の「報知音の音量を最大音量とするように」「設定」される「音量データ」に対応する。
また、【0070】、【0071】及び図8の記載から、当初明細書等には、特定事象が発生した場合に、報知開始設定を行うステップS03、及び、特定事象が発生していない場合であって、特定事象が解除されていないときに、再度、報知開始設定を行うステップS09が、記載されているといえる。
そうすると、当初明細書等には、特定事象が発生した場合(本件特許発明の「報知音を出力するとき」に対応する。)に、チャネル8に対応する報知音の音量(本件特許発明の「報知音の音量」に対応する。)を最大値である100(本件特許発明の「最大音量」に対応する。)とするように音声設定コマンドパラメータ(本件特許発明の「音量データ」に対応する。)を設定するステップS03(本件特許発明の「第1報知音指定手段」に対応する。)、及び、特定事象が発生していない場合であって、特定事象が解除されていないとき(本件特許発明の「前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたとき」に対応する。)に、再度、チャネル8に対応する報知音の音量を最大値である100とするように音声設定コマンドパラメータを設定するステップS09(本件特許発明の「第2報知音指定手段」に対応する。)が、記載されているといえる。
したがって、当初明細書等には、「報知音を出力するときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを設定する第1音量設定手段」及び「前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを再度設定する第2音量設定手段」が記載されていたといえる。
よって、補正事項1は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではない。すなわち、補正事項1は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の第8ページ第4行から第10ページ第8行において、
「しかしながら、本件特許発明に係る出願の願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面には、「音量データ」を「設定」することがいかなることであるか何ら説明はなく、その技術的意義は不明である。
そこで、前記手続補正書の内容を説明するために特許権者が作成した令和3年3月5日提出の意見書(甲第3号証)を見ると、同意見書においては、「音量データを設定する」こと及び「音量データを(再度)設定する」ことに関し、補正の根拠として、本件特許の願書に最初に添付した明細書と同じ内容の段落【0058】、【0059】、【0070】、【0071】等並びに同図面【図5】及び【図8】を挙げている。
……
そして、これらの記載を参酌してみても、かかる段落等及び図面には、やはり、「音量データを(再度)設定する」手段は記載されておらず、また、それを実現するプログラム等の具体的手段は開示されていない。
そうすると、前記令和3年3月5日提出の手続補正書は、願書に最初に添付した明細書等に記載された事項以外に、新たに「音量データを(再度)設定する」手段という、当該明細書に記載も示唆もない新たな概念を導入したものである。」
と主張する。

(イ)申立人の主張に対する判断
当初明細書等には「音量データ」という用語そのものは記載されていないとしても、上記アで述べたように、当初明細書等には、本件特許発明の「音量データ」に対応する「音声設定コマンドパラメータ」が記載されているし、「音声設定コマンドパラメータ」を「設定」することも記載されている。
したがって、申立人の主張を採用することはできない。

2 理由2について
(1)同日発明
申立人が甲第4号証によって示した発明であって、本件特許の出願日である平成29年7月25日に出願された特許6777600号の請求項1に係る発明(以下「同日発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、符号a等を本件特許発明の発明特定事項A等に概ね対応させて付与した。

「【請求項1】
a 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
b 特定事象の発生に関連して報知音を継続して出力する制御を行う制御手段を備え、
c 前記制御手段は、
d 報知音を出力するときに、報知音の出力を指定する第1報知音指定手段と、
e 報知音の出力から所定時間が経過するたびに前記特定事象が解除されているか否かを判定する判定手段と、
f 前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の出力を指定する第2報知音指定手段と、を含み、
g 報知音は、前記所定時間の特定音声であり、
h 前記第1報知音指定手段は、前記所定時間の特定音声が出力されるように報知音の出力を指定し、
i 前記第2報知音指定手段は、前記所定時間の特定音声が出力されるように報知音の出力を指定する、
j 遊技機。」

(2)対比
本件特許発明と同日発明とを対比する。なお、以下の見出し(a)、(b)、(c)、(e)及び(j)は、本件特許発明の発明特定事項A、B、C、E及びJ、並びに、同日発明の発明特定事項a、b、c、e及びjに対応させている。

(a)同日発明の発明特定事項aにおける「遊技を行うことが可能な遊技機」は、本件特許発明の発明特定事項Aにおける「遊技を行うことが可能な遊技機」に相当する。
したがって、同日発明の発明特定事項aは、本件特許発明の発明特定事項Aに相当する構成を含む。

(b)同日発明の発明特定事項bにおける「特定事象の発生に関連して報知音を継続して出力する制御を行う制御手段」は、本件特許発明の発明特定事項Bにおける「特定事象の発生に関連して報知音を継続して出力する制御を行う制御手段」に相当する。
したがって、同日発明の発明特定事項bは、本件特許発明の発明特定事項Bに相当する構成を含む。

(c)同日発明の発明特定事項cにおける「前記制御手段」は、本件特許発明の発明特定事項Cにおける「前記制御手段」に相当する。
したがって、同日発明の発明特定事項cは、本件特許発明の発明特定事項Cに相当する構成を含む。

(e)同日発明の発明特定事項eにおける「報知音の出力から所定時間が経過するたびに前記特定事象が解除されているか否かを判定する判定手段」は、本件特許発明の発明特定事項Eにおける「報知音の出力から所定時間が経過するたびに前記特定事象が解除されているか否かを判定する判定手段」に相当する。
したがって、同日発明の発明特定事項eは、本件特許発明の発明特定事項Eに相当する構成を含む。

(j)同日発明の発明特定事項jにおける「遊技機」は、本件特許発明の発明特定事項Jにおける「遊技機」に相当する。
したがって、同日発明の発明特定事項jは、本件特許発明の発明特定事項Jに相当する構成を含む。

上記(a)から(j)からみて、本件特許発明と同日発明とは、
「【請求項1】
A 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 特定事象の発生に関連して報知音を継続して出力する制御を行う制御手段を備え、
C 前記制御手段は、
E 報知音の出力から所定時間が経過するたびに前記特定事象が解除されているか否かを判定する判定手段と、を含む、
J 遊技機。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1(発明特定事項D)
本件特許発明では、「報知音を出力するときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを設定する第1音量設定手段」を含むことが特定されているのに対し、
同日発明では、「報知音を出力するときに、報知音の出力を指定する第1報知音指定手段」を含むことが特定されている点。

・相違点2(発明特定事項F)
本件特許発明では、「前記判定手段により特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを再度設定する第2音量設定手段」を含むことが特定されているのに対し、
同日発明では、「前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の出力を指定する第2報知音指定手段」を含むことが特定されている点。

・相違点3(発明特定事項gからi)
同日発明では、「報知音は、前記所定時間の特定音声であり、前記第1報知音指定手段は、前記所定時間の特定音声が出力されるように報知音の出力を指定し、前記第2報知音指定手段は、前記所定時間の特定音声が出力されるように報知音の出力を指定する」ことが特定されているのに対し、
本件特許発明は、そのようなことが特定されていない点。

(3)本件特許発明を先願発明とし、同日発明を後願発明とした場合の判断
ア 相違点1について
同日発明の「第1報知音指定手段」は「報知音を出力するときに、報知音の出力を指定する」ものであるから、報知音を出力するときに、報知音の再生を指定するものと解される。例えば、特許6777600号の実施例においては、図6のタイミングT1での報知開始設定や図8のステップS03での報知開始設定において、出力開始コマンドパラメータによって報知音の再生を指定することが対応すると認められる。
これに対し、本件特許発明の「第1音量設定手段」は「報知音を出力するときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを設定する」ものであるから、報知音を出力するときに、報知音の音量(ボリューム)を最大値とするように設定するものであると解される。例えば、本件特許の実施例においては、図6のタイミングT1での報知開始設定や図8のステップS03での報知開始設定において、音声設定コマンドパラメータによって報知音専用チャネルであるチャネル8のボリュームを最大値100に設定することが対応すると認められる。
したがって、本件特許発明の「音量」は同日発明の「出力」と実質的に差異を有する。

イ 相違点2について
同日発明の「第2報知音指定手段」は「前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の出力を指定する」ものであるから、判定手段により特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の再生を指定するものと解される。例えば、特許6777600号の実施例においては、図6のタイミングT2、T3での報知開始設定や図8のステップS09での報知開始設定において、出力開始コマンドパラメータによって報知音の再生を指定することが対応すると認められる。
これに対し、本件特許発明の「第2音量設定手段」は「前記判定手段により特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の音量を最大音量とするように音量データを再度設定する」ものであるから、判定手段により特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の音量(ボリューム)を最大値とするように設定するものであると解される。例えば、本件特許の実施例においては、図6のタイミングT2、T3での報知開始設定や図8のステップS09での報知開始設定において、音声設定コマンドパラメータによってチャネルのボリュームを設定することが対応すると認められる。
したがって、本件特許発明の「音量」は同日発明の「出力」と実質的に差異を有する。
また、同日発明の「前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の出力を指定する第2報知音指定手段」は、本件特許の出願前に周知技術であったとは認められない。

ウ 相違点3について
同日発明の発明特定事項e及びfによれば、「判定手段」が「報知音の出力から所定時間が経過するたびに前記特定事象が解除されているか否かを判定」し、「第2報知音指定手段」が「前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の出力を指定する」ところ、同日発明の発明特定事項gからiによれば、「報知音」が「前記所定時間の特定音声」であるから、同日発明では、「前記特定事象が解除されているか否かを判定」し「報知音の出力を指定する」時間が、「報知音」の時間と同じであると解される。
また、これにより、同日発明は、報知音が途中で途切れてしまうことがない、といった効果を奏すると認められる。
具体的には、報知音の出力が開始されてから終了するまでの時間は、「扉が開いていること」や「ホッパーエラー」といった特定事象の種類により異なるところ、特定事象が発生した場合には、特定事象に対応する時間を所定時間として取得すること等により、上記の効果を奏するものと認められる(甲第4号証の【0050】や【0068】を参照。)。
これに対し、「前記特定事象が解除されているか否かを判定」し「報知音の出力を指定する」時間を、「報知音」の時間と同じとすることで、報知音が途中で途切れてしまうことがないといった効果を奏することは、本件特許の出願前に周知技術であったとは認められない。

エ 小括
本件特許発明を先願発明とし、同日発明を後願発明とした場合、同日発明は本件特許発明と相違点1から3で相違するから、同日発明は本件特許発明と同一ではない。したがって、本件特許発明は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(4)申立人の主張について
ア 相違点1及び2について
(ア)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の第13ページ第14行から第20行において、
「1(当審注:1は丸囲いされた1)「音量」と「出力」について
一般に、音の「出力」といった場合には、日本語の語義からして、第1選択として「音量」を意味することは普通であり、音質その他のファクターについて意味すると解する根拠はないので、そうでなくても、せいぜい何らかの音を生じさせるという程度の事項を意味するものと解される。
したがって、本件特許発明の「音量」は、同日発明の「出力」と実質的に差異を有するものではない。」
と主張する。

(イ)申立人の主張に対する判断
しかしながら、上記(3)のアで述べたように、本件特許発明の「音量」は同日発明の「出力」と実質的に差異を有する。
したがって、上記主張を基にした相違点1及び2についての申立人の主張は、採用することができない。

イ 相違点3について
(ア)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の第17ページ第7行から第28行において、
「2(当審注:2は丸囲いされた2)「所定時間」について
本件特許発明は、「報知音を継続して出力する」(……)ものであり、報知音の音量を定める「第1音量手段」(……)及び「第2音量手段」(……)を備えるものであるのに対して、同日発明も同様に、「報知音を継続して出力する」(……)であり、報知音の出力を定める「第1報知音指定手段」(……)及び「第2報知音指定手段」(……)を備えるものである点で類似の構成を有するものであるところ、……「報知音の出力を指定する」ことと「報知音の出力を設定する」ことが実質的に言い換えることが可能な関係にあることに鑑みれば、両者の上記構成には、実質的に差異はないものといえる。
そして、……両発明は、前記「判定手段」に基づいて、「報知音の出力が定められる手段」を備え、前記「判定手段」は、「報知音の出力から所定時間が経過するたびに前記特定事象が解除されているか否かを判定する」ものであるから、前記「判定手段」の情報は、「所定時間が経過するたびに」発せられ、それに基づいて、「報知音の出力が定められる手段」が呼応するものと理解される。
そうすると、その「所定期間」の間は、一個の報知音が出力されており、報知音は、所定時間を基礎としたひとまとまりの音となるとみるのが技術的に合目的的に適う。
さらに、……いずれも、「前記判定手段により前記特定事象が解除されていないと判定されたときに、報知音の出力を指定する第2の報知音の出力を定める手段と、を含」む点で共通している。」
と主張する。

(イ)申立人の主張に対する判断
しかしながら、上記(3)のウで述べたように、報知音の出力が開始されてから終了するまでの時間は、「扉が開いていること」や「ホッパーエラー」といった特定事象の種類により異なるから、「判定手段」が「前記特定事象が解除されているか否かを判定する」「所定時間」の間に、一個の報知音が出力されるようになすとしても、報知音の出力が開始されてから終了するまでの時間が最も長い特定事象の種類に基づいて「所定時間」を設定し、その他の特定事象の種類に対応する報知音の出力が開始されてから終了するまでの時間と「所定時間」とは相違することになると認められる。
したがって、申立人の主張は、採用することができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した理由及び証拠方法によっては、本件特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-22 
出願番号 P2017-144003
審決分類 P 1 651・ 55- Y (A63F)
P 1 651・ 4- Y (A63F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 太田 恒明
蔵野 いづみ
登録日 2022-03-04 
登録番号 7034622
権利者 株式会社三共
発明の名称 遊技機  
代理人 弁理士法人平木国際特許事務所  

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