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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 一部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1392106
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-09-09 
確定日 2022-12-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第7033660号発明「金属セラミック基板および金属セラミック基板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7033660号の請求項1〜3、9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7033660号の請求項1〜10に係る特許についての出願は、2019年(平成31年)2月18日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2018年2月28日(以下、「本件特許出願の優先日」という。) (DE)ドイツ連邦共和国)を国際出願日として出願され、令和4年3月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月10日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜3、9に係る特許に対し、同年9月9日に特許異議申立人 青木 眞理(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第7033660号の請求項1〜3、9の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜3、9」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜3、9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、分説の符号A〜Qについては、当審で付したものである(以下、「構成A」〜「構成Q」ともいう。)。
「【請求項1】
A 金属セラミック基板(1)であって、
B セラミックを含み第1の厚さ(D1)を有する絶縁層(11)と、
C 前記絶縁層(11)に接合され、第2の厚さ(D2)を有する金属被覆層(12)とを備え、
D 前記金属被覆層(12)は、DCBプロセス、DABプロセス、またはアクティブはんだ付けプロセスによって、前記絶縁層(11)に接合され、
E 前記第1の厚さ(D1)は200μm未満であり、前記第2の厚さ(D2)は200μmよりも大きく、
F 前記第1の厚さ(D1)および前記第2の厚さ(D2)は、
前記金属被覆層(12)の熱膨張係数と前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数との差の量の、
前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数に対する比が、
0.25未満の値を有するような寸法である、
G 金属セラミック基板(1)。
【請求項2】
H 請求項1に記載の金属セラミック基板(1)において、
前記第1の厚さ(D1)は30μmよりも大きい、金属セラミック基板(1)。
【請求項3】
I 請求項1または2に記載の金属セラミック基板(1)において、
前記金属被覆層(12)とは反対の側で、第3の厚さ(D3)を有する更に別の金属被覆層(13)が前記絶縁層(11)に接合され、
J 前記第1の厚さ(D1)、前記第2の厚さ(D2)および/または前記第3の厚さ(D3)は、
前記更に別の金属被覆層(13)および/または前記金属被覆層(12)の熱膨張係数と前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数との差の量の、
前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数に対する比が、
0.25未満の値を有するような寸法である、金属セラミック基板(1)。」

「【請求項9】
K 金属セラミック基板(1)を製造する方法であって、
L セラミックを含み第1の厚さ(D1)を有する絶縁層(11)を配置する工程であって、前記第1の厚さ(D1)は200μm未満である工程と、
M 前記絶縁層(11)に接合され、第2の厚さ(D2)を有する金属被覆層(12)を配置する工程であって、
N 前記第2の厚さ(D2)は200μmよりも大きい工程と、
O 前記金属被覆層(12)を前記絶縁層(11)に接合する工程とを備え、
P 前記第1の厚さ(D1)および/または前記第2の厚さ(D2)は、
前記金属被覆層(12)の熱膨張係数と前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数との差の量の、
前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数に対する比が、
0.25未満の値を有するような寸法である、金属セラミック基板(1)を製造する方法において、
Q 前記金属被覆層(12)は、DCBプロセス、DABプロセス、またはアクティブはんだ付けプロセスによって、前記絶縁層(11)に接合される、方法。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第1号証〜甲第3号証を提出し、以下の理由により、請求項1〜3、9に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(実施可能要件
発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1〜3、9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、請求項1〜3、9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2 申立理由2(明確性要件)
本件発明1〜3、9は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、請求項1〜3、9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3 申立理由3(進歩性
本件発明1〜3、9は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜3、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2002−203942号公報
甲第2号証:特開2003−168770号公報
甲第3号証:特開2017−224656号公報

第4 申立理由1(実施可能要件
1 本件発明1について
(1)本件発明1の構成A〜D、Gについて
本件発明1は、物の発明であるところ、構成A〜D、Gについては、その構造からして、当業者が、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造できるといえる。

(2)本件発明1の構成E、Fについて
ア 本件明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【0007】
・・・本発明によれば、金属セラミック基板の熱膨張係数(すなわち、全層、特に絶縁層および金属被覆層を考慮に入れた総熱膨張係数)および金属被覆層の熱膨張係数は、第1の厚さおよび/または第2の厚さの寸法を決定する際に使用される。・・・」

「【0014】
金属セラミック基板は、熱機械的に対称であることが好ましい。特に、金属被覆層、絶縁層、および更に別の金属被覆層は、主延長面に垂直な積層方向に沿って上下に配置されている。第3の厚さは、主延長面に垂直な方向に延びている。更に別の金属被覆層または金属被覆層の熱膨張係数は、金属セラミック基板の熱膨張係数に近いものが選択されることが好ましい。記載された要件が、3つを超える層から構成される金属セラミック基板に適用可能であることは、当業者には明らかである。好ましくは、3層を超えるような多層金属セラミック基板は、絶縁層、金属被覆層、および更に別の金属被覆層を有する金属セラミック基板、すなわち3層金属セラミック基板に適用可能である。・・・」

「【0035】
以下の関係を使用して、金属セラミック基板1、第1の金属被覆層12、および第2の金属被覆層13の熱膨張係数をそれぞれ決定する。
【0036】
【数2】

ここで、Diは、各CTEiを持つn層のi番目の厚さである。さらに、ポアソン数ηiにより、各層の形状およびその弾性係数Eiが考慮される。」

イ 【式2】について
上記アの【0036】には、CTE(熱膨張係数)を求める【式2】が記載されている。
ここで【式2】に記載されている「n層」について、上記アの【0007】に「金属セラミック基板の熱膨張係数(すなわち、全層、特に絶縁層および金属被覆層を考慮に入れた総熱膨張係数)」と記載されており、同【0014】には、「3層を超えるような多層金属セラミック基板は、絶縁層、金属被覆層、および更に別の金属被覆層を有する金属セラミック基板、すなわち3層金属セラミック基板に適用可能である」と記載されていることから、【式2】のCTEは、金属セラミック基板の熱膨張係数であり、絶縁層及び金属被覆層を考慮に入れた総熱膨張係数であるといえる。
そうすると、上記「絶縁層、金属被覆層、および更に別の金属被覆層を有する金属セラミック基板」は、「3層」からなるものであるから、n=3である。
そして、本件発明1の「金属セラミック基板(1)」は、「セラミックを含み第1の厚さ(D1)を有する絶縁層(11)と、前記絶縁層(11)に接合され、第2の厚さ(D2)を有する金属被覆層(12)とを備え」るものであるから、2層からなるものであり、n=2である。
また、【式2】において、絶縁層(11)の熱膨張係数をCTE1、ポアソン数をη1、弾性係数をE1、金属被覆層(12)の熱膨張係数をCTE2、ポアソン数をη2、弾性係数をE2と表すことができるから、それぞれの値を【式2】に代入すると、本件発明1の「金属セラミック基板(1)」の熱膨張係数CTEは、絶縁層(11)の厚さD1及び金属被覆層(12)の厚さD2を変数とする式(以下、「CTE(D1,D2)」という。)となる。

ウ 構成Fについて
構成Fは、「前記第1の厚さ(D1)および前記第2の厚さ(D2)は、前記金属被覆層(12)の熱膨張係数と前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数との差の量の、前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数に対する比が、
0.25未満の値を有するような寸法である」であり、この構成を式に表すと|CTE2−CTE|/CTE<0.25となる。
そして、この式のCTEに上記イにおけるCTE(D1,D2)を代入するとともに、金属被覆層(12)の熱膨張係数であるCTE2の値を代入すると、この式もD1とD2を変数とする不等式(以下、「F(D1,D2)」という。)となる。

エ 構成Eについて
構成Eは、「前記第1の厚さ(D1)は200μm未満であり、前記第2の厚さ(D2)は200μmよりも大きく」であり、この構成を式で表すと、D1<200μm、D2>200μmとなり、この式もD1とD2を変数とする不等式(以下、「E(D1,D2)」という。)である。

オ 上記ウ及びエから、本件発明1の構成E及び構成Fは、いずれもE(D1,D2)、F(D1,D2)という、D1とD2を変数とする不等式で表されるものである。
そうすると、本件発明1における「絶縁層(11)」の「第1の厚さ(D1)」及び「金属被覆層(12)」の「第2の厚さ(D2)」は、不等式であるE(D1,D2)及びF(D1,D2)を満たす値を選択すれば良いことが理解できる。
したがって、構成E、Fについても、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造できるといえる。

(3)以上によれば、本件発明1の構成A〜D、G及び構成E、Fについては、いずれも、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造できるものである。
したがって、本件発明1は、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造し、使用することができるものである。

2 本件発明2について
本件発明2の構成Hは、その構造からして、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造できるといえる。
そして、本件発明2は、請求項1の記載を引用する発明であるから、上記1の検討を参酌すると、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造し、使用することができるものである。

3 本件発明3について
本件発明3の構成Iは、その構造からして、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造できるといえる。
また、本件発明3の構成Jは、上記1(2)イで検討したn=3の場合に該当するものであるから、上記1(2)イ〜オで検討した本件発明1の構成Fと同様に、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造できるといえる。
したがって、本件発明3は、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造し、使用することができるものである。

4 本件発明9について
本件発明9は、物を製造する方法の発明であるところ、本件発明1に対応する方法の発明であり、本件発明1の構成A〜Gに対応する構成K〜Qを備えるものである。
そうすると、本件発明9は、本件発明1と同様に、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて使用することができるといえる。

5 小括
以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜3、9の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

6 申立人の主張について
(1)申立人は、特許異議申立書において、以下の主張をしている。
ア 特許異議申立書の10ページ11〜19行の主張
本件明細書の【0022】には「金属被覆層は、DCBプロセスまたはアクティブはんだ付けプロセスによって、絶縁層に接合される」と記載されている。また、【0022】〜【0024】に記載のように、複数の金属の混合物である金属セラミック基板1は、絶縁層11と金属被覆層12、13との間に、金属、銅、合金の層(第3の層)が存在するのであり、その場合において、第3の層の存在を無視して複数の金属の混合物である金属セラミック基板1の熱膨張係数をいかにして求めることができるのか、発明の詳細な説明からは不明瞭である。

イ 特許異議申立書の10ページ20〜27行の主張
本件明細書の【0036】に記載される式から、具体的にどのような絶縁層11の厚さ、金属被覆層12の厚さが求められるものか不明瞭である。言い換えれば、【0036】に記載される式への具体的な数値の当てはめと、その結果である金属セラミック基板の熱膨張係数やそれに基づく第1の厚さ(D1)及び第2の厚さ(D2)の具体的な記載がないので当業者は請求項1に係る金属セラミック基板を生成することができない。とすれば、どのようにすれば請求項1に入る程度で金属セラミック基板を生産することができるのか、発明の詳細な説明からは不明瞭である。

(2)検討
申立人の上記(1)ア及びイの主張について、まとめて検討する。
上記1(2)イで検討したとおり、【式2】のCTEは、金属セラミック基板の熱膨張係数であり、絶縁層及び金属被覆層を考慮に入れた総熱膨張係数であるから、【式2】において、絶縁層11と金属被覆層12、13との間に存在する、金属、銅、合金の層(第3の層)は考慮しないといえる。
そして、上記1で検討したとおり、【式2】から、本件発明1における「絶縁層(11)」の「第1の厚さ(D1)」及び「金属被覆層(12)」の「第2の厚さ(D2)」を求めることができ、また、本件発明1は、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許出願当時の技術常識に基づいて製造し、使用することができるものである。
したがって、申立人の上記(1)ア及びイの主張はいずれも採用できない。

7 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1〜3、9に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、申立理由1は、理由がない。

第5 申立理由2(明確性要件)
1 申立人は、本件発明1〜3、9について、以下の主張をしている。
(1)特許異議申立書11ページ11〜19行の主張
上記第4 6(1)アで説明したように、本件発明1の構成Fの「金属セラミック基板(1)の熱膨張係数」において、複数の金属の混合物である金属セラミック基板の絶縁層と金属被覆層との間の第3の層をどのように取り扱うのかが不明であり、その結果、本件発明1は明確ではない。
以上のように、本件発明1は構成Fの記載が不明であり、その結果、本件発明1は明確でない。請求項2、3は、上述した請求項1に従属するものであり、かつ、本件発明1を明確にするものでもない。そのため本件発明2、3もまた本件発明1と同様に明確でない。請求項9に係る製造法の発明についても同様である。

(2)特許異議申立書11ページ20行〜12ページ7行の主張
本件発明1は、「金属セラミック基板(1)」という物の発明であるが、その物の発明に係る請求項1に、構成Fという「金属セラミック基板(1)」の製造方法が記載されている。つまり、請求項1は、いわゆるプロダクトバイプロセスクレームである。金属セラミック基板(1)の絶縁層(11)と金属被覆層(12)との製造に関して、技術的な条件(熱膨張係数の比)が付された記載があるからである。そのため、第1の厚さ(D1)および第2の厚さ(D2)をどのような値とすると本件発明1に入るのか不明瞭である。なお、本件発明1には、出願時において金属セラミック基板(1)の絶縁層(11)と金属被覆層(12)とをその構造(例えば、厚さ)又は特性により直接特定することが不可能な事情も、非実際的な事情も見当たらない。
以上のように、本件発明1は構成Fの記載が不明であり、その結果、本件発明1は明確でない。請求項2、3は、上述した請求項1に従属するものであり、かつ、本件発明1を明確にするものでもない。そのため本件発明2、3もまた本件発明1と同様に明確でない。

2 検討
(1)構成Fについて
上記第4 6(2)で検討したとおり、【式2】において、絶縁層11と金属被覆層12、13との間に存在する、金属、銅、合金の層(第3の層)は考慮しない。
また、構成Fは、「絶縁層(11)」の「第1の厚さ(D1)」及び「金属被覆層(12)」の「第2の厚さ(D2)」が、「前記金属被覆層(12)の熱膨張係数と前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数との差の量の、前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数に対する比が、0.25未満の値を有するような寸法である」ことを特定するものであり、すなわち、「絶縁層(11)」の「第1の厚さ(D1)」及び「金属被覆層(12)」の「第2の厚さ(D2)」の値を特定するものであり、「金属セラミック基板(1)」の製造方法についての記載ではないから、請求項1は、プロダクトバイプロセスクレームではない。
したがって、本件発明1の構成Fの記載は、不明確であるとはいえない。

(2)本件発明1の構成A〜E、Gについて、不明確な記載は見当たらない。また、上記(1)で検討したとおり、本件発明1の構成Fの記載は、不明確であるとはいえない。
したがって、請求項1の記載は明確である。

(3)本件発明2、3には不明確な記載は見当たらないから、請求項2、3の記載は明確である。

(4)本件発明9は、本件発明1に対応する方法の発明であり、本件発明1の構成A〜Gに対応する構成K〜Qを備えるものであるから、上記(1)及び(2)で検討したのと同様の理由により、請求項9の記載は明確である。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1〜3、9に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、申立理由2は、理由がない。

第6 申立理由3(進歩性)について
1 甲号証の記載事項、甲号証に記載された発明等
(1) 甲第1号証(特開2002−203942号公報)
ア 本件特許出願の優先日前に公知となった甲第1号証には、以下の記載がある。
「【請求項1】ヒートシンクとしての金属ベースと、セラミック基板に半導体チップを実装して前記金属ベースの上に搭載した回路組立体と、端子一体形の外囲ケースを組合せて構成したパワー半導体モジュールであり、前記セラミック基板がセラミック板の表,裏両面に金属からなる表回路板および裏板を接合した構造になり、かつ金属ベースとセラミック基板の裏板との間を半田接合したものにおいて、
金属ベースは、材質が熱伝導率が250W/mK以上の銅もしくは銅合金で、その板厚を3.9mm以上6mm以下とし、
セラミック基板は、セラミック板の厚さを0.1mm以上0.65mm以下、表回路板および裏板の厚さを0.1mm以上0.5mm以下として、該基板の外形サイズを最大50mm×50mm、その縦横比を1:1〜1:1.2の範囲に規定し、
半田には融点が183〜250℃の半田を用い、かつ半田層の厚さを0.1mm以上0.3mm以下にして金属ベースとセラミック基板とを半田接合して組立てたことを特徴とするパワー半導体モジュール。
・・・
【請求項3】請求項1記載のパワー半導体モジュールにおいて、セラミック基板のセラミック板が窒化珪素、表回路板および裏板が銅であることを特徴とするパワー半導体モジュール。
【請求項4】請求項1記載のパワー半導体モジュールにおいて、セラミック基板のセラミック板がアルミナ、表回路板および裏板が銅であることを特徴とするパワー半導体モジュール。」

「【0003】ここで、パワー回路ブロック5は、横長な矩形状のセラミック基板8にIGBTなどのパワー半導体チップ9,フリーホイーリングダイオード10が6個ずつ実装されている。また、セラミック基板8は、図4の模式図で表すようにアルミナ,窒化アルミニウム,窒化珪素などで作られたセラミック板8aの表,裏両面に銅箔の表回路板8b,裏板8cを直接接合し、表回路板8bで導体パターンを形成したDirect Copper Bonding 基板であり、表回路板8bに半導体チップ9が半田マウント(その半田接合層を11で表す)されている。一方、制御回路6は前記のパワー回路ブロック5を取り囲むようにしたコ字形のプリント基板6aにパワー回路素子を駆動するための駆動用IC6b,およびその付属回路部品を実装した構成になる。」

「【0009】(1) セラミック基板/金属ベースの熱膨張差に起因する熱的応力:セラミック基板の熱膨張率は、アルミナの場合に7ppm/K,窒化アルミニウムは4.5ppm/K,窒化珪素は3ppm/Kであるのに対し、金属ベース(銅ベース)の熱膨張率は16.5ppm/Kであって両者の熱膨張率の差は大である。」

「【0022】ここで、金属ベース1は、材質が熱伝導率が250W/mK以上の銅もしくは銅合金であり、その板厚t1 は3.9mm〜6mmとする。また、セラミック基板8は、セラミック板8aの板厚t2 を0.1mm〜0.65mm、表回路板8bおよび裏板8cの厚さを0.1mm〜0.5mmとして、セラミック基板8の外形サイズ(a×b)を最大で50mm×50mm、その縦横比を1:1〜1:1.2の範囲に規定する。そして、半田には融点が183〜250℃のSn−Pb半田を用い、かつ半田接合層12の厚さが0.1mm〜0.3mmになるようにして金属ベース1とセラミック基板8との間を半田接合して組立てる。」

「【図1】



イ 甲第1号証に記載された発明
(ア)上記アの【請求項1】には、セラミック基板は、セラミック板の表,裏両面に金属からなる表回路板および裏板を接合した構造であること、及び、セラミック板の厚さは0.1mm以上0.65mm以下、表回路板及び裏板の厚さは0.1mm以上0.5mm以下であることが記載されている。

(イ)上記アの【請求項3】には、セラミック板は窒化珪素、表回路板及び裏板は銅であること、同【請求項4】には、セラミック板はアルミナ、表回路板及び裏板は銅であることが記載されている。

(ウ)上記アの【0003】には、セラミック基板は、セラミック板の表,裏両面に銅箔の表回路板,裏板を直接接合し、表回路板で導体パターンを形成したDirect Copper Bonding 基板であることが記載されている。

(エ)上記アの【0009】には、セラミック基板の熱膨張率は、アルミナの場合に7ppm/K、窒化珪素は3ppm/Kであることが記載されている。

(オ)以上から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「セラミック板の表,裏両面に金属からなる表回路板及び裏板を接合した構造であるセラミック基板であって、
セラミック板の厚さは0.1mm以上0.65mm以下、表回路板及び裏板の厚さは0.1mm以上0.5mm以下であり、
セラミック板は窒化珪素、表回路板及び裏板は銅、又は、セラミック板はアルミナ、表回路板及び裏板は銅であり、
セラミック板の表,裏両面に銅箔の表回路板,裏板を直接接合し、表回路板で導体パターンを形成したDirect Copper Bonding 基板であり、
セラミック基板の熱膨張率は、アルミナの場合に7ppm/K、窒化珪素は3ppm/Kであるセラミック基板。」

(2)甲第2号証(特開2003−168770号公報)
ア 本件特許出願の優先日前に公知となった甲第2号証には、以下の記載がある。
「【請求項1】 窒化ケイ素基板の少なくとも一方の表面に厚さ1mm以上の金属クラッド材を接合したことを特徴とする窒化ケイ素回路基板。
【請求項2】 該金属クラッド材の厚さが1mm以上3mm以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素回路基板。
・・・
【請求項5】 該窒化ケイ素基板の板厚が0.1〜0.7mmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の窒化ケイ素回路基板。」

「【0024】
【表2】



イ 甲第2号証に記載された発明
上記アの記載から、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「窒化ケイ素基板の少なくとも一方の表面に厚さ1mm以上の金属クラッド材を接合した窒化ケイ素回路基板であって、
該金属クラッド材の厚さが1mm以上3mm以下であり、
該窒化ケイ素基板の板厚が0.1〜0.7mmの範囲内である窒化ケイ素回路基板。」

(3)甲第3号証(特開2017−224656号公報)
ア 本件特許出願の優先日前に公知となった甲第3号証には、以下の記載がある。
「【実施例1】
【0018】
はじめに、図1を参照しながら本発明の実施例1に係る金属−セラミックス複合基板について説明する。
図1は本発明の実施例1に係る金属−セラミックス複合基板の側面図である。
図1に示すように、実施例1に係る金属−セラミックス複合基板1Aは、平板状のセラミックス基板2(例えば、矩形状)と、このセラミックス基板2の主面側に直接接合される金属板3とにより構成されるものである。また、実施例1に係る金属−セラミックス複合基板1Aにおいて金属板3は、一対の銅層3a,3cと、この一対の3a,3cの間に介設される銅とモリブデンとからなる複合金属材層3bとからなる三層積層体である。また、このような金属板3は、40〜800℃における金属板3の平均線熱膨張係数が7.0〜10(×10−6/℃)の範囲内となるよう各金属層3a〜3cの厚みや、複合金属材層3bにおける銅とモリブデンの配合割合が調整されている。
さらに、この金属−セラミックス複合基板1Aにおけるセラミックス基板2は、主成分のアルミナと、副成分のジルコニアと、ジルコニアの安定化剤とを少なくとも含有してなるものである。より具体的には、セラミックス基板2におけるアルミナの含有率は50wt%以上であり、かつ、セラミックス基板2におけるジルコニア及び安定化剤の含有率は1〜50wt%の範囲内である。
そして、実施例1に係るセラミックス基板2におけるアルミナ、ジルコニア及び安定化剤の含有率を上述のように設定することで、40〜800℃におけるセラミックス基板2の平均線熱膨張係数を、7.3〜9.5(×10−6/℃)の範囲内にすることができる。
なお、このセラミックス基板2の平均線熱膨張係数は、セラミックス基板2の主面側に接合される金属板3の平均線熱膨張係数と同じ又は近似している。」

「【0031】
なお、実施例1に係る金属−セラミックス複合基板1Aでは、セラミックス基板2の厚みを0.2〜0.8mmに設定する場合は、その主面2a側に接合される金属板3の厚みを0.1〜0.5mmに設定することができる。
なお、セラミックス基板2と金属板3の40〜800℃における平均線熱膨張係数の実質的な差を限りなく小さくすることで、セラミックス基板2の厚みを0.2mm以下にできる可能性がある。」

「【図1】



イ 甲第3号証に記載された発明
上記アの記載から、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「平板状のセラミックス基板と、このセラミックス基板の主面側に直接接合される金属板とにより構成される金属−セラミックス複合基板であって、
セラミックス基板と金属板の40〜800℃における平均線熱膨張係数の実質的な差を限りなく小さくすることで、セラミックス基板の厚みを0.2mm以下にできる金属−セラミックス複合基板。」

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「セラミック板」は、セラミックを含む絶縁層であるといえ、また、「セラミック板の厚さは0.1mm以上0.65mm以下」であるから、当該「セラミック板」は、第1の厚さを有しているといえる
したがって、甲1発明の「セラミック板」は、本件発明1の「セラミックを含み第1の厚さ(D1)を有する絶縁層(11)」に相当する。

イ 甲1発明の「金属からなる表回路板」は、「セラミック板」に「接合」されているから金属被覆層であるといえ、また、「表回路板」の「厚さは0.1mm以上0.5mm以下」であるから、当該「表回路板」は第2の厚さを有しているといえる。
したがって、甲1発明の「金属からなる表回路板」は、本件発明1の「前記絶縁層(11)に接合され、第2の厚さ(D2)を有する金属被覆層(12)」に相当する。

ウ 甲1発明の「セラミック基板」は、「セラミック板の表,裏両面に銅箔の表回路板,裏板を直接接合し、表回路板で導体パターンを形成したDirect Copper Bonding 基板である」から、「表回路板」は、「Direct Copper Bonding」により「セラミック板」に「直接接合」されているといえる。
そうすると、甲1発明の「Direct Copper Bonding」は、本件発明1の「DCBプロセス」に相当し、甲1発明と本件発明1とは、「前記金属被覆層(12)は、DCBプロセス」によって、「前記絶縁層(11)に接合され」る点で一致する。

エ 甲1発明の「セラミック板の表,裏両面に金属からなる表回路板及び裏板を接合した構造であるセラミック基板」は、本件発明1の「セラミックを含み第1の厚さ(D1)を有する絶縁層(11)と、前記絶縁層(11)に接合され、第2の厚さ(D2)を有する金属被覆層(12)とを備え」る「金属セラミック基板(1)」に相当する。

オ 以上から、本件発明1と甲1発明との一致点と相違点は以下のとおりとなる。
<一致点>
「金属セラミック基板(1)であって、
セラミックを含み第1の厚さ(D1)を有する絶縁層(11)と、
前記絶縁層(11)に接合され、第2の厚さ(D2)を有する金属被覆層(12)とを備え、
前記金属被覆層(12)は、DCBプロセスによって、前記絶縁層(11)に接合される、金属セラミック基板(1)。」

<相違点>
相違点1:本件発明1は、「絶縁層(11)」の「前記第1の厚さ(D1)は200μm未満」であり、「金属被覆層(12)」の「前記第2の厚さ(D2)は200μmよりも大き」いのに対し、甲1発明は、「セラミック板の厚さは0.1mm以上0.65mm以下、表回路板」「の厚さは0.1mm以上0.5mm以下」である点。
相違点2:本件発明1は、「絶縁層(11)」の「前記第1の厚さ(D1)」および「金属被覆層(12)」の「前記第2の厚さ(D2)」が、「前記金属被覆層(12)の熱膨張係数と前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数との差の量の、前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数に対する比が、0.25未満の値を有するような寸法である」のに対し、甲1発明は、そのような構成を有していない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み相違点2から検討する。
相違点2に係る本件発明1の構成、すなわち、「絶縁層(11)」の「前記第1の厚さ(D1)」および「金属被覆層(12)」の「前記第2の厚さ(D2)」を、「前記金属被覆層(12)の熱膨張係数と前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数との差の量の、前記金属セラミック基板(1)の熱膨張係数に対する比が、0.25未満の値を有するような寸法」とすることについては、甲第1号証〜甲第3号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明に甲2発明及び甲第3発明を適用しても、相違点2に係る本件発明1の構成は得られない。
したがって、相違点1について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明〜甲3発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、相違点2に係る本件発明1の構成(構成F)について、特許異議申立書の15ページ下から8行〜16ページ1行において、以下の主張をしている。
甲1発明の構成fは、前記第1の厚さが0.lmm〜0.7mmであり、前記第2の厚さが1mm以上3mm以下であり、前記セラミック基板の熱膨張率は7ppm/K,3ppm/Kである。このように、セラミック基板の信頼性を向上させるという課題において熱膨張率を調整しながら金属被覆層と絶縁層とのサイズを決定することは本件特許の出願時より一般的になされていることであり、本件発明1の構成Fは、セラミック基板の信頼性を向上させるという一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化にすぎない。そのため、構成Fは、甲1発明の構成fの単なる設計変更にすぎない。

イ 検討
甲第1号証には、セラミック板の厚さを0.1mm以上0.65mm以下、表回路板及び裏板の厚さを0.1mm以上0.5mm以下とすること(【請求項1】、セラミック基板の熱膨張率は、アルミナの場合に7ppm/K、窒化珪素は3ppm/Kであること(【0009】)は、それぞれ記載されているものの、「セラミック基板の信頼性を向上させるという課題において熱膨張率を調整しながら金属被覆層と絶縁層とのサイズを決定すること」は、記載も示唆もされていない。
したがって、申立人の「セラミック基板の信頼性を向上させるという課題において熱膨張率を調整しながら金属被覆層と絶縁層とのサイズを決定することは本件特許の出願時より一般的になされていることであり」との主張は、甲第1号証の記載に基づくものではない。
したがって、本件発明1の構成Fは、セラミック基板の信頼性を向上させるという一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化にすぎないとはいえない。
よって、申立人の上記アの主張は採用できない。

(4)小括
以上から、本件発明1は、甲1発明〜甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本件発明2、3〜9について
本件発明2、3は、いずれも本件発明1の全ての構成を有するものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明〜甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
また、本件発明9は、本件発明1に対応する方法の発明であり、相違点2に係る本件発明1の構成A〜Gに対応する構成K〜Qを備えるものであるから、本件発明1と同様の理由により、甲1発明〜甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1〜3、9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由3は、理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜3、9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜3、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-24 
出願番号 P2020-536790
審決分類 P 1 652・ 537- Y (H01L)
P 1 652・ 536- Y (H01L)
P 1 652・ 121- Y (H01L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀧内 健夫
特許庁審判官 河本 充雄
鈴木 聡一郎
登録日 2022-03-02 
登録番号 7033660
権利者 ロジャーズ ジャーマニー ゲーエムベーハー
発明の名称 金属セラミック基板および金属セラミック基板の製造方法  
代理人 桑垣 衛  

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