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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63F
審判 全部申し立て 特174条1項  A63F
管理番号 1392108
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-09-14 
確定日 2022-11-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第7034642号発明「遊技機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7034642号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7034642号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成29年9月20日に出願した特願2017−179905号であって、令和2年12月21日に手続補正書が提出され、令和3年7月9日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月10日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、令和4年2月22日付けで特許査定がなされ、令和4年3月4日にその特許権の設定登録がされ、同年3月14日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年9月14日に特許異議申立人日本電動式遊技機特許株式会社(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

第2 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(なお、A〜Iの符号は、当審にて分説するために付した。)。

「【請求項1】
A 遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 表示手段と、
C 発光手段と、
D 音出力手段と、
E 遊技の結果が有利結果となったときに有利状態に制御可能な有利状態制御手段と、
F 前記有利状態において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段と、を備え、
G 前記表示手段は、
前記有利状態が終了したときに前記有利状態の終了を示唆する終了画像を表示可能であり、
前記終了画像が表示される所定期間において遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像を表示可能であり、
H 前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消灯を維持し、
I 前記音出力手段は、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に音出力可能である一方で、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消音を維持する、遊技機。」

2 特許異議申立ての申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出し、本件特許に対し次の理由を申し立てている。

(1)理由1
本件発明は、新規事項を含んでいるから、特許法第17条の2第3項の規定に適合しない発明である。
よって、本件特許は、特許法第113条第1号の規定に該当し、同法第114条第2項の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書の第2ページ第6行〜第7行、第9ページ第4行〜第7行)。

(2)理由2
本件発明は、明細書の発明の詳細な説明に記載されておらず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって、本件特許は、特許法第113条第4号の規定に該当し、同法第114条第2項の規定により取り消されるべきものである(特許異議申立書の第2ページ第8行〜第10行、第9ページ第8行〜第11行)。

<証拠方法>
甲第1号証:特許7034642号公報(本件特許の特許掲載公報)
甲第2号証:特開2019−54926号公報(本件特許についての出願の公開特許公報)

第3 判断
1 理由1について
(1)補正内容
令和2年12月21日付け手続補正書でした補正及び令和3年9月10日付け手続補正書でした補正により、本件特許の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1(以下「出願時における請求項1」という。)に「音出力手段と、」(発明特定事項D)及び「遊技の結果が有利結果となったときに有利状態に制御可能な有利状態制御手段と、」(発明特定事項E)が追加され、出願時における請求項1の「開始条件が成立してから終了条件が成立するまでの所定期間において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段とを備え、」が「前記有利状態において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段と、を備え、」(発明特定事項F)に変更され、出願時における請求項1の「前記表示手段は、前記所定期間における特定契機で特定情報を報知する報知画像を表示可能であり、」が「前記表示手段は、前記有利状態が終了したときに前記有利状態の終了を示唆する終了画像を表示可能であり、前記終了画像が表示される所定期間において遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像を表示可能であり、」(発明特定事項G)に変更され、出願時における請求項1の「前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間で発光態様が変化する一方で、前記報知画像が表示されている期間で前記発光態様が変化しない、」が「前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消灯を維持し、」(発明特定事項H)に変更され、出願時における請求項1に「前記音出力手段は、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に音出力可能である一方で、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消音を維持する」(発明特定事項I)が追加された(下線は、当審で付した。)。

(2)当初明細書等に記載された事項
本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。

ア 記載事項
(ア)「【0007】
(1) 遊技を行うことが可能な遊技機(たとえば、スロットマシン、パチンコ遊技機)であって、
表示手段(たとえば、液晶表示器51)と、
発光手段(たとえば、LED52)と、
開始条件(たとえば、図3(A)のt1:図柄の変動終了から15秒後、図3(B)のt1:特定図柄の導出)が成立してから終了条件(たとえば、図3(A)のt5および図3(B)のt5: 操作手段の操作に基づく遊技の開始)が成立するまでの所定期間(たとえば、図3(A)のt1〜t5のデモ期間、図3(B)のt1〜t5の大当り遊技演出期間)において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出(たとえば、客待ちデモ演出、大当り遊技演出)を実行可能な特定演出実行手段(たとえば、メイン制御部41からのコマンドに基づいてサブ制御部91が客待ちデモ演出、大当り遊技演出を実行する処理)とを備え、
前記表示手段は、前記所定期間における特定契機(たとえば、図3(A)のt2:デモ期間の開始から39秒後)で特定情報(たとえば、不正防止等を注意喚起するための情報)を報知する報知画像(たとえば、図2(B)(b)に示す不正防止等画像)を表示可能であり、
前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間で発光態様が変化する一方で(たとえば、図3(A)のt1〜t2、t4〜t5に示すように、デモ期間のうちの不正防止等画像およびのめり込み防止画像が表示されていない期間においてLED52は点滅する)、前記報知画像が表示されている期間で前記発光態様が変化しない(たとえば、図3(A)のt2〜t4に示すように、不正防止等画像およびのめり込み防止画像が表示されている期間においてLED52は消灯したままである)、遊技機。」

(イ)「【0009】
(3) 上記(1)または(2)の遊技機において、
前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間で発光色が変化する一方で(たとえば、図3(B)のt2〜t3に示すように、大当り遊技演出期間のうちの報知画像が表示されていない期間においてLED52は黄色、緑色、および赤色によって発光色が変化する)、前記報知画像が表示されている期間で発光色が変化しない(たとえば、図3(B)のt1〜t2に示すように、大当り遊技演出期間のうちの報知画像(取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像)が表示されている期間においてLED52は消灯したままである)。
【0010】
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかの遊技機において、
音出力手段(たとえば、スピーカ53,54)をさらに備え、
前記音出力手段は、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間で音を出力する一方で(たとえば、図3(A)のt1〜t2、t4〜t5に示すように、デモ期間のうちの不正防止等画像およびのめり込み防止画像が表示されていない期間においてスピーカ53,54から客待ちデモ演出音が出力される)、前記報知画像が表示されている期間で音を出力しない(たとえば、図3(A)のt2〜t4に示すように、不正防止等画像およびのめり込み防止画像が表示されている期間においてスピーカ53,54から音が出力されない)。」

(ウ)「【0016】
本発明に係る遊技機1を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
[遊技機1の主な内部構成]
図1は、本実施形態に係る遊技機1の主な内部構成の一例を示す図である。図1に示すように、遊技機1には、遊技の進行を制御するメイン制御部41、所定の演出を制御するサブ制御部91などが設けられている。特に、本実施の形態に関わる遊技機は、図示しない可変表示装置を備え、その可変表示装置で変動表示される図柄の表示結果次第で有利状態へ制御される。可変表示装置はメイン制御部41またはサブ制御部91によって制御される。
【0017】
メイン制御部41は、遊技の進行に関する処理を行い、図柄の変動表示結果に関する抽選を行う。メイン制御部41には、各種スイッチが接続されている。メイン制御部41には、スイッチ類の検出信号が入力される。」

(エ)「【0020】
[特定演出]
本実施の形態においては、サブ制御部91は、特定演出を実行する。特定演出とは、たとえば、遊技者が遊技を行っていない客待ち状態の期間、あるいは遊技状態が遊技者にとって有利な状態にある期間に行われる演出である。特定演出には、たとえば、液晶表示器51、LED52、およびスピーカ53,54が用いられるが、その他の演出手段を用いて特定演出を行ってもよい。」

(オ)「【0022】
遊技機1は、操作手段を操作して、遊技を開始させることが可能となる。たとえば、遊技機1がスロットマシンであれば、操作手段により賭数が設定されると遊技が開始し、リールを回転させる操作によって複数種類の図柄の変動表示が行われる。パチンコ遊技機であれば、打球操作ハンドルの回動操作をさせ、遊技球が始動入賞口へ入賞することによって遊技が開始し、図柄の変動表示が行われる。図柄の変動表示が終了して導出された表示結果次第で遊技者にとって有利な有利状態となる。以下、変動表示の表示結果のうち、有利状態を発生させる図柄を“特定図柄”という。
【0023】
有利状態は、たとえば、スロットマシンにおいては、小役の当選確率が向上するボーナス(ビッグボーナス、BBとも称する)、あるいは、遊技者にとって有利な操作手順を報知してナビが行われるATなどである。また、パチンコ遊技機においては、遊技者にとって有利なラウンド遊技を所定回数実行可能となる大当り遊技状態である。以下、簡単のために、これらの有利状態を単に“大当り”、あるいは“大当り遊技状態”とも称する。」

(カ)「【0024】
図2(A)、(B)は共に、客待ち状態の期間に実行される特定演出の例を示す。特に図2(A)は、液晶表示器51にデモンストレーション画像(デモ画像)が表示されている様子を示し、図2(B)は、液晶表示器51に遊技者に向けた報知画像が表示されている様子を示す。デモ画像は、たとえば、遊技機1の遊び方や演出などの機能を紹介する映像としての機能紹介ムービーである。図2(B)の「報知画像」から右方向に4つに分岐して延びるラインの先には、報知画像の例として(a)〜(d)が示されている。このように、客待ち状態の期間では、液晶表示器51にデモ画像あるいは報知画像が表示される。以下、客待ち状態の期間を単に“デモ期間”と称する。
・・・
【0026】
[報知画像]
図2(B)の(a)〜(d)に示す報知画像の例を説明する。報知画像とは、遊技者に対して各種の注意喚起を行うための情報を報知する画像である。
【0027】
(a) のめりこみ防止画像
のめりこみ防止画像は、遊技者に対して遊技機1への遊技に対してのめり込み過ぎることを防止するための画像であり、「パチンコ・スロットは適度に楽しむ遊びです。のめり込みに注意しましょう。」という文字と文字の周りを囲む画像とを含む。のめり込み防止画像には、文字の内容は同じであるが文字の周りを囲む画像や表示面積が異なる複数種類態様の画像が設けられている。このようなのめり込み防止表示により、遊技者に対して遊技にのめり込むことを抑制または注意、遊技者に対して遊技に大金を注ぎ込むことを抑制または注意が行われる。
【0028】
(b) 不正防止等画像
不正防止等画像は、「18歳未満の遊技は法令により禁止されています。」という18歳未満の遊技を禁止する注意喚起表示、「不正行為は犯罪です。」という不正行為を抑制するための注意喚起表示、「攻略法を装った詐欺にご注意ください。」という詐欺行為を抑制するための注意喚起表示との3種類を含む。これらの不正防止等画像は、同時に表示してもよく、異なるタイミングで表示してもよい。なお、その他の不正防止等画像として、たとえば、遊技機1の外枠等に可動式の役物を設けた場合に、当該可動式の役物の動きにより、けがをしないように注意するものを採用してもよい。
【0029】
(c) 取り忘れ防止画像
取り忘れ防止画像は、遊技に使用可能な遊技球などの遊技用価値の大きさを特定可能な情報として残高情報等が記録された遊技用記録媒体としてのプリペイドカード等の取り忘れに関するカード取り忘れ防止の表示としての画像である。取り忘れ防止画像は、「プリペイドカードの取り忘れや盗難にご注意ください。」という文字およびカードの排出を示す画像を含む。なお、カードではなく遊技に使用可能な遊技用価値の大きさを特定可能な情報として残高情報などが記録された遊技用記録媒体としてのコインなどの別の形状のものを対象とする取り忘れ防止画像を採用してもよい。
【0030】
(d) メーカーロゴ画像
メーカーロゴ画像は、遊技機1の製造者を示すメーカーロゴ表示(製造者情報とも称する)の画像である。メーカーロゴ画像は、たとえば、メーカーの企業色で表示される。メーカーロゴ画像が表示されている期間においては、LED52は、同様に企業色で発光する。このように、表示された内容と関連性のある発光態様でLEDを発光させることで、表示内容に対する印象をより深めることができる。」

(キ)「【0042】
[大当り遊技演出期間において実行される特定演出]
図3(B)を用いて、大当り遊技演出期間において実行される特定演出を説明する。図3(B)において、大当り遊技演出期間はt1〜t5である。大当り遊技演出期間の開始条件は、変動表示の結果が特定図柄となったことである。大当り遊技演出期間の終了条件は、大当り遊技状態の終了である。ただし、大当り遊技状態の終了から所定の変動休止期間を経て次の変動表示が開始可能となるような遊技機であれば、大当り遊技演出期間は大当り遊技状態の終了後、変動休止期間が経過するまで継続する。すなわち、この場合の大当り遊技演出期間の終了条件は、変動休止期間の経過である。
・・・
【0045】
t1において、液晶表示器51には、大当りが開始したことを報知する大当り開始画面が表示される。さらに、大当り開始画面の下方には、取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が併せて表示される。大当り開始画面の表示開始タイミングと取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像の表示開始タイミングとは同じであってもよく、後者が前者に遅れて表示されるものであってもよい。いずれにしても、取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示されている間は、LED52は、消灯した状態を継続する。また、スピーカ53,54は音が出力されない状態を継続する。
【0046】
大当り開始画面の表示から10秒経過したt2において、大当り遊技状態に移行する。このとき、液晶表示器51には、大当り遊技に移行したことを示す大当り遊技中画面が表示される。また、LED52は、大当り中発光パターンで発光する。本実施の形態においては、大当たり発光パターンとして、黄色、緑色、および赤色の順で発光色を変化させて、これを繰り返す。また、スピーカ53,54からは大当り中演出音(たとえば、楽曲)が出力される。
【0047】
大当り遊技状態が終了したt3において、液晶表示器51には、大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面が表示される。さらに、大当り終了画面の下方には、大当り開始画面の表示時と同様に、取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示される。大当り終了画面の表示開始タイミングと取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像の表示開始タイミングとは同じであってもよく、後者が前者に遅れて表示されるものであってもよい。いずれにしても、取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示されている間は、LED52は、消灯した状態を継続する。また、スピーカ53,54は、音が出力されない状態を継続する。
【0048】
大当り遊技状態が終了したt3からは図柄の変動表示が実行されない変動休止期間に突入する。この間は、スロットマシンであれば、仮に、スタートボタンを押してもリールは回転開始しない。また、パチンコ遊技機であれば、仮に、図柄を変動表示させるために必要な保留記憶が存在していたとしても、図柄は変動表示しない。変動休止期間はt3〜t5まで継続する。変動休止期間のうち、大当り終了画面の表示から10秒経過したt4において、液晶表示器51の画面の中央部には、メーカーロゴ画像が表示される。その後、メーカーロゴ画像は、変動休止期間が終了するt5まで表示される。メーカーロゴ画像は、企業色(本実施の形態においては、青色)で表示される。また、メーカーロゴ画像の下方には、のめりこみ防止画像が表示される。また、メーカーロゴ画像が表示されている間は、LED52は、企業色と同じ青色で点灯し、その状態を継続する。また、スピーカ53,54は、音が出力されない状態を継続する。」

(ク)「【図3】(B)



イ 認定事項
(ア)認定事項1
【0047】の「大当り遊技状態が終了したt3において、液晶表示器51には、大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面が表示される。」という記載、及び【0048】の「大当り終了画面の表示から10秒経過したt4において、液晶表示器51の画面の中央部には、メーカーロゴ画像が表示される。」という記載を踏まえると、図3(B)からは、「t3〜t4の期間において大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面が表示される」ことが看取される。

(イ)認定事項2
【0045】〜【0048】の「取り忘れ防止画像」及び「のめりこみ防止画像」に関する記載を踏まえると、図3(B)からは、「t1〜t2、t3〜t4の期間において取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示され、t2〜t3の期間において取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像は表示されず、t4〜t5の期間においてのめりこみ防止画像が表示され、取り忘れ防止画像は表示されない」ことが看取される。

(ウ)認定事項3
【0045】〜【0048】の「LED52」に関する記載を踏まえると、図3(B)からは、「t1〜t2、t3〜t4の期間においてLED52は消灯し、t2〜t3、t4〜t5の期間においてLED52は発光する」ことが看取される。

(エ)認定事項4
【0045】〜【0048】の「スピーカ53,54」に関する記載を踏まえると、図3(B)からは、「t1〜t2、t3〜t5の期間においてスピーカ53,54からは音が出力されず、t2〜t3の期間においてスピーカ53,54からは音が出力される」ことが看取される。

(3)判断
上記(1)補正内容で示したように、発明特定事項D〜Iは、令和2年12月21日付け手続補正書でした補正及び令和3年9月10日付け手続補正書でした補正により、本件特許の請求項1に記載されているため、発明特定事項D〜Iがそれぞれ当初明細書等に記載されているか検討する。

ア 発明特定事項Dについて
当初明細書等の【0010】には「音出力手段(たとえば、スピーカ53,54)」と記載されており、本件発明の発明特定事項Dにおける「音出力手段」は、当初明細書等に記載の「スピーカ53,54」に対応すると認められる。

イ 発明特定事項Eについて
当初明細書等の【0016】の「遊技機は、図示しない可変表示装置を備え、その可変表示装置で変動表示される図柄の表示結果次第で有利状態へ制御される。」との記載、【0022】の「変動表示の表示結果のうち、有利状態を発生させる図柄を“特定図柄”という。」との記載、及び【0023】の「これらの有利状態を単に“大当り”、あるいは“大当り遊技状態”とも称する。」との記載を踏まえると、「可変表示装置で変動表示される図柄の表示結果」が「特定図柄」となったときに「大当り遊技状態」に「制御」されるのであるから、本件発明の発明特定事項Eにおける「遊技の結果」、「有利結果」、「有利状態」は、それぞれ当初明細書等に記載の「可変表示装置で変動表示される図柄の表示結果」、「特定図柄」、「大当たり遊技状態」に対応すると認められる。
また、当初明細書等の【0017】には「メイン制御部41は、遊技の進行に関する処理を行い、図柄の変動表示結果に関する抽選を行う。」と記載されているところ、遊技状態を「大当り遊技状態」に「制御」する処理が、遊技の進行に関する処理の一種であることは、パチンコ遊技機の技術常識から明らかであるため、本件発明の発明特定事項Eにおける「有利状態制御手段」は、当初明細書等に記載の「可変表示装置で変動表示される図柄の表示結果」が「特定図柄」となったときに「大当り遊技状態」に「制御」する「メイン制御部41」に対応すると認められる。

ウ 発明特定事項Fについて
当初明細書等の【0020】には「サブ制御部91は、特定演出を実行する。特定演出とは、たとえば、遊技者が遊技を行っていない客待ち状態の期間、あるいは遊技状態が遊技者にとって有利な状態にある期間に行われる演出である。特定演出には、たとえば、液晶表示器51、LED52、およびスピーカ53,54が用いられる」ことが記載されており、当初明細書等には「特定演出」が「遊技状態が遊技者にとって有利な状態にある期間に行われる」場合も記載されている。
また、上記イでも述べたように、当初明細書等の【0023】には「これらの有利状態を単に“大当り”、あるいは“大当り遊技状態”とも称する。」ことが記載されているから、本件発明の発明特定事項Fにおける「前記有利状態において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段」は、当初明細書等に記載の「遊技状態が遊技者にとって有利な状態」である「大当り遊技状態」「にある期間に」「液晶表示器51、LED52、およびスピーカ53,54」を用いて「特定演出を実行する」「サブ制御部91」に対応すると認められる。

エ 発明特定事項Gについて
当初明細書等の【0047】には、「大当り遊技状態が終了したt3において、液晶表示器51には、大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面が表示される」ことが記載されており、本件発明の発明特定事項Gにおける「前記有利状態が終了したときに前記有利状態の終了を示唆する終了画像」は、当初明細書等に記載の「大当り遊技状態が終了した」ときにおいて、「大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面」に対応すると認められる。
また、当初明細書等の【0007】には、「所定期間(たとえば、図3(A)のt1〜t5のデモ期間、図3(B)のt1〜t5の大当り遊技演出期間)」と記載されているように、「所定期間」を「図3(B)のt1〜t5の大当り遊技演出期間」として定義する場合が示されており、上記認定事項1により「t3〜t4の期間において大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面が表示される」ことを踏まえると、「大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面」は「所定期間」において表示されるものであるといえるから、当初明細書等には、本件発明の発明特定事項Gにおける「前記終了画像が表示される所定期間」が記載されているものと認められる。
さらに、当初明細書等の【0024】、【0026】には、「液晶表示器51に遊技者に向けた報知画像が表示されている」こと、及び「報知画像とは、遊技者に対して各種の注意喚起を行うための情報を報知する画像である」ことがそれぞれ記載されており、【0027】〜【0030】には「報知画像の例」として、「(a) のめりこみ防止画像」、「(b) 不正防止等画像」、「(c) 取り忘れ防止画像」、「(d) メーカーロゴ画像」が示されているところ、【0009】には「報知画像(取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像)」と記載されているように、「報知画像」を「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」として定義する場合が示されている。
してみると、本件発明の発明特定事項Gにおける「遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像」は、当初明細書等に記載の「遊技者に対して各種の注意喚起を行う」「報知画像」としての「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」に対応すると認められる。
以上から、当初明細書等には、「液晶表示器51」が、「大当り遊技状態が終了した」ときにおいて、「大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面」を表示し、「大当り終了画面」が表示される「所定期間」において「遊技者に対して各種の注意喚起を行う」「報知画像」としての「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」を表示することが記載されているといえるから、本件発明の発明特定事項Gにおける「前記表示手段は、前記有利状態が終了したときに前記有利状態の終了を示唆する終了画像を表示可能であり、前記終了画像が表示される所定期間において遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像を表示可能であ」ることが記載されているものと認められる。

オ 発明特定事項Hについて
上記認定事項2より、「t1〜t5の大当り遊技演出期間」(所定期間)において「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」(注意喚起画像)が表示される期間はt1〜t2、t3〜t4の期間であり、上記認定事項3より、t1〜t2、t3〜t4の期間においてLED52は消灯するのであるから、当初明細書等には、本件発明の発明特定事項Hにおける「発光手段は、」「前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消灯を維持」することが記載されているものと認められる。
また、上記認定事項2より、t4〜t5の期間においてはのめりこみ防止画像は表示されるものの、取り忘れ防止画像は表示されないことから、「t1〜t5の大当り遊技演出期間」(所定期間)において「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」(注意喚起画像)が表示されない期間はt2〜t3、t4〜t5の期間であるといえ、上記認定事項3より、t2〜t3、t4〜t5の期間においてLED52は発光するのであるから、当初明細書等には、本件発明の発明特定事項Hにおける「前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である」ことが記載されているものと認められる。

カ 発明特定事項Iについて
上記認定事項4より、t1〜t2、t3〜t5の期間においてスピーカ53,54からは音が出力されないのであるから、「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」が表示される期間であるt1〜t2、t3〜t4の期間においてスピーカ53,54からは音が出力されないことは明らかであり、当初明細書等には、本件発明の発明特定事項Iにおける「前記音出力手段は、」「前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消音を維持する」ことが記載されているものと認められる。
また、上記認定事項4より、t2〜t3の期間においてスピーカ53,54からは音が出力されるため、「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」が表示されない期間であるt2〜t3、t4〜t5の期間におけるt2〜t3の期間ではスピーカ53,54から音を出力することが可能であるといえるから、当初明細書等には、本件発明の発明特定事項Iにおける「前記音出力手段は、前記所定期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に音出力可能である」ことが記載されているものと認められる。

(4)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書において、「本件特許発明の構成G2に関して、「終了画像」は当初明細書等の段落0047に記載された「大当り終了画面」に相当し、「注意喚起画像」は同段落に記載された「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」に相当する。
そして、当初明細書等の段落0043、段落0047および図3(B)によれば、(t3〜t4)の期間が、終了画像(大当り終了画面)が表示される期間であり、(t4〜t5)の期間は、メーカーロゴ画像が表示される期間であって、終了画像が表示される期間ではない。よって、「前記終了画像が表示される所定期間」は、図3(B)の(t3〜t4)の期間に相当する。」ことを主張している。
しかしながら、上記(3)エでも述べたように、「所定期間」については、【0007】に記載されているように、「図3(B)のt1〜t5の大当り遊技演出期間」が対応し、「t1〜t5の大当り遊技演出期間」は、「前記終了画像」(大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面)が表示される「t3〜t4の期間」を含むことから、特許異議申立書における「「前記終了画像が表示される所定期間」は、図3(B)の(t3〜t4)の期間に相当する。」という主張は認められない。
よって、申立人の主張を採用することはできない。

(5)まとめ
以上のことから、令和2年12月21日付け手続補正書でした補正及び令和3年9月10日付け手続補正書でした補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではない。
したがって、本件特許は、特許法第113条第1号の規定により取り消されるべきものではない。

2 理由2について
理由1について検討したとおり、発明特定事項D〜Iは当初明細書等に記載されたものである。そして、発明特定事項D〜Iに関する当初明細書等の記載は削除されず、本件特許の明細書等に記載されている。
そうすると、本件発明は、サポート要件を満たし、特許法第36第6項第1号の規定に適合する。
したがって、本件特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

第4 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-11-16 
出願番号 P2017-179905
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A63F)
P 1 651・ 55- Y (A63F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 三田村 陽平
北川 創
登録日 2022-03-04 
登録番号 7034642
権利者 株式会社三共
発明の名称 遊技機  
代理人 弁理士法人武和国際特許事務所  

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