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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1392469
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-14 
確定日 2022-12-21 
事件の表示 特願2015−118459「ワークの皮膜形成構造およびワークの皮膜形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年1月5日出願公開、特開2017−1312〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年6月11日に出願された特願2015−118459号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成31年 2月18日付け:拒絶理由通知
平成31年 4月23日 :意見書及び手続補正書
令和 1年 9月13日付け:拒絶理由通知
令和 1年11月 1日 :意見書及び手続補正書
令和 2年 4月14日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 2年 5月12日 :意見書及び手続補正書
令和 2年10月 6日付け:補正の却下の決定
令和 2年10月 6日付け:拒絶査定
令和 3年 1月14日 :審判請求及び手続補正書
令和 3年12月13日 :上申書
令和 4年 1月28日付け:拒絶理由通知
令和 4年 3月23日 :意見書及び手続補正書
令和 4年 4月15日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 4年 6月 2日 :意見書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)


第2 令和4年6月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和4年6月2日にされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「ワークの表面に微細な多数の凹凸部を有する亜酸化クロムからなる一次皮膜を形成し、該一次皮膜の表面に塗料を付着または吸着したワークの皮膜形成構造において、前記一次皮膜の表面の凹凸部に塗料を付着または吸着し、前記一次皮膜に薄膜かつ単一の塗膜層を一の塗膜形成で可能にしたことを特徴とするワークの皮膜形成構造。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和4年3月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「ワークの表面に微細な多数の凹凸部を有する薄膜の一次皮膜を形成し、該一次皮膜の表面に塗料を付着または吸着したワークの皮膜形成構造において、一次皮膜の表面の凹凸部に塗料を付着または吸着し、該一次皮膜に薄膜かつ単一の塗膜層を形成したことを特徴とするワークの皮膜形成構造。」

2 補正の適否
本件補正は、
(1)本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「一次皮膜」及び「塗膜層」について、上記のとおり各々「亜酸化クロムからなる」及び「一の塗膜形成で可能にした」との限定を付加し、かつ、補正前にあった「薄膜の」を削除するもの
及び
(2)補正前の請求項1に記載の「一次皮膜」のうち、2回目及び3回目に登場する同一記載箇所の直前に「前記」を付すもの
を含むものである。
そうすると、上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「一次皮膜」について、「薄膜」の特定を削除し、一次皮膜の厚さについてこれを任意とするものであるから、特許法第17条の2第5項各号のいずれを目的とするものでもない。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年6月2日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和4年3月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 当審の拒絶の理由
当審が令和4年4月15日付けでした拒絶の理由(最後)は、
(理由1)この出願は、特許請求の範囲の記載が、本願で解決しようとする課題の解決を果たした発明として認識されるべき対象としては、一次皮膜として「柔らかで絶縁性と耐食性を有する」ことや、「多孔質」であること、「表面」が「微細な凹凸」であることが唯一確認できた「亜酸化クロムCrO3」からなるとする事項による「一次皮膜」の特定が必要とされるが、かかる特定を有さない請求項1〜3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえず、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない
(理由2)この出願の請求項1〜3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された特開昭62−68740号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない
というものである。

3 理由1について
本願発明が解決しようとする課題は、願書に最初に添付した明細書の記載によれば、公知の「Alを含有する溶融めっき鋼板を塗装前に加熱し、その塗布面を例えばクロメ−ト処理して調整後、塗膜を2〜15μmに下塗りし、これに塗膜を5〜30μmに上塗りした」(【0003】)「前記塗装鋼板は塗装前に塗布面を化成処理して調整し、その後下塗りと上塗りを行うために手間が掛かり、しかも塗膜が厚くなるため剥離し易く、その後の加工時に塗膜が剥離したりひび割れを起こして加工性が悪い。
しかも、クロメート皮膜を均一に形成することが難しいため、クロメート処理前に酸性の表面調整液を塗装原板に塗布する表面調整を要して手間が嵩み、また前記表面調整液によってめっき極表層部の酸化物がエッチングされ、塗装原板のめっき層表層部と下塗り塗膜との界面の耐食性が低下する等の問題」(【0004】)や、同じく公知の「表面調整液に予めMgイオンを含有させ、表面調整しためっき層表面をMgを含有する酸性水溶液で表面調整し、Mgを置換析出させて塗装後の塗装原板のめっき層表層部と下塗り塗膜との界面の腐食を抑制するようにしたもの」(【0005】)の「前記方法は特定の溶融亜鉛鋼板に限られ、塗装原板の表面調整が複雑化する上に表面調整液の作成が複雑化し、しかも塗装作業が依然として煩雑で生産性ないし作業性が悪かった。」(【0006】)等、公知の技術にある問題の解決(【0010】)であり、「ワークに柔らかで絶縁性と耐食性を有する亜酸化物または酸化物の薄膜の一次皮膜を緊密に析出し、ワークと一次皮膜を一体化して一次皮膜の剥離を防止し、その加工性を向上するとともに、一次皮膜に塗膜等の二次皮膜を薄膜かつ緊密に密着し、塗料等の使用量の低減を図るとともに、一次皮膜と二次皮膜を一体化して二次皮膜の剥離やクラックの発生を防止し、二次皮膜形成後の加工性を向上する一方、一次および二次皮膜を合理的に形成できる、ワークの皮膜形成構造およびワークの皮膜形成方法を提供することを目的とする。」とされている。
そして、当該課題を解決するために、「ワークの表面に金属を含む亜酸化物または酸化物からなる薄膜の一次皮膜を析出し、該一次皮膜を多孔質皮膜に形成した」(【0016】)、あるいは「ワークの表層部に前記一次皮膜からなる含浸層を形成した」(【0016】)、あるいは「一次皮膜の表面を微細な凹凸状に形成した」(【0016】)としたものである。
そして、【発明を実施するための最良の形態】として、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、「無水クロム酸CrO3 300〜400g/l、けいフッ化ナトリウムNaSiF6 5〜10g/l、酢酸バリウムC4H6
O4Ba2〜5g/lからな」る「処理液2」の「浴温を10℃以下に調整」して「析出」された「亜酸化クロムCrO3」(【0024】)による「一次皮膜23」(【0037】等)の一例が記載されているのみで、他の組成による一次皮膜についての言及はない。そして、亜酸化クロム皮膜以外の皮膜が、上記課題を解決するものであることが、技術常識であるともいえない。
してみると、本願で解決しようとする課題の解決を果たした発明として認識されるべき対象としては、一次皮膜として「柔らかで絶縁性と耐食性を有する」ことや、「多孔質」であること、「表面」が「微細な凹凸」であることが唯一確認できた「亜酸化クロムCrO3」からなるとする事項による「一次皮膜」の特定が必要とされるというべきである。
しかしながら、かかる特定を有さない、請求項1〜3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。

以上により、当審で通知した拒絶の理由1は解消されていない。

4 理由2について
当審が令和4年4月15日付けで通知した拒絶の理由で引用された本願の出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開昭62−68740号公報(昭和62年3月28日出願公開。以下「引用文献」という。)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。)

(1)引用文献の記載事項
ア「発明の目的
(産業上の利用分野)
この発明は素材の表面皮膜及びその形成方法に関するものである。」(1ページ右欄5〜8行)

イ「発明の構成
(問題点を解決するための手段)
この発明は前記問題点を解決するため、素材1の外表面に設けた金属クロム及びクロム酸化物よりなる薄皮層2と、拡散層3と、その外表面に設けたフッ素薄皮層5とから構成するという手段を採用している。
(作用)
この発明は前記手段を採用したことにより、次のように作用する。
拡散層の故に素材とクロムメッキの薄皮層とが強固に結合され、防錆作用がある。又、クロムメッキの薄皮層の水分を蒸発させたことにより、クラック内にフッ素化合物が進入するため、クロムメッキの薄皮層とフッ素薄皮層との結合状態が強固となる。このため、フッ素皮膜が薄くでき、従来と比較して非常に薄い。」(2ページ左上欄8行〜右上欄4行)

ウ「まず、表面にエッチング等の粗面加工を施していない素材1を、0℃以下の浴中でその外表面に金属クロム(重量60%)、クロム酸化物(重量30〜35%)及び水分(重量5〜10%)よりなる防錆のためのクロムメッキを電解により行ない、クロムメッキの薄皮層2を形成する。この薄皮層2の厚さt1は1〜2μm程度で薄く、その外表面には超微細なクラック4があり、又、素材1には薄皮層2のクロムが浸入し、第2図に示すように拡散層3ができる。この薄皮層2及び拡散層3により防錆効果が高まり、薄皮層2と素材1との結合が強固となって剥離が防止される。
次に、第3図に示すように前記薄皮層2を加熱して5〜10%の水分を蒸発させ、その外表面に四フッ化エチレン(重量60%)及び水を溶剤としての界面活性剤により溶解してなるフッ素化合物をスプレー塗布し、フッ素薄皮層5(厚さt2は2〜3μm)を形成する。このとき、前記クロムメッキの薄皮層2の水分が蒸発してできた粗面2a及びクラック4内にフッ素化合物が進入する。
その後、これを380〜430℃の温度で加熱乾燥させ、クラック4内に進入したフッ素化合物が軟化し、薄皮層2と結合する。これで、素材1の表面皮膜形成が完了される。
さて、本発明実施例ではクロムメッキの薄皮層2の水分を蒸発させたことにより、クラック4内にフッ素化合物が進入するため、クロムメッキの薄皮層2に対するフッ素薄皮層5のアンカー効果が生じ、両者の結合状態が強固となる。
さらに、クロムメッキの薄皮層2とフッ素薄皮層5との結合が強固であるため、フッ素薄皮層5の厚さt2を小さくでき、層全体の厚さt1+t2が従来と比較して3〜5μmと非常に薄い。」(2ページ右上欄8行〜左下欄20行)

エ 第1図


オ 第2図


カ 第3図


(2)引用文献に記載された発明
上記(1)の記載および図示から、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「素材1の外表面に粗面2a及び超微細なクラック4があるクロムメッキの薄皮層2を形成し、該薄皮層2の外表面に四フッ化エチレン及び水を溶剤としての界面活性剤により溶解してなるフッ素化合物をスプレー塗布しフッ素薄皮層5を厚さt2として2〜3μm形成した素材1の表面皮膜形成において、該薄皮層2の外表面にフッ素化合物をスプレー塗布し、該クロムメッキの薄皮層2にフッ素薄皮層5を形成した、表面皮膜が形成された素材1の構造。」

4 引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「素材1」は、本願発明の「ワーク」に相当し、
以下、同様に、
「粗面2a及び超微細なクラック4」は、「微細な」「凹凸部」に、
「クロムメッキの薄皮層2」は、「薄膜の一次皮膜」に、
「四フッ化エチレン及び水を溶剤としての界面活性剤により溶解してなるフッ素化合物」は、「塗料」に、
「スプレー塗布」により生じる状態は、「付着」に、
「フッ素薄皮層5」は、「薄膜かつ単一の塗膜層」に、
各々相当する。
また、引用発明の「粗面2a及び超微細なクラック4があるクロムメッキの薄皮層2」と、本願発明の「微細な多数の凹凸部を有する薄膜の一次皮膜」とは、「粗面2a」の凸部分と「超微細なクラック4」が各々「凸部」と「凹部」を形成しているので、両者は「ワークの表面に微細な凹凸部を有する薄膜の一次皮膜」の限りにおいて一致する。
以上により、両者は、次の一致点で一致し、かつ、相違点で相違する。

<一致点>
ワークの表面に微細な凹凸部を有する薄膜の一次皮膜を形成し、該一次皮膜の表面に塗料を付着したワークの皮膜形成構造において、一次皮膜の表面の凹凸部に塗料を付着し、該一次皮膜に薄膜かつ単一の塗膜層を形成したワークの皮膜形成構造。

<相違点>
本願発明の「一次皮膜」が有する「微細な」「凹凸部」は、「多数」とされているのに対し、引用発明の「クロムメッキの薄皮層2」は、「粗面2a及び超微細なクラック4」を有するとされているものの、それらが形成する凹凸の個数が多数なのか否かは明らかでない点。

(4)相違点についての検討
上記相違点について検討する。
引用文献1の第1図には薄皮層2の表面に粗面2aとクラック4とが存在すると見てとれる。そして、「クラック4」について、「超微細なクラック4」(上記(1)ウ参照)と記載され、また、第2図の図示では、図示された部分だけでもクラック4が10数個存在していることが確認できる。
そうすると、引用発明に接した当業者であれば、クロムメッキを用いて、「超微細」な「クラック4」と、粗面2aとを、薄皮層2の表面に亘って存在させようとした場合、「クラック4」及び「クラック4」を形成することによって生じた凹凸について、これを「多数」であると認識することは、当業者が容易に想到することができたものである。

以上のことから本願発明は、引用文献に記載の発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、当審で通知した理由2は解消されない。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさず、また、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-12 
結審通知日 2022-10-18 
審決日 2022-11-08 
出願番号 P2015-118459
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B32B)
P 1 8・ 121- WZ (B32B)
P 1 8・ 536- WZ (B32B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 西村 泰英
藤井 眞吾
発明の名称 ワークの皮膜形成構造およびワークの皮膜形成方法  
代理人 千明 武  

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