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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1392523
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-26 
確定日 2022-12-15 
事件の表示 特願2016−250408「ロキソプロフェン含有の医薬製剤」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 3月 1日出願公開、特開2018− 30829〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)12月26日(優先権主張 平成27年12月25日、平成28年8月17日)の出願であって、その主な手続の経緯は、次のとおりである。

令和1年 5月 8日付け 拒絶理由通知書
同年 9月 2日 手続補正書及び意見書の提出
令和2年 1月 7日付け 拒絶理由通知書
同年 5月18日 意見書の提出
同年 6月 1日付け 拒絶理由通知書
同年10月 7日 意見書の提出
令和3年 1月21日付け 拒絶査定
同年 4月26日 審判請求書の提出
同年 5月28日 審判請求書の請求の理由についての
手続補正書(方式)の提出

2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1〜7に係る発明は、令和1年9月2日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)ロキソプロフェン又はその塩;
(B)トウガラシ又はその抽出物;
を含有する液状の組成物が、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容されてなる、医薬製剤。」

3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献3.特開2014−224110号公報(主引例)
引用文献5.医薬品インタビューフォーム ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」、2015年2月作成(第1版)、辰巳化学株式会社、p.1−16
引用文献6.医薬品インタビューフォーム ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」、2015年6月改訂(第3版)、株式会社陽進堂、p.1−30

4 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献3の記載事項
引用文献3には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。以下この審決において同様である。

・特許請求の範囲
「【請求項1】
ロキソプロフェンおよびノニル酸ワニリルアミドを含有する外用消炎鎮痛剤組成物。」

・発明の詳細な説明
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ロキソプロフェンのもつ優れた鎮痛消炎作用を減弱することなく、打撲・捻挫・激しいスポーツの後・腱鞘炎・所謂テニス肘や加齢などにおける、筋肉痛・腰痛・関節痛・肩痛等の症状を改善する外用剤組成物に関する。より詳しくは、ロキソプロフェンを含有する外用剤組成物に、特定の局所温感刺激成分であるノニル酸ワニリルアミドを更に含有させることによって、消炎作用を更に向上させた外用消炎鎮痛剤に関する。」

「【背景技術】
【0002】
プロピオン酸系非ステロイド性解熱鎮痛消炎剤(NSAID)であるロキソプロフェンは、他のNSAIDと同様にプロスタグランジン生合成の抑制作用に基づく解熱・鎮痛・消炎作用を有する。・・・
【0003】
近年、ロキソプロフェンは外用消炎鎮痛剤としてもパップ剤、テープ剤及びゲル剤が臨床に供されている(例えば、非特許文献2参照)。なお、ロキソプロフェンは、皮膚においてもケトン還元酵素によってトランス−OH体(活性体)に変換されることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、トウガラシエキス、カプサイシン、ノニル酸ワニリルアミドおよびニコチン酸ベンジルエステル等は、局所温感刺激作用を有する成分として、OTC外用鎮痛消炎剤に添加される場合がある(例えば、非特許文献3参照)。
【0005】
ロキソプロフェンとノニル酸ワニリルアミドを含有する外用剤組成物は知られていないが、ロキソプロフェンに、薬効補助剤としてトウガラシ末、トウガラシエキス、トウガラシチンキ、カプサイシン、ノニル酸バニリルアミド、ニコチン酸ベンジルエステルなどの温感刺激物を配合することが可能な旨の記載がある(例えば、特許文献2の[0029]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−074873公報
【特許文献2】特開2010−280634公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】薬理と治療 Vol.16 No.2 1988 p.611−619
【非特許文献2】JAPIC 医療用医薬品集 2013 丸善 2012
【非特許文献3】OTC医薬品辞典2010〜11 じほう 2010」

「【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のロキソプロフェンは、ロキソプロフェンナトリウム水和物として第16改正日本薬局方に掲載されている。また、ノニル酸ワニリルアミド(ノナン酸ワニリルアミドまたはノニル酸バニリルアミドともいう)は医薬品添加物辞典2005に掲載されている。
・・・
【0014】
本発明の外用消炎鎮痛剤組成物の具体的な剤形としては、例えば、液剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、貼付剤、エアゾール剤等をあげることができ、各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、日本薬局方などに記載される通常の方法に従い、製造することができる。」
(なお、原文の【0014】では、「各」の後に改行が入っているが、読みにくいため合議体で削除して摘記した。)

「【実施例】
【0017】
(製剤例1)液剤
(表1)
100g中(g) a b c
――――――――――――――――――――――――――――――――
ロキソプロフェンナトリウム 0.5 1 2
ノニル酸ワニリルアミド 0.1 0.3 1
エタノール 50 50 50
精製水 残部 残部 残部
――――――――――――――――――――――――――――――――
上記成分および分量をとり、日局製剤総則「外用液剤」の項に準じて液剤を製造する。
・・・
【0020】
(試験例1)消炎効果試験
(1)被検物質
ロキソプロフェンナトリウム・2水和物は第一三共製のものを、ノニル酸ワニリルアミドおよびニコチン酸ベンジルエステルは和光純薬工業製のものを使用した。各被験物質は、溶媒として50%エタノールを用い、ロキソプロフェンについては1%濃度となるように調製し、ノニル酸ワニリルアミドおよびニコチン酸ベンジルエステルについては0.5%となるように調製した。
(2)使用動物
Wistar今道雄性ラット5週齢(動物繁殖研究所)を5日間の検疫及び2日間の馴化後に使用した。動物は温度20−26℃、湿度30−80%、照明時間8−20時に制御されたラット飼育室内で5匹/ケージにて飼育した。マウス・ラット用固形試料(フナバシファーム製、F−2)およびフィルターを通した水道水を自由に摂取させ、1週間予備飼育した後、毛並、体重増加などの一般症状の良好な動物を選別して供試した。
(3)試験方法
試験前日夕刻より絶食(飲水は自由)させ、試験当日の朝より絶水し試験終了まで継続した。試験当日、動物の個体識別のための標識を行った後、動物用天秤を用いて体重を測定後、ラットの右後肢体積を、足容積測定装置(Volume Meter TK−105、室町機械製)を用いて測定して投与前値とした。
溶媒として50%エタノールを用いて1%濃度のカラゲニン(シグマアルドリッチジャパン製)溶液に調製したものを、被験物質塗布直前にラットの右後肢皮下に0.1mL投与して炎症浮腫を惹起させた。
カラゲニン皮下投与(起炎)直後に、各被験物質をラットの右後肢に0.1mL塗布した。塗布後、動物を速やかに補綴器具で補綴し、塗布部分を動物が舐めることを回避した。
カラゲニン皮下投与3時間後に右後肢容積を測定し、各固体の浮腫強度を次式により算出した(N=5)。
【0021】
【数1】
浮腫強度=(カラゲニン投与後の肢体積/カラゲニン投与前の肢体積)−1
【0022】
対照群(50%エタノール媒体のみ投与)の平均浮腫強度に対する被験物質投与群のそれより、浮腫抑制率(%)を次式より求めた。
【0023】
【数2】
浮腫抑制率(%)=100×
(1−被験物質投与群の平均浮腫強度/対照群の平均浮腫強度)
【0024】
(4)試験結果
各被験物質群における、浮腫抑制率の結果を表3に示す(N=5)。
【0025】
(表3)
被験薬(濃度%) 浮腫抑制率(%)
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ロキソプロフェン(1) 25.8
ノニル酸ワニリルアミド(0.5) 0.0
ロキソプロフェン(1)+ノニル酸ワニリルアミド(0.5) 38.2
――――――――――――――――――――――――――――――――――
ニコチン酸ベンジルエステル(0.5) 5.2
ロキソプロフェン(1)+ニコチン酸ベンジルエステル(0.5)30.3
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0026】
表3より、ロキソプロフェンにノニル酸ワニリルアミドを併用すると浮腫抑制率の増強作用が認められたが、同じ、刺激成分であるニコチン酸ベンジルエステルの併用では際立った増強は発現しないという意外な結果が得られた。
以上の結果より、ロキソプロフェンを含有する外用鎮痛消炎剤において、更に、ノニル酸ワニリルアミドを添加すれば、ノニル酸ワニリルアミドのもつ温感効果の付加のみならず、ロキソプロフェンの抗浮腫効果が増強されることが判明した。」

(2)引用発明
上記(1)の記載、特に、製剤例1(処方b)についての、【0017】の「日局製剤総則「外用液剤」の項に準じて液剤を製造」する旨の記載、並びに、請求項1及び試験例1の記載によれば、引用文献3には、以下の発明が記載されていると認められる。

「100g中の組成が、ロキソプロフェンナトリウムを1g、ノニル酸ワニリルアミドを0.3g、エタノールを50g、残部としての精製水からなる、消炎鎮痛用の外用液剤。」(以下「引用発明」という。)

(3)引用文献5の記載事項
引用文献5には、次の事項が記載されている。
・5a(表紙)


・5b(3頁)
「III.有効成分に関する項目
1.物理化学的性質
(1)外観・性状
白色〜帯黄白色の結晶又は結晶性の粉末である。
(2)溶解性
水又はメタノールに極めて溶けやすく、エタノール(95)に溶けやすく、ジエチルエーテルにほとんど溶けない。」

・5c(4〜5頁)
「IV.製剤に関する項目
1.剤形
(1)投与経路
経皮
(2)剤形の区別、外観及び性状


・・・
2.製剤の組成
(1)有効成分(活性成分)の含量
1g中にロキソプロフェンナトリウム水和物を11.3mg(無水物として10mg)含有する。
(2)添加物
ヒプロメロース、1,3−ブチレングリコール、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、メチルパラベン、l−メントール、エタノール
・・・
5.製剤の各種条件下における安定性1)
<長期保存試験>
最終包装製品を用いた長期保存試験(25℃、相対湿度60%、2年)の結果、ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」は通常の市場流通下において2年間安定であることが確認された。

<加速試験>
加速試験(40℃、相対湿度75%、6ヵ月)の結果、ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」は通常の市場流通下において3年間安定であることが推測された。


・5d(14頁)
「X.管理的事項に関する項目
1.規制区分
製剤:ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」 該当しない
有効成分:ロキソプロフェンナトリウム水和物 劇薬
2.有効期間又は使用期限
使用期限:外装に表示(2年)
3.貯法・保存条件
室温保存、気密容器
・・・
7.容器の材質
容 器:ポリプロピレン
管 :ポリエチレン
キャップ:ポリプロピレン 」

(4)引用文献6の記載事項
引用文献6には、次の事項が記載されている。
・6a(表紙)


・6b(9頁)
「III.有効成分に関する項目
1.物理化学的性質
(1)外観・性状
白色〜帯黄白色の結晶又は結晶性の粉末である。
(2)溶解性
水又はメタノールに極めて溶けやすく、エタノール(95)に溶けやすく、ジエチルエーテルにほとんど溶けない。」

・6c(10〜12頁)
「IV.製剤に関する項目
1.剤形
(1)投与経路
経皮
(2)剤形の区別、外観及び性状
・・・
ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」
性状:無色〜微黄色透明の液で、芳香を有する。
・・・
2.製剤の組成
(1)有効成分(活性成分)の含量
・・・
ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」
1g中、ロキソプロフェンナトリウム水和物11.3mg(無水物として10mg)を含有する。
(2)添加物
・・・
ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」
添加物として、ヒプロメロース、1,3−ブチレングリコール、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム水和物、メチルパラベン、l−メントール、エタノールを含有する。
・・・
5.製剤各種条件下(当審注:原文は「下」が「化」となっている。)における安定性2)
・・・
ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」
<長期保存試験>
最終包装製品を用いた長期保存試験の結果、外観及び含量等は規格の範囲内であり、ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」は通常の市場流通下において2年安定であることが確認された。


・6d(27〜28頁)
「X.管理的事項に関する項目
1.規制区分
該当しない
2.有効期間又は使用期限
・・・
ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」
有効期間:2年
3.貯法・保存条件
・・・
ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」
室温保存、気密容器
・・・
7.容器の材質
・・・
ロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」
ポリプロピレンボトル、ポリエチレン管、ポリプロピレンキャップ」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「ロキソプロフェンナトリウム」は、ロキソプロフェンのナトリウム塩であるから、本願発明の「成分(A)」である「ロキソプロフェン又はその塩」に相当する。

(2)本願発明の「トウガラシ又はその抽出物」に関し、本願明細書の【0014】には、「本発明において、「トウガラシ又はその抽出物」としては、トウガラシ、トウガラシ末、トウガラシエキス(軟エキス、乾燥エキス)、カプサイシン、ノナン酸バニリルアミドが好ましく、・・・ノナン酸バニリルアミドが特に好ましい。」と記載されているところ、「ノナン酸バニリルアミド」は、「ノニル酸ワニリルアミド」の別名である(必要なら、日本医薬品添加剤協会のホームページ(http://www.jpec.gr.jp/detail=normal&date=safetydata/na/dano3.html)の「和名 ノニル酸ワニリルアミド」の項目参照。)から、引用発明の「ノニル酸ワニリルアミド」は、本願発明の「成分(B)」である「トウガラシ又はその抽出物」に相当する。

(3)引用発明の「ロキソプロフェンナトリウム」、「ノニル酸ワニリルアミド」、「エタノール」及び「精製水」からなる「外用液剤」は、複数の成分を含む液剤であるから、本願発明の「液状の組成物」に相当するといえる。
また、上記4(2)でも記載したとおり、引用発明の「外用液剤」は、「日局製剤総則「外用液剤」の項に準じて」製造されたものであるところ、日局(当審注:日本薬局方の略称)の製剤総則において、外用液剤は気密容器に保存されるものとされているとおり(必要なら、技術常識を示す文献として、「第十三改正 日本薬局方解説書 通則 製剤総則 一般試験法」1996年、東京廣川書店刊行のA−66〜A−67の「3.液剤」の項目参照。)、引用発明の「外用液剤」は、容器に収容されたものであるといえる。
そうすると、本願発明と引用発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。

<一致点>
次の成分(A)及び(B):
(A)ロキソプロフェン又はその塩;
(B)トウガラシ又はその抽出物;
を含有する液状の組成物が、容器に収容されてなる、医薬製剤。
<相違点>
液状の組成物を収容する容器について、本願発明では、「ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器」であることが特定されているのに対して、引用発明では、容器の材質についての特定はされていない点。

6 判断
(1)相違点について
上記相違点について検討する。
外用液剤の容器としては、ガラスびんのような破損しやすく取り扱いが難しいガラス製容器よりも、ポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチック製容器を使用することが一般的であり(必要なら、本願優先日当時の技術常識を示す文献として、杉原 正泰著「医薬品の包装設計」、1984年10月20日第1版発行、株式会社南山堂、269、272〜274頁、特に、269頁の「A.液剤の容器」の3〜5行及び274頁の1〜2行参照。)、また、市販の外用製剤の容器の多くはポリエチレンやポリプロピレン製であった(例えば、アンメルツヨコヨコ(https://web.archive.org/web/20151124001622/http://www.kobayashi.co.jp/seihin/an_y/index.htmlの「廃棄方法」の欄、Copyright(c)2015)、ニューアンメルシンヨコヨコA(https://web.archive.org/web/20150613015502/http://www.kobayashi.co.jp:80/seihin/nan_y/index.htmlの「廃棄方法」の欄、Copyright(c)2012))。
そして、従来から市販されている外用消炎鎮痛剤である、ロキソプロフェンを含有する液剤においても、かかる汎用のポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィン製の容器に収容した製剤とすることが一般的であった(引用文献5(摘記5c、5d)及び引用文献6(摘記6c、6d)参照。)。
そうすると、引用発明の外用液剤を、ポリエチレンやポリプロピレン製の容器に収容された医薬製剤とすることは、当業者が極めて自然に想到し得たことといえる。
よって、引用発明を、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得ることである。

(2)本願発明の効果について
ア 本願発明の効果に関し、本願明細書には以下の記載がある。
「【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状・・・の組成物の、高温保存時における変色を抑制できる。従って、保存安定性に優れた、ロキソプロフェン又はその塩を含有する医薬を提供することができる。」
「【0064】
[試験例1]保存試験 その1
表1に示す成分及び分量を含有する液状の組成物を調製し、ポリエチレン製又はガラス製の容器に収容して、それぞれ実施例1、比較例1、2の医薬製剤とした。
得られた各種の医薬製剤を、80℃の暗所に1週間保存し、3日間保存後及び1週間保存後の変色(黄変)の有無を目視により評価した。なお、結果は、変色が生じなかったものを○、変色が生じたものを×として評価した。
結果を表1に示す。
【0065】

【0066】
比較例1(ポリエチレン製容器収容)と比較例2(ガラス製容器収容)との対比より、組成物をポリエチレン製の容器に収容することにより3日間保存後の変色が抑制され多少の変色抑制作用が発揮されるものの、その作用は十分では無く、1週間保存後には変色が生じることが確認された。
一方、実施例1(トウガラシ軟エキス配合、ポリエチレン製容器収容)と比較例1(ポリエチレン製容器収容)との対比より、組成物にさらにトウガラシ軟エキスを配合したうえでポリエチレン製の容器に収容することによって、1週間保存後の変色も抑制され、十分な変色抑制作用が発揮されることが確認された。
【0067】
以上の試験結果より、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物に、さらにトウガラシ又はその抽出物を含有せしめ、かつ、これをポリオレフィン系樹脂製の容器に収容することにより、高温保存時における変色を抑制できることが明らかとなった。
【0068】
[試験例2]保存試験 その2
表2に示す成分及び分量を含有する液状の組成物を調製し、ポリエチレン製又はガラス製の容器に収容して、それぞれ実施例2、比較例3、4の医薬製剤とし、試験例1と同様の方法により80℃の暗所に3日間及び1週間保存した後の変色の有無を評価した。
結果を表2に示す。
【0069】

【0070】
以上の試験結果より、トウガラシ軟エキスに代えてノナン酸バニリルアミドを含有せしめた場合にも、同様に高温保存時における変色の抑制が確認された。
【0071】
[試験例3]保存試験 その3
表3に示す成分及び分量を含有する液状の組成物を調製し、ポリエチレン製の容器に収容して実施例3の医薬製剤とし、試験例1と同様の方法により80℃の暗所に1週間保存した後の変色の有無を評価した。
結果を表3に示す。
【0072】


【0073】
以上の試験結果より、低級アルコールとしてイソプロパノールに代えてエタノールを用いた場合でも、同様に高温保存時における変色の抑制が確認された。
【0074】
以上の試験例1〜3の結果より、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状又は半固形状の組成物に、さらにトウガラシ軟エキス、ノナン酸バニリルアミドに代表されるトウガラシ又はその抽出物を含有せしめ、かつ、ポリオレフィン系樹脂製の容器に収容することにより、高温保存時における変色を抑制できることが明らかとなった。
【0075】
[試験例4]保存試験 その4
表4に示す成分及び分量を含有する液状の組成物を調製し、ポリエチレン製又はガラス製の容器に収容して、それぞれ実施例4、比較例5、6又は参考例1の医薬製剤とし、試験例1と同様の方法により80℃の暗所に2週間保存した後の変色の有無を評価した。
結果を表4に示す。
【0076】

【0077】
比較例5と、参考例1(ロキソプロフェン非配合)との対比より、80℃2週間の保存後において確認された変色は、ロキソプロフェンを液状の組成物に配合したことに起因するものであることが確認された。
そして、実施例4と、比較例5(ガラス製容器収容)、比較例6(ノナン酸バニリルアミド非配合)との対比より、液状の組成物にさらにノナン酸バニリルアミドを配合し、かつ、ポリエチレン製の容器に収容することにより、斯かる変色を抑制できることが確認された。
【0078】
[試験例5]保存試験 その5
表5に示す成分及び分量を含有する液状の組成物を調製し、ポリプロピレン製の容器に収容して実施例5、6の医薬製剤とし、試験例1と同様の方法により80℃の暗所に2週間保存した後の変色の有無を評価した。
結果を表5に示す。
【0079】


【0080】
以上の試験結果より、ポリオレフィン系樹脂製容器としてポリエチレン製容器に代えてポリプロピレン製容器を用いた場合でも、同様に高温保存時における変色の抑制が確認された。
【0081】[試験例6]保存試験 その6
実施例1、3の医薬製剤に収容されているのと同一の液状の組成物を調製し、これを、容器において塗布部材として用いられる、低密度ポリエチレン製の連通多孔質体(MAPS:(株)イノアックコーポレーション)に含浸させた後、80℃の暗所に1週間保存したが、いずれの組成物においても明らかな変色は認められなかった。」

イ 上記アの本願明細書の記載、特に、【0010】の記載によれば、本願発明の医薬製剤は、ロキソプロフェン又はその塩を含有する液状の組成物の高温保存時における変色を抑制でき、保存安定性に優れたロキソプロフェン又はその塩を含有する医薬を提供できるという効果を奏するものである。
そして、本願発明の、成分(A)(ロキソプロフェン又はその塩)及び成分(B)(トウガラシ又はその抽出物)を含有する液状の組成物を収容する保存容器として、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器を採用する点の技術的意義に関し、本願明細書の試験例4(【0076】の【表4】)には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とノナン酸バニリルアミドを含有する液状組成物を80℃で2週間保存後、液状の組成物の外観変色の有無を目視により評価し、変色が生じなかったものを「○」、変色が生じたものを「×」と評価した(評価方法【0064】)ところ、ガラス製容器に収容して保存した場合(比較例5)には、外観評価は「×」であり、変色が生じた(比較例5)が、ポリエチレン製容器に収容して保存した場合(実施例4)には、外観評価は「○」であり、変色は生じなかったことが示されている。また、試験例5(【0079】の【表5】)には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とノナン酸バニリルアミドを含有する液状組成物の保存容器をポリプロピレン製容器とした場合であっても、80℃で2週間保存後の外観評価は「○」であり、変色は生じなかったことが示されている。
さらに、試験例1(【0065】【表1】)には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とトウガラシ軟エキスを含有する液状組成物をポリエチレン製容器で80℃で3日間保存した場合(実施例1)についての結果が、試験例2(【0069】【表2】)には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とノナン酸バニリルアミドを含有する液状組成物をポリエチレン製容器で80℃で3日間、あるいは1週間保存した場合についての結果が、試験例3(【0072】【表3】)には、ロキソプロフェンナトリウム水和物とノナン酸バニリルアミドを含有する液状組成物をポリエチレン製容器で80℃で1週間保存した場合についての結果が、それぞれ記載されており、いずれの場合も保存後の外観評価は「○」であり、変色は生じなかったことが示されている。
そうすると、当業者は、これら上記アで記載した本願明細書の記載から、成分(A)(ロキソプロフェン又はその塩)及び成分(B)(トウガラシ又はその抽出物)を含有する液状の組成物を収容する保存容器として、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器を採用した本願発明の医薬製剤は、80℃で最大2週間保存後においても変色(黄変)が生じない、高温保存時における変色が抑制できるものであり、当該液状の組成物をガラス容器に収容した医薬製剤に比べて、保存安定性に優れていることが理解できる。

ウ なお、「80℃」という保存条件は、一般的な長期保存試験(25±2℃、60±5%RH又は30±2℃、60±5%RH)、一般的な加速試験(40±2℃、75±5%RH)とも異なっているし(必要なら、四ツ枡智久ら「製剤学(改訂第6版)」第2刷、2013年12月20日発行、南江堂の197〜205頁「第5章 製剤の品質確保,保証」、特に、203頁の表5・2参照。)、「80℃」という高温は、医薬品の現実の保存・市場流通条件では想定し得ない高温条件であるから、本願明細書に記載の「80℃、2週間」での試験は、現実の流通・保存条件において、実際に80℃という高温にさらされる場合を想定しての保存安定性を確認した試験というよりも、一般的な保存・市場流通条件で想定される範囲内での安定性を確認するための試験であることは、明らかである。このことは、審判請求人が、令和2年10月7日提出の意見書の4頁の下から3段落において、「医薬製剤の安定性の予測は、アレニウスの式に基づく反応速度論的解析により行われるものですが、この原理を利用した80℃という保存条件での苛酷試験は、40℃という保存条件の加速試験と同様に、本願出願前から広く実施されていた試験です。」と主張し、また、同5頁の3段落のなお書きにおいて、「先願主義を採用する日本の特許制度の下では、可能な限り出願を急がざるを得ないため、本出願人は試験期間を短縮すべく80℃という保存条件を採用したものであって、特殊な条件を採用する意図も全くありません」と主張することとも合致する。

エ 本願発明の効果についての検討
(ア) 医薬において、保存・市場流通下での安定性が重要な検討項目であり、医薬品の製造承認を得る際にも、安定性についての資料の提出が義務づけられていることは技術常識であり、医薬の保存安定性は、当業者が当然に確認する事項である。
(イ) 本願の優先日前に既に市販されていたロキソプロフェンナトリウム含有の外用消炎鎮痛剤に関する情報を記載する引用文献5には、ロキソプロフェンナトリウム水和物を含有する液状の医薬組成物がポリプロピレン及びポリエチレンからなる容器に収容された医薬製剤であるロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「TCK」(摘記5d)が、長期保存試験(25℃、相対湿度60%、2年)の結果、試験開始時に「無色透明の液で、芳香を有した」性状であったものが、24ヶ月後においても性状は「変化なし」であったこと、及び通常の市場流通下において2年間安定であることが確認されたことが記載され(摘記5c)、また、加速試験(40℃、相対湿度75%、6か月)においても、試験開始時に「無色透明の液で、芳香を有した」性状であったものが、6か月後においても性状は「変化なし」であり、通常の市場流通下において3年間安定であることが推測されたことが記載されている(同摘記5c)。
また、同様に、市販されていたロキソプロフェンナトリウム含有の外用消炎鎮痛剤に関する情報を記載する引用文献6にも、ロキソプロフェンナトリウム水和物を含有する液状の医薬組成物がポリプロピレン及びポリエチレンからなる容器に収容された医薬製剤であるロキソプロフェンNa外用ポンプスプレー1%「YD」(摘記6d)が、長期保存試験の結果、外観及び含量等は規格の範囲内であり、通常の市場流通下において2年間安定であることが確認されたことが記載されている(摘記6c)。
(ウ) そうすると、当業者は、引用発明のロキソプロフェンナトリウムを含有する外用液剤を、外用液剤の容器として一般的であり、引用文献5、6に示されるように、ロキソプロフェン含有液剤を収容する容器としても一般的であるポリエチレン製、ポリプロピレン製の容器に収容した製剤とする場合であっても、当然に、その製剤の保存安定性を確認するといえるし、そのような製剤は、本願の優先日前に市販されていたロキソプロフェンナトリウム含有の外用消炎鎮痛剤液剤と同様に、通常の市場流通下において、2〜3年間は安定であり、変色のような外観変化を生じることなく2〜3年程度保存できると予測するといえる。
(エ) 一方、上記イで記載したとおり、本願明細書の記載から、当業者は、本願発明の、ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器に収容されてなる、医薬製剤が「80℃、2週間」保存後においても変色(黄変)が生じないことは理解できるものの、上記ウで記載したとおり、「80℃、2週間」という保存条件は、通常の市場流通・保存条件や、一般的な長期保存試験や加速試験とは異なる条件であって、本願明細書で示された「80℃、2週間」での変色を生じないという効果は、通常求められる効果ではなく、実際に、医薬製剤として市場に流通し、保存された際に、通常の保存・市場流通条件での2〜3年にわたる安定性が予測されるロキソプロフェン含有液状医薬製剤に比べて、どの程度の有利な効果を示すものであるのかを把握することはできない。
(オ) そうすると、本願発明の効果が、従来技術(引用文献3、5及び6)から予測される範囲を超えるものであるということはできない。

(3)以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献3に記載された発明、並びに、引用文献5及び6に示される一般的な技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)審判請求人の主張について
ア 審判請求人は、令和3年5月28日提出の手続補正書(方式)(3〜5頁の項目3.(2)(II))において、概略、以下の主張をする。

(ア)主張(i)
引用文献5〜6には、ロキソプロフェンを含む組成物をポリエチレン製容器やポリプロピレン製容器に収容したものについて安定性試験した結果が記載されるのみであり、「ポリエチレン及びポリプロピレンよりなる群から選ばれる1種以上のポリオレフィン系樹脂製容器」と、その内容物の変色を抑制する効果との関連性については記載も示唆もない。
また、本願の優先日後に公開された参考資料9(特開2016−108260号公報)の【0034】の記載から、40℃で6か月保存後(引用文献5の加速試験の条件)に仮に安定な場合には、80℃で保存したときに11日間安定なものとほぼ同等ということは明白であり、本願明細書の試験例4〜5のように80℃で2週間保存した後でも変色が生じない場合には、40℃で6か月保存後に変色が生じないというだけのものよりも優れた効果を示すものであるし、また、40℃で6か月保存後に安定な場合には、通常の市場流通下において3年間安定なものとほぼ同等であるところ(引用文献5の5頁「加速試験」参照。)、80℃で2週間保存した後でも変色が生じないものは、通常の市場流通下において変色が2年間(引用文献6の長期保存試験の条件)生じないものより尚更優れると確信する。

(イ)主張(ii)
日本の製薬企業等によって構成される団体である日本製薬工業協会がまとめた「医薬品インタビューフォーム作成の手引き(改訂版) 平成25年4月改定」(参考資料11)の40頁の「5.製剤の各種条件下における安定性」の項に「(2)規格内の変動は「変化なし」と記載してもよい.」と記載されていることから明らかなとおり、引用文献5の5頁に示される各表中の「変化なし」との評価は、性状が「無色〜微黄色透明の液で、芳香を有する」という規格の範囲内から逸脱が無かったということを意味するものに過ぎず、試験開始時には無色透明であったものが保存後に微黄色透明に変化した(規格範囲内で変動が生じた)ことを排除ないし否定するものではない。
また、引用文献6の12頁の3つ目の表についても同様であり、性状について「適合」と評価されているのは、同10頁の「無色〜微黄色透明の液で、芳香を有する」という性状規格に適合したということを意味するものに過ぎず、保存後でも無色透明な状態を維持できるということを示したものではない。

イ 審判請求人の主張についての検討
(ア)主張(i)について
引用文献5〜6には、ポリエチレン製容器等とその内容物の変色を抑制する効果との関連性については記載も示唆もない旨の主張に関しては、上記(2)エで記載したとおり、医薬の保存安定性(これには、内容物の変色のような外観の変化が含まれる。)は、当業者が当然に確認する事項にすぎず、引用文献5〜6に容器の材質と変色の抑制効果との関連性についての記載がなくとも、引用発明の外用液剤を汎用のポリエチレン製等の容器に収容した場合に、保存時における内容物の変色について確認することは当業者が当然行うことに過ぎない。

審判請求人の指摘する参考資料9の【0034】には、「医薬品の製造承認申請に際して添付すべき安定性試験に関するガイドラインによれば、加速試験として6ヶ月間の保存条件(40℃±2℃/75%RH±5%RH)におけるデータを提出することが必要とされる。一般に温度が10℃上昇すると反応は2倍に加速されると言われるので、例えば50℃の保存条件であれば3ヶ月間保存したデータは、前記加速試験と同じ程度に評価したものと推定される。同様に計算すると、80℃では約11日間保存すれば前記申請の加速試験の条件と同等であると考えられる(ただし、いずれにしても長期保存および加速試験のデータは申請上必要であるため、別途試験をする必要はある)。」と記載されている。
そして、【0034】に記載のとおり、一般に、温度が10℃上昇すると反応は2倍に加速されると言われている(当審注:これは、審判請求人が令和2年10月7日に提出した意見書の4頁の下から3段落で指摘している「アレニウスの式に基づく反応速度論的解析」に基づく見解と思われる。)としても、【0034】には、「いずれにしても長期保存および加速試験のデータは申請上必要であるため、別途試験する必要はある。」とも記載されていることからすれば、参考資料9の記載は、あくまで、保存安定性の評価としては推定の域を出ないものである。
ここで、上記推定によれば、本願発明の医薬製剤が80℃で14日間安定であれば、40℃では、概略7〜8ヶ月程度安定ということが推定されるが、この程度の期間安定であるとしても、引用文献5に記載(摘記5c)の「加速試験(40℃、相対湿度75%、6ヵ月)」の結果に基づき「通常の市場流通下において3年間安定であることが推測された」ロキソプロフェン含有医薬製剤と比べて、顕著に優れた保存安定性であるとまでは解されない。 また、引用文献6には、引用文献5のような加速試験の結果は記載されていないが、「通常の市場流通下において2年間安定であることが確認された」(摘記6c)ものであるし、製剤組成(成分)が、引用文献5と一致する液剤であり、同程度の加速安定性を示す蓋然性が高いから、同様に、本願明細書の記載から推定される保存安定性が、引用文献6の記載を踏まえて顕著であるということもできない。
以上のとおり、参考資料9の記載を検討しても、本願発明の医薬製剤が、引用文献5及び6の記載から予測を超える顕著な効果であるとはいえない。

なお、審判請求人は、手続補正書(方式)の5頁において、「80℃、4週間」での保存安定性を確認した結果(表B)も示しているが、表Bに記載の結果は、本願明細書には何ら記載のない試験条件であり、当該結果を、本願発明の効果として参酌することはできない。

よって、審判請求人の主張(i)は採用できない。

(イ)主張(ii)について
参考資料11に、製剤の安定性の試験において、規格内の変動は「変化なし」と記載してもよい旨が記載されていることからすると、引用文献5の長期保存試験及び加速試験の結果を示す表(摘記5c)における「変化なし」が、試験開始時の性状とされる「無色透明の液」を意味するのか、規格内の「無色〜微黄色透明の液」であることを意味するのかは明らかではないし、引用文献6についても、長期保存試験の結果(摘記6c)における「適合」が、規格の性状である「無色〜微黄色透明の液」の範囲内において、色の変化があったかは不明である。
しかしながら、いずれにせよ、保存後の製剤は、少なくとも「無色〜微黄色透明の液」の性状であり、当業者が保存安定性に疑義を生じるほどの色調変化が生じていなかったことに変わりはない。
一方、本願明細書には、保存試験に関し、「保存後の変色(黄変)の有無を目視により評価した」と記載されており(【0064】)、製品がどのような性状であったのか(無色であったのか、微黄色透明であったのか)は明示されていないが、ロキソプロフェンナトリウム含有医薬製剤の規格自体が「無色〜微黄色透明」であることに鑑みれば、当業者は、本願明細書において目視により確認される「黄変」とは、「無色透明」の製剤が、当該製剤自体の規格内の「微黄色透明」に変化する場合を想定しているというよりも、むしろ、目視で評価を行うパネラーが、「変色(黄変)」したと評価できる程度に明確な「黄色」に「変色」する場合(つまり、「規格内」の程度を超えるレベルの変色)を想定して確認した結果に基づく評価と理解するものといえる。
そうすると、参考資料11を参酌しても、当業者が、引用文献5及び6に記載の製剤が、保存後において本願明細書に記載される「変色(黄変)」が生じたものに相当すると理解することはできない。

なお、本願明細書には、本願明細書に記載の「変色(黄変)」に、「微黄色透明」が含まれることについての記載はないし、目視で評価を行ったパネラーの専門性や人数等の記載もなく、本願明細書に記載の評価結果を、市販の医薬品についての正式な情報を記載する引用文献5、6のような「医薬品インタビューフォーム」に記載される評価結果と同視することもできない。

よって、審判請求人の主張(ii)は採用できない。

(ウ)さらに、主張(i)及び(ii)に関し、上記(1)で記載したとおり、そもそも、引用発明の外用液剤を、ポリエチレンやポリプロピレン製のプラスチック製容器に収容された医薬製剤とすること自体が、当業者が極めて自然に想到し得たことであり、破損しやすく取り扱いが難しいガラス製容器ではなく、かかる汎用の材質からなるプラスチック製容器に保存した場合に、ガラス製容器に保存した場合に比べて保存安定性が優れていたとしても、それは、当業者が引用発明の液剤を汎用の材質の容器に収容して、通常の手法に従い、医薬品製剤において義務づけられている手順を踏襲して保存安定性を確認した結果に過ぎず、そのことをもって、本願発明が進歩性を認めるほどの顕著な効果であるということはできない。また、上述のとおり、本願明細書に記載される「80℃、2週間」で変色しないという効果は、通常求められる効果ではなく、実際の保存・流通条件において、従来技術から予測される保存安定性に比べて顕著に優れた保存安定性であることを意味するとも解されない点でも、本願発明の効果が、本願発明の進歩性を肯定するほどに顕著な効果であるとは解されない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用文献3に記載された発明、並びに、引用文献5及び6に示される一般的な技術に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-09-29 
結審通知日 2022-10-04 
審決日 2022-10-27 
出願番号 P2016-250408
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 原田 隆興
渕野 留香
発明の名称 ロキソプロフェン含有の医薬製剤  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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