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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1392573
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-02 
確定日 2022-12-05 
事件の表示 特願2019−553213「最適化された構成を伴う回転電気機械」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月 4日国際公開、WO2018/177896、令和 2年 4月23日国内公表、特表2020−512806〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)3月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2017年(平成29年)3月29日 フランス国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和元年10月21日 :翻訳文の提出
令和2年 9月 9日付け:拒絶理由通知書
令和3年 2月10日 :意見書、手続補正書の提出
同年 2月25日付け:拒絶査定
同年 7月 2日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 7月29日 :手続補正書(請求の理由の補正)の提出

第2 令和3年7月2日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年7月2日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。以下、本件補正後の請求項1に係る発明を「本件補正発明」という。)。

「【請求項1】
−少なくとも1つの永久磁石(20)を備える回転軸(X)に沿って延びるロータ(12)と、
−前記ロータを取り囲むとともに、複数の切り欠き(30)と電気巻線(25)とが設けられる本体(24)を備え、前記巻線(25)が前記切り欠き(30)内に配置される相巻線(26)を備え、各相巻線(26)が少なくとも1つの導体(35)によって形成される、ステータ(11)と、
を備える自動車両の回転電気機械であって、
−前記ロータ(12)が3個又は4個又は5個の極対を備え、
−前記ステータ(11)は、それぞれがデルタ結合を伴う3相巻線(26)により形成される2つの3相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)を備え、2つの3相システムの各々は、三角形の形態で結合される第1の相(A1;A2)、第2の相(B1;B2)及び第3の相(C1;C2)を含み、
−切り欠き(30)ごとの導体(35)の数は厳密に2よりも多く、各導体(35)が対応する切り欠き(30)内に挿入される活性部(40)を有し、略長方形の断面を伴う前記活性部(40)が3.6mm以下の径方向長さ(L2)を有し、
−前記2つの3相システムが互いに独立しており、それぞれが3相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)に接続される2つの独立したモジュールを備えるインバータ(34)を備える
ことを特徴とする回転電気機械(10)。
【請求項2】
前記インバータ(34)は、30〜60Vの電圧を伴う直流電流バスに接続されることを特徴とする請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項3】
導体の活性部(40)の放射方向の長さ(L3)が1.4mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転電気機械。
【請求項4】
前記ステータ本体(24)の外径(L1)が80mm〜180mmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項5】
前記ステータ本体(24)の外径(L1)が以下の値、すなわち、80、90、100、110、153、161及び180mmのうちの1つの中から選択されることを特徴とする請求項4に記載の回転電気機械。
【請求項6】
前記回転電気機械(10)の最大出力が8kW〜30kWあることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項7】
切り欠き(30)ごとの導体(35)の数が偶数であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項8】
切り欠き(30)ごとの導体(35)の数が4に等しいことを特徴とする請求項7に記載の回転電気機械。
【請求項9】
前記導体(35)は、対応する切り欠き(30)の内部で互いに対して径方向に位置合わせされることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項10】
各相巻線(26)は、特に互いに電気的に接続されるピン(37)の形態を成す複数の導体から形成されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項11】
各相巻線(26)が連続する導体から形成されることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項12】
モータ、発電機、又は、可逆電気機械の形態を成すことを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の回転電気機械。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年2月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
−少なくとも1つの永久磁石(20)を備える回転軸(X)に沿って延びるロータ(12)と、
−前記ロータを取り囲むとともに、複数の切り欠き(30)と電気巻線(25)とが設けられる本体(24)を備え、前記巻線(25)が前記切り欠き(30)内に配置される相巻線(26)を備え、各相巻線(26)が少なくとも1つの導体(35)によって形成される、ステータ(11)と、
を備える自動車両の回転電気機械であって、
−前記ロータ(12)が3個又は4個又は5個の極対を備え、
−前記ステータ(11)は、それぞれがデルタ結合を伴う3相巻線(26)により形成される2つの3相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)を備え、
−切り欠き(30)ごとの導体(35)の数は厳密に2よりも多く、各導体(35)が対応する切り欠き(30)内に挿入される活性部(40)を有し、略長方形の断面を伴う前記活性部(40)が3.6mm以下の径方向長さ(L2)を有する、
ことを特徴とする回転電気機械(10)。
【請求項2】
前記2つの三相システムが互いに独立しており、それぞれが三相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)に接続される2つの独立したモジュールを備えるインバータ(34)を備えることを特徴とする請求項1に記載の回転電気機械。
【請求項3】
前記インバータ(34)は、30〜60Vの電圧を伴う直流電流バスに接続されることを特徴とする請求項2に記載の回転電気機械。
【請求項4】
導体の活性部(40)の放射方向の長さ(L3)が1.4mm以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項5】
前記ステータ本体(24)の外径(L1)が80mm〜180mmであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項6】
前記ステータ本体(24)の外径(L1)が以下の値、すなわち、80、90、100、110、153、161及び180mmのうちの1つの中から選択されることを特徴とする請求項5に記載の回転電気機械。
【請求項7】
前記回転電気機械(10)の最大出力が8kW〜30kWあることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項8】
切り欠き(30)ごとの導体(35)の数が偶数であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項9】
切り欠き(30)ごとの導体(35)の数が4に等しいことを特徴とする請求項8に記載の回転電気機械。
【請求項10】
前記導体(35)は、対応する切り欠き(30)の内部で互いに対して径方向に位置合わせされることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項11】
各相巻線(26)は、特に互いに電気的に接続されるピン(37)の形態を成す複数の導体から形成されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項12】
各相巻線(26)が連続する導体から形成されることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の回転電気機械。
【請求項13】
モータ、発電機、又は、可逆電気機械の形態を成すことを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の回転電気機械。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1の記載を引用する請求項2の記載を当該請求項1の記載を引用しないものとし、さらに、本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項である「ステータ(11)」の「2つの3相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)」について、「2つの3相システムの各々は、三角形の形態で結合される第1の相(A1;A2)、第2の相(B1;B2)及び第3の相(C1;C2)を含」むことを限定するものであって、補正前の請求項2に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、前記1(1)に示す請求項1の記載のとおりである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2014−96857号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次の記載がある。

a 「【請求項1】
周方向に複数のスロット(12b)を有する固定子コア(12a)と、前記スロットごとに収容される導体(16,16x,16y)が電気的に接続されて成形される複数相の巻線(161,162)とを有する固定子(12)において、
前記スロットは、径方向の一方側から他方側に向かって層状に前記導体を収容するように成形され、
一相の前記巻線は、隣り合う第1の前記スロット(A,a,α)および第2の前記スロット(B,b,β)に収容される前記導体を含み、
前記巻線は2n−1(nは正の整数)層と2n層とで第1の前記スロットまたは第2の前記スロットに収容される前記導体同士を電気的に接続して前記固定子を1周するとともに、
n層の前記導体とn+1層の前記導体との電気的な接続は、第1の前記スロットに収容される前記導体どうしと、第2の前記スロットに収容される前記導体どうしと、第1の前記スロットに収容される前記導体と第2の前記スロットに収容される前記導体とを含めて行うことを特徴とする固定子。」

b 「【0001】
本発明は、固定子コアと複数相の巻線とを有する固定子と、当該固定子を有する回転電機とに関する。」

c 「【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、分布巻きの複数倍スロットにおいて、多数の並列巻きをしても循環電流を抑制できる固定子および回転電機を提供することを目的とする。」

d 「【0013】
〔実施の形態1〕
実施の形態1は図1〜図19を参照しながら説明する。図1に示す回転電機10は、インナロータ型電動発電機の一例であって、固定子(ステータ)12、回転子(ロータ)13、回転軸20などをケース部材11内に有する。回転電機10と電力変換装置30との間は入出力線17等で接続される。回転電機10のケース部材11と、後述する電力変換装置30のケース部材とは、個別成形されて固定手段で固定されるか、一体成形される。前者の固定手段は、例えばボルト・ナット、雄ネジ・雌ネジ、貫通穴・割ピン、溶接等の接合、端片のかしめなどが該当する。これらのうちで二以上の手段を適宜に選択して組み合わせて固定してもよい。なお、入出力線17は後述する導体16を延伸させたものでもよい。
【0014】
回転軸20は、軸受け15(ベアリング等)を介してケース部材11に回転自在に支持される。回転軸20は回転子13の中心部に上記固定手段によって固定されるか、あるいは一体成形される。いずれの構成にせよ、回転軸20と回転子13は協働して回転する。
【0015】
円筒形状に成形される固定子12は、回転子13の外径側に配置される。この固定子12は、後述する複数のスロット12b(図2,図3を参照)が円周方向に並べて成形され、上記固定手段によってケース部材11に固定される。スロット12bの配置間隔は任意であるが、磁束の流れを均一化してトルクを増加させる点で等間隔に配置するのがよい。ティース12c相互間には、スロット12bが形成される。
【0016】
図2に示すスロット12bは、スロット倍数S(Sは正の整数)を2とし、磁極数Mn(Mnは正の整数)を8極とし、相数p(pは正の整数)を三相とする成形例を示す。この成形例におけるスロット12bの数(スロット数Sn)は、Sn=S×Mn×p=2×8×3=48になる。
【0017】
スロット12bには、巻線を構成する導体16が収容される。例えば図3に示すように、一つのスロット12bに複数本(本形態では4本)の導体16を径方向に整列して収容する。本形態では、内径側から外径側に向かって、1層,2層,3層,4層,…と呼ぶことにする。また、スロット12bに収容される導体16の部位(部分)を、以下では「被収容部19」と呼ぶことにする(図8をも参照)。これに対して、スロット12bからはみ出す導体16の部位は「ターン部14」と呼ぶ(図8をも参照)。ターン部14の全体をコイルエンド部とも呼ぶ。ターン部14の一部はリード線として、図1に示すように電力変換装置30に向かって延びて接続される。
【0018】
上述した導体16の構成例について、図4と図5を参照しながら説明する。図4に示すように、一の導体16はU字状に成形され、ターン部14、被収容部19、端部16tなどを有する。ターン部14は、複数段の階段形状からなる階段状部位14sが成形される。階段状部位14sの1段の高さHは、「階段状に成形される部位の高さ」に相当し、任意に設定してよい。当該高さHは導体16の高さ(すなわち厚みTh)とほぼ等しくすると、軸方向に導体16どうしを積み重ね易くなる。階段状部位14sの段数は任意に設定してよく、例えば被収容部19相互間の幅に応じた段数を設定してよい。
【0019】
階段状部位14sの中央部には、導体16を径方向にずらすためにクランク状に曲げられるクランク部位14cが成形される。クランク部位14cは、固定子コア12aの端面からの突出高さが最も高くなる。径方向にずらす量は任意に設定してよい。導体16の幅Wdとほぼ等しくすると、径方向に複数の導体16をずらし易くなる。説明した階段状の形状はなくてもよく、クランク状に曲げられたクランク部位14cのみを持つ導体16でも、本発明は十分に効果を発揮する。」

e 「【0021】
図5には、図4に示すV−V線の断面を示す。導体16のうちでターン部14と被収容部19は、絶縁を確保するため、図5に示すように導電性の金属部材16m(例えば銅線等)に絶縁皮膜16r(例えば樹脂等)が被覆されている。これに対して、導体16の端部16tは接続を行うために金属部材16mが露出し、絶縁皮膜16rで被覆されない。
【0022】
図6には、異形線に相当する異形状導体16dの一例を平面図で示す。異形状導体16dは、図面左側の2n層(例えば巻線161)から、図面右側の2n+1層(例えば巻線162)に移行するべくクランク状に成形される。言い換えれば、異形状導体16dは層間の接続を行う部材である。異形状導体16dは図面手前側に位置し、他の導体16は図面奥側に位置する。異形状導体16dは、他の導体16の中央部に成形される水平領域Hrに位置するので、他の導体16と干渉しない(後述する図9〜図11をも参照)。
【0023】
図7には、ある相(例えばU相)の巻線について、複数の導体16を用いて接続する例を模式的に示す。1層から2層にかけて複数の導体16を1本状に接続して成形される巻線161は、一端側にターミナルT1が備えられ、他端側にターミナルT2が備えられる。3層から4層にかけて複数の導体16を1本状に接続して成形される巻線162は、一端側にターミナルT3が備えられ、他端側にターミナルT4が備えられる。これらのターミナルT1,T2,T3,T4は、それぞれ図4に示すターミナルTに相当する。このように、一の巻線161,162は径方向に隣り合う2層に収容される導体16を接続して成形される。本形態の巻線161,162は、三相(例えばU相,V相,W相)の各相ごとに成形される。なお、ターミナルTは必ず備える必要はなく、適宜に備えてよい。
【0024】
上述した巻線161,162を用いて、三相で接続する一例を図8に示す。巻線161をU相に設定するとU相巻線16Uになる。巻線161をV相に設定するとV相巻線16Vになる。巻線161をW相に設定するとW相巻線16Wになる。巻線162についても同様である。各相で用いる巻線161,162の本数は任意である。
【0025】
図8に示す構成例の固定子12は、上述したU相巻線16U,V相巻線16V,W相巻線16Wを備える。本形態では、2つのスロット12bごとに一相を構成する。図8に示す導体16の番号は、U相,V相,W相の3巻線にかかる導体収容部番号(1〜48の奇数番号)の一部を示す。当該導体収容部番号は、説明の便宜上、スロット12bごとに割り当てる固有の番号である。例えば導体収容部番号の「1」を付した導体16は、1番目のスロット12bに収容されることを意味する。
【0026】
U相巻線16Uは、導体収容部番号が「1」、「7」、「13」、「19」、「25」、「31」、「37」、「43」等のスロット12bに収容される導体16を接続して構成される。図示しないが、波巻を構成する他のU相巻線16Uは、導体収容部番号が「2」、「8」、「14」、「20」、「26」、「32」、「38」、「44」等のスロット12bに収容される導体16を接続して構成される。これらのU相巻線16Uは接続部Unで接続される。V相巻線16VとW相巻線16Wについても同様である。V相巻線14Vは、導体収容部番号が「9」、「15」、「21」、「27」、「33」、「39」、「45」等のスロット12bに収容される導体16を接続して構成される。他のV相巻線16Vとは接続部Vnで接続される。W相巻線16Wは、導体収容部番号が「5」、「11」、「17」、「23」、「29」、「35」、「41」、「47」等のスロット12bに収容される導体16を接続して構成される。他のW相巻線16Wとは接続部Wnで接続される。」

f 「【0033】
図12に示す接続例と図13に示す接続例とを考慮して、1つのA側スロットと1つのB側スロットのみで接続形態を示すと図14のように表せる。図12の下段に一点鎖線で囲む直列回路部C11は、図14において1周巻線A1→接続導体A1a2→1周巻線a2→接続導体A2b3→1周巻線B3→接続導体B3b4→1周巻線b4の順番で接続される。同じく図12の下段に一点鎖線で囲む直列回路部C12は、図14において1周巻線B1→接続導体B1b2→1周巻線b2→接続導体b2A3→1周巻線A3→接続導体A3a4→1周巻線a4の順番で接続される。直列回路部C11,C12の接続は、いずれもn層(本形態では4層)の昇順で導体16(巻線161,162)を接続する。
【0034】
上述した接続例によれば、直列回路部C11,C12は、A側スロットとB側スロットとで同数の導体を収容する。直列回路部C11に含まれる接続導体A2b3と、直列回路部C12に含まれる接続導体B2a3とは、それぞれ異なるスロットへの移転を行う「千鳥接続」になる。隣接して設定されるA側スロットとB側スロットとに収容される巻線どうしは、電気的な位相差が一般的に生じ得る。ところが図14に示すような千鳥接続を行うと、A側スロットとB側スロットとの間における電気的な位相差を打ち消し合うので、図12に示す閉回路内において循環電流の発生と、それによるロスを無くすことができる。
【0035】
図12〜図14に示した一相分の接続例について、三相に適用すると図15〜図17に示す結線を成形することができる。実際には、図15〜図17に示す各結線がそれぞれ複数並列接続(「パラレル接続」とも呼ぶ。以下、同じである。)される。同一の接続例には同一符号を付す。図15には、U相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wを用いるY結線の一例を示す。図16には、U相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wを用いるΔ結線の一例を示す。図17には、図15に示すY結線と、図16に示すΔ結線とを混成させるY−Δ混成結線の一例を示す。図15〜図17に示す端子Tu,Tv,Twは、巻線161,162の端部でもよく、ターミナルT(T1,T2,T3,T4)でもよく、図1に示す入出力線17でもよい。
【0036】
上述した巻線161,162の端部、ターミナルTを含む端子Tu,Tv,Tw、入出力線17は、固定子12において集中させるほうが接続を行い易い。そこで図18に示すように、固定子12の一部に結線部1Aを設ける。この結線部1Aは、固定子12の角度θ(0°<θ<360°)を占める。結線部1Aを端子台で実現してもよい。
【0037】
図15〜図17には、接合によって結線する構成例を示した。これとは別に、Y結線、Δ結線、Y−Δ混成結線をいつでも切り替えられる構成としてもよい。図19に示す構成例では、電力変換装置30から電力変換信号Esとは別個に伝達される切替信号SWに基づいて、結線を切り替える切替部1Bを設ける。切替部1Bは、例えばリレー(半導体リレーを含む)などで構成する。切替部1Bには、U相巻線回路U1,U2、V相巻線回路V1,V2、W相巻線回路W1,W2をそれぞれ接続する。具体的には、各相巻線回路の接続部Un,Vn,Wnをそれぞれ接続する。
【0038】
図19の例では12本の接続部を接続しているが、これは図13に示すA側スロットおよびB側スロットからなる三相の接続部である。図13では、さらにa側スロットおよびb側スロットからなる三相と、α側スロットおよびβ側スロットからなる三相とがあるので、全部で36本の接続部を接続することになる。また、接続導体A1a2,B1b2,A2b3,B2a3,A3a4,B3b4の部分を接続部として切替部1Bに接続してもよい。切替部1Bは、切替信号SWに基づいて、Y結線、Δ結線、Y−Δ混成結線のいずれかに切り替える。この構成例によれば、大きなトルクが必要な低速時や、小さなトルクで十分な高速時などのように、目的に応じた結線に切り替えることができる。
【0039】
上述のように構成された回転電機10は次のように作動する。図1において、電力変換装置30から伝達される電力変換信号Esに基づいて固定子12を励磁させると、当該励磁作用によって回転トルク(動力となる場合を含む)が発生して回転子13が回転する。この場合、回転電機10は電動機として作動する。発生した回転トルクは、回転子13を介して回転体(例えば車輪やプロペラ等)に出力できる。回転子13と回転体との間に動力伝達機構を介在させてもよい。当該動力伝達機構には、例えばシャフト,カム,ラック&ピニオン,歯車(ギア)などのうちで一以上を含む。」

g 「【0043】
(1)固定子コア12aと複数相の巻線161,162とを有する固定子12において、スロット12bは、径方向の一方側から他方側に向かって層状に導体16を収容するように成形され、一相の巻線161,162は、隣り合う第1のスロット(スロット12bのA側,a側,α側)および第2のスロット(スロット12bのB側,b側,β側)に収容される導体16を含み、巻線161,162は2n−1層と2n層とで第1のスロットまたは第2のスロットに収容される導体16同士を接続して固定子12を1周するとともに、n層の導体16とn+1層の導体16との接続は、第1のスロットに収容される導体16どうし(図12の接続導体A1a2,A3a4による接続)と、第2のスロットに収容される導体16どうし(図12の接続導体B1b2,B3b4による接続)と、第1のスロットに収容される導体16と第2のスロットに収容される導体16と(図12の接続導体a1B2,b2A3による接続)を含めて行う構成とした(図1,図3,図7,図12〜図17を参照)。」

h 引用文献1には、次に示す図1ないし図5及び図12、図16及び図19が記載されている。





i 回転子13の中心部に回転軸20が固定または一体成形され、回転軸20と回転子13は、協働して回転する(【0014】参照。)ことから、【図1】及び【図2】の記載を合わせてみると、回転軸20の軸方向に沿って回転子13が設けられているといえる。
また、引用文献1の【図2】(前記h参照)をみると、断面略円形の回転子13の外周付近には、8個の略長方形の形状が記載されている。これより回転子13は、8個の長方形の部分を備えているといえる。

j 固定子12は、固定子コア12aと複数相の巻線161,162とを有し(【0043】)、複数のスロット12bが成形され(【0015】)、このスロット12bには、巻線161、162を構成する導体16が収容される(【0017】)。そして、【図2】の記載からスロット12bが成形されるのは、固定子12の固定子コア12aであるといえるから、固定子コア12aは、複数のスロット12bが成形され、スロット12bに収容される巻線161,162を備えているといえる。
U相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16Wは、スロット12bに収容される導体16を接続して構成され(【0026】)るから、U相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16Wは、スロット12bに収容されるといえる。さらに、この導体16は、巻線161、162を構成する(【0017】)ことから、巻線161、162は、U相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16Wを備えているといえる。

k 前記jに示すU相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16Wを「三相に適用すると」(【0035】)、「U相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wを用いるΔ結線」(【0035】)となる一例が引用文献1に記載されているから、固定子12は、Δ結線となるU相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wにより成形できる三相を備えているといえる。そして、三相は、Δ結線となるU相巻線16U、V相巻線16V及びW相巻線16Wを用いている。

l 引用文献1には、一つのスロット12bに複数本の導体16を径方向に整列して収容することが記載されている(【0017】)。各導体16は、スロット12bに収容される被収容部19を有している(【0017】)。この被収容部19は、幅Wdと厚みThが特定できるものである。また、これらの記載と、【図4】に示されるV−V線の断面である【図5】の記載を合わせてみると、被収容部19のV−V線の断面は、略長方形であるといえる。

m 導体16のターン部14は、電力変換装置30に接続されており(【0017】参照。)、この導体16を接続してU相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wを構成し(前記j参照。)、U相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wにより三相が成形できる(前記k参照)から、回転電機10は、三相に接続される電力変換装置30を備えているといえる。

(イ)前記(ア)から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「8個の長方形の部分を備え、回転軸20の軸方向に沿って設けられる回転子13と、
前記回転子13の外径側に配置されるとともに、複数のスロット12bが成形され、スロット12bに収容される巻線161、162を備える固定子コア12aを備え、前記巻線161、162が前記スロット12bに収容されるU相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16Wを接続して構成し、U相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16Wが導体16を接続して構成される固定子12と、
を有する車輪に回転トルクを出力する回転電機10であって、
前記固定子12は、Δ結線となるU相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wにより成形できる三相を備え、三相は、Δ結線となるU相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wを用い、
一つのスロット12bの導体16の数は複数本であり、各導体16がスロット12bに収容される被収容部19を有し、略長方形の断面の前記被収容部19は幅Wdを有し、
前記三相に接続される電力変換装置30を備える
回転電機10。」

イ 引用文献2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2001−178054号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

a 「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えば内燃機関により駆動される交流発電機に関し、特に、乗用車、トラック等の乗り物に搭載される車両用交流発電機の固定子構造に関するものである。」

b 「【0027】図1において、車両用交流発電機は、ランドル型の回転子7がアルミニウム製のフロントブラケット1およびリヤブラケット2から構成されたケース3内にシャフト6を介して回転自在に装着され、固定子8が回転子7の外周側を覆うようにケース3の内壁面に固着されて構成されている。シャフト6は、フロントブラケット1およびリヤブラケット2に回転可能に支持されている。このシャフト6の一端にはプーリ4が固着され、エンジンの回転トルクをベルト(図示せず)を介してシャフト6に伝達できるようになっている。回転子7に電流を供給するスリップリング9がシャフト6の他端部に固着され、一対のブラシ10がこのスリップリング9に摺接するようにケース3内に配設されたブラシホルダ11に収納されている。固定子8で生じた交流電圧の大きさを調整するレギュレータ18がブラシホルダ11に嵌着されたヒートシク17に接着されている。固定子8に電気的に接続され、固定子8で生じた交流を直流に整流する整流器12がケース3内に装着されている。」

c 「【0029】固定子8は、図2乃至図4に示されるように、軸方向に延びるスロット15aが周方向に所定ピッチで複数形成された円筒状の積層鉄心から成る固定子鉄心15と、固定子鉄心15に巻装された多相固定子巻線16と、各スロット15a内に装着されて多相固定子巻線16と固定子鉄心15とを電気的に絶縁するインシュレータ19とを備えている。そして、多相固定子巻線群16は、1本の素線30が、固定子鉄心15の端面側のスロット15a外で折り返されて、所定スロット数毎にスロット15a内でスロット深さ方向に内層と外層とを交互に採るように波巻きされて巻装された巻線を複数備えている。ここでは、固定子鉄心15には、回転子7の磁極数(16)に対応して、3相固定子巻線160を2組収容するように、96本のスロット15aが等間隔に形成されている。また、素線30には、例えば絶縁被覆された長方形の断面を有する長尺の銅線材が用いられる。」

d 「【0034】ついで、固定子8の組立方法について図7乃至図16を参照しつつ具体的に説明する。まず、図7に示されるように、12本の長尺の素線30を同時に同一平面上で雷状に折り曲げ形成する。ついで、図8に矢印で示されるように、直角方向に治具にて折り畳んでゆき、図9に示される素線群35Aを作製する。さらに、同様にして、図10に示されるように、渡り結線および口出し線を有する素線群35Bを作製する。そして、巻線群35A、35Bが装着された鉄心36を環状に成形しやすくするために、後巻線群35A、35Bは300℃で10分間アニール処理される。なお、各素線30は、図11に示されるように、ターン部30aで連結された直線部30bが6スロットピッチ(6P)で配列された平面状パターンに折り曲げ形成されている。そして、隣り合う直線部30bが、ターン部30aにより、素線30の幅(W)分ずらされている。素線群35A、35Bは、このようなパターンに形成された2本の素線30を図12に示されるように6スロットピッチずらして直線部30bを重ねて配列された素線対が1スロットピッチづつずらして6対配列されて構成されている。そして、素線30の端部が素線群35A、35Bの両端の両側に6本づつ延出されている。また、ターン部30aが素線群35A、35Bの両側部に整列されて配列されている。また、台形形状のスロット36aが所定のピッチ(電気角で30°)で形成されたSPCC材を所定枚数積層し、その外周部をレーザ溶接して、図13に示されるように、直方体の鉄心36を作製する。」

e 「【0052】ここで、実施の形態1による車両用交流発電機の特性を測定し、その出力特性を図17に実線で示す。なお、回転子7および固定子7は下記の条件で作製されている。
(1)回転子形状
回転子7には、極数が16極、鉄心長が56mm、外径がφ105.3mmのものを用いた。
(2)固定子形状
固定子8は、円筒状の固定子鉄心15と、2組の素線群35(35A、35B)からなる多相固定子巻線16とで構成し、固定子鉄心15の軸方向長さは36mmで、コイルエンドを含む固定子長さは50mmである。固定子鉄心15には、96個のスロット15aが電気角で30°ピッチに相当する3.75°ピッチで等間隔に設けられている。各スロット内壁形状は、側面が平行な略矩形状をなし、その側面幅は1.9mm、奥行きは11mmである。また、開口幅15bは1.2mm、コアバックは3.6mm、ティース先端部の径方向厚さは0.4mmである。さらに、スロット15aと素線30との間には、140μm厚のインシュレータ19が介装されている。固定子鉄心15は、円筒状の鉄心37を円筒状の外周鉄心38に挿入した後、焼きバメして一体化したもので、外径がφ136mm、内径がφ106mmに形成されている。そして、鉄心37は、板厚0.35mmのSPCC材を積層してその外周部をレーザ溶接して作製した直方体の鉄心36を丸め、その端部同士をレーザ溶接して作製した。ここで、鉄心36のスロット36aの開口部36bの開口幅は2.0mm、コアバックの幅は1.0mmである。また、スロット36a内のコアバック部には、丸め成形がしやすいように、深さ0.5mmの切り欠36cがスロット36a中央に設けられている。一方、外周鉄心38は、板厚0.5mm、幅2.6mmのSPCC材を積層し、その外周部をレーザ溶接して作製した積層体を丸め、その端部同士をレーザ溶接して作製した。また、素線群35を構成する各素線30には、厚さ1.4mm、幅2.4mmの導線材を用いた。なお、角部は0.4mmのアール形状となっている。」

(イ)前記(ア)から、引用文献2には、固定子8のスロット15aの各素線30に厚さ1.4mm、幅2.4mmの導線材を用いることが記載されている。

ウ 引用文献3
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平9−331694号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、可変電圧・可変周波数の交流出力を発生するインバータを備えたインバータモータに関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】例えば、大容量のインバータモータを実現する場合には、インバータ主回路を構成するスイッチング素子の電流容量を大きくすることにより対応できる。しかしながら、このような対応では、低容量のものに比べて割高な大容量のスイッチング素子が必要となるためコストの上昇を招くという問題点がある。また、大容量のスイッチング素子を使用する場合には、その機械的配置や熱的配置に制約が生じて装置全体の大形化を招くという問題点も出てくる。
【0003】本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コストの高騰及び全体の大形化を伴うことなく大容量化が可能になるなどの効果を奏するインバータモータを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は上記目的を達成するために、一相当たり複数個のコイルが設けられたインバータモータにおいて、各相コイルを分割して複数の分割多相コイルを形成すると共に、それら分割多相コイルに対して多相交流出力を個別に印加可能な複数のインバータ主回路を設ける構成としたものである(請求項1)。
【0005】このような構成のインバータモータによれば、その大容量化を図った場合でも、各相コイルを分割した状態の分割多相コイルの各々に流れる電流は小さくて済むようになる。従って、上記分割多相コイルに多相交流出力を個別に印加するように設けられたインバータ主回路の出力電流も小さくて済むことになり、そのインバータ主回路を構成するスイッチング素子として割安な低容量のものを利用できるようになる。この結果、必要となるスイッチング素子の数が増えるものの、全体としてはコスト安に製造できるようになる。
【0006】しかも、スイッチング素子として小形で尚且つ発熱量が小さいのものを使用すれば良いから、その機械的配置及び熱的配置の自由度が高くなって、全体をコンパクトにまとめる仕様を容易に実現できるものであり、結果的に全体の大形化を効率良く防止可能になる。」

b 「【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明を三相誘導電動機より成るインバータモータに適用した第1実施例について図1〜図3を参照しながら説明する。図1において、電源を構成する整流平滑回路1は、三相交流電源2の出力を整流・平滑して電源ラインL1及びL2間に出力するようになっており、この電源ラインL1及びL2からインバータ主回路3及び4に給電される構成となっている。
【0014】上記インバータ主回路3及び4は、具体的には図示しないが、例えば6個ずつの半導体スイッチング素子(パワートランジスタ或いはIGBTのようなパワー素子)及びフライホイールダイオードをブリッジ接続して成る周知構成のものであり、そのスイッチング動作に応じてU、V、Wの出力端子から三相交流電圧を出力する構成となっている。
【0015】インバータ主回路3及び4の動作は、共通の制御回路5により制御されるようになっている。制御回路5は、具体的には図示しないが、例えば、速度指令に応じたPWM信号などに基づいて前記スイッチング素子のオンオフ動作をドライバを介して制御する周知構成のものである。尚、制御回路5の電源は、図示しない制御用電源回路から与えられる。
【0016】三相誘導電動機のステータ6は、一相当たり2個ずつのコイルU1及びU2、V1及びV2、W1及びW2を備えた構成(各コイルの巻装位置はそれぞれ異なる)のものであり、それらを分割することにより2つの三相コイル6a、6b(本発明でいう分割多相コイルに相当)を形成している。具体的には、第1の三相コイル6aは、コイルU1、V1、W1をスター結線することにより形成され、第2の三相コイル6bは、コイルU2、V2、W2をスター結線することにより形成されている。
【0017】そして、第1の三相コイル6aには、インバータ主回路3からの三相交流出力が印加され、第2の三相コイル6bには、インバータ主回路4からの三相交流出力が印加されるように接続している。」

c 引用文献3には、次に示す図1が記載されている。



(イ)前記(ア)から、引用文献3には、インバータモータにおいて、多相コイルに流れる電流及びインバータの出力電流を小さくし、スイッチング素子を小型で発熱量の小さいものとするために、第1の三相コイル6aと第2の三相コイル6bをステータ6が備え、第1の三相コイル6aには、インバータ主回路3からの三相交流出力が印加されるように接続され、第2の三相コイル6bには、インバータ主回路4からの三相交流出力が印加されるように接続されることが記載されている。

エ 引用文献4
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第2016/067695号(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。

a 「[0010] 以下、この発明の各実施の形態の回転電機について、自動車に用いられる回転電機を一例として説明するが、この発明に係る回転電機は、自動車の用途に限らず、他の用途に用いられるものであってもよい。
実施の形態1.
図1は、この発明を実施するための実施の形態1に係る回転電機101とECU(Electronic Control Unit)111とが一体となった電動駆動装置100の側断面図である。なお、側断面図とは、回転電機101の軸心を含む平面における断面図である。
この実施の形態1の回転電機101は、円筒形状のフレーム1と、このフレーム1の片側端面にボルト2に固定されたハウジング3と、フレーム1の内壁面に固定された固定子4と、この固定子4の内側に設けられた回転子5と、を備えている。
[0011] 固定子4は、薄板状の電磁鋼板等の磁性体を積層した固定子鉄心6と、この固定子鉄心6に収められた複数の電機子コイル体18と、を有している。
回転子5は、ハウジング3に嵌着された第1の軸受9およびフレーム1に嵌着された第2の軸受10により両端部が回転自在に支持されたシャフト11と、このシャフト11の外周面に固定された回転子鉄心12と、この回転子鉄心12の外周面に周方向に等分間隔に配置された永久磁石13と、を有している。」

b 「[0015] 回転子鉄心12の外周側には、14個の永久磁石13が周方向に等間隔に接着固定されて、14個の界磁極が構成されている。なお、永久磁石13の外側に永久磁石13の保護と飛散防止用に、ステンレスやアルミニウム等の非磁性材料を円筒状にしたカバーで覆われたものもある。
[0016] 固定子鉄心6は、円環状のコアバック14と、コアバック14から径方向の内側(磁気的空隙長の方向)に延び周方向に等間隔に形成された18個のティース15とを有している。そして、18個のスロット7が隣り合うティース15の間に形成されている。ティース15には、便宜的に、周方向の配列順で反時計回りに、符号T1〜T18を割り振っている。そして、ティース15には、それぞれ電機子コイル8が少なくとも1個以上巻回されている。」

c 「[0019] 図3においては、第1の電機子巻線16では、U11、V11およびW11の一端におけるU1+、V1+およびW1+が、それぞれ端子A1、端子B1および端子C1とされ、U14、V14およびW14の他端におけるU1−、V1−およびW1−が、すべて接続されて中性点N1を構成し、3相の各相の電機子コイル8がY結線で結線されている。
また、第2の電機子巻線17では、U21、V21およびW21の一端におけるU2+、V2+およびW2+が、それぞれ端子A2、端子B2および端子C2とされ、U24、V24およびW24の他端におけるU2−、V2−およびW2−が、すべて接続されて中性点N2を構成し、3相の各相の電機子コイル8がY結線で結線されている。
[0020] 図4においては、第1の電機子巻線16では、U11の一端におけるU1+およびW14の他端におけるW1−が接続されて端子A1とされ、V11の一端におけるV1+およびU14の他端におけるU1−が接続されて端子B1とされ、W11の一端におけるW1+およびV14の他端におけるV1−が接続されて端子C1とされ、3相の各相の電機子コイル8がΔ結線で結線されている。
また、第2の電機子巻線17では、U21の一端におけるU2+およびW24の他端におけるW2−が接続されて端子A2とされ、V21の一端におけるV2+およびU24の他端におけるU2−が接続されて端子B2とされ、W21の一端におけるW2+およびV24の他端におけるV2−が接続されて端子C2とされ、3相の各相の電機子コイル8がΔ結線で結線されている。
[0021] ここで、図2に示されるように、複数の電機子コイル体18における6個の電機子コイル体18は、2個の電機子コイル8が巻回されているT1番、T4番、T7番、T10番、T13番およびT16番の6個のティース15のそれぞれに、第1の電機子巻線16に属する電機子コイル8と、第2の電機子巻線17に属する電機子コイル8とがともに巻回されて、3相の各相がそれぞれ2個の電機子コイル体18で構成されている。これらのU相の電機子コイル体18、V相の電機子コイル体18およびW相の電機子コイル体18を、それぞれUa、VaおよびWaとしている。
そして、複数の電機子コイル体18における他の6個の電機子コイル体18は、1個の電機子コイル8が巻回されているT2番、T5番、T8番、T11番、T14番およびT17番の6個の他の一部のティース15のそれぞれに、第1の電機子巻線16に属する電機子コイル8のみが巻回されて、3相の各相がそれぞれ2個の電機子コイル体18で構成されている。これらのU相の電機子コイル体18、V相の電機子コイル体18およびW相の電機子コイル体18を、それぞれUb、VbおよびWbとしている。
また、複数の電機子コイル体18における残りの6個の電機子コイル体18は、1個の電機子コイル8が巻回されているT3番、T6番、T9番、T12番、T15番およびT18番の6個の残りのティース15のそれぞれに、第2の電機子巻線17に属する電機子コイル8のみが巻回されて、3相の各相がそれぞれ2個電機子コイル体18で構成されている。これらのU相の電機子コイル体18、V相の電機子コイル体18およびW相の電機子コイル体18を、それぞれUc、VcおよびWcとしている。」

d 「[0024] 図5は実施の形態1における回転電機およびECUの回路図である。図5では、回転電機101については、第1の電機子巻線16および第2の電機子巻線17のみを示している。
なお、図5では第1の電機子巻線16および第2の電機子巻線17は、それぞれY結線となっているが、図4に示すようにΔ結線となっていてもよい。
[0025] ECU111も簡単のため詳細は省略し、第1のインバータ65及び第2のインバータ66のパワー回路部のみを示す。
ECU111は、第1のインバータ65および第2のインバータ66を備えている。回転電機101の第1の電機子巻線16に、ECU111の第1のインバータ65が接続され、第2の電機子巻線17に、ECU111の第2のインバータ66が接続されている。第1の電機子巻線16は、第1のインバータ65から3相の電流を供給され、第2の電機子巻線17は、第2のインバータ66から3相の電流を供給される。
ECU111には、バッテリ等の電源72から直流電力が供給されている。電源72には、ノイズ除去用コイル73を介して、第1の電源リレー70および第2の電源リレー71が接続されている。
なお、図5では、電源72がECU111の内部にあるかのように描かれているが、実際はバッテリ等の外部の電源72から図1における電源コネクタ64を介して、電力が供給される。
第1の電源リレー70,第2の電源リレー71は、それぞれ2個のMOS−FETで構成され、故障時などは電源リレーを開放して、過大な電流が流れないようにする。
なお、図5では、第1の電源リレー70、第2の電源リレー71は、電源72、ノイズ除去用コイル73、電源リレー70,71の順序で接続されているが、ノイズ除去用コイル73よりも電源72に近い位置に設けられてもよい。
第1のコンデンサ78、第2のコンデンサ79は、平滑コンデンサである。図5ではそれぞれ1個のコンデンサ78,79で構成されているが、複数のコンデンサを並列に接続されたものでもよい。」

e 引用文献4には、次に示す図2,3、4、5が記載されている。





(イ)前記(ア)から、引用文献4には、第1の電機子巻線16に属する3相の各相の電機子コイル8と第2の電機子巻線17に属する3相の各相の電機子コイル8が巻回された電機子コイル体18が収められた固定子鉄心6を有し、第1の電機子巻線16には、第1のインバータ65から3相の電流を供給されるように接続され、第2の電機子巻線17は、第2のインバータ66から3相の電流を供給されるように接続されることが記載されている。

(3)対比、一致点及び相違点
本件補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「回転軸20の軸方向に沿って設けられる」は、本件補正発明の「回転軸(X)に沿って延びる」に相当し、引用発明の「回転子13」は、本件補正発明の「ロータ(12)」に相当する。
引用発明の「前記回転子13の外径側に配置される」は、本件補正発明の「−前記ロータを取り囲む」に相当する。引用発明の「スロット12b」は、本件補正発明の「切り欠き(30)」に相当し、同様に「巻線161、162」は、「電気巻線(25)」あるいは「巻線(25)」に、「固定子コア12a」は、「本体(24)」にそれぞれ相当する。引用発明において、「スロット12b」は、「固定子コア12a」に成形されるものであるから、「スロット12bに収容される巻線161、162」は、固定子コア12aに設けられていることとなる。そうすると、引用発明の「複数のスロット12bが成形され、スロット12bに収容される巻線161、162を備える固定子コア12a」は、本件補正発明の「複数の切り欠き(30)と電気巻線(25)とが設けられる本体(24)」に相当する。また、引用発明の「前記スロット12bに収容される」は、本件補正発明の「前記切り欠き(30)内に配置される」に相当し、同様に、「U相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16W」は、「相巻線(26)」及び「各相巻線(26)」、「3相巻線(26)」に相当する。そうすると、引用発明の「前記巻線161、162が前記スロット12bに収容されるU相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16Wを接続して構成し」は、本件補正発明の「前記巻線(25)が前記切り欠き(30)内に配置される相巻線(26)を備え」に相当する。さらに引用発明の「U相巻線16U、V相巻線16V、及びW相巻線16Wが導体16を接続して構成される」及び「固定子12」は、本件補正発明の「各相巻線(26)が少なくとも1つの導体(35)によって形成される」及び「ステータ(11)」にそれぞれ相当する。
引用発明の「有する」は、本件補正発明の「備える」に相当し、引用発明の「車輪に回転トルクを出力する回転電機10」と本件補正発明の「自動車両の回転電気機械」とは、「回転電気機械」という限りにおいて一致する。
引用発明の「Δ結線となる」は、本件補正発明の「デルタ結合を伴う」に相当し、以下同様に「U相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wにより成形できる」は、「3相巻線(26)により形成される」に、「三相」は、「3相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)」に相当する。また、引用発明の「Δ結線となるU相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wを用い」は、本願補正発明の「三角形の形態で結合される第1の相(A1;A2)、第2の相(B1;B2)及び第3の相(C1;C2)を含み」に相当する。
引用発明の「一つのスロット12b」は、本件補正発明の「−切り欠き(30)ごと」に相当し、以下同様に、「導体16」は、「導体(35)」に、「複数本であり」は、「厳密に2よりも多く」に、「各導体16がスロット12bに収容される被収容部19を有し」は、「各導体(35)が対応する切り欠き(30)内に挿入される活性部(40)を有し」に、「略長方形の断面の前記被収容部19」は、「略長方形の断面を伴う前記活性部(40)」に、それぞれ相当する。
引用発明の「電力変換装置(30)」は、本件補正発明の「モジュールを備えるインバータ(34)」に相当し、同様に、「回転電機10」は、「回転電気機械(10)」に相当する。

以上のことから、本件補正発明と引用発明とは、次の一致点及び相違点1ないし3を有する。

・一致点
「 −回転軸に沿って延びるロータと、
−前記ロータを取り囲むとともに、複数の切り欠きと電気巻線とが設けられる本体を備え、前記巻線が前記切り欠き内に配置される相巻線を備え、各相巻線が少なくとも1つの導体によって形成される、ステータと、
を備える回転電気機械であって、
−前記ステータは、デルタ結合を伴う3相巻線により形成される3相システムを備え、3相システムは、三角形の形態で結合される第1の相、第2の相及び第3の相を含み、
−切り欠きごとの導体の数は厳密に2よりも多く、各導体が対応する切り欠き内に挿入される活性部を有し、略長方形の断面を伴う前記活性部を有し、
−3相システムに接続されるモジュールを備えるインバータを備える
回転電気機械(10)。」

・相違点1
本件補正発明のロータは、「少なくとも1つの永久磁石(20)を備え」、「ロータ(12)が3個又は4個又は5個の極対を備え」るのに対し、引用発明の回転子は、8個の長方形の部分を備えているものの、これが永久磁石であるか明らかでない点。

・相違点2
本件補正発明は、「自動車両の回転電気機械」であるのに対し、引用発明は、「車輪に回転トルクを出力する回転電機10」であるものの、この車輪が「自動車両」であるか否か不明な点。

・相違点3
本件補正発明は、「それぞれがデルタ結合を伴う」、「2つの3相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)を備え」、「2つの三相システムの各々は」、「第1の相(A1;A2)、第2の相(B1;B2)及び第3の相(C1;C2)を含み」、「2つの3相システムが互いに独立しており、それぞれが3相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)に接続される2つの独立したモジュールを備えるインバータ(34)を備える」のに対し、引用発明は、「Δ結線となるU相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wにより成形できる三相を備え」、「前記三相に接続される電力変換装置30を備え」ているものの、「Δ結線となるU相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wにより成形できる三相」が複数あるとはされておらず、電力変換装置30も「2つの独立したモジュールを備える」ことが特定されていない点。

・相違点4
本件補正発明は、活性部が「3.6mm以下の径方向長さ(L2)を有し」ているのに対し、引用発明は、被収容部19が「幅Wdを有し」ているものの、この「幅Wd」の長さが明らかでない点。

(4)判断
以下、各相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明の回転電機10は、「電力変換装置30から伝達される電力変換信号Esに基づいて固定子12を励磁させると、当該励磁作用によって回転トルク(動力となる場合を含む)が発生して回転子13が回転する」(【0039】)ものである。この記載における「励磁作用」とは、固定子12と回転子13との間に作用するものであるから、回転子12にも「励磁作用によって回転トルク・・・が発生」するための手段が設けられているといえる。
一方、回転電気機械の回転子の外周付近に励磁作用による回転トルクを発生させるために永久磁石を備えることは、本願の優先日前において周知技術であり(周知例として、引用文献4の記載(前記(2)エ(ア)a参照)がある。)、引用文献4では、この永久磁石13を【図2】(前記(2)エ(ア)d参照)において、回転子5の外周付近に複数の略長方形で示している。
これらのことから、引用発明の「8個の長方形の部分」は、永久磁石であると解される。
そうすると、引用発明の回転電機10は、回転子13に8個の永久磁石を備え、その結果、4個の極対を備えていると理解できるから、相違点1は、実質的な相違点ではない。
また、仮に実質的な相違点であるとしても、引用発明において励磁作用により回転トルクを発生させるために、回転子に4個の極対となる永久磁石を設け、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは、引用文献1の図2の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易になしえた事項である。

イ 相違点2について
まず、本願の優先日前において、自動車両の車輪を回転電機で駆動することは、文献等を提示するまでもなく周知技術である。そして、引用発明の回転電機10は車輪に回転トルクを出力するものであるから、前記周知技術に基づいて、これを自動車両の車輪を駆動するものとし、前記相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になしえた事項である。

ウ 相違点3について
まず、本願の優先日前において、固定子に独立した2つの3相巻線を設け、それぞれの3相巻線に独立したインバータを備えることは、周知技術(前記(2)ウ(イ)及び(2)エ(イ)参照。)であり、また、このようにすることにより、3相巻線に流れる電流及びインバータの出力電流が小さくでき、発熱量を小さくできることは、当業者にとって自明な事項である(前記(2)ウ(イ)参照。)。
そして、引用発明においてもU相巻線16U、V相巻線16V、W相巻線16Wに流れる電流及び電力変換装置30の出力電流を小さくすることは、当業者が考慮すべき課題であるから、前記周知技術を引用発明に適用し、前記相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易になしえた事項である。

エ 相違点4について
引用文献1には、被収容部19の幅Wdの長さについて明記されていないが、引用発明は、「車輪に回転トルクを出力する」ものであることから、引用発明の回転電機10は、当該車輪を備えるものの大きさ等により、その大きさはおのずと制限されるものであり、回転電機10の大きさに制限がある以上、その固定子12のスロット12bに収容される、略長方形の断面の巻線の被収容部19の幅にも一定の制限があることは、引用文献1に接した当業者にとって自明な事項であって、該被収容部19の幅は、このような制限のもと、許容される巻線の抵抗等に応じて当業者が任意に定める設計事項である。そして、乗用車、トラック等の乗り物に搭載される車両用の回転電機の固定子巻線の径方向長さを3.6mm以下とすることが本願優先日前において周知技術(周知例として、引用文献2がある(前記(2)イ(イ)参照)。)であることも踏まえると、引用発明において、巻線の径方向長さを3.6mm以下とし、上記相違点4に係る本件補正発明の発明特定事項をえることは、当業者が容易になしえた事項である。

オ 効果について
本願の発明の詳細な説明には、「導体の径方向の幅が3〜5個のロータの極対の数と関連付けられる3.6mm以下であるという事実は、導体の抵抗を最小限に抑えることができるようにし、それにより、導体のジュール損失が制限される」(【0008】)と記載されている。しかし、このような効果が得られるものとして、実験結果等が示されているのは、「ステータ直径L1が約160mm、回転速度が20,000rpmの電気機械10」(【0046】)のみである。
そして、本件補正発明は、前記1(1)に示すとおりであるところ、ステータ直径L1や回転速度は、何ら特定されていない。
また、「導体の抵抗を最小限に抑えることができるようにし、それにより、導体のジュール損失が制限される」という効果は切り欠き30内部の導体の数も影響すると考えられるところ、切り欠き30内部の導体の数についても、本件補正発明では何ら特定されていない。
そうすると、「導体の抵抗を最小限に抑えることができるようにし、それにより、導体のジュール損失が制限される」という効果は、本件補正発明に基づく効果とはいえない。
また、この他の効果についても、引用発明及び周知技術から当業者が予測できるものであり、格別なものとはいえない。

カ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書(令和3年7月29日提出の手続補正書により請求の理由が補正された)において、「本願請求項1には『前記ステータ(11)は、それぞれがデルタ結合を伴う3相巻線(26)により形成される2つの3相システム(A1、B1、C1;A2、B2、C2)を備え』ることが明記されており、本願請求項1において『3相システム』が明確に特定されていることは明らかである。また審査官殿は、文献1(特開2014-96857号公報)が本願請求項1に記載『3相システム』を開示する旨指摘する。しかしながら本審判請求人は、文献1が本願請求項1に記載の『3相システム』(特に上記下線部)の構造を開示も示唆もしていないものと思料する。」と主張する。
しかしながら、デルタ結合を伴う3相巻線(26)により形成される2つの3相システムを得ることが当業者にとって容易であることは、前記相違点3についての判断(前記ウ参照。)に示すとおりである。
よって、審判請求人の主張は採用することができない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし13に係る発明は、令和3年2月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明2」という。)は、その請求項2に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明2は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明(前記第2 2(2)ア参照)、引用文献2に示される周知技術(前記第2 2(2)イ参照)及び引用文献3、4に示される周知技術(前記第2 2(2)ウ及びエ参照)に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明2は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、ステータについて、「2つの3相システムの各々は、三角形の形態で結合される第1の相(A1;A2)、第2の相(B1;B2)及び第3の相(C1;C2)を含み」という発明特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明2の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明、引用文献2に示される周知技術及び引用文献3、4に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明、引用文献2に示される周知技術及び引用文献3、4に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明2は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 柿崎 拓
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-07-11 
結審通知日 2022-07-12 
審決日 2022-07-25 
出願番号 P2019-553213
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 柿崎 拓
特許庁審判官 長馬 望
小川 恭司
発明の名称 最適化された構成を伴う回転電気機械  
代理人 村越 卓  
代理人 宮嶋 学  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 中村 行孝  

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