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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02F
管理番号 1392605
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-05 
確定日 2022-12-19 
事件の表示 特願2019−79389号「調光装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年7月11日出願公開、特開2019−113879号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成28年11月21日に出願した特願2016−226202号(以下「原出願」という。)の一部を平成29年11月17日に新たな特許出願とした特願2017−222076号の一部を平成30年2月28日に新たな特許出願とした特願2018−35352号の一部を平成31年4月18日に新たな特許出願とした特願2019−79389号であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
令和元年12月26日 :上申書、手続補正書の提出
令和2年10月 1日付け:拒絶理由の通知
令和2年12月 8日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 5月10日付け:拒絶査定
令和3年 8月 5日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年 6月 6日付け:拒絶理由の通知
令和4年 8月 8日 :意見書、手続補正書の提出

2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和4年8月8日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである(なお、請求項1ないし3については、令和4年8月8日付けの手続補正では補正がなされていない。)。
「【請求項1】
曲面を有する第1光透過プレートと、第2光透過プレートと、調光セルと、を備え、車両の窓に使用される調光装置であって、
前記第1光透過プレートは、曲げに対する剛性が、前記調光セルよりも高く、
前記調光セルは、前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置され、第1樹脂基材を含む第1積層体と、第2樹脂基材を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層と、を有し、
前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間の空間に空気層が設けられ、
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間には、単一の前記調光セルが設けられ、
前記調光セルは、前記第1光透過プレートの前記曲面に追従するように曲げられる、調光装置。」

3 拒絶の理由
令和4年6月6日付けで当審が通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
[理由](進歩性)本件出願の請求項1ないし4に係る発明は、その原出願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1または2に記載された発明及び周知技術に基づいて、その原出願の出願日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



1.引用文献1 特開2007−61446号公報
2.引用文献2 特開2007−78870号公報
周知文献1 特開平5−263572号公報
周知文献2 特開平6−18856号公報
周知文献3 特開2006−301018号公報

4 引用文献及び引用発明について
(1)引用文献1について
ア 引用文献1には、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子が備えられた調光装置及び応用物品に関する。」

(イ)「【0039】
・・・複数の光学素子を配置する場合は、それぞれの光学素子毎に異なる表示を行うようにしてもよい。情報受容者に対して、より訴求力のある情報表示を実現できるからである。・・・
【0049】
板ガラスの代わりに、高透明性で所定の強度を有するプラスチック板を採用することもできる。これらの場合、透明パネルとして用いる透明板の屈折率と光学素子の屈折率とを所定の範囲以内に適合させることが好ましい。・・・
【0085】
また、透明パネルの一部又は全体が曲面体であってもよい。曲面体の曲面部(例えば、半円柱状部分など)に光学素子を設置するには、光学素子の基板をフィルム基板とし、柔軟構造を有する表示素子を採用すればよい。カイラルネマチック液晶光学素子をフィルム基板間に設けて、曲面化できる例が知られている。この場合、駆動ICなどはフィルム基板の端に相互の間隙を空けて設置し、ある程度の屈曲にたえるような構造にすればよい。」

(ウ)「【0105】
[実施形態3]
次に、本発明に係る調光装置の一例として間仕切り壁に適用例について説明する。ここで、『間仕切り壁』とは、空間分離用の仕切り壁全般をいう。すなわち、接見室、見学コーナー等の室内を分離するために用いられる空間仕切り用のいわゆるパーテーションとして機能するもののみならず、例えば、フェンスの役割を担うベランダ手摺や、ファッションビル等において、各フロアの床面の吹き抜け部やエスカレータ部との境界にフェンスとして機能する非自立型手摺、強化ガラス自立手摺(例えば、旭硝子社製のテンパライト(登録商標)のSS工法)等も含まれる。さらに、防煙壁として用いられるガラス防煙垂壁(例えば、旭硝子社製のサンスモークカット)や内部空間や内部空間との間に設置されるガラス床等も含まれる。・・・
【0113】
図11を用いて本実施形態3に係る液晶光学素子の構成について説明する。図11は、間仕切り壁100の構成を模式的に示す断面図である。なお、図11においては、説明の便宜上、1枚の液晶光学素子1に対する構成のみを図示している。
【0114】
図11に示すように、透明な第1板ガラス65A及び第2板ガラス65Bは、前面と背面に対向配置されている。第1板ガラス65A及び第2板ガラス65Bとしては、複層ガラス(例えば、旭硝子社製の「ペヤグラス」(商品名))等を用いることができる。それぞれの厚みは、例えば3mmとする。第1板ガラス65A、第2板ガラス65Bの間に設けられた内空間66の一面に、光学素子として液晶光学素子1を配置する。液晶光学素子1は、第1板ガラス65Aの内側の主面と当接するように配置される。液晶光学素子1の外周には液晶光学素子1の位置を規制するスペーサー67を設ける。必要な端子はスペーサー67を介して貫通して外部に取り出す。・・・
【0116】
内空間66は例えば、乾燥空気等の気体が封入された気体層とする。2枚の板ガラスに挟まれた内部の気体層が熱の伝導を抑え、高断熱効果をもつ。これにより、間仕切り壁が屋外に設置されるような環境条件下であっても、液晶光学素子1の温度変化を低減することができる。すなわち、気温の変化によって、液晶光学素子1の温度が変化するのを防ぐことができる。よって、液晶光学素子1の表示特性の劣化を防ぐことができる。・・・
【0121】
このような間仕切り壁は、例えば、ホテル、オフィスビル、店舗における各種案内、各種催し物会場、イベント会場等に利用することができる。また、外光や照明を利用して、間仕切り壁に意図的に照明を施してもよい。投射光源の投射光の色やパターンあるいは文字・模様含む投射光とし、光学素子の情報表示状態・透明状態の動作シーケンスと連動させることによって、高度に意匠性に富んだ・複雑な表示を呈するように構築することができる。間仕切り壁をガラス防煙垂壁として用いる場合には、例えば、2枚の耐熱強化ガラス、又は網入りガラスの間に光学素子を挟持し、2枚の耐熱強化ガラスの対向部端部を不燃材料で覆う構成にすればよい。このようにすることにより、表示機能を備えた防煙壁を実現することができる。」

(エ)「【0123】
[変形例2]
次に、上記実施形態3に係る間仕切り壁20とは異なる例について説明する。本変形例2に係る間仕切り壁は、基本的な構成は上記実施形態3と同様であるが、以下の点が異なっている。すなわち、上記実施形態3に係る間仕切り壁20は、一対の透明板23のうちの一方の透明板と液晶光学素子1の主面が固設され、液晶光学素子1のもう一つの主面は、他の透明板と気体層を隔てて対向配置されていたが、本変形例2に係る間仕切り壁は、一対の透明板23の間隙に形成される空間に透明固体層が充填されている点が異なる。
【0124】
図12を用いて本変形例2に係る液晶光学素子の構成について説明する。なお、図12においては、説明の便宜上、1枚の液晶光学素子1に対する構成のみを図示しているが、実際には、6枚の液晶光学素子が同一平面上に並設されている。
【0125】
図12に示すように、透明な第1板ガラス65A及び第2板ガラス65Bは、前面と背面に対向配置されている。第1板ガラス65A、第2板ガラス65Bの間に設けられた内空間66に、液晶光学素子1が所定の間隙を持って配置されている。液晶光学素子1と第1板ガラス65Aとの間には、上記特願2005−150005に記載の所望の間隙を保つための離間部材(不図示)を設けることができる。
【0126】
第1板ガラス65A、第2板ガラス65Bの間隙に形成される空間には、透明固体層68が充填せしめられている。これにより、外部からの衝撃を効果的に緩和して、内蔵された液晶光学素子1を効果的に保護することができる。透明固体層68は、第1板ガラス65A及び第2板ガラス65Bと固着性を備えているものを用いることが好ましい。透明固体層68には光線透過率の高い材料を用いることが好ましい。透明固体層68の厚みは、使用環境等に応じて適宜選定する。また、透明固体層68と液晶光学素子1に用いられる透明基板との屈折率差が小さい方が好ましい。これにより、透明固体層68と液晶光学素子1との視覚的な一体性を高めることができる。」

(オ)「【0129】
[変形例3]
次に、上記実施形態3に係る間仕切り壁とは異なる例について説明する。図13は、本変形例3に係る間仕切り壁50の一例を示す斜視図である。・・・
【0133】
一対の透明板53は、液晶光学素子51のための保護プレートとして機能するため、不撓性透明板が使用されることが好ましい。一対の透明板53は、ガラス若しくはポリカーボネートなどの透明樹脂を用いることができる。間仕切り壁50の設置場所や用途に応じて、適切な材料を選択する。軽量化の観点からは、樹脂を利用することが好ましい。公共的な場所に設置する場合などにおいては、表面に傷がつきにくく、強度の点で優れたガラス板を使用することが好ましい。車両用に使用される強化ガラス、風冷強化法や化学強化法で製造した通常の強化ガラスを適用してもよい。また、二枚のガラスを樹脂層を介して積層した合わせガラス構造のものを用いてもよい。」

(カ)「【0158】
[実施形態5]
次に、天窓に光学素子を配設した例について説明する。本実施形態5に係る天窓は、液晶光学素子が内蔵された一対の透明板を外壁の天窓として用いたものである。本実施形態5によれば、透明状態と、透明状態に模様及び/又は文字が表示される情報表示状態とを、電気的に制御することができる。天窓に映像を表示したりしてもよい。用いることができる光学素子及び一対の透明板の光学素子の挟持構造としては、上記実施形態及び変形例に記載のものを挙げることができる。・・・
【0162】
また、自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして本例の天窓を用いることができる。この場合、いわゆるプライバシー保護のために、全体を散乱・白濁状態となる光学状態を備えていることが好ましい。情報表示状態としては、広告・宣伝等の目的で所望の表示をさせることができる。あるいは、投射装置を併用して、所望の静止画・動画などの画面表示を行い、搭乗者がそれを視聴することもできる。さらに、熱線反射・吸収材などを適宜配置し、遮熱・遮光の機能を本例の天窓に付加することもできる。・・・
【0169】
[実施形態7]
次に、ドア装置の面内に光学素子を内蔵した透明パネルを設置した例について説明する。本実施形態7に係るドア装置は、液晶光学素子が内蔵された一対の透明板を開閉ドア部分として用いるものである。・・・
【0174】
基本的に用いることができる光学素子としては、上記実施形態や上記変形例に係る構造のものである。図16と図17にドア装置の例を模式的に示す。図16では、建物の入り口に設置した場合であり、通常はメッセージ、広告、ニュースなどを表示し庇部分から情報表示を行うための投射を行っている。情報受容者がドアに接近した場合、光学表示素子の情報表示状態を透明状態に切り替え、建物内部をドア越しに見通すことができるようにするものである。図17では、建物内部の室内へ入るためドア装置であって、通常は光学素子に模様を表示しておき、情報受容者が接近した場合、左右の透明パネル(光学素子)の一方に「来客メッセージ」を他方を完全透明状態とし、室内を見ることができるようにするものである。・・・
【0188】
[実施形態10]
次に、衣料品店の試着室の鏡に光学素子を備えた透明パネルを設置する例について説明する。図20にその模式図を示す。本例に係る試着室85には、鏡面付き基板と前面透明板の間に透明パネルが設置された、透明パネル付き鏡86が備えられている。透明パネルの少なくとも一部の領域には、電気的に駆動可能な光学素子が備えられている。」

(キ)図11、12、16、17及び20は次のとおりである。



(ク)実施形態7に関して「図16と図17にドア装置の例を模式的に示す。図16では、建物の入り口に設置した場合であり、通常はメッセージ、広告、ニュースなどを表示し庇部分から情報表示を行うための投射を行っている。情報受容者がドアに接近した場合、光学表示素子の情報表示状態を透明状態に切り替え、建物内部をドア越しに見通すことができるようにするものである。図17では、・・・左右の透明パネル(光学素子)の一方に『来客メッセージ』を他方を完全透明状態とし、室内を見ることができるようにする」(【0174】)と記載され、実施形態10に関して「衣料品店の試着室の鏡に光学素子を備えた透明パネルを設置する例について説明する。図20にその模式図を示す。本例に係る試着室85には、鏡面付き基板と前面透明板の間に透明パネルが設置された、透明パネル付き鏡86が備えられている。」(【0188】)と記載されていることを踏まえて図16、17及び20を見ると、図16、17及び20の調光装置は1つの光学素子からなることが見てとれる。したがって、実施形態7(図16、17)及び実施形態10(図20)は、調光装置が1つの光学素子からなる場合の実施形態であるといえる。
よって、上記(イ)ないし(カ)の記載を踏まえて、上記(キ)の図11、12、16、17及び20を見ると、引用文献1には、「複数の光学素子を配置」して、「それぞれの光学素子毎に異なる表示を行う」実施形態3(図11)及び変形例2(図12)の調光装置と、1つの光学素子からなる実施形態7(図16、17)及び実施形態10(図20)の調光装置が記載されていると解される。

(ケ)上記(カ)によれば、[実施形態5](【0158】)として、「自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして本例の天窓を用いることができる。」(【0162】)と記載されているところ、「用いることができる光学素子及び一対の透明板の光学素子の挟持構造としては、上記実施形態及び変形例に記載のものを挙げることができる。」(【0158】)と記載されているから、引用文献1には、当該「上記実施形態」の1つである上記(ウ)の[実施形態3](【0105】)の図11に示す(【0114】)「一対の透明板の光学素子の挟持構造」を「自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして本例の天窓を用いる」ことが記載されていると解される。
ここで、「板ガラスの代わりに、高透明性で所定の強度を有するプラスチック板を採用することもできる。これらの場合、透明パネルとして用いる透明板の屈折率と光学素子の屈折率とを所定の範囲以内に適合させることが好ましい。」(【0049】)と記載されていることに照らして、透明板は板ガラスを含むものであるといえるから、「前面と背面に対向配置されている」「透明な第1板ガラス65A及び第2板ガラス65B」(【0114】)は、「一対の透明板」(【0158】)であって、「一対の透明な第1板ガラス65A及び第2板ガラス65B」であるといえる。

イ 上記アから、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる(なお、括弧内は、認定の根拠とした箇所を示す。)。
「透明な第1板ガラス及び第2板ガラスは、前面と背面に対向配置され、前記第1板ガラス、前記第2板ガラスの間に設けられた内空間の一面に、光学素子として液晶光学素子を配置し、前記液晶光学素子は、前記第1板ガラスの内側の主面と当接するように配置され、前記液晶光学素子の外周には液晶光学素子の位置を規制するスペーサーを設け、(【0114】)
前記内空間は乾燥空気等の気体が封入された気体層とし、(【0116】)
曲面体の曲面部に前記液晶光学素子を設置するために、前記液晶光学素子の基板をフィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した(【0085】)一対の透明な第1板ガラス及び第2板ガラスによる液晶光学素子の挟持構造であって(上記ア(ケ))、
前記一対の透明な前記第1板ガラス及び前記第2板ガラスによる液晶光学素子の挟持構造を自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして用いる(【0162】、上記ア(ケ))、
液晶光学素子が備えられた調光装置。(【0001】)」

(2)引用文献2について
ア 引用文献2には、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【請求項1】
第1及び第2の透明板の間に形成された密閉空間内に、一つまたは複数の光学素子が備えられ、
前記光学素子には、一対の透明板が対向して備えられ、前記一対の透明板の間に電極とその電極への電気的制御により光透過状態を可変可能な調光層とが配置され、
前記光学素子は前記第1の透明板に固着され、前記第2の透明板から離間して配置されている、調光装置。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は調光装置に関し、特に、2枚の透明板の間に電気的制御により光透過状態を可変可能な光学素子を備える調光装置に関する。」

(ウ)「【0017】
本実施形態に係る調光装置10は、図1に示すように、自動車用の調光サンルーフに特に好適である。調光装置10は、操作者の操作によってその透過光量を変化させる。操作者は、例えば、調光装置10を透明状態にセットして外の景色や入射する自然光を楽しみ、あるいは、その透明性を失わせて透過光量を低下させ、やわらかな光で満たされた室内空間を享受することができる。以下において、自動車用の調光サンルーフを好適な例として、本実施形態の調光装置10を説明する。・・・
【0026】
図3は、図2(a)のA-A’切断部断面図である。なお、図2(a)のB-B’切断部断面図も同様となる。同図に示すように、第1透明板11と液晶光学素子13、第2透明板12と液晶光学素子13とは、それぞれ距離を持って対向配置されており、第1透明板11と液晶光学素子13との間に形には、弾性を有する透明樹脂層14(以下において、弾性透明樹脂層14)が充填されている。弾性透明樹脂層14は、第1透明板11と液晶光学素子13とが対向する間に充填されており、第2透明板12と液晶光学素子13との間には充填されておらず、液晶光学素子13は第2透明板12から離間し、第2透明板2側が露出している。
【0027】
図3に示すように、各液晶光学素子13は第1透明板11の凸面上に配置されており、その第1透明板11側の表面が、第1透明板11の湾曲面に沿うように配置される。」

(エ)「【0043】
液晶光学素子13と第2透明板12との間には空間が存在し、そこには乾燥した気体が充填され、もしくは真空状態となっている。・・・」

(オ)「【0059】
次に、液晶光学素子13の構造について説明する。図6は、本実施形態に係る液晶光学素子13の構成の一例を示す模式的断面図である。同図に示すように、本実施形態に係る液晶光学素子13は、第1の透明基板31、第2の透明基板32、第1透明電極33、第2透明電極34、調光層35、スペーサ36、周辺シール37、第1配向膜38、第2配向膜39等を備えている。・・・
【0061】
第1の透明基板31及び第2の透明基板32としては、高品位な光学特性を実現する観点から、透明なガラスからなる不撓性の基板を用いることが好ましい。このほか、ポリエステルなどの不撓性の樹脂基板、あるいは、フィルム基板を使用することもできる。なお、第1の透明基板31及び第2の透明基板32の形状として、矩形状のものを例に挙げて説明したが、これに限定されず、例えば円形状でもよい。第1の透明基板31及び第2の透明基板32のそれぞれの主面のうち双方が対向する面上には、それぞれ第1透明電極33、第2透明電極34のパタンが形成されている。第1透明電極33及び第2透明電極34としては、ITO(Indium Tin Oxide)や酸化スズなどの金属酸化物膜等を用いることができる。
【0062】
第1透明電極33及び第2透明電極34上には、調光層35と接し、かつ調光層35中の液晶を配向せしめる第1配向膜38、第2配向膜39がそれぞれ設けられている。・・・」

(カ)「【0070】
本形態の調光装置は、自動車のサンルーフに特に好適であるが、この他に用途に利用することができる。例えば、窓(自動車用(サイドウインドウ、ドアガラス、リアクウォータ等)、建築用、航空機用、船舶用、鉄道車両用等)、天窓、間仕切り、扉等の建築の内装・外装の材料、サイン、広告層用媒体、大型の間仕切り装置等に適用することができる。・・・」

(キ)図1ないし3は次のとおりである。


(ク)上記(ウ)及び(エ)の記載をふまえて、上記(キ)の図3を見ると、第1透明板11と、第2透明板12と、液晶光学素子13とを備え、自動車の窓に使用される調光装置10は、曲面を有するものであることが見てとれる。

イ 上記アから、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる(なお、括弧内は、認定の根拠とした箇所を示す。)。
「第1及び第2の透明板の間に形成された密閉空間内に、一つまたは複数の液晶光学素子が備えられ、
前記液晶光学素子には、一対の透明板が対向して備えられ、前記一対の透明板の間に電極とその電極への電気的制御により光透過状態を可変可能な調光層とが配置され、
前記液晶光学素子は前記第1の透明板に固着され、前記第2の透明板から離間して配置されている、調光装置であって、(【請求項1】)
前記第1透明板と液晶光学素子、第2透明板と液晶光学素子とは、それぞれ距離を持って対向配置されており、第1透明板と液晶光学素子との間に形には、弾性を有する透明樹脂層が充填され、第2透明板と液晶光学素子との間には充填されておらず、液晶光学素子は第2透明板から離間し、第2透明板側が露出し、(【0026】)
前記液晶光学素子は第1透明板の凸面上に配置され、(【0027】)
前記液晶光学素子と第2透明板との間には空間が存在し、そこには乾燥した気体が充填され、(【0043】)
前記液晶光学素子は、第1の透明基板、第2の透明基板、第1透明電極、第2透明電極、調光層、スペーサ、周辺シール、第1配向膜、第2配向膜を備え、(【0059】)
前記第1の透明基板及び第2の透明基板としては、樹脂基板を使用し、前記第1の透明基板及び第2の透明基板のそれぞれの主面のうち双方が対向する面上には、それぞれ第1透明電極、第2透明電極のパタンが形成され、(【0061】)
前記第1透明電極及び第2透明電極上には、第1配向膜、第2配向膜がそれぞれ設けられ、(【0062】)
前記第1透明板と、第2透明板と、液晶光学素子とを備え、自動車の窓に使用される調光装置は、曲面を有するものである、(上記ア(ク))
調光装置。(【0070】)」

5 対比・判断
5−1 引用発明1を主引用発明とする場合
(1)本願発明について
ア 本願発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「透明な第1板ガラス及び第2板ガラス」は、本願発明の「第1光透過プレートと、第2光透過プレート」に相当する。
引用発明1の「液晶光学素子」は、本願発明の「調光セル」に相当する。
引用発明1の「調光装置」は、本願発明の「調光装置」に相当するから、引用発明1の「調光装置」が「自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして用いる」ことは、本願発明の「調光装置」が「車両の窓に使用される」ことに相当する。
また、引用発明1の「調光装置」が、「曲面体の曲面部に前記液晶光学素子を設置するために、前記液晶光学素子の基板をフィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した」ことは、本願発明の「調光装置」が「曲面を有する」ことに相当する。
したがって、引用発明1の「透明な第1板ガラス及び第2板ガラスは、前面と背面に対向配置され、前記第1板ガラス、前記第2板ガラスの間に設けられた内空間の一面に、光学素子として液晶光学素子を配置」「し、曲面体の曲面部に前記液晶光学素子を設置するために、前記液晶光学素子の基板をフィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した」、「自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして用いる、液晶光学素子が備えられた調光装置」は、本願発明の「曲面を有する第1光透過プレートと、第2光透過プレートと、調光セルと、を備え、車両の窓に使用される調光装置」に相当する。

(イ)引用発明1の「第1板ガラス、前記第2板ガラスの間に設けられた内空間の一面に、光学素子として液晶光学素子を配置し」ていることは、本願発明の「前記調光セルは、前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置され」ることに相当するとともに、「前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間には、単一の前記調光セルが設けられ」ることと「前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間には、前記調光セルが設けられ」ることの点で一致する。

(ウ)引用発明1の「前記液晶光学素子は、前記第1板ガラスの内側の主面と当接するように配置され、前記液晶光学素子の外周には液晶光学素子の位置を規制するスペーサーを設け、前記内空間は乾燥空気等の気体が封入された気体層とし」ていることは、本願発明の「前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間の空間に空気層が設けられ」ることに相当する。

(エ)以上(ア)ないし(ウ)によれば、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「曲面を有する第1光透過プレートと、第2光透過プレートと、調光セルと、を備え、車両の窓に使用される調光装置であって、
前記調光セルは、前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置され、
前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間の空間に空気層が設けられ、
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間には、前記調光セルが設けられる、
調光装置。」

【相違点】
(相違点1)
本願発明は、「第1光透過プレート」が「曲げに対する剛性が、前記調光セルよりも高」いと特定するのに対して、引用発明1は、第1板ガラスがこのようなものであると特定しない点。

(相違点2)
本願発明は、「調光セル」が「第1樹脂基材を含む第1積層体と、第2樹脂基材を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層と、を有」すると特定するのに対して、引用発明1は、液晶光学素子がこのようなものであると特定しない点。

(相違点3)
本願発明は、「調光セル」が「第1光透過プレートの前記曲面に追従するように曲げられる」と特定するのに対して、引用発明1は、液晶光学素子が「基板をフィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した」ものであると特定されるにとどまる点。

(相違点4)
第1光透過プレートと第2光透過プレートとの間に設けられる調光セルが、本願発明は、「単一」と特定されるのに対して、引用発明1はこのように特定されない点。

イ 判断
(ア)相違点1について検討する。
一般的に、板ガラスの曲げに対する剛性が、柔軟構造を有するフィルム基板よりも高いことは、原出願当時の技術常識であるから、引用発明1の「第1板ガラス」の曲げに対する剛性も、「フィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した」「液晶光学素子の基板」よりも高いといえる。
したがって、引用発明1は、実質的に相違点1に係る本願発明の構成を備えているといえるから、相違点1は実質的な相違点ではない。

(イ)相違点2について検討する。
一般的に、液晶光学素子が、基板及び偏光膜からなる積層体を2枚用い、その間に液晶層を挟んだ構造であることは原出願当時周知の技術的事項であるから、引用発明1の「基板をフィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した」「液晶光学素子」も基板及び偏光膜からなる積層体と、フィルム基板及び偏光膜からなる積層体の2枚の積層対用い、その間に液晶層を挟んだ構造であるといえる。
したがって、引用発明1は、実質的に相違点2に係る本願発明の構成を備えているといえるから、相違点2は実質的な相違点ではない。

(ウ)相違点3について検討する。
引用発明1の「基板をフィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した」「液晶光学素子」は、「曲面体の曲面部に前記液晶光学素子を設置するために、前記液晶光学素子の基板をフィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した」ものである以上、当該「柔軟構造を有する」「フィルム基板」が「曲面体の曲面部に前記液晶光学素子を設置」できるように「曲面に追従するように曲げられる」ものであることは明らかである。
したがって、引用発明1は、実質的に相違点3に係る本願発明の構成を備えているといえるから、相違点3は実質的な相違点ではない。
上記のとおり、相違点3は、実質的には相違点とはいえないが、仮に相違するとしても、全体を大面積の柔軟構造を有する樹脂で構成して曲面に追従するように曲げられる構成とした液晶光学素子は、後記周知文献1ないし3に見られるように周知の技術的事項にすぎないから、引用発明1において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。

(エ)相違点4について検討する。
上記4(1)ア(ク)で検討したとおり、引用文献1には、「複数の光学素子を配置」して、「それぞれの光学素子毎に異なる表示を行う」実施形態3(図11)及び変形例2(図12)の調光装置と、1つの光学素子からなる実施形態7(図16、17)及び実施形態10(図20)の調光装置が記載されていると解されるところ、「それぞれの光学素子毎に異なる表示を行う」必要があるとまではいえない、自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして用いる引用発明1の調光装置は、1つ(単一)の光学素子からなるものと考えるのが自然であるから、引用発明1において、調光装置を1つの(単一の)液晶光学素子からなるものとなし、上記相違点4に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことにすぎない。

ウ 効果について
引用発明1の液晶光学素子は、「自動車のサンルーフまたはムーンルーフとして用いる」ものであり、「透明な第1板ガラス及び第2板ガラスは、前面と背面に対向配置され、前記第1板ガラス、前記第2板ガラスの間に設けられた内空間の一面に、光学素子として液晶光学素子を配置し、前記液晶光学素子は、前記第1板ガラスの内側の主面と当接するように配置され、前記液晶光学素子の外周には液晶光学素子の位置を規制するスペーサーを設け、前記内空間は乾燥空気等の気体が封入された気体層と」するとともに、「曲面体の曲面部に前記液晶光学素子を設置するために、前記液晶光学素子の基板をフィルム基板とした柔軟構造を有するものを採用した」ものであるから、本願発明が奏する、車両の窓に使用される調光装置、単一の調光セル、調光セルは第1光透過プレートの曲面に追従するように曲げられる、第2光透過プレートと調光セルとの間の空間に空気層が設けられる、との発明特定事項の全てが一体的に組み合わされ、シート状の調光セルを曲面に対して皺等の歪みを生じさせることなく適切に貼り付けることができるという効果は、引用発明1の液晶光学素子の奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。
仮に相違するとしても、引用発明1に、後記周知文献1ないし3に見られるような、全体を大面積の柔軟構造を有する樹脂で構成して曲面に追従するように曲げられる構成とした液晶光学素子を適用すれば、本願発明の効果は、引用発明1及び周知技術の奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。

エ 小括
したがって、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5−2 引用発明2を主引用発明とする場合
(1)本願発明について
ア 本願発明と引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2の「第1透明板」は、本願発明の「第1光透過プレート」に相当する。
引用発明2の「第2透明板」は、本願発明の「第2光透過プレート」に相当する。
引用発明2の「液晶光学素子」は、本願発明の「調光セル」に相当する。
引用発明2の「調光装置」は、本願発明の「調光装置」に相当する。
したがって、引用発明2の「前記第1透明板と、第2透明板と、液晶光学素子とを備え、自動車の窓に使用される調光装置は、曲面を有するものであ」ることは、本願発明の「第1光透過プレートと、第2光透過プレートと、調光セルと、を備え、車両の窓に使用される調光装置」が「曲面を有する」ことに相当する。

(イ)引用発明2の「第1及び第2の透明板の間に形成された密閉空間内に、一つまたは複数の液晶光学素子が備えられ」ることは、本願発明の「前記調光セルは、前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置され」ることに相当するとともに、「前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間には、単一の前記調光セルが設けられ」ることと「前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間には、前記調光セルが設けられ」ることの点で一致する。

(ウ)引用発明2の「第1の透明基板」、「第1透明電極」及び「第1配向膜」からなるものは、本願発明の「第1樹脂基材を含む第1積層体」に相当する。
引用発明2の「第2の透明基板」、「第2透明電極」及び「第2配向膜」からなるものは、本願発明の「第2樹脂基材を含む第2積層体」に相当する。
引用発明2の「調光層」は、本願発明の「液晶層」に相当する。
したがって、引用発明2の「前記液晶光学素子は、第1の透明基板、第2の透明基板、第1透明電極、第2透明電極、調光層、スペーサ、周辺シール、第1配向膜、第2配向膜を備え、前記第1の透明基板及び第2の透明基板としては、樹脂基板を使用し、前記第1の透明基板及び第2の透明基板のそれぞれの主面のうち双方が対向する面上には、それぞれ第1透明電極、第2透明電極のパタンが形成され、前記第1透明電極及び第2透明電極上には、第1配向膜、第2配向膜がそれぞれ設けられ」ることは、本願発明の「第1樹脂基材を含む第1積層体と、第2樹脂基材を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層と、を有」することに相当する。

(エ)引用発明2の「前記液晶光学素子は前記第1の透明板に固着され、前記第2の透明板から離間して配置されている、調光装置であって、前記第1透明板と液晶光学素子、第2透明板と液晶光学素子とは、それぞれ距離を持って対向配置されており、第1透明板と液晶光学素子との間に形には、弾性を有する透明樹脂層が充填され、第2透明板と液晶光学素子との間には充填されておらず、液晶光学素子は第2透明板から離間し、第2透明板側が露出し」、「前記液晶光学素子と第2透明板との間には空間が存在し、そこには乾燥した気体が充填され」ていることは、本願発明の「前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間の空間に空気層が設けられ」ることに相当する。

(オ)以上(ア)ないし(エ)によれば、本願発明と引用発明2との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
曲面を有する第1光透過プレートと、第2光透過プレートと、調光セルと、を備え、車両の窓に使用される調光装置であって、
前記調光セルは、前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間に配置され、第1樹脂基材を含む第1積層体と、第2樹脂基材を含む第2積層体と、前記第1積層体と前記第2積層体との間に設けられた液晶層と、を有し、
前記第2光透過プレートと前記調光セルとの間の空間に空気層が設けられ、
前記第1光透過プレートと前記第2光透過プレートとの間には、前記調光セルが設けられる、調光装置。」

【相違点】
(相違点5)
本願発明は、「第1光透過プレート」が「曲げに対する剛性が、前記調光セルよりも高」いと特定するのに対して、引用発明2は、第1の透明基板がこのようなものであると特定しない点。

(相違点6)
第1光透過プレートと第2光透過プレートとの間に設けられる調光セルが、本願発明は、「単一」の調光セルと特定するのに対して、引用発明2は、液晶光学素子がこのようなものであると特定しない点。

(相違点7)
本願発明は、「調光セル」が「第1光透過プレートの前記曲面に追従するように曲げられる」と特定するのに対して、引用発明2は、液晶光学素子がこのようなものであると特定しない点。

イ 判断
以下、相違点5ないし7について検討する。 引用発明2の液晶光学素子は、図2及び3(上記4(2)ア(キ))から見てとれるように、液晶光学素子の間に隙間があるが、調光装置の技術分野において、このような隙間が好ましくないことは当業者であれば認識できることである。
ここで、全体を大面積の柔軟構造を有する樹脂で構成して曲面に追従するように曲げられる構成とした液晶光学素子は後記周知文献1ないし3に見られるように周知の技術的事項にすぎない。(相違点7)
そうすると、上記周知の全体で大面積の構成を引用発明2に採用すれば、隙間なく液晶光学素子を配置することができるため、上述したような引用発明2が有する液晶光学素子の間に隙間があるので好ましくないという課題が解決できることを、当業者であれば認識できると認められる。(相違点6)
そして、その際に、「第1透明板」の曲げに対する剛性が、液晶光学素子よりも高いものとなすこと(相違点5)は当業者が発明を実施するに際して自然に採用する事項にすぎない。
以上を踏まえれば、当業者にとって、引用発明2に上記周知技術を適用することに動機があるといえるから、引用発明2に上記周知技術を適用して、相違点5ないし7に係る本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

ウ 効果について
本願発明が奏する、車両の窓に使用される調光装置、単一の調光セル、調光セルは第1光透過プレートの曲面に追従するように曲げられる、第2光透過プレートと調光セルとの間の空間に空気層が設けられる、との発明特定事項の全てが一体的に組み合わされ、シート状の調光セルを曲面に対して皺等の歪みを生じさせることなく適切に貼り付けることができるという効果は、引用発明2及び後記周知文献1ないし3の奏する効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものであるとはいえない。

エ 小括
したがって、本願発明は引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5−3 周知文献
(1)周知文献1(特開平5−263572号公報)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、遮光のために窓ガラス等に貼着けて用いるブラインドに関し、特に液晶素子により遮光度を変化させることができるとともに、曲面にも良好に対応し得るフレキシブルブラインドに関する。
【0007】
【作用】本発明のフレキシブルブラインドは、自由に曲げることができ、しかも湾曲させても液晶材の分子配向性が乱れず、また、大面積に形成することが可能であり、しかも大面積に形成しても液晶の配向が不均一になるようなことがない。さらに、ガラス基板のように衝撃により割れるようなことがなく、安全性に優れる上、薄くて軽量であり、常に電圧を印加しておく必要もなく、消費電力が小さい。
【0008】
【実施例】以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。図1は本発明の一実施例に係るフレキシブルブラインドを自動車のリアガラスに貼着して用いた状態を示すものであり、図2は図1のフレキシブルブラインドの要部断面図である。このフレキシブルブラインドは液晶素子からなるブラインド本体1と、外部に設けた発信部(図示せず)から送信されてきた信号を受信するアンテナ2と、少なくともアンテナ2からの信号にもとづいてブラインド本体1の液晶素子を駆動する回路を備えたICチップ3、及びICチップ3に電源を供給する太陽電池4を一体的に具備している。・・・」

(2)周知文献2(特開平6−18856号公報)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、液晶素子の調光機能を利用した3次曲面用液晶調光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、相対向する内面にそれぞれITO等の透明電極が形成された一対のPET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂フィルムに、光硬化性樹脂等のマトリックス中に液晶が分散された液晶層を挟持してなる液晶調光素子が知られている(実開平1−136989号公報、実開平2−95321号公報参照)。
【0003】上記液晶調光素子は、電圧の印加により光の透過、散乱を制御することができ、例えばPVB(ポリビニルブチラール)などの樹脂中間膜を介して一対の無機ガラス等の透明基板に挟持されて、液晶調光ガラスとして使用に供されている。そして、この液晶調光ガラスは、例えば自動車のフロントガラスやサンルーフに利用されている(工業材料、1992年3月号(Vol.40,No.3)、P.47〜51参照)。」
「【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決する本発明の3次曲面用液晶調光素子は、相対向する内面にそれぞれ電極が形成された一対の樹脂フィルム間に液晶層を挟持してなり、3次曲面を有する一対の透明基板間に樹脂中間膜を介して挟持される3次曲面用液晶調光素子であって、該樹脂フィルムの周縁端部に切り込み部が形成されていることを特徴とする。」

(3)周知文献3(特開2006−301018号公報)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、調光構造体に関する。特に調光構造体に電界を付与していない時の視野角に依存しない透明性確保と、電界付与時の反射機能の発現を目的とした、電圧により光の透過性を調節する調光構造体に関する。更には車両に適用した際には、前方の視界確保、調光性能の発現を目的とした、電圧により光の透過性を調節する調光構造体に関するものである。」
「【背景技術】
【0002】
夏季、炎天下に駐車した車室内への光および熱の侵入経路としては、主に面積の大きい、天井、天窓、ウィンドシールド(フロントガラス)、リアガラス、フロントサイドガラス、リアサイドガラス、ドア上部等が挙げられる。」
「【0052】
さらに本発明では、基材として、フィルム状の調光構造体(以下、調光フィルムとも記載する)を得ることもできる。通常、調光構造体を窓などに適用する場合には基板上に直接、電極と調光構造体とを形成するが、調光フィルムを予め作製しておくことにより、電極を備えた基板に貼り付けたり、電極を備えた基板同士の間にはさみ込んだりするだけで、簡便に調光フィルムを得ることができる。また、調光フィルムを構成する樹脂に柔軟性のある樹脂を選択することにより、自動車のフロントガラスのように湾曲した形状のガラス(基板)やドーム状などの複雑な形状の窓などにも簡便に調光機能を備えることができる。」

6 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、令和4年8月8日付けの意見書の【意見の内容】「3.拒絶理由(進歩性)について」「(2)」において、次のように主張する。
ア 本願請求項1に係る発明は、a)車両の窓に使用される調光装置、b)単一の調光セル、c)調光セルは第1光透過プレートの曲面に追従するように曲げられる、d)第2光透過プレートと調光セルとの間の空間に空気層が設けられる、の発明特定事項a〜dの全てが一体的に組み合わされ、シート状の調光セルを曲面に対して皺等の歪みを生じさせることなく適切に貼り付けることができるという顕著な有益な効果が奏されます。一方、引用文献1及び2と周知文献1〜3には、上記発明特定事項a〜dの組み合わせが開示も示唆もされておりません。

イ 引用文献1は、いずれも複数の液晶光学素子1が設けられることが前提とされており、図4(実施形態1)には単一の液晶光学素子1が示唆されているが、車両の窓に使用される調光装置とは、本来的に適用対象が異なります。

ウ 引用文献1には、c)調光セルは第1光透過プレートの曲面に追従するように曲げられる、という発明特定事項が開示も示唆もされておりません。

エ 引用文献2に関しても、審判官合議体は、本願請求項1に記載のb)単一の調光セル、が開示されている認定しておりますが、審判官合議体が言及されている引用文献2の請求項1等には、b)単一の調光セル、がそもそも開示も示唆もされておりません。

オ 周知文献1〜3には、d)第2光透過プレートと調光セルとの間の空間に空気層が設けられる、ことが開示も示唆もされておりません。

(2)上記主張について検討する。
ア 上記(1)アについて
本願発明において、発明特定事項a〜dの組み合わせの効果が顕著でないことは上記5−1(1)ウまたは上記5−2(1)ウで述べたとおりである。
また、引用発明1に周知技術を適用することが当業者にとって容易に相当し得たものであることは上記5−1(1)イ(ウ)で述べたとおりであり、また、引用発明2に周知技術を適用することが当業者にとって容易に相当し得たものであることは上記5−2(1)イで述べたとおりである。
したがって、請求人の上記(1)アの主張は採用できない。

イ 上記(1)イについて
上記4(1)ア(ク)で検討したとおり、引用文献1には、1つの光学素子からなる実施形態7(図16、17)及び実施形態10(図20)の調光装置が記載されていると解されるから、 引用発明1において、調光装置を1つの(単一の)光学素子からなるものとなし、上記相違点4に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことにすぎないから、請求人の上記(1)イの主張は採用できない。

ウ 上記(1)ウについて
上記5、5−1(1)ア(エ)で検討したとおり、引用発明1に関して、調光セルは第1光透過プレートの曲面に追従するように曲げられるとは認定しておらず、相違点3とした上で、上記5、5−1(1)イ(ウ)で判断しているのであるから、請求人の上記(1)ウの主張は採用できない。

エ 上記(1)エについて
上記5、5−2(1)ア(オ)で検討したとおり、引用発明2に関して、単一の調光セルであるとは認定しておらず、相違点6とした上で、上記5、5−2(1)イで判断しているのであるから、請求人の上記(1)エの主張は採用できない。

オ 上記(1)オについて
上記5、5−1(1)イ(ウ)及び上記5、5−2(1)イで述べたように、周知文献1ないし3は、全体を大面積の柔軟構造を有する樹脂で構成して曲面に追従するように曲げられる構成とした液晶光学素子が周知の技術的事項であることを示すものである。
そして、上記5、5−1(1)ア(ウ)及び上記5、5−2(1)ア(エ)で述べたとおり、空気層が設けられること自体は、引用発明1及び2のいずれもが備えている構成であって一致点と認定しているから、請求人の上記(1)オの主張は採用できない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-20 
結審通知日 2022-10-21 
審決日 2022-11-04 
出願番号 P2019-079389
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
野村 伸雄
発明の名称 調光装置  
代理人 村越 卓  
代理人 中村 行孝  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 宮嶋 学  

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