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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1392619
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-18 
確定日 2022-12-26 
事件の表示 特願2017−181961「エコセメントの焼成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 4月11日出願公開、特開2019− 55903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年9月22日の出願であって、令和3年3月2日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月28日に意見書が提出されたが、同年6月1日付けで拒絶査定がされ、同年8月18日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1〜5に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
エコセメントキルンの燃焼ガスを冷却する冷却装置、又は該燃焼ガスから熱回収する熱回収装置と、
前記冷却装置又は熱回収装置の排ガスに含まれるダストを回収する集塵装置と、
該集塵装置の排ガスを用いて発電するバイナリー発電装置とを備えることを特徴とするエコセメントの製造装置。」

第3 原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和3年3月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由1であって、本願発明1は、本件出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1、2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

<引用文献等一覧>
1.特開2017−57122号公報
2.特開2005−8443号公報

第4 引用文献等の記載事項
1 原査定で引用された文献
(1)引用文献1の記載事項(下線は当審が付した。以下同じ)
引用文献1には、次の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
エコセメントキルンの排ガスから熱回収する熱回収装置と、
該熱回収装置の排ガスを集塵し、少なくとも350℃以上の耐熱性を有する高温集塵装置と、
該高温集塵装置の排ガス中の有害物質を除去する触媒装置と、
該触媒装置の排ガスにカルシウム系薬剤を添加するカルシウム系薬剤添加装置と、
該カルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置とを備えることを特徴とするセメントキルン排ガス処理装置。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術における問題点に鑑みてなされたものであって、エコセメントキルン排ガスの熱エネルギーを有効利用しながら、効率よく低コストでセメントキルン排ガスを処理することを目的とする。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、エコセメントキルンの排ガスから熱回収する熱回収装置と、該熱回収装置の排ガスを集塵し、少なくとも350℃以上の耐熱性を有する高温集塵装置と、該高温集塵装置の排ガス中の有害物質を除去する触媒装置と、該触媒装置の排ガスにカルシウム系薬剤を添加するカルシウム系薬剤添加装置と、該カルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、触媒装置で排ガス中のNOx、ダイオキシン類等の有害物質を除去すると共に、排ガス中の水銀と塩化水素とによる塩化水銀の生成反応を促進させ、触媒装置の排ガスにカルシウム系薬剤を添加して塩化水銀をカルシウム系薬剤に吸着させると共に、排ガス中のSOxとカルシウム系薬剤とを反応させて石膏にし、カルシウム系薬剤と石膏とを集塵装置で回収することで、効率よく低コストでセメントキルン排ガスを処理することができる。
【0008】
また、触媒装置の前段に350℃以上の耐熱性を有する高温集塵装置を備えることで、熱回収装置で回収した熱等で排ガスを再加熱せずに高温の排ガスを触媒装置に導入し、触媒装置の触媒を活性させると共に、集塵装置において回収するダスト中のカルシウム系薬剤と石膏の濃度を高めることができる。」
エ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0018】
図1は、本発明に係るセメントキルン排ガス処理装置の一実施の形態を示し、この処理装置1は、セメントキルン2及びクリンカクーラ3等を備えるエコセメント製造装置に付設され、セメントキルン2の排ガスG1から熱回収するボイラ4と、ボイラ4の排ガスG2を粗粉Cと、微粉を含む排ガスG3とに分離するサイクロン5と、サイクロン5の排ガスG3を集塵する高温バグフィルタ6と、高温バグフィルタ6の排ガスG4から有害物質を除去する触媒装置7と、触媒装置7の排ガスG5にカルシウム系薬剤(以下「Ca系薬剤」という。)を添加するCa系薬剤添加装置8と、Ca系薬剤添加装置8からCa系薬剤が添加された排ガスG6を集塵する高温バグフィルタ9とを備える。
【0019】
また、処理装置1は、高温バグフィルタ9の排ガスG7から熱回収する熱回収装置10と、熱回収装置10の排ガスG8に活性炭ACを添加する活性炭添加装置11と、活性炭ACが添加された排ガスG9を湿式集塵する湿式スクラバ12と、湿式スクラバ12の排ガスG10を大気に放出する煙突13と、湿式スクラバ12から排出されたスラリーSをケーキCAとろ液Lとに分離する固液分離装置14と、ろ液Lを排水処理する排水処理装置15とを備える。
・・・
【0022】
高温バグフィルタ6は、排ガスG3中の微粉Fを回収するために備えられる。この高温バグフィルタ6には、900℃程度までの耐熱性を有し、複数の棒状のセラミック管からなるフィルタを備えるものなどを用いることができる。また、少なくとも350℃の耐熱性を有する高温集塵装置であれば、高温バグフィルタ以外の装置を用いることができる。
【0023】
触媒装置7は、高温バグフィルタ6の排ガスG4に含まれるNOx、ダイオキシン類等の有害物質を除去すると共に、排ガスG4中の水銀と塩化水素とによる塩化水銀の生成反応を促進させるために備えられ、チタン・バナジウム系の脱硝触媒等を用いることができる。
【0024】
Ca系薬剤添加装置8は、触媒装置7の排ガスG5にCa系薬剤を添加し、排ガスG5中の塩化水銀を吸着させると共に、排ガスG5に含まれるSOxをCa系薬剤と反応させて石膏(CaSO4)にするために備えられる。
【0025】
高温バグフィルタ9は、Ca系薬剤が添加された排ガスG6を集塵して石膏と、塩化水銀を吸着したCa系薬剤とを回収するために備えられる。尚、高温バグフィルタ9以外の高温集塵装置を用いることもでき、高温集塵装置以外の集塵装置を用いることもできる。
【0026】
熱回収装置10は、高温バグフィルタ9の排ガスG7から熱回収し、排ガスG7の温度を湿式スクラバ12に導入するのに適した温度まで低下させるために備えられる。熱回収装置10は、排ガスG7と排ガスG10との熱交換を行うガスガスヒータとすることができるが、排ガスG7と排ガスG10以外の箇所との熱交換を行うものでもよい。また、ガスガスヒータ以外の熱交換器を用いてもよい。さらに、熱回収装置10に代えて排ガスG7を冷却する冷却装置を用いることもできる。
・・・
【0033】
排ガスG2をサイクロン5で分級して粗粉Cを分離し、セメントキルン2に戻してセメント原料とする。サイクロン5で分離された微粉を含む排ガスG3を高温バグフィルタ6に導入して微粉Fを回収する。350℃程度の高温バグフィルタ6の排ガスG4を触媒装置7に導入し、排ガスG4中のNOx、ダイオキシン類等の有害物質を除去すると共に、排ガスG4中の水銀と塩化水素とによる塩化水銀の生成反応を促進させる。」
オ 「【図1】



(2)引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セメント製造プラントにおいて、セメントクリンカを焼成するキルンの下流に設けられ、セメントクリンカを搬送しつつ冷却するセメントクリンカ冷却装置に関し、更にその廃熱を利用して発電する廃熱発電装置に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、耐久性が高く焼成後のセメントクリンカを効率良く冷却することができるセメントクリンカ冷却装置の提供を目的とし、更に、その廃熱を電力として回収することのできる廃熱発電装置を提供することを目的とする。」
ウ 「【発明の実施の形態】
・・・
【0019】
この搬送円筒体11は、入口側ヘッダー管11Aの外周と、出口側ヘッダー管11Bの中心でカバーケーシング12に回転可能に支持されて、前述のごとくその中心軸を水平から所定角度傾斜させた状態で回転可能に設けられている。出口側ヘッダー管11Bの中心軸には駆動モーター13が接続されており、この駆動モーター13によって所定の速度で回転駆動されるようになっている。また、ロータリージョイント11Fを介してバイナリー発電装置20の冷却媒体循環手段としての熱回収回路21が接続されており、その熱回収媒体がロータリージョイント11Fを介して当該搬送円筒体11に供給されて、循環した後排出されるようになっている。
・・・
【0021】
バイナリー発電装置20は、熱回収回路21とバイナリー発電回路22とから構成されており、熱回収回路21が熱回収媒体を介して搬送円筒体11の熱(即ちセメントクリンカの熱)を回収し、その熱によってバイナリー発電回路22で発電する。
【0022】
熱回収回路21は、タンク21A,予熱熱交換器27,搬送円筒体11,蒸発器23及びプリヒーター24を巡る循環回路であり、熱回収媒体である油又は水をポンプ21Bによって循環させるように構成されている。尚、熱回収媒体は錆の発生を招来しない油の方がより好ましい。
【0023】
バイナリー発電回路22は、復水タンク22A,プリヒーター24,蒸発器23,ドレンセパレーター22S及び空冷の復水器22Cが循環回路で結ばれ、低沸点の作動媒体を循環ポンプ22Pでプリヒーター24,蒸発器23に供給して循環させるように構成されている。タービン22Tには、発電装置としての発電機22Dが連結されている。尚、復水器22Cは空冷に限るものではなく水冷としても良い。水冷とすれば効率向上が図れるが、空冷とすることでより広範な設置場所に対応できる。
【0024】
上記のごとく構成されたセメントクリンカ冷却発電システム1は、下記のごとく、セメントクリンカ冷却装置10がセメントクリンカ2を冷却し、その際の熱をバイナリー発電装置20が熱回収媒体で回収して発電する。
【0025】
セメントクリンカ冷却装置10は、焼成装置から搬送円筒体11内に供給された焼成後で1300℃程度のセメントクリンカ2を、冷却空気供給路14から供給されて空気流通孔11Eを介して搬送円筒11の内部を通過して冷却空気排出路15に排出される冷却空気と、搬送円筒体11の管路11Cを巡る熱回収回路21の熱回収媒体によって冷却しつつ、駆動モーター13による回転によって下流側に搬送し、排出口12Bから排出する。これにより、セメントクリンカ2を効率良く迅速に冷却することができると共に、搬送円筒体11の同一部位が常にセメントクリンカ2と接触していることが無いために、搬送円筒体11は高い耐久性を有する。
【0026】
バイナリー発電装置20は、熱回収回路21の熱回収媒体を介して回収したセメントクリンカ2の熱を、プレヒーター24及び蒸発器23でバイナリー発電回路22の低沸点の作動媒体に熱交換し、その作動媒体を高圧蒸気化してタービン22Tを駆動し、発電機22Dによって発電する。これにより、セメントクリンカ冷却装置10においてセメントクリンカ2を冷却する際の廃熱を回収して高い効率で電力化できる。
【0027】
ここで、作動媒体は、熱回収回路20の熱回収媒体の温度に対応して高い効率で高圧蒸気を生ずるものを選択する。そのようなものとしてアンモニアや炭化水素系のブタン,ペンタン等が考えられるが、毒性がなくオゾン破壊係数がゼロで地球温暖化を招来することのない炭化水素系が好ましい。本構成例において熱回収回路21の熱回収媒体の温度は300℃程度と想定され、その特性からペンタンが最も好ましい。尚、ペンタンは可燃性を有するが、作動媒体は熱回収回路21の熱回収媒体と熱交換して完全に閉鎖されたバイナリー発電回路22を循環するのみであるため安全性は極めて高い。」
エ 「



2 当審において、新たに提示する文献
後記(1)、(2)に示す周知例1、2は、技術常識を示すために、当審において、新たに提示する文献である。
(1)周知例1(特開2015−143496号公報)の記載事項
周知例1には、次の事項が記載されている。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、発電効率を高めると共に、発電システムの発電量を下水処理施設のデマンドに応じて制御し得る発電システム及び方法を提供することを課題とする。」
イ 「【0018】
本発明でいう「複数熱源発電装置」とは、前記特許文献2に記載される2熱バイナリー発電装置のように、異なる温度の複数の熱源を利用する発電装置をいう。作動流体としてアンモニアやフロンなどの低沸点物質を用いたもの、熱サイクルも、カリーナサイクル方式やランキンサイクル方式のものが、本発明に利用できる。」
ウ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0027】
図1は、下水処理設備から排出される汚泥の焼却プラントのフロー図で、本実施例のプラントは、流動焼却炉1、余剰熱交換器2、集塵装置3、排ガス洗浄塔4、複数熱源発電装置5、低温蓄熱装置6、高温蓄熱装置7を備える。
・・・
【0030】
本実施例の排ガス洗浄塔4は、燃焼排ガス中に含まれるSOxやHClなどの有害成分を除去し、所定の温度まで冷却するため、塔内の充填層部で、洗浄水と気液接触させる。
洗浄塔4の最上段の充填層部には、後述する複数熱源発電装置5における作動媒体用冷却水(図1※1)が供給され、燃焼排ガスを所定温度まで冷却する。
下段の充填層部では循環洗浄水が、燃焼排ガスと気液接触して有害成分を除去するとともに、燃焼排ガスが保有する熱エネルギーを回収する。燃焼排ガス中の熱エネルギーを回収して昇温した循環水は、後述する複数熱源発電装置5及び/又は低温蓄熱装置6に送られ、洗浄排水による低温熱源に含まれる熱エネルギーが複数熱源発電装置5で回収されるか低温蓄熱装置6に蓄熱される。複数熱源発電装置5で熱エネルギーが回収され、あるいは低温蓄熱装置6に蓄熱されて、温度が低下した燃焼排ガス洗浄排水は燃焼排ガス洗浄塔4に還流され、再び燃焼排ガスの洗浄及び熱エネルギーの回収に利用される。・・・
【0032】
本実施例では、流動燃焼炉から排出される燃焼排ガスと余剰熱交換器を用いて熱交換させて得られた約350〜400℃の高温空気の一部又は全量が、後述する複数熱源発電装置及び/又は高温蓄熱装置7に送られ、高温空気からなる高温熱源に含まれる高温熱エネルギーを回収及び/又は蓄熱させることができる。・・・
【0033】
図2は、本実施例の複数熱源発電装置5のフロー図を示す。本実施例の複数熱源発電装置5は、ポンプ51、再生器52、蒸発器53、分離器54、蒸気過熱器55、タービン発電機56、吸収器57、凝縮器58、タンク59を備えている。
本実施例では、作動流体として沸点が−33℃の液体アンモニアと水との混合流体を使用している。
【0034】
タンク59内の液体アンモニアは、ポンプ51から高圧で蒸発器53に供給され、前記燃焼排ガス洗浄塔4からの昇温した循環水と熱交換し、循環水が保有する熱エネルギーにより加熱され一部が蒸発する。未蒸発の低濃度の液体アンモニアは分離器54にてアンモニアガスと分離され回収される。
【0035】
一方、蒸発器53で蒸発したアンモニアガスは、蒸気過熱器55にて白煙防止用高温空気と熱交換し、さらに昇温され温度が上がった状態でタービン発電機56に導入され、タービンを作動させてアンモニアガスの保有熱エネルギーを電気エネルギーに変換する。すなわち、タービン前後のアンモニアガスの有効熱落差が大きいほど発電量も大きくなる。」
エ 「【図1】


オ 「【図2】



(2)周知例2(特開2017−145812号公報)の記載事項
周知例2には、次の事項が記載されている。
ア 「【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1に開示されているように、バイナリ発電装置を備えた排熱回収装置が知られている。下記特許文献1に開示された排熱回収装置では、エンジンの冷却水の熱により、バイナリ発電装置の蒸発器で作動媒体を蒸発させ、この蒸発した作動媒体によってパワータービンを駆動して発電するようになっている。」
イ 「【0007】
本発明では、バイナリ発電装置において、熱水の状態の熱媒体から熱エネルギーを回収する。このため、例えば350℃以下の排ガスや高温空気の熱エネルギーを効率的に回収することができる。すなわち、バイナリ発電装置が、熱水の状態の熱媒体を介して熱エネルギーを受けるため、ガス状の熱媒体が用いられる場合に比べ、バイナリ発電装置への入熱量を大きくすることができる。このため、熱源ガスの温度が例えば350℃以下の場合であっても、十分な発電を行うことができる。・・・」
ウ 「【発明を実施するための形態】
・・・
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る排熱回収装置10は、ボイラー12の熱源ガスとして用いられるガスの排熱を回収するための装置であり、ボイラー12と、バイナリ発電装置14と、熱媒体回路16と、コントローラ20と、を備えている。ボイラー12とバイナリ発電装置14とは、熱媒体回路16によって接続されている。
・・・
【0021】
排ガスは、ボイラー12に導入する前には、例えば250℃〜350℃程度の温度を有している。そして、ボイラー12では、熱媒体が排ガスによって熱水になるように(又は熱水の状態が維持されるように)加熱される。例えば、熱媒体は、例えば100℃〜150℃程度の熱水になるように、ボイラー12で加熱される。
・・・
【0026】
バイナリ発電装置14は、作動ポンプ31と蒸発器32と膨張機33と凝縮器34と設けられた作動媒体の循環回路35を有している。作動ポンプ31が駆動することにより、作動媒体が循環回路35内を循環する。作動媒体はR245fa等の低沸点冷媒である。作動ポンプ31は、回転数を調整可能なポンプによって構成されている。
【0027】
蒸発器32は、熱媒体によって作動媒体を加熱するように構成されており、作動媒体を蒸発させる。膨張機33は、蒸発器32で得られたガス状の作動媒体を膨張させる。膨張機33には、発電機36が接続されていて、膨張機33の動作によって発電機36による発電が行われる。凝縮器34は、膨張機33で膨張した作動媒体を、冷却回路38を流れる冷却媒体(冷却水等)によって冷却し、ガス状の作動媒体を凝縮させる。冷却回路38は冷却器39に接続されている。」
エ 「【図1】



第5 当審の判断
1 引用発明及び周知技術について
(1)引用文献1に記載された発明(引用発明)の認定
上記第4の1(1)アによれば、引用文献1には、エコセメントキルンの排ガスから熱回収する熱回収装置が記載されている。
また、上記第4の1(1)アによれば、引用文献1には、熱回収装置の排ガスを集塵し、少なくとも350℃以上の耐熱性を有する高温集塵装置と、該高温集塵装置の排ガス中の有害物質を除去する触媒装置と、該触媒装置の排ガスにカルシウム系薬剤を添加するカルシウム系薬剤添加装置と、該カルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置とを備える装置が記載されている。
さらに、上記第4の1(1)アの「カルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置」と同エ【0018】の「Ca系薬剤が添加された排ガスG6を集塵する高温バグフィルタ9」とが同一のものを意味していることを踏まえると、同【0019】、【0025】〜【0026】によれば、引用文献1には、集塵装置の排ガスから熱回収する熱回収装置を備えることが記載されている。
加えて、上記第4の1(1)エ【0018】によれば、引用文献1には、エコセメント製造装置が記載されている。
以上のことから、引用文献1には、次のようなエコセメント製造装置に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「エコセメントキルンの排ガスから熱回収する熱回収装置と、
前記熱回収装置の排ガスを集塵し、少なくとも350℃以上の耐熱性を有する高温集塵装置と、該高温集塵装置の排ガス中の有害物質を除去する触媒装置と、該触媒装置の排ガスにカルシウム系薬剤を添加するカルシウム系薬剤添加装置と、該カルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置とを備える装置と、
該集塵装置の排ガスから熱回収する熱回収装置とを備えるエコセメント製造装置。」

(2)周知技術の認定
引用文献2には、「セメント製造プラントにおいて、」(上記第4の1(2)ア)「廃熱を利用して発電」(同ア)するために、「1300℃程度のセメントクリンカ2を・・・搬送円筒体11の管路11Cを巡る熱回収回路21の熱回収媒体によって冷却し」(同ウ【0025】)、「バイナリー発電装置20は、熱回収回路21の熱回収媒体を介して回収したセメントクリンカ2の熱を、プレヒーター24及び蒸発器23でバイナリー発電回路22の低沸点の作動媒体に熱交換し、その作動媒体を高圧蒸気化してタービン22Tを駆動し、発電機22Dによって発電する。これにより、セメントクリンカ冷却装置10においてセメントクリンカ2を冷却する際の廃熱を回収して高い効率で電力化でき」(同【0026】)、「熱回収回路21の熱回収媒体の温度は300℃程度と想定され」(同【0027】)ることが記載されている。したがって、セメント製造の技術分野において、熱エネルギーを有効利用するために、300℃程度の高温の物体から、熱回収して発電するバイナリー発電装置を使用することが周知技術であるといえる。
また、周知例1には、「発電効率を高めると共に、発電システムの発電量を下水処理施設のデマンドに応じて制御し得る発電システム及び方法」(上記第4の2(1)ア)において、「75℃」(同エの符号53で示される構成要素に向かう矢印の下の記載を参照)に「燃焼排ガス中の熱エネルギーを回収して昇温した循環水」(同ウ【0030】)と「約350〜400℃の高温空気」(同【0032】)とを用いて「タンク59内の液体アンモニアは、ポンプ51から高圧で蒸発器53に供給され、前記燃焼排ガス洗浄塔4からの昇温した循環水と熱交換し、循環水が保有する熱エネルギーにより加熱され一部が蒸発」(同【0034】)され、「アンモニアガスは、蒸気過熱器55にて白煙防止用高温空気と熱交換し、さらに昇温され温度が上がった状態でタービン発電機56に導入され、タービンを作動させてアンモニアガスの保有熱エネルギーを電気エネルギーに変換する」(同【0035】)「バイナリー発電装置」(同イ)が記載されている。
周知例2には、「エンジンの冷却水の熱により、バイナリ発電装置」(上記第4の2(2)ア)で「発電する」(同ア)こと、「バイナリ発電装置において、・・・350℃以下の排ガスや高温空気の熱エネルギーを効率的に回収することができる。・・・このため、熱源ガスの温度が例えば350℃以下の場合であっても、十分な発電を行うことができる」(同イ)こと、及び、「熱媒体は、例えば100℃〜150℃程度の熱水になるように、ボイラー12で加熱され」(同ウ【0021】)、「蒸発器32は、熱媒体によって作動媒体を加熱するように構成されており、作動媒体を蒸発させ」(同【0027】)、「作動媒体はR245fa等の低沸点冷媒であ」(同【0026】)り、加熱された作動媒体を使って「発電機36による発電が行われる」(同【0027】)ことが記載されている。
これらの周知例1、2の記載事項を踏まえると、様々な技術分野において、熱エネルギーを有効利用するために、75℃以上400℃以下の高温の気体又は液体から熱回収して発電するバイナリー発電装置を使用することは、技術常識であるといえる。
以上のことから、以下の内容が、本願出願当時における周知技術であるといえる。

セメント製造の技術分野を含む様々な技術分野において、熱エネルギーを有効利用するために、75℃以上400℃以下の高温の物体(気体を含む。)から熱回収して発電するバイナリー発電装置を使用すること。

2 本願発明1と引用発明との対比
(1)本願発明1と引用発明とを対比してみると、両者の対応関係は、次のとおりに解することができる。
ア 引用発明の「エコセメントキルンの排ガス」及び「エコセメント製造装置」は、それぞれ、本願発明1の「エコセメントキルンの燃焼ガス」及び「エコセメントの製造装置」に相当する。
イ 引用発明の「エコセメントキルンの排ガスから熱回収する熱回収装置」は、本願発明1の「エコセメントキルンの燃焼ガスを冷却する冷却装置、又は該燃焼ガスから熱回収する熱回収装置」に相当する。
ウ 引用発明の「前記熱回収装置の排ガスを集塵し、少なくとも350℃以上の耐熱性を有する高温集塵装置と、該高温集塵装置の排ガス中の有害物質を除去する触媒装置と、該触媒装置の排ガスにカルシウム系薬剤を添加するカルシウム系薬剤添加装置と、該カルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置とを備える装置」は、本願の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明(以下、「本願明細書」という。)の【0011】の「集塵装置は、前記冷却装置又は熱回収装置の排ガスから粗粉を除去するサイクロンと、該サイクロンの排ガスから微粉を回収する第1バグフィルタと、該第1バグフィルタの排ガスに消石灰を添加する消石灰添加装置と、消石灰添加後の排ガスを集塵する第2バグフィルタとを備える」という記載を踏まえると、本願発明1の「集塵装置」と同様の構成及び作用を有するといえるから、本願発明1の「熱回収装置の排ガスに含まれるダストを回収する集塵装置」に相当する。

(2)以上の対応関係に照らすと、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、それぞれ、次のように認定することができる。

ア 一致点
「エコセメントキルンの燃焼ガスを冷却する冷却装置、又は該燃焼ガスから熱回収する熱回収装置と、
前記冷却装置又は熱回収装置の排ガスに含まれるダストを回収する集塵装置と、
を備えるエコセメントの製造装置。」
イ 相違点
本願発明1では、「該集塵装置の排ガスを用いて発電するバイナリー発電装置」を備えるのに対して、引用発明では、「該集塵装置の排ガスから熱回収する熱回収装置」を備えている点。

(3)相違点の検討
引用発明の「該カルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置」は、上記1(1)のとおり、「高温バグフィルタ9」に対応するところ、引用文献1には、「高温バグフィルタ9」から「熱回収装置10」に導入される「排ガスG7」の温度について明示されていない。
しかしながら、引用発明は、以下a〜dに列挙した記載事項、技術常識等を踏まえると、「高温バグフィルタ9」から「熱回収装置10」に導入される「排ガスG7」の温度は、「排ガスG4」の温度と同程度の350℃程度であるといえる。
a 引用発明には、「高温バグフィルタ9」及び「熱回収装置10」の上流側に、「少なくとも350℃の耐熱性を有する高温集塵装置」、「有害物質を除去する触媒装置」及び「カルシウム系薬剤添加装置」が配置されていること(上記第5の1(1))。
b 引用文献1には、当該「高温集塵装置」に対応する「高温バグフィルタ6」から排出される「排ガスG4」の温度を「350℃程度」として、「触媒装置7」における反応を促進することが記載されていること(上記第4の1(1)ウ【0008】及びエ【0033】)。
c 一般に、廃棄物燃焼施設は、施設全体の熱効率を考慮して、廃棄物燃焼後に排出される排ガスの温度が各排ガス処理装置を経るごとに下がっていくように構成されているから、引用発明も同様に、排ガスの温度が各排ガス処理装置を経るごとに下がっていくように構成されていて、その途中で極端に温度上昇することはないと考えられること。
d 有害物質を除去する触媒装置、カルシウム系薬剤添加装置及びカルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置で処理された排ガスの温度は当該触媒装置に導入する排ガスの温度と同程度であるということが技術常識(例えば、特開平9−103646号公報の【0016】〜【0017】及び図1、2には、「ダイオキシン及び窒素酸化物を除去する触媒装置4」による処理、及び、「消石灰・・・の添加」された「排出ガス」を「除塵」する「乾式集塵装置3」による処理、並びに、各処理前後の「排出ガス」の温度範囲が記載されている。これらの記載によれば、「排出ガス」の温度範囲が、各処理の前後で全く同じであることを踏まえると、各処理後の排出ガスの温度は各処理前の排出ガスの温度と同程度であるといえる。)であること。

そして、セメント製造の技術分野を含む様々な技術分野において、75℃以上400℃以下の高温の気体から熱回収して発電するためにバイナリー発電装置を使用することは、本願出願当時において周知である(上記1(2)参照)。
したがって、集塵装置の350℃程度の排ガスから熱回収するために、引用発明の熱回収装置として、周知のバイナリー発電装置を用いることは、当業者が容易になし得ることである。
加えて、本願発明1において、当該相違点に係るバイナリー発電装置を採用した効果は、単に、排ガスの熱量の有効利用ができるようになるだけであって(本願明細書【0035】等)、バイナリー発電装置が固有に有する効果に過ぎないため、当該相違点に係るバイナリー発電装置を採用したことによって、当業者が予測し得ない格別な効果を奏するともいえない。
よって、本願発明1は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張についての検討
ア 請求人は、令和3年8月18日付け審判請求書において、以下を主張している。
(ア)引用文献1は、エコセメント焼成装置に関するものであり、引用文献2は、一般的なセメント焼成装置に関するものであるところ、焼成時にセメントキルンから発生する排ガスに高濃度の塩素が含まれるエコセメント焼成装置は、一般的なセメント焼成装置とは大幅に異なる装置構成となっているから、当業者は、エコセメント焼成装置と一般的なセメント焼成装置とは、互いに関連性のない別々の装置と捉えているため、引用文献1と引用文献2を組み合わせる動機付けは存在しないと思料されること(III.(2)(b)参照)(以下、「主張点1」という。)。
(イ)引用文献1の熱回収装置10は、高温バグフィルタ9からの比較的高温の排ガスG7から熱回収するので、バイナリー発電装置は適していないため、当業者が引用文献1の熱回収装置として引用文献2のバイナリー発電装置を組み合わせる動機付けは存在しないと思料されること(III.(2)(b)参照)(以下、「主張点2」という。)。
イ 請求人の以上の主張について検討する。
(ア)主張点1について、例えエコセメント焼成装置と一般的なセメント焼成装置の装置構成が大幅に異なるもので、互いに関連性のない別々の装置であったとしても、エコセメントキルンから発生する排ガスに含まれる有害物質を処理した後の排ガスは、一般的なセメント焼成装置の排ガスと比較して、排ガスからの熱回収という点に関して、差異がないといえる。
そして、引用文献1の「熱回収装置」が対象とする排ガスは、エコセメントキルン排ガスに含まれる有害物質を、「触媒装置」、「カルシウム系薬剤添加装置」及び「該カルシウム系薬剤が添加された排ガスを集塵する集塵装置」により、処理した後のものであるから(上記第4の1(1)ア、イ及びウ【0006】〜【0007】参照)、一般的なセメント焼成装置の排ガスからの熱回収装置でも熱回収が可能であることは明らかである。
したがって、引用文献1と周知技術を組み合わせる動機付けが存在しないとはいえない。
よって、請求人の当該主張は採用できない。
(イ)主張点2について、本願明細書(【0025】)において、バイナリー発電装置は「低温域の熱源を利用」するものとされることを考慮すれば、請求人は、引用文献1の高温バグフィルタ9からの比較的高温の排ガスG7は、バイナリー発電装置に導入して熱回収するには高温すぎるということを前提として、引用文献1の熱回収装置としてバイナリー発電装置を組み合わせる動機付けがないと主張しているものと解される。
しかしながら、上記(3)で検討したとおり、バイナリー発電装置は、75℃以上400℃以下の高温の気体から熱回収して発電することができることが周知であり、また、引用文献1の高温バグフィルタ9からの排ガスG7の温度は350℃程度である。そうすると、排ガスG7が、バイナリー発電装置に導入して熱回収するには高温すぎるから、バイナリー発電装置が適さないとはいえない。
したがって、引用文献1の熱回収装置として、周知のバイナリー発電装置を組み合わせる動機付けがないとはいえない。
よって、請求人の当該主張は、主張の前提が異なるから、採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本願発明1、すなわち、請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号に該当するため拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-12 
結審通知日 2022-10-26 
審決日 2022-11-08 
出願番号 P2017-181961
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 原 和秀
後藤 政博
発明の名称 エコセメントの焼成装置  
代理人 中井 潤  

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