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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B62M
管理番号 1392666
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-29 
確定日 2022-12-08 
事件の表示 特願2018− 96663「ロック装置」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年11月21日出願公開、特開2019−199243〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年5月18日の出願であって、その手続きは以下のとおりである。
令和 3年 3月 1日付け:拒絶理由通知書
同年 5月10日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月22日付け:拒絶査定
同年 9月29日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出
令和 4年 3月 4日 :上申書の提出


第2 令和3年9月29日にされた手続補正について補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年9月29日にされた手続補正を却下する。

[理由
1 補正の内容
令和3年9月29日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、請求項1についての補正の内容は以下のとおりである。
(1)本件補正後の請求項1
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
人力駆動車のバッテリユニットを着脱可能に保持するバッテリホルダに、前記バッテリユニットをロックするロック装置であって、
前記バッテリホルダに設けられるベースと、
前記ベースに設けられ、前記バッテリユニットに設けられる被係合部に係合することによって前記バッテリユニットを前記バッテリホルダにロックするロック位置と、前記被係合部と非係合になることによって前記バッテリユニットのロックを解除するアンロック位置とを選択できるように前記ベースに対して直進するロック部と、
前記ロック部を前記ロック位置に向けて付勢する付勢部材と、
前記ロック部を前記アンロック位置に変位させる電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータの駆動力を前記ロック部に伝達する伝達機構と、を備え、
前記電動アクチュエータは、前記ロック部の前記ロック位置に対応する第1位置と、前記ロック部の前記アンロック位置に対応する第2位置との間で回転変位可能な可動部を含み、
前記付勢部材は、前記可動部が前記第1位置に位置する状態において、前記ロック部が前記ロック位置に位置するように前記ロック部を付勢し、
前記電動アクチュエータは、前記バッテリホルダに設けられるコネクタを介して前記バッテリユニットから供給される電力によって動作する、ロック装置。」

(2)本件補正前の請求項1
本件補正前の令和3年5月10日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおり。
「【請求項1】
人力駆動車のバッテリユニットをバッテリホルダにロックするロック装置であって、
前記バッテリユニットおよび前記バッテリホルダの一方に設けられるベースと、
前記バッテリユニットおよび前記バッテリホルダの他方に設けられる被係合部に係合することによって前記バッテリユニットを前記バッテリホルダにロックするロック位置と、前記被係合部と非係合になることによって前記バッテリユニットのロックを解除するアンロック位置とを選択できるように前記ベースに対して直進するロック部と、
前記ロック部を前記ロック位置に向けて付勢する付勢部材と、
前記ロック部を前記アンロック位置に変位させる電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータの駆動力を前記ロック部に伝達する伝達機構と、を備え、
前記電動アクチュエータは、前記ロック部の前記ロック位置に対応する第1位置と、前記ロック部の前記アンロック位置に対応する第2位置との間で回転変位可能な可動部を含み、
前記付勢部材は、前記可動部が前記第1位置に位置する状態において、前記ロック部が前記ロック位置に位置するように前記ロック部を付勢する、ロック装置。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「バッテリユニットをバッテリホルダにロックする」ことに関して、「バッテリユニットを着脱可能に保持する」バッテリホルダに、「前記」バッテリユニットをロックするとの限定、「ロック部」に関して「前記ベースに設けられ」との限定、「電動アクチュエータ」に関して「前記電動アクチュエータは、前記バッテリホルダに設けられるコネクタを介して前記バッテリユニットから供給される電力によって動作する」との限定を、それぞれ付加するものであると共に、「ベース」に関して「前記バッテリユニットおよび前記バッテリホルダの一方に設けられる」という選択的な事項について「前記バッテリホルダに設けられる」に限定するものであり、「被係合部」に関して「前記バッテリユニットおよび前記バッテリホルダの他方に設けられる」という選択的な事項について「前記バッテリユニットに設けられる」に限定するものである。
さらに、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではない。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献等
ア 引用文献1
(ア)記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され、本願の出願前に頒布された特開2010−235006号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付与した。以下同様)。
・「【請求項1】
車体フレームに着脱可能に取り付けられたバッテリケース内のバッテリを電源としてモータを駆動しクランクの回転力を補助する電動アシスト自転車において、
バッテリケースを車体フレームへ固定し又は同フレームから解放する機構を有する固定装置と、前記固定装置の固定又は解放の操作を行う操作部とが、シートチューブ内に設置され、前記固定装置及び操作部を収納したシートチューブにシートポストが差し込まれている構成であることを特徴とする、電動アシスト自転車。」
・「【0005】
本発明の目的は、車体フレームに着脱可能に取り付けられるバッテリケースの盗難防止効果のレベルアップ(困難度を高める)を図ると共に、固定装置および操作部が雨や泥等による悪影響を受けることがなく、長期間に亘って良好なバッテリケースの着脱操作を行え、意匠性にも優れた電動アシスト自転車を提供することである。」
・「【0008】
本発明に係る電動アシスト自転車は、バッテリケース2を車体フレームに固定し又は同フレームから解放する機構を有する固定装置3と、該固定装置3の固定又は解放の操作を行う操作部4とをシートチューブ6内に設置し、同固定装置3及び操作部4を収納させたシートチューブ6にシートポスト5を差し込んだ構成であり、同固定装置3と操作部4を外部から見えないように隠しているので、盗難防止効果が一段とレベルアップされ、バッテリケース2の盗難防止に威力を発揮する。
その上、シートチューブ6内に設置した固定装置3及び操作部4は、雨や泥等の影響を受けないので、長期間に亘り良好なバッテリケース2の着脱操作を可能にならしめる。
更に、シートチューブ6内に固定装置3及び操作部4を設置することで、スマートで意匠性に優れた外観を実現できる。」
・「【0011】
以下に、本発明に係る電動アシスト自転車を、図示した実施例に基づいて説明する。
図1は、車体フレームを構成するシートチューブ上端6aへ着脱可能に取り付けられたバッテリケース2内のバッテリを電源としてモータを駆動し、使用者がペダル7を踏む回転力を補助(アシスト)する電動アシスト自転車1を示す。図2は、バッテリケース2をシートチューブ上端6aから取り外した状態を示す。図1及び2に示す電動アシスト自転車1は、シートチューブの中間部(例えば図7?9に示すシートチューブ6’)を持たないで、シートチューブ上端6aのみを備えた構成の実施例を示している。
【0012】
前記シートチューブ上端6aの内部に、バッテリケース2の上端を同シートチューブ上端6aの下端面へ固定し又は同シートチューブ上端6aの下端面から解放する機構を有する固定装置3と、前記固定装置3の固定又は解放の操作を行う操作部4とが一組として設置されている。前記シートチューブ上端6aの内周面と、固定装置3及び操作部4の外周面との間に、サドル10を支持するシートポスト5が差し込まれている。前記バッテリケース2の上端は、シートチューブ上端6aの下端面に固定され、同バッテリケース2の下端は、シートチューブ下端6bに設置されたバッテリ受け部(一例として図11の符号fを参照)に支持され固定されている。」
・「【0017】
図5及び図6には、固定装置として自己保持型ソレノイドロック機構3’を採用し、操作部4’のキー孔へキー4bを差し込んで回すことによって前記固定装置3’を固定又は解放できる構成の固定装置3’と操作部4’の実施例を示している。
前記固定装置3’は、操作部4’のキー孔(図3Bを参照)にキー4bを差し込んで回すと、図5に示すように、吸引時(解放操作時)と極性を変えた電流がソレノイド3mの吸引コイルに通電(短時間開放電流)され、永久磁石3nのエネルギーが打ち消される。それにより伸長する復帰スプリング3pよって(審決注:「スプリング3pよって」は「復帰スプリング3pによって」の誤記と認められる。)ロックピン3bがバッテリケース2の上端の凹部2aへ嵌り、前記吸引コイルへの通電が止まると前記永久磁石3n及び復帰スプリング3pによって同ロックピン3bがバッテリケース2の凹部2a内で保持されて同バッテリケース2がシートチューブ上端6aに取り付けられる。なお、前記固定装置3’と操作部4’の電源は、バッテリにより作動電源装置3jに蓄積される。
【0018】
上記固定装置3’の固定を解放させるには、図6に示すように、シートポスト5をシートチューブ上端6aから抜き外して現われた操作部4’のキー孔へキー4bを差し込んで回す。すると、ソレノイド3mの吸引コイルへ直流電圧が印加され、ロックピン3bがベース3kに向かって瞬時に強く吸引された後に、同吸引コイルへの通電がとめられ、吸引スプリング3hと永久磁石3nによってロックピン3bが吸着保持され、バッテリケース2を取り外すことができる。
【0019】
なお、前記操作部4’の操作は、例えばリモコン装置による遠隔操作で旋錠し又は解錠するキー機構により、シートポスト5をシートチューブ上端6aに差し込んだままの状態で行うように構成して実施できる。」
・「【0023】
以上に実施形態を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の実施形態の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。」

・図5には、以下の内容が示されている。


・図6には、以下の内容が示されている。


(イ)引用発明
これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「車体フレームに着脱可能に取り付けられたバッテリケース2内のバッテリを電源としてモータを駆動しクランクの回転力を補助する電動アシスト自転車1において、
バッテリケース2を車体フレームへ固定し又は同フレームから解放する機構を有する固定装置3’と、前記固定装置3’の固定又は解放の操作を行う操作部4’とが、シートチューブ6内に設置され、前記固定装置3’及び操作部4’を収納したシートチューブ6にシートポスト5が差し込まれている構成であることを特徴とする、電動アシスト自転車1(【請求項1】)であって、
車体フレームを構成するシートチューブ上端6aへ着脱可能に取り付けられたバッテリケース2内のバッテリを電源としてモータを駆動し、使用者がペダル7を踏む回転力を補助(アシスト)する電動アシスト自転車1であって(【0011】)、
前記シートチューブ上端6aの内部に、バッテリケース2の上端を同シートチューブ上端6aの下端面へ固定し又は同シートチューブ上端6aの下端面から解放する機構を有する固定装置3と、前記固定装置3の固定又は解放の操作を行う操作部4とが一組として設置されていて(【0012】)、
前記バッテリケース2の上端は、シートチューブ上端6aの下端面に固定され、同バッテリケース2の下端は、シートチューブ下端6bに設置されたバッテリ受け部に支持され固定されていて(【0012】)、
固定装置として自己保持型ソレノイドロック機構3’を採用し、操作部4’のキー孔へキー4bを差し込んで回すことによって前記固定装置3’を固定又は解放できる構成の固定装置3’と操作部4’を備え(【0017】)、
前記固定装置3’は、操作部4’のキー孔にキー4bを差し込んで回すと、吸引時(解放操作時)と極性を変えた電流がソレノイド3mの吸引コイルに通電(短時間開放電流)され、永久磁石3nのエネルギーが打ち消され、それにより伸長する復帰スプリング3pによってロックピン3bがバッテリケース2の上端の凹部2aへ嵌り、前記吸引コイルへの通電が止まると前記永久磁石3n及び復帰スプリング3pによって同ロックピン3bがバッテリケース2の凹部2a内で保持されて同バッテリケース2がシートチューブ上端6aに取り付けられ(【0017】)、
前記固定装置3’と操作部4’の電源は、バッテリにより作動電源装置3jに蓄積され(【0017】)、
上記固定装置3’の固定を解放させるには、シートポスト5をシートチューブ上端6aから抜き外して現われた操作部4’のキー孔へキー4bを差し込んで回すと、ソレノイド3mの吸引コイルへ直流電圧が印加され、ロックピン3bがベース3kに向かって瞬時に強く吸引された後に、同吸引コイルへの通電がとめられ、吸引スプリング3hと永久磁石3nによってロックピン3bが吸着保持され、バッテリケース2を取り外すことができる(【0018】)、
電動アシスト自転車1。」

(3)発明の対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)後者の「電動アシスト自転車1」は前者の「人力駆動車」に相当し、以下同様に「バッテリケース2」は「バッテリユニット」に、「固定装置3’」は「ロック装置」に、「復帰スプリング3p」は「付勢部材」に、「ソレノイド3m」は「電動アクチュエータ」に、「ロックピン3b」は「ロック部」にそれぞれ相当する。
(イ)後者の「バッテリケース2」は、「車体フレームに着脱可能に取り付けられたバッテリケース」である。また、「バッテリケース2の上端」は、「シートチューブ上端6aの下端面に固定され、同バッテリケース2の下端は、シートチューブ下端6bに設置されたバッテリ受け部に支持され固定され」る。
これらの点及び上記(ア)を踏まえると、後者の「シートチューブ上端6a」及び「シートチューブ下端6bに設置されたバッテリ受け部」は、電動アシスト自転車1のバッテリケース2を着脱可能に保持する機能を有するので、前者の「人力駆動車のバッテリユニットを着脱可能に保持するバッテリホルダ」に相当する。
(ウ)後者の「固定装置3’」は、「シートチューブ上端6a」に「バッテリケース2」を「固定又は解放させる」よう機能するので、バッテリケース2をロックするロック装置といえる。
そうすると、後者の「固定装置3’」は、上記(ア)(イ)を踏まえると、前者の「バッテリホルダに、バッテリユニットをロックするロック装置」に相当する。
(エ)後者の「シートチューブ上端6a」は、上記(イ)に示すとおり「バッテリホルダ」の一部であるから、バッテリホルダに設けられる部材といえる。
そうすると、後者の「シートチューブ上端6a」は、前者の「バッテリホルダに設けられるベース」に相当する。
(オ)後者の「ロックピン3b」は「伸長する復帰スプリング3pによってロックピン3bがバッテリケース2の上端の凹部2aへ嵌り」、「永久磁石3n及び復帰スプリング3pによって同ロックピン3bがバッテリケース2の凹部2a内で保持されて同バッテリケース2がシートチューブ上端6aに取り付けられ」るよう作用する。
よって、後者の「バッテリケース2の上端面の凹部2a」は前者の「バッテリユニットに設けられる被係合部」に相当し、後者の「ロックピン3bがバッテリケース2の上端面の凹部2aに嵌って」いる位置(図5参照)が前者の「ロック位置」に相当し、ロックピン3bが嵌ってない位置(図6参照)が前者の「アンロック位置」相当する。
また、後者の「ロックピン3b」は、「シートチューブ上端6a」に対して直進する。
そうすると、後者の
「前記固定装置3’は、操作部4’のキー孔にキー4bを差し込んで回すと、吸引時(解放操作時)と極性を変えた電流がソレノイド3mの吸引コイルに通電(短時間開放電流)され、永久磁石3nのエネルギーが打ち消され、それにより伸長する復帰スプリング3pによってロックピン3bがバッテリケース2の上端の凹部2aへ嵌り、前記吸引コイルへの通電が止まると前記永久磁石3n及び復帰スプリング3pによって同ロックピン3bがバッテリケース2の凹部2a内で保持されて同バッテリケース2がシートチューブ上端6aに取り付けられ、
前記固定装置3’と操作部4’の電源は、バッテリにより作動電源装置3jに蓄積され、
上記固定装置3’の固定を解放させるには、シートポスト5をシートチューブ上端6aから抜き外して現われた操作部4’のキー孔へキー4bを差し込んで回すと、ソレノイド3mの吸引コイルへ直流電圧が印加され、ロックピン3bがベース3kに向かって瞬時に強く吸引された後に、同吸引コイルへの通電がとめられ、吸引スプリング3hと永久磁石3nによってロックピン3bが吸着保持され、バッテリケース2を取り外すことができる」
という構成における「ロックピン3b」は、前者の「ベースに設けられ、バッテリユニットに設けられる被係合部に係合することによってバッテリユニットをバッテリホルダにロックするロック位置と、被係合部と非係合になることによってバッテリユニットのロックを解除するアンロック位置とを選択できるようにベースに対して直進するロック部」に相当する。
(カ)後者の「バッテリケース2の上端」を「シートチューブ上端6aの下端面へ固定」するときに、「復帰スプリング3p」は「伸長する復帰スプリング3pによってロックピン3bがバッテリケース2の上端の凹部2aへ嵌」るよう機能するので、上記(オ)を踏まえると、後者の「復帰スプリング3p」は前者の「ロック部をロック位置に向けて付勢する付勢部材」に相当する。
(キ)後者の「固定装置3’の固定を解放させる」ときは、「ソレノイド3mの吸引コイルへ直流電圧が印加され、ロックピン3bがベース3kに向かって瞬時に強く吸引された後に、同吸引コイルへの通電がとめられ、吸引スプリング3hと永久磁石3nによってロックピン3bが吸着保持され、バッテリケース2を取り外す」ものである。そうすると、後者の「ソレノイド3m」は、「ロックピン3b」を固定から解放する側の位置に変位させる機能を有するので、前者の「ロック部をアンロック位置に変位させる電動アクチュエータ」に相当する。
(ク)上記の(ウ)(エ)(オ)(カ)(キ)を踏まえると、後者の「固定装置3’」が、「シートチューブ上端6aの内部」に「設置されていて」、固定装置3’を構成する要素として「ロックピン3b」「復帰スプリング3p」「ソレノイド3m」を備える構成は、前者の「ロック装置」が、「ベースと、」「ロック部と、」「付勢部材と、」「電動アクチュエータと、」「を備え」る構成に相当する。
(ケ)後者の「復帰スプリング3pによってロックピン3bがバッテリケース2の凹部2a内で保持され」る構成と、前者の「前記付勢部材は、前記可動部が前記第1位置に位置する状態において、前記ロック部が前記ロック位置に位置するように前記ロック部を付勢」する構成とは、上記(ア)(カ)を踏まえると、「付勢部材は、ロック部がロック位置に位置するようにロック部を付勢」する点で共通する。
(コ)後者の「ソレノイド3m」の駆動源については、「固定装置3’と操作部4’の電源は、バッテリにより作動電源装置3jに蓄積され」るので、技術的に考えると、電力によって動作することは明らかである。
そうすると、後者の「ソレノイド3m」が電力によって動作する構成と、前者の「前記電動アクチュエータは、前記バッテリホルダに設けられるコネクタを介して前記バッテリユニットから供給される電力によって動作する」構成とは、「電動アクチュエータは、電力によって動作する」点で共通する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「人力駆動車のバッテリユニットを着脱可能に保持するバッテリホルダに、前記バッテリユニットをロックするロック装置であって、
前記バッテリホルダに設けられるベースと、
前記ベースに設けられ、前記バッテリユニットに設けられる被係合部に係合することによって前記バッテリユニットを前記バッテリホルダにロックするロック位置と、前記被係合部と非係合になることによって前記バッテリユニットのロックを解除するアンロック位置とを選択できるように前記ベースに対して直進するロック部と、
前記ロック部を前記ロック位置に向けて付勢する付勢部材と、
前記ロック部を前記アンロック位置に変位させる電動アクチュエータと、を備え、
前記付勢部材は、前記ロック部が前記ロック位置に位置するように前記ロック部を付勢し、
前記電動アクチュエータは、電力によって動作する、ロック装置。」

<相違点1>
本件補正発明では、
「前記電動アクチュエータの駆動力を前記ロック部に伝達する伝達機構」を備え、
「前記電動アクチュエータは、前記ロック部の前記ロック位置に対応する第1位置と、前記ロック部の前記アンロック位置に対応する第2位置との間で回転変位可能な可動部を含み、」
前記付勢部材は、「前記可動部が前記第1位置に位置する状態において、」前記ロック部が前記ロック位置に位置するように前記ロック部を付勢する構成であるのに対して、引用発明では、電動アクチュエータとしてのソレノイド3mがロックピン3bを直接動かす形式であり、伝達機構や回転変位可能な可動部の構成を備えていない点。

<相違点2>
「電動アクチュエータ」が「動作」する「電力」に関して、本件補正発明では、「前記バッテリホルダに設けられるコネクタを介して前記バッテリユニットから供給される」電力であるのに対して、引用発明では、バッテリにより作動電源装置3jに蓄積された電源を用いる点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)引用文献1における発明が解決しようとする課題(【0005】参照)及び発明の効果(【0008】参照)を踏まえると、引用発明における固定装置は、シートチューブ内に設置され、固定装置及び操作部を収納したシートチューブにシートポストが差し込まれている構成とする限りにおいて、適宜設計し得る事項である。
(イ)ロック機構(固定装置)に関して、所定のロック装置のロック部を、ロック位置又はアンロック位置に選択できるよう直進させる機構として、ロック部・付勢部材・回転変位可能な可動部を含む電動アクチュエータ・伝達機構を用いてロック部を動かすロック機構は、本願出願日前において周知技術にすぎない(例えば、特開2016−97882号公報の「駆動機構7」(図4、8、9参照)、特開平2−96072号公報の「リッドロック装置」(第1〜3図参照)、特表2014−507324号公報の【0014】の「ステアリングロック」(図1a、1b参照)が挙げられる。
具体的には、
「ロック部(特開2016−97882号公報の【0030】の「サブロッド60」(図4、8、9参照)が相当、特開平2−96072号公報の第2ページ右下欄第9−10行の「係止部材20」(第1〜3図参照)が相当、及び、特表2014−507324号公報の【0014】の「掛け金30」(図1a,1b参照)が相当。)をロック位置に向けて付勢する付勢部材(特開2016−97882号公報の【0030】の「第2付勢部材61」(図4、8、9参照)が相当、特開平2−96072号公報の第2ページ右下欄第19行の「バネ部材4」(第1〜3図参照)が相当、及び、特表2014−507324号公報の【0016】の「復帰ばね40」(図1a、1b参照)が相当。)と、
ロック部をアンロック位置に変位させる電動アクチュエータ(特開2016−97882号公報の【0034】の「電動モータ41」(図4、8、9参照)が相当、特開平2−96072号公報の第2ページ右下欄第19行の「バネ部材4」(第1〜3図参照)が相当、及び、特表2014−507324号公報の【0014】の「モータ10」(図1a、1b参照)が相当。)と、
電動アクチュエータの駆動力をロック部に伝達する伝達機構(特開2016−97882号公報の【0035】の「連結部材46」(図4、8、9参照)が相当、特開平2−96072号公報の第3ページ左上欄第3行の「ウォームホィール5」(第1〜3図参照)が相当、及び、特表2014−507324号公報の【0014】の「歯車20」(図1a、1b参照)が相当。)と、
を備え、
電動アクチュエータは、ロック部のロック位置に対応する第1位置と、ロック部のアンロック位置に対応する第2位置との間で回転変位可能な可動部(特開2016−97882号公報の【0035】の「回転変位可能なギア」(不図示)が相当、特開平2−96072号公報の第3ページ左上欄第20行の「ウォーム71」(第1〜3図参照)が相当、及び、特表2014−507324号公報の【0014】の「ウォーム15」(図1a、1b参照)が相当。)
を含み、
付勢部材は、可動部が第1位置に位置する状態において、ロック部がロック位置に位置するようにロック部を付勢すること」
は、本願出願日前において周知の技術である(以下「周知技術1」という。)。
(ウ)そうすると、引用発明のロック機構として上記周知技術1を適用し、相違点1に係る本件補正発明の構成とすることは、均等手段による置換にすぎないので、当業者であれば容易である。

イ 相違点2について
(ア)引用発明は、「前記固定装置3’と操作部4’の電源は、バッテリにより作動電源装置3jに蓄積され」るものであり、さらにバッテリについては「車体フレームを構成するシートチューブ上端6aへ着脱可能に取り付けられたバッテリケース2内のバッテリを電源としてモータを駆動」してアシストするものであり、さらに、引用文献1の明細書全体を参酌してもバッテリケース2の他に別途バッテリを設けるような記載はない。これらの点を踏まえると、引用文献1の【0017】の「バッテリ」とはバッテリケース2内のバッテリを指す蓋然性が高いといえる。
(イ)そして、着脱自在なバッテリユニットから外部へ電力を供給する際に、バッテリホルダに設けられる何らかのコネクタを用いることは、当然のことである。
(ウ)さらに、人力駆動車の技術分野において、
「電動アクチュエータ(特開2001−171592号公報の【0023】、【0030】の「ソレノイド42」(図4参照)が相当、特開2000−142514号公報の【0054】の「バッテリロック用ソレノイド70」(図26参照)が相当、及び、特開2000−164185号公報【0060】の「バッテリロック用ソレノイド70」(図26参照)が相当)を動作する電力として、バッテリユニット(特開2001−171592号公報の【0023】、【0030】の「バッテリ4」(図4参照)が相当、特開2000−142514号公報の【0047】の「バッテリ55」(図17参照)が相当、及び、特開2000−164185号公報【0054】の「バッテリロック用ソレノイド70」(図26参照)が相当)から供給される電力を利用すること」
は、本願出願日前において周知技術である(以下「周知技術2」という。)。
(エ)さらに、上記周知技術2のように、電動アクチュエータを動作する電力としてバッテリユニットから供給される電力を利用すれば、その結果として、電動アクチュエータがロック部を動作させるためにバッテリユニット以外の電源を別途設ける必要がなくなることは、当業者が通常予測できる当然の効果である。
(オ)そうすると、引用発明に上記周知技術2を適用して、相違点2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易である。

ウ 本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術1〜2の奏する作用効果から予測できる範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ 審判請求書及び上申書における請求人の主張の検討
(ア)組み合わせの動機付けについて、相違点1に関しては、上記アにて検討したとおりである。
また、相違点2については、上記イにて検討したとおりである。審判請求書では「バッテリケース2の上端に電力を供給するためのコネクタは設けられていない」旨を主張しているが、その点は、特許請求の範囲に基づく主張ではないので、採用することができない。
(イ)上申書の[請求項1補正案]の内容を検討する。
本件補正後発明をさらに「前記ロック部は、バッテリユニットと対向する対向面を有する本体を含み、前記コネクタは、前記本体の前記対向面に設けられる」という事項で特定する補正は、新規事項の追加に該当すると考えられる。
[請求項1補正案]のように、「回転変位可能な可動部」(本願の図9(第2実施形態)参照)を備えた上で、さらに、「前記ロック部は、バッテリユニットと対向する対向面を有する本体を含み、前記コネクタは、前記本体の前記対向面に設けられる」構成(対向面24B及びコネクタ30の記載から、本願の図3〜4(第1実施形態)が対応する記載と一応考えられる。)は、発明の詳細な説明には記載されていない。
仮に、第1実施形態と2実施形態とを組み合わせた場合を想像しても、本願の図9には、そもそも対向面(24B)すら無く、組み合わせた結果としてどのような構成になるのかは一義的に決まるものではないので、上記の補正事項を含む[請求項1補正案]の内容は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
さらに進歩性について、仮に、本願の図3〜4に示される第1実施形態のベース22内部の電動アクチュエータを、本願の図9のような回転変位可能な可動部を有する機構に置き換えたようなものを[請求項1補正案]として検討したとしても、引用発明において周知技術1〜2を適用すると共に、バッテリユニットと対向する対向面にコネクタを設けることは、当業者であれば所望により適宜設計し得ることにすぎない。

オ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術1〜2に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件補正前の本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 1(2)」に示したとおりのものと認められる。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1
・引用文献等 1、2、8、9

・請求項 2、28
・引用文献等 1乃至3、6、7

・請求項 3乃至5
・引用文献等 1乃至3、6、7

・請求項 12、14乃至17、19乃至21、24、26、27、30
・引用文献等 1、2、8、9

・請求項 10、11、13、25
・引用文献等 1、8、9

・請求項 18
・引用文献等 2、3、8、9

・請求項 22、23
・引用文献等 1、2、4、5、8、9

・請求項 29
・引用文献等 1乃至3、6乃至9

<引用文献等一覧>
1.特開2010−235006号公報
2.米国特許出願公開第2012/0049483号明細書
3.特開2000−164185号公報
4.特開平08−175466号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2018−006143号公報(周知技術を示す文献)
6.中国特許出願公開第105857501号明細書
7.米国特許出願公開第2013/0231810号明細書(周知技術を示す文献)
8.特開2016−97882号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
9.特開平2−96072号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)

3 引用文献の記載事項等
引用文献1に記載された発明(引用発明)は、上記「第2 2(2)ア(イ)」に示したとおりであり、周知技術1、周知技術2は、上記「第2 2(4)ア(イ)、イ(ウ)」に示したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、「バッテリホルダ」に関して「着脱可能に保持する」と、「ロックする」に関して「前記バッテリユニットを」と、「ロック部」に関して「前記ベースに設けられ」と、「電動アクチュエータ」に関して「電動アクチュエータは、前記バッテリホルダに設けられるコネクタを介して前記バッテリユニットから供給される電力によって動作する」と、の限定をそれぞれ削除すると共に、「ベース」に関して「前記バッテリホルダに設けられる」ことを「前記バッテリユニットおよび前記バッテリホルダの一方に設けられる」という選択的な事項に変更し、「被係合部」に関して「前記バッテリユニットに設けられる」ことを「前記バッテリユニットおよび前記バッテリホルダの他方に設けられる」という選択的な事項に変更するものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに該当する本件補正発明が、上記「第2 2(3)(4)」で説示したとおり、引用発明及び周知技術1〜2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び周知技術1〜2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1〜2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-06 
結審通知日 2022-10-11 
審決日 2022-10-25 
出願番号 P2018-096663
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B62M)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 三宅 龍平
出口 昌哉
発明の名称 ロック装置  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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