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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1392716
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-11-02 
確定日 2022-12-15 
事件の表示 特願2018− 59920「アブレーションデバイス」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年10月10日出願公開、特開2019−170466〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年3月27日の出願であって、その手続の経緯は、概略以下のとおりである。
令和 3年 3月18日付け 拒絶理由通知書
令和 3年 4月14日提出 意見書及び手続補正書
令和 3年 7月 8日付け 拒絶理由通知書(最後の拒絶理由)
令和 3年 8月 3日提出 意見書及び手続補正書
令和 3年 9月 6日付け 令和3年8月3日提出の手続補正書
でした補正についての補正の却下の
決定、及び拒絶査定
令和 3年11月 2日提出 審判請求書
令和 4年 6月16日付け 拒絶理由通知書
令和 4年 7月11日提出 意見書
令和 4年 8月 3日提出 意見書

第2 本願発明
本願の請求項1〜2に係る発明は、令和3年4月14日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「体内の患部に対して経皮的に穿刺されると共に、アブレーションを行うための電力が供給される電極針と、
前記電極針の内部に形成されており、冷却用の液体が流れる流路と、
前記流路内に配置された第1の温度測定素子と、
前記電極針の内部において前記電極針の先端付近に配置されており、前記アブレーションの際の前記患部の温度を前記電極針の内部にて測定する第2の温度測定素子と、
前記電極針の基端側に装着されたハンドルと
を備えたアブレーションデバイス。」

第3 拒絶の理由
令和4年6月16日付けで当審が通知した拒絶理由の理由1のうち、本願発明に対する理由は、概略次のとおりである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2008−237620号公報
引用文献2:特許第5907545号公報

第4 引用文献の記載事項及び引用発明等
1 引用文献1について
(1)記載事項
ア 上記引用文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様である。)。
(ア)「【0002】
最近、肝癌などの病変部位を局所的に治療する方法として、高周波焼灼療法が行われており、特許文献1および特許文献2には、高周波焼灼療法に使用される集合電極システムおよび電極装置が開示されている。」

(イ)「【0020】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の焼灼用穿刺針の一実施形態を示す断面図である。
本実施形態の焼灼用穿刺針1は、高周波電流が通電される尖鋭な先端電極10と、その基端側に接続された電気絶縁性連結管20と、その基端側に接続された金属製細管30とからなる。焼灼用穿刺針1は、金属製細管30の基端側において、把持部40により保持されている。
把持部40の先端より突出する焼灼用穿刺針1の長さL0は、通常150〜500mmとされ、好ましくは200mm程度であり、その外径(電気絶縁性連結管20および金属製細管30の外径)は0.8〜3.0mm程度である。」

(ウ)「【0031】
また、先端電極10には、熱電対ケーブル52の先端部(熱電対)が接続されている。この熱電対ケーブル52は、穿刺針1の内孔に延在して金属製細管30の基端から把持部40の内孔に延出し、さらに、把持部40の内孔に延在して把持部40の基端壁41を貫通している。熱電対ケーブル52の基端部は、ラジオ波発生装置(図示省略)の温度センサ入力部に接続されている。これにより、先端電極10の温度をモニタリングしながら、先端電極10への出力電流を制御することができる。なお、熱電対ケーブル52に代えて、サーミスタを先端部に備えてなるサーミスタケーブルを先端電極10の温度センサとして用いてもよい。」

(エ)「【0032】
また、先端電極10には、その内部に冷却水を供給するための送水チューブ53の先端が挿入されている。この送水チューブ53は、穿刺針1の内孔に延在して金属製細管30の基端から把持部40の内孔に延出し、さらに、把持部40の内孔に延在して把持部40の基端壁41を貫通している。送水チューブ53の基端は、冷却水の供給源(図示省略)に接続されている。
送水チューブ53の先端開口より供給された冷却水は、先端電極10を内部から冷却した後、穿刺針1の内孔および把持部40の内孔を通って、基端壁41を貫通する(把持部40の内孔と外部とを連通する)よう形成された排水チューブ54から排出される。」

(オ)「【0033】
このように、先端電極10の内部に水を流通させることによる先端電極10の冷却手段を設けることにより、先端電極10への高周波電流の通電時において、先端電極10の過度の温度上昇に伴う、電極周辺組織における水分の蒸発や組織の炭化に起因するインピーダンスの上昇を抑制することができる。また、高周波電流の通電終了後に、先端電極10を急冷することができるので、余熱(電極に残留する熱)による電極周辺組織へのダメージを防止することができる。」

(カ)「【0034】
冷却手段を構成する送水チューブ53および排水チューブ54の材質としては特に限定されるものではなく、金属製チューブであっても、樹脂製チューブであってもよい。
また、二重管構造のチューブの先端を先端電極10の内部に挿入し、その内管より冷却水を供給し、冷却後の水を外管(ジャケット)より排出する構造としてもよい。」

(キ)「【0035】
図2は、本実施形態の焼灼用穿刺針1を備えたシステム(ラジオ波焼灼療法システム)の全体構成を模式的に示す概略図である。このシステムは、本実施形態の穿刺針1と、ラジオ波発生装置2と、対極板3と、冷却水の供給源4と、排水貯槽5とを備えている。」

(ク)「【0036】
図2に示すように、穿刺針1とラジオ波発生装置2とは、リード線51により接続されている。また、穿刺針1と冷却水の供給源4とは、送水チューブ53により接続されている。さらに、穿刺針1と排水貯槽5とは、排水チューブ54により接続されている。
対極板3は、患者100の大腿部付近に貼り付けられ、この対極板3とラジオ波発生装置2とは、リード線55により接続されている。」

(ケ)「【0037】
図2に示したようにシステムをセットアップした後、超音波映像をモニタリングしながら、穿刺針1の先端電極10を患者100の病変部に穿刺する。このとき、穿刺針1の先端電極10以外の部分(電気絶縁性連結管20および金属製細管30)の周囲には、正常組織が存在し、穿刺針1の基端部分は患者100の体表と接触することになる。」

(コ)「【0038】
この状態で、通電を開始すると、ラジオ波発生装置2からのラジオ波電流は、リード線51および穿刺針1を経由して患者100の体内を流れ、患者100の大腿部付近に貼り付けた対極板3およびリード線55を経由してラジオ波発生装置2に還流する。そして、穿刺針1と対極板3との間に流れるラジオ波電流によって生体組織でジュール熱が発生する。ここに、ラジオ波の周波数は、例えば300kHz〜6MHzとされ、ラジオ波電流の最大出力は、例えば200Wとされる。」

(サ)「【0039】
ラジオ波電流によって発生するジュール熱の量は、電流密度の高い先端電極10の近傍組織、すなわち、患者100の病変部において最も多く、これにより、当該病変部が高温となって焼灼され、病変組織が凝固・壊死に至る。このとき、焼灼されている病変部の中心に位置する先端電極10は当該病変部と同程度の温度となるので、図1に示した熱電対ケーブル(52)によって先端電極10の温度をモニタリングすることにより、病変部における焼灼温度を把握することができる。」

(シ)「【0040】
ここに、焼灼温度としては、通常50〜90℃とされ、好ましくは55〜70℃とされる。焼灼温度が低過ぎる場合には、病変組織を確実に凝固・壊死させることができない。一方、焼灼温度が高過ぎる場合には、水分の急激な沸騰による乾燥状態や組織の炭化が生じ、インピーダンスが上昇して電流が流れにくくなる結果、病変組織を凝固させることができなくなる。」

(ス)「【0045】
しかも、ラジオ波発生装置2からのラジオ波電流が先端電極10にのみ通電されるので、全体が通電領域となる従来公知の焼灼用穿刺針よりも低い高周波エネルギーで、先端電極10により穿刺された病変部を集中的に焼灼することができる。」

(セ)「【0065】
【図1】 本発明の焼灼用穿刺針の一実施形態を示す断面図である。
【図2】 図1に示した焼灼用穿刺針を備えたラジオ波焼灼療法システムの全体構成を模式的に示す概略図である。
【図3】 本発明の焼灼用穿刺針の他の実施形態を示す断面図である。」

イ 上記引用文献1には次の図が示されている。

(ア)【図1】


(イ)【図2】


(2)認定事項
ア 引用文献1の段落【0002】(摘示(1)ア(ア))における「肝癌などの病変部位を局所的に治療する方法として、高周波焼灼療法が行われており」との記載、段落【0037】(摘示(1)ア(ケ))における「図2に示したようにシステムをセットアップした後、超音波映像をモニタリングしながら、穿刺針1の先端電極10を患者100の病変部に穿刺する。このとき、穿刺針1の先端電極10以外の部分(電気絶縁性連結管20および金属製細管30)の周囲には、正常組織が存在し、穿刺針1の基端部分は患者100の体表と接触することになる。」との記載、及び図2(摘示(1)イ(イ))の図示内容から、先端電極10を有する焼灼用穿刺針1は、体内の病変部に対して経皮的に穿刺されるものと認められる。

イ 引用文献1の段落【0020】(摘示(1)ア(イ))における「焼灼用穿刺針1は、高周波電流が通電される尖鋭な先端電極10と、その基端側に接続された電気絶縁性連結管20と、その基端側に接続された金属製細管30とからなる。」との記載、段落【0037】(摘示(1)ア(ケ))における「穿刺針1の先端電極10」との記載、段落【0038】(摘示(1)ア(コ))における「通電を開始すると、ラジオ波発生装置2からのラジオ波電流は、リード線51および穿刺針1を経由して患者100の体内を流れ」、「穿刺針1と対極板3との間に流れるラジオ波電流によって生体組織でジュール熱が発生する。」との記載、段落【0039】(摘示(1)ア(サ))における「ラジオ波電流によって発生するジュール熱の量は、電流密度の高い先端電極10の近傍組織、すなわち、患者100の病変部において最も多く、これにより、当該病変部が高温となって焼灼され、病変組織が凝固・壊死に至る。」との記載、段落【0045】(摘示(1)ア(ス))における「ラジオ波発生装置2からのラジオ波電流が先端電極10にのみ通電される」、「先端電極10により穿刺された病変部を集中的に焼灼する」との記載、及び、図1(摘示(1)イ(ア))の図示内容から、穿刺された病変部を集中的に焼灼するラジオ波電流が通電される先端電極10を有する焼灼用穿刺針1が認められる。

ウ 引用文献1の段落【0032】(摘示(1)ア(エ))における「先端電極10には、その内部に冷却水を供給するための送水チューブ53の先端が挿入されている。この送水チューブ53は、穿刺針1の内孔に延在し」との記載、【0033】(摘示(1)ア(オ))の「先端電極10の内部に水を流通させることによる先端電極10の冷却手段を設ける」との記載、及び図1(摘示(1)イ(ア))の図示内容から、焼灼用穿刺針1の内部に冷却水が流れる送水チューブ53が形成されていると認められる。

エ 引用文献1の段落【0031】(摘示(1)ア(ウ))における「先端電極10には、熱電対ケーブル52の先端部(熱電対)が接続されている。この熱電対ケーブル52は、穿刺針1の内孔に延在し」、「熱電対ケーブル52の基端部は、ラジオ波発生装置(図示省略)の温度センサ入力部に接続されている。これにより、先端電極10の温度をモニタリングし」との記載、及び図1(摘示(1)イ(ア))の図示内容から、熱電対ケーブル52の先端部は、焼灼用穿刺針1の内部において焼灼用穿刺針1の先端電極10に接続されており、焼灼用穿刺針1の内部にて先端電極10の温度をモニタリングすると認められる。

オ 引用文献1の段落【0020】(摘示(1)ア(イ))における「焼灼用穿刺針1は、高周波電流が通電される尖鋭な先端電極10と、その基端側に接続された電気絶縁性連結管20と、その基端側に接続された金属製細管30とからなる。焼灼用穿刺針1は、金属製細管30の基端側において、把持部40により保持されている。」との記載、及び図1(摘示(1)イ(ア))の図示内容から、把持部40は、焼灼用穿刺針1の基端側に装着されていると認められる。

(3)引用発明
上記(1)の記載事項、及び上記(2)の認定事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「体内の病変部に対して経皮的に穿刺されるとともに、穿刺された病変部を集中的に焼灼するラジオ波電流が通電される先端電極10を有する焼灼用穿刺針1と、
焼灼用穿刺針1の内部に形成されており、冷却水が流れる送水チューブ53と、
先端部が、焼灼用穿刺針1の内部において焼灼用穿刺針1の先端電極10に接続され、焼灼用穿刺針1の内部にて先端電極10の温度をモニタリングする熱電対ケーブル52であって、焼灼されている病変部の中心に位置する先端電極10は当該病変部と同程度の温度となるので、先端電極10の温度をモニタリングすることにより、病変部における焼灼温度を把握することができる熱電対ケーブル52と、
焼灼用穿刺針1の基端側に装着された把持部40と
を備えたラジオ波焼灼療法システムであって、
先端電極10の内部に水を流通させることによる先端電極10の冷却手段を設けることにより、先端電極10への高周波電流の通電時において、先端電極10の過度の温度上昇に伴う、電極周辺組織における水分の蒸発や組織の炭化に起因するインピーダンスの上昇を抑制する、ラジオ波焼灼療法システム。」

2 引用文献2について
(1)記載事項
ア 上記引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下同様である。)。
(ア)「【0031】
図1に示したように、本発明の一実施形態によるフレキシブル管が備えられる高周波熱治療用電極装置10は、取っ手20の前方に電極針50が備えられ、電極針50で発生する高周波熱で病変部位を焼灼して壊死させる医療装備であり、取っ手20と電極針50との間にフレキシブル管40が備えられて折れ曲がり変形が容易である。」

(イ)「【0049】
高周波熱治療時、高周波摩擦熱によって組織が凝固して壊死される過程で、熱によって組織内の水分も共に蒸発し、これによって電極針50の先端に病変部位が焦げつく炭化現象が発生する。」

(ウ)「【0050】
このような電極針50の炭化現象は、電極針50の高周波通電障害を発生させて病変部位の焼灼を困難にし、電極針50の分離作業も困難にする問題を引き起こすところ、熱による組織内の水分蒸発をなるべく抑制せねばならない。」

(エ)「【0051】
このために、本発明の一実施形態によってフレキシブル管が備えられる高周波熱治療用電極装置10では、電極針50の内部に冷却水が循環される冷却水循環ラインが形成され、以下、これについてさらに詳細に説明する。」

(オ)「【0062】
また、センサーライン25をその内部に収容するガイド管80が第3ブロック73を横切るが、ガイド管80の終端は、第2ブロック72の空間部に連通するように結合され、ガイド管80の先端は、押し棒30及びフレキシブル管40を経て電極針50の先端部まで延びる。」

(カ)「【0063】 よって、このガイド管80を通じて第2ブロック72の使用前の冷却水が電極針50の先端部まで供給される。」

(キ)「【0071】
一方、ガイド管80の先端部内部に温度測定センサー51が備えられる。」

(ク)「【0072】
この温度測定センサー51は、供給される冷却水の温度を確認するためのものであり、温度測定センサー51にはセンサーライン25が連結される。」

(ケ)「【0074】
さらに、別途に備えられる高周波オシレータ(図示せず)から出力された高周波を電極針50に伝達するために、電極針50の一側に電極ライン26が連結されるが、この電極ライン26は、絶縁コーティングされた電線で形成され、高周波オシレータから把持部21の終端に延びる。」

(コ)「【0083】
この時、電極針50の炭化現象を防止するために、電極針50の内部に冷却水が循環供給されるが、取っ手20の終端に連結される冷却水供給管23を通じて冷却水が供給されれば、取っ手20の内部に備えられる第1ブロック71の冷却水供給路75を通じて第2ブロック72に冷却水が流れ込む。」

(サ)「【0084】
次いで、第2ブロック72から電極針50の先端部まで延びるガイド管80を通じて、電極針50の先端部まで冷却水が供給される。」

(シ)「【0086】
この時、冷却水の温度は、電極針50の先端部に位置する温度測定センサー51によって確認できる。」

(ス)「【0090】
また、電極針の内部に冷却水循環ラインが形成され、病変部位組織内の水分の蒸発を抑制して電極針の炭化現象を防止するので、効率的な高周波熱治療が可能であり、電極針の内部に備えられる温度測定センサーを通じて冷却水の温度など供給状態を確認できる。」

イ 上記引用文献2には次の図が示されている。

【図2】


(2)認定事項
引用文献2の段落【0062】(摘示(1)ア(オ))における「ガイド管80の先端は、押し棒30及びフレキシブル管40を経て電極針50の先端部まで延びる。」との記載、段落【0063】(摘示(1)ア(カ))における「ガイド管80を通じて第2ブロック72の使用前の冷却水が電極針50の先端部まで供給される。」との記載、段落【0084】(摘示(1)ア(サ))における「電極針50の先端部まで延びるガイド管80を通じて、電極針50の先端部まで冷却水が供給される」との記載、及び図2(摘示(1)イ)の図示内容から、電極針50の内部にガイド管80が形成されていると認められる。

(3)引用文献2に記載された技術的事項
上記(1)の記載事項、及び上記(2)の認定事項から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されていると認められる。

「高周波オシレータから出力された高周波が伝達される電極針50であって、電極針50で発生する高周波熱で病変部位を焼灼して壊死させる電極針50の内部に形成されているガイド管80の先端部内部に、温度測定センサー51が備えられており、
ガイド管80を通じて、電極針50の先端部まで冷却水が供給されて、電極針の内部に冷却水が循環される冷却水循環ラインが形成されることで、病変部位組織内の水分の蒸発を抑制して電極針の炭化現象を防止するので、効率的な高周波熱治療が可能であり、
電極針50の内部に備えられる温度測定センサー51を通じて冷却水の温度など供給状態を確認することができること。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「体内の病変部に対して経皮的に穿刺されるとともに、焼灼のためのラジオ波電流が通電される先端電極10を有する焼灼用穿刺針1」は、本願発明の「体内の患部に対して経皮的に穿刺されると共に、アブレーションを行うための電力が供給される電極針」に相当する。

イ 引用発明の「焼灼用穿刺針1の内部に形成されており、冷却水が流れる送水チューブ53」は、本願発明の「電極針の内部に形成されており、冷却用の液体が流れる流路」に相当する。

ウ 引用発明の「焼灼用穿刺針1の内部において焼灼用穿刺針1の先端電極10に接続されて」いることは、本願発明の「電極針の内部において前記電極針の先端付近に配置されて」いることに相当する。

エ 引用発明の「焼灼用穿刺針1の内部にて先端電極10の温度をモニタリングする熱電対ケーブル52であって、焼灼されている病変部の中心に位置する先端電極10は当該病変部と同程度の温度となるので、先端電極10の温度をモニタリングすることにより、病変部における焼灼温度を把握することができる熱電対ケーブル52」は、本願発明の「アブレーションの際の前記患部の温度を前記電極針の内部にて測定する第2の温度測定素子」に相当する。

オ 引用発明の「焼灼用穿刺針1の基端側に装着された把持部40」は、本願発明の「電極針の基端側に装着されたハンドル」に相当する。

カ 引用発明の「ラジオ波焼灼療法システム」は、本願発明の「アブレーションデバイス」に相当する。

以上によれば、本願発明と引用発明とは、
「体内の患部に対して経皮的に穿刺されると共に、アブレーションを行うための電力が供給される電極針と、
前記電極針の内部に形成されており、冷却用の液体が流れる流路と、
前記電極針の内部において前記電極針の先端付近に配置されており、前記アブレーションの際の前記患部の温度を前記電極針の内部にて測定する第2の温度測定素子と、
前記電極針の基端側に装着されたハンドルと
を備えたアブレーションデバイス。」
である点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本願発明は、流路内に配置された第1の温度測定素子を備えているのに対して、引用発明は、そのような構成を備えているか不明である点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
(1)上記「第4 2(3)」で示したとおり、引用文献2には
「高周波オシレータから出力された高周波が伝達される電極針50であって、電極針50で発生する高周波熱で病変部位を焼灼して壊死させる電極針50の内部に形成されているガイド管80の先端部内部に、温度測定センサー51が備えられており、
ガイド管80を通じて、電極針50の先端部まで冷却水が供給されて、電極針の内部に冷却水が循環される冷却水循環ラインが形成されることで、病変部位組織内の水分の蒸発を抑制して電極針の炭化現象を防止するので、効率的な高周波熱治療が可能であり、
電極針50の内部に備えられる温度測定センサー51を通じて冷却水の温度など供給状態を確認することができること。」
が記載されている。

ア ここで、引用文献2に記載された「高周波オシレータから出力された高周波が伝達される電極針50であって、電極針50で発生する高周波熱で病変部位を焼灼して壊死させる電極針50」は、本願発明の「アブレーションを行うための電力が供給される電極針」に相当する。

イ 引用文献2に記載された「電極針50の内部に形成されているガイド管80」は、「ガイド管80を通じて、電極針50の先端部まで冷却水が供給され」るものであるから、上記アも踏まえると、本願発明の「電極針の内部に形成されており、冷却用の液体が流れる流路」に相当する。

ウ 引用文献2に記載された「温度測定センサー51」は、「ガイド管80の先端部内部に、温度測定センサー51が備えられ」るものであるから、上記イも踏まえると、本願発明の「流路内に配置された第1の温度測定素子」に相当する。

以上によれば、引用文献2に記載された技術的事項は、
「アブレーションを行うための電力が供給される電極針の内部に形成されており、冷却用の液体が流れる流路内に、第1の温度測定素子を配置することで冷却用の液体の温度など供給状態を確認すること」
と表現できる。

(2)引用発明は、焼灼用穿刺針1の内部に形成されており、冷却水が流れる送水チューブ53を有するものであるところ、その適切な冷却には、冷却系が適切に作動している必要があることは自明な課題である。したがって、引用発明において、冷却系が適切に作動しているかを確認するために、引用発明と同じく、電極針50で発生する高周波熱で病変部位を焼灼して壊死させる電極針50についての引用文献2に記載された「アブレーションを行うための電力が供給される電極針の内部に形成されており、冷却用の液体が流れる流路内に、第1の温度測定素子を配置することで冷却用の液体の温度など供給状態を確認する」技術的事項を適用して本願発明とすることは当業者にとって容易である。
また、これによる効果も、技術水準から予測される範囲を超えた顕著なものであるとはいえない。

(3)よって、本願発明は引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 請求人の主張について
令和4年8月3日提出の意見書は、令和4年7月11日提出の意見書の内容を全て含むものであるから、前者の意見書における請求人の主張について、以下検討する。
1 請求人の主張
(1)請求人は「課題の認定の誤りについて」として、
「今回の拒絶理由通知書において審判官殿は、『引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明とは、冷却水を流路に流すことで電極針を適切に冷却することによって、組織内の水分の蒸発を抑制し炭化を抑制する点で共通の課題を有するものである』ことを根拠に、引用文献1に引用文献2を組み合わせる動機付けが存在する、と認定している。
引用文献2には、温度測定センサー51により冷却水供給管23内の冷却水の温度を確認することが、記載されている(同文献の段落[0086],[0090]等)。
しかしながら引用文献2には、温度センサー51の測定結果をどう用いるかについては、何ら開示されていない。つまり、温度センサー51の測定温度をフィードバックして電極針50の出力を制御する等の具体的な手段について、記載されていない。
そうすると、引用文献2に「電極針を適切に冷却する」という課題はそもそも記載されておらず、引用文献1と引用文献2にこのような課題の一致がある、としている審判官殿の認定には、理由がない。」
と主張する。

(2)請求人は「引用発明の認定の誤りについて」として、
「審判官殿のいうように、引用文献1には「電極針を適切に冷却する」という目的が記載されているとすると、この目的を実現するための具体的手段は、「先端電極10」、及び「温度センサー」に加えて、「温度センサーの測定結果をフィードバックして先端電極10の出力電流を制御する手段」を少なくとも含むはずである。
しかしながら、今回の拒絶理由通知書においては、引用文献1に記載された発明(以下、「認定発明1」という)は、
「体内の病変部に対して経皮的に穿刺されると共に、焼灼を行うためのラジオ波電流が供給される先端電極10を有する焼灼用穿刺針1と、前記焼灼用穿刺針の内部に形成されており、冷却水が流れる送水チューブ53と、前記焼灼用穿刺針の内部において前記焼灼用穿刺針の前記先端電極に接続されており、前記焼灼の際の前記病変部の焼灼温度を前記焼灼用穿刺針の内部にて測定する熱電対ケーブル52の先端部の熱電対と、前記焼灼用穿刺針の基端側に装着された把持部40とを備えたラジオ波焼灼療法システム。」
に過ぎない。
認定発明1と引用文献1の開示内容とを比較すると、認定発明1には、「温度センサーの測定結果をフィードバックして先端電極10の出力電流を制御する手段」が含まれていない。
よって、認定発明1は、本願の請求項1に記載の発明(以下、この項において本願発明という。)の進歩性を否定するために必要な構成を、意図的、かつ事後的に抽出して列挙した構成の集合に過ぎず、特許法第29条第2項でいう「発明」に該当するものではない。
そうすると、このような誤った引用発明の認定のもとになされた進歩性欠如に関する拒絶理由(上記理由1)は、そもそもその前提に誤りがあると言わざるを得ない。」
と主張する。

(3)請求人は「引用発明を組み合わせる動機付けについて」として、
「真の引用発明1では、先端電極10の温度をフィードバック制御によりある程度制御できているため、わざわざ引用文献2に記載された発明を適用して、冷却水の温度を調整できるようにする必要がない。
仮に、真の引用発明1に引用発明2を適用したとすると、先端電極10のフィードバック制御と、(例えば操作者による)冷却水の温度管理が並行して行われることとなる。これは、先端電極10の温度制御が、システムによる機械的制御と、操作者による人的制御とにより、同時に行われることを意味する。
2つの制御を同時に行えば、必要以上に先端電極10の温度が低下することは明らかであり、その制御は非常に煩雑になることは明らかであるから、当業者がこのような組み合わせを採用するはずがない。」
と主張する。

(4)請求人は「本願の発明の有利な効果について」として、
「引用文献1には、先端電極10の温度が高くなり過ぎたことの原因については、何ら考慮されていない。段落[0041]には、電気の流れを抑制又は停止するとともに供給される冷却水を増量して先端電極10の温度を低下させることが記載されているが、冷却水による電極針の適切な冷却ができているかは、別問題である。
引用文献2には、ガイド管80の先端部内部に備えられた温度測定センサー51により、供給される冷却水の温度を確認することが、記載されている(段落[0071],[0072]等)。
しかしながら引用文献2には、電極針の先端電極の温度については何ら考慮されておらず、温度センサー51の測定結果をどう用いるかについては、何ら開示されていない。
他方、本願発明では、アブレーションの際に、冷却用の液体Lの温度と患部90の温度との双方が、同時に(並行して)測定できるようになることが、記載されている(段落[0061])。つまり、本願発明によれば、アブレーションの際に、液体Lの温度変化が原因で患部90の温度が変化した場合、操作者は必要な制御が何かを瞬時に把握してデバイスの利便性を向上させることができる。」、「特許文献1及び2のデバイスでは、原因究明を行うために一旦治療を中断する必要がある。
これに対して、本願発明によるアブレーションデバイスは、
・電極針への電力の過剰供給または電極針への液体Lの供給不足によって患部の温度が上昇した、
・液体Lの温度が上昇した、
というそれぞれの現象をすぐさま検知可能である。したがって、本願発明によるアブレーションデバイスを用いている最中に第2の温度測定素子の温度が上昇した場合、第1の温度測定素子の温度が上昇していれば冷却用の液体の温度を下げれば良く、第1の温度測定素子の温度が変化していなければ電力供給を減らすまたは液体供給を増やす、という対策をすぐさま講じることができる。これにより、全体として手技時間を短縮でき、患者への負担を減らせ、デバイスの利便性を向上させられる。」
と主張する。

2 検討
(1)上記「1(1)」の主張について
引用文献1の段落【0033】(上記「第4 1(1)ア(オ)」の摘示)における「先端電極10の内部に水を流通させることによる先端電極10の冷却手段を設けることにより、先端電極10への高周波電流の通電時において、先端電極10の過度の温度上昇に伴う、電極周辺組織における水分の蒸発や組織の炭化に起因するインピーダンスの上昇を抑制することができる。」との記載等を踏まえると、引用発明は、冷却水を流路に流すことで電極針を適切に冷却するものであって、冷却系が適切に作動している必要があることは自明な課題である。また、引用文献2に記載された技術的事項においても、引用文献2の段落【0083】(上記「第4 2(1)ア(コ)」の摘示)における「電極針50の炭化現象を防止するために、電極針50の内部に冷却水が循環供給される」との記載、及び段落【0072】(上記「第4 2(1)ア(ク)」の摘示)における「この温度測定センサー51は、供給される冷却水の温度を確認するためのものであり」との記載等を踏まえると、冷却水を流路に流すことで電極針を適切に冷却するものであって、冷却系が適切に作動している必要性を有する。したがって、引用発明と引用文献2に記載された技術的事項は、課題の共通性を有している。
よって、請求人の主張は採用することができない。

(2)上記「1(2)」の主張について
上記「第4」において1(1)〜(3)で検討したとおり、引用発明は引用文献1の記載事項及び記載されているに等しい事項から認定したものであるから、引用発明の認定に何ら誤りはない。
そして、引用発明は、本願発明に照らして過不足なく認定するものであるところ、本願発明に、温度センサーの測定結果をフィードバックすることや電極針の電流等を制御することの特定はないから、請求人の主張は当を得ないものである。
よって、請求人の主張は採用することができない。

(3)上記「1(3)」及び「1(4)」の主張について
上記(1)で検討したとおり、引用発明は、冷却水を流路に流すことで電極針を適切に冷却するものであって、冷却系が適切に作動している必要があることは自明な課題である。よって、引用発明において、冷却系が適切に作動しているかを確認するために、引用文献2の「温度測定センサー51」を採用することに格別の困難性はない。したがって、請求人の主張は当を得ないものである。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-10-11 
結審通知日 2022-10-18 
審決日 2022-11-01 
出願番号 P2018-059920
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 一浩
特許庁審判官 倉橋 紀夫
宮部 愛子
発明の名称 アブレーションデバイス  
代理人 弁理士法人つばさ国際特許事務所  

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