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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1392822
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-04 
確定日 2022-12-20 
事件の表示 特願2018−170899「投影システム、投影方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 3月19日出願公開、特開2020− 42667、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年9月12日(優先権主張平成30年9月11日)の出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。

令和 2年10月 6日付け:拒絶理由通知
令和 3年 2月12日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 7月 5日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 3年 9月 6日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 9月27日付け:令和3年9月6日の手続補正についての補 正の却下の決定、拒絶査定(原査定)
令和 4年 1月 4日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 4年 6月22日付け:拒絶理由通知(当審拒絶理由)
令和 4年 8月26日 :意見書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。

理由1(新規事項)
請求項4、請求項10についてする補正は、以下の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

理由2(進歩性
この出願の請求項1−3,5−9,11−13に係る発明は,以下の引用文献1−3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2005−275327号公報
2.特表2013−539541号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2017−181342号公報(周知技術を示す文献)


第3 本願発明
本願請求項1−9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明9」という。)は、令和4年8月26日に提出された手続補正書に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)で補正された特許請求の範囲の請求項1−9に記載された事項により特定される発明であり、そのうち、本願発明1は、以下のとおりの発明である。なお、下線は、補正された箇所を示す。

「【請求項1】
建設図面を構造物表面に実寸投影する投影システムであって、
空間認識装置と、投影装置とを含み、
前記空間認識装置及び前記投影装置の相対位置及び相対姿勢は固定であり、
前記空間認識装置は、ヘッドマウントディスプレイ、前記ヘッドマウントディスプレイの視野周辺の画像を捉えるカメラ又は前記視野周辺の物体までの距離を測定する深度センサ、及び自己の姿勢変化を取得する慣性センサを有し、
前記カメラ又は前記深度センサから取得される情報に基づいて、現実空間における前記投影システムの現在位置を示す位置情報を取得する位置取得部と、
前記慣性センサから取得される情報に基づいて、前記現実空間における前記投影システムの現在の姿勢を示す姿勢情報を取得する姿勢取得部と、
前記位置情報及び前記姿勢情報を送信する送信部と、を有し、
前記投影装置は、
前記構造物にかかる3次元モデルのモデル情報を記憶するモデル記憶部と、
前記位置情報及び前記姿勢情報を受信する位置姿勢情報受信部と、
前記空間認識装置と前記投影装置との位置関係情報、モデル空間と前記現実空間とのマッピング情報を取得するとともに、前記構造物表面に投影面を設定する制御部と、
前記位置情報及び前記位置関係情報より算出される視点と、前記姿勢情報及び前記位置関係情報より算出される視線と、前記投影面と、に基づいて前記3次元モデルの平行投影画像である前記建設図面を生成し、
この際、前記視点、前記視線及び前記投影面と、前記3次元モデルと、の間においては前記マッピング情報に基づく座標変換が行われる投影画像生成部と、
前記建設図面を前記投影面に実寸投影する投影部と、を有することを特徴とする
投影システム。」

本願発明2−4は、本願発明1を減縮したものである。
また、本願発明5は、概ね、本願発明1の発明のカテゴリを、「システム」の発明から「方法」の発明へと変更したものであり、本願発明6−8は、本願発明5を減縮したものである。
さらに、本願発明9は、概ね、本願発明1の発明のカテゴリを、「システム」の発明から「プログラム」の発明へと変更したものである。


第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1、引用発明
原査定にて引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審付与。以下同様。)。

「【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態を示す構成図である。図中、1は投射表示装置であって、外周部に把持部2を有する携帯可能な一端を開口する円筒状ケース体3を有する。
この円筒状ケース体3内には、開口部とは反対側の端部側の中心軸位置に点光源4が配設され、この点光源4の前端側に所定間隔Lpだけ離れた位置に液晶パネル5が配設され、この液晶パネル5の前端側の開口位置に防塵ガラス6が配設されている。
【0037】
したがって、点光源4から出射される投射光が液晶パネル5を透過し、防塵ガラス6を透過して任意の投射表示面7に投射され、液晶パネル5に表示された表示情報が投射表示面7に表示される。
液晶パネル5は支持枠8に支持され、この支持枠8が上下方向の中心位置に配設された回転軸9で円筒状ケース体3に回転自在に支持され、その回転軸9に回転角を制御する駆動モータ10が連結されていると共に、回転軸9の回転角を検出するロータリエンコーダ11が接続されている。ここで、点光源4、液晶パネル5で投射表示手段が構成されている。
【0038】
また、円筒状ケース体3の開口部側外周部に、レーザパルスを発射してから投射表示面で反射された反射パルスを受信するまでの時間を計測することにより距離を測定する距離測定手段としてのレーザ距離センサ12が配設され、このレーザ距離センサ12で、測定した距離にレーザ距離センサ12から点光源4までの距離を加算して、点光源4と投射表示面7との間の投射距離Lsを出力する。
【0039】
そして、液晶パネル5で表示する表示情報が表示制御回路21によって表示制御される。この表示制御回路21は、図2に示すように、配管等の図面データを記憶する表示情報記憶手段としての画像メモリ22と、液晶パネル5の表示制御を行う液晶ドライバ23と、この液晶ドライバ23に供給する表示情報を記憶する表示用RAM24と、駆動モータ10を制御するモータ駆動回路25と、表示画像選択情報、液晶パネル5の傾斜角等の入力情報を入力する操作部26と、ロータリエンコーダ11、レーザ距離センサ12、画像メモリ22、液晶ドライバ23、表示用RAM24、モータ駆動回路25及び操作部26が接続されたコントローラ27とを備えている。」

「【0054】
一方、上記のようにナビゲーション情報を使用する場合のように投射表示面7での表示画像を実寸大表示する必要がない場合に代えて、例えば上水道工事のように既設の配管を避けながら工事を行う場合には、実際の工事現場での配管埋設状態を事前に把握する必要がある。
この場合には、予め投射表示装置1の表示制御回路21における画像メモリ22に、道路工事を行う場合の電気配管、電話線配管、ガス配管、上下水道配管等の各種配管敷設図のデータが重畳され且つマンホールの中心点等の参照基準点に対応する基準点を含んだ鳥瞰図と、各種配管敷設図のデータが重畳された断面図とが例えば予め道路に設けられた参照基準点毎に形成し、この鳥瞰図データを、参照基準点位置を表すデータと共に記憶しておく。
【0055】
そして、例えば水道工事者が新たな上水道を敷設する場合には、上記のように鳥瞰図及び断面図を記憶した投射表示装置1を携帯して工事現場に行き、工事該当箇所で、参照基準点に向けて投射表示装置1の電源を投入する。
これに応じて、表示制御回路21で図3の処理が開始される。このとき、例えば鳥瞰図を工事しようとする地面に投射表示したときに、この投射表示が実寸大で表示されると、地中に埋設されている各種配管の敷設状況を、掘削に先立って直ちに把握することができ、続いて断面図を表示することにより、地表面からの各種配管の埋設深さを実際に把握することができる。
【0056】
そして、操作部26に形成された実寸大表示モード選択キーを操作することにより実寸大表示モードを選択する。このため、図3の処理が実行開始されたときに、ステップS1で鳥瞰図及び断面図を選択するための参照基準点を表す参照基準点リストを画像メモリ22から読出し、これを表示用RAM24に記憶し、この表示用RAM24に記憶された参照基準点リストを液晶ドライバ23に出力して、液晶パネル5に表示する。このため、液晶パネル5に表示された参照基準点リストが点光源4からの投射光によって施工位置の地面に表示される。
【0057】
この表示された参照基準点リストから操作部26を操作することにより、施工位置に対応する参照基準点を選択すると、鳥瞰図及び断面図の何れを選択するかを表示する選択表示が液晶パネル5に表示されて投射表示面7に表示され、この状態で、例えば鳥瞰図を選択すると、ステップS2からステップS3を経てステップS10に移行し、レーザ距離センサ12で測定した投射表示装置1から投射表示面7までの投射距離Lsを読込み、次いでステップS11に移行して、投射距離Lsに基づいて前記(1)式の演算を行って、投射表示面7で実寸大で鳥瞰図を表示するための液晶パネル5上での画像表示サイズSpを算出する。
【0058】
次いで、ステップS12に移行して、選択された参照基準点での鳥瞰図データを画像メモリ22から読出し、これを表示用RAM24に記憶する。次いでステップS13に移行して、表示用RAM24に記憶された鳥瞰図データに対して投射表示面7上で実寸大表示となる表示倍率を設定し、設定した表示倍率で鳥瞰図データを補正処理して補正処理後の鳥瞰図データを表示用RAM24に更新記憶する。次いでステップS14に移行して、更新記憶された補正処理後の鳥瞰図データを液晶ドライバ23に出力することにより、液晶パネル5に補正処理後の鳥瞰図データが表示される。このため、液晶パネル5に表示された補正処理後の鳥瞰図データが点光源4から出射された投射光によって投射表示面7に投射表示され、鳥瞰図データが実寸大で表示される。このため、表示された鳥瞰図に含まれる基準点を施工箇所であるマンホール中心点の参照基準点に一致させ且つ方位を鳥瞰図の方位と一致させることにより、埋設された各種配管の敷設状況を正確に把握することができる。」

「【0062】
次に、本発明の第2の実施形態を図4及び図5について説明する。
この第2の実施形態は、投射表示装置1の投射光の光軸に対する直交面と投射表示面との傾斜角とを自動的に測定し、測定した傾斜角に基づいて液晶パネル5の傾斜角を自動制御するようにしたものである。
すなわち、第2の実施形態では、図4に示すように、円筒状ケース体3の外周面における前端側に、液晶パネル5の回転軸9と直交する面内に2つのレーザ距離センサ12A及び12Bを設け、各レーザ距離センサ12A及び12Bの光軸を等しく所定角度だけ投射光の光軸に対して外方に傾斜させることにより、投射表示面7の投射光の光軸を挟む2点との間の距離を測定し、これらレーザ距離センサ12A及び12Bで測定した距離LA及びLBを表示制御回路21のコントローラ27に入力するように構成されている。」

「【0069】
次に、本発明の第3の実施形態を図6について説明する。
この第3の実施形態では、上述した第2の実施形態において、投射表示装置1の方位及び俯仰角度を検出し、検出した方位及び俯仰角度に基づいて参照基準点に向けられている投射表示装置1の姿勢を測定し、投射表示装置1の姿勢に応じて表示情報の投射表示面での表示情報の表示方向を調整するようにし、また、投射方向を変化させても参照基準点と対応する基準点とが常に一致するように表示情報を自動的にスクロールし、任意の位置の情報を表示するようにしたものである。
【0070】
すなわち、第3の実施形態では、図6に示すように、第2の実施形態における図4の構成において、円筒状ケース体3の方位及び俯仰角度を検出するジャイロコンパス35が設けられ、このジャイロコンパス35で検出した方位及び俯仰角度がコントローラ27に入力され、このコントローラ27で方位及び俯仰角度に基づいて液晶パネル5に表示する表示情報を回転又はスクロールさせて、投射表示面7上で実際の表示位置に合致した表示情報を得る。
【0071】
このとき、コントローラ27では、図7に示すように、図5の処理において、ステップS12の処理が省略され、これらに代えて、選択された表示情報を表示用RAM24に記憶してから、記憶した表示情報を液晶ドライバ23に出力することにより、液晶パネル5に表示情報を表示するステップS28と、投射表示面7に表示された基準点を予め設けられた参照基準点に一致させたときに、操作部26から入力される基準点一致指令が入力されたか否かを判定し、基準点一致指令が入力されていないときにはこれが入力されるまで待機し、基準点一致指令が入力されたときにはステップS30に移行するステップS29と、ジャイロコンパス35で検出した参照基準点の方位データ及び俯仰角データを読込み記憶するステップS30と、読込んだ方位データ及び俯仰角データに基づいて投射表示装置1の投射位置及び姿勢を判断し、表示用RAM24に記憶されている真の北の方位、或いは真の上の方向を基準に描かれている鳥瞰図、断面図等の表示情報を、投射画面位置で実際の北、或いは実際の上を基準とする表示情報となるように座標変換し、また、前記参照基準点の方位データ及び俯仰角データからの変移量に基づいて投射表示装置1の姿勢の変化を検出し、投射表示面7位置で参照基準点と基準点とが一致するように座標変換し、座標変換した表示情報を表示用RAM24に更新記憶するステップS31とが設けられ、ステップS31から前記ステップS13、S14、S17に移行し、ステップS17の判定がNの場合にはステップS31に移行することを除いては図5と同様の処理を行い、図5との対応する処理には同一のステップ番号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0072】
ここで、レーザ距離センサ12A、12B及びジャイロコンパス35で位置関係測定手段に対応し、図7のステップS29−S31の処理が表示方向調整手段に対応している。
この第3の実施形態によると、実寸大表示モードを選択して、例えば鳥瞰図を道路に予め設けられた参照基準点を基準に表示する場合に、ジャイロコンパス35で投射表示装置1の方位データ及び俯仰角データが検出されることにより、これら方位データ及び俯仰角データに基づいて投射表示装置1の投射位置及び姿勢を判断し、これに対応した向きに表示情報を座標変換して表示用RAM24に更新記憶することにより、投射表示装置1の投射方向にかかわらず、常に北を基準とする表示情報を正確に表示することができる。
【0073】
すなわち、例えば、参照基準点から真南の位置に投射表示装置1を配置して、この状態で電源を投入すると、前述した第2の実施形態と同様に投射表示面7の傾斜角φが算出されて、液晶パネル5の傾斜角が投射表示面7の傾斜角φと平行となるように制御されると共に、基準点距離Lsが算出され、さらに液晶表示画面サイズSpが算出されるが、この状態で、先ず、選択された鳥瞰図等の表示情報が画像メモリ22から読出されて表示用RAMに記憶され、記憶された表示情報が投射表示面7に表示される。
【0074】
このとき、投射表示面7に表示される表示情報に含まれる基準点を道路に設けられた参照基準点に一致させた状態で、操作部26を操作して基準点一致指令をコントローラ27に入力すると、ステップS30に移行して、方位データ及び俯仰角データに基づいて投射表示装置1の投射位置及び姿勢を判断して、これに応じて投射表示面7で表示された表示情報が正規の北を基準とした状態となるように、表示用RAM24に記憶されている表示情報を座標変換してから再度表示用RAM24に更新記憶し、その後、第2の実施形態と同様に、表示情報が投射表示面7上で実寸大となるように倍率補正し、座標変換及び倍率補正が完了した表示情報が液晶ドライバ23に出力されて、液晶パネル5に表示される。
【0075】
したがって、例えば投射表示装置1を参照基準点の真南に配置し、この位置から所望の俯角で投射表示面7に例えば鳥瞰図でなる表示情報を投射表示した場合には、図8(a)に示すように、画像メモリ22に記憶されている鳥瞰図が北を基準に描かれていることにより、座標変換が行われることなく、液晶パネル5の傾斜調整のみが行われて正確な投射表示が行われる。
【0076】
これに対して、投射表示位置を参照基準点に対して南東方向に配置し、この位置から所望の俯角で投射表示面7に上記と同様の鳥瞰図を投射表示面に投射する場合には、方位補正を行わない場合には、図8(a)に示す表示情報がそのまま北を北西方向として表示されることになるが、本実施形態では、方位データに基づいて投射表示装置1の投射位置及び姿勢を判断することにより、図8(b)に示すように、表示用RAM24に記憶されている表示情報を時計方向に45度座標変換することにより、真南から投射表示した表示情報と全く同一の表示情報を投射表示面7に表示することができる。
【0077】
さらに、投射表示装置1の配置位置を時計方向に回転させたとき、その変移量を検出することにより、図8(c)に示すように、参照基準点と基準点とは常に一致する。
このように、第3の実施形態によると、参照基準点に対して任意の方角から投射表示装置1で表示情報を投射表示しても、投射表示面7上に表示される表示情報は真北、或いは真上を基準とした表示情報が表示されることになり、操作者が投射表示装置1を参照基準点に向ける位置が何ら制限されることはないので、車道側を避けて安全な側から表示情報を表示することができる。
【0078】
なお、上記第第1−第3の実施形態においては、液晶パネル5が図2、図4及び図6でみて時計方向及び反時計方向に回転自在に支持されている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、図9に示すように、液晶パネル5を支持する支持枠8の回転軸9を円筒状ケース体3に対して水平方向に回転自在の支持枠31の上下方向の中心部に支持することにより、液晶パネル5を3次元的に傾斜可能に保持する構成とすると共に、円筒状ケース体3の前端側外周面の3等分位置にそれぞれレーザ距離センサ12A−12Cを設け、これらレーザ距離センサ12A−12Cで計測した3点距離LA−LCに基づいてコントローラ27で投射表示面7の投射光の光軸と直交する面に対する3次元的傾斜角を算出し、算出した3次元的傾斜角をもとに支持枠8及びこれを支持する支持枠31の回転角をダイレクトモータ10及び32を駆動すると共に、その回転角をロータリエンコーダ11及び33で検出することにより調整して、投射表示面7と液晶パネル5との傾斜角をより正確に一致させることができる。
【0079】
また、上記第3の実施形態においては、ジャイロコンパス35を適用した場合について説明したが、垂直位置を測定するジャイロ又は方位を測定するコンパスのみを設けるようにしてもよく、ジャイロのみを設ける場合には、投射表示装置1の光軸を垂直線に合わせて、投射表示面7に表示された表示情報を実際の配置状況と一致させるように水平方向の回転角を調整し、コンパスのみを設ける場合には投射方向を真北に合わせて、投射表示面7に表示された表示情報を実際の配置状況と一致させるように液晶パネル5の傾斜角を調整すればよい。
【0080】
次に、本発明の第4の実施形態を図10及び図11について説明する。
この第4の実施形態は、参照基準点に参照基準点の識別コードを記憶した非接触ICタグを予め配置しておくと共に、投射表示装置1に非接触ICタグと無線通信可能な無線通信器を設け、参照基準点を選択するための情報を自動的に入力して、該当する表示情報を自動的に選択するようにしたものである。
【0081】
すなわち、第4の実施形態では、図10に示すように、投射表示面7にある参照基準点の近傍に該当する参照基準点を表す例えばビットパターンで構成される識別コードを記憶した電磁誘導で電力が供給される非接触ICタグ41が配設され、投射表示装置1には非接触ICタグ41と無線通信が可能なリーダで構成される識別コード読取手段としての無線通信器42が配設され、この無線通信器42で非接触ICタグ41と所定の変調方式を使用して無線通信することにより、参照基準点の識別コードを受信し、この識別コードをコントローラ27に供給する。ここで、変調方式としては、振幅変調方式、位相変調方式、周波数変調方式等の任意の変調方式を適用することができる。
【0082】
コントローラ27では、図11の表示制御処理を実行する。この表示制御処理は、第1の実施形態におけるステップS1及びS2が省略され、これらに代えて、ステップS41で、無線通信器42を作動状態として、投射表示面7に配設された非接触ICタグ41から参照基準点の識別コードを読出し、次いで、ステップS42に移行して、読出した識別コードに基づいて画像メモリ22をアクセスして、識別コードに対応する鳥瞰図データ等の表示情報を読出し、これを表示用RAM24に記憶してから図3におけるステップS3に移行し、ステップS4で表示用RAM24に記憶された表示情報を液晶ドライバ23に出力すると共に、ステップS12が省略されていることを除いては図3と同様の処理を行い、図3との対応処理に同一ステップ番号を付し、その詳細説明はこれを省略する。
【0083】
この第4の実施形態によると、参照基準点に予め識別コードを記憶した非接触ICタグ41を配設しておくと共に、投射表示装置1の表示制御回路21の画像メモリ22に識別コードと鳥瞰図等の表示情報とを対応づけして記憶しておくことにより、投射表示装置1を参照基準点位置近傍に配置した状態で、電源を投入することにより、無線通信器42で非接触ICタグ41に対して電磁波で電力を供給しながら非接触ICタグ41に記憶されている識別コードを読出し(ステップS41)、読出した識別コードに基づいて画像メモリ22をアクセスして、識別コードに対応する表示情報を読出して、この表示情報を表示用RAM24に記憶するので(ステップS42)、表示情報を自動的に選択することができ、表示情報の選択操作を省略することができる。
【0084】
また、参照基準点に識別コードを記憶した非接触ICタグ41を配置しておくので、前述した第1及び第2の実施形態の動作に加えて、例えば各ビルや工場等の各建物における入口のドアに非接触ICタグ41を配置しておき、画像メモリ22に各識別コードに対応させて、室内に発火物の有無、建材の種類等の消火活動に必要な情報を記憶しておくことにより、消火作業時に、入口から入室する際に、投射表示装置1の無線通信器42で非接触ICタグ41と交信することにより、識別コードを取得することにより、消火活動に必要な情報をドアに自動的に表示することができ、火災による停電時の暗がりでも、室内の発火物の有無、発生するガスの種類等の必要情報を確実に得ることができる。
【0085】
なお、上記第4の実施形態においては、識別コードの取得処理を第1の実施形態に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、第2及び第3の実施形態に適用するようにしてもよい。
また、上記第4の実施形態においては、識別コードを非接触ICタグ41に記憶する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、光学的に読取可能なバーコードや英数字列、一次元又は二次元模様、ホログラム等で表示したタグを配置すると共に、投射表示装置1に、タグを光学的に読み取ることができるバーコード読取装置等の光学的読取装置を配置し、この光学的読取装置でタグに表示された識別コードを読み取ってコントローラ27に入力するようにしてもよい。
【0086】
次に、本発明の第5の実施形態を図12について説明する。
この第5の実施形態は、全地球測位システム(GPS)を利用して現在地情報を取得し、現在地を参照基準点とする参照基準点の識別コードを記録した媒体を形成し、形成した媒体を参照基準点に容易に設置することができるようにしたものである。
【0087】
すなわち、第5の実施形態では、図12に示すように、第4の実施形態における図10の構成において、表示制御回路21に、第3の実施形態におけるジャイロコンパス35と、図9におけるレーザ距離センサ12A−12cと、複数の衛星からの電波を受信して現在位置データを出力する全地球測位システム51とが設けられている。そして、表示情報を液晶パネル5に表示させて、投射表示面7の参照基準点PRに基準点に一致するように投射表示している状態で、操作部26を操作して、識別コード設定指令をコントローラ27に入力すると、全地球測位システム51で測定した投射表示装置1の現在位置データと、ジャイロコンパス35で検出した方位データ及び俯仰角データと、レーザ距離センサ12A−12Cで検出した距離LA−LCに基づいて算出される参照基準点との投射距離Lsとに基づいて参照基準点の位置情報を算出し、算出した位置情報に基づいて画像メモリ22をアクセスすることにより、参照基準点の識別コードを読出し、読出した識別コードを無線通信器42を構成するリーダライタ52に供給して、このリーダライタ52で非接触ICタグ42に識別コードを記憶させる。
【0088】
次いで、識別コードを記憶した非接触ICタグを投射表示装置1で表示情報が表示されている投射表示面7の参照基準点PRの近傍に固定配置することにより、識別コードを記憶させた非接触ICタグ42を容易確実に参照基準点に配置することができる。
なお、上記第5の実施形態においては、非接触ICタグ42を参照基準点近傍に配置する場合について説明したが、光学的に表示可能なバーコード等を印刷したシート状のタグを使用する場合には、上述したように参照基準点の位置情報を算出して、この位置情報に基づいて画像メモリ22をアクセスして識別コードを読み出したときに、この識別コードをバーコード発行機に入力して、識別コードに対応するバーコードを印刷したシート状のタグを発行し、このシート状タグを参照基準点の近傍に接着等によって固定配置するようにすればよい。」

【図6】


【図10】


したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「投射表示装置であって、
外周部に把持部2を有する携帯可能な一端を開口する円筒状ケース体3を有し、
円筒状ケース体3内に、点光源4、液晶パネル5で投射表示手段が構成されており、
円筒状ケース体3の開口部側外周部に距離測定手段としてのレーザ距離センサ12が配設され、
液晶パネル5で表示する表示情報が表示制御回路21によって表示制御され、
表示制御回路21は、配管等の図面データを記憶する表示情報記憶手段としての画像メモリ22と、液晶パネル5の表示制御を行う液晶ドライバ23と、この液晶ドライバ23に供給する表示情報を記憶する表示用RAM24と、駆動モータ10を制御するモータ駆動回路25と、表示画像選択情報、液晶パネル5の傾斜角等の入力情報を入力する操作部26と、ロータリエンコーダ11、レーザ距離センサ12、画像メモリ22、液晶ドライバ23、表示用RAM24、モータ駆動回路25及び操作部26が接続されたコントローラ27とを備えており、
液晶パネル5に表示された補正処理後の鳥瞰図データが点光源4から出射された投射光によって投射表示面7に投射表示され、鳥瞰図データが実寸大で表示でき、
円筒状ケース体3の方位及び俯仰角度を検出するジャイロコンパス35が設けられ、
ジャイロコンパス35で投射表示装置1の方位データ及び俯仰角データが検出されることにより、これら方位データ及び俯仰角データに基づいて投射表示装置1の投射位置及び姿勢を判断し、これに対応した向きに表示情報を座標変換して表示用RAM24に更新記憶することにより、投射表示装置1の投射方向にかかわらず、常に北を基準とする表示情報を正確に表示することができる、
投射表示装置。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)。

「【0034】
図5を参照すると、プロジェクタ14が、壁26などの表面に「隠れた特徴」24を投影する本発明の実施形態に関わる、プロジェクタ14を有するレーザスキャナ12が図示される。隠れた特徴は、例えば、壁26、天井、床または他の可視表面の裏側にあるスタッド、パイプ、電気配線及び管工事などの物体を含む。作業者は、壁表面26の裏側に何が厳密に位置するか、及び/または、壁表面26の裏側のこれら物の正確な位置が分からない。作業者に壁表面26の裏側にある物の画像及びそれらの物の正確な位置を提供することは有益だろう。一般的に、隠れた特徴についてのこの情報は、例えば、CAD設計データとして利用可能である。
【0035】
本発明の実施形態に関わる、隠れた特徴の投影は、例えば、まず、様々な建築段階(例えば、骨組み、配線、配管、HVACなど)の間、家などの建物をレーザスキャナ12を用いて走査して、建物の様々な構造の詳細のスキャン点群データを取得することにより、行われてもよい。走査のある段階が終了して画像及びデータを収集した後、プロジェクタ14を有するレーザスキャナ12を用いて、走査工程で取得された様々な「現実の」画像及び/またはデータを、壁、天井、床などに投影してもよい。または、建物の様々な表面にCAD設計の「未来の」データを表面に投影してもよい。投影される画像及び/またはデータが現実の画像及び/またはデータであっても、あるいは、未来の画像及び/またはデータであっても、これらの表面への隠れた特徴の投影は、人が、例えば、壁の裏側のスタッドの正確な位置に穴を開けるなどの作業を実行するのを助けるだろう。本発明のこれらの実施形態により、プロジェクタ14を有するレーザスキャナ12のユーザは、これらの物体また特徴の正確な位置を特定することができるので、他の物体へ損害を与えることがなく、これらの隠れた物体または特徴の位置を特定しようとするのに時間を無駄にすることがない。」

3 引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている(以下、「引用文献3記載の技術事項」という。)。

「【0020】
図2は、設計図や三次元モデル等の設計データから生成される投影データの一例を示す図である。図2の(A)は、墨出しを行う部屋の設計図(平面図)である。図2では、一点鎖線で基準線が示されている。また、図2の(B)は、(A)に示したA−A断面図であり、部屋の壁面を表している。なお、(A)及び(B)は、図1における設計図面41に当たる。図2の(C)は、設計データから生成される投影データ(図1における投影画像42)の一例を表す図であり、投影データを太い破線で示している。また、(C)に示す文字も投影データの一例である。このように、本実施形態では、任意の図形、記号、文字等を投影する。また、例えば、設計図面41(図2の(A)及び(B))から、床の高さや天井の高さ、柱の位置等を示すレベルラインを読み出し、これらを所定の距離平行移動させた位置(すなわち、ヨリ墨(逃げ墨)を記すべき位置)を示すラインを示す画像を生成する。サッシュ芯や器具等を設ける位置を示す基準線を読み出し、基準線の位置(すなわち、芯墨)を示す画像を生成するようにしてもよい。また、(C)に示した情報を複数の画像に分け、墨出しを行う順に予め表示する順序を設定しておくようにしてもよい。なお、設計データは、各部の位置や寸法を示す数値や、各部の名称を示す文字列も保持しており、設計データに基づいて(C)に示すような投影データを生成することができる。また、例えばスタッドの位置やコンセントの位置等、様々な工程で行う墨出しで投影する画像を用意しておき、各工程で適切な画像を投影することができる。」


第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを比較すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「投射表示装置1」は、「投射表示手段」と「表示制御回路」を含むから、後述の相違点を除いて、本願発明1の「投影装置」に相当する構成を備えるといえる。

イ 引用発明の「レーザ距離センサ12」は、「投射表示面7」との間の「投射距離」を出力するから、本願発明1の「前記視野周辺の物体までの距離を測定する深度センサ」に相当する。

ウ 引用発明の「方位及び俯仰角度を検出するジャイロコンパス」は、本願発明1の「自己の姿勢変化を取得する慣性センサ」に相当する。

エ 引用発明の「投射表示装置1」は、「レーザ距離センサ12」と「方位及び俯仰角度を検出するジャイロコンパス」を含むから、上記イ、ウを踏まえると、本願発明1の「空間認識装置」と「前記視野周辺の物体までの距離を測定する深度センサ、及び自己の姿勢変化を取得する慣性センサ」を備える点で共通する構成を備えるといえる。

オ 引用発明の「投射表示装置1」は、「配管等の図面データ」を「実寸大で」投射可能とされているから、上記ア−エを踏まえると、本願発明1の「建物図面を構造物表面に実寸投影する投影システム」と、「建設図面を実寸投影する投影システム」である点で共通する。

カ 引用発明の「投射表示装置1」は、「携帯可能な一端を開口する円筒状ケース体3」を用いて一体的に構成されているから、上記エを踏まえると、本願発明1の「前記空間認識装置及び前記投影装置の相対位置及び相対姿勢は固定であ」ることに一応相当するといえる。

キ 引用発明の「投射表示装置1」は、「ジャイロコンパス35で投射表示装置1の方位データ及び俯仰角データが検出されることにより、これら方位データ及び俯仰角データに基づいて投射表示装置1の投射位置及び姿勢を判断し」ているから、上記ウを踏まえると、本願発明1の「前記慣性センサから取得される情報に基づいて、前記現実空間における前記投影システムの現在の姿勢を示す姿勢情報を取得する姿勢取得部」に相当する構成を備えるといえる。

ク 引用発明の「投射表示手段」は、「点光源4」と「液晶パネル5」で構成されており、実際の投射を行う手段であるといえるから、「前記建設図面を前記投影面に実寸投影する投影部」に相当する。

ケ 引用発明の「コントローラ」は、「表示制御回路」に含まれており「ジャイロコンパス35」で検出した「方位及び俯仰角度」の情報が入力されるから、本願発明1の「前記位置情報及び前記姿勢情報を受信する位置姿勢情報受信部」と「前記姿勢情報を受信する」点で共通する構成を備えるといえる。

コ 引用発明の「コントローラ」は、「ジャイロコンパス35で投射表示装置1の方位データ及び俯仰角データが検出されることにより、これら方位データ及び俯仰角データに基づいて投射表示装置1の投射位置及び姿勢を判断し、これに対応した向きに表示情報を座標変換して表示用RAM24に更新記憶する」から、本願発明1の「前記位置情報及び前記位置関係情報より算出される視点と、前記姿勢情報及び前記位置関係情報より算出される視線と、前記投影面と、に基づいて前記3次元モデルの平行投影画像である前記建設図面を生成し、この際、前記視点、前記視線及び前記投影面と、前記3次元モデルと、の間においては前記マッピング情報に基づく座標変換が行われる投影画像生成部」と、「前記姿勢情報と、前記投影面と、に基づいて前記3次元モデルの平行投影画像である前記建設図面を生成し、この際、座標変換が行われ」る点で共通する構成を備えるといえる。

(2)一致点・相違点
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「建設図面を実寸投影する投影システムであって、
空間認識装置と、投影装置とを含み、
前記空間認識装置及び前記投影装置の相対位置及び相対姿勢は固定であ り、
前記空間認識装置は、前記視野周辺の物体までの距離を測定する深度セ ンサ、及び自己の姿勢変化を取得する慣性センサを有し、
前記慣性センサから取得される情報に基づいて、前記現実空間における 前記投影システムの現在の姿勢を示す姿勢情報を取得する姿勢取得部とを 有し、
前記投影装置は、前記姿勢情報を受信し、
前記姿勢情報と、前記投影面と、に基づいて前記3次元モデルの平行投 影画像である前記建設図面を生成し、この際、座標変換が行われ、
前記建設図面を前記投影面に実寸投影する投影部と、を有することを特 徴とする
投影システム。」

[相違点1]
本願発明1の「投影システム」は、「構造物表面」に投影するのに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

[相違点2]
本願発明1の「空間認識装置」は、「ヘッドマウントディスプレイ」を有するのに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

[相違点3]
本願発明1の「空間認識装置」は、「前記カメラ又は前記深度センサから取得される情報に基づいて、現実空間における前記投影システムの現在位置を示す位置情報を取得する位置取得部」を有するのに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

[相違点4]
本願発明1の「空間認識装置」は、「前記位置情報及び前記姿勢情報を送信する送信部」を有するのに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

[相違点5]
本願発明1の「前記投影装置は」「前記構造物にかかる3次元モデルのモデル情報を記憶するモデル記憶部」を有するのに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

[相違点6]
本願発明1の「前記投影装置は」「前記空間認識装置と前記投影装置との位置関係情報、モデル空間と前記現実空間とのマッピング情報を取得するとともに、前記構造物表面に投影面を設定する制御部」を有するのに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

[相違点7]
本願発明1の「投影画像生成部」では、「前記位置情報及び前記位置関係情報より算出される視点と、前記姿勢情報及び前記位置関係情報より算出される視線と、前記投影面と、に基づいて前記3次元モデルの平行投影画像である前記建設図面を生成し、この際、前記視点、前記視線及び前記投影面と、前記3次元モデルと、の間においては前記マッピング情報に基づく座標変換が行われる」のに対し、引用発明ではその点が特定されていない点。

(3)相違点についての判断
事案に鑑み、相違点3について検討する。
本願発明1の相違点3に係る、「空間認識装置」が「前記カメラ又は前記深度センサから取得される情報に基づいて、現実空間における前記投影システムの現在位置を示す位置情報を取得する位置取得部」を有する点は引用文献1−3には記載も示唆もなく、本願出願時点において周知技術であったとも認められない。
よって、引用発明および引用文献2,3記載の技術事項に基づいて、当業者は本願発明1の相違点3に係る構成を容易に想到することはできない。
したがって,他の相違点について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明および引用文献2,3に記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2−4について
本願発明2−4は、本願発明1を減縮したものであって、上記相違点1−7に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明および引用文献2,3記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明5,9について
本願発明5,9は、概ね、本願発明1の発明のカテゴリを、単にそれぞれ、システムの発明から方法の発明、プログラムの発明へと変更したものであり、上記相違点1−7に係る構成と同様の構成を備えているから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明及び引用文献2,3記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

4 本願発明6−8について
本願発明6−8は、本願発明5を減縮したものであって、上記相違点1−7に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明および引用文献2,3記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第6 当審拒絶理由について

1 当審拒絶理由の概要

当審が令和4年6月22日付けで通知した当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

理由1(明確性
この出願は,特許請求の範囲の記載が以下の点で,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)請求項 1−11
請求項1記載の「前記空間認識装置は、ヘッドマウントディスプレイ、前記ヘッドマウントディスプレイの視野周辺の画像を捉えるカメラ、前記視野周辺の物体までの距離を測定する深度センサ又は自己の姿勢変化を取得する慣性センサのいずれかを少なくとも有し」における「いずれか」の意味は、「物事を、これだとかそれだとか、はっきり定めずにさすのに使う語。どれ。どちら。」(広辞苑第二版)と解されるから、当該請求項1の記載は択一的記載といえ、「ヘッドマウントディスプレイ」、「前記ヘッドマウントディスプレイの視野周辺の画像を捉えるカメラ」、「前記視野周辺の物体までの距離を測定する深度センサ」と「自己の姿勢変化を取得する慣性センサ」の4つの手段のうちの少なくとも1つを「前記空間認識装置」が有していると解される。
一方、請求項1には、「位置取得部」や「姿勢取得部」は、「前記カメラ、前記深度センサ又は前記慣性センサの少なくとも1つから取得される情報に基づいて」、位置情報や姿勢情報を取得することが規定されているところ、上記択一的記載の1つである「前記空間認識装置」が「ヘッドマウントディスプレイ」だけを有するものである場合、当該記載の「前記カメラ、前記深度センサ又は前記慣性センサ」には、「ヘッドマウントディスプレイ」は含まれないから、「位置取得部」及び「姿勢取得部」が「ヘッドマウントディスプレイ」からの何の情報に基づいて「位置情報」及び「姿勢情報」を取得するのか特定できない。
発明のカテゴリーが異なる請求項6についても同じことが指摘される。
さらに、請求項1,6を引用する請求項2−5,7−11についても同じことが指摘される。
よって、請求項1−11に係る発明は明確でない。

(2)
ア 請求項1には、「前記カメラ、前記深度センサ又は前記慣性センサの少なくとも1つから取得される情報に基づいて、現実空間における前記投影システムの現在位置を示す位置情報を取得する位置取得部」と記載されている。
「現実空間における前記投影システムの現在位置を示す位置情報」は、3次元座標上の位置のことと解され、また、「前記カメラ、前記深度センサ又は前記慣性センサの少なくとも1つ」と記載されているから、当該記載は択一的記載である。
ここで、請求項1の規定からみて、「前記カメラ」は「前記ヘッドマウントディスプレイの視野周辺の画像を捉える」ものであって、「前記深度センサ」は「前記視野周辺の物体までの距離を測定する」ものであって、「前記慣性センサ」は「自己の姿勢変化を取得する慣性センサ」である。
そうすると、当該択一的記載のうち、「前記カメラ」及び「前記深度センサ」を含まない場合、どのようにして「現実空間における前記投影システムの現在位置を示す位置情報を取得」するのか特定できない。

イ 請求項1記載の「姿勢取得部」も上記アと同様に規定されている。
そうすると、「姿勢取得部」が「慣性センサ」から取得される情報に基づかない場合、すなわち、該「前記ヘッドマウントディスプレイの視野周辺の画像」及び/又は「前記視野周辺の物体までの距離」から、どのようにして「前記現実空間における前記投影システムの現在の姿勢を示す姿勢情報を取得」するのか特定できない。

ウ 請求項1では、「位置取得部」は「現実空間における前記投影システムの現在位置を示す位置情報を取得する」と規定され、該「前記投影システム」は「空間認識装置と、投影装置とを含み」と規定されている。
そうすると、「位置取得部」は、「空間認識装置」の現在位置と、「投影装置」の現在位置とを取得するものと解される。
しかしながら、該「位置取得部」は「空間認識装置」が有するカメラやセンサから取得された情報に基づいて位置情報を取得するものであって、「投影装置」に関する情報は取得されていないから、どのようにして「投影装置」の位置情報を取得するのか、すなわち、どのようにして「投影システム」の位置情報を取得するのか、特定できない。
請求項1記載の「姿勢取得部」についても同じことが指摘される。
請求項6には、「現実空間における前記空間認識装置及び前記投影装置の現在位置を示す位置情報を取得する」及び「前記現実空間における前記空間認識装置及び前記投影装置の現在の姿勢を示す姿勢情報を取得する」と記載されているから、同じことが指摘される。

エ 上記ア、イでは請求項1について指摘したが、発明のカテゴリーが異なる請求項6についても同じことが指摘される。
上記ア、イの点は、上記請求項1,6を引用する請求項2−5,7−11についても同じことが指摘される。
上記ウの点は、上記請求項1,6を引用する請求項2,4−5,7,9−11についても同じことが指摘される。

2 検討

(1)本件補正により、請求項1において「前記空間認識装置は、ヘッドマウントディスプレイ、前記ヘッドマウントディスプレイの視野周辺の画像を捉えるカメラ又は前記視野周辺の物体までの距離を測定する深度センサ、及び自己の姿勢変化を取得する慣性センサを有し」と補正されたため、上記1(1)で指摘した点は解消した。

(2)本件補正により、請求項1において、上記(1)に記載した点に加えて、「前記カメラ又は前記深度センサから取得される情報に基づいて、現実空間における前記投影システムの現在位置を示す位置情報を取得する位置取得部と、前記慣性センサから取得される情報に基づいて、前記現実空間における前記投影システムの現在の姿勢を示す姿勢情報を取得する姿勢取得部と」と補正されたため、上記1(2)ア、イ、ウで指摘した点はいずれも解消した。

(3)発明のカテゴリーが異なる請求項5(補正前の請求項6に対応)についても同様に解消した。

以上から、当審拒絶理由の理由1は全て解消した。


第7 原査定についての判断

1 理由1(新規事項)について
原査定において、理由1の対象となった請求項4,10は令和4年1月4日提出の手続補正により削除されており、また、理由1として令和3年7月5日付け拒絶理由通知において指摘した「前記投影システムが移動することにより他の前記基準線付近に到達したとき、前記他の基準線を用いて再度、前記マッピング情報を算出する」という構成は、本件補正による補正後の請求項1−9において記載されておらず、請求項1−9についてする補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしたものである。

2 理由2(進歩性)について
上記第5で述べたように,本件補正による補正後の本願発明1−9は、上記[相違点3]に係る技術的事項を有しており、当該技術的事項は原査定における引用文献1−3には記載されておらず、周知技術でもないので、本願発明1−9は、当業者であっても、原査定における引用文献1−3に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

したがって、原査定を維持することはできない。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-12-06 
出願番号 P2018-170899
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 野崎 大進
石井 則之
発明の名称 投影システム、投影方法及びプログラム  
代理人 あいわ弁理士法人  
代理人 あいわ弁理士法人  

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