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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1392878
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2023-01-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-02-03 
確定日 2023-01-04 
事件の表示 特願2017−143449「抽出装置、抽出方法、及び抽出プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 2月21日出願公開、特開2019− 28488、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年7月25日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和3年 3月31日付け:拒絶理由通知書
令和3年 6月 3日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年11月25日付け:拒絶査定
令和4年 2月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年 3月17日 :前置報告
令和4年 5月 9日 :上申書の提出
令和4年 8月15日付け:拒絶理由通知書
令和4年10月 7日 :意見書、手続補正書の提出

第2 原査定の概要
原査定(令和3年11月25日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1−12に係る発明は、以下の引用文献1−5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2011−198292号公報
2.特開2011−081431号公報
3.特開2008−123317号公報
4.特開2008−065381号公報
5.米国特許出願公開第2011/0071881号明細書

第3 本願発明
本願請求項1−12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明12」という。)は、令和4年10月7日に提出された手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1−12に記載された事項により特定される、以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
所定の期間において検知されたユーザの複数の位置情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された複数の位置情報のうち、位置の変化に関する所定の規則性であって、前記位置の変化に基づく前記ユーザに移動速度がランニングに対応していることを示す所定の規則性を満たし、前記ユーザが所定の範囲を周回していることを示す位置情報群を抽出する抽出部と、
前記位置情報群に基づいて、前記所定の範囲を周回してランニングする前記ユーザに広告を配信するサービスを提供する提供部と、
を備えることを特徴とする抽出装置。
【請求項2】
前記抽出部は、
連続して検知された複数の位置情報を前記位置情報群として抽出する
ことを特徴とする請求項1に記載の抽出装置。
【請求項3】
前記抽出部により抽出された位置情報群に基づいて、前記所定の期間の前後における前記ユーザの行動を予測する予測部、
をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の抽出装置。
【請求項4】
前記予測部は、
所定の行動の発生有無の予測に用いられるモデルであって、前記位置情報群が入力されたモデルの出力に基づいて、前記ユーザの前記所定の行動の有無を予測する
ことを特徴とする請求項3に記載の抽出装置。
【請求項5】
前記取得部は、
前記位置情報群が検知された期間である対象期間ではない期間における前記ユーザの行動情報を取得し、
前記抽出部は、
前記ユーザの行動情報のうち、所定の条件を満たす行動情報である対象行動情報を抽出する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の抽出装置。
【請求項6】
前記抽出部は、
前記対象期間よりも後における前記対象行動情報を抽出する
ことを特徴とする請求項5に記載の抽出装置。
【請求項7】
前記抽出部は、
前記対象期間の終了時における位置情報に対応する位置から所定の範囲内に前記対象行動情報を抽出する
ことを特徴とする請求項6に記載の抽出装置。
【請求項8】
前記抽出部は、
前記対象期間よりも前における前記対象行動情報を抽出する
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の抽出装置。
【請求項9】
前記抽出部は、
前記対象期間の開始時における位置情報に対応する位置から所定の範囲内に前記対象行動情報を抽出する
ことを特徴とする請求項8に記載の抽出装置。
【請求項10】
前記位置情報群と、前記位置情報群に対応する前記対象行動情報とを含む学習データに基づいて、所定の行動の発生有無の予測に用いられるモデルを生成する生成部、
をさらに備えることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の抽出装置。
【請求項11】
コンピュータが実行する抽出方法であって、
所定の期間において検知されたユーザの複数の位置情報を取得する取得工程と、
前記取得工程により取得された複数の位置情報のうち、位置の変化に関する所定の規則性であって、前記位置の変化に基づく前記ユーザに移動速度がランニングに対応していることを示す所定の規則性を満たし、前記ユーザが所定の範囲を周回していることを示す位置情報群を抽出する抽出工程と、
前記位置情報群に基づいて、前記所定の範囲を周回してランニングする前記ユーザに広告を配信するサービスを提供する提供工程と、
を含むことを特徴とする抽出方法。
【請求項12】
所定の期間において検知されたユーザの複数の位置情報を取得する取得手順と、
前記取得手順により取得された複数の位置情報のうち、位置の変化に関する所定の規則性であって、前記位置の変化に基づく前記ユーザに移動速度がランニングに対応していることを示す所定の規則性を満たし、前記ユーザが所定の範囲を周回していることを示す位置情報群を抽出する抽出手順と、
前記位置情報群に基づいて、前記所定の範囲を周回してランニングする前記ユーザに広告を配信するサービスを提供する提供手順と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする抽出プログラム。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。
(下線は強調のため当審で付したものである。以下同じ。)

ア「【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS(Global Positioning System)に代表される位置計測デバイスによって取得されたユーザの位置情報をもとにユーザの行動を予測するために使用するモデル化装置、方法及びプログラムと、そのモデル化情報を使用した予測装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
GPSに代表される位置計測デバイスを搭載した携帯端末をユーザが携行することで、取得・蓄積された位置データをもとに予測モデルを構成し、ユーザの行動を予測する手法が提案されている。
・・・(略)・・・
【0004】
ユーザの行動を的確に予測できれば、ユーザに対しより有益な情報を提供することが可能となる。例えば、ユーザが会社にいるときにその帰宅経路を予測することで、予測された経路での災害情報や、経路途中に存在する店舗のタイムセール情報を前もって提供する等、一歩先を読んだ情報提供が可能となる。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、これらの従来提案されているシステムはいずれも、ユーザの現在位置のみをもとにユーザの行動を予測するものとなっている。このため、ユーザの非日常的な行動については予測することが困難である。例えば、ユーザが朝自宅に居るという一つの状況に対しても、その日ユーザが通常通り職場や学校へ行く、出張に出かける、休暇をとって知人と会いに出かけるという行動の多様性が存在する。このようなユーザの非日常的な行動は、ユーザの現在位置のみから予測しようとしても違いを区別することができない。
【0007】
この発明は上記事情に着目してなされたもので、その目的とするところは、ユーザの日常的な行動については勿論のこと非日常的な行動についても予測可能とし、これによりさらに高精度の行動予測を可能にした行動予測のためのモデル化装置、方法及びプログラムと、そのモデル化情報を使用した予測装置、方法及びプログラムを提供することにある。」

イ「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係わる滞在場所推定装置を備えたシステムを示す図である。このシステムは、それぞれユーザが所持する複数の携帯端末MS1〜MSnを、通信ネットワークNWを介して、行動予測装置SVに接続可能としたものである。
・・・(略)・・・
【0015】
携帯端末MS1〜MSnは、携帯電話機やPDA(Personal Digital Assistant)、ネットブック等と呼ばれる携帯型のパーソナル・コンピュータからなり、音声通信機能やメール送受信機能、ブラウザ機能に加えて、位置計測機能を備えている。位置計測機能は、GPS(Global Positioning System)受信機と、GPS計測制御部と、GPSデータ送信制御部とにより実現される。
・・・(略)・・・」

ウ「【0018】
行動予測装置SVは、例えば通信事業者又はサービス事業者が運用するサービスサーバからなり、次のように構成される。図2はその機能構成を示すブロック図である。
すなわち、行動予測装置SVは、送受信ユニット1と、制御ユニット2と、記憶ユニット3とを備えている。送受信ユニット1は、制御ユニット2の制御の下で通信ネットワークNWとの間で情報の送受信を行う。
【0019】
記憶ユニット3は、HDD(Hard Disc Drive)又はSSD(Solid State Drive)を使用したランダムアクセス可能な不揮発性メモリを使用したもので、この発明を実現するために必要な記憶部として、滞在行動データ記憶部31と、系列パターン記憶部32と、スケジューラデータ記憶部33と、識別結果記憶部34とを備えている。
・・・(略)・・・
【0024】
制御ユニット2は、中央処理ユニット(CPU;Central Processing Unit)を中核として備えるもので、この発明を実施するために必要な制御機能として、位置データ取得制御部21と、滞在場所抽出処理部22と、系列パターン抽出処理部23と、スケジューラデータ取得制御部24と、共起関係学習処理部25と、行動予測処理部26と、予測結果出力制御部27とを備えている。これらの制御機能はいずれもアプリケーション・プログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
【0025】
位置データ収集処理部21は、送受信ユニット1を制御することで、各携帯端末MS1〜MSnに対しそれぞれ異なるタイミングで定期的に位置データの送信要求を送信し、この要求に対し各携帯端末MS1〜MSnから送信される位置データを受信する処理を実行する。
【0026】
滞在場所抽出処理部22は、上記位置データ収集処理部21により取得された位置データを、クラスタリング処理により、ユーザが滞在した場所とその場所に滞在した時間とを組にした滞在行動の集合に変換する。そして、この滞在行動の集合に対して、滞在場所が変化するごとに異なる滞在行動IDを付与し、この滞在行動IDが付与された滞在行動データの集合を上記滞在行動データ記憶部31に記憶させる処理を行う。
【0027】
系列パターン抽出処理部23は、上記滞在行動データ記憶部31から滞在行動データの集合を読み出し、この読み出された滞在行動データの集合から、Sequential Pattern Miningの手法を用いて系列パターンを抽出する処理を行う。系列パターンは、ユーザが頻繁に滞在する場所間の遷移を並べたもので、この抽出された系列パターンのデータは上記系列パターン記憶部32に格納される。
【0028】
スケジューラデータ取得制御部24は、携帯端末MS1〜MSnからユーザが予め作成し記憶しておいたスケジュールの元データを送受信ユニット1により受信し、この受信されたスケジュールの元データを所定の前処理によりスケジューラデータに変換し、この変換されたスケジューラデータをスケジューラデータ記憶部33に格納する処理を行う。上記前処理とは、スケジュールの元データに含まれる任意の文字列を形態素解析することにより名詞を抽出してこの抽出された名詞をベクトルにより表し、このベクトルをスケジュール内容を表すデータとする処理である。
【0029】
共起関係学習処理部25は、滞在行動データ記憶部31に記憶されている滞在行動データの集合と、スケジューラデータ記憶部33に記憶されているスケジューラデータの集合をそれぞれ読み込み、これらのデータ間の時間的な共起関係をもとに、この時間的な共起関係が高くなるように、滞在場所と行動予定の内容とが時間的に重なり合う確率p(c|w)を学習する。そして、この学習により推定された確率p(c|w)を、モデル化情報として識別結果記憶部34に格納する処理を行う。
【0030】
行動予測処理部26は以下の処理機能を備えている。
(1)上記位置データ取得制御部21を起動して、携帯端末MS1〜MSnから予測対象時刻から一定時間前までの期間におけるユーザの位置データを取得する。そして、滞在場所抽出処理部22を起動して、上記取得した位置データから滞在行動データの集合を抽出し、この抽出された滞在行動データを読み込む処理。
(2)スケジューラデータ取得制御部24を起動して、予測対象時刻より一定時間後までの期間におけるユーザのスケジュール元データを取得し、この取得されたスケジュール元データをもとに生成されるスケジューラデータを読み込む処理。
(3)識別結果記憶部34に記憶されたモデル化情報を参照して、上記生成された滞在行動データの集合及びスケジューラデータと、上記系列パターン記憶部32に記憶された系列パターンとの間の一致の度合いを計算し、その計算結果をもとに上記予測対象時刻以降におけるユーザの滞在場所を推測する処理。
【0031】
予測結果出力制御部27は、上記行動予測処理部26により推測された、上記予測対象時刻以降におけるユーザの滞在場所を表す情報を、予測結果の利用契約を行っているサービス業者のサーバ又は端末へ、送受信ユニット1 から送信させる処理を行う。」

エ「【0054】
(2−1)最近の位置データの取得と滞在行動データの抽出
行動予測装置SVの制御ユニット2は、予め定められた行動予測タイミングになるか又は行動予測処理要求が入力されると、先ずステップS31により位置データ取得制御部21を起動し、予測対象となるユーザの携帯端末MS1〜MSnから、当該ユーザの予測対象時刻から一定時間前までの期間、例えば現在時刻から過去の24時間以内に得られた位置データを取得する。この取得された位置データは滞在場所抽出処理部22に渡される。
【0055】
滞在場所抽出処理部22は、ステップS32において、上記取得された位置データの集合に対し、先に(1−3)で述べたようにクラスタリング処理を実行して、滞在行動データの集合に変換する。一つの滞在行動データは、ユーザが滞在した場所と、この場所に滞在を開始した時刻及び終了した時刻を、滞在行動IDと関連付けたものからなる。
【0056】
(2−2)近未来のスケジューラデータの取得
続いて行動予測装置SVの制御ユニット2は、ステップS33によりスケジューラデータ取得制御部24を起動し、上記予測対象となるユーザの携帯端末MS1〜MSnから、当該ユーザにより作成された、予測対象時刻から一定時間先までの期間、例えば現在時刻から24時間後までのユーザの行動予定を記述したスケジュール元データを取得する。そして、この取得したスケジュール元データを、先に(1−4)に述べたように形態素解析などの手法を用いて名詞をベクトルに変換し、これによりイベントID、スケジューラ内容、イベント開始時刻、イベント終了時刻の4つの要素で表されるスケジューラデータに変換する。
【0057】
(2−3)一致度スコアの計算
次に行動予測装置SVの制御ユニット2は、ステップS34により行動予測処理部26を起動し、上記取得されたユーザの最近の滞在行動データ及びスケジューラデータと、前記学習フェーズにおいて抽出された系列パターンとの一致の度合いを、同じく前記学習フェーズにおいて生成された共起関係のモデル化情報を参照して、以下のように計算する。
【0058】
すなわち、いま上記取得されたユーザの最近の滞在行動データ及びスケジューラデータをそれぞれ
【数4】

とする。ここで、各ri^ は
【数5】

とし、予測を行う時刻からある一定時間前までの期間における滞在行動データとする。また、各si^ は
【数6】

とし、予測を行う時刻から一定時間後までの期間におけるスケジューラデータであるとする。
【0059】
続いて、記憶ユニット3内の系列パターン記憶部32から、学習フェーズにおいて抽出された系列パターンP を読み出す。そして、上記滞在行動データR^ 及びスケジューラデータS^ と、上記読み出された系列パターンP とのマッチングスコアを、スコア関数を用いて計算する。その計算式は、
【数7】

として定義される。
【0060】
ここで、prob(P) はパターンの出現し易さを表すスコアである。また、rscore(P ,ri^)は滞在行動がパターンと合致しているかどうかを表すスコアである。prob(P) は滞在行動データ中でのパターンP の出現頻度に基づいて定める。rscore(P ,ri^) については、パターンP 中にri^ と同じ滞在場所IDを指しているvが存在し、かつri^ での滞在開始時刻から滞在終了時刻とvの平均滞在開始/終了時刻とに重なりがある場合に、rscore(P ,ri^) =1とする。そうでない場合には0とする。ω は、滞在行動データR^ 及びスケジューラデータS^ の影響の度合いを調整するためのパラメータであり、0≦ω≦1とする。
【0061】
また、sscore(P ,sj ^) は、スケジューラデータとパターンとの合致を表現するスコアであり、
【数8】

と定義される。同式におけるp(c|wj^) は、記憶ユニット3内の識別結果記憶部34にモデル化情報として記憶されている確率である。
【0062】
(2−4)予測結果の出力
次に行動予測処理部26は、ステップS35によりスコアが最大となる系列パターンを選択し、この選択された系列パターンに含まれる各滞在場所の中で平均滞在開始/終了時刻が現在時刻より後のものを滞在場所の予測結果として選択する。そして、ステップS36により予測結果出力制御部27を起動し、上記予測された滞在場所を表す情報をユーザIDと共に、送受信ユニット1から情報配信事業者等のサーバに向け送信する。」

オ「【図1】



カ「【図2】



(2)引用発明
ア 上記(1)アによれば、引用文献1には、ユーザの行動予測を行う予測装置について、ユーザの日常的な行動のみならず、非日常的な行動についても予測可能とするための、モデル化装置、方法及びプログラムと、そのモデル化情報を使用した予測装置、方法及びプログラムが開示されている。

イ 上記(1)イ、オによれば、引用文献1には、「それぞれユーザが所持する複数の携帯端末MS1〜MSnを、通信ネットワークNWを介して、行動予測装置SVに接続可能とした」「滞在場所推定装置を備えたシステム」が記載されている。そして、同ウ、カによれば、引用文献1に記載の「行動予測装置SV」は、制御機能として、「位置データ取得制御部21」と、「滞在場所抽出処理部22」と、「系列パターン抽出処理部23」と、「スケジューラデータ取得制御部24」と、「共起関係学習処理部25」と、「行動予測処理部26」と、「予測結果出力制御部27」とを備えていることが記載されている。
以上より、引用文献1には、少なくとも、「位置データ取得制御部」と、「滞在場所抽出処理部」と、「行動予測処理部」とを備えた「行動予測装置」が記載されていると認められる。

ウ 上記(1)エによれば、引用文献1の【0054】には、行動予測装置SVが備える「位置データ取得部21」が、「予測対象となるユーザの携帯端末MS1〜MSnから、当該ユーザの予測対象時刻から一定時間前までの期間、例えば現在時刻から過去の24時間以内に得られた位置データを取得する」ことが記載されている。また、同【0055】には、行動予測装置SVが備える「滞在場所抽出処理部22」が、「取得された位置データの集合」に対し、「クラスタリング処理を実行して、滞在行動データの集合に変換する」ことが記載されている。ここで、「滞在行動データ」とは、「ユーザが滞在した場所と、この場所に滞在を開始した時刻及び終了した時刻を、滞在行動IDと関連付けた」データである。
以上より、引用文献1には、行動予測装置が備える「位置データ取得部」は、「予測対象時刻から一定時間前までの期間の位置データを予測対象となるユーザの携帯端末から取得する」ものであり、同「滞在場所抽出処理部」は、「取得された位置データの集合に対してクラスタリング処理を実行して、ユーザが滞在した場所と、この場所に滞在を開始した時刻及び終了した時刻を、滞在行動IDと関連付けた滞在行動データの集合に変換する」ものであることが記載されていると認められる。

エ 上記(1)エによれば、引用文献1の【0057】には、行動予測装置SVが備える「行動予測処理部26」が、「取得されたユーザの最近の滞在行動データ」と、「学習フェーズにおいて抽出された系列パターンとの一致の度合い」を「計算する」ことが記載され、同【0062】には、「行動予測処理部26」が、一致の度合いである「スコア」が「最大となる系列パターンを選択し、この選択された系列パターンに含まれる各滞在場所の中で平均滞在開始/終了時刻が現在時刻より後のものを滞在場所の予測結果として選択する」ことが記載されている。
以上より、引用文献1には、行動予測装置が備える「行動予測処理部」は、「滞在行動データとの一致の度合いが最大となる系列パターンを選択し、この系列パターンに含まれる各滞在場所の中で平均滞在開始/終了時刻が現在時刻よりも後のものを滞在場所の予測結果として選択する」ものであることが記載されていると認められる。

オ 以上をまとめると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「予測対象時刻から一定時間前までの期間の位置データを予測対象となるユーザの携帯端末から取得する位置データ取得制御部と、
当該取得された位置データの集合に対してクラスタリング処理を実行して、ユーザが滞在した場所と、この場所に滞在を開始した時刻及び終了した時刻を、滞在行動IDと関連付けた滞在行動データの集合に変換する滞在場所抽出処理部と、
当該滞在行動データとの一致の度合いが最大となる系列パターンを選択し、この系列パターンに含まれる各滞在場所の中で平均滞在開始/終了時刻が現在時刻よりも後のものを滞在場所の予測結果として選択する行動予測処理部と、
を備えた行動予測装置。」

2.引用文献2について
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。

ア「【0139】
(学習モデル判定:ジオカテゴリコード)
次に、図25を参照しながら、学習モデル判定に基づく行動・状況パターンの検出方法について説明する。上記の通り、学習モデル判定は、機械学習アルゴリズムを利用して判定モデルを生成し、生成した判定モデルを利用して行動・状況パターンを検出するというものである。機械学習アルゴリズムとしては、例えば、線形回帰、非線形回帰、SVM、Boosting等の手法が用いられる。また、これらの機械学習アルゴリズムに遺伝的探索手法による特徴量の選定処理を組み合わせてもよい。
【0140】
また、判定モデルを生成する際、教師データとして与えられる特徴ベクトルは、例えば、時間・カレンダー情報(年月日、時刻、曜日、祝日/非祝日等)、動き・状態パターン、動き・状態特徴量、センサデータ(加速度データ、ジャイロデータ等)、ジオカテゴリコード、ジオカテゴリヒストグラム(コード毎の数)、緯度・経度等を含む。また、特徴ベクトルには、ユーザの行動に関連する任意の検出データ及びその加工データを利用することができる。また、教師データとして与えられる目的変数は、正解の行動・状況パターンを示す正解データである。なお、教師データは、「学生」「社会人」「男性」「女性」等の比較的近い行動をとると思われるグループから選択的に採取されたものを利用することで、グループ毎に最適化された判定モデルを生成することもできる。」

イ「【0191】
行動予測部208は、履歴記憶部202に蓄積されている行動履歴及び位置履歴の情報を読み出し、読み出した情報に基づいて未来の行動・状況パターン及び位置情報を予測する。例えば、行動予測部208は、履歴記憶部202から読み出した行動履歴等を利用し、確率的な位置遷移モデルに基づいて次にユーザのとる行動・状況パターンを予測する。確率的な位置遷移モデルとしては、例えば、後述する位置クラスタリングに基づく遷移確率の推定方法等が用いられる。また、図33には明示していないが、履歴記憶部202に他人の行動履歴や位置履歴が記録されている場合、行動予測部208は、他人の行動履歴や位置履歴を読み出して行動・状況パターンの予測に利用することもある。他人の行動履歴等を利用することにより、本人の行動履歴等がない場所の行動予測(例えば、多くの人が取ると予測される行動の推定)が可能になる。

ウ「【図25】



エ「【図33】



(2)引用文献2に記載された技術的事項
以上より、引用文献2には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。
「行動履歴が入力された位置遷移モデルに基づいて、次にユーザのとる行動・状況パターンを予測すること。」

3.引用文献3について
(1)引用文献3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、以下の事項が記載されている。

ア「【0047】
次に、図1に示す期待行動予測部150および付加情報提供部140の機能を説明する。この期待行動予測部150は、要求情報提供部130が特定のメンバーに対して提供情報を提供したときに、当該提供情報に関連する行動を「要求行動」と認識し、行動履歴情報格納部120に格納されている当該特定のメンバーの行動履歴情報Hを参照することにより、「要求行動」の後に実行されると期待される行動を「期待行動」として予測する機能を有し、そのような予測処理を実行するプログラムが組み込まれたコンピュータによって構成することができる。また、付加情報提供部140は、期待行動予測部150によって予測された「期待行動」に関連する提供情報を、提供情報格納部110から抽出し、これを当該特定のメンバーに対して付加情報として提供する機能を有する。実用上は、要求情報提供部130と付加情報提供部140とは、同一のWebサーバによって構成することができる。
【0048】
これらの機能を、具体的な実例に即して説明しよう。いま、メンバー識別コード「M1001」で特定されるメンバー甲について、既に、図4(a)に示すような行動履歴情報が収集されており、行動履歴情報格納部120に格納されているものとする。この図4(a)に示す行動履歴情報は、このメンバー甲についての過去の行動履歴を蓄積したものであり、メンバー甲の日常の行動パターンを示す情報ということができる。たとえば、メンバー甲の日曜日の行動パターンを見てみると、「映画」を見た後には、必ず「食事」をする習慣があることがわかる。そこで、もしメンバー甲が、日曜日に「映画」に関連する提供情報Dの要求を行い、これに応じて要求情報提供部130が、たとえば、図2の提供情報D3を提供したとすると、この「映画」に関連する提供情報D3とともに、「食事」に関連する提供情報D1を併せて提供すれば、メンバー甲に対して、日常の行動パターンを考慮した的確な情報提供を行うことができる。」

イ「【0054】
図5は、上述の例についての、具体的な提供形態の一例を示す図である。この例では、携帯端末装置10上に、まず、図5(a)に示すように、提供情報D3′が表示される。この提供情報D3′は、要求情報提供部130によって提示されたものであり、基本的には、図2に示す提供情報D3の内容と同じものであるが、図示のとおり、「特別なお知らせ」なる文字列からなる移行ボタンBが付加されている。メンバー甲が、この移行ボタンBをクリックすると、図5(b)に示すように、提供情報D1の表示が行われる。すなわち、この図5に示す提示形態の場合、まず、要求情報提供部130が、メンバーの要求どおりの提供情報D3に移行ボタンBを付加した提供情報D3′を送信し、移行ボタンBがクリックされたときに、付加情報提供部140が提供情報D1を付加情報として送信することになる。
【0055】
一方、図6は、上述の例についての、別な提供形態の一例を示す図である。この例では、要求情報提供部130と付加情報提供部140との協働作業により、携帯端末装置10上に、図示のような提供情報D3''が提示されることになる。この提供情報D3''は、基本的には、図2に示す提供情報D3の内容と同じものであるが、図示のとおり、「○○レストランで本日お得なパスタフェア開催中」なる文字列からなる付加情報Mが付加されている。この付加情報Mは、図5(b)に示す提供情報D1内の一部から抽出した情報である。メンバー甲は、「映画」に関連する提供情報を要求するだけで、図6に示すような表示を得ることができる。この表示には、要求に応じた「映画」に関連する提供情報とともに付加情報Mが含まれており、この付加情報Mは、メンバー甲が「映画」の後に実行すると期待される「食事」に関連した情報になっている。」

ウ「【図1】



エ「【図2】



オ「【図4】



カ「【図5】



キ「【図6】



(2)引用文献3に記載された技術的事項
上記(1)イにおける段落【0054】に挙げられている「特別なお知らせ」や、同【0055】に挙げられている「○○レストランで本日お得なパスタフェア開催中」といった表示は、上記(1)カ、キの記載を踏まえると、レストランに関する「広告」であるということができる。
そうすると、当該引用文献3には、「行動を予測し、当該予測した行動に関する広告を配信する」という技術的事項が記載されていると認められる。

4.引用文献4について
(1)引用文献4の記載
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、以下の事項が記載されている。

ア「【0068】
更に、ユーザ危険認識判定手段50は、ユーザ毎の行動特性に関するデータを蓄積しておき、例えば図1に示すような行動特性データベース51を作成し、このデータベース51に蓄積されたデータに基づいて、ユーザが危険を認識しているか否かを判断するようにしてもよい。
【0069】
図4は、ユーザの行動特性と危険認識の関係を学習してデータベース化するための一例を示した図である。図4は、本実施例に係るユーザの危険認識度を、ニューロモデルにより学習する例を示している。
【0070】
図4において、入力の項目と出力の項目があり、入力項目の階層を入力層、その項目に重み付けを行った階層を中間層、中間層の総和として最終的に危険認識度を出力する階層を出力層と呼び、それぞれの層は各項目のニューロンから構成されている。図4において、Wnは、入力層と中間層の各ニューロンの結びつきの強さを表す重み付け係数を示しており、0〜1の間の値をとる。
【0071】
入力層には、例えば、「目線・顔向き」、「リモート車両制御中止タイミング」、「リモート車両制御実施位置」、「リモート車両制御実施時刻」、「リモート車両制御時の天候」、「リモート車両制御時の目的に対する目的地設定」、「ユーザの身振り・手振りによる判断」、「ユーザの脈拍・呼吸・体温」、「ユーザの移動方向」、の9つを例として挙げている。
【0072】
これらの入力層の項目は、本実施例に係るユーザ保護機能付車両が、ユーザが危険な状態にあると判定したときに、ユーザがその危険な状態を認識していた、又は認識していなかった事例の状況を表現するための項目である。これらの項目は、ユーザにより個人差があり、ユーザなりの行動パターンの癖、習慣に大きく左右されそうな項目を例として挙げている。」

イ「【図4】



(2)引用文献4に記載された技術的事項
以上より、当該引用文献4には、「ユーザの行動特性の項目を入力層に入力し、入力項目に重み付けを行う階層を中間層とし、中間層の総和として出力する階層を出力層とするニューロモデルを用いて、ユーザが危険を認識しているか否かを判断する」という技術的事項が記載されていると認められる。

5.引用文献5について
(1)引用文献5の記載
原査定に引用された上記引用文献5には、以下の事項が記載されている。
「[0019] In an implementation, mining a life pattern collects the location information of an individual and extracts a place that the individual has stayed or visited over a time period and the place is within a distance amount away from another place.
(中略)
Information is recommended to the individual based at least in part on life patterns. By way of example and not limitation, the information provided to the individual may include advertisements, sales promotions, schedule times for public transportation, a route for travel, movie or book promotions, and the like.」
(当審訳)
「[0019] 1つの実装においては、生活パターンのマイニングでは個人の位置情報を収集し、その個人が所定期間にわたって訪問ないし滞在した、他の場所から所定距離離れた場所を抽出する。
(中略)
生活パターンに少なくとも部分的に基づいて、個人に対して情報が推薦される。個人に提供される情報は、例えば、広告、セールスプロモーション、公共交通のスケジュール、移動の経路、映画や本の宣伝である。」

(2)引用文献5に記載された技術的事項
以上より、当該引用文献5には、「個人の生活パターンに基づいて当該個人に広告が提供される」という技術的事項が記載されていると認められる。

6.引用文献6について

(1)引用文献6の記載
令和4年3月17日にされた前置報告において引用された引用文献6(特開2010−14592号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア「【0021】
本実施の形態にかかる通信システムについて図1を参照して説明する。図1は、通信システム100の全体構成を模式的に示す図である。通信システムには、携帯端末10、基地局20、ネットワーク30、衛星40、サーバ装置50を有している。
【0022】
携帯端末10は、携帯電話、又はPDA等の移動端末であり、無線通信機能を有している。ここでは、携帯端末10が測位手段11を有するGPS(Global Positioning System)携帯であるとして説明する。すなわち、携帯端末10は、GPS機能を備え、自己位置を一定時間間隔で測定している。
【0023】
測位手段11は、GPS衛星40から受信した信号に基づいて、自己位置を取得する。・・・(略)・・・このように、サーバ装置50は、ネットワーク30を介して携帯端末10の位置情報を収集する。
【0024】
この位置情報について図2を用いて説明する、図2は、位置情報のデータを模式的に示す表(テーブル)である。図2に示すように、時系列に従って、位置を示す緯度(Lat)、経度(Lng)が配列されている。すなわち、測定時間(Datetime)に緯度、経度が対応付けられている。一定の測定周期で測定された緯度、経度が、携帯端末10からサーバ装置50に送信されている。そして、この位置情報がユーザID毎に収集される。従って、位置情報履歴のテーブルには、ユーザID(UserID)、緯度(Lat)、経度(Lng)、及び測定時間(Datetime)の欄が作成されている。・・・(略)・・・
【0025】
サーバ装置50は、位置情報記憶部51と、地図情報記憶部52と、判定部53とを備えている。位置情報記憶部51は、図2に示すような位置情報履歴のテーブルをユーザID毎に記憶している。すなわち、位置情報記憶部51は、ユーザの位置の履歴を時系列に従って記憶している。地図情報記憶部52には、ユーザの移動範囲における地図情報が記憶されている。例えば、道路や線路などの情報が予め設定されている。・・・(略)・・・
【0026】
判定部53は、位置情報記憶部51に記憶されている位置情報と、地図情報記憶部52に記憶されている地図情報に基づいて、移動手段を判定する。サーバ装置50は、位置情報の履歴を分析して、ユーザの移動手段を判定する移動手段判定装置である。・・・(略)・・・
【0034】
このようにして統計情報を作成する。そして、判定部53は、この統計情報に基づいて、移動手段を判定する。次に移動手段の判定について、図6を用いて説明する。図6は、移動手段の判定方法を示すフローチャートである。・・・(略)・・・
【0035】
例えば、図2に示す位置情報では、DatetimeがtimeA4とtimeA1との間で、緯度差、及び経度差を取れば移動ベクトルを算出することができる。・・・(略)・・・
【0036】
そして、移動ベクトル単位の大きさと、速度を算出する。すなわち、移動ベクトル毎に、その大きさと速度を求める。・・・(略)・・・
【0037】
次に、移動手段判定のためのノードとエッジを検出する(ステップS204)。例えば、地図情報を参照して、それぞれの測位点がノード、又はエッジのいずれに該当するかを判定する。測位点がノードに含まれている場合、移動手段の欄をエッジとする。そして、ノード間を測位点がエッジとする。このように、地図情報に基づいて、エッジ、又はノードを識別することができる。・・・(略)・・・
【0038】
そして、エッジ毎の統計情報を作成する(ステップS205)。・・・(略)・・・そして、算出された統計情報に基づいて、移動手段を判定する(ステップS206)。ここでは、しきい値を用いて移動手段を判定することができる。この判定ステップについて、図7を用いて説明する。図7は、ステップS206における判定例を示すフローチャートである。
【0039】
まず、エッジの平均移動速度を算出する(ステップS301)。すなわち、ユーザがエッジに沿って進んでいるときの平均移動速度を、移動ベクトルに基づいて算出する。あるノードを出てから、次のノードに入るまでの間の平均移動速度を求める。この平均移動速度は、エッジに含まれる複数の測位点に対する移動ベクトルの和を算出し、移動ベクトルの和をエッジに含まれる測位点の数で割ればよい。このようにすることで、移動経路が直線でない場合でも、正確に平均移動速度を求めることができる。そして、平均移動速度が7.5km/h以上であるか否かを判定する(ステップS302)。すなわち、平均移動速度を、徒歩と自転車間のしきい値と比較する。平均移動速度がしきい値以下、すなわち、7.5km以下の場合、移動手段が徒歩であると判定する。一方、平均移動速度がしきい値以上、すなわち、7.5km以上の場合、15km/h以上であるか否かを判定する(ステップS303)。すなわち、平均移動速度を、自転車と自動車間のしきい値と比較する。平均移動速度が15km/h以下の場合、移動手段が自転車であると判定する。一方、平均移動速度がしきい値以上、すなわち、15km以上の場合、30km/h以上であるか否かを判定する(ステップS303)。すなわち、平均移動速度を、自動車と列車間のしきい値と比較する。平均移動速度が30km/h以下の場合、移動手段が自動車であると判定する。平均移動速度が30km/h以上の場合、移動手段が列車であると判定する。
【0040】
このように、エッジ毎に、しきい値と平均移動速度を比較し、その比較結果に応じて、移動手段を判定する。そしてユーザの位置情報履歴テーブルに移動手段フラグを追加する(ステップS207)。これにより、移動手段の欄に徒歩、自転車、自動車、列車のいずれかを示すフラグが格納される。よって、エッジ毎に、移動手段を識別することができるようになる。測定時間毎に、移動手段のフラグを追加する。これにより、図2に示すように、各測定時間に移動手段が付加されたテーブルが作成される。
【0041】
また、位置情報の履歴のみから、移動手段を判定してもよい。すなわち、各測位点での移動速度や移動ベクトルのみから移動手段を判定することによって、地図情報が不要となる。よって、簡便に移動手段を判定することができる。・・・(略)・・・本実施形態に示すように、位置情報履歴に基づいて、移動手段を判定することで、精度の高い判定を簡便に行なうことができる。簡便に移動手段を判定することができるため、サーバ装置50において速やかに移動手段を識別することができる。よって、携帯端末10に対して効果的な情報の配信が可能になる。また、移動手段をマーケティングやナビゲーションの重み情報として利用することができる。
【0042】
移動手段に応じて重み情報を算出するようにしてもよい。すなわち、移動手段が異なる場合、異なる重み情報を算出するようにする。これにより、移動手段毎に適切な重み情報を生成することができる。例えば、ナビゲーションシステムの場合、移動手段が異なれば、目的地まで異なる経路で案内する。・・・(略)・・・もちろん、ナビゲーションシステム以外に用いられる重み情報を移動手段毎に算出してもよい。たとえば、移動手段が異なる場合、異なる広告などを配信するようにしてもよい。移動手段に応じた重み情報を利用することで、効果的な広告を配信することができる。適切な情報を生成、配信することができる。効果的な情報の配信が可能となり、より利便性を向上することができる。

イ「【図1】



ウ「【図2】



エ「【図6】



オ「【図7】



(2)引用文献6に記載された技術事項
以上より、引用文献6には、「ユーザの位置情報の履歴から算出した移動ベクトルに基づいて、ユーザの平均移動速度を算出し、当該平均移動速度に基づいて、ユーザの移動手段が、徒歩、自転車、自動車、列車のいずれかであるかを判定し、判定した移動手段が異なる場合、異なる広告などを配信する」という技術事項が記載されていると認められる。

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「位置データ取得制御部」は、「予測対象時刻から一定時間前までの期間の位置データ」を「ユーザの携帯端末から取得する」ものであるから、「所定期間において検知されたユーザの複数の位置情報を取得する」ものといえる。
そうすると、引用発明の「位置データ取得制御部」は、本願発明1の「所定の期間において検知されたユーザの複数の位置情報を取得する取得部」に相当する。

イ 引用発明の「滞在場所抽出処理部」は、「位置データの集合に対してクラスタリング処理を実行して、ユーザが滞在した場所と、この場所に滞在を開始した時刻及び終了した時刻を、滞在行動IDと関連付けた滞在行動データの集合に変換する」ものであるところ、ここで、クラスタリングによって一つの滞在行動データに変換される「複数の位置データ」は、ユーザが所定の時間に渡って、所定の場所に滞在したことを示すものであるから、所定の時間にわたるユーザの位置の変化が限定的であるデータ群を構成するものと解される。そうすると、引用発明の「滞在場所抽出処理部」は、「位置の変化に関する所定の規則を満たす位置情報群」を抽出する点で、本願発明1の「抽出部」と共通する。
一方、本願発明1の「抽出部」は、「位置の変化に関する所定の規則性であって、前記位置の変化に基づく前記ユーザに移動速度がランニングに対応していることを示す所定の規則性を満たし、ユーザが所定の範囲を周回していることを示す位置情報群」を抽出するのに対し、引用発明の「滞在場所抽出処理部」は、ユーザが「滞在」している場所の位置データを抽出する点で相違する。

ウ 引用発明は、抽出した滞在行動データに基づいて、滞在場所の予測を行う「行動予測処理部」を備えるものの、本願発明1の「位置情報群に基づいて、前記所定の範囲を周回してランニングする前記ユーザに広告を配信するサービスを提供する提供部」に対応する構成を備えていない。

エ 上記アないしウを総合すると、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「所定の期間において検知されたユーザの複数の位置情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された複数の位置情報のうち、位置の変化に関する所定の規則性を満たす位置情報群を抽出する抽出部と、
を備えることを特徴とする抽出装置。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1においては、抽出部が「位置の変化に関する所定の規則性であって、前記位置の変化に基づく前記ユーザに移動速度がランニングに対応していることを示す所定の規則性を満たし、ユーザが所定の範囲を周回していることを示す」位置情報群を抽出するのに対し、引用発明においては、滞在場所抽出処理部が「滞在」している場所の位置データを抽出している点。
(相違点2)本願発明1は位置情報群に基づいて、前記所定の範囲を周回してランニングする前記ユーザに広告を配信するサービスを提供する提供部を備えているのに対し、引用発明はユーザの滞在場所の予測をするものの、それを広告に利用しない点。

(2)相違点についての判断
ア.相違点1について
引用文献2−6のいずれにも、「位置の変化に関する所定の規則性であって、前記位置の変化に基づく前記ユーザに移動速度がランニングに対応していることを示す所定の規則性を満たし、ユーザが所定の範囲を周回していることを示す位置情報群」を抽出していることは記載も示唆もされていない。そして、上記相違点1に係る本願発明1の構成は、当業者にとって自明であるともいえない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2−6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

イ.相違点2について
相違点1について検討した結果、本願発明1は、引用発明および引用文献2−6に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではないから、相違点2については判断を要しないが、一応、判断を示しておく。
上記引用文献3、5、および、6に記載されているとおり、ユーザの行動等に基づいて広告を配信することは本願出願日前に知られていた技術的事項である。そして、上記第4の1(1)アのとおり、引用文献1の段落【0004】に「ユーザの行動を的確に予測できれば、ユーザに対しより有益な情報を提供することが可能となる。(中略)経路途中に存在する店舗のタイムセール情報を前もって提供する等、一歩先を読んだ情報提供が可能となる。」とあるように、滞在場所の予測の結果を広告の提供に利用することが示唆されている。
しかし、本願発明1のように、広告を配信する際に、「所定の範囲を周回してランニングするユーザ」に対して広告を配信することについては、引用文献2−6のいずれにも、記載も示唆もされていない。そして、上記相違点2に係る本願発明1の構成は、当業者にとって自明であるともいえない。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用発明、引用文献2−6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2−10について
本願発明2−10も、本願発明1と同様に、上記相違点1、2に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明および引用文献2−6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3.本願発明11、12について
本願発明11、12は、本願発明1に対応する方法、プログラムの発明であり、本願発明1のユーザが移動していることを示す位置情報群を抽出することに対応する構成を備えるものであるから、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても、引用発明および引用文献2−6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
原査定は、請求項1−12に係る発明について、引用文献1−5に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものであるが、上記第3ないし第5のとおり、本願発明1−12は、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明および引用文献2−5に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。したがって、原査定を維持することはできない。

第7 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第2号について
当審では、請求項1に記載された「位置の変化に関する所定の規則性を満たし、前記ユーザが移動していることを示す位置情報群」が不明確であり、そしてその結果、広告が配信されるユーザが明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、令和4年10月7日付けの補正において、「位置の変化に関する所定の規則性であって、前記位置の変化に基づく前記ユーザに移動速度がランニングに対応していることを示す所定の規則性を満たし、前記ユーザが所定の範囲を周回していることを示す位置情報群」、「前記位置情報群に基づいて、前記所定の範囲を周回してランニングする前記ユーザに広告を配信するサービスを提供する提供部」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-12-09 
出願番号 P2017-143449
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 篠原 功一
特許庁審判官 山澤 宏
児玉 崇晶
発明の名称 抽出装置、抽出方法、及び抽出プログラム  
代理人 弁理士法人酒井国際特許事務所  

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