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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H05B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
管理番号 1393043
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-06-25 
確定日 2022-10-20 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6624250号発明「膜の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6624250号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、〔1〜4〕及び〔5〜9〕について訂正することを認める。 特許第6624250号の請求項1〜9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続等の経緯
特許第6624250号の請求項1〜9に係る特許(以下、それぞれ「本件特許1」〜「本件特許9」といい、総称して「本件特許」という。)についての出願は、平成29年1月19日(先の出願に基づく優先権主張 平成28年1月28日)を国際出願日とする特願2017−564198号の一部を平成30年7月27日に新たな特許出願としたものであって、令和元年12月6日に特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和元年12月25日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和2年6月25日に特許異議申立人 森川 真帆(以下「特許異議申立人」という。)から、全請求項に対して、特許異議の申立てがされた(異議2020−700447号、以下「本件事件」という。)。
本件事件についての、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

令和2年 8月27日付け:取消理由通知書
令和2年11月 6日付け:訂正請求書
令和2年11月 6日付け:意見書(特許権者)
令和2年11月27日付け:特許法120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知
令和2年12月25日付け:意見書(特許異議申立人)
令和3年 4月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和3年 7月 9日付け:訂正請求書
令和3年 7月 9日付け:意見書(特許権者)
令和3年 8月13日付け:特許法120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知
令和3年 9月17日付け:意見書(特許異議申立人)
令和4年 3月25日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 5月31日付け:訂正請求書
令和4年 5月31日付け:意見書(特許権者)
令和4年 6月10日付け:特許法120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知
令和4年 7月 7日付け:意見書(特許異議申立人)
なお、令和2年11月6日付け訂正請求書による訂正の請求及び令和3年7月9日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。


第2 本件訂正請求について
1 請求の趣旨
令和4年5月31日付け訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)の趣旨は、特許第6624250号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9のとおり訂正することを求める、というものである。
本件訂正請求は、一群の請求項である訂正前の請求項1〜4及び一群の請求項である訂正前の請求項5〜9に対して、それぞれ請求されたものである。以下では、一群の請求項ごとに訂正の内容及び訂正の適否について判断を示す。なお、訂正の内容における下線は訂正箇所を示す。

2 訂正前の請求項1〜4からなる一群の請求項について
(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、1価の複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基を表す」と記載されているのを、「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す」に訂正するものである。
(請求項1を引用して記載された請求項2〜4についても、同様に訂正するものである。)

イ 訂正事項2
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、置換基を有していてもよい」と記載されているのを、「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい」に訂正するものである。
(請求項1を引用して記載された請求項2〜4についても、同様に訂正するものである。)

ウ 訂正事項3
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい」と記載されているのを、「ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい」に訂正するものである。
(請求項1を引用して記載された請求項2〜4についても、同様に訂正するものである。)

エ 訂正事項4
訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「LH1は、式(AA−4)又は(AA−14)で表される基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。]
【化3】

」と記載されているのを、「LH1は、式(AA−4)で表される基を表し、この基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。]
【化3】


に訂正するものである。
(請求項1を引用して記載された請求項2〜4についても、同様に訂正するものである。)

オ 訂正事項5
訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「Mは、イリジウム原子又は白金原子を表す」と記載されているのを、「Mは、イリジウム原子を表す」に訂正するものである。
(請求項1を引用して記載された請求項2〜4についても、同様に訂正するものである。)

カ 訂正事項6
訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「n1は1以上の整数を表し、n2は0以上の整数を表し、n1+n2は2又は3である。Mがイリジウム原子の場合、n1+n2は3であり、Mが白金原子の場合、n1+n2は2である」と記載されているのを、「n1は3であり、n2は0である」に訂正するものである。
(請求項1を引用して記載された請求項2〜4についても、同様に訂正するものである。)

キ 訂正事項7
訂正事項7による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に「それぞれが結合する原子とともに芳香環を形成する。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は」と記載されているのを、「それぞれが結合する原子とともに芳香環を形成する。但し、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bからなる群から選ばれる少なくとも1つは、1価の複素環基であってデンドロンである。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は」に訂正するものである。
(請求項1を引用して記載された請求項2〜4についても、同様に訂正するものである。)

ク 訂正事項8
訂正事項8による訂正は、特許請求の範囲の請求項4に「R15B、R16B、R17B及びR18Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、1価の複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基を表し」と記載されているのを、「R15B、R16B、R17B及びR18Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表し」に訂正するものである。

ケ 訂正事項9
訂正事項9による訂正は、特許請求の範囲の請求項4に「これらの基は置換基を有していてもよい」と記載されているのを、「これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい」に訂正するものである。

(2)訂正の適否
ア 訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、請求項1に記載された「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24B」が取り得る選択肢から「アルコキシ基」、「シクロアルコキシ基」、「アリールオキシ基」、「ハロゲン原子」及び「置換アミノ基」を削除するものである。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜4に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、上記のとおり選択肢の一部を削除するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、請求項1に記載された「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、置換基を有していてもよい」における「置換基」を、「アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基」に限定するものである。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜4に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、本件特許明細書等の【0051】の記載に基づくものであるから、訂正事項2による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項2による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、請求項1に記載された「ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい」における「置換基」を、「アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基」に限定するものである。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜4に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、本件特許明細書等の【0123】及び【0124】の記載に基づくものであるから、訂正事項3による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項3による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

エ 訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、請求項1に記載された「LH1は、式(AA−4)又は式(AA−14)で表される基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい」における「LH1」を「式(AA−4)」で表される基に限定するもの及び「置換基」を「アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基」に限定するものである。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜4に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、発明特定事項を限定するものであるから、訂正事項4による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項4による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

オ 訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、請求項1に記載された「Mは、イリジウム原子又は白金原子を表す」の「M」を「イリジウム原子」に限定するものである。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜4に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項5による訂正は、上記のとおり選択肢の一部を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項5による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項5による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

カ 訂正事項6について
訂正事項6による訂正は、訂正事項5による訂正に伴い、請求項1に記載された「n1は1以上の整数」及び「n2は0以上の整数」の取り得る整数を「n1は3」、「n2は0」に限定するものである。また、それに伴い、「n1+n2」についての記載を削除するものである。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜4に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項6による訂正は、n1、n2の取り得る値を限定するものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、訂正事項6による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項6による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項6による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

キ 訂正事項7について
訂正事項7による訂正は、請求項1に記載された「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bで表される基」について、それらの群から選ばれる少なくとも1つを「1価の複素環基であってデンドロンである」ものに限定するものである。そして、この点は、請求項1の記載を引用して記載された、請求項2〜4に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項7による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項7による訂正は、本件特許明細書等の【0092】及び【0110】の記載、【0030】の「p価の複素環基」の定義の記載及び【0052】〜【0070】の「デンドロン」の定義の記載に基づくものであるから、訂正事項7による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項7による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項7による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ク 訂正事項8について
訂正事項8による訂正は、請求項4に記載された「R15B、R16B、R17B及びR18B」が取り得る選択肢から、「アルコキシ基」、「シクロアルコキシ基」、「アリールオキシ基」及び「ハロゲン原子」及び「置換アミノ基」を削除するものである。
そうしてみると、訂正事項8による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項8による訂正は、上記のとおり選択肢の一部を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項8による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項8による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ケ 訂正事項9について
訂正事項9による訂正は、請求項4に記載された「これらの基は置換基を有していてもよい」における「置換基」を、「アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基」に限定するものである。
そうしてみると、訂正事項9による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項9による訂正は、本件特許明細書等の【0051】の記載に基づくものであるから、訂正事項9による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項9による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項9による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(3)特許異議申立人の主張について
ア 訂正事項3及び訂正事項4について
特許異議申立人は、令和4年7月7日付けの意見書(以下、単に「意見書」という。)の「3(1)イ」(第15頁〜第17頁)において、「化合物(H−2)において、LH1が「式(AA−4)で表される基を表す。

」であるものは、当初明細書の実施例では何らサポートされていません。
すなわち、当初明細書の実施例では、これに該当する化合物(ホスト化合物)として、下記のホスト化合物2が用いられています。

そして、上記ホスト化合物2は、上記化合物(H−2)のArH1及びArH2が「アリール基」であり、この基が有する置換基「D3」は、「アリール基」という単純なものではなく「デンドロン」に相当する特殊なものです。
したがって、上記<訂正事項3及び4>による化合物(ホスト化合物)の訂正は、当初明細書の実施例によりサポートされたものではないことから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものではないので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定により認められるべきものではありません。」と主張する。
しかしながら、上記(2)ウ及びエで説示したとおり、上記訂正事項3及び訂正事項4は、本件特許明細書の【0123】〜【0124】及び【0128】〜【0129】に記載された範囲内の事項である。また、本件特許明細書の【0027】の「アリール基」の定義の記載から、「単純なもの」かは措くとして、当業者は上記置換基「D3」は「アリール基」であることは認識できるので、上記化合物(H−2)が本件特許明細書においてサポートされていない(本件明細書に記載された範囲内のものではない)ということもできない。
したがって、上記主張は採用しない。

イ 訂正事項7について
特許異議申立人は、意見書の「3(1)ア」の「1)〜3)」(第11頁〜第15頁)において、上記訂正事項7の「1価の複素環基であってデンドロン」という訂正事項について、以下のとおり(ア)〜(ウ)の主張をする。
(ア)「1価の複素環基であってデンドロン」の化学構造が不明である。
(イ)「1価の複素環基であってデンドロン」は当初明細書等に記載されたものでない。
(ウ)「置換基としてデンドロンを有する、1価の複素環基」についても当初明細書等によりサポートされていない。

しかしながら、上記(2)キで訂正事項7について説示したとおり、「p価の複素環基」及び「デンドロン」については、それぞれ本件特許明細書の【0030】及び【0052】〜【0070】に定義されており、当該定義に照らすと、例えば、【0054】【化19】に示される下記(D−A)について、ArDA1に着目すれば、(D−A)で表される基は、「1価の複素環基であってデンドロンである」と認識することができる。

そして、本件特許明細書の【0066】【化24】に示される下記(D−A1)、(D−A2)及び(D−A3)を参照すれば、実施例(特に金属錯体3)の置換基として複素環基であるものが明記されていないとしても、並列して記載されている置換基として複素環基でないもの(D−A1)と複素環基であるもの(D−A2)及び(D−A3)とで、その効果等は同様であることが理解できる。

そうすると、実施例(特に金属錯体3)としての明記がなくとも、本件特許明細書の記載及び本件出願時の技術常識に基づいて、当業者は、「1価の複素環基であってデンドロン」の化学構造、当該構造が本件特許明細書に記載されたものであること、及び、当該構造の置換基が本件特許明細書においてサポートされたもの(本件特許明細書に記載された範囲内のもの)であることが理解できる。
したがって、上記(ア)〜(ウ)の主張は採用できない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正のうち、訂正前の請求項1〜4からなる一群の請求項についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

3 訂正前の請求項5〜9からなる一群の請求項について
(1)訂正の内容
ア 訂正事項10
訂正事項10による訂正は、特許請求の範囲の請求項5に「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、1価の複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基を表す」と記載されているのを、「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す」に訂正するものである。
(請求項5を引用して記載された請求項6〜9についても、同様に訂正するものである。)

イ 訂正事項11
訂正事項11による訂正は、特許請求の範囲の請求項5に「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、置換基を有していてもよい」と記載されているのを、「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい」に訂正するものである。
(請求項5を引用して記載された請求項6〜9についても、同様に訂正するものである。)

ウ 訂正事項12
訂正事項12による訂正は、特許請求の範囲の請求項5に「ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい」と記載されているのを、「ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい」に訂正するものである。
(請求項5を引用して記載された請求項6〜9についても、同様に訂正するものである。)

エ 訂正事項13
訂正事項13による訂正は、特許請求の範囲の請求項5に「LH1は、式(AA−4)又は式(AA−14)で表される基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい」と記載されているのを、「LH1は、式(AA−4)又は式(AA−14)で表される基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい」に訂正するものである。
(請求項5を引用して記載された請求項6〜9についても、同様に訂正するものである。)

オ 訂正事項14
訂正事項14による訂正は、特許請求の範囲の請求項5に「Mは、イリジウム原子又は白金原子を表す」と記載されているのを、「Mはイリジウム原子を表す」に訂正するものである。
(請求項5を引用して記載された請求項6〜9についても、同様に訂正するものである。)

カ 訂正事項15
訂正事項15による訂正は、特許請求の範囲の請求項5に「n1は1以上の整数を表し、n2は0以上の整数を表し、n1+n2は2又は3である。Mがイリジウム原子の場合、n1+n2は3であり、Mが白金原子の場合、n1+n2は2である」と記載されているのを、「n1は3であり、n2は0である」に訂正するものである。
(請求項5を引用して記載された請求項6〜9についても、同様に訂正するものである。)

キ 訂正事項16
訂正事項16による訂正は、特許請求の範囲の請求項5に「それぞれが結合する原子とともに芳香環を形成する。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は」と記載されているのを、「それぞれが結合する原子とともに芳香環を形成する。但し、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bからなる群から選ばれる少なくとも1つは、アリール基又は1価の複素環基であって、デンドロンである。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は」に訂正するものである。
(請求項5を引用して記載された請求項6〜9についても、同様に訂正するものである。)

ク 訂正事項17
訂正事項17による訂正は、特許請求の範囲の請求項9に「R15B、R16B、R17B及びR18Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、1価の複素環基、ハロゲン原子又は置換アミノ基を表し」と記載されているのを、「R15B、R16B、R17B及びR18Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表し」に訂正するものである。

ケ 訂正事項18
訂正事項18による訂正は、特許請求の範囲の請求項9に「これらの基は置換基を有していてもよい」と記載されているのを、「これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい」に訂正するものである。

(2)訂正の適否
ア 訂正事項10について
訂正事項10による訂正は、請求項5に記載された「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24B」が取り得る選択肢から、「アルコキシ基」、「シクロアルコキシ基」、「アリールオキシ基」、「ハロゲン原子」及び「置換アミノ基」を削除するものである。そして、この点は、請求項5の記載を引用して記載された、請求項6〜9に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項10による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項10による訂正は、上記のとおり選択肢の一部を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項10による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項10による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

イ 訂正事項11について
訂正事項11による訂正は、請求項5に記載された「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bで表される基は、置換基を有していてもよい」における「置換基」を、「アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基」に限定するものである。そして、この点は、請求項5の記載を引用して記載された、請求項6〜9に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項11による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項11による訂正は、本件特許明細書等の【0051】の記載に基づくものであるから、訂正事項11による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項11による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項11による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ウ 訂正事項12について
訂正事項12による訂正は、請求項1に記載された「ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい」における「置換基」を、「アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基」に限定するものである。そして、この点は、請求項5の記載を引用して記載された、請求項6〜9に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項12による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、本件特許明細書等の【0124】の記載に基づくものであるから、訂正事項12による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであることは明らかであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項12による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項12による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

エ 訂正事項13について
訂正事項13による訂正は、請求項5に記載された「LH1は、式(AA−4)又は式(AA−14)で表される基を表し、これらの基は置換基を有していてもよい」における「置換基」を、「アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基」に限定するものである。そして、この点は、請求項5の記載を引用して記載された、請求項6〜9に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項13による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、この訂正は、本件特許明細書等の【0128】及び【0129】の記載に基づくものであるから、訂正事項13による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項13による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項13による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

オ 訂正事項14について
訂正事項14による訂正は、請求項5に記載された「Mは、イリジウム原子又は白金原子を表す」の「M」が取り得る選択肢から、「白金原子」を削除するものである。そして、この点は、請求項5の記載を引用して記載された、請求項6〜9に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項14による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項14による訂正は、上記のとおり選択肢の一部を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項14による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項14による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

カ 訂正事項15について
訂正事項15による訂正は、訂正事項14による訂正に伴い、請求項5に記載された「n1は1以上の整数」及び「n2は0以上の整数」の取り得る整数を「n1は3」、「n2は0」に限定するものである。また、それに伴い「n1+n2」の規定については削除するものである。そして、この点は、請求項5の記載を引用して記載された、請求項6〜9に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項15による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項15による訂正は、n1、n2の取り得る値を限定するものであり、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、訂正事項15による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項15による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項15による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

キ 訂正事項16について
訂正事項16による訂正は、請求項5に記載された「R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bで表される基」について、それらの群から選ばれる少なくとも1つを「アリール基又は1価の複素環基であって、デンドロンである」ものに限定するものである。そして、この点は、請求項5の記載を引用して記載された、請求項6〜9に係る訂正についてみても、同様である。
そうしてみると、訂正事項16による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項16による訂正は、本件特許明細書等の【0092】及び【0110】の記載に基づくものであるから、訂正事項16による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項16による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項16による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ク 訂正事項17について
訂正事項17による訂正は、請求項9に記載された「R15B、R16B、R17B及びR18B」が取り得る選択肢から、「アルコキシ基」、「シクロアルコキシ基」、「アリールオキシ基」及び「ハロゲン原子」及び「置換アミノ基」を削除するものである。
そうしてみると、訂正事項17による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項17による訂正は、上記のとおり選択肢の一部を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項17による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項17による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

ケ 訂正事項18について
訂正事項18による訂正は、請求項9に記載された「これらの基は置換基を有していてもよい」における「置換基」を、「アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基」に限定するものである。
そうしてみると、訂正事項18による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項18による訂正は、本件特許明細書等の【0051】の記載に基づくものであるから、訂正事項18による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正である。
さらに、訂正事項18による訂正によって、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとならないことは明らかであるから、訂正事項18による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正に該当しない。

(3)特許異議申立人の主張について
ア 訂正事項12及び訂正事項13について
特許異議申立人は、意見書の「3(1)イ」(第15頁〜第17頁)において、訂正事項12及び訂正事項13について、上記訂正事項3及び訂正事項4についての主張と同様の主張をする。
しかしながら、上記3(3)アで訂正事項3及び訂正事項4の主張について説示したのと同様の理由により、その主張は採用することができない。

イ 訂正事項16について
特許異議申立人は、意見書の「3(1)ア」(第10頁〜第15頁)において、訂正事項12及び訂正事項13について、上記訂正事項7についての主張と同様の主張をする。
しかしながら、上記3(3)イで訂正事項7について説示したのと同様の理由により、その主張は採用することができない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正のうち、訂正前の請求項5〜9からなる一群の請求項についての訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

4 まとめ
以上「2」及び「3」のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。
よって、結論に記載のとおり、特許第6624250号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕、〔5〜9〕のとおり訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
そうしてみると、本件特許の請求項1〜9に係る発明(以下、請求項の番号とともに「本件特許発明1」などといい、総称して「本件特許発明」という。)は、本訂正請求書による訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項によって特定されるとおり、以下のものである。
「【請求項1】
式(1−B)で表される金属錯体と、式(H−2)で表される化合物と、有機溶媒とを含有するインクを調製するインク調製工程と、
前記インク調製工程で調製したインクを遮光下において1週間以上保管するインク保管工程と、
前記インク保管工程で保管され、前記式(1−B)で表される金属錯体の液体クロマトグラフィーにより求められる面積百分率値による含有量を100としたとき、前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の液体クロマトグラフィーにより求められる面積百分率値による合計含有量が0.6以下であるインクを用いて、塗布法により膜を形成する膜形成工程とを含む、
膜の製造方法。
【化1】

[式中、
Mは、イリジウム原子を表す。
n1は3であり、n2は0である。
A1−G1−A2は、アニオン性の2座配位子を表し、A1及びA2は、それぞれ独立に、炭素原子、酸素原子又は窒素原子を表し、これらの原子は環を構成する原子であってもよい。G1は、単結合、又は、A1及びA2とともに2座配位子を構成する原子団を表す。A1−G1−A2が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
E11B、E12B、E13B、E14B、E21B、E22B、E23B及びE24Bは、それぞれ独立に、窒素原子又は炭素原子を表す。E11B、E12B、E13B、E14B、E21B、E22B、E23B及びE24Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。E11Bが窒素原子の場合、R11Bは存在しない。E12Bが窒素原子の場合、R12Bは存在しない。E13Bが窒素原子の場合、R13Bは存在しない。E14Bが窒素原子の場合、R14Bは存在しない。E21Bが窒素原子の場合、R21Bは存在しない。E22Bが窒素原子の場合、R22Bは存在しない。E23Bが窒素原子の場合、R23Bは存在しない。E24Bが窒素原子の場合、R24Bは存在しない。
R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表すか、R11BとR12B、R12BとR13B、R13BとR14B、R11BとR21B、R21BとR22B、R22BとR23B、及び、R23BとR24Bは、それぞれ結合して、それぞれが結合する原子とともに芳香環を形成する。但し、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bからなる群から選ばれる少なくとも1つは、1価の複素環基であってデンドロンである。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R11BとR12B、R12BとR13B、R13BとR14B、R11BとR21B、R21BとR22B、R22BとR23B、及び、R23BとR24Bは、それぞれ結合して、それぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。
環R1Bは、窒素原子、炭素原子、E11B、E12B、E13B及びE14Bとで構成されるピリジン環又はジアジン環を表す。
環R2Bは、2つの炭素原子、E21B、E22B、E23B及びE24Bとで構成されるベンゼン環、ピリジン環又はジアジン環を表す。]
【化2】

[式中、
ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。
nH3は、1を表す。
LH1は、式(AA−4)で表される基を表し、この基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。]
【化3】

[式中、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す。複数存在するRは、各々、同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記インク保管工程が、0℃以上50℃以下の条件下で行われる、請求項1に記載の膜の製造方法。
【請求項3】
前記インク保管工程が、不活性ガス雰囲気下で行われる、請求項1又は2に記載の膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属錯体(1−B)が、式(1−B1)で表される金属錯体、式(1−B2)で表される金属錯体又は式(1−B3)で表される金属錯体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜の製造方法。
【化4】


[式中、
M、n1、n2、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B、R24B及びA1−G1−A2は、前記と同じ意味を表す。
R15B、R16B、R17B及びR18Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。R15B、R16B、R17B及びR18Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項5】
式(1−B)で表される金属錯体と、式(H−2)で表される化合物と、有機溶媒とを含有するインクを調製するインク調製工程と、
前記インク調製工程で調製したインクを1週間以上保管する保管工程とを含むインクの保管方法であって、
前記インク調製工程における調製直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体の含有量をCb[M]、前記調製直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の合計含有量をCb[M+16n]、前記保管工程における保管直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体の含有量をCa[M]、前記保管直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の合計含有量をCa[M+16n]が、式(1)及び(2)を満たす、インクの保管方法。
0.1≦(Ca[M+16n]/Ca[M])/(Cb[M+16n]/Cb[M])≦20 (1)
0<Ca[M+16n]/Ca[M]≦0.006 (2)
【化5】

[式中、
Mは、イリジウム原子を表す。
n1は3であり、n2は0である。
A1−G1−A2は、アニオン性の2座配位子を表し、A1及びA2は、それぞれ独立に、炭素原子、酸素原子又は窒素原子を表し、これらの原子は環を構成する原子であってもよい。G1は、単結合、又は、A1及びA2とともに2座配位子を構成する原子団を表す。A1−G1−A2が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
E11B、E12B、E13B、E14B、E21B、E22B、E23B及びE24Bは、それぞれ独立に、窒素原子又は炭素原子を表す。E11B、E12B、E13B、E14B、E21B、E22B、E23B及びE24Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。E11Bが窒素原子の場合、R11Bは存在しない。E12Bが窒素原子の場合、R12Bは存在しない。E13Bが窒素原子の場合、R13Bは存在しない。E14Bが窒素原子の場合、R14Bは存在しない。E21Bが窒素原子の場合、R21Bは存在しない。E22Bが窒素原子の場合、R22Bは存在しない。E23Bが窒素原子の場合、R23Bは存在しない。E24Bが窒素原子の場合、R24Bは存在しない。
R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表すか、R11BとR12B、R12BとR13B、R13BとR14B、R11BとR21B、R21BとR22B、R22BとR23B、及び、R23BとR24Bは、それぞれ結合して、それぞれが結合する原子とともに芳香環を形成する。但し、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bからなる群から選ばれる少なくとも1つは、アリール基又は1価の複素環基であってデンドロンである。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R11BとR12B、R12BとR13B、R13BとR14B、R11BとR21B、R21BとR22B、R22BとR23B、及び、R23BとR24Bは、それぞれ結合して、それぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。
環R1Bは、窒素原子、炭素原子、E11B、E12B、E13B及びE14Bとで構成されるピリジン環又はジアジン環を表す。
環R2Bは、2つの炭素原子、E21B、E22B、E23B及びE24Bとで構成されるベンゼン環、ピリジン環又はジアジン環を表す。]
【化6】

[式中、
ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。
nH3は、1を表す。
LH1は、式(AA−4)又は式(AA−14)で表される基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。]
【化7】

[式中、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す。複数存在するRは、各々、同一でも異なっていてもよい。]
【請求項6】
前記保管工程が、遮光下で行われる、請求項5に記載のインクの保管方法。
【請求項7】
前記保管工程が、0℃以上50℃以下の条件下で行われる、請求項5又は6に記載のインクの保管方法。
【請求項8】
前記保管工程が、不活性ガス雰囲気下で行われる、請求項5〜7のいずれか一項に記載のインクの保管方法。
【請求項9】
前記金属錯体(1−B)が、式(1−B1)で表される金属錯体、式(1−B2)で表される金属錯体又は式(1−B3)で表される金属錯体である、請求項5〜8のいずれか一項に記載のインクの保管方法。
【化8】


[式中、
M、n1、n2、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B、R24B及びA1−G1−A2は、前記と同じ意味を表す。
R15B、R16B、R17B及びR18Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。R15B、R16B、R17B及びR18Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]」


第4 当合議体が通知した取消しの理由
令和4年3月25日付け取消理由通知書(決定の予告)により当合議体が通知した取消しの理由の概要は、以下のとおりである。

理由(進歩性
本件特許の請求項1〜9に係る発明は、先の出願前に日本国内または外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
甲1:特開2015−110751号公報
甲2:特開2011−233516号公報
甲3:特開2006−257409号公報
甲5:特開2011−165658号公報
甲6:特開2015−63662号公報
甲7:特開2010−184876号公報
なお、甲1は主たる引用文献であり、甲2、甲3及び甲5〜甲7は周知技術等を例示するために引用された文献である。


第5 当合議体の判断
1 甲1の記載及び甲1に記載された発明
(1)甲1の記載
本件特許の先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された、甲1(特開2015−110751号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、甲1に記載された発明の認定や判断等に活用した箇所を示す(以下の各甲号証の記載についても同様である。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物および該組成物を用いた発光素子に関する。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されたゲストホスト系組成物を用いて製造される発光素子は、得られる発光効率が十分ではなかった。
【0006】
そこで本発明は、発光効率に優れる発光素子の製造に有用な組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、該組成物を用いて得られる発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第一に、
下記式(1)で表される化合物と、
下記式(D−1)で表される基、下記式(D−2)で表される基、および、下記式(D−3)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する燐光発光性化合物とを含有する組成物を提供する。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発光効率に優れる発光素子の製造に有用な組成物を提供することができる。また、本発明によれば、該組成物を用いて得られる発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
・・・中略・・・
【0044】
<組成物>
次に、本発明の組成物について説明する。本発明の組成物は、式(1)で表される化合物と、式(D−1)で表される基、式(D−2)で表される基、および、下記式(D−3)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する燐光発光性化合物とを含有する。
【0045】
<式(1)で表される化合物>
式(1)で表される化合物について説明する。
【0046】
【化16】

・・・中略・・・
【0049】
式(1)中のDは、式(D−1)で表される基、式(D−2)で表される基、または、式(D−3)で表される基を表す。
【0050】
【化17】


・・・中略・・・
【0061】
【化21】

[式中、
RDAは前記と同じ意味を表す。
Rp1、Rp2およびRp3は、それぞれ独立に、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基またはハロゲン原子を表す。Rp1およびRp2が複数ある場合、それらはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
np1は、0〜5の整数を表し、np2は0〜3の整数を表し、np3は0または1を表す。複数あるnp1は、同一でも異なっていてもよい。]
・・・中略・・・
【0084】
【化29】

・・・中略・・・
【0096】
<燐光発光性化合物>
続いて、式(D−1)で表される基、式(D−2)で表される基、および、下記式(D−3)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有する燐光発光性化合物について説明する。
・・・中略・・・
【0098】
燐光発光性化合物としては、例えば、ルテニウム錯体、ロジウム錯体、パラジウム錯体、イリジウム錯体および白金錯体が挙げられ、イリジウム錯体または白金錯体であることが好ましく、イリジウム錯体であることがより好ましい。
【0099】
イリジウム錯体としては、式Ir-1〜Ir-5で表されるイリジウム錯体が好ましく、式Ir-1〜Ir-4で表されるイリジウム錯体がより好ましい。
【0100】
【化34】

【0101】
【化35】

【0102】
【化36】

[式中、 nD1は、1、2または3を表し、nD2は、1または2を表す。 RD1、RD2、RD3、RD4、RD5、RD6、RD7、RD8、RD11、RD12、RD13、RD14、RD15、RD16、RD17、RD18、RD19、RD20、RD21、RD22、RD23、RD24、RD25、RD26、RD31、RD32、RD33、RD34、RD35、RD36およびRD37は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、1価の複素環基またはハロゲン原子を表し、これらの基は置換基を有していてもよい。RD1、RD2、RD3、RD4、RD5、RD6、RD7、RD8、RD11、RD12、RD13、RD14、RD15、RD16、RD17、RD18、RD19、RD20、RD21、RD22、RD23、RD24、RD25、RD26、RD31、RD32、RD33、RD34、RD35、RD36およびRD37が複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
−AD1---AD2−は、アニオン性の2座配位子を表し、AD1およびAD2は、それぞれ独立に、アニオン性の2座配位子を構成する炭素原子、酸素原子または窒素原子を表し、これらの原子は環を構成する原子であってもよい。−AD1---AD2−が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
また、式Ir−1におけるRD1、RD2、RD3、RD4、RD5、RD6、RD7およびRD8の少なくとも1つは、前記式(D−1)で表される基、前記式(D−2)で表される基、または、前記式(D−3)で表される基である。
また、式Ir−2におけるRD11、RD12、RD13、RD14、RD15、RD16、RD17、RD18、RD19およびRD20の少なくとも1つは、前記式(D−1)で表される基、前記式(D−2)で表される基、または、前記式(D−3)で表される基である。
また、式Ir−3におけるRD1、RD2、RD3、RD4、RD5、RD6、RD7、RD8、RD11、RD12、RD13、RD14、RD15、RD16、RD17、RD18、RD19およびRD20の少なくとも1つは、前記式(D−1)で表される基、前記式(D−2)で表される基、または、前記式(D−3)で表される基である。
また、式Ir−4におけるRD21、RD22、RD23、RD24、RD25およびRD26の少なくとも1つは、前記式(D−1)で表される基、前記式(D−2)で表される基、または、前記式(D−3)で表される基である。
また、式Ir−5におけるRD31、RD32、RD33、RD34、RD35、RD36およびRD37の少なくとも1つは、前記式(D−1)で表される基、前記式(D−2)で表される基、または、前記式(D−3)で表される基である。]
【0103】
式Ir−1〜Ir−5で表されるイリジウム錯体は、それらの合成が容易であるため、式(D−1)で表される基、または、前記式(D−2)で表される基を有することが好ましく、式(D−1)で表される基を有することがより好ましい。
・・・中略・・・
【0114】
【化43】



イ 「【実施例】
【0208】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
・・・中略・・・
【0214】
<合成例1> 化合物G1の合成
化合物G1は、特開2009−131255号公報に記載の方法に従って合成した。
【0215】
【化59】

・・・中略・・・
【0279】
<合成例9> 化合物H1の合成
【0280】
【化72】

【0281】
<Step1>
反応容器内を窒素ガス雰囲気とした後、化合物1(336g、370mmol)、ビス(ピナコラト)ジボロン(113g、445mmol)、酢酸パラジウム(II)(1.88g、8.37mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(4.68g、16.7mmol)、酢酸カリウム(72.7g、741mmol)および1,4−ジオキサン(1580mL)を加え、加熱還流下で26時間撹拌した。その後、室温まで冷却してから、1,4−ジオキサン(1000mL)を加えて希釈した後、ろ過により固体を除去した。得られたろ液を減圧濃縮することにより固体を得た。得られた固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)により精製した後、更に再結晶(ジクロロメタン/アセトニトリル)を2回行うことにより精製した。得られた固体を50℃で一晩減圧乾燥することにより、目的物である化合物2(276g)を白色固体として得た。収率は84%であった。得られた化合物2のHPLC面積百分率値(検出波長UV254nm)は99.3%であった。
なお、化合物1は特開2010−31259号公報に記載の方法により合成したものを用いた。
【0282】
TLC/MS(DART positive):m/z+=886[M+H]+
1H−NMR(300MHz/CD2Cl2):δ(ppm)=8.14(brs,3H),7.88(d,4H),7.84−7.82(m,2H),7.69(d,8H),7.53(d,8H),1.38(brs,48H).
【0283】
【化73】

・・・中略・・・
【0307】
<実施例1> 発光素子1の作製と評価
(陽極および正孔注入層の形成)
ガラス基板にスパッタ法により45nmの厚みでITO膜を付けることにより陽極を形成した。該陽極上に、ポリチオフェン・スルホン酸系の正孔注入剤であるAQ−1200(Plextronics社製)をスピンコート法により65nmの厚さで成膜し、大気雰囲気下において、ホットプレート上で170℃、15分間加熱することにより正孔注入層を形成した。
【0308】
(正孔輸送層の形成)
キシレンに高分子化合物P1を0.6重量%の濃度で溶解させた。得られたキシレン溶液を用いて、正孔注入層の上にスピンコート法により20nmの厚さで成膜し、窒素ガス雰囲気下において、ホットプレート上で180℃、60分間加熱させることにより正孔輸送層を形成した。
【0309】
(発光層の形成)
キシレンに、化合物H1および化合物G1(化合物H1/化合物G1=70重量%/30重量%)を3.5重量%の濃度で溶解させた。得られたキシレン溶液を用いて、正孔輸送層の上にスピンコート法により80nmの厚さで成膜し、窒素ガス雰囲気下において、130℃、10分間加熱させることにより発光層を形成した。
【0310】
(陰極の形成)
発光層の形成した基板を蒸着機内において、1.0×10-4Pa以下にまで減圧した後、陰極として、発光層の上にフッ化ナトリウムを約4nm、次いで、フッ化ナトリウム層の上にアルミニウムを約80nm蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止することにより、発光素子1を作製した。
【0311】
(発光素子の評価)
発光素子1に電圧を印加することによりEL発光が観測された。1000cd/m2における駆動電圧は6.0[V]、発光効率は61.5[cd/A]、発光スペクトルピーク波長は520[nm]であった。結果を表3に示す。
・・・中略・・・
【0322】



(2) 甲1に記載された発明
甲1の【0307】〜【0310】には、実施例1に係る「発光素子1」の作製方法が記載されている。この作製方法は、次の「発光層の形成方法」の発明を包含している。なお、甲1の【0309】に記載の「化合物H1」及び「化合物G1」とは、それぞれ甲1の【0283】【化73】及び【0215】【化59】に記載の化合物のことである。
「キシレンに、化合物H1および化合物G1(化合物H1/化合物G1=70重量%/30重量%)を3.5重量%の濃度で溶解させ、得られたキシレン溶液を用いて、正孔輸送層の上にスピンコート法により80nmの厚さで成膜し、窒素ガス雰囲気下において、130℃、10分間加熱させることによる、発光層の形成方法。
ここで、化合物H1及び化合物G1は、以下のものである。
化合物H1:

化合物G1:


そして、上記「発光層の形成方法」の発明のうち、「窒素ガス雰囲気下において、130℃、10分間加熱させる」前までの一連の工程を、以下、「甲1発明」という。

2 甲2、甲3及び甲5〜甲7の記載
(1)甲2の記載
本件特許の先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲2(特開2011−233516号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界素子用組成物の製造方法、該製造方法により製造された有機電界素子用組成物、有機電界発光素子の製造方法、該製造方法により製造された有機電界発光素子、並びに該素子を含む有機EL表示装置および有機EL照明に関する。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、湿式成膜法により、駆動寿命が長く、電流効率が高い、有機電界発光素子を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。この結果、様々な機能を有する層を形成するための材料を溶剤に溶解または分散させた液を一定期間保存することで、該溶質の析出や凝集、結晶化が起こり、これらが素子特性に影響するとの従来の考えが、該液を濾過した後においては、同様でないことを見出した。
更に、鋭意検討を重ねた結果、この液を濾過後、一定期間経過してから湿式成膜に用いて素子を作製することで、上記課題を解決することを見出して、本発明に到達した。
・・・中略・・・
【0014】
そして、本発明の第3の要旨は、前記有機電界発光素子材料が、発光層材料であることを特徴とする、第1又は第2の要旨に記載の有機電界発光素子用組成物の製造方法に存する。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明の有機電界発光素子用組成物の製造方法によれば、湿式成膜法により、電流効率が高く、また駆動寿命の長い素子を製造するための組成物を得ることが可能となる。
本発明の方法により製造された有機電界発光素子は、電流効率が高く、また駆動寿命が長いため、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は高いものである。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の有機電界素子用組成物の製造方法、有機電界素子用組成物、有機電界素子用組成物の使用方法、有機電界発光素子の製造方法、有機電界発光素子、有機EL表示装置および有機EL照明の実施態様を詳細に説明する。但し、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0024】
[1]有機電界素子用組成物の製造方法
本発明の有機電界発光素子用組成物の製造方法(以下、「本発明の組成物の製造方法」と記載することがある。)は、有機電界発光素子材料及び溶剤を含有する液を濾過する濾過工程を有する。また、該組成物は、該濾過工程後の液を8時間以上経過させる経過工程を経た後に得られるものであり、有機電界発光素子の有機層の湿式成膜に用いられる。
【0025】
[作用機構]
本発明における効果が奏される作用機構の詳細は、次の通り推測される。
有機電界発光素子材料及び溶剤を含有する液を、例えばフィルターなどを用いて濾過すると、濾過により液が不安定な状態となる。
より具体的には、組成物中の有機電界発光素子材料などが、フィルターなどに接触することにより、検出することが難しいサイズの非常に微細なクラスターなどが形成される。この状態の液を湿式成膜工程に供すると、成膜された膜内に微細なクラスターなどが存在することになり、これにより電気特性が損なわれ、駆動寿命の低下や輝度効率の低下などが起こると推測される。一方、本発明では、濾過工程後に所定期間の経過工程を設けることで、濾過工程時に発生した微細なクラスターなどが分解されると考えられる。この組成物を用いて湿式成膜することにより、得られる膜中に含まれる該クラスターなどの割合が減る。これにより、得られる素子の駆動寿命が長い、輝度効率が高いなどの効果が奏されるものと考えられる。」

ウ 「【0050】
特に、燐光発光材料の燐光性有機金属錯体としては、好ましくは下記式(III)または式(IV)で表される化合物が挙げられる。
【0051】
ML(q−j)L′j (III)
(式(III)中、Mは金属を表し、qは上記金属の価数を表す。また、LおよびL′は二座配位子を表す。jは0、1または2の数を表す。)
・・・中略・・・
【0054】
以下、まず、式(III)で表される化合物について説明する。
・・・中略・・・
【0068】
式(III)で表される化合物として、更に好ましくは、下記式(IIIa),(IIIb),(IIIc)で表される化合物が挙げられる。【0069】
【化10】

【0070】
(式(IIIa)中、M4は、Mと同様の金属を表し、wは、上記金属の価数を表し、環A1は、置換基を有していてもよい芳香環基を表し、環A2は、置換基を有していてもよい含窒素芳香族複素環基を表す。)
・・・中略・・・
【0079】
また、式(IIIa)〜(IIIc)におけるM4〜M6の好ましい例としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金または金などが挙げられる。
・・・中略・・・
【0103】
{溶剤}
本発明における発光層形成用組成物は、通常さらに溶剤を含有する。
溶剤は、発光材料および電荷輸送材料などの発光層材料が良好に溶解又は分散する溶剤であれば特に限定されない。
【0104】
溶剤の溶解性としては、25℃、1気圧下で、発光材料および電荷輸送材料を、各々、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上溶解することが好ましい。
【0105】
以下に溶剤の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、溶剤は、これらに限定されるものではない。
溶剤としては、例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラメチルシクロヘキサノン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
溶剤は、中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。」

エ 「【0110】
[濾過工程]
本発明における有機電界発光素子用組成物の製造方法は、有機電界発光素子材料と溶剤とを含有する液を濾過する工程を有する。
・・・中略・・・
【0116】
なお、濾過工程は、有機電界発光素子用材料及び溶剤を含有する液の調製直後に行っても良い。また、濾過工程は、有機電界発光素子用材料及び溶剤を含有する液の調製後、12〜24時間程度経過後に行ってもよい。
但し、フィルター付ノズルのように、有機電界発光素子の有機層を湿式成膜する装置に濾過用フィルターが搭載されている場合は、装置に供給された液とフィルターとの接触から成膜までの時間が非常に短く、当該液中に微細なクラスターが素子特性に影響を及ぼすほど多量に形成される前に成膜されることになるため、本発明に係る濾過工程には含まれない。ここで、装置に供給された液とフィルターとの接触から成膜までの時間が非常に短いとは、通常5分以内、好ましくは3分以内、特に好ましくは1分以内を言う。
【0117】
[経過工程]
本発明の有機電界発光素子用組成物は、上記濾過工程後の液を8時間以上経過させる経過工程を経た後に得られる組成物であり、有機電界発光素子の有機層の湿式成膜に用いられる。
【0118】
本発明における経過工程とは、有機電界発光素子用材料及び溶剤を含有する液を濾過してから、湿式成膜法により有機層を形成するまでの期間を指す。即ち、本発明における経過工程とは、有機電界発光素子用材料及び溶剤を含有する液を濾過してから、湿式成膜用装置に充填して成膜する時点までの期間を指す。
なお、有機電界発光素子用材料及び溶剤を含有する液を複数回濾過した場合は、最後の濾過を行ってから、湿式成膜法により有機層を形成するまでの期間を指す。
【0119】
この経過工程の期間は、通常8時間以上、好ましくは12時間以上、さらに好ましくは24時間以上、特に好ましくは36時間以上である。また、経過工程の期間は、通常3ヶ月以下、好ましくは2ヶ月以下、さらに好ましくは1ヶ月以下である。
経過期間が長いと、前記濾過工程で生じたクラスターなどが分解しやすい点で好ましい。また、経過期間が短いと、酸素混入による有機電界発光素子用材料の劣化、凝集および析出等が起こり難い点から好ましい。
【0120】
経過工程の環境は、特に制限はなく、不活性ガス環境や大気環境などが挙げられる。経過工程の環境は、有機電界発光素子材料の劣化、凝集および析出等が起こり難い点で、不活性ガス環境が好ましい。不活性ガスとしては、具体的には、窒素、アルゴン等が好ましい。不活性ガスは、これらの混合ガス中であってもよい。不活性ガスは、取り扱いが容易な点で、窒素ガスが好ましい。
【0121】
経過工程における圧力は、通常大気圧である。
また、経過工程における温度は、本発明の優れた効果を大幅に損わない限り、特に制限はない。経過工程における温度は、通常−40℃以上、好ましくは−20℃以上、更に好ましくは0℃以上である。また、経過工程における温度は、通常60℃以下、好ましくは40℃以下である。経過工程における温度が上記範囲内であると、有機電界発光素子材料の劣化、凝集および析出などが起こり難い点から好ましい。
また、経過工程における湿度は、本発明の効果を損わない限り特に制限はない。経過工程における湿度は、相対湿度で、通常90%以下、好ましくは80%以下、更に好ましくは70%以下である。また、経過工程における湿度は、相対湿度で、通常0%以上、好ましくは20%以上である。湿度が上記範囲内であると、有機電界発光素子材料の劣化、凝集および析出などが起こり難い点から好ましい。
【0122】
経過工程においては、溶剤の揮発が起こり難いことから、濾過後の液を密閉容器で保存することが好ましい。また、この経過工程で用いる容器は、紫外光による重合性化合物等の分解/重合が起こり難い点から、遮光できる容器であることが好ましい。この経過工程で用いる容器としては、例えば、パッキン付褐色ねじ口びん、ステンレス製の加圧タンクなどが好ましい。また、有機電界発光素子の製造プロセスの効率化の観点では、経過工程で用いる容器が湿式成膜装置に直接設置可能であることが好ましい。」

オ 「【実施例】
【0272】
次に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0273】
[特性評価用素子の作製]
{実施例1}
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
まず、ガラス基板上に、ITO透明導電膜を150nmの厚さに堆積し,2mm幅のストライプにパターンイングしてITO層の陽極2を形成した基板(三容真空社製、スパッタ成膜品)1に対して、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純粋による水洗、超純粋による超音波洗浄、超純粋による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0274】
次に、下記(P1)で表される繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子化合物を2.0重量%と、下記(A1)で表される4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートを0.8重量%含む安息香酸エチル溶液(正孔注入層形成用組成物)を調製した。
・・・中略・・・
【0278】
その後、下記(H1)で表される正孔輸送性高分子化合物の1重量%シクロヘキシルベンゼン溶液(正孔輸送層形成用組成物)を調製し、これを下記に示す成膜条件で正孔注入層3上にスピンコートにて成膜し、ベークによる架橋処理を行うことで、膜厚15nmの正孔輸送層4を形成した。
・・・中略・・・
【0281】
次に、発光層5を形成するにあたり、以下に示す発光材料(C6)および(C7)と、電荷輸送材料(C1)および(C2)を用いて、下記に示す組成の発光層形成用組成物を調製した。
【0282】
【化24】

【0283】
<発光層形成用組成物組成>
溶剤 シクロヘキシルベンゼン
成分濃度 C1:1.25重量%
C2:3.75重量%
C6:0.25重量%
C7:0.35重量%
【0284】
その後、この発光層形成用組成物を、0.2μmの細孔を有するメンブランフィルター(GEヘルスケア社製)にて濾過した後、褐色びん容器に入れると共にびん内にN2ガスを充填させた後、気温18〜25℃、相対湿度30〜60%の大気雰囲気下(大気圧)にて12時間経過させた。
【0285】
12時間経過させた発光層形成用組成物を、マイクロピペットを用いて抜き取り、以下に示す条件で、正孔輸送層4上にスピンコート法にて、膜厚58nmの発光層5を形成させた。なお、ここで、上述の「12時間経過」とは、発光層形成用組成物を濾過した時点からマイクロピペットで吸い始めた時点までの時間である。
【0286】
<成膜条件>
スピナ回転数 2000rpm
スピナ回転時間 120秒
スピンコート雰囲気 窒素雰囲気下
ベーク条件 窒素雰囲気下,130℃,10分
【0287】
次に、正孔注入層3、正孔輸送層4および発光層5を湿式成膜した基板を真空蒸着装置内に搬入し、粗排気を行った。この後、装置内の真空度が3.0×10−4Pa以下になるまでクライオポンプを用いて排気した後、発光層5の上に、下記構造式(C9)で表される化合物を真空蒸着法により、蒸着させることにより、膜厚10nmの正孔阻止層6を得た。ここで、蒸着時の真空度は2.2×10−4Pa以下を保ち、蒸着速度は0.6〜1.2Å/秒の範囲で制御した。
・・・中略・・・
【0289】
次いで、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウムを加熱することにより、正孔阻止層6の上に蒸着させることにより、膜厚20nmの電子輸送層7を成膜した。ここで、蒸着時の真空度は2.2×10−4Pa以下に保ち、蒸着速度は0.7〜1.3Å/秒の範囲で制御した。
【0290】
ここで、電子輸送層7まで成膜させた基板を、電子輸送層7までを蒸着させた有機層蒸着チャンバーから金属蒸着チャンバーへと搬送した。そして、電子輸送層7まで成膜させた基板の上に、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプと直交するように密着させて設置し、有機層蒸着時と同様にして装置内の真空度が1.1×10−4Pa以下になるまで排気した。
【0291】
その後、真空度を1.0×10−4Pa以下に保った状態で、電子輸送層7の上に、モリブデンボートを用いて、フッ化リチウム(LiF)を蒸着速度0.07〜0.15Å/秒の範囲で制御して、0.5nmの膜厚で成膜し、電子注入層8を形成させた。
・・・中略・・・
【0292】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、光硬化性樹脂30Y−437(スリーボンド社製)を1mmの幅で塗布した。ガラス板の中央部に、水分ゲッターシート(ダイニック社製)を設置した。この上に、陰極の形成まで終了した上述の基板を搬入し、蒸着面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0293】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。
・・・中略・・・
【0318】
[素子特性の評価]
実施例1〜15並びに比較例1〜6において作製した有機電界発光素子について、それぞれ直流駆動試験を行い、初期輝度を調べた。また、1000cd/m2における輝度電流効率(cd/A)を調べ、それぞれ比較例1〜3における輝度電流効率に対する差(以下「輝度電流効率差」と称す。)を求めた。輝度が、初期輝度から70%低下するまでの駆動寿命を測定し、それぞれ比較例1〜3の駆動寿命を100とした場合の相対値(以下「相対駆動寿命」と称す。)を求めた。結果を表1〜3に示す。
【0319】
【表1】


(なお、上記【表1】は、平成26年6月20日付けの手続補正書による手続補正の内容が掲載された、平成26年8月7日発行の公開公報から摘記したものである。)

(2)甲3の記載
本件特許の先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲3(特開2006−257409号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、発光効率と駆動寿命に優れた有機電界発光素子を湿式製膜法により容易に製造し得る有機電界発光素子用組成物と、この有機電界発光素子用組成物を用いて形成された有機電界発光素子用薄膜、有機電界発光素子用薄膜転写用部材及び有機電界発光素子と、有機電界発光素子の製造方法に関するものである。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有機発光層が湿式製膜法により形成された有機電界発光素子であって、電極から有機発光層への電荷注入特性が良好で、発光効率、駆動寿命に優れた有機電界発光素子を提供することを課題とする。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0025】
本発明の有機電界発光素子用組成物は、発光特性に優れ、ポットライフが長く、熱安定性に優れ、低粘度で、均一性に優れ、製膜時の膜厚調整も容易であり、このような本発明の有機電界発光素子用組成物を用いることにより、湿式製膜法により、電極から有機発光層への電荷注入特性が良好で、発光効率、駆動寿命に優れた有機電界発光素子を容易に得ることができる。」

イ 「【0043】
〈燐光発光材料〉
燐光発光材料としては、任意の公知材料を適用可能であり、燐光発光材料を単独で若しくは複数を混合して使用できる。燐光発光材料は、内部量子効率の観点から優れている。本発明において、燐光発光材料の代わりに蛍光発光材料を用いた場合、上記電荷輸送材料と発光材料の関係を満たすものであっても、効率向上あるいは寿命向上の効果が得られない。
尚、溶剤への溶解性を向上させる目的で、燐光発光材料分子の対称性や剛性を低下させたり、あるいはアルキル基などの親油性置換基を導入することも重要である。
【0044】
燐光発光材料としては、好ましくは例えば周期表7ないし11族(元素周期表:IUPAC Periodic Table of the Elements,2004)から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表7ないし11族から選ばれる金属を含む燐光性有機金属錯体における金属として好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。これらの有機金属錯体として、好ましくは下記式(4)、(5)で表される化合物、或いはWO2005/011370号公報やWO2005/019373号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0045】
MG(q-j)G’j …(4)
(式(4)中、Mは金属を表し、qは金属Mの価数を表す。G及びG’は二座配位子を表す。jは0、1又は2を表す。)
・・・中略・・・
【0053】
式(4)で表される化合物として、さらに好ましくは、下記式(4a)、(4b)、(4c)で表される化合物が挙げられる。
【0054】
【化6】

(式(4a)中、MaはMと同様の金属を表し、qaは金属Maの価数を表す。環Q1は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環Q2は置換基を有していても良い含窒素芳香族複素環基を表す。)
・・・中略・・・
【0174】
〈溶剤〉
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる溶剤としては、溶質が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されないが、有機電界発光素子用材料は一般的に芳香環を有するものが多いため、例えば、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、シクロヘキサノン、シクロオクタノン等の脂環を有するケトン、シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環を有するアルコール等が利用できる。」

ウ 「【0183】
〈有機電界発光素子用組成物の調製方法〉
本発明の有機電界発光素子用組成物は、発光材料、電荷輸送材料等の溶質、及び必要に応じてレベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を、適当な溶剤に溶解させることにより調製される。溶解工程に要する時間を短縮するため、及び組成物中の溶質濃度を均一に保つため、通常液を撹拌しながら溶質を溶解させる。溶解工程は常温で行っても良いが、溶解速度が遅い場合は加熱して溶解させることもできる。溶解工程終了後、必要に応じて、フィルタリング等の濾過工程を経由しても良い。
・・・中略・・・
【0190】
(均一性)
本発明の有機電界発光素子用組成物は、湿式製膜プロセスでの安定性、例えば、インクジェット製膜法におけるノズルからの吐出安定性を高めるためには、常温で均一な液状であることが好ましい。常温で均一な液状とは、組成物が均一相からなる液体であり、かつ組成物中に0.1μm以上の粒子成分を含有しないことをいう。
・・・中略・・・
【0194】
〈有機電界発光素子用組成物の保存方法〉
本発明の有機電界発光素子用組成物は、紫外線の透過を防ぐことのできる容器、例えば、褐色ガラス瓶等に充填し、密栓して保管することが好ましい。保管温度は、通常−30℃以上、好ましくは0℃以上で、通常35℃以下、好ましくは25℃以下である。
・・・中略・・・
【0200】
本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて有機電界発光素子用薄膜(以下「有機層」と称す場合がある。)を形成する際の製膜法としては、組成物中に含有する材料や、下地となる基板の性質によって、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等、湿式製膜法が好ましい。このような方法で製膜された膜に含まれる水分や残留溶剤を低減させるために、膜を加熱乾燥することが好ましい。この加熱乾燥には、ホットプレート、オーブン、電磁波加熱等公知の加熱手段が用いられる。加熱処理による効果を十分に得るためには、60℃以上で処理することが好ましく、残留水分量の低減のために100℃以上で処理することがより好ましい。加熱時間は通常1分〜8時間程度である。
・・・中略・・・
【0273】
〈有機発光層〉
正孔注入層3の上には有機発光層4が設けられる。有機発光層4は、前述の発光材料、電荷輸送材料及び溶剤を含有する本発明の有機電界発光素子用組成物を用いて作製された層であり、電界を与えられた電極間において、陽極2から正孔注入層3を通じて注入された正孔と、陰極6から電子注入層5を通じて注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。尚有機発光層4は、本発明の性能を損なわない範囲で、他の材料、成分を含んでいても良い。尚、本発明の素子においては、有機発光層を該組成物を用いて、湿式製膜法により形成する工程により製造する方法が用いられることが好ましい。湿式製膜法については、前記本発明の有機電界発光素子用薄膜の説明に記載の通りである。」

エ 「【0365】
(実施例10)素子の作製10
図7に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
実施例4と同様にガラス基板1上に陽極2を形成して洗浄を行った後、正孔注入層3を以下のように湿式塗布法によって形成した。正孔注入層3の材料として、下記に示す構造式の芳香族アミノ基を有する高分子化合物(PB−3(重量平均分子量:29400,数平均分子量:12600))と下記に示す構造式の電子受容性化合物(A−2)とを用い、下記の条件でスピンコートした。
・・・中略・・・
【0368】
続いて、有機発光層4を以下のように湿式塗布法によって形成した。発光層4の材料として、下記化合物(T6)、(T9)及び(D2)を下記溶媒に下記濃度で含有させ、有機電界発光素子用組成物とした。この組成物を下記の条件でスピンコートして有機発光層4を形成した。
なお、以下のスピンコート条件において、インク保存とは、有機電界発光素子用組成物を調製した後、スピンコートに使用するまでの保存条件と保存期間を示している。
・・・中略・・・
【0370】
〈スピンコート条件〉
インク保存 4℃ 暗所 18日間
溶媒 トルエン
塗布液濃度 T6 1.0重量%
T9 1.0重量%
D2 0.1重量%
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
乾燥条件 80℃×60分(減圧下)
上記のスピンコートにより膜厚60nmの均一な薄膜が形成された。
・・・中略・・・
【0377】
(実施例12)素子の作製12
図7に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
実施例10と同様に有機発光層4まで形成した後(ただし、発光層4形成時のスピンコート条件のうち、インク保存期間を7日間とした。)、正孔阻止層9として前記ピリジン誘導体(HB−1)をるつぼ温度327〜332℃として、蒸着速度0.08nm/秒で5nmの膜厚で積層した。蒸着時の真空度は1.7×10-4Pa(約1.3×10-6Torr)であった。」

(3)甲5の記載
本件特許の先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲5(特開2011−165658号公報)には以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体素子用の液状組成物の保管方法に関し、特に有機エレクトロルミネッセンス素子用の液状組成物の保管方法に関する。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、有機半導体素子用液状組成物を容器に入れて保管している間に、有機半導体素子形成用有機化合物の機能が低下することを防止することにある。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0024】
本発明の方法によって有機半導体素子用液状組成物を保管した場合、保管しなかった場合と比較しても、形成される有機半導体素子の性能の低下が少ない。それゆえ、本発明によれば、有機半導体素子用液状組成物を長期間安定的に保管することが可能になる。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0026】
有機半導体素子用液状組成物の保管方法
図3は、本発明の方法に用いられる保管容器の一形態を模式的に示す断面図である。この保管容器は、容器本体11、パッキン12及び蓋13を有する。
【0027】
容器本体11は、保管の間有機半導体素子用液状組成物を保持する部材である。容器本体11は、例えば、内部に保管対象物を保管するための空間であるキャビティ16を規定し、かつ、前記キャビティと容器外部とを連通させるための開口部15を規定する開口端部14を有する瓶形容器である。保管の対象物である有機半導体素子用液状組成物は容器本体の開口部15から投入され、容器本体の内壁に接して保持される。それゆえ、容器本体の内壁は有機半導体素子用液状組成物の成分に影響を与えない材料から形成される。有機半導体素子用液状組成物の成分は有機半導体素子形成用有機化合物及び有機溶媒であるから、容器本体の内壁の材質は有機半導体素子形成用有機化合物又は有機溶媒に対して化学的に作用しない必要がある。
【0028】
容器本体は、少なくとも内壁の部分が化学的安定性に優れた材料から形成される。かかる材料の具体例としては、ガラス、有機溶媒に溶解しない金属、フッ素原子を有する樹脂、有機溶媒に溶解しないプラスチック類等が挙げられる。中でも、好ましくはガラスであり、よりに好ましくは、褐色ガラスである。容器本体の容量としては、特に制限されることはないが、通常2ml以上の液状組成物を保存可能な容量である。
・・・中略・・・
【0036】
本発明の有機半導体素子用液状組成物の保管方法において、有機半導体素子用液状組成物を保管した密閉容器自身の保管の温度は、液状組成物に含まれる有機溶媒の沸点によって異なり、該沸点よりも低い温度で保管することができる。液状組成物の安定性の観点からは、好ましくは−20℃以上50℃以下であり、より好ましくは、0℃以上50℃以下である。
【0037】
本発明の有機半導体素子用液状組成物の保管方法において、光を遮光しないで保管しても、光を遮光して保管してもよい。液状組成物の安定性の観点からは、380nm以下の波長の光を遮光して保管することが好ましく、500nm以下の波長の光を遮光して保管することが、より好ましい。800nm以下の波長を遮光して保管することが、さらに好ましい。遮光して保管する方法としては、有機半導体素子用液状組成物を保管した密閉容器ごと遮光下に保管してもよいし、有機半導体素子用液状組成物を遮光性の密閉容器に保存してもよい。
【0038】
本発明の有機半導体素子用液状組成物の保管方法において、有機半導体素子用液状組成物を保管する密閉容器内の雰囲気は、不活性気体を含む雰囲気であってもよい。該雰囲気は、大気雰囲気であっても、雰囲気中の不活性気体の濃度が大気雰囲気中に含まれる不活性気体の濃度以上である雰囲気であってもよい。さらには、雰囲気中の不活性気体の濃度が体積比で99%以上である雰囲気であってもよい。不活性気体としては、ヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス、及びこれらの混合ガスなどを挙げることができる。」

ウ 「【0152】
実施例1
(有機半導体素子用液状組成物1の保管)
緑色高分子発光材料1に、緑色高分子発光材料1の濃度が1.4wt%となるように、有機溶媒としてキシレンを加え、大気雰囲気下、室温にて溶解し、有機半導体素子用液状組成物2を製造した。
【0153】
得られた有機半導体素子用液状組成物2を褐色ガラス瓶に入れ、ニトリルゴムの表面をポリテトラフルオロエチレンでコーティングしたパッキンで褐色ガラス瓶の開口部を覆い、ポリプロピレン製の蓋を閉めて、褐色ガラス瓶を密閉した。その際、パッキンは、ポリテトラフルオロエチレンでコーティングした面が容器本体の開口部を覆い、開口端部に接するように配置した。容器内の雰囲気は空気とした。500nm以下の波長の光を遮光し、室温(23℃)環境下、2週間保管した。
【0154】
実施例2
(保管した有機半導体素子用液状組成物2を用いた有機EL素子の製造)
保管後の有機半導体素子用液状組成物2を用いて、以下の構成の有機EL素子を作製した。
「ガラス基板/ITO(150nm)/Baytron P(65nm)/高分子化合物1(20nm)/緑色高分子発光材料1(100nm)/Ba(5nm)/Al(80nm)」
・・・中略・・・
【0157】
次に、保管した有機半導体素子用液状組成物2を、大気雰囲気下において、スピンコート法により正孔輸送層上に塗布し、膜厚が100nmの発光層用の薄膜を成膜した。さらに、酸素濃度及び水分濃度が、それぞれ体積比で10ppm以下に制御された雰囲気下において130℃、10分間加熱することによって薄膜を焼成し、発光層を得た。なお正孔輸送層及び発光層の形成において、薄膜の形成工程及び焼成工程における圧力は大気圧とした。
・・・中略・・・
【0320】
実施例20
(有機半導体素子用液状組成物21の保管)
赤色燐光ドーパント5を5重量%、高分子化合物4を95重量%の割合で混合した混合発光材料6に、混合発光材料の濃度が1.3wt%となるように、有機溶媒としてキシレンを加え、大気雰囲気下、室温にて溶解し、有機半導体素子用液状組成物21を製造した。
【0321】
得られた有機半導体素子用液状組成物21を褐色ガラス瓶に入れ、ポリエチレンの表面をポリテトラフルオロエチレンでコーティングしたパッキンで褐色ガラス瓶の開口部を覆い、ポリプロピレン製の蓋を閉めて、褐色ガラス瓶を密閉した。その際、パッキンは、ポリテトラフルオロエチレンでコーティングした面が容器本体の開口部を覆い、開口端部に接するように配置した。容器内の雰囲気は大気とした。また、褐色ガラス瓶にアルミホイルを巻きつけ、光を遮光し、室温(23℃)環境下、2週間保管した。
【0322】
実施例21
(保管した有機半導体素子用液状組成物21を用いた有機EL素子の製造)
保管後の有機半導体素子用液状組成物21を用いて、以下の構成の有機EL素子を作製した。
「ガラス基板/ITO(150nm)/Baytron P(65nm)/高分子化合物3(20nm)/混合発光材料6(70nm)/Ba(5nm)/Al(80nm)」
・・・中略・・・
【0325】
次に、保管された有機半導体素子用液状組成物21を、大気雰囲気下において、スピンコート法により正孔輸送層上に塗布し、膜厚が70nmの発光層用の薄膜を成膜した。さらに、酸素濃度及び水分濃度が、体積比でそれぞれ10ppm以下に制御された雰囲気下において130℃、10分間加熱することによって薄膜を焼成し、発光層を得た。なお正孔輸送層及び発光層の形成において、薄膜の形成工程及び焼成工程における圧力は大気圧とした。
・・・中略・・・
【0351】
実施例24
(有機半導体素子用液状組成物25の保管)
赤色燐光ドーパント5を5重量%、高分子化合物4を95重量%の割合で混合した混合発光材料6に、混合発光材料の濃度が2.0wt%となるように、有機溶媒としてシクロヘキシルベンゼン80体積%、4−メチルアニソール20体積%で混合した混合有機溶媒を加え、大気雰囲気下、室温にて溶解し、有機半導体素子用液状組成物25を製造した。
【0352】
得られた有機半導体素子用液状組成物25を褐色ガラス瓶に入れ、ポリエチレンの表面をポリテトラフルオロエチレンでコーティングしたパッキンで褐色ガラス瓶の開口部を覆い、ポリプロピレン製の蓋を閉めて、褐色ガラス瓶を密閉した。その際、パッキンは、ポリテトラフルオロエチレンでコーティングした面が容器本体の開口部を覆い、開口端部に接するように配置した。容器内の雰囲気は大気とした。また、褐色ガラス瓶にアルミホイルを巻きつけ、光を遮光し、室温(23℃)環境下、2週間保管した。
【0353】
実施例25
(保管した有機半導体素子用液状組成物25を用いた有機EL素子の製造)
保管後の有機半導体素子用液状組成物25を用いて、以下の構成の有機EL素子を作製した。
「ガラス基板/ITO(150nm)/Baytron P(65nm)/高分子化合物3(20nm)/混合発光材料6(70nm)/Ba(5nm)/Al(80nm)」
・・・中略・・・
【0356】
次に、保管された有機半導体素子用液状組成物25を、大気雰囲気下において、スピンコート法により正孔輸送層上に塗布し、膜厚が70nmの発光層用の薄膜を成膜した。さらに、酸素濃度及び水分濃度が、体積比でそれぞれ10ppm以下に制御された雰囲気下において130℃、10分間加熱することによって薄膜を焼成し、発光層を得た。なお正孔輸送層及び発光層の形成において、薄膜の形成工程及び焼成工程における圧力は大気圧とした。」

(4)甲6の記載
本件特許の先の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載された、甲6(特開2015−63662号公報)には以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、燐光発光材料を含有する液状組成物、液状組成物を用いて製造された有機電界発光素子、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機電界発光素子(以下、「有機EL素子」ともいう)を用いたカラーディスプレイや照明の開発が活発に進められている。消費電力の抑制などの観点から、より高効率な有機電界発光素子が求められており、燐光発光材料を用いた有機電界発光素子の開発が活発に進められている。
【0003】
有機電界発光素子に含まれる有機発光層の成膜方法としては、蒸着などの乾式法、及び塗布などの湿式法が挙げられるが、生産性の観点から湿式法が注目されている。
・・・中略・・・
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、燐光発光錯体を含む有機EL素子の発光層の製造に用いられ、長期間保管した場合でも電流効率の低下を抑制しうる液状組成物、さらには、発光寿命の短縮をも抑制しうる液状組成物であって、これらの性能低下を抑制する添加剤が有機溶媒に対する溶解性に優れ、添加剤の含有量が少量でよい液状組成物が提供される。」

イ 「【0093】
<燐光発光材料>
本発明の液状組成物は、燐光発光材料を含む。燐光発光材料としては、燐光発光性化合物が挙げられる。
・・・中略・・・
【0095】
燐光発光性化合物である金属錯体としては、例えば、中心金属が第5周期又は第6周期に属する遷移金属であるオルトメタル化錯体等が挙げられる。
【0096】
燐光発光性化合物である金属錯体の中心金属としては、原子番号50以上の原子で、錯体にスピン−軌道相互作用があり、一重項状態と三重項状態間の項間交差を起こし得る金属が挙げられ、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金が好ましく、白金及びイリジウムがより好ましく、イリジウムがさらに好ましい。
【0097】
燐光発光性化合物としては、下記一般式(7)で表される燐光発光性化合物が好ましい。
【0098】
【化12】

(7)
【0099】
〔式中、Mは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム又は白金を表す。Lは、Mで表される金属原子との間に、配位結合及び共有結合からなる群から選ばれる少なくとも2つの結合を形成して多座配位しうる、中性又は1〜3価のアニオン性の配位子を表す。Zは、カウンターアニオンを表す。kaは1以上の整数を表し、kbは0以上の整数を表す。Lが複数存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。Zが複数存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。〕
【0100】
式(7)で表される燐光発光性化合物は全体として中性の原子価である。
【0101】
式(7)中、Mは、白金及びイリジウムが好ましく、イリジウムがより好ましい。燐光発光材料としては、イリジウム化合物が好ましい。中心金属がイリジウムである燐光発光材料は室温での燐光発光の効率が高く、高効率の発光素子を作成する上で有利である。
・・・中略・・・
【0118】
溶媒に対する溶解度の観点から、燐光発光性化合物に含まれる配位子Lは、有機溶媒に対する溶解性を高める置換基を含むことが好ましい。有機溶媒に対する溶解性を高める置換基としては、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい1価の芳香族複素環基及び置換されていてもよいアラルキル基が好ましい。有機溶媒に対する溶解性を高める置換基の水素原子以外の原子の総数は、3個以上であることが好ましく、5個以上であることがより好ましく、7個以上であることが更に好ましく、10個以上であることが特に好ましい。また、有機溶媒に対する溶解性を高める置換基は、燐光発光性化合物が有する全ての配位子に導入されていることが好ましい。その場合、有機溶媒に対する溶解性を高める置換基は、配位子毎に同一であっても異なっていてもよい。
【0119】
有機溶媒に対する溶解性を高める置換基としては、置換されていてもよいアリール基及び置換されていても1価の芳香族複素環基からなる群から選ばれる1種以上の基を含むデンドロンが好ましい。(当合議体注:「置換されていても1価の芳香族複素環基」は、「置換されていてもよい1価の芳香族複素環基」の誤記である。)デンドロンとは分枝構造(branching structure)であり、デンドロンを置換基として配位子に導入することにより、燐光発光性化合物は、溶解性の向上に加えて、例えば、塗膜性の向上、電荷輸送性などの機能性(functinality)、発光色を調整等の効果が付与された高密度の機能性を有する燐光発光性化合物となり得る。また、デンドロンを置換基として有する高度に枝分かれした巨大分子はデンドリマーと呼ばれることがある。デンドリマーは、例えば、国際公開第02/066575号、国際公開第02/066552号、及び国際公開第02/067343号に記載されており、種々の機能を目的として設計、合成がされている。
・・・中略・・・
【0132】
式(7)で表される燐光発光性化合物としては、下記燐光発光性化合物が例示される。
・・・中略・・・
【0135】
【化28】

・・・中略・・・
【0188】
上記燐光発光性化合物の例示において、デンドロン部位が有する置換基として記載されているRpとしては、アルキル基、及びアルコキシ基が好ましく、直鎖、分岐、あるいは環状の非置換アルキル基がより好ましい。合成の容易さ、及び得られる燐光発光性化合物を発光素子の作製に用いる際の有機溶媒への溶解のしやすさの観点から、t−Bu(tert−ブチル基)、C6H13(ヘキシル基)、及びエチルヘキシル基等のアルキル基が好ましい。
・・・中略・・・
【0249】
<溶媒>
本発明の液状組成物に含まれる25℃及び1気圧にて液体である溶媒は前記燐光発光材料等を溶解し、燐光発光材料等と反応しないものであれば特に限定されないが、芳香族炭化水素、芳香族エーテル、脂肪族炭化水素、脂肪族エーテル、アルコール、ケトン、アミド、エステル、カーボネートなどが挙げられる。
【0250】
芳香族炭化水素としては、1分子中の炭素数が8〜20、好ましくは8〜14の範囲にあり、1〜3個の置換基をもつベンゼンがこのましい。置換基としては、炭素数1〜14のアルキル基、メチル基で置換されていてもよいシクロペンチル基、メチル基で置換されていてもよいシクロヘキシル基、メチル基で置換されていてもよいシクロへプチル基が好ましい。アルキル基同士が結合して環を形成していても良い。このような化合物は沸点が好ましい範囲にあり、燐光発光材料の溶解性が比較的良好であり、25℃及び1気圧にて固体である有機化合物が式(8)で表される構造を少なくとも1つ構成単位として含む高分子化合物に対する溶解性が良好である。」

ウ 「【0264】
<液状組成物の製造方法>
本発明の液状組成物は、溶媒に、燐光発光材料、添加剤(A)、必要に応じて第二の発光層用材料を溶解させて液状組成物を製造する。溶解工程における溶媒、燐光発光材料、添加剤(A)、第二の発光層用材料の仕込み順序は特に限定されない。添加剤(A)については、液状組成物を保管容器に充填する時に液状組成物中に存在していればよく、本発明の液状組成物の製造に用いられる溶媒中に添加剤(A)が添加されていてもよく、燐光発光材料中に添加剤(A)が添加されていてもよく、第二の発光層用材料中に添加剤(A)が添加されていてもよく、溶媒に燐光発光材料や第二の発光層用材料を溶解させる時に添加剤(A)を添加してもよい。さらに、添加剤(A)を溶媒に溶解させた溶液を後から添加してもよい。添加剤(A)の添加方法に関わらず、本発明の液状組成物中の添加剤(A)の濃度は、液状組成物の重量に対して、通常0.1〜10000ppm、好ましくは1ppm〜1000ppmである。添加剤(A)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。添加剤(A)の含有量が0.1ppm以上であると保存安定性の観点から好ましく、10000ppm以下であると、発光素子の発光寿命の観点から好ましい。
【0265】
燐光発光材料等の溶媒への溶解は、大気下で実施してもよいが、体積分率で酸素濃度が5%以下の不活性ガス雰囲気下で溶解させることが好ましく、酸素濃度が0.5%以下の不活性ガス雰囲気下で溶解させることがさらに好ましい。攪拌翼、攪拌子、振とう機、ホモジナイザー、超音波発生器などを用いて燐光発光材料等の溶媒への溶解を促進させてもよく、攪拌翼を攪拌させながら燐光発光材料等を溶媒に溶解させることが好ましい。溶解温度は、通常、−20℃から溶媒の沸点までであるが、0℃〜80℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。溶解時間は、通常、5分〜1週間であり、30分〜3日が好ましい。
【0266】
燐光発光材料等の溶媒への溶解を確認した後、必要に応じて、本発明の液状組成物を用いて作製した有機EL素子の特性が不良となる原因となりうるパーティクルを除くための濾過を行い、液状組成物保管容器に充填する。濾過としては、自然濾過、減圧濾過、及び加圧濾過が挙げられ、加圧濾過が好ましい。濾材としては、濾紙、濾布、焼結金属フィルタ、及びメンブランフィルタが挙げられ、メンブランフィルタが好ましく、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のメンブランフィルタがより好ましい。メンブランフィルタを用いる場合の濾過機としては、平膜フィルタ、カプセルフィルタ、カートリッジフィルタのいずれも使用可能である。濾材の目開きとしては、通常、孔径2μm以下の濾材を用い、孔径0.5μm以下の濾材を用いることが好ましく、孔径0.2μm以下の濾材を用いることがより好ましい。
【0267】
<液状組成物の保管方法>
本発明の液状組成物の保管容器は、本発明の液状組成物に対して安定であり、添加剤(A)以外の添加剤が使用されていない保管容器が望ましい。保管容器としては、例えば、褐色ガラス瓶、フッ素樹脂でコートされた瓶、フッ素樹脂の内袋を持つ容器、及び、ステンレス容器が挙げられる。保管容器は、400nm以下の波長の光を透過させない容器が好ましい。
【0268】
本発明の液状組成物を保管容器に充填させる際に、保管容器内の空気を窒素やアルゴンなどの不活性ガスで置換して保管してもよい。保管温度は、通常−10℃〜50℃であり、−5℃〜30℃が好ましい。
・・・中略・・・
【0270】
<有機電界発光素子>
次に、本発明の有機電界発光素子について説明する。図1は、本発明の有機電界発光素子の構造の一形態を模式的に示す断面図である。この有機電界発光素子1は、基板2上に、第1の電極3、第2の電極7、及び該第1の電極及び該第2の電極の間に設けられた発光層6を有している。以下、図1に示す有機電界発光素子1を例として、発光層6の形成工程について説明し、有機電界発光素子1のその他の構成要素の詳細については、後述する。
【0271】
<発光層6の形成工程>
発光層6の形成工程は、通常、第1の電極3上に、本発明の液状組成物を塗布する塗布工程、及び液状組成物を第1の電極3上に塗布して形成した有機膜を加熱する加熱工程を有する。
【0272】
<発光層6を形成するための塗布工程>
本発明の液状組成物を第1の電極3上に塗布する塗布法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、グラビア印刷法、及びインクジェットプリント法が挙げられる。
本発明の液状組成物の第1の電極3上への塗布は、通常、大気圧下で実施する。」

エ 「【0339】
合成例3
(燐光発光材料1の合成)
燐光発光材料1は、国際公開第2002/066552号に記載された合成法に従い合成した。
【0340】
【化108】

【0341】
実施例1
(液状組成物1の製造)
高分子化合物2を70重量部、燐光発光材料1を30重量部、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールを1重量部、およびシクロヘキシルベンゼンを9899重量部加え、大気雰囲気下、室温にて溶解させ、液状組成物1を得た。
・・・中略・・・
【0346】
実施例3
(液状組成物1を用いた有機電界発光素子D1の作製)
スパッタ法により45nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板に、ポリチオフェンスルホン酸のエチレングリコールモノブチルエーテルと水とを(水の体積):(ポリチオフェンスルホン酸のエチレングリコールモノブチルエーテルの体積)=3:2となるように混合させた混合溶液(シグマアルドリッチ社、商品名:Plexcore OC 1200)を用いてスピンコート法により65nmの厚さとなるように薄膜を成膜し、ホットプレート上で170℃で15分間加熱することによって薄膜を形成し、正孔注入層を得た。なお正孔注入層の形成において、薄膜の成膜工程及び加熱工程は大気雰囲気下において行った。
【0347】
次に、正孔輸送材料である高分子化合物1をキシレンに溶解させキシレン溶液を調製した。該キシレン溶液における高分子化合物1の濃度を0.7重量%とした。該キシレン溶液を正孔注入層上にスピンコートすることにより、膜厚が20nmの正孔輸送層用の薄膜を形成し、酸素濃度及び水分濃度が、体積比でそれぞれ10ppm以下に制御された窒素雰囲気下において190℃、1時間加熱することによって薄膜を形成し、正孔輸送層を得た。
【0348】
次に、製造後60℃の恒温槽内にて、2週間保管した液状組成物1を、大気雰囲気下において、スピンコート法により正孔輸送層上に塗布した。その後、100Pa以下の減圧環境下にて乾燥し、膜厚が75nmの発光層用の薄膜を成膜した。さらに、酸素濃度及び水分濃度が、体積比でそれぞれ10ppm以下に制御された雰囲気下において150℃、10分間加熱することによって薄膜を形成し、発光層を得た。なお正孔輸送層及び発光層の形成において、薄膜の塗布工程及び加熱工程における圧力は大気圧とした。
【0349】
次に1.0×10-4Pa以下にまで減圧した後、陰極として、フッ化ナトリウムを5nmの厚さで蒸着し、次いでアルミニウムを100nmの厚さで蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止を行うことで、有機電界発光素子D1を作製した。
【0350】
作製した有機電界発光素子D1は、緑色発光し、最大電流効率は40cd/Aであった。また、初期輝度24,000cd/m2で定電流駆動した際に、輝度が初期輝度の60%となるまでの時間(T60)は、51時間であった。
・・・中略・・・
【0372】
実施例9
(液状組成物1を用いた有機電界発光素子D3の作製)
スパッタ法により45nmの厚みでITO膜を付けたガラス基板に、ポリチオフェンスルホン酸のエチレングリコールモノブチルエーテルと水とを(水の体積):(ポリチオフェンスルホン酸のエチレングリコールモノブチルエーテルの体積)=3:2となるように混合させた混合溶液(シグマアルドリッチ社、商品名:Plexcore OC 1200)を用いてスピンコート法により50nmの厚さとなるように薄膜を成膜し、ホットプレート上で170℃で15分間加熱することによって薄膜を形成し、正孔注入層を得た。なお正孔注入層の形成において、薄膜の成膜工程及び加熱工程は大気雰囲気下において行った。
【0373】
次に、正孔輸送材料である高分子化合物3をキシレンに溶解させキシレン溶液を調製した。該キシレン溶液における高分子化合物3の濃度を0.7重量%とした。該キシレン溶液を正孔注入層上にスピンコートすることにより、膜厚が20nmの正孔輸送層用の薄膜を形成し、酸素濃度及び水分濃度が、体積比でそれぞれ10ppm以下に制御された窒素雰囲気下において190℃、1時間加熱することによって薄膜を形成し、正孔輸送層を得た。
【0374】
次に、液状組成物1を製造後直ちに、大気雰囲気下において、スピンコート法により正孔輸送層上に塗布した。その後、100Pa以下の減圧環境下にて乾燥し、膜厚が75nmの発光層用の薄膜を成膜した。さらに、酸素濃度及び水分濃度が、体積比でそれぞれ10ppm以下に制御された雰囲気下において150℃、10分間加熱することによって薄膜を形成し、発光層を得た。なお正孔輸送層及び発光層の形成において、薄膜の塗布工程及び加熱工程における圧力は大気圧とした。
【0375】
次に1.0×10-4Pa以下にまで減圧した後、陰極として、フッ化ナトリウムを5nmの厚さで蒸着し、次いでアルミニウムを100nmの厚さで蒸着した。蒸着後、ガラス基板を用いて封止を行うことで、有機電界発光素子D3を作製した。
【0376】
作製した有機電界発光素子D3は、緑色発光し、最大電流効率は20cd/Aであった。また、初期輝度12,000cd/m2で定電流駆動した際に、輝度が初期輝度の75%となるまでの時間(T75)は、23時間であった。
【0377】
実施例10
(60℃で1ヶ月保管した液状組成物1を用いた有機電界発光素子D4の作製)
実施例9において、製造直後の液状組成物1の代わりに、褐色ガラス瓶中、60℃の保管庫で1ヶ月保管した液状組成物1を用いた以外は、実施例9と同様にして有機電界発光素子D4を作成した。
【0378】
作成した有機電界発光素子D4は、緑色発光し、最大電流効率は21cd/Aであった。また、初期輝度12,000cd/m2で定電流駆動した際に、輝度が初期輝度の75%となるまでの時間(T75)は、22時間であった。
・・・中略・・・
【0381】
【表4】



(5)甲7の記載
本件特許の先の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲7(特開2010−184876号公報)には、以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子用に用いられる有機金属錯体に関するものであり、詳しくは、耐久性、溶剤に対する溶解性が優れており、成膜性、湿式プロセス適性に優れた有機電界発光素子用の有機金属錯体に関する。本発明はまた、この有機金属錯体を含む有機電界発光素子用組成物と、この有機金属錯体を用いた高効率、長寿命な有機電界発光素子、並びにこの有機電界発光素子を用いた有機ELディスプレイおよび有機EL照明に関するものである。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明は、耐久性が高く、有機電界発光素子の湿式成膜法で形成される有機層に有用な有機金属錯体であって、溶剤溶解性に優れ、湿式成膜法により、高効率、長寿命な有機電界発光素子を提供できる有機金属錯体および有機電界発光素子用組成物を提供することを課題とする。
本発明は、また、この有機金属錯体を用いて、高効率、長寿命の有機電界発光素子と、この有機電界発光素子を用いた有機ELディスプレイおよび有機EL照明を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の不純物を低減させた有機金属錯体を用いることにより、安定的に長寿命、高輝度かつ高効率な有機電界発光素子を提供できることを見出し、本発明に到達した。」

イ 「【0020】
[有機金属錯体]
本発明の有機金属錯体は、有機電界発光素子に用いられる有機金属錯体であって、該有機金属錯体よりも分子量が14大きい化合物の含有量が1重量%以下であることを特徴とする。
【0021】
まず、本発明において、対象とする有機金属錯体化合物よりも、分子量が14大きい化合物の含有量を規定することによる効果の作用機構について説明する。
【0022】
一般に、金属錯体には、フェイシャル体、メリジョナル体、E体、Z体などの異性体が存在し、また置換基によっては更に様々な異性体を生じさせるため、これらを個々に分析することは極めて困難であるが、このような構造上のわずかな差異も、錯体としての安定性には大きく影響し、このような異性体が存在する錯体を有機電界発光素子に用いると、素子の寿命は短いものとなる。しかしながら、このような異性体の存在を分析して検出することは、錯体の構造が複雑になればなるほど難しくなる。
【0023】
また、湿式成膜用途に用いる金属錯体にあっては、さらに状況は複雑である。
即ち、蒸着法に用いる錯体は、一般に、構造的にシンプルで結晶性がよく、例えば、Ir錯体では、製造工程において溶液中で加熱する際に、熱的に最も安定なフェイシャル構造に異性化し、その構造にて反応系内で結晶を生成するため、この構造のものを分取することにより、純度の高い安定構造の錯体を得やすい。
一方、湿式成膜用途に用いる金属錯体については、意図的に溶剤に対する溶解性の高い構造設計を施しているため、熱的に安定な構造へと異性化していくとは思われるものの、このようなものは結晶性が悪いために、結晶が生成したとしても、不純物が混入しやすい。また、溶剤溶解性の向上等を目的として長鎖のアルキル基を有している場合もあり、このアルキル基の一部が酸化されてケトンを形成したような配位子も混入しやすい。
【0024】
本発明者らは、このような状況を考慮して、有機電界発光素子用有機金属錯体に混入し得る不純物として、当該有機金属錯体(目的化合物)よりも分子量が14大きい化合物が存在し、この化合物(以下「不純物(+14)」と称す場合がある。)の含有量を1重量%以下に抑えることにより、この有機金属錯体の耐久性が向上し、この結果、この有機金属錯体を用いて、高効率、かつ長寿命な有機電界発光素子を製造し得ることを見出した。
【0025】
この目的化合物としての有機金属錯体よりも分子量が14大きい化合物とは、一般的には、目的化合物のうちの1つの炭素原子に結合する水素原子2個が酸素原子に置き換わってケトン基となることにより、目的化合物の分子量−2(水素原子2個の分子量)+16(酸素原子1個の分子量)となって分子量が14大きい化合物となったものである。このような不純物は、通常、目的化合物の製造工程において、反応副生成物として生成して目的化合物中に混入するが、用いる原料自体に混入している場合もある。このような不純物(+14)は目的化合物と分子量が近接していることから、通常、目的化合物との分離が困難であり、目的化合物に混入して製品化される。
【0026】
本発明において、有機金属錯体中の不純物(+14)の含有量が1重量%を超えると有機金属錯体の耐久性が低下し、この有機金属錯体を用いて高効率、かつ長寿命の有機電界発光素子を製造し得ない。不純物(+14)の含有量は少ないほど好ましく、0.8重量%以下、特に0.5重量%以下であることが好ましいが、この含有量を過度に抑えることは、精製コストの面で工業的に不利であり、通常その下限は0.0001重量%程度である。
【0027】
有機金属錯体中の不純物(+14)の存在は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)等による分析で検出することができる。また、有機金属錯体中の不純物(+14)の含有量は、このHPLC分析チャートのピーク面積から計算により求めることができる。
・・・中略・・・
【0030】
なお、有機金属錯体中には、不純物(+14)以外にも、更に酸化や加水分解を受けて、目的化合物よりも更に分子量の大きい化合物、例えば、30や32大きい化合物等が不純物として含まれる可能性がある。例えば、後述の合成例1〜3では不純物(+14)の他、目的化合物よりも分子量が32大きい化合物(以下「不純物(+32)」と称す場合がある。)が含有される。これらの化合物についてもその含有量が少ないことが望まれるが、一般に、有機金属錯体中の不純物(+14)以外の不純物の含有量は少なく、また、有機金属錯体中の不純物(+14)を精製により除去する工程で、不純物(+14)以外の不純物も低減されることから、これらの不純物についてその含有量の上限には特に制限はないが、後述の不純物(+32)等の、不純物(+14)以外の、目的化合物に類似した目的化合物と分子量の異なる不純物の有機金属錯体中の含有量は、その合計で5重量%以下、特に1重量%以下であることが好ましい。特に、不純物(+32)の含有量は、0.04重量%以下であることが好ましく、0.02重量%以下であることがより好ましい。なお、これらの分子量の異なる不純物についてもHPLC分析により検出、定量することができる。
【0031】
本発明の有機金属錯体に含まれる金属については特に制限はないが、有機電界発光素子の発光材料として用いられることから、周期表7ないし11族から選ばれる金属であることが好ましく、発光性の高いIr、Pt、Pd、Cu、Zn、Ag、Rh、Ru、Os、AuおよびReからなる群より選ばれる金属であることがより好ましく、これらのうち、Ir、Pt、とりわけIrが好適である。
【0032】
本発明に適用される有機金属錯体としては、好ましくは下記式(4)、(5)で表される化合物、或いは国際公開第2005/011370号パンフレットや国際公開第2005/019373号パンフレットに記載の化合物が挙げられる。
【0033】
MG(q-j)G’j …(4)
(式(4)中、Mは金属を表し、qは金属Mの価数を表す。G及びG’は二座配位子を表す。jは0、1又は2を表す。)
・・・中略・・・
【0035】
以下、まず、式(4)で表わされる化合物について説明する。
式(4)中、Mは任意の金属を表し、好ましいものの具体例としては、周期表7ないし11族から選ばれる金属として前述した金属が挙げられる。
また、式(4)中の二座配位子G及びG’は、それぞれ、以下の部分構造を有する配位子を示す。
・・・中略・・・
【0042】
【化6】


(式(4a)中、MaはMと同様の金属を表し、qaは金属Maの価数を表す。環Q1は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基を表し、環Q2は置換基を有していても良い含窒素芳香族複素環基を表す。)」

ウ 「【0061】
[有機電界発光素子用組成物]
本発明の有機電界発光素子用組成物は、好ましくは湿式成膜法で形成される有機電界発光素子の有機層に用いられる組成物であって、前述の本発明の有機金属錯体の1種または2種以上を含有するものであり、通常、更に溶剤を含有する。
【0062】
<溶剤>
本発明の有機電界発光素子用組成物は溶剤を含むことが好ましい。
本発明の有機電界発光素子用組成物に含まれる溶剤としては、上述の本発明の有機金属錯体等の溶質が良好に溶解する溶剤であれば特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル;シクロヘキサノン、シクロオクタノン等の脂環を有するケトン;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン;メチルエチルケトン、シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環を有するアルコール;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル等が利用できる。これらのうち、水の溶解度が低い点、容易には変質しない点で、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素が好ましい。
・・・中略・・・
【0067】
<発光材料>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、好ましくは湿式成膜法で形成される有機電界発光素子の有機層に用いられる組成物であって、前述の本発明の有機金属錯体を発光材料として含み、通常発光層形成用組成物として用いられる。
発光材料とは、本発明の有機電界発光素子用組成物において、主として発光する成分を指し、有機ELデバイスにおけるドーパント成分に当たる。該有機電界発光素子用組成物から発せられる光量(単位:cd/m2)の内、通常10〜100%、好ましくは20〜100%、より好ましくは50〜100%、最も好ましくは80〜100%が、ある成分材料からの発光と同定される場合、それを発光材料と定義する。
【0068】
なお、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、有機電界発光素子に用いられる本発明の有機電界発光素子用組成物特有の液性に合うため、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。
【0069】
<電荷輸送材料>
本発明の有機電界発光素子用組成物には、更に電荷輸送材料が含まれていることが好ましく、この電荷輸送材料は、発光材料である本発明の有機金属錯体のホスト材料として機能するものであることが好ましい。電荷輸送材料としては、以下の正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物が挙げられる。」

エ 「【0076】
<有機電界発光素子用組成物の調製方法>
本発明の有機電界発光素子用組成物は、通常、本発明の有機金属錯体、電荷輸送材料、および必要に応じて添加可能なレベリング剤や消泡剤等の各種添加剤よりなる溶質を、適当な溶剤に溶解させることにより調製される。溶解工程に要する時間を短縮するため、および組成物中の溶質濃度を均一に保つため、通常、液を撹拌しながら溶質を溶解させる。溶解工程は常温で行ってもよいが、溶解速度が遅い場合は加熱して溶解させることもできる。溶解工程終了後、必要に応じて、フィルタリング等の濾過工程を経由してもよい。
【0077】
[有機電界発光素子]
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極および該陽極と該陰極の間に、発光層を有し、前記本発明の有機金属錯体を含有する層を有することを特徴とする。この、本発明の有機金属錯体を含有する層としては、以下の正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層などいずれでもよいが、本発明の有機金属錯体を含有する層は発光層であることが好ましい。」

3 甲1を主引用例とし、甲2、甲3、甲6及び甲7を周知例とした場合の対比及び判断
(1)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア インク調製工程
甲1発明の「キシレン溶液」は、「キシレンに、化合物H1および化合物G1(化合物H1/化合物G1=70重量%/30重量%)を3.5重量%の濃度で溶解させ、得られた」ものである。
ここで、甲1発明の「化合物G1」、「化合物H1」及び「キシレン」は、その化学構造及び機能等からみて、それぞれ、上記「第3」に記載された本件特許発明1の「金属錯体」、「式(H−2)で表される化合物」及び「有機溶媒」に相当する。
また、上記「キシレン溶液」は、「スピンコート法により」「成膜し」「発光層の形成」に用いられるものであるが、[A]甲1の【0127】における「溶媒を含有する本発明の組成物(以下、「インク」ということがある。)は、インクジェットプリント法、ノズルプリント法等の印刷法を用いた発光素子の作製に好適である。」との記載や、[B]本件特許の明細書の【0239】における「膜形成工程において、塗布法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、キャピラリ−コート法、ノズルコート法が挙げられる。」との記載からも明らかなとおり、本件特許発明の技術分野においては、甲1発明の「キシレン溶液」も、インクと呼ばれる物である。
以上によれば、甲1発明の「キシレン溶液」は、本件特許発明1の「インク」に相当するといえ、甲1発明の「キシレンに、化合物H1および化合物G1(化合物H1/化合物G1=70重量%/30重量%)を3.5重量%の濃度で溶解させ」る工程は、本件特許発明1の「金属錯体と、式(H−2)で表される化合物と、有機溶媒とを含有するインクを調製するインク調製工程」に相当する。

イ 膜形成工程
上記「ア」で挙げた[B]の記載から理解されるとおり、甲1発明の「スピンコート法」は、本件特許発明1の「塗布法」の一形態であることから、甲1発明の「得られたキシレン溶液を用いて、正孔輸送層の上にスピンコート法により80nmの厚さで成膜」する工程は、技術的にみて、本件特許発明1の「インクを用いて、塗布法により膜を形成する膜形成工程」に相当する。

ウ 膜の製造方法
甲1発明の「発光層」は、技術的にみて「膜」といえるから、甲1発明の「発光層の形成方法」は、膜の製造方法である。上記「イ」の対比結果も踏まえると、甲1発明の「発光層の形成方法」は、本件特許発明1の「膜の製造方法」に相当する。

(2)本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。
「金属錯体と、式(H−2)で表される化合物と、有機溶媒とを含有するインクを調製するインク調製工程と、
インクを用いて、塗布法により膜を形成する膜形成工程とを含む、
膜の製造方法。」
(なお、式(H−2)は、上記「第3」に【化2】として記載のものであり、ここでは省略する。)

イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明とは、以下の点で相違する。
[相違点1−1]
本件特許発明1は、「金属錯体」が「式(1−B)で表される」ものであり、「但し、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bからなる群から選ばれる少なくとも1つは、1価の複素環基であってデンドロンである。」という特定事項を備えているのに対し、甲1発明の化合物G1は、特に「複素環基であ」るという特定事項を備えていない点。
(なお、式(1−B)は、上記「第3」に【化1】として記載のものであり、ここでは省略する。)

[相違点1−2]
本件特許発明1は、「インク調整工程で調整したインクを遮光下において1週間以上保管するインク保管工程」を含み、インク保管工程で保管されたインクが、「式(1−B)で表される金属錯体の液体クロマトグラフィーにより求められる面積百分率値による含有量を100としたとき、前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の液体クロマトグラフィーにより求められる面積百分率値による合計含有量が0.6以下である」のに対し、甲1発明は「キシレン溶液」の保管工程を含まず、該「キシレン溶液」の「化合物G1で表される金属錯体の液体クロマトグラフィーにより求められる面積百分率値による含有量を100としたとき、前記化合物G1で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の液体クロマトグラフィーにより求められる面積百分率値による合計含有量」が明らかでない点。

(3)本件特許発明1についての判断
事案に鑑み、上記相違点1−2について検討する。
ア 甲2、甲3、甲6及び甲7から理解される技術的事項
甲2には、「様々な機能を有する層を形成するための材料を溶剤に溶解または分散させた液」を「濾過後、一定期間経過してから湿式成膜に用いて素子を作製すること」(【0011】)で、「湿式成膜法により、駆動寿命が長く、電流効率が高い、有機電界発光素子を製造する」(【0010】)という課題を解決できることが記載されている。そして、上記「濾過」を行うタイミングとして「濾過工程は、有機電界発光素子用材料及び溶剤を含有する液の調製直後」(【0116】)も1つのタイミングとして記載されている。また、濾過工程後の液を8時間以上経過させる経過工程について、「この経過工程の期間は、通常8時間以上、好ましくは12時間以上、さらに好ましくは24時間以上、特に好ましくは36時間以上である。また、経過工程の期間は、通常3ヶ月以下、好ましくは2ヶ月以下、さらに好ましくは1ヶ月以下である。」こと、及び「経過期間が長いと、前記濾過工程で生じたクラスターなどが分解しやすい点で好ましい。また、経過期間が短いと、酸素混入による有機電界発光素子用材料の劣化、凝集および析出等が起こり難い点から好ましい。」(【0119】)こと、「また、この経過工程で用いる容器は、紫外光による重合性化合物等の分解/重合が起こり難い点から、遮光できる容器であることが好ましい。」(【0122】)ことが記載されている。さらに、甲2には、実施例として、発光層形成用組成物を、濾過した後、褐色びん容器に入れると共にびん内にN2ガスを充填させた後、気温18〜25℃、相対湿度30〜60%の大気雰囲気下にて、濾過後12時間、24時間、36時間、48時間、7日間、31日間経過させる経過工程を行ったこと(【0284】及び【0319】【表1】等)も記載されている。

また、甲6には「燐光発光材料等の溶媒への溶解を確認した後、必要に応じて、本発明の液状組成物を用いて作製した有機EL素子の特性が不良となる原因となりうるパーティクルを除くための濾過を行い、液状組成物保管容器に充填する。」(【0266】)こと、「保管容器としては、例えば褐色ガラス瓶」(【0267】)を用いることが記載されている。
加えて、甲6には、実施例3として、液状組成物1を調製後に「2週間保管した液状組成物1」で形成された「有機電界発光素子D1」の「最大電流効率は40cd/A」であること(【0348】〜【0350】)、実施例9として、同じ液状組成物1を「製造後直ちに」「成膜して」形成した「有機電界発光素子D3」の「最大電流効率は20cd/A」であること(【0374】〜【0376】及び【0381】【表4】)、実施例10として、「実施例9において、製造直後の液状組成物1の代わりに、褐色ガラス瓶中、60℃の保管庫で1ヶ月保管した液状組成物1を用いた以外は、実施例9と同様にして」作成された「有機電界発光素子D4」の「最大電流効率は21cd/A」であること(【0377】〜【0378】及び【0381】【表4】)が記載されている。

さらに、甲3の【0183】及び甲7の【0076】にも、「有機電界発光素子用組成物」は、発光材料等を「溶剤に溶解させることにより調製」させる「溶解工程終了後に、必要に応じて、フィルタリング等の濾過工程を経由」してもよいことが記載されている。
また、甲3の実施例10及び実施例12には、「有機電界発光素子用組成物を調製した後、スピンコートに使用するまでの保存条件と保存期間」として、「暗所」で「18日間」、「7日間」保管することが記載されている。

以上の甲2、甲3、甲6及び甲7の記載をまとめると、甲6の上記【0266】の記載から、甲2の【0116】、甲3の【0183】及び甲7の【0076】に記載された調製後に行われる濾過工程も、組成物の調製工程で生じ得る不要な不純物を除くための工程であり、そのような濾過工程は当業者が適宜採用し得る濾過工程であること先の出願時の技術常識であったことが理解できる。

イ 甲1発明において濾過工程及び保管工程を採用する動機について
甲1発明は「保管工程」を具備しない。そして、甲1には、インクを調整した後の保管工程を意識した記載ないし示唆はない。
そこで、上記アの技術常識を心得た当業者にとって、甲1発明において、濾過工程及び保管工程を採用する動機があるといえるかについて以下検討する。
甲1の【0099】〜【0101】及び【0103】の記載、甲2の【0050】〜【0079】及び【0105】の記載、甲3の【0043】〜【0054】及び【0174】の記載、甲6の【0093】〜【0159】及び【0249】の記載、甲7の【0031】〜【0042】及び【0062】の記載を参照すると、有機発光素子用組成物は、一部共通する材料を含むものである。特に甲1発明及び甲6の【0339】〜【0341】の記載を参照すると、両者は共にキシレン溶液であり、燐光発光材料も同じものが用いられている。
しかしながら、調製工程において、不純物が生じるか否か及びその程度は、発光材料のみならずホスト材料及びその特性にも依存すると考えられるところ、甲1〜甲3、甲6及び甲7の上記記載を参照しても、甲1発明の「キシレン溶液」の調製工程において、甲2、甲3、甲6及び甲7と同様に、組成物の調製工程直後に濾過工程及び保管工程を採用する動機付けとなる程度にまで甲1とその他上記甲号証の溶液の組成が共通しているといえるかは明らかではない。

ウ 式(1−B)で表される金属錯体より分子量が大きい金属錯体について
ところで、甲1発明において、当業者が保管期間を設けるに際して、インク(キシレン溶液)の保管期限が無制限であることはおよそ考えられないから、保管期間の上限値について何らかの目安を設定すべきことは技術的にみて明らかであるところ、甲7には、「有機金属錯体中の不純物(+14)の存在は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)等による分析で検出することができる。また、有機金属錯体中の不純物(+14)の含有量は、このHPLC分析チャートのピーク面積から計算により求めることができる。」(【0027】)こと、「有機金属錯体中には、不純物(+14)以外にも、更に酸化や加水分解を受けて、目的化合物よりも更に分子量の大きい化合物、例えば、30や32大きい化合物等が不純物として含まれる可能性がある。」(【0030】)ことが記載されている。
しかしながら、本件特許発明1において特定されているのは、「金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体」であって、甲7に記載されている「分子量」が「32」大きいものは「分子量」は共通するものの、甲7の上記【0030】の記載を参照すると、本件特許発明1が問題視とする金属錯体とは、その化学構造を異にするものであることが当業者には理解できる。
そうすると、仮に甲1発明において、「キシレン溶液」の調製後に濾過・保管工程を設けるとしても、保管期間を設けるに際して、甲7に記載の技術的事項を参照しても、「式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体」の量を保管期間の目安として着目するような動機付けはない。

エ 小括
以上ア〜ウを総合すると、上記相違点1−2に係る構成は、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるということはできない。
してみれば、相違点1−1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)本件特許発明2〜4についての対比及び判断
本件特許発明2〜4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(1)〜(3)と同様の理由により、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)請求項5についての対比及び判断
ア 対比
本件特許発明5と甲1発明とを対比すると、上記(1)に加え、甲1発明の「化合物G1」は、その構造からみて、本件特許発明5の「式(1−B)で表される」という要件を満たす「金属錯体」に相当する。
そうすると、両発明は、「式(1−B)で表される金属錯体と、式(H−2)で表される化合物と、有機溶媒とを含有するインクを調製するインク調製工程を含む方法。」である点で一致し、以下の点で新たに相違する。

[相違点5−2]本件特許発明5は、「前記インク調製工程で調製したインクを1週間以上保管する保管工程」を含む「インクの保管方法」であって、「前記インク調製工程における調製直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体の含有量をCb[M]、前記調製直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の合計含有量をCb[M+16n]、前記保管工程における保管直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体の含有量をCa[M]、前記保管直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の合計含有量をCa[M+16n]が、式(1)及び(2)を満たす」のに対し、甲1発明は、「キシレン溶液」の保管工程を含まず、「式(1)及び式(2)」を満たすとされていない点。
なお、式(1)及び式(2)は、次のとおりである。
0.1≦(Ca[M+16n]/Ca[M])/(Cb[M+16n]/Cb[M])≦20 (1)
0<Ca[M+16n]/Ca[M]≦0.006 (2)

イ 判断
上記「(3)ア及びイ」で説示したとおり、甲2、甲3、甲6及び甲7の記載を参照したとしても、甲1発明において「キシレン溶液」の調製後に濾過及び保管工程を採用する動機を見出すことはできない。
また、上記「(3)ウ」で説示したとおり、甲7の記載を参照したとしても、甲1発明において、「式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体」の量を保管期間の目安として着目する動機を見出すことはできない。
以上のことから、本件特許発明5は、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(6)請求項6〜9について
本件特許発明6〜9は、請求項5を直接又は間接的に引用するものであるから、上記(5)と同様の理由により、甲1に記載された発明並びに甲2、甲3、甲6及び甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(7)特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人は令和4年7月7日付け意見書の「3(2)」の「2−1)」(第19頁〜第32頁)において、「特許権者が令和3年7月9日付け意見書で行った反論に対する意見」として、特許異議申立人による令和3年9月17日付け意見書(以下「先の意見書」という。)で述べた以下の「A)〜N)」を主張する。

(ア)上記主張のうち、「A)〜F)」の主張は要するに、「「濾過工程」を実施していない甲1発明において、インクの使用時までの期間に起こる溶質の析出や凝集、結晶化などの問題を解決するために甲第2号証に記載された「濾過工程」を採用することは自然な選択肢」である旨の主張(第21頁17行目〜20行目)にあるように、「甲1発明において、インクの使用時までの期間に起こる溶質の析出や凝集、結晶化などの問題」を前提とした主張である。
しかしながら、甲1発明は、「キシレンに、化合物H1および化合物G1(化合物H1/化合物G1=70重量%/30重量%)を3.5重量%の濃度で溶解させ、得られたキシレン溶液を用いて、正孔輸送層の上にスピンコート法により80nmの厚さで成膜」するものであって、「溶解させ」てから「成膜」するまでの「インクの使用時までの期間」は、「溶質の析出や凝集、結晶化などの問題」が起こるような期間ではない。すなわち、甲1発明は、「インクの使用時までの期間に起こる溶質の析出や凝集、結晶化などの問題」をそもそも内在していない。そして、甲1の記載には、そのような問題を生じさせてから濾過を行い保管工程を経てインクを使用する動機付けや示唆を見出すこともできない。
そうすると、特許異議申立人が先の意見書において主張するA)〜F)に係る主張を採用することはできない。

(イ)特許異議申立人は、上記「G)及びH)」において、<有機溶剤に対する溶解性>と<外部量子効率>との関係が当初明細書に記載されていない旨主張する。
しかしながら、上記「第3」の【請求項1】に記載されているとおり、本件特許発明1は、ホスト材料として、本件特許明細書の【0121】〜【0139】において、高分子化合物より好ましいとされる「低分子ホスト」を用いることが特定され、さらに、金属錯体として、【0110】に「有機溶剤への溶解性、及び、発光素子の外部量子効率が優れる」ことが記載されている「デンドロン」を用いることが特定されている。
以上によれば、当業者は<有機溶剤に対する溶解性>と<外部量子効率>との関係を本件特許明細書の記載から十分に認識できる。
したがって、上記主張は採用することはできない。

(ウ)特許異議申立人は、上記「I)」において、不純物と保管期間との関係について当初明細書に記載されていない旨主張する。
しかしながら、不純物が時間の経過と共に増加することは自明であって、上記「第3」の【請求項1】に記載のとおり、本件特許発明1は、不純物の量がある値以下であることを特定しており、保管期間に上限が設けられていることは明らかであるから、上記主張は採用することができない。

(エ)特許異議申立人は、上記「J)」において、本件特許発明1の「インク保管工程」における、「高分子量金属錯体の量」と「保管期間」について、甲第1号証及び甲第2号証との組み合わせから容易である旨主張する。
しかしながら、上記(ア)と同様に、特許異議申立人が主張する甲2の「濾過工程」は、それ以前に「溶質の析出や凝集、結晶化などの問題」が起こるような「インク使用時までの期間」があることが前提となっているが、甲1には、そもそも「インク使用時までの期間」を想定した記載や示唆はないから、甲1と甲2とを組み合わせる動機付けがない。
したがって、上記主張は採用することができない。

また、特許異議申立人は、上記「J)」において、本件特許発明の効果について特定の溶剤、ホスト及び金属錯体による効果である旨主張するが、上記「第3」の【請求項1】に記載のとおり、本件特許発明1は、ホスト化合物として低分子ホスト化合物、金属錯体の置換基としてデンドロンであることを特定している。そして、溶剤は通常用いられる種類のものであるところ、本件特許明細書の【0121】の低分子ホストが好ましいとの記載及び【0110】の溶解性及び外部量子効率の点から置換基としてデンドロンが好ましいとの記載から、当業者は本件特許発明1の構成が、外部量子効率の向上に寄与することは十分に認識することができる。
したがって、上記主張は採用することができない。

(オ)特許異議申立人は、上記「K)及びL)」において、進歩性違反を主張するが、上記(ア)〜(エ)のとおりである。

(カ)特許異議申立人は、上記「M)及びN)」において、高分子量金属錯体の量についての規定を、「調製直後および保管直後における、式(1−B)で表される金属錯体の量に対する高分子量金属錯体の含有率」[式(1)および式(2)]により規定しているが、特許権者は、この式(1)および式(2)による規定に基づく新たな反論は行っていない旨主張する。
しかしながら、上記「(3)ウ」で説示したとおり、甲7が想定する不純物と本件特許発明1の不純物とは、「分子量」で一部共通するものの、その化学構造が異なるものであることは明らかであり、また、甲1及び甲7の記載を参照しても「調製直後」及び「保管直後」における金属錯体の量を比較する動機付けや示唆を見出すことはできない。
したがって、上記主張は採用することができない。

イ 特許異議申立人は意見書の「3(2)」の「2−2)」(第32頁〜第38頁)において、「特許権者が令和4年5月31日付け意見書で行った反論に対する意見」として、以下の「O)〜R)」を主張する。

(ア)特許異議申立人は、上記「O)」において、i)本件特許発明1の金属錯体の特定事項が当初明細書の実施例で用いられている金属錯体1〜3に該当しないものであること、ii)当初明細書の実施例で用いられている「ホスト化合物2」が有する置換基「D3」は、「アリール基」という単純なものではなく「デンドロン」に相当する特殊なものであること、及び、iii)本件特許発明1の効果は、実施例からは何ら具体的に確認できないものであることから、特許権者の「本件訂正発明1の説明」が適切なものではない旨主張する。
しかしながら、上記「i)及びiii)」について、上記「第2」の「2(3)イ」で説示したとおり、実施例として明記はされていなくとも、本件特許明細書の【0030】、【0052】〜【0070】、【0054】【化19】等の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者は本件特許発明1に係る金属錯体の化学構造及びその効果を認識することができる。また、上記「ii)」について、上記「第2」の「2(3)ア」で説示したとおり、本件特許明細書の記載から「D3」が「アリール基」であることは認識できる。
したがって、上記主張は採用することができない。

(イ)特許異議申立人は、上記「P)」において、「甲1と甲6との関係」として、ホスト化合物として、甲6には「カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体等の低分子化合物」との記載がある点から、甲1と甲6とは共通の材料を用いた溶液であることから、甲1発明において、甲6に記載された「濾過工程」を採用することに動機付けがある旨主張する。
しかしながら、甲6は低分子化合物について、「カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体等の低分子化合物」との記載にとどまる。そして、ホスト化合物が異なる以上、調整後に発生する不純物もその程度も異なるから、甲1発明と甲6の溶液が両者を組み合わせる動機となり得るものはない。
したがって、上記主張は採用することができない。

また、特許異議申立人は、上記「P)」において、本件特許明細書の実施例で用いられている「ホスト化合物2」は、高分子量のデンドロンである旨主張するが、当該「ホスト化合物2」は、本件特許明細書の【0122】〜【0139】において「低分子ホスト」として低分子化合物に分類されるものであることが記載されていることに加え、【0139】【化38】(H−119)に記載の化学構造から、当業者は、当該化合物は通常、低分子量の化合物であると認識する。
したがって、上記主張はその前提に誤りがあるから採用することができない。

(ウ)特許異議申立人は、上記「Q)」において、「甲6による訂正発明の効果の予測性」について、甲6の「実施例9」と「実施例10」との比較から、有機電界発光素子の最大電流効率は、僅かであれ向上していることは確かである旨主張する。
確かに、甲6の「実施例9」と「実施例10」との比較においては、上記主張のとおりであるものの、上記「(3)イ及びウ」で説示したとおり、本件特許発明は甲1及び甲2、甲3、甲6及び甲7の記載から容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許発明1の効果(の予測可能性)は論ずるまでもない事項である。

(エ)特許異議申立人は、上記「R)」において、本件特許明細書において、本件特許発明1が特定する「式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16,32又は48大きい金属錯体」についての記載が、「(a)分子量増加金属錯体の化学構造」、「(b)分子量増加金属錯体が、どの段階で生成・増加・低減するのか」、「(c)不純物として「分子量が16,32又は48大きい金属錯体」を選定した理由」及び「この特定の不純物の含有量の「低減」により「外部量子効率」が向上できる作用機序」について、不十分かつ不明確なものであることを根拠に挙げて、特許権者の令和3年7月9日付け意見書37〜38頁における「式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16,32又は48大きい金属錯体」に基づいて保管期間の上限を定めることは、甲7の記載を参照した当業者であっても到底容易に想到し得たことではない。」との主張に反論している。
しかしながら、本件特許明細書における上記(a)〜(c)についての記載が十分であるか否かは、上記「(3)ウ」で説示した判断を左右するものではない。
したがって、上記主張は採用することができない。

4 甲1を主引用例とし、甲3及び甲5〜甲7を周知例とした場合の対比及び判断
(1)対比
本件特許発明1と甲1発明との対比は、上記「3(1)」と同様である。

(2)一致点及び相違点
本件特許発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、上記「3(2)ア及びイ」と同様である。

(3)判断
上記「3(3)ア」で説示した甲3及び甲6に加えて、甲5には「有機エレクトロルミネッセンス素子用の液状組成物の保管方法」(【0001】)として、「液状組成物」を製造後(【0152】、【0320】)、「遮光」下で「2週間」(【0153】、【0321】)保管してから、保管した液状組成物を用いて「成膜」すること(【0157】、【0325】)が記載されている。
しかしながら、上記甲3、甲5及び甲6の記載を参照しても、甲1発明において「キシレンに、化合物H1および化合物G1(化合物H1/化合物G1=70重量%/30重量%)を3.5重量%の濃度で溶解させ」てから、「得られたキシレン溶液を用いて、正孔輸送層の上にスピンコート法により80nmの厚さで成膜」するまでの間に、あえて保管期間を設けるほどの動機を見出すことはできない。
また仮に、当該保管期間を設けるとしても、上記「3(3)ウ」で説示したのと同様の理由で、「式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体」の量を保管期間の目安として着目する動機を見出すことはできない。
したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明並びに甲3及び甲5〜甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(4)請求項2〜4について
本件特許発明2〜4は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、甲1に記載された発明並びに甲3及び甲5〜甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(5)本件特許発明5〜9について
本件特許発明5についても、上記(3)と同様の理由で甲1に記載された発明並びに甲3及び甲5〜甲7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
また、請求項5を直接又は間接的に引用する本件特許発明6〜9についても同様である。

(6)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1を主引用例とし、甲3及び甲5〜甲7を周知例とした場合の理由に対して、明確な主張を行っていないが、意見書の「H)」の項(第26頁)において、「保管という行為自体、甲第3号証〜甲第6号証に開示されているように、非常に一般的な行為である」旨主張している。
しかしながら、上記(3)で説示したとおり、甲3〜甲6には、インクを保管することは記載されているものの、甲1発明においてあえて保管期間を設けるほどの動機付けを見出すことはできない。
したがって、上記主張を採用することはできない。


第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 特許法36条6項1号(サポート要件)について
特許異議申立人は、特許異議申立書の「(5)イ」(第23頁〜第29頁)において、「本件明細書の実施例1〜8において、発光素子の発光層に用いたときに外部量子効率に優れる膜の製造方法等を提供するとの課題の解決が確認できる化合物および金属錯体の組み合わせ」が実施例に記載された限られたものであること、「課題が解決できる作用機序(メカニズム)ついて何ら記載されていない」ことを主張する。
しかしながら、本件特許発明1は、ホスト化合物が「低分子ホスト」であるものに特定され、金属錯体の置換基として「デンドロン」であるものに特定されている。そして、本件特許明細書の【0121】及び【0110】の記載を参照すると、それらが溶解性や外部量子効率の向上に好ましいことが記載されており、当業者であれば、本件特許発明が本件発明の課題を解決すると当業者が認識できる範囲を超えないものであることを理解することができる。
したがって、上記主張は採用することができない。

2 特許法36条4項1号実施可能要件もしくは委任省令要件)について
特許異議申立人は、特許異議申立書の「(5)ウ」(第29頁〜第31頁)において、本件の請求項1及び請求項5に係る特許で特定された事項による、「保管期間」及び「保管後物性1〜3」は、1)本件明細書には、保管期間および保管後物性1〜3の技術的意味や、これらの事項により上記課題が解決できる作用機序(メカニズム)については何ら記載されていない点、及び、2)保管期間について、保管期限の下限値を「1週間以上」と規定することの臨界的意味が不明である点旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1は、「膜の製造方法」という「物を生産する方法の発明」であるところ、本件特許発明1が、実施可能要件を満たすか否かの判断基準は、「物を生産する方法の発明」について明確に記載されており、「その方法により物を生産できる」ように原材料、その処理工程及び生産物が記載されているか否かである。
その観点から、本件特許明細書を参照すると、【0122】〜【0139】、【0052】〜【0070】及び実施例7、8を参照すると、ホスト化合物、金属錯体、溶剤の原材料及びその化学構造が記載されており、それらを用いた溶液の調製工程及び成膜工程が記載されているところ、上記実施可能要件の判断基準を満たすと認識できる。
したがって、上記主張は採用することができない。

また、特許異議申立人の上記主張を参照すると、委任省令要件についての主張とも解されるが、本件特許明細書から、「保管期間および保管後物性1〜3」により、外部量子効率が向上するという技術的意味が記載されており、上記1で説示したとおり、本件特許発明1において特定されるものによる作用機序も記載されている。さらに、本件明細書の実施例7及び8(【表5】を参照すると、「保管期間」の下限を「1週間」とすることで、外部量子効率が1.06倍になっていることが示されている。なお、そもそも、実施可能要件を満たすために、本件特許発明において、保管期間の上限値に臨界的意義が必要とされる理由もない。
したがって、上記主張を採用することはできない。


第7 まとめ
本件特許の請求項1〜9に係る特許は、いずれも、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によって取り消すことはできない。
また、他に、本件特許の請求項1〜請求項9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1−B)で表される金属錯体と、式(H−2)で表される化合物と、有機溶媒とを含有するインクを調製するインク調製工程と、
前記インク調製工程で調製したインクを遮光下において1週間以上保管するインク保管工程と、
前記インク保管工程で保管され、前記式(1−B)で表される金属錯体の液体クロマトグラフィーにより求められる面積百分率値による含有量を100としたとき、前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の液体クロマトグラフィーにより求められる面積百分率値による合計含有量が0.6以下であるインクを用いて、塗布法により膜を形成する膜形成工程とを含む、
膜の製造方法。
【化1】



[式中、
Mは、イリジウム原子を表す。
n1は3であり、n2は0である。
A1−G1−A2は、アニオン性の2座配位子を表し、A1及びA2は、それぞれ独立に、炭素原子、酸素原子又は窒素原子を表し、これらの原子は環を構成する原子であってもよい。G1は、単結合、又は、A1及びA2とともに2座配位子を構成する原子団を表す。A1−G1−A2が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
E11B、E12B、E13B、E14B、E21B、E22B、E23B及びE24Bは、それぞれ独立に、窒素原子又は炭素原子を表す。E11B、E12B、E13B、E14B、E21B、E22B、E23B及びE24Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。E11Bが窒素原子の場合、R11Bは存在しない。E12Bが窒素原子の場合、R12Bは存在しない。E13Bが窒素原子の場合、R13Bは存在しない。E14Bが窒素原子の場合、R14Bは存在しない。E21Bが窒素原子の場合、R21Bは存在しない。E22Bが窒素原子の場合、R22Bは存在しない。E23Bが窒素原子の場合、R23Bは存在しない。E24Bが窒素原子の場合、R24Bは存在しない。
R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表すか、R11BとR12B、R12BとR13B、R13BとR14B、R11BとR21B、R21BとR22B、R22BとR23B、及び、R23BとR24Bは、それぞれ結合して、それぞれが結合する原子とともに芳香環を形成する。但し、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bからなる群から選ばれる少なくとも1つは、1価の複素環基であってデンドロンである。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R11BとR12B、R12BとR13B、R13BとR14B、R11BとR21B、R21BとR22B、R22BとR23B、及び、R23BとR24Bは、それぞれ結合して、それぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。
環R1Bは、窒素原子、炭素原子、E11B、E12B、E13B及びE14Bとで構成されるピリジン環又はジアジン環を表す。
環R2Bは、2つの炭素原子、E21B、E22B、E23B及びE24Bとで構成されるベンゼン環、ピリジン環又はジアジン環を表す。]
【化2】



[式中、
ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。
nH3は、1を表す。
LH1は、式(AA−4)で表される基を表し、この基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。]
【化3】



[式中、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す。複数存在するRは、各々、同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記インク保管工程が、0℃以上50℃以下の条件下で行われる、請求項1に記載の膜の製造方法。
【請求項3】
前記インク保管工程が、不活性ガス雰囲気下で行われる、請求項1又は2に記載の膜の製造方法。
【請求項4】
前記金属錯体(1−B)が、式(1−B1)で表される金属錯体、式(1−B2)で表される金属錯体又は式(1−B3)で表される金属錯体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜の製造方法。
【化4】







[式中、
M、n1、n2、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B、R24B及びA1−G1−A2は、前記と同じ意味を表す。
R15B、R16B、R17B及びR18Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。R15B、R16B、R17B及びR18Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項5】
式(1−B)で表される金属錯体と、式(H−2)で表される化合物と、有機溶媒とを含有するインクを調製するインク調製工程と、
前記インク調製工程で調製したインクを1週間以上保管する保管工程とを含むインクの保管方法であって、
前記インク調製工程における調製直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体の含有量をCb[M]、前記調製直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の合計含有量をCb[M+16n]、前記保管工程における保管直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体の含有量をCa[M]、前記保管直後のインク中の前記式(1−B)で表される金属錯体より分子量が16、32又は48大きい金属錯体の合計含有量をCa[M+16n]が、式(1)及び(2)を満たす、インクの保管方法。
0.1≦(Ca[M+16n]/Ca[M])/(Cb[M+16n]/Cb[M])≦20 (1)
0<Ca[M+16n]/Ca[M]≦0.006 (2)
【化5】



[式中、
Mは、イリジウム原子を表す。
n1は3であり、n2は0である。
A1−G1−A2は、アニオン性の2座配位子を表し、A1及びA2は、それぞれ独立に、炭素原子、酸素原子又は窒素原子を表し、これらの原子は環を構成する原子であってもよい。G1は、単結合、又は、A1及びA2とともに2座配位子を構成する原子団を表す。A1−G1−A2が複数存在する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
E11B、E12B、E13B、E14B、E21B、E22B、E23B及びE24Bは、それぞれ独立に、窒素原子又は炭素原子を表す。E11B、E12B、E13B、E14B、E21B、E22B、E23B及びE24Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。E11Bが窒素原子の場合、R11Bは存在しない。E12Bが窒素原子の場合、R12Bは存在しない。E13Bが窒素原子の場合、R13Bは存在しない。E14Bが窒素原子の場合、R14Bは存在しない。E21Bが窒素原子の場合、R21Bは存在しない。E22Bが窒素原子の場合、R22Bは存在しない。E23Bが窒素原子の場合、R23Bは存在しない。E24Bが窒素原子の場合、R24Bは存在しない。
R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表すか、R11BとR12B、R12BとR13B、R13BとR14B、R11BとR21B、R21BとR22B、R22BとR23B、及び、R23BとR24Bは、それぞれ結合して、それぞれが結合する原子とともに芳香環を形成する。但し、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bからなる群から選ばれる少なくとも1つは、アリール基又は1価の複素環基であって、デンドロンである。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B又はR24Bで表される基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B及びR24Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。R11BとR12B、R12BとR13B、R13BとR14B、R11BとR21B、R21BとR22B、R22BとR23B、及び、R23BとR24Bは、それぞれ結合して、それぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。
環R1Bは、窒素原子、炭素原子、E11B、E12B、E13B及びE14Bとで構成されるピリジン環又はジアジン環を表す。
環R2Bは、2つの炭素原子、E21B、E22B、E23B及びE24Bとで構成されるベンゼン環、ピリジン環又はジアジン環を表す。]
【化6】



[式中、
ArH1及びArH2は、それぞれ独立に、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。
nH3は、1を表す。
LH1は、式(AA−4)又は式(AA−14)で表される基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。]
【化7】



[式中、Rは、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表す。複数存在するRは、各々、同一でも異なっていてもよい。]
【請求項6】
前記保管工程が、遮光下で行われる、請求項5に記載のインクの保管方法。
【請求項7】
前記保管工程が、0℃以上50℃以下の条件下で行われる、請求項5又は6に記載のインクの保管方法。
【請求項8】
前記保管工程が、不活性ガス雰囲気下で行われる、請求項5〜7のいずれか一項に記載のインクの保管方法。
【請求項9】
前記金属錯体(1−B)が、式(1−B1)で表される金属錯体、式(1−B2)で表される金属錯体又は式(1−B3)で表される金属錯体である、請求項5〜8のいずれか一項に記載のインクの保管方法。
【化8】





[式中、
M、n1、n2、R11B、R12B、R13B、R14B、R21B、R22B、R23B、R24B及びA1−G1−A2は、前記と同じ意味を表す。
R15B、R16B、R17B及びR18Bは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は1価の複素環基を表し、これらの基はアルキル基、シクロアルキル基、アリール基及び1価の複素環基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。R15B、R16B、R17B及びR18Bが複数存在する場合、それらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-10-12 
出願番号 P2018-141011
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H05B)
P 1 651・ 537- YAA (H05B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 小濱 健太
関根 洋之
登録日 2019-12-06 
登録番号 6624250
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 膜の製造方法  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 三上 敬史  
代理人 清水 義憲  
代理人 中山 亨  
代理人 坂元 徹  
代理人 吉住 和之  
代理人 三上 敬史  
代理人 坂元 徹  
代理人 吉住 和之  
代理人 中山 亨  
代理人 清水 義憲  
代理人 長谷川 芳樹  

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