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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G06T
審判 全部申し立て 2項進歩性  G06T
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G06T
管理番号 1393048
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-05 
確定日 2022-10-17 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6737371号発明「情報処理装置、設備判定方法、コンピュータプログラム及び学習済モデルの生成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6737371号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕、5、6、7、8、9について訂正することを認める。 特許第6737371号の請求項1−9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6737371号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、平成31年3月26日に出願されたものであって、令和2年7月20日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行日令和2年8月5日)がされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和3年 2月 5日:特許異議申立人宮内七恵により本件の請求項1ないし9の特許に対する特許異議の申立て及び甲第1号証ないし甲第11号証の提出
同年 6月11日付け:取消理由通知書
同年 8月13日:特許権者による意見書の提出及び訂正請求
同年10月28日:特許異議申立人による意見書及び甲12号証ないし甲21号証の提出
令和4年 3月11日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月11日:特許権者による意見書の提出及び訂正請求

令和4年5月11日になされた訂正請求によって、令和3年8月13日になされた訂正請求(以下「先の訂正請求」という。)は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
以下、令和4年5月11日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。

第2 本件訂正について

1 訂正の趣旨及び訂正の内容

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「電気設備を含む画像を取得する取得部と、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と」と記載されているのを、
「電気設備に関する複数の機材を含む画像を取得する取得部と、
複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定した特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から、特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより、各機材に対応する所定数の前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルに、前記抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力して各機材の状態を判定する判定部と」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3〜4も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「前記特定部は、画像領域に電気設備が含まれていることに係る確信度、及び、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する、
請求項1に記載の情報処理装置」と記載されているのを、
「電気設備を含む画像を取得する取得部と、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と
を備え、
前記特定部は、画像領域に電気設備が含まれていることに係る確信度、及び、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する、情報処理装置」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3〜4も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に
「前記特定部は、前記取得部が取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う、
請求項3に記載の情報処理装置」と記載されているのを、
「電気設備を含む画像を取得する取得部と、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と
を備え、
前記特定部は、前記取得部が取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
前記判定部は、前記特定部が付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、
前記特定部は、前記取得部が取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う、情報処理装置」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に
「前記抽出部が抽出した画像領域の大きさを調整する調整部を備え、
前記判定部は、前記調整部が大きさを調整した画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力する、
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の情報処理装置」と記載されているのを、
「電気設備を含む画像を取得する取得部と、
入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果及び各電気設備の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から、特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより所定数の前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と、
前記抽出部が抽出した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域の大きさを調整する調整部とを備え、
前記判定部は、前記調整部が大きさを調整した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域を特定した順位に従って前記第2の学習済モデルへ入力する、
情報処理装置」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に
「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する、」と記載されているのを、
「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定し、
取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
順位付けした順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済みモデルへ入力し、
取得された画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う、」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に
「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する処理を実行させる、」と記載されているのを、
「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定し、
取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
順位付けした順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済みモデルへ入力し、
取得された画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う処理を実行させる、」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に
「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像から前記画像領域を特定し、
特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
抽出した前記画像領域及び該画像領域に含まれる電気設備の状態を対応付けた教師データに基づいて、入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを生成する、」と記載されているのを、
「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する前記画像領域を、複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けして特定し、
順位付けされて特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
順位付けされた前記画像領域及び該画像領域に含まれる電気設備の状態を対応付けた教師データに基づいて、前記第1の学習済みモデルによる特定結果から順位付けされて特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力した場合に、入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを生成する、」に訂正する。

(8)別の請求単位とする求め
訂正後の請求項5及び6については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。

2 訂正の適否についての判断

(1)一群の請求項
訂正前の請求項1〜6について、請求項2〜6は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
従って、訂正前の請求項1〜6に対応する訂正後の請求項1〜6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

(2)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1の
(i)「電気設備を含む画像を取得する取得部」を「電気設備に関する複数の機材を含む画像を取得する取得部」と訂正すること、
(ii)「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデル」を、「複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定した特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデル」と訂正すること、
(iii)「前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部」を「前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から、特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより、各機材に対応する所定数の前記画像領域を特定する特定部」と訂正すること、
(iv)「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部」を「入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルに、前記抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力して各機材の状態を判定する判定部」と訂正すること、
により、
(i’)取得される画像は電気設備に関する複数の機材を含むこと、
(ii’)、(iii’)第1の学習済モデルは、複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており、複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定した特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力するものであり、特定部は当該第1の学習済モデルを用いて、特定済みの機材毎の画像領域の確信度を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより、各機材に対応する所定数の画像領域を特定すること、
(iv’)第2の学習済モデルは入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力するものであり、判定部は、第2の学習済モデルに、抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力して各機材の状態を判定すること、
を特定するように限定したものである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1について、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、当該訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項3、4についても同様のことがいえる。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1のうち上記ア(i’)に関して、例えば、【0011】には「異常判定システムは、例えば道路上に設置された電柱3、この電柱に設けられた各種の機材、及び、複数の電柱3の間に架け渡された電線等の電気設備を対象として異常判定を行う。」との記載が、【0017】には「サーバ装置1が判定する電気設備の異常の有無には、電柱3、機材及び電線等の電気設備自体の異常の有無の他に、例えば電柱3の機材の上に作られた鳥類(動物)の営巣の有無、又は、複数の電柱3の間に架け渡された電線と周辺に植えられた樹木との接触の有無等が含まれ得る。」、【0054】には「図7の上段にはカメラ21が撮像した電柱3の画像から領域特定モデル12bにより5つの画像領域が特定された例を示している。本例では、電柱3に設けられた5つの放電クランプについて画像領域が特定されており、図中に太線の矩形枠として画像領域が示されている。」との記載があり、「電気設備」は複数の機材から構成されているものであるといえるから、取得される画像は電気設備に関する複数の機材を含むことが裏付けられているといえる。
したがって、上記ア(i’)に関する事項は願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に裏付けられているといえる。

訂正事項1のうち上記ア(ii’)、(iii’)に関して、【0021】には「領域特定モデル12b・・・は、予め教師データを用いた・・・深層学習等がなされた学習済モデルである」、【0034】には、「領域特定モデル12bは、画像の入力を受け付ける入力層と、画像の特徴量を抽出する中間層と、画像に含まれる電気設備の画像領域の特定結果及び当該電気設備の異常の有無を示す情報を出力する出力層とを有するニューラルネットワークとして構成される。本実施の形態において領域特定モデル12bには、ニューラルネットワークとしてCNN(Convolution Neural Network)の構成が採用されている。」との記載があり、第1の学習済モデルは、異常の有無を問わず、画像に含まれる電気設備の画像領域の特定結果を出力することを前提としている。
その上で、【0037】には、「領域特定モデル12bの学習処理において、サーバ装置1は、電柱3、電柱3に設けられた機材、及び、電線等の電気設備を撮像した複数の撮像画像と、各画像における電気設備の異常箇所を示す情報とが対応付けられた教師データを用いる。教師データは、例えば図3に示すように、電柱3等の電気設備を含む画像に対し、異常箇所に該当する画像領域の座標範囲と、異常の内容とがラベル付けされたデータである。なお、図3ではラベル付けされた画像領域を太線の矩形枠で図示している。また異常内容の一例として、「異常箇所:放電クランプ、種類:焦げ目、ランクA」が示されている。」との記載がある。
ここで、学習済モデルの学習に、複数の機材を含む電気設備を撮像した画像を入力として、各機材(その一例として放電クランプがある)の中で異常が検出された画像領域を特定する出力を得る以上、学習済モデルを用いた処理においても同様の入力から同様の出力を得るものといえる。
この事項を踏まえると、上記記載から、第1の学習済モデルは、複数の機材(電柱3、電柱3に設けられた機材、電線等であり、放電クランプもそれらに含まれる)を含む電気設備を撮像した画像を入力とし、(異常の有無を問わない)電気設備に関する各機材(その一例として放電クランプがある)の画像領域の特定結果と、当該電気設備に関する各機材の異常の有無及び異常の種類、程度を示す情報を出力するものであって、CNN(畳み込み層を有するニューラルネットワーク)を用いて深層学習されているものであることがいえる。
さらに、【0051】には、「なお領域特定モデル12bは、画像領域の特定結果と共に、この特定結果の確信度を出力する。また領域特定モデル12bは、異常の有無の判定結果と共に、この判定結果の確信度を出力する。サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力するこれらの情報に基づいて、電気設備が含まれる画像領域の最終的な特定を行う。例えば、サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力した特定結果の確信度が低い場合、又は、異常有無の判定結果の確信度が低い場合等には、領域特定モデル12bが出力した画像領域の特定結果を破棄して次段の処理を行わなくてもよい。また領域特定モデル12bが複数の画像領域を特定した場合、サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力する情報に基づいて、画像領域の順位付けを行う。」との記載があり、第1の学習済モデルが各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力するものであること、この確信度を比較して、機材毎の画像領域を順位付けすることで、所定数の画像領域を特定すること、が読み取れる。
したがって、上記ア(ii’)、(iii’)に関する事項は願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に裏付けられているといえる。

訂正事項1のうち上記ア(iv’)に関して、【0030】には「異常判定部11eは、記憶部12に記憶された異常判定モデル12cを用いて、領域抽出部11cにより抽出されて調整部11dにより大きさが調整された画像領域に含まれる電気設備の異常の有無を判定する処理を行う。」、【0031】には「領域抽出部11cが複数の画像領域を抽出した場合、異常判定部11eは、領域特定部11bが付した順位に従って複数の画像領域を異常判定モデル12cへ入力し、複数の判定結果を得る。」との記載があり、上記ア(ii’)(iii’)に関して、領域判定部11cにより抽出された画像領域とは、電気設備に関する各機材の画像領域であることを踏まえると、異常判定モデル12cは、入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力するものといえる。
また、【0057】には「サーバ装置1は、複数の画像領域に対する順位付けを行った後、最も順位が高い画像領域から順番に異常判定モデル12cを用いた異常判定を行う。」との記載があり、異常判定モデル12cは抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力して各機材の状態を判定するものといえる。
したがって、上記ア(iv’)に関する事項は願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に裏付けられているといえる。

以上から、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
上記アから明らかなように、訂正事項1に係る訂正は、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項3及び4の記載について訂正するものではなく、請求項3及び4のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。

(3)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が訂正前の請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は、請求項間の引用関係を解消する以外に何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
また、訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載以外に、訂正前の請求項3及び4の記載について訂正するものではなく、請求項3及び4のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。

(4)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項5の記載が訂正前の請求項3の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用する請求項3を引用する請求項5を独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること及び実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、請求項間の引用関係を解消する以外に何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(5)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正事項4は、
(v)訂正前の請求項6の記載が訂正前の請求項1から5のいずれか1項の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用する請求項6を独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であり、
さらに、
(vi)「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデル」を、「入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果及び各電気設備の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデル」と訂正すること、
(vii)「前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部」を「前記取得部が取得した画像から、特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより所定数の前記画像領域を特定する特定部」と訂正すること、
(viii)「抽出部が抽出した画像領域の大きさを調整する調整部」における「画像領域の大きさ」を、「電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域の大きさ」と訂正すること、
(ix)「調整部が大きさを調整した画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力する」「判定部」において、(viii)により訂正された「電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の」画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力するにあたり、「特定した順位に従って」入力する、ことを特定する訂正であり、
これにより、
(vi’)入力された画像は複数の電気設備に対応する画像領域を含むこと、及び、第1の学習済モデルは、複数の電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果及び各電気設備の画像領域の特定結果の確信度を出力すること、
(vii’)特定部は当該第1の学習済モデルを用いて、特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより、所定数の画像領域を特定すること、
(viii’)調整部は、特定部が順位付けした後に、抽出部が抽出した、電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域の大きさを調整すること、
(ix’)判定部は、第2の学習済モデルに、電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域を特定した順位に従って入力して電気設備の状態を判定すること、
を特定するように限定したものであるから、訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項6について、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものでもある。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内であること
まず、訂正事項4のうち、上記ア(v)に関する訂正は、請求項間の引用関係を解消する以外に何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

次に、訂正事項4のうち、上記ア(vi)、(vii)、(viii)に関して、【0027】には「画像中に複数の電気設備が写されている場合、領域特定モデル12bは複数の画像領域を特定する。この場合に領域特定部11bは、特定された複数の画像領域に対して順位付けを行う。」、【0028】には「領域抽出部11cは、領域特定部11bが特定した画像領域を、画像取得部11aが取得した画像(即ち、領域特定部11bに対して入力された画像)から抽出する処理を行う。」、【0029】には「調整部11dは、領域抽出部11cが抽出した画像領域に対して大きさを調整する処理を行う。」、との記載がある。
そうすると、上記記載から、領域特定モデル12bにより特定された複数の電気設備に対応する画像領域に対して、領域特定部11bにより電気設備毎の画像領域の順位付けがなされて特定され、領域抽出部11cによりこれら特定された画像領域を抽出し、調整部11dによりこれらの画像領域に対して大きさを調整することがいえる。
また、上記(2)イにおいても示したが、【0051】には、「なお領域特定モデル12bは、画像領域の特定結果と共に、この特定結果の確信度を出力する。また領域特定モデル12bは、異常の有無の判定結果と共に、この判定結果の確信度を出力する。サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力するこれらの情報に基づいて、電気設備が含まれる画像領域の最終的な特定を行う。例えば、サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力した特定結果の確信度が低い場合、又は、異常有無の判定結果の確信度が低い場合等には、領域特定モデル12bが出力した画像領域の特定結果を破棄して次段の処理を行わなくてもよい。また領域特定モデル12bが複数の画像領域を特定した場合、サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力する情報に基づいて、画像領域の順位付けを行う。」との記載があり、第1の学習済モデルが各電気設備の画像領域の特定結果の確信度を出力するものであること、この確信度を比較して、電気設備毎の画像領域を順位付けすることで、所定数の画像領域を特定すること、が読み取れる。
そうすると、領域特定部11bにより特定された画像領域は、電気設備毎の画像領域を順位付けすることで、所定数の画像領域として特定されたものであるといえる。
以上のことから、上記ア(vi)、(vii)、(viii)に関する事項は、願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に裏付けられているといえる。

最後に、訂正事項4のうち、上記ア(ix)に関して、【0030】には「異常判定部11eは、調整部11dが大きさを調整した画像領域を異常判定モデル12cへ入力し、電気設備の異常の有無の判定結果を得る。」、【0031】には「領域抽出部11cが複数の画像領域を抽出した場合、異常判定部11eは、領域特定部11bが付した順位に従って複数の画像領域を異常判定モデル12cへ入力し、複数の判定結果を得る。」という記載があり、異常判定部11eは、上記ア(viii)の調整部が大きさを調整した画像領域を、特定した順位に従って前記第2の学習済モデルへ入力するものといえる。
したがって、上記ア(ix)に関する事項は願書に添付した明細書中の発明の詳細な説明に裏付けられているといえる。

以上を総合すると、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項4に係る訂正のうち上記(vi)ないし(ix)は、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
加えて、訂正事項4に係る訂正のうち上記(v)は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であるところ、訂正事項4は、上記(vi)ないし(ix)を除き、請求項間の引用関係を解消する以外に何ら実質的な内容の変更を伴うものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

以上を総合すると、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(6)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項7に対して「取得した画像に含まれる電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を第2の学習済モデルへ入力するものであり、当該順位付けは、取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う」という事項を追加することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、当該訂正事項5は、訂正前の請求項7について、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5に関して、【請求項3】には「前記特定部は、前記取得部が取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、前記判定部は、前記特定部が付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力する」、【請求項5】には「前記特定部は、前記取得部が取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う」という記載があり、また、【0027】には「画像中に複数の電気設備が写されている場合、領域特定モデル12bは複数の画像領域を特定する。この場合に領域特定部11bは、特定された複数の画像領域に対して順位付けを行う。」、「領域特定部11bは、異常があると判定された電気設備に対応する画像領域に対して所定の位置関係にある画像領域、例えば一列に並んだ連続的な画像領域に、異常ありの画像領域に次ぐ高順位を付す。」、【0028】には「領域抽出部11cは、領域特定部11bが特定した画像領域を、画像取得部11aが取得した画像(即ち、領域特定部11bに対して入力された画像)から抽出する処理を行う。」、【0031】には「領域抽出部11cが複数の画像領域を抽出した場合、異常判定部11eは、領域特定部11bが付した順位に従って複数の画像領域を異常判定モデル12cへ入力し、複数の判定結果を得る。」という記載があることから、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項5に係る訂正は、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(7)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正事項5と同様に、訂正前の請求項8に対して、「取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を第2の学習済モデルへ入力するものであり、当該順位付けは、取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う」という事項を追加することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、当該訂正事項6は、訂正前の請求項8について、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6に関しては、訂正事項5と同様に、【請求項3】、【請求項5】、【0027】、【0028】、【0031】の記載があることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項6に係る訂正は、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(8)訂正事項7
ア 訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項9の
(x)「第1の学習済モデルを用いて、取得した画像から前記画像領域を特定し」を、「第1の学習済モデルを用いて、取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する前記画像領域を、複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けして特定し」と訂正すること、
(xi)「特定した前記画像領域」を「順位付けされて特定した前記画像領域」と訂正し、「前記画像領域及び」を「順位付けされた前記画像領域及び」と訂正すること、
(xii)「教師データに基づいて、入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデル」を「教師データに基づいて、前記第1の学習済みモデルによる特定結果から順位付けされて特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力した場合に、入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデル」と訂正すること、
により、
(x’)第1の学習済モデルを用いて、取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する前記画像領域を、複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けして特定し、順位付けされた順に特定した前記画像領域を取得した画像から抽出すること、
(xi’)「(特定した)前記画像領域」が順位付けされたものであること、
(xii’)第2の学習済モデルは「前記第1の学習済みモデルによる特定結果から順位付けされて特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力した場合に」判定結果を生成するものであること、
を特定する事項を追加することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであり、当該訂正事項7は、訂正前の請求項9について、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7もまた訂正事項5と同様に、【請求項3】、【請求項5】、【0027】、【0028】、【0031】の記載があることから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アから明らかなように、訂正事項7に係る訂正は、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。

(9)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項5及び6については、上記訂正事項3、4のとおり、訂正を認めることから、一群の請求項〔1〜6〕の他の請求項〔1、2、3、4〕とは別途訂正することを認める。

(10)訂正要件のむすび
以上のとおり、本件訂正請求の訂正事項1、5ないし7は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的としており、訂正事項2、3は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的としており、訂正事項4はその両者を目的としており、かつ、同条第4項、及び第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合している。
また、訂正後の請求項5、6については、上記訂正事項3、4のとおり、訂正を認めることから、別の訂正単位とすることを認める。
したがって、特許請求の範囲の請求項の記載を、訂正事項1ないし7のとおり、訂正後の請求項〔1、2、3、4〕、5、6、7、8、9について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は適法になされたものであり、本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下、「本件訂正発明1ないし9」という。)は、それぞれ、本件訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された次の事項により特定される以下のとおりのものである。
ここで、本件訂正発明1ないし9の各構成には、AないしR、A2ないしD2、B6、A7ないしE7、H7、I7、N7、A8ないしD8、H8、I8、N8、SないしXの符号を当審において付した。以下、構成Aないし構成X等という。

「【請求項1】
A 電気設備に関する複数の機材を含む画像を取得する取得部と、
B 複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定した特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から、特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより、各機材に対応する所定数の前記画像領域を特定する特定部と、
C 前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
D 入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルに、前記抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力して各機材の状態を判定する判定部と
E を備える、情報処理装置。

【請求項2】
A2 電気設備を含む画像を取得する取得部と、
B2 入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部と、
C2 前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
D2 入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と
を備え、
F 前記特定部は、画像領域に電気設備が含まれていることに係る確信度、及び、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する、
G 情報処理装置。

【請求項3】
H 前記特定部は、前記取得部が取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
I 前記判定部は、前記特定部が付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力する、
J 請求項1又は請求項2に記載の情報処理装置。

【請求項4】
K 前記第1の学習済モデルは、画像領域の特定結果の確信度を出力し、
L 前記特定部は、各画像領域の確信度に基づいて順位付けを行う、
M 請求項3に記載の情報処理装置。

【請求項5】
A2 電気設備を含む画像を取得する取得部と、
B2 入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部と、
C2 前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
D2 入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と
を備え、
H 前記特定部は、前記取得部が取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
I 前記判定部は、前記特定部が付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、
N 前記特定部は、前記取得部が取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う、
O 情報処理装置。

【請求項6】
A2 電気設備を含む画像を取得する取得部と、
B6 入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果及び各電気設備の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から、特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより所定数の前記画像領域を特定する特定部と、
C2 前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
D2 入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と、
P 前記抽出部が抽出した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域の大きさを調整する調整部とを備え、
Q 前記判定部は、前記調整部が大きさを調整した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域を特定した順位に従って前記第2の学習済モデルへ入力する、
R 情報処理装置。

【請求項7】
A7 電気設備を含む画像を取得し、
B7 入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像から前記画像領域を特定し、
C7 特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
D7 入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定し、
H7 取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
I7 順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、
N7 取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う、
E7 設備判定方法。

【請求項8】
(E8) コンピュータに、
A8 電気設備を含む画像を取得し、
B8 入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像から前記画像領域を特定し、
C8 特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
D8 入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定し、
H8 取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
I8 順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、
N8 取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う処理を実行させる、
E8 コンピュータプログラム。

【請求項9】
S 電気設備を含む教師用画像を取得し、
T 入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する前記画像領域を、複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けして特定し、
U 順位付けされて特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
V 順位付けされた抽出した前記画像領域の大きさを調整し、
W 大きさを調整した抽出した前記画像領域及び該画像領域に含まれる電気設備の状態を対応付けた教師データに基づいて、前記第1の学習済みモデルによる特定結果から順位付けされ
て特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力した場合に、入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを生成する、
X 学習済モデルの生成方法。」

第4 取消理由通知(決定の予告)の要旨
令和3年8月13日になされた先の訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る特許(以下、それぞれ、「先の訂正後の請求項1」ないし「先の訂正後の請求項9」という。)に対して、当審が令和4年3月11日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

進歩性)先の訂正後の請求項1、3、4及び6並びに7、8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明のうちの甲1発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、請求項1、3、4及び6並びに7、8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
また、先の訂正後の請求項9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明のうちの甲1発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、請求項9に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2018− 74757号公報
甲第2号証:特開2018−107759号公報(周知技術を示す文献)
甲第4号証:特開2015−116916号公報(周知技術を示す文献)
甲第6号証:特開2019− 8460号公報(周知技術を示す文献)
甲第12号証:Krizhevsky, A., et al., "ImageNet Classification with Deep Convolutional Neural Networks", Proc. of the 25th Int. Conf. on Neural Information Processing Systems, 2012年12月,Vol.1(周知技術を示す文献)
甲第13号証:Szegedy, C., et al., "Going deeper with convolutions", arXiv:1409.4842, 2014年9月(周知技術を示す文献)
甲第17号証:特開2018−179786号公報(周知技術を示す文献)
甲第18号証:特開2016− 65809号公報(周知技術を示す文献)

第5 特許異議申立時に提出された甲号証及び甲号証に記載された発明について

1 甲第1号証について
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証である特開2018−74757号公報には次の記載がある。(なお、以降の下線は、強調のために当審で付したものである。以下同様。)

「【0011】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。
図1及び図2は、本実施形態における巡視点検システム1の構成を示すブロック図である。本実施形態における巡視点検システム1は、例えば発電所や変電所から送電するための送電設備(送電線、鉄塔)17について、通常時あるいは事故発生時において航空機、例えば無人航空機(以下、ドローン14と称する)を利用して、巡視点検するためのシステムである。巡視点検システム1は、ドローン14と、ドローン14に搭載されたカメラにより撮影された画像データをもとに、送電設備17に含まれる複数の異なる被点検物(例えば、架空地線、送電線、碍子、閃絡表示器、アークホーン、鉄塔、鉄塔基礎コンクリートなど)に生じた異常箇所を検出し、この検出結果を巡視点検結果報告として記録する巡視点検制御システム2により構成される。本実施形態では、巡視点検制御システム2は、例えば情報処理装置10とネットワーク15を介して接続される管理装置12により構成する。ただし、巡視点検制御システム2を1つの装置として実現することも可能である。また、管理装置12は、クラウドコンピューティングにより実現されるものとし、ネットワーク15(インターネット)を介して接続された1台のサーバ、あるいは複数のサーバが協働して動作することで実現されても良い。
・・・
【0014】
ドローン14は、情報処理装置10により設定される送電設備17を巡回するためのフライトプラン(飛行制御データ)をもとに、GNSS(Global Navigation Satellite System))を利用して生成される位置データ等、例えばGPS(Global Positioning System)衛星16から受信されるGPS信号から生成する位置データ等を利用して自律飛行し、巡視点検対象とする送電設備17を撮影して画像データを記憶する。」

「【0023】
図4は、本実施形態における情報処理装置10において、プロセッサ10aにより巡視点検制御プログラムを実行することにより実現される機能構成を示すブロック図である。
【0024】
情報処理装置10は、巡視点検制御プログラムに基づいて、例えば航行管理部20、取得データ整理管理部21、巡視点検管理部22の機能を実現する。
・・・
【0028】
取得データ整理管理部21は、ドローン14から取得される取得データ(画像データ(動画像、静止画像)、位置データ等を含む)の整理/管理をするもので、学習モデル記憶部21a、検出対象指示入力部21b、異常箇所検出部21c、取得データ記憶部21d、画像確認部21e、異常箇所表示部21f、異常箇所記憶部21g、確認指示入力部21h、確認データ記憶部21k、及び異常箇所画像データ記憶部21mを含む。
・・・
【0031】
異常箇所検出部21cは、取得データ記憶部21dに記憶された取得データから、学習モデル21aに記憶された学習モデル(被点検物の異常箇所の特徴)をもとにした画像処理により、検出対象指示入力部21bにより入力された検出対象の指示に応じた異常箇所を検出する。」

「【0055】
図7は、本実施形態における管理装置12において、プロセッサにより学習モデル生成プログラムを実行することにより実現される機能構成を示すブロック図である。
管理装置12は、学習モデル生成プログラムに基づいて、データ記憶部40a(異常箇所画像データ40b、学習用画像データ40c、教示メタデータ40d、検証画像データ40e)、学習画像読み込み部40f、教示メタデータ読み込み部40g、エッジ切り出し部40h、隣接正常画像探索部40k、正常画像/異常画像組み合わせ制御部40m、類似画像生成部40n、学習済みモデル管理部40p、検証画像読み込み部40q、推論実施部40r、指標/条件関連記憶部40s、関連対応部40t、問い合わせ部40u、学習モデル記憶部40vの機能を実現する。
【0056】
次に、管理装置12により学習モデルを生成する学習モデル生成処理について説明する。図8は、本実施形態における管理装置12により実行される学習モデル生成処理を説明するためのフローチャートである。以下の説明では、送電設備17に含まれる架空地線あるいは送電線に生じるアーク痕を検出対象とする異常箇所とし、この異常箇所を検出するための学習モデルを生成する場合を例にして説明する。他の被点検物に生じる異常箇所を検出するための学習モデルについても同様にして、それぞれの被点検物の異常箇所に応じた学習モデルが生成されるものとして詳細な説明を省略する。」

「【0059】
異常箇所画像データ40bは、情報処理装置10及びドローン14を用いて、実際に被点検物に対する巡視点検をすることより取得された異常箇所の実画像データである。異常箇所画像データ40bは、ドローン14により撮影された画像データから、異常箇所であること及び異常種類が作業員等によって確認された画像データが用いられる。
【0060】
学習用画像データ40cは、擬似的に付加した異常/劣化の状態を撮影した学習用疑似画像データである。学習用画像データ40cは、例えば、素線が切れた状態、送電線に炭がついた状態、炭がとれて送電線が光った(光沢)状態などを工具等で送電線に対して付加し、この送電線を撮影することにより生成される。
【0061】
教示メタデータ40dは、異常箇所画像データ40b及び学習用画像データ40cに対して作業員等の操作により指示(教示)された、類似画像(学習モデル)を生成するために必要なデータである。教示メタデータ40dには、例えば画像中の被点検物を含む領域、異常箇所に相当する部分(異常画像)を含む領域、異常/劣化(異常種類)等の種別、検出対象と区別する領域(処理対象外とする領域)などを示すデータが含まれる。」

「【0068】
エッジ切り出し部40hは、学習画像読み込み部40fにより読み込まれた学習用画像データ40cに対して、教示メタデータ読み込み部40gにより読み出された教示メタデータ40dを利用し、例えばエッジ検出の画像処理手法を用いて送電線の輪郭を切り出す(ステップA2)。すなわち、エッジ切り出し部40hは、教示メタデータ40dが示す学習用画像中の送電線の全体を含む領域から送電線に相当する領域を切り出す。」

「【0070】
次に、隣接正常画像探索部40kは、教示メタデータ40dが示す異常箇所に相当する領域、すなわちアーク痕等の異常箇所の部分(異常画像領域)を設定し(ステップA3)、異常画像領域をもとに被点検物の画像(送電線輪郭内)中の異常画像の周辺にある複数の正常画像領域を探索する(ステップA4)。」

「【0075】
図10では、前述した優先度に従って、異常画像の領域56の左下あるいは右上に位置する正常画像の領域58が探索された例を示している。図11では、前述した優先度に従って、異常画像の領域56の左、下に正常画像の領域58が探索され、さらに探索された領域58の左に隣接する正常画像の領域58が探索されている。
なお、図9〜図11に示す例では、領域56,58を正方形として説明しているが長方形であっても良い。また、隣接正常画像探索部40kは、被点検物(送電線50)の画像から抽出可能な全ての正常画像を抽出しても良いし、正常画像/異常画像組み合わせ制御部40mの処理において必要とする予め決められた枚数分としても良い。
・・・
【0077】
類似画像生成部40nは、ニューラルネットワークを活用したディープラーニング(深層学習)の技術を利用し、正常画像/異常画像組み合わせ制御部40mにより設定された正常画像と異常画像とを組み合わせる割合に応じて、隣接正常画像探索部40kにより探索された複数の正常画像と、教示メタデータ40dが示す異常画像とを組み合わせ(ステップA6)、被点検物に生じる異常/劣化の状態を表す疑似画像(類似画像)を生成する(ステップA7)。正常画像と異常画像を組み合わせた疑似画像は、例えば既存の画像処理方法を用いて生成することができる。」

「【0082】
学習済みモデル管理部40pは、類似画像生成部40nにより生成された正常画像と異常画像の割合別の類似画像を学習する(ステップA9)。すなわち、学習済みモデル管理部40pは、ディープラーニングにより生成された類似画像を、類似画像を生成した条件、例えば異常画像と正常画像とを組み合わせた割合などの条件(生成画像条件)と対応づけて、学習モデル記憶部40vに記憶/管理する。
・・・
【0084】
学習済みモデル管理部40pにより類似画像(学習モデル)が学習されると、推論実施部40rは、検証画像読み込み部40qによってデータ記憶部40aから検証画像データ40eを読み込ませ(ステップA10)、検証画像データ40e(検証画像)に対する学習モデルを用いた認証の精度(認識精度)を表す指標を推論する(ステップA11)。すなわち、学習済みモデル管理部40pは、例えば異常箇所を含む画像と異常箇所を含まない画像とが混在する複数の検証画像に対して、検証画像に含まれる異常箇所の異常種類に対して生成された学習モデルを用いて異常箇所の検出(認証)処理を実行する。ここで、推論実施部40rは、類似画像を生成した生成画像条件(異常画像と正常画像とを組み合わせた割合)が異なる学習モデルのそれぞれを用いて、異常箇所の検出(認証)処理を実行することで、生成画像条件別の認証精度の指標を推論する。」

「【0097】
このようにして、本実施形態における管理装置12では、異常/劣化等の検出対象とする異常画像とその画像の近傍の正常画像とを用いて、ディープラーニング(深層学習)の技術を利用して類似画像を効率的に精度良く自動生成し、情報処理装置10における異常箇所検出処理に用いる学習モデルを生成することができる。」

「【0107】
図18、図19及び図20には、送電設備17に設けられる被点検物の一例を示している。図18は、1つの鉄塔17aを示している。鉄塔17aには、通常、架空地線17b、3本の送電線17c,17d,17eが架設されている。送電線17c,17d,17eは、それぞれ碍子17hを介して、鉄塔17aに架設されている。図19は、碍子17hの一例を示している。碍子17hには、鉄塔17aに落雷があった場合に、碍子17hが破壊されるのを防ぐためにアークホーン17gが設けられている。また、鉄塔17aには、鉄塔17aあるいは架空地線17bに落雷があった場合に、落雷があったことを通知するための閃絡表示器17fが装着されている。図20には、閃絡表示器17fの一例を示している。図20(A)は、通常時の閃絡表示器17fの状態を示し、図20(B)は、鉄塔17aに落雷があった場合の閃絡表示器17fを示している。図20(B)に示すように、閃絡表示器17fは、鉄塔17aあるいは架空地線17bに落雷があった場合、鉄塔17aに流れる電流により表示器本体17f1から蓋17f2が開き、内部に収納されていた表示布17f3が露出される。
【0108】
管理装置12では、前述した送電線に生じる異常状態に対する学習モデルと同様にして、アークホーン17g、碍子17h、閃絡表示器17fに対する学習モデルを作成することで、これらの被点検物についても、ドローン14により撮影される画像から検出することができる。例えば、アークホーン17gについては、落雷によって生じるアーク痕を検出可能な学習モデルが生成される。碍子17hについては、落雷によって生じる破損(亀裂)を検出可能な学習モデルが生成される。」

「【0120】
例えば、全てボタン71が選択された場合、異常箇所検出部21cは、指定された巡回/点検ルートにおいてドローン14により撮影される全ての被点検物を検査対象として、全ての被点検物のそれぞれを検出するための学習モデルを設定する(ステップC3)。
【0121】
同様にして、例えばアーク痕ボタン72が選択された場合、異常箇所検出部21cは、アーク痕(素線切れ、炭付着、光沢の各カテゴリを含む)を検出対象として、アーク痕(素線切れ、炭付着、光沢)を検出するための学習モデルを設定する(ステップC3)。」

「【0126】
図26は、本実施形態における異常箇所検出処理を示すフローチャートである。
異常箇所検出部21cは、取得データ記憶部21dに記憶された取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出し、その領域から異常画像候補領域を検出する。すなわち、被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分を検出する。異常箇所検出部21cは、異常画像候補領域の画像データについて、被点検物に生じる異常種類の特徴を示す学習モデルを用いて、検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定する(ステップD2)。」

(2)甲1発明
上記(1)の記載事項から、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明1」、「甲1発明2」という。以下、これらを総称して「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。(甲1発明1の各構成には、a1ないしf1の符号を、甲1発明2の各構成には、a2ないしk2の符号を、それぞれ、当審において付した。以下、「構成a1」ないし「構成f1」等という。また、各構成の末尾に、対応する記載事項の段落番号を付した。)。

(甲1発明1)
a1 ドローン14と、ドローン14に搭載されたカメラにより撮影された画像データをもとに、送電設備17に含まれる複数の異なる被点検物(例えば、架空地線、送電線、碍子、閃絡表示器、アークホーン、鉄塔など)に生じた異常箇所を検出し、この検出結果を巡視点検結果報告として記録する巡視点検制御システム2により構成される巡視点検システム1であって、(【0011】)、
b1 巡視点検制御システム2は、情報処理装置10と、ネットワーク15を介して接続される管理装置12により構成され(【0011】)、
c1 情報処理装置10は、巡視点検制御プログラムに基づいて、取得データ整理管理部21の機能を実現するものであり(【0024】)、
d1 ドローン14は、巡視点検対象とする送電設備17を撮影して画像データを記憶し(【0014】)、ここで、送電設備17に設けられる被点検物の一例として、鉄塔17aが示されており、鉄塔17aには、通常、架空地線17b、3本の送電線17c,17d,17eが架設され、送電線17c,17d,17eは、それぞれ碍子17hを介して、鉄塔17aに架設されて、碍子17hには、鉄塔17aに落雷があった場合に、碍子17hが破壊されるのを防ぐためにアークホーン17gが設けられ、鉄塔17aあるいは架空地線17bに落雷があった場合に、落雷があったことを通知するための閃絡表示器17fが装着され、(【0107】)
e1 取得データ整理管理部21は、ドローン14から取得される取得データ(画像データ(動画像、静止画像)、位置データ等を含む)の整理/管理をするもので、学習モデル記憶部21a、検出対象指示入力部21b、異常箇所検出部21c、取得データ記憶部21dを含むものであり(【0028】)、
f1 異常箇所検出部21cは、取得データ記憶部21dに記憶された取得データから、学習モデル21aに記憶された学習モデル(被点検物の異常箇所の特徴)をもとにした画像処理により、検出対象指示入力部21bにより入力された検出対象の指示に応じた異常箇所を検出するものであり(【0031】)、例えば、撮影される全ての被点検物を検査対象として、全ての被点検物のそれぞれを検出するための学習モデルを設定し(【0120】)、取得データ記憶部21dに記憶された取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出し、その領域から被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分である異常画像候補領域を検出し、異常画像候補領域の画像データについて、被点検物に生じる異常種類の特徴を示す学習モデルを用いて、検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定する(【0126】)ものであり、管理装置12では、これらの被点検物について、ドローン14により撮影される画像から検出することができるように、例えば、アークホーン17gについては、落雷によって生じるアーク痕を検出可能な学習モデルが、碍子17hについては、落雷によって生じる破損(亀裂)を検出可能な学習モデルが、生成される(【0108】)
a1 巡視点検システム1。

(甲1発明2)
a2 学習モデル生成プログラムに基づいて、データ記憶部40a(異常箇所画像データ40b、学習用画像データ40c、教示メタデータ40d、検証画像データ40e)、学習画像読み込み部40f、教示メタデータ読み込み部40g、エッジ切り出し部40h、隣接正常画像探索部40k、正常画像/異常画像組み合わせ制御部40m、類似画像生成部40n、学習モデル記憶部40vの機能を実現する管理装置12により、送電設備17に含まれる架空地線あるいは送電線に生じるアーク痕を検出対象とする異常箇所とし、この異常箇所を検出するための学習モデルを生成する学習モデル生成処理であって(【0055】、【0056】)、
b2 ドローン14は、巡視点検対象とする送電設備17を撮影して画像データを記憶し(【0014】)、
c2 異常箇所画像データ40bは、ドローン14を用いて、被点検物に対する巡視点検をすることにより取得された異常箇所の実画像データであり、ドローン14により撮影された画像データから、異常箇所であること及び異常種類が作業員等によって確認された画像データが用いられ(【0059】)、
d2 学習用画像データ40cは、擬似的に付加した異常/劣化の状態を撮影した学習用疑似画像データであり、素線が切れた状態、送電線に炭がついた状態、炭がとれて送電線が光った(光沢)状態などを工具等で送電線に対して付加し、この送電線を撮影することにより生成され、(【0060】)
e2 教示メタデータ40dは、異常箇所画像データ40b及び学習用画像データ40cに対して作業員等の操作により指示(教示)された、類似画像(学習モデル)を生成するために必要なデータであって、画像中の被点検物を含む領域、異常箇所に相当する部分(異常画像)を含む領域、異常/劣化(異常種類)等の種別、検出対象と区別する領域(処理対象外とする領域)などを示すデータが含まれ(【0061】)、
f2 エッジ切り出し部40hは、学習画像読み込み部40fにより読み込まれた学習用画像データ40cに対して、教示メタデータ読み込み部40gにより読み出された教示メタデータ40dを利用し、エッジ検出の画像処理手法を用いて送電線の輪郭を切り出し、すなわち、学習用画像中の送電線の全体を含む領域から送電線に相当する領域を切り出し(【0068】)、
g2 隣接正常画像探索部40kは、教示メタデータ40dが示す異常画像領域を設定し、異常画像領域をもとに被点検物の画像(送電線輪郭内)中の異常画像の周辺にある複数の正常画像領域を探索し、被点検物の画像から抽出可能な正常画像を抽出し(【0070】、【0075】)、
h2 類似画像生成部40nは、隣接正常画像探索部40kにより探索された複数の正常画像と、教示メタデータ40dが示す異常画像とを組み合わせ、被点検物に生じる異常/劣化の状態を表す疑似画像(類似画像)を生成し(【0077】)、
i2 学習済みモデル管理部40pは、類似画像生成部40nにより生成された正常画像と異常画像の割合別の類似画像を学習する、すなわち、生成された類似画像を、類似画像を生成した条件と対応づけて、学習モデル記憶部40vに記憶/管理し(【0082】)、学習済みモデル管理部40pにより類似画像(学習モデル)が学習され(【0084】)、
j2 学習済みモデル管理部40pは、異常箇所を含む画像と異常箇所を含まない画像とが混在する複数の検証画像に対して、検証画像に含まれる異常箇所の異常種類に対して生成された学習モデルを用いて異常箇所の検出(認証)処理を実行する(【0084】)ことで、
k2 管理装置12では、異常/劣化等の検出対象とする異常画像とその画像の近傍の正常画像とを用いて、ディープラーニング(深層学習)の技術を利用して類似画像を効率的に精度良く自動生成し、情報処理装置10における異常箇所検出処理に用いる学習モデルを生成する(【0097】)ものであり、被点検物について、ドローン14により撮影される画像から検出することができるように、例えば、アークホーン17gについては、落雷によって生じるアーク痕を検出可能な学習モデルが、碍子17hについては、落雷によって生じる破損(亀裂)を検出可能な学習モデルが、生成される(【0108】)
a2 学習モデル生成処理。

2 甲第2号証について
(1)甲第2号証の記載事項
甲第2号証である特開2018−107759号公報には次の記載がある。

「【0038】
(画像処理装置の構成)
以上、本実施形態に係る画像処理システム1000の全体構成について説明した。つづいて、画像処理装置1の詳細な構成について説明する。画像処理装置1は、図4に示すように画像読出し部10、第1の信号処理部101、第2の信号処理部102、及び認識器記憶部103を備える。」

「【0056】
例えば、画像読出し部10は、第1の信号処理部101から、画像読出し部10における注目領域を指定する領域指定信号を受け取り、当該領域指定信号に基づいて指定される画素ブロック23に含まれる画素に係るAD変換を行って注目領域画像を出力してもよい。また、画像読出し部10は、第1の信号処理部101が、複数の注目領域を検出した場合、当該複数の注目領域に対応する複数の注目領域画像を出力し得る。」

「【0068】
なお、第1の信号処理部101による注目領域の特定方法は上記の例に限定されない。例えば、被写体の形状、または被写体の色の一致度を用いて特定する方法や、複数枚の画像を用いた時系列的な処理により、前フレームで抽出した注目領域の場所の情報を用いても良いし、被写体の動きから特定する方法が採用されてもよい。また、第1の信号処理部101は、機械学習に基づく被写体(物体)検出により、注目領域を特定してもよく、例えば被写体検出により検出される所定の種別の被写体(例えば人、顔、車両等)の写る領域を、注目領域として特定してもよい。」

(2)甲2技術
上記(1)の記載事項から、甲第2号証には、以下の技術(以下、「甲2技術」という。)が記載されているといえる。

「画像読出し部10、第1の信号処理部101を備える画像処理装置1において、(【0038】)
画像読出し部10は、第1の信号処理部101から、画像読出し部10における注目領域を指定する領域指定信号を受け取るものであり、(【0056】)
第1の信号処理部101が、複数の注目領域を検出した場合、当該複数の注目領域に対応する複数の注目領域画像を出力し得るものであって、(【0056】)
第1の信号処理部101は、機械学習に基づく被写体(物体)検出により、注目領域を特定してもよい(【0068】)という技術。」

3 甲第3号証について
(1)甲第3号証の記載事項
甲第3号証である特開2014−126361号公報には以下の記載がある。

「【0002】
剛体架線の設置状況を車両進行方向に対し側面から見た概略図を図12に示す。当該図に示すように、剛体架線22及び支持碍子15は、主に地下鉄やトンネル内で使用され、天井17に吊り下げられた吊り金具14に対し、ボルト16によって固定されている。以下、吊り金具14、支持碍子15及びボルト16を纏めて支持部品と呼称する場合もある。」

「【0011】
そこで本発明は、画像処理により、吊り金具に支持碍子及び剛体架線をそれぞれ固定するボルトの有無を検査する、剛体架線の支持部品検査装置を提供することを目的とする。」

「【0030】
支持部品検査部11では、まず画像データから支持碍子15を検出し、さらに支持碍子15の位置から各ボルト16の位置を推定し、それぞれの支持碍子15の位置における各ボルト16の有無を検査する。」

「【0037】
支持碍子15の検出には、支持碍子15を囲む領域の輝度勾配方向のヒストグラム(以下、輝度勾配方向ヒストグラムと記載)を特徴量として構築したアダブーストによる識別器を用いる(非特許文献1参照)。」

「【0055】
ステップS17では、上記ステップS13で構築した学習サンプル画像集の輝度勾配方向ヒストグラムによる識別器に基づき、支持碍子検出用輝度勾配方向ヒストグラムを識別することで、画像上の支持碍子55が存在するか否かを判別する。画像上の支持碍子55が存在する場合は終了となり、画像上の支持碍子55が存在しない場合はステップS18に移行する。」

「【0086】
上述の識別器構築部34では、処理設定部31にて処理モードが識別器構築モードに設定された場合、学習サンプル画像集から求めた基準輝度勾配方向ヒストグラムに基づき、支持碍子15とその他とを識別する識別器の構築を行う。すなわち、上記ステップS13を行う。」

(2)甲3技術
上記(1)の記載事項から、甲第3号証には、以下の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されているといえる。

「支持碍子を固定するボルトの有無を検査する支持部品検査装置であって、画像から支持碍子を検出し、支持碍子の位置から各ボルトの位置を推定し、それぞれの支持碍子の位置における各ボルトの有無を検査するものであり、支持碍子の検出には識別器を用い、学習サンプル画像集の輝度勾配方向ヒストグラムによる識別子に基づき、画像上の支持碍子が存在するか否かを判別する、
すなわち支持碍子とその他を識別する識別器からなる支持部品検査装置についての技術。」

4 甲第4号証について
(1)甲第4号証の記載事項
甲第4号証である特開2015−116916号公報には次の記載がある。

「【0026】
(実施例1)基本的な考え方
本発明の目的は、車両前方に搭載したカメラの画像を基に電柱位置の検査を行う車両前方電柱位置検査装置を提供することである。
本発明の車両前方電柱位置検査装置の機器構成を図1に示す。
【0027】
本発明の車両前方電柱位置検査装置は、車両1の先頭に設置して前方を撮影するカメラ2と、画像の保存や処理を行う検査用コントローラ3から構成する。
・・・
【0031】
本発明による検査用コントローラ3は、カメラ2で撮影された画像に基づいて、電柱6,7が建築限界Aの外にあるか否かを検査するものであり、図20に示すよう、処理設定部10、記憶部20、前方画像撮影部30、電柱検出部40、電柱位置計測部50、建築限界判断部60、結果出力部70より構成する。
・・・
【0033】
電柱検出部40では、処理パラメータや画像データなどの各種データ(撮影時キロ程データ、線路情報を含む)を入力し、画像上における電柱6,7の上頭部位置と電柱6,7を囲む矩形範囲位置を検出して電柱データとして保存する。」

「【0036】
本発明の車両前方電柱位置検査は、図3に示す全体フローチャートに従い、以下のように実施する。
先ず、前方画像の撮影を行い(ステップS1)、次に、電柱検出を行い(ステップS2)、引き続き、電柱位置の計測を行い(ステップS3)、更に、建築限界Aの判断を行う(ステップS4)。そして、処理を終了すべきか否か判定し(ステップS5)、処理を終了すべき時は、処理を終了し、そうでないときは、ステップS1からステップS4を繰り返す。
次に各手順について詳細に説明する。
【0037】
<ステップS1>
ステップS1の「前方画像の撮影」は、図4に示すフローチャートに従い、主として、前方画像撮影部30により、次の手順で実施する。
ステップS11:カメラ2により前方の画像を撮影する。
ステップS12:車載センサコントローラ4からキロ程情報を受け取る。
ステップS13:撮影した画像とキロ程情報を対応付けて保存する。
このような手順によれば、線路9の左右方向の傾き及び前後方向の傾きをデータベースからキロ程情報を基に参照し、撮影時のカメラ2の傾き(姿勢)情報を得ることができる。
【0038】
<ステップS2>
ステップS2の「電柱検出」は、図5に示すフローチャートに従い、主として、電柱検出部40により、次の手順で実施する。
ステップS21:画像上における電柱6,7の探索範囲Bを設定する。
ステップS22:探索範囲B内において電柱6,7を囲む矩形範囲を検出する。
ステップS23:電柱6,7の上頭部の画像上位置を求める。
ステップS24:画像上の電柱6,7の上頭部位置と電柱6,7を囲む矩形範囲を保存する。
・・・
【0041】
<ステップS22>
ステップS22の「電柱6,7を囲む矩形範囲を検出」は次の方法を用いる。
即ち、本発明による電柱位置の検出は、特開2012−28460号と同様に識別器による対象物検出により実施する。
【0042】
まず、図7に示すように、電柱6,7の部分画像Q1と電柱以外の部分画像Q2を多数用意し、これらの画像Q1,Q2により学習器41を通じて電柱識別器42を予め学習しておく。この電柱識別器42の学習はオフラインで別途実施しておけば良い。」

(2)甲4技術
上記(1)の記載事項から、甲第4号証には、以下の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されているといえる。

「車両前方に搭載したカメラの画像を基に電柱位置の検査を行う車両前方電柱位置検査装置であって、車両1の先頭に設置して前方を撮影するカメラ2と、画像の保存や処理を行う検査用コントローラ3から構成され、(【0026】、【0027】)
検査用コントローラ3は、カメラ2で撮影された画像に基づいて、電柱6,7が建築限界Aの外にあるか否かを検査するものであり、処理設定部10、記憶部20、前方画像撮影部30、電柱検出部40、電柱位置計測部50、建築限界判断部60、結果出力部70より構成され、(【0031】)
電柱検出部40では、画像上における電柱6,7の上頭部位置と電柱6,7を囲む矩形範囲位置を検出して電柱データとして保存するものであり、(【0033】)
車両前方電柱位置検査は、前方画像の撮影を行い(ステップS1)、次に、電柱検出を行い(ステップS2)、ステップS1の「前方画像の撮影」は、次の手順で実施する、すなわち、ステップS11ではカメラ2により前方の画像を撮影するものであり、ステップS2の「電柱検出」は、電柱検出部40により、次の手順で実施する、すなわち、ステップS21では、画像上における電柱6,7の探索範囲Bを設定し、ステップS22では、探索範囲B内において電柱6,7を囲む矩形範囲を検出し、ステップS23では、電柱6,7の上頭部の画像上位置を求め、ステップS24では、画像上の電柱6,7の上頭部位置と電柱6,7を囲む矩形範囲を保存するものであり、(【0036】、【0037】、【0038】)
ステップS22の「電柱6,7を囲む矩形範囲を検出」は識別器による対象物検出により実施するものであって、電柱6,7の部分画像Q1と電柱以外の部分画像Q2を多数用意し、これらの画像Q1,Q2により学習器41を通じて電柱識別器42を予め学習しておく(【0041】、【0042】)技術。」

5 甲第5号証について
(1)甲第5号証の記載事項
甲第5号証である特開2014−106685号公報には以下の記載がある。

「【0005】
上記した識別器は、種々の機械学習をさせることで、歩行者(人体)のみならず、動物、人工構造物等を識別可能である。ところが、これらの対象物を少なくとも含む、識別対象の画像領域(以下、識別対象領域)を抽出する場合、対象物の種類によって識別精度が異なる場合があった。これは、対象物の種類に応じて投影像の形状が異なるので、背景部の画像情報を取り込む割合が変化するためと考えられる。換言すれば、背景部の画像情報は、学習処理又は識別処理の際に、対象物の学習・識別精度を低下させる外乱因子(ノイズ情報)として作用する。」

「【0036】
ステップS11において、機械学習に供される学習データが収集される。ここで、学習データは、対象物を含む(又は含まない)学習サンプル画像と、この対象物の種類(「対象物無し」の属性を含む)とのデータセットである。対象物の種類として、例えば、人体、各種動物(具体的には、鹿、馬、羊、犬、猫等の哺乳動物、鳥類等)、人工構造物(具体的には、車両、標識、電柱、ガードレール、壁等)等が挙げられる。」

「【0052】
ステップS15において、ステップS11で収集した多数の学習データを、識別器50に対して遂次入力することで機械学習をさせる。以下、図7を参照しながら詳細に説明する。」

「【0070】
ステップS24において、演算部30は、ステップS23で決定された指定領域128内で、撮像画像Imのラスタスキャンを開始する。ここで、ラスタスキャンとは、基準位置120(撮像画像Im内の画素)を所定の方向に移動させながら、対象物の有無を遂次識別する手法をいう。以下、識別対象領域決定部42は、現在スキャン中の基準位置120、及び、基準位置120から特定される識別対象領域122の位置・サイズを遂次決定する。
【0071】
ステップS25において、対象物識別部44は、決定された識別対象領域122内に、少なくとも1種類の対象物が存在するか否かを識別する。
【0072】
図13に示すように、対象物識別部44は、機械学習を用いて生成された識別器50(図7参照)である。重み付け演算器94には、機械学習(図4のステップS15)により得た、適切な重み付け係数αfが予め設定されている。」

「【0092】
以上のように、本発明に係る車両周辺監視装置10は、車両12に搭載され、車両12の走行中に撮像することで車両12の周辺における撮像画像Imを取得するカメラ14と、取得された撮像画像Imの中から識別対象領域122、126を抽出する識別対象領域決定部42と、抽出された識別対象領域122、126における画像特徴量から、識別対象領域122、126内に対象物(例えば、横断歩行者64)が存在するか否かを対象物の種類毎に識別する対象物識別部44とを備える。対象物識別部44は、画像特徴量としての特徴データ群を入力とし対象物の存否情報を出力とする、機械学習を用いて生成された識別器50である。」

(2)甲5技術
上記(1)の記載事項から、甲第5号証には、以下の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されているといえる。

「撮像画像から識別対象領域を抽出する識別対象領域決定部と、抽出された識別対象領域における画像特徴量から、識別対象領域内に対象物が存在するか否かを識別する対象物識別部であって、対象物識別部は機械学習を用いて生成された識別器であり、対象物として人工構造物(車両、電柱等)等が挙げられる、装置に関する技術。」

6 甲第6号証について
(1)甲第6号証の記載事項
甲第6号証である特開2019−8460号公報には次の記載がある。

「【0020】
検出機能12は、取得機能11から受け取った車載カメラ2の撮影画像から、検出の対象となる物体が映っている可能性がある領域(以下、「物体候補領域」と呼ぶ)を検出する。検出機能12は、1フレームの撮影画像から多数の物体候補領域を検出することが一般的であるが、1つの物体候補領域が検出されてもよい。検出の対象となる物体は、他車両、歩行者、二輪車、路側設置物のいずれかでもよいし、これらのうち複数の物体を同時に検出の対象としてもよい。以下では、検出の対象となる物体が他車両であることを想定して、検出機能12による処理の概要を説明する。
・・・
【0025】
検出機能12は、例えば、走査矩形に対する尤度が予め設定された閾値以上の撮影画像上の領域を物体候補領域として検出し、その物体候補領域の撮影画像上の位置を示す情報や尤度などを含む候補領域情報を非線形処理機能13に出力する。あるいは、検出機能12は、走査矩形に対する尤度が高い順に撮影画像上の領域を並び替え、予め決められた上位N個の領域を物体候補領域として検出して候補領域情報を出力してもよい。」

「【0042】
また、画像の入力から特徴マップを得るまでの処理と、特徴マップから物体の姿勢と物体までの距離を推定して出力するまでの処理とを異なるニューラルネットワークとしてそれぞれ予め学習しておいてもよいし、画像の入力から物体の姿勢および物体までの距離の出力までを1つのニューラルネットワークとして予め学習しておいてもよい。また、検出機能12での物体候補領域の検出にニューラルネットワークを用いる場合、検出機能12で用いるニューラルネットワークと非線形処理機能13で用いるニューラルネットワークとを1つのネットワークとして予め学習しておいてもよい。
・・・
【0044】
また、1フレームの撮影画像から多数の物体候補領域が検出された場合、ニューラルネットワークが上述のように物体候補領域を修正する値や物体らしさを示す尤度をさらに出力する構成であれば、例えばニューラルネットワークが出力した物体らしさを示す尤度と修正後の物体候補領域の情報をもとに、一定の重なりを持つ物体候補領域をグルーピングし、その中から尤度の高い順にN個、あるいは一定の閾値以上の尤度を持つ物体候補領域に対する推定結果のみを出力してもよい。これは例えば上述のNMSという手法を用いて実現できる。」

(2)甲6技術
上記(1)の記載事項から、甲第6号証には、以下の技術(以下、「甲6技術」という。)が記載されているといえる。

「検出機能12は、車載カメラの撮影画像から、検出の対象となる物体が映っている可能性がある領域(以下、「物体候補領域」と呼ぶ)を検出するものであり、(【0020】)
検出機能12は、予め決められた上位N個の領域を物体候補領域として検出して候補領域情報を出力してもよく、(【0025】)
1フレームの撮影画像から多数の物体候補領域を検出する検出機能12での物体候補領域の検出にニューラルネットワークを用いる場合、検出機能12で用いるニューラルネットワークを予め学習しておき、(【0020】、【0042】)
ニューラルネットワークが物体らしさを示す尤度をさらに出力する構成であれば、例えばニューラルネットワークが出力した物体らしさを示す尤度をもとに、尤度の高い順にN個の尤度を持つ物体候補領域に対する推定結果のみを出力すること(【0044】)に関する技術。」

7 甲第7号証について
(1)甲第7号証の記載事項
甲第7号証である特開2017−117025号公報には以下の記載がある。

「【0021】
本パターン識別装置の第一・第二の情報抽出処理部103は機械学習的な方法によって実現されている。第一・第二の情報抽出処理部103は、<領域の画像特徴量>を入力変数とし、<領域のカテゴリーの尤度>および<領域間の近接度>を目標変数として事例学習した識別器である。すなわち第一・第二の情報抽出処理部103は、局所領域およびその周辺領域についての画像特徴量が入力されると、局所領域のカテゴリーの尤度、および周囲の領域との近接度、の二種の情報を推定して出力する。
【0022】
このため第一・第二の情報抽出処理部103を実現する識別器は系統の異なる多変量の目標変数の学習が可能である必要があり、本実施例ではランダムフォレスト識別器を用いて実現している(詳細は後述する。)。なお多変量の目標変数を学習する識別器は他にも例えばニューラルネットや、ハッシング、k−最近傍法、構造学習型のサポートベクトルマシン、など様々な手法が考えられる。これ以降に説明する本実施の形態は一例にすぎず、識別器の種類をランダムフォレストにのみ制限するものではない。
【0023】
構成要素識別処理部104はカテゴリーの尤度と周辺の領域間の近接度とに基づいて局所領域のカテゴリーを特定する処理部である。画像認識のタスクにおいては「白い雲」と「白い雪山」のように、局所的に見ると見分けの困難な事例が多数存在する。そのため周辺の領域との関係性を考慮してカテゴリーの判別を行うことが広く行われる。具体的には、近接度の高い領域同士を同じカテゴリーと判定するようなバイアスを設け、近接度の低い領域同士にはそのようなバイアスを与えずに識別を行う。このような認識手法の代表例に条件付確率場がある(非特許文献1を参照)。本実施例の構成要素識別処理部104も識別処理に条件付確率場を用いており、詳細は後述する。」

(2)甲7技術
上記(1)の記載事項から、甲第7号証には、以下の技術(以下、「甲7技術」という。)が記載されているといえる。
「局所領域およびその周辺領域についての画像特徴量が入力されると、局所領域のカテゴリーの尤度、および周囲の領域との近接度を推定して出力する情報抽出処理部と、カテゴリーの尤度と周辺の領域間の近接度とに基づいて局所領域のカテゴリーを特定する構成要素識別処理部からなるパターン識別装置であって、情報抽出処理部を実現する識別系は系統の異なる多変量の目標変数の学習が可能であり、多変量の目標変数を学習する識別器として、ニューラルネットが考えられるという技術。」

8 甲第8号証について
(1)甲第8号証の記載事項
甲第8号証である特開2019−3299号公報には以下の記載がある。

「【0041】
処理部321は、記憶部31に記憶されている画像Im−1を読み出して、上記学習モデルに画像Im−1を入力し、右肩関節領域候補105を複数算出し(図3のステップS2)、複数の右肩関節領域候補105のそれぞれについて、位置情報、サイズおよび尤度(確率)を算出する(図3のステップS3)。サイズは、右肩関節領域候補105の一辺のサイズである。ステップS2およびステップS3の処理には、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)が用いられる。ここでは、複数として、5つを例にして説明する。図5は、5つの右肩関節領域候補105−1〜105−5を含む画像Im−1を示す模式図である。右肩関節領域候補105は、右肩関節領域107の候補となる領域である。右肩関節領域候補105のそれぞれには、位置情報、サイズ、および尤度(確率)が付与されている。位置情報は、その右肩関節領域候補105の画像Im−1での位置である。尤度が高いと、その右肩関節領域候補105が右肩関節領域107の可能性が高いことを示し、尤度が低いと、その右肩関節領域候補105が右肩関節領域107の可能性が低いことを示す。図5において、右肩関節領域候補105のハッチングの密度で尤度の高低を示している。ハッチングの密度が高いと、尤度が高いことを示し、ハッチングの密度が低いと、尤度が低いことを示す。
【0042】
決定部322は、ステップS3で算出した複数の右肩関節領域候補105(図5に示す5つの右肩関節領域候補105−1〜105−5)のうち、最大の尤度を有する右肩関節領域候補105を右肩関節領域107と決定する(図3のステップS4)。図6は、右肩関節領域107を含む画像Im−1を示す模式図である。右肩関節領域候補105−2が、人間101−1の右肩関節領域107−1として決定されている。」

「【0050】
処理部321は、図9に示す5つの矩形領域候補109−1〜109−5の中から、人間101−1に外接する矩形領域111−1を決定し、および、5つの矩形領域候補109−1〜109−5の中から、人間101−2に外接する矩形領域111−2を決定する(図7のステップS16)。図11は、人間101に外接する矩形領域111を含む画像Im−2を示す模式図である。矩形領域候補109−2が、人間101−1に外接する矩形領域111−1として決定され、矩形領域候補109−5が、人間101−2に外接する矩形領域111−2として決定されている。この決定には、例えば、Non−maximum suppression処理が用いられる。詳しく説明すると、処理部321は、人間101−1に外接する矩形領域について、5つの矩形領域候補109−1〜109−5の中から、尤度の高い矩形領域候補109を選択し、選択した矩形領域候補109がこれよりも尤度の高い他の矩形領域候補109と重なっていなければ、選択した矩形領域候補109を人間101−1に外接する矩形領域111−1として決定する。処理部321は、人間101−2に外接する矩形領域111−2についても同様にして決定する。」

(2)甲8技術
上記(1)の記載事項から、甲第8号証には、以下の技術(以下、「甲8技術」という。)が記載されているといえる。

「学習モデルに画像を入力し、候補を複数算出し、候補のそれぞれについて、位置情報、サイズおよび尤度(確率)を算出するにあたりCNNが用いられる処理部であって、処理部は、候補のなかから、尤度の高い候補を選択する処理部に関する技術。」

9 甲第9号証について
(1)甲第9号証の記載事項
甲第9号証である特開2010−141616号公報には以下の記載がある。

「【0038】
ステップS404からステップS409では、画面内で検出された顔領域毎に処理が行われる。ステップS404で、優先度判定部310は、画面中心と顔領域の重心位置との間の距離に基づき、当該顔領域の位置重みを決定する。図5は、画像中心と顔領域の重心位置との間の距離と、顔領域の位置重みの一例の関係を示す。なお、図5において、縦軸が位置重み、横軸が距離を示す。例えば、顔領域の重心位置が画面中心であれば、位置重みを1.0とする。顔領域の重心位置が画面中心から離れるに連れ、位置重みをより小さな値とし、所定距離以上で、位置重みを一定値、例えば0.2に固定的とする。すなわち、画面端近傍では、位置重みが一定値とされる。」

「【0047】
ステップS407で前回の優先順位重みが決定されると、処理はステップS409に移行される。ステップS409では、上述のステップS404、ステップS405およびステップS407でそれぞれ決定された位置重み、大きさ重みおよび前回の優先順位重みに基づき、下記の式(1)を用いて顔領域の優先度を算出する。
優先度=位置重み×大きさ重み×前回の優先順位重み …(1)」

「【0050】
ステップS410で、優先順位決定部311は、ステップS409で算出された優先度に基づき、画面内で検出された顔領域のそれぞれに対する優先順位が決定される。ここでは、優先度が高い順に優先順位が決定される。決定された優先順位は、優先順位決定部311に保持されると共に、顔領域の情報(画面内の各顔領域の位置、大きさなど)に対応付けられて、撮影制御部305に供給される。撮影制御部305は、供給された顔領域毎に優先順位に基づき、上述したようにして焦点制御や露出制御を行う。」

(2)甲9技術
上記(1)の記載事項から、甲第9号証には、以下の技術(以下、「甲9技術」という。)が記載されているといえる。

「画面中心と顔領域の重心位置との間の距離に基づき、当該顔領域の位置重みを決定し、位置重みに基づき顔領域の優先度を算出し、算出された優先度に基づき、画面内で検出された顔領域のそれぞれに対する優先順位が決定され、顔領域毎に優先順位に基づき焦点制御や露出制御を行う技術。」

10 甲第10号証について
(1)甲第10号証の記載事項
甲第10号証である特開2019−21313号公報には以下の記載がある。

「【0049】
分類器は、所与の候補バウンディングボックスの内容が属し得るアイテムのクラスを分類することを試みる。所与の候補バウンディングボックスの内容をカテゴライズすることを試みるべく、分類器は、候補バウンディングボックスのピクセルの中に存在する特徴を識別し得て、それらの特徴と、各クラスがアイテムまたはアイテムのセットを表現し得る、予め決定されたアイテムのクラスのセットに存在する特徴との間の類似性を比較し得る。分類エンジンは、所与の候補バウンディングボックスの内容と、所与のクラスとの間の類似性をそれぞれの確率値として表し得る。クラスのセットの各々についてのすべての確率値を組み合わせることによって形成されセットは、確率分布を形成し得る。
【0050】
より具体的には、所与の候補バウンディングボックスのピクセルの中に含まれるアイテムのクラスを識別するべく、分類エンジンは、入力として候補バウンディングボックスのピクセルのセットを受信し得て、例えば、所与の候補バウンディングボックスのピクセルを標準サイズにダウンサンプリングするなどのサイズ変更を行い得る。所与の候補バウンディングボックスのピクセルをサイズ変更した後で、分類エンジンは、分類エンジンニューラルネットワークと称される、分類器のニューラルネットワークを利用して、標準的なサイズの候補バウンディングボックスをカテゴライズし得るアイテムのクラスを識別し得る。」

(2)甲10技術
上記(1)の記載事項から、甲第10号証には、以下の技術(以下、「甲10技術」という。)が記載されているといえる。

「分類エンジンは、入力として候補バウンディングボックスのピクセルのセットを受信し、所与の候補バウンディングボックスのピクセルを標準サイズにダウンサンプリングするなどのサイズ変更を行い、所与の候補バウンディングボックスのピクセルをサイズ変更した後で、分類エンジンニューラルネットワークと称される、分類器のニューラルネットワークを利用して、標準的なサイズの候補バウンディングボックスをカテゴライズし得るアイテムのクラスを識別する技術。」

11 甲第11号証について
(1)甲第11号証の記載事項
甲第11号証である特開2018−22484号公報には以下の記載がある。

「【0016】
図2は、画像内の小物体を検出するプロセスのフローチャートを示している。ステップS1において、第1の特徴ベクトルが、第1のサブネットワークを用いることによって画像内の第1の領域から抽出される。ステップS2において、画像内の第2の領域が、サイズ変更モジュールを用いることによって、第1の領域を所定の比を用いてサイズ変更することによって求められる。ステップS3において、第2の特徴ベクトルが、第2のサブネットワークを用いることによって第2の領域から抽出される。ステップS4において、第3のサブネットワークが、第1の特徴ベクトル及び第2の特徴ベクトルに基づいて物体を分類する。画像内の物体の分類結果は、ステップS5において、第3のサブネットワークによって出力される。この場合、第1のサブネットワーク、第2のサブネットワーク、及び第3のサブネットワークは、ニューラルネットワークを形成し、上記ステップは、プロセッサによって実行される。さらに、第1の領域をサイズ変更するステップは、第1の領域及び第2の領域のそれぞれが物体を含むとともに、第1の領域のサイズが第2の領域のサイズよりも小さくなるように実行される。」

(2)甲11技術
上記(1)の記載事項から、甲第11号証には、以下の技術(以下、「甲11技術」という。)が記載されているといえる。

「画像内の物体を検出するプロセスにおいて、画像内の第1の領域をサイズ変更することによって画像内の第2の領域が求められ、第2の特徴ベクトルが、第2のサブネットワークを用いることによって第2の領域から抽出されるものであり、第2のサブネットワークは、ニューラルネットであるという技術。」

第6 特許異議申立人より意見書提出時に提出された甲号証について
特許異議申立人は令和3年10月28日付け意見書提出時に、技術常識ないし周知技術を示す甲第12号証から甲第20号証、及び甲第12号証の発行日を立証するための甲第21号証を提出しており、その内容は以下のとおりである。

1 甲第12号証について
(1)甲第12号証の記載事項
甲第12号証である、Krizhevsky, A., et al., "ImageNet Classification with Deep Convolutional Neural Networks", Proc. of the 25th Int. Conf. on Neural Information Processing Systems, 2012年12月,Vol.1には次の記載がある。

「Abstract
We trained a large, deep convolutional neural network to classify the 1.2 million high-resolution images in the ImageNet LSVRC-2010 contest into the 1000 different classes.」(第1頁目「Abstract」および第1ないし3行)
(仮訳:
要約
我々は、ImageNet LSVRC−2010コンテストにおいて、120万個の高解像度画像を1000の異なるクラスヘと分類するために、大規模ディープ畳み込みニューラルネットワークの学習を行った。)

「ImageNet consists of variable-resolution images, while our system requires a constant input dimensionality. Therefore, we down-sampled the images to a fixed resolution of 256 x 256. Given a rectangular image, we first rescaled the image such that the shorter side was of length 256, and then cropped out the central 256x256 patch from the resulting image.」(第2頁目「2 The Dataset」の第3パラグラフ)
(仮訳:
ImageNetは様々な解像度の画像からなり、一方で我々のシステムは入力次元が一定であることを必要とする。したがって、我々は画像を256x256の固定解像度にダウンサンプリングした。与えられた矩形画像に対して、最初に短辺の長さが256になるように画像の大きさを変更し、その結果の画像の中央256x256のパッチをクロップした。)




Figure 2: An illustration of the architecture of our CNN, explicitly showing the delineation of responsibilities between the two GPUs.」(第5頁目冒頭)
(仮訳:図2:我々のCNNのアーキテクチャを示す図であり、2つのGPUの責任分担を明確に示している。)

「The first form of data augmentation consists of generating image translations and horizontal reflections. We do this by extracting random 224x224 patches (and their horizontal reflections) from the 256x256 images and training our network on these extracted patches4. 」(第5頁目「4.1 Data Augmentation」の第2パラグラフ)
(仮訳:データオーグメンテーションの第1の形態は、画像の並進移動及び水平方向の鏡映を生成することからなる。我々はこれを、256x256の画像からランダムに224x224のパッチ(及びその水平方向の鏡映)を抽出することによって行い、これらの抽出したパッチで我々のネットワークを学習した4。)

「4This is the reason why the input images in Figure 2 are 224 x 224 x 3-dimensional」(第5頁目の最後の注釈欄)
(仮訳:
この理由は、図2の入力画像が224x224x3次元であることによる。)

(2)甲12技術
上記(1)の記載事項から、甲第12号証には、以下の事項(以下、「甲12技術」という。)が記載されているといえる。

「画像を異なるクラスへ分類するために畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の学習を行うに際し、ImageNetは様々な解像度の画像からなり、一方でシステムは入力次元が一定であることを必要とするので、画像を256x256の固定解像度にダウンサンプリングし、与えられた矩形画像に対して、最初に短辺の長さが256になるように画像の大きさを変更し、その結果の画像の中央256x256のパッチをクロップし、256x256の画像から224x224のパッチを抽出し、抽出したパッチでネットワークを学習するものであり、この理由は図2のCNNのアーキテクチャの入力画像が224x224であることによるという技術。」

2 甲第13号証について
(1)甲第13号証の記載事項
甲第13号証である、Szegedy, C., et al., "Going deeper with convolutions", arXiv:1409.4842, 2014年9月
には次の記載がある。

Abstract
We propose a deep convolutional neural network architecture codenamed Inception, which was responsible for setting the new state of the art for classification and detection in the ImageNet Large-Scale Visual Recognition Challenge 2014(ILSVRC14).」
(第1頁目「Abstract」および第1ないし4行)
「仮訳:
要約
我々は、Inceptionとコードネームが付けられたディープ畳み込みニューラルネットワークアーキテクチャを提案する。これは、ImageNet大規模視覚的認識チャレンジ2014(ILSVRC14)において分類及び検出の新しい技術水準を設定する責任を有した。」

「2.During testing, we adopted a more aggressive cropping approach than that of Krizhevsky et al. [9]. Specifically, we resize the image to 4 scales where the shorter dimension (height or width) is 256, 288, 320 and 352 respectively, take the left, center and right square of these resized images (in the case of portrait images, we take the top, center and bottom squares). For each square, we then take the 4 corners and the center 224x224 crop as well as the square resized to 224x224, and their mirrored versions. This result in 4x3x6x2=144 crops per images.」
(第8頁目「7 ILSVRC 2014 Classification Challenges Setup and Results」の第4パラグラフ)
(仮訳:
テスト中において、我々はKrizhevskyら[9]よりもアグレッシブなクロップ手法を採用した。すなわち、我々は画像を、より短い次元(高さ又は幅)がそれぞれ256、288、320、及び352となるように、4つのスケールヘとリサイズし、これらのリサイズされた画像の左側、中央、及び右側の正方形(ポートレート画像の場合には、上部、中央、及び下部の正方形)を得た。それぞれの正方形について、4つの角部及び中央の224x224クロップ、及び正方形を224x224にリサイズしたもの、並びにこれらの鏡像バージョンを得た。結果として、画像ごとに4x3x6x2=144クロップが得られた。


[9] Alex Krizhevsky, Ilya Sutskever, and Geoff Hinton. Imagenet classification with deep convolutional neural networks. In Advances in Neural Information Processing Systems 25, pages 1106-1114, 2012.(第11頁下から14ないし12行)

(2)甲13技術
Krizhevsky[9]は甲第12号証に係る文献であることを踏まえると、上記(1)の記載事項から、甲第13号証には、以下の事項(以下、「甲13技術」という。)が記載されているものといえる。

「ImageNet大規模視覚的認識において分類及び検出の新しい技術水準を設定する畳み込みニューラルネットワークアーキテクチャを提案し、甲第12号証であるKrizhevsky[9]の論文よりもアグレッシブなクロップ手法を採用し、画像を、より短い次元(高さ又は幅)がそれぞれ256、288、320、及び352となるように、4つのスケールヘとリサイズし、これらのリサイズされた画像の左側、中央、及び右側の正方形を得、それぞれの正方形について、4つの角部及び中央の224x224クロップ、及び正方形を224x224にリサイズしたものを得たという技術。」

3 甲第14号証について
(1)甲第14号証の記載事項
甲第14号証である特開2009−276200号公報には以下の記載がある。

「【0032】
まず、画像処理によって歩行者を検知する方法について説明する。歩行者を検知する方法としては、歩行者パターンの代表となるテンプレートを複数用意しておき、差分累積演算あるいは正規化相関係演算を行って一致度を求めるテンプレートマッチングによる方法や、ニューラルネットワークなどの識別器を用いてパターン認識を行う方法が挙げられる。」

「【0058】
第2のアルゴリズムでは、ステップS303で設定された画像処理領域の画像内に歩行者がいると仮定し、物体との相対距離とカメラ幾何モデルを用いて、画像内の歩行者を探索するのに最も適している識別器5に対応させるべく、画像処理領域内の画像の画像サイズを変換する。」

(2)甲14技術
上記(1)の記載事項から、甲第14号証には、以下の技術(以下、「甲14技術」という。)が記載されているといえる。
「画像処理によって歩行者を検知する方法としては、ニューラルネットワークなどの識別器を用いるものであって、画像内の歩行者を探索するのに最も適している識別器に対応させるべく、画像処理領域内の画像の画像サイズを変換する技術。」

4 甲第15号証について
(1)甲第15号証の記載事項
甲第15号証である特開2019−46253号公報には以下の記載がある。

「【0017】
次に制御部11の動作について説明する。本実施の形態の制御部11は、記憶部12に格納されたプログラムを実行することで、機能的には、図2に例示するように、受入部21と、検出処理部22と、検出情報生成部23と、情報処理部24とを含んで構成される。また検出処理部22は、フレーム検出部31と、顔検出部32と、身体検出部33と、文字検出部34とを含む。
【0018】
受入部21は、漫画画像データを受け入れて検出処理部22に出力する。ここで漫画画像データは、一般的には、顔部分(F)と身体部分(B)と文字部分(C)とが互いに重なり合って描画された画像データであり(図3)、少なくとも一つのコマ(M)を含む。また、この受入部21は、検出処理部22におけるニューラルネットワークを利用するため、漫画画像データを拡大または縮小して、ニューラルネットワークの入力に適したサイズにリサイズする。」

「【0022】
顔検出部32は、画像データから、当該画像データ内に描画されたキャラクタの顔部分を検出するよう機械学習された状態にある顔検出器を有する。この顔検出器も、フレーム検出部31が備えるフレーム検出器と同様、SSD等、種々の方法で構成されたニューラルネットワークを採用して実現できる。この顔検出器は、検出対象の範囲である、漫画画像データに含まれるキャラクタの顔に外接する所定形状の範囲を人為的に指定した画像データのサンプルを用いて機械学習させる。」

「【0027】
本実施の形態の一例は以上の構成を備え、次のように動作する。なお、以下の説明では、制御部11によるフレーム検出部31,顔検出部32,身体検出部33,及び文字検出部34は、SSDを採用し、それぞれ、予め画像データから、当該画像データ内に描画された漫画のコマ部分、顔部分、身体部分、及び文字部分を検出するよう機械学習した状態にあるものとする。」

「【0030】
[ベースネットワークを共用する例]
またここまでの説明では、フレーム検出部31,顔検出部32,身体検出部33,及び文字検出部34は、それぞれ独立したベースネットワークと、検出器を備えるものとしたが、本実施の形態はこの例に限られない。例えば一つのベースネットワークをフレーム検出部31,顔検出部32,身体検出部33,文字検出部34が共用してもよい。」

「【0040】
[画像データを分割する例]
また本実施の形態の制御部11は、受入部21の動作として、入力された漫画画像データの全体を、拡大または縮小して、ニューラルネットワークの入力に適したサイズにリサイズするのではなく、入力された漫画画像データを、所定の条件に基づいて複数の分割部分に分割し、当該分割して得られた分割部分(部分的な漫画画像データ、以下、部分画像データと呼ぶ)を、ニューラルネットワークの入力に適したサイズにリサイズして、検出処理部22に出力してもよい。」

(2)甲15技術
上記(1)の記載事項から、甲第15号証には、以下の技術(以下、「甲15技術」という。)が記載されているといえる。

「制御部は、受入部と、検出処理部と、検出情報生成部と、情報処理部とを含んで構成され、検出処理部は、フレーム検出部と、顔検出部と、身体検出部と、文字検出部とを含み、
受入部は、漫画画像データを受け入れて検出処理部に出力するものであり、ここで漫画データは、一般的には、顔部分(F)と身体部分(B)と文字部分(C)とが互いに重なり合って描画された画像データであり、
受入部は、検出処理部におけるニューラルネットワークを利用するため、漫画画像データを拡大または縮小して、ニューラルネットワークの入力に適したサイズにリサイズし、」
顔検出部は、SSD等、種々の方法で構成されたニューラルネットワークを採用して実現でき、検出対象の範囲である、漫画画像データに含まれるキャラクタの顔に外接する所定形状の範囲を人為的に指定した画像データのサンプルを用いて機械学習させるものであり、
顔検出部,身体検出部,及び文字検出部は、SSDを採用し、それぞれ、予め画像データから、顔部分、身体部分、及び文字部分を検出するよう機械学習した状態にあり、
一つのベースネットワークをフレーム検出部、顔検出部、身体検出部、文字検出部が共用してもよく、
制御部は、受入部の動作として、漫画画像データを、所定の条件に基づいて複数の分割部分に分割し、当該分割して得られた分割部分を、ニューラルネットワークの入力サイズに適したサイズにリサイズして、検出処理部に出力してもよいという技術。」

5 甲第16号証について
(1)甲第16号証の記載事項
甲第16号証である特開2017−59207号公報には以下の記載がある。

「【0033】
図1に示す画像認識器10は、コンピュータ等で実現される。画像認識器10は、入力画像が入力されると、図2に示すような畳み込みニューラルネットワークを用いて、入力画像における認識対象である人物を認識し、認識した人物の入力画像における位置を示す値を座標(人物座標)で出力する。本実施の形態では、認識対象を人物として説明するが、それに限らず、標識などでもよい。また、歩行者などの人物を例に挙げて以下説明するが、それに限らず、走者でも、匍匐前進者でも泳いでいる人物でもよい。」

「【0055】
図8Aに示すように、画像認識器10が、2人の歩行者(人物531および人物532)が含まれる画像53の認識処理を行った場合、画像53における2人の歩行者の位置として、当該2人の歩行者を囲む矩形の対角線上の2頂点の座標を認識結果として出力する。ここで、2頂点の座標は、画像53における歩行者を囲む矩形の4頂点のうち、左上と右下の座標であってもよいし、右上と左下の座標であってもよい。
【0056】
このように、画像認識器10は、入力画像における認識対象を囲む矩形の対角線上の2頂点の座標を認識結果として出力することができる。より具体的には、画像認識器10は、図8Bに示すように、入力画像中の2人の人物が一部重なっている場合、それぞれの人物を囲む矩形54aの2頂点の座標((x1、y1)、(x2、y2))および矩形54bの座標((x3、y3)、(x4、y4))を認識結果として出力することができる。」

「【0070】
次に、画像認識器10aのコンピュータは、上述した学習用データを用いて、画像認識器10aが用いる第2畳み込みニューラルネットワークに、人物領域の位置を示す値を出力させる(S132)。より具体的には、画像認識器10aのコンピュータは、畳み込みニューラルネットワークを構成する全結合層が畳み込み層に変更された第2畳み込みニューラルネットワークであって第1畳み込みニューラルネットワークの構成と同一構成である第2畳み込みニューラルネットワークに、学習用データに含まれる学習用画像における認識対象の位置を示す値を出力させる。例えば、図13を用いて説明すると、画像認識器10aのコンピュータは、学習用データに含まれる入力画像56に対して、第2畳み込みニューラルネットワークに、人物領域の位置を示す値として、人物を囲む矩形の対角線上の2頂点の座標((x1、y1)、(x2、y2))を出力させる。」

(2)甲16技術
上記(1)の記載事項から、甲第16号証には、以下の技術(以下、「甲16技術」という。)が記載されているといえる。

「畳み込みニューラルネットワークを用いて、入力画像における認識対象である人物を認識し、認識した人物の入力画像における位置を示す値を座標で出力する画像認識器において、
画像認識器が、2人の歩行者が含まれる画像の認識処理を行った場合、画像における2人の歩行者の位置として、当該2人の歩行者を囲む矩形の対角線上の2頂点の座標を認識結果として出力するものであり、
画像認識器は畳み込みニューラルネットワークに、学習用データに含まれる学習用画像における認識対象の位置を示す値を出力させる技術。」

6 甲第17号証について
(1)甲第17号証の記載事項
甲第17号証である特開2018−179786号公報には以下の記載がある。

「【0102】
[2−1]検査装置200における表面欠陥検査方法に係る処理の一例
まず、検査装置200において行われる表面欠陥検査方法に係る処理の一例を説明する。
【0103】
図9は、本発明の実施形態に係る検査装置200において行われる処理の一例を示す流れ図である。
【0104】
検査装置200は、撮像画像を処理する画像処理を行う(S100)。ステップS100の画像処理において、検査装置200は、例えば、撮像画像の輝度の平均値が一定となるように撮像画像の輝度値を補正し(輝度の正規化)、補正された撮像画像を二値化する。そして、検査装置200は、得られた二値画像のラベリングを行い、個々の欠陥の存在および種類を特定する。
・・・
【0108】
次に、ステップS100において画像処理が行われると、検査装置200は、上記二値画像および撮像画像から欠陥の特徴量を抽出する(S102)。すなわち、検査装置200は、例えば、同一ラベル番号が付いた画素について統計量を算出し、個々の欠陥の特徴量などを計算することによって、欠陥の特徴量を抽出する。以下では、ステップS102の処理を「特徴抽出処理」と示す場合がある

・・・
【0112】
そして、検査装置200は、ステップS102において抽出された欠陥の特徴量に基づいて、欠陥を判定する(S104)。より具体的には、検査装置200は、例えば、欠陥の種類、または、欠陥の種類および有害度を判定する。以下では、ステップS104の処理を「欠陥判定処理」と示す場合がある。
・・・
【0114】
ここで、検査装置200は、例えば、ニューラルネットワークやサポートベクターマシン等の処理手段により欠陥の特徴量を入力として、欠陥の種類や有害度を判定する。」

(2)甲17技術
上記(1)の記載事項から、甲第17号証には、以下の技術(以下、「甲17技術」という。)が記載されているものといえる。

「検査装置による表面欠陥検査の一例として、検査装置は、撮像画像を処理する画像処理を行い、画像処理が行われると、撮像画像から欠陥の特徴量を抽出し、抽出された欠陥の特徴量に基づいて欠陥、例えば欠陥の種類及び有害度を判定するものであり、検査装置は、ニューラルネットワーク等の処理手段により欠陥の種類や有害度を判定する技術。」

7 甲第18号証について
(1)甲第18号証の記載事項
甲第18号証である特開2016−65809号公報には以下の記載がある。

「【0024】
<機能構成>
図2は、本実施形態に係る点検支援装置1の一例を示す機能ブロック図である。点検支援装置1は、画像記憶部101と、画像読出部102と、構造物情報取得部103と、構造物DB104と、劣化要因取得部105と、劣化要因DB106と、画像解析部107と、特徴DB108と、損傷程度評価部109と、結果出力部110とを有する。
・・・
【0031】
画像解析部107は、特徴DB108に予め記憶されている劣化要因ごとの劣化の特徴を示すモデルを用いて、画像読出部102が読み出した画像データを解析し、当該劣化要因による損傷の有無や程度を判定する。特徴DB108には、予め、劣化要因ごとの典型的な損傷の状態が表れた画像を複数入力して各々の特徴を機械学習させた関数や、劣化要因ごとの特徴を示すモデルが記憶されているものとする。なお、特徴を機械学習させた関数や特徴を示すモデルは、例えばニューラルネットワークを用いた教師付きの学習等、既存の技術を用いて生成することができ、本実施形態ではその生成手法は問わない。
・・・
【0033】
画像解析の結果としては、ひび割れの有無、ひび割れのパターン、コンクリートの剥離の有無、さらに鉄筋の露出の有無、漏水の有無、遊離石灰の有無、コンクリートの浮きの有無、コンクリートの変色の有無といった劣化の状態や、ひび割れの幅、間隔、密度といった劣化の程度を示すパラメータが出力される。劣化の状態は、劣化の状態ごとの典型的な画像を複数入力して機械学習させることにより予め生成した関数又はモデルを用いて判断できる。」

(2)甲18技術
上記(1)の記載事項から、甲第18号証には、以下の技術(以下、「甲18技術」という。)が記載されているものといえる。

「画像解析部と特徴DBとを有する点検支援装置において、画像解析部は、特徴DBに予め記憶されている劣化要因ごとの劣化の特徴を示すモデルを用いて画像データを解析し、当該劣化要因による損傷の有無や程度を判定するものであって、特徴DBには、予め、劣化要因ごとの典型的な損傷の状態が表れた画像を複数入力して各々の特徴を機械学習させた関数や、劣化要因ごとの特徴を示すモデルが記憶されており、特徴を機械学習させた関数や特徴を示すモデルは、例えばニューラルネットワークを用いた教師付きの学習を用いて生成することができ、画像解析の結果として、ひび割れの有無、ひび割れのパターンといった劣化の状態や、ひび割れの幅といった劣化の程度を示すパラメータが出力されるという技術。」

8 甲第19号証について
(1)甲第19号証の記載事項
甲第19号証である特表2018−534694号公報には以下の記載がある。

「【0019】
領域提案分類および精査のため、新しい物体検出ネットワークが、サブカテゴリ情報を高速R−CNNネットワークに投入することによって導入される。検出ネットワークは、物体カテゴリ分類、サブカテゴリ分類、および境界ボックス回帰を共同でまたは同時に実施することができる。加えて、RPNおよび検出CNNの両方において、画像ピラミッドが入力として使用され、新しい特徴外挿層が、複数のスケールにある畳み込み特徴を効率的に計算するために導入される。このやり方では、本発明の方法は、大きなスケールの相違により物体カテゴリを検出することができる。」

「【0022】
CNNベースの物体検出に関して、従来のCNNベースの物体検出方法は、一段階検出方法および二段階検出方法の2つのクラスにカテゴリ分類され得る。一段階検出では、CNNが直接的に、入力画像を処理し、物体検出の境界ボックスを出力する。二段階検出では、まず領域提案が入力画像から生成され、ここでは異なる領域提案方法が用いられ得る。次いでこれらの領域提案は、分類および場所の精査のためにCNNに供給される。本発明の例示的な実施形態は、二段階検出フレームワークを採用し、ここでは領域提案処理は、粗密検出方法における粗検出ステップであると見なされ得る。」

(2)甲19技術
上記(1)の記載事項から、甲第19号証には、以下の技術(以下、「甲19技術」という。)が記載されているといえる。

「新しい物体検出ネットワークは、物体カテゴリ分類、サブカテゴリ分類、および境界ボックス回帰を同時に実施するものであり、物体検出の境界ボックスを出力する技術。」

9 甲第20号証について
(1)甲第20号証の記載事項
甲第20号証である国際公開第2012/005066号の第10頁第20行から第24行、第18頁第11行から第14行には以下の記載がある。

「具体的には、関数Fとは別に、画像情報xjを多様体111が埋め込まれた空間112上の位置に変換する関数G(xj)を準備する。関数Gは、単数ないし複数のパラメータから構成されている。以下このパラメータをλと定義する。非特許文献2において、G(xj)は、非特許文献3にも記載されているようなたたみ込みニューラルネットワーク(以下、CNN)である。このとき、λは、CNNの重みパラメータである。」

「以上説明したように、本発明に係る画像処理装置200によれば、画像処理学習装置100の学習により更新したパラメータλから構成される関数Gを用いることで、顔検出処理及び顔向き推定処理を同時に、かつ高精度に行うことができる。」

(2)甲20技術
上記(1)の記載事項から、甲第20号証には、以下の技術(以下、「甲20技術」という。)が記載されているといえる。

「画像処理学習装置の学習により更新したパラメータλ(λはCNNの重みパラメータ)から構成される関数G(GはCNN)を用いることで、顔検出処理及び顔向き推定処理を同時に行うことができるという技術。」

10 甲第21号証
甲第21号証である、https://dl.acm.org/doi/10.5555/2999134.2999257には、ページのタイトルにImageNet Classification with Deep Convolutional Neural Networks Proceedings of the 25th International Conference on Neural..,という記載が、1行目にAuthors: Alex Krizhevsky, Ilya Sutskever, Geoffrey E. Hinton Authors info & Claimsという記載が、2〜3行目にNIPS'12: International Conference on Neural Information Processing Systems - Volume 1・December 2012・Pages 1097-1105という記載が、4行目にPublished:03 December 2012という記載があることから、甲第12号証が2012年12月3日に発行されたことが示されているといえる。

第7 取消理由通知(決定の予告)において通知した理由についての当審の判断

1 本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明1とを対比する。

(ア)構成Aについて
甲1発明1は、構成a1の「巡視点検システム1」を構成する「巡視点検制御システム2」のうちの「情報処理装置10」において、「ドローン14から取得される取得データ(画像データ(動画像、静止画像))の整理/管理」を行う「異常箇所検出部21c、取得データ記憶部21dを含む」「取得データ整理管理部21」(構成e1)を含み、構成d1の「ドローン14は、巡視点検対象とする送電設備17を撮影して画像データを記憶」することから、ドローンからの送電設備17を含む画像が取得され、これを整理/管理するものといえる。
さらに、送電設備17は、構成d1にあるように、「鉄塔17a」、「架空地線17b」、「送電線17c、17d、17e」、「碍子17h」、「アークホーン17g」、「閃絡表示器17f」が設けられていることから、複数の機材を含むものといえる。
そうすると、甲1発明1の構成a1に含まれる「情報処理装置10」は、本件訂正発明1の構成Aの「電気設備に関する複数の機材を含む画像を取得する取得部」を備えるものといえる。

(イ)構成B、Cについて
甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は、「取得データ記憶部21dに記憶された取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出」するものであり、ここで、当該構成a1における「送電設備17に含まれる複数の異なる被点検物」に相当する領域が特定されることは明らかである。
そうすると、上記「異常箇所検出部21c」は、本件訂正発明1の構成Bの「複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から各機材に対応する前記画像領域を特定する特定部」と対比した場合、「入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域」を「前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から」「特定する」点において共通する。
一方、「複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域」を「前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から」「特定する」ことに関して、本件訂正発明1の構成Bは「複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており」、当該「特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力する」「第1の学習済モデルを用いて」、「特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより、各機材に対応する所定数の前記画像領域を特定」するのに対して、甲1発明1は「複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており」、当該「特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力する」「学習済モデルを用い」るものではなく、「特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより、各機材に対応する所定数の前記画像領域を特定」するものでもない点で、両者は相違する。
次に、上記「異常箇所検出部21c」は、本件訂正発明1の構成Cの「前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部」と対比した場合、「画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する点」で共通するものの、特定した画像領域にある被点検物に相当する領域をそのまま抽出するのではなく、その領域からさらに被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分である異常画像候補領域を検出する点で相違する。
さらに、本件訂正発明1の「特定部」と「抽出部」は、別個に構成されているのに対して、甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は1つの構成である点で相違する。

(ウ)構成Dについて
甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は、「取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出し、その領域から異常画像候補領域を検出し」、「異常画像候補領域の画像データについて、被点検物に生じる異常種類の特徴を示す学習モデルを用いて」、「検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定する」ことから、当該「学習モデル」は「画像データについて、被点検部に生じる異常種類」であって「検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定する」ものであり、本件訂正発明1の構成Dの「入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力する」「学習済モデル」に対応するものといえる。
そうすると、甲1発明1の構成f1は、本件訂正発明1の構成Dの「入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルに、前記抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を」「入力して各機材の状態を判定する判定部」の機能を備えるといえる。
ただし、本件訂正発明1の「判定部」は、「特定部」や「抽出部」とは別個に構成されており、「各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次」入力して各機材の状態を判定するのに対して、甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は1つの構成である点、及び「各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次」入力するものではない点、で相違する。

(エ)構成Eについて
甲1発明1の構成a1の「巡視点検システム1」は、情報処理を行う装置の一種であり、本件訂正発明1の「情報処理装置」に相当する。

以上を総合すると、本件訂正発明1と甲1発明1との一致点、相違点は以下のとおりである。

(一致点)
電気設備に関する複数の機材を含む画像を取得する取得部と、
入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定することで、前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から各機材に対応する前記画像領域を特定し、
特定した前記画像領域から得られる画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出し、
入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルに、前記抽出した各機材に対応する画像領域を入力して各機材の状態を判定する部分と
を備える、情報処理装置。

(相違点1−1)
「複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域」を「取得部が取得した複数の機材を含む画像から」「特定する」にあたって、
本件訂正発明1は「複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定した特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデル」を用いて当該画像領域を特定するものであって、「特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより」、「各機材に対応する所定数の」当該画像領域を特定するのに対して、
甲1発明1は、画像領域の特定にあたって、本件訂正発明1のような学習済モデルを用いるものではなく、また「特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより」、「各機材に対応する所定数の」画像領域を特定するものでもない点。

(相違点1−2)
「画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する」にあたって、
本件訂正発明1は、特定部が特定した画像領域を取得部が取得した画像から抽出するのに対して、
甲1発明1は特定した画像領域である被点検物に相当する領域をそのまま抽出するのではなく、その領域からさらに被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分である異常画像候補領域を検出するものである点。

(相違点1−3)
「前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から各機材に対応する画像領域を特定し」、「特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出し」、「入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルに、前記抽出した各機材に対応する画像領域を入力して各機材の状態を判定する」部分について、
本件訂正発明1は、「特定部」「抽出部」「判定部」という別個の構成を有し、「抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って」「判定部」へ「順次入力」するのに対して、
甲1発明1は、これらが「異常箇所検出部21c」という1個の構成により実現されており、「特定した画像領域である被点検物に相当する領域を抽出するのではなく、その領域からさらに被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分である異常画像候補領域」が入力されているものであり、「各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力」するものではない点。

イ 相違点についての検討及び判断
相違点1−1について検討する。
取得した画像に含まれる複数の対象物に対応する画像領域を特定する場合に、当該特定処理を行う特定部を、学習済モデルを用いて構成することは周知技術にすぎず、
(例えば、上記甲2技術における、複数の注目領域を検出した場合、当該複数の注目領域に対応する複数の注目領域画像を出力し得るものであって、機械学習に基づく被写体(物体)検出により、注目領域を特定すること、
上記甲4技術における、カメラ2で撮影された画像に基づいて、電柱検出部40により、画像上における複数の電柱の探索範囲を設定し、電柱を囲む矩形範囲を検出する場合、電柱の部分画像と電柱以外の部分画像を多数用意し、これらの画像により学習器41を通じて電柱識別器41を学習しておき、識別器による対象物検出により実施すること、
上記甲6技術における、車載カメラの撮影画像から、多数の物体候補領域を検出する検出機能12での物体候補領域の検出にニューラルネットワークを用いる場合、検出機能12で用いるニューラルネットワークを予め学習しておくこと)
甲1発明1の取得データ記憶部21dに記憶された取得データの動画像データから既存の画像処理により複数の異なる被点検物に相当する領域を検出し、その領域から異常画像候補領域を検出する異常箇所検出部21cの構成として、学習済モデルを用いて構成することについては、当業者ならば容易になし得たものである。

しかしながら、「特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより」、「各機材に対応する所定数の」当該画像領域を特定することは、上記周知技術として示された甲2技術ないし甲20技術に基づいて当業者が容易になし得たものではなく、また技術常識や慣用技術ということもできない。
例えば、甲6技術は、
「検出機能12は、車載カメラの撮影画像から、検出の対象となる物体が映っている可能性がある領域(以下、「物体候補領域」と呼ぶ)を検出するものであり、
検出機能12は、予め決められた上位N個の領域を物体候補領域として検出して候補領域情報を出力してもよく、
1フレームの撮影画像から多数の物体候補領域を検出する検出機能12での物体候補領域の検出にニューラルネットワークを用いる場合、検出機能12で用いるニューラルネットワークを予め学習しておき、
ニューラルネットワークが物体らしさを示す尤度をさらに出力する構成であれば、例えばニューラルネットワークが出力した物体らしさを示す尤度をもとに、尤度の高い順にN個の尤度を持つ物体候補領域に対する推定結果のみを出力すること」
ではあるが、機材毎すなわち映っている物体の種類毎に尤度を比較して、各機材に対応する所定数の上位N個(例えば、物体AならばNa個、物体BならばNb個)の尤度を持つ物体候補領域を出力するものではない。
また、甲8技術は、
「学習モデルに画像を入力し、候補を複数算出し、候補のそれぞれについて、位置情報、サイズおよび尤度(確率)を算出するにあたりCNNが用いられる処理部であって、処理部は、候補のなかから、尤度の高い候補を選択する処理部」
に関するものではあるが、甲6技術と同様に、機材毎すなわち映っている物体の種類毎に尤度を比較して、各機材に対応する所定数の上位N個(例えば、物体AならばNa個、物体BならばNb個)の尤度を持つ物体候補領域を出力するものではない。
さらに、甲9技術は、
「画面中心と顔領域の重心位置との間の距離に基づき、当該顔領域の位置重みを決定し、位置重みに基づき顔領域の優先度を算出し、算出された優先度に基づき、画面内で検出された顔領域のそれぞれに対する優先順位が決定され、顔領域毎に優先順位に基づき焦点制御や露出制御を行うこと」
にすぎず、甲6技術、甲8技術と同様に、機材毎すなわち映っている物体の種類毎に尤度を比較して、各機材に対応する所定数の上位N個(例えば、物体AならばNa個、物体BならばNb個)の尤度を持つ物体候補領域を出力するものではない。

そうすると、甲1発明1の異常箇所検出部21cを、学習済モデルを用いて構成すること自体は当業者ならば容易になし得たものであるとしても、さらに、「特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより」、「各機材に対応する所定数の」当該画像領域を特定することは、上記周知技術を考慮しても、当業者であっても容易になし得たものとはいえない。

相違点1−2について、甲1発明1の異常箇所検出部21cは、被点検物に相当する領域を抽出するのではなく、その領域からさらに被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分である異常画像候補領域を検出した後、その異常画像候補領域の画像データについて、被点検物に生じる異常種類の特徴を示す学習モデルを用いて、検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定するものである。
そうすると、甲1発明1の学習モデルには、既に何らかの異常箇所の可能性がある異常画像候補領域を入力することが前提となっていることから、甲1発明1の学習モデルに対する入力を被点検物に相当する領域を入力する構成に置き換えることは、これにとどまらず当該学習モデルまでも被点検物に相当する領域から被点検物に生じる異常種類の特徴を示す学習モデルに変更することを要するものといえる。
しかしながら、そのような改変は、これを行う動機付けが無い限り、当業者であっても容易になし得たものとはいえず、甲第1号証にはそのような動機付けは見当たらない。

相違点1−3について、相違点1−1のとおり、「特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより」、「各機材に対応する所定数の」当該画像領域を特定することは、当業者であっても容易になし得たものとはいえず、また、相違点1−2のとおり、甲1発明1の「異常箇所検出部21c」における学習モデルの入力として、既に何らかの異常箇所の可能性がある異常画像候補領域を入力することが前提となっていることから、これを単に被点検物に相当する領域を入力する構成に置き換えることも、当業者であっても容易になし得たものということはできない。
そうすると、相違点1−3についても、当業者であっても甲1発明1及び上記周知技術に基づいて容易になし得たものということはできない。

以上のとおり、相違点1−1ないし1−3に係る本件訂正発明1の構成は、当業者であっても甲1発明1及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明1についてのまとめ
上記イを総合すると、本件訂正発明1は、当業者であっても甲1発明1及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

2 本件訂正発明3について
ア 対比
本件訂正発明3のうち、本件訂正発明1を引用するものは、本件訂正発明1において、さらに
「H 前記特定部は、前記取得部が取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
I 前記判定部は、前記特定部が付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力する」
という構成H、Iについての事項を追加したものである。

ここで、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3と甲1発明1とを対比すると、両者は、上記1 アの相違点1−1ないし1−3に加えて、下記相違点3で相違するものの、その余の点では一致する。

(相違点3)
本件訂正発明3が上記構成H、Iを有するのに対して、甲1発明1は上記構成H、Iを有するものではない点。

イ 相違点についての検討及び判断
上記相違点1−1ないし1−3については、上記1 イのとおりであり、相違点3について検討するまでもなく、本件訂正発明3は当業者であっても甲1発明1及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

3 本件訂正発明4について
ア 対比
本件訂正発明4のうち、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3を引用するものについて検討すると、当該本件訂正発明4は、上記2において検討した本件訂正発明3において、さらに、
「K 前記第1の学習済モデルは、画像領域の特定結果の確信度を出力し、
L 前記特定部は、各画像領域の確信度に基づいて順位付けを行う」
という構成K、Lについての事項を追加したものである。
ここで、本件訂正発明4と甲1発明1とを対比すると、両者は、上記1 アの相違点1−1ないし1−3及び上記2 アの相違点3に加えて、下記相違点4で相違するものの、その余の点では一致する。

(相違点4)
本件訂正発明4が上記構成K、Lを有するのに対して、甲1発明1は上記構成K、Lを有するものではない点。

イ 相違点についての検討及び判断
上記相違点1−1ないし1−3については、上記1 イのとおりであり、相違点3、4について検討するまでもなく、本件訂正発明4は当業者であっても、甲1発明1及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

4 本件訂正発明6について
ア 対比
本件訂正発明6と甲1発明1とを対比する。

(ア)構成A2について
甲1発明1は、構成a1の「巡視点検システム1」を構成する「巡視点検制御システム2」のうちの「情報処理装置10」において、「ドローン14から取得される取得データ(画像データ(動画像、静止画像))の整理/管理」を行う「異常箇所検出部21c、取得データ記憶部21dを含む」「取得データ整理管理部21」を含み(構成e1)、構成d1の「ドローン14は、巡視点検対象とする送電設備17を撮影して画像データを記憶」することから、ドローンからの送電設備17を含む画像が取得され、これを整理/管理するものといえる。
そうすると、甲1発明1の「情報処理装置10」は、本件訂正発明6の構成A2の「電気設備を含む画像を取得する取得部」を備えるものといえる。

(イ)構成B6、C2について
甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は、「取得データ記憶部21dに記憶された取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出」するものであり、ここで、被点検物に相当する領域を検出するにあたり、当該被点検物に相当する領域が特定されることは明らかである。
そうすると、上記「異常箇所検出部21c」は、本件訂正発明6の構成B6の「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部」と、「入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域」を「前記取得部が取得した画像から」「特定する」点において共通する。
一方、「複数の電気設備に対応する画像領域」を「前記取得部が取得した画像から」「特定する」ことに関して、
本件訂正発明6の構成B6は「入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果及び各電気設備の画像領域の特定結果の確信度を出力する」「第1の学習済モデルを用いて」、「特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより所定数の前記画像領域を特定」するのに対して、
甲1発明1は、「入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力する」「学習済モデルを用い」るものではなく、「特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより所定数の前記画像領域を特定」するものでもない点で、両者は相違する。
次に、上記「異常箇所検出部21c」は、本件訂正発明6の構成C2の「前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部」と対比した場合、「画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する点」で共通するものの、特定した画像領域である被点検物に相当する領域を抽出するのではなく、その領域からさらに被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分である異常画像候補領域を検出する点で相違する。
さらに、本件訂正発明6の「特定部」と「抽出部」は、別個に構成されているのに対して、甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は1つの構成である点で相違する。

(ウ)構成D2について
甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は、「取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出し、その領域から異常画像候補領域を検出し」、「異常画像候補領域の画像データについて、被点検物に生じる異常種類の特徴を示す学習モデルを用いて」、「検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定する」ことから、当該「学習モデル」は「画像データについて、被点検部に生じる異常種類」であって「検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定する」ものであり、本件訂正発明6の構成D2の「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する」「学習済モデル」に相当するものといえる。
そうすると、甲1発明1の構成f1は、本件訂正発明6の構成D2の「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部」の機能を備えるものといえる。
ただし、本件訂正発明6の「判定部」は、「特定部」や「抽出部」とは別個に構成されているのに対して、甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は1つの構成である点で相違する。

(エ)構成P、Qについて
本件訂正発明6は、構成P、Qにより「前記抽出部が抽出した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域の大きさを調整する調整部とを備え、前記判定部は、前記調整部が大きさを調整した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域を特定した順位に従って前記第2の学習済モデルへ入力する」のに対して、甲1発明1は抽出した画像領域の大きさを調整するための構成や、調整した画像領域を「異常箇所検出部21c」の学習モデルに入力するための構成を備えていない点で相違する。

(オ)構成Rについて
甲1発明1の構成a1の「巡視点検システム1」は、情報処理を行う装置の一種であり、本件訂正発明6の「情報処理装置」に相当する。

以上を総合すると、本件訂正発明6と甲1発明1との一致点、相違点は以下の通りである。

(一致点)
電気設備を含む画像を取得する取得部と、
入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域を、前記取得部が取得した画像から特定し、
特定した前記画像領域から得られる画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出し、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する部分と
を備える、情報処理装置。

(相違点6−1)
「複数の電気設備に対応する画像領域」を「取得部が取得した画像から」「特定する」にあたって、
本件訂正発明6は「入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果及び各電気設備の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデル」を用いて当該画像領域を特定するものであって、「特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより」、「所定数の」当該画像領域を特定するのに対して、
甲1発明1は、画像領域の特定にあたって、本件訂正発明1のような学習済モデルを用いるものではなく、また「特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより」、「所定数の」画像領域を特定するものでもない点。

(相違点6−2)
「画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する」にあたって、
本件訂正発明6は、特定部が特定した画像領域を取得部が取得した画像から抽出するのに対して、
甲1発明1は特定した画像領域である被点検物に相当する領域をそのまま抽出するのではなく、その領域からさらに被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分である異常画像候補領域を検出するものである点。

(相違点6−3)
「前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から各機材に対応する画像領域を特定し」、「特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出し」、「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルに、前記抽出した電気設備に対応する画像領域を入力して電気設備の状態を判定する」部分について、
本件訂正発明6は、「特定部」「抽出部」「判定部」という別個の構成を有し、「抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って」を「判定部」へ「順次」入力するのに対して、
甲1発明1は、これらが「異常箇所検出部21c」という1個の構成により実現されており、「特定した画像領域である被点検物に相当する領域を抽出するのではなく、その領域からさらに被点検物において周囲と異なる状態(形状、色等)にある異常箇所の可能性がある部分である異常画像候補領域」が入力されているものであり、「電気設備に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力」するものではない点。

(相違点6−4)
本件訂正発明6は構成P、Qを有し「前記抽出部が抽出した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域の大きさを調整する調整部とを備え、前記判定部は、前記調整部が大きさを調整した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力する」のに対して、甲1発明1は抽出した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域の大きさを調整するための構成や、当該調整した画像領域を「異常箇所検出部21c」の学習モデルに入力するための構成を備えるものではない点。

イ 相違点についての検討及び判断
上記相違点について検討する。
相違点6−1について、上記「1 本件訂正発明1について」の「ア 対比」における上記相違点1−1と同様に、取得した画像に含まれる対象物に対応する画像領域を特定する場合に、当該特定処理を行う特定部を、学習済モデルを用いて構成することは周知技術にすぎず、甲1発明1の取得データ記憶部21dに記憶された取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出し、その領域から異常画像候補領域を検出する異常箇所検出部21cの構成として、学習済モデルを用いて構成することについては、当業者ならば容易になし得たものであるが、「特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより」、「所定数の」当該画像領域を特定することは、上記周知技術として示された甲2技術ないし甲20技術に基づいて当業者が容易になし得たものではなく、また技術常識や慣用技術ということもできない。
そうすると、甲1発明1の異常箇所検出部21cを、学習済モデルを用いて構成すること自体は当業者ならば容易になし得たものであるとしても、さらに、「特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより」、「所定数の」当該画像領域を特定することは、当業者であっても容易になし得たものとはいえない。

相違点6−2については、相違点1−2と同様の理由により、当業者であっても、甲1発明1及び上記周知技術に基づいて容易になし得たものということはできない。

相違点6−3、6−4について、相違点6−1のとおり、「特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより」、「所定数の」当該画像領域を特定することは、当業者であっても容易になし得たものとはいえず、また、相違点6−2については、相違点1−2と同様の理由により、甲1発明1の「異常箇所検出部21c」における学習モデルの入力として、既に何らかの異常箇所の可能性がある異常画像候補領域を入力することが前提となっていることから、これを単に被点検物に相当する領域を入力する構成に置き換えることも、当業者であっても容易になし得たものということはできない。
そうすると、相違点6−3、6−4についても、当業者であっても甲1発明1及び上記周知技術に基づいて容易になし得たものということはできない。

以上のとおり、相違点6−1ないし6−4に係る本件訂正発明6の構成は、当業者であっても甲1発明1及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明6についてのまとめ
上記イのとおり、本件訂正発明6は、当業者であっても甲1発明1及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

5 本件訂正発明7について
ア 対比
本件訂正発明7と甲1発明1とを対比する。

(ア)構成A7について
甲1発明1は、構成a1の「巡視点検システム1」を構成する「巡視点検制御システム2」のうちの「情報処理装置10」において、「ドローン14から取得される取得データ(画像データ(動画像、静止画像))の整理/管理をする」「異常箇所検出部21c、取得データ記憶部21dを含む」「取得データ整理管理部21」を含み、構成d1の「ドローン14は、巡視点検対象とする送電設備17を撮影して画像データを記憶」することから、ドローンからの送電設備17を含む画像が取得され、これを整理/管理するものといえる。
そうすると、甲1発明1の「情報処理装置10」は、本件訂正発明7の構成A7の「電気設備を含む画像を取得」する処理を行うといえる。

(イ)構成B7、C7について
甲1発明1の構成f1の「異常箇所検出部21c」は、「取得データ記憶部21dに記憶された取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出」するものであり、ここで、被点検物に相当する領域を検出するにあたり、当該被点検物に相当する領域が特定されることは明らかである。
そうすると、上記「異常箇所検出部21c」において行われる処理は、本件訂正発明7の構成B7の「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像から前記画像領域を特定」する処理と、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域」を「取得した画像から」「特定する」点において共通し、また、本件訂正発明7の構成C7の「特定した前記画像領域を取得した画像から抽出」する処理を行うものといえる。
ただし、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域」を「特定する」にあたり、本件訂正発明7は「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて」「特定する」のに対して、甲1発明1は「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する」「学習済モデルを用いて」「特定する」ものではない点で、両者は相違する。

(ウ)構成D7について
甲1発明1の構成fの「異常箇所検出部21c」は、「取得データの動画像データから既存の画像処理により被点検物に相当する領域を検出し、その領域から異常画像候補領域を検出し」、「異常画像候補領域の画像データについて、被点検物に生じる異常種類の特徴を示す学習モデルを用いて」、「検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定する」ことから、当該「学習モデル」は「画像データについて、被点検部に生じる異常種類」であって「検出対象とする異常種類に相当する画像であるかを判定する」ものであり、本件訂正発明の構成D7の「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定」する処理を行うものといえる。

(エ)構成H7、I7、N7について
本件訂正発明7は、構成H7、I7、N7の処理、すなわち、
「取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、」「順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、」「取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う」のに対して、甲1発明1は、画像領域の順位付けに関する処理を行うものではない点で相違する。

(オ)構成E7について
甲1発明1は、構成a1のように、撮影された画像データをもとに、複数の異なる被点検物に生じた異常箇所を検出し、この検出結果を巡視点検結果報告として記録することから、本件訂正発明7の構成E7と同様に、「設備判定方法」を実行するものといえる。

以上を総合すると、本件訂正発明7と甲1発明1との一致点、相違点は以下の通りである。

(一致点)
電気設備を含む画像を取得し、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定することで、取得した画像から画像領域を特定し、
特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する、
設備判定方法。

(相違点7−1)
「取得した画像から」「画像領域を特定する」にあたり、
本件訂正発明7は、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用い」るのに対して、
甲1発明1は、画像領域の特定にあたって、本件訂正発明7のような学習済モデルを用いるものではない点。

(相違点7−2)
本件訂正発明7は、「取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う」のに対して、甲1発明1はそのような処理を行うものではない点。

イ 相違点についての検討及び判断
事案に鑑み、まず相違点7−2について検討する。
取得した画像に含まれる領域の順位付けに関して、甲第9号証に記載される甲9技術は、
「画面中心と顔領域の重心位置との間の距離に基づき、当該顔領域の位置重みを決定し、位置重みに基づき顔領域の優先度を算出し、算出された優先度に基づき、画面内で検出された顔領域のそれぞれに対する優先順位が決定され」るという事項を含むものにすぎない。
すなわち、甲9技術は、取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行うものではなく、入力画像に含まれる何らかの対象物に対応する画像領域を特定した特定結果を順位付けするようなものでもなく、上記相違点7−2を充足するものではない。
また、甲2技術から甲6技術、甲8技術、甲10技術、甲11技術、さらには甲12技術ないし甲20技術のような周知技術を検討しても、上記相違点7−2を充足するものではない。

そうすると、相違点7−1について検討するまでもなく、相違点7−2に係る本件訂正発明7の構成は、当業者であっても甲1発明1、甲9技術及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明7についてのまとめ
上記イを総合すると、本件訂正発明7は、当業者であっても甲1発明1、甲9技術及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

6 本件訂正発明8について
本件訂正発明8は、本件訂正発明7の「設備判定方法」を行うコンピュータプログラムに関するものであり、本件訂正発明7と同様に、当業者であっても甲1発明1、甲9技術及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

7 本件訂正発明9に関して
ア 対比
本件訂正発明9と甲1発明2とを対比する。

(ア)構成Sについて
甲1発明2は、構成c2の「ドローン14を用いて、被点検物に対する巡視点検をすることにより取得された異常箇所の実画像データであり、ドローン14により撮影された画像データから、異常箇所であること及び異常種類が作業員等によって確認された画像データ」である「異常箇所検出画像データ40b」と、構成d2の「素線が切れた状態、送電線に炭がついた状態、炭がとれて送電線が光った(光沢)状態などを工具等で送電線に対して付加し、この送電線を撮影することにより生成され」た「擬似的に付加した異常/劣化の状態を撮影した学習用擬似画像データ」である「学習用画像データ40c」を、構成a2の学習モデルを生成する管理装置12の「データ記憶部40a」に記憶している。
また、構成e2について、「異常箇所画像データ40b及び学習用画像データ40cに対して作業員等の走査により指示(教示)」を行うことで「類似画像(学習モデル)を生成するために必要な」のが「教示メタデータ40d」である。ここで、学習モデルの生成にあたっては、教示を行う教示メタデータ40dのみならず、教示の対象である「異常箇所画像データ40b」と「学習用画像データ40c」も学習モデルを生成するために必要であることは明らかである。
また、これら「異常箇所検出画像データ40b」と「学習用画像データ40c」は、何らかの処理を経てデータ記憶部40aに記憶されたものであることも明らかである。
そうすると、これら「異常箇所検出画像データ40b」と「学習用画像データ40c」をデータ記憶部40aに記憶することは、本件訂正発明9の構成Sと同様に「電気設備を含む教師用画像を取得し」ているといえる。

(イ)構成T、U、Vについて
甲1発明2の構成f2の「エッジ切り出し部40h」は、「学習画像読み込み部40fにより読み込まれた学習用画像データ40cに対して、教示メタデータ読み込み部40gにより読み出された教示メタデータ40dを利用し、エッジ検出の画像処理手法を用いて送電線の輪郭を切り出し、すなわち、学習用画像中の送電線の全体を含む領域から送電線に相当する領域を切り出し」ており、送電線に相当する領域を切り出すにあたり、当該送電線に相当する領域が特定されることは明らかである。

そうすると、上記「エッジ切り出し部40h」により「学習画像読み込み部40fにより読み込まれた学習用画像データ40cに対して、教示メタデータ読み込み部40gにより読み出された教示メタデータ40dを利用し、エッジ検出の画像処理手法を用いて送電線の輪郭を切り出し、すなわち、学習用画像中の送電線の全体を含む領域から送電線に相当する領域を切り出し」ていることは、本件訂正発明9の構成Tの「取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する前記画像領域を、複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けして特定」することと、「取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域」を「取得した画像から」「特定する」点において共通する。
また、上記「エッジ切り出し部40h」により「切り出し」ていることは、本件訂正発明9の構成Uと「特定した前記画像領域を取得した画像から抽出」する点において共通する。

ただし、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域」を「取得した画像から」「特定する」にあたり、本件訂正発明9は、構成Tにおいて「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて」「特定する」のに対して、甲1発明2は「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する」「学習済モデルを用いて」「特定する」ものではない点で、両者は相違する。
次に、本件訂正発明9は、構成Tにおいて、「取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する前記画像領域を、複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けして特定」するのに対して、甲1発明2は、そのような順位付けを行うものではない点で相違する。
また、「特定した前記画像領域を取得した画像から抽出」することについて、本件訂正発明9は、構成Uにおいて、「順位付けされて特定された」画像領域を抽出するのに対して、甲1発明2は「順位付けされて特定された」画像領域を抽出するものではない点で相違する。
さらに、本件訂正発明9は、構成Vにおいて「順位付けされた抽出した前記画像領域の大きさを調整」するのに対して、甲1発明2は、順位付けされた抽出した前記画像領域の大きさを調整するものではない点で相違する。

(ウ)構成Wについて
甲1発明2の構成g2の「隣接正常画像探索部40k」は、「被点検物の画像(送電線輪郭内)中の異常画像の周辺にある複数の正常画像領域を探索し、被点検物の画像から抽出可能な正常画像を抽出し」、構成h2の「類似画像生成部40nは、隣接正常画像探索部40kにより探索された複数の正常画像と、教示メタデータ40dが示す異常画像とを組み合わせ、被点検物に生じる異常/劣化の状態を表す疑似画像(類似画像)を生成し」ていることから、本件訂正発明9の構成Wの「抽出した前記画像領域及び該画像領域に含まれる電気設備の状態を対応付けた教師データに基づいて」「学習済モデルを生成」しているといえる。

また、甲1発明2の構成i2、j2の「学習済みモデル管理部40pは、類似画像生成部40nにより生成された正常画像と異常画像の割合別の類似画像を学習する、すなわち、生成された類似画像を、類似画像を生成した条件と対応づけて、学習モデル記憶部40vに記憶/管理し、学習済みモデル管理部40pにより類似画像(学習モデル)が学習され」「異常箇所を含む画像と異常箇所を含まない画像とが混在する複数の検証画像に対して、検証画像に含まれる異常箇所の異常種類に対して生成された学習モデルを用いて異常箇所の検出(認証)処理を実行する」ことから、構成i2、j2の「学習済みモデル管理部40p」に管理される「検証画像に含まれる異常箇所の異常種類に対して生成された学習モデル」を用いて「異常箇所を含む画像と異常箇所を含まない画像とが混在する複数の検証画像に対して」、「異常箇所の検出(認証)処理を実行する」ものといえるが、これは、本件訂正発明9の構成Wの「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する」に相当する。

以上のことから、甲1発明2の構成g2、h2、i2、j2における処理は、本件訂正発明9の構成Wの「入力された画像に含まれる電気設備に対応する」、「抽出した」「画像領域」である「前記画像領域及び該画像領域に含まれる電気設備の状態を対応付けた教師データに基づいて」、「入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを生成する」ことと同様の処理を行うものといえる。
ただし、学習済モデルを生成するにあたって、本件訂正発明9の構成Wは、「大きさを調整した」前記画像領域を用いており、「第1の学習済みモデルによる特定結果から順位付けされて特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力」するのに対して、甲1発明2は、「大きさを調整した」画像を用いるものではなく、かつ順位付けされて特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力するものではない点において相違する。

(エ)構成Xについて
甲1発明2の構成a2の「学習モデル生成処理」は、本件訂正発明9の構成Xの「学習済みモデルの生成方法」に相当する。

以上を総合すると、本件訂正発明9と甲1発明2との一致点、相違点は以下の通りである。

(一致点)
電気設備を含む教師用画像を取得し、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を、取得した画像から特定し、
特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
前記画像領域及び該画像領域に含まれる電気設備の状態を対応付けた教師データに基づいて、入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを生成する、
学習済モデルの生成方法。

(相違点9−1)
「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域」を「取得した画像から」「特定する」にあたり、
本件訂正発明9は、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて」「特定する」のに対して、
甲1発明2は「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する」「学習済モデルを用いて」「特定する」ものではない点。

(相違点9−2)
「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域」を「取得した画像から」「特定する」にあたり、
本件訂正発明9は、「取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する前記画像領域を、複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けして特定」するのに対して、
甲1発明2は、そのような順位付けを行うものではない点。

(相違点9−3)
「特定した前記画像領域を取得した画像から抽出」することについて、
本件訂正発明9は、「順位付けされて特定された」画像領域を抽出し、「順位付けされた抽出した前記画像領域の大きさを調整」するのに対して、
甲1発明2は「順位付けされて特定された」画像領域を抽出するものではなく、順位付けされた抽出した前記画像領域の大きさを調整するものでもない点で相違する。

(相違点9−4)
学習済モデルを生成するにあたって、
本件訂正発明9は、「大きさを調整した」前記画像領域を用いており、「第1の学習済みモデルによる特定結果から順位付けされて特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力」するのに対して、甲1発明2は、「大きさを調整した」画像を用いるものではなく、かつ順位付けされて特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力するものではない点において相違する。

イ 相違点についての検討及び判断
事案に鑑み、まず相違点9−2について検討するに、上記「5 本件訂正発明7について」の「イ 相違点についての検討及び判断」と同様の理由により、甲第9号証に記載される甲9技術は、上記相違点9−2を充足するものではない。
また、甲2技術から甲6技術、甲8技術、甲10技術、甲11技術、さらには甲12技術ないし甲20技術のような周知技術を検討しても、上記相違点9−2を充足するものではない。

そして、相違点9−3、9−4において、このように順位付けされた画像領域を入力して、最終的に第2の学習済モデルを生成する以上、甲9技術及び上記周知技術を検討しても、上記相違点9−3、9−4を充足するものではない。

したがって、相違点9−1について検討するまでもなく、相違点9−2ないし9−4に係る本件訂正発明9の構成は、当業者であっても甲1発明2、甲9技術及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件訂正発明7についてのまとめ
上記イを総合すると、本件訂正発明9は、当業者であっても甲1発明2、甲9技術及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

8 小括
以上のとおり、本件訂正発明1、本件訂正発明3、4のうち、本件訂正発明1を引用する発明、本件訂正発明6並びに7、8は、当業者であっても甲第1号証に記載された発明のうちの甲1発明1、甲9技術及び上記周知技術に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。
また、本件訂正発明9は、当業者であっても甲第1号証に記載された発明のうちの甲1発明2、甲9技術及び上記周知技術に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。

第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立について

1 特許異議申立書における特許異議申立理由の要旨
特許異議申立書における、請求項1〜9に係る特許(以下、訂正前の請求項1〜9に係る発明については、項番にしたがい「本件特許発明1」〜「本件特許発明9」という。)に対しての特許異議申立理由の要旨は、以下のとおりである。(特許異議申立書の3(3)申立ての根拠、(4)具体的理由のイ〜キ、(5)むすび)
なお、末尾の括弧内は、特許異議申立書の関連する頁行である。

(1)特許法第29条第2項(同法第113条第2号):甲1発明を主引用発明とする進歩性欠如
本件特許発明1、3、4、及び6から9は、甲1発明及び周知技術に基づいて容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明2は、甲1発明、甲第7号証、及び周知技術に基づいて容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明5は、甲1発明、甲第9号証、及び周知技術に基づいて容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(周知技術を立証する証拠として、甲第2号証から甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第11号証)
(12頁10〜14行、45頁5〜14行、67頁20行〜68頁22行)

(2)特許法第29条第2項(同法第113条第2項):甲2発明を主引用発明とする進歩性欠如
本件特許発明1、3、及び6から8は、甲2発明に基づいて容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明2は、甲2発明及び甲第7号証に記載の事項に基づいて容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明4は、甲2発明及び周知技術に基づいて容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、本件特許発明5は、甲2発明及び甲第9号証に記載の事項に基づいて容易に想到できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(周知技術を立証する証拠として、甲第3号証から甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第11号証)
(12頁15〜19行、58頁15行〜59頁3行、68頁23行〜69頁20行)

甲第1号証 :特開2018− 74757号公報
甲第2号証 :特開2018−107759号公報
甲第3号証 :特開2014−126361号公報
甲第4号証 :特開2015−116916号公報
甲第5号証 :特開2014−106685号公報
甲第6号証 :特開2019− 8460号公報
甲第7号証 :特開2017−117025号公報
甲第8号証 :特開2019− 3299号公報
甲第9号証 :特開2010−141616号公報
甲第10号証:特開2019− 21313号公報
甲第11号証:特開2018− 22484号公報

(3)特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号
請求項1から9に記載の「電気設備」の意義は明確ではないから、本件特許発明1から9は明確ではない。

まず、発明の詳細な説明に「電気設備」の定義は存在しない。そして、広辞苑(第7版)に「電気設備」との項目が存在しないことからもわかるように、「電気設備」の意義は明確には確定できない。

これが「電気」に関連する何らかの「設備」を意味するものとすれば、電池、複写機の静電潜像媒体(感光ドラム)、コンピュータ、集積回路、電子レンジ、電子レンジを載置する台、及び発電所を含む、極めて多種多様にわたる対象が含まれることになる。その一方で、発明の詳細な説明において電気設備の具体例として挙げられたのは、わずかに電柱、電柱に設けられた各種の機材、及び電線にすぎない(段落0011)から、「電気設備」が何を含み、何を含まないのかを理解することは極めて困難である。
また、本件特許発明の意義に照らして、「電気設備」が上記のあらゆる設備を含むと理解することは不合理である。第1に、本件特許発明は「撮像画像に設備が小さく写されている場合には、この設備の異常を精度よく判定できない虞がある」との課題(段落0004)に鑑みてなされたものである。しかしながら、一般に設備(例えば集積回路等)の画像による異常判定を行うのであれば、設備が適切な大きさで写るように設定された距離で撮像を行うことを試みるのが当然であり、撮像画像に設備が小さく写されているなどという課題は通常生じ得ない。第2に、電池のように異常が内部で生じがちな設備に対して画像を用いた異常判定を行うことも、一般には考えにくい。してみれば、本件特許発明1−9の対象となる「電気設備」とは、設備が小さく写される可能性がある何らかの事情を有するものであり、画像により検出可能な異常が生じがちな設備でなければ、不合理であるといわざるを得ない。しかしながら、請求項に記載された「電気設備」は設備の範囲を具体的に定めていないし、発明の詳細な説明に基づいても「電気設備」の範囲を明確に定めることは不可能である。

結局のところ、「電気設備」の意義は不明確であり、本件特許発明の技術的意義及び技術常識を考慮すれば発明特定事項が不足していると理解せざるを得ないことから、本件特許発明1−9は明確ではなく、請求項1−9は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を充たさない。

本件特許発明1から9は、特許請求の範囲の記載について、請求項に係る発明が明確ではないため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(12頁20〜21行、59頁4行〜60頁8行、69頁21〜24行)

(4)特許法第36条第6項第1号について(1)(同法第113条第4号
当業者は、発明の詳細な説明等に基づいて本件特許発明1から5及び7から9により発明の課題が解決できることを認識することができないから、本件特許発明1から5及び7から9は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、請求項1から5及び7から9はサポート要件を充たさない。

本件特許発明の課題は、【背景技術】及び【発明が解決しようとする課題】の記載によれば、従来画像から着目部分(例えばアーム)の画像領域を抽出し、この領域に対して異常検出を行う方法が知られていたところ、人工知能を用いた画像認識により設備を撮像した画像から設備の異常を判定する際に、設備が小さく写されている場合に判定精度が低かったため、この判定精度を向上させる点にあると理解される。

【0002】
配電設備の異常を判定する種々の手法が提案されている。例えば特許文献1では、一台の赤外線カメラ及び複数の可視光カメラで電柱を撮像し、可視光力メラで撮像した画像からアーム(腕金)の画像領域を抽出し、赤外線カメラで撮像した熱画像におけるアームの画像領域から柱上機材の温度勾配を算出して、柱上機材が正常か異常かを判定する異常検出方法等が開示されている。

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ニューラルネットワークを利用した人工知能により、カメラの撮像画像から特定の物体を検出する画像認識の技術が急速に発展している。当該技術を利用し、設備を撮像した画像に基づいてこの設備の異常を判定することが研究されている。しかし、カメラの撮像画像に写された設備の大きさにより異常判定の精度が左右され、撮像画像に設備が小さく写されている場合には、この設備の異常を精度よく判定できない虞がある。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、カメラの撮像画像に基づく設備の異常判定の精度を向上することが期待できる情報処理装置、設備判定方法、コンピュータプログラム及び学習済モデルの生成方法を提供することにある。

しかしながら、請求項1から5及び7から9には、学習済モデルに適用される、電気設備に対応する画像領域の大きさについて何ら規定されておらず、これらの請求項に記載の構成により上記の課題が解決できる理由は、請求項の記載からはもとより本件明細書からも全く理解できない。
たしかに、段落0007には、「画像からの電気設備が写された画像領域の特定と、特定された画像領域からの電気設備の状態判定とを異なる学習済モデルを用いて行うことにより、電気設備の状態判定の精度の向上が期待できる。」との記載がある。しかしながら、当該手法を用いたところで画像中に設備が小さく写されているという問題には対処できないし、かかる構成により精度の向上が期待できる理由も本件明細書には何ら記載されていないのである。そもそも、このように画像領域の抽出と状態判定とを別の手法で行うこと自体は、画像からアームの画像領域を抽出し、この画像領域に対して異なる判定方法(温度勾配を算出)で異常検出を行う従来技術(段落0002)と何ら変わるところがなく、かかる手法のみで異常判定の精度を向上できるとは到底理解できない。

一方で、段落0060には以下の構成が記載されている。

次いで、処理部11の領域抽出部11cは、ステップS11にて取得した撮像画像から、ステップS13にて特定された画像領域を抽出する(ステップS15)。処理部11の調整部11dは、異常判定モデル12cの入力に適した大きさとなるよう、抽出された画像領域の大きさを必要に応じて拡大又は縮小して調整する(ステップS16)。処理部11の異常判定部11eは、抽出及び調整がなされた画像領域を、記憶部12に記憶された学習済の異常判定モデル12cへ入力する(ステップS17)。異常判定部11eは、異常判定モデル12Cが出力する異常有無の判定結果を取得し(ステップS18)、画像領域に含まれる電気設備の異常の有無を判定する(ステップS19)。

このように、抽出された画像領域の大きさを拡大するという構成を採用すれば、設備が小さく写されている場合に判定精度が低かったという課題を解決できることは理解できる。
言い換えれば、本件特許発明1から5及び7から9には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段である、「異常判定モデル12Cの入力に適した大きさとなるよう、抽出された画像領域の大きさを必要に応じて拡大」して調整することが反映されておらず、本件特許発明1から5及び7から9は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求しているというべきである。

以上のように、当業者は、本件特許発明1から5及び7から9により発明の課題が解決できることを認識することができないから、本件特許発明1から5及び7から9は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、請求項1から5及び7から9は特許法第36条第6項第1号の要件を充たさない。

本件特許発明1から5及び7から9は、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(12頁22〜23行、60頁9行〜63頁1行、69頁25行〜70頁2行)

(5)特許法第36条第6項第1号について(2)(同法第113条第4号
当業者は、発明の詳細な説明等に基づいて本件特許発明2から6により発明の課題が解決できることを認識することができないから、本件特許発明2から6は発明の詳細な説明に記載されたものとはいえず、請求項2から6はサポート要件を充たさない。

本件特許発明2の発明特定事項
「E 前記特定部は、画像領域に電気設備が含まれていることに係る確信度、及び、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する」
について、発明の詳細な説明の対応する記載は以下の通りである。

【0026】
領域特定部11bは、記憶部12に記憶された領域特定モデル12bを用いて、画像取得部11aが取得した画像から処理対象となる電気設備が含まれる領域を特定する処理を行う。領域特定モデル12bは、画像を入力として受け付け、電気設備が含まれている画像領域を特定する座標等の情報と、この特定に関する確信度とを出力する。また本実施の形態において領域特定モデル12bは、特定した画像領域に含まれる電気設備の異常の有無の判定結果をも出力する。ただし本実施の形態において、領域特定モデル12bが出力する異常の有無の判定結果は、画像領域の順位付けに用いる予備的な情報であり、電気設備の異常の有無の最終的な判定は異常判定モデル12cが行う。

【0051】
なお領域特定モデル12bは、画像領域の特定結果と共に、この特定結果の確信度を出力する。また領域特定モデル12bは、異常の有無の判定結果と共に、この判定結果の確信度を出力する。サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力するこれらの情報に基づいて、電気設備が含まれる画像領域の最終的な特定を行う。例えば、サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力した特定結果の確信度が低い場合、又は、異常有無の判定結果の確信度が低い場合等には、領域特定モデル12bが出力した画像領域の特定結果を破棄して次段の処理を行わなくてもよい。また領域特定モデル12bが複数の画像領域を特定した場合、サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力する情報に基づいて、画像領域の順位付けを行う。順位付けの詳細は後述する。

第1に、本件特許発明の課題が、カメラの撮像画像に基づく設備の異常判定の精度を向上することであることは、上述のとおりである。
確信度に基づく処理を上記課題の解決のために採用するにあたり、例えば、「異常有無の判定結果の確信度が低く、異常の有無の判定が難しい電気設備について、次段の処理によって異常判定を行う」という構成ならば、(このような構成が各請求項及び本件明細書には全く記載されていないことはさておき)上記課題を解決できることは理解できる。
一方で、発明の詳細な説明には、「前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する」という事項そのものは記載されているものの、その具体的構成については、上記段落0051に、領域特定モデル12bが特定した電気設備を含む画像領域について、「異常有無の判定結果の確信度が低い場合等には、領域特定モデル12bが出力した画像領域の特定結果を破棄して次段の処理を行わなくてもよい。」と記載されているのみであり、他の実施形態は記載されていない。ここでいう次段の処理は、段落0052に記載されているように、抽出した画像領域に含まれる電気設備の異常の有無を判定する、異常判定モデル12Cを用いた処理のことを指している。
すなわち、発明の詳細な説明を読んだ当業者は、「前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する」との発明特定事項が、電気設備を含む画像領域について、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度(異常の有無の判定結果の確信度)が低い場合に、前記画像領域を特定しないことを意味する、あるいは少なくともこのような構成を含むと理解するはずである。しかしながら、このような構成を採用すれば、電気設備に対応する画像領域と判定されたとしても、異常の有無の判定結果の確信度が低い場合には、第2の学習済モデルを用いた電気設備の状態(異常の有無)の判定を行わないことになる。これは、異常の有無の判定が難しい電気設備については、異常を検出しないことを意味するから、かかる構成を導入することにより異常判定の精度を向上するという課題を達成できなくなることは明らかである。

第2に、本件特許発明2の「前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度」について、当該確信度を出力する主体については特定されていないため、例えば、「第2の学習済モデル」が出力する「前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度」も含み得る。
しかしながら、上記のとおり、発明の詳細な説明においては、「第1の学習済モデル」に対応する「領域特定モデル12b」が「前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度」を出力する構成のみが記載されている。
また、上述の段落0051に記載の「領域特定モデル12bが出力した特定結果の確信度が低い場合、又は、異常有無の判定結果の確信度が低い場合等には、領域特定モデル12bが出力した画像領域の特定結果を破棄して次段の処理を行わなくてもよい。」との本件特許発明2の技術的意義を鑑みると、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。したがって、本件特許発明2は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。

以上のように、当業者は、本件特許発明2により発明の課題が解決できることを認識することができないから、本件特許発明2は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、請求項2は特許法第36条第6項第1号の要件を充たさない。
請求項3から6は請求項2を引用しているため、当業者は本件特許発明3から6によっても発明の課題が解決できることを認識することができないから、本件特許発明3から6は発明の詳細な説明に記載されたものではなく、請求項3から6は特許法第36条第6項第1号の要件を充たさない。

本件特許発明2から6は、請求項に係る発明が発明の詳細な説明に記載したものではないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(12頁24〜25行、63頁2行〜66頁6行、70頁3〜6行)

(6)特許法第36条第4項第1号について(同法第113条第4項
発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明6の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

本件特許発明6の発明特定事項
「K 前記抽出部が抽出した画像領域の大きさを調整する調整部を備え、
L 前記判定部は、前記調整部が大きさを調整した画像領域を前記第2の学習済モデルヘ入力する」
について、発明の詳細な説明における対応する記載は以下の通りである。

【0029】
調整部11dは、領域抽出部11cが抽出した画像領域に対して大きさを調整する処理を行う。領域特定部11bにより特定されて領域抽出部11cにより抽出される画像領域の大きさは、元の画像に写されていた電気設備の大きさに依存する。調整部11dは、領域抽出部11cが抽出した画像領域を拡大又は縮小することによって、異常判定モデル12Cの入力に適した画像の大きさとなるよう調整する。

【0060】
次いで、処理部11の領域抽出部11cは、ステップS11にて取得した撮像画像から、ステップS13にて特定された画像領域を抽出する(ステップS15)。処理部11の調整部11dは、異常判定モデル12cの入力に適した大きさとなるよう、抽出された画像領域の大きさを必要に応じて拡大又は縮小して調整する(ステップS16)。処理部11の異常判定部11eは、抽出及び調整がなされた画像領域を、記憶部12に記憶された学習済の異常判定モデル12cへ入力する(ステップS17)。異常判定部11eは、異常判定モデル12cが出力する異常有無の判定結果を取得し(ステップS18)、画像領域に含まれる電気設備の異常の有無を判定する(ステップS19)。

しかしながら、「K 前記抽出部が抽出した画像領域の大きさを調整する調整部」について、発明の詳細な説明において、「具体的にどのような大きさにすることで精度が向上するか」について記載がなく、単に「異常判定モデル12cの入力に適した画像の大きさとなるよう調整する」との抽象的又は機能的に記載してあるだけで具現すべき工程等が不明瞭である。また、「異常判定モデル12cの入力に適した画像の大きさ」が具体的にはどのような大きさであるのか、出願時の技術常識に基づいても当業者は理解できない。このため、当業者が本件特許発明6に係る発明の実施をすることはできない。

したがって、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明6を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を充たしていない。

本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があり、本件特許発明6は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(12頁26行〜13頁1行、66頁7行〜67頁18行、70頁7〜10行)

2 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての検討
上記1(1)〜(6)の特許異議申立理由のうち、取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について、以下で検討する。

(1)特許法第29条第2項(同法第113条第2項):甲1発明を主引用発明とする進歩性欠如
以下では、本件訂正発明2について、甲1発明1及び甲第7号証並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたかどうかについての検討を、次に本件訂正発明5について、甲1発明1及び甲第9号証並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたかどうかに対する検討を、それぞれ行う。
その後、本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3、4についての検討を行う。

ア 本件訂正発明2について
(ア)本件訂正発明2と甲1発明1との対比
両者を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

(相違点F)
本件訂正発明2は、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部」が、構成Fのように「画像領域に電気設備が含まれていることに係る確信度、及び、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する」を有するのに対して、甲1発明1における構成f1の「異常箇所検出部21c」は、そのような構成を有するものではない点。

(イ)相違点に対する判断
上記相違点Fについて検討する。
甲第7号証に記載される甲7技術は、上記「第5 特許異議申立時に提出された甲号証及び甲号証に記載された発明について」の「7(2)甲7技術」で説示したとおり、
「局所領域およびその周辺領域についての画像特徴量が入力されると、局所領域のカテゴリーの尤度、および周囲の領域との近接度を推定して出力する情報抽出処理部と、カテゴリーの尤度と周辺の領域間の近接度とに基づいて局所領域のカテゴリーを特定する構成要素識別処理部からなるパターン識別装置であって、情報抽出処理部を実現する識別系は系統の異なる多変量の目標変数の学習が可能であり、多変量の目標変数を学習する識別器として、ニューラルネットが考えられること」
というものにすぎず、上記相違点Fを充足するものではない。
また、上記相違点Fに係る技術事項は周知技術ではなく、周知技術を示す文献として挙げられた甲第2号証から甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第11号証、さらには甲第12号証ないし甲第20号証のいずれにも記載されていない。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明2は、当業者であっても甲1発明、甲7技術及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件訂正発明5について
(ア)本件訂正発明5と甲1発明1との対比
両者を対比すると、少なくとも以下の点で相違する。

(相違点N)
本件訂正発明5は、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部」が、構成Nのように「前記取得部が取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う」を有するのに対して、甲1発明1における構成f1の「異常箇所検出部21c」は、そのような構成を有するものではない点。

(イ)相違点に対する判断
上記相違点Nについて検討するに、上記「第7 取消理由通知(決定の予告)において通知した特許異議申立理由についての当審の判断」の「5 本件訂正発明7」の「イ 相違点についての検討及び判断」と同様の理由により、甲第9号証に記載される甲9技術は、上記相違点Nを充足するものではない。
また、上記相違点Fに係る技術事項は周知技術ではなく、周知技術を示す文献として挙げられた甲第2号証から甲第6号証、甲第8号証、甲第10号証、甲第11号証、さらには甲第12号証ないし甲第20号証のいずれにも記載されていない。

(ウ)小括
よって、本件訂正発明5は、当業者であっても甲1発明、甲9技術及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件訂正発明3、4について
本件訂正発明3、4のうち、本件訂正発明2を引用する発明について、本件訂正発明3、4と甲1発明1とを対比すると、少なくとも上記アの相違点Fを有する。
また、甲7技術及び甲2技術から甲6技術、甲8技術、甲10技術、甲11技術、さらには甲12技術ないし甲20技術のような周知技術を検討しても、当該相違点Fを充足するものではない。
そうすると、本件訂正発明3、4のうち、本件訂正発明2を引用する発明については、当業者であっても甲1発明、甲7技術及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)特許法第29条第2項(同法第113条第2項):甲2発明を主引用発明とする進歩性欠如

ア 甲第2号証の記載及び甲2発明の認定
甲第2号証には、以下の記載がある。(下線は当審にて合議体が付した。)

「【0038】
(画像処理装置の構成)
以上、本実施形態に係る画像処理システム1000の全体構成について説明した。つづいて、画像処理装置1の詳細な構成について説明する。画像処理装置1は、図4に示すように画像読出し部10、第1の信号処理部101、第2の信号処理部102、及び認識器記憶部103を備える。
【0039】
画像読出し部10は、画素信号を出力する複数の画素を有し、当該画素信号をデジタル信号に変換した画像を出力する。画像読出し部10の機能は、例えば2層構造のイメージセンサにより実現されてもよい。」

「【0064】
図4に示す第1の信号処理部101は、画像読出し部10から図5を参照して説明した低解像度画像を受け取り、画像読出し部10における注目領域の特定(検出)を行う。また、第1の信号処理部101は、注目領域を指定する領域指定信号を画像読出し部10へ出力する。
・・・
【0068】
なお、第1の信号処理部101による注目領域の特定方法は上記の例に限定されない。例えば、被写体の形状、または被写体の色の一致度を用いて特定する方法や、複数枚の画像を用いた時系列的な処理により、前フレームで抽出した注目領域の場所の情報を用いても良いし、被写体の動きから特定する方法が採用されてもよい。また、第1の信号処理部101は、機械学習に基づく被写体(物体)検出により、注目領域を特定してもよく、例えば被写体検出により検出される所定の種別の被写体(例えば人、顔、車両等)の写る領域を、注目領域として特定してもよい。」

「【0077】
第2の信号処理部102は、領域指定信号に基づいて画像読出し部10が出力する注目領域画像に対して認識処理を行う。第2の信号処理部102の認識処理が、画像読出し部10の有する全ての画素に基づく画像ではなく、注目領域画像に対して行われることにより、処理量が抑えられる。また、注目領域画像は、低解像度画像よりも解像度(画像密度)が高く、例えば、全ての画素に基づく画像と同等の解像度を有するため、縮小画像を用いて認識処理を行う場合よりも高精度に認識処理を行うことが可能となる。」

「【0079】
例えば、第1の信号処理部101が被写体の種類を特定せずに被写体の領域を注目領域として特定していた場合、第2の信号処理部102による認識処理は、被写体の種別を認識する処理であってもよい。被写体の種別は、例えば、人、動物(犬、猫など)、貨幣、キャッシュカード等のカード、車両、車両のナンバープレート、信号等であってもよい。
【0080】
また、第1の信号処理部101が所定の種別の被写体を検出して、検出された被写体の領域を注目領域として特定していた場合、第2の信号処理部102による認識処理は、当該被写体のより詳細な情報や、属性等を認識する処理であってもよい。例えば、第1の信号処理部101が人(人物)を検出し、人物領域を注目領域として特定していた場合、第2の信号処理部102による認識処理は、人物を識別(例えば名前やIDとの対応付け)処理であってもよい。また、第1の信号処理部101が人の顔を検出し、顔領域を注目領域として特定していた場合、第2の信号処理部102による認識処理は、性別、年齢、表情、感情等の属性を認識する処理であってもよい。
・・・
【0082】
また、第2の信号処理部102は、認識器記憶部103に記憶された認識器を用いて、認識処理を行ってもよい。当該認識器は、上述したように、サーバ7が行う注目領域画像に基づく機械学習により得られる。なお、サーバ7が行う機械学習の手法は特に限定されないが、例えばCNN(Convolutional Neural Network)に基づく手法であってもよく、係る場合、機械学習により得られる認識器はニューラルネットワークであってもよい。」

これらの記載によれば、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

2a、2b、2c、2d、2e 画像読出し部10、第1の信号処理部101、第2の信号処理部102、認識器記憶部103を備える画像処理装置1であって、(【0038】)

2b、2c 第1の信号処理部101は、画像読出し部10から画像を受け取り、注目領域の特定(検出)を行い、注目領域を指定する領域指定信号を画像読出し部10へ出力するものであって、機械学習に基づく被写体(物体)検出により、注目領域を特定するものであり、所定の種別の被写体(人、顔、車両等)の写る領域を、注目領域として特定するものであり、(【0064】、【0068】)

2d 第2の信号処理部102は、領域指定信号に基づいて画像読出し部10が出力する注目領域画像に対して認識処理を行うものであり、認識器記憶部103に記憶された認識器を用いて、認識処理を行うものであり、当該認識器は、注目領域画像に基づく機械学習により得られ、機械学習の手法はCNN(Convolutional Neural Network)に基づく手法であり、機械学習により得られる認識器はニューラルネットワークであり、(【0077】、【0082】)

2b、2c、2d 第1の信号処理部101が被写体の種類を特定せずに被写体の領域を注目領域として特定していた場合、第2の信号処理部102による認識処理は、被写体の種別を認識する処理であり、被写体の種別は、人、動物(犬、猫など)、貨幣、キャッシュカード等のカード、車両、車両のナンバープレート、信号等であり、(【0079】)
第1の信号処理部101が所定の種別の被写体を検出して、検出された被写体の領域を注目領域として特定していた場合、第2の信号処理部102による認識処理は、当該被写体のより詳細な情報や、属性等を認識する処理であり、例えば、第1の信号処理部101が人(人物)を検出し、人物領域を注目領域として特定していた場合、第2の信号処理部102による認識処理は、人物を識別(例えば名前やIDとの対応付け)処理であり、第1の信号処理部101が人の顔を検出し、顔領域を注目領域として特定していた場合、第2の信号処理部102による認識処理は、性別、年齢、表情、感情等の属性を認識する処理である、(【0080】)

2e 画像処理装置1。(【0038】)

イ 本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、両者は以下の点で一致する。

(一致点)
A’’ 所定の種別の被写体を含む画像を取得する取得部と、
B’’ 入力された画像に含まれる所定の種別の被写体に対応する画像領域を特定した特定結果を機械学習により得て、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部と、
C’’ 前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
D’’ 入力された画像領域に含まれる所定の種別の被写体のより詳細な情報や属性を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から所定の種別の被写体のより詳細な情報や属性を判定する判定部とを備える、
E 情報処理装置。

一方、両者は、少なくとも、上記「第7 取消理由通知(決定の予告)において通知した特許異議申立理由についての当審の判断」の「1 本件訂正発明1について」の「ア 対比」において示した相違点1−1、及び相違点1−3のうち、本件訂正発明1が「抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って」「判定部」へ「順次入力」するのに対して、甲2発明は「各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力」するものではない点で相違する。

そして、相違点1−1、及び相違点1−3のうち、本件訂正発明1が「抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って」「判定部」へ「順次入力」するのに対して、甲2発明は「各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力」するものではない点について検討するに、上記第7 取消理由通知(決定の予告)において通知した特許異議申立理由についての当審の判断」の「1 本件訂正発明1について」の「イ 相違点についての検討及び判断」で示した理由と同様の理由により、当業者であっても、甲2発明及び上記周知技術として示された甲3技術ないし甲20技術に基づいて、当該相違点1−1、及び相違点1−3のうちの上記の点に係る事項を容易に構成することができたとはいえない。
したがって、本件訂正発明1は、当業者であっても甲2発明及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件訂正発明2
本件訂正発明2と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。

(相違点F)
本件訂正発明2は、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部」が、構成Fのように「画像領域に電気設備が含まれていることに係る確信度、及び、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する」を有するのに対して、甲2発明はそのような構成を有するものではない点。

相違点Fについて検討するに、上記(1)の「ア 本件訂正発明2について」と同様に、甲第7号証に記載される甲7技術は、上記相違点Fを充足するものではない。
また、甲3技術から甲6技術、甲8技術、甲10技術、甲11技術、さらには甲12技術ないし甲20技術のような周知技術を検討しても、上記相違点Fを充足するものではない。

よって、本件訂正発明2は、当業者であっても甲2発明、甲7技術及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件訂正発明5
本件訂正発明5と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。

(相違点N)
本件訂正発明5は、「入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部」が、構成Nのように「前記取得部が取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う」を有するのに対して、甲2発明は、そのような構成を有するものではない点。

相違点Nについて検討するに、上記(1)の「イ 本件訂正発明5について」と同様に、甲第9号証に記載される甲9技術は、上記相違点Nを充足するものではない。
また、甲3技術から甲6技術、甲8技術、甲10技術、甲11技術、さらには甲12技術ないし甲20技術のような周知技術を検討しても、上記相違点Nを充足するものではない。

よって、本件訂正発明5は、当業者であっても甲2発明、甲9技術及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 本件訂正発明6
本件訂正発明6と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも、上記「第7 取消理由通知(決定の予告)において通知した特許異議申立理由についての当審の判断」の「4 本件訂正発明6について」の「ア 対比」において認定され、「イ 相違点についての検討及び判断」において検討及び判断された、相違点6−1、及び相違点6−3のうち、本件訂正発明6が「抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って」「判定部」へ「順次入力」するのに対して、甲2発明は「各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力」するものではない点、並びに相違点6−4の点で相違する。

そして、相違点6−1、及び相違点6−3のうちの本件訂正発明6の「抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って」「判定部」へ「順次入力」するのに対して、甲2発明は「各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力」するものではない点、並びに相違点6−4について検討するに、上記「第7 取消理由通知(決定の予告)において通知した特許異議申立理由についての当審の判断」の「4 本件訂正発明6について」の「イ 相違点についての検討及び判断」で示した理由と同様の理由により、当業者であっても、甲2発明及び上記周知技術として示された甲3技術ないし甲20技術に基づいて、当該相違点6−1、及び相違点6−3のうちの上記の点、並びに相違点6−4に係る事項を容易に構成することができたとはいえない。

したがって、これらの相違点に係る構成を含む本件訂正発明6は、当業者であっても甲2発明及び上記周知技術に基づき容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件訂正発明7
本件訂正発明7と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。

(相違点H7I7N7)
本件訂正発明7は、「取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う」のに対して、甲2発明はそのような構成を有するものではない点。

相違点H7I7N7について検討するに、当該相違点H7I7N7は上記「第7 取消理由通知(決定の予告)において通知した特許異議申立理由についての当審の判断」の「5 本件訂正発明7について」の「イ 相違点についての検討及び判断」において相違点7−2について説示したのと同様の理由により、甲9技術及び上記周知技術は当該相違点を充足するものではないといえる。

よって、本件訂正発明7は、当業者であっても甲2発明、甲9技術及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

キ 本件訂正発明8
本件訂正発明8は、設備判定方法という方法の発明である本件訂正発明7を実行するためのコンピュータプログラムという物の発明として特定したものであり、本件訂正発明7が上記カのとおり、当業者であっても甲2発明及び上記周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない以上、本件訂正発明8についても、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ク 本件訂正発明3〜4
本件訂正発明3〜4は、本件訂正発明1を直接的または間接的に引用する情報処理装置の発明であり、本件訂正発明1が上記イのとおり、甲2発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上、これらの発明についても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号
本件訂正発明1ないし9における「電気設備」について、本件明細書には、以下のような記載がある。

「【0011】
<システム概要>
図1は、本実施の形態に係る異常判定システムの概要を説明するための模式図である。本実施の形態に係る異常判定システムは、例えば道路上に設置された電柱3、この電柱に設けられた各種の機材、及び、複数の電柱3の間に架け渡された電線等の電気設備を対象として異常判定を行う。ただし、異常判定の対象となる設備は、上記のものに限らない。」

「【0061】
<まとめ>
以上の構成の本実施の形態に係る異常判定システムは、電気設備が写された画像をサーバ装置1が端末装置22から取得し、取得した画像から電気設備に対応する画像領域を、領域特定モデル12bを用いて特定する。領域特定モデル12bは、入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力するよう予め学習がなされたモデルである。サーバ装置1は、特定した画像領域を元の画像から抽出し、抽出した画像領域からこの電気設備の異常の有無を、異常判定モデル12cを用いて判定する。異常判定モデル12cは、入力された画像領域に含まれる電気設備の異常の有無を判定した判定結果を出力するよう予め学習がなされたモデルである。撮像画像からの電気設備が含まれる画像領域の特定と、特定された画像領域からの電気設備の異常の有無の判定とを異なる学習済モデルを用いて行うことにより、サーバ装置1による電気設備の異常判定の精度の向上が期待できる。」

すなわち、本件訂正発明1ないし9は、「異常判定システム」が「例えば、道路上に設置された電柱」、「この電柱に設けられた各種の機材」、「及び、複数の電柱」「の間に架け渡された電線等の」「電気設備を対象として異常判定を行う」ものであるが、これらの「電気設備」は例示にすぎず、「異常判定の対象となる設備は、上記のものに限らない」ものである。
そして、当該「電気設備」とは、異常判定システムが、電気設備が写された画像から電気設備に対応する領域を、領域モデルを用いて特定し、特定した画像領域を元の画像から抽出し、抽出した画像領域から異常の有無を、異常判定モデルを用いて判定することができるようなものであればよく、その範囲は明確であるといえる。

したがって、本件訂正発明1ないし9は明確であるから、特許異議申立人が主張する当該申立理由は採用できない。

(4)特許法第36条第6項第1号(1)(同法第113条第4項
本件明細書には、発明が解決しようとする課題及び課題を解決する手段として【0004】〜【0005】、【0007】、【0061】に以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ニューラルネットワークを利用した人工知能により、カメラの撮像画像から特定の物体を検出する画像認識の技術が急速に発展している。当該技術を利用し、設備を撮像した画像に基づいてこの設備の異常を判定することが研究されている。しかし、カメラの撮像画像に写された設備の大きさにより異常判定の精度が左右され、撮像画像に設備が小さく写されている場合には、この設備の異常を精度よく判定できない虞がある。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、カメラの撮像画像に基づく設備の異常判定の精度を向上することが期待できる情報処理装置、設備判定方法、コンピュータプログラム及び学習済モデルの生成方法を提供することにある。」

「【0007】
本発明においては、電気設備が写された画像を情報処理装置が取得し、取得した画像から電気設備に対応する画像領域を、第1の学習済モデルを用いて特定する。第1の学習済モデルは、入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力するよう予め学習がなされたモデルである。情報処理装置は、特定した画像領域を元の画像から抽出し、抽出した画像領域からこの電気設備の状態を、第2の学習済モデルを用いて判定する。第2の学習済モデルは、入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力するよう予め学習がなされたモデルである。画像からの電気設備が写された画像領域の特定と、特定された画像領域からの電気設備の状態判定とを異なる学習済モデルを用いて行うことにより、電気設備の状態判定の精度の向上が期待できる。」

「【0061】
<まとめ>
以上の構成の本実施の形態に係る異常判定システムは、電気設備が写された画像をサーバ装置1が端末装置22から取得し、取得した画像から電気設備に対応する画像領域を、領域特定モデル12bを用いて特定する。領域特定モデル12bは、入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力するよう予め学習がなされたモデルである。サーバ装置1は、特定した画像領域を元の画像から抽出し、抽出した画像領域からこの電気設備の異常の有無を、異常判定モデル12cを用いて判定する。異常判定モデル12cは、入力された画像領域に含まれる電気設備の異常の有無を判定した判定結果を出力するよう予め学習がなされたモデルである。撮像画像からの電気設備が含まれる画像領域の特定と、特定された画像領域からの電気設備の異常の有無の判定とを異なる学習済モデルを用いて行うことにより、サーバ装置1による電気設備の異常判定の精度の向上が期待できる。」

上記記載によれば、本件訂正発明1ないし9において、その目的とするところは、「カメラの撮像画像に基づく設備の異常判定の精度を向上することが期待できる情報処理装置、設備判定方法、コンピュータプログラム及び学習済モデルの生成方法を提供すること」であって、「撮像画像からの電気設備が写された画像領域の特定と、特定された画像領域からの電気設備の状態判定とを異なる学習済モデルを用いて行うことにより、電気設備の状態判定の精度の向上が期待できる」という課題を解決するというものである。
そして、この課題を解決するための手段は、本件訂正発明1、2、6、7、8、9の構成B、D、構成B2、D2、構成B6、D2、構成B7、D7、構成B8、D8、構成W、Yに反映されており、本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3〜4においても反映されているといえる。

なお、特許異議申立人が主張する、「カメラの撮像画像に写された設備の大きさにより異常判定の精度が左右され、撮像画像に設備が小さく写されている場合には、この設備の異常を精度よく判定できない虞がある」のでこれを解決する必要があるというのは、本件明細書に記載された課題ないし目的のうちの1つの側面にすぎず、当該事項が本件訂正発明1ないし5、7ないし9に反映されていないことは、なんら発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求していることにはならない。

以上のように、当業者は、本件訂正発明1から5及び7から9により発明の課題が解決できることを認識することができるものであり、本件訂正発明1から5及び7から9は発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、特許異議申立人が主張する当該申立理由は採用できない。

(5)特許法第36条第6項第1号(2)(同法第113条第4項
本件訂正発明2の構成F’の
「前記特定部は、画像領域に電気設備が含まれていることに係る確信度、及び、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する」
ことに関して、発明の詳細な説明の【0051】には以下の記載がある。

「【0051】
なお領域特定モデル12bは、画像領域の特定結果と共に、この特定結果の確信度を出力する。また領域特定モデル12bは、異常の有無の判定結果と共に、この判定結果の確信度を出力する。サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力するこれらの情報に基づいて、電気設備が含まれる画像領域の最終的な特定を行う。例えば、サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力した特定結果の確信度が低い場合、又は、異常有無の判定結果の確信度が低い場合等には、領域特定モデル12bが出力した画像領域の特定結果を破棄して次段の処理を行わなくてもよい。また領域特定モデル12bが複数の画像領域を特定した場合、サーバ装置1は、領域特定モデル12bが出力する情報に基づいて、画像領域の順位付けを行う。順位付けの詳細は後述する。」

上記記載に接した当業者であれば、上記構成F’により、電気設備を含む画像領域について、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度(異常の有無の判定結果の確信度)が低い場合に、前記画像領域を特定しないことで、異常とされる確信度の低い電気設備に対しては、無用な異常診断を行わなくてよいという効果を奏することは、本件明細書中に明示的な記載が無くても普通に理解できるものといえる。
そうすると、当業者は、本件訂正発明2及び本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3から6により、本件訂正発明の(明細書中に明示的に記載されていないが当業者ならば普通に理解できる)課題に対する解決手段を認識することができるものであり、本件訂正発明2は発明の詳細な説明に記載されたものということができる。

なお、特許異議申立人が主張する、「異常判定の精度を向上する」という課題は、本件訂正発明2が引用する本件訂正発明1により解決される課題である以上、本件訂正発明2及び本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3から6によって解決できる課題でもある。
また、特許異議申立人が主張する、構成F’における「前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度」は「特定部」が出力することは自明である。

以上のように、当業者は、本件訂正発明2から6により発明の課題が解決できることを認識することができるものであり、本件訂正発明2から6は発明の詳細な説明に記載されたものであって、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであるから、特許異議申立人が主張する当該申立理由は採用できない。

(6)特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4項
本件訂正発明6の構成P’、Q’の
「P’ 前記抽出部が抽出した画像領域の大きさを調整する調整部を備え、
Q’ 前記判定部は、前記調整部が大きさを調整した画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力する」
ことに関して、発明の詳細な説明の【0029】【0060】には以下の記載がある。

「【0029】
調整部11dは、領域抽出部11cが抽出した画像領域に対して大きさを調整する処理を行う。領域特定部11bにより特定されて領域抽出部11cにより抽出される画像領域の大きさは、元の画像に写されていた電気設備の大きさに依存する。調整部11dは、領域抽出部11cが抽出した画像領域を拡大又は縮小することによって、異常判定モデル12cの入力に適した画像の大きさとなるよう調整する。」

「【0060】
次いで、処理部11の領域抽出部11cは、ステップS11にて取得した撮像画像から、ステップS13にて特定された画像領域を抽出する(ステップS15)。処理部11の調整部11dは、異常判定モデル12cの入力に適した大きさとなるよう、抽出された画像領域の大きさを必要に応じて拡大又は縮小して調整する(ステップS16)。処理部11の異常判定部11eは、抽出及び調整がなされた画像領域を、記憶部12に記憶された学習済の異常判定モデル12cへ入力する(ステップS17)。」

上記記載に接した当業者ならば、「異常判定モデル12cの入力に適した画像の大きさ」は異常判定モデル12cの入力に適した画像の大きさがサーバ装置などの計算能力や所望の異常判定精度などに応じて適宜決定されるものであり、そのような大きさに合わせて調整することが理解できるといえる。
したがって、発明の詳細な説明には、本件訂正発明6を実施可能な程度に記載しているものということができ、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであるから、特許異議申立人が主張する当該申立理由は採用できない。

(7)小括
上記(1)〜(6)より、上記1(1)のうち、本件訂正発明2、5、本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3、4に関するもの、及び上記1(2)〜(6)の特許異議申立理由を採用することはできない。

第9 令和3年10月28日に提出された特許異議申立人による意見書及び甲第12号証から甲第20号証についての検討
特許異議申立人は令和3年10月28日に甲第12号証から甲第20号証及び甲第12号証の発行日が2012年12月3日であることを立証する甲第21号証を提出し、令和3年8月13日付け訂正請求書(以下、先の訂正請求書という)による訂正事項1に関する訂正の請求は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしていない(以下、主張1という)、及び先の訂正請求書によって訂正された請求項1、3、4、及び6〜9に係る特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきである(以下主張2という)との主張(意見書第15頁第16〜22行)との主張を行っている。
そこで、当該主張1、2に関する検討を行う。

1 先の訂正請求書による訂正事項1に関する訂正の請求について、
上記「第1 手続の経緯」のとおり、先の訂正請求は、本件訂正により取り下げられたものとみなすが、本件訂正の訂正事項1には、先の訂正請求の訂正事項1と同趣旨の訂正事項である、
(1)「各機材に対応する画像領域を順次入力して各機材の状態を判定する」、
(2)「複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定した特定結果」「を出力する第1の学習済モデル」、
(3)電柱に設けられたものではない「電気設備に関する複数の機材」、
に関する訂正事項を含んでいる。

ここで、上記「第2 本件訂正について」の「2 訂正の適否についての判断」の「(2)訂正事項1」において、特に「イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること」において示したとおり、上記(1)、(2)については、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
また、(3)については、本件特許明細書【0011】に「本実施の形態に係る異常判定システムは、例えば道路上に設置された電柱3、この電柱に設けられた各種の機材、及び、複数の電柱3の間に架け渡された電線等の電気設備を対象として異常判定を行う。ただし、異常判定の対象となる設備は、上記のものに限らない。」とあるように、電柱に設けられたものではない電気設備に対してもその処理対象であることは明らかであって、(1)、(2)と同様に特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。

2 本件訂正発明が特許法第29条第2項に違反してなされたものかどうかについて
上記「第7 取消理由通知(決定の予告)において通知した特許異議申立理由についての当審の判断」のとおり、本件訂正発明1、3、4、6、7、8、9については、甲第1号証から甲第11号証及び周知技術として提出された甲第12号証から甲第20号証によっては、当業者であっても容易になし得たものということはできない。

3 まとめ
以上より、訂正事項1に関する訂正の請求は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たすものであり、特許異議申立人の主張を採用することはできない。
また、本件訂正発明1、3、4、及び6ないし9に係る特許は特許法第29条第2項に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきであるという特許異議申立人の主張を採用することはできない。

第10 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項〔1、2、3、4〕、5、6、7、8、9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項〔1、2、3、4〕、5、6、7、8、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気設備に関する複数の機材を含む画像を取得する取得部と、
複数の機材を含む画像と、各機材の領域とを含む教師データに基づき畳み込み層を用いて深層学習されており入力された複数の機材を含む画像に含まれる各機材に対応する画像領域を特定した特定結果及び各機材の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した複数の機材を含む画像から、特定済みの機材毎の画像領域の確信度同士を比較して機材毎の画像領域を順位付けすることにより、各機材に対応する所定数の前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる機材の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルに、前記抽出部が抽出した各機材に対応する画像領域を特定した順位に従って順次入力して各機材の状態を判定する判定部と
を備える、情報処理装置。
【請求項2】
電気設備を含む画像を取得する取得部と、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と
を備え、
前記特定部は、画像領域に電気設備が含まれていることに係る確信度、及び、前記画像領域に含まれる前記電気設備の状態に係る確信度に基づいて、前記画像領域を特定する、情報処理装置。
【請求項3】
前記特定部は、前記取得部が取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
前記判定部は、前記特定部が付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力する、
請求項1又は請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記第1の学習済モデルは、画像領域の特定結果の確信度を出力し、
前記特定部は、各画像領域の確信度に基づいて順位付けを行う、
請求項3に記載の情報処理装置。
【請求項5】
電気設備を含む画像を取得する取得部と、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と
を備え、
前記特定部は、前記取得部が取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
前記判定部は、前記特定部が付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、
前記特定部は、前記取得部が取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う、情報処理装置。
【請求項6】
電気設備を含む画像を取得する取得部と、
入力された画像に含まれる複数の電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果及び各電気設備の画像領域の特定結果の確信度を出力する第1の学習済モデルを用いて、前記取得部が取得した画像から、特定済みの電気設備毎の画像領域の確信度同士を比較して電気設備毎の画像領域を順位付けすることにより所定数の前記画像領域を特定する特定部と、
前記特定部が特定した前記画像領域を前記取得部が取得した画像から抽出する抽出部と、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、前記抽出部が抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定する判定部と、
前記抽出部が抽出した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域の大きさを調整する調整部とを備え、
前記判定部は、前記調整部が大きさを調整した電気設備毎の画像領域の順位付けがなされた所定数の画像領域を特定した順位に従って前記第2の学習済モデルへ入力する、
情報処理装置。
【請求項7】
電気設備を含む画像を取得し、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像から前記画像領域を特定し、
特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定し、
取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、
取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う、設備判定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
電気設備を含む画像を取得し、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像から前記画像領域を特定し、
特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを用いて、抽出した画像領域から前記電気設備の状態を判定し、
取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する画像領域を順位付けして特定し、
順位付した順位に従って、特定された複数の画像領域を前記第2の学習済モデルへ入力し、
取得した画像に対して特定された複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けを行う処理を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項9】
電気設備を含む教師用画像を取得し、
入力された画像に含まれる電気設備に対応する画像領域を特定した特定結果を出力する第1の学習済モデルを用いて、取得した画像に含まれる複数の電気設備それぞれに対応する前記画像領域を、複数の画像領域の位置関係に基づいて順位付けして特定し、
順位付けされて特定した前記画像領域を取得した画像から抽出し、
順位付けされた前記画像領域及び該画像領域に含まれる電気設備の状態を対応付けた教師データに基づいて、前記第1の学習済みモデルによる特定結果から順位付けされて特定された複数の画像領域を前記順位に従って入力した場合に、入力された画像領域に含まれる電気設備の状態を判定した判定結果を出力する第2の学習済モデルを生成する、学習済モデルの生成方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-10-06 
出願番号 P2019-059149
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (G06T)
P 1 651・ 121- YAA (G06T)
P 1 651・ 537- YAA (G06T)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 川崎 優
渡辺 努
登録日 2020-07-20 
登録番号 6737371
権利者 東京電力ホールディングス株式会社
発明の名称 情報処理装置、設備判定方法、コンピュータプログラム及び学習済モデルの生成方法  
代理人 山田 浩忠  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 英仁  
代理人 河野 英仁  
代理人 山田 浩忠  

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