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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1393049
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-07 
確定日 2022-10-13 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6769290号発明「ポリエステル樹脂組成物、これを含む光反射体用部品および光反射体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6769290号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1−10〕について訂正することを認める。 特許第6769290号の請求項1〜4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 特許第6769290号の請求項5〜10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6769290号(請求項の数6。以下、「本件特許」という。)は、平成28年12月21日(優先権主張 平成27年12月25日、日本国)にした出願に係る特許であって、令和2年9月28日に設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行日は同年10月14日である。)。
その後、令和3年4月7日に、特許異議申立人である東レ株式会社(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1〜6に係る特許に対して特許異議の申立てがされた。その後の経緯は、以下のとおりである。
令和3年 7月21日付け取消理由通知書
同年 9月22日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年11月 4日 意見書(申立人)
令和4年 2月28日付け取消理由通知書(決定の予告)
同年 4月28日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 7月 4日 意見書(申立人)
なお、令和3年9月22日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。

証拠方法
(1)申立人が提出した証拠方法
ア 特許異議申立書に添付した証拠
甲第1号証 特開2010−215827号公報
甲第2号証 東レ株式会社の熊澤貞紀が作成した甲第1号証の実施例1及び2の実験証明書
甲第3号証 特開2005−146103号公報
甲第4号証 特開2011−195669号公報
甲第5号証 「エンジニアリング樹脂加工用添加剤 リコワックス(Licowax) リコルブ(Licolube) リコモント(Licomont)」
、クラリアントジャパン株式会社顔料・添加剤事業部、2001年2月

イ 令和3年11月4日に提出した意見書に添付した証拠
甲第6号証 特開2001−114880号公報
甲第7号証 東レ株式会社の熊澤貞紀が作成した甲第6号証の実施例4及び比較例1の実験証明書
甲第8号証 特開2001−172372号公報
甲第9号証 特開2001−89590号公報
甲第10号証 国際公開第2016/167084号
甲第11号証 特開2005−97563号公報
甲第12号証 特開2005−41977号公報
甲第13号証 特開2005−314611号公報
(以下、甲第1号証〜甲第13号証を、順に「甲1」等という。)

(2)令和3年9月22日に特許権者が提出した意見書に添付した証拠
乙第1号証 特開平6−9858号公報
乙第2号証 国際公開第2013/146281号
乙第3号証 SEN−I GAKKAISHI(繊維と工業) vol.43、No.11(1987)、p.442〜448
(以下、乙第1号証〜乙第3号証を、順に「乙1」等という。)

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年4月28日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(5)訂正事項5
ア 訂正事項5−1
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、光反射体用部品。」とあるうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「70〜100質量%のポリブチレンテレフタレート樹脂と、0〜30質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂とを含有するポリエステル樹脂Aを含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩Bを含み、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.000005〜0.05質量部含み、かつ、
前記ポリエステル樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量、または前記ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーおよびポリエチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量が950mg/kg以下である、ポリエステル樹脂組成物を含む、光反射体用部品。」に訂正する。

イ 訂正事項5−2
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、光反射体用部品。」とあるうち、請求項1を引用する請求項2を引用するものについて、
「前記ポリエステル樹脂組成物は、前記アルカリ金属原子および前記アルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.0005〜0.05質量部含む、請求項5に記載の光反射体用部品。」と記載し、新たに請求項7とする。

ウ 訂正事項5−3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、光反射体用部品。」とあるうち、請求項1または2を引用する請求項3を引用するものについて、
「前記金属有機酸塩Bの金属種は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項5または請求項7に記載の光反射体用部品。」と記載し、新たに請求項8とする。

エ 訂正事項5−4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を含む、光反射体用部品。」とあるうち、請求項1〜3のいずれかを引用する請求項4を引用するものについて、
「前記金属有機酸塩Bは、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウムおよび安息香酸カリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項5、請求項7または請求項8に記載の光反射体用部品。」と記載し、新たに請求項9とする。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項5に記載の光反射体用部品の表面の少なくとも一部に光反射金属層が形成されている、光反射体。」とあるうち、請求項2〜4のいずれかを引用する請求項5を引用するものについて、
「請求項7〜9のいずれか1項に記載の光反射体用部品の表面の少なくとも一部に光反射金属層が形成されている、光反射体。」と記載し、新たに請求項10とする。

(7)一群の請求項について
訂正前の請求項1〜6について、請求項2〜6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項2〜6に対応する訂正後の請求項5〜10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1〜6による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1〜4について
訂正事項1〜4は、請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第120条の5第2項ただし書第1号)を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項5について
ア 訂正事項5−1
訂正事項5−1は、訂正前の請求項1を引用する請求項5において、訂正事項1により請求項1が削除されたことに伴い、請求項間の引用関係を解消し、訂正前の請求項1の記載を書き下して独立形式請求項へ改め、さらに、請求項1の「線状オリゴマーの含有量」の範囲を、「1000mg/kg以下」から「950mg/kg以下」に狭くするものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること(特許法第120条の5第2項ただし書第4号)、並びに、明瞭でない記載の釈明(同条同項ただし書第3号)及び特許請求の範囲の減縮(同条同項ただし書第1号)を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項5−2
訂正事項5−2は、訂正前の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項5において、訂正事項1及び2により請求項1及び2が削除されたことに伴い、訂正事項5−1による独立形式請求項である請求項5を引用する形式に改め、さらに、請求項1の「線状オリゴマーの含有量」の範囲を、訂正前の「1000mg/kg以下」から「950mg/kg以下」に狭くするものであるから、明瞭でない記載の釈明(特許法第120条の5第2項ただし書第3号)及び特許請求の範囲の減縮(同条同項ただし書第1号)を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項5−3
訂正事項5−3は、訂正前の請求項1及び3を引用する請求項5、又は、請求項1〜3を引用する請求項5において、訂正事項1〜3により請求項1〜3が削除されたことに伴い、訂正事項5−1による独立形式請求項である請求項5を引用する形式に改め、さらに、請求項1の「線状オリゴマーの含有量」の範囲を、訂正前の「1000mg/kg以下」から「950mg/kg以下」に狭くするものであるから、明瞭でない記載の釈明(特許法第120条の5第2項ただし書第3号)及び特許請求の範囲の減縮(同条同項ただし書第1号)を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項5−4
訂正事項5−4は、訂正前の請求項1及び4を引用する請求項5、請求項1、3及び4を引用する請求項5、又は、請求項1〜4を引用する請求項5において、訂正事項1及び4により請求項1及び4が削除されたことに伴い、訂正事項5−1による独立形式請求項である請求項5を引用する形式に改め、さらに、請求項1の「線状オリゴマーの含有量」の範囲を、訂正前の「1000mg/kg以下」から「950mg/kg以下」に狭くするものであるから、明瞭でない記載の釈明(特許法第120条の5第2項ただし書第3号)及び特許請求の範囲の減縮(同条同項ただし書第1号)を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項1を引用する請求項2〜4のいずれか1項を引用する請求項5をさらに引用する請求項6において、訂正事項1〜4により請求項1〜4が削除されたことに伴い、訂正事項5−2〜訂正事項5−4による請求項7〜9を引用する形式に改め、さらに、請求項1の「線状オリゴマーの含有量」の範囲を、訂正前の「1000mg/kg以下」から「950mg/kg以下」に狭くするものであるから、明瞭でない記載の釈明(特許法第120条の5第2項ただし書第3号)及び特許請求の範囲の減縮(同条同項ただし書第1号)を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1、3又は4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するものであるから、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 特許請求の範囲の記載
本件訂正請求により訂正された請求項1〜10に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
70〜100質量%のポリブチレンテレフタレート樹脂と、0〜30質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂とを含有するポリエステル樹脂Aを含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩Bを含み、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.000005〜0.05質量部含み、かつ、
前記ポリエステル樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量、または前記ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーおよびポリエチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量が950mg/kg以下である、ポリエステル樹脂組成物を含む、光反射体用部品。
【請求項6】
請求項5に記載の光反射体用部品の表面の少なくとも一部に光反射金属層が形成されている、光反射体。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂組成物は、前記アルカリ金属原子および前記アルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.0005〜0.05質量部含む、請求項5に記載の光反射体用部品。
【請求項8】
前記金属有機酸塩Bの金属種は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項5または請求項7に記載の光反射体用部品。
【請求項9】
前記金属有機酸塩Bは、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウムおよび安息香酸カリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項5、請求項7または請求項8に記載の光反射体用部品。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の光反射体用部品の表面の少なくとも一部に光反射金属層が形成されている、光反射体。」
(以下、請求項5〜10に係る発明を項番順に「本件発明5」等という。また、本件特許の願書に添付した訂正後の明細書を「本件明細書」という。)

第4 特許異議申立書に記載した申立理由及び当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書に記載した申立理由
(1)申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性
本件訂正前の請求項1〜3及び5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、前記請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(甲1を主引用文献とする進歩性
本件訂正前の請求項1〜6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明、及び、甲2〜甲5に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、前記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(サポート要件)
本件訂正前の請求項1〜6の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で、本件訂正前の明細の発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、前記請求項に記載された発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。

「本件特許明細書の実施例(段落[0068]−[0095]において、本件特許発明の効果を奏すると認められるのは、所定のポリブチレンテレフタレート樹脂aおよび/またはポリエチレンテレフタレート樹脂bと、所定の金属有機酸塩B(酢酸カリウム(和光純薬工業株式会社製))と、所定の離型剤Cとを含有するポリエステル樹脂組成物のみである。特に、金属有機酸 塩Bについては、酢酸カリウム以外の化合物を用いた場合にまで本件特許発明の効果を奏するものとは理解することができない。」

2 当審が通知した取消理由
(1)令和3年7月21日付け取消理由通知で通知した理由
ア 取消理由1(甲1を主引用文献とする新規性
本件訂正前の請求項1〜3、5及び6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、前記請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。

イ 取消理由2(甲1を主引用文献とする進歩性
本件訂正前の請求項1〜3、5及び6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明、及び、甲2〜甲5に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、前記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。

ウ 取消理由3(サポート要件)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜3、5及び6の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で、本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、前記請求項に記載された発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。

本件訂正前の本件発明1の「アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩B」は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含み、有機酸の構造や酸性度を問わない、任意の金属有機酸塩を包含するものである。
金属有機酸塩によるTHFの発生量を低減する作用が本願出願時の技術常識であると解することはできないから、本件訂正前の請求項4に記載されているカルボン酸塩以外の任意の金属有機酸塩であっても本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない。

(2)令和4年3月30日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した理由
ア 取消理由4(甲6を主引用文献とする新規性
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲6に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、前記請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

イ 取消理由5(甲6を主引用文献とする進歩性
本件訂正前の請求項1〜6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲6に記載された発明、及び、甲11〜甲13に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 当審の判断
以下に述べるように、当審が通知した取消理由、及び、特許異議申立書の申立理由によっては、本件発明5〜10に係る特許は取り消すことはできない。
そして、本件発明1〜4に係る特許に対する申立ては、本件訂正により、請求項1〜4が削除されたため却下する。

1 本件発明1〜4に係る特許に対する申立ての却下
第2及び第3で述べたとおり、本件訂正により本件特許の請求項1〜4は削除されて、この特許に対する申立ては、申立ての対象がなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により決定をもって却下すべきものである。

2 取消理由4(新規性)及び取消理由5(進歩性
取消理由4は、本件訂正前の請求項1〜4に対して通知され、取消理由5は、同じく請求項1〜6に対して通知されたものである。そして、第2及び第3で述べたとおり、本件訂正により、本件訂正前の請求項1〜4が削除され、取消理由4の対象となる請求項がすべてなくなり、取消理由5の対象であった請求項は、本件訂正前の請求項5及び6に由来する請求項5〜10となった。
これにより、以下、本件発明5〜10に対する取消理由5(進歩性)について検討する。

(1)甲号証に記載された事項及び甲号証に記載された発明
ア 甲6記載された事項及び甲6に記載された発明
甲6には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 触媒としてチタン化合物とスズ化合物の併用系もしくはスズ化合物の単独系を使用して、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体と、1,4−ブタンジオールを主成分とするジオールとをエステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応するポリエステルの製造法であって、前記重縮合反応終了以前の任意の段階で、アルカリ性化合物を添加することを特徴とするポリエステルの製造法。」

「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、その目的とするところは、カルボキシル末端基濃度が低く耐加水分解性にすぐれたポリエステルを効率的に製造する方法を提供することにある。」

「【0012】本発明が対象とするポリエステルとは、ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体と、1,4−ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応することにより製造される主鎖にエステル結合を有する高分子量のポリエステルである。
【0013】本発明で使用されるジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、アジピン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体などが挙げられるが、これらの内でも、テレフタル酸を主成分とする芳香族ジカルボン酸を使用することが好ましい。」

「【0029】本発明で用いることができるアルカリ性化合物は、特に限定されるものではな本発明で用いることができるアルカリ性化合物は、特に限定されるものではないが、周期律表Ia族(アルカリ金属)、IIa族(アルカリ土類金属)の水酸化物、無機酸塩、有機酸塩、例えば酢酸塩、炭酸塩またはこれらの水和物、錯塩、アンモニウム塩などが挙げられ、また、アミン化合物なども用いることができる。
【0030】本発明において使用し得るアルカリ性化合物の具体例としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、トリエチルアミン、アニリン、ピリジンなどを挙げることができる。これらの内でも、ナトリウム化合物、カリウム化合物、マグネシウム化合物およびカルシウム化合物が好ましく使用される。なお、これらのアルカリ性化合物は、1種のみを使用してもよく、また2種以上を併用することもできる。」

「【0041】かくして、本発明の方法により効率的に得られるポリエステル(PBT)は、カルボキシル末端基濃度が低く耐加水分解性にすぐれたポリマーであり、電気部品や自動車部品などの成形材料としてばかりか、フイルム用や繊維用としても広く用いることができる。」

「【0045】また、実施例中の部数は、重量部数を示す。
[実施例1]テレフタル酸1132g、1,4−ブタンジオール890g(1,4−ブタンジオール/テレフタル酸モル比:1.45)を用いてエステル化反応を行い、次いで重縮合反応を行った。
【0046】すなわち、まずテレフタル酸の全量、1,4−ブタンジオールの全量、エステル化反応触媒としてのテトラ−n−ブチルチタネート0.8g、エステル化反応触媒としてのモノブチルヒドロキシスズオキサイド0.7g、アルカリ性化合物としての酢酸ナトリウム0.15gを、精留塔の付いた反応器に仕込み、190℃でエステル化反応を開始した後、徐々に昇温してエステル化反応を行った。
【0047】次に、得られたエステル化反応物にテトラ−n−ブチルチタネート1.0gを添加し、250℃、67Paの条件で重縮合反応を行った。
・・・
[実施例4]アルカリ性化合物を、酢酸カルシウム0.3gに変更した以外は、実施例1と同様にして行った。
・・・
[比較例1]エステル化反応触媒を、テトラ−n−ブチルチタネート1.9gの単独系に変更してエステル化反応を行った以外は、実施例1と同様にして行った。」

「【表1】



甲6には、「カルボキシル末端基濃度が低く耐加水分解性にすぐれたポリエステルを効率的に製造する方法を提供すること」(【0007】)を目的とし、実施例1として、
テレフタル酸1132g、1,4−ブタンジオール890g(1,4−ブタンジオール/テレフタル酸モル比:1.45)を用いて、まずテレフタル酸の全量、1,4−ブタンジオールの全量、エステル化反応触媒としてのテトラ−n−ブチルチタネート0.8g、エステル化反応触媒としてのモノブチルヒドロキシスズオキサイド0.7g、アルカリ性化合物としての酢酸ナトリウム0.15gを、精留塔の付いた反応器に仕込み、190℃でエステル化反応を開始した後、徐々に昇温してエステル化反応を行い、得られたエステル化反応物にテトラ−n−ブチルチタネート1.0gを添加し、250℃、67Paの条件で重縮合反応を行い、ポリエステルを製造したことが記載されている。
さらに、実施例4として、アルカリ性化合物を、酢酸カルシウム0.3gに変更した以外は、実施例1と同様にポリエステルを製造したこと、及び、比較例1として、エステル化反応触媒を、テトラ−n−ブチルチタネート1.9gの単独系に変更してエステル化反応を行った以外は、実施例1と同様にポリエステルを製造したことが記載されている。ここで、実施例4は、生成したポリエステル(PBT)100部当たり、テトラ−n−ブチルチタネート0.12部、モノブチルヒドロキシスズオキサイド0.05部、酢酸カルシウム0.02部であり、比較例1は、テトラ−n−ブチルチタネート0.19部、酢酸ナトリウム0.01部である。
そして、甲6には、前記ポリエステル(PBT)は、電気部品や自動車部品などの成形材料として用いることができることが記載されているし(【0041】)、比較例1の「ポリエステル(PBT)」においても、これを成形して部品とすることができることは当業者に明らかであるから、甲6には、実施例4及び比較例1の「ポリエステル(PBT)」を含む部品が記載されているといえる。

そうすると、甲6には、実施例4及び比較例1に着目して、以下の発明が記載されているといえる。

「テレフタル酸1132g、1,4−ブタンジオール890g(1,4−ブタンジオール/テレフタル酸モル比:1.45)を用いて、テレフタル酸の全量、1,4−ブタンジオールの全量、エステル化反応触媒としてのテトラ−n−ブチルチタネート0.8g、エステル化反応触媒としてのモノブチルヒドロキシスズオキサイド0.7g、アルカリ性化合物としての酢酸カルシウム0.3gを、精留塔の付いた反応器に仕込み、190℃でエステル化反応を開始した後、徐々に昇温してエステル化反応を行った後、得られたエステル化反応物にテトラ−n−ブチルチタネート1.0gを添加し、250℃、67Paの条件で重縮合反応を行うことにより得られ、生成したポリエステル(PBT)100重量部当たり、エステル化反応触媒であるテトラ−n−ブチルチタネート0.12重量部、モノブチルヒドロキシスズオキサイド0.05重量部、酢酸カルシウム0.02重量部を含有するポリエステル(PBT)を含む部品。」(以下、「甲6発明A」という。)

「テレフタル酸1132g、1,4−ブタンジオール890g(1,4−ブタンジオール/テレフタル酸モル比:1.45)を用いて、テレフタル酸の全量、1,4−ブタンジオールの全量、エステル化反応触媒としてのテトラ−n−ブチルチタネート0.8g、エステル化反応触媒としてのモノブチルヒドロキシスズオキサイド0.7g、アルカリ性化合物としての酢酸カルシウム0.3gを、精留塔の付いた反応器に仕込み、190℃でエステル化反応を開始した後、徐々に昇温してエステル化反応を行った後、得られたエステル化反応物にテトラ−n−ブチルチタネート1.0gを添加し、250℃、67Paの条件で重縮合反応を行うことにより得られ、生成したポリエステル(PBT)100重量部当たり、エステル化反応触媒であるテトラ−n−ブチルチタネート0.19重量部、酢酸ナトリウム0.01重量部を含有するポリエステル(PBT)を含む部品。」(以下、「甲6発明B」という。)

イ 甲7に記載された事項
甲7には、次の事項が記載されている。






ウ 甲8
甲8には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】 ジカルボン酸成分としてテレフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールを主成分とする成形品用ポリエステル樹脂において、前記ポリエステル樹脂中の遊離したテレフタル酸の含有量が30ppm 以下、遊離したビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートと遊離したモノ(2−ヒドロキシエチル)テレフタレートの含有量の合計が100ppm以下であり、かつ遊離したモノマー類とリニアオリゴマーの総含有量の合計が700ppm以下であることを特徴とする成形品用ポリエステル樹脂。」

「【0004】しかし、成形品の原料として用いられる成形品用ポリエステル樹脂(以下、「ポリエステル樹脂」と略称する。)中には、テレフタル酸(以下、「TPA 」と略称する。)、モノ(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(以下、「MHET」と略称する。)、ビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート(以下、「BHET」と略称する。)等のモノマー類、及び TPA残基とエチレングリコール(以下、「EG」と略称する。)残基又はジエチレングリコール(以下、「DEG 」と略称する。)残基からなる直鎖状の2〜4量体のリニアオリゴマーが含有されており、これらが成形工程で種々のトラブルを引き起こす原因となる。
【0005】例えば、これらのモノマー類やリニアオリゴマーが射出成形機のインジェクション部、シート成形機のローラ表面を汚染するほか、環状三量体等のオリゴマーを金型の表面、ガス排気口、排気管等に付着させる作用があり、金型汚染が発生しやすかった。このような金型汚染は、得られる容器の表面荒れや白化の原因となるため、金型汚染を頻繁に除去する必要があり、生産性が著しく低下するという欠点があった。」

「【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題を解決し、TPA 、BHET、MHET等のモノマー類やリニアオリゴマーの含有量が少なく、成型時にモノマー類やリニアオリゴマーによる金型汚染が少ない成形品用ポリエステル樹脂とその製造方法、並びにそれよりなる成形品を提供することを技術的な課題とするものである。」

エ 甲9
甲9には、次の事項が記載されている。
「【0003】しかしながらポリエチレンテレフタレートにおいては、エチレンテレフタレート環状三量体(以下環状三量体)をはじめとしたオリゴマーが通常0.6 〜1.4 重量%程度含有されており、このようなオリゴマーはフィルムの押出工程において高温の状態で大気中に放出される際に空気中に拡散したり、フィルム中から滲み出してきたりして、口金周辺やキャストティングドラム、あるいはロールやフィルム自身を汚す原因となるため、これがポリエステルフィルム製品に転写されてしまい、例えば磁気テープであれば読み込み不良などの欠陥品となり、品質の悪化などのトラブルを招いていた。」

「【0008】
【発明の実施の形態】本発明は、前記課題、つまりフィルム表面の汚れが少なく、傷もない表面特性に優れたポリエステルフィルムについて、鋭意検討し、かかるロール汚れが、ポリエステル樹脂中に存在する低分子量物(以下、オリゴマー)が、口金からフィルムを押し出したときに、フィルム表面上にわずかに残留して、それがロールに蓄積して、フィルムに傷を残すほどの汚れに成長してしまうために惹起するものであることを究明し、さらに、かかる汚れ、つまりキャストフィルム上のオリゴマーを、最初の延伸工程(縦延伸工程)に入るまでに、フィルム表面を処理して取り除くことにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。」

「【0025】また、口金やキャスティングドラム、縦延伸ロールなどで問題となるオリゴマー汚れは、揮発性の高い線状構造を有するオリゴマー(以下、線状オリゴマー)が主体であり、環状オリゴマー以上に問題視されるものである。そのため、フィルム表面の線状オリゴマー成分を抑制することにより、これらの装置汚れを著しく減少することが可能となる。そのため、フィルム表面の抽出オリゴマー中に含有される線状オリゴマーの割合は、30重量%以下であるのが好ましく、30重量%を越えて含まれていると、ロール上のオリゴマー汚れがひどくなり、掃除を頻繁に行う必要がでてくるので好ましくない。」

オ 甲10
甲10には、次の事項が記載されている。
「[0002]ポリエステルは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステルの中でも、特にポリエチレンテレフタレート(PET)は、透明性や加工性に優れていることから、光学用フィルムなど高品位性が求められる用途に幅広く使われている。しかしながら、ポリマーの分解によって生じる酸成分モノマーやオリゴマーが成形加工時に表面に付着したり、析出することによって表面汚れが起こることがある。加えて、酸成分モノマーやオリゴマーの飛散によって工程汚れを引き起こすこともあり、表面汚れや工程汚れによる成形品の品位悪化という問題が起こる。近年、光学用フィルムなどは品位の要求がますます高くなっており、上記のような表面汚れや工程汚れを引き起こす酸成分モノマーやオリゴマーの発生を抑制するポリエステル樹脂が望まれている。」

カ 甲11
甲11には、次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、自動車用ランプのハウジング、リフレクター、エクステンション、照明器具等の光反射体に使用される熱可塑性樹脂組成物、および当該熱可塑性樹脂組成物の成形品に光反射金属層が直接形成された光反射体に関する。また、その光反射体用成形品の製造方法に関するものである。」

「【0018】
本発明において用いられる(A)熱可塑性樹脂は、特に制限はなく、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、・・・等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、種類の異なる熱可塑性樹脂を2種以上併用してもよい。」

「【0022】
特に、成形性、外観、経済性の観点から、(a−1)ポリブチレンテレフタレートと(a−2)ポリエチレンテレフタレートとを併用することが好ましい。これらを併用する場合の混合比率は、特に制限されないが、(a)ポリエステル樹脂全量中、(a−1)ポリブチレンテレフタレート55〜95質量%、(a−2)ポリエチレンテレフタレート5〜45質量%であることが好ましい。・・・」

キ 甲12
甲12には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
成形品に光反射金属層が形成された光反射成形品を得るための射出成形用ポリエステル樹脂組成物であって、該組成物が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリエステル共重合体5〜20重量部からなるポリエステル樹脂{(A)+(B)}100重量部、および(C)無機充填材0〜1重量部、(D)離型剤0.2〜3重量部からなることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。」

「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル樹脂製光反射体を得るための樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、成形品の表面光沢が極めて高く、かつ成形品からのガス発生量が少ないため、成形品にアンダーコート等の下塗りをせずに直接、塗装やドライメッキにより光反射金属層を形成することができる。また得られた光反射体は高鏡面性・高輝度感を有し、その表面外観が高温使用時においても維持され(耐熱性)、成形時の離型抵抗が低いため成形性が良く、さらには金属層との密着性にも優れた光反射体用成形品を得るためのポリエステル樹脂組成物に関する。」

ク 甲13
甲13には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
(a)熱可塑性ポリエステルを100重量部に対して、
(b)ポリカーボネートを5〜15重量部、
(c)平均粒径が10μm以下の微粉末フィラーを0.05〜0.5重量部、
(d)離型剤としてモンタン酸塩またはモンタン酸エステルを0.2〜0.7重量部、
(e)無機リン化合物を0.05〜0.5重量部の量で含む光反射体用樹脂組成物。」

「【0001】
本発明は、自動車のヘッドランプのエクステンションやリフレクター、室内照明用や車内照明用などに用いられる光反射体および該用途に用いられる樹脂組成物に関する。」

「【0022】
本発明に係るポリエステル樹脂組成物では、1種の熱可塑性ポリエステル(a)を単独で使用してもよくまた、2種以上を組み合わせて使用してもよい。さらに必要に応じ、コポリエステルとして用いてもよい。熱可塑性ポリエステル(a)を2種以上を組み合わせて使用する場合には、たとえばポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートなどの組み合わせが好ましい。」

「【0044】
本発明の光反射体は、ポリエステル樹脂組成物からなる成形体の表面に金属蒸着を行ない、金属層を形成することにより得られる。金属蒸着の方法としては、例えば、真空中で金属を蒸発させ、その蒸気を成形体の表面に付着、固化させて金属薄膜を形成する方法が挙げられる。」

(2)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と、甲6発明A及び甲6発明Bを併せて対比する。
甲6発明Aの「酢酸カルシウム」及び甲6発明Bの「酢酸ナトリウム」は、本件発明5の「アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩B」に相当する。そして、甲6発明Aの「酢酸ナトリウム」に含まれるナトリウム原子、甲6発明Bの「酢酸カルシウム」に含まれるカルシウム原子は、それぞれ0.00506重量部(=40/158×0.02)及び0.00280重量部(=23/82×0.01)であるから、いずれも本件発明5の「ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.000005〜0.05質量部含み」を満たすといえる。
甲6発明A及びBの樹脂組成物におけるポリブチレンテレフタレート樹脂の含有割合を算出すると、いずれも約99.8質量%となるから、本件発明5の「70〜100質量%のポリブチレンテレフタレート樹脂」を満たす。
甲6発明A及びBの「ポリエステル(PBT)」は、アルカリ性化合物及びエステル化反応触媒を含むものであるから、本件発明5の「ポリエステル樹脂組成物」に相当する。
そして、本件発明5と甲6発明A及びBとは、「部品」である限りにおいて一致する。

そうすると、本件発明5と甲6発明A及びBとは、
「70〜100質量%のポリブチレンテレフタレート樹脂と、0〜30質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂とを含有するポリエステル樹脂Aを含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩Bを含み、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、
0.000005〜0.05質量部含む、ポリエステル樹脂組成物を含む、部品。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点6a:本件発明5は、「ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量、または前記ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーおよびポリエチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量が950mg/kg以下である」のに対して、甲6発明A及びBは、前記線状オリゴマーの含有量が不明である点

相違点6b:部品の用途が、本件発明5は、「光反射体用」であるのに対して、甲6発明A及びBは、特定されていない点

イ 検討
事案に鑑みて、相違点6bについて検討する。
甲11〜甲13には、所定の添加剤を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた光反射体が記載されており(前記(2)カ〜ク)、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用いた光反射体は、本件特許出願の優先日時点に周知の事項である。
しかしながら、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物でありさえすれば、光反射体の成形材料に適しているとか、光反射体の成形に用いることができるということはいえず、光反射体の成形材料とは、ポリブチレンテレフタレート樹脂自体が光反射体の成形に適したものであるか、甲11〜甲13に記載されるように、ポリブチレンテレフタレート樹脂に所定の添加剤を配合して、光反射体に適したものとしたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物であるというのが、本件特許出願の優先日時点の技術常識であると解される。
そして、甲6には、実施例4のポリエステル(PBT)、すなわちポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を、電気部品や自動車部品などの成形材料とすることが記載されるにとどまり(【0041】)、これを光反射体の成形材料とすることは記載されていないし、比較例1のポリエステル(PBT)については、その用途は何ら記載もされていない。また、甲7には、甲6の実施例4及び比較例1を追試した実験結果が記載されているにとどまり、甲8〜甲10には、ポリエステル樹脂中のオリゴマーが、口金や金型の汚れ又はポリエステルフィルム表面の汚れの原因になることが記載されているにとどまる。
そうすると、甲6発明A及びBの「ポリエステル(PBT)」を、光反射体用部品の成形材料とすることが動機づけられるとはいえず、当業者が容易に想到し得たことではない。
そして、本件発明5は、「低ガス性を有し、連続成形時の金型汚れを大幅に抑制することができる」(本件明細書の【0009】)という優れた効果を奏するものであり、その効果は、本件明細書の実施例1〜3により具体的に確認することができ、甲6〜甲13の記載から予測し得るものではない。
したがって、本件発明5は、相違点6aについて検討するまでもなく、甲6に記載された発明、及び、甲7〜甲13に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明6〜10について
本件発明6〜10は、本件発明5を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明5について前記(2)で述べたのと同じ理由により、甲6に記載された発明、及び、甲7〜甲13に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明6〜10に係る特許は、取消理由5によっては、取り消すことはできない。

3 取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性
取消理由1及び2は、本件訂正前の請求項1〜3、5及び6に対して通知されたものである。そして、第2及び第3で述べたとおり、本件訂正により、本件訂正前の請求項1〜4が削除され、取消理由1及び2の対象であった請求項は、本件訂正前の請求項5及び6に由来する請求項5〜10となった。
以下、本件発明5〜10に対する取消理由1及び2について検討する。
また、申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)は、取消理由1及び2と同じく、甲1を主引用文献とする新規性及び進歩性の理由であるから、ここで併せて検討する。

(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)4価以上のアルコールと炭素数15以上の高級脂肪酸からなる高級脂肪酸エステル0.05〜5.0重量部、(C)炭素数20以上の高級脂肪酸金属塩0.01〜1.0重量部を含有し、さらに、(B)4価以上のアルコールと炭素数15以上の高級脂肪酸からなる高級脂肪酸エステルと(C)炭素数20以上の高級脂肪酸金属塩の配合比率が(B)/(C)=1/1〜20/1(重量比)であるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。」

「【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、高い離型性を示すと共に成形時の発生ガス成分低減に伴う金型汚染性に優れた特性を示す、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することを課題とする。」

「【0016】
・・・なお、エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましく、重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ−n−プロピルエステル、テトラ−n−ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ−tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステル、あるいはこれらの混合エステルなどの有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド・・・などが挙げられる。」

「【0024】
本発明で使用する(C)炭素数20以上の高級脂肪酸金属塩は、脂肪酸として、ベヘン酸、モンタン酸などの炭素数20〜40の脂肪酸が好ましく、そのうちベヘン酸が特に好ましい。
【0025】
本発明で使用する(C)炭素数20以上の高級脂肪酸金属塩を構成する金属としては、元素周期律表の第I類および第II類に属するアルカリ金属、アルカリ土類金属の金属塩が好ましく、より好ましくは、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、リチウムの金属塩であり、さらに好ましくはカルシウムおよびナトリウム塩である。
・・・
【0027】
(C)炭素数20以上の高級脂肪酸金属塩の使用量は、・・・配合量が、0.01重量部未満だと十分な離型性が得られず、1.0重量部を超えると、成形時の発生ガス量が多くなり、金型汚れが顕著に現れる。」

「【0071】
本発明の樹脂組成物は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨および衛生用品など各種用途に幅広く利用することができる。具体的な用途としては、・・・ランプリフレクター、・・・ランプベゼル、ドアハンドルなどの自動車用外装部品、・・・照明部品、・・・LEPランプ、・・・などとして有用である。」

「【0073】
ポリブチレンテレフタレート樹脂成分
(A−1) ポリブチレンテレフタレート樹脂:固有粘度0.85(東レ(株)製″トレコン″1100M)。
【0074】
4価以上のアルコールと炭素数15以上の高級脂肪酸からなる高級脂肪酸エステル
(B−1) ペンタエリスリトール−ステアリン酸テトラエステル:(コグニス ジャパン(株)″ロキシオール″VPG861)。
・・・
【0076】
炭素数20以上の高級脂肪酸金属塩
(C−1) ベヘン酸カルシウム:(日東化成(株)製”CS−7”、重量減量1.27%)。」

「【0087】
[実施例1〜23][比較例1〜22]
表1〜4に示したように樹脂組成物の組成を変更し、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、(G)成分、並びにその他添加剤全てを2軸押出機の元込め部から供給し、(H)成分を主投入口と押出機先端の間に設置した副投入口から供給してシリンダー温度260℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機で溶融混練を行った。
【0088】
ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。得られた各ペレットを、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、離型性、加熱減量、金型汚染性の評価を行った。なお、実施例、比較例中の物性測定および試験は、次の方法で行った。」

「【0093】
【表1】



甲1には、実施例1及び2のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が記載されており、当該組成物は、【0071】に記載されるように、様々な用途の部品に成形されるものである。
そうすると、甲1には、実施例1及び2に着目して、以下の発明が記載されているといえる。

「ポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.85、「トレコン1100M」)100.0重量部、ペンタエリスリトール−ステアリン酸テトラエステル(「ロキシオールVPG861」)0.4重量部、ベヘン酸カルシウム(重量減量1.27%、「CS−7」)0.1重量部を2軸押出機の元込め部から供給してシリンダー温度260℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機で溶融混練を行い、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形した部品。」(以下、「甲1発明A」という。)

「ポリブチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.85、「トレコン1100M」)100.0重量部、ペンタエリスリトール−ステアリン酸テトラエステル(「ロキシオールVPG861」)0.25重量部、ベヘン酸カルシウム(重量減量1.27%、「CS−7」)0.25重量部を2軸押出機の元込め部から供給してシリンダー温度260℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機で溶融混練を行い、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を成形した部品。」(以下、「甲1発明B」という。)

(2)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と、甲1発明A及び甲1発明Bを併せて対比する。
甲1発明A及びBの「ベヘン酸カルシウム(重量減量1.27%、「CS−7」)」は、本件発明5の「アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩B」に相当する。そして、甲1発明A及びBにおいて、ベヘン酸カルシウム(分子量719)に含まれるカルシウム原子はそれぞれ0.056重量部(=40/719×0.1)及び0.014重量部(=40/719×0.25)であるから、いずれも本件発明5の「ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.000005〜0.05質量部含み」を満たすといえる。
甲1発明A及びBの樹脂組成物におけるポリブチレンテレフタレート樹脂の含有割合を算出すると、いずれも99.5質量%(=100/100.5)となるから、本件発明5の「70〜100質量%のポリブチレンテレフタレート樹脂」を満たす。
また、本件発明5と甲1発明A及びBとは、ポリエステル樹脂組成物を含む部品である限りにおいて、一致する。

そうすると、本件発明5と甲1発明A及びBとは、
「70〜100質量%のポリブチレンテレフタレート樹脂と、0〜30質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂とを含有するポリエステル樹脂Aを含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩Bを含み、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.000005〜0.05質量部含む、ポリエステル樹脂組成物を含む、部品。」の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1a:本件発明5は、「ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量、または前記ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーおよびポリエチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量が950mg/kg以下である」のに対して、甲1発明A及びBは、ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量が不明である点

相違点1b:部品の用途が、本件発明5は、「光反射体用」であるのに対して、甲1発明A及びBは、用途が特定されていない点

イ 検討
相違点1aについて検討する。
甲2には、甲1の実施例1及び実施例2に記載された樹脂組成物ペレットの線状オリゴマー含有量を測定した実験結果が記載されており、これは、甲1発明A及びBと同じ「ポリブチレンテレフタレート樹脂」である「1100M」、「ペンタエリスリトール−ステアリン酸テトラエステル」である「VPG861」及び「ベヘン酸カルシウム」である「CS−7」を用いて、それらの配合量も同量とした樹脂組成物ペレットを作成し、当該ペレットについて、本件明細書の【0076】及び【0077】に記載された測定方法及び測定条件と、液体クロマトグラフ分析装置の種類と流速が異なる他は、同じ方法及び条件により線状ポリゴマー含有量を測定したものであるといえる(甲2の「2.測定方法と結果」)。
そして、甲2には、前記実験結果により得られた、甲1の実施例1及び実施例2の樹脂組成物ペレット中の線状オリゴマー含有量は、それぞれ973mg/kg及び993mg/kgであったことが記載されている(甲2の「(4)測定結果」の表2)。なお、表2に記載された単位「mg/g」は、甲2の表3(離型力、加熱減量、金型汚れの測定結果)が甲1の実施例1及び実施例2と同じであったこと、及び「3.結論」の記載からみて、mg/kgの誤記であると解される(甲2の記載どおり「mg/g」である場合、例えば実施例1の973mg/gは、樹脂組成物のほぼ全量を線状オリゴマーが占めることになってしまうこととなり、現実的でない。)。
そうすると、甲1発明A及びBは、本件発明5の「ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量」が「950mg/kg以下である」ことを満たさず、相違点1aは実質的な相違点であるから、本件発明5は甲6に記載された発明ではない。

そして、甲1には、甲1発明A及びBに用いたポリブチレンテレフタレート樹脂の線状オリゴマーの含有量について記載されておらず、前記線状オリゴマーの含有量を950mg/kg以下にすることが、本件特許出願の優先日時点の技術常識であるともいえない。また、甲3〜甲5にも、ポリエステル樹脂の線状オリゴマーの含有量を950mg/kg以下にすることは記載されていない。
そうすると、甲1発明A及びBにおいて、ポリブチレンテレフタレート樹脂の線状オリゴマーの含有量を950mg/kg以下にすることが動機づけられるとはいえず、当業者が容易に想到し得たことではない。
したがって、本件発明5は、相違点1aについて検討するまでもなく、甲6に記載された発明でないし、甲6に記載された発明、及び、甲7〜甲13に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件発明6〜10について
本件発明6〜10は、本件発明5を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明5について前記(2)で述べたのと同じ理由により、甲6に記載された発明でないし、甲6に記載された発明、及び、甲7〜甲13に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明5〜10に係る特許は、取消理由1及び2、並びに申立理由1及び2によっては、取り消すことはできない。

4 取消理由3(サポート要件)について
申立理由3(サポート要件)は、取消理由3と同旨であるから、併せて検討する。

(1)本件明細書に記載された事項
本件明細書には、次の事項が記載されている。
「【0007】
すなわち本発明は、低ガス性を有し、連続成形時の金型汚れを大幅に抑制することができるポリエステル樹脂組成物、これを含む光反射体用部品および光反射体を提供することを目的とする。」

「【0011】
本発明に係るポリエステル樹脂組成物は、金属有機酸塩Bを含むことにより、成形中のアウトガス[テトラヒドロフラン(以下、「THF」と称することもある)など]の発生を抑制し、組成物中に含まれる環状オリゴマーおよび線状オリゴマーがTHFによって金型に運ばれ、付着することを抑制し、これらのオリゴマーに基づく金型汚れを抑制することができる。」

「【0046】
ここで、ポリエステル樹脂組成物に含まれる金属有機酸塩Bの含有量を、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方の含有量を特定することにより把握するものとしている理由は、以下のとおりである。すなわち金属有機酸塩Bは、ポリエステル樹脂組成物中において金属イオンが解離した状態で存在していると考えられるため、金属有機酸塩Bの含有量を知るには金属(イオン)および有機酸(イオン)のいずれか一方または両方を定量する必要がある。しかしながら、有機酸は揮散しやすく、ポリブチレンテレフタレートなどのポリマーと構造が類似することも多いため、定量が困難となる場合が多い。一方、金属原子(アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子)は、ポリエステル樹脂組成物中で比較的残存しやすく、定量が比較的容易である。・・・」

「【0049】
金属有機酸塩Bにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂が有する末端水酸基の成形時におけるバックバイティング反応の低減が可能となり、THFの発生量を低減することできる。この金属有機酸塩Bに由来するアルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方が、ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.000005質量部(0.05mg/kg)未満となる場合、金属有機酸塩Bの作用により金型汚れの抑制効果が発現しにくい。また、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方が、ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.05質量部(500mg/kg)を超える場合、ポリエステル樹脂組成物の分解を促進し、金型汚れおよびフォギング性を悪化させる可能性がある。」

「【0051】
本発明のポリエステル樹脂組成物に用いることのできる金属有機酸塩Bの金属種は、金型汚れの観点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上が好ましい。なかでもリチウム、ナトリウム、カリウムであることが好ましく、カリウムであることが最も好ましい。
【0052】
アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩として具体的には、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸、グルコン酸などのヒドロキシカルボン酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、炭酸塩などを例示することができる。なお、炭酸塩は通常、無機酸塩として捉えられるが、本発明においては、炭素を有する酸を有機酸であるとみなして炭酸塩を有機酸塩の範囲に含むものとする。
【0053】
金型汚れを抑制する効果およびハンドリング性の観点から、金属有機酸塩Bは、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウムおよび安息香酸カリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。なかでも、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウムおよび酢酸マグネシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上であることがより好ましく、酢酸カリウムが特に好ましい。なお、これらの金属有機酸塩Bは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。」

「【0058】
これらの金属有機酸塩Bが金型汚れを抑制する効果を有する理由は、以下によるものと推測される。すなわち金属有機酸塩Bは、エステル基を安定化する効果または所謂バッファー効果により、ポリブチレンテレフタレート樹脂の加水分解反応を抑制し、かつ末端水酸基のバックバイティング反応を抑制する。これにより、主にテトラヒドロフランの生成を抑制することができる。したがって、本発明に係るポリエステル樹脂組成物は、低ガス性ならびに金型汚れの大幅な抑制効果を得ることができる。」

「【0085】
ポリエチレンテレフタレート樹脂b: IV=0.62dl/g、酸価=30eq/ton。
【0086】
金属有機酸塩Bとしては以下の化合物を用いた。
B−1: 酢酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)
B−2: 酢酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)のマスターペレット。
・・・
【0087】
なお、上記マスターペレットのベース樹脂としては、添加先となるポリエステル樹脂組成物中に存在するポリブチレンテレフタレート樹脂と同じ樹脂を用いた。マスターペレット中の金属有機酸塩Bは、カリウム原子の含有量がマスターペレット100質量部に対し0.2質量部であった。
【0089】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
表1に示す組み合わせで配合した配合成分を、シリンダー温度250℃に設定した同方向二軸押出機で混練を行ない、得られたストランドを水冷し、ペレット化した。得られた各ペレットを130℃で4時間乾燥し、各実施例および各比較例に対応するポリエステル樹脂組成物を得た。これらのポリエステル樹脂組成物を対象にして、上述の各評価試験(4)〜(8)を行なった。
【0090】
金属有機酸塩Bの量については、溶融重合時(エステル化反応後)に金属有機酸塩Bを添加した実施例および比較例において、添加時の量に対し、溶融混練後のポリエステル樹脂組成物中の残存量(含有量)は減少した(重合後期における減圧工程、溶融混練時のベント脱気工程の際に留去した可能性が考えられる)。また、比較例2(ポリブチレンテレフタレート樹脂a−4を用いた例)は、金属有機酸塩Bが不添加である。以上の結果を下記表1に記す。
【0091】
【表1】



【0092】
表1に示すように、実施例1〜3のポリエステル樹脂組成物は、連続成形時の金型汚れが非常に少なく、優れた特性を有することが分かる。」

(1)本件発明の課題
本件発明の課題は、「低ガス性を有し、連続成形時の金型汚れを大幅に抑制することができるポリエステル樹脂組成物、これを含む光反射体用部品および光反射体を提供すること」(【0007】)であると解される。

(2)本件発明5について
取消理由3は、要するに、本件訂正前の本件発明1の「アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩B」は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含み、有機酸の構造や酸性度を問わない、任意の金属有機酸塩を包含するものであり、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるとはいえない、というものである。
本件明細書には、「本発明に係るポリエステル樹脂組成物は、金属有機酸塩Bを含むことにより、成形中のアウトガス[テトラヒドロフラン(以下、「THF」と称することもある)など]の発生を抑制し、組成物中に含まれる環状オリゴマーおよび線状オリゴマーがTHFによって金型に運ばれ、付着することを抑制し、これらのオリゴマーに基づく金型汚れを抑制することができる」(【0011】)、及び、「金属有機酸塩Bは、エステル基を安定化する効果または所謂バッファー効果により、ポリブチレンテレフタレート樹脂の加水分解反応を抑制し、かつ末端水酸基のバックバイティング反応を抑制する。これにより、主にテトラヒドロフランの生成を抑制することができる」と記載され(【0058】)、金属有機酸塩Bは、エステル基を安定化する効果またはバッファー効果により、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の成形中に、ポリブチレンテレフタレート樹脂の加水分解反応や末端水酸基のバックバイティング反応を抑制して、THFの生成を抑制する機能を果たすことが示されている。
また、本件明細書には、「金属有機酸塩Bの金属種は、金型汚れの観点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上が好ましい」(【0051】)、「アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩として具体的には、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸、グルコン酸などのヒドロキシカルボン酸塩、1−プロパンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、炭酸塩などを例示することができる」(【0052】)と記載され、このような有機酸塩は前記機能があることが示されている。
そして、実施例1〜3には、ポリエステル樹脂100質量部に対し、酢酸カリウムを0.0002質量部又は0.001質量部含むものが記載され、これらのポリエステル樹脂組成物は、「B:金型汚れがほとんどみとめられない」ものであったことを具体的に確認できる。
このような発明の詳細な説明の記載から、本件発明5に記載された「ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物」を成形材料とすることにより、「金属有機酸塩B」が、実施例1〜3で用いられた酢酸カリウムに限らず、幅広い化合物にわたってTHFの発生を抑制し、本件発明5が前記課題を解決できることを当業者が認識できると解される。
したがって、発明の詳細な説明には、本件発明5が前記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されており、本件発明5は発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。

(3)本件発明6〜10について
本件発明6〜10は、本件発明5を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明5について前記(2)で述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明には、本件発明6〜10が前記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されていると解される。

(4)まとめ
したがって、本件発明5〜10に係る特許は、その特許請求の範囲が特許法36条6項1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものであり、取消理由3及び申立理由3によっては、取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項5〜10に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審が通知した取消理由によっては、取り消すことができない。
他に請求項5〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1〜4に係る特許に対する申立ては、本件訂正により請求項1〜4が削除されて、申立ての対象が存在しないものとなったため、却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
70〜100質量%のポリブチレンテレフタレート樹脂と、0〜30質量%のポリエチレンテレフタレート樹脂とを含有するポリエステル樹脂Aを含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属の有機酸塩およびアルカリ土類金属の有機酸塩のいずれか一方または両方である金属有機酸塩Bを含み、
前記ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属原子およびアルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を、前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し、0.000005〜0.05質量部含み、かつ、
前記ポリエステル樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量または前記ポリブチレンテレフタレートの線状オリゴマーおよびポリエチレンテレフタレートの線状オリゴマーの含有量が950mg/kg以下である、ポリエステル樹脂組成物を含む、光反射体用部品。
【請求項6】
請求項5に記載の光反射体用部品の表面の少なくとも一部に光反射金属層が形成されている、光反射体。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂組成物は、前記アルカリ金属原子および前記アルカリ土類金属原子のいずれか一方または両方を前記ポリエステル樹脂A100質量部に対し0.0005〜0.05質量部含む、請求項5に記の光反射体用部品。
【請求項8】
前記金属有機酸塩Bの金属種は、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項5または請求項7に記載の光反射体用部品。
【請求項9】
前記金属有機酸塩Bは、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、安息香酸リチウム、安息香酸ナトリウムおよび安息香酸カリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である、請求項5、請求項7または請求項8に記載の光反射体用部品。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の光反射体用部品の表面の少なくとも一部に光反射金属層が形成されている、光反射体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-09-30 
出願番号 P2016-248133
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C08L)
P 1 651・ 537- YAA (C08L)
P 1 651・ 113- YAA (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 橋本 栄和
近野 光知
登録日 2020-09-28 
登録番号 6769290
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 ポリエステル樹脂組成物、これを含む光反射体用部品および光反射体  
代理人 弁理士法人深見特許事務所  
代理人 弁理士法人深見特許事務所  

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