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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C30B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C30B 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857 C30B 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C30B 審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 C30B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C30B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C30B |
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管理番号 | 1393067 |
総通号数 | 13 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2023-01-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-09-16 |
確定日 | 2022-10-28 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6845418号発明「炭化ケイ素単結晶ウェハ、インゴット及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6845418号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3、4〕、5、〔6−13〕、14について訂正することを認める。 特許第6845418号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6845418号の請求項1〜13に係る特許についての出願は、平成29年1月13日を出願日とする出願であり、令和3年3月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月17日に特許掲載公報が発行され、その後、同年9月16日に、その請求項1〜13に係る特許を対象として特許異議申立人野尻文人(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、同年12月14日付けで取消理由が通知され、令和4年2月8日に新型コロナウイルスの影響による期間延長に関する上申書の提出があり、当審はこれを認容し、上記取消理由通知に対応する応答期間を職権により20日間延長することとし、延長された指定期間内である同年3月4日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年5月10日に異議申立人より、意見書の提出がなされたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 上記令和4年3月4日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、特許法第120条の5第4項に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1、2〕、〔3−5〕、〔6−13〕を訂正の単位として、本件特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3、4〕、5、〔6−13〕、14について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである(なお、訂正箇所に下線を付した。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「貫通転位密度が100個/cm2未満であることを特徴とする」とあるのを、「貫通転位密度が10個/cm2未満であり、当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であることを特徴とする」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「前記の円形の領域の外側の領域において、貫通転位密度が100個/cm2以上であることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素単結晶ウェハ。」とあるのを、「円板状の炭化ケイ素単結晶ウェハであって、 前記ウェハの直径が、15mm以上であり、 前記ウェハの平面が、炭化ケイ素単結晶の(0001)面から±5度以下にあり、 少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、 前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であることを特徴とする、炭化ケイ素単結晶ウェハ。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「貫通転位密度が100個/cm2未満であり、」とあるのを、「貫通転位密度が10個/cm2未満であり、当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、」に訂正する。 (請求項3を引用する請求項4についても同様に訂正する。) (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項5に「前記の円形の領域の外側の領域において、貫通転位密度が100個/cm2以上であることを特徴とする請求項3又は4に記載の炭化ケイ素単結晶インゴット。」とあるのを、「略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、 結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長方向に対して垂直な平面内において、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、かつ、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、 前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であることを特徴とする炭化ケイ素単結晶インゴット。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項14に、「略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、 結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長方向に対して垂直な平面内において、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、かつ、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、 前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であり、 結晶成長方向の長さが10mm以上であることを特徴とする炭化ケイ素単結晶インゴット。」を追加する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「種結晶の中心部に接触する上昇流を形成していることを特徴とする」とあるのを、「種結晶の中心部に接触する上昇流を形成し、 前記上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることを特徴とする」に訂正する。 (請求項6を直接又は間接的に引用する請求項7〜13についても同様に訂正する。) 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1及び3について ア 訂正事項1及び3は、貫通転位密度の範囲を限定するものであると共に、貫通転位密度が、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じるエッチピットの数を測定することにより得られるものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件明細書の【0047】〜【0050】には、[実施例1−1]における炭化ケイ素単結晶ウェハが記載されているところ、同【0049】には、「得られた、育成結晶の中央部を厚さ500μmにワイヤソーを用いて、(0001)面でスライスし、その後Si面側を鏡面研磨した後に、KOHでエッチングを行い、顕微鏡によりエッチピットの数を測定することにより貫通転位密度を評価した結果、スライスしたウェハの中心から半径5mm以内の領域において、貫通転位に由来するエッチピット密度は10個/cm2未満であった。」との記載があり、上記箇所には、貫通転位密度が、水酸化カリウム(KOH)でエッチングを行うことで生じるエッチピットの数を測定することにより得られるものであること、さらに、それにより測定される貫通転位密度が、「10個/cm2未満」であることが記載されているといえるから、訂正事項1及び3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 訂正事項1及び3は、貫通転位密度をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1を引用していた訂正前の請求項2の記載を、独立形式に書き下した上で、訂正前の請求項1に記載されていた「貫通転位密度」と訂正前の請求項2に記載されていた「貫通転位密度」との関係を明確にするために、訂正前の請求項2に記載されていた「貫通転位密度」に「前記」との記載を付加すると共に、訂正事項1と同様に、貫通転位密度が、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じるエッチピットの数を測定することにより得られるものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 訂正前の請求項1を引用していた訂正前の請求項2の記載を、独立形式に書き下す訂正、及び訂正前の請求項1に記載されていた「貫通転位密度」と訂正前の請求項2に記載されていた「貫通転位密度」の関係を明確にするために、訂正前の請求項2に記載されていた「貫通転位密度」に「前記」との記載を付加する訂正は、訂正前後で実質的にその内容が変わるものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。 また、貫通転位密度が、「水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる」ものであることを限定する訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、上記(1)イ及びウで述べたとおりである。 そうすると、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項4について ア 訂正事項4は、訂正前の請求項3を引用していた訂正前の請求項5の記載を、独立形式に書き下した上で、訂正前の請求項3に記載されていた「貫通転位密度」と訂正前の請求項5に記載されていた「貫通転位密度」との関係を明確にするために、訂正前の請求項5に記載されていた「貫通転位密度」に「前記」との記載を付加すると共に、訂正事項1と同様に、貫通転位密度が、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じるエッチピットの数を測定することにより得られるものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 訂正事項4は、訂正事項2と同様の訂正であるから、上記(2)イで述べたのと同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項5について ア 訂正事項5は、訂正前の請求項3を引用していた訂正前の請求項4をさらに引用していた訂正前の請求項5の記載を、独立形式に書き下し新たに請求項14にした上で、訂正前の請求項3に記載されていた「貫通転位密度」と訂正前の請求項5に記載されていた「貫通転位密度」との関係を明確にするために、訂正前の請求項5に記載されていた「貫通転位密度」に「前記」との記載を付加すると共に、訂正事項1と同様に、貫通転位密度が、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じるエッチピットの数を測定することにより得られるものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮、明瞭でない記載の釈明及び他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 イ 訂正事項5は、訂正事項2と同様の訂正であるから、上記(2)イで述べたのと同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項6について ア 訂正事項6は、種結晶の中心部に接触する上昇流の速度の範囲を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 本件明細書の【0028】には、「原料溶液5は、るつぼ3の中央部、るつぼ3内を下から上に移動する上昇流6が形成され、種結晶9の中心部に接触している。上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることが好ましい。」との記載があるから、訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 種結晶の中心部に接触する上昇流が所定の速度を有していることは明らかであるところ、訂正事項6は、その上昇流の速度の範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 なお、訂正後の請求項2、5、14については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の他の請求項とは別の訂正単位とする求めがなされているので、これを認める。 3 本件訂正に関する異議申立人の主張について (1)異議申立人の主張の概要 異議申立人は、令和4年5月10日に提出された意見書において、概略、以下のように主張している。 本件明細書には、貫通らせん転位と貫通刃状転位を合わせて「貫通転位」と定義付ける記載があると共に、「貫通転位」の他に、「基底面転位や積層欠陥」が存在することが記載されていることから、本件発明における、「貫通転位密度」とは、貫通らせん転位と貫通刃状転位を合わせた「貫通転位」の密度を意味するものであり、基底面転位や積層欠陥は含まれていないと解される。 これに対して、訂正事項1〜5は、いずれも「当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、」と転位密度の測定方法に関する記載を追加する訂正を含むところ、これらの訂正事項に関連し、意見書で「「貫通転位」という用語は、基板を貫通する転位をいい、本件特許発明における貫通転位密度は、エッチピットを生じさせる貫通転位のすべてを含みます」(特許権者意見書10頁下から7〜6行)と主張すると共に、甲第8号証の記載に関し、「これらの基底面転位には、KOHが侵入してエッチピットを形成します。基底面転位(基底面の面内方向に走る転位)もエッチピットを形成することは、別紙2に示したとおり、乙第2号証にも明確に記載されております。」(特許権者意見書41頁下から3〜1行)と主張し、本件訂正前の上記訂正事項に係る「貫通転位密度」に含まれる転位の種類が「貫通らせん転位、貫通刃状転位」であったものを、本件訂正により「貫通らせん転位、貫通刃状転位、基底面転位、積層欠陥」まで含めている。 そうすると、上記訂正事項1〜5は、実質的に特許請求の範囲を拡張または変更するものであるから、本件訂正は認められない。 (2)異議申立人の主張に対する判断 訂正の適否の判断は、あくまで、訂正事項と本件特許請求の範囲及び本件明細書に記載の事項との関係で判断すべきものであるところ、本件訂正には、「貫通転位密度」に含まれる転位の種類が、「貫通らせん転位、貫通刃状転位、基底面転位、積層欠陥」であることを示す訂正はなされていないし、本件特許請求の範囲及び本件明細書に記載の事項との関係で、本件訂正が、実質的に特許請求の範囲を拡張または変更するものではなく、認容できるものであることは、上記2(1)〜(4)で述べたとおりである。 そうすると、異議申立人の上記(1)の主張は、採用することができない。 4 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1、2〕、〔3−5〕、〔6−13〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、訂正事項1〜6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、本件特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、2、〔3、4〕、5、〔6−13〕、14について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし14に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 円板状の炭化ケイ素単結晶ウェハであって、 前記ウェハの直径が、15mm以上であり、 前記ウェハの平面が、炭化ケイ素単結晶の(0001)面から±5度以下にあり、 少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が10個/cm2未満であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であることを特徴とする、炭化ケイ素単結晶ウェハ。 【請求項2】 円板状の炭化ケイ素単結晶ウェハであって、 前記ウェハの直径が、15mm以上であり、 前記ウェハの平面が、炭化ケイ素単結晶の(0001)面から±5度以下にあり、 少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、 前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であることを特徴とする、炭化ケイ素単結晶ウェハ。 【請求項3】 略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、 結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長方向に対して垂直な平面内において、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が10個/cm2未満であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、 前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であることを特徴とする、炭化ケイ素単結晶インゴット。 【請求項4】 結晶成長方向の長さが10mm以上である請求項3に記載の炭化ケイ素単結晶インゴット。 【請求項5】 略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、 結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長方向に対して垂直な平面内において、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、かつ、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、 前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であることを特徴とする炭化ケイ素単結晶インゴット。 【請求項6】 炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法において、 前記種結晶の結晶成長面は(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成し、 前記上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることを特徴とする、 炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項7】 前記種結晶の厚さが、0.3mm以上であることを特徴とする請求項6に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項8】 前記種結晶の厚さが、3mm以上であることを特徴とする請求項6に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項9】 前記種結晶が、回転中心が種結晶の中心と一致するように回転することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項10】 前記種結晶の回転方向が、周期的に反転することを特徴とする請求項9に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項11】 原料溶液の側面より底面をより強く加熱することにより、原料溶液に上昇流を形成することを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項12】 炭化ケイ素単結晶を、10mm以上成長させることを特徴とする請求項6〜11のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項13】 前記炭化ケイ素単結晶の、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であることを特徴とする請求項6〜12のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項14】 略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、 結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長方向に対して垂直な平面内において、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、かつ、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、 前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であり、 結晶成長方向の長さが10mm以上であることを特徴とする炭化ケイ素単結晶インゴット。」 第4 特許異議の申立理由及び令和3年12月14日付けで通知した取消理由の概要 1 特許異議の申立理由の概要 異議申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。 ここで、異議申立人が提出した証拠方法は、次のものである。 甲第1号証:特開2016−56071号公報 甲第2号証:特開2016−150882号公報 甲第3号証:Kanaparin Ariyawong et.al.,「Analysis of Macrostep Formation during Top Seeded Solution Growth of 4H-SiC」,CRYSTAL GROWTH & DESIGN,2016,16,p.3231〜3236 甲第4号証:国際公開第2016/051485号 甲第5号証:特開2001−294499号公報 甲第6号証:科学研究費助成事業研究成果報告書 平成26年5月30日現在、研究代表者 宇治原 徹、研究課題名(和文)無転位SiC結晶の実現、研究期間:2011〜2013 甲第7号証:特開2015−160772号公報 甲第8号証:恩田正一,「4H−SiCにおける結晶欠陥の微細構造とデバイス特性への影響に関する研究」,筑波大学大学院博士課程 数理物質科学研究科博士論文 博士(工学),2013年 (以下、甲第1号証等を略して、「甲1」などという。) (1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如) ア 訂正前の請求項1、3に係る発明は、甲8に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1〜5に係る発明は、甲8に記載された発明及び甲1〜6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由1)。 イ 訂正前の請求項1、3、4、6、9、10、13に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1、3、4、6〜13に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、4、7に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由2)。 ウ 訂正前の請求項1、3、4、6に係る発明は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1、3、4、6に係る発明は、甲3に記載された発明及び甲1、2、4〜6、8に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由3)。 エ 訂正前の請求項6に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲4〜6に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由4)。 (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反) 本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3、6の記載が後記第5の2(1)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(申立理由5)。 (3)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反) 本件特許は、訂正前の請求項6に係る発明に対応する、明細書の発明の詳細な説明の記載が後記第5の2(2)アの点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(申立理由6)。 2 令和3年12月14日付けで通知した取消理由の概要 (1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)及び同法同条第2項所定の規定違反(進歩性欠如) ア 訂正前の請求項1、3、4に係る発明は、甲8に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1、3、4に係る発明は、甲8に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(取消理由1)。 イ 訂正前の請求項6、9、10、13に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項6〜13に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、4、8に記載される周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(取消理由2)。 ウ 訂正前の請求項6、13に係る発明は、甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項6〜13に係る発明は、甲3に記載された発明及び甲1、2、4、8に記載される周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(取消理由3)。 (2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反) 本件特許は、訂正前の特許請求の範囲の請求項6〜13の記載が後記第5の2(3)アの点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(取消理由4)。 第5 当審の判断 本件発明14は、本件訂正により、少なくとも訂正前の請求項3を引用していた訂正前の請求項4をさらに引用していた訂正前の請求項5の記載を、独立形式に書き下し新たな請求項にしたものであるところ、訂正前の請求項5に係る発明は、特許異議申立ての対象となっていた請求項であるから、訂正前の請求項5に係る発明を対象としていた取消理由及び申立理由の判断の対象に、本件発明14も加える。 また、取消理由及び申立理由のうち、まず、新規性欠如及び進歩性欠如の理由について判断し、次に、記載不備に関する理由についての判断を行う。 1 申立理由1〜4及び取消理由1〜3について (1)甲1〜8に記載された事項 ア 甲1に記載された事項 (ア)「【請求項1】 炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に接触させながら回転させる炭化ケイ素の結晶の製造方法において、 前記種結晶の結晶成長面はオフ角を有し、 前記種結晶の回転中心の位置が、前記種結晶の中心位置に対して、前記オフ角の形成方向であるステップフロー方向の下流側にあり、 前記種結晶の回転が、周期的に正回転と逆回転を繰り返すことを特徴とする炭化ケイ素の結晶の製造方法。」 (イ)「【0005】 SiC単結晶の高品質化に関して、液相成長法ではオフ角を有する種結晶基板(以下オフ基板と記す)上に結晶成長させた場合、成長方向に平行に伸びる貫通らせん転位や貫通刃状転位が基底面上の欠陥に変換されることで、成長に伴い欠陥が結晶の外部に掃きだされることで成長結晶内の転位密度を劇的に減少させることが可能であると報告されている(特許文献1、非特許文献1)。 【0006】 一方、SiC単結晶の大型化の課題として、結晶育成時の成長界面における表面荒れの発生が挙げられる。結晶成長中に一旦表面荒れが発生すると、その修復は極めて困難であることから、それ以上の結晶育成は実質不可能となる。この表面荒れの発生は特にオフ基板上への結晶成長時に顕著に現れる現象である。そこで、表面荒れの発生を防止する為に成長雰囲気中に添加成分を加える、成長界面近傍の温度勾配を低減する、或いは溶媒流れを制御するなどの手法が提案されている。(非特許文献2、3、4) ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0009】 上述のように、SiC単結晶の高品質化、大口径化を両立させるためにはオフ基板上への結晶成長時に表面荒れが発生しない結晶育成技術の開発が望まれる。しかしながら、オフ基板上への結晶成長では成長界面の形状不安定が生じ、結晶成長の進行に伴い部分的にトレンチと呼ばれる窪みが発生するため、オフ基板上への結晶育成ではオン基板(オフ角を有しない種結晶基板)上への結晶育成と比べて表面荒れが生じやすいという問題がある。また、非特許文献2と非特許文献3では、いずれもオン基板を用いている。現在のSiCバルク単結晶の育成では種結晶としてオン基板を使用せざるを得ない状況である。オフ基板上への結晶育成において表面荒れが発生しない成長技術が実現されれば、高品質な大型結晶が可能になるものと期待されている。 【0010】 本発明は、オフ基板上への結晶成長において表面荒れが抑制可能な炭化ケイ素の結晶成長方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明者らは、表面荒れ発生の原因として結晶表面上へのトレンチの形成に着目した。トレンチ部では溶媒からの炭素供給が滞る為、結晶育成中に一旦トレンチが発生すると、その後の表面荒れの修復は極めて困難である。本発明者らは、種結晶としてオフ基板を用いても、オフ基板のステップフロー方向に対する溶媒の流れの方向を対向流となるようにすることにより、オフ基板上への結晶育成におけるトレンチ形成の抑制が可能であることを見出した。」 (ウ)「【0024】 種結晶9は、4H−SiCおよび6H−SiCに代表される結晶多形を用いることができる。図2は種結晶9の表面の模式図である。種結晶9は(0001)面に対して0.5〜2度傾斜して切断されて形成されており、種結晶9の表面と(0001)面との角度をオフ角と呼ぶ。また、ステップフロー方向とは、オフ角が進展する方向である。例えば、[11−20]方向に向けてオフ角が形成されていれば、ステップフロー方向は[11−20]方向である。後述するとおり、原料溶液5を、ステップフロー方向と対向する方向14に流動させることで、結晶成長時のトレンチの発生を抑制することができる。」 (エ)「【実施例】 【0038】 [実施例1] 最大回転速度20rpmで、30秒周期で正回転と逆回転を入れ替えながら回転する黒鉛るつぼ内の1900℃のSi−40at.%Cr溶媒中に直径1インチの4H−SiC種結晶C面(1度オフ基板)を浸漬し、種結晶の最大回転速度150rpm、2分周期で正回転と逆回転を入れ替えながら3時間成長させた。種結晶の回転中心位置は種結晶の中心位置から2.5cm離れた地点とし、種結晶中心からみた種結晶の回転中心の方向はステップフロー方向と同一、すなわち、回転中心から種結晶の中心に向けた方向と、ステップフロー方向との間をなす角度が180度であるように設定した。 【0039】 得られた単結晶の成長表面のモフォロジーを観察した結果、図5に示すように、ほぼ全面に渡り成長表面でのトレンチ形成が抑制されていた。これは、実施例1での回転により、種結晶の成長表面のほぼ全面にステップフロー方向と対向する方向に原料溶液5が流れたため、得られた単結晶の表面の全面に渡ってトレンチの形成が抑制されたと考えられる。なお、図5中の得られた単結晶の中央部にある黒い点は、結晶成長中に混入した粒子が付着したもので、本発明で課題とする結晶成長中に生じるトレンチや表面荒れとは異なる原因により生じたものである。 ・・・ 【0042】 [比較例1] 種結晶の回転中心位置を種結晶の中心位置とした以外は実施例1と同様にして結晶成長させた。 成長表面のモフォロジーを観察した結果、図7に示すように、図中右側にわずかにトレンチの形成が抑制された領域を有するが、種結晶のほぼすべての領域でトレンチが形成していた。 【0043】 また、原料溶液の流れが、表面形状に与える影響を評価するため、三次元の数値計算シミュレーションを行った。図10(a)、(b)は、比較例1と実施例2において、種結晶の成長表面より0.2mm下に生じる原料溶液の流れの平均値を数値計算で求めた結果を示す。図10(a)では、回転中心の位置と種結晶の中心の位置が同じであるため、回転中心(図10中で「+」で示された位置)を中心に外側に向かう流れができている。図10(a)での、回転中心から右側に、流れがステップフロー方向と対抗する方向(図中右向き方向)に向いた領域がわずかに形成され、その領域は図7でトレンチの形成が抑制された領域と一致している。 【0044】 一方、図10(b)は、回転中心が種結晶の中心位置から図中左側にずれているため、種結晶から右側に、流れがステップフロー方向と対抗する方向に向いた領域が形成され、その領域は図6でトレンチの形成が抑制された領域と一致している。また、図10(a)、(b)を比べると、回転中心をステップフロー方向の下流側に移動したことにより、原料溶液の流れがステップフロー方向と対抗する方向に向いた領域が拡大し、トレンチの形成が抑制された領域が拡大したことがわかる。」 (オ)「【0047】 以上の実施例1〜2、比較例1〜3の回転中心と種結晶の中心との位置関係を図4(a)〜(e)に示し、実験条件と結果を以下の表1にまとめた。なお、表1中ではステップフローをSFと略した。実施例1〜2では、種結晶の内部にトレンチの発生が抑制された、滑らかな表面を有する領域が得られた。 【0048】 【表1】 ![]() 」 (カ)「【図1】 ![]() 」 (キ)「【図2】 ![]() 」 (ク)「【図4】 ![]() 」 (ケ)「【図10】 ![]() 」 イ 甲2に記載された事項 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 坩堝内に入れられ、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、 前記坩堝の底部内壁からの鉛直方向上方の高さxの位置における、前記坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の底側面部の厚みyが、前記高さxに対して、式(1): -1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10≦y (1) (式中、xは0〜10)、且つ式(2): y≦-9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2) (式中、xは、0〜20) を満たす形状を有し、 前記坩堝内に入れる前記Si−C溶液の深さを30mm以上とし、 前記坩堝の周囲に配置された高周波コイルで、前記Si−C溶液を加熱及び電磁撹拌することを含む、 SiC単結晶の製造方法。」 (イ)「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 溶液法によれば、他の方法よりも欠陥が少ないSiC単結晶を得られやすいものの、特許文献1に記載の方法では、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速が低く、溶質の供給が不十分となり、得られる結晶成長速度が未だ十分ではなかった。 【0008】 本開示の方法は上記課題を解決するものであり、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を得ることができるSiC単結晶の製造方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本開示は、坩堝内に入れられ、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、 坩堝の底部内壁からの鉛直方向上方の高さxの位置における、坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の底側面部の厚みyが、高さxに対して、式(1): -1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10 ≦ y (1) (式中、xは0〜10)、且つ式(2): y ≦ -9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2) (式中、xは、0〜20) を満たす形状を有し、 坩堝内に入れるSi−C溶液の深さを30mm以上とし、 坩堝の周囲に配置された高周波コイルで、Si−C溶液を加熱及び電磁撹拌することを含む、 SiC単結晶の製造方法を対象とする。 【発明の効果】 【0010】 本開示の方法によれば、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を得ることが可能となる。」 (ウ)「【0013】 溶液法によるSiC単結晶の成長は、熱平衡に近い状態での結晶成長のため、低欠陥化が期待できるものの、従来の方法では、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速が遅く、結晶成長面への溶質の供給が不十分となり、得られる結晶成長速度が十分ではなかった。 【0014】 そこで、本発明者等は、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速の向上について鋭意研究を行い、高周波コイルによる電磁撹拌効果を大きくしてSi−C溶液の上昇流速を向上することができるSiC単結晶の製造方法を見出した。坩堝の底側面部の形状を所定の形状にし、且つ坩堝内に収容するSi−C溶液の深さを30mm以上にすることにより高周波コイルによるSi−C溶液の電磁撹拌効果を大きくして、結晶成長面の中央部へ向かうSi−C溶液の上昇流速を向上することができる。 ・・・ 【0016】 本開示の方法によれば、結晶成長面の中央部に向かうSi−C溶液の上昇流速を大きくすることができる。」 (エ)「【0045】 本開示の方法においては、SiC単結晶の製造に一般に用いられる品質のSiC単結晶を種結晶基板として用いることができ、例えば昇華法で一般的に作成したSiC単結晶を種結晶基板として用いることができる。【0046】 種結晶基板として、例えば、成長面がフラットであり(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面を有するSiC単結晶、(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面から0°よりも大きく例えば8°以下のオフセット角度を有するSiC単結晶、または成長面が凹形状を有し凹形状の成長面の中央部付近の一部に(0001)面または(000−1)面を有するSiC単結晶を用いることができる。」 (オ)「【実施例】 【0057】 (結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速のシミュレーション) 溶液法(Flux法)でSiC単結晶を成長させる際の結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速について、CGSim(溶液からのバルク結晶成長シミュレーションソフトウェア、STR Japan製、Ver.14.1)を用いて、シミュレーションを行った。 【0058】 シミュレーション条件として、以下の標準条件を設定した。 【0059】 (標準モデルの作成) 単結晶製造装置として、図1及び図2に示すような単結晶製造装置100の構成の対称モデルを作成した。直径が9mm及び長さが180mmの円柱の先端に厚み2mm及び直径25mmの円板を備えた黒鉛軸を種結晶保持軸12とした。厚み1mm、直径25mmの円盤状4H−SiC単結晶を種結晶基板14とした。 ・・・ 【0062】 種結晶基板14の下面が、Si−C溶液24の液面位置に対して1.5mm上方に位置するように、種結晶保持軸に保持された種結晶基板14を配置し、Si−C溶液が種結晶基板14の下面全体に濡れるように図5に示すようなメニスカスを形成した。Si−C溶液24の液面におけるメニスカス部分の直径を30mmとし、計算の簡略化のためにSi−C溶液24の液面と種結晶基板14の下面との間のメニスカスの形状を直線形状にした。Si−C溶液24の表面における温度を2000℃にし、Si−C溶液の表面を低温側として、Si−C溶液の表面における温度と、Si−C溶液24の表面から溶液内部に向けて鉛直方向の深さ10mmの位置における温度との温度差を25℃とした。坩堝10を5rpmで、種結晶保持軸12の中心軸を中心として、回転させた。・・・ 【0064】 (実施例1〜9及び比較例1〜14) 上記の条件に加えて、上段コイル22Aのパワーを0、及び下段コイル22Bの周波数を5kHzとし、坩堝内径を100mmとして、坩堝の底側面部内壁の曲率形状をR0〜50mmの範囲、及びSi−C溶液の坩堝底部内壁からの深さ(高さ)を20〜70mmの範囲で変更して、Si−C溶液の結晶成長面に向かう上昇流速のシミュレーションを行った。Si−C溶液の上昇流速は、種結晶基板の下面の中央部の鉛直方向下方のSi−C溶液の液面の位置、すなわち、種結晶基板の成長面の中央部から1.5mm鉛直方向下の位置における鉛直上方向に向かうSi−C溶液の流速である。Si−C溶液の上昇流速のシミュレーションシミュレーション結果を表1に示す。」 (カ)「【0066】 【表1】 ![]() 」 (キ)「【図1】 ![]() 【図2】 ![]() 【図5】 ![]() 」 ウ 甲3に記載された事項(訳文は、異議申立人によるものである。) (ア)「Analysis of Macrostep Formation during Top Seeded Solution Growth of 4H-SiC」 (3231頁表題) (4H−SiCのトップシード溶液成長におけるマクロステップ形成の解析) (イ)「ABSTRACT: We used numerical and analytical modeling to investigate fluid flow behaviors close to the growing 4H-SiC crystal surface in the top seeded solution growth process. First, we calculated the azimuthal and radial components of the fluid flow in front of the rotation disc. Second, we developed an analytical model describing the interaction between the step flow (of the vicinal crystal surface) and fluid flow components, considering the crystallography of 4H-SiC and introducing a phase parameter. The correlation of both models allows us to describe qualitatively the conditions for which macrosteps form and destabilize. This phenomenological description is in good agreement with the corresponding experimental observations that are also presented in this paper.」(3231頁要約) (要約:トップシード溶液成長法において、成長中の4H−SiC結晶表面付近の流体の流れの挙動を、数値および分析モデリングを用いて調査した。まず、回転円盤の前を流れる流体の方位角成分および半径成分を計算した。次に、4H−SiCの結晶学を考慮し、位相パラメータを導入して、(結晶表面近傍の)ステップフローと流体成分との間の相互作用を示す分析モデルを開発した。両モデルの相関関係から、マクロステップが形成される条件と不安定になる条件を定性的に記述することができた。この現象論的な記述は、本稿でも紹介される対応する実験的な観察結果ともよく一致している。) (ウ)「■ EXPERIMENTAL DETAILS The experimental setup was a Czochralski puller with medium frequency induction heating (around 15 kHz). Details about the growth chamber and crucible elements have already been described.6,7 Briefly, pure liquid silicon was used as solvent and placed in a high density graphite crucible, which acted both as a container and as the carbon source. The liquid volume was typically 5 cm in diameter and 2-3 cm in height. We used a TSSG geometry, meaning that a SiC seed of 10-30 mm diameter was mounted on a graphite rod and dipped into the liquid. The crucible is presented in Figure 1. The temperature at the top of the inner crucible was measured with an optical pyrometer. For this study, the temperature was kept constant, at about 1700℃. The seed crystals consisted of carbon face, 4H-SiC (0001) wafers, with a 4°off-cut toward the [11-20] direction. The crystal rotation rate was varied between 0 and 200 rpm.」(3232頁左欄6〜20行) (実験内容 実験装置は、中周波誘導加熱(約15kHz)を備えたチョクラルスキー法引き上げ装置を用いた。成長チャンバとるつぼ要素の詳細については上述したとおりである。簡単に説明すると、純粋な液体シリコンを溶媒として使用し、高密度の黒鉛製るつぼに入れた。このるつぼは、容器としても炭素源としても機能する。液体の体積は、通常、直径5cm、高さ2〜3cmであった。黒鉛棒に直径10〜30mmのSiCシードを取り付け、液体に浸すというTSSG法を採用した。図1にるつぼを示す。内側のるつぼの上部の温度を光学式パイロメーターで測定した。この研究では、温度を約1700℃で一定に保った。シード結晶は、[11−20]の方向に4゜のオフカットをつけた炭素面の4H−SiC(0001)ウェハを用いた。結晶の回転速度を0〜200rpmの範囲で変化させた。) (エ)「 ![]() Figure 1・・・」(3232頁左欄) (図1) (オ)「■ RESULTS AND DISCUSSION Figure 5 shows the distribution of a set of physical parameters,i.e. temperature, fluid velocity, carbon concentration, and carbon supersaturation, as obtained by numerical simulation. The hot point is located at the bottom corner of the crucible, while the cold point localizes to the seed crystal (Figure 5a). The axial temperature difference is around 4℃, corresponding to an axial temperature gradient of about 2℃/cm. This was designed on purpose as a small axial thermal gradient is most adapted to prevent parasitic crystallization within the liquid.18 As already pointed out in previous reports,6 the mixture of different convective flows contributes to a complex flow pattern, which is difficult both to describe and to control (Figure 5b). In front of the seed surface, there is a direct flow of fluid from the bottom of the crucible toward the seed around the symmetry axis. The highly turbulent flow near the crucible wall, caused by the strong electromagnetic convection due to the high Lorentz force density near the crucible wall, is also predicted. The distribution of carbon concentration results directly from the convection pattern, with the highest concentration close to the symmetry axis (Figure 5c). The supersaturation (S), calculated from the difference between the actual carbon concentration and the equilibrium value in liquid silicon is shown in Figure 5d. The carbon dissolves from the graphite crucible in the under-saturated area where S < 0, transports by convection, and crystallizes in the supersaturated area (S > 0), i.e., at the seed surface.」(3234頁左欄下から17行〜右欄下から18行) (結果および考察 図5には、数値シミュレーションによって得られた一連の物理パラメータ(温度、流速、炭素濃度、炭素過飽和)の分布が示されている。ホットポイントはるつぼの底部の隅にあり、コールドポイントはシード結晶に局在している(図5a)。軸方向の温度差は約4℃で、約2℃/cmの軸方向の温度勾配に対応している。これは、軸方向の温度勾配が小さいことが液体内の寄生結晶化を防ぐのに最も適していることから、意図的に設計されたものである。これまでの報告でも指摘されているように、異なる対流が混在しているため、複雑な流れのパターンとなっており、それを記述することも制御することも困難である(図5b)。シード表面の手前では、るつぼの底部からシードに向かって、対称軸を中心とした流体の直接的な流れが生じている。また、るつぼの壁付近では、るつぼの壁付近のローレンツ力密度が高いために強い電磁対流が発生し、乱れの大きい流れが生じることも予測される。炭素濃度の分布は、対流パターンから直接得られるものであり、対称軸付近で濃度が最も高くなっている(図5c)。実際の炭素濃度と液体シリコン中の平衡値との差から計算された過飽和(s)を図5dに示す。炭素は、S<0の過少飽和領域で黒鉛製るつぼから溶解し、対流によって搬送され、過飽和領域(S>0)、すなわちシード表面で結晶化する。) エ 甲4に記載された事項 (ア)「請求の範囲 [請求項1] 表面の基底面転位密度が1000個/cm2以下、貫通螺旋転位密度が500個/cm2以下、かつ、ラマン指数が0.2以下である、口径150mm以上の炭化珪素単結晶ウェハ。」 (イ)「[0006] 改良型のレーリー法では、成長中の単結晶インゴットに不可避的な内部応力が発生し、それは最終的に得られる単結晶ウェハ内部に、弾性歪、又は転位(塑性歪)の形で残留する。現在市販されているSiCウェハには、基底面転位(以下、BPD)が2×103〜2×104(個/cm2)、貫通螺旋転位(以下、TSD)が8×102〜103(個/cm2)、貫通刃状転位(以下、TED)が5×103〜2×104(個/cm2)存在している(非特許文献3参照)。 [0007] 近年、結晶欠陥とデバイスに関する調査から、BPDがデバイスの酸化膜不良を生じ、絶縁破壊の原因となることが報告されている(非特許文献4参照)。また、バイポーラデバイスなどでは、BPDから積層欠陥が発生することが報告されており、デバイス特性の劣化の原因となることが知られている(非特許文献5参照)。また、TSDはデバイスのリーク電流の原因となり(非特許文献6参照)、また、ゲート酸化膜寿命を低下させることが報告されている(非特許文献7参照)。そのため、高性能SiCデバイスの作製のために、BPD、及びTSDの少ないSiC単結晶が求められている。」 (ウ)「[0011] 特許文献3には、種結晶を用いた昇華再結晶法において、SiC単結晶を成長させ、これから種結晶を切り出して再度結晶成長を行い、これを何度か繰り返して、成長結晶の形状を成長方向に対して凸状となるようにすることで、モザイク性の小さなSiC単結晶ウェハを得る技術が報告されている。この技術は、転位の集合体である小傾角粒界が成長表面に垂直に伝播する性質を利用するものであり、成長結晶を成長方向に対して凸状となるようにすることで、転位の集合体である小傾角粒界を成長結晶の周辺部に移動させて、中央部に小傾角粒界密度の低い、すなわち転位密度の低い領域を形成するようにしたものである。」 (エ)「[0027] 以下、本発明について詳しく説明する。 先ず、本発明におけるSiC単結晶ウェハは、口径100mm以上であって、そのBPD密度とTSD密度が低く、弾性歪も小さいために、高性能デバイスの作製が可能であり、工業的規模でデバイスを作製した場合でも、高い歩留りを確保できる。本発明におけるSiC単結晶ウェハのBPDの密度は、ウェハ口径150mm以上の場合は1000個/cm2以下、100mm以上の場合は500個/cm2以下であり、TSD密度については、口径150mm以上の場合は500個/cm2以下、口径100mm以上の場合は300個/cm2以下である。 ・・・ [0031] BPD密度が前述の値よりも低い場合には、さらに高いデバイス性能、歩留りが実現できるので、口径150mm以上のウェハに関しては、BPDが500個/cm2以下となることが望ましく、何れの口径についても、300個/cm2以下、さらには、100個/cm2以下となることがより望ましい。また、TSD密度に関しても同様であり、口径150mm以上のウェハに関しては、TSD密度が300個/cm2以下となることが望ましく、何れの口径についても、200個/cm2以下、さらには、100個/cm2以下となることがより望ましい。BPD、TSDともに、その密度が100個/cm2を下回るレベルにまで低下すれば、デバイスへの悪影響は実質的に皆無になるになると考えられる。」 (オ)「[0033] 上記の様なSiC単結晶ウェハを製造するための方法として、従来、温度勾配を極力小さくした環境でSiC単結晶インゴットを育成し、成長表面の応力を小さくするという考え方が主流であった。しかしながら、前述した通り、昇華再結晶法によるSiC単結晶インゴットの安定成長のためには、成長空間内に温度勾配を与えることは必須であり。無暗に温度勾配を小さくすれば、単一ポリタイプ成長の成功率や成長速度に悪影響し、生産性が低下することから、工業的には不利である。ちなみに、工業的な観点では、インゴットの高さは30mm程度、もしくはそれ以上必要であると考えられる。」 オ 甲5に記載された事項 (ア)「【請求項1】 エピタキシャル薄膜成長用基板として用いられる口径50mm以上の炭化珪素単結晶ウエハであって、ウエハ面内の任意の2点間での成長面方位のずれが60秒/cm以下であることを特徴とするモザイク性の小さな炭化珪素単結晶ウエハ。」 (イ)「【0003】SiC単結晶ウエハを用いて発光デバイス、電子デバイスなどを作製する場合に、通常ウエハ上に薄膜(例えば、SiC薄膜あるいはGaN薄膜)をエピタキシャル成長させる必要がある。これらの薄膜は、GaNの場合、一般にMOCVD法(有機金属化学蒸着法)やMBE法(分子線エピタキシー法)と呼ばれる薄膜成長法で、また、SiCの場合は、熱CVD法(熱化学蒸着法)や液相エピタキシャル成長法と呼ばれる方法により、SiC基板上に堆積される。この際、高品質なエピタキシャル薄膜を得るには、薄膜を成長させるSiC基板の面方位が重要なパラメータとなっている。例えば、Kimotoらは、高品質のSiCエピタキシャル薄膜を得るには、(0001)面を有するSiC基板に特定のオフ角度を付ける必要のあること示している(Journal of Applied Physics,Vol.75,p.850−859(1994))。」 カ 甲6に記載された事項 (ア)「(4)転位変換現象を利用した高品質化 貫通転位の変換現象は高品質化において極めて重要な役割を果たす。Fig.8は結晶成長過程における貫通転位の挙動を模式的に示したものである。貫通転位はそのままでは成長方向に引き継がれることになるが、基底面の欠陥に変換すると、成長が進むに従って結晶の外部に掃き出されることになる。もし成長直後にすべての変換が生じるとすると、オフ角度1°で2インチ基板の成長を行う場合、1mmの成長を行えば、すべての欠陥が結晶外部に排出されることになる。」(4頁左欄〜右欄) (イ)「 ![]() 」(4頁右欄) キ 甲7に記載された事項 (ア)「【請求項1】 上下に開口した筒状の加熱装置と、 該加熱装置の内側に配された、上面に開口した凹部を有した第1坩堝と、 該第1坩堝の前記凹部の底面上に配された第1保温部および前記凹部の内側面上に配された第2保温部からなる保温部材と、 該保温部材を介して前記第1坩堝の前記凹部内に配された、結晶を成長させる溶液を保持する第2坩堝とを備え、 前記第1保温部による熱伝導の熱量が前記第2保温部による熱伝導の熱量よりも大きい、溶液成長法によって結晶を成長させる結晶製造装置。」 (イ)「【図1】 ![]() 」 ク 甲8に記載された事項 (ア)「2.高品質結晶成長法 本章では、はじめに我々が考案した高品質SiC単結晶成長法(RAF法)に関してその原理と結晶学的な考察を行い、最後にデバイスを作製した結果について述べる。 ・・・ RAF法は、我々(デンソーと豊田中央研究所のグループ)が2004年に考案した転位欠陥を2〜3桁低減させる結晶成長手法である6)。SiC結晶成長においてc軸に垂直の方向であるa面方向に成長7)することにより、原理的には結晶内の転位を無くすことが出来る手法であり、昇華法のみならず、1章で述べたガス法8)、溶液法9)等、その他の結晶成長法にも適用できる高品質化成長技術である。 ・・・ 2−1 RAF法による結晶成長 ・・・ 2−1−1 RAF法の原理 RAF成長はa面成長を繰り返し行うことからRepeated-A-Face methodの頭文字を取りRAF法と名付けた。RAF成長の原理を一言で言えば、結晶内の欠陥の形態をa面方向の成長を繰り返すことにより基底面内の欠陥に変換し、基底面内に閉じ込め、最後にその欠陥をc面成長により結晶外に掃き出す手法である。」(21頁1〜28行) (イ)「2−1−2 RAFプロセス RAF成長の基本プロセスを図2-5に示す。まず、はじめに通常通りc軸方向に結晶成長したインゴットからa面に種結晶基板を切り出す。図2-5では、a面として{1-100}面で切り出した場合である。次にその{1-100}面に切り出した基板を種結晶にして<1-100>方向にa面成長を行う(1回目のa面成長)。さらに、その{1-100}面成長したインゴットから、{11-20}面の種結晶を切り出し、同様に<11-20>方向にa面成長を行う(2回目のa面成長)。この{1-100}面成長と{11-20}面成長を交互に繰り返した後、最後にc面成長を行いRAF法は完成する。RAF法で用いる{11-20}面と{1-100}面は、互いに垂直となる面を用いる。 ![]() ・・・ (iii)最後のc面成長:原理的には、原子レベルで平坦なc面の種結晶を切り出すことができれば、表面は無欠陥となるが、実際には完全フラットに切り出すことは不可能である。そこで繰り返し成長したa面成長によって発生した積層欠陥7)を除去しなければならない。この時点で結晶内に残る転位の大部分は{0001}面に平行であり、積層欠陥とそれに付随する部分的な転位はc軸に垂直な方向(c面内)に継承するだけである。したがって種結晶面を{0001}面に対して数度のOFF角度をつけることにより低減することができる。図2-6に、c面成長したインゴットを{11-20}面で切り出し、{0004}回折でトポグラフ観察した結果を示す。種結晶内の積層欠陥が成長と共にOFF角度に沿って流れ、結晶外に掃きだされている様子がわかる。 ![]() 」(23頁8行〜24頁17行) (ウ)「2−1−3 RAF結晶の品質 図2-8は、このRAF法を用いて成長した4H-SiC結晶の{0001}面の平均のエッチピット密度(EPD)をプロットしたものである6)。ここで繰り返し回数ゼロは通常の結晶のc面成長を示している。繰り返し回数が1回の場合は{1-100}成長の後にc面成長したもの、2回の場合は{1-100}面成長→{11-20}面成長→c面成長、3回の場合は{1-100}面成長→{11-20}面成長→{1-100}面成長→c面成長したものである。a面の成長回数とともにEPDが低減していく様子がわかる。RAF法で3回a面成長し作製したシードを用いてc面成長したΦ20mm基板の平均EPD(Etch Pit Density)およびマイクロパイプ密度は、それぞれ75cm-2、0cm-2であった。・・・ しかしながら、品質が向上すればするほど、完全結晶に近づくほど、従来では問題とならなかった僅かな温度不均一に由来する新たな欠陥の発生、あるいは僅かな歪みの不均一から貫通型の欠陥に再変換されて結晶内に残存してしまう様な課題も見えてきた。同時に大口径成長、長尺成長の困難さも大きな課題となる。・・・ ![]() 」(24頁下から6行〜25頁9行) (エ)「2−2−2 繰り返し成長とc軸ゆらぎ(ひずみと方向) ・・・ この項では、c軸方向に歪みを持つ(<0001>方向に歪みを持つ)貰通らせん転位のa面成長の繰り返しによる歪みの変化を調査した結果を示す。さらに次項では、c面成長における欠陥の掃き出しについて議論する。 成長は図2-16に示すように7回まで繰り返した。結晶サイズはΦ1インチである。 ![]() ・・・ 2−2−3 c面オフ成長における積層欠陥掃き出し 図2-18は、RAF法におけるc面OFF成長を行った結晶を(1-100)面で切り出しX線トポグラフにより転位の掃き出し状況を観察した結果を示している。いわゆるRAF-c面成長の断面観察結果である。図2-18(a)は3回のRAF成長した後、c面OFF成長をした結晶の断面観察結果である。RAF成長により種結晶中の基底面に集約された積層型の転位が成長と共に外部に掃き出されているのがわかる。写真の左上方向に走る黒い斜めのスジが、転位の掃き出しを示している。約4°の傾きで排出されるので、Φ2インチの結晶であれば、50mm×tan(4°)=約3mmの長さ成長すれば、全ての領域で転位が掃き出されることになる。しかし、写真からもわかるように、掃き出し途中から、再度、上方に向かう貰通型の転位に変換されるものも存在する。この原因が前項で観察した成長方向からズレた歪み(基底面をc軸方向に跨ぐ転位)である。図2-18(b)は7回のRAF成長したものであるが、まったく貫通型の転位に変換されること無く、外部に掃き出されている様子が観察されている。このように、RAF成長はa面成長を繰り返すことにより完全に転位を基底面に閉じ込め、外部に掃き出す成長技術である。 ![]() ここで、なぜ図2-17のような基底面を跨ぐ転位が存在すると、図2-18(a)のように積層型の転位が貫通型らせん転位に変換されるのか、そのメカニズムを推定した。 まず、通常のOFF成長を考えてみる。図2-19は(0001)面から<11-20>方向に4°または8°0FF角度を付けて切り出した種結晶表面を表す。原子ステップとテラスが一定の間隔で現れ、成長過程でこの原子ステップ上に降り積もった(deposition) 原子あるいは前駆体(SiC2、Si2Cなど)は、そのテラス上をマイグレーションし、ステップの壁に到達し固定(固着)することにより正しい結晶配列が維持される。いわゆる、下地の正確な配列情報をステップから得て結晶が成長するステップフローエピタキシー成長である。 ![]() 」(31頁14行〜32頁11行) (オ)「2−2−4 繰り返しRAF成長の品質 図2-23にa面成長を3回繰り返し後c面成長して作製した結晶と7回繰り返して作製した結晶を比較したものである。図2-18で示したc面OFF成長による掃き出し処理をした結晶の(0001面)トポ像である。 結晶のサイズは、共にΦ1インチである。X線トポグラフ評価はSpring-8の強力な放射光を用いた。G=(11-28)回折することにより、c軸方向の転位、a面方向の転位も同時に観察した。この回折は、強度が落ちるので通常は使わないがSpring-8の放射光なので、非常に高分解能で鮮明なトポ像が得られた。7回RAF結晶像では、視野3mm×3mm中に丸印で囲んだ部分に1つ貫通らせんが観測される程度まで高品質な結果を得ることが出来た。Φ1インチ全域での平均の貫通らせん転位の密度は3回RAF結晶が72個/cm2、7回RAF結晶は1.3個/cm2であった。 ・・・ さらに、7回RAFを詳細に観察した結果を図2-24に示す。 極めて興味深い結果を得た。スジ状の欠陥は刃状転位であるが、きれいに<11-20>方向にそろっている。これは、非常に純粋な刃状転位が観測されたものであり、いままでこのような報告はなく、RAF法ではじめて観測された結果である。 ・・・ RAF法のa面成長の繰り返し回数を増やす効果を図2-25に示す。RAF成長を7回繰り返すことによりEPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下まで低減することが出来た。デバイスに大きく悪影響を及ぼすと考えられる貫通らせん転位は1.3個/cm2まで低減することができた。 飽和するかどうかについてパワーデバイスを作製することでリーク電流の低減等のウエハの高品質化の効果を検証していく。 ![]() 」(33頁1行〜34頁末行) (カ)「(iii)ステップ導入の効果(SiC単結晶成長の結果) 実際に種結晶の表面の一部にらせん転位であるステップを導入して成長した結晶の(a)断面模式図と(b)ウエハを切り出した結果(ウエハ写真)を図2-31 に示す。成長結晶とウエハは4H単ーポリタイプであった(ファセット跡の箇所は色が濃くなっているが、これはNが多くドーピングされるためである)。この結果により、RAFの高品質種結晶を使用してc面成長するときは、ファセットに人工的にステップを導入することが、異種ポリタイプ発生の抑制のために効果的であることが実証できた。 ![]() 」(37頁4〜9行) (2)甲1〜3、8に記載された発明 ア 甲1に記載された発明 甲1には、上記(1)ア(ア)によれば、「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に接触させながら回転させる炭化ケイ素の結晶の製造方法において、 前記種結晶の結晶成長面はオフ角を有し、 前記種結晶の回転中心の位置が、前記種結晶の中心位置に対して、前記オフ角の形成方向であるステップフロー方向の下流側にあり、 前記種結晶の回転が、周期的に正回転と逆回転を繰り返すことを特徴とする炭化ケイ素の結晶の製造方法。」が記載され、この製造方法の具体例である実施例1として、上記同(エ)の【0038】には、最大回転速度20rpmで、30秒周期で正回転と逆回転を入れ替えながら回転する黒鉛るつぼ内の1900℃のSi−40at.%Cr溶媒中に直径1インチの4H−SiC種結晶C面(1度オフ基板)を浸漬し、種結晶の最大回転速度150rpm、2分周期で正回転と逆回転を入れ替えながら3時間成長させ、種結晶の回転中心位置は種結晶の中心位置から2.5cm離れた地点とし、種結晶中心からみた種結晶の回転中心の方向はステップフロー方向と同一、すなわち、回転中心から種結晶の中心に向けた方向と、ステップフロー方向との間をなす角度が180度であるように設定した炭化ケイ素の結晶の製造方法が記載されている。そして、この実施例1に対する比較例1は、同(エ)の【0042】で、「種結晶の回転中心位置を種結晶の中心位置とした以外は実施例1と同様にして結晶成長させた」と記載されているから、甲1には、比較例1として、「最大回転速度20rpmで、30秒周期で正回転と逆回転を入れ替えながら回転する黒鉛るつぼ内の1900℃のSi−40at.%Cr溶媒中に直径1インチの4H−SiC種結晶C面(1度オフ基板)を浸漬し、種結晶の最大回転速度150rpm、2分周期で正回転と逆回転を入れ替えながら3時間成長させ、種結晶の回転中心位置を種結晶の中心位置とした炭化ケイ素の結晶の製造方法」が記載されていることが理解できる。 また、上記同(エ)の【0043】及び上記同(ケ)の【図10】(a)の記載によれば、種結晶の成長表面より0.2mm下に生じる原料溶液の流れとして、回転中心(図10中で「+」で示された位置)を中心に外側に向かう流れができていることが理解できる。 そうすると、甲1には、上記比較例1に係る炭化ケイ素の結晶の製造方法として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「最大回転速度20rpmで、30秒周期で正回転と逆回転を入れ替えながら回転する黒鉛るつぼ内の1900℃のSi−40at.%Cr溶媒中に直径1インチの4H−SiC種結晶C面(1度オフ基板)を浸漬し、種結晶の最大回転速度150rpm、2分周期で正回転と逆回転を入れ替えながら3時間成長させ、種結晶の回転中心位置を種結晶の中心位置とした炭化ケイ素の結晶の製造方法であって、種結晶の成長表面より0.2mm下に生じる原料溶液の流れとして、回転中心を中心に外側に向かう流れができている炭化ケイ素の結晶の製造方法。」 イ 甲2に記載された発明 甲2の上記(1)イ(ア)には、「坩堝内に入れられ、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、 前記坩堝の底部内壁からの鉛直方向上方の高さxの位置における、前記坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の底側面部の厚みyが、前記高さxに対して、式(1): -1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10≦y (1) (式中、xは0〜10)、且つ式(2): y≦-9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2) (式中、xは、0〜20) を満たす形状を有し、 前記坩堝内に入れる前記Si−C溶液の深さを30mm以上とし、 前記坩堝の周囲に配置された高周波コイルで、前記Si−C溶液を加熱及び電磁撹拌することを含む、 SiC単結晶の製造方法。」が記載されている。そして、同(ウ)の【0014】、【0016】に記載されるように、坩堝の底側面部の形状を所定の形状、すなわち、上記製造方法における「前記坩堝の底部内壁からの鉛直方向上方の高さxの位置における、前記坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の底側面部の厚みyが、前記高さxに対して、式(1)・・・且つ式(2)・・・を満たす形状」にし、且つ坩堝内に収容するSi−C溶液の深さを30mm以上にすることにより、「結晶成長面の中央部に向かうSi−C溶液の上昇流速を大きくすることができる。」のであるから、甲2には、SiC単結晶の製造方法として、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。 「坩堝内に入れられ、内部から液面に向けて温度低下する温度勾配を有するSi−C溶液に、種結晶基板を接触させてSiC単結晶を結晶成長させる、SiC単結晶の製造方法であって、 前記坩堝の底部内壁からの鉛直方向上方の高さxの位置における、前記坩堝の内径位置を基準として内側方向且つ水平方向の底側面部の厚みyが、前記高さxに対して、式(1): -1.126×10-6x5+1.650×10-4x4-9.023×10-3x3+2.262×10-1x2-2.537x+10≦y (1) (式中、xは0〜10)、且つ式(2): y≦-9.86×10-7x5+1.525×10-4x4-9.060×10-3x3+2.590×10-1x2-3.599x+20 (2) (式中、xは、0〜20) を満たす形状を有し、 前記坩堝内に入れる前記Si−C溶液の深さを30mm以上とし、 前記坩堝の周囲に配置された高周波コイルで、前記Si−C溶液を加熱及び電磁撹拌することを含み、 結晶成長面の中央部に向かうSi−C溶液の上昇流速を大きくすることができる、 SiC単結晶の製造方法。」 ウ 甲3に記載された発明 甲3は、上記(1)ウ(イ)の記載によれば、「トップシード溶液成長法において、成長中の4H−SiC結晶表面付近の流体の流れの挙動を、数値および分析モデリングを用いて調査した」結果が記載されているものであるが、上記同(ウ)及び同(エ)には、このトップシード溶液成長法を行う実験装置が記載され、この実験装置では、4H−SiC結晶がトップシード溶液成長法により製造されることが理解できる。ここで、この実験装置は、上記同(ウ)の記載によれば、純粋な液体シリコンを溶媒として使用し、容器としても炭素源としても機能する高密度の黒鉛製るつぼに入れ、黒鉛棒に直径10〜30mmのSiCシード(結晶)を取り付け、液体に浸すというトップシード溶液成長法(TSSG法)を採用し、4H−SiC結晶を製造するものであり、シード結晶は、[11−20]の方向に4゜のオフカットをつけた炭素面の4H−SiC(0001)ウェハであり、結晶の回転速度を0〜200rpmの範囲で変化させるものであるから、甲3には、この実験装置を用いた、以下の「4H−SiC結晶の製造方法」が記載されているということができる。 「純粋な液体シリコンを溶媒として使用し、容器としても炭素源としても機能する高密度の黒鉛製るつぼに入れ、黒鉛棒に直径10〜30mmの、[11−20]の方向に4゜のオフカットをつけた炭素面の4H−SiC(0001)ウェハであるSiCシード結晶を取り付け、液体に浸すというトップシード溶液成長法(TSSG法)を採用し、結晶の回転速度を0〜200rpmの範囲で変化させる、4H−SiC結晶の製造方法」 また、上記同(オ)には、(トップシード溶液成長法において、成長中の4H−SiC結晶表面付近の流体の流れの挙動を、数値および分析モデリングを用いて調査した結果として、)「るつぼの底部からシードに向かって、対称軸を中心とした流体の直接的な流れが生じている」ことが記載されている。 以上を踏まえると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。 「純粋な液体シリコンを溶媒として使用し、容器としても炭素源としても機能する高密度の黒鉛製るつぼに入れ、黒鉛棒に直径10〜30mmの、[11−20]の方向に4゜のオフカットをつけた炭素面の4H−SiC(0001)ウェハであるSiCシード結晶を取り付け、液体に浸すというトップシード溶液成長法(TSSG法)を採用し、結晶の回転速度を0〜200rpmの範囲で変化させ、るつぼの底部からシードに向かって、対称軸を中心とした流体の直接的な流れが生じている4H−SiC結晶の製造方法。」 エ 甲8に記載された発明 甲8には、上記(1)ク(ア)の記載によれば、RAF法を用いた高品質SiC単結晶成長法が記載されているが、RAF法とは、「結晶内の欠陥の形態をa面方向の成長を繰り返すことにより基底面内の欠陥に変換し、基底面内に閉じ込め、最後にその欠陥をc面成長により結晶外に掃き出す手法である」。そして、上記同(オ)の「図2-23にa面成長を3回繰り返し後c面成長して作製した結晶と7回繰り返して作製した結晶を比較したものである。図2-18で示したc面OFF成長による掃き出し処理をした結晶の(0001面)トポ像である。 結晶のサイズは、共にΦ1インチである。X線トポグラフ評価はSpring-8の強力な放射光を用いた。G=(11-28)回折することにより、c軸方向の転位、a面方向の転位も同時に観察した。・・・7回RAF結晶像では、視野3mm×3mm中に丸印で囲んだ部分に1つ貫通らせんが観測される程度まで高品質な結果を得ることが出来た。Φ1インチ全域での平均の貫通らせん転位の密度は3回RAF結晶が72個/cm2、7回RAF結晶は1.3個/cm2であった。」との記載によれば、甲8には、a面成長を7回繰り返し後c面成長して作成したΦ1インチの結晶であって、結晶の(0001面)トポ像により求められたΦ1インチ全域での平均貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2である結晶が記載されていることが理解できる。 また、上記の「図2-18で示したc面OFF成長による掃き出し処理をした結晶」とは、上記同(エ)の図2-18に関する説明である「図2-18(a)は3回のRAF成長した後、c面OFF成長をした結晶の断面観察結果である。RAF成長により種結晶中の基底面に集約された積層型の転位が成長と共に外部に掃き出されているのがわかる。写真の左上方向に走る黒い斜めのスジが、転位の掃き出しを示している。約4°の傾きで排出されるので、Φ2インチの結晶であれば、50mm×tan(4°)=約3mmの長さ成長すれば、全ての領域で転位が掃き出されることになる。・・・図2-18(b)は7回のRAF成長したものであるが、まったく貫通型の転位に変換されること無く、外部に掃き出されている様子が観察されている。このように、RAF成長はa面成長を繰り返すことにより完全に転位を基底面に閉じ込め、外部に掃き出す成長技術である。」との記載によれば、c面OFF成長における傾きが4°であるものであることが理解できる。 さらに、同(オ)の「RAF成長を7回繰り返すことによりEPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下まで低減することが出来た。デバイスに大きく悪影響を及ぼすと考えられる貫通らせん転位は1.3個/cm2まで低減することができた。」との記載によれば、Φ1インチ全域での平均貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2であることに加え、EPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下である結晶が記載されていることが理解できる。また、c面方向に成長している結晶がΦ1インチとされ、Φが直径を表すことを考慮すると、結晶の形状は円柱形状であることが理解できる。 以上を踏まえると、甲8には、SiC単結晶に関する以下の発明(以下、甲8結晶発明という。)が記載されているといえる。 「a面成長を7回繰り返し後c面成長して作成したΦ1インチのSiC単結晶であって、結晶の(0001面)トポ像により求められたΦ1インチ全域での平均貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2、EPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下であり、c面OFF成長における傾きが4°である、円柱形状であるSiC単結晶。」 さらに、上記同(カ)の記載によれば、結晶は切り出されてウエハとされるものであると共に、上記同(カ)図2−31の記載によれば、ウエハは結晶の成長方向に垂直な断面で切り出されることが理解できるから、甲8には、ウエハに関する以下の発明(以下、甲8ウエハ発明という。)も記載されているといえる。 「a面成長を7回繰り返し後c面成長して作成したΦ1インチのSiC単結晶であって、結晶の(0001面)トポ像により求められたΦ1インチ全域での平均貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2、EPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下であり、c面OFF成長における傾きが4°である、円柱形状であるSiC単結晶を、結晶の成長方向に垂直な断面で切り出したウエハ。」 (3)申立理由1及び取消理由1について 申立理由1と取消理由1は、共に甲8を主引用例とする理由であるので、まとめて判断する。 ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲8ウエハ発明を対比する。 甲8ウエハ発明の「SiC単結晶」、「Φ」及び「(0001面)」は、それぞれ、本件発明1の「炭化ケイ素単結晶」、「直径」及び「(0001)面」に相当する。 そして、甲8ウエハ発明の「円柱形状であるSiC単結晶を、結晶の成長方向に垂直な断面で切り出したウエハ」は、「炭化ケイ素単結晶ウェハ」に相当すると共に、円板状であることは明らかであるから、本件発明1の「円板状の炭化ケイ素単結晶ウェハ」にも相当する。 また、甲8ウエハ発明のウエハは、Φ1インチ(直径25.4mm)の円柱形状であるSiC単結晶を、結晶の成長方向に垂直な断面で切り出したものであるから、本件発明1の「ウェハの直径が、15mm以上であ」るとの条件を満たすものである。 さらに、甲8ウエハ発明のウエハは、「c面OFF成長における傾きが4°である、円柱形状であるSiC単結晶を、結晶の成長方向に垂直な断面で切り出したウエハ」であり、このウエハは、SiC単結晶のc面(0001面)に対し結晶の成長方向に垂直な断面(ウエハの平面方向)は4°の傾きを有しているものであるといえるから、本件発明1の「ウェハの平面が、炭化ケイ素単結晶の(0001)面から±5度以下にあ」るとの条件を満たすものである。 そうすると、本件発明1と甲8ウエハ発明は、「円板状の炭化ケイ素単結晶ウェハであって、前記ウェハの直径が、15mm以上であり、前記ウェハの平面が、炭化ケイ素単結晶の(0001)面から±5度以下にある、炭化ケイ素単結晶ウェハ。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> ウェハ中の貫通転移密度について、本件発明1では、少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が10個/cm2未満であり、当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であるのに対し、甲8ウエハ発明では、結晶の(0001面)トポ像により求められたΦ1インチ全域での平均貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2、EPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下であるものの、少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域における、結晶の成長方向に垂直な断面で切り出したウエハにおける貫通転位密度が明らかでない点。 (イ)上記相違点1に対する判断 a 本件明細書の【0009】の「貫通刃状転位と基底面転位の存在を示すエッチピット」との記載によれば、甲8ウエハ発明における「EPD」のエッチピットには、少なくとも「貫通刃状転位」と「基底面転位」を含むものであるといえる。また、同【0040】の「貫通らせん転位(TSD)と貫通刃状転位(TED)を合わせた貫通転位の密度が100個/cm2未満である」との記載によれば、本件発明1における貫通転位の密度とは、「貫通らせん転位(TSD)」と「貫通刃状転位(TED)」の密度を合わせたものであるといえる。 ここで、甲8ウエハ発明において、貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2であり、貫通刃状転位密度を含むといえるEPDが20個/cm2以下であるとしても、貫通刃状転位の密度が不明であるから、貫通らせん転移の密度と貫通刃状転位の密度を合わせた貫通転位密度が10個/cm2未満となるか不明である。 そうすると、上記相違点1は、実質的な相違点である。 b 次に、貫通らせん転移の密度と貫通刃状転位の密度を合わせた貫通転位密度を10個/cm2未満とすることが当業者に容易になし得るか否かについて検討する。まず、甲8には、刃状転位に関する記載はあるものの(上記(1)ク(オ))、貫通刃状転位に関する記載はなく、特に貫通刃状転位に着目してこれを低減することをうかがわせる記載は見当たらない。ここで、甲8発明では、EPDは20個/cm2以下であるから、これをさらに低減して、結果として、貫通らせん転移の密度と貫通刃状転位の密度を合わせた貫通転位密度を10個/cm2未満とすることができるか否かであるが、甲8の上記(1)ク(オ)の「7回RAF結晶像では、視野3mm×3mm中に丸印で囲んだ部分に1つ貫通らせんが観測される程度まで高品質な結果を得ることが出来た。Φ1インチ全域での平均の貫通らせん転位の密度は3回RAF結晶が72個/cm2、7回RAF結晶は1.3個/cm2であった。・・・RAF法のa面成長の繰り返し回数を増やす効果を図2-25に示す。RAF成長を7回繰り返すことによりEPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下まで低減することが出来た。デバイスに大きく悪影響を及ぼすと考えられる貫通らせん転位は1.3個/cm2まで低減することができた。」との記載によれば、「EPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下まで低減することが出来た」としつつ、むしろデバイスに大きく悪影響を及ぼすとする貫通らせん転位密度に着目し、これを「1.3個/cm2まで低減することができた」とし、高品質な結晶を得ることができたとの認識を示しているといえることから、甲8からは、特にこれ以上のEPDの低減の必要性を読み取ることはできない。むしろ、上記同(ウ)の「品質が向上すればするほど、完全結晶に近づくほど、従来では問題とならなかった僅かな温度不均一に由来する新たな欠陥の発生、あるいは僅かな歪みの不均一から貫通型の欠陥に再変換されて結晶内に残存してしまう様な課題も見えてきた。」との記載によれば、RAF成長を7回繰り返すことでも相当の手間を必要としているところ、さらに単純にRAF成長の繰り返し数を増やしたとしても、それに見合うEPDの減少を図ることができるのか明らかでないないから、甲8ウエア発明には、EPDを、このEPDに含まれる貫通らせん転移の密度と貫通刃状転位の密度を合わせた貫通転位密度が、10個/cm2未満となるまで低減しようとする動機付けがあるとはいえない。 さらに、甲1〜6にも、貫通転位密度を10個/cm2未満にする記載はないから、甲1〜6を考慮したとしても、上記相違点1は、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲8ウエハ発明ではないし、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲8ウエハ発明及び甲1〜6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (エ)令和4年5月10日提出の意見書における異議申立人の主張に対する当審の判断 異議申立人は、上記意見書で以下の主張をしている。 甲第8号証の第33頁〜34頁には、RAF法により得られる成長結晶面において、そのEPD(全てのエッチピットの密度)が20個/cm2以下であること、RAF法の回数によって微細欠陥密度(上記EPD)が指数関数的に低減できていること(図2−25の白丸(○)、第110頁には「<成果1> 原理的には転位密度をゼロにすることが可能なRAF法を考案した」こと、が記載されている。 以上の記載から、甲第8号証には、貫通転位を含む全てのエッチピットの密度をゼロにし得ることが記載または示唆されており、訂正請求発明1は甲8結晶発明と相違がない(4頁14行〜5頁5行)。 しかしながら、仮に、甲8に記載されるRAF法が、原理的には転位密度をゼロにすることが可能であるとしても、実際には、上記(イ)bで述べたように、甲8の上記(1)ク(ウ)には、「品質が向上すればするほど、完全結晶に近づくほど、従来では問題とならなかった僅かな温度不均一に由来する新たな欠陥の発生、あるいは僅かな歪みの不均一から貫通型の欠陥に再変換されて結晶内に残存してしまう様な課題も見えてきた。」との記載があり、単純にRAF成長を繰り返したとしても、それに見合う欠陥の減少を図ることができるのか明らかでないから、甲8には、貫通転位を含む全てのエッチピットの密度をゼロにし得ることが記載または示唆されているとはいえない。 そうすると、異議申立人の上記の主張を採用することはできない。 イ 本件発明2について (ア)対比 上記ア(ア)で述べた本件発明1と甲8ウエハ発明の構成間の対応関係も考慮すると、本件発明2と甲8ウエハ発明は、「円板状の炭化ケイ素単結晶ウェハであって、前記ウェハの直径が、15mm以上であり、前記ウェハの平面が、炭化ケイ素単結晶の(0001)面から±5度以下にある、炭化ケイ素単結晶ウェハ。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点2> ウェハ中の貫通転移密度について、本件発明2では、少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であるのに対し、甲8ウエハ発明では、結晶の(0001面)トポ像により求められたΦ1インチ全域での平均貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2、EPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下であるものの、少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域における、結晶の成長方向に垂直な断面で切り出したウエハにおける貫通転位密度、及びその外側の領域における貫通転位密度が明らかでない点。 (イ)上記相違点2に対する判断 上記相違点2に係る事項は、ウエハ中央の円形の領域内に対し、100個/cm2を境にその外側の領域で貫通転位密度を高くするということであるが、甲8には、ウエハ内の領域において、貫通らせん転移の密度やEPDが異なる領域が存在することに関する何らの記載もないし、ウエハ全域の貫通らせん転移密度やEPDを低減するとの要請はあるとしても、ウエハ内に他の領域に比べ、貫通らせん転移密度やEPDが高い領域が存在させることが普通であるとはいえないから、甲8ウエハ発明には、上記相違点2に関し、ウエハ中央の円形の領域内に対し、100個/cm2を境にその外側の領域で貫通転位密度を高くする動機付けがあるとはいえない。 そして、甲8ウエハ発明には、ウエハ中央の円形の領域内に対し、100個/cm2を境にその外側の領域で貫通転位密度を高くする動機付けがないのであるから、他の証拠の記載事項にかかわらず、上記相違点2に係る本件発明2の構成は、当業者が容易に想到し得るものではないが、念のため他の証拠についても検討すると、甲4には、甲4の上記(1)エ(ウ)に「特許文献3には、種結晶を用いた昇華再結晶法において、SiC単結晶を成長させ、これから種結晶を切り出して再度結晶成長を行い、これを何度か繰り返して、成長結晶の形状を成長方向に対して凸状となるようにすることで、モザイク性の小さなSiC単結晶ウェハを得る技術が報告されている。この技術は、転位の集合体である小傾角粒界が成長表面に垂直に伝播する性質を利用するものであり、成長結晶を成長方向に対して凸状となるようにすることで、転位の集合体である小傾角粒界を成長結晶の周辺部に移動させて、中央部に小傾角粒界密度の低い、すなわち転位密度の低い領域を形成するようにしたものである。」との記載があるが、甲8ウエハ発明に係るウエハの製造方法は、甲8の上記(1)ク(ア)及び(イ)に記載されるRAF法によるものであり、甲4に記載されるように、SiC単結晶を成長させ、これから種結晶を切り出して再度結晶成長を行い、これを何度か繰り返して、成長結晶の形状を成長方向に対して凸状となるようにすることで、モザイク性の小さなSiC単結晶ウェハを得るものではないから、単に、甲4に記載される「転位の集合体である小傾角粒界を成長結晶の周辺部に移動させて、中央部に小傾角粒界密度の低い、すなわち転位密度の低い領域を形成する」ことだけを、甲8ウエハ発明に適用することができるとはいえない。 さらに、他の甲1〜3、5、6には、上記相違点2に係る本件発明2の構成に関する記載はないから、甲1〜6を考慮したとしても、上記相違点2に係る本件発明2の構成は、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点2に係る本件発明2の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明2は、甲8ウエハ発明及び甲1〜6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明3について (ア)対比 本件発明3と甲8結晶発明を対比する。 甲8結晶発明の「SiC単結晶」、「Φ」及び「(0001面)」は、それぞれ、本件発明3の「炭化ケイ素単結晶」、「直径」及び「(000−1)面」に相当する。 そして、甲8結晶発明の「円筒形状であるSiC単結晶」は、本件発明3の「略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴット」に相当する。 また、甲8結晶発明の単結晶は、結晶の成長方向に沿って形成された「Φ1インチ(直径25.4mm)の円柱形状」であるから、本件発明3の「インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上である」との条件を満たすものである。 さらに、甲8結晶発明の単結晶は、「c面OFF成長における傾きが4°である」ものであり、この単結晶は、SiC単結晶のc面(0001面)に対し結晶の成長方向に垂直な断面(結晶成長面)が4°の傾きを有しているものであるといえるから、本件発明3の「結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し」との条件を満たすものである。 そうすると、本件発明3と甲8結晶発明は、「略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上である、炭化ケイ素単結晶インゴット。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点3> 結晶成長方向に対して垂直な平面内の貫通転移密度について、本件発明3では、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が10個/cm2未満であり、当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であるのに対し、甲8結晶発明では、結晶の(0001面)トポ像により求められたΦ1インチ全域での平均貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2、EPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下であるものの、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域における、結晶成長方向に対して垂直な平面内における貫通転位密度が明らかでない点。 (イ)上記相違点3に対する判断 上記相違点3に係る「結晶成長方向に対して垂直な平面」とは、甲8ウエハ発明において、ウエハが切り出される面と同じであり、上記ア(イ)で述べたように、本件発明1の「少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が10個/cm2未満である」ことが、甲8には記載されていないし、甲8ウエハ発明及び甲1〜6に記載の事項から、当業者が容易に想到し得るものではない以上、上記相違点3に係る「少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が10個/cm2未満である」ことも、同様に、甲8には記載されていないし、甲8結晶発明及び甲1〜6に記載の事項から、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点3は、実質的な相違点であるから、本件発明3は、甲8結晶発明ではないし、上記相違点3に係る本件発明3の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明3は、甲8結晶発明及び甲1〜6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 本件発明4について 本件発明4は、少なくとも本件発明3の構成をすべて具備するものであるから、本件発明3と同様に、本件発明4は、甲8結晶発明ではないし、甲8結晶発明及び甲1〜6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 オ 本件発明5について (ア)対比 上記ウ(ア)で述べた本件発明3と甲8結晶発明の構成間の対応関係も考慮すると、本件発明5と甲8結晶発明は、「略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上である、炭化ケイ素単結晶インゴット。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点4> 結晶成長方向に対して垂直な平面内の貫通転移密度について、本件発明5では、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、かつ、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であるのに対し、甲8結晶発明では、結晶の(0001面)トポ像により求められたΦ1インチ全域での平均貫通らせん転移の密度が1.3個/cm2、EPD(全てのエッチピットの密度)は20個/cm2以下であるものの、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域における、結晶成長方向に対して垂直な平面内における貫通転位密度、及びその外側の領域における貫通転位密度が明らかでない点。 (イ)上記相違点4に対する判断 上記相違点4に係る「結晶成長方向に対して垂直な平面」とは、甲8ウエハ発明において、ウエハが切り出される面と同じであり、上記イ(イ)で述べたように、本件発明2の「少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であ」ることが、甲8ウエハ発明及び甲1〜6に記載の事項から、当業者が容易に想到し得るものではない以上、上記相違点4に係る「少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、かつ、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であ」ることも、同様に、甲8結晶発明及び甲1〜6に記載の事項から、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点4に係る本件発明5の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明5は、甲8結晶発明及び甲1〜6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 カ 本件発明14について 本件発明14は、本件発明5に、さらに、「結晶成長方向の長さが10mm以上である」との限定が付加された発明であるから、本件発明5と同様に、本件発明14は、甲8結晶発明及び甲1〜6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 キ 申立理由1及び取消理由1に関するまとめ 以上のとおり、本件特許1〜5、14は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由1及び取消理由1には、理由がない。 (4)申立理由2及び取消理由2について 申立理由2と取消理由2は、共に甲1を主引用例とする理由であるので、まとめて判断する。 また、事案にかんがみ、まず、製造方法に係る発明である本件発明6〜13について判断し、その後、物の発明である本件発明1、3、4について判断を行う。 ア 本件発明6について (ア)対比 本件発明6と甲1発明を対比する。 甲1発明の「4H−SiC種結晶」、「種結晶の成長表面」及び「炭化ケイ素の結晶の製造方法」は、それぞれ、本件発明6の「炭化ケイ素の種結晶」、「種結晶の成長面」及び「炭化ケイ素単結晶の製造方法」に相当する。 そして、甲1発明の「C面(1度オフ基板)」とは、上記(1)ア(キ)の【図2】によれば、種結晶の成長表面が、(0001)面(C面)から1度傾いたオフ角を有しているということであり、この(0001)面は、(000−1)面と同じであるから、甲1発明の「4H−SiC種結晶C面(1度オフ基板)」は、本件発明1の「種結晶の結晶成長面は(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し」との条件を満たすものである。 また、甲1発明における「黒鉛るつぼ内の1900℃のSi−40at.%Cr溶媒」は、上記同(ア)の【請求項1】の「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に接触させながら回転させる炭化ケイ素の結晶の製造方法において」等の記載によれば、「ケイ素及び炭素を含む原料溶液」であることが理解でき、甲1発明における炭化ケイ素の結晶の製造は、上記同(カ)の【図1】に記載される装置により行われるものであり、SiC種結晶を、Si−40at.%Cr溶媒中に上方より接触させながら結晶を成長させているといえるから、甲1発明の「黒鉛るつぼ内の1900℃のSi−40at.%Cr溶媒中に直径1インチの4H−SiC種結晶C面(1度オフ基板)を浸漬し」「3時間成長させ」は、本件発明6の「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させ」に相当する。 そうすると、本件発明6と甲1発明は、「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法において、前記種結晶の結晶成長面は(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有している、炭化ケイ素単結晶の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点5> 結晶成長中の原料溶液の溶液流れについて、本件発明6では、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成し、前記上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であるのに対し、甲1発明では、種結晶の成長表面より0.2mm下に生じる原料溶液の流れとして、回転中心を中心に外側に向かう流れができているものの、種結晶の中心部に接触する上昇流であって、前記上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であるのか明らかでない点。 (イ)上記相違点5に対する判断 a 甲1発明における炭化ケイ素の結晶の製造方法は、甲1の上記(1)ア(カ)に記載される結晶成長装置で行われるものであるが、甲1発明で特定されているように、種結晶の成長表面より0.2mm下に生じる原料溶液の流れとして、回転中心を中心に外側に向かう流れができるには、その原料溶液の流れの起点である回転中心に対して原料溶液が供給されなければならないこと、そして、その原料溶液の供給は、回転中心に対し上向きの流れであることは、当業者にとって明らかな事項であるから、甲1発明において、種結晶(4H−SiC種結晶)の中心部(回転中心)に接触する上昇流が存在していることは、明らかである。 しかしながら、甲1には、その上昇流の速度が、成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることは記載されていないから、上記相違点5は、実質的な相違点である。 b 次に、上記相違点5に係る本件発明6の構成が当業者が容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。 上記(2)アで述べたように、甲1発明は、甲1の請求項1に係る発明の対する比較例1(甲1の上記(1)ア(エ)の【0042】)に基づくものであるから、甲1発明にさらに何らかの改良を加えようとする動機付けは生じない。 さらに、甲1に記載される技術的事項について以下検討する。 SiC単結晶のオフ基板上への結晶成長では成長界面の形状不安定が生じ、結晶成長の進行に伴い部分的にトレンチと呼ばれる窪みが発生するため、オフ基板上への結晶育成ではオン基板(オフ角を有しない種結晶基板)上への結晶育成と比べて表面荒れが生じやすいという問題があったところ(上記(1)ア(イ)の【0009】)、前記技術的事項は、オフ基板上への結晶成長において表面荒れが抑制可能な炭化ケイ素の結晶成長方法を提供することを課題とし(同(イ)の【0010】)、この課題を、オフ基板のステップフロー方向に対する溶媒の流れの方向を対向流となるようにすることにより、オフ基板上への結晶育成におけるトレンチ形成の抑制し、解決している(同(イ)の【0011】)。 これによれば、上記技術的事項は、オフ基板のステップフロー方向に対する溶媒の流れの方向、すなわち、オフ基板の表面に対して平行な方向の溶媒の流れに着目するものであり、結果的に、オフ基板に対して上向きの流れが生じるとしても、この流れに何ら着目するものではないから、甲1の技術的事項を考慮したとしても、甲1には、オフ基板に対する上昇流の速度を、成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下とする動機付けはない。 c 上述のように、甲1発明は、比較例に基づくものであり、甲1発明にさらに何らかの改良を加えようとする動機付けが生じるものではないから、他の証拠の記載事項にかかわらず、上記相違点5に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到し得ないものであるが、念のため他の証拠についても検討する。 甲2に記載される技術的事項は、以下のとおりである。 従来、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速が低く、溶質の供給が不十分となり、得られる結晶成長速度が未だ十分ではなかった(上記(1)イ(イ)の【0007】)のに対し、上記技術的事項は、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を得ることができるものである(同(イ)の【0010】)。そして、具体的な実施例における、種結晶基板の成長面の中央部から1.5mm鉛直方向下の位置における鉛直上方向に向かうSi−C溶液の流速である、Si−C溶液の上昇流速のシミュレーション結果(上記(1)イ(オ)の【0064】)として、Si−C溶液の上昇流速が、本件発明6の「0.5cm/s以上、5cm/s以下」の範囲内の例(実施例1等)が記載されている(同(カ)の【表1】)。 ここで、上記技術的事項は、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速が低く、溶質の供給が不十分となり、得られる結晶成長速度が未だ十分ではなかった(【0007】)のに対し、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を得るものであるから、結晶成長面全面に向かうSi−C溶液の上昇流を生じているものであるといえる。 一方、甲1に記載される技術的事項は、結晶成長面に対して平行な原料溶液の流れを生じさせるものであるから、結晶成長面全面に原料溶液の上昇流が発生しているのか明らかでなく、甲1に記載される原料溶液の流れ方と甲2に記載されるSi−C溶液の流れ方が同じであるとはいえない。そうすると、甲2に記載されるSi−C溶液の上昇流の速度を、単純に甲1発明に適応できるとはいえない。 さらに、甲4、7、8には、上記相違点5に係る本件発明6の構成に関係する事項は、記載されていないから、甲2、4、7、8を考慮したとしても、上記相違点5に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点5は、実質的な相違点であるから、本件発明6は、甲1発明ではないし、上記相違点5に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明6は、甲1発明及び甲2、4、7、8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明7〜13について 本件発明7〜13は、少なくとも本件発明6の構成をすべて具備するものであるから、本件発明6と同様に、本件発明9、10、13は、甲1発明ではないし、本件発明7〜13は、甲1発明及び甲2、4、7、8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明1、3、4について 甲1には、本件発明1、3、4で特定される貫通転位密度に関する何らの記載もないから、少なくとも、この点は、本件発明1、3、4との相違点になるものであるところ、この相違点を実質的なものではないとするのに、申立理由2は、特許異議申立書19頁26行〜20頁3行に記載される「上述したように、請求項6に係る発明(炭化ケイ素単結晶の製造方法)は、新規性を有しない蓋然性が高く、公知の製造方法と考えられる。したがって、公知の製造方法で製造された製造物も公知であると言うことができる結果、請求項6に係る製造方法で製造された製造物である炭化ケイ素単結晶ウェハも公知であり、請求項1に係る発明は新規性を有しないものである。」とされる理由を前提としている。すなわち、本件発明6が、甲1発明であるのであれば、本件発明1、3、4は、それぞれ甲1発明で製造された製造物であるということであるが、本件発明6が、甲1発明ではないことは、上記ア(イ)で述べたとおりであるから、本件発明1、3、4は、甲1発明により製造された製造物ではない。 また、甲1発明は、貫通転位密度に何ら着目するものではないから、甲2、4、7、8の記載事項を考慮したとしても、本件発明1、3、4との間の貫通転位密度に関する相違点を容易に想到し得るとはいえない。 そうすると、本件発明1、3、4は、甲1発明ではないし、甲1発明及び甲2、4、7、8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 申立理由2及び取消理由2に関するまとめ 以上のとおり、本件特許1、3、4、6〜13は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由2及び取消理由2には、理由がない。 (5)申立理由3及び取消理由3について 申立理由3と取消理由3は、共に甲3を主引用例とする理由であるので、まとめて判断する。 また、事案にかんがみ、まず、製造方法に係る発明である本件発明6〜13について判断し、その後、物の発明である本件発明1、3、4について判断を行う。 ア 本件発明6について (ア)対比 本件発明6と甲3発明を対比する。 甲3発明の「流体」、「SiCシード結晶」、「(0001)」、「オフカット」、「対称軸」及び「4H−SiC結晶の製造方法」は、それぞれ、本件発明6の「原料溶液」、「炭化ケイ素の種結晶」、「(000−1)」、「オフ角」、「(種結晶の)中心部」及び「炭化ケイ素単結晶の製造方法」に相当する。 そして、甲3発明では、「[11−20]の方向に4゜のオフカットをつけた炭素面の4H−SiC(0001)ウェハであるSiCシード結晶を取り付」けているところ、SiCシード結晶から結晶が成長することから、「[11−20]の方向に4゜のオフカットをつけた炭素面」が本件発明6の「結晶成長面」に相当することは明らかであり、さらに、この「炭素面」が、(0001)面に対して4°傾いたオフ角を有するものであることも明らかであるから、甲3発明は、本件発明6の「種結晶の結晶成長面は(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し」との条件を満たすものである。 また、甲3発明の「純粋な液体シリコンを溶媒として使用し、容器としても炭素源としても機能する高密度の黒鉛製るつぼ」において、「炭素源としても機能する高密度の黒鉛製るつぼ」とは、成長するSiC結晶の炭素が黒鉛製るつぼから供給されるということであるから、黒鉛製るつぼ内の流体は、SiとCを含有しているといえ、甲3発明における「黒鉛製るつぼ」内の流体は、「ケイ素及び炭素を含む原料溶液」であることが理解できる。 さらに、上記(1)ウ(ウ)の記載によれば、甲3発明では、結晶の成長をチョクラルスキー法引き上げ装置を用いて行っていること、上記同(エ)の図1によれば、黒鉛製るつぼ内の流体の上方にseed(SiCシード結晶)が位置していることが読み取れることから、甲3発明は、黒鉛棒に取り付けられたSiCシード結晶は、黒鉛製るつぼ内の流体に上方から接し、SiC種結晶に結晶が成長しているものであるといえ、本件発明6の「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる」に相当する構成を有しているといえる。 また、甲3発明の「るつぼの底部からシードに向かって、対称軸を中心とした流体の直接的な流れが生じている」とは、本件発明6の「(結晶成長中の)原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成している」に相当する。 そうすると、本件発明6と甲3発明は、「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法において、前記種結晶の結晶成長面は(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成している、炭化ケイ素単結晶の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点6> 種結晶の中心部に接触する上昇流の速度について、本件発明6では、成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であるのに対し、甲3発明では、上昇流の速度が明らかでない点。 (イ)上記相違点6に対する判断 甲3には、上昇流の速度が、成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることは記載されていないから、上記相違点6は、実質的な相違点である。 次に、上記相違点6に係る本件発明6の構成が当業者が容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。 甲3の上記(1)ウ(イ)の甲3における記載内容の要約である「トップシード溶液成長法において、成長中の4H−SiC結晶表面付近の流体の流れの挙動を、数値および分析モデリングを用いて調査した。まず、回転円盤の前を流れる流体の方位角成分および半径成分を計算した。次に、4H−SiCの結晶学を考慮し、位相パラメータを導入して、(結晶表面近傍の)ステップフローと流体成分との間の相互作用を示す分析モデルを開発した。両モデルの相関関係から、マクロステップが形成される条件と不安定になる条件を定性的に記述することができた。この現象論的な記述は、本稿でも紹介される対応する実験的な観察結果ともよく一致している。」との記載によれば、甲3発明においては、成長中の4H−SiC結晶表面付近の流体の流れについては、その挙動の数値および分析モデリングを用いた調査にとどまり、何ら、種結晶の中心部に接触する上昇流の速度に着目するものではないから、甲3発明には、種結晶の中心部に接触する上昇流の速度を、成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下とする動機付けはない。 そして、甲3発明は、上述のように、何ら、種結晶の中心部に接触する上昇流の速度に着目するものではないから、他の証拠の記載にかかわらず、上記相違点6に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到し得ないものであるが、念のため他の証拠についても検討する。 甲2には、上記(4)ア(イ)cで述べたように、Si−C溶液の上昇流速のシミュレーション結果として、Si−C溶液の上昇流速が、本件発明6の「0.5cm/s以上、5cm/s以下」の範囲内の例(実施例1等)が記載されている。しかしながら、甲3発明は、甲2に記載される技術的事項のように、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速が低く、溶質の供給が不十分となり、得られる結晶成長速度が未だ十分ではなかったという問題に着目するものではないから、甲2に記載されるSi−C溶液の上昇流速を甲3発明に適用することができるとはいえない。 さらに、甲1、4〜6、8には、上記相違点6に係る本件発明6の構成に関係する事項は、記載されていない。 そうすると、甲1、2、4〜6、8を考慮したとしても、上記相違点6に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点6は、実質的な相違点であるから、本件発明6は、甲3発明ではないし、上記相違点6に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明6は、甲3発明及び甲1、2、4〜6、8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明7〜13について 本件発明7〜13は、少なくとも本件発明6の構成をすべて具備するものであるから、本件発明6と同様に、本件発明13は、甲3発明ではないし、本件発明7〜13は、甲3発明及び甲1、2、4〜6、8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明1、3、4について 甲3には、本件発明1、3、4で特定される貫通転位密度に関する何らの記載もないから、少なくとも、この点は、本件発明1、3、4との相違点になるものであるところ、上記(4)ウで述べたのと同様に、この相違点を実質的なものではないとするのに、申立理由3は、本件発明6が、甲3発明であるのであれば、本件発明1、3、4は、それぞれ甲3発明で製造された製造物であることを前提としているが、本件発明6が、甲3発明ではないことは、上記ア(イ)で述べたとおりであるから、本件発明1、3、4は、甲3発明により製造された製造物ではない。 また、甲3発明は、貫通転位密度に何ら着目するものではないから、甲1、2、4〜6、8の記載事項を考慮したとしても、本件発明1、3、4との間の貫通転位密度に関する相違点を容易に想到し得るとはいえない。 そうすると、本件発明1、3、4は、甲3発明ではないし、甲3発明及び甲1、2、4〜6、8に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 申立理由3及び取消理由3に関するまとめ 以上のとおり、本件特許1、3、4、6〜13は、特許法第29条第1項及び同条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由3及び取消理由3には、理由がない。 (6)申立理由4について ア 本件発明6について (ア)対比 本件発明6と甲2発明を対比する。 甲2発明の「Si−C単結晶」、「Si−C溶液」、(Si−C単結晶の製造方法に用いる)「種結晶基板」及び「結晶成長面の中央部」は、それぞれ、本件発明6の「炭化ケイ素単結晶」、「ケイ素及び炭素を含む原料溶液」、「炭化ケイ素の種結晶」及び「種結晶の中心部」に相当する。 そして、甲2発明において、「結晶成長面の中央部に向かうSi−C溶液の上昇流速を大きくすることができる」とは、結晶成長面の中央部に向かうSi−C溶液の上昇流が形成されていることが前提となるから、甲2発明は、本件発明6の「結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成している」に相当する構成を有している。また、結晶成長面の中央部に向かうSi−C溶液の上昇流が形成されているということは、Si−C溶液に対し種結晶基板が上方から接触されているということであるから、甲2発明は、本件発明6の「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる」に相当する構成を有しているといえる。 そうすると、本件発明6と甲2発明は、「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法において、結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成している、炭化ケイ素単結晶の製造方法。」の点で一致し、以下の点で相違している。 <相違点7> 種結晶の結晶成長面について、本件発明6では、(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有しているのに対し、甲2発明では、その点が明らかでない点。 <相違点8> 種結晶の中心部に接触する上昇流の速度について、本件発明6では、成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であるのに対し、甲2発明では、上昇流の速度が明らかでない点。 (イ)相違点に関する判断 上記相違点7について検討する。 まず、本件発明6で、種結晶の結晶成長面が(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有していることの技術的意義を検討すると、本件明細書の【0016】の「本発明者らは、液相成長法で、(000−1)面に対して所定のオフ角を有するオフ基板を使用して結晶成長させる際に、溶液が結晶成長面に対して上昇流となるようにすると、結晶成長時に欠陥が減少し、従来になく高品質の単結晶が得られることを見出した。このような効果は、オフ角がないオン基板や、オフ角が8度の基板では確認されず、オフ角が0.5〜5度の間にあり、結晶成長面に上昇流が接触する場合に欠陥が減少する現象が見られた。」との記載や、同【0047】〜【0063】に記載される実施例、比較例において、オフ角が0度である基板やオフ角が8度である基板で成長界面に対して上昇流が形成される条件とした比較例1−3、比較例1−7等で、中央部転位密度が100個/cm2以上(×)であるのに対し、オフ角が1度である基板やオフ角が4度である基板で成長界面に対して上昇流が形成されるような条件とした実施例1−1、実施例1−3等で、中央部転位密度が10個/cm2未満(◎)であることからすると、本件発明6における(000−1)面からのオフ角の0.5度以上5度以下という範囲には、中央部における転位密度を低減する上で、重要な技術的意義かあることが理解できる。 一方、上記(4)ア(イ)で述べたように、甲2発明は、従来、溶液法において、結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速が低く、溶質の供給が不十分となり、得られる結晶成長速度が未だ十分ではなかったのに対し、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を得ようとするものであるから、種結晶の結晶成長面の(000−1)面からのオフ角に何ら着目するものではない。実際、甲2の上記(1)イ(エ)の【0046】に種結晶基板の成長面について「種結晶基板として、例えば、成長面がフラットであり(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面を有するSiC単結晶、(0001)ジャスト面または(000−1)ジャスト面から0°よりも大きく例えば8°以下のオフセット角度を有するSiC単結晶、または成長面が凹形状を有し凹形状の成長面の中央部付近の一部に(0001)面または(000−1)面を有するSiC単結晶を用いることができる。」と記載されるように、甲2発明においては、面については(0001)面でも(000−1)面でも良く、オフ角については、無くても良いし、8°以下の範囲であっても良いといった程度のものであり、本件発明6における上記技術的意義におけるように、貫通転位密度との関係で(000−1)面のオフ角度に着目することをしていないから、甲2発明には、(000−1)面からのオフ角を0.5度以上5度以下の範囲とする動機付けはない。 ここで、甲4の上記(1)エ(イ)の[0007]には、高性能SiCデバイスの作製のために、BPD(基底面転位)、及びTSD(貫通螺旋転位)の少ないSiC単結晶が求められていることが記載され、甲5の上記(1)オ(イ)には、「例えば、Kimotoらは、高品質のSiCエピタキシャル薄膜を得るには、(0001)面を有するSiC基板に特定のオフ角度を付ける必要のあること示している」ことが記載され、甲6の上記(1)カ(ア)には、「オフ角度1°で2インチ基板の成長を行う場合、1mmの成長を行えば、すべての欠陥が結晶外部に排出されることになる。」ことが記載されていることから、溶液法において、貫通転位を減少させるためにSiC基板に特定のオフ角度を付けることは公知であるといえるが、上述のように、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を得ることを主眼とし、特に、貫通転位を減少することを意図しているとはいえない甲2発明に、上記公知の事項を適用することができるとはいえないし、また、結晶成長面に向かうSi−C溶液の、従来よりも大きな上昇流速を生じている甲2発明において、仮に、SiC単結晶に特定のオフ角度を付けたとしても、貫通転位密度を、本件発明6の上記技術的意義で述べた程度まで減少させることができるのかも明らかでない。 そうすると、甲4〜6を考慮したとしても、上記相違点7に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到し得るものではない。 (ウ)小括 以上のとおり、上記相違点7に係る本件発明6の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、上記相違点8を検討するまでもなく、本件発明6は、甲2発明及び甲4〜6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 申立理由4に関するまとめ 以上のとおり、本件特許6は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、申立理由4には、理由がない。 2 申立理由5、6及び取消理由4について (1)申立理由5について ア 具体的な指摘事項 (ア)本件発明1、3について 訂正前の請求項1に係る発明から把握される技術的思想は、直径が15mm以上のウェハにおいて、ウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域(以下、「円形領域」と呼ぶ。)における貫通転位密度が100個/cm2未満である思想である。 そして、ウェハの直径が大きくなればなるほど、「円形領域」の絶対面積が大きくなることを考慮すると、上述した技術的思想からは、ウェハの直径が大きくなればなるほど、貫通転位密度が100個/cm2未満の領域が大きくなることが導き出される。すなわち、訂正前の請求項1に係る発明には、ウェハの直径が大きくなればなるほど、貫通転位密度が100個/cm2未満の領域が大きくなる思想が含まれていることになる。 この点に関し、本件明細書には、直径15mmのみの実施例及び同じく直径15mmのみの比較例しか記載されていない。一方、上述した思想を裏付けるためには、少なくとも、直径の異なるウェハに関する実施例が必要とされることは明らかである。なぜなら、互いに直径の異なる実施例が記載されて初めて、ウェハの直径が大きくなればなるほど、貫通転位密度が100個/cm2未満の領域面積が大きくなる思想を裏付けることができるからである。言い換えれば、本件明細書には、直径15mmの実施例及び比較例しか記載されていないことから、本件明細書の記載では、上述した思想をサポートするには不十分である。 また、訂正前の請求項3に係る発明のインゴットについても同様の問題がある。 したがって、訂正前の請求項1及び3に係る発明は、サポート要件違反という瑕疵を有している(特許異議申立書20頁4〜24行、23頁7〜9行)。 (イ)本件発明6について 本件明細書の【0059】には、「実施例と比較例を対比すると、オフ角が0.5〜5度の範囲にあり、種結晶下部の流れが上昇流である場合に、中央部転位密度が良好であった。」と記載されている。 一方、本件明細書の【0060】には、「一方で、オフ角が0.5〜5度の範囲にあっても、種結晶下部の流れが下降流である場合、中央部転位密度の低減効果は見られなかった。」と記載されている。 したがって、上述した本件明細書の【0059】及び【0060】の記載を考慮すると、本件明細書の発明の詳細な説明には、「オフ角が0.5〜5度の範囲にあり、結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流のみを形成している」という構成を採用すると、中央部転位密度を低減できることが記載されているに過ぎない。 この点に関し、請求項6には、「結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成している」とだけ記載されており、種結晶の中心部に接触する上昇流のみを形成する構成を超える記載となっている。 以上のことから、訂正前の請求項6に係る発明は、発明の詳細な説明を超えて記載されたものであり、サポート要件違反という瑕疵を有している(特許異議申立書13頁19行〜14頁8行)。 イ 申立理由5に対する判断 (ア)上記ア(ア)の申立理由に対する判断 本件明細書の【0014】及び【0015】の記載によれば、従来の技術では、貫通らせん転位と貫通刃状転位を合わせて1000個/cm2を超えており、(0001)面をSi−C溶液に接触させる液相成長法で、より転位欠陥を減少させることが可能なSiC単結晶の製造技術が望まれ、更に、欠陥を減少させた上で単結晶を直径10mm以上に大型化し、安定して厚さ10mm以上に成長させることが望まれていたとの状況を受け、本件発明は、物の発明に対応する発明の課題として、「大面積かつ高品質な炭化ケイ素単結晶ウェハ及び炭化ケイ素単結晶インゴットを提供すること」を発明の課題とするものであるといえる。ここで、大面積とは、同【0014】の「欠陥を減少させた上で単結晶を直径10mm以上に大型化し」との記載によれば、「直径10mm以上」を目安とし、高品質とは、同【0015】に記載される100個/cm2以下の転位欠陥密度を目安としているといえる。 そうすると、本件発明1及び本件発明3の課題を解決しているとするには、少なくとも直径10mm以上の炭化ケイ素単結晶ウェハ及び炭化ケイ素単結晶インゴットにおいて、100個/cm2以下の転位欠陥密度が達成されていることが示されているとともに、本件出願時の技術常識からみて、ウェハの直径が、常識的に大型と考えられる範囲で同様な結果が得られることを当業者が認識できれば良く、ウェハの直径が大きくなればなるほど、貫通転位密度が100個/cm2未満の領域が大きくなる、すなわち、直径10mmを超えて相当大きいものであっても、その少なくとも1/3の領域で100個/cm2以下の転位欠陥密度が達成されていることまでを示す必要はない。 そして、本件明細書の【0047】〜【0050】に記載の実施例1等には、直径が15mmの結晶において、半径5mm(直径10mm)の領域において、貫通転位に由来するエッチピット密度が少なくとも100個/cm2未満であったことが示されている。また、大型であるとしても常識的なの範囲の大きさであれば同様な結果が得られることは、当業者が認識できる範囲内のことであるといえるし、これに反する証拠もない。 そうすると、上記ア(ア)の理由では、本件発明1、3に係る請求項1、3の記載は、サポート要件に違反しているとすることはできない。 (イ)上記ア(イ)の申立理由に対する判断 上記理由は、要するに、本件発明6は、「結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成している」とのみ特定されているところ、中央部転位密度を低減するには、「オフ角が0.5〜5度の範囲にあり、結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流のみを形成している」と特定されていなければならないというものであるところ、種結晶の中心部に接触する位置において、この位置での原料溶液の溶液流れが上昇流であれば、その流れしか存在しないことは明らかであるから、本件発明6において、「種結晶の中心部に接触する上昇流のみを形成している」とまで特定しなくても良いことは明らかである。 そうすると、上記ア(イ)の理由では、本件発明6に係る請求項6の記載は、サポート要件に違反しているとすることはできない。 (ウ)小括 上記(ア)及び(イ)によれば、本件特許は、特許請求の範囲の請求項1、3、6の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、上記申立理由5には、理由がない。 (2)申立理由6について ア 具体的な指摘事項 本件明細書の【0028】には、「上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることが好ましい。」ことが記載されている。 しかしながら、上昇流の速度が「0.5cm/s以上、5cm/s以下」という範囲は、広すぎて、この範囲に含まれるすべての速度の上昇流であれば、中央部転位密度を低減できるかは明らかでない。この点に関し、実施例に関する記載のある同【0047】には、「・・・その条件制御により所望の上昇流を調整した。」と記載されているだけであり、上昇流の速度に関する具体的条件は全く記載されておらず、例えば、同【0059】に記載されている「実施例と比較例を対比すると、オフ角が0.5〜5度の範囲にあり、種結晶下部の流れが上昇流である場合に、中央部転位密度が良好であった。」という効果を得るための具体的な上昇流の速度は、実施例において不明である。 そこで、当業者が、同【表1】および同【表2】の結果を検証することを考えると、本件明細書には、上昇流の速度を「0.5cm/s以上、5cm/s以下」にする技術的意義や、この範囲の速度を有する上昇流による中央部転位密度を低減できるメカニズムが記載されていない。そして、上昇流の速度が「0.5cm/s以上、5cm/s以下」という範囲は、広すぎて、実質的が限定になっていないことも考慮すると、当業者には、実施例における効果を再現することができるかを見出すために、当業者に期待し得る程度を超える「過度の試行錯誤」が必要とされる。 このことから、当業者は、本件明細書に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識に基づいて、訂正前の請求項6に係る発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解することができず、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない(特許異議申立書12頁13行〜13頁18行)。 イ 申立理由6に対する判断 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきものである。 ここで、本件においては、その発明とは、「炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法において、 前記種結晶の結晶成長面は(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成し、 前記上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることを特徴とする炭化ケイ素単結晶の製造方法。」である本件発明6であるところ、炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法において、前記種結晶の結晶成長面を(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有するものとすることは、従来技術の記載である本件明細書の【0009】等の記載によれば、従来でも実施されていたことであるから、オフ角の範囲が明示されている本件発明6については、当業者であれば、過度の試行錯誤なく実施できる事項であるといえる。 そうすると、本件発明6を実施できるか否かは、結晶成長中の原料溶液の溶液流れを、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成するようにし、前記上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下とすることが実施できる否かということになる。 これに対し、本件明細書の【0028】には、「原料溶液5は、るつぼ3の中央部、るつぼ3内を下から上に移動する上昇流6が形成され、種結晶9の中心部に接触している。上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることが好ましい。上昇流6の形成方法は特に限定されないが、側面のヒーター4aと底面のヒーター4bの出力を調整する方法や、るつぼ3内に流れを制御可能な突起部や板部を設ける方法、又は、外部からの高周波コイルによる電磁場により生じたローレンツ力により上昇流を形成する方法が考えられる。例えば、底面のヒーター4bの出力を高くすれば、ヒーター4bから上に向かうような対流が生じ、上昇流6が形成される。」との記載があり、側面のヒーター4aと底面のヒーター4bの出力を調整する方法等で、成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下である上昇流を形成することができることが理解できる。加熱された溶液が上昇流を形成することは技術常識であり、側面のヒーター4aと底面のヒーター4bの出力を調整する方法であれば、側面のヒーター4aに対して底面のヒーター4bの出力を大きくすれば、底面中央部を中心とした結晶成長面に向かう上昇流が形成されること、また、加熱の程度と上昇流の速度は通常相関するといえるから、側面のヒーター4aと底面のヒーター4bの出力を調整して、成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下である上昇速度を形成するようにすることは、当業者であれば本件明細書の記載に基づいて過度の試行錯誤なく実施できる事項であるといえる。 なお、本件発明6についての実施可能要件の判断においては、中央部転位密度の値と上昇流の条件との関係の厳密な記載までを求めるものではないが、念のため、同【0059】に記載されている「実施例と比較例を対比すると、オフ角が0.5〜5度の範囲にあり、種結晶下部の流れが上昇流である場合に、中央部転位密度が良好であった。」という効果を達成することも、実施可能要件を満たすか否かの判断に加えて以下検討する。この様な場合であっても、同【0016】の「本発明者らは、液相成長法で、(000−1)面に対して所定のオフ角を有するオフ基板を使用して結晶成長させる際に、溶液が結晶成長面に対して上昇流となるようにすると、結晶成長時に欠陥が減少し、従来になく高品質の単結晶が得られることを見出した。このような効果は、オフ角がないオン基板や、オフ角が8度の基板では確認されず、オフ角が0.5〜5度の間にあり、結晶成長面に上昇流が接触する場合に欠陥が減少する現象が見られた。」との記載や、同【0047】〜【0056】の記載で、所定のオフ角を設けた基板において、溶液に上昇流を発生させている実施例と、下降流を発生させている比較例との比較で、前者では少なくとも中央部転位密度が100個/cm2未満の範囲になることが示されていること(【表1】【表2】で◎又は○)を考慮すると、本件発明6において、上昇流の大きさを適宜調整することにより、少なくとも、中央部転位密度を従来より低減することができるという効果も、当業者であれば、本件明細書の記載に基づいて過度の試行錯誤なく達成できるといえる。 そうすると、本件発明6に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たし、本件特許は、本件発明6に対応する、明細書の発明の詳細な説明の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、申立理由6には理由がない。 ウ 令和4年5月10日提出の意見書における異議申立人の主張に対する当審の判断 異議申立人は、上記意見書で以下の主張をしている。 「訂正事項6は、上記の通り、上昇流について「成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下」である点を限定する訂正である。 ところが、本件特許明細書の実施例および宣誓書(乙第6号証)の記載において、この流速をどのように測定したのかについても明示されていない。 Si−C溶液を用いた溶液法によるSiC単結晶の製造では、通常、その溶液温度は、1900℃程度の高温となる。このような高温溶液の流速を測定するために、測定プローブのような測定器具を溶液中に挿入した場合には、一般的には、測定プローブが溶融してしまい測定を行うことができない。また、仮に、測定プローブが溶融しないとしても、このような測定プローブを挿入することにより溶液の流れが乱れるため、流速を正確に測定することができなくなる。 この点、特許権者は、どのようにその流速を測定し得たかを明らかにしておらず、本件特許は、どのような条件(どのように測定された流速)で実施すれば・・・よいのか全く理解できない。」(9頁9行〜10頁12行) しかしながら、仮に、1900℃程度の高温では、測定プローブのような測定器具を溶液中に挿入する測定ができないとしても、例えば甲2の上記(1)イ(オ)の【0057】に「(結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速のシミュレーション) 溶液法(Flux法)でSiC単結晶を成長させる際の結晶成長面に向かうSi−C溶液の上昇流速について、CGSim(溶液からのバルク結晶成長シミュレーションソフトウェア、STR Japan製、Ver.14.1)を用いて、シミュレーションを行った。」との記載があるように、Si−C溶液の上昇流速は、シミュレーションによっても求めることもでき、測定プローブのような測定器具を溶液中に挿入する測定でなければ求めることができないというものではない。 そうすると、本件発明6における原料溶液の上昇流の流速を測定できないということはないから、異議申立人の上記の主張は採用することができない。 (3)取消理由4について ア 具体的な指摘事項 訂正前の請求項6〜13に係る発明の課題は、本件明細書の【0014】及び【0015】の記載によれば、「転位欠陥密度を100個/cm2以下に減少させることが可能な炭化ケイ素単結晶の製造方法を提供すること」であるといえる。 この課題に対応して、同【0028】に、「原料溶液5は、るつぼ3の中央部、るつぼ3内を下から上に移動する上昇流6が形成され、種結晶9の中心部に接触している。上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることが好ましい。」と記載されている。 そして、訂正前の請求項6〜13に係る発明の具体例である同【0047】に記載される[実施例1−1]の同【0058】に記載される結果によれば、中央部転位密度が、10個/cm2未満であるとされ、種結晶厚さの条件を変えた同【0051】に記載される[実施例1−2]では、中央部転位密度が、10個/cm2以上100個/cm2未満であるとされている。しかしながら、上記実施例において、上昇流の条件が明らかにされていないため、上昇流が存在しさえすれば、中央部転位密度が、100個/cm2未満であることが実現できるのか、さらには、「上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下」の範囲であれば、中央部転位密度が、100個/cm2未満であることが実現できるのか明らかでない。 一方、訂正前の請求項6〜13に係る発明では、上昇流について「結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成している」としか特定されていないから、訂正前の請求項6〜13に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 イ 取消理由4に対する判断 まず、本件訂正により、本件発明6における原料溶液の流れについて、「前記上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下である」ことが特定された。そして、本件発明6〜13の具体例である【0047】に記載される[実施例1−1]、同【0051】に記載される[実施例1−2]等の結果を示す同【0058】の【表1】には、種結晶下部の流れについて、上昇流としか記載されていないものの、この上昇流の条件は、同【0028】に、好ましい条件として記載され、本件訂正でも特定された「成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下」の範囲にあるとするのが合理的であるし、また、令和4年3月4日に提出された意見書に乙第6号証として添付された本件発明の発明者の一人である梅崎智典の宣誓書において、上記[実施例1−1]、[実施例1−2]等の原料溶液の上昇流の条件が、「成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下」であることが釈明されていることを考慮すると、[実施例1−1]及び[実施例1−2]等の記載からも、原料溶液の上昇流の条件が、「成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下」であれば、中央部転位密度が、100個/cm2未満となることが理解できるといえる。 そうすると、本件訂正により「上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下である」と特定された本件発明6〜13は、本件明細書の記載に基づいて、「転位欠陥密度を100個/cm2以下に減少させることが可能な炭化ケイ素単結晶の製造方法を提供する」との本件発明6〜13の課題を解決できると当業者において認識できる範囲内のものとなったということができるから、本件発明6〜13に係る請求項6〜13の記載は、サポート要件を満たしている。 よって、本件特許は、特許請求の範囲の請求項6〜13の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではないから、上記取消理由4には、理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1〜14は、特許法第29条第1項及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1〜6及び上記取消理由1〜4では、本件特許1〜14を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1〜14を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 円板状の炭化ケイ素単結晶ウェハであって、 前記ウェハの直径が、15mm以上であり、 前記ウェハの平面が、炭化ケイ素単結晶の(0001)面から±5度以下にあり、 少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が10個/cm2未満であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であることを特徴とする、炭化ケイ素単結晶ウェハ。 【請求項2】 円板状の炭化ケイ素単結晶ウェハであって、 前記ウェハの直径が、15mm以上であり、 前記ウェハの平面が、炭化ケイ素単結晶の(0001)面から±5度以下にあり、 少なくとも、直径がウェハの直径の1/3であり、中心がウェハの中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、 前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であることを特徴とする、炭化ケイ素単結晶ウェハ。 【請求項3】 略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、 結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長方向に対して垂直な平面内において、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が10個/cm2未満であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、 前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であることを特徴とする、炭化ケイ素単結晶インゴット。 【請求項4】 結晶成長方向の長さが10mm以上である請求項3に記載の炭化ケイ素単結晶インゴット。 【請求項5】 略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、 結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長方向に対して垂直な平面内において、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、かつ、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、 前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であることを特徴とする炭化ケイ素単結晶インゴット。 【請求項6】 炭化ケイ素の種結晶を、ケイ素及び炭素を含む原料溶液に上方より接触させながら結晶を成長させる炭化ケイ素単結晶の製造方法において、 前記種結晶の結晶成長面は(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長中の原料溶液の溶液流れが、種結晶の中心部に接触する上昇流を形成し、 前記上昇流の速度は成長界面から1cm離れた位置で0.5cm/s以上、5cm/s以下であることを特徴とする、 炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項7】 前記種結晶の厚さが、0.3mm以上であることを特徴とする請求項6に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項8】 前記種結晶の厚さが、3mm以上であることを特徴とする請求項6に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項9】 前記種結晶が、回転中心が種結晶の中心と一致するように回転することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項10】 前記種結晶の回転方向が、周期的に反転することを特徴とする請求項9に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項11】 原料溶液の側面より底面をより強く加熱することにより、原料溶液に上昇流を形成することを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項12】 炭化ケイ素単結晶を、10mm以上成長させることを特徴とする請求項6〜11のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項13】 前記炭化ケイ素単結晶の、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であることを特徴とする請求項6〜12のいずれか1項に記載の炭化ケイ素単結晶の製造方法。 【請求項14】 略円柱状又は略多角柱状の炭化ケイ素単結晶インゴットであって、 結晶成長面が、炭化ケイ素単結晶の(000−1)面から0.5度以上5度以下傾いたオフ角を有し、 結晶成長方向に対して垂直な平面内において、少なくとも、直径がインゴット断面の直径又は最遠頂点間距離の1/3であり、中心がインゴット断面の中心と同じである円形の領域において、貫通転位密度が100個/cm2未満であり、かつ、前記の円形の領域の外側の領域において、前記貫通転位密度が100個/cm2以上であり、 当該貫通転位密度は、水酸化カリウムでエッチングを行うことで生じる前記円形の領域及び前記外側の領域内のエッチピットの数を測定することにより得られる転位密度であり、 前記インゴットの、結晶成長方向に対して垂直な平面での断面の直径又は最遠頂点間距離が、15mm以上であり、 結晶成長方向の長さが10mm以上であることを特徴とする炭化ケイ素単結晶インゴット。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-10-18 |
出願番号 | P2017-004293 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(C30B)
P 1 651・ 113- YAA (C30B) P 1 651・ 851- YAA (C30B) P 1 651・ 857- YAA (C30B) P 1 651・ 536- YAA (C30B) P 1 651・ 121- YAA (C30B) P 1 651・ 852- YAA (C30B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
宮澤 尚之 |
特許庁審判官 |
関根 崇 原 賢一 |
登録日 | 2021-03-02 |
登録番号 | 6845418 |
権利者 | セントラル硝子株式会社 |
発明の名称 | 炭化ケイ素単結晶ウェハ、インゴット及びその製造方法 |
代理人 | 速水 進治 |
代理人 | 速水 進治 |