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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1393071
総通号数 13 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2023-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-15 
確定日 2022-10-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6860740号発明「カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池。」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6860740号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−14〕について訂正することを認める。 特許第6860740号の請求項1ないし3、5ないし14に係る特許を維持する。 特許第6860740号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯

特許第6860740号の請求項1〜14に係る特許についての出願は、令和2年12月11日(優先権主張 同年4月27日 日本国)を出願日とする出願であり、令和3年3月30日にその特許権の設定登録がされ、同年4月21日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月15日に、その請求項1〜14に係る特許を対象として特許異議申立人高橋和秀(以下、「異議申立人1」という。)により、同年同月20日に、その請求項1〜14に係る特許を対象として特許異議申立人小松一枝 外1名(以下、「異議申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがなされ、令和4年2月1日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年3月8日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、同年4月13日に異議申立人1より、同年同月18日に異議申立人2より、それぞれ意見書の提出がなされ、同年6月7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年7月27日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があったものである。
なお、令和4年3月8日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「先の訂正」ということがある。)は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正事項
上記令和4年7月27日にされた訂正の請求(以下、その訂正を「本件訂正」という。)は、本件明細書及び特許請求の範囲を、それぞれ、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜14について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)」とあるのを、「前記カーボンナノチューブ分散液の、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2〜3、5〜14についても同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「積(X×Y)が100以上1,500以下である、カーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「積(X×Y)が100以上1,500以下であり、複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上である、カーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2〜3、5〜14についても同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1〜3いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項5を直接または間接的に引用する請求項6〜14についても同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1〜3、5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項6を直接または間接的に引用する請求項7〜14についても同様に訂正する。)

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1〜6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1〜3、5〜6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項7を直接または間接的に引用する請求項8〜14についても同様に訂正する。)

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1〜3、5〜7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項8を直接または間接的に引用する請求項9〜14についても同様に訂正する。)

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1〜3、5〜8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項9を直接または間接的に引用する請求項10〜14についても同様に訂正する。)

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1〜9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」とあるのを、「請求項1〜3、5〜9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。」に訂正する。
(請求項10を直接または間接的に引用する請求項11〜14についても同様に訂正する。)

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液」とあるのを、「請求項1〜3、5〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液」に訂正する。
(請求項11を直接または間接的に引用する請求項12、13についても同様に訂正する。)

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液」とあるのを、「請求項1〜3、5〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液」に訂正する。

(12)訂正事項12
明細書の【0083】に「なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。」とあるのを、「なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。以下の記載において、表3、表5、表6、表7、及び表8に示したとおり、実施例1−A18、1−A21、1−A22、1−D1〜1−D3;実施例2−A18、2−A21、2−A22、2−D1〜2−D3;実施例3−A18、3−A21、3−A22、3−D1〜3−D3;実施例4−A18、4−A21、4−A22、4−D1〜4−D3;及び実施例5−A18、5−A21、5−A22、5−D1〜5−D3はいずれも、参考例である。」に訂正する。

(13)訂正事項13
ア 訂正事項13−1
明細書の【0123】【表3】に「実施例1−A18」、「実施例1−A21」、「実施例1−A22」、「実施例1−D1」、「実施例1−D2」、及び「実施例1−D3」とあるのを、それぞれ「参考例1−A18」、「参考例1−A21」、「参考例1−A22」、「参考例1−D1」、「参考例1−D2」、及び「参考例1−D3」に訂正する。
イ 訂正事項13−2
明細書の【0131】【表5】に「実施例2−A18」、「実施例2−A21」、「実施例2−A22」、「実施例2−D1」、「実施例2−D2」、及び「実施例2−D3」とあるのを、それぞれ「参考例2−A18」、「参考例2−A21」、「参考例2−A22」、「参考例2−D1」、「参考例2−D2」、及び「参考例2−D3」に訂正する。
ウ 訂正事項13−3
明細書の【0139】【表6】に「実施例3−A18」、「実施例3−A21」、「実施例3−A22」、「実施例3−D1」、「実施例3−D2」、及び「実施例3−D3」とあるのを、それぞれ「参考例3−A18」、「参考例3−A21」、「参考例3−A22」、「参考例3−D1」、「参考例3−D2」、及び「参考例3−D3」に訂正する。
エ 訂正事項13−4
明細書の【0148】【表7】に「実施例4−A18」、「実施例4−A21」、「実施例4−A22」、「実施例4−D1」、「実施例4−D2」、及び「実施例4−D3」とあるのを、それぞれ「参考例4−A18」、「参考例4−A21」、「参考例4−A22」、「参考例4−D1」、「参考例4−D2」、及び「参考例4−D3」に訂正する。
オ 訂正事項13−5
明細書の【0149】【表8】に「実施例5−A18」、「実施例5−A21」、「実施例5−A22」、「実施例5−D1」、「実施例5−D2」、及び「実施例5−D3」とあるのを、それぞれ「参考例5−A18」、「参考例5−A21」、「参考例5−A22」、「参考例5−D1」、「参考例5−D2」、及び「参考例5−D3」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正前の請求項1の「前記カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下である」との記載では、測定の際の温度、周波数及びひずみ率の条件によって変わり得る「複素弾性率X」及び「位相角Y」についてそれらの測定条件が特定されておらず、「複素弾性率X」及び「位相角Y」の積(X×Y)の範囲が一意に定まらず不明確であったところ、訂正事項1は、測定条件である温度、周波数及びひずみ率の条件を特定するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 訂正事項1は、本件明細書の【0097】の「(CNT分散液の複素弾性率及び位相角の測定)
CNT分散液の複素弾性率X及び位相角Yは、直径35mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項1は、上記アで述べたとおり、明瞭でない記載を釈明するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1のカーボンナノチューブ分散液の複素弾性率及び位相角の範囲をそれぞれ、100Pa未満及び15°以上の範囲に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項2は、本件明細書の【0097】の「複素弾性率 判定基準
◎:10Pa未満(最良)
○:10Pa以上20Pa未満(優良)
△:20Pa以上50Pa未満(良)
△−:50Pa以上100Pa未満(可)
×:100Pa以上(不良)
位相角 判定基準
◎:45°以上(最良)
○:30°以上45°未満(優良)
△:19°以上30°未満(良)
△−:15°以上19°未満(可)
×:15°未満(不良)」との記載において、可の範囲とされている、複素弾性率については上限の値の記載に、位相角については下限の値の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 訂正事項2は、訂正前の請求項1のカーボンナノチューブ分散液の複素弾性率及び位相角の範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4〜11について
訂正事項4〜11は、訂正前の請求項5〜11、14について、それぞれ引用する請求項の記載に請求項4が含まれていたところ、訂正事項3の訂正により請求項4が削除されたことに伴い、これに整合させるため引用する請求項から請求項4を削除し、引用請求項数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4〜11は、それぞれ訂正前の請求項5〜11、14が引用していた請求項の数を減少させるもので、訂正後の請求項5〜11、14の内容は、それぞれ訂正前の請求項5〜11、14の範囲内のものであるから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項12、13について
訂正事項12は、上記訂正事項2において、カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率及び位相角の範囲がそれぞれ、100Pa未満及び15°以上の範囲に限定されたことに伴い、訂正後の請求項1に係る発明等の態様ではなくなった実施例が参考例であることを明らかにするものであると共に、訂正事項13(訂正事項13−1〜13−5)は、訂正後の請求項1に係る発明等の態様ではなくなった実施例を参考例とし、訂正後の特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし14〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1ないし14〕について訂正することを認める。

第3 本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし14に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万〜10万、エーテル化度が0.5〜0.9であり、
前記カーボンナノチューブ分散液の、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、
複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上である、
カーボンナノチューブ分散液
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が0.1〜0.8μmol/m2である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が40〜500μmol/gである、請求項1または2記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
カーボンナノチューブが、平均外径が0.5nm以上5nm未満の第一のカーボンナノチューブと、平均外径が5nm以上20nm以下の第二のカーボンナノチューブとを含み、第一のカーボンナノチューブと第二のカーボンナノチューブの質量比率が1:10〜1:100である、請求項1〜3いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
さらに、ポリアクリル酸を含む、請求項1〜3、5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
メジアン径が0.5μm以上2.0μm以下である、請求項1〜3、5〜6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
分散液のTI値が2.0〜5.0である、請求項1〜3、5〜7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
カーボンナノチューブ分散液の塗膜が、60°で測定した光沢が5〜120である、請求項1〜3、5〜8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項10】
pHが7.0〜10.5である、請求項1〜3、5〜9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項11】
請求項1〜3、5〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液を含む、二次電池電極用組成物。
【請求項12】
請求項11記載の二次電池電極用組成物の塗工膜を含む、電極膜。
【請求項13】
請求項12記載の電極膜を含む、二次電池。
【請求項14】
下記(1)および(2)の工程を順次行うことを特徴とする、請求項1〜3、5〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(1)高圧ホモジナイザーを用いて、60〜120MPaの圧力で分散し、メジアン径を4.0μm以下にする工程
(2)ビーズミルを用いて、位相角が、40°以上になるまで分散する工程」

第4 令和4年6月7日付けで通知した取消理由(決定の予告)、この取消理由(決定の予告)で通知しなかった同年2月1日付けで通知した取消理由、及びこれら取消理由において採用しなかった異議申立人1、2による特許異議の申立理由の概要

1 令和4年6月7日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)
本件特許は、先の訂正後の特許請求の範囲の記載が後記第5の1(1)の点で不備のため、特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(取消理由1)。

2 令和4年6月7日付けで通知した取消理由(決定の予告)で通知しなかった令和4年2月1日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)
本件特許は、設定登録時の特許請求の範囲の記載が後記第5の2(1)の点で不備のため、特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(取消理由2)。

3 各取消理由において採用しなかった異議申立人1による特許異議の申立理由の概要
・特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
(1)設定登録時の請求項1〜4、7〜14に係る発明は、後記4に記載の甲第1−1号証に記載された発明及び同甲第1−1号証〜甲第1−4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由1)。
(2)設定登録時の請求項1〜14に係る発明は、後記4に記載の甲第1−5号証に記載された発明及び同甲第1−2号証〜甲第1−5号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由2)。
(3)設定登録時の請求項1〜14に係る発明は、後記4に記載の甲第1−6号証に記載された発明及び同甲第1−2号証〜甲第1−6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由3)。

4 各取消理由において採用しなかった異議申立人2による特許異議の申立理由の概要
・特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)
設定登録時の請求項1〜14に係る発明は、下記甲第2−1号証に記載された発明及び下記甲第2−1号証〜甲2−6号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(申立理由4)。

甲第1−1号証:特開2016−28109号公報
甲第1−2号証:特表2018−534731号公報
甲第1−3号証:特表2018−533175号公報
甲第1−4号証:特開2019−192537号公報
甲第1−5号証:国際公開第2014/002885号
甲第1−6号証:特開2016−204203号公報
甲第2−1号証:国際公開第2014/002885号(甲第1−5号証)
甲第2−2号証:特表2018−533175号公報(甲第1−3号証)
甲第2−3号証:特表2018−534731号公報(甲第1−2号証)
甲第2−4号証:特表2017−502459号公報
甲第2−5号証:特開2016−28109号公報(甲第1−1号証)
甲第2−6号証:特開2013−186034号公報
なお、異議申立人2は、特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(当審の取消理由2として採用)を立証するための証拠方法として、次の文書も提出している。
甲第2−7号証:菰田悦之、「粒子分散液塗布膜の乾燥に伴う粒子充填過程」、The Micromeritics No.61 (2018) 21-27頁
甲第2−8号証:後藤友彰 他「セラミックス薄膜焼成用スラリーのレオロジーコントロール」、日本レオロジー学会誌 Vol.29 2001 205-210頁
甲第2−9号証:特表2008−508417号公報
(以下、甲第各号証を、「甲1−1」などという。また、異議申立人2の提出した証拠で、異議申立人1の証拠に重複しているものは、異議申立人1の証拠番号で記載する。)

第5 当審の判断

当審は、上記取消理由1、2及び申立理由1〜4のいずれにも理由がないと判断する。
以下、その理由について詳述する。
1 取消理由1(サポート要件違反)について
(1)取消理由1の概要
取消理由1は、概略、以下のとおりである。
本件発明の課題は、本件明細書の【0011】に記載されたとおり、「導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することであると理解できる。
この発明の課題に対する本件明細書の記載を確認すると、カーボンナノチューブ分散液を対象とした実施例は、同【表3】に記載される実施例1−A1〜実施例1−D3のみであるところ、これらの実施例のカーボンナノチューブ分散液が、同【表4】に記載される比較例のものに比べ、高濃度かつ高い分散性を有していることを示す指標での評価がなされておらず、実施例1−A1〜実施例1−D3からは、直接本件発明のカーボンナノチューブ分散液が、高濃度かつ高い分散性を有することは理解できないこと、また、同【0097】には、複素弾性率が100Pa以上、又は位相角が15°未満の場合には、カーボンナノチューブ分散液の分散性が不良であることを示す直接的な記載があると共に、同【表3】に記載される実施例1−A1〜実施例1−D3の中には、同【0097】に記載される複素弾性率及び位相角の点から、カーボンナノチューブ分散液の分散性が不良とされるものも含まれている(実施例1−A18、1−A21、1−A22、1−D1〜1−D3)。
一方、実施例1−A1〜実施例1−D3のカーボンナノチューブ分散液を用いて負極合剤組成物および負極を作成した実施例2−A1〜2−D3(【0125】〜【0132】)等を考慮すると、カーボンナノチューブ分散液の分散性と、効率的な導電ネットワークを形成することに対応する体積抵抗率との間には、直接的ではないものの、ある程度の関係性があることが理解できるから、少なくとも、上記複素弾性率及び位相角について否定的な評価の記載がなされている実施例(実施例1−A18、1−A21、1−A22、1−D1〜1−D3)以外の実施例については、負極及び正極での良好な体積抵抗率等の評価を参酌することにより、上記の本件発明の課題を解決できることが一応理解できる。
また、本件明細書の「CNT分散液の複素弾性率および位相角は、CNT分散液におけるCNTの分散性と、CNT、CMC、およびその他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等の影響によって決まることから、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)を上記の好ましい範囲とし、かつ、これらの積(X×Y)が100以上1,500以下であると、分散安定性の優れたCNT分散液を得ることができ、さらに、優れた導電ネットワークを形成できることにより導電性が非常に良好な電極膜を得ることができる。」(【0054】)との記載等によれば、複素弾性率及び位相角は、共にCNTの分散性を反映する指標であるといえることから、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を得るには、「複素弾性率X」と「位相角Y」を所定の範囲とした上で、これらの積(X×Y)が100以上1,500以下とする必要があることが理解できる。
以上から、上記の本件発明の課題を解決するには、「複素弾性率X」を100Pa未満、「位相角Y」を15°以上の範囲とした上で、「複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下」とする必要があるといえる。
しかしながら、先の訂正後の、請求項4に係る発明を除く請求項1〜3、5〜14に係る発明には、上記の内容に対応する特定はなされていない。
そうすると、当該請求項1〜3、5〜14に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないから、当該発明に係る請求項1〜3、5〜14の記載は、サポート要件を満たしているといえない。

(2)取消理由1に対する判断
本件訂正により、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5〜14は、「複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上である」という特定事項を有するものとされたので、上記(1)で述べた本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとなったということができる。
そうすると、本件発明1〜3、5〜14に係る請求項1〜3、5〜14の記載は、サポート要件を満たしているといえる。

(3)異議申立人の主張について
ア 異議申立人1の主張について
(ア)主張の概要
異議申立人1は、本件発明の課題は「高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を提供する」ことにあるとした上で、この「高濃度かつ高い分散性」は経時的にも高濃度かつ高い分散性であると解されるところ、本件明細書の【0123】【表3】に記載された実施例の中に、CNT分散液の安定性について、「△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(不良)」(【0099】)とされる例が含まれており、これらの例は経時的に高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を得るという本件発明の課題を解決できないものである。
そうすると、本件発明は、上記の例(実施例1−A1、1−A2、1−A4、1−A9〜1−A18、1−A21、1−A22、1−B4)が除外されるような範囲でなければ、本件発明の課題を解決できる範囲内のものであるとはいえない(令和4年4月13日提出の意見書、5頁19行〜6頁4行)。

(イ)検討
異議申立人1の主張は、本件発明の課題における「高濃度かつ高い分散性」が、経時的にも高濃度かつ高い分散性であることを前提としている。
そこで、本件発明の課題について検討するに、本件明細書の【発明が解決しようとする課題】の欄をみると、従来のカーボンナノチューブ分散液に関する問題点として、同【0009】には「特許文献9および10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、カーボンナノチューブを数質量%以上含有させることはできず、また、特許文献11に記載の分散液は、外径が小さく比表面積が高いカーボンナノチューブを分散させるには、分散性が不十分であった。さらに、高濃度のカーボンナノチューブ分散液は、保管中に凝集物や沈殿物を生じやすいため、貯蔵安定性も課題であった。沈降を防止するためには、分子量の高い分散剤を用いてカーボンナノチューブ分散液の粘度を高くする方法が有効であるが、塗工性が低下したり、ゲル化を生じやすくなるといった問題もあった。」と記載され、これを受け、同【0011】の記載によれば、本件発明は、「導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、および二次電池電極用組成物を提供する」ことを発明が解決しようとする課題としていることが分かる。
ここで、上記の発明の課題の「高濃度かつ高い分散性」の「高濃度」とは、従来のカーボンナノチューブ分散液の問題点に関する、同【0009】の「特許文献9および10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、カーボンナノチューブを数質量%以上含有させることはできず」に対応し、「高濃度かつ高い分散性」の「高い分散性」とは、同【0009】の「特許文献11に記載の分散液は、外径が小さく比表面積が高いカーボンナノチューブを分散させるには、分散性が不十分であった」に対応するものであることが理解される。
そうすると、本件発明の課題は、同【0011】に記載されたとおり、「導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することであると理解するのが妥当であり、経時的にも高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液が提供できれば、より好ましいことは明らかであるが、本件発明の課題としては、そこまでは求められていないと理解するのが妥当である。
よって、異議申立人1の主張は、前提に誤りがあるので、採用することができない。

イ 異議申立人2の主張について
(ア)主張の概要
本件発明の課題は、「高濃度かつ高い分散性」を有するカーボンナノチューブ分散液の提供であり、経時的にも「高濃度かつ高い分散性」であるとするのが合理的である。
また、本来の課題である「高濃度かつ高分散性」が達成されているか否かについて、電極膜の導電性、電池レート特性及びサイクル特性の測定では、カーボンナノチューブ分散液に関する経時的な要素を評価することはできず、本件発明の課題である「高濃度かつ高い分散性」が達成されているか否かを評価できない(令和4年4月18日提出の意見書、3頁11〜18行)。

(イ)検討
本件発明の課題は、「高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液」を提供することにあるが、経時的にも「高濃度かつ高い分散性」を有するものとすることまでは求めていないことは、上記ア(イ)で述べたとおりである。
また、本件明細書の記載によれば、カーボンナノチューブ分散液の分散性と、効率的な導電ネットワークを形成することに対応する体積抵抗率との間には、直接的ではないものの、ある程度の関係性があることが理解できるから、負極及び正極での良好な体積抵抗率等の評価を参酌することにより、上記の本件発明の課題を解決できることを一応理解できることは、上記(1)に記載されているとおりである。
そうすると、異議申立人2の主張は、採用することができない。

(4)小括
以上のとおり、本件発明1〜3、5〜14に対応する特許請求の範囲の記載について、取消理由1には理由がない。

2 取消理由2(明確性要件違反)について
(1)取消理由2の概要
取消理由2の概要は、以下のとおりである。
設定登録時の請求項1に係る発明には、「複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)」が特定されているところ、「複素弾性率X」及び「位相角Y」は、測定の際の温度、周波数及びひずみ率の条件によって変わり得るものであるが、設定登録時の請求項1に係る発明には、それらの測定条件が特定されていないので、「複素弾性率X」及び「位相角Y(°)」の積(X×Y)の範囲が一意に定まらない。
そうすると、設定登録時の請求項1に係る発明は、明確ではない。
設定登録時の請求項1に係る発明を引用する設定登録時の請求項2〜14に係る発明も、明確ではない。

(2)取消理由2に対する判断
上記取消理由2に対し、本件訂正で、本件発明1において、「前記カーボンナノチューブ分散液の、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下である」と特定され、「複素弾性率X」及び「位相角Y」の測定の際の温度、周波数及びひずみ率の条件が明らかとなることにより、「複素弾性率X」及び「位相角Y(°)」の積(X×Y)の範囲が一意に定まるものとなった。
そうすると、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3、5〜14は明確であるから、上記取消理由2には、理由がない。

3 申立理由1〜4(進歩性欠如)について
(1)甲1−1〜甲2−6に記載の事項
ア 甲1−1の記載事項
(ア)「【請求項1】平均繊維外径が50〜110nmの範囲である多層カーボンナノチューブのカルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液であって、該多層カーボンナノチューブの含量が3〜20質量%の範囲であって、該多層カーボンナノチューブに対して質量比が0.1〜0.2のカルボキシメチルセルロースナトリウムを含み、レーザー回折・散乱法で測定した該分散液のメディアン径(d50)が0.3〜0.6μm、且つスパン値[(d90−d50)/d50]が0.9〜1.2であり、粘度が100mPa・s以下である多層カーボンナノチューブ含有カルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液。」

(イ)「【0006】
以上のように、多層カーボンナノチューブは、電気的、機能的、機械的および複合的効果を併せ持つ材料として様々な用途に適用が検討されているが、添加効果を最大限に引き出すためには、多層カーボンナノチューブが、水、有機溶媒、樹脂溶液、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂などの分散媒体に均一に分散していることが必須となる。
【0007】
しかしながら、多層カーボンナノチューブは、直径1μm以下のチューブ状繊維が絡み合って凝集体を形成し、あるいはネットワーク構造を有し、更に嵩比重を上げるために、通常それらを集合させた状態で市販されている。そのため、これらを一本一本に解繊させ、分散するのは非常に困難である。また、一本一本に解繊した多層カーボンナノチューブ、あるいは数μm〜数十μmサイズとなった凝集体は、非常に強い繊維間相互の凝集力(ファンデルワールス力)を有する。そのため、水、有機溶媒、樹脂溶液、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂などの分散媒体中で分散させることが困難であり、いったん解繊・分散した多層カーボンナノチューブ・凝集体同士も、容易に再凝集する。これらの理由から、十分に分散し、かつ分散状態が安定した多層カーボンナノチューブの集合体を得にくいのが現状である。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明が解決しようとする課題は、水溶性樹脂をバインダーとして使用する電極膜において、電極膜構成要素であるカルボキシメチルセルロースナトリウムのみを用い且つ少量添加で、極めて高い凝集力を有する凝集体である多層カーボンナノチューブを高濃度まで分散および分散安定化させた、電極膜作製用多層カーボンナノチューブ水分散液、これを用いた多層カーボンナノチューブ含有電極膜用導電ペーストを調製し、これらを用いて得られる電極膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を続けた結果、多層カーボンナノチューブに対して質量比が0.1〜0.2である低濃度でカルボキシメチルセルロースナトリウムを水溶液に添加した後、平均繊維外径が50〜110nmの範囲である多層カーボンナノチューブを全体に対して3〜20質量%と高濃度まで添加した多層カーボンナノチューブ水分散液が調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

(エ)「【0037】
本発明で使用するカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩は、例えば、第一工業製薬製セロゲン5A(エーテル化度0.70〜0.80)、第一工業製薬製セロゲン6A(エーテル化度0.70〜0.80)・・・第一工業製薬製セロゲンWS−C(エーテル化度0.60〜0.70)・・・第一工業製薬製セロゲンP−815C(エーテル化度0.70〜0.85)等が挙げられる。・・・
【0040】
カルボキシメチルセルロースナトリウムの構造式は、水酸基が多数置換したシクロエーテル環基が多数連結した構造式であり、上記に述べた通り、水酸基及びシクロエーテル環基は、多層カーボンナノチューブと相容性が良い。そのため、カルボキシメチルセルロースナトリウムが分散剤的役割を果たして多層カーボンナノチューブを単分散し、さらに単分散化された多層カーボンナノチューブの表面に付着し、立体反発効果により、多層カーボンナノチューブを安定して水溶液中に保持できるものであると考えられる。
【0041】
カルボキシメチルセルロースは、本発明の多層カーボンナノチューブ水分散液の保存安定性及び再凝集防止の役割を果たすために、最適な添加量が必要である。その添加量は、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積と相関があり、さらに本発明の多層カーボンナノチューブ含有電極膜内ではカルボキシメチルセルロースの添加量に制限があるため、注意深く決定する事が必要である。
・・・
【0043】
しかしながら、カルボキシメチルセルロースは絶縁性であるため、添加量が多い場合、電極膜の導電性が低下し、最終的にLIB電池特性を損なう。そのため、カルボキシメチルセルロースの添加量には制限があり、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積を考量して計算した結果は、多層カーボンナノチューブ含有水分散液に使用可能なカルボキシメチルセルロース添加量は多くても2質量%濃度の水溶液、それ以下に制限することが望ましいである。
・・・
【0047】
したがって、本発明のカルボキシメチルセルロースの添加量は、電極膜中のカルボキシメチルセルロースナトリウム添加量の制限から、多層カーボンナノチューブ水分散液中には多層カーボンナノチューブに対して質量比0.2以下が好ましい。」

イ 甲1−2の記載事項
(ア)「【請求項1】
束型(bundle−type)カーボンナノチューブを含む導電材と、
分散剤と、
分散媒とを含み、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角が3゜〜18゜である、導電材分散液。・・・
【請求項4】
前記分散剤は、ニトリルブタジエン系ゴムを含む、請求項1に記載の導電材分散液。
・・・
【請求項11】
前記分散媒は、アミド系有機溶媒である、請求項1に記載の導電材分散液。」

(イ)「【0006】
微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブは、直径1μm以下の太さを有するチューブ状炭素であり、その特異的構造に起因した高い導電性、引張強度および耐熱性などによって様々な分野への適用および実用化が期待されている。しかし、かかるカーボンナノチューブの有用性にもかかわらず、カーボンナノチューブは、低い溶解性と分散性によってその使用に限界がある。そのため、カーボンナノチューブを用いた電極の製造時に、カーボンナノチューブを分散媒にまず分散させた後、電極形成用組成物を製造して使用した。しかし、カーボンナノチューブは、互いの強いファンデルワールス引力によって分散媒の中で安定した分散状態をなすことができず、凝集現象が生じるという問題がある。
【0007】
かかる問題を解決するために様々な試みがあった。具体的には、超音波処理などの機械的分散処理によりカーボンナノチューブを分散媒の中に分散させる方法が提案されている。しかし、この方法の場合、超音波を照射している間には分散性に優れるが、超音波の照射が終了すると、カーボンナノチューブの凝集が始まるという問題がある。また、様々な分散剤を用いてカーボンナノチューブを分散安定化する方法が提案されている。しかし、これらの方法もまたカーボンナノチューブを分散媒の中に高濃度で分散させる場合、粘度の上昇によって取り扱いが難しくなるという問題がある。
【0008】
そのため、導電性が低下することなく電極内のカーボンナノチューブの分散性を向上させる方法およびこれを用いて電極の製造に有用なカーボンナノチューブ分散液を製造する方法の開発が必要となっている。」

(ウ)「【0030】
本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle、δ)が3゜〜18゜である。導電材分散液の位相角が3゜未満の場合には、固体様特性が強すぎて、コーティング時にスラリー内で導電材の均一な分散が難しく、また、位相角が18゜を超える場合には、液体様特性が強くて粘度が低くなるため、高ローディング電極の製造時に均一な厚さの活物質層の形成が容易でなく、以降、乾燥工程においてクラックが生じる恐れがある。導電材分散液の位相角の制御による導電材分散液の固体様特性およびこれを用いた電極の製造時のコーティング性およびコーティング安定性を考慮すると、前記導電材分散液の位相角は、より具体的には、3゜〜15゜、さらに具体的には、3゜〜10゜であってもよい。
【0031】
一般的に、液体は、外部の力が加えられた時に、歪みに対する復元力、すなわち弾性歪みがない。固体は、外部の力が加えられた時に、その形態を連続して歪ませることができない。しかし、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、粘弾性(viscoelasticity)特性を有する物質であることから、外部の力が加えられた時に、形態が歪むことがあり、加えられた力の回数とは関係なく最初の形態にまた戻り得る。本発明の一実施形態に係る導電材分散液の粘弾性は、応力、歪み、時間の尺度、温度など、加えられた外部条件に応じて異なり得るが、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角(phase angle、δ)が3゜〜18゜である。
【0032】
前記のような導電材分散液の位相角は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比、またその製造過程でのミリング工程時の条件制御により実現することができる。」

(エ)「【0076】
一方、本発明の一実施形態に係る導電材分散液において、前記分散剤は、通常、カーボンナノチューブの分散性の向上のために使用されるものであれば、特に制限なく使用可能である。
【0077】
具体的には、本発明の一実施形態に係る導電材分散液において、前記分散剤は、ニトリル系ゴムであってもよく、より具体的には、部分または全体に水素化したニトリルブタジエン系ゴムであってもよい。
【0078】
前記水素化したニトリルブタジエン系ゴムは、具体的には、水素化した共役ジエン由来構造単位、α,β−不飽和ニトリル由来構造単位および共役ジエン由来構造単位を含み、ゴムの全重量に対して、前記水素化した共役ジエン由来構造単位を20重量%〜80重量%含んでもよい。前記のような含有量で含まれる時に、分散媒に対する混和性が増加し、カーボンナノチューブの分散性を高めることができ、且つ導電材分散液の固体様特性を増加させ、その結果として、電極形成用組成物のコーティング安定性を向上させることができる。より具体的には、ゴムの全重量に対して、前記水素化した共役ジエン由来構造単位を30重量%〜70重量%含んでもよい。
【0079】
また、カーボンナノチューブに対する分散性の向上および分散媒との混和性を考慮すると、前記水素化したニトリルブタジエン系ゴム内のα,β−不飽和ニトリル由来構造単位の含有量は、ゴムの全重量に対して、10重量%〜70重量%、具体的には、20重量%〜60重量%であってもよい。上述の含有量範囲でα,β−不飽和ニトリル構造含有繰り返し単位を含む場合、カーボンナノチューブの分散性を高めることができ、導電材分散液の固体様特性を増加させることができる。
・・・
【0088】
一方、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記分散媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;メタノール・・・などのアルコール類;エチレングリコール・・・などのグリコール類;グリセリン・・・などの多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル・・・などのグリコールエーテル類;アセトン・・・などのケトン類;酢酸エチル・・・などのエステル類などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。より具体的には、前記カーボンナノチューブおよび分散剤に対する分散性の向上効果を考慮すると、前記分散媒は、アミド系極性有機溶媒であってもよい。」

(オ)「【0159】【表1】

【0160】
[実施例2−1、実施例2−2、比較例2−1〜比較例2−3:導電材分散液の製造]
組成物の全重量に対して、下記表2に記載のカーボンナノチューブ5重量%、分散剤1.0重量%および分散媒94重量%を含む組成物を均質混合装置(VMA LC55、Impeller/3,000rpm)を用いて60分間混合した。結果の混合物に対して、ネッチビーズミル(NETZSCH Mini‐cer、ビーズのサイズ:1mm/3,000rpm)を用いて下記表2に記載の時間の間に循環して行い、束型カーボンナノチューブを含む実施例2−1、実施例2−2、比較例2−1〜比較例2−3の導電材分散液を取得した。
【0161】
【表2】

【0162】
[実験例2−1]
実施例2−1、実施例2−2、比較例2−1〜比較例2−3の導電材分散液に対して、位相角を測定した。
【0163】
詳細には、位相角を測定するために、動弾性剪断レオメータ(DSR;Dynamic Shear Rheometer)を使用して常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定した。その結果を下記表3および図1に示した。図1のx軸は位相角であり、y軸は複素弾性率である。
【0164】
【表3】

・・・
【0170】
[実施例3−1、実施例3−2、比較例3−1〜比較例3−3:正極形成用組成物の製造]
組成物の全重量に対して、下記表5に記載の導電材分散液16.8重量%、正極活物質81.5重量%およびバインダー1.7重量%を混合し、実施例3−1、実施例3−2、比較例3−1〜比較例3−3の正極形成用組成物を製造した。
【0171】
【表5】

【0172】
[実験例3−1]
実施例3−1、実施例3−2、比較例3−1〜比較例3−3の正極形成用組成物に対して、位相角を測定した。
【0173】
詳細には、位相角を測定するために、動弾性剪断レオメータ(DSR;Dynamic Shear Rheometer)を使用して、常温で1%の応力を加えながら1Hzの周波数で周波数掃引をして測定した。その結果を下記表6および図2に示した。図2のx軸は位相角であり、y軸は複素弾性率である。
【0174】
【表6】



ウ 甲1−3の記載事項
(ア)「【請求項1】
導電材分散液であって、
束型カーボンナノチューブを含む導電材と、
水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、
分散媒と、を含んでなり、
レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa〜500Paである、導電材分散液。
・・・
【請求項14】
前記分散媒は、アミド系有機溶媒である、請求項1に記載の導電材分散液。
【請求項15】
導電材分散液の製造方法であって、
束型カーボンナノチューブを含む導電材、水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤、および分散媒を混合し、
前記混合した後、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa〜500Paになるようにミリングすることを含んでなる、導電材分散液の製造方法。」

(イ)「【0006】
微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブは、直径1μm以下の太さを有するチューブ状炭素であり、その特異的構造に起因した高い導電性、引張強度および耐熱性などによって様々な分野への適用および実用化が期待されている。しかし、かかるカーボンナノチューブの有用性にもかかわらず、カーボンナノチューブは、低い溶解性と分散性によってその使用に限界がある。そのため、カーボンナノチューブを用いた電極の製造時に、カーボンナノチューブを分散媒にまず分散させた後、電極形成用組成物を製造して使用した。しかし、カーボンナノチューブは、互いの強いファンデルワールス引力によって分散媒中に安定した分散状態をなすことができず、凝集現象が生じる問題がある。
【0007】
かかる問題を解決するために様々な試みがあった。具体的には、超音波処理などの機械的分散処理によりカーボンナノチューブを分散媒の中に分散させる方法が提案されている。しかし、この方法の場合、超音波を照射している間には分散性に優れるが、超音波の照射が終了すると、カーボンナノチューブの凝集が始まり、カーボンナノチューブの濃度が高くなって凝集するという問題がある。また、様々な分散剤を用いてカーボンナノチューブを分散安定化する方法が提案されている。しかし、これらの方法もまた微細な炭素繊維を分散媒の中に高濃度で分散させる場合、粘度の上昇によって取り扱いが難しくなるという問題がある。
【0008】
そのため、導電性が低下することなく電極内のカーボンナノチューブの分散性を向上させる方法およびこれを用いて電極の製造に有用なカーボンナノチューブ分散液を製造する方法の開発が必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする第1の課題は、優れた分散性および低い粉体抵抗特性を有することで、高出力用電極の製造に有用な導電材分散液およびその製造方法を提供することにある。」

(ウ)「【0027】
本発明において、導電材分散液の複素弾性率または複素剪断弾性率は、動的粘弾性を示す量であり、物質に蓄積される弾性エネルギーの大きさを意味し、固体から液体の状態に変化するにつれて小さくなる。本発明での導電材分散液の複素弾性率は、粘度測定装置、具体的には、レオメータを用いて測定することができる。より具体的には、レオメータの円形回転板の間の距離を一定に設定した後、当該間隔に満たされる体積に相当する導電材分散液を取り込み、周波数が1Hzである時に剪断速度を1/s単位で10-3から103の範囲まで設定し、回転板を回すために生じる力を測定し、剪断粘性率(shear viscosity)の値を測定することができる。
【0028】
具体的には、本発明の一実施形態に係る導電材分散液は、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa〜500Paである。導電材分散液の複素弾性率が20Pa未満である場合には、分散液の粘度が低すぎ、分散性が低下するため、電極の形成が容易でなく、また、複素弾性率が500Paを超える場合には、分散液の粘度が高くなり、製造工程で圧力増加によって取り扱いが難しいだけでなく、電極形成用組成物の製造時に高い粘弾性を有するため、固形分が減少して生産性が低下する恐れがある。導電材分散液の複素弾性率の制御による導電材分散液の分散性の向上、さらに、これを用いて製造した電極の粉体抵抗の減少および電池出力特性の改善効果の顕著さを考慮すると、前記導電材分散液の複素弾性率は、より具体的には、50Pa〜350Paであってもよい。
・・・
【0030】
前記のような導電材分散液の物性的特徴は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比の制御により実現することができる。」

(エ)「【0074】
一方、本発明の一実施形態に係る導電材分散液において、前記分散剤は、部分または全体が水素化したニトリル系ゴムであってもよく、具体的には、共役ジエン由来構造の繰り返し単位、水素化した共役ジエン由来構造の繰り返し単位およびα,β−不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位を含む水素化したニトリル系ゴムであってもよい。この際、前記水素化したニトリル系ゴムは、共重合可能なさらなるコモノマーを選択的にさらに含んでもよい。・・・
【0080】
具体的には、カーボンナノチューブに対する分散性の向上および分散媒との混和性を考慮すると、前記水素化したニトリル系ゴムは、ゴムの全重量に対して、前記α,β−不飽和ニトリル由来構造の繰り返し単位(repeating unit)を10重量%〜60重量%、具体的には、20重量%〜60重量%含んでもよい。上述の含有量範囲でα,β−不飽和ニトリル構造含有繰り返し単位を含む場合、カーボンナノチューブの分散性を高めることができ、カーボンナノチューブの添加量が少なくても高い導電性を与えることができる。
・・・
【0089】
一方、本発明の一実施形態に係る前記導電材分散液において、前記分散媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;メタノール・・・などのアルコール類;エチレングリコール・・・などのグリコール類;グリセリン・・・などの多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル・・・などのグリコールエーテル類;アセトン・・・などのケトン類;酢酸エチル・・・などのエステル類などが挙げられ、これらのいずれか一つまたは二つ以上の混合物が使用されてもよい。より具体的には、前記カーボンナノチューブおよび分散剤に対する分散性の向上効果を考慮すると、前記分散媒は、アミド系極性有機溶媒であってもよい。」

エ 甲1−4の記載事項
(ア)「【請求項1】
カーボンナノチューブ(A)と、ポリビニルピロリドン(B)と、N−メチル−2−ピロリドン(C)と、アミン系化合物(D)とを含有してなり、前記カーボンナノチューブ(A)100重量部に対して、前記ポリビニルピロリドン(B)を10重量部以上、25重量部未満含有し、かつ前記アミン系化合物(D)を2重量部以上、10重量部以下含有することを特徴とする、カーボンナノチューブ分散液。」

(イ)「【0020】
このようなカーボンナノチューブ(A)としては、例えば、単層カーボンナノチューブとして、日本ゼオン社製ZEONANO SG101(外径:3〜5nm)、OCSiAl社製 TUBALL(外径:約2nm)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、多層カーボンナノチューブとしては、ARKEMA社製 Graphistrength(外径:10〜15nm)、SUSUN Sinotech New Materials社製 HCNTs10(外径:10〜20nm)、HCNTs40(外径:30〜50nm)、Nanocyl社製 NC7000(外径:10nm)、NX7100(外径:10nm)、JEIO社製 JENOTUBE8A(外径:6〜9nm)、JENOTUBE10A(外径:7〜20nm)、JENOTUBE10B(外径:7〜10nm)、Cnano社製 FloTube9100(外径:10〜15nm)、FloTube9110(外径:10〜15nm)、FloTube7010(外径:7〜11nm)、Kumho Petrochemical社製 K−Nanos100P(外径:10〜15nm)、K?Nanos100T(外径:10〜15nm)、K?Nanos200P(外径:5〜15nm)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」

オ 甲1−5の記載事項
(ア)「請求の範囲
[請求項1] カーボンナノチューブ含有組成物、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が0.5万以上6万以下である分散剤および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。
・・・
[請求項4] 前記分散剤がカルボキシメチルセルロースまたはその塩である請求項1から請求項3のいずれかに記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」

(イ)「[0005] これらの分散液は、液中ではカーボンナノチューブの高分散性を維持しているが、基材と接触し溶媒が除去される過程で再びカーボンナノチューブが凝集し、効率のよい導電パスの形成が困難となる。そのため基材上でのカーボンナノチューブの高分散性を維持できる分散液が求められてきた。
[0006] 本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、分散液中でのカーボンナノチューブの分散性が良く、カーボンナノチューブの切断を抑制することができ、分散液を基材に塗布した際に基材上でのカーボンナノチューブの分散性に優れ、透明導電性の良い導電性成形体を製造可能なカーボンナノチューブ含有組成物の分散液を得ることを課題とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定の分子量の分散剤を用いて、カーボンナノチューブ含有組成物を水系溶媒に分散させることにより、基材上でのカーボンナノチューブ含有組成物の凝集径が小さい分散液が得られることを見いだし、本発明に至ったものである。
[0008] すなわち本発明は、カーボンナノチューブ含有組成物、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が0.5万以上6万以下である分散剤および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液である。」

(ウ)「[0013] 本発明では、導電性材料としてカーボンナノチューブを用いる。本発明においてカーボンナノチューブ含有組成物とは、複数のカーボンナノチューブを含む総体を意味する。カーボンナノチューブ含有組成物中の、カーボンナノチューブの存在形態は、特に限定されず、それぞれが独立、束状、あるいは絡まり合うなどの形態あるいはこれらの混合形態で存在していてもよい。また、種々の層数または直径のものが含まれていてもよい。」

(エ)「[0032] 本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、分散剤として、ポリマー系分散剤を使用する。これはポリマー系分散剤の使用によりカーボンナノチューブを溶液中で高度に分散でき、さらに高剪断力を与えても安定な分散液を得ることができるためである。このとき分散剤の分子量が小さすぎると、分散剤とカーボンナノチューブの相互作用が弱まるためにカーボンナノチューブのバンドルを十分に解すことができない。一方、分散剤の分子量が大きすぎると、カーボンナノチューブのバンドル間への侵入が難しくなる。そのため分散処理において、バンドルが解する前にカーボンナノチューブの切断が進行してしまう。本発明では、分散剤の重量平均分子量を0.5万以上6万以下にすることで、カーボンナノチューブを溶液中で高度に分散できるだけでなく、分散処理においてカーボンナノチューブの切断を抑制する効果もあることを見出した。重量平均分子量が0.5万以上6万以下の範囲の分散剤を用いることで、分散時にカーボンナノチューブ間の隙間に分散剤が入りやすくなる。そのため、より少ないエネルギーでカーボンナノチューブの分散が可能となり、カーボンナノチューブを高分散できるとともに、カーボンナノチューブの切断が抑制される。さらに基材上に塗布したとき、カーボンナノチューブの基材上での凝集も抑制されるため、得られる導電性成形体の導電性と透明性が両立できる。分散剤の量が少なくても良好な分散性が得られることから、分散剤の重量平均分子量の範囲は1万以上6万以下であることが好ましく、1万以上4万以下であることがさらに好ましい。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリエチレングリコールによる校正曲線と対比させて算出された重量平均分子量を指す。
・・・
[0035] 分散液に含まれる分散剤の量は、カーボンナノチューブに吸着される量より多く、かつ、導電性を阻害しない量であることが好ましい。具体的にはカーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して分散剤が200重量部以上500重量部以下であることが好ましく、さらに200重量部以上400重量部以下であることが好ましい。
[0036] 分散剤の種類としては、合成高分子、天然高分子などから選択できる。合成高分子としては、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸およびその誘導体から選択したポリマーが好ましい。天然高分子としては、多糖類であるアルギン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、セルロースおよびそれらの誘導体から選択したポリマーが好ましい。誘導体とは、前述のポリマーのエステル化物、エーテル化物、塩などを意味する。これらの中でも特に多糖類を用いることが分散性向上の点から好ましい。分散剤は、1種を用いても、2種以上を混合して用いてもよい。分散性のよい分散剤を用いることで、カーボンナノチューブのバンドルを解して透明導電性を向上させることができる点から、分散剤としては、イオン性高分子が好ましく用いられる。中でも、スルホン酸基やカルボン酸基などのイオン性官能基を持つものが、分散性および導電性が高くなるため好ましい。イオン性高分子としては、ポリスチレンスルホン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの誘導体から選ばれたポリマーが好ましい。特にイオン性官能基を有する多糖類であるカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体から選ばれたポリマーが最も好ましい。誘導体としては塩が好ましい。
[0037] 重量平均分子量が6万以下のカルボキシメチルセルロースは市販されていないため、重量平均分子量が0.5万以上6万以下のカルボキシメチルセルロースを得るためには、重量平均分子量が6万より大きいカルボキシメチルセルロースを加水分解などの方法で低分子量化する。・・・
[0038] また、加水分解により得られるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、0.4以上1以下が好ましい。エーテル化度が0.4より小さいと、カルボキシメチルセルロースが水に不溶になるため好ましくない。カルボキシメチルセルロースが分子量の場合は、カーボンナノチューブ含有組成物への相互作用が小さくなる。そのためカルボキシメチルセルロースのエーテル化度が1以上では分散剤としての効果が不十分な場合がある。」

(オ)[0044] 水系溶媒とは、水または水と混和する有機溶媒である。分散剤が溶解し、カーボンナノチューブが分散するものであれば用いることができる。水と混和する有機溶媒としては、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
[0045] これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブの分散性から好ましい。さらに好ましくは水である。・・・
[0046] カーボンナノチューブ含有組成物の分散液調製時のカーボンナノチューブ含有組成物の濃度は、特に制限はないが、0.1質量%から0.3質量%の範囲が好ましい。濃度が0.1質量%より小さいと、分散時にカーボンナノチューブ含有組成物へのエネルギー照射が大きくなり、カーボンナノチューブの切断を促進してしまう。また濃度が0.3質量%より大きいと、分散時のエネルギーがカーボンナノチューブ含有組成物へ十分に照射されず、分散が困難になる。」

カ 甲1−6の記載事項
(ア)「【請求項1】
カーボンナノチューブ含有組成物、エーテル化度が0.4以上0.7未満であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および分散媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。
・・・
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩のゲルパーミエーションクロマトフラフィーで測定した重量平均分子量が5千以上6万以下である請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術においては、カーボンナノチューブを分散させるのにカーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対し分散剤を250重量部必要としていた。分散剤であるカルボキシメチルセルロースは絶縁物であるため、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液を基材上に塗布して得られる導電性成形体に含まれる分散剤が多くなり、カーボンナノチューブの導電ネットワークが阻害されることがある。そのため、多量のカルボキシメチルセルロースなどの分散剤を含むカーボンナノチューブ薄膜は導電性が劣るという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題、状況を鑑みてなされたものであり、その解決課題は、量産性に優れた簡便な方法で、導電性成形体としたときに、透明かつ導電性に優れた導電性成形体とすることができるカーボンナノチューブ含有組成物の分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、分散剤としてエーテル化度が0.4以上0.7未満のカルボキシメチルセルロースを分散剤として用いることで、少量の分散剤で分散性にすぐれたカーボンナノチューブ含有組成物の分散液を得ることができ、このような分散剤を使用した分散液を用いることで、導電性成形体としたときに、透明かつ導電性に優れることを見出し、本発明に至ったものである。」

(ウ)「【0013】
[カーボンナノチューブ]
本発明では導電性材料としてカーボンナノチューブを用いる。本発明においてカーボンナノチューブ含有組成物とは、複数のカーボンナノチューブを含む総体を意味する。カーボンナノチューブ含有組成物中の、カーボンナノチューブの存在形態は、特に限定されず、それぞれが独立、束状、あるいは絡まり合うなどの形態あるいはこれらの混合形態で存在していてもよい。また、種々の層数または直径のものが含まれていてもよい。」

(エ)「【0035】
カーボンナノチューブ含有組成物の分散液の分散剤として、分散性のよい分散剤を用いることで、カーボンナノチューブのバンドルを解して透明導電性を向上させることができる点から、イオン性官能基を有する多糖類であるカルボキシメチルセルロースおよびその誘導体、およびその塩を用いる。
【0036】
このとき分子量が小さすぎると、分散剤とカーボンナノチューブの相互作用が弱まるためにカーボンナノチューブのバンドルを十分に解すことができない。一方、分子量が大きすぎると、ポリマー鎖のカーボンナノチューブへの絡みつきが強くなりすぎることで過剰な分散剤の除去工程において分散剤が除去しきれず、導電性悪化の原因となってしまう。分散剤として使用するポリマーの重量平均分子量の範囲は5千以上6万以下が好ましく、特に1万以上6万以下であることが好ましく、さらに好ましくは、2万以上6万以下である。前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法を用い、ポリエチレングリコールによる校正曲線と対比させることにより算出された重量平均分子量を指す。
【0037】
カルボキシメチルセルロースのエーテル化度とは、セルロースの無水グルコース単位あたり3つ存在する水酸基のうち、カルボキシメチル基に置換された数を示す。カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、理論上0〜3の値となる。本発明において、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、0.4以上0.7未満である必要がある。さらに0.4以上0.6以下であることが好ましい。」

(オ)「【0042】
カーボンナノチューブ含有組成物の分散液に含まれるカーボンナノチューブのバンドルを十分に解すためには、カーボンナノチューブ含有組成物の分散に適した分散剤を、適切な量必要とする。この適切な量は、分散剤の種類によって異なり、本発明ではエーテル化度が0.4以上0.7未満と小さいカルボキシメチルセルロースまたはその塩を用いるため、カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対し、分散剤を10重量部以上200重量部以下とすることができる。過剰な分散剤は絶縁物として導電阻害が大きく、形成されるカーボンナノチューブ含有組成物を含む導電層の表面抵抗値は悪くなってしまう。一方、分散液に含まれる分散剤量が少ない過ぎる場合にはカーボンナノチューブのバンドルを完全に解すことはできない。
【0043】
すなわち、本発明のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液に含まれる分散剤の量はカーボンナノチューブに吸着される以上に過剰であり、かつ導電性を阻害しない量であることが好ましく、具体的にはカーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して分散剤が10重量部以上200重量部未満であることが好ましく、さらに25重量部以上150重量部以下であることが好ましい。最も好ましくは50重量部以上100重量部以下である。」

(カ)「【0045】
本発明ではカーボンナノチューブ含有組成物、分散剤および分散媒を用いてカーボンナノチューブ含有組成物の分散液を調製する。この分散液はさらにその他添加剤を含むことができ、液体形状でもペーストやゲルのような半固形状でもかまわないが、液体形状が好ましい。本発明において分散液とは、得られた組成物が目視において沈降物や凝集物がなく、少なくとも24時間静置後においても目視において沈降物や凝集物がない状態の液をいう。また、分散液全体に対するカーボンナノチューブ含有組成物の量は0.01重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、0.01〜10重量%であることが好ましい。
【0046】
本発明の分散液に含まれる分散媒としては、水系溶媒が好ましい。本発明で用いる水系溶媒は、分散剤を溶解し、カーボンナノチューブが分散するものであれば限定はなく、水および水と混和する溶媒類を用いることができる。・・・これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブ分散性から好ましい。さらに、カルボキシメチルセルロースの溶解性とカーボンナノチューブの分散性の点から、水を用いることが最も好ましい。」

(キ)「【0096】
(実施例1)エーテル化度0.55、カルボキシメチルセルロース100重量部
[カーボンナノチューブ含有組成物の分散液の調製]
カーボンナノチューブ含有組成物15mg(乾燥質量換算で15mgのカーボンナノチューブ含有組成物を含有する参考例1で得られたカーボンナノチューブ含有組成物)、3質量%カルボキシメチルセルロースアンモニウム(ダイセルファインケム(株)社製、参考例4で得られたDN−10Lの加水分解物(重量平均分子量47000))水溶液500mg(カーボンナノチューブ含有組成物100重量部に対して100重量部)を量りとり、蒸留水を加え10gにし、分散前のカーボンナノチューブ混合液を調製した。1質量%アンモニア水溶液(キシダ化学(株)社製)を用いてpH7にあわせ、超音波ホモジナイザー出力20W、1.5分間で氷冷下分散し、カーボンナノチューブ分散液を調製した。」

キ 甲2−4の記載事項
(ア)「【請求項1】
電極活物質スラリーの製造方法であって、
(S1)導電材及び第1分散媒を混合して導電材分散物を製造し、電極活物質及び第2分散媒を混合して電極活物質分散物を製造する段階と、
(S2)前記電極活物質分散物に、前記導電材分散物を添加しながら分散させる段階とを含んでなる、電極活物質スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記(S1)段階において、前記導電材分散物は、5〜20重量%の導電材が分散していることを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質スラリーの製造方法。
・・・
【請求項7】
前記導電材が、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック及びスーパーPからなる群より選択される何れか一種又は二種以上の混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質スラリーの製造方法。
【請求項8】
前記第1分散媒が、溶解パラメーター定数値が10以上である有機溶媒からなる群より選択される何れか一種又は二種以上の混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質スラリーの製造方法。
【請求項9】
前記第1分散媒が、水、N−メチル−2−ピロリドン又はこれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電極活物質スラリーの製造方法。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、混合物質の安定した状態を維持しながら、完全なゼータ電位を有する導電材分散物及び電極活物質分散物を先に製造した後、これを混合する電極活物質スラリーの製造方法及びその方法によって製造された電極活物質スラリーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を達成するため、本発明の一面によれば、(S1)導電材及び第1分散媒を混合して導電材分散物を製造し、電極活物質及び第2分散媒を混合して電極活物質分散物を製造する段階と、(S2)前記電極活物質分散物に、前記導電材分散物を添加しながら分散させる段階と、を含む電極活物質スラリーの製造方法が提供される。」

(ウ)「【0018】
・・・
【図2】図2は、本発明の実施例によって製造された導電材分散物及び電極活物質スラリーの位相角(phase angle)分析結果を示したグラフである。」

(エ)「【0040】
1.実施例1
(1)導電材分散物の製造
導電材としてのカーボンブラック20gを、第1分散媒としてのNMP125gに分散させて導電材分散物(固形分の割合:13.8%)を製造した。
【0041】
一方、難分散材料である導電材を分散させるために、多様な分散器機を用いることができるが、代表的には、ミル(Mill)装備または高圧ホモジナイザー(High pressure homogenizer)のような高速分散装備を用いる。
【0042】
本実施例においては、前記導電材分散物の製造に際し、一般的に用いられるホモジナイザーで4,000rpmで20分間分散させた後、高速分散装備で15,000rpmで20分間分散させることで製造した。
【0043】
(2)電極活物質分散物の製造
正極活物質としてLiCoO2 646.7gを第2分散媒としてのNMP 140.8gに分散させることで、電極活物質分散物(固形分の割合:82.1%)を製造した。
【0044】
(3)電極活物質スラリーの製造
電極活物質分散物に、導電材分散物を徐々に添加しながら分散させることで電極活物質スラリー(固形分の割合:71.5%)を製造した。このとき、一般的に用いられるホモジナイザーで4,000rpmで60分間分散させることで、電極活物質スラリーを製造した。
・・・
【0049】
4.試験例:レオロジー特性評価
導電材分散物とこれを利用して製造した電極活物質スラリーのレオロジー特性評価によって分散性とコーティング性を確認することができる。
・・・
【0052】
なお、レオロジー特性のうち、位相角の分析によって、一定のせん断速度を加えた後のスラリーの位相角の値が45゜以上であれば、良好な分散性を有すると言われる。図2を参照すれば、実施例のスラリーは、せん断速度を加えた後のスラリーの位相角の値が45゜以上を示していることから、良好な分散性を有しているといえる。」

(オ)「【図2】



ク 甲2−6の記載事項
(ア)「【請求項1】
未解繊セルロース繊維量を測定する方法であって、
(1)セルロース繊維を含む試料を偏光顕微鏡で観察する工程、
(2)前記観察により得られた偏光顕微鏡観察画像を二値化する工程、及び
(3)前記二値化した画像を基に、単位面積当たりの未解繊セルロース繊維量を面積%として算出する工程
を含む、未解繊セルロース繊維量を測定する方法。」

(イ)「【0076】
ビーズミル処理前後の試料において未解繊セルロース繊維量と、粘度及び濾水時間との間には相関があり、偏光顕微鏡観察画像から算出した未解繊セルロース繊維量はセルロース試料の解繊程度を反映していることがわかった。このことから、高圧ホモジナイザー以外の解繊処理でも未解繊セルロース繊維量の測定が可能であることが判明した。さらに、粘度および濾水時間では判別が困難であったビーズミル解繊処理条件の違いが、本方法では判別可能であった。また、未解繊セルロース繊維が可視化されるため、形状の確認も可能であった。高圧ホモジナイザー解繊処理では繊維の剥離によって長く細い繊維が製造されたのに対し、ビーズミル解繊処理では繊維の切断によって短く太い繊維が製造されることがわかった。」

(2)各甲号証に記載された発明
ア 甲1−1に記載された発明
甲1−1の上記(1)ア(ア)の【請求項1】の記載によれば、甲1−1には、以下の発明(以下、「甲1−1発明」という。)が記載されているといえる。

「平均繊維外径が50〜110nmの範囲である多層カーボンナノチューブのカルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液であって、該多層カーボンナノチューブの含量が3〜20質量%の範囲であって、該多層カーボンナノチューブに対して質量比が0.1〜0.2のカルボキシメチルセルロースナトリウムを含み、レーザー回折・散乱法で測定した該分散液のメディアン径(d50)が0.3〜0.6μm、且つスパン値[(d90−d50)/d50]が0.9〜1.2であり、粘度が100mPa・s以下である多層カーボンナノチューブ含有カルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液。」

イ 甲1−5(甲2−1)に記載された発明
甲1−5の上記(1)オ(ア)の記載によれば、請求項1を引用する請求項4として、「カーボンナノチューブ含有組成物、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が0.5万以上6万以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」が記載されているといえる。
そして、上記同(エ)の[0032]の「重量平均分子量が0.5万以上6万以下の範囲の分散剤を用いることで、分散時にカーボンナノチューブ間の隙間に分散剤が入りやすくなる。そのため、より少ないエネルギーでカーボンナノチューブの分散が可能となり、カーボンナノチューブを高分散できるとともに、カーボンナノチューブの切断が抑制される。・・・分散剤の量が少なくても良好な分散性が得られることから、分散剤の重量平均分子量の範囲は1万以上6万以下であることが好ましく、1万以上4万以下であることがさらに好ましい。」との記載、及び上記同(エ)の[0038]の「また、加水分解により得られるカルボキシメチルセルロースのエーテル化度は、0.4以上1以下が好ましい。」との記載によれば、甲1−5に記載される、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液のカルボキシメチルセルロースについて、重量平均分子量の好ましい範囲として「1万以上6万以下」の範囲であることが、またカルボキシメチルセルロースは、「0.4以上1以下」のエーテル化度を有するものであることが理解できる。
また、上記同オの[0044]及び[0045]の「水系溶媒とは、水または水と混和する有機溶媒である。・・・これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブの分散性から好ましい。さらに好ましくは水である。」との記載によれば、甲1−5に記載される分散液に含まれる水系溶媒の好ましいものとして「水」が理解できる。
以上を踏まえると、甲1−5には、以下の発明(以下、「甲1−5発明」という。)が記載されているといえる。

「カーボンナノチューブ含有組成物、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が1万以上6万以下であり、エーテル化度が0.4以上1以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩および水を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」

ウ 甲1−6に記載された発明
甲1−6の上記(1)カ(ア)の記載によれば、請求項1を引用する請求項3として、「カーボンナノチューブ含有組成物、エーテル化度が0.4以上0.7未満であり、ゲルパーミエーションクロマトフラフィーで測定した重量平均分子量が5千以上6万以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および分散媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」が記載されているといえる。
そして、上記同(エ)の【0036】の「分散剤として使用するポリマーの重量平均分子量の範囲は5千以上6万以下が好ましく、特に1万以上6万以下であることが好ましく、さらに好ましくは、2万以上6万以下である。」との記載によれば、甲1−6に記載される、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液のカルボキシメチルセルロースについて、重量平均分子量の好ましい範囲として「1万以上6万以下」の範囲が理解できる。
また、上記同(カ)の【0046】の「本発明で用いる水系溶媒は、分散剤を溶解し、カーボンナノチューブが分散するものであれば限定はなく、水および水と混和する溶媒類を用いることができる。・・・これらのなかでも特に、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブ分散性から好ましい。さらに、カルボキシメチルセルロースの溶解性とカーボンナノチューブの分散性の点から、水を用いることが最も好ましい。」との記載によれば、甲1−6に記載される分散液に含まれる分散媒の最も好ましいものとして「水」が理解できる。
以上を踏まえると、甲1−6には、以下の発明(以下、「甲1−6発明」という。)が記載されているといえる。

「カーボンナノチューブ含有組成物、エーテル化度が0.4以上0.7未満であり、ゲルパーミエーションクロマトフラフィーで測定した重量平均分子量が1万以上6万以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および水を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液。」

(3)申立理由1について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1−1発明を対比すると、甲1−1発明の「多層カーボンナノチューブ」及び「カルボキシメチルセルロースナトリウム」は、それぞれ、本件発明1の「カーボンナノチューブ」及び「カルボキシメチルセルロースまたはその塩」に相当し、甲1−1発明の「多層カーボンナノチューブのカルボキシメチルセルロースナトリウム水分散液」は、本件発明1の「カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液」に相当する。
そして、甲1−1発明の「カルボキシメチルセルロースナトリウム」については、甲1−1の上記(1)ア(エ)の【0037】に具体的な製品の例示がなされているが、その殆どのエーテル化度が、本件発明1での0.5〜0.9の範囲に含まれていることから、甲1−1発明の「カルボキシメチルセルロースナトリウム」は、本件発明1の「カルボキシメチルセルロースまたはその塩」と同程度のエーテル化度を有しているといえる。
そうすると、両発明は、「カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、エーテル化度が0.5〜0.9である、カーボンナノチューブ分散液。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
カルボキシメチルセルロースまたはその塩について、本件発明1では、重量平均分子量が1万〜10万であるのに対し、甲1−1発明では、重量平均分子量が明らかでない点。

<相違点2>
カーボンナノチューブ分散液について、本件発明1では、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上であるのに対し、甲1−1発明では、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)、複素弾性率及び位相角が明らかでない点。

(イ)相違点についての検討
事案にかんがみ、まず上記相違点2について検討する。
甲1−2及び甲1−3の上記(1)イ及びウの記載事項を見ても、少なくとも、カーボンナノチューブ分散液において、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下とすることは記載されていない。
また、甲1−1の上記同ア(ウ)の【0022】の記載によれば、甲1−1発明は、水溶性樹脂をバインダーとして使用する電極膜において、電極膜構成要素であるカルボキシメチルセルロースナトリウムのみを用い且つ少量添加で、極めて高い凝集力を有する凝集体である多層カーボンナノチューブを高濃度まで分散および分散安定化させた、電極膜作製用多層カーボンナノチューブ水分散液を提供することを発明の課題としているところ、このカルボキシメチルセルロースについては、同(エ)の【0041】の記載によれば、その添加量は、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積との相関や、多層カーボンナノチューブ含有電極膜内における添加量の制限により、注意深く決定されることが記載されている。一方、甲1−2の上記同イ(ア)には、束型(bundle−type)カーボンナノチューブを含む導電材と、分散剤と、分散媒とを含むものにおいて、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、位相角が3゜〜18゜とすることが記載されているが、甲1−2の上記同(ウ)の【0032】の「導電材分散液の位相角は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比、またその製造過程でのミリング工程時の条件制御により実現することができる。」との記載によれば、導電材分散液の位相角は、分散剤および分散媒の種類や混合比によるものである。
そうすると、甲1−1発明に、甲1−2に記載の位相角の範囲を適用しようとすれば、甲1−1発明の導電材、分散剤の混合比等を調整する必要があるところ、このためには、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積と相関や、多層カーボンナノチューブ含有電極膜内における添加量の制限により、注意深く決定された甲1−1発明のカルボキシメチルセルロースの配合量を敢えて変更等しなければならないが、甲1−1発明には、この様なことを行って導電材分散液の位相角を所定の範囲とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲1−2の上記同(ウ)の【0032】の記載によれば、分散剤及び分散媒の種類によって導電材分散液の位相角は変化するといえるところ、甲1−2における導電材分散液において、分散剤は、上記同(ア)の【請求項4】及び同(エ)の【0077】〜【0079】に記載されるようにニトリルブタジエン系ゴムであり、分散媒は、上記同(ア)の【請求項11】及び同(エ)の【0088】に記載されるように、アミド系極性有機溶媒等の有機溶媒であり、分散剤が、カルボキシメチルセルロースであり、分散媒が水である、甲1−1発明と相違するから、単純に、甲1−2に記載される位相角を、甲1−1発明に適用することができるとはいえない。
さらには、甲1−2の上記同(オ)の【0162】〜【0164】の記載によれば、位相角の値が変化すれば複素弾性率の値も変化するといえるから、この点でも単純に、甲1−2に記載される位相角を、甲1−1発明に適用することができるとはいえない。
なお、甲1−2の上記同(オ)【0170】〜【0174】の特に【表6】には、正極形成用組成物の実施例である実施例3−2において、位相角(°)が20.4、|G*|(Pa)が23.4であり、位相角と|G*|の積が、100以上1,500の範囲に入る例が記載されているが、正極形成用組成物とは、甲1−2の上記同(オ)の【0170】の記載によれば、導電材分散液16.8重量%に対して固体である正極活物質を81.5重量%含むものであり、導電材分散液といえるものではないから、この正極形成用組成物における位相角(°)と|G*|(Pa)の値を、甲1−1発明に適用できるとはいえない。
また、甲1−3の上記同ウ(ア)の【請求項1】の記載によれば、束型カーボンナノチューブを含む導電材と、水素化したニトリル系ゴムを含む分散剤と、分散媒と、を含む導電材分散液において、レオメータ測定の際、周波数が1Hzである時に、複素弾性率(|G*|@1Hz)が20Pa〜500Paである、導電材分散液が記載されているが、甲1−3の上記同(ウ)の【0030】の「前記のような導電材分散液の物性的特徴は、これを構成する導電材、分散剤および分散媒の種類、物性および混合比の制御により実現することができる。」との記載によれば、導電材分散液の複素弾性率は、分散剤および分散媒の種類、物性及び混合比によるところ、甲1−2について述べたのと同様に、多層カーボンナノチューブの平均繊維径及び比表面積と相関や、多層カーボンナノチューブ含有電極膜内における添加量の制限により、注意深く決定された甲1−1発明のカルボキシメチルセルロースの配合量を敢えて変更等して、導電材分散液の位相角を、甲1−3に記載されるような所定の範囲とする動機付けが、甲1−1発明にあるとはいえない。
また、甲1−3の上記同(ウ)の記載によれば、分散剤及び分散媒の種類、物性および混合比によって導電材分散液の複素弾性率が変化するところ、甲1−3における導電材分散液において、分散剤は、上記同(ア)の【請求項1】及び同(エ)の【0074】、【0080】に記載されるようにニトリル系ゴムであり、分散媒は、上記同(ア)の【請求項14】及び同(エ)の【0089】に記載されるように、アミド系極性有機溶媒等の有機溶媒であり、分散剤が、カルボキシメチルセルロースであり、分散媒が水である、甲1−1発明と相違するから、単純に、甲1−3に記載される複素弾性率を、甲1−1発明に適用することができるとはいえない。
さらには、甲1−2についてでも述べたように、位相角の値に応じて複素弾性率の値が変化するのであるから、この点でも単純に、甲1−3に記載される複素弾性率のみを、甲1−1発明に適用することができるとはいえない。
甲1−4には、位相角及び複素弾性率に関する記載はない。
そうすると、甲1−1発明において、複素弾性率及び位相角を本件発明1の範囲すること、ましてやそれらの積の値を本件発明1の範囲とすることは、甲1−2〜甲1−4に記載された事項を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1−1発明及び甲1−1〜甲1−4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2〜4、7〜14について
本件発明2〜4、7〜10は、カーボンナノチューブ分散液の発明であり、本件発明11は、二次電池電極用組成物の発明であり、本件発明12は、電極膜の発明であり、本件発明13は、二次電池の発明であり、本件発明14は、カーボンナノチューブ分散液の製造方法の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2〜4、7〜14は、甲1−1発明及び甲1−1〜甲1−4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1〜4、7〜14について、申立理由1には理由がない。

(4)申立理由2及び申立理由4について
異議申立人1による申立理由2と異議申立人1による申立理由4は、主となる証拠を含め証拠の多くが共通するのでまとめて検討する。
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1−5発明を対比すると、甲1−5発明の「カーボンナノチューブ含有組成物」は、甲1−5の上記(1)オ(ウ)の[0013]の記載によれば、「複数のカーボンナノチューブを含む総体」を意味するものであるから、本件発明1の「カーボンナノチューブ」に相当する。
そして、カルボキシメチルセルロースまたはその塩について、甲1−5発明の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量の範囲(1万以上6万以下)は、本件発明1の重量平均分子量の範囲(1万〜10万)に含まれるものである。
そうすると、両発明は、「カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、 前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万〜10万である、カーボンナノチューブ分散液。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点3>
カルボキシメチルセルロースまたはその塩について、本件発明1では、エーテル化度が0.5〜0.9であるのに対し、甲1−5発明では、0.4以上1以下である点。

<相違点4>
カーボンナノチューブ分散液について、本件発明1では、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上であるのに対し、甲1−5発明では、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)、複素弾性率及び位相角が明らかでない点。

(イ)相違点についての検討
事案にかんがみ、上記相違点4から検討をする。
a 申立理由2について
本件発明1の解決しようとする課題は、上記1(2)アで述べたとおり、「導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、および二次電池電極用組成物を提供する」ことであるが、本件発明1はこの課題を、上記相違点4に係る本件発明1の構成を採用することにより解決しようとするものである。ここで、本件発明1の課題の「高濃度かつ高い分散性」とは、上記課題に対する従来技術の「特許文献9および10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、カーボンナノチューブを数質量%以上含有させることはできず」(【0009】)との記載によれば、少なくとも数質量%を超えるものであるといえるから、上記相違点4に係る本件発明1の構成は、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を前提とし、少なくとも数質量%を超えるカーボンナノチューブ濃度を有する分散液を得ることを可能とするための構成であるといえる。
一方、甲1−5発明における分散液は、甲1−5の上記(1)オ(オ)の[0046]の記載によれば、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液における濃度について、0.1質量%から0.3質量%の範囲が好ましいとされるものであり、本件発明1のカーボンナノチューブ分散液のように、カーボンナノチューブを少なくとも数質量%を超えて含有させようとするものではないから、少なくとも数質量%を超えるカーボンナノチューブ濃度を有する分散液を得ることを可能とするための構成である、上記相違点4に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けが、甲1−5発明にあるとはいえない。
上記相違点4に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けが甲1−5発明にないのであるから、他の証拠の記載内容にかかわらず、上記相違点4に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到しえたということはできないが、念のため、他の証拠の記載事項についても検討する。
上記(3)ア(イ)で述べたように、甲1−2及び甲1−3には、少なくとも、カーボンナノチューブ分散液において、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下とすることは記載されていない。
そして、分散液の位相角は、分散剤および分散媒の種類等によるところ、分散剤が、ニトリルブタジエン系ゴムであり、分散媒が、アミド系極性有機溶媒等の有機溶媒である甲1−2における導電材分散液は、分散剤が、カルボキシメチルセルロースであり、分散媒が水である、甲1−5発明と相違するから、単純に、甲1−2に記載される位相角を、甲1−5発明に適用することができるとはいえないし、甲1−2に記載される、正極形成用組成物の実施例である実施例3−2の位相角及び|G*|(Pa)の値を、カーボンナノチューブ含有組成物の分散液である甲1−5発明に適用できるとはいえない。
また、甲1−3における導電材分散液も、甲1−2における導電材分散液の場合と同様に、分散液における分散剤、分散媒等が、甲1−5発明と異なるのであるから、単純に、甲1−3に記載される複素弾性率を、甲1−5発明に適用することができるとはいえない。
さらに、位相角の値に応じて複素弾性率の値が変化するのであるから、この点でも単純に、甲1−2に記載される位相角のみを、甲1−3に記載される複素弾性率のみを、それぞれ甲1−5発明に適用することができるとはいえない。
甲1−4には、位相角及び複素弾性率に関する記載はない。
そうすると、甲1−5発明において、複素弾性率及び位相角を本件発明1の範囲すること、ましてやそれらの積の値を本件発明1の範囲とすることは、甲1−2〜甲1−4に記載された事項を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

b 申立理由4について
上記(ア)で述べたとおり、上記相違点4に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けが甲1−5発明にあるとはいえないから、他の証拠の記載内容にかかわらず、上記相違点4に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到しえたということはできないが、念のため、他の証拠の記載事項についても検討する。
甲1−2、甲1−3に加え、甲2−4の上記(1)キの記載事項を見ても、少なくとも、カーボンナノチューブ分散液において、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下とすることは記載されていない。
そして、甲1−1及び甲1−2の記載事項を甲1−5発明に適用することができないことは、上記(ア)で述べたとおりである。
また、甲2−4の上記同キ(エ)の【0052】には、「レオロジー特性のうち、位相角の分析によって、一定のせん断速度を加えた後のスラリーの位相角の値が45゜以上であれば、良好な分散性を有すると言われる。図2を参照すれば、実施例のスラリーは、せん断速度を加えた後のスラリーの位相角の値が45゜以上を示していることから、良好な分散性を有しているといえる。」との記載がある。しかしながら、上記の「実施例のスラリー」とは、上記同(エ)の【0044】の記載によれば、電極活物質分散物であるのに対し、上記同(ア)及び同(エ)の【0040】の記載によれば、本件発明1のカーボンナノチューブ分散液に対応するのは、甲2−4の「導電材分散物」であるところ、この導電材分散物は、上記同(オ)の図2における評価によれば位相角が5°程度しかないものであるから、甲1−5発明に、甲2−4に記載の事項を適用したとしても、甲1−5発明のカーボンナノチューブ分散液における位相角を高めるものとはならない。しかも、位相角を測定している導電材分散物における、導電材はカーボンブラックであり、分散剤は使用しておらず、分散媒もNMP(N−メチル−2−ピロリドン)であり、甲1−5発明のカーボンナノチューブ分散液とは異なるものであるから、単純に、甲2−4に記載される位相角を、甲1−5発明に適用することができるとはいえない。
さらに、位相角の値に応じて複素弾性率の値が変化するのであるから、この点でも単純に、甲2−4に記載される位相角のみを、甲1−5発明に適用することができるとはいえない。
なお、甲1−2、甲1−3及び甲2−4の記載から、分散液におけるカーボンナノチューブの分散性が複素弾性率や位相角と関連付けられた(異議申立人2の異議申立書10頁7〜9行)としても、それらの積(X×Y)を100以上1,500以下とすることを容易に想到し得るとはいえない。
甲1−1及び甲2−6には、位相角及び複素弾性率に関する記載はない。
そうすると、甲1−5発明において、複素弾性率及び位相角を本件発明1の範囲すること、ましてやそれらの積の値を本件発明1の範囲とすることは、甲1−1〜甲1−3、甲2−4及び甲2−6に記載された事項を考慮したとしても、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点4に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1−5発明及び甲1−1〜甲1−5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし(申立理由2)、甲1−5発明及び甲1−5、甲1−1〜甲1−3、甲2−4及び甲2−6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない(申立理由4)。

イ 本件発明2、3、5〜14について
本件発明2、3、5〜10は、カーボンナノチューブ分散液の発明であり、本件発明11は、二次電池電極用組成物の発明であり、本件発明12は、電極膜の発明であり、本件発明13は、二次電池の発明であり、本件発明14は、カーボンナノチューブ分散液分散液の製造方法の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3、5〜14は、甲1−5発明及び甲1−1〜甲1−5に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないし(申立理由2)、甲1−5発明及び甲1−5、甲1−1〜甲1−3、甲2−4及び甲2−6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない(申立理由4)。

ウ 申立理由2及び4に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3、5〜14について、申立理由2及び4には理由がない。

(5)申立理由3について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1−6発明を対比すると、甲1−6発明の「カーボンナノチューブ含有組成物」は、上記(1)カ(ウ)の【0013】の記載によれば、「複数のカーボンナノチューブを含む総体」を意味するものであるから、本件発明1の「カーボンナノチューブ」に相当する。
そして、カルボキシメチルセルロースまたはその塩について、甲1−6発明のエーテル化度の範囲(0.4以上0.7未満)は、本件発明1の範囲(0.5〜0.9)に含まれ、甲1−6発明の「ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量の範囲(1万以上6万以下)は、本件発明1の重量平均分子量の範囲(1万〜10万)に含まれるものである。
そうすると、両発明は、「カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、 前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万〜10万、エーテル化度が0.5〜0.9である、
カーボンナノチューブ分散液。」である点で一致し、次の点で相違する。

<相違点5>
カーボンナノチューブ分散液について、本件発明1では、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上であるのに対し、甲1−6発明では、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)、複素弾性率及び位相角が明らかでない点。

(イ)相違点についての検討
上記(4)ア(イ)aで述べたように、上記相違点5に係る本件発明1の構成は、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を前提とし、少なくとも数質量%を超えるカーボンナノチューブ濃度を有する分散液を得ることを可能とするための構成であるといえる。
一方、甲1−6の上記(1)カ(カ)【0045】の「分散液全体に対するカーボンナノチューブ含有組成物の量は0.01重量%以上、20重量%以下であることが好ましく、0.01〜10重量%であることが好ましい。」との記載によれば、甲1−6発明における分散液について、分散液全体に対するカーボンナノチューブ含有組成物の量として広範な範囲が記載されるものの、甲1−6の上記同(キ)の【0096】に記載される実施例では、カーボンナノチューブ含有組成物15mg、3質量%カルボキシメチルセルロースアンモニウム水溶液500mgを量りとり、蒸留水を加え10gにし、分散前のカーボンナノチューブ混合液を調製し、1質量%アンモニア水溶液を用いてpH7にあわせ、超音波ホモジナイザーで分散して、カーボンナノチューブ分散液を調製しているように、 カーボンナノチューブ含有組成物の分散液における濃度は、約0.15重量%程度であることから、甲1−6発明は、実際には、本件発明1のカーボンナノチューブ分散液のように、カーボンナノチューブを少なくとも数質量%を超えて含有させようとするものであるとはいえない。
そうすると、上記(4)ア(イ)aで述べたのと同様に、高いカーボンナノチューブの濃度に対応して特定される上記相違点5に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けが甲1−6発明にあるとはいえない。
また、甲1−2〜甲1−4を考慮しても、上記相違点5に係る本件発明1の構成が、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないことも、上記(4)ア(イ)aで述べたのと同様である。
さらに、甲1−5には、位相角及び複素弾性率に関する記載はないのであるから、さらに、甲1−5を考慮したとしても、上述の判断は変わらない。

(ウ)小括
以上のとおり、上記相違点5に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1−6発明及び甲1−1〜甲1−6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2、3、5〜14について
本件発明2、3、5〜10は、カーボンナノチューブ分散液の発明であり、本件発明11は、二次電池電極用組成物の発明であり、本件発明12は、電極膜の発明であり、本件発明13は、二次電池の発明であり、本件発明14は、カーボンナノチューブ分散液分散液の製造方法の発明であるが、これらの発明は、いずれも直接又は間接的に本件発明1を引用し、本件発明1の構成をすべて具備するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2、3、5〜14は、甲1−6発明及び甲1−1〜甲1−6に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由3に関するまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3、5〜14について、申立理由3には理由がない。

第6 むすび

上記第5で検討したとおり、本件特許1〜3、5〜14は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1、2及び上記申立理由1〜4では、本件特許1〜3、5〜14を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1〜3、5〜14を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件特許4は、本件訂正により削除され、本件特許4に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の容量は、主材料である正極活物質および負極活物質に大きく依存することから、各種材料が盛んに研究されているが、実用化されている活物質の充電容量はいずれも理論値に近いところまで到達しており、改良は限界に近い。そこで、電池内の活物質充填量が増加すれば、単純に容量を増加させることができるため、容量には直接寄与しない導電材やバインダーの添加量を削減する試みが行われている。このうち導電材は、電池内部で導電パスを形成し、活物質粒子間を繋ぐことで活物質の膨張収縮による導電パスの切断を防ぐ等の役割を担っており、少ない添加量で性能を維持するためには、導電材分散液を用いて効率的な導電ネットワークを形成させることが有効である(特許文献1)。
【0003】
導電材としては、カーボンブラック、ケッチェンブラック、グラフェン、微細炭素材料等が使用されている。微細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブの内、特に外径が小さく比表面積が大きなカーボンナノチューブを用いると、少量で効率的に導電ネットワークを形成することができ、リチウムイオン二次電池用の正極および負極中に含まれる導電材量を低減することができる。例えば、黒鉛やシリコン負極にカーボンナノチューブを添加することにより、電極抵抗を低減したり、電池の負荷抵抗を改善したり、電極の強度を上げたり、電極の膨張収縮性を上げることで、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を向上させている(特許文献2、3および4)。シリコン系活物質は黒鉛よりも理論容量が大きく、電池の高容量化に貢献できるが、充放電に伴う体積変化が著しいことから、微粒子化し、粒子の表面に薄い炭素被膜を形成させた上で、黒鉛と併用してサイクル寿命を改善しようという試みがある。
【0004】
黒鉛とシリコン系活物質を併用する負極において、結着剤の選択が非常に難しい問題となる。黒鉛単独系で使用されるスチレンブタジエンゴム(SBR)は、黒鉛とシリコン系活物質併用系においては、特性が著しく悪化してしまう。SBRは活物質粒子をゴムの粒子で結着し、活物質と電解質を接触させるような設計となっているが、膨張収縮が黒鉛よりも大きなシリコン系負極活物質が入る場合、SBR単独では結着力が弱く、充放電サイクル初期に結着が破られてしまう問題がある。そこで、水に均一分散または溶解したポリアクリル酸やポリアクリル酸塩等の結着材とSBRを使用することにより、結着材で、活物質表面を広範に覆い、その表面樹脂層が活物質同士を結着する手法が行われている(特許文献5)。しかしながら、低分子量のポリアクリル酸やポリアクリル酸塩をバインダーとして使用した場合は、良好なサイクル特性を得ることができなかった(特許文献6および非特許文献1)。
【0005】
正極でも、カーボンナノチューブを添加することにより、電極抵抗を低減する検討が行われている(特許文献7および8)。正極活物質の多くは水に対して不安定であるが、例えばリン酸鉄リチウムは水に対して比較的安定であることから、水を分散媒として二次電池用電極を製造することができる。また、リン酸鉄リチウムは特に導電性に乏しいため、薄い炭素被膜を形成させて用いるのが一般的である。リン酸鉄リチウムは固体内のリチウム拡散抵抗が高いことから、微粒子として使用することで電極膜としての抵抗を改善させる方法が知られている。
【0006】
また、環境負荷低減やコスト削減といった観点から、水を分散媒とする導電材分散液の需要が高まっているが、カーボンナノチューブは疎水性が高いことから、水への分散が難しく、様々な試みが報告されている。例えば、特許文献9には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量が0.5万以上6万以下であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水系溶媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液が、特許文献10には、エーテル化度が0.4以上0.7未満であるカルボキシメチルセルロースまたはその塩からなる分散剤および分散媒を含むカーボンナノチューブ含有組成物の分散液が提案されている。特許文献11には外径50nm以上110nm以下のカーボンナノチューブをカルボキシメチルセルロースナトリウムとともに水に分散し、二次電池用電極に用いることで、導電性を向上させる方法が記載されている。
【0007】
一般に、カーボンナノチューブの外径が小さくなるほど比表面積が大きくなることから、水への濡れ性が悪くなり、高濃度かつ良好な分散液を得るのが難しくなる。しかしながら、外径が小さく、比表面積が高いカーボンナノチューブほど理想的には効率的な導電ネットワークを形成させることができることから、外径が小さく、比表面積が高いカーボンナノチューブを良好に分散した分散液を得ることは急務であった。さらに、カーボンナノチューブの濃度が低い分散液では、活物質やバインダー等の材料を配合した際の設計自由度が低くなるといった問題や、カーボンナノチューブ固形分あたりの輸送コストが高くなるといった問題が生じる。したがって、外径が小さく、比表面積が高いカーボンナノチューブを高濃度に分散させることも求められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−162877号公報
【特許文献2】特開平4−155776号公報
【特許文献3】特開平4−237971号公報
【特許文献4】特開2004−178922号公報
【特許文献5】特開2013−229163号公報
【特許文献6】米国特許第8034485号
【特許文献7】特開2011−70908号公報
【特許文献8】特開2005−162877号公報
【特許文献9】再表2014−002885号公報
【特許文献10】特開2016−204203号公報
【特許文献11】特開2016−028109号公報
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc.2008,155,A812−A816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、特許文献9および10に記載のカーボンナノチューブ含有組成物の分散液は、カーボンナノチューブを数質量%以上含有させることはできず、また、特許文献11に記載の分散液は、外径が小さく比表面積が高いカーボンナノチューブを分散させるには、分散性が不十分であった。さらに、高濃度のカーボンナノチューブ分散液は、保管中に凝集物や沈殿物を生じやすいため、貯蔵安定性も課題であった。沈降を防止するためには、分子量の高い分散剤を用いてカーボンナノチューブ分散液の粘度を高くする方法が有効であるが、塗工性が低下したり、ゲル化を生じやすくなるといった問題もあった。また、特許文献5記載の二次電池用負極の作製方法では、溶解したポリアクリル酸を二次電池電極用組成物に添加する方法やシリコン系活物質表面への被覆処理を行うことが推奨されているが、導電材としてCNTを使用する場合、この手法を用いても、ポリアクリル酸の不均一分布が発生してしまう問題があった。
【0010】
また、本発明者らが検討したところによると、微粒子化し、表面に炭素被膜を形成させたシリコン系活物質やリン酸鉄リチウム等の活物質は、上記のカーボンナノチューブと同様の理由で、水を分散媒として高濃度かつ良好な分散状態を得ることは難しいことがわかった。したがって、各種活物質はもちろんのこと、とりわけ、微粒子化し、表面に炭素被膜を形成させたシリコン系活物質やリン酸鉄リチウム等の活物質と、カーボンナノチューブとを組み合わせた場合に、特に良好な分散状態を得ることが難しく、結果として優れたレート特性およびサイクル特性を有する二次電池を得ることも難しいことが判明した。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、導電性の高い電極膜を得るために、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液、および二次電池電極用組成物を提供することである。さらに詳しくは、優れたレート特性およびサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供することである。
【0012】
そこで、本発明の実施形態は、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液を提供することを課題とする。また、本発明の実施形態は、二次電池電極用組成物を提供することを課題とする。さらに、本発明の実施形態は、二次電池の出力およびサイクル寿命を向上できる電極膜、および高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討したところによると、特定の重量平均分子量とエーテル化度を有するカルボキシメチルセルロースまたはその塩と、カーボンナノチューブとを、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下となるように分散することによって、カーボンナノチューブを水に良好に分散でき、かつ、少ない添加量で良好な導電ネットワークを維持させることが可能になった。これにより、二次電池のレート特性およびサイクル寿命を向上させることが可能となった。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の実施形態を含む。
カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万〜10万、エーテル化度が0.5〜0.9であり、
前記カーボンナノチューブ分散液の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下である、
カーボンナノチューブ分散液。
【0015】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が0.1〜0.8μmol/m2である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0016】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が40〜500μmol/gである、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0017】
複素弾性率が50Pa以下、位相角が15°以上である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0018】
カーボンナノチューブが、平均外径が0.5nm以上5nm未満の第一のカーボンナノチューブと、平均外径が5nm以上20nm以下の第二のカーボンナノチューブとを含み、第一のカーボンナノチューブと第二のカーボンナノチューブの質量比率が1:10〜1:100である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0019】
さらに、ポリアクリル酸を含む、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0020】
メジアン径が0.5μm以上2.0μm以下である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0021】
分散液のTI値が2.0〜5.0である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0022】
カーボンナノチューブ分散液の塗膜が、60°で測定した光沢が5〜120である、前記のカーボンナノチューブ分散液。
【0023】
pHが7.0〜10.5である、前記カーボンナノチューブ分散液。
【0024】
前記カーボンナノチューブ分散液を含む、二次電池電極用組成物。
【0025】
前記二次電池電極用組成物の塗工膜を含む、電極膜。
【0026】
前記電極膜を含む、二次電池。
【0027】
下記(1)および(2)の工程を順次行うことを特徴とする、前記カーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(1)高圧ホモジナイザーを用いて、60〜120MPaの圧力で分散し、メジアン径を4.0μm以下にする工程
(2)ビーズミルを用いて、位相角が、40°以上になるまで分散する工程
【発明の効果】
【0028】
本発明の実施形態によれば、高濃度かつ高い分散性を有するカーボンナノチューブ分散液および二次電池電極用組成物を提供することが可能である。また、本発明の実施形態によれば、二次電池の出力およびサイクル寿命を向上できる電極膜、および高い出力かつ良好なサイクル寿命を有する二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態であるカーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩、カーボンナノチューブ分散液、二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池等について詳しく説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明には要旨を変更しない範囲において実施される実施形態も含まれる。
【0030】
本明細書において、カーボンナノチューブを「CNT」と表記することがある。カルボキシメチルセルロースを「CMC」と表記することがある。なお、本明細書では、カーボンナノチューブ分散液を単に「分散液」という場合がある。
【0031】
〈カーボンナノチューブ〉
カーボンナノチューブ(CNT)は、平面的なグラファイトを円筒状に巻いた形状であり、単層CNT、多層CNTを含み、これらが混在してもよい。単層CNTは一層のグラファイトが巻かれた構造を有する。多層CNTは、二又は三以上の層のグラファイトが巻かれた構造を有する。また、CNTの側壁はグラファイト構造でなくともよい。また、例えば、アモルファス構造を有する側壁を備えるCNTも本明細書ではCNTである。
【0032】
CNTの形状は限定されない。かかる形状としては、針状、円筒チューブ状、魚骨状(フィッシュボーン又はカップ積層型)、トランプ状(プレートレット)及びコイル状を含む様々な形状が挙げられる。本実施形態においてCNTの形状は、中でも、針状、又は、円筒チューブ状であることが好ましい。CNTは、単独の形状、または2種以上の形状の組合せであってもよい。
【0033】
CNTの形態は、例えば、グラファイトウィスカー、フィラメンタスカーボン、グラファイトファイバー、極細炭素チューブ、カーボンチューブ、カーボンフィブリル、カーボンマイクロチューブ及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。カーボンナノチューブは、これらの単独の形態又は二種以上を組み合わせられた形態を有していてもよい。
【0034】
CNTの酸性基量は、ヘキシルアミンの吸着量から逆滴定にて求めることができる。CNTは、ヘキシルアミンの吸着量より求めた酸性基量が、CNTのBET法で算出した表面積を基準として0.1μmol/m2以上が好ましく、0.2μmol/m2以上がより好ましい。また、0.8μmol/m2以下が好ましく、0.7μmol/m2以下がより好ましい。CNTは、ヘキシルアミンの吸着量より求めた酸性基量が、CNTの質量を基準として、40μmol/g以上が好ましく、50μmol/g以上がより好ましく、120μmol/g以上がさらに好ましい。また、500μmol/g以下が好ましく、250μmol/g以下がより好ましく、220μmol/g以下がさらに好ましい。CNTの酸性基量を上記範囲とすることで、本発明のCMCと分散媒である水との親和性バランスがよくなり、良好なCNT分散液を得ることができる。
【0035】
CNTの外径は1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましい。また、30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましく、13nm以下がさらに好ましい。なお、平均外径は、まず透過型電子顕微鏡によって、CNTを観測するとともに撮像する。次に観測写真において、任意の300個のCNTを選び、それぞれの外径を計測し、その平均値により算出することができる。
【0036】
CNTとして、平均外径が異なる2種以上のCNTを使用する場合、第一のCNTの平均外径は0.5nm以上、5nm未満であることが好ましく、1nm以上、5nm未満であることがより好ましい。第二のCNTの平均外径は5nm以上、30nm以下であることが好ましく、5nm以上、20nm以下であることがより好ましい。CNTの平均外径は、透過型電子顕微鏡(日本電子社製によって、CNTの形態観察を行い、短軸の長さを計測し、その数平均値により、算出することができる。
【0037】
CNTとして、平均外径が異なる2種以上のCNTを使用する場合、第一のCNTと第二のCNTの質量比率は1:10〜1:100であることが好ましく、1:10〜1:50であることがより好ましい。
外径の小さいCNTは、電極層において距離が離れた活物質間を導通することができ、また、充放電に伴う活物質の膨張収縮に追従しやすいため好ましい。また外径が大きいCNTは、距離が近い活物質問を導通することができ、かつ活物質との接触確率が高いため好ましい。
【0038】
CNTの比表面積は100m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がより好ましく、200m2/g以上がさらに好ましい。また、1200m2/g以下が好ましく、1000m2/g以下がより好ましい。CNTの比表面積は窒素吸着測定によるBET法で算出する。
【0039】
CNTの炭素純度はCNT中の炭素原子の含有率(質量%)で表される。炭素純度はCNT100質量%に対して、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましい。炭素純度を上記範囲にすることにより、不純物によってデンドライトが形成されショートが起こる等の不具合を防ぐことができる。
【0040】
導電材として、さらにカーボンブラック、グラファイト等の炭素材料を1種または2種以上併用して用いてもよい。これらの導電材の中でも、分散剤の吸着性能の観点からカーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。また、カーボンブラックは、中性、酸性、塩基性のいずれでもよく、酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラックを使用してもよい。
【0041】
CNTの含有量は、カーボンナノチューブ分散液の不揮発分中、0.2質量%以上が好ましく、0.4質量%以上がより好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。上記範囲にすることで、沈降やゲル化を起こすことなく、CNTを良好に、かつ安定に存在させることができる。また、CNTの含有量は、CNTの比表面積、分散媒への親和性、分散剤の分散能等によって、適当な流動性または粘度のカーボンナノチューブ分散液が得られるように、適宜調整することが好ましい。
【0042】
〈カルボキシメチルセルロースまたはその塩〉
カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩は、セルロースを原料として得られるアニオン系水溶性高分子である。CMCの重量平均分子量は1万以上が好ましい。また、10万以下が好ましく、7万以下がさらに好ましく、6万以下がより好ましく、3万以下が特に好ましい。重量平均分子量を上記範囲とすることで、CMCとCNTとの分子間力、および、CMCと水との分子間力のバランスがよくなり、良好に分散させ、状態を維持できる。また、CMCのエーテル化度は0.5以上か好ましく、0.6以上がより好ましい。また、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。エーテル化度を上記範囲とすることで、水およびCNTに対して適度な親和性を持たせることができる。さらに、二次電池に用いた場合には、電池内で分散剤が電解液に溶解して電解液の粘度を増大させるなどの不具合を防ぐことができる。
【0043】
CMCまたはその塩の製造方法は特に限定はされず、一般的なCMCまたはその塩の製造方法により製造することができる。すなわち、セルロースにアルカリを反応させるマーセル化反応を行った後、得られたアルカリセルロースにエーテル化剤を添加してエーテル化反応を行うことで製造される。例えば、水と有機溶媒を含む混合溶媒を用いてマーセル化反応を行った後、モノクロロ酢酸を加えてエーテル化反応を行い、その後、過剰のアルカリを酸で中和した後、混合溶媒の除去、洗浄および乾燥を経て、粉砕する事により製造することができる。マーセル化反応の反応時間を長くすることでセルロース原料を低分子量化することができる。
【0044】
CMCの重量平均分子量は、プルラン換算の重量平均分子量で、10,000以上が好ましく、15,000以上がより好ましい。また、100,000以下が好ましく、60,000以下がより好ましく、30,000以下がさらに好ましい。適度な重量平均分子量を有するとCNTへの吸着性が向上し、分散体の安定性がより向上する。また、上記範囲を下回ると吸湿性が高くなり、膜強度が低下しやすくなる。上記範囲を上回ると水溶液中での水素結合により粘度が高くなり、CNTの仕込み性および機貯蔵安定性が低下する。また、上記範囲を上回ると、ノズル式の高圧ホモジナイザーなどの狭い流路を被分散液が通過するタイプの分散機を用いた場合、狭い流路への移送が困難になり、分散効率が低下する。
【0045】
市販のCMCは上記好ましい範囲よりも高分子量のものが多いため、酸性水溶液中で加水分解反応することにより低分子量化して用いてもよい。加水分解させるCMCは、重量平均分子量が6万より大きく50万以下が好ましい。重量平均分子量が50万を超えると加水分解反応に時間がかかり、CMCの酸化分解物が多量に発生するため、精製が困難となる。酸性水溶液中での加水分解反応は、加熱、加圧して行うと短時間で反応が進む。反応時間、温度、pHを調整することで、CMCの分子量をコントロールすることができる。また、冷却してアルカリでpH7以上に中和することで反応を停止することができる。酸および塩基は、一般に入手しやすいものを用いることができる。
【0046】
CMCまたはその塩の含有量は、CNTの質量を基準として10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、100質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。上記範囲にすることで、二次電池用電極に用いた際の導電性を害することなくCNTを良好に、かつ安定に存在させることができる。また、塗加工性および貯蔵安定性の観点から、分散で用いたCMCよりも高分子量のCMCを加えてもよい。高分子量のCMCを加える場合、CNT分散液を製造した後、または分散工程の終盤で加えるのが好ましい。分散初期から加えると分散媒の粘度が高くなりすぎて撹拌効率が低下する、あるいは、CNTに対する吸着平衡が変化し分散性が低下するといった不具合が起こり得る。
【0047】
〈分散媒〉
分散媒は水であり、任意で、水溶性溶媒を含んでもよい。水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0048】
〈カーボンナノチューブ分散液〉
本発明のCNT分散液は、少なくともCNT、CMCまたはその塩、および水を含有する。本発明のカーボンナノチューブ分散液は、必要に応じて、分散剤、湿潤剤、消泡剤、界面活性剤、pH調整剤、濡れ浸透剤、酸化防止剤、防腐剤、防カビ剤、レベリング剤等、その他の添加剤、または水溶性分散媒、CNT以外の導電材、CMC以外の高分子成分を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができ、分散体作製前、分散時、分散後等、任意のタイミングで添加することが出来る。pH調整剤としてはポリアクリル酸を用いるのが好ましい。ポリアクリル酸は任意の重合度のものを用いることができ、任意のモノマーとの共重合体として用いてもよい。一般的に知られる合成方法にて製造してもよいし、市販品を購入して用いてもよい。
【0049】
pH調整剤としての、ポリアクリル酸の分子量については、特に限定されないが、重量平均分子量が5,000〜100,000であることが好ましく、10,000〜50,000であることがさらに好ましい。
【0050】
pH調整剤としての、ポリアクリル酸は、中和処理がされていないものを使用することが好ましい。ポリアクリル酸は、カルボキシル基の中和処理がなされることによって、対イオン凝縮という現象を発生し、水溶液粘度が著しく上昇する。水溶液粘度の上昇によって、カーボンナノチューブ分散液のハンドリング性が悪化することに加え、以下に述べる電極用組成物作製時の水分を、乾燥工程を経ても微量ながら保持し、二次電池の性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0051】
CNT分散液のpHは、7.0以上10.5以下が好ましく、9.0以上10.5以下が好ましい。pHが上記範囲を下回ると、CNT分散液がゲル化しやすくなる。pHが上記範囲を上回ると、電池内での各種原料および外装材等の腐食、またはバインダーのゲル化といった問題が生じやすくなる。pHは、一般的なpHメーターにより測定することができる。
【0052】
CNT分散液におけるCNTの分散性は、動的粘弾性測定による複素弾性率及び位相角で評価することができる。複素弾性率は、CNT分散液の硬さを示し、CNTの分散性が良好で、CNT分散液が低粘度であるほど小さくなる。しかし、カーボンナノチューブの繊維長が大きい場合、またはカーボンブラックのストラクチャー長が大きい場合には、導電材が媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、導電材自体の構造粘性があるため、複素弾性率が高い数値となる場合がある。また、位相角は、CNT分散液に与えるひずみを正弦波とした場合の応力波の位相ズレを意味し、すなわち分散液の流れ易さを示している。純弾性体であれば、与えたひずみと同位相の正弦波となるため、位相角0°となる。一方で、純粘性体であれば90°進んだ応力波となる。一般的な粘弾性測定用試料では、位相角が0°より大きく90°より小さい正弦波となり、CNT分散液におけるCNTの分散性が良好であれば、位相角は純粘性体である90°に近づく。しかし、複素弾性率と同様に、導電材自体の構造粘性がある場合には、導電材が媒体中で均一かつ安定に解れた状態であっても、位相角が低い数値となる場合がある。
【0053】
CNT分散液の複素弾性率は、50Pa以下が好ましく、20Pa未満がより好ましく、10Pa以下がより好ましく、5Pa以下が更に好ましい。CNT分散液の複素弾性率は、0.01Pa以上が好ましく、0.05Pa以上がより好ましく、0.1Pa以上が更に好ましい。CNT分散液の位相角は、5°以上が好ましく、19°以上がより好ましく、30°以上が更に好ましく、45°以上が特に好ましい。CNT分散液の位相角は、90°以下が好ましく、85°以下がより好ましく、80°以下が更に好ましい。複素弾性率と位相角は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0054】
CNT分散液の複素弾性率および位相角は、CNT分散液におけるCNTの分散性と、CNT、CMC、およびその他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等の影響によって決まることから、複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)を上記の好ましい範囲とし、かつ、これらの積(X×Y)が100以上1,500以下であると、分散安定性の優れたCNT分散液を得ることができ、さらに、優れた導電ネットワークを形成できることにより導電性が非常に良好な電極膜を得ることができる。また、重量平均分子量が1万〜10万かつエーテル化度が0.5〜0.9であるCMCは、それ自身の粘弾性が小さいが、CNT分散液とした場合の複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であると、二次電池の電極組成物として使用される増粘剤やバインダーの役割を担うことができ、電極強度が向上し、電池性能が向上するものと思われる。また、複素弾性率が50Pa以下、位相角が15°以上であるとより好ましい。単にCNT分散液の粘度が低く(見かけ上の)分散性が良好であればよいのではなく、複素弾性率および位相角を、粘度等の従来の指標と組み合わせて分散状態を判断することが特に有効である。
【0055】
CNT分散液におけるCNTの分散性は、レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めたメジアン径(μm)でも評価できる。レーザー回折/散乱式の粒度分布計にて求めたメジアン径(μm)では、粒子による散乱光強度分布により、CNT凝集粒子の粒子径を見積もることができる。メジアン径(μm)は0.5以上5.0以下が好ましく、0.5以上2.0以下がより好ましい。上記範囲とすることで適切な分散状態のCNT分散液を得ることができる。上記範囲を下回ると凝集した状態のCNTが存在し、また、上記範囲を上回ると微細に切断されたCNTが多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなるおそれがある。メジアン径は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0056】
CNT分散液におけるCNTの分散性は、平滑なガラス基材の上に塗工し、焼き付け乾燥させて得た塗膜の60°にて測定した光沢(すなわち、入射角に対して60°における反射光の強度)でも評価できる。例えば、CNT分散液を平滑なガラス基板上に1mL滴下し、No.7のバーコーターにて2cm/秒で塗工した後、140℃の熱風オーブンで10分間焼き付け、放冷して得た塗膜を、光沢計(BYK Gardner製光沢計 microgross60°)を用い、端部を除く塗膜面内の3か所を無作為に選び、1回ずつ測定した平均値を60°における光沢とすることができる。塗膜に対して入射した光は、分散性が良好であるほど塗膜表面が平滑となるため、光沢が高くなる。逆に、分散性が悪いほど塗膜表面の凹凸によって光の散乱が起こるため、光沢が低くなる。60°における光沢は、実施例に記載の方法により測定することができる。光沢は5以上が好ましく、50以上がより好ましく、60以上がさらに好ましく、70以上が特に好ましい。また、120以下が好ましく、110以下がさらに好ましい。上記範囲とすることで適切な分散状態のCNT分散液を得ることができる。上記範囲を下回ると凝集した状態のCNTが存在し、また、上記範囲を上回ると微細に切断されたCNTが多数生じることから、効率的な導電ネットワークの形成が難しくなる。
【0057】
CNT分散液のTI値は、B型粘度計にて測定した60rpmにおける粘度(mPa・s)を、6rpmにおける粘度(mPa・s)で除した値から算出できる。TI値は2.0以上5.0以下が好ましい。TI値が高いほどCNT、CMC、その他樹脂成分の絡まり、またはこれらの分子間力等に起因する構造粘性が大きく、TI値が低いほど構造粘性が小さくなる。TI値を上記範囲とすることで、CNTやCMC、その他樹脂成分の絡まりを抑えつつ、これらの分子間力を適度に作用させることができる。
【0058】
本発明のカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの繊維長は、0.3〜5μmであることが好ましく、0.5〜3.5μmであることがより好ましい。
【0059】
〈分散方法〉
本発明のCNT分散液は、例えば、CNT、CMCまたはその塩、および水を、分散装置を使用して、分散処理を行い微細に分散して製造することが好ましい。なお、分散処理は、使用する材料の添加タイミングを任意に調整し、2回以上の多段階処理ができる。
【0060】
分散装置は、例えば、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、プラネタリーミキサー、ボールミル、横型サンドミル、縦型サンドミル、アニュラー型ビーズミル、アトライター、ハイシアミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。特に、CNTの濡れを促進し、粗い粒子を解す観点から、分散の初期工程ではハイシアミキサーを用い、続いて、CNTの繊維長を保ったまま分散させる観点から、高圧ホモジナイザーを用いるのが最も好ましい。また、高圧ホモジナイザーで分散させたあと、さらにビーズミルにて分散させることで、繊維長を保ちつつ、分散状態を均一化させることができる。高圧ホモジナイザーを使用する際の圧力は60〜150MPaが好ましく、60〜120MPaであることがより好ましい。
【0061】
分散装置を用いた分散方式には、バッチ式分散、パス式分散、循環分散等があるが、いずれの方式でもよく、2つ以上の方式を組み合わせてもよい。バッチ式分散とは、配管などを用いずに、分散装置本体のみで分散を行う方法である。取扱いが簡易であるため、少量製造する場合に好ましい。パス式分散とは、分散装置本体に、配管を介して被分散液を供給するタンクと、被分散液を受けるタンクとを備え、分散装置本体を通過させる分散方式である。また、循環式分散とは、分散装置本体を通過した被分散液を、被分散液を供給するタンクに戻して、循環させながら分散を行う方式である。いずれも処理時間を長くするほど分散が進むため、目的の分散状態になるまでパス、あるいは循環を繰り返せばよく、タンクの大きさや処理時間を変更すれば処理量を増やすことができる。パス式分散は循環式分散と比較して分散状態を均一化させやすい点で好ましい。循環式分散はパス式分散と比較して作業や製造設備が簡易である点で好ましい。分散工程は、凝集粒子の解砕、CNTの解れ、濡れ、安定化等が順次、あるいは同時に進行し、進行の仕方によって仕上がりの分散状態が異なることから、各分散工程における分散状態を各種評価方法を用いることにより管理することが好ましい。例えば、実施例に記載の方法で管理することができる。
【0062】
〈二次電池電極用組成物〉
本発明の二次電池電極用組成物は、少なくとも上記CNT分散液を含み、バインダー樹脂を含んでもよく、任意の成分をさらに混合してもよい。二次電池電極用組成物は水を含み、分散媒として例示した水溶性溶媒を任意に含んでもよい。
【0063】
〈バインダー樹脂〉
二次電池電極用組成物がバインダー樹脂をさらに含む場合、通常、塗料のバインダー樹脂として用いられるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂は、活物質、CNT、その他の導電材等の物質間を結合することができる樹脂であり、本明細書において、本発明のCNT分散液に含まれるCMCとは分子量、エーテル化度等が異なるCMCであってもよい。二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;セルロース樹脂;スチレン―ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなエラストマー;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。これらの中でも、正極のバインダー樹脂として使用する場合は、体制面から分子内にフッ素原子を有する重合体または共重合体、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等が好ましい。また、負極のバインダー樹脂として使用する場合は、密着性が良好なCMC(ただし、本発明のCNT分散液に含まれるCMCとは分子量、エーテル化度等が異なるCMC)、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸等が好ましい。
【0064】
二次電池電極用組成物に用いるバインダー樹脂の含有量は、二次電池電極用組成物の不揮発分中、0.5〜30質量%が好ましく、0.5〜25質量%がより好ましい。
【0065】
二次電池電極用組成物は、正極活物質または負極活物質を含んでもよい。本明細書では、正極活物質および負極活物質を、単に「活物質」という場合がある。活物質とは、電池反応の基となる材料のことである。活物質は、起電力から、正極活物質と負極活物質に分けられる。本明細書では、正極活物質または負極活物質を含む二次電池電極用組成物を、それぞれ「正極合材組成物」、「負極合材組成物」、または単に「合材組成物」という場合がある。合材組成物は、均一性および加工性を向上させるためにスラリー状であることが好ましい。合材組成物は、前記CNT分散液と活物質を少なくとも含有するか、または前記CNT分散液とバインダー樹脂と活物質とを少なくとも含有する。
【0066】
〈正極活物質〉
正極活物質は、特に限定されないが、例えば、二次電池用途は、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物および金属硫化物等の金属化合物を使用することができる。例えば、リチウムマンガン複合酸化物(例えばLixMn2O4またはLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLixNi1−yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixMnyCo1−yO2)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(例えばLixNiyCozMn1−y−zO2)、スピネル型リチウムマンガンニッケル複合酸化物(例えばLixMn2−yNiyO4)等のリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物粉末(例えばLixFePO4、LixFe1−yMnyPO4、LixCoPO4など)、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、バナジウム酸化物(例えばV2O5、V6O13)、酸化チタン等の遷移金属酸化物粉末、硫酸鉄(Fe2(SO4)3)、TiS2、およびFeS等の遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。ただし、x、y、zは、数であり、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<y+z<1である。これら正極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0067】
〈負極活物質〉
負極活物質は、特に限定されないが、例えば、リチウムイオンを可逆的にドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LixTiO2、LixFe2O3、LixFe3O4、LixWO2等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料を用いることができる。ただし、xは数であり、0<x<1である。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。特にシリコン合金負極を用いる場合、理論容量が大きい反面、体積膨張が極めて大きいため、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、樹脂焼成炭素材料等と組み合わせて用いるのが好ましい。
【0068】
合材組成物中のCNTの含有量は、CNTの含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.03質量%以上であることがさらに好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。
【0069】
合材組成物中の分散剤の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましい。また、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0070】
合材組成物がバインダー樹脂を含有する場合、合材組成物中のバインダー樹脂の含有量は、活物質の質量を基準として(活物質の質量を100質量%として)、0.5質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
合材組成物中の固形分量は、合材組成物の質量を基準として(合材組成物の質量を100質量%として)、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。また、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
合材組成物は、従来公知の様々な方法で作製することができる。例えば、CNT分散液に活物質を添加して作製する方法;CNT分散液に活物質を添加した後、バインダー樹脂を添加して作製する方法;CNT分散液にバインダー樹脂を添加した後、活物質を添加して作製する方法等が挙げられる。合材組成物を作製する方法としては、CNT分散液にバインダー樹脂を添加した後、活物質をさらに加えて分散させる処理を行う方法が好ましい。分散に使用される分散装置は特に限定されない。CNT分散液の説明において挙げた分散手段を用いて合材組成物を得ることができる。したがって、合材組成物を作製する方法としては、CNT分散液にバインダー樹脂を添加することなく、電極活物質を加えて分散させる処理を行ってもよい。
【0073】
〈電極膜〉
電極膜は、前記CNT分散液を用いて形成した膜、前記二次電池電極用組成物を用いて形成した膜からなる群から選択される少なくとも1種を含む。電極膜は、さらに集電体を含んでもよい。電極膜は、例えば、集電体上に二次電池電極用組成物を塗工し、乾燥させることで得ることができ、集電体と膜とを含む。正極合材組成物を用いて形成した電極膜を、正極として使用することができる。負極合材組成物を用いて形成した電極膜を、負極として使用することができる。本明細書において、活物質を含む二次電池電極用組成物を用いて形成した膜を「電極合材層」という場合がある。
【0074】
前記電極膜の形成に用いられる集電体の材質および形状は特に限定されず、各種二次電池にあったものを適宜選択することができる。集電体の材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、またはステンレス等の導電性金属または合金が挙げられる。また、形状としては、一般的には平面状の箔が用いられるが、表面を粗面化した集電体、穴あき箔状の集電体、メッシュ状の集電体も使用できる。集電体の厚みは、0.5〜30μm程度が好ましい。
【0075】
集電体上にCNT分散液または二次電池電極用組成物を塗工する方法としては、特に制限はなく公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、ナイフコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法または静電塗装法等を挙げることができる。乾燥方法としては、放置乾燥、または、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機等を用いる乾燥を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0076】
塗工後に、平版プレス、カレンダーロール等により圧延処理を行ってもよい。形成された膜の厚みは、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0077】
CNT分散液または二次電池電極用組成物を用いて形成された膜は、電極合材層と集電体との密着性向上、または、電極膜の導電性を向上させるために、電極合材層の下地層として用いることも可能である。
【0078】
〈二次電池〉
二次電池は、正極と、負極と、電解質とを含み、正極及び負極からなる群から選択される少なくとも1つが、前記電極膜を含む。
【0079】
電解質としては、イオンが移動可能な従来公知の様々なものを使用することができる。例えば、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、又はLiBPh4(ただし、Phはフェニル基である)等リチウム塩を含むものが挙げられるが、これらに限定されない。電解質は非水系の溶媒に溶解して、電解液として使用することが好ましい。
【0080】
非水系の溶媒としては、特に限定はされないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、及びγ−オクタノイックラクトン等のラクトン類;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−メトキシエタン、1,2−エトキシエタン、及び1,2−ジブトキシエタン等のグライム類;メチルフォルメート、メチルアセテート、及びメチルプロピオネート等のエステル類;ジメチルスルホキシド、及びスルホラン等のスルホキシド類;並びに、アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの溶媒は、それぞれ単独で使用してもよいが、2種以上を混合して使用してもよい。
【0081】
非水電解質二次電池は、セパレーターを含むことが好ましい。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びこれらに親水性処理を施した不織布が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0082】
本実施形態の非水電解質二次電池の構造は特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとを備え、ペーパー型、円筒型、ボタン型、積層型等、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。
以下の記載において、表3、表5、表6、表7、及び表8に示したとおり、実施例1−A18、1−A21、1−A22、1−D1〜1−D3;実施例2−A18、2−A21、2−A22、2−D1〜2−D3;実施例3−A18、3−A21、3−A22、3−D1〜3−D3;実施例4−A18、4−A21、4−A22、4−D1〜4−D3;及び実施例5−A18、5−A21、5−A22、5−D1〜5−D3はいずれも、参考例である。
【0084】
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
製造したカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の重量平均分子量(Mw)は、以下の条件にて、RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。分子量はプルラン換算値である。
測定サンプル:0.1質量%水溶液
装置:HLC−8320GPC(東ソー製)
溶離液:0.1M NaCl水溶液
カラム:TSKgel SuperMultiporePW−M(東ソー製)
流速:1.0mL/min
温度:25℃
注入量:100μl
【0085】
(エーテル化度の測定方法)
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.6gを105℃で4時間乾燥した。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化した。灰化物を500mlビーカーに移し、水250mlおよび0.05mol/lの硫酸水溶液35mlを加えて30分間煮沸した。冷却後、過剰の酸を0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定した。なお、指示薬としてフェノールフタレインを用いた。測定結果を用いて、下記(式1)よりエーテル化度を算出した。
(エーテル化度)=162×A/(10000−80A) (式1)
A=(af−bf1)/乾燥物の重量(g)
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/lの硫酸水溶液の量(ml)
a:0.05mol/lの硫酸水溶液の使用量(ml)
f:0.05mol/lの硫酸水溶液の力価
b:0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(ml)
fl:0.1mol/lの水酸化カリウム水溶液の力価
【0086】
(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩の作製)
(製造例1)
家庭用ミキサーで粉砕した低密度パルプ10質量部を、プラネタリーミキサー(ハイビスディスパーミックス3D−2型、プライミクス製)のタンクに仕込んだ。続いて、15質量%の水酸化ナトリウム/IPA/水溶液(IPA:水の質量比は80:20)90質量部を前記タンクに投入し、40℃で150分間撹拌してマーセル化反応を行い、アルカリセルロースを得た。次いで、モノクロル酢酸10質量部を上記IPA/水溶液6質量部に溶解し、25℃に調整後、前記アルカリセルロースを35℃に維持したまま60分かけて添加した後、30分かけて80℃まで昇温し、80℃にて50分間エーテル化反応を行った。引き続き、50質量%の酢酸で中和し、pH7.0とした。
【0087】
前記中和物の固体成分をブフナー漏斗にて分離し、引き続きブフナー漏斗上で、70質量%メタノール水溶液をふりかけて洗浄し、副生物の食塩、グリコール酸ナトリウムおよび酢酸ナトリウムを除去した。ステンレス製の角型バットに移して90℃の熱風オーブンで4時間乾燥し、粉砕してカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC1)を得た。得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の重量平均分子量およびエーテル化度は表1に示す通りであった。
【0088】
(製造例2、3)
マーセル化工程およびエーテル化工程の反応時間を表1に記載の時間に変更した以外は、製造例1と同様にして、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC2、CMC3)を得た。得られたカルボキシメチルセルロースナトリウム塩の重量平均分子量およびエーテル化度は表1に示す通りだった。
【0089】
【表1】

【0090】
(CNTの酸性基量の測定方法)
CNTの酸性基量は、ヘキシルアミンの吸着量を逆滴定によって以下のように求め、算出した。CNT0.2gをガラス瓶(M−70、柏洋硝子製)に採取し、ヘキシルアミン/NMP溶液(0.02mol/l)を30ml加えた。ガラス瓶に超音波(周波数28Hz)を1時間照射し、目開き25μmのナイロンメッシュにて粗粒を除去した。さらに遠心分離機(ミニ遠心機MCF−1350(LMS製))にて10,000rpmで10分間遠心分離を行い、上澄みを採取し、メンブレンフィルター(フィルター孔径0.22μm)にてろ過を行い、ろ液を回収した。得られたろ液を10ml採取し、イオン交換水40mlで希釈して被滴定液とした。また、CNTとともに超音波処理を行っていないヘキシルアミン/NMP溶液(0.02mol/l)10mlを有オン交換水40mlで希釈し、標準被滴定液とした。被滴定液および標準被滴定液を、それぞれ、別途電位差自動滴定装置(AT−710S、京都電子工業製)を用いて0.1mol/lのHCl/エタノール溶液にて滴定し、等電点における滴定量の差異からCNTに吸着したヘキシルアミンの量([ヘキシルアミン吸着量](μmol))を算出した。
被滴定液は、ヘキシルアミン/NMP溶液30mlの内、10mlを採取しており、CNT質量は0.2gなので、[ヘキシルアミン吸着量]に3を乗じて0.2で除した値が導電材単位重量あたりの[ヘキシルアミン吸着量](μmol/g)であり、さらにCNTの比表面積で除した値がCNT表面積あたりの[ヘキシルアミン吸着量](μmol/m2)である。
【0091】
(CNTの比表面積測定方法)
CNTを電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、0.03g計量した後、110℃で15分間、脱気しながら乾燥させた。その後、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM−model1208)を用いて、CNTの比表面積(m2/g)を測定した。
【0092】
(CNTのG/D比測定方法)
ラマン顕微鏡(XploRA、株式会社堀場製作所社製)にCNTを設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。測定条件は取り込み時間60秒、積算回数2回、減光フィルタ10%、対物レンズの倍率20倍、コンフォーカスホール500、スリット幅100μm、測定波長は100〜3000cm−1とした。測定用のCNTはスライドガラス上に分取し、スパチュラを用いて平坦化した。得られたピークの内、スペクトルで1560〜1600cm−1の範囲内で最大ピーク強度をG、1310〜1350cm−1の範囲内で最大ピーク強度をDとし、G/Dの比をCNTのG/D比とした。
【0093】
(分散粒度の測定方法)
分散粒度は、溝の最大深さ300μmのグラインドゲージを用い、JIS K5600−2−5に準ずる判定方法により求めた。
【0094】
(光沢の測定方法)
光沢測定用の試料は、CNT分散液を平滑なガラス基板上に1mL滴下し、No.7のバーコーターにて2cm/秒で塗工した後、140℃の熱風オーブンで10分間焼き付け、放冷して得た。塗工面積は約10cm×10cmとした。光沢計(BYK Gardner製光沢計 micro−gross60°)を用い、端部を除く塗膜面内の3か所を無作為に選び、1回ずつ測定して平均値を60°における光沢とした。
【0095】
(CNT分散液のメジアン径の粒度測定方法)
メジアン径は粒度分布測定装置(Partical LA−960V2、HORIBA製)を用いて測定した。循環/超音波の動作条件は、循環速度:3、超音波強度:7、超音波時間:1分、撹拌速度:1、撹拌モード:連続とした。また、空気抜き中は超音波強度7、超音波時間5秒で超音波作動を行った。水の屈折率は1.333、カーボン材料の屈折率は1.92とした。測定は、測定試料を赤色レーザーダイオードの透過率が60〜80%となるように希釈した後行い、粒子径基準は体積とした。
【0096】
(CNT分散液の粘度測定方法)
CNT分散液の粘度は、B型粘度計(東機産業製「BL」)を用いて、分散体温度25℃にて、分散体をヘラで充分に撹拌した後、直ちにB型粘度計ローター回転速度6rpmにて測定し、引き続き60rpmにて測定した。低粘度であるほど分散性が良好であり、高粘度であるほど分散性が不良である。得られた分散体が明らかに分離や沈降しているものは分散性不良とした。また、60rpmにおける粘度(mPa・s)を、6rpmにおける粘度(mPa・s)で除した値からTI値を求めた。CNT分散液の粘度は、500mPa・s未満が優良であり、500mPa・s以上2,000mPa・s未満が良、2,000mPa・s以上10,000mPa・s未満が不良、10,000mPa・s以上、沈降または分離が極めて不良である。
【0097】
(CNT分散液の複素弾性率及び位相角の測定)
CNT分散液の複素弾性率X及び位相角Yは、直径35mm、2°のコーンにてレオメーター(Thermo Fisher Scientific株式会社製RheoStress1回転式レオメーター)を用い、25℃、周波数1Hzにて、ひずみ率0.01%から5%の範囲で動的粘弾性測定を実施することで評価した。得られた複素弾性率が小さいほど分散性が良好であり、大きいほど分散性が不良である。また、得られた位相角が大きいほど分散性が良好であり、小さいほど分散性が不良である。さらに、得られた複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)を算出した。
複素弾性率 判定基準
◎:10Pa未満(最良)
○:10Pa以上20Pa未満(優良)
△:20Pa以上50Pa未満(良)
△−:50Pa以上100Pa未満(可)
×:100Pa以上(不良)
位相角 判定基準
◎:45°以上(最良)
○:30°以上45°未満(優良)
△:19°以上30°未満(良)
△−:15°以上19°未満(可)
×:15°未満(不良)
【0098】
(CNT分散液のpH測定方法)
CNT分散液のpHは、25℃にて、卓上型pHメーター(セブンコンパクトS220 Expert Pro、メトラー・トレド製)を用いて、測定した。
【0099】
(CNT分散液の安定性評価方法)
貯蔵安定性の評価は、分散体を50℃にて7日間静置して保存した後の粘度を測定した。測定方法は初期粘度と同様の方法で測定した。
判定基準
◎:初期同等(優良)
○:粘度がやや変化した(良)
△:粘度は上昇しているがゲル化はしていない(不良)
×:ゲル化している(極めて不良)
【0100】
(CNT分散液の作製)
(実施例1−A1)
ステンレス容器にイオン交換水93.7質量部を加えて、ディスパーで撹拌しながら、APP−84(CMC)を1.25質量部添加し、溶解した。その後、10B(CNT)を2.0質量部とり、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M−A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。このとき、グラインドゲージにて確認した分散粒度は180μmであった。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP−17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、循環式分散処理を行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行った。被分散液のB型粘度計(TOKI SANGYO製、VISCOMETER、MODEL:BL)で測定した60rpmにおける粘度が3,000mPa・s以下となるまで分散した後、ディスパーで撹拌しながら、ステンレス容器に0.5質量部の10Bをさらに添加し、再び高圧ホモジナイザーにより循環式分散処理を行った。高圧ホモジナイザーにより粘度が3,000mPa・s以下となるまで循環式分散した後に、ディスパーで撹拌しながらステンレス容器に10Bを追加する作業を、合計で6回繰り返した(10Bの合計添加量は5.0質量部である)。引き続き、高圧ホモジナイザーにて10回パス式分散処理を行い、5.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A1)を得た。
【0101】
(実施例1−A2、1−A3)
パス式分散の回数を、それぞれ20回、30回に変更した以外は、実施例1−A1と同様にしてCNT分散液(CNT分散液A2、A3)を得た。
【0102】
(実施例1−A4〜1−A12、1−A17〜1−A20)
表3に示す材料、組成比、パス式分散の回数に変更した以外は、実施例1−1Aと同様にしてCNT分散液(CNT分散液A4〜A20)を得た。
【0103】
(比較例1−a1〜1−a14)
表4に示す材料、組成比、パス式分散の回数に変更した以外は、実施例1−1Aと同様にしてCNT分散液(CNT分散液a1〜a14)を得た。
【0104】
(実施例1−A13)
実施例1−A3で得たCNT分散液(CNT分散液A3)をステンレス容器にとり、ディスパーで撹拌しながら、PAAを0.004質量部となるように加え、5.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A13)を得た。CNT分散液A13のpHは7.5であった。
【0105】
(実施例1−A14)
PAAをAC−10Pに変更した以外は、実施例1−A13と同様の方法により、CNT分散液(CNT分散液A14)を得た。CNT分散液A14のpHは7.1であった。
【0106】
(実施例1−A15)
PAAをAC−10LPに変更した以外は、実施例1−A13と同様の方法により、CNT分散液(CNT分散液A15)を得た。CNT分散液A15のpHは7.0であった。
【0107】
(実施例1−A16)
PAAをHL415に変更した以外は、実施例1−A13と同様の方法により、CNT分散液(CNT分散液A16)を得た。CNT分散液A16のpHは7.5であった。
【0108】
(実施例1−A21)
ステンレス容器にイオン交換水98.05質量部を加えて、ディスパーで撹拌しながら、APP−084(CMC)を0.45質量部添加し、溶解した。その後、TNSR(CNT)0.115質量部、10B(CNT)を1.385質量部とり、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M−A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP−17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、パス式分散処理を20回行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行い、1.5質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A21)を得た。TNSRと10BのCNT質量比率は、1:12であった。
【0109】
(実施例1−A22)
イオン交換水添加量を98.05質量部から96.75質量部、APP−084添加量を0.45質量部から0.75質量部、10Bの添加量を1.385質量部から2.4質量部、TNSRの添加量を0.115質量部から0.1質量部に変更した以外は実施例1−A21と同様の方法により、2.5質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A22)を得た。TNSRと10BのCNT質量比率は、1:24であった。
【0110】
(実施例1−A23)
ステンレス容器にイオン交換水98.64質量部を加えて、ディスパーで撹拌しながら、APP−084(CMC)を0.56質量部添加し、溶解した。その後、TNSR(CNT)0.062質量部、6A(CNT)を0.738質量部とり、ディスパーで撹拌しながら添加して、ハイシアミキサー(L5M−A、SILVERSON製)に角穴ハイシアスクリーンを装着し、8,600rpmの速度で全体が均一になり、グラインドゲージにて分散粒度が250μm以下になるまでバッチ式分散を行った。続いて、ステンレス容器から、配管を介して高圧ホモジナイザー(スターバーストラボHJP−17007、スギノマシン製)に被分散液を供給し、パス式分散処理を20回行った。分散処理はシングルノズルチャンバーを使用し、ノズル径0.25mm、圧力100MPaにて行い、1.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A23)を得た。TNSRと6AのCNT質量比率は、1:12であった。
【0111】
(実施例1−A24)
イオン交換水添加量を98.64質量部から98.3質量部、APP−084添加量を0.56質量部から0.70質量部、6Aの添加量を0.738質量部から0.96質量部、TNSRの添加量を0.062質量部から0.04質量部に変更した以外は実施例1−A23と同様の方法により、2.5質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A24)を得た。TNSRと6AのCNT質量比率は、1:24であった。
【0112】
(実施例1−A25)
イオン交換水添加量を98.64質量部から98.13質量部、APP−084添加量を0.56質量部から0.77質量部、6Aの添加量を0.738質量部から1.08質量部、TNSRの添加量を0.062質量部から0.02質量部に変更した以外は実施例1−A23と同様の方法により、1.1質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液A25)を得た。TNSRと6AのCNT質量比率は、1:48であった。
【0113】
(比較例1−a15)
実施例1−A3で得たCNT分散液(CNT分散液A3)をステンレス容器にとり、ディスパーで撹拌しながら、PAAをCNTの質量を基準として、0.04質量部となるように加え、5.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液a15)を得た。CNT分散液c1のpHは5.5であった。
【0114】
(比較例1−a16〜1−a17)
表4に示す材料、組成比、パス式分散の回数に変更した以外は、実施例1−1Aと同様にして分散液(分散液a1、a2)を得た。
【0115】
(実施例1−B1〜1−B3)
実施例1−A1〜1−A3で得たCNT分散液(CNT分散液A1〜A3)をガラス瓶(M−140、柏洋硝子製)に80質量部とり、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.0mmφ)140質量部を仕込み、レッドデビル製ペイントコンディショナーを用いて2時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(CNT分散液B1〜B3)を得た。
【0116】
(実施例1−B4)
実施例1−A3で得たCNT分散液(CNT分散液A3)をガラス瓶(M−140、柏洋硝子製)に80質量部とり、MAC500LCを0.012質量部、ジルコニアビーズ(ビーズ径1.0mmφ)140質量部を仕込み、レッドデビル製ペイントコンディショナーを用いて5時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(CNT分散液B4)を得た。
【0117】
(実施例1−C1〜1−C3)
実施例1−A1〜1−A3で得たCNT分散液(CNT分散液A1〜A3)をステンレス容器にとり、ディスパーで撹拌しながらイオン交換水で希釈し、2.0質量部のCNTを含むCNT分散液(CNT分散液C1〜C3)を得た。
【0118】
(実施例1−D1〜1−D3)
ガラス瓶(M−140、柏洋硝子製)に、10B(CNT)を2.0質量部、APP−84(CMC)を0.5質量部、イオン交換水を97.6質量部、およびジルコニアビーズ(ビーズ径0.5mmφ)140部を仕込み、レッドデビル製ペイントコンディショナーを用いて4時間分散処理を行った後、ジルコニアビーズを分離して、CNT分散液(CNT分散液D1〜D3)を得た。
【0119】
(比較例1−d1〜1−d3)
表4に示す材料に変更した以外、実施例1−D1と同様にして、CNT分散液(CNT分散液d1〜d3)を得た。
【0120】
・10B:JENOTUBE10B(JEIO製、多層CNT、外径7〜12nm、平均外径8.8nm、比表面積230m2/g、酸性基量0.67μmol/m2、154μmol/g、G/D比0.80)
・6A:JENOTUBE6A(JEIO製、多層CNT、外径5〜7nm、平均外径6.9nm、比表面積700m2/g、酸性基量0.27μmol/m2、190μmol/g、G/D比0.80)
・TUBALL1:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、外径1.3〜2.3nm、平均外径1.8nm、純度80%、比表面積490m2/g、酸性基量0.38μmol/m2、186μmol/g、G/D比39.1)
・TUBALL2:シングルウォールカーボンナノチューブ(OCSiAl製、外径1.2〜2.0nm、平均外径1.5nm、純度93%、比表面積975m2/g、酸性基量0.21μmol/m2、205μmol/g、G/D比41.7)
・TNSR:シングルウォールカーボンナノチューブ(Timesnano社製、外径1.0〜2.0nm、平均外径1.6nm、比表面積610m2/g、酸性基量0.79μmol/m2、480μmol/g、G/D比27.8)
・TNSAR:シングルウォールカーボンナノチューブ(Timesnano社製、外径1.0〜2.0nm、平均外径1.3nm、比表面積950m2/g、酸性基量0.31μmol/m2、290μmol/g、G/D比36.4)
・EC−300J:ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ製、平均一次粒子径40nm、比表面積800m2/g、酸性基量0.27μmol/m2、219μmol/g)
・HS−100:デンカブラックHS−100(デンカ製、アセチレンブラック、平均一次粒子径48nm、比表面積39m2/g、酸性基量0.21μmol/m2、205μmol/g)
・APP−84:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズA APP−84
・F01MC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F01MC
・F04HC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F04MC
・A02SH:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズA A02SH
・F10LC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F10LC
・F10MC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F10MC
・F30MC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズF F30MC
・MAC500LC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、日本製紙製、サンローズ特殊タイプ MAC500LC
・セロゲン5A:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、第一工業製薬製
・セロゲン6A:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、第一工業製薬製
・PAA:ポリアクリル酸、和光純薬工業製、平均分子量25,000
・AC−10P:ポリアクリル酸、東亜合成製、平均分子量9,000
・AC−10LP:ポリアクリル酸、東亜合成製、平均分子量50,000
・HL415:ポリアクリル酸、日本触媒社製、アクアリック、平均分子量10,000、NV45%
【0121】
なお、実施例および比較例で用いたカルボキシメチルセルロースまたはその塩の、重量平均分子量およびエーテル化度は表2に示す通りであった。重量平均分子量およびエーテル化度は、製造例と同じ測定方法にて算出した。
【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
【表4】

【0125】
(負極合材組成物および負極の作製)
(実施例2−A1)
容量150cm3のプラスチック容器にCNT分散液(CNT分散液A1)と、MAC500LC(CMC)と、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、負極活物質として人造黒鉛、シリコンを添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、SBRを加えて、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、負極合材組成物を得た。負極合材組成物の不揮発分は48質量%とした。負極合材組成物の不揮発分の内、人造黒鉛:シリコン:CNT:CMC(MAC500LC):SBRの不揮発分比率は87:10:0.5:1:1.5とした。
【0126】
得られた負極合材組成物を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmの銅箔上に塗工して後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間、塗膜を乾燥させて電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行って、負極(負極A1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量は10mg/cm2であり、圧延処理後の合材層の密度は1.6g/ccであった。
【0127】
・シリコン:一酸化珪素(大阪チタニウムテクノロジー社製、SILICON MONOOXIDE SiO 1.3C 5μm、不揮発分100%)
・人造黒鉛:CGB−20(日本黒鉛工業製、不揮発分100%)
・MAC500LC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、サンローズ特殊タイプ MAC500LC(日本製紙製、不揮発分100%)
・SBR:スチレンブタジエンゴムTRD2001(JSR製、不揮発分48%)
【0128】
(実施例2−A2〜2−A25、2−B1〜2−B4、2−C1〜2−C3、2−D1〜2−D3、比較例2−a1〜2−a17、2−d1〜2−d3)
CNT分散液を、表5に示す各CNT分散液(CNT分散液A2〜A25、CNT分散液B1〜B4、CNT分散液C1〜C3、CNT分散液D1〜D3、CNT分散液a1〜a15、分散液a1、a2、CNT分散液d1〜d3)に変更した以外は、実施例2−A1と同様の方法により、それぞれ負極A2〜A25、負極B1〜B4、負極C1〜C3、負極D1〜D3、および負極a1〜a17、負極d1〜d3を得た。
【0129】
(負極の導電性評価方法)
得られた負極を、三菱化学アナリテック製:ロレスターGP、MCP−T610を用いて合材層の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定後、合材層の厚みを乗算し、負極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。合材層の厚みは、膜厚計(NIKON製、DIGIMICRO MH−15M)を用いて、電極中の3点を測定した平均値から、銅箔の膜厚を減算し、負極の体積抵抗率(Ω・cm)とした。
判定基準
◎:0.3Ω・cm未満(優良)
○:0.3Ω・cm以上0.5Ω・cm未満(良)
×:0.5Ω・cm以上(不良)
【0130】
(負極の密着性評価方法)
得られた負極を、塗工方向を長軸として90mm×20mmの長方形に2本カットした。剥離強度の測定には卓上型引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフE3)を用い、180度剥離試験法により評価した。具体的には、100mm×30mmサイズの両面テープ(No.5000NS、ニトムズ製)をステンレス板上に貼り付け、作製した負極の合材層側を両面テープのもう一方の面に密着させ試験用試料とした。次いで、試験用試料を長方形の短辺が上下にくるように垂直に固定し、一定速度(50mm/分)で銅箔の末端を下方から上方に引っ張りながら剥離し、このときの応力の平均値を剥離強度とした。
判定基準
◎:0.5N/cm以上(優良)
○:0.1N/cm以上0.5N/cm未満(良)
×:0.1N/cm未満(不良)
【0131】
【表5】

【0132】
本発明のCNT分散液を用いた負極は、いずれも導電性および密着性が良好であった。本発明の構成要件を満たすことで、分散剤を効果的に作用させることができたことによると思われる。さらに、実施例で用いた、炭素被覆された微細なシリコン系活物質の炭素層は、本発明の酸性基量が特定の範囲であるCNTと表面状態が類似していること、および、シリコン系活物質は水中で表面が負に帯電することから、CNT分散液と特に優れた相互作用をなし、乾燥させた電極膜中でも良好な材料分布状態を形成した結果と思われる。
【0133】
(正極用合材組成物および正極の作製)
(実施例3−A1)
容量150cm3のプラスチック容器にCNT分散液(CNT分散液A1)と、MAC500LCと、水とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、その後、正極活物質としてLFPを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。さらにその後、PTFEを添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、正極用合材組成物を得た。正極用合材組成物の不揮発分は75質量%とした。正極用合材組成物の不揮発分の内、LFP:導電材:PTFE:MAC500LCの不揮発分比率は97:0.5:1:1.5とした。
【0134】
正極合材組成物を、アプリケーターを用いて、厚さ20μmのアルミ箔上に塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥し、電極膜を作製した。その後、電極膜をロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、正極(正極1)を得た。なお、合材層の単位当たりの目付量が20mg/cm2であり、圧延処理後の合材層の密度は2.1g/ccであった。
【0135】
・LFP:リン酸鉄リチウム HED(商標)LFP−400(BASF製、不揮発分100%)
・PTFE:ポリテトラフルオロエチレン ポリフロン PTFE D−210C(ダイキン製、不揮発分60%)
・MAC500LC:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、サンローズ特殊タイプMAC500LC(日本製紙製、不揮発分100%)
【0136】
(実施例3−A2〜3−A25、3−B1〜3−B3、3−C1〜3−C3、3−D1〜3−D3、比較例3−a1〜3−a16、3−d1〜3−d3)
CNT分散液を、表6に示す各CNT分散液(CNT分散液A2〜A25、CNT分散液B1〜B3、CNT分散液C1〜C3、CNT分散液D1〜D3、CNT分散液a1〜a14、分散液a1、a2、CNT分散液d1〜d3)に変更した以外は、実施例3−A1と同様の方法により、それぞれ正極A2〜A25、正極B1〜B3、正極C1〜C3、正極D1〜D3、および正極a1〜a16、正極d1〜d3を得た。
【0137】
(正極の導電性評価方法)
得られた正極を、銅箔の替わりにアルミ箔とした以外は負極と同様の方法で導電性評価した。
判定基準
◎:10Ω・cm未満(優良)
○:10Ω・cm以上20Ω・cm未満(良)
×:20Ω・cm以上を(不良)
【0138】
(正極の密着性評価方法)
得られた正極を、銅箔の替わりにアルミ箔とした以外は負極と同様の方法で密着性評価した。
判定基準
◎:1N/cm以上(優良)
○:0.5N/cm以上1N/cm未満(良)
×:0.5N/cm未満(不良)
【0139】
【表6】

【0140】
本発明のCNT分散液を用いた正極は、いずれも導電性および密着性が良好であった。負極と同様に、本発明の構成要件を満たすことで、分散剤を効果的に作用させることができたことによると思われる。さらに、シリコン系活物質の場合と同様に、実施例で用いた炭素被覆された微細なリン酸鉄リチウムの炭素層は、本発明の酸性基量が特定の範囲であるCNTと表面状態が類似していること、および、リン酸鉄リチウムは水中で表面が負に帯電することから、CNT分散液と特に優れた相互作用をなし、乾燥させた電極膜中でも良好な材料分布状態を形成した結果と思われる。
【0141】
(標準正極の作製)
正極活物質としてLFP(HED(商標)LFP−400、BASF製、不揮発分100%)92質量部、アセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS−100、デンカ製、不揮発分100%)4質量部、MAC500LC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズ特殊タイプ MAC500L、日本製紙製、不揮発分100%)1.6質量部を容量150mlのプラスチック容器に加えた後、ヘラを用いて粉末が均一になるまで混合した。その後、水を25質量部添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。その後、プラスチック容器内の混合物をヘラを用いて、均一になるまで混合し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、PTFE(ダイキン製、不揮発分60質量%)4質量部を加え、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらにその後、水を11.2質量部添加し、前記の自転・公転ミキサーを用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。最後に、高速攪拌機を用いて、3,000rpmで10分間撹拌し、標準正極用合材組成物を得た。標準正極用合材組成物の不揮発分は79質量%とした。
【0142】
上述の標準正極用合材組成物を集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で120℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が20mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が2.1g/cm3となる標準正極を作製した。
【0143】
(標準負極の作製)
容量150mlのプラスチック容器にアセチレンブラック(デンカブラック(登録商標)HS−100、デンカ製)0.5質量部と、MAC500LC(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩 サンローズ特殊タイプ MAC500L、日本製紙製、不揮発分100%)1質量部と、水98.4質量部とを加えた後、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌した。さらに活物質として人造黒鉛(CGB−20、日本黒鉛工業製)を87質量部、シリコンを10質量部添加し、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで150秒間撹拌した。続いてSBR(TRD2001、JSR製)を3.1質量部加えて、自転・公転ミキサー(シンキー製 あわとり練太郎、ARE−310)を用いて、2,000rpmで30秒間撹拌し、標準負極用合材組成物を得た。標準負極用合材組成物の不揮発分は50質量%とした。
【0144】
上述の標準負極用合材組成物を集電体となる厚さ20μmの銅箔上にアプリケーターを用いて塗工した後、電気オーブン中で80℃±5℃で25分間乾燥して電極の単位面積当たりの目付量が10mg/cm2となるように調整した。さらにロールプレス(サンクメタル製、3t油圧式ロールプレス)による圧延処理を行い、合材層の密度が1.6g/cm3となる標準負極を作製した。
【0145】
(実施例4−A1〜4−A25、4−B1〜4−B4、4−C1〜4−C3、4−D1〜4−D3、比較例4−a1〜4−a17、4−d1〜4−d3)
(実施例5−A1〜5−A25、5−B1〜5−B4、5−C1〜5−C3、5−D1〜5−D3、比較例5−a1〜5−a17、5−d1〜5−d3)
(二次電池の作製)
表7および表8に記載した負極および正極を使用して、各々50mm×45mm、45mm×40mmに打ち抜き、その間に挿入されるセパレーター(多孔質ポリプロプレンフィルム)とをアルミ製ラミネート袋に挿入し、電気オーブン中、70℃で1時間乾燥した。その後、アルゴンガスで満たされたグローブボックス内で、電解液(エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合溶媒を作製し、さらに添加剤として、ビニレンカーボネートを100質量部に対して1質量部加えた後、LiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を2mL注入した後、アルミ製ラミネートを封口して二次電池をそれぞれ作製した。
【0146】
(二次電池のレート特性評価方法)
得られた二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM−8)を用いて充放電測定を行った。充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流1mA(0.02C))を行った後、放電電流10mA(0.2C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を3回繰り返した後、充電電流10mA(0.2C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流(1mA0.02C))を行い、放電電流0.2Cおよび3Cで放電終止電圧3.0Vに達するまで定電流放電を行って、それぞれ放電容量を求めた。レート特性は0.2C放電容量と3C放電容量の比、以下の数式1で表すことができる。
(数式1)レート特性 = 3C放電容量/3回目の0.2C放電容量 ×100(%)
判定基準
◎:80%以上(優良)
○:60%以上80%未満(良)
×:60%未満(不良)
【0147】
(二次電池のサイクル特性評価方法)
得られた二次電池を25℃の恒温室内に設置し、充放電装置(北斗電工製、SM−8)を用いて充放電測定を行った。充電電流25mA(0.5C)にて充電終止電圧4.3Vで定電流定電圧充電(カットオフ電流2.5mA(0.05C))を行った後、放電電流25mA(0.5C)にて、放電終止電圧3Vで定電流放電を行った。この操作を200回繰り返した。サイクル特性は25℃における3回目の0.5C放電容量と200回目の0.5C放電容量の比、以下の数式2で表すことができる。
(数式2)サイクル特性 = 3回目の0.5C放電容量/200回目の0.5C放電容量×100(%)
判定基準
◎:85%以上(優良)
○:80%以上85%未満(良)
×:80%未満(不良)
【0148】
【表7】

【0149】
【表8】

【0150】
本発明の分散体を用いた上記実施例では、比較例に比べてサイクル特性に優れた非水電解質二次電池が得られた。よって、本発明は従来のCNT分散液では実現しがたいサイクル特性を有する非水電解質二次電池を提供できることが明らかとなった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロースまたはその塩、および水を含有するカーボンナノチューブ分散液であって、
前記カルボキシメチルセルロースまたはその塩が、重量平均分子量が1万〜10万、エーテル化度が0.5〜0.9であり、
前記カーボンナノチューブ分散液の、温度25℃、周波数1Hz、及びひずみ率0.01%〜5%の範囲で測定した複素弾性率X(Pa)と位相角Y(°)の積(X×Y)が100以上1,500以下であり、
複素弾性率が100Pa未満、位相角が15°以上である、
カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が0.1〜0.8μmol/m2である、請求項1記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブの酸性基量が40〜500μmol/gである、請求項1または2記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】(削除)
【請求項5】
カーボンナノチューブが、平均外径が0.5nm以上5nm未満の第一のカーボンナノチューブと、平均外径が5nm以上20nm以下の第二のカーボンナノチューブとを含み、第一のカーボンナノチューブと第二のカーボンナノチューブの質量比率が1:10〜1:100である、請求項1〜3いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項6】
さらに、ポリアクリル酸を含む、請求項1〜3、5いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項7】
メジアン径が0.5μm以上2.0μm以下である、請求項1〜3、5〜6いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項8】
分散液のTI値が2.0〜5.0である、請求項1〜3、5〜7いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項9】
カーボンナノチューブ分散液の塗膜が、60°で測定した光沢が5〜120である、請求項1〜3、5〜8いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項10】
pHが7.0〜10.5である、請求項1〜3、5〜9いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項11】
請求項1〜3、5〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液を含む、二次電池電極用組成物。
【請求項12】
請求項11記載の二次電池電極用組成物の塗工膜を含む、電極膜。
【請求項13】
請求項12記載の電極膜を含む、二次電池。
【請求項14】
下記(1)および(2)の工程を順次行うことを特徴とする、請求項1〜3、5〜10いずれか記載のカーボンナノチューブ分散液の製造方法。
(1)高圧ホモジナイザーを用いて、60〜120MPaの圧力で分散し、メジアン径を4.0μm以下にする工程
(2)ビーズミルを用いて、位相角が、40°以上になるまで分散する工程
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-10-04 
出願番号 P2020-205488
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 日比野 隆治
特許庁審判官 関根 崇
原 賢一
登録日 2021-03-30 
登録番号 6860740
権利者 東洋インキSCホールディングス株式会社
発明の名称 カーボンナノチューブ分散液、それを用いた二次電池電極用組成物、電極膜、および二次電池。  
代理人 三好 秀和  
代理人 三好 秀和  

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